(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】貯水装置
(51)【国際特許分類】
F03B 13/06 20060101AFI20240903BHJP
F03B 17/02 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F03B13/06
F03B17/02
(21)【出願番号】P 2024008695
(22)【出願日】2024-01-24
(62)【分割の表示】P 2020123505の分割
【原出願日】2020-07-20
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一紀
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-11517(JP,A)
【文献】実開昭55-63892(JP,U)
【文献】特表2018-506953(JP,A)
【文献】特開2007-205448(JP,A)
【文献】特開2016-169742(JP,A)
【文献】特開平4-5475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/06
F03B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内空部に貯留空間が形成されるとともに、該内空部に連通する海水流入部と海水排出部とが設けられた管材と、
該管材の長手方向を海底面に沿わせて支持する複数の管材支持部材と、を備える貯水装置であって、
前記管材の一端に形成した前記海水流入部側に、前記貯留空間に外気を供給する空気注入管が設けられているとともに、
前記管材の他端に形成した前記海水排出部側に、前記貯留空間の海水を排出する排水機構及び空気を排出する排気機構が設けられていることを特徴とする貯水装置。
【請求項2】
請求項1に記載の貯水装置において、
前記空気注入管は、開状態で前記貯留空間に外気を供給する逆止弁を備えることを特徴とする貯水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に設ける貯水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水の位置エネルギーを利用した蓄電システムである揚水式水力発電が広く一般に知られている。揚水式水力発電は、上部ダムと下部ダムとの間に水車タービンを備えた発電所を構築し、上部ダムから水車タービンを経由して下部ダムに向けて水を落とすことにより発電機で発電する。そののち、下部ダムに貯留した水を上部ダムに汲み上げ、水の位置エネルギーの形で電気を貯える。
【0003】
近年では、上記の揚水式水力発電と同様の原理で、海水の位置エネルギーを利用して発電と蓄電を繰り返す海水位置エネルギー利用蓄電システムとして、海洋インバースダムの開発が進められている。特許文献1には、その詳細が電力貯蔵システムとして開示されているが、概略を
図9(a)(b)に示す。海洋インバースダム200は、沖合の海底近傍にダム空間となる函型の貯水槽201と発電設備202を構築したものである。
【0004】
海洋インバースダム200では海水Wを、
図9(a)で示すように、発電設備202を経由して貯水槽201に向けて落下させることで、発電が行われる。一方、発電に利用した海水Wで貯水槽201が満たされると、
図9(b)で示すように、揚水ポンプ203を利用して海水Wを排出し、貯水槽201を空洞にする。すると、上述した海水の位置エネルギーを利用した発電設備202による発電の再開が可能となるため、これをもって、電気エネルギーが蓄電された状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、海水Wを利用する海洋インバースダム200は、海水位の安定している沖合に構築することから、年間を通して安定して発電できる。また、函型に形成された貯水槽201の数量を増量し容量を増大すれば、大規模な電力量を確保することが可能となる。さらに、貯水槽201の天端に屋根を構築すれば、屋根部分を利用して大規模ソーラーパネルを設置したり、送受電アンテナを設置してマイクロ波ミラー衛星を利用した長距離エネルギー電送を実現することも期待される。
【0007】
ところが、海中に構築する函型の貯水槽201には様々な課題が生じる。例えば、建築時には、貯水槽201を安定して設置するべく、海底面の不陸調整が必要となる。また、貯水槽201に海水Wが流入する発電時に、貯水槽201の重量が増大することを考慮し、これを支持できるよう、貯水槽201を設置する海底面全面に地盤改良を行い、地盤補強をする必要が生じる。さらには、貯水槽201の海水Wを揚水する蓄電時に、貯水槽201に浮力が作用することを考慮し、これに抵抗するべく、貯水槽201の重量を大きく構築したり、海底地盤中に地盤アンカー204を定着させる等の対策を講じる必要が生じる。
【0008】
また、函型の貯水槽201は、海底面から海面に至る高さに構築すると、津波等の自然外力が作用した場合には構造体としての機能を維持できない可能性があり、通常時であっても高い曲げ剛性を要求される。加えて、貯水槽201は鉄筋コンクリート造の構造体とすることが想定されるが、海洋環境下では鉄筋の早期に劣化しやすいだけでなく、劣化対策のメンテナンスも困難となりやすい。
【0009】
さらに、函型の貯水槽201を沖合に設けることで、海底面までの深度と広い設置面積を確保できるため、高い発電力を確保することができるが、電力を使用する陸地までの距離が長くなるため、大規模な送電設備が必要になるとともに、輸送時の電力ロスも増大することとなる。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、海中で効率よく構築できるとともに、海水位置エネルギー利用蓄電システムへの利用に適した構造を有する貯水装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明の貯水装置は、内空部に貯留空間が形成される、該内空部に連通する海水流入部と海水排出部とが設けられた管材と、該管材の長手方向を海底面に沿わせて支持する複数の管材支持部材と、を備える貯水装置であって、前記管材の一端に形成した前記海水流入部側に、前記貯留空間に外気を供給する空気注入管が設けられているとともに、前記管材の他端に形成した前記海水排出部側に、前記貯留空間の海水を排出する排水機構及び空気を排出する排気機構が設けられていることを特徴とする。また、前記空気注入管は、開状態で前記貯留空間に外気を供給する逆止弁を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の貯水装置によれば、海底面に沿わせた管材を、複数の管材支持部材で支持することから、管材の貯留空間に海水が流入し、管材の全体重量が増大した場合には、その荷重を複数の管材支持部材で分担して支持することができる。同様に、貯留空間から海水を排出したのちに管材に浮力が作用した場合にも、複数の管材支持部材各々で分担して、この浮力に抵抗することができる。
【0013】
これにより、海底面の不陸調整や海底地盤の地盤改良等の大掛かりな海中作業を省略できるため、貯水装置を海中で効率よく構築することができる。また、貯留空間への海水の流出入が繰り返されても、管材支持部材で管材を安定して海底面に据え付けることが可能となる。したがって、発電と蓄電を繰り返すたびに海水の流出入が生じる海洋インバースダムのような海水位置エネルギー利用蓄電システムに好適な構造体として、貯水装置を利用することが可能となる。
【0014】
また、管材の延在形状を、直線状や曲線状もしくは平面視十字状など適宜変更することにより、貯留空間の容量を自在に調整することが可能となる。また、管材は、海底面に設置された際に水圧に耐えうる程度の剛性を有していれば、函型の構造体を用いる場合のように津波等による自然外力に耐えるような高い剛性を確保する必要がなく、貯水装置を、自然外力に対して高い耐力を有する構造体とすることが可能となる。
【0015】
本発明の貯水装置によれば、管材支持部材にサクションアンカーを採用することから、管材の海底面への設置作業が簡素化され、施工性を向上することが可能となる。このとき、管材として市場で取引されているプレキャスト部材等の規格品を適用すれば、海中で実施する作業を大幅に削減でき、施工性をより向上することが可能となる。また、管材の撤去作業も容易に実施できるため、供用後に実施する可能性のある管材の交換や移設等のメンテナンス作業を、容易に実施することが可能となる。
【0016】
本発明の貯水装置によれば、管材が複数の管材本体により構成されることから、連結する管材本体の本数を適宜変更することにより、内空部に設けられる貯留空間の容量を容易に増減することが可能となる。また、管材の一部に破損等の不具合が生じた場合には、損傷した管材本体を撤去し交換すればよく、管材のメンテナンス作業を容易に実施することも可能となる。
【0017】
本発明の貯水装置を、電気エネルギーを海水の位置エネルギーに変換して貯蔵する蓄電システムに採用すれば、海底面に沿って設置される管材の海水流入部を岸側近傍に配置した状態で、管材の延在形状を適宜変更することにより貯留空間の容量を自在に調整できる。これにより、管材の海水流入部に接続される発電設備を岸側近傍に配置しながら、所望の蓄電量を確保できるだけでなく、発電した電力を陸地に送電する際に必要とする送電設備の省力化や、送電に伴う電力ロスの大幅な削減を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、貯水装置が、内空部に貯留空間が設けられる管材を、海底面に沿わせた状態で複数の管材支持部材により支持する簡略な構造であるため、海中で効率よく構築できるとともに、貯留空間への海水の流出入が繰り返されても、管材支持部材で管材を安定して海底面に据え付けることができるため、海水位置エネルギー利用蓄電システムに好適な構造体として利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態における蓄電システムの概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における管材支持部材の詳細を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における貯水装置の事例を示す図である(その1)。
【
図4】本発明の実施の形態における貯水装置の事例を示す図である(その2)。
【
図5】本発明の実施の形態における貯水装置の事例を示す図である(その3)。
【
図6】本発明の実施の形態における貯水装置の事例を示す図である(その4)。
【
図7】本発明の実施の形態における貯水装置の構築方法を示す図である(その1)。
【
図8】本発明の実施の形態における貯水装置の構築方法を示す図である(その2)。
【
図9】従来技術である海洋インバースダムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の貯水装置は、電気エネルギーを海水の位置エネルギーに変換して貯蔵する蓄電システムへの利用に適したものであり、貯水装置を用いた蓄電システムと併せてその詳細を、
図1~
図8を参照しつつ以下に説明する。
【0021】
≪≪蓄電システム≫≫
蓄電システム100は、
図1(a)(b)で示すように、海水Wを利用して発電する発電設備10と、発電設備10で利用した海水Wが流下する貯水装置20と、貯水装置20に貯留された海水Wを排出する排水設備30と、貯水装置20に外気を供給する空気注入管40とを備える。
【0022】
発電設備10は、海水Wが流入する流入管路11と、流入管路11を流下した海水Wが供給される発電装置12と、発電装置12から流出した海水Wを、貯水装置20に供給する流出管路13と、を備える。発電装置12は、揚水式水力発電に設けられている発電設備と同様の設備であり、海水Wを利用して回転する水車タービンと、水車タービンの回転を利用して発電する発電機と、を備えている。なお、必要に応じて、流入管路11から流出管路13に向けて流下する海水Wの流速を調整する流水設備を備えてもよい。
【0023】
貯水装置20は、海底の岸側に配置されている発電設備10と沖側に配置されている排水設備30とを接続するようにして、海底面sfに沿って設置されており、発電設備10から流下した海水Wを貯留することの可能な貯留空間S1を有している。なお、貯水装置20の詳細は後述する。
【0024】
排水設備30は、貯水装置20に貯留する海水Wを排出する排水ポンプ31と、排水ポンプ31の動力を創出する発電システム32とを備えている。本実施の形態では、発電システム32として洋上風力発電を事例に挙げているが、これに限定するものではなく、太陽光発電等を採用してもよい。また、排水ポンプ31に動力を供給できる装備が備えられていれば、発電システム32は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0025】
上述する構成の蓄電システム100は、
図1(a)で示すように、貯水装置20の貯留空間S1が空洞の状態もしくは貯水可能な空隙を有した状態で、流入管路11を介して発電装置12への海水Wの供給を開始する。このとき、空気注入管40は、逆止弁等の電磁弁(図示せず)を閉状態としておく。また、貯留空間S1の空気を排気する排気機構(図示せず)を、例えば排水設備30に設けておき、これを作動させておく。これにより、海水Wが供給されると発電装置12は発電し、発電により取得した電気は、送電設備14を介して陸地側に設けられている変電施設15に送電される。
【0026】
その一方で、発電装置12を経由した海水Wは、流出管路13を介して貯水装置20に流下し、貯留空間S1に貯留される。そして、
図1(b)で示すように、貯水装置20の貯留空間S1が満たされた時点で、もしくは所望の発電量に達した時点で発電を一時停止し、排水設備30を稼働させる。このとき、空気注入管40は、逆止弁等の電磁弁(図示せず)を開状態とし、貯留空間S1に外気を供給可能な状態としておく。
【0027】
すると、貯留空間S1は海水Wが排出されて空洞になるため、発電設備10による海水Wの位置エネルギーを利用した発電が再度可能な状態となり、これをもって、電気エネルギーが蓄電されたこととなる。これにより蓄電システム100は、海水Wの位置エネルギーを利用して発電と蓄電を繰り返す、海水位置エネルギー利用蓄電システムとして機能することとなる。
【0028】
≪≪貯水装置≫≫
上記のように利用される貯水装置20は、
図1(b)で示すように、内空部が貯留空間S1となる管材21と、管材21を海底面sf上で支持する複数の管材支持部材22と、を備えている。
【0029】
管材21は、岸側から沖側に向けて延在するように海底面sfに沿って設置されており、岸側に位置する一端に海水流入部21aが形成され、この海水流入部21aに発電設備10の流出管路13が接続されている。また、管材21の沖側に位置する他端に海水流出部21bが形成され、この海水排出部21bに、排水設備30の排水ポンプ31が接続されている。このように、発電設備10と排水設備30とを接続する管材21は、管材支持部材22を介して、海底面sfに据え付けられている。
【0030】
管材支持部材22は、
図2(a)で示すように、管材21を把持する把持部材23と、把持部材23が設けられたサクションアンカー24とを備えている。サクションアンカー24は、頂版241と、頂版241の下面より垂下されている筒体形状よりなるスカート部材242とにより構成され、頂版241の上面に把持部材23が取り付けられている。
【0031】
頂版241にはさらに、
図2(a)(b)で示すように、頂版241とスカート部材242との囲繞空間S2により囲まれた空間に滞留する海水Wを排出する排水孔2411が設けられている。これにより、
図2(b)で示すように、スカート部材242を海底面sfに当接させた状態で、囲繞空間S2の海水Wを排水孔2411を利用して排出すると、スカート部材242が海底地盤に貫入されるとともにその状態が維持され、海底地盤に定着するアンカー部材として機能する。
【0032】
このような管材支持部材22を、把持部材23を介して把持した管材21の長手方向に複数設けることにより、
図1(b)で示すように、管材21の貯留空間S1に海水Wが貯留された状態では、その荷重を複数の管材支持部材22により分担して支持することが可能となる。したがって、貯水装置20が位置する海底地盤に対して、大掛かりな地盤改良を施す必要はない。
【0033】
一方、
図2(c)で示すように、管材21の貯留空間S1から海水Wが排出された状態では、管材21に浮力が発生して複数の管材支持部材22各々に引抜き荷重が作用する。しかし、管材21は、海底地盤に定着された管材支持部材22を構成するサクションアンカー24により、これに抵抗することができる。したがって、浮力を考慮して管材21の重量を大きくしたり、バラストを設ける等の対策を講じる必要もない。
【0034】
このように、貯水装置20は、管材21の貯留空間S1に対して海水Wの流出入が繰り返された場合にも、管材支持部材22により管材21を海底面sf上で安定して据え付け支持することができる。したがって、発電と蓄電を繰り返すたびに海水Wの流出入が生じる海水位置エネルギー利用蓄電システムに好適な構造体として、貯水装置20を利用することが可能となる。
【0035】
≪≪管材の延在形状≫≫
上述する構成の貯水装置20は、管材21が複数の管材本体211により構成されている。そして、
図1及び
図3~
図6で例示するように、複数の管材本体211を組み合わせて管材21の延在形状を適宜変更することにより、その内空部に設けられる貯留空間S1の容量を、自在に調整することが可能となっている。
【0036】
管材本体211は、
図1(b)で示すように、内空部を有する長尺の管状部材であって、海底面sf上に位置する状態で、水圧の影響を受けても大きな変形を生じない程度の剛性を有する材料であれば、いずれの材料により構成されるものであってもよい。例えば、プレキャストコンクリート造のヒューム管やボックスカルバート等、市場で広く取引されている規格品を採用することが可能であり、その断面形状も円筒型もしくは角筒型等いずれであってもよい。
【0037】
このような管材本体211は、貯留空間S1を構成する内空部が連通するよう、隣り合う端部どうしを連結して管材21を構成する。これにより、管材21の一部に損傷等の不具合が生じた場合には、不具合を生じた部分に位置する管材本体211を撤去し交換すればよく、管材21のメンテナンス作業を容易に実施することが可能となる。管材本体211どうしの連結方法はいずれの手段によるものであってもよいが、例えば、
図2(a)で示すような中継躯体25を採用するとよい。
【0038】
中継躯体25は、隣り合う管材本体211を連通状態で連結する継手部材であり、水密に連結できるとともに着脱自在な部材であれば、スリーブ継手や可撓性継手等いずれの構造のものも採用可能である。このような構成の中継躯体25は、管材支持部材22のサクションアンカー24を構成する頂版241の上面に、把持部材23とともに設置してもよいし、管材支持部材22に設置することなく単体で用いてもよい。
【0039】
なお、管材本体211が、例えば両端部にオス継手もしくはメス継手を備え、隣り合う管材本体211どうしの間で水密構造の継手を形成できるものであれば、必ずしも中継躯体25は用いなくてもよい。
【0040】
このような構成の管材本体211は、例えば
図1(a)(b)で示すように、複数を長手方向に直線状もしくは曲線状に順次連結して管材21を構成し、発電設備10と排水設備30とを接続する。これにより、管材21の貯留空間S1の容量と管材21の延長長さを容易に増減することが可能となる。
【0041】
ここで、発電設備10と排水設備30とを接続する管材21は、1本のみに限定されるものではなく複数本を並列配置してもよい。例えば、
図3(a)(b)では2本の管材21を並列に配置し、各々の海水流入部21a及び海水排出部21bを、発電設備10及び排水設備30に接続している。こうすると、いずれか一方に損傷等を生じるなどしてメンテナンスを行う必要が生じた場合にも、発電設備10を継続して稼働させることが可能となる。このとき、並行する2本の管材21どうしは、
図3(a)で示すように中継躯体25を利用して両者が連通する構造としてもよいし、
図3(b)で示すようにそれぞれを独立させる構造としてもよい。
【0042】
また、管材21は、必ずしも直線や曲線等の線状に限定されるものではなく、例えば
図4(a)で示すように、管材21よりなる1本の本線21Aで発電設備10と排水設備30とを接続する。そして、この本線21Aに、同じく管材21よりなる2本の支線21Bを別途連結し、平面視で十字形状をなすように形成してもよい。この場合には、本線21Aと支線21Bとの連結部に上述した中継躯体25を介装し、本線21Aと支線21Bの貯留空間S1を連通させる。
【0043】
また、
図4(b)で示すように、本線21Aに対して複数の支線1Bを連結させてもよい。こうすると、本線21Aに対して連結する支線21Bの本数や長さを適宜変更することで、発電設備10と排水設備30との距離を一定に維持しながら、貯留空間S1の容量を調整することが可能となる。これにより、例えば、発電設備10と排水設備30とを接続する本線21Aを短小に抑えつつ、つまり、蓄電システム100全体を海域の岸側に寄せながら、大容量の貯留空間S1を確保することも可能となる。
【0044】
さらに、管材21に設ける海水流入部21aと海水排出部21bは、必ずしも異なる位置に設ける必要はなく、両者を兼用させてもよい。具体的には、
図5で示すように、管材21よりなる本線21Aに海水流出入口21cを設けるとともに、管材21よりなる支線21Bを2本準備する。そのうえで、これら2本の支線21Bの他端を各々海水流出入口21cに接続させ、一方の支線21Bの一端には発電設備10を接続し、他方の支線21Bの一端には排水設備30を接続する。
【0045】
そして、本線21Aと2本の支線21Bとの連結部には、上述した中継躯体25を介装し3本を連通させる。このとき、海水流出入口21cを本線21Aの長手方向の岸側に設けると、発電設備10及び排水設備30をともに岸側に配置することができるため、排水設備30を沖側に配置する場合と比較して、建設時の施工性を大幅に向上できるとともに、運用時のメンテナンス作業の作業性も向上させることが可能となる。
【0046】
また、管材21に設ける海水流入部21aと海水排出部21bは、それぞれ1か所に限定されるものではなく、複数個所に設ける構成としてもよい。例えば、
図6では、管材21を平面視でコの字状に構築し、コの字の開口側を岸に向けて海底面sf上に設置する。そのうえで、管材21の岸側に位置する2つの端部各々に海水流入部21aを設け、発電設備10をそれぞれ接続する。また、管材21の沖側に位置する部分に海水排出部21bを3か所設け、各々に排水設備30を接続する。
【0047】
こうすると、2つの発電設備10を同時もしくは交互に稼働させて、発電量を増大させることが可能となる。また、発電設備10のいずれか一方に不具合を生じるなどしてメンテナンスを行う必要が生じた場合にも、他方の発電設備10を稼働させることができ、電力供給の必要時に発電作業を継続して実施することが可能となる。
【0048】
≪≪貯水装置の構築方法≫≫
上記の貯水装置20の構築方法について、その一事例を説明する。まず、
図7(a)で示すように、海底面sfにおける管材21の設置予定位置に所定の間隔で管材支持部材22を配置する。このとき、管材支持部材22のサクションアンカー24を海底地盤に一部突き当てておくとよい。
【0049】
次に、
図7(b)で示すように、頂版241とスカート部材242とにより囲まれた囲繞空間S2に滞留する海水Wを排水孔2411を利用して排出することで、スカート部材242を海底地盤に貫入させて、管材支持部材22を海底地盤に定着させる。なお、本実施の形態では、管材支持部材22の設置間隔を、おおよそ管材本体211の長さに相当する間隔とし、隣り合う管材本体211の端部どうしが管材支持部材22の上方で対向するように配置している。
【0050】
次に、
図7(c)で示すように、サクションアンカー24の頂版241に管材本体211の端部近傍を配置したのち、把持部材23を介して管材本体211を頂版241上で把持する。このような作業を連続して行い、
図8(a)で示すように、複数の管材本体211を順次、把持部材23を介して管材支持部材22上に設置する。
【0051】
管材本体211を管材支持部材22上に設置する作業と並行して、もしくはこれらの作業を終了したのち、
図8(b)で示すように、中継躯体25を利用して隣り合う管材本体211の端部どうしを連通状態で連結し、所望の延在形状に形成された、もしくは貯留空間S1に所望の容量を有する管材21を構築する。なお、本実施の形態では、隣り合う管材本体211の端部どうしを頂版241上で対向させているため、管材支持部材22上に中継躯体25を配置している。
【0052】
このように、海底面sfの不陸調整や海底地盤の地盤改良等の大掛かりな作業を省略した状態で、貯留空間S1への海水Wの流出入が繰り返されても、管材支持部材22で管材21を安定して海底面sfに据え付け支持することが可能となる。したがって、貯水装置20を構築するための海中作業を大幅に削減でき、効率よく貯水装置20を海中で構築することができる。
【0053】
上述する手順で管材21と管材支持部材22とにより構成される貯水装置20を構築したのち、貯水装置20に発電設備10及び排水設備30を接続し、
図1で示すような蓄電システム100を海底面sfに構築する。
【0054】
上記の蓄電システム100は、貯水装置20を採用することにより、海底面sfに沿って設置される管材21の海水流入部21aを岸側近傍に配置した状態で、管材21の延在形状を適宜変更することにより貯留空間S1の容量を自在に調整できる。これにより、管材21の海水流入部21aに接続される発電設備10を岸側に配置しながら、所望の蓄電量を確保できるだけでなく、発電した電力を陸地に送電する際に必要とする送電設備14の省力化や、送電に伴う電力ロスの大幅な削減を図ることが可能となる。
【0055】
本発明の貯水装置20及び貯水装置20を用いた蓄電システム100は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0056】
例えば、本実施の形態では、海底面sf上で管材21を支持する管材支持部材22を、管材21を把持する把持部材23と、把持部材23が設けられたサクションアンカー24とにより構成したが、必ずしもこれに限定されるものではない。管材21を海底面sf上に安定して定着支持できれば、管材支持部材22はいずれの支持構造を採用してもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、管材21を備えた貯水装置20のみを利用して蓄電システム100を構築したが、これに限定されるものではなく、従来技術で
図8(a)(b)で示すような、函型の貯水槽201を備える海洋インバースダム200を組み合わせて蓄電システムを構築してもよい。
【符号の説明】
【0058】
100 蓄電システム
10 発電設備
11 流入管路
12 発電装置
13 流出管路
14 送電設備
15 変電設備
20 貯水装置
21 管材
21a 海水流入部
21b 海水排出部
211 管材本体
21A 本線
21B 支線
22 管材支持部材
23 把持部材(装着具)
24 サクションアンカー
241 頂版
2411 排水孔
242 スカート部材
25 中継躯体
30 排水設備
31 排水ポンプ
32 発電システム
40 空気注入管
200 海洋インバースダム
201 貯水槽
202 発電設備
203 揚水ポンプ
204 地盤アンカー
sf 海底面
W 海水
S1 貯留空間
S2 囲繞空間