(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】シリンジ用ガスケット及びシリンジ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A61M5/315 500
(21)【出願番号】P 2020179888
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000206185
【氏名又は名称】大成化工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】堀田 泰治
(72)【発明者】
【氏名】黒木 真
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 雅也
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄己
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/028936(WO,A1)
【文献】特表2020-523070(JP,A)
【文献】特表2020-522406(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0233075(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0224610(US,A1)
【文献】国際公開第2019/031028(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のバレル内に配置された状態でプランジャーロッドの先端部に接続されるシリンジ用ガスケットであって、
該シリンジ用ガスケットが前記バレル内に挿入されたときに該バレルの内周面と周方向の全域において密接する大径部、及び前記大径部と隣接し且つ前記大径部より径の小さな小径部を有する第一部材と、
前記大径部と前記小径部との並び方向における小径部側から前記第一部材に接続される第二部材と、
前記第一部材と前記第二部材との間に配置される素子と、を備え、
前記第一部材と前記第二部材とのそれぞれは、弾性を有し、
前記第一部材は、第二部材側の端面から前記並び方向における大径部側に凹む凹部を有し、
該凹部は、前記並び方向における前記大径部と前記小径部との境界位置又は該境界位置より前記第二部材側の所定位置まで凹み、
前記第二部材は、
前記第一部材側に突出し且つ前記凹部との間に前記素子が位置した状態で該凹部に嵌まり込む凸部と、
前記並び方向において前記第一部材と反対の側の端面から前記第一部材に向けて前記凸部内まで延び且つ先端部にネジ部を有する前記プランジャーロッドの該ネジ部が螺入されるネジ穴と、を有する、
シリンジ用ガスケット。
【請求項2】
前記小径部は、前記大径部と前記並び方向に間隔をあけた位置において径方向の外側に突出し且つ前記周方向の全域に延びる環状凸部を有し、
前記環状凸部は、該シリンジ用ガスケットが前記バレル内に挿入されたときに該バレルの内周面と前記周方向の全域において密接し、
前記素子は、前記並び方向における前記大径部と前記環状凸部との間に配置され、
前記ネジ穴は、少なくとも前記並び方向における前記環状凸部の位置まで延びている、請求項1に記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項3】
円筒状のバレルを有するシリンジ本体と、
前記バレル内に配置されている請求項1又は2に記載のシリンジ用ガスケットと、
前記バレルの中心軸に沿って延び且つ前記シリンジ用ガスケットのネジ穴と螺合するネジ部を先端部に有するプランジャーロッドと、を備える、シリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に素子を有するシリンジ用ガスケット、及び前記シリンジ用ガスケットを備えるシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、円筒状のバレル(カートリッジ本体)内の薬液が漏出しないように液密性を保ちつつ該バレル内を摺動するガスケット(ピストン)が知られている(特許文献1参照)。このガスケットは、バレルの内周面に密着して前記液密性を確保するために、弾性を有している。また、ガスケットは、少なくとも製造日及び時間(薬液がバレルに充填された日及び時間)の少なくとも一方についてのデータを記憶した素子(マイクロチップ)を内部に有している。この素子のデータが読み取られることで、薬液がバレルに充填された日及び時間の少なくとも一方が確認でき、これにより、バレルに充填された薬液の品質管理等が容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のガスケットにおいて、マイクロチップ等の素子の配置位置等によっては、ガスケットがバレル内に挿入されたときに該ガスケットにおけるバレルと密接する部位が弾性変形し難くなり、これにより、ガスケットをバレル内で摺動させるときの抵抗(摺動抵抗)が高くなる場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、内部に素子を有していてもバレルとの間の摺動抵抗を抑制可能なシリンジ用ガスケット、及び前記シリンジ用ガスケットを備えるシリンジを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシリンジ用ガスケットは、
円筒状のバレル内に配置された状態でプランジャーロッドの先端部に接続されるシリンジ用ガスケットであって、
該シリンジ用ガスケットが前記バレル内に挿入されたときに該バレルの内周面と周方向の全域において密接する大径部、及び前記大径部と隣接し且つ前記大径部より径の小さな小径部を有する第一部材と、
前記大径部と前記小径部との並び方向における小径部側から前記第一部材に接続される第二部材と、
前記第一部材と前記第二部材との間に配置される素子と、を備え、
前記第一部材と前記第二部材とのそれぞれは、弾性を有し、
前記第一部材は、第二部材側の端面から前記並び方向における大径部側に凹む凹部を有し、
該凹部は、前記並び方向における前記大径部と前記小径部との境界位置又は該境界位置より前記第二部材側の所定位置まで凹み、
前記第二部材は、
前記第一部材側に突出し且つ前記凹部との間に前記素子が位置した状態で該凹部に嵌まり込む凸部と、
前記並び方向において前記第一部材と反対の側の端面から前記第一部材に向けて前記凸部内まで延び且つ先端部にネジ部を有する前記プランジャーロッドの該ネジ部が螺入されるネジ穴と、を有する。
【0007】
このように、シリンジ用ガスケットがバレル内に配置された際に弾性によってバレルの内周面に密着する大径部に対し、前記並び方向にずれた位置(第一部材の凹部と第二部材の凸部との間)に素子を配置することで、大径部の径方向の弾性変形のし易さを確保すると共に、凸部内まで延びるネジ穴を第二部材に設けてシリンジ用ガスケットにおいて径方向に二つの部材が重なる部位(第一部材の凹部に第二部材の凸部が嵌り込んでいる部位)の径方向の厚みを抑えることで、該部位の弾性変形のし易さも確保し、これによって、シリンジ用ガスケットがバレル内を摺動する際の摺動抵抗の抑制を図ることができる。
【0008】
前記シリンジ用ガスケットでは、
前記小径部は、前記大径部と前記並び方向に間隔をあけた位置において径方向の外側に突出し且つ前記周方向の全域に延びる環状凸部を有し、
前記環状凸部は、該シリンジ用ガスケットが前記バレル内に挿入されたときに該バレルの内周面と前記周方向の全域において密接し、
前記素子は、前記並び方向における前記大径部と前記環状凸部との間に配置され、
前記ネジ穴は、少なくとも前記並び方向における前記環状凸部の位置まで延びていてもよい。
【0009】
かかる構成によれば、シリンジ用ガスケットがバレル内に挿入された際に、前記並び方向に間隔をあけた二か所(大径部の位置と環状凸部の位置)でバレルの内周面と密接するため、バレルとガスケットとの間の液密性がより十分に確保される。しかも、シリンジ用ガスケットにおいて少なくとも環状凸部が形成される位置までネジ穴を延ばして該部位の径方向の厚みを抑える(即ち、該部位の弾性変形のし易さを確保する)ことで、バレルの内周面と密接する部位が増えたことに起因する摺動抵抗の増大を効果的に抑えることができる。
【0010】
また、本発明に係るシリンジは、
円筒状のバレルを有するシリンジ本体と、
前記バレル内に配置されている請求項1又は2に記載のシリンジ用ガスケットと、
前記バレルの中心軸に沿って延び且つ前記シリンジ用ガスケットのネジ穴と螺合するネジ部を先端部に有するプランジャーロッドと、を備える。
【0011】
かかる構成によれば、弾性によってバレルの内周面に密着する大径部に対し、前記並び方向にずれた位置(第一部材の凹部と第二部材の凸部との間)に素子を配置することで、大径部の径方向の弾性変形のし易さ(柔軟性)を確保すると共に、凸部内まで延びるネジ穴を第二部材に設けてシリンジ用ガスケットにおいて径方向に二つの部材が重なる部位(第一部材の凹部に第二部材の凸部が嵌り込んでいる部位)の径方向の厚みを抑えることで、該部位の弾性変形のし易さも確保し、これにより、シリンジ用ガスケットがバレル内を摺動する際の摺動抵抗の抑制を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上より、本発明によれば、内部に素子を有していてもバレルとの間の摺動抵抗を抑制可能なシリンジ用ガスケット、及び前記シリンジ用ガスケットを備えるシリンジを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るシリンジにおいてシリンジ本体とプランジャーロッドとが分離した状態の図である。
【
図2】
図2は、前記シリンジ本体と前記プランジャーロッドとが分離した状態のシリンジ本体の基端部及びガスケット周辺の断面図である。
【
図3】
図3は、前記ガスケットが分解された状態の断面図である。
【
図4】
図4は、前記ガスケットの基端側から見た分解斜視図である。
【
図5】
図5は、前記ガスケットの先端側から見た分解斜視図である。
【
図6】
図6は、前記ガスケットの製造方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、前記シリンジ本体に前記プランジャーロッドが挿入された状態のシリンジ本体の基部及びガスケット周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図7を参照しつつ説明する。
【0015】
本実施形態に係るシリンジは、
図1及び
図2に示すように、円筒状のバレル21を有するシリンジ本体2と、バレル21内に挿入されるガスケット(シリンジ用ガスケット)3と、バレル21の中心軸C方向に延び且つ先端にガスケット3に接続されるプランジャーロッド7と、を備える。
【0016】
シリンジ本体2は、バレル(胴部)21と、バレル21の中心軸C方向における一方の端部(先端部)から延びる吐出部22と、バレル21の中心軸C方向における他方の端部(基端部)に配置されるフランジ23と、を有する。このシリンジ本体2は、剛性を有し、例えば、内視可能なガラス又は硬質樹脂(プラスチック等)によって形成されている。尚、以下では、中心軸C方向における一方側(
図1における下方側)を先端側と称し、中心軸C方向における他方側(
図1における上方側)を基端側と称する。
【0017】
円筒状のバレル21は、中心軸C方向の各位置における内径(直径)が一定の内周面210を有する。このバレル21の先端は、吐出部22を除いて塞がれ、該バレル21の基端は、開口している(
図2参照)。本実施形態のシリンジ本体2は、公称容量5mLであり、バレル21の内径φ1は、例えば、11.6mm~12.5mm程度である。
【0018】
吐出部22は、バレル21の先端部から筒状に突出し、例えば、針管のハブ、コネクタ類等が嵌合(装着)可能な部位である。
【0019】
フランジ23は、プランジャーロッド7をシリンジ本体2(バレル21)に対して中心軸C方向に相対移動させる際に指を掛ける板状の部位であり、バレル21から中心軸Cと直交する面(仮想面)に沿って広がる。
【0020】
プランジャーロッド7は、中心軸C方向に延びるロッド本体71と、ロッド本体71の先端から中心軸C方向に延び且つ外周面に雄ネジを有する雄ネジ部(ネジ部)72と、を有する。また、プランジャーロッド7は、ロッド本体71の基端部に配置され且つ中心軸Cと直交する面(仮想面)に沿って広がるフランジ73を有する。このプランジャーロッド7は、剛性を有し、例えば、硬質樹脂(プラスチック等)によって形成されている。
【0021】
ロッド本体71は、先端側の端部に、中心軸Cと直交する方向に広がる板状の押圧部711を有する。この押圧部711は、バレル21内においてガスケット3を押圧する部位である。本実施形態の押圧部711は、ガスケット3における該押圧部711と当接する部位の径より僅かに大きく且つバレル21の内径φ1より僅かに小さな径(外径)を有する円板状である。
【0022】
雄ネジ部72は、円板状の押圧部711の中央部から中心軸C方向に延びている。
【0023】
ガスケット3は、バレル21の内周面210との間の液密性を維持しつつバレル21内を摺動可能な円柱状の部材であり、本実施形態のガスケット3は、複数の部材によって構成されている。具体的に、このガスケット3は、
図3~
図5にも示すように、第一部材4と、第一部材4の基端側から該第一部材4に接続される第二部材5と、第一部材4と第二部材5との間に配置されるRFタグ(素子)6と、を備える。これら第一部材4及び第二部材5は、中心軸C方向に並び、それぞれ弾性を有する。
【0024】
第一部材4及び第二部材5は、弾性材料からなり、典型的には、ゴム又は熱可塑性エラストマー製である。より具体的には、第一部材4及び第二部材5は、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンターポリマー、シリコンゴム等から形成することができるが、これらの例に限定されない。また、第一部材4及び第二部材5は、同じ材料からなってもよいし、それぞれ異なる材料からなってもよい。
【0025】
第一部材4は、ガスケット3がバレル21内に挿入されたときに該バレル21の内周面210と周方向の全域において密接する大径部41と、大径部41と中心軸C方向に隣接し且つ大径部41より径(外径)の小さな小径部42と、を有する。本実施形態の第一部材4は、ブチルゴムによって形成されている。
【0026】
大径部41は、中心軸Cを中心とする円柱状の部位であり、先端側を向いた面411がガスケット3の先端面を構成する。本実施形態の大径部41において、先端面411は円錐状であり、周面412は円柱面状である。この大径部41の外径φ2は、バレル21の内径φ1より大きい(
図2参照)。このため、ガスケット3がバレル21内に挿入されたときに、大径部41全体が径方向内側(中心軸C側)に向けて弾性変形し(弾性圧縮され)、これにより、大径部41の周面412がバレル21の内周面210に密接する。
【0027】
本実施形態の大径部41の外径φ2は、例えば、11.8mm~13.8mm程度である。また、大径部41の中心軸C方向の寸法(厚さ)T1は、例えば、2.3mm~4.9mm程度である。
【0028】
小径部42は、大径部41から基端側に延び且つ中心軸Cを中心とする円柱状の外観を有する部位であり、小径部42の外径(径)φ3は、大径部41の外径(径)φ2より小さい。この小径部42は、基端側(即ち、第二部材5側)の端面421から先端側、即ち、中心軸C方向における大径部41側に凹む凹部422を有する。また、小径部42は、大径部41と中心軸C方向の基端側に間隔をあけた位置において径方向の外側に突出し且つ周方向の全域に延びる第一環状凸部(環状凸部)423を有する。
【0029】
本実施形態の小径部42では、第一環状凸部423が設けられた位置を除き、中心軸C方向の各位置における外径φ3は、同じであり、例えば、11.1mm~12.8mm程度である。この外径φ3は、ガスケット3がバレル21内に挿入された状態においても、バレル21の内周面210と接触しない大きさに設定されている。
【0030】
凹部422は、小径部42の端面421から大径部41と小径部42との境界位置B又は該境界位置Bより基端側の所定位置まで凹む。本実施形態の凹部422は、端面421から境界位置Bまで凹んでおり、円錐台状の凹部である。具体的に、この凹部422では、底面4221が中心軸Cと直交する方向に広がる円形の面であり、底面4221の周縁と接続される内周面(中心軸Cを囲う面)4222は、底面4221側に進むにつれて内径が漸減するテーパ状である。
【0031】
本実施形態の凹部422の深さ、即ち、中心軸C方向における端面421から底面4221までの距離は、2.8mm~4.1mm程度である。また、内周面4222の中心軸Cに対する角度α1は、0°より大きく(鉛直ではない)、好ましくは、5°以上、更に好ましくは、10°以上である。この角度α1は、小径部42の外径(φ3)と、後述するRFタグ6の外径(φ8)とによって制限されるため、それに従う。この角度α1が大きい程、ガスケット3の組み立て時(製造時)において、RFタグ6の配置が容易になる。また、第一部材4及び第二部材5の接合が容易かつ強力になる。
【0032】
第一環状凸部423は、ガスケット3がバレル21内に挿入されたときに該バレル21の内周面210と周方向の全域において密接する。小径部42における第一環状凸部423の配置されている部位の外径φ4は、中心軸C方向の他の部位の外径φ3より大きく、且つ、大径部41の外径φ2より小さい。本実施形態の小径部42における第一環状凸部423の設けられた部位の外径φ4は、例えば、11.7mm~13.36mm程度である。
【0033】
第二部材5は、円柱状の基部51と、基部51から先端側(第一部材4側)に突出し且つ第一部材4の凹部422との間にRFタグ6が位置した状態で該凹部422に嵌まり込む凸部52と、を有する。本実施形態の第二部材5は、ブチルゴムによって形成されている。
【0034】
基部51は、第一部材4の第一環状凸部423と中心軸C方向の基端側に間隔をあけた位置において径方向の外側に突出し且つ周方向の全域に延びる第二環状凸部511と、第二環状凸部511と中心軸C方向の基端側に隣接する位置に設けられる環状凹部512と、を有する。この環状凹部512は、周方向の全域に延びている。本実施形態の基部51における環状凹部512より基端側の部位は、基端側に進むにつれて外径が漸減するテーパ状である。この環状凹部512より基端側の部位は、バレル21の内径φ1より小さいほうが好ましい。
【0035】
また、基部51は、基端側の端面(第一部材4と反対の側の端面)513から先端側、即ち、第一部材4に向けて延びるネジ穴514を有する。本実施形態の基部51の基端側の端面513は、ガスケット3の基端側の端面を構成する。
【0036】
基部51の外径φ5は、小径部42の外径φ3と同じ又は略同じであり、例えば、11.1mm~12.8mm程度である。また、基部51の中心軸C方向の寸法(厚さ)T3は、例えば、2.9mm~3.53mm程度である。
【0037】
第二環状凸部511は、ガスケット3がバレル21内に挿入されたときに該バレル21の内周面210と周方向の全域において密接する。基部51における第二環状凸部511が設けられている部位の外径φ6は、中心軸C方向の他の部位の外径φ5より大きく、且つ、第一部材4の大径部41の外径φ2より小さい。本実施形態の基部51における第二環状凸部511が設けられている部位の外径φ6は、第一部材4における第一環状凸部423が設けられている部位の外径φ4と同じ又は略同じである。本実施形態の基部51における第二環状凸部511が設けられている部位の外径φ6は、例えば、11.7mm~13.36mm程度である。
【0038】
ネジ穴514は、プランジャーロッド7の雄ネジ部72が螺入されている穴であり、中心軸Cを囲む内周面に雌ネジを有する。このネジ穴514は、中心軸C方向において第二部材5の凸部52内まで延びている。本実施形態のネジ穴514は、中心軸C方向において、基部51の端面513から第一部材4の第一環状凸部423の位置まで延びている。より詳しくは、ネジ穴514は、中心軸C方向においてネジ穴514の底面5141の位置が第一環状凸部423の先端側の端縁位置となるように、端面513から先端側に延びている。このネジ穴514では、ネジ穴514の内周面とプランジャーロッド7の雄ネジ部72との間に隙間が形成されるように(
図2参照)、穴径が設定されている。
【0039】
凸部52は、先端部にRFタグ6が嵌まり込む先端凹部522を有する。この凸部52は、第一部材4の凹部422と対応する形状である。具体的に、凸部52は、先端側に進むにつれて外径が漸減する、即ち、テーパ状の外周面521を有する円錐台状であり、先端面520に基端側に凹む先端凹部522を有する。この先端面520は、中心軸Cと直交する方向に広がる円形の面であり、第一部材4の凹部422の底面4221と同じ径である。本実施形態の凸部52の形状、即ち、先端面520、先端凹部522、テーパ状の外周面521等の形状は、内部にRFタグ6が配置された状態の第一部材4の凹部422内に注入された材料(第二部材5を形成するための材料)が固まることで、該凹部422及びRFタグ6の形状に沿って形成されている。具体的には、以下の通りである。
【0040】
先ず、第一部材4が形成される。この第一部材4には、上述の各構成41、42、421、422、423等が形成されている。尚、第一部材4の成形方法は、限定されない。
【0041】
次に、第一部材4が、
図6に示すように上下一対の金型8(下型81及び上型82)における下型81に形成されたキャビティ811内に配置される。この下型81のキャビティ811は、下型81の上端面81aから下方に向けて延びる円柱状の凹部であり、ガスケット3の外周面及び先端面411と対応する形状を有する。ここで、一対の金型8における上型82は、下端面82aから下方に延びる凸部821を有する。この凸部821は、ガスケット3(第二部材5)のネジ穴514と対応する形状を有する。これら下型81と上型82とにおいて、キャビティ811の中心に沿って凸部821が挿入されるように下型81と上型82とが閉じられる(重ね合わされる)と、下型81と上型82との間(金型8の内側)には、ガスケット3に対応する形状の空間Sが形成される。
【0042】
上記のキャビティ811の底部に配置された第一部材4は、先端面411が第一部材4の下端に位置し且つ凹部422が第一部材4の上端に位置するような姿勢で配置されている。この状態の第一部材4に対し、RFタグ6が、一方の面(先端側の面)61を底面4221に対向させた状態で凹部422内に配置される。
【0043】
続いて、下型81と上型82とが閉じられると共に、キャビティ811内(金型8の内側に規定されている空間Sのうちの第一部材4が配置された領域を除いた領域S1)に、第二部材5の材料が注入される。領域S1が材料によって満たされた状態で、加熱や加硫等によって材料が固まると、領域S1に対応する形状で且つ第一部材4に結合された状態の第二部材5、即ち、ガスケット3が成形される。
【0044】
このように第二部材5の材料が領域S1に注入されたとき、RFタグ6が底面4221に配置された状態の凹部422内が前記材料によって満たされ、この材料が固まることで、第二部材5の凸部52の先端面520にRFタグ6の形状に沿った形状の先端凹部522が形成される。
【0045】
本実施形態の凸部52の突出量、即ち、中心軸C方向における基部51の先端面515から凸部52の先端面520までの距離は、第一部材4の凹部422の深さと同じであり、2.8mm~4.1mm程度である。また、外周面521の中心軸Cに対する角度α2も、凹部422の内周面4222の中心軸Cに対する角度と同じであり、0°以上(鉛直ではない)であり、好ましくは、5°以上、更に好ましくは10°以上である。この角度α2は、小径部42の外径(φ3)と、後述するRFタグ6の外径(φ8)とによって制限されるため、それに従う。
【0046】
先端凹部522は、RFタグ6に対応する形状に凹んでいる。本実施形態の先端凹部522は、板状のRFタグ6が嵌まり込んだ状態で、該RFタグ6の先端側の面61と先端面520とが面一又は略面一となるように凹んでいる。具体的に、先端凹部522は、中心軸Cと直交する方向に広がる円形の底面5221と、中心軸C方向の各位置の内径φ7が同じ内周面5222と、を有する。本実施形態の先端凹部522の深さ(中心軸C方向における先端面520から底面5221までの距離)D1は、0.05mm~2.2mm程度である。
【0047】
以上のように構成される第一部材4と第二部材5とは、第一部材4の凹部422の底面4221と、第二部材5の凸部52に設けられた先端凹部522とに囲まれた領域にRFタグ6が配置された状態で、第一部材4における凹部422の底面4221と第二部材5における凸部52の先端面520とが互いに接着(接合)され、第一部材4における凹部422の内周面4222と第二部材5における凸部52の外周面521とが互いに接着(接合)され、第一部材4における基端側の端面421と第二部材5における基部51の先端面515とが互いに接着(接合)されている。
【0048】
また、ガスケット3において、RFタグ6が中心軸C方向における第一部材4の大径部41と第一環状凸部423との間に位置するように(
図2参照)、第一部材4の凹部422の深さ(即ち、第二部材5の凸部52の突出量)と、第二部材5の凸部52における先端凹部522の深さD1とが設定されている。
【0049】
このRFタグ6は、シリンジ1に封入等される液体(薬液等)に関する情報、封入された日時、製造記録、薬液情報等を記憶(記録)可能であり、液体が封入された状態のシリンジ1の外部から前記情報をリーダライタ等によって読み書きされる。このRFタグは、中心軸Cと直交する方向に広がる板状であり、本実施形態のRFタグ6は、円板状である。このRFタグ6は、第一部材4及び第二部材5より硬い。即ち、RFタグ6の硬度が、第一部材4及び第二部材5の硬度より高い。
【0050】
このRFタグ6において、外径φ8は、第一部材4における凹部422の底面4221の直径の55%以上であることが好ましい。これにより、ガスケット3の製造時におけるRFタグ6のずれ(移動)が抑えられる。
【0051】
また、摺動抵抗の観点(即ち、摺動性の悪化を防ぐ観点)からは、RFタグ6の外径φ8が第一部材4の大径部41の外径φ2の70%以下となる構成と、RFタグ6の外径φ8が中心軸C方向においてガスケット3のRFタグ6が配置されている部位の外径(小径部42の外径)φ3の75%以下となる構成と、RFタグ6の外径φ8がバレル21の内径φ1の50%以下となる構成と、の各構成のうちの少なくとも一つの構成が選択されることが好ましい。
【0052】
本実施形態のRFタグ6の外径(径)φ8は、例えば、8mm程度であり、厚みは、例えば、1mm程度である。
【0053】
このRFタグ6入りのガスケット3は、
図7にも示すように、バレル21内に配置された状態でネジ穴514にプランジャーロッド7の雄ネジ部72が螺合されている、即ち、プランジャーロッド7の先端部に接続されている。このとき、ガスケット3における大径部41と第一環状凸部423及び第二環状凸部511とが設けられた部位は、バレル21の内径より大きな外径を有しているため(
図2参照)、バレル21内では、それぞれ径方向に圧縮された状態となっている。この圧縮に起因する弾発力によって、大径部41、各環状凸部423、511が周方向の全域においてバレル21の内周面210と密接した状態となり、シリンジ1においてバレル21とガスケット3との間の液密性が確保されている。
【0054】
以上のシリンジ1によれば、バレル21内において径方向に弾性変形することでバレル21の内周面210に密着するガスケット3の大径部41に対し、中心軸C方向にずれた位置(第一部材4の凹部422と第二部材5の凸部52との間)にRFタグ6が配置されることで、大径部41の径方向の弾性変形のし易さ(柔軟性)が確保されると共に、中心軸C方向において凸部52内まで延びるネジ穴514が第二部材5に設けられることで、ガスケット3において径方向に二つの部材が重なる部位(第一部材4の凹部422に第二部材5の凸部52が嵌り込んでいる部位)の径方向の厚みが抑えられて該部位の弾性変形のし易さも確保される。これにより、ガスケット3がバレル21内を摺動する際の摺動抵抗の抑制が図られる。また、第一部材4の凹部422と第二部材5の凸部52との間にRFタグ6が配置されることで、ガスケット3がバレル21内に配置された際のRFタグ6への径方向の圧力が低減され、これにより、RFタグ6の変形の抑制が図られる。
【0055】
また、本実施形態のシリンジ1では、ガスケット3の小径部42が、大径部41と中心軸C方向に間隔をあけた位置において径方向の外側に突出し且つ周方向の全域に延びる第一環状凸部423を有し、この第一環状凸部423は、ガスケット3がバレル21内に挿入されたときに該バレル21の内周面210と周方向の全域において密接している。そして、ガスケット3において、RFタグ6が、中心軸C方向における大径部41と第一環状凸部423との間に配置され、ネジ穴514が、中心軸C方向における第一環状凸部423の位置まで延びている。このように、ガスケット3がバレル21内に挿入された状態において中心軸C方向に間隔をあけた二か所(大径部41の位置と第一環状凸部423の位置)でガスケット3がバレル21の内周面210と密接するため、バレル21とガスケット3との間の液密性がより十分に確保される。しかも、ガスケット3において第一環状凸部423が形成される位置までネジ穴514が延びて該部位の径方向の厚みが抑えられている(即ち、該部位の弾性変形のし易さが確保されている)ことで、バレル21の内周面210と密接する部位が増えたことに起因する摺動抵抗の増大が効果的に抑えられる。
【0056】
さらに、本実施形態のシリンジ1では、中心軸C方向において第一環状凸部423と間隔をあけた位置に設けられた第二環状凸部511もバレル21の内周面210と密接しているため、バレル21とガスケット3との間の液密性がさらに十分に確保されている。また、中心軸C方向において第二環状凸部511が設けられた位置においてネジ穴514が設けられている(延びている)ため、第一環状凸部423と同様に、該部位においても弾性変形のし易さが確保され、これにより、該ガスケット3においてバレル21の内周面210と密接する部位が増えたことに起因する摺動抵抗の増大が抑えられる。
【0057】
しかも、本実施形態のシリンジ1では、ネジ穴514の内周面とプランジャーロッド7の雄ネジ部72との間に隙間が形成されていることによっても、ガスケット3の第一環状凸部423が設けられた位置の変形し易さが確保されるため、この隙間によっても、該ガスケット3においてバレル21の内周面210と密接する部位が増えたことに起因する摺動抵抗の増大を抑えることができる。
【0058】
尚、本発明のシリンジ用ガスケット及び該シリンジ用ガスケットを備えたシリンジは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0059】
上記実施形態のガスケット3では、内部にRFタグ6が配置されているが、この構成に限定されない。ガスケット3の内部に配置される部材は、RFタグ6に限定されず、遠隔で(即ち、ガスケット3の外部やシリンジ1の外部から)情報の読み書きが可能な素子であればよい。また、ガスケット3の内部に配置される部材は、温度や圧力等をセンシングでき且つ該センシングの結果を遠隔で送信可能な素子であってもよい。
【0060】
また、上記実施形態の素子(RFタグ)6は、ガスケット3の第一部材4及び第二部材5より高い硬度を有しているが、この構成に限定されない。素子6の硬度が、第一部材4及び第二部材5の硬度と同じ又は低くてもよい。また、上記実施形態の素子6は、中心軸Cと直交する方向に広がる板状であるが、この形状に限定さない。前記素子6の形状は、ガスケット3の内部に配置できる形状であればよい。
【0061】
また、上記実施形態の素子(RFタグ)6は、第一部材4及び第二部材5のいずれにも接着(接合)されていないが、この構成に限定されない。例えば、素子(RFタグ)6は、先端側の面61を接着層を介して第一部材4(詳しくは、凹部422の底面4221)に接着され、基端側の面62を接着層を介して第二部材5(詳しくは、先端凹部522の底面5221)に接着されてもよい。この場合、素子(RFタグ)6において、各面61、62の全域又は一部が第一部材4又は第二部材5に接着されていればよい。このように、板状のRFタグ6の両面61、62が第一部材4と第二部材5とに接着されていることで、シリンジ1毎の摺動抵抗(シリンジ本体2に対して中心軸C方向にプランジャーロッド7が相対移動するときの摺動抵抗)のばらつきが抑えられる。
【0062】
上記実施形態のガスケット3は、RFタグ(素子)6以外では、弾性を有する二つの部材(第一部材4と第二部材5と)が中心軸C方向に並ぶことによって構成されているが、この構成に限定されず、弾性を有する三つ以上の部材が中心軸C方向に並ぶことによって構成されていてもよい。
【0063】
また、上記実施形態のガスケット3の先端面411は、円錐状であるが、この構成に限定されない。先端面411は、中心軸Cと直交する方向に広がる面等であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態のガスケット3において、プランジャーロッド7の雄ネジ部72と螺合するネジ穴514は、中心軸C方向においてガスケット3の基端側の面513から第一環状凸部423の位置まで延びているが、この構成に限定されない。ネジ穴514は、中心軸C方向において、第一環状凸部423の位置より先端側の所定位置まで延びていてもよく、第一環状凸部423の位置より基端側の所定位置まで延びていてもよい。
【0065】
また、上記実施形態のガスケット3では、第一部材4と第二部材5とが同じ素材によって形成されているが、この構成に限定されない。第一部材4と第二部材5とが、互いに異なる素材によって形成されていてもよい。
【0066】
また、上記実施形態のガスケット3では、第一環状凸部423が設けられている部位の外径φ4と、第二環状凸部511が設けられている部位の外径φ6とは同じ又は略同じであるが、この構成に限定されない。外径φ4と外径φ6は、大径部41の外径φ2を超えない範囲で、どちらかが大きくてもよい。
【0067】
また、上記実施形態のシリンジ本体2は、公称容量5mLであったが、他の容量であってもよい。例えば、0.5mL~100mLの公称容量であってもよい。その場合、バレル21が各容量に対応する内径を有しており、ガスケット3の各外径もそれに対応する寸法となるよう構成される。
【0068】
また、上記実施形態のガスケット3は、金型8(下型81)のキャビティ811にはめ込まれた状態の第一部材4の凹部422(底面4221)にRFタグ6が置かれた上から2回目の成型が行われ、製品(ガスケット3)が成形される、即ち、第二部材5の先端凹部522は、2回目の成形(第二部材5の成形)時にRFタグ6の形によって自然に形成されるが、この構成に限定されない。第二部材5の成形時に凹部がない状態の凸部52が成形され、その後、先端凹部522が成形される、即ち、第一部材4と第二部材5とが別々に成形された後、接続される構成等でもよい。
【0069】
また、第一部材4と第二部材5とが別々に成形された後、第一部材4の凹部422と第二部材5の凸部52との間にRFタグ6が位置するように第一部材4と第二部材5とが接合される構成でもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…シリンジ、2…シリンジ本体、21…バレル、210…内周面、22…吐出部、23…フランジ、3…ガスケット(シリンジ用ガスケット)、4…第一部材、41…大径部、411…面(先端面)、412…周面、42…小径部、421…端面(基端側の端面)、422…凹部、4221…底面、4222…内周面、423…第一環状凸部、5…第二部材、51…基部、511…第二環状凸部、512…環状凹部、513…端面(基端側の端面)、514…ネジ穴、5141…底面、515…先端面、52…凸部、520…先端面、521…外周面、522…先端凹部、5221…底面、5222…内周面、6…RFタグ(素子)、61…先端側の面、62…基端側の面、7…プランジャーロッド、71…ロッド本体、711…押圧部、72…雄ネジ部、73…フランジ、8…一対の金型、81…下型、81a…上端面、811…キャビティ、82…上型、82a…下端面、821…凸部、B…境界位置、C…中心軸、S…空間、S1…領域、α1…中心軸に対する第一部材の凹部の内周面の傾き(角度)、α2…中心軸に対する第二部材の凸部の外周面の傾き(角度)、φ1…バレルの内径、φ2…第一部材の大径部の外径、φ3…小径部の外径、φ4…小径部における第一環状凸部が設けられた部位の外径、φ5…第二部材の基部の外径、φ6…第二部材の基部における第二環状凸部が設けられた部位の外径、φ7…先端凹部の内径、φ8…RFタグの外径