(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】孵化途中卵生死判定装置
(51)【国際特許分類】
A01K 41/00 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A01K41/00
(21)【出願番号】P 2020047874
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】597017812
【氏名又は名称】株式会社ナベル
(72)【発明者】
【氏名】南部 邦男
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4955728(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 41/00
A01K 43/00
A01K 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
孵卵機内において、セッタートレイに収容された複数個の孵化途中卵の卵殻温度を計測する接触温度計と、
前記孵卵機内に設けられた周囲環境温度計と、
前記接触温度計から得られる卵殻温度情報
及び前記周囲環境温度計から得られる環境温度情
報に基づいて、前記接触温度計で測定された孵化途中卵の少なくとも生死を含む内部状態を判定する
演算部とを備える、孵化途中卵生死判定装置。
【請求項2】
前記接触温度計は、前記セッタートレイの収容座の底部または側壁に設けられており、前記収容座に孵化途中卵が収容された状態で、前記接触温度計が卵殻に接触する、請求項1記載
の孵化途中卵生死判定装置。
【請求項3】
複数個の接触温度計が並べて設けられた温度測定ユニットを備え、当該温度測定ユニットは前記セッタートレイに対して着脱可能である、請求項1記載
の孵化途中卵生死判定装置。
【請求項4】
前記温度測定ユニットは、前記セッタートレイ上の卵の上方に配置される基部と、この基部から伸びる可撓性を有するアームと、このアームの先端に設けられた接触温度計とを備え、前記セッタートレイの収容座に卵を収容した際に前記接触温度計が卵に接触する、請求項3記載
の孵化途中卵生死判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孵卵機内で用いる孵化途中卵生死判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
孵化途中卵は、所定の温度、湿度等の環境下で孵卵され、孵卵の途中では、種卵の内部における胚の活動状況、すなわち生死等を観測し、判定するような検査がなされる。
【0003】
孵化途中卵の温度を測定し、その測定値を利用して、生存卵を識別するための装置が公知である(例えば、特許文献1を参照)。この装置は、トレイに載せられた孵化途中卵を孵卵機から取り出した後、コンベヤに載せて温度を測定する。このセンサは、トレイに並べられた孵化途中卵のサイズや形状のばらつきにも対応しやすいが、孵卵機外の冷気にさらされながらの測定になる上、卵殻からセンサが離れているため測定精度がよくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
孵化途中卵の卵内温度は、卵殻表面の温度と密接に関係していることが知られている。孵化途中卵の卵内温度を知るためには、卵殻表面の温度を測定する必要があるが、従来、接触式の温度計を孵化途中卵に1個ずつ押し当てて手作業で測定する方法しかなかった。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するものであり、孵卵機内で接触温度計を用いて卵殻温度の測定を行う孵化途中卵生死判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の孵化途中卵生死判定装置は、孵卵機内において、セッタートレイに収容された複数個の孵化途中卵の卵殻温度を計測する接触温度計と、前記孵卵機内に設けられた周囲環境温度計と、前記接触温度計から得られる卵殻温度情報及び前記周囲環境温度計から得られる環境温度情報に基づいて、前記接触温度計で測定された孵化途中卵の少なくとも生死を含む内部状態を判定する演算部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、孵卵機内で接触温度計を用いて卵殻温度の測定を行う孵化途中卵生死判定装置を提供することができる。
【0009】
この発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解されるこの発明に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる孵化途中卵生死判定装置の一部を示す正面図である。
【
図2】同実施形態の温度測定ユニットを孵化途中卵に装着する様子を示す図である。
【
図3】同実施形態の温度測定ユニットを孵化途中卵と離した様子を示す図である。
【
図4】本発明の第1変形例にかかる孵化途中卵生死判定装置の一部を示す正面図である。
【
図5】同変形例にかかる孵化途中卵生死判定装置に孵化途中卵が装着されていない状態を示す図である。
【
図6】本発明の第2変形例にかかる孵化途中卵生死判定装置の一部を示す正面図である。
【
図7】同変形例にかかる孵化途中卵生死判定装置に孵化途中卵が装着されていない状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
【0012】
本実施形態の孵化途中卵生死判定装置1は、孵卵機(図示しない)内で用いる。孵卵機は、孵卵に適した雰囲気に保たれるケーシング内で、セッタートレイ(以下、「トレイT」と記す。)が多層に配置される。トレイTは、二次元的に設けられた複数の収容座T1を備える。孵化途中卵(以下、「卵E」と記す。)は、収容座T1にその長軸を略鉛直にして収容されている。トレイTには、複数個の卵Eが収容される。本実施形態では、複数個の接触温度計4がユニット化されている。孵化途中卵生死判定装置1は、温度測定ユニット3に設けられた接触温度計4から得られる卵殻温度情報と、周囲環境温度計5から得られる環境温度情報とを用いて、演算処理を行う。符号2は、演算部である。
【0013】
温度測定ユニット3は、複数個の接触温度計4が並べて設けられる。温度測定ユニット3は、トレイTに対して着脱可能である。温度測定ユニット3は、卵Eへの装着状態と取り外し状態とをとり得る。温度測定ユニット3は、孵卵機内のトレイTの卵Eに装着される。温度測定ユニット3は、トレイTの収容座T1に卵Eを収容した際に、接触温度計4が卵Eに一定の圧をもって接触するようにしている。孵卵機内では、内部が孵卵に適した雰囲気に保たれるとともに、トレイTが揺り動かされる。なお、温度測定ユニット3が卵Eにいったん装着されると、接触温度計4と卵Eとの位置関係が一定に保たれる。
【0014】
温度測定ユニット3は、基部6と、アーム7と、接触温度計4を備える。
【0015】
基部6は、トレイT上の卵Eの上方に配置される。基部6は、アーム7の基端側が支持される。基部6は、トレイTに対して複数箇所で接続される。基部6は、複数の卵Eに対応する複数のアーム7を支持してもよいし、一つのアーム7のみを支持してもよい。
【0016】
アーム7は、基部6からトレイTに向けて伸びる。アーム7は、可撓性のある材料で構成される。アーム7は、収容座T1に収容された卵Eの隣接空間に位置する。なお、隣接空間のうちの最も広い空間にアーム7が配置されることが好ましい。アーム7は、接触温度計4の位置を変更可能なものである。アーム7は、外力を受けないときは初期姿勢を保ち、外力に応じて変形する。外力は、例えば、アーム7の先端側が卵Eに接触した際に、卵Eから受ける力である。
【0017】
接触温度計4は、トレイT上に載せられた卵Eの卵殻温度を測定する。接触温度計4は、トレイT上の全ての卵Eの温度を計測してもよいし、トレイT上の一部のみの卵Eの温度を計測してもよい。接触温度計4は、アーム7の先端に設けられる。接触温度計4は、卵Eの側方に接触する。接触温度計4は、卵Eと接触する前の初期位置と卵Eと接触する最終測定位置との間で位置変更がなされる。初期位置は、最終測定位置よりも、卵Eの鈍端と鋭端を結ぶ中心線寄りに設定されている。すなわち、初期位置は、卵Eの長軸寄りに設定されている。接触温度計4で測定されたデータは、電気信号に変換され、無線または有線で孵化途中卵生死判定装置1の演算部2に送られる。
【0018】
周囲環境温度計5は、接触温度計4の近傍に配置される。周囲環境温度計5は、温度測定ユニット3の基部6に設けられる。周囲環境温度計5は、トレイTに対して複数個配置されているが、その数は、接触温度計4よりも少なく設定されている。周囲環境温度計5で測定されたデータは、電気信号に変換され、無線または有線で孵化途中卵生死判定装置1の演算部2に送られる。
【0019】
孵化途中卵生死判定装置1の演算部2は、接触温度計4と周囲環境温度計5の電気信号の解析により、内部状態を識別する。演算部2は、卵殻温度情報と、環境温度情報とに基づいて、接触温度計4で測定された卵Eの内部状態を判定する。ここで、Nは、2以上の整数で、トレイに収容される卵の数と同じ場合、それよりも多い場合、それよりも少ない場合のいずれかである。内部状態は、胚の生死や、胚の活動状況である。演算部2は、例えば、判定対象の卵Eの接触温度計4から得られた卵殻温度t1と、その接触温度計4の一番近くに配置された周囲環境温度計5から得られた環境温度t2とを比較し、卵殻温度t1が環境温度t2よりも閾値以上高ければ、生存卵であると判定する。
【0020】
なお、孵卵開始12日目または13日目頃から胚が熱を産生して卵殻温度が上がることが知られている。卵殻温度t1と環境温度t2との差は、わずか1℃程度であり、卵殻温度t1や環境温度t2をできるだけ精度良く計ることが求められる。環境温度情報を用いることなく複数の卵相互間の卵殻温度を比較して生存卵か否かを判定したり、孵卵機の上方の1箇所のみに通常設けられる庫内温度計を用いて、環境温度情報と卵殻温度とを比較して生存卵か否かを判定したりしてもよいが、本実施形態のようなものであれば、測定精度を向上させることができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態の孵卵機内で用いる孵化途中卵生死判定装置1は、卵殻温度情報と、環境温度情報とに基づいて、接触温度計4で測定された卵Eの少なくとも生死を含む内部状態を判定する。卵殻温度情報は、複数個の卵Eを収容するトレイTにおいて、卵Eの卵殻温度を計測するN個(Nは2以上の整数)の接触温度計4から得られる。環境温度情報は、接触温度計4の近傍に配置されたM個(MはNよりも小さい正の整数)の周囲環境温度計5から得られる。
【0022】
本実施形態の孵卵機内で用いる孵化途中卵生死判定装置1は、複数個の接触温度計4が並べて設けられた温度測定ユニット3を備える。温度測定ユニット3は、トレイTに対して着脱可能である。
【0023】
温度測定ユニット3は、基部6と、アーム7と、接触温度計4とを備える。基部6は、トレイT上の卵Eの上方に配置される。アーム7は、基部6から伸びる。アーム7は、可撓性を有する。接触温度計4は、アーム7の先端に設けられる。温度測定ユニット3は、トレイTの収容座T1に卵Eを収容した際に接触温度計4が卵Eに一定の圧をもって接触するように力が加えられている。そのため、各収容座T1における卵Eの大きさ等のばらつきに対しても、確実に接触温度計4を卵Eに接触させることができる。また、接触温度計4と卵Eとの位置関係が一定に保たれるので、孵卵機からの出し入れが卵Eの生存率に影響が出やすい時期に卵Eを移動させることなく観測が可能となる。複数日にわたる観測も容易になる。孵卵機内の一部の卵Eのみを観測してもよいし、全数を観測してもよい。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に限られない。
【0025】
次に、本発明の変形例にかかる孵化途中卵生死判定装置1について説明する。本実施形態では、一実施形態と同一(またはこれに準ずる)の部分は同じ符号を付し、必要である場合を除きその説明を繰り返さないこととする。
【0026】
<変形例1(
図4、
図5)>
接触温度計4は、トレイTの収容座T1の側壁T2に設けられている。また、収容座T1に卵Eが収容された状態で、卵Eの重量で接触温度計4が卵殻に接触するように位置付けられる。周囲環境温度計5は、トレイTに設けられている。
【0027】
<変形例2(
図6、
図7)>
接触温度計4は、トレイTの収容座T1の底部T3に設けられている。また、収容座T1に卵Eが収容された状態で、卵Eの重量で接触温度計4が卵殻に接触するように位置付けられる。周囲環境温度計5は、トレイTに設けられている。
【0028】
今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、孵化途中卵の生死等を観測するために利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…孵化途中卵生死判定装置
2…演算部
3…温度測定ユニット
4…接触温度計
5…周囲環境温度計
6…基部
7…アーム
T…トレイ
T1…収容座
T2…側壁
T3…底部
E…卵