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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】細胞培養方法、及び接着細胞の剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20240903BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240903BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240903BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20240903BHJP
【FI】
C12N5/00
C12M3/00 A
C12M1/34 D
C12N5/07
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024533319
(86)(22)【出願日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2024013043
【審査請求日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2023058285
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057321(JP,A)
【文献】特開2016-103982(JP,A)
【文献】国際公開第2022/192157(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟包材からなる袋状の培養容器を少なくとも2つ以上用いて接着細胞の培養を行う細胞培養方法であって、
前記培養容器として第一培養容器と第二培養容器を使用し、前記第一培養容器と前記第二培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、
前記第一培養容器の前記培養面において接着細胞を培養した後、前記第一培養容器の前記培養面から接着細胞を剥離し、
前記第一培養容器又は前記第二培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、前記第一培養容器と前記第二培養容器間で接着細胞を移送し、
前記第二培養容器において前記培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞の培養を行う
ことを特徴とする細胞培養方法。
【請求項2】
前記第一培養容器又は前記第二培養容器において、前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞数を計測する
ことを特徴とする請求項1記載の細胞培養方法。
【請求項3】
前記第一培養容器において、前記非接着面を細胞が沈降する側に反転又は維持した状態で、接着細胞数を計測する
ことを特徴とする請求項2記載の細胞培養方法。
【請求項4】
計測された接着細胞数にもとづいて、含有する細胞数が確認された調整済み分量の細胞懸濁液を前記第一培養容器から前記第二培養容器へ送液することによって、前記第二培養容器における接着細胞数を調整する
ことを特徴とする請求項3記載の細胞培養方法。
【請求項5】
前記第一培養容器において前記培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞を前記培養面に接着させた後、前記非接着面を細胞が沈降する側に反転した状態で接着細胞を培養し、前記非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、前記第一培養容器の培養面から接着細胞を剥離する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養方法。
【請求項6】
前記第二培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側に反転又は維持した状態で、前記第一培養容器における細胞懸濁液を前記第一培養容器から前記第二培養容器へ送液し、前記第二培養容器において接着細胞数を計測し、
計測された接着細胞数にもとづいて、前記第二培養容器における接着細胞数を調整する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養方法。
【請求項7】
前記培養容器として前記第一培養容器と前記第二培養容器と第三培養容器を使用し、前記第三培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、
前記第二培養容器において接着細胞を培養した後、前記第二培養容器の培養面から接着細胞を剥離し、
前記第二培養容器又は前記第三培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、前記第二培養容器と前記第三培養容器間で接着細胞を移送し、
前記第三培養容器において前記培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞の培養を行う
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養方法。
【請求項8】
前記培養容器を、前記培養容器内の培地の液厚を均一に維持可能な押圧治具に挟持した状態で、前記培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側になるように前記押圧治具と共に反転又は維持する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養方法。
【請求項9】
前記第一培養容器及び/又は前記第二培養容器の前記培養面に複数の凹部が形成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養方法。
【請求項10】
軟包材からなる袋状の培養容器を用いて接着細胞を培養し、前記培養容器から接着細胞を剥離する接着細胞の剥離方法であって、
前記培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、
前記培養容器の前記培養面において接着細胞を培養した後、前記培養面から接着細胞を剥離する直前又は直後に、前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態にする
ことを特徴とする接着細胞の剥離方法。
【請求項11】
軟包材からなる袋状の培養容器を少なくとも2つ以上用いて接着細胞の培養を行う細胞培養システムであって、
前記培養容器として第一培養容器と第二培養容器が送液手段によって送液可能に接続され、前記第一培養容器と前記第二培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、
前記第一培養容器は、前記第一培養容器を押圧して前記第一培養容器内の培地の液厚を均一に維持する第一押圧治具に挟持され、前記第二培養容器は、前記第二培養容器を押圧して前記第二培養容器内の培地の液厚を均一に維持する第二押圧治具に挟持され、
前記第一培養容器を前記第一押圧治具に挟持した状態で、前記非接着面又は前記接着面を細胞が沈降する側になるように前記第一押圧治具と共に反転させる第一反転機構を備え、前記第二培養容器を前記第二押圧治具に挟持した状態で、前記非接着面又は前記接着面を細胞が沈降する側になるように前記第二押圧治具と共に反転させる第二反転機構を備えた
ことを特徴とする細胞培養システム。
【請求項12】
前記第一培養容器に衝撃を加えることにより、前記第一培養容器内における接着細胞を培養面から剥離する第一衝撃付与機構、及び/又は、前記第二培養容器に衝撃を加えることにより、前記第二培養容器内における接着細胞を培養面から剥離する第二衝撃付与機構を備えた
ことを特徴とする請求項11記載の細胞培養システム。
【請求項13】
前記第一押圧治具に挟持された前記第一培養容器の非接着面上の細胞の画像を撮影する第一画像取得装置、及び/又は、前記第二押圧治具に挟持された前記第二培養容器の非接着面上の細胞の画像を撮影する第二画像取得装置を備えた
ことを特徴とする請求項11又は12記載の細胞培養システム。
【請求項14】
前記培養容器として他の培養容器が前記第一培養容器及び/又は第二培養容器に送液手段によって送液可能に接続され、前記他の培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、
前記他の培養容器は、前記他の培養容器を押圧して前記他の培養容器内の培地の液厚を均一に維持する他の押圧治具に挟持され、
前記他の培養容器を前記他の押圧治具に挟持した状態で、前記非接着面又は前記接着面を細胞が沈降する側になるように前記他の押圧治具と共に反転させる他の反転機構を備えた
ことを特徴とする請求項11又は12記載の細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術に関し、特に軟包材からなる袋状の培養容器を用いて接着細胞を培養する細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞を自動的に大量培養することが行われている。
【0003】
細胞を自動的に大量培養する手段として、特許文献1には、複数の培養容器を使用して細胞を継代培養する培養装置が提案されている。
しかしながら、この培養装置では、1つの培養容器において培養した細胞を全て次の培養容器に移送するものであり、次の培養容器に播種される細胞数を管理することができなかった。
【0004】
このため、細胞の増殖性能や、接着細胞の剥離工程におけるばらつきなどによって、次の培養容器への細胞の播種数が大きく変動するため、常に同一条件で培養することができないという問題があった。また、このような問題を解決するためには、培養容器内の細胞数を計測することが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6601713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、接着細胞を培養した後、培養した接着細胞の細胞数を計測するためには、一旦接着細胞を培養面から剥離することが必要となる。接着細胞の剥離工程においては、一般的に、培養容器に洗浄液を送液して培養容器内を洗浄した後、培養容器に剥離液を供給し衝撃を加えて剥離を行い、剥離した接着細胞を新しい培地に再懸濁する作業が行われる。
ところが、接着細胞を培養するための培養容器は、その培養面に接着細胞が接着できるように表面処理を施したものであるため、剥離した接着細胞を新しい培地に再懸濁すると培地中のたんぱく質成分が作用して、一旦剥離した接着細胞が短時間で培養面に再付着してしまうという問題が生じていた。
【0007】
すなわち、培養容器に播種する細胞数を管理するために、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離してその細胞数を計測しようとした場合に、計測に時間がかかると接着細胞が培養面に再付着して細胞懸濁液が薄くなり、計測結果にもとづいた正確な数の細胞の移送を行うことができず、培養容器に播種する細胞数を正確に管理できなくなってしまうという問題があった。
また、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、細胞数の計測を行わない場合であっても、培養容器のサイズや細胞懸濁液の送液速度によっては、細胞の移送に時間がかかるため、接着細胞が培養面に再付着してしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者らは鋭意研究して、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、細胞数の計測や細胞の移送を行う前に、培養容器内における接着細胞が接着しない非接着面を細胞が沈降する側に反転又は維持することによって、細胞数の計測や細胞の移送に時間がかかった場合でも、細胞懸濁液中の接着細胞が培養面に再付着することを防止できることを見いだして、本発明を完成させた。
【0009】
また、このような本発明によれば、接着細胞の再付着を防止して細胞数を適切に計測することができるため、含有する細胞数を確認した調整済み分量の細胞懸濁液を次の培養容器に移送でき、培養容器に播種する細胞数を正確に管理することが可能である。
さらに、このような本発明によれば、培養容器から接着細胞を剥離する場合において、接着細胞が培養面に再付着することを防止できるため、接着細胞の剥離を適切に行うことが可能となる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことができ、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理できる細胞培養方法、及び接着細胞の剥離方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養方法は、軟包材からなる袋状の培養容器を少なくとも2つ以上用いて接着細胞の培養を行う細胞培養方法であって、前記培養容器として第一培養容器と第二培養容器を使用し、前記第一培養容器と前記第二培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、前記第一培養容器の前記培養面において接着細胞を培養した後、前記第一培養容器の前記培養面から接着細胞を剥離し、前記第一培養容器又は前記第二培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、前記第一培養容器と前記第二培養容器間で接着細胞を移送し、前記第二培養容器において前記培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞の培養を行う方法としてある。
【0012】
また、本発明の細胞培養方法を、前記第一培養容器又は前記第二培養容器において、前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞数を計測する方法とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養方法を、前記第一培養容器において、前記非接着面を細胞が沈降する側に反転又は維持した状態で、接着細胞数を計測する方法とすることが好ましく、その計測された接着細胞数にもとづいて、含有する細胞数が確認された調整済み分量の細胞懸濁液を前記第一培養容器から前記第二培養容器へ送液することによって、前記第二培養容器における接着細胞数を調整する方法とすることが好ましい。
【0013】
また、本発明の細胞培養方法を、前記第一培養容器において前記培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞を前記培養面に接着させた後、前記非接着面を細胞が沈降する側に反転した状態で接着細胞を培養し、前記非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、前記第一培養容器の培養面から接着細胞を剥離する方法とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明の細胞培養方法を、前記第二培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側に反転又は維持した状態で、前記第一培養容器における細胞懸濁液を前記第一培養容器から前記第二培養容器へ送液し、前記第二培養容器において接着細胞数を計測し、計測された接着細胞数にもとづいて、前記第二培養容器における接着細胞数を調整する方法とすることが好ましい。
【0015】
また、本発明の細胞培養方法を、前記培養容器として前記第一培養容器と前記第二培養容器と第三培養容器を使用し、前記第三培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、前記第二培養容器において接着細胞を培養した後、前記第二培養容器の培養面から接着細胞を剥離し、前記第二培養容器又は前記第三培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、前記第二培養容器と前記第三培養容器間で接着細胞を移送し、前記第三培養容器において前記培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞の培養を行う方法とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の細胞培養方法を、前記培養容器を、前記培養容器内の培地の液厚を均一に維持可能な押圧治具に挟持した状態で、前記培養容器において前記非接着面を細胞が沈降する側になるように前記押圧治具と共に反転又は維持する方法とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養方法を、前記第一培養容器及び/又は前記第二培養容器の前記培養面に複数の凹部が形成された方法とすることが好ましい。
さらに、本実施形態の細胞培養方法を、上記の細胞培養方法における工程を様々に組み合わせた方法とすることも好ましい。
【0017】
また、本発明の接着細胞の剥離方法は、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて接着細胞を培養し、前記培養容器から接着細胞を剥離する接着細胞の剥離方法であって、前記培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、前記培養容器の前記培養面において接着細胞を培養した後、前記培養面から接着細胞を剥離する直前又は直後に、前記非接着面を細胞が沈降する側にした状態にする方法としてある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことができ、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理できる細胞培養方法、及び接着細胞の剥離方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養方法において用いることのできる押圧治具の平面図と正面図を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る細胞培養方法において用いることのできる押圧治具及び画像取得装置等の構成を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る細胞培養方法の方法1における各工程の内容と培養バッグの状態を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る細胞培養方法の方法2における各工程の内容と培養バッグの状態を示す説明図である。
図5】本発明の実施形態に係る細胞培養方法の方法3における各工程の内容と培養バッグの状態を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態に係る細胞培養方法の方法4における各工程の内容と培養バッグの状態を示す説明図である。
図7】本発明の実施形態に係る細胞培養方法の方法5における各工程の内容と培養バッグの状態を示す説明図である。
図8】本発明の実施形態に係る細胞培養方法において用いることの可能な細胞培養システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の細胞培養方法、及び接着細胞の剥離方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態の具体的な内容に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態の細胞培養方法は、軟包材からなる袋状の培養容器(以下、培養バッグと称する場合がある。)を少なくとも2つ以上用いて接着細胞の培養を行う細胞培養方法であって、培養容器として第一培養容器(以下、第1バッグと称する場合がある。)と第二培養容器(以下、第2バッグと称する場合がある。)を使用し、第一培養容器と第二培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、第一培養容器の培養面において接着細胞を培養した後、第一培養容器の培養面から接着細胞を剥離し、第一培養容器又は第二培養容器において非接着面を細胞が沈降する側(通常、培養容器を静置した状態で細胞は細胞懸濁液中を下側方向に沈降する)にした状態で、第一培養容器と第二培養容器間で接着細胞を移送し、第二培養容器において培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞の培養を行うことを特徴とする。
【0022】
また、本実施形態の細胞培養方法は、第一培養容器又は第二培養容器において、非接着面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞数を計測することが好ましい。
さらに、本実施形態の細胞培養方法は、第一培養容器において、非接着面を細胞が沈降する側に反転又は維持した状態で、接着細胞数を計測する方法とすることが好ましく、その計測された接着細胞数にもとづいて、含有する細胞数が確認された調整済み分量の細胞懸濁液を第一培養容器から第二培養容器へ送液することによって、第二培養容器における接着細胞数を調整することがより好ましい。
【0023】
まず、図1を参照して、本実施形態の細胞培養方法、及び接着細胞の剥離方法において用いることの可能な押圧治具について説明する。
図1に示すように、本実施形態において用いることの可能な押圧治具20は、軟包材からなる袋状の培養容器10全体を押圧して培養容器10内の培地の液厚を均一に維持可能なものであり、培養容器10を載置する架台21を備えている。また、架台21の端部には、天板部23を支持する天板支持部22が立設して備えられている。
【0024】
天板部23の下面側の四隅にはマグネット231が備えられると共に、ガイドピン232が取り付けられている。また、天板部23には、培養容器10内の液厚を検出する測長センサ233が備えられている。
また、押圧治具20には、培養容器10を架台21に対して押圧する押圧部材24が備えられている。押圧部材24には、培養容器10に接する押圧板244が備えられている。
【0025】
押圧部材24の上面側の四隅には天板部23のマグネット231に対面するようにマグネット241が備えられている。マグネット231とマグネット241が互いに反発し合うことで、押圧部材24が培養容器10を架台21に対して押圧できるようになっている。なお、押圧部材24により培養容器10を押圧する手段は、これに限定されるものではなく、バネなどの付勢手段を用いたり、あるいは押圧部材24の自重により培養容器10を押圧する構成としてもよい。
【0026】
また、押圧部材24の四隅には、天板部23のガイドピン232を移動可能に挿入するためのガイド孔242(貫通孔)が形成されており、ガイドピン232に沿って押圧部材24が上下に移動可能になっている。
また、押圧部材24の上面側において、天板部23の測長センサ233に対面するように金属部材243が備えられている。測長センサ233がこの金属部材243までの距離を測定し、その測定結果にもとづいて、測長センサ233に接続される制御装置により培養容器10内の培地などの液厚(培養容器10の上面フィルムと下面フィルムの距離)を算出できるようになっている。
【0027】
押圧治具20の天板部23や架台21は、後述する画像取得装置30によって培養容器10内の細胞を撮影可能にするために、図示しないが開口部を備えることが好ましい。また、押圧治具20の天板部23や架台21を透明部材によって形成することも好ましい。
【0028】
本実施形態の細胞培養方法、及び接着細胞の剥離方法において用いられる軟包材からなる袋状の培養容器10は、接着細胞が接着可能な培養面11と接着細胞が接着しない非接着面12を対面して備えている。
培養容器10は、2枚のフィルムの周縁部をヒートシールなどによって貼り合わせて形成することができ、その内部に接着細胞を培養するための培養面11と、非接着面12とを有する培養室が形成されている。
【0029】
培養面11と非接着面12の作成方法は、特に限定されない。
培養面11は、例えばポリエチレンフィルムに表面処理を施して、表面の静的水接触角を60°より大きく80°以下にすることによって、接着細胞を接着させることが可能な培養面とすることが可能である。
【0030】
また、非接着面12は、次の2通りの方法で作成することができる。
1つは、例えばポリエチレンフィルムに表面処理を施さない状態(未処理状態)で使用する方法であり、表面の静的水接触角を80°から100°と高い状態に保持して、接着細胞が接着しない非接着面とすることができる。もう一つは、例えばポリエチレンフィルムに表面処理を施して、表面の静的水接触角を60°から80°程度にした後、この表面に細胞接着抑制剤をコーティングすることによって、接着細胞が接着しない非接着面とすることが可能である。
静的水接触角とは、静止した液体の表面が固体壁の表面に接するところで液面と固体面がなす角を意味する。静的水接触角が大きいと、固体壁の表面の疎水性が相対的に強く、静的水接触角が小さいと、固体壁の表面の親水性が相対的に強いという関係がある。
【0031】
表面処理としては、例えばエキシマ処理などを用いることができる。エキシマ処理は、光源としてキセノンエキシマランプなどのエキシマランプを用いる表面処理である。
また、細胞接着抑制剤としては、例えば、リン脂質ポリマー、ポリビニルアルコール誘導体、リン脂質・高分子複合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、アガロース、キトサン、ポリエチレングリコール、アルブミン等を用いることができ、これらを組み合わせて用いても良い。
【0032】
培養容器10の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。その他用いることができる材料として、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル、ポリアミド、アイオノマー、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩化ポリエチレンなどが挙げられる。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも用いることができる。また、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの熱硬化性エラストマーや、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂も用いることができる。
【0033】
また、培養容器10には、ポート13が備えられている。ポート13にはチューブが接続され、チューブに配設されたポンプなどの送液手段により、ポート13を介して培養容器10への内容液の供給や培養容器10からの内容液の排出、複数の培養容器10間における細胞懸濁液の送液等を行うことが可能になっている。図1の例ではポート13が2つ備えられているが、その個数は特に限定されず、1つでも3つ以上であってもよい。
ポート13の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0034】
図1において、培養容器10の培養室の周縁領域に外側向きに張り出した膨出形状が形成されている。なお、培養容器10の形状は、これに限定されず、膨出形状を備えていないものであってもよい。
また、図示しないが、培養容器10を、その培養面11に複数の凹部が形成されたものとすることが好ましい。これによって、培養容器10における接着細胞の培養面積を増大させることが可能である。
【0035】
本実施形態の細胞培養方法において、複数の培養容器10が、それぞれ押圧治具20に挟持した状態で用いられる。そして、各培養容器10を、押圧治具20に挟持した状態で、図示しない押圧治具20の反転機構により、培養容器10において非接着面12を細胞が沈降する側になるように押圧治具20と共に反転させることができる。また、同様にして、各培養容器10を、押圧治具20に挟持した状態で、培養容器10において培養面11を細胞が沈降する側になるように押圧治具20と共に反転させることができる。勿論、この押圧治具20の反転機構によって、各培養容器10を、押圧治具20に挟持した状態で、それぞれの状態のまま維持することができる。
【0036】
本実施形態の細胞培養方法において培養される接着細胞は、特に限定されないが、例えば、神経細胞、膵島細胞、腎細胞、肝細胞、筋肉細胞、心筋細胞、角膜内皮細胞、血管内皮細胞、間葉系幹細胞等の細胞を挙げることができる。また、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、及びそれらの幹細胞から上記各種細胞に分化誘導された細胞とすることもできる。
【0037】
本実施形態の細胞培養方法において、接着細胞を培養面11から剥離する具体的な方法は、特に限定されないが、例えば培養容器10に洗浄液を送液して培養容器10内を洗浄した後、培養容器10に剥離液を供給して、37℃で10分間放置し、接着細胞が培養面から剥がれやすくした状態とする。次いで、図示しない衝撃付与機構によって培養容器10に衝撃を加えることにより、培養容器10内における接着細胞を培養面11から剥離し、隣同士の細胞を分離して細胞塊をシングルセルに分解することが可能である。
【0038】
次に、図2を参照して、本実施形態の細胞培養方法において用いることの可能な画像取得装置について説明する。
図2に示すように、画像取得装置30は、押圧治具20に保持された培養容器10の非接着面12上の細胞の画像を撮影する。
具体的には、画像取得装置30としては、位相差顕微鏡などが用いられる。画像取得装置30は、光源31とレンズ32とデジタルカメラ33を備えている。
【0039】
本実施形態の細胞培養方法では、培養容器10の培養面11で接着細胞が培養された後、培養容器10を押圧治具20と共に非接着面12を細胞が沈降する側に反転又は維持した状態で、画像取得装置30により培養容器10内の細胞の撮影が行われ、接着細胞数が計測される。
このため、培養容器10を押圧治具20と共に非接着面12を細胞が沈降する側に反転又は維持した状態で、図2に示すように画像取得装置30が培養容器10の非接着面12と、光源31とレンズ32を結ぶ直線とが直行するように押圧治具20に配置されて、デジタルカメラ33により、培養容器10の非接着面12における細胞が撮影される。このとき、レンズ32は、非接着面12に焦点が合う位置にその配置が調節される。
【0040】
画像取得装置30におけるデジタルカメラ33は、制御装置40に接続されている。
制御装置40は、情報処理装置を用いて構成することができる。この情報処理装置としては、例えばコンピュータやマイコン、PLC(programmable logic controller,プログラマブルロジックコントローラ)などを用いることができる。
【0041】
制御装置40は、画像取得装置30により撮影された画像と、培養容器10内の培地量、及び非接着面12の面積等にもとづいて、培養容器10内の接着細胞数を計測することができる。
ここで、培養容器10内の培地を撹拌手段によって撹拌して細胞懸濁液とすると、細胞は培養容器10内で均一に分散した後、非接着面12に沈降する。押圧治具20により培養容器10全体を押圧して培養容器10内の培地の液厚を均一に維持した状態で、このように接着細胞を培養容器10内で均一に分散させた後に非接着面12に沈降した細胞の一部を計数することによって、培養容器10内の全ての細胞数や細胞密度を正確に計数することが可能になっている。
【0042】
次に、図3図7を参照して、本実施形態の細胞培養方法の具体的な内容について、詳細に説明する。
図3は、本実施形態の細胞培養方法の方法1における各工程の内容と培養バッグの状態(反転された状態か否か、計数が行われているか否か、及び培養バッグ間での送液前か送液後か)を示している。
【0043】
第1バッグ10-1と第2バッグ10-2は、それぞれ図1に示すように、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備えている。また、第1バッグ10-1と第2バッグ10-2は、それぞれ押圧治具20-1、押圧治具20-2に挟持されている。さらに、第1バッグ10-1と第2バッグ10-2は、図示しないが、それぞれのポート及びチューブを介してポンプなどの送液手段によって送液可能に接続されている。図4図7においても同様である。
【0044】
なお、図3図7では、押圧治具において培養バッグを上方から押圧し、培養バッグを下方から観察する様子が示されているが、押圧治具において培養バッグを下方から押圧し、押圧治具を反転させた状態で培養バッグを下方から観察する構成とするなど、押圧治具における培養バッグを押圧する方向及び培養バッグを観察する方向は特に限定されない。
【0045】
方法1の工程の具体的な内容は、以下のとおりである。
(1-1)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、第1バッグ10-1に接着細胞を播種する。これにより、数分~数時間で培養面に接着細胞が接着する。
(1-2)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、数日間(例えば7日間、以下同様)細胞培養を行う。
(1-3)第1バッグ10-1において、培養面に接着している接着細胞を剥離する。
【0046】
(1-4)第1バッグ10-1を押圧治具20-1ごと反転して、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、接着細胞の細胞数の計測を行う。
このとき、画像取得装置30-1により第1バッグ10-1内の細胞を撮影して、画像取得装置30-1に接続された制御装置により、第1バッグ10-1内の接着細胞の細胞数を算出することができる。以下の方法においても同様である。
なお、この第1バッグ10-1の反転は、培養面から接着細胞を剥離した直後に行うことが好ましい。また、この第1バッグ10-1の反転を、培養面から接着細胞を剥離する直前に行うことも好ましい。
【0047】
(1-5)計測された接着細胞数にもとづいて、細胞数調整済み分量の細胞懸濁液を第2バッグ10-2へ送液する。このとき、第2バッグ10-2の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、送液を行う。
第1バッグ10-1で細胞数の計測を行うことにより、第1バッグ10-1における細胞懸濁液の細胞密度を把握することができる。このため、含有する細胞数が確認された調整済み分量の細胞懸濁液を第1バッグ10-1から第2バッグ10-2へ送液することが可能である。これにより、第2バッグ10-2における接着細胞数を正確に調整することが可能になっている。なお、細胞数調整済み分量における具体的な細胞数が特に限定されないことは言うまでもない。
【0048】
(1-6)第2バッグ10-2の培養面に接着細胞が接着する。そして、第2バッグ10-2で数日間細胞培養を行う。
このように、本実施形態の細胞培養方法の方法1は、シンプルな構成により、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことが可能になっている。また、これによって、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理することが可能になっている。
【0049】
ここで、方法1では、第1バッグ10-1において接着細胞の細胞数の計測を行った後、含有する細胞数が確認された調整済み分量の細胞懸濁液を第1バッグ10-1から第2バッグ10-2へ送液する構成としているが、本実施形態の細胞培養方法はこれに限定されず、第1バッグ10-1において接着細胞の細胞数の計測を行わずに、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、細胞懸濁液を第1バッグ10-1から第2バッグ10-2へ細胞を移送する構成も含まれる。後述する方法2,4,5においても同様である。
【0050】
すなわち、上述したとおり、培養容器内で接着細胞の細胞数を計測しない場合であっても、培養容器のサイズや細胞懸濁液の送液速度によっては、接着細胞の移送に時間がかかるため、接着細胞が培養面に再付着してしまう場合があった。
これに対して、本実施形態の細胞培養方法によれば、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で第2バッグ10-2へ細胞を移送することにより、第1バッグ10-1の培養面への接着細胞の再付着を防止し、第2バッグ10-2へ接着細胞を好適に移送して培養することが可能になっている。
【0051】
次に、図4を参照して、本実施形態の細胞培養方法の方法2の工程の具体的な内容について説明する。
(2-1)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、第1バッグ10-1に接着細胞を播種する。これにより、数分~数時間で培養面に接着細胞が接着する。
【0052】
(2-2)次に、第1バッグ10-1を押圧治具20-1ごと反転して、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、数日間細胞培養を行う。
このように、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で細胞培養を行うことにより、死細胞などを非接着面側に沈降させることができるため、培地交換時にこれらの死細胞などの不要な物質を排出させ易くすることが可能であり、細胞の培養効率を向上させることが可能になっている。
【0053】
(2-3)第1バッグ10-1において、非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、培養面に接着している接着細胞を剥離する。
(2-4)第1バッグ10-1を再反転せずに、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、接着細胞の細胞数の計測を行う。
【0054】
(2-5)計測された接着細胞数にもとづいて、細胞数調整済み分量の細胞懸濁液を第2バッグ10-2へ送液する。このとき、第2バッグ10-2の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、送液を行う。
(2-6)第2バッグ10-2の培養面に接着細胞が接着する。そして、第2バッグ10-2で数日間細胞培養を行う。
【0055】
このように、本実施形態の細胞培養方法の方法2によっても、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことができ、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理できるようになっている。
また、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で細胞培養を行うことにより、死細胞などの不要物質を非接着面側に沈降させて培地交換時に排出させ易くすることができ、細胞の培養効率をさらに向上させることが可能になっている。
【0056】
次に、図5を参照して、本実施形態の細胞培養方法の方法3の工程の具体的な内容について説明する。
(3-1)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、第1バッグ10-1に接着細胞を播種する。これにより、数分~数時間で培養面に接着細胞が接着する。
【0057】
(3-2)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、数日間細胞培養を行う。
(3-3)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、培養面に接着している接着細胞を剥離する。
【0058】
(3-4)第1バッグ10-1における接着細胞の剥離後、直ちに(培養面に再接着しないうちに)、細胞懸濁液を第2バッグ10-2へ送液する。
このとき、第2バッグ10-2の非接着面を細胞が沈降する側に反転させた状態で、第1バッグ10-1から第2バッグ10-2に細胞懸濁液を送液(接着細胞を移送)する。
【0059】
(3-5)第2バッグ10-2の非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、接着細胞の細胞数の計測を行う。
このとき、画像取得装置30-2により第2バッグ10-2内の細胞を撮影して、画像取得装置30-2に接続された制御装置により、第2バッグ10-2内の接着細胞の細胞数を算出することができる。以下の方法においても同様である。
【0060】
そして、計測された接着細胞数にもとづいて、第2バッグ10-2における接着細胞数を調整する。この接着細胞数の調整において、例えば、第2バッグ10-2における接着細胞数を増加させる場合は、図示しない細胞供給容器から第2バッグ10-2へ増加させたい細胞数の接着細胞が含有された細胞懸濁液を送液することができる。また、第2バッグ10-2における接着細胞数を減少させる場合は、例えば、第2バッグ10-2から図示しない廃液容器や第1バッグ10-1へ減少させたい細胞数の接着細胞が含有された細胞懸濁液を送液することができる。
【0061】
(3-6)第2バッグ10-2の培養面を細胞が沈降する側になるように、第2バッグ10-2を再度反転させて、第2バッグ10-2の培養面に接着細胞を接着させる。そして、第2バッグ10-2で数日間細胞培養を行う。
【0062】
このように、本実施形態の細胞培養方法の方法3によっても、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞数の計測などを好適に行うことが可能になっている。
【0063】
次に、図6を参照して、本実施形態の細胞培養方法の方法4の工程の具体的な内容について説明する。
(4-1)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、第1バッグ10-1に接着細胞を播種する。これにより、数分~数時間で培養面に接着細胞が接着する。
【0064】
(4-2)次に、第1バッグ10-1を押圧治具20-1ごと反転して、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、数日間細胞培養を行う。
(4-3)第1バッグ10-1において、非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、培養面に接着している接着細胞を剥離する。
【0065】
(4-4)第1バッグ10-1を再反転せずに、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、接着細胞の細胞数の計測を行う。
計測された接着細胞数にもとづいて、細胞数調整済み分量の細胞懸濁液を第2バッグ10-2へ送液する。なお、第1バッグ10-1から第2バッグ10-2へ細胞数を調整していない細胞懸濁液を送液することもできる。方法5においても同様である。
このとき、第2バッグ10-2の非接着面を細胞が沈降する側に反転させた状態で、第1バッグ10-1から第2バッグ10-2に細胞懸濁液を送液する。
【0066】
(4-5)第2バッグ10-2の非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、接着細胞の細胞数の計測を再度行う。
そして、計測された接着細胞数にもとづいて、第2バッグ10-2における接着細胞数を調整する。
【0067】
(4-6)第2バッグ10-2の培養面を細胞が沈降する側になるように、第2バッグ10-2を再度反転させて、第2バッグ10-2の培養面に接着細胞を接着させる。そして、第2バッグ10-2で数日間細胞培養を行う。
【0068】
このように、本実施形態の細胞培養方法の方法4によっても、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことができ、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理できるようになっている。
また、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で細胞培養を行うことにより、死細胞などの不要物質を非接着面側に沈降させて培地交換時に排出させ易くすることができ、細胞の培養効率をさらに向上させることが可能になっている。
さらに、第1バッグ10-1と第2バッグ10-2の両方において細胞数の計測を行うことができるため、培養容器に播種する細胞数をより正確に管理できるようになっている。
【0069】
次に、図7を参照して、本実施形態の細胞培養方法の方法5の工程の具体的な内容について説明する。
(5-1)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、第1バッグ10-1に接着細胞を播種する。これにより、数分~数時間で培養面に接着細胞が接着する。
【0070】
(5-2)第1バッグ10-1の培養面を細胞が沈降する側にした状態で、数日間細胞培養を行う。
(5-3)第1バッグ10-1において、培養面に接着している接着細胞を剥離する。
【0071】
(5-4)次に、第1バッグ10-1を押圧治具20-1ごと反転して、第1バッグ10-1の非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、接着細胞の細胞数の計測を行う。
計測された接着細胞数にもとづいて、細胞数調整済み分量の細胞懸濁液を第2バッグ10-2へ送液する。
このとき、第2バッグ10-2の非接着面を細胞が沈降する側に反転させた状態で、第1バッグ10-1から第2バッグ10-2に細胞懸濁液を送液する。
【0072】
(5-5)第2バッグ10-2の非接着面を細胞が沈降する側に維持したままで、接着細胞の細胞数の計測を再度行う。
そして、計測された接着細胞数にもとづいて、第2バッグ10-2における接着細胞数を調整する。
【0073】
(5-6)第2バッグ10-2の培養面を細胞が沈降する側になるように、第2バッグ10-2を再度反転させて、第2バッグ10-2の培養面に接着細胞を接着させる。そして、第2バッグ10-2で数日間細胞培養を行う。
【0074】
このように、本実施形態の細胞培養方法の方法5によっても、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことができ、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理できるようになっている。
また、第1バッグ10-1と第2バッグ10-2の両方において細胞数の計測を行うことができるため、培養容器に播種する細胞数をより正確に管理できるようになっている。
【0075】
また、本実施形態の細胞培養方法は、培養容器として第一培養容器と第二培養容器と第三培養容器を使用し、第三培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、第二培養容器において接着細胞を培養した後、第二培養容器の培養面から接着細胞を剥離し、第二培養容器又は第三培養容器において非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、第二培養容器と第三培養容器間で接着細胞を移送し、第三培養容器において培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞の培養を行うことも好ましい。
また、本実施形態の細胞培養方法において、上述した第1バッグ10-1及び第2バッグ10-2に変えて、これらを用いた細胞培養に続けて、上記の第二培養容器及び第三培養容器を第1バッグ10-1及び第2バッグ10-2と同様に使用して、細胞培養を行うことも好ましい。さらに、より多くの培養バッグを同様に使用して、細胞培養を行うことも好ましい。
【0076】
具体的には、例えば図8に示すように、本実施形態の細胞培養方法において、押圧治具20を複数備え、それぞれの押圧治具20に載置された培養容器10がポート13を介して並列して連通された細胞培養システムを用いることも好ましい。
この細胞培養システムでは、押圧治具20-1に第1バッグ10-1が載置され、押圧治具20-2に第2バッグ10-2が載置され、押圧治具20-3に第3バッグ10-3が載置されている。図8では、第1バッグ10-1と第2バッグ10-2と第3バッグ10-3として同サイズのものが示されているが、この順番に培養面積が大きなものとすることも好ましい。
【0077】
各培養容器は、それぞれに備えられたポートを介してチューブを用いて並列に連通されている。各培養容器のポートに接続されたチューブには、それぞれポンプなどの送液手段61~66が配設されている。
また、培地A容器51と、培地B容器52と、洗浄液容器53と、剥離液容器54とが備えられ、それぞれがバルブを介して、各培養容器10に連通されている。さらに、廃液容器55もバルブを介して、各培養容器10に連通されている。
【0078】
制御装置40は、入出力部41、制御部42、操作部43、及び電源部44を備えている。
入出力部41は、各ポンプとバルブに接続され、制御部42からの情報にもとづいて、各ポンプとバルブの動作を制御することが可能になっている。
ポンプとしては、特に限定されないが、例えばチューブポンプなどを好適に用いることができる。また、バルブも特に限定されないが、例えばピンチバルブなどを好適に用いることができる。
【0079】
制御部42は、PLCなどにより構成され、所望の制御内容を予めプログラミングして記憶させ、これにもとづいて各部の動作を制御することができる。
操作部43は、タッチパネルなどの表示部を備え、ユーザによる入力情報を制御部42に送信してPLCの設定などを実行する。また、制御部42からの入力情報を表示する。
電源部44(安定化電源など)は、制御装置40内の各部に電気を供給する。
【0080】
この細胞培養システムにおいて、各培養容器10内の細胞数を調整する細胞数調整手段を備えることが好ましい。細胞数調整手段は、制御装置40及び送液手段61~66により構成することができる。
細胞数調整手段は、画像取得装置30により撮影された画像にもとづき制御装置40により計測された培養容器内の細胞数にもとづいて、含有する細胞数が確認された調整済み分量の細胞懸濁液を第1バッグ10-1から第2バッグ10-2へ送液したり、第2バッグ10-2から第3バッグ10-3へ送液したりすることができる。
【0081】
また、細胞数調整手段は、画像取得装置30により撮影された画像にもとづき制御装置40により計測された培養容器内の細胞数にもとづいて、第2バッグ10-2や第3バッグ10-3における接着細胞数を調整することもできる。
具体的には、例えば、第2バッグ10-2における接着細胞数を増加させる場合は、図示しない細胞供給容器から第2バッグ10-2へ増加させたい細胞数の接着細胞が含有された細胞懸濁液を送液することができる。また、第2バッグ10-2における接着細胞数を減少させる場合は、例えば、第2バッグ10-2から廃液容器55や第1バッグ10-1へ減少させたい細胞数の接着細胞が含有された細胞懸濁液を送液することができる。
【0082】
本実施形態の接着細胞の剥離方法は、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて接着細胞を培養し、培養容器から接着細胞を剥離する接着細胞の剥離方法であって、培養容器10が、接着細胞が接着可能な培養面11と接着細胞が接着しない非接着面12を対面して備え、培養容器10の培養面11において接着細胞を培養した後、培養面11から接着細胞を剥離する直前又は直後に、非接着面12を細胞が沈降する側にした状態にすることを特徴とする。
本実施形態の接着細胞の剥離方法をこのような方法にすれば、培養容器10から接着細胞を剥離する場合において、接着細胞が培養面11に再付着することを防止できるため、接着細胞の剥離を適切に行うことが可能である。
【0083】
以上説明したように、本実施形態の細胞培養方法、及び接着細胞の剥離方法によれば、培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止することができるため、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことができ、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理することが可能となる。
【0084】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。例えば、押圧治具を異なる構成としたり、培養容器を直列的に接続して用いるなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、接着細胞を大量培養する場合に好適に利用することが可能である。
【0086】
この明細書に記載の文献及び本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。
【符号の説明】
【0087】
10 培養容器
11 培養面
12 非接着面
13 ポート
20 押圧治具
21 架台
22 天板支持部
23 天板部
231 マグネット
232 ガイドピン
233 測長センサ
24 押圧部材
241 マグネット
242 ガイド孔
243 金属部材
244 押圧板
30 画像取得装置
31 光源
32 レンズ
33 デジタルカメラ
40 制御装置
41 入出力部
42 制御部
43 操作部
44 電源部
51 培地A容器
52 培地B容器
53 洗浄液容器
54 剥離液容器
55 廃液容器
61~66 送液手段(ポンプ)
71~75 開閉手段(バルブ)
【要約】
培養容器内の接着細胞を培養面から剥離した後、接着細胞が培養面に再付着することを防止して、細胞の移送や細胞数の計測を好適に行うことができ、次の培養容器に播種する細胞数を正確に管理することを可能とする。軟包材からなる袋状の培養容器を少なくとも2つ以上用いて接着細胞の培養を行う細胞培養方法であって、培養容器として第一培養容器と第二培養容器を使用し、第一培養容器と第二培養容器が、接着細胞が接着可能な培養面と接着細胞が接着しない非接着面を対面して備え、第一培養容器の培養面において接着細胞を培養した後、第一培養容器の培養面から接着細胞を剥離し、第一培養容器又は第二培養容器において非接着面を細胞が沈降する側にした状態で、第一培養容器と第二培養容器間で接着細胞を移送し、第二培養容器において培養面を細胞が沈降する側にした状態で接着細胞の培養を行う。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8