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特許7548538多能性幹細胞から機能的心筋へと直接分化させる方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から機能的心筋へと直接分化させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240903BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20240903BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20240903BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240903BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240903BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240903BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240903BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240903BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240903BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20240903BHJP
【FI】
C12N5/077 ZNA
A61K35/34
A61K35/545
A61P9/00
C12N5/0735
C12N15/09 Z
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12Q1/6876 Z
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020052526
(22)【出願日】2020-03-24
(62)【分割の表示】P 2016515530の分割
【原出願日】2014-09-19
(65)【公開番号】P2020115866
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2020-04-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】13185344.2
(32)【優先日】2013-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516053796
【氏名又は名称】レパイロン・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】REPAIRON GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ツィンマーマン,ウルフラム-ウベルトゥス
(72)【発明者】
【氏名】ティブルシー,マルテ
(72)【発明者】
【氏名】ハドソン,ジェームズ
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】天野 貴子
【審判官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/013206(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/111875(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/056072(WO,A1)
【文献】特表2011-512855(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0061410(US,A1)
【文献】ヒトES/iPS細胞から臨床応用に適した心筋細胞誘導法を開発-安全・安価・高効率な再生医療の実現化に,京都大学iCeMSウェブサイトでのニュースリリース,2012年10月26日,www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2012/121026_1.h
【文献】STEM CELLS AND DEVELOPMENT,2012年,Vol.21, No.9,pp.1513-1523
【文献】PLOS ONE,2011年,Vol.6,Issue10,e26397(pp.1-11)
【文献】Stem Cell Research,2008年,Vol.1,pp.138-149
【文献】Nature,2008年,Vol.453,pp.524-528
【文献】心臓,2011年,Vol.43,No.12,pp.1492-1495
【文献】J Mol Cell Cardiol,1988,vol.20,no.7,pp.635-647
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Google Scholar
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋細胞、CD90間質細胞及びコラーゲンを含む、無血清で生物工学によって作られた心筋(BHM)であって、
(i)適切な型に培地1mlあたり2.5~6×10個の細胞/1mgコラーゲンの比で多能性幹細胞を播種し、次に有効量の(a)BMP4、アクチビンA、FGF2、GSK3阻害剤、ASC-2-P及び(b)0.5~50mg/mlのアルブミン、1~100μg/mlのトランスフェリン、0.1~10μg/mlのエタノールアミン、0.003~0.3μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、0.4~40μg/mlのL-カルニチンHCl、0.1~10μg/mlのヒドロコルチゾン、0.05~5μl/mlの脂肪酸サプリメント、0.0001~0.1μg/mlのトリヨード-L-チロニン(T3)の最終濃度が得られる無血清サプリメントを含む、基本培地中で培養し、これにより、該多能性幹細胞の中胚葉への分化を誘導する工程;
(ii)有効量のWntシグナル伝達経路阻害剤、ASC-2-P及び工程(i)における無血清サプリメントを含む基本培地中で、工程(i)で得られた細胞を培養し、これにより、該細胞の心臓への分化を誘導する工程;及び
(iii)機械的刺激下で有効量のASC-2-P、TGFβ1及び工程(i)における無血清サプリメントを含み、かつ、カルシウム濃度が0.5~3mMに調整された基本培地中で、工程(ii)で得られた細胞を培養し、これにより、心臓の成熟を促進する工程
を含む方法によって製造され、
BHMは、さらに
(a)200μNを超える単収縮張力を示し;及び
(b)0.6mMのカルシウムでペーシングされた条件下で40μNを超える1μMのイソプレナリンへの変力応答を示すことを特徴とする、心筋。
【請求項2】
工程(iii)で細胞を培養する工程が、動的な機械的刺激又は静的伸展下で行われる、請求項1に記載のBHM。
【請求項3】
工程(iii)の基本培地が、
a)0.1~10ng/mlのTGFβ1を含み;及
b)有効量のFGF2を含まない
請求項1又は2に記載のBHM。
【請求項4】
工程(iii)の基本培地が、0.1~10ng/mlのTGFβ1を含み、BHMが、0.2より高い、又は0.33より高いものの、成人の心臓組織に見られるβ-MHC/α-MHC比未満であるβ-MHC/α-MHC比を有する、請求項2に記載のBHM。
【請求項5】
BHMが、成人の心臓組織と比較して前駆細胞遺伝子の発現が低いが依然として保持されており、特にはBHMが、成人の心臓組織と比較してISL-1の発現が低いが依然として保持されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項6】
BHMが、50%の心筋細胞、そして残りは主にCD90間質細胞を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項7】
工程(i)におけるコラーゲンが、I型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、及びその混合物からなる群より選択され;及び/又は
工程(i)におけるコラーゲンが、ヒト起源、ウシ起源、ブタ起源、又は海洋起源、例えば藻類起源若しくは魚起源であるか、又はコラーゲンが、組替えコラーゲンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項8】
更に、エラスチン、ラミニン、エンタクチン、ナイドジェン、プロテオグリカン、及びフィブロネクチンからなる群より選択される1つ以上の細胞外マトリックス成分を含む、請求項7に記載のBHM。
【請求項9】
BHMが、
a)少なくとも3Hzまでの複数の周波数でペーシングされ得;及び/又は
b)増加した静止長及び静止張力に応答して増加する単収縮張力を示し;及び/又は
c)0.2mMより高いカルシウムEC50を示し;及び/又は
d)少なくとも62日間維持され得る、
請求項1~8のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項10】
多能性幹細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、及び単為発生幹細胞から選択され得;及び/又は多能性幹細胞は、霊長類を起源とする多能性幹細胞である、請求項1~9のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項11】
多能性幹細胞は、ヒトの多能性幹細胞である、請求項10に記載のBHM。
【請求項12】
工程(i)の多能性幹細胞の培養時に用いる基本培地が、
1~20ng/mlのBMP4;及び
0.1~10ng/mlのFGF2;及び
1~20ng/mlのアクチビンAを含み;及び/又は
工程(i)の基本培地中のGSK3阻害剤が、CHIR99021、CHIR98014、SB216763、TWS119、チデグルシブ、SB415286、及びLY2090314からなる群より選択される、
請求項1~11のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項13】
工程(ii)の基本培地におけるWntシグナル伝達経路阻害剤が、IWP4、IWP2、IWR-1、IWP1、IWP3、IWR-2、IWR-3、IWR-4、IWR-5、XAV939、DKK1、ケルセチン、ICG-001、ピルビニウム、CCT031374、iCRT-3、5、14、CPG049090、NC043からなる群より選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項14】
工程(i)、(ii)及び/又は(iii)に使用される基本培地が、DMEM/F12、StemPro(登録商標)、イスコフ培地、αMEM、DMEM、及びRPMIであり;及び/又は
10~1000μMのアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項15】
工程(i)、(ii)及び/又は(iii)における無血清サプリメントが、0.1~10%のB27(登録商標)又はインスリンを除いたB27(登録商標)を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項16】
播種工程が、工程(i)の培養の18~30時間前に行なわれ、及び/又は播種工程に使用される培地が、ROCK阻害剤を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のBHM。
【請求項17】
疾患を処置するための、請求項1~16のいずれか一項に記載の無血清で生物工学によって作られた心筋(BHM)。
【請求項18】
処置が、心臓の修復である、請求項17に記載のBHM。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の背景]
ヒト多能性幹細胞(hPSC)は現在、理論的に無限かつ大量のヒト心筋細胞を供給するために広く使用されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。ヒト心筋細胞はヒト胚性幹細胞(hESC)(非特許文献4)及びヒト人工多能性幹細胞(hIPSC)(非特許文献5)から誘導され、発生モデル(非特許文献6)、薬物効力及び/又は安全性のスクリーニング(非特許文献7)、肥大モデル化及び再生適用を含む、複数の目的用に実証された用途を有する。更に、最近のhIPSC技術の進展により、遺伝性の遺伝子疾患の表現型を示す心筋細胞をインビトロで発生させることができる(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)。
【0002】
生検に由来するヒト心筋細胞の低密度な二次元培養により心筋細胞の表現型及び形態の急速な変化が起こり(非特許文献13)、それは結果をインビボの状況に当てはめることを困難とすることが現在広く認められている。インビボの条件をより良く代表する心筋細胞表現型を得るために、心臓組織培養を使用して、ネイティブの心臓組織と類似した特性を有する構築物が作製された(非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19)。
【0003】
組織培養の現在の観念形態は、必要とされる細胞型(単数又は複数)を作製/単離し、それらを培養環境に播種して、その分化を促進し、インビボ様の組織を作製するというものである。それ故、組織培養は、以下の2つの理由から非効率的なプロセスと考えられ得る。1)組織/分化培養物の解離により細胞外環境は破壊され、これにより発生情報(例えば細胞間の相互結合、幾何学的な細胞の配置、細胞と細胞外マトリックスの結合)が破壊されるので、これは環境を再構築するために細胞外マトリックス(ECM)産生の非常に大きな増加を必要とする(非特許文献20)、及び2)解離のプロセスはhPSC株間で異なり得、それはかなりの細胞死を導く可能性がある。
【0004】
文献に報告された他のプロトコールは、複数のhPSC株において同様な心筋細胞効率を可能とするために、プロトコールの改変を必要とし得る。しかし、本発明者らの結果は、分化プロトコールの変更は、心筋細胞の表現型に大きく影響し得ることを示している(例えば、ドルソモルフィンは、生物工学によって作られた心筋(BHM)に大きく影響を及ぼし得ることが示されている)。これにより組織培養された心筋の特性に変化が起こり得、それにより異なる実験条件又は遺伝子疾患モデルの効果が遮蔽され得、それ故、異なる株で異なるプロトコールを使用する場合には注意を払わなければならない。
【0005】
いくつかの近年に公表されたプロトコールは、同じプロトコールを複数の株に使用することを可能とし得、それらはまた、非常に高い純度を有する心筋細胞を産生する。しかし、純粋な心筋細胞は、機能的に組織培養された心筋の形成を促進せず、心筋細胞及び間質細胞の両方が、機能的に組織培養された心筋の形成に必要とされる(非特許文献21、非特許文献22)。
【0006】
したがって、上記の欠点を克服することのできる、生物工学によって作られたヒト心筋を作製するための方法が当技術分野において必要とされている。
【0007】
BHMの持続的な製造を可能とする、強い分化プロトコールの開発は非常に重要な工程である。この研究では18個を超える独立的な実験において140個を超える数のBHMが作製され、どれもが自発的な拍動活動を示した。更に、このプロトコールは、同じプロトコールを使用して複数のhPSC株からBHMを作製することを可能とする。更に、全ての解離工程を省略でき、hPSCは生物工学によって作られた心筋へと直接分化したので、組織の発生記憶は保持され、あらゆる組織の再現応答は防がれ、ヒト心筋発生のより正確なインビトロモデルを提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kehat et al. J Clin Invest 108, 407-414 (2001)
【文献】Takahashi et al. Cell 131, 861-872 (2007)
【文献】Zhang et al., Circ Res 104, e30-41 (2009)
【文献】Thomson et al. Science 282, 1145-1147 (1998)
【文献】Takahashi et al., Cell 131, 861-872 (2007)
【文献】Lian et al. Stem Cells 2012 (2012)
【文献】Schaaf et al. PLoS ONE 6, 20 (2011)
【文献】Carvajal-Vergara, X. et al. Nature 465, 808-812 (2010)
【文献】Itzhaki et al., Nature 471, 225-229 (2011)
【文献】Malan et al. Circ Res (2011)
【文献】Moretti et al., N Engl J Med 363, 1397-1409 (2010)
【文献】Yazawa et al. Nature 471, 230-234 (2010)
【文献】Bird et al. Cardiovasc Res 58, 423-434 (2003)
【文献】Eschenhagen et al. FASEB J 11, 683-694 (1997)
【文献】Zimmermann et al. Biotechnol Bioeng 68, 106-114 (2000)
【文献】Zimmermann et al. Circ Res 90, 223-230 (2002)
【文献】Tulloch et al. Circ Res 109, 47-59 (2011)
【文献】Tiburcy et al. Circ Res 109, 1105-1114 (2011)
【文献】Eschenhagen et al. Am J Physiol Heart Circ Physiol 303, 11 (2012)
【文献】Hudson et al. Tissue Eng Part A 17, 2279-2289 (2011)
【文献】Naito et al. Circulation 114, I72-78 (2006)
【文献】Hudson et al. Tissue Eng Part A 17, 2279-2289 (2011)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
[発明の要旨]
本発明は、
(i)有効量の(a)BMP4、アクチビンA、FGF2、GSK3阻害剤、及び(b)0.5~50mg/mlのアルブミン、1~100μg/mlのトランスフェリン、0.1~10μg/mlのエタノールアミン、0.003~0.3μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、0.4~40μg/mlのL-カルニチンHCl、0.1~10μg/mlのヒドロコルチゾン、0.05~5μl/mlの脂肪酸サプリメント、0.0001~0.1μg/mlのトリヨード-L-チロニン(T3)の最終濃度が得られる無血清サプリメントを含む、基本培地中で多能性幹細胞を培養し、これにより、該多能性幹細胞の中胚葉への分化を誘導する工程;
(ii)有効量のWntシグナル伝達経路阻害剤及び工程(i)に定義される無血清サプリメントを含む基本培地中で、工程(i)で得られた細胞を培養し、これにより、該細胞の心臓への分化を誘導する工程;及び
(iii)機械的刺激下で有効量の工程(i)に定義される無血清サプリメントを含む基本培地中で、工程(ii)で得られた細胞を培養し、これにより、心臓の成熟を促進する工程
を含む、多能性幹細胞から生物工学によって作られた心筋を作製するための方法に関する。
【0010】
本明細書において開示された方法を実施して、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から誘導された生物工学によって作られた心筋(BHM)を、コラーゲンヒドロゲル中でのhPSCの定方向の組織形成によって作製する。BHMを形成するために、定方向の無血清誘導プロトコールを使用して、個別の公知の発生段階を経て、多能性、初期中胚葉、心臓前駆細胞、未熟心筋細胞を経て、最終的には50%の心筋細胞から構成される(残りは主に間質細胞画分である)、より成熟した心臓組織へと組織を進行させて、インビボでの発生を模倣した。本発明者らはそれらの無血清BHMプロトコールを最適化し、個々のBHMの特性は特定の刺激に高度に依存していることを発見し、したがって、これは、複数の外的刺激が最適なBHM特性に必要とされることを示している。最後には、増加した静止長、増加したカルシウム濃度、及びβ-アドレナリン作動性刺激に応答して、測定可能な収縮力、ペーシング能及び変力作用を示す、律動的に収縮するBHMが作製された。このBHMプロトコールは改変されることなく、複数のhPSC株からBHMを持続的に産生することができた(実施されたあらゆる実験における、あらゆるBHMにおいて)。
【0011】
本データは、本明細書に開示されたBHMプロトコールが、複数の適用のためのヒト心筋を作製するための頑強で無血清で再現性のある方法であることを示唆する。例えば、BHMがヒト心筋の発生の可能性あるモデルであることも示され、BMPシグナル伝達の阻害により、収縮強度の低下したより未熟な心臓表現型がもたらされることが示される。
【0012】
したがって、本発明はまた、本発明に係る方法によって作製されたBHMにも関する。
【0013】
インビトロでの薬物毒性スクリーニングモデルにおける本発明に係るBHMの使用が更に考えられる。換言すれば、本発明はまた、本発明に係るBHMをスクリーニングしようとする薬物と接触させる工程を含む、薬物毒性をスクリーニングするための方法にも関する。
【0014】
更に、本発明は、薬理学的候補薬剤による心臓機能の調節を試験するためのインビトロ方法における、本発明に係るBHMの使用に関する。したがって、本発明に係るBHMを薬理学的候補薬剤と接触させる工程を含む、心臓機能調節を試験するための方法も記載される。
【0015】
最後に、本発明はまた、研究ツールとしての本発明に係るBHMの使用、並びに、医薬に使用するための本発明に係るBHMにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1-1】頑強かつ効率的な心臓の分化のための、初期心臓分化の最適化。(A)開発された心臓分化プロトコールの図。
図1-2】(B、C)二次元培養における心臓分化に対するFGF-2の添加の効果。(D、E)CHIRが存在する二次元培養における心臓分化に対する様々なBMP4濃度の効果。(F、G)二次元心臓分化プロトコールから個々に各因子を除去した効果、IWP4を除く全ての因子を0~3日目から毎日加え、IWP4は3~13日目から2~3日毎に加えられた。
図1-3】(H、I、J)qPCRを使用した混入している細胞型の存在についてのアッセイ。(K)心筋細胞マーカーについての免疫染色。(L)心筋細胞についてのフローサイトメトリー(n=6回の実験)。(M)間質細胞マーカーについての免疫染色。(N)間質細胞についてのフローサイトメトリー(n=6回の実験)。全てのデータは特記しない限りn=3回の実験である。qPCRデータ(MESP-1、OCT4、SOX17、及びNEUROD1)をGAPDHに対して標準化する。*は、分散分析とチューキー多重比較事後検定を使用した統計学的有意差(P<0.05)を示す。**は、因子が全く補充されていない試料からの統計学的有意差を示す。***は、因子が全く補充されていない、BMP4を除く全ての因子が補充された、ACT-Aを除く全ての因子が補充された、及びIWP-4を除く全ての因子が補充された、試料からの統計学的有意差を示す。
図2-1】BHMはhPSCから直接形成され得る。(A)分化の22日目のBHM。(B)ホールマウント免疫染色。(C)様々なカルシウム濃度に応答した等尺性単収縮張力(収縮力)、4回の実験に由来するn=7。(D)多能性マーカー(TRA-1-60/OCT4)及び心臓マーカー(α-アクチニン)のフローサイトメトリープロファイル、n=3~4回の実験。(E)22日目の間質細胞マーカーのフローサイトメトリー、n=3回の実験。
図2-2】(F)多能性、中胚葉分化、及び心臓分化についてのマーカーのqPCR発現プロファイル;データはGAPDHの発現に標準化されている、n=3回の実験。*は、分散分析とチューキー多重比較事後検定を使用した-1日目と比較した統計学的有意差(P<0.05)を示す。
図3-1】BHM培養条件の最適化は、異なるパラメーターが異なる刺激に特異的に応答することを明らかとする。(A)ASC-2-Pの補充は、様々なカルシウム濃度に応答してBHM、等尺性単収縮張力(収縮力)を向上させる、3回の実験に由来するn=8~9個、*は、二元配置分散分析とボンフェローニ事後検定を使用して対照と比較した統計学的有意差(P<0.05)を示す。(B)心筋細胞マーカー及び間質細胞マーカーについてのASC-2-P実験のフローサイトメトリー分析、3回の実験に由来するn=7~8個。(C)機械的刺激は、様々なカルシウム濃度に応答して、BHM機能、等尺性単収縮張力(収縮力)を向上させる、4回の実験に由来するn=9~11個、*は、二元配置分散分析とボンフェローニ事後検定を使用して対照と比較した両方の機械的刺激レジメについての統計学的有意差(P<0.05)を示す。(D)機械的刺激装置。(E)対照下及び機械的刺激レジメ下のBHMのホールマウント免疫染色。
図3-2】(F)心臓成熟中に添加された増殖因子(FGF2:10ng/mL及びTGFb1:1ng/mL)は、様々なカルシウム濃度に応答して、BHM機能、等尺性単収縮張力(収縮力)を調節する、4回の実験に由来するn=9~11個。(G)フローサイトメトリーを使用した増殖因子実験についての心筋細胞の細胞サイズの分析、3回の実験に由来するn=6個、*は、スチューデントt検定を使用して対照と比較した統計学的有意差(P<0.05)を示す。(H)増殖因子実験のためのβ-MHC/α-MHC比のqPCR発現、n=3~6回の実験、*は、分散分析とチューキー多重比較事後検定を使用して対照と比較した統計学的有意差(P<0.05)を示す。(I)増殖因子実験のためのANP及びSk ActのqPCR発現、n=3回の実験。(J)心臓成熟中にカルシウムを1.2mmol/Lに調整することにより、様々なカルシウム濃度に応答してBHM機能、等尺性単収縮張力(収縮力)は向上する、4回の実験に由来するn=10~11個、*は、二元配置分散分析 ボンフェローニ事後検定を使用して対照と比較した統計学的有意差(P<0.05)を示す。(K)カルシウム実験のためのBHMの静止張力、4回の実験に由来するn=10~11個、(L)カルシウム実験のためのBHMの弾性率、4回の実験に由来するn=10~11個、*は、分散分析とチューキー多重比較事後検定を使用して対照と比較した統計学的有意差(P<0.05)を示す。
図4】最適化したプロトコールを使用して作製されたBHMは、インビボ様の特性を示す。(A)BHMは、様々な速度で電気的にペーシングされ得る。(B)BHMは、増加した長さに対して増加した単収縮張力(収縮力)で応答する(フランク・スターリングの機序)。(C)22日齢(以前のデータより)及び29~30日齢のBHMの単収縮張力(収縮力)の比較、22日目については4回の実験に由来するn=11個、29~30日目については2回の実験に由来するn=7個。(D)0.6mMのカルシウムでのペーシング条件下でイソプレナリン(1μmol/L)に対する22日齢のBHMの変力応答。(E)0.6mMのカルシウムでのペーシング条件下でイソプレナリン(1μmol/L)に対する29~30日齢のBHMの変力応答。(F)イソプレナリン(1μmol/L)に対する変力応答と年齢との比較、22日目については4回の実験に由来するn=11個、29~30日目については2回の実験に由来するn=7個、*は、スチューデントt検定を使用した統計学的有意差(P<0.05)を示す。
図5】BHMプロトコールを試験した全てのPSC株において使用することができる。(A、B、C)HES3-BHMのデータ;(D、E、F)hIPS-G1-BHMのデータ。(A、D)様々なカルシウム濃度に応答した等尺性単収縮張力(収縮力)、各株についてn=4個。(B、E)ホールマウント免疫染色。(C、F)心筋細胞及び間質細胞のフローサイトメトリー分析、1つの株あたりn=3個。
図6】複数のhPSC株の二次元心臓分化。心臓マーカー(α-アクチニン、SIRPA)及び間質細胞マーカー(PDGFRα、α-SMA、I型コラーゲン)のフローサイトメトリー分析。
図7】BHMを、一例としてBMPシグナル伝達阻害を使用した発生プロセスをモデル化するために使用することができる。(A)BHM形成の13日目における複数のマーカーのqPCR分析。(B)α-アクチニン+細胞にゲートをかけたフローサイトメトリーを使用した細胞周期分析。(C)1つのBHMあたりの心筋細胞数。(D)様々なカルシウム濃度に応答した等尺性単収縮張力(収縮力)。*は、A+B)スチューデントt検定(n=3~4個)又はD)二元配置分散分析 シダック多重比較事後検定を使用して対照と比較した統計学的有意差(P<0.05)を示す。
図8-1】二次元心臓分化及びBHM形成のために使用されたプロトコールの概要。(A)図1に示された実験に使用されたプロトコール。(B)図2に示された実験に使用されたプロトコール。
図8-2】(C)図3に示された実験に使用されたプロトコール-アスコルビン酸の添加。(D)図3に示された実験に使用されたプロトコール-機械的刺激及び増殖因子。(E)図3に示された実験に使用されたプロトコール-カルシウムの添加。
図8-3】(F)図5に示された実験に使用されたプロトコール。(G)図6に示された実験に使用されたプロトコール。(H)図7に示された実験に使用されたプロトコール。
図9】B27(登録商標)を置き換えるカスタムメイドなサプリメント。(A)2mMの細胞外カルシウムでの、B27(登録商標)又はカスタムメイドなサプリメント(CMS、custom-made supplement)を用いて作製されたBHM(hES2)の収縮力、n=2/群)。(B)B27(登録商標)又はカスタムメイドなサプリメント(CMS)を用いて作製されたBHMにおけるCMの総数、n=2/群。
図10】心臓成熟期の間にTGFβ-1を培養培地に補充することにより、濃度依存的に(0.3~10ng/mlで試験;1つの条件あたりn=5~7個のBHM)BHMの収縮機能(FOC:収縮力)は増強される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[好ましい実施態様の詳細な説明]
(i)有効量の(a)BMP4、アクチビンA、FGF2、GSK3阻害剤、及び(b)0.5~50mg/mlのアルブミン、1~100μg/mlのトランスフェリン、0.1~10μg/mlのエタノールアミン、0.003~0.3μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、0.4~40μg/mlのL-カルニチンHCl、0.1~10μg/mlのヒドロコルチゾン、0.05~5μl/mlの脂肪酸サプリメント、0.0001~0.1μg/mlのトリヨード-L-チロニン(T3)の最終濃度が得られる無血清サプリメントを含む、基本培地中で多能性幹細胞を培養し、これにより、該多能性幹細胞の中胚葉への分化を誘導する工程;
(ii)有効量のWntシグナル伝達経路阻害剤及び工程(i)に定義される無血清サプリメントを含む基本培地中で、工程(i)で得られた細胞を培養し、これにより、該細胞の心臓への分化を誘導する工程;及び
(iii)機械的刺激下で有効量の工程(i)におけるような無血清サプリメントを含む基本培地中で、工程(ii)で得られた細胞を培養し、これにより、心臓の成熟を促進する工程
を含む、多能性幹細胞から生物工学によって作られた心筋を作製するための方法。
【0018】
好ましい実施態様では、多能性幹細胞は、霊長類を起源とする多能性幹細胞であり、より好ましくは多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。多能性幹細胞は、生体のあらゆる細胞型へと分化することができる。したがって、ヒト多能性幹細胞は、本物のヒト心臓細胞を得るためのユニークな機会を与える。現在、最も利用されている多能性細胞は胚性幹細胞(ESC)又は人工多能性幹細胞(iPSC)である。ヒトESC株はThomson及び共同研究者(Thomson et al., Science 282: 1145-1147 (1998);その全体が参照により本明細書中に援用される)によって最初に樹立された。ヒトESCの研究は近年、生体の細胞をES様細胞へと初期化する新規な技術の開発を可能とした。この技術は、2006年に、山中及び共同研究者(Takahashi & Yamanaka Cell 126: 663-676 (2006);その全体が参照により本明細書中に援用される)によって開拓された。得られる人工多能性細胞(iPSC)は、ESCと非常に類似した挙動を示し、重要なことには、生体のあらゆる細胞へと分化することもできる。更に、単為発生幹細胞はBHMの作製に適しているようであることも報告された(Didie et al. J Clin Invest. 123, 1285-1298 (2013);その全体が参照により本明細書中に援用される)。したがって、多能性幹細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、及び単為発生幹細胞から選択され得る。しかし、本発明の文脈において、該多能性幹細胞は、ヒトの生殖系列上の遺伝子同一性を改変することを含むプロセス、又は工業的若しくは商業的目的のためのヒト胚の使用を含むプロセスを使用して作製されない。
【0019】
工程(i)で使用される基本培地は、DMEM/F12、StemPro、イスコフ培地、αMEM、DMEM、及びRPMIから選択され得る。好ましくは、工程(i)で使用される基本培地は、ピルビン酸の補充されたRPMIである。しかし、任意の適切な基本培地を該方法に使用してもよい。基本培地は市販されているか、又は、例えばATCCのカタログから公共的に入手可能なレシピに従って調製されてもよい。
【0020】
適切であると考えられれば、基本培地に、非必須アミノ酸を補充してもよい。αMEMを基本培地として使用する場合、基本培地に更に非必須アミノ酸を補充する必要はない。非必須アミノ酸は、複合サプリメントとして市販されている。このようなサプリメントは、例えば、750mg/Lのグリシン、890mg/LのL-アラニン、1320mg/LのL-アスパラギン、1330mg/LのL-アスパラギン酸、1470mg/LのL-グルタミン酸、1150mg/LのL-プロリン、及び1050mg/LのL-セリンを含む。
【0021】
上記に示されているように、工程(i)の基本培地は、有効量のBMP4、アクチビンA、FGF2、及びGSK3阻害剤を含む。例えば、このような基本培地は、1~20ng/ml、好ましくは2~15ng/ml、より好ましくは2.5~10ng/ml、より好ましくは3~8ng/ml、最も好ましくは4~6ng/ml、更に最も好ましくは約5ng/mlのBMP4;0.1~10ng/ml、好ましくは1~9ng/ml、より好ましくは2~8ng/ml、更により好ましくは3~7ng/ml、最も好ましくは4~6ng/ml、更に最も好ましくは約5ng/mlのFGF2;1~20ng/ml、好ましくは2.5~18ng/ml、より好ましくは5~16ng/ml、更により好ましくは7.5~14ng/ml、更により好ましくは8~12ng/ml、最も好ましくは8.5~10ng/ml、更に最も好ましくは約9ng/mlのアクチビンAを含む。
【0022】
工程(i)の基本培地中のGSK3阻害剤は、例えば、CHIR99021、CHIR98014、SB216763、TWS119、チデグルシブ、SB415286、及びLY2090314からなる群より選択され得る。しかし、本発明の方法に適した任意ののGSK3阻害剤を適用できる。好ましい実施態様では、工程(i)の基本培地中のGSK3阻害剤はCHIR99021である。
【0023】
有効量のGSK3阻害剤の濃度は、問題の阻害剤の利用能及び阻害定数によって変動することが当業者によって理解される。本発明の文脈において、本明細書においてGSK3阻害剤の文脈で使用される「有効量」という用語は、酵素を不活性化する濃度を意味することを意図する。例えば、CHIR99021の場合、工程(i)の基本培地は、0.1~10μMのCHIR99021、好ましくは0.2~9μM、より好ましくは0.3~8μM、更により好ましくは0.4~7μM、更により好ましくは0.5~6μM、より好ましくは0.6~5μM、より好ましくは0.7~4μM、より好ましくは0.8~3μM、最も好ましくは0.9~2μM、更に最も好ましくは約1μMのCHIR99021を含む。あらゆる受容体/酵素のアゴニスト又は阻害剤の有効濃度は、それぞれの化合物の利用能及び生物学的活性により変動することが理解される。該方法の工程(i)、(ii)及び(iii)に適用される無血清サプリメントは、0.5~50mg/mlのアルブミン(好ましくは1~40mg/ml、より好ましくは2~30mg/ml、更により好ましくは3~20mg/ml、最も好ましくは4~10mg/ml、更に最も好ましくは4.5~7.5mg/ml、例えば約5mg/ml)、1~100μg/mlのトランスフェリン(好ましくは2~90μg/ml、より好ましくは3~80μg/ml、更により好ましくは4~70μg/ml、更により好ましくは5~60μg/ml、より好ましくは6~50μg/ml、より好ましくは7~40μg/ml、より好ましくは8~30μg/ml、より好ましくは9~20μg/ml、例えば約10μg/ml)、0.1~10μg/mlのエタノールアミン(好ましくは0.2~9μg/ml、より好ましくは0.3~8μg/ml、更により好ましくは0.4~7μg/ml、更により好ましくは0.5~6μg/ml、より好ましくは0.6~5μg/ml、より好ましくは0.7~4μg/ml、より好ましくは0.8~3μg/ml、より好ましくは1~2.5μg/ml、例えば約2μg/ml)、0.003~0.3μg/mlの亜セレン酸ナトリウム(好ましくは0.005~0.2μg/ml、より好ましくは0.01~0.1μg/ml、更により好ましくは0.02~0.05μg/ml、最も好ましくは約0.03μg/ml、例えば約0.032μg/ml)、0.4~40μg/mlのL-カルニチンHCl(好ましくは0.5~30μg/ml、より好ましくは1~20μg/ml、更により好ましくは2~10μg/ml、最も好ましくは3~5μg/ml、更に最も好ましくは約4μg/ml)、0.1~10μg/mlのヒドロコルチゾン(好ましくは0.2~9μg/ml、より好ましくは0.3~8μg/ml、更により好ましくは0.4~7μg/ml、更により好ましくは0.5~6μg/ml、より好ましくは0.6~5μg/ml、より好ましくは0.7~4μg/ml、より好ましくは0.8~3μg/ml、より好ましくは0.9~2μg/ml、例えば約1μg/ml)、0.05~5μl/mlの脂肪酸サプリメント(好ましくは0.1~4μl/ml、より好ましくは0.2~3μl/ml、更により好ましくは0.3~3μl/ml、最も好ましくは0.4~2μl/ml、更に最も好ましくは0.45~1μl/ml、例えば約0.5μl/ml)、及び0.0001~0.1μg/mlのトリヨード-L-チロニン(T3)(好ましくは0.001~0.01μg/ml、より好ましくは0.002~0.0075μg/ml、更により好ましくは0.003~0.005μg/ml、最も好ましくは約0.004μg/ml)の最終濃度が得られるように処方される。
【0024】
更に、無血清サプリメントは更に、ビタミンA、D-ガラクトース、L-カルニチン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、及びプトレシンからなる群より選択される1つ以上の成分を含み得る。これらの成分は細胞の生存能に貢献する。それぞれの成分の適切な濃度は当業者には公知であるか、又は、慣用の測定を使用して容易に決定することができる。
【0025】
工程(i)において言及された無血清サプリメントは市販もされている。例えば、B27(登録商標)サプリメント又はインスリンを除いたB27(登録商標)サプリメントが使用され得る。好ましい実施態様では、上記の方法の工程(i)で使用されるB27(登録商標)サプリメント又はインスリンを除いたB27(登録商標)サプリメントは、0.1~10%のB27(登録商標)又はインスリンを除いたB27(登録商標)の量で、好ましくは0.5~8%、より好ましくは1~6%、更により好ましくは1.5~4%、最も好ましくは約2%のB27(登録商標)又はインスリンを除いたB27(登録商標)の量で適用される。
【0026】
以下の実施例で示されているように、有効量のアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を工程(i)の基本培地に含めることが有利であることが判明した。好ましい実施態様では、工程(i)の基本培地は、10~1000μM、好ましくは50~400μM、より好ましくは100~300μM、更により好ましくは150~250μM、最も好ましくは約200μMのアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を含む。アスコルビン酸は、遊離形で送達されても、又は塩として送達されてもよい。アスコルビン酸は活性成分であるので、対イオンが細胞に対して有害な作用を全く及ぼさない限り、アスコルビン酸を細胞に与える、アスコルビン酸の任意の塩又は誘導体が使用され得る。実施例で示されているように、アスコルビン酸の1つの適切な塩又は誘導体はアスコルビン酸-2-リン酸である。
【0027】
工程(i)の長さ、並びにBMP4、アクチビンA、FGF2、及びGSK3阻害剤などの因子の濃度は、中胚葉分化の誘導効率をモニタリングすることによって最適化され得る。これは、細胞表面マーカー又は多能性マーカーの発現をモニタリングすることによって、すなわち、(a)TRA-1-60及びOCT4陽性細胞(多能性幹細胞)の減少、並びに(b)MIXL1及びMesp1陽性細胞(中胚葉)の増加によって、成し遂げられ得る(本明細書の図4fも参照)。
【0028】
簡潔に言えば、細胞をエタノールを使用して固定し、標準的なプロトコールを使用してブロックし、次いで、ブロック緩衝液中でTRA-1-60、OCT4、MIXL1及び/又はMesp1(以下の表2参照)に対する一次抗体を用いて45分間、場合により続いてブロック緩衝液中で二次抗体(一次抗体が蛍光標識されていない場合)及びヘキストを用いて4℃で30分間(以下の表2参照)、染色する。BD LSRIIをフローサイトメトリー分析(BD Biosystems)に使用する。生細胞について集団を前方側方散乱プロファイルに基づいてゲートにかける。BD FACSDivaソフトウェア(BD Bioscience)又はCyflologic v1.2.1(Cyflo Ltd)を分析に使用する。中胚葉分化の誘導は、
(a)生細胞集団の50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、更により好ましくは20%未満、最も好ましくは10%未満、更に最も好ましくは5%未満の細胞がTRA-1-60について陽性であり;及び/又は、生細胞集団の50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、更により好ましくは20%未満、最も好ましくは10%未満、更に最も好ましくは5%未満の細胞がOCT4について陽性であり;並びに
(b)生細胞集団の20%超、好ましくは30%超、より好ましくは40%超、更により好ましくは50%超、最も好ましくは60%超の細胞がMIXL1について陽性であり;並びに/又は、生細胞集団の20%超、好ましくは30%超、より好ましくは40%超、更により好ましくは50%超、最も好ましくは60%超の細胞がMesp1について陽性である
場合に示される。
【0029】
通常、工程(i)は48~96時間行なわれる。好ましくは、工程(i)は60~84時間行なわれ、より好ましくは工程(i)は66~78時間行なわれる。
【0030】
工程(ii)に使用される基本培地は、DMEM/F12、StemPro、イスコフ培地、αMEM、DMEM、及びRPMIから選択され得る。好ましくは、工程(ii)に使用される基本培地は、ピルビン酸の補充されたRPMIである。しかし、任意の適切な基本培地を該方法に使用してもよい。
【0031】
適切であると考えられれば、工程(ii)の基本培地に、非必須アミノ酸を補充してもよい。αMEMを工程(ii)の基本培地として使用する場合、基本培地に更に非必須アミノ酸を補充する必要はない。非必須アミノ酸は、複合サプリメントとして市販されている。このようなサプリメントは、例えば、750mg/Lのグリシン、890mg/LのL-アラニン、1320mg/LのL-アスパラギン、1330mg/LのL-アスパラギン酸、1470mg/LのL-グルタミン酸、1150mg/LのL-プロリン、及び1050mg/LのL-セリンを含む。
【0032】
工程(ii)の基本培地は、独立して、工程(i)に適用される基本培地から選択され得る。しかし、好ましい実施態様では、工程(i)及び(ii)の基本培地は同じである。
【0033】
工程(ii)の基本培地中のWntシグナル伝達経路阻害剤は、本発明の方法に適切に適用することのできる、どのようなWntシグナル伝達経路阻害剤であってもよい。好ましくは、当該Wntシグナル伝達経路阻害剤は、IWP4、IWP2、IWR-1、IWP1、IWP3、IWR-2、IWR-3、IWR-4、IWR-5、XAV939、DKK1、ケルセチン、ICG-001、ピルビニウム、CCT031374、iCRT-3,5,14、CPG049090、NC043からなる群より選択される。より好ましくは、当該Wntシグナル伝達経路阻害剤は、IWP4、IWP2、IWR-1、IWP1、IWP3、IWR-2、IWR-3、IWR-4、IWR-5、XAV939、DKK1からなる群より選択される。以下の実施例に示されているように、工程(ii)の基本培地中の1つの特に有用なWntシグナル伝達経路阻害剤はIWP4である。
【0034】
工程(ii)において言及された無血清サプリメントは、上記の工程(i)で定義されたとおりである。工程(i)及び(ii)に適用される無血清サプリメントは同じであっても同じでなくてもよい。同様に、B27(登録商標)サプリメント又はインスリンを除いたB27(登録商標)サプリメントを工程(ii)に使用することができる。好ましい実施態様では、上記の方法の工程(ii)に使用されるB27(登録商標)サプリメント又はインスリンを除いたB27(登録商標)サプリメントは、0.1~10%のB27(登録商標)又はインスリンを除いたB27(登録商標)の量で、好ましくは0.5~8%、より好ましくは1~6%、更により好ましくは1.5~4%、最も好ましくは約2%のB27(登録商標)又はインスリンを除いたB27(登録商標)の量で適用される。
【0035】
有効量のWntシグナル伝達経路阻害剤の濃度は、問題の阻害剤の利用能及び阻害定数によって変動することが当業者によって理解される。例えば、IWP4の場合、工程(ii)の基本培地は、0.1~10μMのIWP4、好ましくは1~9μM、より好ましくは2~8μM、更により好ましくは3~7μM、更により好ましくは4~6μM、最も好ましくは約5μMのIWP4を含み得る。あらゆる受容体/酵素のアゴニスト又は阻害剤の有効濃度は、それぞれの化合物の利用能及び生物学的活性により変動することが理解される。
【0036】
以下の実施例で示されているように、有効量のアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を工程(ii)の基本培地に含めることが有利であることが判明した。好ましい実施態様では、工程(ii)の基本培地は、10~1000μM、好ましくは50~400μM、より好ましくは100~300μM、更により好ましくは150~250μM、最も好ましくは約200μMのアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を含む。アスコルビン酸は、遊離形で送達されても、又は塩として送達されてもよい。アスコルビン酸は活性成分であるので、対イオンが細胞に対して有害な作用を全く及ぼさない限り、アスコルビン酸を細胞に与える、アスコルビン酸の任意の塩又は誘導体が使用され得る。実施例で示されているように、工程(ii)の基本培地に使用するためのアスコルビン酸の1つの適切な塩又は誘導体はアスコルビン酸-2-リン酸である。
【0037】
工程(ii)の長さ及びWntシグナル伝達経路阻害剤などの残りの構成成分の濃度は、細胞の心臓への分化の誘導効率をモニタリングすることによって最適化され得る。これは、分化マーカーの発現をモニタリングすることによって、すなわち、Nkx2.5及びアクチニンの増加によって、成し遂げられ得る。
【0038】
簡潔に言えば、細胞をエタノールを使用して固定し、ブロックし、次いで、ブロック緩衝液中でNkx2.5及び/又はアクチニン(以下の表2参照)に対する一次抗体を用いて45分間、場合により続いてブロック緩衝液中で二次抗体(一次抗体が蛍光標識されていない場合)及びヘキストを用いて4℃で30分間(以下の表2参照)、染色する。BD LSRIIをフローサイトメトリー分析(BD Biosystems)に使用する。生細胞について集団を前方側方散乱プロファイルに基づいてゲートにかける。BD FACSDivaソフトウェア(BD Bioscience)又はCyflologic v1.2.1(Cyflo Ltd)を分析に使用する。心臓への分化の誘導は、生細胞集団の20%超、好ましくは30%超、より好ましくは40%超、更により好ましくは50%超、最も好ましくは60%超の細胞がNkx2.5について陽性であり;及び/又は、生細胞集団の20%超、好ましくは30%超、より好ましくは40%超、更により好ましくは50%超、最も好ましくは60%超の細胞がアクチニンについて陽性である場合に示される(本明細書の図4d及び4fも参照)。
【0039】
通常、工程(ii)は8~12日間行なわれる。好ましくは、工程(ii)は9~11日間行なわれ、最も好ましくは工程(ii)は10日間行なわれる。
【0040】
工程(iii)に使用される基本培地は、DMEM/F12、StemPro、イスコフ培地、αMEM、DMEM、及びRPMIから選択され得る。好ましくは、工程(iii)に使用される基本培地は、ピルビン酸の補充されたRPMIである。しかし、任意の適切な基本培地を該方法に使用してもよい。
【0041】
適切であると考えられれば、工程(iii)の基本培地に、非必須アミノ酸を補充してもよい。αMEMを工程(iii)の基本培地として使用する場合、基本培地に更に非必須アミノ酸を補充する必要はない。非必須アミノ酸は、複合サプリメントとして市販されている。このようなサプリメントは、例えば、750mg/Lのグリシン、890mg/LのL-アラニン、1320mg/LのL-アスパラギン、1330mg/LのL-アスパラギン酸、1470mg/LのL-グルタミン酸、1150mg/LのL-プロリン、及び1050mg/LのL-セリンを含む。
【0042】
工程(iii)の基本培地は、独立して、工程(i)及び/又は(ii)に適用される基本培地から選択され得る。しかし、好ましい実施態様では、工程(ii)及び(iii)の基本培地は同じである。より好ましくは、工程(i)、(ii)及び(iii)の基本培地は同じである。
【0043】
以下の実施例で示されているように、有効量のアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を工程(iii)の基本培地に含めることが有利であることが判明した。好ましい実施態様では、工程(iii)の基本培地は、10~1000μM、好ましくは50~400μM、より好ましくは100~300μM、更により好ましくは150~250μM、最も好ましくは約200μMのアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を含む。アスコルビン酸は、遊離形で送達されても、又は塩として送達されてもよい。アスコルビン酸は活性成分であるので、対イオンが細胞に対して有害な作用を全く及ぼさない限り、アスコルビン酸を細胞に与える、アスコルビン酸の任意の塩又は誘導体が使用され得る。実施例で示されているように、工程(iii)の基本培地に使用するためのアスコルビン酸の1つの適切な塩又は誘導体はアスコルビン酸-2-リン酸である。
【0044】
工程(iii)において言及された無血清サプリメントは、上記の工程(i)で定義された無血清サプリメントである。工程(i)、(ii)及び(iii)に適用される無血清サプリメントは同じであっても同じでなくてもよい。同様に、B27(登録商標)サプリメント又はインスリンを除いたB27(登録商標)サプリメントを工程(iii)に使用することができる。好ましい実施態様では、上記の方法の工程(iii)に使用されるB27(登録商標)サプリメント又はインスリンを除いたB27(登録商標)サプリメントは、0.1~10%のB27(登録商標)又はインスリンを除いたB27(登録商標)の量で、好ましくは0.5~8%、より好ましくは1~6%、更により好ましくは1.5~4%、最も好ましくは約2%のB27(登録商標)又はインスリンを除いたB27(登録商標)の量で適用される。
【0045】
工程(iii)の基本培地は更に、有効量のTGFβ1を含む。例えば、工程(iii)の基本培地は、0.1~10ng/mlのTGFβ1、好ましくは0.2~9ng/ml、より好ましくは0.3~8ng/ml、更により好ましくは0.4~7ng/ml、更により好ましくは0.5~6ng/ml、より好ましくは0.6~5ng/ml、より好ましくは0.7~4ng/ml、より好ましくは0.8~3ng/ml、最も好ましくは0.9~2ng/ml、更に最も好ましくは約1ng/mlのTGFβ1を含み得る。
【0046】
実施例に示されているように、工程(iii)の基本培地が有効量のFGF2を含まない場合が心臓の成熟にとって有利である。それとは対照的に、カルシウムは心臓の成熟を高めることが示された。したがって、好ましい実施態様では、工程(iii)の基本培地は、0.5~3mMのCa2+、好ましくは0.5~2.75mMのCa2+、より好ましくは1~2.25mMのCa2+、更により好ましくは1~1.5mM mMのCa2+、最も好ましくは約1.2mMのCa2+を含む。
【0047】
通常、本発明の方法の工程(iii)は、当技術分野において一般的に公知であるように、機械的刺激下で、例えば伸展装置上で、行なわれる。好ましくは、伸展装置は、静的伸展、相動性伸展、又は動的伸展をBHMにかける。より具体的には、機械的伸展は、弾力的な負荷に対して(a)静的、(b)動的、又は(c)柔軟であり得る。好ましくは、工程(iii)の機械的刺激は、動的な機械的刺激又は静的伸展である。より好ましい実施態様では、工程(iii)の機械的刺激は、増張力性収縮(auxotonic contraction)を促進するような、弾力的な負荷に対する動的な機械的刺激である。
【0048】
心臓の成熟が促進されているかどうかを、自発的収縮又は電気刺激収縮についての光学検査によって試験することができる。好ましくは、心臓の成熟は等尺性収縮実験によってモニタリングされ、0.01mNを超える単収縮力の発生が心臓の成熟についての指標である。
【0049】
簡潔に言えば、収縮実験を、120mMのNaCl、1mMのMgCl、0.2mMのCaCl、5.4mMのKCl、22.6mMのNaHCO、4.2mMのNaHPO、5.6mMのグルコース、及び0.56mMのアスコルビン酸を含有するタイロード溶液中、生理的pHを維持するために5%CO及び95%Oを絶えずバブリングしながら37℃の浴槽中で行なう。カルシウムを0.2Mの塩化カルシウム溶液を使用して調整する。ほぼ胎児の心拍数でペーシングするために、全てのBHMを、200mAの電流の5ms矩形波のパルスを用いて3Hzで分析する。刺激の周波数を変化させて、適切な力-周波数の応答(ボウディッチの機序)を確認する。BHMを、最大単収縮力が観察されるまで(力-長さの応答;フランク・スターリングの機序)、125μmの間隔で機械的に伸展させる。
【0050】
通常、工程(iii)は少なくとも72時間行なわれる。工程(iii)の長さに関して特定の上限はないが、該工程は通常、100日間未満行なわれる。具体的な実施態様では、工程(iii)は4~50日間、例えば約15日間行なわれ得る。
【0051】
本発明の方法の工程(i)の前に播種工程があってもよく、該多能性幹細胞は、適切な型に培地1mlあたり、2.5~6×10個の細胞/1mg コラーゲンの比で播種される。好ましくは、播種工程は工程(i)の18~30時間前に行なわれる。
【0052】
播種工程に使用される培地は通常、0.2~2mg/mlのコラーゲン(好ましくは0.3~1.9mg/ml、より好ましくは0.4~1.8mg/ml、更により好ましくは0.4~1.7mg/ml、更により好ましくは0.5~1.6mg/ml、より好ましくは0.6~1.5mg/ml、より好ましくは0.7~1.4mg/ml、より好ましくは0.8~1.3mg/ml、より好ましくは0.9~1.2mg/ml、例えば約1mg/ml)を含む。コラーゲンは好ましくは医薬等級であり、I型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、及びその混合物からなる群より選択される。より好ましい実施態様では、該コラーゲンの少なくとも90%がI型コラーゲンである。しかし、該コラーゲンはまた更に、エラスチン、ラミニン、エンタクチン、ナイドジェン、プロテオグリカン、及びフィブロネクチンからなる群より選択される1つ以上の細胞外マトリックス成分を含み得る。通常、コラーゲンの正確な組成は、それが何処から得られたかの起源に依存する。コラーゲンは好ましくはヒト起源であるが、ウシ若しくはブタ起源、又は海洋起源、例えば藻類起源若しくは魚起源も考えられる。或いは、組換えコラーゲンを使用してもよい。
【0053】
適切な細胞密度に達成するために、いくつかの多能性細胞株については、播種工程に使用される培地にROCK阻害剤を補充することが役立ち得る。それ故、好ましい実施態様では、播種工程に使用される培地は更にROCK阻害剤を含む。ROCK阻害剤は、本発明の方法に適切に適用され得る、任意のROCK阻害剤であり得る。好ましくは、該ROCK阻害剤は、Y27632、H-1152P、チアゾビビン、ファスジル、ヒドロキシファスジル、GSK429286A及びRKI-1447から選択され、好ましくはY27632、H-1152P、チアゾビビン、ファスジル、ヒドロキシファスジルから選択され、より好ましくはROCK阻害剤は、Y27632又はH-1152Pから選択される。以下の実施例に示されているように、1つの特に有用なROCK阻害剤はY27632である。
【0054】
有効量のROCK阻害剤の濃度は、問題の阻害剤の利用能及び阻害定数によって変動することが当業者によって理解される。例えば、Y27632の場合、播種工程に使用される培地は1~50μM、好ましくは2.5~40μM、より好ましくは5~30μM、更により好ましくは7.5~20μM、最も好ましくは8~12μM、最も好ましくは約10μMのY27632を含み得る。
【0055】
あらゆる受容体/酵素のアゴニスト又は阻害剤の有効濃度は、それぞれの化合物の利用能及び生物学的活性により変動することが理解される。
【0056】
上記に開示された方法とは別に、本発明は更に、該方法によって作製されたBHMに関する。本発明者らのBHMプロトコールで観察された増加した成熟度にも関わらず、BHMは依然として比較的未熟な組織であることも注記されるべきである。成人の心臓組織と比較して、BHMは依然として劣ったβ-MHC/α-MHC比を有し、前駆細胞遺伝子(例えばISL1)の低いが依然として保持された発現を示す。しかし、適切な培養条件下で生物物理学的な刺激と共に長期培養することにより、更に成熟度は高められ得る。これはBHM系についても該当し得ることを示唆する形態学的な証拠がすでに存在する。
【0057】
本明細書に開示された方法によって得られたBHMは、以下の特徴を示す:BHMは、少なくとも3Hzまでの複数の周波数でペーシングされ得、0.2mMより高く好ましくは4~8mMの生理学的範囲であるカルシウムEC50、及び200μNを超える単収縮張力を示す。単収縮張力は、増加した静止長及び静止張力に応答して増加する。1μMのイソプレナリンに応答して、BHMは、0.6mMのカルシウムでペーシングされた条件下で40μNを超える、好ましくは45μNを超える、より好ましくは50μNを超える変力応答を示す。簡潔に言えば、全ての収縮実験は、37℃の浴槽中で、120mMのNaCl、1mMのMgCl、0.2mMのCaCl、5.4mMのKCl、22.6mMのNaHCO、4.2mMのNaHPO、5.6mMのグルコース、及び0.56mMのアスコルビン酸を含有するタイロード溶液中生理的pHで行なわれる。カルシウムを、0.2Mの塩化カルシウム溶液を使用して調整する。ほぼ胎児の心拍数でペーシングするために、全てのBHMを、200mAの電流の5ms矩形波のパルスを用いて3Hzで分析する。刺激の周波数を変化させて、適切な力-周波数の応答(ボウディッチの機序)を確認する。BHMを、最大単収縮力が2mMのカルシウムで観察されるまで(フランク・スターリングの機序)、125μmの間隔で機械的に伸展させる。続いて、BHMを異なるカルシウム濃度(0.2、0.4、0.8、1.2、1.6、2.0、2.4mM)にかけ、単収縮力を記録する。イソプレナリン実験については、カルシウム濃度を0.6mMに調整し、続いて、イソプレナリン濃度を1μMに調整する。
【0058】
本明細書に開示された方法によって得られたBHMの別の特徴は、それがCD90間質細胞を含むことである。CD90の発現はフローサイトメトリーを使用して決定され得る。簡潔に言えば、細胞をエタノールを使用して固定し、ブロックし、次いで、ブロック緩衝液中でCD90(以下の表2参照)に対する一次抗体を用いて45分間、場合により続いてブロック緩衝液中で二次抗体(一次抗体が蛍光標識されていない場合)及びヘキストを用いて4℃で30分間(以下の表2参照)、染色する。BD LSRIIをフローサイトメトリー分析(BD Biosystems)に使用する。生細胞について集団を前方側方散乱プロファイルに基づいてゲートにかける。BD FACSDivaソフトウェア(BD Bioscience)又はCyflologic v1.2.1(Cyflo Ltd)を分析に使用する。
【0059】
BHMは、無血清環境において成熟を駆動する機序を調べるための良好なモデル系を提供し得、本発明者らはすでに、培養期間の延長により成熟度が増し得ることを示している(本発明者らは、イソプレナリン感度の増大及び組織形態の改善を示した)。機能を消失することなく長期間BHMを培養できることは(少なくとも63日間)また、長期間の薬理学的安全性及び効力に関する実験が可能であることを示唆する。したがって、好ましい実施態様では、本明細書に開示された方法によって得られたBHMは少なくとも63日間維持され得る。
【0060】
分化及びそれに続く組織工学の従来アプローチを使用すると、心臓組織工学への適用のために必要とされる単細胞/小さな凝集塊を得るためには、分化培養物は、広範な消化プロトコールを必要とする。これらの消化プロトコールは、発生中に形成された細胞外環境及び空間的分布を破壊するので、心臓分化プロトコールに対する阻害作用を制御することが困難であり得る。
【0061】
モデルとしてBHMを使用して、本発明者らは、初期発生に影響を及ぼす因子(ASC-2-P、ドルソモルフィン)及び後期発生に影響を及ぼす因子(機械的刺激、FGF2、TGFβ1、及びカルシウム濃度)が、BHMの機能及び特性に重大な影響を有したことを示した。それ故、本発明者らのBHMプロトコールは、心臓発生だけでなく組織の形成及び特性を支配する発生プロセスの研究における有用なツールであり得る。
【0062】
したがって、本明細書に開示された方法によって得られたBHMは、研究ツールとして適切に使用され得る。例えば、薬物毒性スクリーニングのためのインビトロモデルにおける、本明細書に開示された方法によって得られたBHMの使用が考えられる。換言すれば、本明細書に開示された方法によって得られたBHMをスクリーニングしようとする薬物と接触させる工程を含む、薬物毒性をスクリーニングするための方法が考えられる。或いは、本明細書に開示された方法によって得られたBHMは、薬理学的候補薬剤による心臓機能調節を試験するためのインビトロ法に使用され得る。したがって、本発明に係るBHMを薬理学的候補薬剤と接触させる工程を含む、心臓機能調節を試験するための方法も記載する。
【0063】
最後に、本明細書に開示された方法によって得られたBHMを医薬に使用することができる。単に一例として、本明細書に開示された方法によって得られたBHMは、有利には心臓の修復に使用することができると考えられる。
【0064】
本発明は更に、以下の実施態様によって記載される:
1.(i)有効量の(a)BMP4、アクチビンA、FGF2、GSK3阻害剤、及び(b)0.5~50mg/mlのアルブミン、1~100μg/mlのトランスフェリン、0.1~10μg/mlのエタノールアミン、0.003~0.3μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、0.4~40μg/mlのL-カルニチンHCl、0.1~10μg/mlのヒドロコルチゾン、0.05~5μl/mlの脂肪酸サプリメント、0.0001~0.1μg/mlのトリヨード-L-チロニン(T3)の最終濃度が得られる無血清サプリメントを含む、基本培地中で多能性幹細胞を培養し、これにより、該多能性幹細胞の中胚葉への分化を誘導する工程;
(ii)有効量のWntシグナル伝達経路阻害剤及び(i)におけるような無血清サプリメントを含む基本培地中で、工程(i)で得られた細胞を培養し、これにより、該細胞の心臓への分化を誘導する工程;及び
(iii)機械的刺激下で有効量の(i)におけるような無血清サプリメントを含む基本培地中で、工程(ii)で得られた細胞を培養し、これにより、心臓の成熟を促進する工程
を含む、多能性幹細胞から生物工学によって作られた心筋を作製するための方法。
【0065】
2.多能性幹細胞が、霊長類を起源とする多能性幹細胞、好ましくはヒト多能性幹細胞である、実施態様1の方法。
【0066】
3.多能性幹細胞が、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、及び単為発生幹細胞から選択される、実施態様1又は2の方法。
【0067】
4.工程(i)の基本培地が、10~1000μM、好ましくは50~400μM、より好ましくは100~300μM、更により好ましくは150~250μM、最も好ましくは約200μMのアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を含む、実施態様1~3のいずれか1つの方法。
【0068】
5.アスコルビン酸の塩又は誘導体が、アスコルビン酸-2-リン酸である、実施態様4の方法。
【0069】
6.工程(i)が48~96時間行なわれ、好ましくは工程(i)が60~84時間行なわれ、最も好ましくは工程(i)が66~78時間行なわれる、実施態様1~5のいずれか1つの方法。
【0070】
7.工程(i)の基本培地が、1~20ng/ml、好ましくは2~15ng/ml、より好ましくは2.5~10ng/ml、より好ましくは3~8ng/ml、最も好ましくは4~6ng/ml、更に最も好ましくは約5ng/mlのBMP4を含む、実施態様1~6のいずれか1つの方法。
【0071】
8.工程(i)の基本培地が、0.1~10ng/ml、好ましくは1~9ng/ml、より好ましくは2~8ng/ml、更により好ましくは3~7ng/ml、最も好ましくは4~6ng/ml、更に最も好ましくは約5ng/mlのFGF2を含む、実施態様1~7のいずれか1つの方法。
【0072】
9.工程(i)の基本培地が、1~20ng/ml、好ましくは2.5~18ng/ml、より好ましくは5~16ng/ml、更により好ましくは7.5~14ng/ml、更により好ましくは8~12ng/ml、最も好ましくは8.5~10ng/ml、更に最も好ましくは約9ng/mlのアクチビンAを含む、実施態様1~8のいずれか1つの方法。
【0073】
10.工程(i)の基本培地中のGSK3阻害剤が、CHIR99021、CHIR98014、SB216763、TWS119、チデグルシブ、SB415286、及びLY2090314からなる群より選択される、実施態様1~9のいずれか1つの方法。
【0074】
11.工程(i)の基本培地中のGSK3阻害剤が、CHIR99021である、実施態様10の方法。
【0075】
12.工程(i)の基本培地が、0.1~10μMのCHIR99021、好ましくは0.2~9μM、より好ましくは0.3~8μM、更により好ましくは0.4~7μM、更により好ましくは0.5~6μM、より好ましくは0.6~5μM、より好ましくは0.7~4μM、より好ましくは0.8~3μM、最も好ましくは0.9~2μM、更に最も好ましくは約1μMのCHIR99021を含む、実施態様11の方法。
【0076】
13.工程(i)の無血清サプリメントが、0.1~10%のB27又はインスリンを除いたB27、好ましくは0.5~8%、より好ましくは1~6%、更により好ましくは1.5~4%、最も好ましくは約2%のB27又はインスリンを除いたB27を含む、実施態様1~12のいずれか1つの方法。
【0077】
14.工程(i)に使用される基本培地が、DMEM/F12、StemPro、イスコフ培地、αMEM、DMEM、及びRPMIである、実施態様1~13のいずれか1つの方法。
【0078】
15.工程(i)に使用される基本培地が、ピルビン酸の補充されたRPMIである、請求項14の方法。
【0079】
16.工程(ii)の基本培地中のWntシグナル伝達経路阻害剤が、IWP4、IWP2、IWR-1、IWP1、IWP3、IWR-2、IWR-3、IWR-4、IWR-5、XAV939、DKK1、ケルセチン、ICG-001、ピルビニウム、CCT031374、iCRT-3、5、14、CPG049090、NC043からなる群より選択され;好ましくは、IWP4、IWP2、IWR-1、IWP1、IWP3、IWR-2、IWR-3、IWR-4、IWR-5、XAV939、DKK1からなる群より選択される、実施態様1~15のいずれか1つの方法。
【0080】
17.工程(ii)の基本培地中のWntシグナル伝達経路阻害剤が、IWP4である、実施態様16の方法。
【0081】
18.工程(ii)の基本培地が、0.1~10μMのIWP4、好ましくは1~9μM、より好ましくは2~8μM、更により好ましくは3~7μM、更により好ましくは4~6μM、最も好ましくは約5μMのIWP4を含む、実施態様17の方法。
【0082】
19.工程(ii)の基本培地が、10~1000μM、好ましくは50~400μM、より好ましくは100~300μM、更により好ましくは150~250μM、最も好ましくは約200μMのアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を含む、実施態様1~18のいずれか1つの方法。
【0083】
20.アスコルビン酸の塩又は誘導体が、アスコルビン酸-2-リン酸である、実施態様19の方法。
【0084】
21.工程(ii)が8~12日間行なわれ、好ましくは工程(ii)が9~11日間行なわれ、最も好ましくは工程(ii)が10日間行なわれる、実施態様1~20のいずれか1つの方法。
【0085】
22.工程(ii)の無血清サプリメントが、0.1~10%のB27又はインスリンを除いたB27、好ましくは0.5~8%、より好ましくは1~6%、更により好ましくは1.5~4%、最も好ましくは約2%のB27又はインスリンを除いたB27を含む、実施態様1~21のいずれか1つの方法。
【0086】
23.工程(ii)に使用される基本培地が、DMEM/F12、StemPro、イスコフ培地、αMEM、DMEM、及びRPMIである、実施態様1~22のいずれか1つの方法。
【0087】
24.工程(ii)に使用される基本培地が、ピルビン酸の補充されたRPMIである、実施態様23の方法。
【0088】
25.工程(iii)の基本培地が更に、10~1000μM、好ましくは50~400μM、より好ましくは100~300μM、更により好ましくは150~250μM、最も好ましくは約200μMのアスコルビン酸又はその塩或いはその誘導体を含む、実施態様1~24のいずれか1つの方法。
【0089】
26.アスコルビン酸の塩又は誘導体が、アスコルビン酸-2-リン酸である、実施態様25の方法。
【0090】
27.工程(iii)が少なくとも72時間行なわれ、好ましくは工程(iii)が100日間未満行なわれ、より好ましくは工程(iii)が4~50日間行なわれ、最も好ましくは工程(iii)が約15日間行なわれる、実施態様1~26のいずれか1つの方法。
【0091】
28.工程(iii)の無血清サプリメントが、0.1~10%のB27又はインスリンを除いたB27、好ましくは0.5~8%、より好ましくは1~6%7、更により好ましくは1.5~4%、最も好ましくは約2%のB27又はインスリンを除いたB27を含む、実施態様1~27のいずれか1つの方法。
【0092】
29.工程(iii)に使用される基本培地が、DMEM/F12、StemPro、イスコフ培地、αMEM、DMEM、及びRPMIである、実施態様1~28のいずれか1つの方法。
【0093】
30.工程(i)に使用される基本培地が、ピルビン酸の補充されたRPMIである、実施態様29の方法。
【0094】
31.工程(iii)の基本培地が更に、0.1~10ng/mlのTGFβ1、好ましくは0.2~9ng/ml、より好ましくは0.3~8ng/ml、更により好ましくは0.4~7ng/ml、更により好ましくは0.5~6ng/ml、より好ましくは0.6~5ng/ml、より好ましくは0.7~4ng/ml、より好ましくは0.8~3ng/ml、最も好ましくは0.9~2ng/ml、更に最も好ましくは約1ng/mlのTGFβ1を含む、実施態様1~30のいずれか1つの方法。
【0095】
32.工程(iii)の基本培地が、有効量のFGF2を含まない、実施態様1~31のいずれか1つの方法。
【0096】
33.工程(iii)の基本培地が、0.5~3mMのCa2+、好ましくは0.5~2.75mMのCa2+、より好ましくは1~2.25mMのCa2+、更により好ましくは1~1.5mMのCa2+、最も好ましくは約1.2mMのCa2+を含む、実施態様1~32のいずれか1つの方法。
【0097】
34.工程(iii)の機械的刺激が、動的な機械的刺激又は静的伸展である、実施態様1~33のいずれか1つの方法。
【0098】
35.工程(iii)の機械的刺激が、動的な機械的刺激である、実施態様34の方法。
【0099】
36.工程(i)の前に播種工程を含み、多能性幹細胞が、適切な型に培地1mlあたり、2.5~6×10個の細胞/1mg コラーゲンの比で播種される、実施態様1~35のいずれか1つの方法。
【0100】
37.コラーゲンが、I型コラーゲンである、実施態様36の方法。
【0101】
38.前記コラーゲンが、ヒト起源、ブタ起源、又は海洋起源である、実施態様36~37のいずれか1つの方法。
【0102】
39.播種工程に使用される培地が更に、ROCK阻害剤を含む、実施態様36~38のいずれか1つの方法。
【0103】
40.ROCK阻害剤が、Y27632、H-1152P、チアゾビビン、ファスジル、ヒドロキシファスジル、GSK429286A及びRKI-1447から選択され、好ましくはY27632、H-1152P、チアゾビビン、ファスジル、ヒドロキシファスジルから選択され、より好ましくはROCK阻害剤が、Y27632又はH-1152Pであり、最も好ましくはROCK阻害剤が、Y27632である、実施態様39の方法。
【0104】
41.播種工程に使用される培地が、1~50μM、好ましくは2.5~40μM、より好ましくは5~30μM、更により好ましくは7.5~20μM、最も好ましくは8~12μM、最も好ましくは約10μMのY27632を含む、実施態様40の方法。
【0105】
42.播種工程が、工程(i)の18~30時間前に行なわれる、実施態様36~41のいずれか1つの方法。
【0106】
43.実施態様1~42のいずれか1つに係る方法によって作製された生物工学によって作られたヒト心筋(BHM)。
【0107】
44.少なくとも3Hzまでの複数の周波数でペーシングされ得る、実施態様43のBHM。
【0108】
45.増加した静止長及び静止張力に応答して、増加した単収縮張力を示す、実施態様43又は44のBHM。
【0109】
46.0.2mMより高いカルシウムEC50を示す、実施態様43~45のいずれか1つのBHM。
【0110】
47.200μNを超える単収縮張力を示す、実施態様43~46のいずれか1つのBHM。
【0111】
48.0.6mMのカルシウムでのペーシング条件下で1μMのイソプレナリンに対して40μNを超える、好ましくは45μNを超える、より好ましくは50μNを超える変力応答を示す、実施態様43~47のいずれか1つのBHM。
【0112】
49.心筋細胞及びCD90間質細胞を含む、実施態様43~48のいずれか1つのBHM。
【0113】
50.少なくとも62日間維持することができる、実施態様43~49のいずれか1つのBHM。
【0114】
51.薬物毒性スクリーニングのためのインビトロモデルにおける、実施態様43~50のいずれか1つに係る生物工学によって作られたヒト心筋(BHM)の使用。
【0115】
52.薬理学的候補薬剤による心臓機能調節を試験するためのインビトロ法における、実施態様43~50のいずれか1つに係る生物工学によって作られたヒト心筋(BHM)の使用。
【0116】
53.研究ツールとしての、実施態様43~50のいずれか1つに係る生物工学によって作られたヒト心筋(BHM)の使用。
【0117】
54.医薬に使用するための、実施態様43~50のいずれか1つに係る生物工学によって作られたヒト心筋(BHM)。
【0118】
55.心臓の修復に使用するための、実施態様43~50のいずれか1つに係る生物工学によって作られたヒト心筋(BHM)。
【0119】
以下の実施例は、本発明を更に説明するためであって、本発明を制限する意味はない。実施例は様々な技術的特徴を含み、本発明はまた、この例示的な章で提示された技術的特徴の組合せにも関することが理解される。
【実施例
【0120】
心臓への分化は、初期の心臓の中胚葉への誘導の最適化を必要とする
筋細胞ではない細胞画分又は間質細胞が、工学によって作られた心臓組織の機能にとって必須であることが示されている。この理由から、心筋細胞及び線維芽細胞/間質細胞を持続的に産生する心臓分化プロトコールがまず必要とされた。本発明者らは、以前に公表された無血清の二次元hPSC分化プロトコールに基づいて、収率及びコンシステンシーの両方に関して、その心臓分化プロトコール(図1a)を最適化した(Hudson et al. Stem Cells Dev 21, 1513-1523 (2012))。中胚葉誘導期の間にWNT活性を安定化させれば、強さ及び効率を増強させることができると考えられた。中胚葉誘導のための代理マーカーとして、MESP1発現を培養3日目にqPCRによって分析した;これに続いて、16日目にα-アクチニン(心筋細胞マーカー)についてフローサイトメトリーを行ない、これは拍動活動の量と非常に良く相関していることが判明した。以前に公表されたプロトコールから新規なプロトコールへの進歩に関する最も重要な工程を図1に要約する。
【0121】
以前のプロトコールでは、最初の3日間はBMP4及びアクチビン-Aを用いた心臓の中胚葉への誘導、次いで、WNT阻害剤のIWP4を使用した心臓への特異化を使用していた(Hudson et al Stem Cells Dev 21, 1513-1523 (2012))。hPSCを使用した近年の研究における初期中胚葉形成及びインビボでの発生のためにFGF2が必要不可欠であることと一致して、分化の最初の3日間の最中に5ng/mlのFGF2を添加することにより、MESP1の発現が増加する傾向(図1b)が、続いてα-アクチニンが増加する傾向(図1c)が得られた。しかし、コンシステンシー及び分化を向上させるのを助けるのは強制されたWNTシグナル伝達であり、これは初期中胚葉の誘導におけるその不可欠な役割と一致する。WNTシグナル伝達を強制するために、古典的WNT阻害剤の存在下でさえWNTシグナル伝達を誘導するGSK3βの小分子阻害剤であるCHIR99021を使用した。CHIRは、単独で又は図1b、cで使用される分化因子と共に、全く拍動活動を誘導することができなかった。BMP4濃度を変化させると、MESP1発現(図1d)及びα-アクチニン発現(図1e)の最適かつ一貫した発現誘導が、5ng/mlのBMP4濃度で認められた。その後、分化プロトコールから各因子を個々に除去することにより、MESP1の効率的かつ一貫した誘導(図1f)、続いてα-アクチニンの発現(図1g)におけるその必要性が示された。
【0122】
BHMを形成するために、間質細胞集団が存在することも重要である。それ故、間質細胞又は他の混入している可能性のある細胞型が最適化された分化プロトコールに存在するかどうかを調べた。非常に低いレベルの混入している可能性のある細胞集団が認められ、hPSC(POU5F1としても知られるOCT4)(図1h)、内胚葉(SOX17)(図1i)、神経(NEUROD1)(図1j)、及び初期中胚葉(MESP1)(データは示されていない)についてqPCRを使用して分析した。他の条件(全く因子を含まないか又はIWP4を含まない、データは示されていない)と比較して、NKX2-5及びβ-MHC(MYH7としても知られる)の非常に高い発現が本発明の心臓分化培養物に認められた。更に、心筋細胞(図1k-1)及び異なる間質細胞型(α-平滑筋アクチン陽性細胞(α-SMA)、I型コラーゲン陽性細胞(COLI)細胞、及びα-SMACOLI細胞を含む)の両方が存在していたことが判明した(図1m、n)。要するに、このデータは、本発明の心臓分化プロトコールが心筋細胞を効率的に産生し、残りの細胞は主に間質細胞であり、したがって、組織工学操作適用のために必要とされる細胞組成がもたらされることを示唆する。
【0123】
BHMの定方向の形成
心臓分化プロトコールの最適化後、hPSCから直接BHMを形成することができるかどうかの仮説を試験した。新規な無血清心臓分化プロトコール(図1)を追加の成熟工程と共に使用し、そこでは、弁輪を型から取り出し、静的伸展装置(緩んだ長さの+10%)上の、5ng/mlのFGF2及び200μMのアスコルビン酸-2-リン酸(ASC-2-P)を含有する培地中に置いた。このプロトコールはBHMを形成するのに効果的であることが判明した(図2a)。BHMは13日目までに異なる領域で自発的に収縮し始め、15~17日目までに収縮は同期的かつ律動的となり、22日目の分析まで持続した(データは示されていない)。BHMにおける心筋細胞は伸展し横紋の付いた形態を有し(図2b)、BHMは電気的にペーシングでき、カルシウム濃度に対する応答性と共に測定可能な収縮力を有していた(図2c)。
【0124】
BHMの発生は公知の発生経路を辿った。hPSCは大部分、3日目までに分化し、これはTRA-1-60/OCT4細胞の減少及びOCT4発現の減少(図2d、f)、並びに、初期中胚葉マーカーであるMIXL1及びMESP1の同時発現(図2f)によって示される。α-アクチニン細胞(図2d)及び心筋細胞前駆細胞マーカー発現(図2f)は同時に増加しつつ、8日目までにMIXL1及びMESP1の発現は無くなる(図2f)。TBX5(13日目にピーク)、ISL1(8日目にピーク)及びNKX2-5(13日目にピーク)を含む、心発生に関与する複数の転写因子の発現にピークが存在した(図2f)。これに続いて、より成熟した心臓マーカーであるα-MHC(MYH6としても知られる)、β-MHC、ANP(NPPAとしても知られる)、及びMLC2v(MYL2としても知られる)が発現した(図2f)。興味深いことに、α-MHCの発現は13日目にピークに達し、その後、22日目までにβ-MHCが大きく増加し、したがって、β-MHC/α-MHC比は増大した(図2f)。更に、22日目には内胚葉マーカー及び神経マーカーの発現は殆どなかった(図2f)。要するに、このデータは、BHMの発生が公知の発生経路を辿っただけでなく、前駆細胞遺伝子発現の低下、増加したβ-MHC発現及びβ-MHC/α-MHC発現比、並びに増加したMLC2v発現(成熟度を示す、Tiburcy et al. Circ Res 109, 1105-1114(2011)参照)によって示されるように心臓の成熟が起こることも示唆する。更に、22日目にBHMは30±6%(n=4回の実験)の心筋細胞及び高い比率の間質細胞から構成されていることが判明した(図2d)。代表的なフローサイトメトリープロットを図5に示す。
【0125】
BHM機能の最適化
図2に概略が示されたBHMプロトコールは、hPSCの増殖及び生物工学によって作られた心筋形成の初めての完全に無血清のプロセスを示す一方、本発明者らは、最適化により、より高い機能及びより高いコンシステンシーを有する組織を発生させることができると仮定した。これらの実験のために収縮強度(単収縮張力/収縮力)を第一の機能決定因子として使用した。なぜなら、単収縮張力は、心筋細胞の数及び表現型、線維芽細胞の数及び表現型、組織結合性、ECM組成、細胞間結合性、及びECM-細胞の結合性を含む、多種多様な心筋特性に依存するからである。第二の因子として、本発明者らは、1)静止張力、なぜならそれは間質細胞の機能及び細胞外マトリックス生物学を反映するため、2)心筋細胞サイズ、薬理学的刺激などの刺激の故に、及び3)細胞組成(心筋細胞:間質細胞)(これは収縮能力の重要な決定因子である)を使用した。変化させたパラメーターを図3に示す。
【0126】
ASC-2-Pは、BHMの機能を増強する
アスコルビン酸(ビタミンC)はコラーゲンの適切な合成において主要な役割を果たし、かつ抗酸化剤である。それ故、初期のBHM培養の間に0~13日目に補充されたアスコルビン酸(より安定なASC-2-Pの形態で)(それは図2で13~22日目の間にすでに添加されていた)は、発生中のコラーゲンの重要性があるとすれば、BHMの機能にプラスの影響を及ぼすだろうと仮定された。ASC-2-PはBHMの単収縮張力/収縮力を有意に向上させ(図3a)、間質細胞画分に変化を全く及ぼすことなく、心筋細胞画分を増加させる傾向を誘導する(図3b)ことが判明した。また、全分化プロトコール中にASC-2-Pを補充することにより、心臓分化効率を変化させることなく細胞数を有意に増加させることによって、本発明者らの二次元プロトコールの分化は改良されたことが判明した(データは示されていない)。それ故、二次元及びBHMフォーマットの両方において、ASC-2-Pは、近年の研究(Cao et al. Cell Res 22, 219-236 (2012))において提案されているように細胞生存率及び/又は前駆細胞増殖を高めたのかもしれない。
【0127】
BHMの機能は、機械的刺激レジメに依存する
次に、静的伸展及び動的な機械的刺激がBHMの機能にどのように影響を及ぼすかを評価した。静的伸展及び動的な機械的刺激のために使用される装置を図3dに示す。静的伸展及び動的な機械的刺激の両方が、BHMの単収縮張力/収縮力を有意に増加させ、両方の機械的刺激レジメにより、同じようなBHM単収縮張力がもたらされた(図3c)。両方の機械的刺激レジメが、BMHの心筋細胞の形態を改善し、緻密で伸展した横紋筋筋束の形成を引き起こした(図3d)。動的な機械的刺激が静的伸展より好ましかった。なぜなら、それは増張力性収縮を促進するからである(Zimmermann et al, Nat Med 12, 452-458 (2006))。
【0128】
心筋細胞の特性は、外的な増殖因子に依存する
FGF2を添加した場合には単収縮張力/収縮力は減少する傾向があり、TGFβ1を添加した場合には単収縮張力は増加する傾向があった(図3f)。それ故、FGF2を心臓成熟中に添加した以前の実験では、これは実際には有害なBHM機能を有するかもしれなかった。FGF2及びTGFβ1の両方が、心筋細胞のサイズの増加を誘導したことが判明した(図3g)。TGFβ1の添加により、より成熟したβ-MHC/α-MHC発現比が得られた(ヒト心臓=9)(図3h)一方で、病的肥大マーカーであるANP(NPPAとしても知られる)は減少した(図3i)。FGF2の添加はβ-MHC/α-MHC発現比を変化させなかったが(図3h)、(変動的に)病的な肥大マーカーのANPを誘導した(図3i)。要するに、これは、両方の因子が肥大を誘導することを示し、これはインビボの結果と一致する。しかし、FGF2は病理学的肥大の誘導因子と考えられ得るが、一方、TGFβ1は生理学的肥大の誘導因子と考えられ得る。
【0129】
さらなる一連の実験では、本発明者らは、心臓成熟期中に漸増するTGFβ-1を培養培地に補充することは、BHMの収縮機能に影響を及ぼすかどうかを調べた。本発明者らは、濃度依存的なBHMの収縮機能の増強を観察した(図10)。
【0130】
以前の実験では、本発明者らは、二次元プロトコールと比較して、BHM中のα-平滑筋アクチン及びI型コラーゲン陽性細胞の大きな減少を認めた(図1n対図2e)。これは、二次元培養及びBHM培養における筋線維芽細胞/線維芽細胞の分化における僅かな差異の反映であり得る。hPSCから得られた二次元培養及びBHM心臓分化培養物中において心臓線維芽細胞様集団をより均一に検出するために、基準のCD90(THY1としても知られる)に対する抗体をその後の実験で使用した。
【0131】
細胞外カルシウムを生理学的濃度に調整することにより、BHMの機能は向上した
ヒト血清中のカルシウム濃度は、それぞれ全カルシウム及びイオン化カルシウムについて、生理学的カルシウム濃度が2.25~2.75mM、及び1.0~1.2mMとなるように緊密に調節されている。RPMI培地中のカルシウム濃度は、生理学的カルシウムと比較して極めて低い(0.42mM)ので、それ故、遊離カルシウム濃度の調整がBHMの成熟及び機能の両方を向上させるかどうかを評価した。カルシウムを(0.2MのCaCl溶液を使用して)1.2mMに調整すると、BHMの単収縮張力は大きく増加した(図3j)。更に、静止張力(図3k)及び弾性率(図3l)の増加が観察された。最適な弾性率は、収縮中に心筋細胞によってなされる機械的仕事を高めることが示され、これは収縮力を増加させ得る。増加したカルシウムに応答した増加した弾性率の背景の機序は現在不明である。重要なことには、qPCRを使用して評価されたカルシウムハンドリングタンパク質に変化は全くなかったことが注記されるべきである(CASQ2、PLN、ATP2A2、及びRYR2、データは示されていない、n=3回の実験)。
【0132】
最適化されたプロトコールを使用して作製されたBHMは、インビボ様特性を示す
BHMは自発的かつ理路整然と収縮し、心臓発生中に観察された拍動周波数の範囲を網羅する、少なくとも3Hzまでの複数の周波数で電気的にペーシングできた(図4a)。BHMはまた、増加した静止長(及び静止張力)に応答して単収縮張力(収縮力)を増加させ、これはフランク・スターリングの機序に一致する(図4b)。培養時間を延長すると、以前のデータと比較してBHM単収縮張力に変化は全く認められなかったが、0.2から0.7mmol/LへのカルシウムEC50の増加が観察された(図4c)。また、培養期間延長により、1μMのイソプレナリンに対する変力応答は増加し、このことは、増加が全く観察されなかった従来の培養フォーマットを上回る向上した成熟度を示す(図4d~f)。ホールマウント免疫染色を使用して、BHMはまた、筋束に存在する間質細胞及び内皮細胞の両方を有することが判明した(データは示されていない)。重要なことには、BHM培養物はまた、成熟条件下で長期間(少なくとも63日目まで)維持することができ、形態学的外見に改善が観察された(データは示されていない)。
【0133】
改変されていないBHMプロトコールは、複数のヒト多能性幹細胞株に対して効果を発揮する
次に、最適化されたBHMプロトコール(図5)及び二次元プロトコール(図6)は、複数のhPSC株に対して効果を発揮することが示された。これらの分析のために、HES2、HES3及びhIPS-G1株(ベクターを含まないCytotune初期化キットを使用して初期化された歯の線維芽細胞)を使用した。二次元プロトコール及びBHMプロトコールの両方について、播種する細胞数の変更又はRho結合プロテインキナーゼ阻害剤(10μM、Y-27632)の使用が、最初の24時間の播種期後に全ての株において同じような細胞密度を達成するのに必要とされたことが判明したことを注記することは重要である(データは示されていない)。特定の細胞株について必要とされる播種プロトコールを使用する場合、二次元プロトコール及びBHMプロトコールをそうした株のために改変せずに使用することができた。
【0134】
HES3株及びhIPS株の両方が、HES2株(図3j)と比較して低い単収縮張力(図5a、d)を有するBHMを産生したことが判明した。しかし、HES3及びhIPS BHMの両方が同じような形態を有していた(図5b、e)。HES3 BHMの心筋細胞画分はHES2 BHMと比較して類似し(図5c)、hIPS BHMの心筋細胞画分はHES2 BHMと比較して低かった(図5f)。これらの株に由来するBHMにおける低下した機能は、HES2 BHM(0.74±0.13×10個の細胞、3回の実験に由来するn=6)と比較して、HES3 BHM(0.50±0.03×10個の細胞、n=3)及びhIPS BHM(0.55±0.05×10個の細胞、n=3)におけるより少ない細胞数に起因する可能性が最も高い。それ故、同じ株での異なる処理ではなくむしろ異なる細胞株を評価する場合には、細胞数及び組成の変化によって引き起こされる差を除外するように注意を払わなければならない。
【0135】
発生モデルとしてのBHMにより、BMPシグナル伝達がヒト心筋細胞の最終分化に必要とされることが判明する
BMPシグナル伝達の阻害は、効果が様々な遺伝子によって駆動されるCREを使用して発生中の心臓に限定(又は少なくとも部分的に限定)されている場合でさえ、胚にとって致命的である(総説についてはKruithof et al. Differentiation 84, 89-102 (2012)を参照されたい)。これらの研究では、構造的欠陥、梁柱構造及び壁厚を含む心筋特性、並びに、前駆細胞遺伝子の調節異常及び減少した上皮間葉転換(EMT)を含む細胞表現型、を含むBMPシグナル伝達に起因する複数のプロセスが認められた。それ故、全身への影響及び解剖学的な制限を伴うことなく純粋に心筋発生に対するBMPシグナル伝達の効果を決定するために、BHMは良いモデル系であると考えられた。
【0136】
これらの実験では、2μmol/LのBMP受容体シグナル伝達阻害剤のドルソモルフィンを6日目以降に各培地を交換しながら加えた。13日目にドルソモルフィンで処置されたBHMはISL1をダウンレギュレートすることができなかったが、他のより成熟した心臓マーカーであるNKX2-5及びα-MHCの発現は変化しなかった(図7a)。EMT関連遺伝子を調べると、CDH1、CHD2、SNAIL1、又はTGFβ2の発現に変化は全くなかったことが判明し、このことは、BHMにおいてEMT又はEMTを調節する因子は、13日目以後に変化しなかったことを示す(図7a)。22日後にフローサイトメトリーを使用して、ドルソモルフィン処置群において活動的な細胞周期にあるより多くの心筋細胞が存在したことが判明した(図7b)。しかし、ドルソモルフィンでの処置は、心筋細胞数を変化させなかったことが判明した(図7c)。また、ドルソモルフィン処置群において、1つのBHMあたりの総細胞数、並びに心筋細胞(α-アクチニン)及び間質細胞(CD90)の画分は変化しなかったことが判明した(データは示されていない)。これらの類似性にも関わらず、ドルソモルフィン処置BHMでは対照群の47%まで単収縮張力/収縮力の大きな減少があった(図7d)。興味深いことに、ドルソモルフィン処置BHMでは、イソプレナリンに対するBHM応答性の変化も、心筋細胞のサイズの変化もなかった(データは示されていない)。
【0137】
増加した細胞周期の活動は、増加した心筋細胞数及び低下した単収縮張力をもたらさなかったので、酸素濃度がBHMにおける心筋細胞数を制限し得るかどうかを計算した。これが事実であったかどうかを決定するために、数学的にモデル化された酸素拡散プロファイルは、文献に報告されたモデル及び異なるBHM条件のパラメーター(細胞数、心筋細胞画分及びサイズ)に基づいた。心筋細胞数が125%まで増加したとしても、対照BHMについてのパラメーターを使用した場合、低酸素領域は存在しなかったことが判明した(データは示されていない)。
【0138】
まとめると、本データは、ドルソモルフィンを使用したBMP阻害により、増加した増殖状態がもたらされることを示唆し、これはマウスのインビボでの実験と一致する結果である。しかし、心筋細胞数は全く増加せず、このことは、アポトーシスが増加しているか又は心筋細胞が2つ核を有するかのいずれかであることを示す。機序に関わらず、BMPシグナル伝達の阻害により、より弱い収縮力(及びまた、1つの心筋細胞あたりより低い力)及び劣った心筋組織を生じる組織表現型に再現性が得られた。
【0139】
B27(登録商標)に置き換わるカスタムメイドなサプリメント
BHMは、標準的なBHMプロトコールに従って無血清条件下で未分化hESCから作製された。標準的なプロトコールは、B27(登録商標)サプリメントを含む。この実験ではB27(登録商標)サプリメントは、規定のカスタムメイドなサプリメント(CMS、表4)によって置き換えられた。
【0140】
結果は、B27(登録商標)をCMSによって置き換えることができることを示す。力は類似し、またBHM内に作製された心筋細胞の数も同等である(図9)。
【0141】
[結論]
I型コラーゲンヒドロゲルにおけるPSCの定方向の分化を使用して、本出願は、無血清条件下でBHMの構築を誘導することが可能であることを示す。BHMは、薬理学的研究、発生プロセスの研究、心臓成熟プロセス、及びまた可能性ある再生適用を含む、複数の適用を有する。
【0142】
これらの実施例では、新規に開発されたプロトコールの強さは、分化のための複数の培養フォーマット及び複数の株を使用することによって示された。しかし、実験間の分化効率は一貫していたが、異なる試薬のバッチを使用した場合には効率が変化したことが注記される。それ故、インビトロ及び可能性ある治療適用の両方のための、一貫しかつ定まった特性を有するBHMを作製するために、厳密な試薬の品質管理を確立することが賢明である。
【0143】
[方法]
PSC培養
HES2-ROSA26-RFP(Irion et al. Nat Biotechnol 25, 1477-1482 (2007))細胞をGordon Kellerから入手し、HES3細胞をEmbryonic Stem Cell International(ESI、シンガポール)から入手した。hIPSを、製造業者の説明書に従ってCytotune初期化キット(Applied Biosystems)を使用してヒト歯肉の生検材料から得られた線維芽細胞から作製した。
【0144】
IPS作製用に、ウイルスによる形質導入から6日後、線維芽細胞を、線維芽細胞用培地(高グルコースのDMEM、2mmol/Lのグルタミン、10%FBS(PAA)、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、特に指示されない限りは全てGibco製)中の放射線照射されたマウス胚性線維芽細胞上に蒔いた。翌日、培地を、PSC培地(20%ノックアウト血清代替品(KSR、Gibco)、2mmol/Lのグルタミン、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、1%非必須アミノ酸(Gibco)、及び10ng/mlのFGF2(Miltenyi Biotec)の補充されたノックアウトDMEM(Gibco))と交換した。出現したiPSコロニーを機械で拾い上げ、1mg/mlのコラゲナーゼNB6(Cresent Chemical Company)を使用して週1回継代培養することによって増殖させた。
【0145】
実験用に、hPSCは、PSC培地中で放射線照射されたヒト包皮線維芽細胞(HFF)上で適合させかつ培養された単細胞であり、毎日培地を交換し3分間のTrypLE(Gibco)による処理を使用して週1回継代培養を行なった(Ellerstrom et al., Stem Cells 25, 1690-1696 (2007))。特性決定又は分化実験の前に、hPSCを、PBS(Gibco)でコーティングされたプレート中の1:30マトリゲル(Millipore)上に、HES2については2.5×10個の細胞/cm2で、又はHES3及びhIPS株については5×10個の細胞/cm2で蒔き、FGF-2を除いたPSC培地と10ng/mLのFGF2を含むHFF馴らし培地(HFF-CM、5日目のコンフルエントな放射線照射されたHFF培養液から収集)との1:1中で3日間培養した。hIPS株も10μmol/LのY-27632(Stemgent)を受けた。3分間のTrypLEによる処理を使用して継代培養することによって実験用にhPSCを収集し、その後、適切なフォーマット中で培養した。
【0146】
多能性幹細胞株を試験キット(Lonza)を使用してマイコプラズマについて定期的に試験し、標準的なアッセイを使用して特性を決定した。多能性マーカーをPCR(内因性OCT4、SOX2、KLF4、MYC)、qPCR(OCT4、NANOG、REX1、DNMT3B)及び免疫染色(OCT4、NANOG、TRA-1-60)を介して評価した(Chan et al. Nat Biotechnol 27, 1033-1037 (2009))。OCT4プロモーターの脱メチル化を、バイサルファイトシーケンシング法を介して確認した(Freberg et al. Mol Biol Cell 18, 1543-1553 (2007))。核型分析を使用して、遺伝子異常があるかどうかを決定した(Campos et al. J Vis Exp 4 (2009))。多能性を、4~6×10個の細胞の側腹部への注射を介したSCIDマウスにおける奇形腫の形成を介して確認した。
【0147】
分化用培地
その後、分化実験用に、hPSCを1mmol/Lのピルビン酸ナトリウム、100IUのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び2%のB27サプリメント(SF培地、全てGibco製)及び示されている様々な因子の補充されたRPMI 1640中で培養した。この研究に使用された因子としては、L-アスコルビン酸2リン酸セスキマグネシウム塩水和物(Sigma)、BMP4(R&D Systems)、アクチビンA(R&D Systems)、FGF2(Miltenyi Biotec)、ドルソモルフィン(Stemgent)、CHIR99021(Stemgent)、IWP4(Stemgent)、及びTGFβ1(Peprotech)が挙げられる。
【0148】
二次元の心臓への分化
心臓への分化をHES2株で最適化した。HES2 hPSCを、1:30のマトリゲル/PBSでコーティングされたプレート上に5×10個の細胞/cm2(HES3株及びhIPS株については1×10個の細胞/cm2)で蒔き、FGF-2を除いたPSC培地と10ng/mlのFGF2を含むHFF馴らし培地(HFF-CM、5日目のコンフルエントな放射線照射されたHFF培養液から収集)との1:1中で培養した。hIPS株については、10μMのY-27632をこの培地に加えた。1日後、細胞をRPMI培地で濯ぎ、その後、各図で示されているように24ウェルプレートの各ウェル中の0.5mlの培地を用いて分化させた。各図のプロトコールの詳細が図8に概説されている。
【0149】
BHMの形成
BHMの形成をHES2株で最適化した。HES2 hPSCを1:1で、FGF-2を除いたPSC培地及び10ng/mlのFGF2を含むHFF馴らし培地(HFF-CM、5日目のコンフルエントな放射線照射されたHFF培養液から収集)に懸濁し、I型コラーゲンヒドロゲルと混合した。HES3株及びhIPS株については、10μMのY-27632も培地に加えた。I型コラーゲンマトリックスを、酸に溶かしたウシI型コラーゲン(Devro)と、等容量の2×DMEM(Gibco)を用いて製剤化し、0.1Mの水酸化ナトリウムを使用して中和した。hPSC/I型コラーゲンマトリックスを製剤化して、1mg/mlのI型コラーゲン最終濃度、及び170μlあたり5×10個のhPSCとした。HES3株及びhIPS株については、170μlあたり1×10個及び0.5×10個の細胞をそれぞれ使用した。各々のBHMのために、hPSC/I型コラーゲンマトリックス 170μlをピペットで、ポリ(ジメチルシロキサン)(Sylgard, Dow Corning)を使用して製造された環状の型(内径=4mm、外径=10mm)に入れた。37℃のインキュベーター中で10分間培養した後、コラーゲンはゲル化し、1つのBHMあたり、1:1のヒト包皮線維芽細胞-10ng/mlのFGF2を含む馴らし培地 1.25mlを加えた。翌日、BHMをRPMI培地で濯ぎ、その後、1つのBHMあたり培地 1.25mlを用いて、各図に示されているように分化させた。13日目にBHMを、示されているように機械的刺激装置に移した。各図のプロトコールの詳細は図8に概説されている。
【0150】
細胞の解離
二次元培養物をPBSで濯ぎ、次いで、PBS中の1mg/ml I型コラゲナーゼ(Sigma)+20%ウシ胎児血清(FBS, Applied Biosystems)中で1時間インキュベートすることによって解離した。その後、細胞をチューブに収集し、PBSで濯ぎ、0.25%トリプシン-EDTA(Applied Biosystems)と共に5分間インキュベートし、その後、FBSを含有する培地で濯いだ。
【0151】
最初のBHM消化プロトコールについては、BHMを、PBS中0.025mg/mlのリベラーゼTM(Roche)、30mMの2,3-ブタンジオンモノオキシム中で37℃で60分間、解離した。細胞表面マーカーを保存するために、BHMを、二次元消化と同じプロトコールを使用して解離した。
【0152】
定量PCR(qPCR)
細胞、BHM、又はヒト心臓生検材料を収集し、製造業者の説明書(Applied Biosystems)に従ってトリゾールを使用してRNA抽出するまで-80℃で保存した。その後、RNA 1μgをDNAse(Roche)で処理し、その後、ハイキャパシティcDNA逆転写キット(Applied Biosystems)を使用してcDNA合成を行なった。
【0153】
qPCRを384ウェルフォーマットAB7900HT(Applied Biosystems)でFast SYBR Greenマスターミックス(Applied Biosystems)を使用して行なった。本発明者らの全ての実験において条件間で一貫して発現していることを見出したハウスキーピング遺伝子としてのGAPDHを使用して、遺伝子発現を2-ΔCt又は2-ΔΔCtを使用して標準化した。プライマーの詳細を以下の表1に示す。
【0154】
【表1】
【0155】
免疫染色
1mmol/Lのピルビン酸ナトリウム、100IU/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンの補充されたRPMI1640中20%FBS(Gibco)中で24時間、消化された心臓分化細胞を、0.1%のゼラチンでコーティングされたスライドガラス上に蒔いた。その後、細胞を室温でHistofix(Roti)で10分間固定した。その後、細胞を、PBS(ブロック緩衝液)中の5%FBS、1%ウシ血清アルブミン(Sigma)及び0.5%Triton X-100(Sigma)中で30分間ブロックした。その後、細胞をブロック緩衝液中の一次抗体で90分間染色し、その後、ブロック緩衝液中の二次抗体及びヘキストで室温で60分間染色した(表2)。染色された細胞をZeiss 710共焦点顕微鏡を使用して画像撮影した。
【0156】
【表2】
【0157】
ホールマウント免疫染色
BHMを4℃で2~4時間Histofix中で固定した。その後、BHMを一次抗体で2~3日間染色し、その後、二次抗体及びファロイジン546/ヘキストで4℃で2~3日間染色した(表2)。染色されたBHMをZeiss 710共焦点顕微鏡を使用して画像撮影した。
【0158】
フローサイトメトリー
細胞を生きたままで染色するか、又は、室温で10分間Histofixを使用するか又はエタノールを使用して固定した。細胞を、細胞表面マーカー(TRA-1-60を除く)についてPBS(膜ブロック緩衝液)中の5%FBS中で染色し、内部マーカーについてはブロック緩衝液中で染色した。その後、細胞をブロック緩衝液中の一次抗体で45分間染色し、その後、ブロック緩衝液中の二次抗体及びヘキストで4℃で30分間染色した(表2)。BD LSRIIをフローサイトメトリー分析(BD Biosystems)のために使用した。生細胞集団を前方側方散乱プロファイルに基づいてゲートにかけ;固定された細胞集団をヘキスト染色に基づいてゲートにかけた。BD FACSDivaソフトウェア(BD Biosystems)又はCyflologic v1.2.1(Cyflo Ltd)を分析に使用した。
【0159】
収縮の測定
収縮実験を、37℃の浴槽中で、120mMのNaCl、1mMのMgCl、0.2mMのCaCl、5.4mMのKCl、22.6mMのNaHCO、4.2mMのNaHPO、5.6mMのグルコース、及び0.56mMのアスコルビン酸を含有するタイロード溶液中で生理的pHを維持するために5%CO/95%Oを絶えずバブリングして、行なう。カルシウムを0.2Mの塩化カルシウム溶液を使用して調整した。ほぼ胎児の心拍数でペーシングするために、全てのBHMを、200mAの5ms矩形波のパルスを用いて3Hzでまず分析した。BHMをLmaxまで、すなわち、組織長が最大となるまで125μmの間隔で機械的に伸展させ、単収縮張力/収縮力を、最大変力活性のカルシウム濃度(2mmol/L;フランク-スターリング機序)の存在下で記録した。続いて、BHMを異なるカルシウム濃度(0.2、0.4、0.8、1.2、1.6、2.0、2.4mM)にかけ、単収縮力を記録した。イソプレナリン実験については、カルシウム濃度を0.6mMに調整し、続いてイソプレナリン濃度を1μMに調整した。
【0160】
酸素拡散プロファイル
酸素拡散プロファイルを、酸素消費量の濃度依存性を用いる、シリンダー拡散の偽定常状態の近似の数値解析を使用して作成した(式1)。文献(Brown et al. Biotechnol Bioeng 97, 962-075 (2007))からのパラメーター及び以前の実験で決定されたパラメーターを使用した(表3)。数値解析及びプロッティングを、ソルバーbvp4c及び特異項のオプションを用いる、MATLAB V12(Mahworks)を使用して行なった。
【0161】
【数1】
【0162】
O2-半径位置の関数としての酸素濃度、r-シリンダー中の半径位置、DO2-酸素拡散定数、Vmax-心筋細胞による最大酸素発生速度、ρ心筋細胞-心筋細胞の密度、α-酸素濃度に対する酸素発生速度依存性に関する定数
【0163】
【表3】
【0164】
統計分析
全てのデータを平均値±標準誤差として示す。各データセットについて適切な統計分析を、グラフパッドプリズム又はマイクロソフトエクセルを使用して図の説明文に示されているように使用した。
【0165】
B27(登録商標)に置き換わるカスタムメイドなサプリメント
【0166】
【表4】
【0167】
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図1-1】
図1-2】
図1-3】
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図8-1】
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図8-3】
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【配列表】
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