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特許7548530量子系における熱化状態の調製方法、装置、システム、機器及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】量子系における熱化状態の調製方法、装置、システム、機器及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/20 20220101AFI20240903BHJP
【FI】
G06N10/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023538921
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 CN2022132997
(87)【国際公開番号】W WO2023103754
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】202111479010.4
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514187420
【氏名又は名称】テンセント・テクノロジー・(シェンジェン)・カンパニー・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514326214
【氏名又は名称】清▲華▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シシン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シェギュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,ホン
【審査官】新井 則和
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-152892(JP,A)
【文献】国際公開第2021/111368(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/208555(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0097422(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ機器が実行する、量子系における熱化状態の調製方法であって、
パラメータ化量子回路を介して組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行った後に、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得するステップであって、前記組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、各組の測定結果は、前記システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び前記補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である、ステップと、
ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得するステップと、
前記重みパラメータ及び前記第1の測定結果に基づいて、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算するステップと、
前記混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算するステップと、
前記目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整するステップであって、前記変分パラメータは、前記パラメータ化量子回路のパラメータ及び前記ニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む、ステップと、
前記目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、前記目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための前記目標量子システムの混合状態を取得するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記重みパラメータ及び前記第1の測定結果に基づいて、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算するステップは、
n個の前記第2の測定結果のそれぞれに対応する重みパラメータに基づいて、n個の前記第1の測定結果のそれぞれに対応する演算結果に対して加重平均を行い、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を取得するステップ、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
目標相関関数を使用してn個の前記第1の測定結果のそれぞれに対して演算処理を行い、n個の前記第1の測定結果にそれぞれ対応する演算結果を取得するステップ、をさらに含み、
前記目標相関関数は、前記目標量子システムの混合状態の目標パウリ文字列での相関関数値を取得するために使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算するステップは、
前記混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値を取得するステップであって、前記混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値は、異なる相関関数を使用して取得される、ステップと、
前記混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値に基づいて、前記混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算するステップと、
前記混合状態に対応するハミルトニアンの期待値及び前記混合状態に対応するエントロピーに基づいて、前記目的関数の期待値を計算するステップと、を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記目標量子システムの第1の形態の熱化状態を取得する場合、前記目的関数は、第2の形態の熱化状態に対応する自由エネルギーであり、
前記第1の形態の熱化状態と前記第2の形態の熱化状態とは2つの異なる形態の熱化状態であり、且つ前記第1の形態の熱化状態と前記第2の形態の熱化状態とは局所近似特性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の形態の熱化状態は、ギブズ(Gibbs)熱化状態であり、
前記第2の形態の熱化状態は、レンニ(Renyi)熱化状態である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得するステップは、
前記ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、前記ニューラルネットワークの出力結果に対して値範囲の制限を行い、前記値範囲内の重みパラメータを取得するステップ、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記値範囲は[1/r,r]であり、rは1より大きい数値である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記システム量子ビットと前記補助量子ビットとは、交互に出現するように配列されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
量子系における熱化状態の調製装置であって、
パラメータ化量子回路を介して組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行った後に、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得する測定結果取得モジュールであって、前記組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、各組の測定結果は、前記システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び前記補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である、測定結果取得モジュールと、
ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得する重みパラメータ取得モジュールと、
前記重みパラメータ及び前記第1の測定結果に基づいて、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算する相関関数計算モジュールと、
前記混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算する目的関数計算モジュールと、
前記目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整する変分パラメータ調整モジュールであって、前記変分パラメータは、前記パラメータ化量子回路のパラメータ及び前記ニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む、変分パラメータ調整モジュールと、
前記目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、前記目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための前記目標量子システムの混合状態を取得する熱化状態取得モジュールと、を含む、装置。
【請求項11】
請求項1乃至9の何れかに記載の方法を実現するコンピュータ機器。
【請求項12】
請求項1乃至9の何れかに記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
量子系における熱化状態の調製システムであって、パラメータ化量子回路と、コンピュータ機器と、を含み、
前記パラメータ化量子回路は、組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行い、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態を取得し、前記組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、
前記コンピュータ機器は、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得し、各組の測定結果は、前記システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び前記補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数であり、
前記コンピュータ機器は、ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得し、前記重みパラメータ及び前記第1の測定結果に基づいて、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算し、前記混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算し、
前記コンピュータ機器は、前記目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整し、前記目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、前記目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための前記目標量子システムの混合状態を取得し、前記変分パラメータは、前記パラメータ化量子回路のパラメータ及び前記ニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2021年12月6日に出願した出願番号が202111479010.4であり、発明の名称が「量子系における熱化状態の調製方法、機器及び記憶媒体」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全ての内容を参照により本発明に援用する。
【0002】
本発明は、量子技術分野に関し、特に量子系における熱化状態の調製方法、機器及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0003】
幾つかの既存の研究では、パラメータ化回路により熱化状態を調製するスキームが提案されている。Gibbs(ギブズ)熱化状態の調製(preparation)を一例にすると、パラメータ化回路におけるパラメータ最適化の損失関数はGibbs自由エネルギーであり、このGibbs自由エネルギーにおけるGibbsエントロピーを測定する必要がある。
【0004】
パラメータ化回路により熱化状態を調製する従来のスキームでは、補助量子ビットの部分トレース(partial trace)を求めることによって、システム量子ビットでの混合状態を調製する。この場合、この混合状態のGibbsエントロピーは密度行列の非線形の対数関数であるため、直接効率的に測定することはできず、指数リソースを消費する状態トモグラフィーが必要となる。ここでいう「指数リソース」とは、測定の回数とシステム量子ビットの数とが指数関数的に関係しているため、測定に大量の時間がかかることを意味する。
【0005】
従って、現在のパラメータ化回路により熱化状態を調製するスキームは、効率が低い。
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施例は、量子系における熱化状態の調製方法、機器及び記憶媒体を提供する。その技術的手段は、以下の通りである。
【0007】
本発明の実施例の1つの態様では、コンピュータ機器が実行する、量子系における熱化状態の調製方法であって、パラメータ化量子回路を介して組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行った後に、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得するステップであって、前記組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、各組の測定結果は、前記システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び前記補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である、ステップと、ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得するステップと、前記重みパラメータ及び前記第1の測定結果に基づいて、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算するステップと、前記混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算するステップと、前記目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整するステップであって、前記変分パラメータは、前記パラメータ化量子回路のパラメータ及び前記ニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む、ステップと、前記目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、前記目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための前記目標量子システムの混合状態を取得するステップと、を含む、方法を提供する。
【0008】
本発明の実施例のもう1つの態様では、量子系における熱化状態の調製装置であって、パラメータ化量子回路を介して組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行った後に、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得する測定結果取得モジュールであって、前記組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、各組の測定結果は、前記システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び前記補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である、測定結果取得モジュールと、ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得する重みパラメータ取得モジュールと、前記重みパラメータ及び前記第1の測定結果に基づいて、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算する相関関数計算モジュールと、前記混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算する目的関数計算モジュールと、前記目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整する変分パラメータ調整モジュールであって、前記変分パラメータは、前記パラメータ化量子回路のパラメータ及び前記ニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む、変分パラメータ調整モジュールと、前記目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、前記目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための前記目標量子システムの混合状態を取得する熱化状態取得モジュールと、を含む、装置を提供する。
【0009】
本発明の実施例のもう1つの態様では、上記の量子系における熱化状態の調製方法を実現するコンピュータ機器を提供する。好ましくは、前記コンピュータ機器は、量子コンピュータ、又は古典コンピュータ、又は量子コンピュータと古典コンピュータとのハイブリッド装置の実行環境である。
【0010】
本発明の実施例のもう1つの態様では、コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムは、上記の量子系における熱化状態の調製方法を実現するように、プロセッサによりロードされて実行される、記憶媒体を提供する。
【0011】
本発明の実施例のもう1つの態様では、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されたコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品であって、プロセッサは、上記の量子系における熱化状態の調製方法を実現するように、前記コンピュータ読み取り可能な記憶媒体から前記コンピュータプログラムを読み取って実行する、コンピュータプログラム製品を提供する。
【0012】
本発明の実施例のもう1つの態様では、量子系における熱化状態の調製システムであって、パラメータ化量子回路と、コンピュータ機器と、を含み、前記パラメータ化量子回路は、組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行い、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態を取得し、前記組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、前記コンピュータ機器は、前記パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得し、各組の測定結果は、前記システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び前記補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数であり、前記コンピュータ機器は、ニューラルネットワークにより前記第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得し、前記重みパラメータ及び前記第1の測定結果に基づいて、前記目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算し、前記混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算し、前記コンピュータ機器は、前記目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整し、前記目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、前記目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための前記目標量子システムの混合状態を取得し、前記変分パラメータは、前記パラメータ化量子回路のパラメータ及び前記ニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む、システムを提供する。
【0013】
本発明の実施例に係る技術的手段は、少なくとも以下の有利な効果を奏する。
【0014】
目標量子システムの熱化状態を調製する際に、ニューラルネットワーク後処理のスキームを導入することによって、まずパラメータ化量子回路によりシステム量子ビット及び補助量子ビットの入力量子状態を処理し、その後にニューラルネットワークにより補助量子ビットに対応する測定結果を処理し、対応する重みパラメータを取得し、該重みパラメータを用いて混合状態における確率を近似的に表現し、構築された混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算し、目的関数の期待値が収束するようにパラメータ化量子回路のパラメータ及びニューラルネットワークのパラメータを最適化し、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための目標量子システムの混合状態を取得する。本発明は、ニューラルネットワークを導入して重みパラメータを出力することによって、該重みパラメータを利用して異なる補助量子ビットの測定結果に対応する重みを調整して、ニューラルネットワークの訓練可能なパラメータにより、回路全体の表現能力を強化し、熱化状態をより高効率且つ精確に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製アーキテクチャの概略図である。
図2】本発明の1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製方法のフローチャートである。
図3】本発明のもう1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製方法のフローチャートである。
図4】本発明の1つの実施例に係る実験結果の概略図である。
図5】本発明のもう1つの実施例に係る実験結果の概略図である。
図6】本発明のもう1つの実施例に係る実験結果の概略図である。
図7】本発明の1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製装置のブロック図である。
図8】本発明の1つの実施例に係るコンピュータ機器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目的、解決手段、利点をより明確にするために、以下は、図面を参照しながら本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の技術的スキームを説明する前に、本発明に関連する幾つかの重要な用語を説明する。
【0018】
1.量子計算:量子論理に基づく計算方式であり、データを記憶する基本ユニットは量子ビット(qubit)である。
【0019】
2.量子ビット:量子計算の基本単位である。従来のコンピュータは、バイナリの基本単位として0と1を使っている。量子計算は、それと異なって、0と1を同時に処理することができ、システムは0と1の線形重ね合わせ状態
(外1)
にあることができる。ここで、α、βは、0と1の複素数確率幅を表し、そのモジュロの2乗|α|、|β|は、それぞれ0と1の確率を表す。
【0020】
3.量子回路:量子汎用コンピュータの表現の1つであり、対応する量子アルゴリズム/プログラムの量子ゲートモデルでのハードウェア実現を代表する。量子回路に量子ゲートを制御する可変パラメータが含まれる場合、パラメータ化量子回路(Parameterized Quantum Circuit:PQC)又は変分量子回路(Variational Quantum Circuit:VQC)と称され、両者は同一の概念である。
【0021】
4.ハミルトニアン:量子システムの総エネルギーのエルミート共役を表す行列である。ハミルトニアンは、システムの総エネルギーを表す物理学的用語であり、通常はHで表される。
【0022】
5.固有状態(eigenstate):ハミルトニアン行列Hについて、方程式
(外2)
を満たす解は、Hの固有状態
(外3)
と称され、固有エネルギーEを有する。基底状態は、量子システムのエネルギーが最も低い固有状態に対応する。
【0023】
6.量子古典ハイブリッド計算:内層が量子回路(例えばPQC)を用いて対応する物理量又は損失関数を計算し、外層が従来の古典最適化器を用いて量子回路変分パラメータを調整する計算パラダイムであり、最大限度に量子計算の優勢を発揮でき、潜在力で量子優勢を証明する重要な方向の一つと信じられる。
【0024】
7.NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum):最近の中規模のノイズのある量子ハードウェアであり、量子計算の発展が現在の段階と研究の重点方向である。この段階の量子計算は、一時的に規模とノイズの制限のため、汎用計算のエンジンとして適用することができないが、一部の問題では、最強の古典コンピュータを超える結果を達成することができ、通常、量子超越性又は量子優位性と称される。
【0025】
8.変分量子固有ソルバー(Variational Quantum Eigensolver:VQE):変分回路(即ちPQC/VQC)により特定の量子システムの基底状態エネルギーの推定を実現し、典型的な量子古典ハイブリッド計算パラダイムであり、量子化学領域に広く応用されている。
【0026】
9.ポスト選択(post-selection):量子コンピュータにより出力された測定結果に対して、あるビットに対応するビット文字列(bitstring)の具体的な値に基づいて、この測定結果を保持又は破棄することを選択することであり、ポスト選択と称される。ポスト選択は、現在の多くの研究の焦点分野に存在し、これらの分野は、線形ユニタリ行列の組み合わせによるLCU(linear combinations of unitary operations:ユニタリ演算の線形結合(線形結合演算子))の実現、及び測定によるエンタングルメントエントロピー相転移を含むが、これらに限定されない。
【0027】
10.Pauli string(パウリ文字列):異なる格子点における複数のパウリ行列の直積からなる項では、一般のハミルトニアンは、通常、1組のパウリ文字列の和に分解できる。VQEの測定も、通常、パウリ文字列分解に従って項ごとに測定される。
【0028】
11.非ユニタリ:ユニタリ行列とは、
(外4)
を満たす全ての行列である。全ての量子力学が直接許可する進化プロセスは、ユニタリ行列により記述できる。ここで、Uはユニタリ行列(Unitary Matrix)であり、Unitary行列、ユニタリ正方行列などとも称され、
(外5)
はUの共役転置である。また、この条件を満たさない行列は非ユニタリであり、補助手段、さらには指数関係的に多いリソースにより実験的に実現できるが、非ユニタリ行列はより強い表現能力とより速い基底状態の投影効果を有する場合が多い。上述した「指数関数的に多いリソース」とは、量子ビット数の増加に伴い、リソースの需要量が指数関係的に増加することを意味する。この指数関係的に多いリソースは、計測すべき量子回路の総数が指数関係的に多いこと、即ち、それに応じて指数関係的に多い計算時間が必要であることを意味することができる。
【0029】
12.ビット文字列(bitstring):0、1からなる数字の列である。量子回路の毎回の測定で得られた古典的な結果は、測定基底でのスピン配置の上下に応じてそれぞれ0、1で表すことができるため、全体の一回の測定結果は1つのビット文字列に対応する。
【0030】
13.パウリ演算子:パウリ行列とも呼ばれ、3つの2×2のユニタリエルミート複素行列(ユニタリ行列とも称され)であり、通常はギリシャ文字σ(シグマ)で表される。ここで、パウリX演算子は、
(外6)
であり、パウリY演算子は、
(外7)
であり、バブルZ演算子は
(外8)
である。
【0031】
14.混合状態:波動関数が表す純粋状態に対するものであり、一組の
(外9)
記述により、そのシステムが有するp個の古典確率が波動関数
(外10)
状態にあることを意味する。この状態は、密度行列の数学的構造により記述することができ、密度行列ρは
(外11)
として定義される。
【0032】
15.Gibbs熱化状態:熱平衡分布を満たす量子混合状態を意味し、即ち、その古典確率はボルツマン分布
(外12)
を満たし、Zは分配関数(正規化因子)であり、
(外13)
はシステム温度の逆数であり、Eは物理システムの固有エネルギースペクトルである。このGibbs熱化状態は、ハミルトニアンHの行列指数を用いてより簡潔に
(外14)
として表されてもよい。もしGibbs熱化状態を効率的に調製することができれば、有限の温度熱平衡システムの物理特性と相関関数測定を実現できる。Gibbs熱化状態は、以下のGibbsエントロピーを伴う自由エネルギー損失関数が最小となる場合に対応する混合状態ρでもある。
【0033】
【数1】
ここで、この式の1番目の項Tr(Hρ)はエネルギー項であり、2番目の項
(外15)

(外16)
として簡略化でき、SはGibbsエントロピーと呼ばれる。Gibbsエントロピーは、平衡状態の熱力学平衡での体系エントロピーの通用式である。体系がn個のエネルギー準位を有し、i番目のエネルギー準位を占める確率がpである場合、体系のエントロピーは、
(外17)
であり、ここで、kはボルツマン定数(Boltzmann constant)であり、この式はGibbsエントロピー公式と呼ばれる。
【0034】
16.Renyi(レンニ)熱化状態:Renyiエントロピー(Renyi entropy)を伴う自由エネルギーを最小化する損失関数であり、対応する混合状態ρは以下のようになる。
【0035】
【数2】
ここで、2番目の項は
(外18)
Renyiエントロピーに温度因子を乗算するものである。αはRenyiエントロピーの次数(2以上の正の整数)である。本発明では、α=2の場合のみに関心があり、他の場合も類似しているが、高次のRenyiエントロピーの回路測定はより多くのリソースを消費するため、一般には実際にα=2を利用すればよい。ここで、1/βαは物理的に意味のないラグランジュ因子として理解すべきであるが、必ずしも温度の逆数に対応するとは限らず、最適なρに対応するエネルギーが温度βのGibbs熱化状態とが同一になるようにβαを調整する場合、ここのRenyi熱化状態の温度の逆数はβであると言う。数値実験では、比較的に大きな温度区間においてβα=βとなることが示されている。α=2のRenyi熱化状態について、そのエネルギー固有基底での対応する確率分布は、
(外19)
であり、ここで、
(外20)
は対応する熱化状態がRenyi自由エネルギーを最小化する定数値である。
【0036】
17.忠実度(fidelity):2つの混合状態ρ、ρの間の忠実度は、次のように定義される。
【0037】
【数3】
完全に同一の2つの混合状態間の忠実度は1である。
【0038】
18.トレース距離(trace distance):2つの混合状態ρ、σの間のトレース距離Tは次のように定義される。
【0039】
【数4】
完全に同一の2つの混合状態間のトレース距離は0である。
【0040】
19.温度制限ありシステム:温度が0より大きいシステムを意味し、基底状態に対応する零温度システムに対するものである。温度制限ありシステムにおける平衡状態は基底状態ではなく、Gibbs熱化状態に代表される混合状態である。
【0041】
20.自由エネルギー:ある熱力学過程において、システムが減少した内部エネルギーが外部へ仕事をする部分に転化できることを意味し、ある熱力学過程においてシステムが外部へ出力できる「有用なエネルギー」を評価するものである。Helmholtz(ヘルムホルツ)自由エネルギーとGibbs自由エネルギーに分けられる。
【0042】
本発明に係る技術的スキームは、NISQ時期の量子ハードウェアの発展と実用性を加速と増強することに役立つ。本発明に係るニューラルネットワーク変分後に選択された強化スキームは、NISQ時代の量子ハードウェアの特徴を十分に考慮し、古典ニューラルネットワーク部分により比較的に浅い量子回路の表現能力を増加することができる。さらに、このスキームは、他のNISQ変分後処理スキーム、例えば、変分量子-ニューラルネットワークハイブリッド固有ソルバー(Variational Quantum Neural network Hybrid Eigensolver:VQNHE)などと完全に互換性があり(本発明のニューラルネットワークは補助量子ビットに作用し、VQNHEスキームのニューラルネットワークはシステム量子ビットに作用する)、混合状態の調製、即ち、温度制限ありVQEの効果をさらに高めるために組み合わせて使用することができる。このスキームは、NISQハードウェアで有効な量子優位性を示すために基礎を築き、量子コンピュータの商業化応用の可能性を加速する。
【0043】
本発明のスキームは、中短期内に、量子ハードウェアの評価やテストの科学研究と実際生産に比較的に容易に応用できる。その応用は、量子多体物理と量子化学問題からの体系のハミルトニアンの温度制限あり状態に対するシミュレーションを含むが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の実施例に係る量子系における熱化状態の調製方法は、古典コンピュータ(例えばPC(Personal Computer:パーソナルコンピュータ))により実現されてもよく、例えば、古典コンピュータが該方法を実現するように対応するコンピュータプログラムを実行してもよいし、量子コンピュータにより実現されてもよいし、古典コンピュータと量子コンピュータとのハイブリッド装置の環境で実行されてもよく、例えば古典コンピュータと量子コンピュータとの協働により実現されてもよい。例えば、量子コンピュータは、本発明の実施例に係る量子状態の処理及び測定を実現し、古典コンピュータは、本発明の実施例に係るニューラルネットワークの計算、目的関数の計算、変分パラメータの最適化などの他のステップを実現する。
【0045】
以下の方法の実施例では、説明の便宜上、各ステップの実行主体がコンピュータ機器であることを一例として説明する。なお、コンピュータ機器は、古典コンピュータであってもよいし、量子コンピュータであってもよいし、古典コンピュータと量子コンピュータとのハイブリッド実行環境を含んでもよいが、本発明の実施例はこれらに限定されない。
【0046】
図1は、本発明の1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製アーキテクチャの概略図である。図1に示すように、該アーキテクチャは、パラメータ化量子回路(PQC)10、ニューラルネットワーク20、及び最適化装置30を含む。パラメータ化量子回路10は、組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行い、対応する出力量子状態を取得する。ここで、組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含む。パラメータ化量子回路10の出力量子状態に対してn回の測定を行い、n組の測定結果を取得する。各組の測定結果は、システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である。ニューラルネットワーク20は、第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得する。重みパラメータ及び第1の測定結果に基づいて、目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算し、該混合状態の相関関数値に基づいて目的関数の期待値を計算する。最適化装置30は、目的関数の期待値が収束するように目標対象(パラメータ化量子回路10及び/又はニューラルネットワーク20を含む)のパラメータを調整する。目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの混合状態を取得し、この際に取得された混合状態は、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現することができる。
【0047】
図2は、本発明の1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製方法のフローチャートである。この方法は、図1に示すアーキテクチャに適用することができ、例えば、各ステップの実行主体は、コンピュータ機器であってもよい。この方法は、以下のステップ(210~260)を含んでもよい。
【0048】
ステップ210において、パラメータ化量子回路を介して組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行った後に、パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得する。ここで、組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、各組の測定結果は、システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である。
【0049】
目標量子システムは、研究すべき任意の量子システムであってもよい。本実施例に係る技術的スキームによって、該目標量子システムの温度制限ありシステムにおける熱化状態を近似的に調製することができる。例えば、目標量子システムは、任意の量子物理系又は量子化学系であってよく、得られた目標量子システムの熱化状態は、該システムの実際の材料の温度制限あり状態における真の性質を評価するために使用されてもよいし、該システムの非熱平衡系における挙動を研究するために使用されてもよい。システム量子ビットとは、目標量子システムに含まれる量子ビットであり、例えば、目標量子システムに5つの量子ビットが含まれる場合、システム量子ビットの数は5である。補助量子ビットは、目標量子システムの混合状態を取得するために調製されるものである。本発明では、補助量子ビットの数が限定されず、例えば、補助量子ビットの数は、システム量子ビットの数と同一であってもよいし、システム量子ビットの数よりも小さく、或いは大きくてもよい。原理として、補助量子ビットの数が多いほど、例えば、補助量子ビットの数がシステム量子ビットの数に近いほど、最終的に調製された熱化状態の近似効果がより良くなるが、補助量子ビットの数が増えることにより、処理プロセス全体の複雑さが増加するため、精度及び複雑さを総合的に考慮して、適切な数の補助量子ビットを選択することができる。
【0050】
パラメータ化量子回路の入力は、組み合わせ量子ビットの入力量子状態を含み、即ち、システム量子ビット及び補助量子ビットの入力量子状態を含む。入力量子状態は、一般に、全ゼロ状態、均一重ね合わせ状態、又はHartree-Fock(ハートリーフォック)状態を使用することができ、この入力量子状態は、探索状態とも呼ばれる。
【0051】
本発明の実施例では、システム量子ビットと補助量子ビットの配列方式に限定されない。例えば、システム量子ビットと補助量子ビットとは、交互に出現するように配列されてもよい。一例として、システム量子ビットと補助量子ビットとは、1つずつ間隔を置いて配列されてもよいし、複数のシステム量子ビットごとに1つの補助量子ビットが挿入されるように配列されてもよい。交互に出現するように配列されることで、システム量子ビットと補助量子ビットとの間のエンタングルメントを最大限に向上させることができるため、パラメータ化量子回路はより浅い回路深度を使用し、複雑度を低下させることができる。
【0052】
パラメータ化量子回路は、組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行い、対応する出力量子状態を出力する。システム量子ビットに対応する出力量子状態を測定することによって、第1の測定結果を取得することができる。補助量子ビットに対応する出力量子状態を測定することによって、第2の測定結果を取得することができる。上記の第1の測定結果は、1つのビット文字列であってもよく、本明細書では第1のビット文字列と称され、図1では、この第1のビット文字列はs’で表される。上記の第2の測定結果も、
1つのビット文字列であってもよく、本明細書では第2のビット文字列と呼ばれ、図1では、この第2のビット文字列はsで表される。パラメータ化量子回路の出力量子状態に対して複数回の測定を行うことによって、毎回の測定は1組の測定結果を取得し、最終に複数組の測定結果を取得することができる。任意の2回で得られた測定結果は、同一であってもよいし、異なってもよい。
【0053】
本発明の実施例では、パラメータ化量子回路により組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行い、パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行い、n組の測定結果を取得する。コンピュータ機器は、上記のn組の測定結果を取得し、後述する後続のステップを実行する。ここで、測定回路によりパラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行い、n組の測定結果を取得することができる。本発明の実施例では、測定回路の具体的な構成に限定されず、パラメータ化量子回路の出力量子状態を測定することが可能な回路であれば良い。
【0054】
ステップ220において、ニューラルネットワークにより第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得する。
【0055】
本発明の実施例では、ニューラルネットワークを用いて、補助量子ビットに対応する第2の測定結果(例えば第2のビット文字列s)を処理する。ニューラルネットワークの出力結果は、重みパラメータと呼ばれる。第2の測定結果をニューラルネットワークに入力し、ニューラルネットワークにより重みパラメータを計算する。本発明の実施例では、ニューラルネットワークの構成に限定されず、単純な全結合構造であってもよいし、他のより複雑な構造であってもよく、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
ステップ230において、重みパラメータ及び第1の測定結果に基づいて、目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算する。
【0057】
好ましくは、n個の第2の測定結果のそれぞれに対応する重みパラメータに基づいて、n個の第1の測定結果のそれぞれに対応する演算結果に対して加重平均を行い、目標量子システムの混合状態の相関関数値を取得する。第1の測定結果と第2の測定結果とは1対1に対応しているため、同一の組の測定結果に属する第1の測定結果と第2の測定結果について、該第2の測定結果に基づいて得られた重みパラメータに基づいて、同一の組の第1の測定結果に対応する演算結果と乗算し、1つの積結果を取得する。このように、n組の測定結果について、n個の積結果を取得することができ、このn個の積結果を加算して、加重合計結果を取得し、そして、この加重合計結果に基づいて目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算してもよい。例えば、この加重合計結果をn個の第2の測定結果のそれぞれに対応する重みパラメータの和で除算して、目標量子システムの混合状態の相関関数値を取得する。
【0058】
好ましくは、目標相関関数を採用してn個の第1の測定結果にそれぞれ演算処理を行い、n個の第1の測定結果にそれぞれ対応する演算結果を取得する。ここで、目標相関関数は、目標量子システムの混合状態の相関関数値を取得するために使用される。
【0059】
ステップ240において、混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算する。
【0060】
目的関数は、変分パラメータを最適化するために使用される。好ましくは、目的関数の期待値は、混合状態の相関関数値に基づいて算出された混合状態の自由エネルギーである。
【0061】
ステップ250において、目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整する。ここで、変分パラメータは、パラメータ化量子回路のパラメータ及びニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む。
【0062】
目的関数の期待値が収束するように目標を最適化する。好ましくは、目的関数の期待値が最小値に収束するように、変分パラメータに対して最適化調整を行う。なお、幾つかの他の可能な態様では、目的関数の期待値が最大値に収束するように、変分パラメータに対して最適化調整を行ってもよい。本発明は、目的関数の期待値の収束方向に限定されない。
【0063】
好ましくは、変分パラメータは、パラメータ化量子回路のパラメータとニューラルネットワークのパラメータを含む。即ち、パラメータ化量子回路とニューラルネットワークの両方のパラメータを最適化する。目的関数の期待値が収束するように、パラメータ化量子回路のパラメータとニューラルネットワークのパラメータを調整し、このような複数回の反復的な最適化を経て、目的関数の期待値が収束条件を満たすようになる。また、パラメータ化量子回路のパラメータとニューラルネットワークのパラメータとを同期して調整してもよいし、順次に調整してもよく、即ち、一方のパラメータを固定して他方のパラメータを調整してもよいが、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
また、幾つかの他の可能な態様では、ニューラルネットワークのパラメータを調整せず、パラメータ化量子回路のパラメータのみを調整してもよいし、パラメータ化量子回路のパラメータを調整せず、ニューラルネットワークのパラメータのみを調整してもよいが、本発明はこれらに限定されない。
【0065】
ステップ260において、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための目標量子システムの混合状態を取得する。
【0066】
目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、この際に上記の方法により調製された目標量子システムの混合状態は、目標量子システムの熱化状態に近似的に等しい。
【0067】
具体的には、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、パラメータ化量子回路により出力されたシステム量子ビットに対応する複数組の出力量子状態、及びニューラルネットワークにより出力された補助量子ビットに対応する複数組の重みパラメータを取得し、重みパラメータを確率値と見なし、該複数組の重みパラメータと該複数組の出力量子状態とを1対1に対応させ、目標量子システムの混合状態を取得する。この際に得られた混合状態は、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するために用いられる。
【0068】
本発明に係る技術的スキームは、目標量子システムの熱化状態を調製する際に、ニューラルネットワーク後処理のスキームを導入することによって、まずパラメータ化量子回路によりシステム量子ビット及び補助量子ビットの入力量子状態を処理し、その後にニューラルネットワークにより補助量子ビットに対応する測定結果を処理し、対応する重みパラメータを取得し、該重みパラメータを用いて混合状態における確率を近似的に表現し、構築された混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算し、目的関数の期待値が収束するようにパラメータ化量子回路のパラメータ及びニューラルネットワークのパラメータを最適化し、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための目標量子システムの混合状態を取得する。本発明は、ニューラルネットワークを導入して重みパラメータを出力することによって、該重みパラメータを利用して異なる補助量子ビットの測定結果に対応する重みを調整して、ニューラルネットワークの訓練可能なパラメータにより、回路全体の表現能力を強化し、熱化状態をより高効率且つ精確に調製することができる。
【0069】
図3は、本発明のもう1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製方法のフローチャートである。この方法は、図1に示すアーキテクチャに適用することができ、例えば、各ステップの実行主体は、コンピュータ機器であってもよい。この方法は、以下のステップ(310~390)を含んでもよい。
【0070】
ステップ310において、パラメータ化量子回路を介して組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行った後に、パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得する。ここで、組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、各組の測定結果は、システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である。
【0071】
好ましくは、システム量子ビットと補助量子ビットとは、交互に出現するように配列されている。パラメータ化量子回路はある程度のエンタングルメントが必要となるため、また、単一層で作られるエンタングルメントが大きいほど、必要な回路の層数が少なくなる。システム量子ビットと補助量子ビットとが交互に出現するように配列されることで、システム量子ビットと補助量子ビットのエンタングルメントを最大化させ、パラメータ化量子回路に必要な回路の深度も浅くなる。
【0072】
ステップ320において、ニューラルネットワークにより第2の測定結果を処理し、ニューラルネットワークの出力結果に対して値範囲の制限を行い、値範囲内の重みパラメータを取得する。
【0073】
異なる第2の測定結果がニューラルネットワークに入力されると、ニューラルネットワークにより出力された重みパラメータの変動が大きすぎるため、推定された相対誤差を制御することが困難になる可能性があることを考慮する。その原因は、重みパラメータが混合状態における確率を近似的に表現しており、これが補助量子ビットに対応する出力量子状態を測定して得られた第2の測定結果の確率とのミスマッチが比較的に深刻であり、即ち、重要性サンプリング分布と実際の分布とが一致せず、誤差が比較的に大きいことである。そのため、ニューラルネットワークの出力結果について値範囲を制限してもよい。これによって、相関関数値を推定するために必要な測定回数が体系の大きさに伴って指数関数的に分散することを回避することができる。このようなニューラルネットワークの出力結果について値範囲を制限する熱化状態の調製スキームは、有界(限界あり)ニューラルネットワーク後処理の熱化状態の調製スキームと称される。
【0074】
好ましくは、上記の値範囲は[1/r,r]に設定され、rは1より大きい数値である。値範囲を[1/r,r]に設定することによって、指定の精度に達する場合、本発明に係る熱化状態の調製を行うために必要な測定回数を数学的に厳密に制御することができ、通常のVQEアーキテクチャを採用して固有状態の推定を行うために必要な測定回数と比べて、rの多項式倍だけ多い。ここで、rの値が大きいほど、熱化状態の調製アーキテクチャの表現能力は良くなるが、誤差も大きくなるため、一定の表現能力を確保すると共に大きな誤差が生じないようにするために、実験を行ったところ、rの値を
(外21)
に設定してもよいことが分かった。
【0075】
なお、本発明は、値範囲を制限する方式に限定されない。1つの可能な態様では、ニューラルネットワークが値範囲外の値を出力せず、値範囲内の値のみを出力するように、ニューラルネットワークの出力を直接制限してもよい。このような方法では、ニューラルネットワークにより出力された値を重みパラメータとして直接使用してもよい。別の可能な態様では、ニューラルネットワークの出力を直接的に制限せず、ニューラルネットワークの出力は、値範囲外の値であってもよく、その後、ニューラルネットワークの出力に対して数値のマッピングを行い、値範囲内の値を最終的な重みパラメータとして取得してもよい。
【0076】
ステップ330において、目標相関関数を使用してn個の第1の測定結果のそれぞれに対して演算処理を行い、n個の第1の測定結果にそれぞれ対応する演算結果を取得する。
【0077】
ここで、目標相関関数は、目標量子システムの混合状態の目標パウリ文字列での相関関数値を取得するために使用される。
【0078】
好ましくは、複数の異なるパウリ文字列からシステム量子ビットに対応する第1の測定結果を演算し、異なるパウリ文字列に対応する演算結果を取得する。例えば、異なる目標相関関数を用いて、第1の測定結果をそれぞれ演算処理し、目標量子システムの混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値を取得してもよい。そして、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値に基づいて、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算し、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値と混合状態に対応するエントロピーに基づいて、目的関数の期待値を計算する。好ましくは、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値の合計結果に基づいて、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算する。目的関数はハミルトニアン及び他の幾つかのパラメータに基づいて構築されるため、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値、及び混合状態に対応するエントロピーに基づいて、目的関数の期待値を計算することができる。目的関数の具体的な実施形態について、以下の説明を参照してもよい。
【0079】
ステップ340において、n個の第2の測定結果のそれぞれに対応する重みパラメータに基づいて、n個の第1の測定結果のそれぞれに対応する演算結果に対して加重平均を行い、目標量子システムの混合状態の相関関数値を取得する。
【0080】
例えば、目標量子システムの混合状態の目標パウリ文字列での相関関数値Cは、以下のようになる。
【0081】
【数5】
ここで、w(s)は第2の測定結果(例えば第2のビット文字列s)に対応する重みパラメータを表し、C(s’)は第1の測定結果(例えば第1のビット文字列s’)に対応する演算結果を表し、C()は目標相関関数を表す。
【0082】
一例として、C(s’)の計算式は、次のようになる。
【0083】
【数6】
ここで、s’は第1のビット文字列s’におけるm番目のビットの値を表し、s’=0又は1となり、mは第1のビット文字列s’の長さを表し、第1のビット文字列s’におけるビット数を示し、mは正の整数である。
【0084】
例えば、第1のビット文字列の長さが2である場合、第1のビット文字列s’=s’s’=01であると仮定すると、C(s’)=(1-2*0)*(1-2*1)=-1となる。
【0085】
ステップ350において、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値を取得する。
【0086】
ここで、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値は、異なる相関関数を使用して取得される。
【0087】
本発明の実施例では、複数の異なるパウリ文字列から、システム量子ビットに対応する出力量子状態を測定し、異なるパウリ文字列の測定結果に基づいて、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値を取得してもよい。
【0088】
ステップ360において、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値に基づいて、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算する。
【0089】
好ましくは、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値の合計結果に基づいて、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算する。
【0090】
ステップ370において、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値及び混合状態に対応するエントロピーに基づいて、目的関数の期待値を計算する。
【0091】
混合状態に対応するハミルトニアンの期待値と、この混合状態に対応するエントロピーとに基づいて、目的関数の期待値を計算する。好ましくは、上記の混合状態に対応するエントロピーは、混合状態に対応するGibbsエントロピー又はRenyiエントロピーであってもよい。好ましくは、目的関数は、混合状態に対応する自由エネルギーの計算式で表されてもよい。目標量子システムの混合状態に対応する自由エネルギーが収束する場合(例えば、最小値となる場合)、この際の混合状態は、該目標量子システムの温度制限ありシステムにおける熱化状態と見なされてもよい。
【0092】
好ましくは、目標量子システムの第1の形態の熱化状態を取得する場合、目的関数は、第2の形態の熱化状態に対応する自由エネルギーである。ここで、第1の形態の熱化状態と第2の形態の熱化状態とは2つの異なる形態の熱化状態であり、且つ第1の形態の熱化状態と第2の形態の熱化状態とは局所近似特性を有する。局所近似特性とは、ある特定の場合、上記の2つの形態の熱化状態により与えられる局所観察量の期待値が類似することを意味する。
【0093】
幾つかの態様では、第1の形態の熱化状態は、ギブズ(Gibbs)熱化状態であり、第2の形態の熱化状態は、レンニ(Renyi)熱化状態である。Gibbs熱化状態とRenyi熱化状態とは局所近似特性を持ち、Renyi自由エネルギーが最小となる混合状態は、Gibbs熱化状態と局所的関連において熱力学的な限界で一致する。従って、目標量子システムのGibbsの熱化状態を得ようとすると、Gibbsの自由エネルギーを目的関数とするのが最も直接的な方法であるが、量子コンピュータでの測定ではGibbsの自由エネルギーにおけるGibbsのエントロピーの測定と求解が複雑になりすぎるため、上記の局所近似特性を利用してRenyiの自由エネルギーを目的関数としてもよい。量子コンピュータで測定する際に、Renyi自由エネルギーにおけるRenyiエントロピーの測定と求解は、Gibbsエントロピーの測定と求解よりも簡単で効率的である。なお、古典コンピュータで数値シミュレーションを行った場合、GibbsエントロピーとRenyiエントロピーの計算複雑度に大きな差はない。
【0094】
例えば、目標量子システムのGibbs熱化状態を取得する際に、Renyi自由エネルギーを目的関数として使用し、この目的関数は以下のようになる。
【0095】
【数7】
ここで、Hは混合状態に対応するハミルトニアンを表し、ρは混合状態に対応する密度行列を表し、β及びαは温度パラメータであり、Trは行列のトレースを求めることを表す。
【0096】
好ましくは、α=2、且つβ=βの場合のRenyiの熱化状態は、Gibbsの熱化状態を近似的に表現するために使用される。
【0097】
また、数値実験の観点から、目標量子システムのGibbs熱化状態を取得する際に、Gibbs自由エネルギーを目的関数として直接使用してもよい。この場合、目的関数は以下のようになる。
【0098】
【数8】
ここで、Hは混合状態に対応するハミルトニアンを表し、ρは混合状態に対応する密度行列を表し、βは温度パラメータであり、Trは行列のトレースを求めることを表す。
【0099】
ステップ380において、目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整する。ここで、変分パラメータは、パラメータ化量子回路のパラメータ及びニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む。
【0100】
パラメータ化量子回路とニューラルネットワークのパラメータの最適化は、勾配最適化又は無勾配最適化のスキームを採用してもよく、これは他の変分量子アルゴリズムと一致する。なお、ここで、ニューラルネットワーク重み付けの期待は、パラメータ並進が解析勾配を求める条件を満たさないため、量子回路のパラメータ部分の勾配は、有限差分の形でしか推定できない。
【0101】
ステップ390において、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための目標量子システムの混合状態を取得する。
【0102】
目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、この際に上記の方法により調製された目標量子システムの混合状態は、目標量子システムの熱化状態に近似的に等しい。
【0103】
本実施例では、有界ニューラルネットワーク後処理を採用する熱化状態の調製スキームは、ニューラルネットワークの出力結果に対して値範囲の制限を行うことによって、最終に取得された重みパラメータを該値範囲内に制限することで、ニューラルネットワークにより出力された重みパラメータの変動が大きすぎることによる、推定の相対誤差を制御しにくいという問題を回避することができ、最終に取得された熱化状態の精度をさらに向上させることができる。
【0104】
また、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値に基づいて、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算した後、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値及び混合状態に対応するエントロピーに基づいて、目的関数の期待値を計算することによって、目的関数の求解は混合状態の複数の異なるパウリ文字列での情報を総合的に考慮し、目的関数の精度を向上させることで、最終的に取得された熱化状態の精度をさらに向上させることができる。
【0105】
また、Gibbs熱化状態とRenyi熱化状態とが局所近似特性を持つことを利用することによって、目標量子システムのGibbs熱化状態を取得しようとする際に、Renyi自由エネルギーを目的関数として使用することで、Gibbs自由エネルギーを目的関数として直接使用する場合に比べて、計算複雑度を簡略化し、効率を向上させることができる。Renyiエントロピー、特に低次のRenyiエントロピーが回路で比較的に測定しやすいという特徴を利用して、多項式リソースで熱化状態に対する高効率の近似を実現した。例えば、α=2の場合のRenyi2次のRenyiエントロピーは、必要リソースと測定回数が著しく減少する。
【0106】
関連技術では、Gibbsの熱化状態を調製する別のスキーム(スキーム2と称される)をさらに提供する。スキーム2では、特定のアーキテクチャを使用して、Gibbsエントロピーを古典的な確率モデルの計算に近似することができる。このスキームは、まず古典ニューラルネットワーク確率モデルによりシステムの量子ビットと同一の自由度のビット文字列を生成し、対応する古典確率はp(i)であり、p(i)は測定により得られたビット文字列がiである確率を表し、その後、ビット文字列iに対応する量子直積状態
(外22)
を、システムの量子ビットにのみ作用するパラメータ化量子回路Vに入力して、対応する混合状態を構成する。数学では、この混合状態に対応する密度行列ρは、以下のようになる。
【0107】
【数9】
ここで、
(外23)
は、システムの量子ビットsでのビット文字列を表す。
【0108】
この場合、異なる出力状態
(外24)
間の直交により、この混合状態に対応するGibbsエントロピーは、古典Gibbsエントロピーに正規化される。
【0109】
【数10】
ここで、pと上記の式におけるp(i)とは同一の意味を有する。
【0110】
これによって、追加的な測定を必要とせず、Gibbsエントロピーを効率的に計算することができる。
【0111】
しかし、このスキームは、熱化状態を近似する精度において、本発明の方法とは大きな差がある。
【0112】
以下は、上記の関連技術に係るニューラルネットワーク前置+量子回路の手法と比較して、本発明に係る量子回路+ニューラルネットワーク後処理の手法の表現能力において優れていることを説明する。
【0113】
最適化されたエントロピー付き自由エネルギーに基づく数値シミュレーションの結果により、比較可能な場合に、本発明のスキームは、厳密な熱化状態により近くすることができ、より良好な表現能力を有することを示している。
【0114】
N=8の格子点の周期的境界条件の横磁場イジングモデル(TFTM)をテスト体系とし、この横磁場イジングモデルのハミルトニアンは、以下のように表すことができる。
【0115】
【数11】
ここで、ZはパウリZ演算子を表し、XはパウリX演算子を表し、nは正の整数であり、iはn以下の正の整数である。
【0116】
このシステムは、温度β=1の場合、対応する熱平衡態の自由エネルギーは-11.35678である。
【0117】
選択されたパラメータ化量子回路の構造は、次のようになる。
【0118】
【数12】
ここで、Pは繰り返し構造
(外25)
の数であり、Hはi番目の量子ビットに作用するアダマール(Hadamard)ゲートであり、その行列は
(外26)
として表される。
【0119】
量子ビットとシステム量子ビットとは交互に出現するように配列されている。これは、この配列により物理システムと補助システムとのエンタングルメントを最大化することができ、より浅い回路深度で物理システムの部分を熱化することができるためである。回路は常に一定のエンタングルメントを必要とするため、各層によるエンタングルメントが大きくなると、必要な回路の層数が少なくなる。従って、本発明のスキームは、2N=16ビットのシステムを必要とする。対応するスキーム2に対応する回路は、同様な構成を採用し、8つの物理システムのビットのみを占有する。言い換えれば、本発明のスキームは、スキーム2の2倍の量子ビット数を使用する。従って、量子ゲート数を比較可能にするためには、少なくとも既存のスキームと2倍の深度のスキーム2の表現能力を比較すべきである。実際には、既存のシナリオのアーキテクチャに、より複雑な[ZZ,Rx,Ry]*Pの変分回路構造を適用した。本発明のスキームでは、より保守的な[ZZ,Rx]*Pの回路構造のみを採用した。ここで、回路の表現能力を比較しているため、数値的には、両者が何れもGibbsエントロピーを持つ自由エネルギーを最適化の目的関数としている。その結果は、より深い回路デコヒーレンスに対する雑音のより深刻な影響を考慮しなくても、本発明のスキームに係る熱化状態の調製がより強い表現能力を依然として有することを示している。
【0120】
本発明のスキームでは、P=8の場合、最適化により混合状態を取得し、-11.347の自由エネルギーを示しており、厳格なGibbs熱化状態との忠実度は0.997に達した。一方、スキーム2は、量子ゲート数が類似しているP=16の同様な回路設定において、最適化後の自由エネルギーは-11.301であり、本発明のスキームより劣っており、対応する忠実度は、0.976であり、本発明のスキームよりも劣っている。より具体的には、2つのスキームのGibbsエントロピー付き自由エネルギー最適化での性能の対比は、表1に示されている。表1から、P=2の変分回路のみでも、ニューラルネット後処理のアーキテクチャでは、依然として良好な近似効果(回路の設定がより複雑である、層数が2P=16のスキーム2よりも良い)を保持していることが分かる。
【0121】
【表1】

これによって、量子回路+ニューラルネットワーク後処理のスキーム(即ち、本発明のスキーム)は、量子リソースが類似する場合、調整された混合状態の表現能力がニューラルネットワーク前置+量子回路のスキーム(即ち、スキーム2)と比べて遥かに優れていることを示している。従って、スキーム2はGibbsエントロピーを効率的に計算できるが、本発明のスキームのアーキテクチャを用いて最適化と近似を行うことによって、限られた量子ハードウェアリソースをより有効に利用することができる。
【0122】
以下は、数値シミュレーションの方式によって、異なるスキームの熱化状態を調製する効果に対して説明と比較を行い、本発明の優勢を説明する。実験は、同様に上記の実施例におけるN=8の横磁場イジングモデルTFIMで行われる。
【0123】
図4は、毎回の訓練反復(即ち、パラメータ更新の反復)の際の各スキームのGibbs熱化状態の忠実度を示しており、左図は、β=5の場合の各測定時の忠実度であり、図4から分かるように、ニューラルネットワーク重みなしの曲線41の忠実度は最も低く、有界ニューラルネットワーク重みありの曲線42の忠実度は最も高い。右図は、β=1の場合の高温領域の各測定時の忠実度であり、高温領域では、スキーム1の曲線43は最も低く、最低は0.6よりも低く、有界ニューラルネットワーク重みありの曲線44の表現は最も高く、その下は順次にニューラルネットワーク重みありの曲線45及びニューラルネットワーク重みなしの曲線46である。
【0124】
しかし、いずれの方法であっても、高温領域では、訓練の反復回数が増加するに伴い、熱化状態の忠実度が低下する。これは、オーバーフィッティングの問題があるためである。この問題に対して、システムのサイズを増加させることによって緩和することができる。
【0125】
図5は、異なる温度、異なるスキーム、異なる回の独立した最適化により得られた収束のGibbs自由エネルギーの忠実度を示している。図5から分かるように、例えば図5のニューラルネットワーク重みなしの区間51に示すように、ニューラルネットワーク後処理を有しない結果は、大きく変動し、訓練が非常に不安定である。一方、有界ニューラルネットワーク重みのスキームは、例えば図5の有界ニューラルネットワーク重みありの区間52に示すように、安定な最適スキームであり、高い忠実度を有すると共に、結果の変動が小さい。
【0126】
図6は、同一の相関関数の場合に異なるスキームにより出力された相関関数の推定値を示している。ここで、左図は、早期完了(1000回の最適化)の相関関数と真理値の差であり、右図は、収束後の相関関数と真理値の差である。ニューラルネットワーク重みありのスキームでは、例えば、図6のニューラルネットワーク重みありの区間61と有界ニューラルネットワーク重みありの区間62のように、早期完了と最終的な収束に対応する相関関数の推定値の差が小さい。訓練後期のRenyiの熱化状態の自由エネルギーの最適化は、Gibbsの熱化状態対象に対するオーバーフィッティングによるものであるため、相関関数の推定値を著しく改善していない。スキーム1の区間63は、早期完了と最終的な収束に対応する相関関数の推定値が大きく異なり、ここで、偏差が0.2を超える部分は図に示されていない。一方、ニューラルネットワーク重みなしのスキームでは、図6のニューラルネットワーク重みなしの区間64のように、訓練分散の変動が大きく、期待値と推定値も大きくずれることが多い。Renyiの熱化状態とGibbsの熱化状態は局所的な相関が一致することが熱力学的な限界で成り立つため、シミュレーションシステムの体系(即ち、量子ビット数)が増加するほど、相関関数の推定値はここでの数値結果よりも正確になることが期待される。
【0127】
図4図6に示すように、異なる階調の線は異なるスキームに対応する。
【0128】
以下は、本発明の装置の実施形態であり、該装置は、本発明の方法の実施例を実行するために使用することができる。本発明の装置の実施例において開示されていない詳細については、本発明の方法の実施例を参照されたい。
【0129】
図7は、本発明の1つの実施例に係る量子系における熱化状態の調製装置のブロック図である。該装置は、上記の量子系における熱化状態の調製方法を実現する機能を有し、該機能は、ハードウェアより実現されてもよいし、ハードウェアより対応するソフトウェアを実行して実現されてもよい。該装置は、コンピュータ機器であってもよいし、コンピュータ機器に設けられていてもよい。該装置700は、測定結果取得モジュール710、重みパラメータ取得モジュール720、相関関数計算モジュール730、目的関数計算モジュール740、変分パラメータ調整モジュール750、及び熱化状態取得モジュール760を含んでもよい。
【0130】
測定結果取得モジュール710は、パラメータ化量子回路を介して組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行った後に、パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得する。ここで、組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含み、各組の測定結果は、システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である。
【0131】
重みパラメータ取得モジュール720は、ニューラルネットワークにより第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得する。
【0132】
相関関数計算モジュール730は、重みパラメータ及び第1の測定結果に基づいて、目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算する。
【0133】
目的関数計算モジュール740は、混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算する。
【0134】
変分パラメータ調整モジュール750は、目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整する。ここで、変分パラメータは、パラメータ化量子回路のパラメータ及びニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む。
【0135】
熱化状態取得モジュール760は、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための目標量子システムの混合状態を取得する。
【0136】
幾つかの態様では、相関関数計算モジュール730は、n個の第2の測定結果のそれぞれに対応する重みパラメータに基づいて、n個の第1の測定結果のそれぞれに対応する演算結果に対して加重平均を行い、目標量子システムの混合状態の相関関数値を取得する。
【0137】
幾つかの態様では、相関関数計算モジュール730は、目標相関関数を使用してn個の第1の測定結果のそれぞれに対して演算処理を行い、n個の第1の測定結果にそれぞれ対応する演算結果を取得する。ここで、目標相関関数は、目標量子システムの混合状態の目標パウリ文字列での相関関数値を取得するために使用される。
【0138】
幾つかの態様では、目的関数計算モジュール740は、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値を取得し、ここで、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値は、異なる相関関数を使用して取得され、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値に基づいて、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算し、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値及び混合状態に対応するエントロピーに基づいて、目的関数の期待値を計算する。
【0139】
幾つかの態様では、目標量子システムの第1の形態の熱化状態を取得する場合、目的関数は、第2の形態の熱化状態に対応する自由エネルギーであり、第1の形態の熱化状態と第2の形態の熱化状態とは2つの異なる形態の熱化状態であり、且つ第1の形態の熱化状態と第2の形態の熱化状態とは局所近似特性を有する。
【0140】
幾つかの態様では、第1の形態の熱化状態は、ギブズ(Gibbs)熱化状態であり、第2の形態の熱化状態は、レンニ(Renyi)熱化状態である。
【0141】
幾つかの態様では、重みパラメータ取得モジュール720は、ニューラルネットワークにより第2の測定結果を処理し、ニューラルネットワークの出力結果に対して値範囲の制限を行い、値範囲内の重みパラメータを取得する。
【0142】
幾つかの態様では、値範囲は[1/r,r]であり、rは1より大きい数値である。
【0143】
幾つかの態様では、システム量子ビットと補助量子ビットとは、交互に出現するように配列されている。
【0144】
本発明に係る技術的スキームは、目標量子システムの熱化状態を調製する際に、ニューラルネットワーク後処理のスキームを導入することによって、まずパラメータ化量子回路によりシステム量子ビット及び補助量子ビットの入力量子状態を処理し、その後にニューラルネットワークにより補助量子ビットに対応する測定結果を処理し、対応する重みパラメータを取得し、該重みパラメータを用いて混合状態における確率を近似的に表現し、構築された混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算し、目的関数の期待値が収束するようにパラメータ化量子回路のパラメータ及びニューラルネットワークのパラメータを最適化し、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための目標量子システムの混合状態を取得する。本発明は、ニューラルネットワークを導入して重みパラメータを出力することによって、該重みパラメータを利用して異なる補助量子ビットの測定結果に対応する重みを調整して、ニューラルネットワークの訓練可能なパラメータにより、回路全体の表現能力を強化し、熱化状態をより高効率且つ精確に調製することができる。
【0145】
なお、上記の実施例に係る装置は、その機能を実現する際には、上記各機能モジュールの分割のみを例に挙げて説明したが、実際には、上記機能割り当てを必要に応じて異なる機能モジュール、即ち、機器の内部構造を異なる機能モジュールに分割して、上記機能の全部又は一部を完成させるようにしてもよい。また、上述した実施例に係る装置は、方法の実施形態と同一の概念に属するものであり、その具体的な実現過程は方法の実施形態に詳述されているので、ここでは説明しない。
【0146】
図8は、本発明の1つの実施例に係るコンピュータ機器の概略図である。このコンピュータ機器は、古典コンピュータであってもよい。該コンピュータ機器は、上記の実施例に係る量子体系における熱化状態の調製方法を実施するために使用されてもよい。
【0147】
具体的には、コンピュータ機器800は、処理装置(CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックスプロセッサ)、FPGA(Field Programmable Gate Array:フィールドプログラマブル論理ゲートアレイ)など)801と、RAM(Random-Access Memory:ランダムアクセスメモリ)802及びROM(Read-Only Memory:読み取り専用メモリ)803を含むシステムメモリ804と、システムメモリ804と中央処理装置801とを接続するシステムバス805とを含む。コンピュータ機器800は、サーバ内の様々なデバイス間の情報の伝送をサポートする基本入力/出力システム(Input Output System:I/Oシステム)806と、オペレーティングシステム813、アプリケーションプログラム814及び他のプログラムモジュール815を記憶するための大容量記憶装置807とをさらに含む。
【0148】
好ましくは、基本入力/出力システム806は、情報を表示するためのディスプレイ808と、ユーザが情報を入力するためのマウス、キーボードなどの入力装置809とを含む。なお、ディスプレイ808及び入力装置809は、いずれもシステムバス805に接続された入力/出力コントローラ810を介して中央処理装置801に接続されている。基本入力/出力システム806は、キーボード、マウス、又は電子タッチペンなどの複数の他のデバイスからの入力を受け付けて処理するための入力/出力コントローラ810をさらに含んでもよい。同様に、入力/出力コントローラ810は、ディスプレイ、プリンタ、又は他のタイプの出力デバイスに出力を提供する。
【0149】
好ましくは、大容量記憶装置807は、システムバス805に接続された大容量記憶コントローラ(図示せず)を介して中央処理装置801に接続される。大容量記憶装置807及び関連するコンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータ機器800に不揮発性記憶を提供する。即ち、大容量記憶装置807は、ハードディスク又はCD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory:読み取り専用CD)ドライブなどのコンピュータ読み取り可能な媒体(図示せず)を含むことができる。
【0150】
一般性を失うことなく、コンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータ記憶媒体及び通信媒体を含むことができる。コンピュータ記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能なプログラム、データ構造、プログラムモジュール、又は他のデータなどの情報を記憶するための任意の方法又は技術で実装される揮発性及び不揮発性、リムーバブル及び非リムーバブル媒体を含む。コンピュータの記憶媒体には、RAM、ROM、EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory:書き換え可能なプログラマブル読み取り専用メモリ)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory:電気的に書き換え可能なプログラマブル読み取り専用メモリ)、フラッシュメモリ又は他の固体ストレージ、CD-ROM、DVD(Digital Video Disc:高密度デジタルビデオディスク)又は他の光学ストレージ、カートリッジ、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又は他の磁気ストレージデバイスが含まれる。なお、当業者には明らかなように、このコンピュータ記憶媒体は、上記に限定されない。上述したシステムメモリ804及び大容量記憶装置807をメモリとして総称してもよい。
【0151】
本発明の実施例によれば、コンピュータ機器800は、インターネットなどのネットワークを介してネットワークに接続されたリモートコンピュータで動作することもできる。即ち、コンピュータ機器800は、システムバス805に接続されたネットワークインターフェースユニット811を介してネットワーク812に接続されてもよいし、ネットワークインターフェースユニット811を使用して、他のタイプのネットワーク又はリモートコンピュータシステム(図示せず)に接続されてもよい。
【0152】
メモリは、メモリ内に格納され、上述した量子系における熱化状態の調製方法を実施するために1つ又は複数のプロセッサによって実行されるように構成されたコンピュータプログラムをさらに含む。
【0153】
例示的な実施例では、上述した量子系における熱化状態の製造方法を実現するためのコンピュータ機器をさらに提供する。好ましくは、コンピュータ機器は、量子コンピュータ、又は古典コンピュータ、又は量子コンピュータと古典コンピュータとのハイブリッド装置実行環境である。
【0154】
例示的な実施例では、コンピュータ機器のプロセッサによって実行された際に、上述した量子系における熱化状態の製造方法を実現するコンピュータプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体をさらに提供する。
【0155】
好ましくは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、ROM(Read-Only Memory:読み取り専用メモリ)、RAM(Random-Access Memory:ランダムアクセスメモリ)、SSD(Solid State Drives:ソリッドステートドライブ)、又は光ディスクなどを含むことができる。ランダムアクセスメモリは、ReRAM(Resistance Random Access Memory:抵抗型ランダムアクセスメモリ)及びDRAM(Dynamic Random Access Memory:ダイナミックランダムアクセスメモリ)を含むことができる。
【0156】
例示的な実施例では、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されたコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品をさらに提供する。コンピュータ機器のプロセッサは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体からコンピュータプログラムを読み取り、プロセッサはコンピュータプログラムを実行し、コンピュータ機器に上記の量子系における熱化状態の調製方法を実行させる。
【0157】
例示的な実施例では、パラメータ化量子回路と、コンピュータ機器と、を含む量子系における熱化状態の調製システムをさらに提供する。
【0158】
パラメータ化量子回路は、組み合わせ量子ビットの入力量子状態に対して変換処理を行い、パラメータ化量子回路の出力量子状態を取得する。ここで、組み合わせ量子ビットは、補助量子ビット及び目標量子システムのシステム量子ビットを含む。
【0159】
コンピュータ機器は、パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行うことによって得られたn組の測定結果を取得する。ここで、各組の測定結果は、システム量子ビットに対応する第1の測定結果、及び補助量子ビットに対応する第2の測定結果を含み、nは正の整数である。
【0160】
コンピュータ機器は、ニューラルネットワークにより第2の測定結果を処理し、重みパラメータを取得し、重みパラメータ及び第1の測定結果に基づいて、目標量子システムの混合状態の相関関数値を計算し、混合状態の相関関数値に基づいて、目的関数の期待値を計算する。
【0161】
コンピュータ機器は、目的関数の期待値が収束するように変分パラメータを調整し、目的関数の期待値が収束条件を満たす場合、目標量子システムの熱化状態を近似的に表現するための目標量子システムの混合状態を取得する。ここで、変分パラメータは、パラメータ化量子回路のパラメータ及びニューラルネットワークのパラメータのうちの少なくとも1つを含む。
【0162】
幾つかの態様では、該システムは、測定回路をさらに含む。
【0163】
該測定回路は、パラメータ化量子回路の出力量子状態に対してn回の測定を行い、n組の測定結果を取得する。
【0164】
幾つかの態様では、前記コンピュータ機器は、n個の第2の測定結果のそれぞれに対応する重みパラメータに基づいて、n個の第1の測定結果のそれぞれに対応する演算結果に対して加重平均を行い、目標量子システムの混合状態の相関関数値を取得する。
【0165】
幾つかの態様では、コンピュータ機器は、目標相関関数を使用してn個の第1の測定結果のそれぞれに対して演算処理を行い、n個の第1の測定結果にそれぞれ対応する演算結果を取得する。ここで、目標相関関数は、目標量子システムの混合状態の目標パウリ文字列での相関関数値を取得するために使用される。
【0166】
幾つかの態様では、コンピュータ機器は、前記混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値を取得し、ここで、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値は、異なる相関関数を使用して取得され、混合状態の複数の異なるパウリ文字列での相関関数値に基づいて、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値を計算し、混合状態に対応するハミルトニアンの期待値及び混合状態に対応するエントロピーに基づいて、目的関数の期待値を計算する。
【0167】
幾つかの態様では、目標量子システムの第1の形態の熱化状態を取得する場合、目的関数は、第2の形態の熱化状態に対応する自由エネルギーであり、第1の形態の熱化状態と第2の形態の熱化状態とは2つの異なる形態の熱化状態であり、且つ第1の形態の熱化状態と第2の形態の熱化状態とは局所近似特性を有する。
【0168】
幾つかの態様では、第1の形態の熱化状態は、ギブズ(Gibbs)熱化状態であり、第2の形態の熱化状態は、レンニ(Renyi)熱化状態である。
【0169】
幾つかの態様では、コンピュータ機器は、ニューラルネットワークにより第2の測定結果を処理し、ニューラルネットワークの出力結果に対して値範囲の制限を行い、値範囲内の重みパラメータを取得する。
【0170】
幾つかの態様では、値範囲は[1/r,r]であり、rは1より大きい数値である。
【0171】
幾つかの態様では、システム量子ビットと補助量子ビットとは、交互に出現するように配列されている。
【0172】
本発明は、量子系における熱化状態の調製システムの特定のアーキテクチャに限定されず、コンピュータ機器を含んでもよいし、コンピュータ機器及びパラメータ化量子回路を含んでもよいし、コンピュータ機器、パラメータ化量子回路及び測定回路を含んでもよい。
【0173】
また、このシステムの実施例において詳細に説明されていない詳細について、上記の方法の実施例を参照することができる。
【0174】
なお、本明細書で言及される「複数」は、2つ以上を意味する。「及び/又は」は、係り先の係り受け関係を記述したものであり、AとBのように3つの関係がありうることを表し、即ち、Aが単独で存在する場合、AとBが同時に存在する場合、Bが単独で存在する場合の3つを表すことができる。文字「/」は、一般に、相互関係オブジェクトが「又は」の関係であることを表す。さらに、本明細書に記載されたステップ番号は、ステップ間の実行可能な順序を例示するに過ぎず、幾つかの他の実施形態では、2つの異なる番号のステップが同時に実行されてもよいし、2つの異なる番号のステップが図示された順序とは逆の順序で実行されるように、ステップが番号の順序で実行されなくてもよく、本明細書の実施形態はこれらに限定されない。
【0175】
上記は、本発明の例示的な実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、本発明の主旨及び原則の範囲内でなされた修正、均等物の置換、改良などは、本発明の範囲内に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8