(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】湿式ドリル用吸水キャップ及び湿式電動ドリル
(51)【国際特許分類】
B28D 7/02 20060101AFI20240903BHJP
B28D 1/14 20060101ALI20240903BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20240903BHJP
B23B 47/34 20060101ALI20240903BHJP
E04G 23/02 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
B28D7/02
B28D1/14
B23Q11/00 L
B23B47/34 Z
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2020047615
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019051268
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510118101
【氏名又は名称】株式会社丸高工業
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】高木 一昌
(72)【発明者】
【氏名】高木 栄造
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 一弥
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特許第6661184(JP,B1)
【文献】特開平10-058435(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109465978(CN,A)
【文献】特開2017-100300(JP,A)
【文献】特開2006-051680(JP,A)
【文献】特開平03-294144(JP,A)
【文献】特開2007-177484(JP,A)
【文献】特開2013-256063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 7/02
B28D 1/14
B23Q 11/00
B23B 47/34
E04G 23/02
B23D 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水でドリルビットを冷却する湿式電動ドリルの汚水を吸引する吸引パッドに取り付けられる湿式ドリル用吸水キャップであって、
キャップ本体を備え、
このキャップ本体の前記吸引パッド側に形成され、前記吸引パッドに取り付けられる径の基端開口と、前記キャップ本体の前記吸引パッドの反対側に形成され、装着するドリルビットの径に応じた先端開口と、を有し、
前記キャップ本体は、前記先端開口の面積が、前記基端開口の面積より小さくなるように先端が徐々に絞られた先細りテーパー形状となっていること
を特徴とする湿式ドリル用吸水キャップ。
【請求項2】
前記先端開口は、前記ドリルビットとの離間距離が0.25mm以上0.5mm以下となっていること
を特徴とする請求項1に記載の湿式ドリル用吸水キャップ。
【請求項3】
前記キャップ本体は、前記先細りテーパー形状の内面と外面の傾斜角度が相違し、肉厚が前記基端開口から前記先端開口に近づくに従って薄くなっていること
を特徴とする請求項1に記載の湿式ドリル用吸水キャップ。
【請求項4】
前記キャップ本体は、前記先端開口の周囲の肉厚が、0.5mm以上3.0mm以下となっていること
を特徴とする請求項
3に記載の湿式ドリル用吸水キャップ。
【請求項5】
ゴム弾性を示すゴム材から形成されていること
を特徴とする請求項1ないし
4のいずれかに記載の湿式ドリル用吸水キャップ。
【請求項6】
請求項1ないし
5のいずれかに記載の湿式ドリル用吸水キャップを汚水を吸引する吸引パッドの先に有すること
を特徴とする湿式電動ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式ドリル用吸水キャップ及びそれを備えた湿式電動ドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
RC構造物、SRC構造物、PC構造物などのコンクリート構造物からなる建物は、コンクリート躯体の上に、凹凸(不陸)を無くすためにモルタル層が形成されて、そのモルタル層の上に、弾性塗料が塗布されたり、陶磁器製のタイルが貼付けられたりして仕上げ層が形成されている。
【0003】
このため、雨水の侵入や熱膨張差等による経年劣化によりモルタル層がコンクリート躯体から浮き上がり、地震等によりタイルなどの仕上げ層が剥離して落下するという事故が起きる場合がある。よって、定期点検等を行って、モルタル層の浮き上がった部分を把握し、補修することが行われている。
【0004】
このようなモルタル層の浮き上がりを補修する工法としては、ピンニング工法が知られている(特許文献1等参照)。ピンニング工法は、モルタル層の浮き上がった箇所に、電動ドリルでタイルの上からコンクリート躯体の所定深さまで削孔して、削孔した孔にピンを挿入してエポキシ樹脂等の接着剤で周囲を硬化させて、モルタル層の剥落を防止するものである。
【0005】
このようなピンニング工法の削孔等に用いられる電動ドリルには、ドリルビットの冷却に冷却水を用いない乾式ドリルと、ドリルビットの冷却に冷却水を用いる湿式ドリルが存在する。これらの電動ドリルでは、高価であるが、低振動、低層音、無粉塵であるため、湿式の電動ドリルが好適に用いられる。
【0006】
例えば、特許文献2には、注水セットから水を滴下して穿孔する湿式ドリルビットにおいて、穿孔刃4の外周形状を動力源から穿孔面方向に拡開した円錐形状にして、穿孔後の切削水が外周に飛び散らず、また電動ドリルに浸入しないようにした湿式ドリルが開示されている(特許文献2の図面の
図1,
図4等参照)。
【0007】
また、
図10に示すように、ダイヤモンドビット22を嵌着したシャンク21に給水チューブ23を介して冷却水を供給し、バキューム装置と接続されたリング状の吸引パッドから削孔により生じる粉塵とともに冷却水を吸引して、排水する湿式ドリルも市販されている。
【0008】
しかし、これらの湿式ドリルは、径の大きなコアビットも装着できることを考慮しているため、吸引パッドの径は、26mm~40mm程度となっていた。このため、ピンニング工法に使用するような径の小さなダイヤモンドビットを用いて削孔する場合、粉塵が混入した冷却水(汚水)がタイルなどの仕上げ面に接する面積が大きすぎて、汚水が仕上げ面に接触して汚れた部分を清掃するのに多大な労力を要していた。特に、仕上げ面が、多孔質である陶器質タイルやリシン仕上げ等である場合、汚水が接触して汚れた部分を清掃することが極めて困難であるという問題があった。
【0009】
一般に、電動ドリルのスイッチと給水機構や排水機構のスイッチとは連動しておらず、電動ドリルでの削孔を停止してもしばらくは、給水機構は停止されず、冷却用の水が供給され続ける構造となっている。特に、このような電動ドリルでの削孔を停止してビットが孔から離れているアイドリング状態において、給水機構で供給する水を排水機構で回収することは、周囲の空気も吸引してしまうためロスが大きく極めて困難であり、汚水や水が作業場所を汚してしまうという解決困難な問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-177484号公報
【文献】特開2013-256063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、汚水が仕上げ面に接触する面積を極力小さくして清掃手間を低減することが可能な湿式ドリル用吸水キャップ及びそれを取り付けた湿式電動ドリルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る湿式ドリル用吸水キャップは、冷却水でドリルビットを冷却する湿式電動ドリルの汚水を吸引する吸引パッドに取り付けられる湿式ドリル用吸水キャップであって、キャップ本体を備え、このキャップ本体の前記吸引パッド側に形成され、前記吸引パッドに取り付けられる径の基端開口と、前記キャップ本体の前記吸引パッドの反対側に形成され、装着するドリルビットの径に応じた先端開口と、を有し、前記キャップ本体は、前記先端開口の面積が、前記基端開口の面積より小さくなるように先端が徐々に絞られた先細りテーパー形状となっていることを特徴とする。
請求項2に係る湿式ドリル用吸水キャップは、請求項1に係る湿式ドリル用吸水キャップにおいて、前記先端開口は、前記ドリルビットとの離間距離が0.25mm以上0.5mm以下となっていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る湿式ドリル用吸水キャップは、請求項1に係る湿式ドリル用吸水キャップにおいて、前記キャップ本体は、前記先細りテーパー形状の内面と外面の傾斜角度が相違し、肉厚が前記基端開口から前記先端開口に近づくに従って薄くなっていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る湿式ドリル用吸水キャップは、請求項3に係る湿式ドリル用吸水キャップにおいて、前記キャップ本体は、前記先端開口の周囲の肉厚が、0.5mm以上3.0mm以下となっていることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る湿式ドリル用吸水キャップは、請求項1ないし4のいずれかに係る湿式ドリル用吸水キャップにおいて、ゴム弾性を示すゴム材から形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に係る湿式電動ドリルは、請求項1ないし5のいずれかに記載の湿式ドリル用吸水キャップを汚水を吸引する吸引パッドの先に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1~6に記載の発明によれば、湿式ドリルでコンクリート構造物にピンニング工法に用いるような小径の孔を削孔する場合であっても、削孔に支障なくバキュームで汚水を吸引して排水することができるだけでなく、汚水が接触して汚れる仕上げ面の面積を極力少なくすることができる。このため、請求項1~6に記載の発明によれば、削孔後に仕上げ面を清掃する手間を大幅に削減することができる。また、請求項1~6に記載の発明によれば、バキュームで吸引する際のロスが小さく、電動ドリルでの削孔を停止してドリルビットが孔から離れているアイドリング状態においても、給水機構で供給する水を排水機構で全量回収することができ、周囲を汚すことがない。
【0020】
特に、請求項3及び4に記載の発明によれば、吸水キャップの肉厚が先端開口に近づくに従って薄くなっているので、吸水キャップの吸引力に対抗する全体の剛性を保ちつつ先端開口付近の柔軟性が高くなり、削孔対象面との密着性が向上する。
【0022】
特に、請求項4に記載の発明によれば、ゴム材からなるので、タイルなどの仕上げ面が粗面か否かを問わず、仕上げ面に密着して密封することができ、汚水を吸引する際の効率を向上させることができる。
【0023】
特に、請求項6に記載の発明によれば、湿式電動ドリルにおいて、前記作用効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップを取り付けた湿式電動ドリルを示す全体図である。
【
図2】湿式ドリル用吸水キャップを取り付ける前の同上の湿式電動ドリルを吸引パッド付近を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップを示す斜視図である。
【
図4】同上の湿式ドリル用吸水キャップを開口中心で切断した状態を示す断面図である。
【
図5】同上の湿式ドリル用吸水キャップの先端開口とドリルビットとの離間距離を示す断面図である。
【
図6】同上の湿式ドリル用吸水キャップを用いてタイル及びモルタル層の浮きを補修するために削孔する状況を示す使用状況説明図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップを開口中心で切断した状態を示す断面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップを開口中心で切断した状態を示す断面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップの問題点を示す説明図である。
【
図10】従来の市販の湿式電動ドリルを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る湿式ドリル用吸水キャップを実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
<湿式ドリル用吸水キャップ及び湿式ドリル>
先ず、
図1~
図4を用いて、本発明の実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1(以下、単に吸水キャップ1ともいう)及び吸水キャップ1を取り付けた湿式電動ドリル2について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1を取り付けた湿式電動ドリル2を示す全体図である。また、
図2は、湿式ドリル用吸水キャップ1を取り付ける前の湿式電動ドリル2を吸引パッド32付近を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【0027】
(湿式電動ドリル)
先ず、
図1,
図2を用いて湿式電動ドリル2について簡単に説明する。
湿式電動ドリル2は、
図1,
図2に示すように、一般的な市販の電動ドリル20を主体とする電動工具である。この電動ドリル20は、電動モータによるビットの回転機能のみの電動ドリル、トルククラッチの付いたドライバードリルなどを指している。
【0028】
湿式電動ドリル2は、電動ドリル20に、湿式用シャンク21を介して湿式用ダイヤモンドビット22が装着されている。この湿式用シャンク21には、給水用の給水チューブ23が接続されて、図示しない給水機構から水道水などの冷却水が湿式用ダイヤモンドビット22を伝って削孔する孔の底(奥)に供給される仕組みとなっている。
【0029】
給水機構から供給された冷却水は、摩擦熱で熱せられたダイヤモンドビット22を冷却するとともに、削孔により発生した削屑(粉塵)を巻き上げてそれらが混ざった汚水となり、排水機構3の排水路30を介してバキュームで吸引されて排水される。
【0030】
図2に示すように、排水機構3は、図示しないバキューム機構に接続され、このバキューム機構と連通し、電動ドリル20に固定された排水路30を有している。この排水路30には、吸水口31が形成され、吸水口31にゴム材からなる吸引パッド32が取り付けられている。
【0031】
このように、吸水キャップ1が取り付けられていない従来の湿式電動ドリル2では、汚れた汚水を、排水機構3の直径30mm程度の吸引パッド32を介して吸引して排水していた。このため、背景技術で述べたように、タイルなどの仕上げ面に吸引パッド32の径に応じた大きさの汚れた痕が付き、清掃するのに多大な労力を要していた。
【0032】
このように、吸引パッド32が、直径30mm程度の大径となっているのは、湿式電動ドリル2が、市販の電動工具であり、コアドリルビットなどの大径のドリルビットを装着して削孔する場合も想定しているからと推測される。つまり、従来の湿式電動ドリルでは、汚水と接触して仕上げ面が汚れることは、何ら考慮されていなかった。
【0033】
これに対して、本願発明では、吸水キャップ1を吸引パッド32に接着して削孔する。このため、湿式電動ドリル2により、ピンニング工法に用いるような小径の孔を削孔する場合であっても、削孔に支障なくバキュームで吸引して排水することができる。その上、本願発明では、吸水キャップ1により、汚水が接触して汚れる仕上げ面の面積を極力少なくすることができる。
【0034】
[吸水キャップの第1実施形態]
次に、
図3,
図4を用いて、本発明の第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1についてさらに詳細に説明する。
図3は、本発明の第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1を示す斜視図、
図4は、この吸水キャップ1を開口中心で切断した状態を示す断面図である。
【0035】
本発明の第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1は、湿式電動ドリル2の排水機構3の吸引パッド32に取り付けられて、削孔により発生したコンクリートなどの削孔対象物の削屑(粉塵)を冷却水とともに吸引・吸水して回収する機能を有している。
【0036】
この吸水キャップ1は、ゴム弾性を示すゴム材から形成されたキャップ本体10から主に構成されている。ここで、ゴム弾性とは、ヤング率(弾性率)が小さく、常温で105~6 N/m2程度あり、伸びは数百パーセントに及ぶ高弾性を示すゴムおよびゴム類似物質の示す特異な性質のことを指している。また、ゴム材とは、このようなゴム弾性を示す高分子鎖が部分的に結合して3次元のネットワーク構造を形成した材料を指している。
【0037】
このキャップ本体10は、
図3,
図4に示すように、全体として外形が円錐台状の形状をしており、内部が空洞となっている。また、キャップ本体10には、吸引パッド32側である基端側に円形の基端開口11が形成され、反対側の先端側に円形の先端開口12が形成されている。
【0038】
この基端開口11の内径φBは、吸引パッド32の外径よりやや小さく設定され、基端開口11が吸引パッド32に接着されて使用される。また、先端開口12の内径φAは、湿式用ダイヤモンドビット22で削孔する孔の径よりやや大きく、即ち、湿式用ダイヤモンドビット22の外径に対して僅かに離間(例えば、0.25~0.5mm)した小径の開口となっている。勿論、吸水キャップ1は、吸引パッド32に接着される場合に限られず、嵌め込まれるだけでも構わない。但し、吸水キャップ1は、吸引パッド32に接着された方が、確実に密封されるため好ましい。なお、
図4に示すように、本実施形態に係る吸水キャップ1は、先端開口12の内径φAと外径φCとの差が、基端開口11の内径φBと外径φDとの差と略等しく(φC-φA≒φD-φB)、肉厚が略均一となっている。
【0039】
また、吸水キャップ1は、先端開口12の内径φAが、基端開口11の内径φBより小さく(φA<φB)設定され、即ち、先端開口12の開口面積が、基端開口11の開口面積より小さくなるように先端が徐々に絞られた先細りテーパー形状となっている。吸水キャップ1は、内周面が段差なく徐々に絞られた先細りテーパー形状となっているため、排水路30に連通する管路の抵抗を上げることがなく、乱流でエネルギー損失をすることもない。このため、吸水キャップ1は、エネルギー保存則から導き出されるベルヌーイの定理に従って先端開口12付近の流速が基端開口11付近の流速より速くなり、排水を吸引する入り口となっている先端開口12付近の吸引力が向上している。
【0040】
次に、
図5を用いて、吸水キャップ1の先端開口12と湿式用ダイヤモンドビット22との隙間である離間距離について詳細に説明する。
図5は、本発明の第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1の先端開口12と湿式用ダイヤモンドビット22(ドリルビット)との離間距離(隙間)xを示す断面図である。
【0041】
図5に示す吸水キャップ1の先端開口12と湿式用ダイヤモンドビット22(ドリルビット)との離間距離xは、本実施形態では、前述のように0.25~0.5mmに設定されている。これに対して、従来の湿式電動ドリル2の吸水口31の内径は、例えば、市販品で比較的径が小さいと思われる日立工機社製でも、直径26mmであり、直径10mmの湿式用ダイヤモンドビット22を装着した場合、離間距離x=8mmとなる。このため、従来の湿式電動ドリル2では、離間距離x(隙間)が大きすぎるために、湿式用シャンク21を通じて供給される冷却水の全流量を汚水として漏らすことなく吸引することはできなかった。
【0042】
本発明者らは、この離間距離xと排水機構3を介して吸引される排水の漏れとの関係(吸引力)を調べるべく、次のような実験を行った。本実験は、先端開口の直径(11m,12mm,14mm,16mm)が相違する4個の吸水キャップの試験体を作成し、同一のドリルビット(外径10mm)で削孔しながら前述の排水機構3を介してバキューム機構で吸引される際の排水(汚水)の水漏れの有無について目視で確認することにより行った。但し、本実験は、漏れることなく吸引することが困難な最も厳しい条件である、水平な床面に下向きに削孔しながら吸引する場合で実験した。実験結果は、次表となる。
【0043】
【0044】
表1に示すように、吸水キャップ1の先端開口12と湿式用ダイヤモンドビット22(ドリルビット)との離間距離xが、0.5mm,1.0mm,2.0mmの場合、水漏れすることなく排水機構3を介してバキューム機構で吸引することができる。しかし、離間距離xが、3.0mmに達すると吸引する際に水漏れが確認できた。このため、先端開口の直径が15mmの吸水キャップの試験体をさらに作成し、前述と同様に削孔しながら排水(汚水)の水漏れの有無について目視で確認したところ、水漏れは確認できなかった。
【0045】
つまり、先端開口12は、湿式用ダイヤモンドビット22との離間距離xが、0.0mmを超え2.5mm以下となっていることが必要である(0.0mm<x≦2.5mm)。但し、簡単に装着したり吸引力を阻害しないためには、先端開口12の径と湿式用ダイヤモンドビット22との径との許容される公差を考慮することが必要であり、離間距離xの下限値は、0.25mm以上であることが好ましい(0.25mm≦x≦2.5mm)。
【0046】
また、吸水キャップ1には、キャップ本体10の一部(下部)から外側に張り出した三日月状のタブ13も形成されている。このタブ13は、掴んで吸引パッド32へ取り付けたり、取り外したりする際に使用する。吸水キャップ1として、タブ13付きの吸引パッド32の外側に嵌め込まれるものを図示したが、本発明に係る吸水キャップは、吸引パッド32に外嵌されるものに限られず、吸引パッド32の内側に嵌め込んで内嵌されるものであっても構わない(第3実施形態参照)。
【0047】
なお、キャップ本体10の外形が、円錐台状のものを例示したが、六角錐台状や八角錐台状など、多角錐台状のものであっても構わない。要するに、本発明に係る吸水キャップは、吸引パッド32に取り付けられる径の基端開口と、装着するドリルビットの径に応じた先端開口と、を有し、先端開口の面積が、基端開口の面積より小さくなるように先端が徐々に絞られた先細りテーパー形状となっていればよい。但し、キャップ本体10の外形形状は、シンプルな円錐台状とした方が、金型などの製造コストを低減することができる。
【0048】
<湿式ドリル用吸水キャップの使用状態>
次に、
図6を用いて、湿式ドリル用吸水キャップ1の使用状態について説明する。
図6は、吸水キャップ1を用いてタイル及びモルタル層の浮きを補修するために削孔する状況を示す使用状況説明図である。
【0049】
図6に示すように、吸水キャップ1を取り付けた前述の湿式電動ドリル2を用いて、仕上げ面であるタイルT1の表面から浮き上がっているモルタル層M1を貫通し、コンクリート躯体C1にタイルT1を支持可能な所定深さまで達する孔H1を削孔する。
【0050】
このとき、図示しない給水機構から冷却水が給水チューブ23を介して供給される。孔H1に供給された冷却水は、コンクリート躯体C1との摩擦熱で熱せられたダイヤモンドビット22を冷却するとともに、削孔により発生した削屑(粉塵)を巻き上げて削屑が混ざった汚水となりタイルT1の表面外部へ押し流される。
【0051】
タイルT1の表面外部へ押し流された汚水は、バキューム機構の吸引力で吸水キャップ1及び吸水口31(
図2参照)を介して排水機構3の排水路30を通じて排水される。このとき、バキューム機構の吸引力は、従来の市販のものと変わりないが、吸水キャップ1により、開口面積が吸水口31の面積から先端開口12(
図3,
図4参照)の面積まで狭められている。このため、同じ吸引力でも、前述のベルヌーイの定理に従って先端開口12付近での流速が増し、効率よく汚水を吸引することができる。
【0052】
また、タイルT1の表面に汚水が接触する面積は、先端開口12の面積となり、削孔した孔H1と略かわらない大きさとなる。このため、タイルT1の表面が汚水で汚れた場合でも、目立たず清掃する手間が省ける。また、清掃する場合でも、拭き取るのが極めて容易となる。特に、タイルT1が多孔質である陶器質タイルの場合、多孔質のざらついた表面に汚水が染み込んでしまい、拭き取るのが容易ではないという問題を解決することができる。
【0053】
なお、吸水キャップ1は、前述のようにゴム材から形成されているため、タイルT1の表面がざらついた粗面であっても、押し付けることで密閉することができ、汚水を効率よく吸引することができ、この点でも、汚れを軽減することができる。
【0054】
以上説明した本発明の第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1及び吸水キャップ1を取り付けた湿式電動ドリル2によれば、湿式電動ドリル2でコンクリート躯体C1にピンニング工法に用いるような小径の孔を削孔する場合であっても、削孔に支障なくバキュームで吸引して排水することができる。その上、吸水キャップ1及び湿式電動ドリル2によれば、汚水が接触して汚れる仕上げ面の面積を先端開口12の面積まで減少させることができる。このため、吸水キャップ1及び湿式電動ドリル2によれば、削孔後に仕上げ面を清掃する手間を大幅に削減することができる。
【0055】
特に、第1実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1及び吸水キャップ1を取り付けた湿式電動ドリル2によれば、先端開口12と湿式用ダイヤモンドビット22との離間距離xが0mm超2.5mm以下となっている。このため、先端開口12からバキューム機構で吸引する際のロスが小さく、湿式電動ドリル2での削孔を停止してドリルビットが孔から離れているアイドリング状態においても、給水機構で供給する水を排水機構3で全量回収することができ、削孔作業の作業箇所の周囲を汚すことがない。
【0056】
[吸水キャップの第2実施形態]
次に、
図7を用いて、本発明の第2実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1’について説明する。
図7は、本発明の第2実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1’を開口中心で切断した状態を示す断面図である。第2実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1’(以下単に吸水キャップ1’ともいう)が、前述の吸水キャップ1と相違する点は、吸水キャップ1の肉厚が略同一であるのに対し、吸水キャップ1’の肉厚は、基端開口付近と先端開口付近で相違する点であるので、主にその相違点について説明する。なお、同一構成は、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0057】
吸水キャップ1’は、前述の吸水キャップ1と同様に、ゴム弾性を示すゴム材から形成され、内部が空洞となった外形が円錐台状の形状をしている。また、キャップ本体10’も、キャップ本体10と同様に、基端側に円形の基端開口11’が形成され、先端側に円形の先端開口12’が形成されている。それに加え、吸水キャップ1’にも、キャップ本体10’の一部(下部)から外側に張り出した三日月状のタブ13’が形成されている。
【0058】
キャップ本体10’も、
図7に示すように、キャップ本体10と同様に、先端開口12’の内径φAが、基端開口11’の内径φB’より小さく(φA<φB’)設定され、先端開口12’の開口面積が、基端開口11’の開口面積より小さくなるように先端が徐々に絞られた先細りテーパー形状となっている。
【0059】
但し、
図7に示すように、キャップ本体10と相違して、吸水キャップ1’のキャップ本体10’は、先端開口12’付近の周囲の肉厚aが、基端開口11’付近の周囲の肉厚bより薄くなっている(a<b)。つまり、キャップ本体10’の肉厚が、基端開口11’から先端開口12’に近づくに従って徐々に薄くなっている。なお、キャップ本体10’の肉厚とは、キャップ本体10’のゴム材の厚みを指すが、便宜的に、
図7では、肉厚aは、先端開口12’の内径φAと外径φCの差を示し、肉厚bは、基端開口11’の内径φB’と外径φDの差を指している。このため、キャップ本体10’の肉厚が徐々に薄くなっているとは、(a=φC-φA<b=φD-φB’)であることを意味している。
【0060】
さらに換言すると、
図7に示すように、このキャップ本体10’の先細りテーパー形状は、外周面(外面)のテーパーの傾斜角度α(基端開口11’及び先端開口12’の中心軸に対する傾斜角度)が、内周面(内面)のテーパーの傾斜角度βと相違し、α>βとなっている。
【0061】
このため、吸水キャップ1’は、前述の吸水キャップ1と比べても全体の剛性が高く、バキューム機構による吸引時の吸引力に対抗して、キャップ本体10’内が減圧されて大気圧で外面から押し潰されて変形することを防止することができる。そのため、吸水キャップ1’は、キャップ本体10’が変形して湿式用ダイヤモンドビット22と接触することや、接触しないまでも変形することで吸引時の気流や水流に乱れが生じてエネルギーを損失し、吸引力が低下することを防止することができる。
【0062】
その上、吸水キャップ1’全体の剛性が高いわりに、吸水キャップ1’の先端開口12’付近の周囲の肉厚aは、薄くなっており、先端開口12’付近のゴム材の柔軟性が高く、削孔対象面であるタイルT1の表面との密着性が高くなっている。本実施形態に係る吸水キャップ1’は、この肉厚aが0.5mm以上3mm以下に設定されていることが好ましい。肉厚aが0.5mm未満の場合、削孔時に吸水キャップ1’の先端開口12’付近が潰れて変形し、吸引力が低下して排水(汚水)が漏れるおそれが高くなるからである。また、肉厚aが3mmを超える場合、先端開口12’付近のゴム材の柔軟性が低下して、タイルT1の表面との密着性が低くなるからである。
【0063】
また、前述の実験と同様の実験により、この吸水キャップ1’の先端開口12’と湿式用ダイヤモンドビット22(ドリルビット)との離間距離xも、0.0mmを超え2.5mm以下となっていることが必要である(0.0mm<x≦2.5mm)ことが判明した。勿論、公差を考慮すると、離間距離xの下限値は、0.25mm以上であることが好ましい(0.25mm≦x≦2.5mm)。
【0064】
以上説明した本発明の第2実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1’によれば、吸水キャップ1’の肉厚が先端開口12’に近づくに従って薄くなっているので、前記作用効果に加え、吸水キャップ1’の吸引力に対抗する全体の剛性を保ちつつ先端開口12’付近の柔軟性を高くして、削孔対象面との密着性を向上させることができる。このため、吸水キャップ1’は、削孔のため給水した水を汚水として漏らすことなく全部吸引して排水することができる。
【0065】
また、吸水キャップ1’によれば、吸水キャップ1と同様に離間距離xが0mm超2.5mm以下となっているので、先端開口12からバキューム機構で吸引する際のロスが小さく、湿式電動ドリル2での削孔を停止してドリルビットが孔から離れているアイドリング状態においても、給水機構で供給する水を排水機構3で全量回収することができ、削孔作業の作業箇所の周囲を汚すことがない。
【0066】
[吸水キャップの第3実施形態]
次に、
図8,
図9を用いて、本発明の第3実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1”について説明する。
図8は、本発明の第3実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1”を開口中心で切断した状態を示す断面図であり、
図9は、第2(第1)実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1’(1)の問題点を示す説明図である。第3実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1”(以下単に吸水キャップ1”ともいう)が、前述の吸水キャップ1’(1)と相違する点は、吸引パッド32に内嵌されて、基端開口11’の内径が吸引パッド32の内径より小さくなっている点であるので、主にその相違点について説明する。なお、同一構成は、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0067】
吸水キャップ1”は、前述の吸水キャップ1’と同様に、ゴム弾性を示すゴム材から形成され、内部が空洞となった外形が円錐台状の形状をしている。また、
図8に示すように、キャップ本体10”も、キャップ本体10’と同様に、基端側に円形の基端開口11’が形成され、先端側に円形の先端開口12’が形成されている。それに加え、吸水キャップ1’にも、キャップ本体10’の一部(下部)から外側に張り出した三日月状のタブ13’が形成されている。
【0068】
但し、吸水キャップ1”のキャップ本体10”の基端開口11’の外周には、吸引パッド32を嵌め込むための嵌着溝14”が形成されており、吸水キャップ1”が吸引パッド32に内嵌される構成となっている。
【0069】
また、
図8に示すように、基端開口11’の内径φB’は、吸引パッド32の内径φD’以下となっている(φB’≦内径φD’)。
図9に示すように、基端開口11’の内径φB’が、吸引パッド32の内径φD’より大きくなっていると、その段差である吸引パッド32の厚み部分に、アイドリング状態の給水が極めて微量ではあるが湿式用ダイヤモンドビット22(ドリルビット)から垂れて溜まり、湿式電動ドリル2の運搬時に、先端開口12’から漏れて周囲を汚すおそれがあるからである。
【0070】
なお、吸水キャップ1”が吸引パッド32に内嵌されるものを例示して説明したが、吸水キャップ1”が吸引パッド32に外嵌されたり、一体となっていたりしても構わない。要するに、吸水キャップ1”は、基端開口11’の内径φB’が吸引パッド32の内径φD’以下となって(φB’≦内径φD’を満たして)いればよい。吸水キャップ1”と吸引パッド32との段差部分に水が溜まって運搬時に逆流することがないからである。
【0071】
以上説明した本発明の第3実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1”によれば、基端開口11’の内径φB’が吸引パッド32の内径φD’以下となっているので、前記作用効果に加え、段差である吸引パッド32の厚み部分に水が溜まり、湿式電動ドリル2の運搬時に、先端開口12’から漏れて周囲を汚すおそれを払拭することができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態に係る湿式ドリル用吸水キャップ1,1’,1”及びそれを取り付けた湿式電動ドリル2について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、前述の実施形態により本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0073】
特に、削孔する場合としてピンニング工法を例示したが、ピンニング工法に限られず、湿式電動ドリル2を用いて、コンクリート構造物(躯体)に小径の孔(例えば、3mm~15mm)を削孔する場合には、本発明を適用することができる。また、湿式ドリル用吸水キャップ1,1’,1”が、吸引パッド32に取り付けられているものを例示したが、吸引パッド32が湿式ドリル用吸水キャップ1,1’,1”と一体化してものであっても構わない。要するに、電動湿式ドリルにおいて、吸引パッド32の先に、湿式ドリル用吸水キャップ1,1’,1”に相当する部分を有するものであればよい。
【符号の説明】
【0074】
1,1’,1”:吸水キャップ(湿式ドリル用吸水キャップ)
10,10’,10”:キャップ本体
11,11’:基端開口
12,12’:先端開口
13,13’:タブ
14”:嵌着溝
2:湿式電動ドリル(湿式ドリル)
20:電動ドリル
21:湿式用シャンク(シャンク)
22:湿式用ダイヤモンドビット(ドリルビット)
23:給水チューブ
3:排水機構
30:排水路
31:吸水口
32:吸引パッド
C1:コンクリート躯体(コンクリート構造物)
M1:モルタル層
T1:タイル(仕上げ層:仕上げ面)
H1:孔