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特許7548508固体電解質、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】固体電解質、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240903BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240903BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240903BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20240903BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
C01B25/45 Z
H01M10/0562
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021505040
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009790
(87)【国際公開番号】W WO2020184464
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2019042263
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】武藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】グエン フク フ フイ
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-62718(JP,A)
【文献】特開2013-41749(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/62
C01B 25/45
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物(A-1)、(A-2)、(B-1、(B-2)及び(C)の少なくとも1種を含むことを特徴とする固体電解質。
(A-1)Li PS における一部のLi原子がAl原子で置換された化合物であって、下記式(1)で表される化合物
Li 3-3b Al PS (1)
(式中、0.001≦b≦0.15である。)
(A-2)Li PS における一部のLi原子がCa原子で置換された下記式(2)を基本構造とし、更にフッ素原子又はヨウ素原子を含む化合物であって、前記フッ素原子又は前記ヨウ素原子の構成割合がLi原子1モルに対して0.003~0.1モルである化合物
Li 3-2a Ca PS (2)
(式中、0.001≦a≦0.2である。)
(B-1)Li PS X(X:Cl)における一部のLi原子が多価原子で置換された化合物であって、前記多価原子がSr、Zn及びYから選ばれた少なくとも1種である化合物
(B-2)Li PS X(X:Cl)における一部のLi原子がCa原子で置換された化合物であって、下記式(3)で表される化合物
Li 5.94 Ca 0.03 PS Cl (3)
(C)Li11における一部のLi原子が多価原子で置換された化合物であって、前記多価原子がCa、Zn及びAlから選ばれた少なくとも1種である化合物
【請求項2】
前記化合物(C)が、更に、F、Cl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種のハロゲン原子を含む請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
90℃における導電率が6×10-3S/cm以上である請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の固体電解質を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【請求項5】
請求項に記載のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池を構成する正極等の電極や、電解質層等の形成材料として好適な固体電解質、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして脱離して負極へ移動して吸蔵され、放電時には負極から正極へリチウムイオンが挿入されて戻る構造の二次電池である。このリチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、長寿命である等の特徴を有しているため、従来、パソコン、カメラ等の家電製品や、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源として広く用いられており、最近では、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池にも応用されている。このようなリチウムイオン電池において、可燃性の有機溶剤を含む電解液に代えて固体電解質を用いると、安全装置の簡素化が図られるだけでなく、製造コスト、生産性等にも優れることから、各種材料の研究が盛んに進められている。なかでも、硫化物を含む固体電解質は、導電率(リチウムイオン伝導度)が高く、電池の高出力化を図る上で有用であるといわれている。
【0003】
硫化物固体電解質としては、リチウム元素、リン元素及び硫黄元素を含むものが知られている。
例えば、特許文献1には、一般式Li4-2xMg(但し、0<x<2である)で表されることを特徴とするチオリン酸リチウムマグネシウム化合物が開示されており、x=2/3の化合物の導電率が2.0×10-6S/cm弱であることが記載されている。
特許文献2には、正極活物質を含有する正極活物質層、負極活物質を含有する負極活物質層、並びに、正極活物質層及び負極活物質層の間に形成された固体電解質層を有する全固体電池と、全固体電池を40℃以上に加温する加温手段とを有し、正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層の少なくとも一つが、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする全固体電池システムが開示されている。そして、好ましい硫化物固体電解質材料は、LiS-P材料、LiS-SiS材料、LiS-GeS材料又はLiS-Al材料であり、常温における好ましいイオン電導度は10-4S/cm以上であることが記載されている。
特許文献3には、γ-LiPS結晶相の2aサイトのLi元素が、M元素(M元素は、Cu(I)元素、Mg元素及びCa元素の少なくとも一種である)により置換された結晶相を主体として有することを特徴とする硫化物固体電解質材料が開示されており、25℃における好ましいイオン電導度は1×10-3S/cm以上であることが記載されている。
特許文献4には、Li元素、Mg元素、P元素、S元素を含有し、アニオン構造としてPS 3-構造を主体とし、Li元素及びMg元素の合計に対するMg元素の割合が、1.69mol%~5.26mol%の範囲内であることを特徴とする硫化物固体電解質材料が開示されており、25℃における好ましいイオン電導度は1×10-3S/cm以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-206110号公報
【文献】特開2011-28893号公報
【文献】特開2016-62718号公報
【文献】特開2016-62720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、固体電解質の安定性を活かして伝導性に有利な50℃以上の条件下、リチウムイオン電池を有効に用いる用途が増えつつあり、このような用途に対応したリチウムイオン電池を構成する固体電解質が求められている。本発明の課題は、90℃における導電率が高い固体電解質、並びにそれを含むリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示される。
[1]下記化合物(A)、(B)及び(C)の少なくとも1種を含むことを特徴とする固体電解質。
(A)LiPSにおける一部のLi原子が多価原子(但し、Mgを除く)で置換された化合物
(B)LiPSX(X:Cl、Br又はI)における一部のLi原子が多価原子で置換された化合物
(C)Li11における一部のLi原子が多価原子で置換された化合物
[2]上記多価原子が、周期表の第2族元素、第3族元素、第12族元素及び第13族元素に由来する上記[1]に記載の固体電解質。
[3]上記多価原子が、Ca、Sr、Ba、Zn、Y及びAlから選ばれた少なくとも1種である上記[1]又は[2]に記載の固体電解質。
[4]上記化合物(A)における前記多価原子がCa及びAlから選ばれた少なくとも1種である上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の固体電解質。
[5]上記化合物(B)における前記多価原子がCa、Sr、Ba、Zn、Y及びAlから選ばれた少なくとも1種である上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の固体電解質。
[6]上記化合物(C)における前記多価原子がCa、Zn及びAlから選ばれた少なくとも1種である上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の固体電解質。
[7]上記化合物(A)又は(C)が、更に、F、Cl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種のハロゲン原子を含む上記[4]又は[6]に記載の固体電解質。
[8]90℃における導電率が6×10-3S/cm以上である上記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の固体電解質。
[9]上記[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の固体電解質を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
[10]上記[9]に記載のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固体電解質は、例えば、加温手段を有するリチウムイオン電池を構成する電極の形成材料として好適であり、50℃以上の温度において、リチウムイオン伝導性が高く優れた電池性能を発揮する固体電池を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のリチウムイオン電池の要部を示す概略断面図である。
図2】加温手段を備える本発明のリチウムイオン電池の一例を示す概略断面図である。
図3】加温手段を備える本発明のリチウムイオン電池の他例を示す概略断面図である。
図4】実験例1~4で得られた固体組成物のラマンスペクトルである。
図5】実験例1~4で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
図6】実験例5~7で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
図7】実験例8、9、11及び13で得られた固体組成物のX線回折像である。
図8】実験例8~13で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
図9】実験例8及び14~18で得られた固体組成物のX線回折像である。
図10】実験例8及び14~18で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
図11】実験例19~23で得られた固体組成物のX線回折像である。
図12】実験例19~23で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
図13】実験例19及び24で得られた固体組成物のX線回折像である。
図14】実験例19及び24で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
図15】実験例19及び25~29で得られた固体組成物のX線回折像である。
図16】実験例19及び25~29で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
図17】実験例19及び30で得られた固体組成物のX線回折像である。
図18】実験例19及び30で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の固体電解質は、下記化合物(A)、(B)及び(C)の少なくとも1種を含む。
(A)LiPSにおける一部のLi原子が多価原子(但し、Mgを除く)で置換された化合物
(B)LiPSX(X:Cl、Br又はI)における一部のLi原子が多価原子で置換された化合物
(C)Li11における一部のLi原子が多価原子で置換された化合物
【0010】
一般的に、固体電解質材料のイオン伝導度(σ)は、温度(T)に対して、下記式に従うため、高温になれば固体電解質材料のLiイオン伝導度は高くなる。ここで、Eは伝導の見かけの活性化エネルギー、Rは気体定数を表す。
ln(σ)=-E/(R・T)+ln(a)
液体電解質を用いた場合、50℃以上の高温域では電解液の分解が顕著になるため、高温域で使用することは困難である。固体電解質を用いる場合はこうした安定性の問題がないために伝導性に有利な高温域を利用できる。実際にこうした高温域を利用する場合、周辺部材への影響を考えると、100℃以上では水が沸騰する等使いにくくなる。90℃で高い導電率を有する上記化合物(A)、(B)及び(C)はその応用を考えた場合、非常に使いやすく有利な電解質となる。
尚、本発明者らは、上記化合物(A)、(B)及び(C)に、従来、公知の固体電解質におけるLiイオンによるイオン伝導とは異なる伝導メカニズムが働くことにより、90℃において従来にない高い導電率を発現していると考えている。例えば、1価のLiイオンを2価のCaイオンに置き換えると1価のLiイオンは2つ外れることになる。その一方にCaイオンが入り、他方は空孔となる。この空孔を介したホッピング伝導が働いていると推察している。
【0011】
上記化合物(A)、(B)及び(C)における多価原子は、周期表の第2族元素、第3族元素、第12族元素又は第13族元素に由来するものであることが好ましい。即ち、多価原子の価数は、好ましくは2価又は3価である。
【0012】
上記化合物(A)、(B)及び(C)の化学式は、含まれる多価原子の価数に依存して表すことができ、2価及び3価の多価原子を含む場合の化学式は、以下に示される。
【0013】
上記化合物(A)は、下記一般式(1)及び(2)で表される。
Li3-2a PS (1)
(式中、MはMgを除く2価原子であり、0.001≦a≦0.2である。)
Li3-3b PS (2)
(式中、Mは3価原子であり、0.001≦b≦0.15である。)
【0014】
上記一般式(1)において、Mは、好ましくは、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn及びCdから選ばれた少なくとも1種であり、より好ましくはCa、Sr、Ba及びZn、特に好ましくはCaである。また、aは、好ましくは0.005≦a≦0.15である。
【0015】
上記一般式(2)において、Mは、好ましくは、Sc、Y、Al、Ga及びInから選ばれた少なくとも1種であり、より好ましくはY及びAl、特に好ましくはAlである。また、bは、好ましくは0.005≦b≦0.1である。
【0016】
上記化合物(A)は、一般式(1)及び(2)で表される原子に対して、更に、F、Cl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種のハロゲン原子を含むことができる。このハロゲン原子の構成割合は、Li原子1モルに対して、好ましくは0.003~0.1モルである。また、この場合、P及びSのモル比が上記一般式の規定からずれてもよい。
【0017】
上記化合物(B)は、下記一般式(3)及び(4)で表される。
Li6-2c PSX (3)
(式中、Mは2価原子であり、Xは、Cl、Br又はIであり、0.001≦c≦0.2である。)
Li6-3d PSX (4)
(式中、Mは3価原子であり、Xは、Cl、Br又はIであり、0.001≦d≦0.15である。)
【0018】
上記一般式(3)において、Mは、好ましくは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn及びCdから選ばれた少なくとも1種であり、より好ましくはMg、Ca、Sr、Ba及びZn、特に好ましくはCa、Sr、Ba及びZnである。また、cは、好ましくは0.005≦c≦0.15である。
【0019】
上記一般式(4)において、Mは、好ましくは、Sc、Y、Al、Ga及びInから選ばれた少なくとも1種であり、特に好ましくはY及びAlである。また、dは、好ましくは0.005≦d≦0.1である。
【0020】
上記化合物(C)は、下記一般式(5)及び(6)で表される。
Li7-2e e11 (5)
(式中、Mは2価原子であり、0.001≦e≦0.1である。)
Li7-3f f11 (6)
(式中、Mは3価原子であり、0.001≦f≦0.05である。)
【0021】
上記一般式(5)において、Mは、好ましくは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn及びCdから選ばれた少なくとも1種であり、より好ましくはMg、Ca、Sr、Ba及びZn、特に好ましくはCa及びZnである。また、eは、好ましくは0.005≦e≦0.05である。
【0022】
上記一般式(6)において、Mは、好ましくは、Sc、Y、Al、Ga及びInから選ばれた少なくとも1種であり、より好ましくはY及びAl、特に好ましくはAlである。また、fは、好ましくは0.005≦f≦0.03である。
【0023】
上記化合物(C)は、一般式(5)及び(6)で表される原子に対して、更に、F、Cl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種のハロゲン原子を含むことができる。このハロゲン原子の構成割合は、Li原子1モルに対して、好ましくは0.001~0.014モルである。また、この場合、P及びSのモル比が上記一般式の規定からずれてもよい。
【0024】
尚、上記一般式(1)~(6)において、性能を劣化させない範囲でP、S及びX以外のアニオン原子を含んでもよく、その比率に合わせてP、S及びXの比率が上記一般式からずれてもよい。性能を劣化させないアニオン原子の構成割合の目安としては、Li原子1モルに対して、0.1モル以下である。
【0025】
上記化合物(A)、(B)及び(C)は、結晶質及び非晶質のいずれでもよい。
【0026】
上記化合物(A)、(B)及び(C)は、各化合物を構成する元素を含む化合物原料どうしを、各元素のモル比が所定値となるように用いて、接触反応させることにより製造することができる。
化合物原料としては、LiS、硫化リン(P、P、P等)、ハロゲン化リチウムLiX(塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等)が挙げられる。
また、多価原子を含む化合物原料としては、硫化物、チオリン酸化合物、ハロゲン化物等が挙げられる。
【0027】
上記化合物原料は、これらの反応性の観点から、微細な粒状であることが好ましい。粒子の最大長さの上限は、好ましくは100μm、より好ましくは50μmである。但し、下限は、通常、0.01μmである。尚、原料の大きさが大きい場合は、例えば、乳鉢と乳棒で前述の好ましい範囲に入るようにすりつぶしてから用いることが好ましい。
【0028】
上記化合物(A)、(B)又は(C)を製造するための接触反応の際には、ボールミル(遊星型ボールミル等)、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を用いることができる。尚、化合物原料の使用方法は、特に限定されず、全ての原料の全量を用いてこれらを接触反応させてよいし、段階的に原料の種類又は供給量を変化させつつ接触反応させてもよい。
上記接触反応における反応系の雰囲気は、特に限定されず、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス、乾燥空気等からなるものとすることができる。
【0029】
上記接触反応は、溶剤の存在下で行うものであってもよい。溶剤としては、アルコール類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類、エーテル類、アルデヒド類、ケトン類、炭酸エステル類、ニトリル類、アミド類、ニトロ類、リン酸エステル類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。
【0030】
上記化合物(A)又は(B)の製造において、溶剤の存在下で接触反応を行った場合、通常、化合物(A)又は(B)を含むサスペンジョンが得られるので、その後、溶剤を除去することによって、化合物(A)又は(B)を含む固体組成物を得ることができる。
溶剤を除去する方法としては、例えば、100℃未満の温度で乾燥する方法、好ましくは15℃~60℃程度で乾燥する方法が挙げられる。溶剤の除去は、大気圧及び減圧のいずれで行ってもよい。大気圧下で溶剤を除去する際の雰囲気は、好ましくは、乾燥空気又は不活性ガスである。溶剤を除去して得られた固体組成物を更に加熱処理してもよい。
【0031】
上記化合物(C)の製造においては、同様にして得られたサスペンションから溶剤を除去することにより得られた固体組成物を加熱処理することが好ましい。サスペンションから溶剤を除去する方法としては、例えば、100℃~180℃で、減圧乾燥する方法が挙げられる。溶剤を除去して得られた固体組成物を更に加熱処理する場合には、乾燥空気又は不活性ガス雰囲気下で、好ましくは200℃~300℃で熱処理する方法を適用することができる。
【0032】
また、上記化合物(A)、(B)又は(C)の製造において、上記溶剤の存在下で接触反応させる方法としては、例えば、飽和脂肪酸エステル又はジアルキルカーボネートを含む溶剤の場合に、ボールミル(遊星型ボールミル等)を用いずに、撹拌翼、撹拌子、ビーズ、ボール、超音波等で、反応原料と溶剤とを含むスラリーを振動させながら接触反応させる方法も好ましく用いることができる。この方法で接触反応させた場合は、得られたサスペンジョンを、好ましくは100℃未満、より好ましくは15℃~60℃程度で乾燥することで溶剤を除去して固体組成物を得ることができる。溶剤の除去は、大気圧及び減圧のいずれで行ってもよい。大気圧下で溶剤を除去する際の雰囲気は、好ましくは、乾燥空気又は不活性ガスである。溶剤を除去して得られた固体組成物を更に加熱処理してもよい。
【0033】
本発明の固体電解質は、上記化合物(A)、(B)及び(C)の少なくとも1種を含む限りにおいて、他の固体電解質、導電助剤、バインダー等の他の化合物を含有することができる。尚、他の化合物の含有量の上限は、固体電解質の全体に対して、好ましくは50質量%、より好ましくは30質量%である。
【0034】
本発明の固体電解質において、導電率は、交流インピーダンス法により測定されたものとすることができ、90℃における導電率は、非置換の化合物を含む場合よりも高くなる。例えば、上記化合物(A)又は(B)を含む固体電解質の導電率は、好ましくは6×10-3S/cm以上、より好ましくは8×10-3S/cm以上、更に好ましくは1×10-2S/cm以上であるといった高い性能を有する。また、上記化合物(C)を含む固体電解質の90℃における導電率は、好ましくは4.5×10-3S/cm以上、より好ましくは6.0×10-3S/cm以上、特に好ましくは9.0×10-3S/cm以上である。従って、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上の温度を含む範囲において、高い導電性を得ることができる。
【0035】
本発明の固体電解質は、リチウムイオン電池の電極(正極又は負極)あるいは電解質層の構成材料として好適である。図1は、正極11と、負極13と、正極11及び負極13の間に配された電解質層15と、正極11の集電を行う正極集電体17と、負極15の集電を行う負極集電体19とを備える、リチウムイオン電池の要部断面の一例であり、本発明の固体電解質は、このような構成を有するリチウムイオン電池の正極11、固体電解質層15、負極13等の構成材料として好適である。これらのうち、正極11及び固体電解質層15の形成に、特に好適である。
【0036】
本発明のリチウムイオン電池用電極である正極11及び負極13は、通常、それぞれ、正極活物質及び負極活物質を含み、更に、バインダー、導電助剤、他の固体電解質等を含むことができる。
【0037】
上記バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等の含フッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン・プロピレン・非共役ジエン系ゴム(EPDM等)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等が挙げられる。
【0038】
上記導電助剤としては、炭素材料、金属粉末、金属化合物等からなるものを用いることができ、これらのうち、炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料としては、グラフェン等の板状導電性物質;カーボンナノチューブ、炭素繊維等の線状導電性物質;ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック(商品名)、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛等の粒状導電性物質等が挙げられる。
【0039】
正極11に含まれる正極活物質としては、MoO、WO、VO、LiCoO(LiCoO等)、LiMnO(LiMnO、LiMn等)、LiNiO(LiNiO等)、LiVO(LiVO等)、LiMnNiCoO(LiNi1/3Co1/3Mn1/3等)、LiFeP(LiFePO等)、LiMnP(LiMnPO等)、LiNiP(LiNiPO等)、LiCuP(LiCuPO等)等の酸化物(複合酸化物)系材料;(MoS,CuS,TiS,WS)、Li、Li等の硫化物系材料;セレン化物系材料等が挙げられる。
また、負極13に含まれる負極活物質としては、炭素材料;リチウム、インジウム、アルミニウム、ケイ素等の金属又はこれらを含む合金;Sn、MoO、WO、LiCoO(LiCoO等)、LiMnNiCoO(LiNi1/3Co1/3Mn1/3等)、LiCuP(LiCuPO等)等の酸化物(複合酸化物)系材料等が挙げられる。
【0040】
電解質層15は、固体電解質を含むものであれば、特に限定されないが、実質的に固体電解質からなるものであることが好ましく、その場合、上記本発明の固体電解質のみからなるものであってよいし、上記本発明の固体電解質と、他の固体電解質とからなるものであってもよい。
電解質層15の形状は、通常、シート状である。
【0041】
正極集電体17又は負極集電体19は、例えば、ステンレス鋼、金、白金、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム又はこれらの合金等からなるものとすることができ、板状体、箔状体、網目状体等を有することができる。
【0042】
上記のように、上記本発明の固体電解質は、90℃における導電率が十分に高いため、この固体電解質を含む電極又は電解質層を備えるリチウムイオン電池は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上(但し、上限は、通常、250℃)の温度において、優れた電池性能を発揮することができる。このような効果を発揮し得るリチウムイオン電池は、好ましくは、図1の要部を加温する手段を備える。
【0043】
本発明のリチウムイオン電池は、上記本発明のリチウムイオン電池用電極を備えるものであり、特に好ましくは、上記本発明の固体電解質を含む電解質層を備えるものである。
また、本発明のリチウムイオン電池が図1の要部を加温する手段を備える場合、この加温手段は、特に限定されないが、発熱体であることが好ましい。この発熱体の構成は、特に限定されないが、電気抵抗により発熱するものであることが好ましい。
図1の要部は、通常、収容体(電池ケース)の内部に収容されるため、発熱体は、上記要部の外周面側であって、収容体の内面側、内部又は外側に配される。
【0044】
図2及び図3は、本発明のリチウムイオン電池を例示する概略図である。
図2は、固体電解質ガラス及び正極活物質を含有する正極11と、固体電解質ガラス及び負極活物質を含有する負極13と、正極11及び負極13の間に配された電解質層15と、正極11の集電を行う正極集電体17と、負極15の集電を行う負極集電体19と、これらを収容する収容体21と、この収容体21の外表面に配された発熱体23とを備えるリチウムイオン電池100である。この図2では、発熱体23が収容体21の外表面の全体を覆っていることとしているが、これに限定されず、一部表面であってもよい。また、この図2は、収容体21と発熱体23とが接することとしているが、これに限定されず、収容体21と発熱体23との間に空間を備えるものであってもよい。
更に、図3は、固体電解質ガラス及び正極活物質を含有する正極11と、固体電解質ガラス及び負極活物質を含有する負極13と、正極11及び負極13の間に配された電解質層15と、正極11の集電を行う正極集電体17と、負極15の集電を行う負極集電体19と、これら要部の外表面に配された発熱体23と、これら全体を収容する収容体21とを備えるリチウムイオン電池100である。この図3では、発熱体23が要部の外表面の全体を覆っていることとしているが、これに限定されない。
【実施例
【0045】
1.製造原料
固体電解質の製造に用いた原料は、以下の通りである。
1-1.硫化リチウム(LiS)粉体
三津和化学薬品社製「LiS」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は約50μmである。
1-2.五硫化二リン(P)粉体
Aldrich社製「P」(商品名)を用いた。純度は99%、粒子径は100μmである。
1-3.硫化カルシウム(CaS)粉体
高純度化学研究所社製「CaS」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は約50μmである。
1-4.硫化アルミニウム(Al)粉体
高純度化学研究所社製「Al」(商品名)を用いた。純度は98%、粒子径は約50μmである。
1-5.硫化マグネシウム(MgS)粉体
高純度化学研究所社製「MgS」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数十μmである。
1-6.塩化ストロンチウム(SrCl)粉体
Aldrich社製「SrCl」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
1-7.硫化バリウム(BaS)粉体
高純度化学研究所社製「BaS」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数十μmである。
1-8.塩化亜鉛(ZnCl)粉体
高純度化学研究所社製「ZnCl」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
1-9.塩化イットリウム(YCl)粉体
高純度化学研究所社製「YCl」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
1-10.チオリン酸カルシウム(Ca(PS)粉体
硫化カルシウム(CaS)粉体及び五硫化二リン(P)粉体を用いて得られた合成品を用いた。粒子径は20μmである。
1-11.ヨウ化カルシウム(CaI)粉体
Aldrich社製「CaI」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
1-12.フッ化カルシウム(CaF)粉体
Aldrich社製「CaF」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
1-13.塩化カルシウム(CaCl)粉体
Aldrich社製「CaCl」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は10メッシュ以下である。
1-14.塩化リチウム(LiCl)粉体
富士フイルム和光純薬社製「LiCl」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数十μmである。
1-15.アセトニトリル
富士フイルム和光純薬社製の「アセトニトリル」(商品名)を用いた。純度は99.9%である。
1-16.ヨウ化カルシウム(CaI)粉体
Aldrich社製「CaI」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
1-17.ヨウ化アルミニウム(AlI)粉体
Aldrich社製「AlI」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
1-18.ヨウ化亜鉛(ZnI)粉体
Aldrich社製「ZnI」(商品名)を用いた。純度は99.9%、粒子径は数mmである。
【0046】
2.固体電解質の製造及び評価
上記の原料を用いて固体電解質を製造し、以下の方法で導電率を測定した。
<導電率の測定方法>
固体電解質を、一軸油圧プレス機を用いて、円板形状の試験片(サイズ:半径5mm×高さ0.6mm)とし、アルゴンガス雰囲気下、測定用ユニット(ガラス容器)に入れた状態で、調温器に接続したリボンヒーター及び断熱材を測定用ユニット(ガラス容器)の周りに巻き付け、SOLATRON社製IMPEDANCE ANALYZER「S1260」(型式名)を用いて、室温から徐々に加熱し、50℃、70℃、90℃、110℃又は130℃で導電率を測定した。尚、導電率は、試験片を各温度に保持し始めてから1時間静置した後、測定した。また、導電率は、低温側から、各温度で、順次、測定したが、段階的に昇温して測定を行うのではなく、例えば、50℃で測定した後、一旦、25℃に戻し、その後、70℃に昇温して測定するという方法を採用した。
【0047】
実験例1(LiPSの製造)
Li、P及びSのモル比が3:1:4となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体とを秤量し、これらを混合した。次いで、混合粉末を直径15mmのジルコニアボールとともにFrisch社製遊星型ボールミル機(容器:ジルコニア製)に入れ、回転数600rpmの条件で、メカニカルミリングを20時間行った。
得られた反応生成物(固体組成物)を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、2.0×10-3S/cmであった。
【0048】
実験例2(Li2.94Mg0.03PSの製造)
Li、Mg、P及びSのモル比が2.94:0.03:1:4となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、硫化マグネシウム(MgS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体とを用いた以外は、実験例1と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、非晶質であることが分かった。そこで、ラマン分光分析を行ったところ、得られたスペクトルに、420cm-1付近にPS 3-に帰属するピークが見られた(図4参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、4.9×10-3S/cmであった。
【0049】
実験例3(Li2.94Ca0.03PSの製造)
Li、Ca、P及びSのモル比が2.94:0.03:1:4となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、硫化カルシウム(CaS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体とを用いた以外は、実験例1と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、非晶質であることが分かった。そこで、ラマン分光分析を行ったところ、得られたスペクトルに、420cm-1付近にPS 3-に帰属するピークが見られた(図4参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、9.1×10-3S/cmであった。
【0050】
実験例4(Li2.94Al0.02PSの製造)
Li、Al、P及びSのモル比が2.94:0.02:1:4となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、硫化アルミニウム(Al)粉体と、五硫化二リン(P)粉体とを用いた以外は、実験例1と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、非晶質であることが分かった。そこで、ラマン分光分析を行ったところ、得られたスペクトルに、420cm-1付近にPS 3-に帰属するピークが見られた(図4参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、9.9×10-3S/cmであった。
【0051】
実験例1~4で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図5に示す。
【0052】
実験例5(Li2.94Ca0.03PSの製造)
硫化カルシウム(CaS)粉体に代えて、チオリン酸カルシウム(Ca(PS)粉体を用いた以外は、実験例3と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、9.1×10-3S/cmであった。
【0053】
実験例6(Li2.94Ca0.030.983.920.06の製造)
硫化カルシウム(CaS)粉体に代えて、ヨウ化カルシウム(CaI)粉体を用いた以外は、実験例3と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、8.9×10-3S/cmであった。
【0054】
実験例7(Li2.94Ca0.030.983.920.06の製造)
硫化カルシウム(CaS)粉体に代えて、フッ化カルシウム(CaF)粉体を用いた以外は、実験例3と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、6.2×10-3S/cmであった。
【0055】
実験例5~7で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図6に示す。
【0056】
実験例8(LiPSClの製造)
Li、P、S及びClのモル比が6:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体とを秤量し、これらを混合した。次いで、混合粉末を直径15mmのジルコニアボールとともにFrisch社製遊星型ボールミル機(容器:ジルコニア製)に入れ、回転数600rpmの条件で、20時間メカニカルミリングを行った。
得られた反応生成物(固体組成物)を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、4.3×10-3S/cmであった。
【0057】
実験例9(Li5.98Ca0.01PSClの製造)
Li、Ca、P、S及びClのモル比が5.98:0.01:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体と、塩化カルシウム(CaCl)粉体とを用いた以外は、実験例8と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図7参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、6.97×10-3S/cmであった。
【0058】
実験例10(Li5.96Ca0.02PSClの製造)
Li、Ca、P、S及びClのモル比が5.96:0.02:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体と、塩化カルシウム(CaCl)粉体とを用いた以外は、実験例9と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、17.2×10-3S/cmであった。
【0059】
実験例11(Li5.94Ca0.03PSClの製造)
Li、Ca、P、S及びClのモル比が5.94:0.03:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体と、塩化カルシウム(CaCl)粉体とを用いた以外は、実験例9と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図7参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、23.0×10-3S/cmであった。
【0060】
実験例12(Li5.9Ca0.05PSClの製造)
Li、Ca、P、S及びClのモル比が5.9:0.05:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体と、塩化カルシウム(CaCl)粉体とを用いた以外は、実験例9と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、18.0×10-3S/cmであった。
【0061】
実験例13(Li5.8Ca0.1PSClの製造)
Li、Ca、P、S及びClのモル比が5.8:0.1:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体と、塩化カルシウム(CaCl)粉体とを用いた以外は、実験例9と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図7参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、15.9×10-3S/cmであった。
【0062】
実験例8~13で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図8に示す。
【0063】
実験例14(Li5.94Ba0.03PSClの製造)
Li、Ba、P、S及びClのモル比が5.94:0.03:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、硫化バリウム(BaS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体とを用いた以外は、実験例11と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図9参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、18.3×10-3S/cmであった。
【0064】
実験例15(Li5.94Zn0.03PSClの製造)
Li、Zn、P、S及びClのモル比が5.94:0.03:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、硫化亜鉛(ZnS)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体とを用いた以外は、実験例11と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図9参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、24.3×10-3S/cmであった。
【0065】
実験例16(Li5.940.02PSClの製造)
Li、Y、P、S及びClのモル比が5.94:0.02:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、硫化イットリウム(Y)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体とを用いた以外は、実験例11と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図9参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、33.2×10-3S/cmであった。
【0066】
実験例17(Li5.94Al0.02PSClの製造)
Li、Al、P、S及びClのモル比が5.94:0.02:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、硫化アルミニウム(Al)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体とを用いた以外は、実験例11と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図9参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、18.4×10-3S/cmであった。
【0067】
実験例18(Li5.94Sr0.03PSClの製造)
Li、Sr、P、S及びClのモル比が5.94:0.03:1:5:1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体と、塩化ストロンチウム(SrCl)粉体と、五硫化二リン(P)粉体と、塩化リチウム(LiCl)粉体とを用いた以外は、実験例11と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、アルジロダイト型結晶構造を有していることが分かった(図9参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、21.4×10-3S/cmであった。
【0068】
実験例14~18で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図10に示す。
【0069】
実験例19(Li11の製造)
Li、P、及びSのモル比が7:3:11となるように、硫化リチウム(LiS)粉体及び五硫化二リン(P)粉体を原料とし、アセトニトリル(40ml)を反応溶媒として使用し、60℃で24時間撹拌し、前駆体のサスペンションを合成した。合成したサスペンションを160℃、減圧乾燥で溶媒除去を行い、前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末をアルゴンガス雰囲気下、270℃で熱処理し、反応生成物(固体組成物)を得た。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図11参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、3.0×10-3S/cmであった。
【0070】
実験例20(Li6.99Ca0.0053.0010.980.01の製造)
Li、Ca、P、S及びIのモル比が6.99:0.005:3.00:10.98:0.01となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化カルシウム(CaI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図11参照)。CaIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、4.0×10-3S/cmであった。
【0071】
実験例21(Li6.98Ca0.012.9910.970.02の製造)
Li、Ca、P、S及びIのモル比が6.98:0.01:2.99:10.97:0.02となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化カルシウム(CaI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図11参照)。CaIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、5.0×10-3S/cmであった。
【0072】
実験例22(Li6.96Ca0.022.9810.940.04の製造)
Li、Ca、P、S及びIのモル比が6.96:0.02:2.98:10.94:0.04となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化カルシウム(CaI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図11参照)。CaIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、14.0×10-3S/cmであった。
【0073】
実験例23(Li6.94Ca0.032.9710.900.06の製造)
Li、Ca、P、S及びIのモル比が6.94:0.03:2.97:10.90:0.06となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化カルシウム(CaI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図11参照)。CaIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、7.9×10-3S/cmであった。
【0074】
実験例19~23で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図12に示す。
【0075】
実験例24
Li6.90Ca0.052.9610.840.1の製造を目的として、Li、Ca、P、S及びIのモル比が6.90:0.05:2.96:10.84:0.1となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化カルシウム(CaI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図13参照)。さらにCaIに由来するピークが見られ、固溶限界を超えていることが分かった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、17.0×10-3S/cmであった。
本例では、上記のように、X線回折によりCaIのピークが見られたが、CaIの固溶限界を超えたためであり、目的の化合物は得られなかった。従って、得られた固体組成物は、Li11における一部のLi原子がCa原子の置換上限となる化合物と残存原料(CaI)とからなるものと考えられる。そして、固体組成物の導電率は、残存原料の影響がほとんどなく非置換の固体電解質(実験例19のLi11)より高かった。
【0076】
実験例19及び24で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図14に示す。
【0077】
実験例25(Li6.985Al0.0052.9910.980.015の製造)
Li、Al、P、S及びIのモル比が6.985:0.005:2.99:10.98:0.015となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化アルミニウム(AlI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図15参照)。AlIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、11.4×10-3S/cmであった。
【0078】
実験例26(Li6.97Al0.012.9910.950.03の製造)
Li、Al、P、S及びIのモル比が6.97:0.01:2.99:10.95:0.03となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化アルミニウム(AlI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図15参照)。AlIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、13.4×10-3S/cmであった。
【0079】
実験例27(Li6.94Al0.022.9710.900.06の製造)
Li、Al、P、S及びIのモル比が6.94:0.02:2.97:10.90:0.06となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化アルミニウム(AlI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図15参照)。AlIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、6.82×10-3S/cmであった。
【0080】
実験例28(Li6.925Al0.0252.9710.880.075の製造)
Li、Al、P、S及びIのモル比が6.925:0.025:2.97:10.88:0.075となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化アルミニウム(AlI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図15参照)。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、10.7×10-3S/cmであった。
【0081】
実験例29
Li6.91Al0.032.9610.860.09の製造を目的として、Li、Al、P、S及びIのモル比が6.91:0.03:2.96:10.86:0.09となるように、硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化アルミニウム(AlI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図15参照)。さらにAlIに由来するピークが見られ、固溶限界を超えていることが分かった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、15.0×10-3S/cmであった。
本例では、上記のように、X線回折によりAlIのピークが見られたが、AlIの固溶限界を超えたためであり、目的の化合物は得られなかった。従って、得られた固体組成物は、Li11における一部のLi原子がAl原子の置換上限となる化合物と残存原料(AlI)とからなるものと考えられる。そして、固体組成物の導電率は、残存原料の影響がほとんどなく非置換の固体電解質(実験例19のLi11)より高かった。
【0082】
実験例19及び25~29で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図16に示す。
【0083】
実験例30(Li6.98Zn0.012.9910.970.02の製造)
Li、Zn、P、S及びIのモル比が6.98:0.01:2.99:10.97:0.02となるように硫化リチウム(LiS)粉体、五硫化二リン(P)粉体及びヨウ化亜鉛(ZnI)粉体を原料とした以外は、実験例19と同じ操作を行った。
得られた反応生成物(固体組成物)のX線回折測定を行ったところ、わずかにLi及びLiPSの結晶を含むが、Li11の結晶構造を有していることが分かった(図17参照)。ZnIに由来するピークは見られなかった。
また、この固体組成物を固体電解質として、導電率を測定したところ、90℃において、9.2×10-3S/cmであった。
【0084】
実験例19及び30で得られた固体電解質の導電率の温度依存性を示すグラフを図18に示す。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の固体電解質は、パソコン、カメラ等の家電製品や、電力貯蔵装置、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源、更には、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池を構成するリチウムイオン電池の構成材料、即ち、リチウムイオン電池用電極又は電解質層の構成材料として好適である。
【符号の説明】
【0086】
11:正極
13:負極
15:電解質層
17:正極集電体
19:負極集電体
21:収容体
23:発熱体
100:リチウムイオン電池
図1
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