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  • 特許-再生ポリエステル樹脂の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】再生ポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/84 20060101AFI20240903BHJP
   C08G 63/181 20060101ALI20240903BHJP
   C08G 63/87 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08G63/84
C08G63/181
C08G63/87
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023511599
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2022035753
(87)【国際公開番号】W WO2023054271
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021161890
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 佑
(72)【発明者】
【氏名】森山 暢夫
(72)【発明者】
【氏名】木南 万紀
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-101784(JP,A)
【文献】特公昭46-015114(JP,B1)
【文献】特開2008-266359(JP,A)
【文献】米国特許第05559159(US,A)
【文献】特開2006-299179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生ポリエステル樹脂(D)の製造方法であって、
回収されたポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を混合して、解重合及びエステル化する第1工程と、
第1工程の反応物をさらに重縮合して高分子量化する第2工程とを有し、
前記ポリエステル樹脂(A)の割合は、前記再生ポリエステル100質量部に対し、5~80質量部であり、
前記第2工程における重縮合はアルミニウム化合物及びリン化合物の存在下で行われ、前記アルミニウム化合物は前記反応物に対してアルミニウム元素換算で5~100質量ppmであり、
前記アルミニウム化合物は、カルボン酸アルミニウム塩、無機酸アルミニウム塩、及びアルミニウムキレート化合物から選ばれる1種以上であり、
前記リン化合物は、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する化合物であり、
再生ポリエステル樹脂(D)において、前記アルミニウム化合物に由来するアルミニウム元素に対する、前記リン化合物に由来するリン元素の残存モル比が0.60~5.00であることを特徴とする再生ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
記リン化合物が前記反応物に対してリン元素換算で3~1000質量ppmである請求項1に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記回収されたポリエステル樹脂(A)が溶融されていない請求項1又は2に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(A)が、芳香族ジカルボン酸に由来のジカルボン酸単位と炭素数2~6のアルキレングリコールに由来のジオール単位とを有する請求項1又は2に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂(A)が、アンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む請求項1又は2に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppmである請求項5に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルは、機械的特性、化学的安定性、耐熱性、ガスバリア性および透明性などに優れ、かつ安価であることから、飲料品などを充填する容器などの製造に広く使用されている。容器の製造に使用されるポリエステルには、その重合触媒として、コストの面からアンチモン触媒やゲルマニウム触媒を用いて製造されたポリエチレンテレフタレートが特に多く使用されている。
【0003】
ところで、近年、環境負荷の低減を目的として、使用済みである回収されたポリエステル容器を、種々の方法によりリサイクルして得られたポリエステルを用いた容器の製造が行われている。リサイクルの手法としては、下記のケミカルリサイクルやメカニカルリサイクルといった手法が知られている。
【0004】
ケミカルリサイクルとは、回収されたポリエステルをモノマーレベルまで分解して、再度重合してポリエステル樹脂を得る手法を指す。しかし、ケミカルリサイクルは、大きなエネルギーを必要とする上に工程が煩雑であるため、リサイクルするために大きなコストが必要であった。
【0005】
メカニカルリサイクルとは、回収されたポリエステルを選別・粉砕・洗浄して汚染物質や異物を除去し、フレークを得て、フレークをさらに高温・減圧下などで一定時間処理して樹脂内部の汚染物質を除去することによりポリエステルを得る手法を指す。メカニカルリサイクルにより得られたポリエステルは、バージンポリエステル(リサイクル処理が施されていないポリエステル)やケミカルリサイクルにより得られたケミカルリサイクルポリエステルと比べて、環境負荷が低く、コストが低いというメリットがある。しかし、メカニカルリサイクルポリエステルは、バージンポリエステルやケミカルリサイクルポリエステルと比べて、着色したり、アセトアルデヒドや環状三量体が多くなり品質が低下したりするという問題があった。
【0006】
上記のケミカルリサイクルやメカニカルリサイクルとは異なる手法として、ポリエチレンテレフタレートを低分子ポリオールとの反応で分解させ、次いでこの分解物と多塩基酸とを縮合反応させて、テレフタル酸系ポリエステルポリオールを製造する手法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-191766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の製造方法では、ポリウレタン樹脂用のポリエステルポリオールの製造を目的としているため、再生されたポリエステルの着色の抑制については検討されていなかった。また、特許文献1の製造方法では、低分子量(低次縮合物)であるポリエステルポリオールを得るために、ポリエチレンテレフタレートを低分子ポリオールとの反応で分解させた後に縮合反応を行っているため、工程数を減らすことによりさらなるコスト低減を図ることが望まれる。本発明は、かかる従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、低コストで、着色が抑制された再生ポリエステルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、回収されたポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を混合して、解重合及びエステル化する第1工程と、第1工程の反応物をさらに重縮合して高分子量化する第2工程とを有する製造方法とし、かつ、回収されたポリエステル樹脂及びアルミニウム触媒を所定の割合で用いることにより、低コストで、着色が抑制された再生ポリエステル樹脂を製造できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
1.再生ポリエステル樹脂の製造方法であって、回収されたポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を混合して、解重合及びエステル化する第1工程と、第1工程の反応物をさらに重縮合して高分子量化する第2工程とを有し、前記ポリエステル樹脂(A)の割合は、前記再生ポリエステル100質量部に対し、5~80質量部であり、前記第2工程における重縮合はアルミニウム化合物の存在下で行われ、前記アルミニウム化合物は前記反応物に対してアルミニウム元素換算で5~100質量ppmであることを特徴とする再生ポリエステル樹脂の製造方法。
2.前記第2工程における重縮合がリン化合物の存在下で行われ、前記リン化合物が前記反応物に対してリン元素換算で3~1000質量ppmである上記1.に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
3.前記リン化合物が、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する化合物である上記2.に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
4.前記ポリエステル樹脂(A)が、芳香族ジカルボン酸に由来のジカルボン酸単位と炭素数2~6のアルキレングリコールに由来のジオール単位とを有する上記1.~3.のいずれかに記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
5.前記ポリエステル樹脂(A)が、アンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む上記1.~4.のいずれかに記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
6.前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppmである上記5.に記載の再生ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
回収されたポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を混合して、解重合及びエステル化する第1工程と、第1工程の反応物をさらに重縮合して高分子量化する第2工程とを有する製造方法により再生ポリエステル樹脂を製造し、該製造方法において、回収されたポリエステル樹脂及びアルミニウム触媒を所定の割合で用いることにより、低コストで、着色が抑制された再生ポリエステル樹脂を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、示差走査熱量分析計で測定したチャートの模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の再生ポリエステル樹脂(以下、再生ポリエステル樹脂(D)という)の製造方法は、回収されたポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を混合して、解重合及びエステル化する第1工程と、第1工程の反応物をさらに重縮合して高分子量化する第2工程とを有する。なお、以下では、回収されたポリエステル樹脂(A)を単に「ポリエステル樹脂(A)」ということがある。
【0014】
[回収されたポリエステル樹脂(A)]
ポリエステル樹脂(A)は使用済みのポリエステル樹脂及び/又はポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用のポリエステル樹脂が回収されたものである。ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種と多価アルコールおよびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種により形成された重合体である。
【0015】
ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価カルボン酸成分が、全多価カルボン酸成分100モル%中、50モル%より多く含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましく、80モル%以上含有することがさらに好ましく、90モル%以上含有することが特に好ましい。なお、ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価カルボン酸成分とは、モル比率で最も高い比率である多価カルボン酸成分のことを指し、ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価カルボン酸成分は、ジカルボン酸またはその形成性誘導体であることが好ましい。
【0016】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体;2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、2,3-フランジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体;が挙げられる。
【0017】
より好ましくは、主たる多価カルボン酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、もしくは、フランジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体である。全多価カルボン酸成分100モル%中にテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とフランジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とを合計して70モル%以上含有することが好ましく、80モル%以上含有することがより好ましく、90モル%以上含有することがさらに好ましく、95モル%以上含有することが特に好ましい。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価アルコール成分が、多価アルコール成分100モル%中に50モル%より多く含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましく、80モル%以上含有することがさらに好ましく、90モル%以上含有することが特に好ましく、95モル%以上含有することが最も好ましい。なお、ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価アルコール成分とは、モル比率で最も高い比率である多価アルコール成分のことを指し、ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価アルコール成分は、グリコールであることが好ましく、エチレングリコールであることがより好ましい。
【0019】
グリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、1,10-デカメチレングリコール、1,12-ドデカンジオールなどに例示されるアルキレングリコール;ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール;ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、1,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5-ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコール;が挙げられる。
【0020】
これらのグリコールのうち、アルキレングリコールが好ましく、より好ましくは、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、又は1,4-シクロヘキサンジメタノールである。また、前記アルキレングリコールは、分子鎖中に置換基や脂環構造を含んでいてもよく、同時に2種以上を使用してもよい。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸に由来のジカルボン酸単位と炭素数2~6のアルキレングリコールに由来のジオール単位とを有することが好ましい。芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸の少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素数2~6のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、及びテトラメチレングリコールの少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコールを含むことがより好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)は、エチレンテレフタレート単位、エチレンフラノエート単位、及びエチレンナフタレート単位の少なくとも1種を含むことが好ましい。エチレンテレフタレート単位、エチレンフラノエート単位、エチレンナフタレート単位を合計で50モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含有することが特に好ましく、95モル%以上含有することが最も好ましい。
【0023】
ポリエステル樹脂(A)は、エチレンテレフタレート単位を含むことが好ましく、エチレンテレフタレート単位を50モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがさらに好ましく、80モル%以上含むことがよりさらに好ましく、90モル%以上含有することが特に好ましく、95モル%以上含有することが最も好ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂(A)は、エチレンテレフタレート単位を多く含むのに代えて、エチレンナフタレート単位を多く含むものでもよく、エチレンナフタレート単位を50モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがさらに好ましく、80モル%以上含むことがよりさらに好ましく、90モル%以上含有することが特に好ましく、95モル%以上含有することが最も好ましい。
【0025】
ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含むものであることが好ましい。すなわち、ポリエステル樹脂(A)は、アンチモン化合物、チタン化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の重合触媒を触媒量用いて製造されていることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン化合物、チタン化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の重合触媒を用いて製造されたポリエステル樹脂が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。アンチモン化合物、チタン化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の重合触媒を用いて製造されたポリエステル樹脂をリサイクルすると着色しやすいが、本発明の製造方法でリサイクルした場合には再生ポリエステル樹脂(D)の着色を抑制することができる。
【0026】
ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が例えば2~500質量ppmであり、5~400質量ppmであることが好ましく、10~300質量ppmであることがより好ましく、50~250質量ppmであることがさらに好ましい。500質量ppmを超えると再生ポリエステル樹脂(D)の着色が抑えられなくなるおそれがある。なお、本明細書においては、質量ppmとは10-4質量%を意味する。
【0027】
ポリエステル樹脂(A)の固有粘度(IV)は好ましくは0.5~0.8dl/gであり、より好ましくは0.7~0.8dl/gである。ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が上記未満の場合、ポリエステル樹脂(A)を用いて製造された再生ポリエステル樹脂(D)の機械的強度や耐衝撃性が不十分になるおそれがある一方、ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が上記範囲を超えた場合は、成形加工が困難になるおそれがある。
【0028】
[多価カルボン酸(B)及び多価アルコール(C)]
多価カルボン酸(B)及び多価アルコール(C)としては、上述するポリエステル樹脂(A)に記載の成分が使用可能である。多価カルボン酸(B)は、ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価カルボン酸成分を70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。多価アルコール(C)は、ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価アルコール成分を70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましく、95モル%以上含むことが特に好ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価カルボン酸成分はジカルボン酸であることが好ましく、多価カルボン酸(B)もジカルボン酸が主たる成分であることが好ましいが、ジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、少量であれば3価以上の多価カルボン酸やヒドロキシカルボン酸を併用してもよく、3~4価の多価カルボン酸であることが好ましい。多価カルボン酸として、例えば、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。全多価カルボン酸(B)成分100モル%中に3価以上の多価カルボン酸は20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、3価以上の多価カルボン酸を二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0030】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。全多価カルボン酸(B)成分100モル%中にヒドロキシカルボン酸は20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、ヒドロキシカルボン酸を二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0031】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0032】
また、ポリエステル樹脂(A)を構成する主たる多価アルコール成分はグリコールであることが好ましく、多価アルコール(C)もグリコールが主たる成分であることが好ましいが、グリコール以外の多価アルコールとして、少量であれば3価以上の多価アルコールを併用してもよく、3~4価の多価アルコールであることが好ましい。3価以上の多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0033】
全多価アルコール(C)成分100モル%中に3価以上の多価アルコールは20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、3価以上の多価アルコールを二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
また、環状エステルの併用も許容される。環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。また、多価アルコールのエステル形成性誘導体としては、多価アルコールの酢酸等の低級脂肪族カルボン酸とのエステルが挙げられる。
【0035】
全多価カルボン酸(B)成分及び全多価アルコール(C)成分の合計に対して環状エステルは20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、環状エステルを二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0036】
[再生ポリエステル樹脂(D)]
再生ポリエステル樹脂(D)の固有粘度は0.50~0.90dl/gであることが好ましく、0.55~0.80dl/gであることがより好ましい。再生ポリエステル樹脂(D)の固有粘度が0.50dl/g未満である場合は、再生ポリエステル樹脂(D)の機械的強度や耐衝撃性が不十分になるおそれがある。一方で、再生ポリエステル樹脂(D)の固有粘度が0.90dl/gを超えた場合は、経済性が低下するおそれがある。
【0037】
再生ポリエステル樹脂(D)の還元粘度は0.50~0.90dl/gであることが好ましく、0.55~0.80dl/gであることがより好ましい。再生ポリエステル樹脂(D)の還元粘度が0.50dl/g未満である場合は、再生ポリエステル樹脂(D)の機械的強度や耐衝撃性が不十分になるおそれがある。一方で、再生ポリエステル樹脂(D)の還元粘度が0.90dl/gを超えた場合は、経済性が低下するおそれがある。
【0038】
再生ポリエステル樹脂(D)100質量部に対し、本発明の製造方法で用いられるポリエステル樹脂(A)の割合は5~80質量部であり、7~70質量部であることが好ましく、8~65質量部であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより再生ポリエステル樹脂(D)の着色や分子量の低下を抑制できる。ポリエステル樹脂(A)の配合割合が80質量部を超えた場合は、ポリエステル樹脂(A)と多価カルボン酸(B)と多価アルコール(C)とを混合したときにエステル化反応が十分に進行しないため、非相溶となってしまう。一方、ポリエステル樹脂(A)の配合割合が5質量部未満の場合は、着色の抑制効果が飽和する上に経済性が低下するおそれがある。
【0039】
再生ポリエステル樹脂(D)の酸価は100eq/ton以下であり、70eq/ton以下であることが好ましく、3~60eq/tonであることがより好ましい。
【0040】
再生ポリエステル樹脂(D)は前記第1工程で得られた反応物をさらに重縮合して高分子量化して得られたものであり、前記第2工程における重縮合は重合触媒であるアルミニウム化合物の存在下で行われている。換言すると、再生ポリエステル樹脂(D)は、アルミニウム化合物を含む重合触媒を用いて製造されており、アルミニウム化合物を含む重合触媒を触媒量用いて製造されている。また、再生ポリエステル樹脂(D)は、重縮合はアルミニウム化合物及びリン化合物の存在下で行われていることが好ましく、すなわち、アルミニウム化合物とリン化合物からなる重合触媒を用いて製造されていることが好ましい。
【0041】
<アルミニウム化合物>
再生ポリエステル樹脂(D)の重合触媒を構成するアルミニウム化合物は溶媒に溶解するものであれば限定されず、公知のアルミニウム化合物が限定なく使用できる。アルミニウム化合物として、例えば、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩;塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩;アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムイソプロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムt-ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド;アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキサイドなどのキレート化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、アルミニウムのアルコキサイドやアルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩、およびキレート化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、これらの中でも酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、及びアルミニウムアセチルアセトネートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、及びアルミニウムアセチルアセトネートから選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、酢酸アルミニウム及び塩基性酢酸アルミニウムから選ばれる少なくとも1種が特に好ましく、塩基性酢酸アルミニウムが最も好ましい。
【0042】
上記アルミニウム化合物は水やグリコールなどの溶剤に可溶化するアルミニウム化合物であることが好ましい。再生ポリエステル樹脂(D)の製造において使用できる溶媒とは、水およびアルキレングリコール類である。アルキレングリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。好ましくは、水、エチレングリコール、トリメチレングリコール、及びテトラメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましくは水又はエチレングリコールである。
【0043】
再生ポリエステル樹脂(D)中におけるアルミニウム元素の含有率は、5~100質量ppmであり、好ましくは7~60質量ppm、より好ましくは10~50質量ppm、さらに好ましくは12~40質量ppmである。アルミニウム元素が5質量ppm未満では、重合活性が十分に発揮されないおそれがある。一方、100質量ppmを超えるとアルミニウム系異物量が増大するおそれがある。
【0044】
<リン化合物>
再生ポリエステル樹脂(D)の重合触媒を構成するリン化合物としては、特に限定はされないが、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きいため好ましく、これらの中でもホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きいためより好ましい。
【0045】
上記リン化合物のうち、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物が好ましい。同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスホン酸系化合物、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスフィン酸系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きいため好ましく、一種または二種以上の同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が非常に大きいためより好ましい。
【0046】
また、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、P(=O)R1(OR2)(OR3)やP(=O)R14(OR2)で表される化合物などが挙げられる。R1はフェノール部を含む炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基およびフェノール構造を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。R4は、水素、炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。R2、R3はそれぞれ独立に水素、炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基などの置換基を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基は分岐構造やシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。R2とR4の末端どうしは結合していてもよい。
【0047】
同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、例えば、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジエチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸メチル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸フェニル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸メチル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸フェニルなどが挙げられる。
【0048】
同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、上記の例示の他に同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造(3級炭素を有するアルキル基(好ましくはt-ブチル基、テキシル基などの3級炭素をベンジル位に有するアルキル基;ネオペンチル基など)が水酸基の1つ又は2つのオルト位に結合しているフェノール構造など)を有するリン化合物が挙げられ、同一分子内にリン元素と下記(化式A)の構造を有するリン化合物であることが好ましく、中でも、下記(化式B)に示す3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルであることがより好ましい。なお、再生ポリエステル樹脂(D)の製造に用いられるリン化合物としては、下記(化式B)に示す3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルであることが好ましいが、それ以外に3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの変性体も含まれていてもよい。変性体の詳細については後述する。
【0049】
【化1】
【0050】
((化式A)において、*は結合手を表す。)
【0051】
【化2】
【0052】
((化式B)において、X1、X2は、それぞれ、水素、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0053】
本明細書では、ヘキサフルオロイソプロパノール系溶媒に溶解した溶液のP-NMR測定方法により、ヒンダードフェノール構造の少なくとも1種が検出できるポリエステル樹脂を「ヒンダードフェノール構造を有する」という。すなわち、再生ポリエステル樹脂(D)は、同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造とを有するリン化合物を重合触媒として製造されたポリエステル樹脂であることが好ましい。再生ポリエステル樹脂(D)中のヒンダードフェノール構造の検出方法(P-NMR測定方法)については後述する。
【0054】
上記(化式B)において、X1、X2はいずれも炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~2のアルキル基であることがより好ましい。特に、炭素数2のエチルエステル体は、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)が市販されており容易に入手できるので好ましい。
【0055】
リン化合物は溶媒中で熱処理して用いることが好ましい。なお、熱処理の詳細については後述する。リン化合物として、上記(化式B)で示したリン化合物である3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルを用いた場合、上記熱処理において、(化式B)で示したリン化合物である3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの一部が構造変化する。例えば、t-ブチル基の脱離、エチルエステル基の加水分解およびヒドロキシエチルエステル交換構造(エチレングリコールとのエステル交換構造)などに変化する。従って、本発明においては、リン化合物としては、(化式B)で示した3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル以外にも構造変化したリン化合物も含まれる。なお、t-ブチル基の脱離は、重合工程の高温下で顕著に起こる。
【0056】
以下では、リン化合物として3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルを用いた場合に3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルの一部が構造変化した9つのリン化合物を示している。グリコール溶液中での構造変化した各リン化合物の成分量はP-NMR測定方法により定量できる。
【0057】
【化3】
【0058】
従って、本発明におけるリン化合物としては、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル以外にも9つの上記化学式で示される3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの変性体も含まれていてもよい。
【0059】
リン化合物として上記Irganox1222を用いた場合、ポリエステル樹脂中に下記表1に示した9種のリン化合物残基が含まれる。P-NMR測定方法により、表1に示した9種のヒンダードフェノール構造の中の少なくとも1種が検出された場合、再生ポリエステル樹脂(D)は、同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造とを有するリン化合物を重合触媒として製造されたポリエステル樹脂であるといえる。ヒンダードフェノール構造を有するリン化合物を用いることにより、触媒のコストを抑えつつ、十分な重合活性を発揮することができる。
【0060】
【表1】
【0061】
本発明においては、上記化式1、4、及び7の少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0062】
再生ポリエステル樹脂(D)中におけるリン元素の含有率は3~1000質量ppmであることが好ましく、5~500質量ppmであることがより好ましく、10~200質量ppmであることがさらに好ましく、12~100質量ppmであることが特に好ましく、30~80質量ppmであることが最も好ましい。リン元素が3質量ppm未満では、重合活性の低下やアルミニウム系異物量が増大するおそれがある。一方、1000質量ppmを超えると逆に重合活性が低下するおそれやリン化合物の添加量が多くなり、触媒コストが増加するおそれがある。
【0063】
再生ポリエステル樹脂(D)において、アルミニウム元素に対するリン元素のモル比(以下では「アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比」という)が0.60~5.00であることが好ましく、0.75~4.00であることがより好ましく、0.80~3.50であることがさらに好ましく、0.90~3.00であることが特に好ましい。上述のように、再生ポリエステル樹脂(D)中のアルミニウム元素およびリン元素はそれぞれ、再生ポリエステル樹脂(D)の重合触媒として使用するアルミニウム化合物およびリン化合物に由来する。これらアルミニウム化合物とリン化合物を特定の比率で併用することで、重合系中で触媒活性を有する錯体が機能的に形成され、十分な重合活性を発揮することができる。また、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる重合触媒を用いて製造された樹脂はアンチモン触媒などの触媒を用いて製造されてなるポリエステル樹脂と比べて触媒のコストが高く(製造コストが高く)なるが、アルミニウム化合物とリン化合物を特定の比率で併用することにより、触媒のコストを抑えつつ、十分な重合活性を発揮することができ、さらに再生ポリエステル樹脂(D)の着色を抑制することができる。アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が0.60未満では、熱安定性および熱酸化安定性が低下するおそれや、アルミニウム系異物量が増大するおそれがある。一方、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が5.00を超えると、リン化合物の添加量が多くなりすぎるため、触媒コストが増大するおそれがある。
【0064】
再生ポリエステル樹脂(D)の製造に用いられる重合触媒(前記中間体に添加する重合触媒)として、上述のアルミニウム化合物およびリン化合物に加えて、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物など他の重合触媒を、再生ポリエステル樹脂(D)の特性、加工性、色調等製品に問題を生じない範囲内において併用してもよい。前記中間体に対するアンチモン元素、ゲルマニウム元素、チタン元素の添加量はそれぞれ3質量ppm以下であることが好ましい。ただし、上記他の重縮合触媒は、極力使用しないことが好ましい。
【0065】
[再生ポリエステル樹脂(D)の製造方法]
次に、再生ポリエステル樹脂(D)の製造方法について説明する。上述のとおり、本発明の再生ポリエステル樹脂(D)の製造方法は、回収されたポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を混合して、解重合及びエステル化する第1工程と、第1工程の反応物をさらに重縮合して高分子量化する第2工程とを有する。なお、第1工程により得られる反応物(低次縮合物)の量は、ポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)の合計量であり、前記反応物のことを「中間体」ということがある。下記(1)を満たしていればよく、下記(1)の他に下記(2)と(3)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、下記(1)~(3)を全て満たすことがより好ましい。
(1)再生ポリエステル樹脂(D)中におけるアルミニウム化合物の含有量がアルミニウム元素換算で5~100質量ppm
(2)再生ポリエステル樹脂(D)中におけるリン化合物の含有量がリン元素換算で3~1000質量ppm
(3)再生ポリエステル樹脂(D)中におけるアルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が0.60以上5.00以下
【0066】
第1工程では、回収されたポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を混合して、ポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)を同一の容器に入れることにより、ポリエステル樹脂(A)の解重合を行いつつ、解重合されたポリエステル又はそのオリゴマーと多価カルボン酸(B)と多価アルコール(C)と用いてエステル化を行って中間体を生成している。第1工程では、解重合を行うために加圧条件下で行うことが好ましく、圧力は0.1~0.4MPaとすることが好ましい。また、第1工程では、200~270℃で反応を行うことが好ましい。なお、ポリエステル樹脂(A)、多価カルボン酸(B)、及び多価アルコール(C)の質量から、生成する再生ポリエステル樹脂(D)の量(質量)は、算出可能である。
【0067】
第2工程における重縮合をアルミニウム化合物の存在下で行うために、第1工程後であって第2工程の前に前記中間体にアルミニウム化合物を溶解した溶液Sを添加することが好ましい。また、第2工程における重縮合をアルミニウム化合物及びリン化合物の存在下で行う場合には、前記第1工程後であって前記第2工程の前に前記中間体にアルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを添加することが好ましい。再生ポリエステル樹脂(D)の製造に用いられる多価カルボン酸およびそのエステル形成性誘導体、少量添加してもよいヒドロキシカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、少量添加してもよい環状エステルは、重合中に反応系から系外へ留出せず、触媒として系に最初に添加された使用量のほぼ100%が重合によって製造された再生ポリエステル樹脂(D)中に残留するため、これらの仕込み量から「生成される再生ポリエステル樹脂(D)」の質量を算出することができる。
【0068】
アルミニウム化合物およびリン化合物を触媒として用いる場合には、スラリー状または溶液状で添加するのが好ましく、水やグリコールなどの溶媒に溶解した溶液がより好ましく、水および/またはグリコールに溶解した溶液を用いることがさらに好ましく、エチレングリコールに溶解した溶液を用いることが最も好ましい。
【0069】
再生ポリエステル樹脂(D)の製造工程の重合反応の開始までの任意の段階でアルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tを再生ポリエステル樹脂(D)中の含有率(残存量)が上記(1)~(3)を満たす範囲になるように添加するのが好ましい。
【0070】
アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを再生ポリエステル樹脂(D)中の含有率(残存量)が上記(1)~(3)を満たすように添加することで、重合系中で触媒活性を有する錯体が機能的に形成され、十分な重合活性を発揮することができる。また、アルミニウム系異物の生成も抑制することができる。
【0071】
なお、触媒として機能するアルミニウム化合物中のアルミニウム原子は、ポリエステル樹脂の重合時に減圧環境下に置かれても、触媒として系に最初に添加された使用量のほぼ100%が、重合によって製造された再生ポリエステル樹脂(D)中に残留する。すなわち、アルミニウム化合物の量は重合の前後でほぼ変化しないため、前記中間体に対するアルミニウム元素の添加量が5~100質量ppmとなるようにすると、再生ポリエステル樹脂(D)中におけるアルミニウム元素の含有率も5~100質量ppmとなる。そのため、前記中間体に対するアルミニウム元素の添加量が5~100質量ppmであればよく、好ましくは7~60質量ppm、より好ましくは10~50質量ppm、さらに好ましくは12~40質量ppmである。
【0072】
また、アルミニウム化合物とともに触媒として機能するリン化合物は、ポリエステル樹脂の重合時に減圧環境下に置かれる際、触媒として系に最初に添加された使用量の一部(10~40%程度)が系外に除去されるが、この除去割合はアルミニウム原子に対するリン原子の添加モル比、添加するアルミニウム化合物を溶解した溶液やリン化合物を溶解した溶液の塩基性度や酸性度、アルミニウム含有溶液やリン含有溶液の添加方法(一液化して添加するか、別々に添加するか)等により変化する。したがって、前記中間体に対するリン元素の添加量が5~1500質量ppmであることが好ましい。上記添加量とすることにより、再生ポリエステル樹脂(D)中におけるリン元素の含有率は3~1000質量ppmとすることができる。第1工程の反応物に対するリン元素の添加量は、より好ましくは10~500質量ppm、さらに好ましくは20~200質量ppm、特に好ましくは30~150質量ppmである。また、アルミニウム原子の添加量に対するリン元素の添加量のモル比が1.00~7.00であることが好ましく、1.50~6.00であることがより好ましく、2.00~5.00であることがさらに好ましい。
【0073】
アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを同時に添加することが好ましく、アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを、あらかじめ前記中間体に添加する比率で混合して混合液を作製しておき、一液化した混合液を前記中間体に添加することがより好ましい実施態様である。あらかじめ一液化する方法としては、それぞれの溶液をタンクで混合する方法、触媒を添加する配管を途中で合流して混合させる方法などが挙げられる。
なお、反応容器に添加する場合には、反応容器の撹拌を高くすることが好ましい。反応容器間の配管に添加する場合には、インラインミキサーなどを設置して、添加された触媒溶液が速やかに均一混合されるようにすることが好ましい。
アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを別々に添加した場合、アルミニウム化合物に起因する異物が多く発生しやすく、昇温結晶化温度が低くなったり、降温結晶化温度が高くなったり、十分な触媒活性が得られなくなる場合がある。アルミニウム化合物とリン化合物を同時に添加することで、重合活性をもたらすアルミニウム化合物とリン化合物の複合体が速やかに無駄なく生成できるが、別々に添加した場合には、アルミニウム化合物とリン化合物の複合体の生成が不十分であり、また、リン化合物との複合体を生成できなかったアルミニウム化合物が異物として析出するおそれがある。
また、アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとは、アルミニウム系異物量を抑制する観点から、前記第1工程後であって前記第2工程の前に前記中間体にアルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tを添加することが好ましい。また、アルミニウム化合物を溶解した溶液Sは、アルミニウム化合物を溶解したグリコール溶液であることが好ましく、リン化合物を溶解した溶液Tは、リン化合物を溶解したグリコール溶液であることが好ましい。
【0074】
<リン化合物の熱処理>
再生ポリエステル樹脂(D)の製造に使用するリン化合物は溶媒中で熱処理されたものであることが好ましい。使用する溶媒としては、水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であれば限定されないが、アルキレングリコールとしては、リン化合物を溶解する溶媒を用いることが好ましく、エチレングリコール等のポリエステル樹脂(B)の構成成分であるグリコールを用いることがより好ましい。溶媒中での加熱処理は、リン化合物を溶解してから行うのが好ましいが、完全に溶解していなくてもよい。
【0075】
上記熱処理の条件は、熱処理温度が170~196℃であることが好ましく、より好ましくは175~185℃、さらに好ましくは175~180℃である。熱処理時間は30~240分が好ましく、より好ましくは50~210分である。
【0076】
上記熱処理時のリン化合物の濃度は3~10質量%が好ましい。
【0077】
上記の熱処理により、グリコール溶液中に含まれるリン化合物の酸性度を一定にすることができ、アルミニウム化合物と併用することによる重合活性が向上するとともに、重合触媒に起因するアルミニウム系異物量の生成を低下させることができ、かつ重合工程におけるリン化合物の留去量が抑制でき経済性が高めることができる。よって、上記熱処理を行うことが好ましい。
【0078】
本願は、2021年9月30日に出願された日本国特許出願第2021-161890号に基づく優先権の利益を主張するものである。2021年9月30日に出願された日本国特許出願第2021-161890号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において用いた評価方法は以下の通りである。
【0080】
〔評価方法〕
(1)リサイクルポリエステル樹脂(a)の組成分析
後述するリサイクルポリエステル樹脂(a)20mgを重ヘキサフルオロイソプロパノールと重クロロホルムとを1:9(容量比)で混ぜた混合溶媒0.6mlに溶解し、遠心分離を行った。その後、上澄み液を採取し、重クロロホルムにトリエチルアミンが0.2mol/Lとなるように混合した混合溶媒35μLを添加した後、下記の条件でH-NMR測定を行った。
装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER社製、AVANCE NEO600)
1H共鳴周波数:600.13MHz
ロック溶媒:重クロロホルム
フリップ角:30°
データ取り込み時間:4秒
遅延時間:1秒
測定温度:30℃
積算回数:128回
【0081】
(2)試料中における所定の金属元素の含有率
白金製るつぼにリサイクルポリエステル樹脂(a)を秤量し、電気コンロでの炭化の後、マッフル炉で550℃、8時間の条件で灰化した。灰化後のサンプルを1.2M塩酸に溶解し、試料溶液とした。調製した試料溶液を下記の条件で測定し、高周波誘導結合プラズマ発光分析法によりリサイクルポリエステル樹脂(a)中におけるアンチモン元素、ゲルマニウム元素、及びチタン元素の濃度を求めた。同様に後述する各実施例及び比較例で得られる再生ポリエステル樹脂(d-1)~(d-6)並びに各参考例で得られるポリエステル樹脂(d’-1)~(d’-2)中におけるアンチモン元素、ゲルマニウム元素、及びチタン元素の濃度を求め、表2に記載した。なお、含有量が1質量ppm未満である元素については記載を省略した。
装置:SPECTRO社製 CIROS-120
プラズマ出力:1400W
プラズマガス:13.0L/min
補助ガス:2.0L/min
ネブライザー:クロスフローネブライザー
チャンバー:サイクロンチャンバー
測定波長:167.078nm
【0082】
(3)試料中におけるリン元素の含有率
各実施例及び比較例で得られる再生ポリエステル樹脂(d)並びに各参考例で得られるポリエステル樹脂(d’)を試料とし、試料を硫酸、硝酸、過塩素酸で湿式分解を行った後、アンモニア水で中和した。調製した溶液にモリブデン酸アンモニウムおよび硫酸ヒドラジンを加えた後、紫外可視吸光光度計(島津製作所社製、UV-1700)を用いて、波長830nmでの吸光度を測定した。あらかじめ作製した検量線から、試料中のリン元素の濃度を求めた。なお、以下の測定方法では、試料とは各実施例及び比較例で得られる再生ポリエステル樹脂(d-1)~(d-7)並びに各参考例で得られるポリエステル樹脂(d’-1)~(d’-2)のことを指す。
【0083】
(4)固有粘度(IV)及び還元粘度
試料またはそのプリフォームを約3g凍結粉砕して140℃15分間乾燥した後、0.20g計量し、1,1,2,2-テトラクロロエタンとp-クロロフェノールとを1:3(質量比)で混ぜた混合溶媒を20ml用いて100℃で60分間撹拌して完全に溶解して室温まで冷却した後グラスフィルターを通して溶液を準備した。30℃に温調されたウベローデ粘度計(離合社製)を用いて上記溶液および溶媒の落下時間を計測し、固有粘度及び還元粘度を測定した。なお、固有粘度は以下の式により算出することもできる。
[η]=(-1+√(1+4K’ηSp))/2K’C
ηSp=(τ-τ0)τ0
ここで、
[η]:固有粘度(dl/g)
ηSp:比粘度(-)
K’:ハギンスの恒数(=0.33)
C:濃度(=1g/dl)
τ:試料の落下時間(sec)
τ0:溶媒の落下時間(sec)
【0084】
(5)酸価
後述するリサイクルポリエステル樹脂(a)又は試料20mgを重ヘキサフルオロイソプロパノールと重クロロホルムとを1:9(容量比)で混ぜた混合溶媒0.6mlに溶解し、遠心分離を行った。その後、上澄み液を採取し、重クロロホルムにトリエチルアミンが0.2mol/Lとなるように混合した混合溶媒35μLを添加した後、下記の条件でH-NMR測定を行った。
装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER社製、AVANCE NEO600)
1H共鳴周波数:600.13MHz
ロック溶媒:重クロロホルム
フリップ角:30°
データ取り込み時間:4秒
遅延時間:1秒
測定温度:30℃
積算回数:128回
【0085】
(6)ガラス転移温度
セイコー電子工業社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、後述するリサイクルポリエステル樹脂(a)又は試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封した。次いで、一度250℃で5分ホールドした後、液体窒素で急冷して、その後-100℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られた曲線においての図1に示したようなDSCで変極点が表れる部分の変極点前のベースラインから得られる接線(1)と変極点後のベースラインから得られる接線(2)の交点(図内丸印)をガラス転移温度とした。
【0086】
(7)カラー測定
試料の非晶ペレットを測定セルに詰め込み(約50g)回転させながら測定を実施した。
装置:東京電色社製 精密型分光光度色彩計TC-1500SX
測定方法:JIS Z8722準拠 透過光 0度、-0度法
検出素子:シリコンフォトダイオードアレー
光源:ハロゲンランプ 12V100W 2000H
測定面積:透過25mmφ
湿温度条件:25℃、RH50%
測定セル:φ35mm、高さ25mm 回転式(ペレット)
測定内容:X,Y,Z3刺激値 CIE色度座標 x=X/X+Y+Z y=Y/X+Y+Z
ハンターLab表色系
【0087】
以下、アルミニウム含有エチレングリコール溶液及びリン含有エチレングリコール溶液の調製について説明する。
【0088】
<アルミニウム含有エチレングリコール溶液sの調製>
塩基性酢酸アルミニウムの20g/L水溶液に対して、等量(容量比)のエチレングリコールをともに調合タンクに仕込み、室温(23℃)で数時間撹拌した後、減圧(3kPa)下、50~90℃で数時間撹拌しながら系から水を留去し、アルミニウム化合物が20g/L含まれたアルミニウム含有エチレングリコール溶液sを調製した。
【0089】
<リン含有エチレングリコール溶液tの調製>
リン化合物として、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)を、エチレングリコールとともに調合タンクに仕込み、窒素置換下撹拌しながら175℃で150分熱処理し、リン化合物が50g/L含まれたリン含有エチレングリコール溶液tを調製した。
【0090】
<回収されたポリエステル樹脂(a)>
回収されたポリエステル樹脂(a)(以下、リサイクルポリエステル樹脂(a)という)として、協栄産業株式会社より提供された回収ポリエステル樹脂フレークを用いた。該回収ポリエステル樹脂フレークは、組成分析の結果、多価カルボン酸成分は、テレフタル酸が98モル%、イソフタル酸が2モル%含まれており、多価アルコール成分は、エチレングリコールが98モル%、ジエチレングリコールが2モル%含まれていること確認した。該回収ポリエステル樹脂フレークの固有粘度は0.750dl/g、ガラス転移温度は76℃であった。また、上記回収ポリエステル樹脂フレーク中におけるアンチモン元素の含有率は200質量ppm、ゲルマニウム元素の含有率及びチタン元素の含有率は1質量ppm未満であった。アンチモン、ゲルマニウム、チタンの各元素の含有率から、上記回収ポリエステル樹脂フレークは、アンチモン触媒で製造されたポリエステル樹脂を用いた中空成形体を主体とした回収ポリエステル樹脂フレークであることを裏付けることができた。
【0091】
<回収されたポリエステル樹脂(b)>
回収されたポリエステル樹脂(b)(以下、リサイクルポリエステル樹脂(b)という)として、ポリエチレンナフタレートフィルム製造時の屑フィルムを回収し、再度ペレタイズした回収ポリエステル樹脂ペレットを用いた。該回収ポリエステル樹脂ペレットは、組成分析の結果、多価カルボン酸成分は、ナフタレンジカルボン酸が100モル%含まれており、多価アルコール成分は、エチレングリコールが98モル%、ジエチレングリコールが2モル%含まれていること確認した。該回収ポリエステル樹脂ペレットの固有粘度は0.520dl/g、ガラス転移温度は118℃であった。また、上記回収ポリエステル樹脂ペレット中におけるアンチモン元素の含有率は200質量ppm、ゲルマニウム元素の含有率及びチタン元素の含有率は1質量ppm未満であった。
【0092】
(実施例1)
撹拌機付き2Lステンレス製オートクレーブに、高純度テレフタル酸375.5gとエチレングリコール333.0gとリサイクルポリエステル樹脂(a)39.8gとを一括で加え、0.25MPa加圧雰囲気で260℃まで昇温し、エステル化率が90%のポリエステルオリゴマーを得た。得られたオリゴマーは透明であり、酸価が705eq/ton、水酸基価が1860eq/tonであった。
得られたオリゴマーに、上記方法で調製したアルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを混合し一液化した混合液を添加した。該混合液は、それぞれオリゴマーの質量に対して、アルミニウム元素およびリン元素として14質量ppmおよび30質量ppmとなるように作製した。アルミニウム元素に対するリン元素の添加モル比は1.87であった。なお、生成される再生ポリエステル樹脂(d-1)の量は、添加するテレフタル酸及びPET樹脂の量より算出可能であり、本実施例では、生成される再生ポリエステル樹脂(d-1)500gに対してアルミニウム元素およびリン元素として14質量ppmおよび30質量ppmとなるように混合液が添加されている。
その後、1時間で系の温度を280℃まで昇温して、この間に系の圧力を徐々に減じて0.15kPaとし、この条件下で重縮合反応を行い、IVが0.59dl/g、酸価が8eq/tonの再生ポリエステル樹脂(d-1)を得た。再生ポリエステル樹脂(d-1)におけるアルミニウム元素の残存量は14質量ppm、リン元素の残存量は20質量ppm、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比は1.25であった。再生ポリエステル樹脂(d-1)のL値は59.0であり、b値は5.3、ガラス転移温度は76℃であった。
【0093】
(実施例2~5、比較例1、参考例1)
リサイクルポリエステル樹脂(a)の量を表2に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様の方法で再生ポリエステル樹脂(d-2)~(d-5)、(d’-1)を得た。ただし、比較例1では、リサイクルポリエステル樹脂(a)の割合が高すぎるため、再生ポリエステル樹脂を作製することができなかった。また、実施例5では、上記変更の他に、添加するグリコール成分のうち、10モル%をジエチレングリコールに変更した。
【0094】
(比較例2)
アルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを添加する代わりに、生成される再生ポリエステル樹脂(d-6)500gに対してアンチモン元素として300質量ppmとなるようにアンチモン触媒を添加する以外は、実施例1と同様の方法で再生ポリエステル樹脂(d-6)を得た。
【0095】
(参考例2)
アルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを添加する代わりに、生成される再生ポリエステル樹脂(d’-2)500gに対してアンチモン元素として250質量ppmとなるようにアンチモン触媒を添加する以外は、参考例1と同様の方法で再生ポリエステル樹脂(d’-2)を得た。
【0096】
(実施例6)
撹拌機付き2Lステンレス製オートクレーブに、ナフタレンジカルボン酸249.0gとエチレングリコール340.0gとリサイクルポリエステル樹脂(b)90.0gとを一括で加え、0.25MPa加圧雰囲気で260℃まで昇温し、透明なポリエステルオリゴマーAを得た。その後、ナフタレンジカルボン酸を106.8g添加し、0.25MPa加圧雰囲気下で追加処理し、エステル化率90%の得られたポリエステルオリゴマーBを得た。ポリエステルオリゴマーBは透明であり、酸価が650eq/ton、水酸基価が1430eq/tonであった。
得られたオリゴマーに、上記方法で調製したアルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを混合し一液化した混合液を添加した。該混合液は、それぞれオリゴマーの質量に対して、アルミニウム元素およびリン元素として30質量ppmおよび74質量ppmとなるように作製した。アルミニウム元素に対するリン元素の添加モル比は2.15であった。なお、生成される再生ポリエステル樹脂(d-7)の量は、添加するナフタレンジカルボン酸及びPEN樹脂の量より算出可能であり、本実施例では、生成される再生ポリエステル樹脂(d-7)500gに対してアルミニウム元素およびリン元素として30質量ppmおよび74質量ppmとなるように混合液が添加されている。
その後、1時間で系の温度を290℃まで昇温して、この間に系の圧力を徐々に減じて0.15kPaとし、この条件下で重縮合反応を行い、IVが0.51dl/g、酸価が33eq/tonの再生ポリエステル樹脂(d-7)を得た。再生ポリエステル樹脂(d-7)におけるアルミニウム元素の残存量は30質量ppm、リン元素の残存量は54質量ppm、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比は1.56であった。再生ポリエステル樹脂(d-7)のL値は62.2であり、b値は6.2、ガラス転移温度は118℃であった。
【0097】
(比較例3)
アルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを添加する代わりに、生成される再生ポリエステル樹脂(d-8)500gに対してアンチモン元素として300質量ppmとなるようにアンチモン触媒を添加する以外は、実施例6と同様の方法で再生ポリエステル樹脂(d-8)を得た。
【0098】
(参考例3)
リサイクルポリエステル樹脂(b)の量を表2に記載の量に変更した以外は、実施例6と同様の方法で再生ポリエステル樹脂(d’-3)を得た。
【0099】
(参考例4)
アルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを添加する代わりに、生成される再生ポリエステル樹脂(d’-4)500gに対してアンチモン元素として300質量ppmとなるようにアンチモン触媒を添加する以外は、参考例3と同様の方法で再生ポリエステル樹脂(d’-4)を得た。
【0100】
各実施例、比較例、及び参考例の各種物性を表2に記載した。
【0101】
【表2】
【0102】
<リサイクルポリエステル樹脂(a)を用いた場合>
実施例1~実施例5では、製造工程でリサイクルポリエステル樹脂(a)及びアルミニウム触媒を所定の割合で用いているため、黒ずみの尺度であるL値が高いままであり、かつ、黄色みの尺度であるb値が低いままである再生ポリエステル樹脂(d-1)~(d-5)を得ることができた。
【0103】
比較例1では、リサイクルポリエステル樹脂(a)の割合が高すぎるため、非相溶であった。比較例2では、アンチモン触媒を用いているため、実施例1~5と比べてL値が低くなってしまい、再生ポリエステル樹脂(d-6)が著しく着色した。
【0104】
<リサイクルポリエステル樹脂(b)を用いた場合>
実施例6では、製造工程でリサイクルポリエステル樹脂(b)及びアルミニウム触媒を所定の割合で用いているため、黒ずみの尺度であるL値が高いままであり、かつ、黄色みの尺度であるb値が低いままである再生ポリエステル樹脂(d-7)を得ることができた。
【0105】
比較例3では、アンチモン触媒を用いているため、実施例6と比べてL値が低くなってしまい、再生ポリエステル樹脂(d-8)が著しく着色した。
図1