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  • 特許-バイオマス燃料組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】バイオマス燃料組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
C10L1/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020154951
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048896
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】320008904
【氏名又は名称】株式会社日本バイオマスフューエル
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(74)【代理人】
【識別番号】100093908
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 研一
(72)【発明者】
【氏名】轡 義明
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-053681(JP,A)
【文献】特開2016-169616(JP,A)
【文献】特表2010-514850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油70~90重量部と、少なくとも2種類以上の脂肪酸10~30重量部とを含んで製造されるバイオマス燃料組成物であって、
前記脂肪酸は、炭素数12~18の直鎖飽和脂肪酸である、バイオマス燃料組成物。
【請求項2】
前記植物油は、非可食性の植物油である、請求項1に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項3】
前記植物油は、ポンガミア(Pongamia)油である、請求項1または2に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸は、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸から選ばれる、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸は、ラウリン酸とパルミチン酸であって、前記植物油70~90重量部に対して、前記ラウリン酸を25~2重量部、パルミチン酸を25~2重量部配合し全体として100重量部とした、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸は、ラウリン酸とパルミチン酸であって、前記ラウリン酸の重量と前記パルミチン酸の重量との比率が4:1である、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸は、ラウリン酸とステアリン酸であって、前記植物油70~90重量部に対して、前記ラウリン酸を25~2重量部、ステアリン酸を25~2重量部配合し全体として100重量部とした、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸は、ラウリン酸とステアリン酸であって、前記ラウリン酸の重量と前記ステアリン酸の重量との比率が4:1である、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸は、パルミチン酸とステアリン酸であって、前記植物油70~90重量部に対して、前記パルミチン酸を25~3重量部、ステアリン酸を25~3重量部配合し全体として100重量部とした、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項10】
前記脂肪酸は、パルミチン酸とステアリン酸であって、前記パルミチン酸の重量と前記ステアリン酸の重量との比率が7~4:3~6である、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項11】
前記脂肪酸は、ラウリン酸とパルミチン酸とステアリン酸であって、前記植物油70~90重量部に対して、前記ラウリン酸を5~20重量部、パルミチン酸を15~3重量部、ステアリン酸20~2重量部配合し全体として100重量部とした、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【請求項12】
前記脂肪酸は、ラウリン酸とパルミチン酸とステアリン酸であって、前記ラウリン酸の重量と前記パルミチン酸の重量と前記ステアリン酸の重量との比率が5:3:2である、請求項1~3いずれか1項に記載のバイオマス燃料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばポンガミア油などの植物油を原料としたバイオマス燃料組成物、ならびに、バイオマス燃料組成物の製造方法に関する。特に、バイオマス燃料組成物のハンドリング性の改良に関わる。
【背景技術】
【0002】
植物油、例えばパーム油は石油に代わるバイオマス燃料として知られている。植物油を原料としたバイオマス燃料は常温では固化する。このため、バーナーやディーゼルエンジンのような燃焼装置で燃料として使うためには、燃焼室に供給する前に加温による液化を行う必要がある。この加温が不十分だと、流動性が低くまた動粘度が高く、燃焼は不安定となる。不安定な燃焼は、バイオマス燃料のハンドリング性の悪さの一面である。
【0003】
バイオマス燃料組成物のハンドリング性は、燃焼装置での燃焼時よりも、寧ろ、バイオマス燃料の貯蔵時において、輸送時において、また、貯蔵タンクから輸送タンクへの詰め替え時における固化として問題となる。このような輸送時、あるいは詰め替え時において、バイオマス燃料の固化し易さ、あるいは、高い粘性は、作業効率に大きな影響を与える。
【0004】
バイオマス燃料の技術分野において、下記の特許文献1では、ディーゼル燃料のセタン価を改善するために、植物油中に存在する不飽和脂肪酸エステルの総含有量に対するステアリン酸エステルの含有量の質量比を調整することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、脂肪酸エステルと軽油とを含有する燃料組成物に関する技術が開示されている。この特許文献2では、脂肪酸エステルから遊離された脂肪酸は燃料の流動性を低下させるものとして把握され、流動性低下を防ぐために軽油が添加される。即ち、流動性を確保するためには、特許文献2では、軽油などの液体化石燃料が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-169631号広報
【文献】特開2013-28735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記文献に記載の技術によるバイオマス燃料は、低温下での流動性は相変わらず低く、取り扱い(ハンドリング)性は悪く、新規な組成のバイオマス燃料組成物の登場が待たれている。本発明は、ハンドリング性(取り扱い性)と着火性とを同時に満足する新規なバイオマス燃料組成物を提案するものである。また、本発明は、ハンドリング性と着火性の観点から要求される目標温度に対して、高いハンドリング性と着火性とが達成できるバイオマス燃料組成物を製造する方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために提案された、本発明のバイオマス燃料組成物は、植物油70~90重量部と、少なくとも2種類以上の脂肪酸10~30重量部とを含んで製造されるバイオマス燃料組成物であって、
前記脂肪酸は、炭素数12~18の直鎖飽和脂肪酸である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好なハンドリング性と着火性を同時に満たすバイオマス燃料組成物を提供することができる。また、良好なハンドリング性と着火性を同時に満たすバイオマス燃料組成物を製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るバイオマス燃料組成物の原料となるポンガミア鞘に含まれるポンガミア油の割合を示した概要図である。
図2】ポンガミア油を原料とする実施形態や実施例に係わるバイオマス燃料組成物を製造する方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
[第1実施形態]
第1実施形態のバイオマス燃料組成物について説明する。第1実施形態のバイオマス燃料組成物は、植物油と脂肪酸を原料とする。バイオマス燃料組成物のハンドリング性および着火性を向上させるために植物油に2種類以上の脂肪酸を添加している。
【0014】
バイオマス燃料組成物は、植物油70~90重量部と少なくとも2種類以上の脂肪酸10~30重量部とを含んで製造される燃料組成物である。通常、バイオマス燃料組成物に植物油が多くふくまれる程、燃料組成物としての流動性は向上する。従ってバイオマス燃料組成物は、植物油のみを含有することが好ましい。しかしながら、バイオマス燃料組成物が植物油のみを含有する場合、燃料としての着火性は十分とはならない。そこで、本実施形態のバイオマス燃料組成物は、植物油に脂肪酸を添加することにより、燃料としての着火性を向上させることとした。その一方、植物油に添加する脂肪酸を増加させていくと、バイオマス燃料組成物の着火性は向上していくが、流動性が十分ではなくなる。そこで、本実施形態のバイオマス燃料組成物は、植物油の重量と脂肪酸の重量を調整して、流動性と着火性を同時に満たすこととしている。バイオマス燃料組成物に原料として含まれる植物油の量が70重量部以上である場合には、バイオマス燃料組成物の流動性が向上するため好ましく、90重量部以下である場合には、バイオマス燃料組成物の着火性が良好となるため好ましい。
【0015】
植物油に添加される脂肪酸は、2種類以上の脂肪酸である。すなわち、本実施形態のバイオマス燃料組成物は、単一種類の脂肪酸ではなく、2種類以上の脂肪酸を植物油に添加させる点に技術的特徴を備えている。植物油に2種類以上の脂肪酸を原料として含有させることによって、単一種類の脂肪酸を含有させた場合に比較して、バイオマス燃料組成物の流動点をより低下させることができる。
【0016】
バイオマス燃料組成物の原料として含まれる脂肪酸の総量が10重量部以上である、即ち、植物油が90重量部以下である場合には、脂肪酸の重量部比が高いほど、バイオマス燃料組成物の着火性を向上させることができる。また、脂肪酸の総量が30重量部以下である場合には、即ち、植物油の重量比が70重量部以上である場合には、バイオマス燃料組成物の流動性をより向上させることができる。
【0017】
バイオマス燃料組成物は、所定量の植物油と2種類以上の直鎖飽和脂肪酸を原料とし、所定の条件下において処理されることにより製造される。具体的には、植物油に、異なる2種類以上の脂肪酸を添加し、10~40℃で攪拌することによって製造される。
【0018】
バイオマス燃料組成物の原料となる植物油は、グリセリンと脂肪酸からなる脂肪酸エステル(トリグリセリド)である。植物油と脂肪酸が所定の条件下において処理されると、植物油を構成している脂肪酸エステルから遊離した脂肪酸が生成する。脂肪酸エステルから生成する遊離脂肪酸は、植物油に含有される脂肪酸と共にバイオマス燃料組成物の成分として存在することとなる。
【0019】
このように、バイオマス燃料組成物は、植物油、この植物油から遊離生成される遊離脂肪酸、そして、互いに異なる2種類以上の脂肪酸を成分として含み、バイオマス燃料組成物の流動点は、この組成物に含まれる、遊離脂肪酸と2種類以上の脂肪酸との影響を受けて低下する、こととなる。したがって、第1実施形態のバイオマス燃料組成物は、10~30℃の範囲において、固化することなく、液体の状態を保持することができるので、ハンドリング性に優れた燃料となる。
【0020】
本実施形態のバイオマス燃料組成物は、良好な流動点を有するので、燃料の製造、貯蔵、搬送、使用時においても固化することがなく、液体の状態を保持することができるので、ハンドリング性に優れた燃料ということができる。例えば、バイオマス燃料組成物の製造時において、固形物が発生することがない。また、製造地から他所への搬送過程における、燃料貯蔵タンクから輸送容器への詰め替え時において、流動点は低いので、ハンドリング性に優れた燃料である。また、バイオマス燃料組成物を燃料としてディーゼルエンジンに使用した場合において、燃料タンクから噴射ポンプへの供給路や噴射ノズルにおいて、燃料が固化することがない。
【0021】
バイオマス燃料組成物の原料となる植物油は、可食性の植物油であってもよいし、非可食性の植物油であってもよい。バイオマス燃料組成物は、植物油を使用しているため、化石燃料に含まれている硫黄が含まれていないか、含まれても極僅かである。このため、本実施形態のバイオマス燃料組成物は、燃焼しても硫黄酸化物を排出しないというメリットを備えている。
【0022】
可食性の植物油としては、パーム油、ココナッツ油、ソイビーン(大豆)油、キャノーラ(菜種)油、コーン油、ピーナッツ油、セサミ(胡麻)油、サンフラワー油、サフラワー油、コットンシード油、ライススブラン(米糠)油、オリーブ油、アボガド油、ブラジルナッツ油、マカダミアナッツ油、カカオバター等を例示することができる。また、サラダ油、天ぷら油等、これらの可食性油を調合した油であってもよい。
【0023】
非可食性の植物油としては、ポンガミア油、ジァトローファ油、藻油、カポック油、ヘンプ油、石油ナッツ油、ヒマシ油、ホホバ油、廃食用油等を例示することができる。
【0024】
脂肪酸は、炭素数12~18の直鎖飽和脂肪酸である。脂肪酸が飽和脂肪酸である場合には、炭素-炭素間に不飽和結合が存在しないため、酸化による脂肪酸の劣化を防止することができるため好ましい。
【0025】
炭素数12~18の直鎖飽和脂肪酸としては、ラウリン酸(炭素数12)、トリデシル酸(炭素数13)、ミリスチン酸(炭素数14)、ペンタデシル酸(炭素数15)、パルミチン酸(炭素数16)、マルガリン酸(炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)を挙げることができる。これらの脂肪酸の中でも、バイオマス燃料組成物の流動性および着火性の観点から、ラウリン酸(炭素数12)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)が好ましい。
【0026】
このように、本実施形態によれば、バイオマス燃料組成物の原料として所定量の植物油と2種類以上の直鎖飽和脂肪酸を採択し、所定の条件下において処理することによって、良好なハンドリング性と着火性を満たすことができるバイオマス燃料組成物を提供することができる。
【0027】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るバイオマス燃料組成物について説明する。第2実施形態に係るバイオマス燃料組成物は、植物油としてポンガミア油(Pongamia:日本名「クロヨナ」)を用いる点に特徴がある。その他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同じ構成についてはその詳しい説明を省略する。
【0028】
ポンガミア油は、ポンガミアに由来する。ポンガミアは、インド、東南アジア、オーストラリア等に広く自生しているマメ科の熱帯性多年生植物である。ポンガミアは、空気中の窒素を固定化する根粒(Nodule)をもった根を地中に深く伸ばすことができるという特徴を有している。このため、ポンガミアは、荒れた土地でも少量の肥料で良く育ち、塩害や乾燥にも強い有望なバイオマス資源ということができる。さらに、ポンガミアは、非可食性の植物であるので、食料と競合することがないというメリットを備える。
【0029】
図1は、バイオマス燃料組成物の原料となるポンガミア鞘に含まれるポンガミア油の割合を示した概要図である。図1に示されるようにポンガミア鞘は、約50重量%の鞘(Shells)と、約50重量%の種子(Seeds)から構成されている。種子(Seeds)の約40重量%がポンガミア油である。
【0030】
すなわち、ポンガミア種子(Seeds)の油脂成分含有率は、約40重量%ということができ、この油脂成分含有率は、パーム(アブラヤシ)種子の2倍である。しかも、ポンガミア油はオレイン酸含有率が60%以上である。ポンガミア油のオレイン酸含有量は、菜種油(Canola)と同程度であり、高い。また、ポンガミア油は、曇点、動粘度が低いため、燃料に必要とされる物性を十分に備えている。しかも、ポンガミアは、年間1ヘクタールあたり、5トンのポンガミア油を生産することできると報告されている。そこで、本実施形態では、植物油としてポンガミア油に着目して、バイオマス燃料組成物の原料とした。
【0031】
本実施形態のバイオマス燃料組成物は、ポンガミア油70~90重量部と少なくとも2種類以上の脂肪酸10~30重量部とを含んで製造される燃料組成物である。本実施形態では、原料の植物油として、オレイン酸含有率が高いポンガミア油を採択しているため、脂肪酸と混合して攪拌するだけで簡易にバイオマス燃料組成物を製造することができる。
【0032】
さらに、本実施形態のバイオマス燃料組成物は、原料としてポンガミア油と2種類以上の脂肪酸の組み合わせを採択しているため、トリグリセリドとメタノールを反応させ脂肪酸メチルエステルを得るためのエステル交換反応を行う必要がないというメリットを有している。
第2実施形態のバイオマス燃料組成物に添加すべき脂肪酸は、第1実施形態のそれと同じく、炭素数12~18の直鎖飽和脂肪酸、例えば、ラウリン酸(炭素数12)、トリデシル酸(炭素数13)、ミリスチン酸(炭素数14)、ペンタデシル酸(炭素数15)、パルミチン酸(炭素数16)、マルガリン酸(炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)が好ましい。これらの脂肪酸の中でも、流動性および着火性の観点から、ラウリン酸(炭素数12)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)が好ましい。
【0033】
このように、本実施形態によれば、植物油としてポンガミア油を採択することにより、エステル交換反応を行う必要がなく、良好なハンドリング性と着火性を満たすことができるバイオマス燃料組成物を低コストかつ大量に生産することができる。
特に、植物油としてのポンガミア油に対する、2種類以上の脂肪酸の配合比を色々な値に変更することにより、このバイオマス燃料のユーザが要求する流動点温度と引火点温度を共に満足するバイオマス燃料をえることができる。
【0034】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係るバイオマス燃料組成物について説明する。本実施形態に係るバイオマス燃料組成物は、植物油としてポンガミア油を用いる点では第2実施形態と同じであるが、植物油に添加する脂肪酸として、ラウリン酸とパルミチン酸の組み合わせ、または、ラウリン酸とステアリン酸の組み合わせ、または、ステアリン酸とパルミチン酸との組み合わせを用いる点で異なる。その他の構成は、第1実施形態、第2実施形態と同様であるため、同じ構成についてはその詳しい説明を省略する。
【0035】
第3実施形態のバイオマス燃料組成物の原料となる脂肪酸は、ラウリン酸(炭素数12)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)から選ばれる2種類の脂肪酸の組み合わせから構成される。本実施形態では、上記3種類の脂肪酸のうち2種類の脂肪酸を採択して、その配合量を適宜変化させることによって、バイオマス燃料組成物の流動点および引火点を調整する。換言すれば、目標の流動点温度と引火点温度とを得ることのできる2種類の脂肪酸の配合比を決定する。決定された配合比に従って2種類の脂肪酸を植物油に添加して製造された第3実施形態のバイオマス燃料組成物は、目標の流動点温度特性、引火点温度特性を具備するものである。このバイオマス燃料組成物生物を搬送するときは、あるいは輸送するときは、あるいは貯蔵するときには、さらには、燃料として使うために燃焼装置に供給するときには、目標とした引火点温度と流動点温度とを発揮する、ことが保証される。例えば、脂肪酸としてラウリン酸とパルミチン酸を採択した場合、2種類の脂肪酸の配合比率は、ラウリン酸:パルミチン酸が重量比で4:1であることが好ましい。また、脂肪酸としてラウリン酸とステアリン酸を採択した場合、2種類の脂肪酸の配合比率は、ラウリン酸:ステアリン酸が重量比で4:1であることが好ましい。さらに、脂肪酸としてパルミチン酸とステアリン酸を採択した場合、2種類の脂肪酸の配合比率は、パルミチン酸:ステアリン酸が重量比で7~4:3~6であることが好ましい。
【0036】
例えば、バイオマス燃料組成物がポンガミア油90重量部、脂肪酸10重量部を原料とする場合には、その脂肪酸10重量部は、ラウリン酸とパルミチン酸とが重量比で4:1となるように配合される。具体的には、ポンガミア油に添加される2種類の脂肪酸は、ラウリン酸8重量部、パルミチン酸2重量部となる。
【0037】
このように、第3実施形態によれば、脂肪酸としてラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸から選ばれる2種類の直鎖飽和脂肪酸の組み合わせを採用し、その配合比率を調整することにより、良好なハンドリング性と着火性を満たすことができるバイオマス燃料組成物を低コスト、かつ大量に生産することができる。
【0038】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係るバイオマス燃料組成物について説明する。第4実施形態に係るバイオマス燃料組成物は、第2から第3の実施形態と比べると、植物油としてポンガミア油を用いる点では同じであるが、脂肪酸がラウリン酸とパルミチン酸とステアリン酸の3種類の直鎖飽和脂肪酸の組み合わせを採択した点で異なる。その他の構成は、上記実施形態と同様であるため、同じ構成についてはその詳しい説明を省略する。
【0039】
本実施形態のバイオマス燃料組成物の原料となる脂肪酸は、ラウリン酸(炭素数12)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)の3種類の直鎖飽和脂肪酸の組み合わせである。本実施形態では、上記3種類の脂肪酸の配合量を適宜変化させることによって、バイオマス燃料組成物の流動点および引火点を調整している。3種類の脂肪酸の配合比率は、ラウリン酸(炭素数12):パルミチン酸(炭素数16):ステアリン酸(炭素数18)が5:3:2であることが好ましい。
【0040】
例えば、バイオマス燃料組成物がポンガミア油80重量部、脂肪酸20重量部を原料とする場合には、脂肪酸20重量部がラウリン酸(炭素数12):パルミチン酸(炭素数16):ステアリン酸(炭素数18)が5:3:2となるように配合される。具体的には、ポンガミア油に添加される3種類の脂肪酸はラウリン酸10重量部、パルミチン酸6重量部、ステアリン酸4重量部となる。
【0041】
このように、本実施形態によれば、バイオマス燃料組成物の原料となる脂肪酸として3種類の直鎖飽和脂肪酸の組み合わせを採択することにより、良好なハンドリング性と着火性を満たすことができるバイオマス燃料組成物を低コストかつ大量に生産することができる。
【0042】
[実施例1~12]
以上、第1実施形態から第4実施形態のバイオマス燃料組成物の組成ならびに特性を説明したが、以下に、具体的な実施例を通じて本発明のバイオマス燃料組成物をより具体的に説明する。
【0043】
<実施例1~6>
実施例1から実施例6のバイオマス燃料組成物は、植物油として第1実施形態に用いられたソイビーンズ油に、「ラウリン酸」、「パルチミン酸」、「ステアリン酸」の中から選択した互いに異なる2種類の脂肪酸を添加配合することにより生成したバイオマス燃料組成物である。即ち、例えば実施例1のバイオマス燃料組成物では、90重量部のソイビーン(大豆)油に、8重量部のラウリン酸と2重量部のパルミチン酸を配合し、これらを室温にて混合してミキサーにより、回転数50rpm、1時間攪拌を行って、製造した。
これらの実施例においては、夫々のバイオマス燃料組成物の「ハンドリング性」ならびに「着火性」を評価するために、以下に説明するように、「流動点」、「引火点」、「セタン価」を測定する。
【0044】
(ハンドリング性の評価)
バイオマス燃料組成物のハンドリング性の評価は、流動点(℃)を測定することにより行った。バイオマス燃料組成物の流動点の測定は、JIS K 2269に定める試験方法により行った。なお、バイオマス燃料組成物の流動点の測定は、一般社団法人 日本海事検定協会 理化学分析センターの有機チームに依頼した。
【0045】
(引火点の測定)
バイオマス燃料組成物の着火性の評価は、引火点(℃)を測定することにより行った。バイオマス燃料組成物の引火点の測定は、JIS K 2265-2に定める迅速平衡密閉法に従って行った。なお、バイオマス燃料組成物の引火点の測定は、同じく、一般社団法人 日本海事検定協会 理化学分析センター有機チームに依頼した。
【0046】
(セタン価の算出)
植物油由来のバイオマス燃料組成物のセタン価を測定することは困難であるため、植物油のセタン価、脂肪酸のセタン価およびそれらの重量から理論上のセタン価を算出した。セタン価は、J. Chem. Sci. Vol. 2(7) July (2012) に従って算出した。
【0047】
実施例1から実施例6の夫々のバイオマス燃料組成物の組成と、夫々のバイオマス燃料組成物について測定された「流動点」、「引火点」などの結果を表1に示す。即ち、表1の実施例1から実施例6の夫々の行において、2列目にはソイビーンズ(大豆)油の重量部値を、3列目にラウリン酸の重量部値を、4列目にパルチミン酸の重量部値を、5列目にステアリン酸の重量部値を、6列目に測定された流動点温度値を、7列目に引火点温度値を、8列目にセタン価値を表示する。
【0048】
実施例1から実施例6のソイビーン(大豆)油としてソイビーン(大豆)油(インド、NATURES NATURAL INDIA 社製品 ヨウ素価125.9)90gを準備した。また、ソイビーンズ(大豆)油90gに混合されるべき「異なる2種類の脂肪酸」は、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸から選択された互いに「異なる2種類の脂肪酸」であり、その「2種類の脂肪酸」の量は計10gである。
また、実施例1から実施例6に用いられる脂肪酸のうち、ラウリン酸については富士フィルム和光純薬株式会社製を、パルミチン酸については、富士フィルム和光純薬株式会社製を、ステアリン酸については、富士フィルム和光純薬株式会社製和光一級を用いた。
実施例1から実施例6において、「異なる2種類の脂肪酸」の配合比は、ステアリン酸を使わない実施例1では、ラウリン酸:パルチミン酸=8g:2g、パルチミン酸を混合しない実施例2では、ラウリン酸:ステアリン酸=8g:2g、ラウリン酸を混合しない実施例3では、パルチミン酸:ステアリン酸=7g:3gとした。これにより、実施例1と実施例2では、一方の脂肪酸であるラウリン酸を共通に8gとして、他方の脂肪酸をパルチミン酸2(実施例1)、ステアリン酸2g(実施例2)とする。
実施例3から実施例6は、合計で10gとなるパルチミン酸とステアリン酸の夫々の配合量を、実施例3→実施例4→実施例5→実施例6で、パルチミン酸を、7g→6g→5g→4gと1gずつ減らし、ステアリン酸を3g→4g→5g→6gと1gずつ増やして、実施例1から実施例6の組成を構成して実験することにより、ソイビーンズ(大豆)油の量を変えないで、パルチミン酸に対するステアリン酸の重量比を変化させて、変化させたときの「流動点」、「引火点」の変化を記録している。
【0049】
<比較例1~4>
表1中の比較例1~4は、実施例1から実施例6の組成ならびに特性を有するバイオマス燃料組成物を分析するために、比較検討対象として設定されたバイオマス燃料組成物である。
比較例1は、ソイビーン(大豆)油に脂肪酸を添加しないで製造されたバイオマス燃料組成物の構成と測定結果を示す。比較例2~4は、大豆油に単一の脂肪酸のみを添加して製造したバイオマス燃料組成物である。比較例2では、ラウリン酸だけを10g添加し、比較例3ではパルチミン酸だけ10gを添加し、比較例4では、ステアリン酸のみを10g添加した。比較例1~4で得られたバイオマス燃料組成物の流動点、引火点を測定した。併せて、バイオマス燃料組成物の原料組成から理論上のセタン価を算出した。
【0050】
【表1】
【0051】
(実施例1ソイビーン(大豆)油含有の評価)
2つの脂肪酸(ラウリン酸とパルチミン酸)を配合した実施例1のバイオマス燃料組成物の流動点と、単独の脂肪酸(ラウリン酸)のみを添加した比較例2のバイオマス燃料組成物の流動点とを比較する。ラウリン酸とパルチミン酸を添加した実施例1のバイオマス燃料組成物の流動点が10℃であるのに対して、ラウリン酸のみの比較例2のバイオマス燃料組成物の流動点は7.5℃となっている。すなわち、バイオマス燃料組成物の原料に2種類の脂肪酸を混合したバイオマス燃料組成物の流動点は、単独の脂肪酸を使用した場合と比較しても僅か2.5℃程度の上昇に留まる。
【0052】
(実施例2のソイビーン(大豆) 油含有の評価)
表1で、実施例2(ラウリン酸とステアリン酸とを混合)のバイオマス燃料組成物の流動点と、比較例4(ステアリン酸のみを混合)のバイオマス燃料組成物の流動点とを比較する。実施例2のバイオマス燃料組成物の流動点が10℃であるのに対して、比較例4のバイオマス燃料組成物の流動点が37.5℃となっている。すなわち、バイオマス燃料組成物の原料に2種類の脂肪酸を使用した場合、バイマス燃料組成物の流動点は、単独の脂肪酸を使用した場合と比較して27.5℃と大幅に低下する。
【0053】
(実施例3~5の評価)
実施例3~5は、パルチミン酸とステアリン酸の配合比を、7:3、6:4、5:5と変化させた実施例である。実施例3~5(パルチミン酸とステアリン酸の配合比のバイオマス燃料組成物の流動点と、比較例3(パルチミン酸のみ)~比較例4(ステアリン酸のみ)のバイオマス燃料組成物の流動点とを比較する。実施例3~5のバイオマス燃料組成物の流動点が30℃であるのに対して、比較例3~4のバイオマス燃料組成物の流動点が37.5℃となっている。すなわち、バイオマス燃料組成物の原料として2種類の脂肪酸を使用した場合、バイマス燃料組成物の流動点は、単独の脂肪酸を使用した場合と比較して7.5℃低下する。
【0054】
(実施例6の評価)
実施例6のバイオマス燃料組成物の流動点と比較例4のバイオマス燃料組成物の流動点とを比較する。実施例6のバイオマス燃料組成物の流動点が32.5℃であるのに対して、比較例4のバイオマス燃料組成物の流動点が37.5℃となっている。すなわち、バイオマス燃料組成物の原料に2種類の脂肪酸を使用した場合、バイマス燃料組成物の流動点は、単独の脂肪酸を使用した場合と比較して5.0℃低下する。
【0055】
また、実施例5のバイオマス燃料組成物の引火点と比較例4のバイオマス燃料組成物の引火点とを比較する。実施例6のバイオマス燃料組成物の引火点が200℃であるのに対して、比較例4のバイオマス燃料組成物の引火点が207℃となっている。すなわち、バイオマス燃料組成物の原料に2種類の脂肪酸を使用した場合であっても、バイマス燃料組成物の引火点は、単独の脂肪酸を使用した場合と比較してもほぼ同一であることが理解される。また、実施例1~6のバイオマス燃料組成物の原料組成から算出されるセタン価は、40.6~42.4の範囲であり、いずれも良好な値である。
【0056】
表1からも明らかなように、バイオマス燃料組成物の原料としてソイビーン(大豆)油と2種類の脂肪酸を使用して得られるバイオマス燃料組成物は、10~30℃の範囲で良好な流動点を有しつつ、良好な着火性を維持している。つまり、実施例1~6のバイオマス燃料組成物は、ハンドリング性および着火性を同時に満たす優れた燃料であることが判明した。
【0057】
[ポンガミア油を使用した実施例:実施例7~12]
バイオマス燃料組成物の原料となる植物油としてポンガミア油(インド Vijaya Agro Industry社製品 インドから直輸入)90gを準備した。
【0058】
<実施例7~9>
このポンガミア油90gに対して、脂肪酸として、実施例7から実施例9では、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸の中から2つの脂肪酸を選択して配合する。即ち、実施例7では、ラウリン酸8gとパルチミン酸2gをポンガミア油90gに配合する。実施例8では、ラウリン酸8gとステアリン酸2gをポンガミア油90gに配合する。実施例9では、パルチミン酸7gとステアリン酸3gをポンガミア油90gに配合する。
【0059】
実施例7から実施例9の夫々において、ポンガミア油90重量部と、2種類の脂肪酸10重量部とを室温にて混合し、混合物をミキサーにより、回転数50rpm、1時間攪拌を行って、夫々の実施例のバイオマス燃料組成物を製造した。実施例7から実施例9の夫々のバイオマス燃料組成物の、ハンドリング性(流動点温度)、引火性(引火点温度)の評価、そして、理論上のセタン価を、表2の実施例7、実施例8、実施例9のそれぞれの行に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
<比較例5~7>
比較例5は、ポンガミア油に脂肪酸を添加しないで製造されたバイオマス燃料組成物である。比較例6~7は、ポンガミア油に単一の脂肪酸のみを添加して製造したバイオマス燃料組成物である。比較例5~7で得られたバイオマス燃料組成物の流動点、引火点を測定した。併せて、実施例1と同様に理論上のセタン価を算出した。結果を表2に示す。
【0062】
<実施例7~9の評価>
実施例7から9は、共通して、ポンガミア油90重量部に対して、2種類脂肪酸の10重量部を含む。一方、比較例5はポンガミア油のみを含み、脂肪酸の添加はない。また、比較例6は、ポンガミア油90重量部とパルチミン酸10重量部のバイオマス燃料組成物であり、比較例7は、ポンガミア油90重量部とステアリン酸10重量部のバイオマス燃料組成物である。
【0063】
実施例7~8のバイオマス燃料組成物の流動点と比較例5のバイオマス燃料組成物の流動点とを比較する。実施例7(ラウリン酸:パルチミン酸=8:2)~実施例8(ラウリン酸:ステアリン酸=8:2)のバイオマス燃料組成物の流動点が5℃であるのに対して、比較例5のバイオマス燃料組成物の流動点が6℃となっている。すなわち、バイオマス燃料組成物の原料に2種類の脂肪酸を使用した場合であっても、バイマス燃料組成物の流動点は、単独の脂肪酸を使用した場合と比較しても流動点にほぼ変化がないことが理解される。一方、実施例7~8のバイオマス燃料組成物の引火点188℃、185℃は、比較例5のバイオマス燃料組成物の引火点220℃よりも低くなっている。
【0064】
実施例7と実施例8とに対して、比較例5を対比すると、脂肪酸を添加した実施例7と実施例8のバイオマス燃料組成物は、引火点が改善され、より低い温度でも着火できることが理解できる。一方、流動点についても、実施例7と実施例8では、約1度の流動点温度の改善が確認できる。即ち、2種類の脂肪酸(合計10重量部)を含む実施例7、実施例8のバイオマス燃料組成物は、引火点と流動点の改善が見られる。
また、2種類の脂肪酸(合計10重量部)を含む実施例7から9のバイオマス燃料組成物と、単一の脂肪酸10重量部のみを含む比較例6、7のバイオマス燃料組成物とを比較すると、前者では、流動点温度の改善(低温であっても流動性が維持される)と、引火点の改善(低温であっても着火する)が見て取れる。
【0065】
また、実施例7から9のバイオマス燃料組成物を夫々比較すると、2種類の脂肪酸の内炭素数が少ない脂肪酸を多く含むバイオマス燃料組成物ほど、流動点の改善と低引火点の維持が見て取れる。
【0066】
さらに、実施例7と実施例8のバイオマス燃料組成物は、共に、流動点が5度で、引火点が190未満であるから、日本の冬期期間でも、当該バイオマス燃料組成物を、輸送し、あるいは貯蔵し、あるいはタンクの移し替えを行い、あるいは燃料として使用する際においても、流動性が維持されて、ハンドリング性がよいことが見て取れる。
【0067】
<脂肪酸の配合比の変更>
実施例7から実施例9は、2種類の脂肪酸を混合する点に特徴がある。実施例9は、パルチミン酸7重量部とステアリン酸3重量部の混合比(7:3)である。実施例10と実施例11は、パルチミン酸とステアリン酸の重量部比を、それぞれ、6:4、4:6と変更したときの評価を示す。
【0068】
実施例9~11のバイオマス燃料組成物の流動点と比較例6~7のバイオマス燃料組成物の流動点とを比較する。実施例9~11のバイオマス燃料組成物の流動点が30℃であるのに対して、比較例6~7のバイオマス燃料組成物の流動点がそれぞれ32.5℃、35.0℃となっている。すなわち、バイオマス燃料組成物の原料として2種類の脂肪酸を使用した場合、バイマス燃料組成物の流動点は、単独の脂肪酸を使用した場合と比較して2.5~5.0℃低下することが理解される。実施例11のバイオマス燃料組成物の引火点209℃は、比較例7のバイオマス燃料組成物の引火点207℃とほぼ同一である。即ち、2種類の脂肪酸の内の、一方の脂肪酸の他方の脂肪酸に対する配合比を変更しても、流動性も引火性も大きな低下はない、ことがわかる。
【0069】
<脂肪酸の種類の追加>
実施例7から実施例11は、どれも2種類の脂肪酸を混合するバイオマス燃料組成物である。
【0070】
実施例12は、ポンガミア油にラウリン酸とパルミチン酸とステアリン酸を組み合わせた3種類の脂肪酸を添加して製造されたバイオマス燃料組成物である。実施例12のバイオマス燃料では、ポンガミア油の80重量部に対して、上記3種類の脂肪酸の重量部は20である。
【0071】
表2によれば、実施例12のバイオマス燃料組成物の流動点は、22.5℃であり、比較例6~7のバイオマス燃料組成物の流動点32.5℃、35.0℃よりも低い。また、実施例12のバイオマス燃料組成物の引火点は、187℃であり、比較例6~7のバイオマス燃料組成物の引火点198℃、207℃よりも低い。また、実施例7~12のバイオマス燃料組成物の原料組成から算出されるセタン価は、44.2~47.7の範囲であり、いずれも良好な値である。
【0072】
植物油に添加される脂肪酸の種類を2種類から3種類に増やす(植物油の重量部比を低くする)ことのメリットは、バランスの取れた、高い流動性(流動点22.5度)と引火性(引火点187度)とを達成できる点にある。
【0073】
表2からも明らかなように、バイオマス燃料組成物の原料としてポンガミア油と2種類以上の脂肪酸を使用して得られるバイオマス燃料組成物は、10~30℃の範囲で良好な流動点を有しつつ、良好な着火性を維持している。つまり、実施例7~12のバイオマス燃料組成物は、ハンドリング性および着火性を同時に満たす優れた燃料であることが判明した。
【0074】
[遊離脂肪酸の影響]
植物油、特にポンガミア油には元来脂肪酸が含まれ、この脂肪酸は、ポンガミア油にラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸を混合した場合、全脂肪酸分の一部となる。出願人がテストしたポンガミア油では、1.7重量部比の脂肪酸が含有され、この遊離脂肪酸中には、ラウリン酸は含まれないが、1.7重量部のうちの、16重量%がパルチミン酸で、10重量%がステアリン酸である。これら遊離したパルチミン酸やステアリン酸による、表2の、流動点や引火点のデータに対する影響は小数点以下と軽微であった。したがって、表1や表2中の温度データは、ポンガミア油内に含まれる脂肪酸による効果を誤差範囲として含む数値である。
【0075】
このように、本実施形態のバイオマス燃料組成物は、ハンドリング性および着火性を同時に満たす優れた燃料である。したがって、本実施形態のバイオマス燃料組成物は、ディーゼルエンジン、ディーゼル発電設備、ボイラー設備、船舶、自家発電、農業機械等で使用されている重油系燃料の代替燃料として利用されることが期待される。
【0076】
<バイオマス燃料の製造方法>
表2の評価結果は、バイオマス燃料組成物の新規な製造方法を示唆する。即ち、表2の色々な脂肪酸のパラメータ(脂肪酸の種類の数、脂肪酸の種類の数の増減、異なる種類の脂肪酸間の重量組成比の変更、ポンガミア油と脂肪酸全体との組成比の変更)を変更すると、流動点や引火点が変動することが理解できる。
【0077】
図2は、第2実施形態から第5実施形態や表2に開示されたポンガミア油のバイオマス燃料組成物を、試験製造し、評価し、大量生産するプロセスを示すフローチャートである。
【0078】
図2のステップS100からS120はパラメータの初期値を決定するプロセスである。ステップS100の、目標流動点温度と引火点温度は、当該バイオマス燃料組成物を貯蔵する場所、そのバイオマス燃料を使用燃焼する場所の年間の最低温度、一日の温度の変動幅に応じて判断・決定する。ステップS110では、表2の引火点温度と流動点温度とに応じて、ポンガミア油に混合すべき、2種類(あるいは3種類)の脂肪酸の種類と、それら脂肪酸間の重量組成比を決定する。
【0079】
ステップS120では、ポンガミア油と、ステップS110で決定された複数種類の脂肪酸との組成比を決定する。表2から分かるように、ポンガミア油に対する脂肪酸総量の重量配分比は、目標流動点温度と引火点温度に応じて、90%から70%:10%~30%の範囲で変更できる。表2から、ポンガミア油の配分比を高めると、流動点温度は低く抑えることができ、脂肪酸の配分比を高めると引火点温度を低く抑えることができる。
ステップS130からステップS160は、設定したパラメータに従って試験的な量のバイオマス燃料組成物を製造し(S130)、試験的に製造したバイオマス燃料組成物が目標温度に到達したかを評価・判断(S140、S150)し、目標温度に達していなければ製造パラメータを変更する(S160)するプロセスである。
【0080】
ステップS130で評価目的で製造したバイオマス燃料組成物が、目標とする流動点温度およびまたは引火点温度に到達したかを判断(ステップ150)し、到達していないとステップ150で判断された場合には、ステップ160でパラメータを変更する。目標温度に到達していない場合のステップS160で変更するパラメータとして、
・ポンガミア油と脂肪酸総量の重量配分比の変更、
・脂肪酸の種類の変更 (表2の実施例では、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸の中から他の種類の2つの脂肪酸に変更する)
・脂肪酸の種類の増減(表2の例では、2種類の脂肪酸と3種類の脂肪酸との間での種類数の変更)
・複数種類の脂肪酸間の組成比の変更
などがある。
【0081】
ステップS150で、設定したパラメータが目標温度に到達させることができたと判断されると、ステップS170、ステップS180で、当該決定したパラメータでバイオマス燃料組成物を大量生産する。
【0082】
[ポンガミア油の利点]
本実施形態のバイオマス燃料組成物の原料としてポンガミア油を採用することができる。ポンガミアは、半砂漠化している樹木の生えていない荒地等でも新たに栽培することができるバイオマスであり、二酸化炭素を吸収してカーボンポジティブになるようなアプローチに貢献することができる。本実施形態のバイオマス燃料組成物は、エネルギー産業の発達に寄与することができるだけでなく、自然環境の改善にも大きく貢献することができる。
図1
図2