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  • 特許-有価金属吸着材及び有価金属の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】有価金属吸着材及び有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/24 20060101AFI20240903BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240903BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240903BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240903BHJP
   C08B 3/14 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B01J20/24 B
B01J20/30
B01D15/00 N
C02F1/28 B
C08B3/14
C22B11/00 101
C22B23/00 102
C22B15/00
C22B3/24 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020012826
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021115561
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月6日に、下記アドレスのウェブサイトにおいて発表。(https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2019.120816)
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】前田 勝浩
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩
(72)【発明者】
【氏名】フォニ ブション ビスワス
(72)【発明者】
【氏名】中窪 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】眞塩 麻彩実
(72)【発明者】
【氏名】谷口 剛史
(72)【発明者】
【氏名】西村 達也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-024654(JP,A)
【文献】特開昭58-223439(JP,A)
【文献】特開2018-083882(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027091(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/027090(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/027009(WO,A1)
【文献】伊藤未来也 他,三価ヒ素を吸着除去可能なジチオカルバメート基含有セルロース誘導体の開発,第66回高分子学会北陸支部研究発表会講演要旨集,2017年11月18日,p.69(C-09)
【文献】伊藤未来也 他,三価ヒ素の吸着除去が可能なジチオカルバメート構造を有するセルロース誘導体の合成,高分子学会予稿集,2017年,66巻2号,1Pf098
【文献】宮口真帆 他,ジチオカルバミン酸修飾セルロース誘導体によるヒ素の捕集挙動,日本分析化学会第66年会 講演要旨集,公益社団法人 日本分析化学会,2017年08月26日,204頁,L2009
【文献】中窪圭佑 他,有害金属抽出能を有する新規セルロース系吸着剤の開発,第19回環境技術学会年次大会予稿集,2019年,p.30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/34
B01D15/00-15/42
C02F1/28
C08B1/00-37/18
C22B1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、及び金からなる群から選択される少なくとも1種の有価金属の吸着材であって、
下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、下記式(a-1)で表される基の総平均置換度が2.0~3.0であるセルロース誘導体を含む、有価金属吸着材。
【化1】
[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a-1)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRのうち、少なくとも1つは下記式(a-1)で表される基である]
【化2】
(式中、R 3はメチル基を示す。2つのR 5 のうち一方は水素原子を示し、他方は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1~3の整数を示す
【請求項2】
前記有価金属がパラジウム、白金、銀、及び金からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の有価金属吸着材。
【請求項3】
前記有価金属のイオンの回収率は85%以上である、請求項1又は2に記載の有価金属吸着材。
【請求項4】
アルカリ金属イオンの回収率は10%以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の有価金属吸着材。
【請求項5】
アルカリ土類金属イオンの回収率は10%以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の有価金属吸着材。
【請求項6】
鉄イオン、マンガンイオン、及びアルミニウムイオンの回収率はそれぞれ45%以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の有価金属吸着材。
【請求項7】
前記セルロース誘導体の含有量は、有価金属吸着材全量の50重量%以上である、請求項1~6の何れか1項に記載の有価金属吸着材。
【請求項8】
コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、及び金からなる群から選択される少なくとも1種の有価金属の回収方法であって、
水溶液に溶解した前記有価金属を、下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、下記式(a-1)で表される基の総平均置換度が2.0~3.0であるセルロース誘導体に吸着させて回収する、有価金属の回収方法。
【化3】
[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a-1)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRのうち、少なくとも1つは下記式(a-1)で表される基である]
【化4】
(式中、R 3はメチル基を示す。2つのR 5 のうち一方は水素原子を示し、他方は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1~3の整数を示す
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース誘導体を含む有価金属吸着材、及びセルロース誘導体を用いた有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金等の有価金属は、電子材料、電子部品、工業用触媒、金属メッキ等に多量に使用されている。その他、医療分野においては、抗がん剤では白金が使用され、歯の治療ではパラジウムが使用されている。
【0003】
このように、日本は有価金属を多量に消費するにもかかわらず、有価金属のほとんどを輸入に依存している。そのため、資源の有効利用の観点から、工場排水や廃棄物に含まれる有価金属を回収し、再利用することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、結晶化度が70%以下のセルロースにイミノジ酢酸又はジアルキルアミンを結合させてなるセルロース誘導体が、金イオン、パラジウムイオン、白金イオン等を吸着することが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、セルロースにグリシジルメタクリレートをグラフト重合したものに、O-1-メルカプト-3-フェノキシプロパン-2-イル-N-2-ヒドロキシエチルカルバモチオエートを反応させて得られるセルロース誘導体が、銀イオン、パラジウムイオン、及び金イオンを吸着することが記載されている。
【0006】
非特許文献2には、柿に含まれるタンニンをゲル化したものに、ビスチオウレアを反応させて得られるタンニン誘導体が、パラジウムイオン、白金イオン、金イオンを吸着することが記載されている。
【0007】
非特許文献3には、一般的な吸着剤[例えば、ジチオカルバメート基を含むアクリル系キレート樹脂(ジチオカルバメート基導入量:10%)]の銀イオン飽和吸着容量が2~3mol/kg程度であるのに対し、ジチオカルバメート基を25%導入したキトサン誘導体では銀イオンの飽和吸着容量が3.6mol/kgと高い数値を示したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特願2009-247981号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】The Chemical Society of Japan 2017, 46, 492-494.
【文献】American Chemical Society Publications 2012, 51, 11901-11913.
【文献】「ジチオカーバメイト型化学修飾キトサンの銀の吸着分離特性」、朝川 隆信等、化学工学論文集 2000, 26, No.3, 321-326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、上記セルロース誘導体及びキトサン誘導体は、有価金属イオンと共に、自然界に多く存在する他の金属イオン(例えば、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;鉄イオン、アルミニウムイオン等の卑金属イオンなど)を吸着し、有価金属イオンの選択率が低いことに気づいた。
【0011】
また、有価金属イオンとキレートを形成する置換基(以後、キレート形成基)と称する場合がある)を基材に多く導入すれば、イオンの吸着力を向上させることができるが、基材としてのセルロースは、水酸基同士の水素結合が強固であるため、グルコース単位に3つある水酸基のうち6位水酸基以外には置換基を導入することは困難であり、キレート形成基の導入割合を高めてイオンの吸着力を向上させることは、実現できていなかった。
【0012】
従って、本発明の目的は、単位量当たりの吸着力が高く、且つ有価金属を選択的に吸着し、回収することができる有価金属吸着材を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記有価金属吸着材の前駆体として有用なセルロース誘導体を提供することにある。
本発明の他の目的は、有価金属を効率よく回収する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、単位量当たりの吸着力が高く、且つ有価金属を選択的に吸着し、回収することができる有価金属吸着材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、セルロースの水酸基にアミノ基が保護されたアミノ酸を反応させ、その後、アミノ基の保護基を外してから、硫黄化合物の存在下にて第4級アンモニウム化合物を反応させると、セルロースの水酸基に、有価金属イオンとキレートを形成するジチオカルバメート基を高い確率で導入することができること、このようにして得られたセルロース誘導体は、単位量当たりの吸着力が高いこと、前記セルロース誘導体は有価金属に対して高い吸着性能を示す一方で、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及び卑金属イオンには吸着力が弱いこと、前記セルロース誘導体を使用すれば、有価金属イオンと、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及び卑金属イオンが混在する溶液から、有価金属を選択的に吸着することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を含む、有価金属吸着材を提供する。
【化1】
[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化2】
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。R3は、同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を示す)
【0015】
本発明は、また、式(a)で表される基が下記式(a-1)で表される基である前記有価金属吸着材を提供する。
【化3】
(式中、R3は、同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を示し、R5は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1~3の整数を示す)
【0016】
本発明は、また、式(a)で表される基の総平均置換度が0.1~3.0である前記有価金属吸着材を提供する。
【0017】
本発明は、また、有価金属が、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、及び金から選択される少なくとも1種の金属である前記有価金属吸着材を提供する。
【0018】
本発明は、また、水溶液に溶解した有価金属を、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体に吸着させて回収する、有価金属の回収方法を提供する。
【化4】
[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化5】
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。R3は、同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を示す)
【0019】
本発明は、また、下記工程を経て前記有価金属吸着材を製造する有価金属吸着材の製造方法を提供する。
[1]セルロースに、下記式(2)
HOOC-R1-NR2COOR0 (2)
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。R0は1価の炭化水素基又は1価の複素環式基を示す)
で示される化合物を反応させて、下記式(1-2)
【化6】
[式中のR’は、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a’)
【化7】
(式中、R1、R2、R0は前記に同じ)
で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのR’のうち、少なくとも1つは上記式(a’)で表される基である]
で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(1-2)を生成させる
[2] セルロース誘導体(1-2)のアミノ基の保護基を外して、下記式(1-3)
【化8】
[式中のR"は、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a")
【化9】
(式中、R1、R2は前記に同じ)
で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのR"のうち、少なくとも1つは上記式(a")で表される基である。また、上記式(a")で表される基は、塩を形成していてもよい]
で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(1-3)を生成させる
[3] 硫黄化合物の存在下、セルロース誘導体(1-3)に、下記式(3)で示される第4級アンモニウム化合物を反応させる
+(R34- (3)
(式中、R3は、同一又は異なって炭素数1~10のアルキル基を示し、X-はカウンターアニオンを示す)
【0020】
本発明は、また、下記式(1-2)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を提供する。
【化10】
[式中のR’は、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a’)
【化11】
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示し、R0は1価の炭化水素基又は1価の複素環式基を示す)
で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのR’のうち、少なくとも1つは上記式(a’)で表される基である]
【0021】
本発明は、また、下記式(1-3)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を提供する。
【化12】
[式中のR"は、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a")
【化13】
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す)
で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのR"のうち、少なくとも1つは上記式(a")で表される基である。また、上記式(a")で表される基は、塩を形成していてもよい]
【発明の効果】
【0022】
本発明の有価金属吸着材は、単位量当たりの吸着力が高く、その上、有価金属イオンとアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及び卑金属イオンを含む溶液から、有価金属を選択的に吸着して回収することができる。また、本発明の有価金属吸着材は、耐薬品性及び耐熱性に優れる。更にまた、本発明の有価金属吸着材は、基材がセルロースであるため、これを燃焼させても排気問題を生じることがなく、また、燃焼させることにより容易に吸着させた金属を回収することができ、回収された金属は再び有益資源として利用することができる。
【0023】
そのため、本発明の有価金属吸着材を使用すれば、工場排水や廃棄物の中から、有価金属を効率よく且つ選択的に吸着して回収することができ、回収された有価金属を再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】セルロースと、実施例1~3の吸着材(セルロース誘導体)のIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[有価金属吸着材]
本発明の有価金属吸着材は、式(1)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を含む。
【0026】
(セルロース誘導体)
本発明におけるセルロース誘導体(以後、「セルロース誘導体(1)」と称する場合がある)は、下記式(1)で表される繰り返し単位(グルコース単位)を有する。
【化14】
[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子、下記式(a)で表される基である。尚、前記式(1)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体に含まれる全てのRのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化15】
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。R3は、同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を示す)
【0027】
1における炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、2-メチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、2-メチル-トリメチレン基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を挙げることができる。
【0028】
1としては、なかでも、セルロース主鎖骨格とジチオカルバメート基間の炭素鎖がより長いほうが、金属吸着力が向上する傾向がある。
【0029】
2、R3における炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0030】
2としては、なかでも水素原子が好ましい。また、R3としては、なかでも炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0031】
式(a)で表される基としては、なかでも下記式(a-1)で表される基(式中、nは1~3の整数を示し、R5は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。R3は前記に同じ)が好ましく、とりわけ好ましくは下記式(a-1)で表される基のうち、式中のnが2である基である。
【化16】
【0032】
式(a)で表される基として、より好ましくは下記式(a-1')で表される基(式中、nは1~3の整数を示し、R5は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す)であり、とりわけ好ましくは下記式(a-1')で表される基のうち、式中のnが2の基である。
【化17】
【0033】
式(a)で表される基として、特に好ましくは下記式(a-1-1)、又は(a-1-2)で表される基であり、とりわけ好ましくは下記式(a-1-2)で表される基である。尚、下記式中のR3は前記に同じ。
【化18】
【0034】
式(a)で表される基として、最も好ましくは下記式(a-1'-1)、又は(a-1'-2)で表される基であり、とりわけ好ましくは下記式(a-1'-2)で表される基である。
【化19】
【0035】
式(a)で表される基(好ましくは式(a-1)で表される基、より好ましくは式(a-1')で表される基、更に好ましくは式(a-1-1)で表される基及び(a-1-2)で表される基、最も好ましくは式(a-1'-1)で表される基及び(a-1'-2)で表される基)の総平均置換度(セルロースを構成するグルコース単位の2,3および6位の水酸基の水素原子の、前記基への置換度の平均値)としては、例えば0.1~3.0、好ましくは1.0~3.0、特に好ましくは2.0~3.0である。セルロース誘導体が式(a)で表される基を上記範囲で含有すると、優れた有価金属吸着力を発揮することができる点で好ましい。
【0036】
セルロース誘導体の形状としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではなく、例えば、シート状、球状(真球状、略真球状、楕円球状など)、多面体状、棒状(円柱状、角柱状など)、りん片状、不定形状等が挙げられる。
【0037】
本発明の有価金属吸着材は、セルロース誘導体(1)以外にも他の成分を含有していてもよいが、セルロース誘導体(1)の占める割合は、有価金属吸着材全量の、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上、とりわけ好ましくは90重量%以上である。セルロース誘導体(1)の占める割合が上記範囲を下回ると、有価金属を効率よく且つ選択的に吸着することが困難となる傾向がある。
【0038】
本発明の有価金属吸着材は、有価金属イオン(特に、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、及び金から選択される金属のイオン)に対して優れた吸着力(吸着容量は、例えば2mol/g以上、好ましくは3mol/g以上、特に好ましくは5mol/g以上)を有する。
【0039】
本発明の有価金属吸着材は、なかでも貴金属イオン(例えば、コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、及び金から選択される金属のイオン)に対して優れた吸着力(吸着容量は、例えば2mol/g以上、好ましくは3mol/g以上、特に好ましくは5mol/g以上)を有する。
【0040】
本発明の有価金属吸着材の吸着力は、有価金属イオンの種類によって異なる。
パラジウム(II)イオンの吸着力は、例えば1.8mol/kg以上、好ましくは3.0mol/kg以上、より好ましくは3.6mol/kg以上、特に好ましくは3.9mol/kg以上である。
白金(IV)イオンの吸着力は、例えば0.9mol/kg以上、好ましくは1.5mol/kg以上、より好ましくは1.8mol/kg以上、特に好ましくは2.1mol/kg以上である。
銀(I)イオンの吸着力は、例えば1.8mol/kg以上、好ましくは3.6mol/kg以上、より好ましくは5.0mol/kg以上、特に好ましくは9.1mol/kg以上である。
金(III)イオンの吸着力は、例えば1.2mol/kg以上、好ましくは2.0mol/kg以上、より好ましくは3.6mol/kg以上、特に好ましくは3.7mol/kg以上である。
【0041】
本発明の有価金属吸着材は、他のイオン(アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及び卑金属イオンから選択される少なくとも1種のイオン)の吸着力が低く、例えば2.0mol/kg以下、より好ましくは1.8mol/kg以下、更に好ましくは0.9mol/kg以下、特に好ましくは0.4mol/kg以下、最も好ましくは0.1mol/kg以下、とりわけ好ましくは0.01mol/kg以下である。
【0042】
本発明の有価金属吸着材の、他のイオンに対する吸着力は、イオンの種類によって異なる。
例えば、アルカリ金属イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン)の吸着力は、例えば2.0mol/kg以下、好ましくは1.0mol/kg以下、より好ましくは0.4mol/kg以下、更に好ましくは0.2mol/kg以下、特に好ましくは0.1mol/kg以下である。
例えば、アルカリ土類金属イオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)の吸着力は、例えば2.0mol/kg以下、好ましくは1.0mol/kg以下、より好ましくは0.9mol/kg以下、更に好ましくは0.4mol/kg以下、特に好ましくは0.2mol/kg以下である。
例えば、卑金属イオン(特に、鉄イオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン)の吸着力は、例えば2.0mol/kg以下、好ましくは1.8mol/kg以下、より好ましくは0.9mol/kg以下、特に好ましくは0.4mol/kg以下である。
【0043】
本発明の有価金属吸着材による有価金属イオン(特に、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、及び金から選択される金属のイオン)の回収率は、例えば85%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0044】
本発明の有価金属吸着材による貴金属イオン(例えば、コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、及び金から選択される金属のイオン)の回収率は、例えば85%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0045】
本発明の有価金属吸着材による、アルカリ金属イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン)の回収率は、例えば10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0046】
本発明の有価金属吸着材による、アルカリ土類金属イオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)の回収率は、例えば10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下である。
【0047】
本発明の有価金属吸着材による、卑金属イオン(特に、鉄イオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン)の回収率は、例えば60%以下、好ましくは50%以下、特に好ましくは45%以下である。
【0048】
尚、金属イオンの回収率は、金属イオン濃度が10μmol/Lの水溶液(25℃、pH3)に、本発明の有価金属吸着材5mgを浸漬し、20分間200rpmで撹拌した場合の回収率であり、実施例に記載の式から算出される。
【0049】
本発明の有価金属吸着材は、上述の通り、有価金属イオンに対して高い吸着力を有し、他のイオンの吸着力は低い。そのため、有価金属イオンと他のイオンとが混在する、工業廃水、鉱山廃水、温泉水等から、有価金属イオンを選択的に回収することができる。
【0050】
[有価金属の回収方法]
本発明の有価金属の回収方法は、水溶液に溶解した有価金属を、セルロース誘導体(1)に吸着させて回収することを特徴とする。
【0051】
有価金属は水溶液中において有価金属イオンとして存在する。そして、前記セルロース誘導体は、水溶液中に含まれる有価金属イオンを吸着することができる。
【0052】
水溶液に溶解した有価金属を前記セルロース誘導体に吸着させる方法としては、特に制限されることがなく、例えば、前記セルロース誘導体をカラム等に充填し、そこに有価金属を溶解した水溶液を流す方法や、有価金属を溶解した水溶液中に前記セルロース誘導体を加え、撹拌する方法等が挙げられる。
【0053】
本発明の有価金属の回収方法においては、前記セルロース誘導体のpHを例えば1~9(なかでも1~7、とりわけ2~6)に調整することが、有価金属の吸着力をより一層向上することができ、効率よく有価金属を回収することができる点で好ましい。尚、前記セルロース誘導体のpH調整は、周知慣用のpH調整剤(硝酸等の酸や、水酸化ナトリウム等のアルカリ)を用いて行うことができる。
【0054】
また、セルロース誘導体に有価金属イオンを吸着させた後は、有価金属イオンを吸着したセルロース誘導体を燃焼させることにより容易に有価金属を回収することができる。
【0055】
(セルロース誘導体の製造方法)
前記セルロース誘導体は、例えば、下記工程[1]~[3]を経て製造することができる。
【化20】
【0056】
工程[1]は、セルロース(1-1)(=上記式(1-1)で表される繰り返し単位を有する化合物)の水酸基に、アミノ基が保護されたアミノ酸を反応させる工程である。
【0057】
上記アミノ基が保護されたアミノ酸は、特に制限がないが、下記式(2)で示される化合物が、脱保護が容易である点で好ましい。下記式(2)中のCOOR0基はアミノ基を保護するカーバメート系保護基である。
HOOC-R1-NR2COOR0 (2)
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。R0は1価の炭化水素基又は1価の複素環式基を示す)
【0058】
上記式(2)で示されるアミノ基が保護されたアミノ酸の、アミノ基を保護する前のアミノ酸は、下記式(2’)で表される。
HOOC-R1-NH2 (2’)
(式中、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示す)
【0059】
上記式(2’)で表されるアミノ酸としては、例えば、グリシン、L-アラニン、β-アラニン、4-アミノ酪酸、5-アミノペンタン酸、7-アミノヘプタン酸等の鎖状アミノ酸を挙げることができる。
【0060】
上記式(2)中のR1は、上記式(a)中のR1に対応する。
【0061】
0は1価の炭化水素基又は1価の複素環式基を示す。
【0062】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基が含まれる。
【0063】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基等の炭素数1~10(特に好ましくは炭素数1~3)のアルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等の炭素数2~10(特に好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基等を挙げることができる。
【0064】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の3~10員(特に好ましくは5~8員)のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等の3~15員(特に好ましくは5~8員)のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基等の橋かけ環式炭化水素基等が挙げられる。
【0065】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の炭素数6~20のアリール基を挙げることができる。また、前記芳香族炭化水素基を構成する芳香環には、他の環(例えば、脂環等)が縮合して縮合環を形成していてもよい。このような縮合環を含む基としては、例えば、フルオレン基等が挙げられる。
【0066】
前記複素環式基は複素環の構造式から1個の水素原子を除いた基である。そして前記複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、及びこれらの縮合環を挙げることができる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。
【0067】
上記炭化水素基や複素環式基は、種々の置換基[例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基等]を有していてもよい。
【0068】
上記カーバメート系保護基としては、なかでも、t-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(CBZ)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が、温和な条件で脱保護できる点で好ましい。
【0069】
工程[1]で使用されるセルロース(1-1)としては、例えば、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)やコットンリンターパルプ由来のセルロース、結晶性セルロース等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。尚、前記パルプには、ヘミセルロースなどの異成分が含まれていてもよい。セルロースは、例えば解砕処理を施す等により、細かく粉砕した状態で使用することが好ましい。
【0070】
前記セルロース(1-1)とアミノ基が保護されたアミノ酸との反応は、触媒の存在下で行うことが好ましい。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
前記触媒の使用量としては、アミノ基が保護されたアミノ酸1モルに対して、例えば0.01~1.0モル程度である。
【0072】
また、前記反応は、縮合剤の存在下で行うことが好ましい。前記縮合剤としては、例えば、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC-HCl)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
前記縮合剤の使用量としては、アミノ基が保護されたアミノ酸1モルに対して、例えば0.01~1.0モル程度である。
【0074】
前記反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0075】
前記溶媒としては、なかでも、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミドが好ましく、前記溶媒に塩化リチウム等のリチウム塩を混合したものを使用するのが、セルロースの溶解性に優れる点で特に好ましい。溶媒中のリチウム塩濃度は、セルロースを溶解させる効果を損なわない範囲において適宜調整することができ、例えば1~30重量%程度である。
【0076】
前記溶媒の使用量としては、反応基質の総量の、例えば0.5~30重量倍程度である。溶媒の使用量が上記範囲を上回ると反応成分の濃度が低くなり、反応速度が低下する傾向がある。
【0077】
工程[1]を経て、上記式(1-2)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(1-2)(式中のR’は、同一又は異なって、水素原子又は上記式(a’)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのR’のうち、少なくとも1つは上記式(a’)で表される基である]が生成する。
【0078】
工程[1]を経て生成したセルロース誘導体(1-2)は、本発明の有価金属吸着材の前駆体(より詳細には、有価金属吸着材を構成するセルロース誘導体(1)の前駆体)として有用である。
【0079】
工程[2]は、工程[1]を経て生成したセルロース誘導体(1-2)のアミノ基の保護基を外す工程(=アミノ基の脱保護工程)である。
【0080】
工程[2]を経ると、上記式(1-3)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(1-3)(式中のR"は、同一又は異なって、水素原子又は上記式(a")で表される基を示す。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのR"のうち、少なくとも1つは上記式(a")で表される基である)が生成する。そして、上記式(a")で表される基は、塩を形成していてもよい。
【0081】
前記セルロース誘導体のアミノ基の保護基を外す方法としては、保護基の種類に応じて適宜選択することができる。
【0082】
例えば、保護基としてBoc等を有する場合、塩酸、トリフルオロ酢酸等の強酸を反応させることによって前記保護基を外すことができ、上記式(1-3)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体であって、式中のR"が、式(a")で表される基の末端-NR2H基がカウンターアニオンと共に塩を形成している誘導体が得られる。例えば、トリフルオロ酢酸を反応させた場合には、式(a")で表される基の末端-NR2H基は、CF3COO-と塩を形成して、-N+22・CF3COO-となる。
【0083】
例えば、保護基としてCBZを有する場合、触媒(例えば、Pd-C)の存在下にて還元反応を行うことで、前記保護基を外すことができる。
【0084】
例えば、保護基としてFmocを有する場合は、ピリジン等の第2級アミンを反応させることにより保護基を外すことができる。
【0085】
工程[2]の反応温度は、例えば0~100℃程度である。反応時間は、例えば1~24時間程度である。反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0086】
工程[2]を経て生成したセルロース誘導体(1-3)は、有価金属吸着材の前駆体(より詳細には、有価金属吸着材を構成するセルロース誘導体(1)の前駆体)として有用である。
【0087】
工程[3]は、工程[2]を経て生成したセルロース誘導体(1-3)に、硫黄化合物の存在下、下記式(3)で示される第4級アンモニウム化合物を反応させる工程である。
+(R34- (3)
(式中、R3は、同一又は異なって炭素数1~10のアルキル基を示し、X-はカウンターアニオンを示す)
【0088】
式(3)中のR3は、上記式(a)中のR3に対応する。また、式(3)中のカウンターアニオン(X-)としては、例えば、OH-、Cl-、Br-、I-、F-、SO4 2-、BH4 -、BF4 -、PF6 -等が挙げられる。
【0089】
前記第4級アンモニウム化合物としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0090】
前記第4級アンモニウム化合物の使用量は、前記セルロース誘導体(1-3)100重量部に対して、例えば50重量部以上である。
【0091】
前記硫黄化合物としては、例えば、二硫化炭素を挙げることができる。硫黄化合物の使用量は、前記セルロース誘導体(1-3)100重量部に対して、例えば20重量部以上である。
【0092】
工程[3]の反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。溶媒の使用量は、反応基質の総量の、例えば0.5~30重量倍程度である。
【0093】
工程[3]の反応温度は、例えば0~100℃程度である。反応時間は、例えば1~24時間程度である。反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【実施例
【0094】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0095】
実施例1(吸着材(DMC-1)の調製)
二口ナスフラスコにセルロース(I)(3.00g、18.5mmol)を入れ、80℃で2時間真空乾燥した。窒素雰囲気下、N,N-ジメチルアセトアミド(100mL)、塩化リチウム(6.0g)を加え溶解させた。この反応容器に、N-Boc-グリシン(19.2g、110mmol)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(13.6g、111mmol)を加えて懸濁させた後、反応系を0℃に冷却した。1-エチル3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC-HCl)(21.3g、111mmol)を添加した後、反応系を室温に戻し、12時間撹拌した。メタノール/水(80/20,v/v)混合溶媒中に再沈殿することにより析出した固体を遠心分離により回収し、MeOHで洗浄した。得られた固体を真空乾燥し、下記式で表される化合物(DMC-1a)を白色固体(8.57g、収率73%)として得た。
1H-NMR測定の結果から、N-Boc-グリシンの総平均置換度は3.0と算出された。
【0096】
【化21】
(DMC-1a)
1H-NMR (500 MHz, CDCl3, 55℃): δ 5.98 (br, 1 H), 5.77 (br, 1 H), 5.53 (br,1 H), 5.13 (br, 1 H), 4.75 (br, 1 H), 4.60 (br, 1 H), 4.30 (br, 2 H), 3.60-3.99 (m, 8 H), 1.44 (s, 9H, CH3), 1.43 (s, 18H, CH3)
【0097】
窒素雰囲気下、二口ナスフラスコにトリフルオロ酢酸(16.0mmol)、化合物(DMC-1a)(8.0g、12.6mmol)を加え、室温で6時間撹拌した。ジエチルエーテルを用いて再沈殿することにより析出した固体を遠心分離により回収し、ジエチルエーテルで洗浄した。得られた固体を真空乾燥することにより、下記式で表される化合物(DMC-1b)を白色固体(6.8g、収率82%)として得た。DMC-1bの1H-NMR測定の結果を以下に示す。
【0098】
【化22】
(DMC-1b)
1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6, 80℃): δ 5.22 (br, 1H, CH), 4.75 (br, 2H, CH), 4.55 (br, 1H, CH), 4.21 (br, 1H, CH), 3.64-3.90 (m, 8H, CH, CH2)
【0099】
窒素雰囲気下、二口ナスフラスコに化合物(DMC-1b)(6.5g、9.6mmol)をジメチルスルホキシド(48.0mL)に溶解させ、二硫化炭素(9.1mL、151mmol)を加えた。遮光下、0℃に冷却し、10%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液(67mL)を滴下し、室温まで昇温しながら2時間撹拌した。メタノール中に再沈殿することにより得られた固体を遠心分離により回収し、メタノールで洗浄した。得られた固体を真空乾燥し、下記式で表されるセルロース誘導体(DMC-1)を得た。DMC-1のIRスペクトルを図1に示す。DMC-1を吸着材(1)とした。
【0100】
【化23】
【0101】
実施例2(吸着材(DMC-2)の調製)
N-Boc-グリシンに代えてN-Boc-β-アラニンを使用した以外は実施例1と同様にして、セルロース誘導体(DMC-2a、収率:81%)、(DMC-2b、収率:87%)、及び(DMC-2、収率:73%)を得た。DMC-2のIRスペクトルを図1に示す。DMC-2を、吸着材(2)とした。
1H-NMR測定の結果から、N-Boc-β-アラニンの総平均置換度は3.0と算出された。
【0102】
【化24】
(DMC-2a)
1H-NMR (500 MHz, CDCl3, 55℃): δ 5.42 (br, 1H), 5.31 (br, 2H), 5.08 (br, 1H), 4.75 (br, 1H), 4.55 (br, 1H), 4.48 (br, 1H), 4.07 (br, 1H), 3.75 (br, 1H), 3.63 (br, 1H), 3.31-3.43 (m, 6H, CH2), 2.44-2.59 (m, 6H, CH2), 1.44 (br, 27H, CH3)
(DMC-2b)
1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6, 80℃): δ 5.04 (br, 1H, CH), 4.67 (br, 2H, CH), 4.44 (br, 1H, CH), 4.08 (br, 1H, CH), 3.74 (br, 2H, CH), 2.68-3.14 (m, 12H, CH2)
【0103】
実施例3(吸着材(DMC-4)の調製)
N-Boc-グリシンに代えてN-Boc-5-アミノペンタン酸を使用した以外は実施例1と同様にして、セルロース誘導体(DMC-4a、収率:74%)、(DMC-4b、収率:88%)、及び(DMC-4、収率84%)を得た。DMC-4のIRスペクトルを図1に示す。DMC-4を吸着材(3)とした。
1H-NMR測定の結果から、N-Boc-5-アミノペンタン酸の総平均置換度は3.0と算出された。
【0104】
【化25】
(DMC-4a)
1H-NMR (500 MHz, CDCl3, 55℃): δ 4.90-5.20 (m, 4H), 4.71 (br, 1H), 4.47 (br, 1H), 4.37 (br, 1H), 4.08 (br, 1H), 3.61 (br, 2H), 3.08-3.14 (m, 6H, CH2), 2.19-2.38 (m, 6H, CH2), 1.43-1.67 (m, 39H, CH3)
(DMC-4b)
1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6, 80℃): δ 4.99 (br, 1H, CH), 4.57 (br, 2H, CH), 4.31 (br, 1H, CH), 4.00 (br, 1H, CH), 3.66 (br, 2H, CH), 2.82 (m, 6H, CH2), 2.12-2.37 (m, 6H, CH2), 1.51-1.63 (m, 12H, CH2)
【0105】
[有価金属の回収率]
実施例2で得られた吸着材(DMC-2)について、有価金属の回収率を下記方法で評価した。
100mLの遠沈管に、金属イオンの試験液10mLを仕込み、そこへ212~600μmに分級した吸着材5mgを加え、25℃、200rpmで20分撹拌した。その後、メンブランフィルター(ニトロセルロース、孔径:0.45μm)を用いてろ過し、濾液中の金属イオン濃度(Ce:mol/L)をICP発光分光分析機(Thermo Fischer Scientific社製 iCAP6300)で定量した。試験液中の金属イオンの初期濃度をC0(mol/L)として、下記式から金属イオンの回収率(%)を算出した。
回収率=(C0-Ce)/C0×100
【0106】
使用した金属イオンの試験液としては、金属イオンの標準液を、塩酸水溶液又は硝酸水溶液を用いて、金属イオン濃度が10μmol/L、pH=3になるよう希釈したものを試験液とした。
尚、パラジウム(Pd(II))、白金(Pt(IV))、銀(Ag(I))、金(Au(III))、マンガン(Mn(II))、アルミニウム(Al(III))、ナトリウム(Na(I))、カリウム(K(I))、マグネシウム(Mg(II))、カルシウム(Ca(II))、ストロンチウム(Sr(II))、及びバリウム(Ba(II))の標準液としては、関東化学(株)製の標準液(1000mg/L)を使用した。
コバルト(Co(II))、ニッケル(Ni(II))、銅(Cu(II))、及び鉄(Fe(III))の標準液としては、和光純薬工業(株)製の標準液(1000mg/L)を使用した。
Ir(III)の標準液としては、Across Organics社製の標準液を使用した。
【0107】
結果を下記表に示す。
【表1】
【0108】
上記表1より、本発明の吸着材は、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の吸着力が低いのに対して、コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金などの有価金属に対して高い吸着力を示し、有価金属のほぼ100%を回収することができた。
【0109】
[有価金属の飽和吸着容量]
実施例2で得られた吸着材(DMC-2)について、有価金属の飽和吸着容量を下記方法(バッチ法)で評価した。
100mLの遠沈管に、金属イオンを含む溶液10mLと、212~600μmに分級した吸着剤5mgを加え、35℃、200rpmで平衡になるまで撹拌した。
メンブランフィルター(ニトロセルロース、孔径:0.45μm)を用いてろ過し、濾液中の金属イオン濃度(Ce:mol/L)をICP発光分光分析機(Thermo Fischer Scientific社製 iCAP6300)で定量した。溶液中の金属イオンの初期濃度をC0(mol/L)、金属イオンを含む溶液の初期の液量をVo(L)、使用した吸着剤重量をm(kg)とし、下記式から吸着容量(mol/kg)を算出した。
吸着容量=(C0-Ce)×V0/m
【0110】
前記金属イオンを含む溶液として、以下の溶液を使用した。
銀溶液:銀標準液を硝酸水溶液で希釈して得られた、銀(I)濃度が5mmol/Lの、0.1mol/L硝酸水溶液を使用した。
金溶液:金標準液を塩酸水溶液で希釈して得られた、金(III)濃度が3mmol/Lの、0.2mol/L塩酸水溶液を使用した。
パラジウム溶液:パラジウム標準液を塩酸水溶液で希釈して得られた、パラジウム(II)濃度が2mmol/Lの、0.2mol/L塩酸水溶液を使用した。
白金溶液:白金標準液を塩酸水溶液で希釈して得られた、白金(IV)濃度が2mmol/Lの、0.2mol/L塩酸水溶液を使用した。
また、銀(Ag(I))、金(Au(III))、パラジウム(Pd(II))、及び白金(Pt(IV))の標準液として、関東化学(株)製の標準液(1000mg/L)を用いた。平衡になるまでの撹拌時間は、銀溶液は25分、金溶液は35分、パラジウム溶液は60分、白金溶液は90分であった。
【0111】
比較例1
吸着材として、下記式(4)で示される繰り返し単位を有するキトサン誘導体(ジチオカルバメート基導入率:25%)を使用した以外は実施例2と同様にして、有価金属の吸着容量を評価した。
【化26】
【0112】
比較例2
吸着材として、下記式(5)で示される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(イミノジ酢酸導入率:2.17mol/kg)を使用した以外は実施例2と同様にして、有価金属の吸着容量を評価した。
【化27】
【0113】
比較例3
吸着材として、下記式(6)で示される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(ジメチルアミノ基導入率:3.60mol/kg)を使用した以外は実施例2と同様にして、有価金属の吸着容量を評価した。
【化28】
【0114】
比較例4
吸着材として、ジチオカルバメート基含有アクリル系キレート樹脂(商品名「スミキレートQ10R」、ジチオカルバメート基導入率:10%、住友化学工業(株)製)を使用した以外は実施例2と同様にして、有価金属の吸着容量を評価した。
【0115】
結果を下記表にまとめて示す。
【表2】
図1