(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ベルト、タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20240903BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240903BHJP
B60C 9/04 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B60C9/20 E
B60C9/00 J
B60C9/04 D
B60C9/20 G
(21)【出願番号】P 2020196174
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504211429
【氏名又は名称】栃木住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】松岡 映史
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-102405(JP,A)
【文献】特開2003-170703(JP,A)
【文献】特開2013-103591(JP,A)
【文献】特開平07-117406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のスチールワイヤーと、複数本の前記スチールワイヤーを埋設するゴムとを備えたベルトであって、
前記スチールワイヤーは、単線スチールワイヤーであり、前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な断面が扁平形状を有しており、
複数本の前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な、前記ベルトの断面において、
複数本の前記スチールワイヤーは一列に配列され、
長軸の傾きが異なる前記スチールワイヤーを含んでおり、
複数本の前記スチールワイヤーのうち、前記長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にある前記スチールワイヤーの本数の割合が50%以上であ
り、
複数本の前記スチールワイヤーのうち、前記長軸の傾きが-70°以上-30°未満、または+30°より大きく+70°以下の範囲にある前記スチールワイヤーの本数の割合が10%以上50%以下であるベルト。
【請求項2】
前記スチールワイヤーは、前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な断面において、
前記断面の外形が、第1の直線部と、
前記第1の直線部と対向するように配置された第2の直線部と、
前記第1の直線部と、前記第2の直線部との間を接続する第1の曲線部および第2の曲線部とを有しており、
前記第1の曲線部と、前記第2の曲線部とは対向するように配置され、
前記第1の曲線部と、前記第2の曲線部との間の最大距離を幅Wとし、
前記第1の直線部と、前記第2の直線部との間の最大距離を高さHとした場合に、
前記高さHの前記幅Wに対する割合である扁平率が49%以上65%以下である請求項
1に記載のベルト。
【請求項3】
前記ゴムの弾性率が5.0MPa以上10.0MPa以下である請求項1
または請求項
2に記載のベルト。
【請求項4】
エンズが15本/5cm以上40本/5cm以下である請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項5】
請求項1
から請求項
4のいずれか1項に記載のベルトを含むタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベルト、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤを含むベルト層が埋設された空気入りタイヤにおいて、前記単線スチールワイヤが扁平断面形状を有すると共に、前記トレッド部における溝下ゴム厚さが1.0mm~2.0mmであることを特徴とする空気入りタイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発明によれば、空気入りタイヤのベルト層の補強コードとして撚りが加えられていない単線スチールワイヤーを使用することで、ベルト層のコートゴムの使用量を減らして空気入りラジアルタイヤの転がり抵抗を低減できるとされている。
【0005】
しかしながら、近年ではタイヤに対して更なる性能向上が求められている。このため、タイヤに関して、例えば転がり抵抗の低減等のための軽量化に加えて、タイヤの耐久性の向上が求められている。そして、タイヤに用いられるベルトについても、タイヤに適用した場合に軽量化し、かつ耐久性を向上できるベルトであることが求められるようになっている。
【0006】
そこで、本開示はタイヤに適用した場合に、軽量化し、かつ耐久性を向上できるベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のベルトは、複数本のスチールワイヤーと、複数本の前記スチールワイヤーを埋設するゴムとを備えたベルトであって、
前記スチールワイヤーは、単線スチールワイヤーであり、前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な断面が扁平形状を有しており、
複数本の前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な、前記ベルトの断面において、
複数本の前記スチールワイヤーは一列に配列され、
長軸の傾きが異なる前記スチールワイヤーを含んでおり、
複数本の前記スチールワイヤーのうち、前記長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にある前記スチールワイヤーの本数の割合が50%以上である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、タイヤに適用した場合に、軽量化し、かつ耐久性を向上できるベルトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係るベルトに好適に用いることができるスチールワイヤーの長手方向と垂直な面での断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様に係るベルトの、該ベルトに含まれる複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直な面における断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様に係るタイヤの断面図である。
【
図4】
図4は、曲げ剛性の評価方法の説明図である。
【
図5】
図5は、3点ロール疲労試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0011】
(1)本開示の一態様に係るベルトは、複数本のスチールワイヤーと、複数本の前記スチールワイヤーを埋設するゴムとを備えたベルトであって、
前記スチールワイヤーは、単線スチールワイヤーであり、前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な断面が扁平形状を有しており、
複数本の前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な、前記ベルトの断面において、
複数本の前記スチールワイヤーは一列に配列され、
長軸の傾きが異なる前記スチールワイヤーを含んでおり、
複数本の前記スチールワイヤーのうち、長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にある前記スチールワイヤーの本数の割合が50%以上である。
【0012】
既述の様に、スチールワイヤーとして、断面が扁平形状のスチールワイヤーが従来から用いられている。
【0013】
しかし、既述のように、ベルトや、該ベルトを用いたタイヤについてさらなる性能の向上が求められており、タイヤに適用した場合の軽量化と耐久性の向上が求められていた。
【0014】
本発明の発明者は、複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直な断面(以下、「断面」とも記載する)において、扁平形状の複数本のスチールワイヤーを所定の配置としたベルトとすることで、タイヤに適用した場合に軽量化し、かつ耐久性を向上できることを見出した。具体的には、複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直なベルトの断面において以下の2つの条件を満たすことで、タイヤに適用した場合に、軽量化し、かつ耐久性を向上できる。第1の条件としては、ベルトが、上記断面において長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含むことが挙げられる。第2の条件としては、ベルトが含有する複数本のスチールワイヤーのうち、上記断面において長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を50%以上とすることが挙げられる。
【0015】
ベルトが上記2つの条件を充足することで、ベルトをタイヤに適用した場合に軽量化し、かつ耐久性が向上する理由について、本発明の発明者は以下のように推認している。
【0016】
タイヤは、自動車等に装着して使用され、自動車を走行している最中に路面から力を受けることになる。タイヤ内に配置したベルトや、ベルト内のスチールワイヤーについても同様に路面から力を受けることになる。
【0017】
路面は通常完全な平坦面ではなく、例えば小石等により凹凸が形成されている。また、タイヤの空気の充填状況等により、路面とタイヤの接地面との関係も変化する。このため、タイヤを自動車等に装着して走行している場合、該タイヤや、タイヤ内に配置されたスチールワイヤーは、路面側から、タイヤの接地面と鉛直方向の力だけではなく、例えばタイヤの接地面と鉛直方向から水平方向に傾いた力も受ける。
【0018】
扁平形状のスチールワイヤーは直線部を有しており、路面側から該直線部と鉛直方向に力を受けることで、該スチールワイヤーに圧縮応力や引張応力が生じた場合の耐久性を高められる。しかし、上述のようにタイヤを自動車等に装着して走行している場合に、スチールワイヤーはタイヤの接地面と鉛直方向の力だけではなく、例えばタイヤの接地面と鉛直方向から水平方向に傾いた力も受けることになる。
【0019】
そして、上述のようにベルトが、断面において長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含む場合、該ベルトは、上記直線部の傾きが異なるスチールワイヤーを含むことになる。このため、タイヤの接地面と鉛直方向から水平方向に傾いた力が、上記直線部の鉛直方向に当たるスチールワイヤーを含むことになる。その結果、該ベルトを含むタイヤの耐久性を高められると考えられる。さらに、本発明の発明者の検討によれば、複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を50%以上とすることで、該ベルトを含むタイヤの耐久性を特に高められる。
【0020】
また、ベルトの厚さは、該ベルト内に配置した複数本のスチールワイヤーの厚さの平均値に、該スチールワイヤーを埋設できるように定めた所定のゴム厚さを加えた値に設定できる。既述のようにベルト内に配置した複数本のスチールワイヤーは長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含む。このため、ベルトの厚さ方向に沿った各スチールワイヤーの厚さの平均値が、ベルト内に配置した複数本のスチールワイヤーの厚さの平均値になる。
【0021】
複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合が50%以上の場合、該割合が50%未満の場合と比較して、ベルト内に配置した複数本のスチールワイヤーの厚さの平均値を抑制できる。その結果、ベルトの厚さも抑制でき、ベルトに含まれるゴムの量を抑制し、ベルトを軽量化できるため、該ベルトを含むタイヤも軽量化できる。
【0022】
(2) 複数本の前記スチールワイヤーのうち、前記長軸の傾きが-70°以上-30°未満、または+30°より大きく+70°以下の範囲にある前記スチールワイヤーの本数の割合が10%以上50%以下であってもよい。
【0023】
長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーは、長軸の傾きが0°のスチールワイヤーと比較して、ベルトの厚さ方向に沿って力を加えた際の曲げ剛性が高くなる。このため、ベルトが有する複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を10%以上とすることで、該割合が10%未満の場合と比較してベルトとしての曲げ剛性を高くできる。なお、ここでの曲げ剛性とは、ベルトの厚さ方向に沿って力を加えた場合の曲げ剛性を意味する。このため、ベルトが、長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーを本数の割合で10%以上含有する場合、該ベルトに厚さ方向に沿って力が加えられた際の変形を抑制できる。また、該ベルトをタイヤに適用した場合についても、タイヤ内で該ベルトに厚さ方向に沿って力が加えられた際の変形を抑制できる。このため、該ベルトが繰り返し変形し、該ベルトや、該ベルトを含むタイヤが破損等することを抑制できる。
【0024】
長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を50%以下とすることで、上記断面における長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を確保できる。このため、該ベルトを含むタイヤの耐久性を高めることができる。また、ベルトを軽量化し、該ベルトを含むタイヤも軽量化できる。
【0025】
(3) 前記スチールワイヤーは、前記スチールワイヤーの長手方向と垂直な断面において、
前記断面の外形が、第1の直線部と、
前記第1の直線部と対向するように配置された第2の直線部と、
前記第1の直線部と、前記第2の直線部との間を接続する第1の曲線部および第2の曲線部とを有しており、
前記第1の曲線部と、前記第2の曲線部とは対向するように配置され、
前記第1の曲線部と、前記第2の曲線部との間の最大距離を幅Wとし、
前記第1の直線部と、前記第2の直線部との間の最大距離を高さHとした場合に、
前記高さHの前記幅Wに対する割合である扁平率が49%以上65%以下であってもよい。
【0026】
スチールワイヤーの扁平率を49%以上とすることで、該スチールワイヤーを扁平化する際に、スチールワイヤーに加える加工量を抑制できるため、スチールワイヤーの耐久性を特に高めることができるからである。
【0027】
スチールワイヤーは、例えば長手方向と垂直な断面が円形状である加工前スチールワイヤーを圧延ローラー等で加圧、圧延することで、所定の形状に加工できる。このため、上記加工量とは、加工前スチールワイヤーから所定の形状にするまでの加工量、すなわち変形量を意味する。
【0028】
扁平率を65%以下とすることで特にスチールワイヤーの厚さを抑制でき、ベルトの厚さを抑制し、ベルトや、該ベルトを用いたタイヤを特に軽量にできる。
【0029】
(4) 前記ゴムの弾性率が5.0MPa以上10.0MPa以下であってもよい。
【0030】
ゴムの弾性率を5.0MPa以上とすることで、該ベルトをタイヤに適用した場合に、乗り心地を向上できると考えられる。
【0031】
ゴムの弾性率を10.0MPa以下とすることで、力が加えられた際のベルトの変形を抑制し、ベルトや、該ベルトを用いたタイヤの耐久性を特に高めることができる。
【0032】
(5) エンズが15本/5cm以上40本/5cm以下であってもよい。
【0033】
ベルトのエンズを15本/5cm以上とすることで、ベルトや、該ベルトを用いたタイヤの耐久性を特に高められる。ベルトのエンズを40本/5cm以下とすることでコード間のゴム量を確保でき、該ベルトを用いたタイヤについて乗り心地を向上できる。
【0034】
(6) 本開示の一態様に係るタイヤは、(1)~(5)のいずれかに記載のベルトを含むことができる。
【0035】
(1)~(5)のいずれかに記載のベルトに用いたスチールワイヤーは、該スチールワイヤーの長手方向と垂直な断面が扁平形状である。また、上記ベルトにおいては、スチールワイヤーの長軸の傾きが所定の範囲にある。このため、既述の様にベルトの厚さを薄くでき、ベルトや、ベルトを用いたタイヤを軽量化できる。
【0036】
また、本開示の一態様に係るタイヤは既述のベルトを含むため、耐久性を向上できる。
【0037】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るベルト、タイヤの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0038】
〔ベルト〕
本実施形態のベルトは、複数本のスチールワイヤーと、複数本のスチールワイヤーを埋設するゴムとを備えることができる。
本実施形態のベルトが有するスチールワイヤーは、単線スチールワイヤーである。そして、該スチールワイヤーの長手方向と垂直な断面が扁平形状を有しており、複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直な、ベルトの断面において、複数本のスチールワイヤーを一列に配列できる。
本実施形態のベルトは、複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直な、ベルトの断面において、長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含んでいる。そして、複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を50%以上とすることができる。
【0039】
以下、本実施形態に係るベルトについて
図1、
図2を用いつつ説明する。
【0040】
本実施形態のベルトが有する各部材についてまず説明する。
(1)ベルトが有する各部材について
(スチールワイヤー)
図1に本実施形態のベルトで好適に用いることができるスチールワイヤー10の長手方向と垂直な面での断面図を示す。
【0041】
スチールワイヤー10は既述のように単線スチールワイヤー、すなわち1本のワイヤーである。スチールワイヤー10は、長手方向に沿って捩り加工が施されていないことが好ましい。すなわち、スチールワイヤー10はストレートスチールワイヤーであることが好ましい。
【0042】
図1に示すようにスチールワイヤー10は長手方向と垂直な断面において、扁平形状を有することができる。扁平形状とは、例えば幅よりも高さが短く、平たい形状であることを意味する。
【0043】
スチールワイヤーはベルトのゴム内に配置できる。ベルトは、ゴム内に一列に配列したスチールワイヤーを埋め込めるように厚さを選択できるため、スチールワイヤーの断面の形状を扁平形状とし、スチールワイヤーの厚さを抑制することで、ベルトの厚さも抑制できる。従って、断面の形状が扁平形状のスチールワイヤーとすることで、例えば同一の断面積を有する円形状のスチールワイヤーを用いた場合と比較して、ベルトに含まれるゴムの量を抑制できる。このため、断面の形状が扁平形状のスチールワイヤーとすることでベルトを軽量化でき、該ベルトを含むタイヤも軽量化できる。
【0044】
図1に示すように、スチールワイヤー10は、該スチールワイヤー10の長手方向と垂直な断面において、該断面の外形が、第1の直線部11と、第1の直線部11と対向するように配置された第2の直線部12とを有する。また、本実施形態のスチールワイヤー10の断面の外形は、第1の直線部11と第2の直線部12との間を接続する第1の曲線部13および第2の曲線部14を有することができる。
【0045】
第1の直線部11と、第2の直線部12とは
図1に示すように平行であることが好ましい。なお、ここでいう平行とは厳密な意味での平行を意味するものではなく、該2本の直線部が並列に配置されていることを意味する。
【0046】
図1に示すように、第1の曲線部13と、第2の曲線部14とは対向するように配置される。第1の曲線部13、および第2の曲線部14はそれぞれ、第1の直線部11の端部と第2の直線部12の端部との間を接続するように構成されていればよく、その形状は特に限定されない。例えば
図1に示すように、第1の曲線部13、および第2の曲線部14はそれぞれ、スチールワイヤー10の外側に凸の曲線形状とすることができる。
【0047】
そして、第1の直線部11と、第2の直線部12との間に、両直線部からの距離が等しくなるように引いた直線が、長軸A1となる。第1の曲線部13と、第2の曲線部14からの距離が等しくなるように引いた直線が短軸A2となる。長軸A1と短軸A2との交点が中心Oとなる。
【0048】
スチールワイヤー10の、第1の曲線部13と、第2の曲線部14との間の最大距離である、スチールワイヤー10の幅Wの具体的なサイズは特に限定されない。スチールワイヤー10の幅Wは例えば、0.6mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.7mm以上1.2mm以下であることがより好ましい。スチールワイヤー10の幅Wを0.6mm以上とすることで、該スチールワイヤーの耐久面での強度を特に高めることができるからである。
【0049】
第1の曲線部13と、第2の曲線部14との間の最大距離とは、最も長くなる部分での第1の曲線部13と、第2の曲線部14との間の距離を意味している。
【0050】
スチールワイヤー10の幅Wは、スチールワイヤーの断面形状のばらつきの影響を避けるため、スチールワイヤーの長手方向と垂直な複数の断面において測定した値の平均値であることが好ましい。スチールワイヤー10の幅Wは、例えばスチールワイヤーの長手方向と垂直な3つの断面における測定値の平均値であることがより好ましい。スチールワイヤーの長手方向と垂直な複数の断面において第1の曲線部13と、第2の曲線部14との間の最大距離である幅Wを測定し、平均値を算出する場合、隣接する断面間の距離を十分にとることが好ましい。スチールワイヤーの試験片の長さにもよるが、例えば隣接する断面間の距離は1cm以上5cm以下であることが好ましい。
【0051】
スチールワイヤー10の第1の直線部11と、第2の直線部12との間の最大距離である、スチールワイヤー10の高さHの具体的なサイズは特に限定されないが、0.3mm以上であることが好ましく、0.4mm以上であることがより好ましい。
【0052】
第1の直線部11と、第2の直線部12との間の最大距離とは、最も長くなる部分での第1の直線部11と、第2の直線部12との間の距離を意味している。
【0053】
これはスチールワイヤーの高さHを0.3mm以上とすることで、該スチールワイヤーの強度を特に高めることができるからである。
【0054】
スチールワイヤーの高さHの上限は特に限定されないが、例えば1.0mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましい。これはスチールワイヤーの高さHを1.0mm以下とすることで、該スチールワイヤーを含むベルトの厚さ、さらにはベルトに含まれるゴムの量を抑制できる。このため、該スチールワイヤーを用いたベルトや、該ベルトを含むタイヤを軽量化できるからである。
【0055】
高さHについても、幅Wの場合と同様にスチールワイヤーの長手方向と垂直な複数の断面において測定した値の平均値であることが好ましい。特に高さHは、スチールワイヤーの長手方向と垂直な3つの断面における測定値の平均値であることがより好ましい。スチールワイヤーの長手方向と垂直な3つの断面において高さHを測定し、平均値を算出する場合、スチールワイヤーの試験片の長さにもよるが、隣接する断面間の距離が1cm以上5cm以下であることが好ましい。
【0056】
スチールワイヤー10は、その扁平率は特に限定されないが、扁平率は49%以上65%以下であることが好ましい。なお、扁平率は第1の直線部11と、第2の直線部12との間の最大距離である高さHの、第1の曲線部13と、第2の曲線部14との間の最大距離である幅Wに対する割合であり、(扁平率(%))=H/W×100により算出できる。
【0057】
本発明の発明者の検討によれば、扁平率を49%以上とすることで、該スチールワイヤーを扁平化する際に、スチールワイヤーに加える加工量を抑制できるため、スチールワイヤーの耐久性を特に高めることができるからである。
【0058】
扁平率を65%以下とすることで特にスチールワイヤーの厚さを抑制でき、ベルトの厚さを抑制し、ベルトや、該ベルトを用いたタイヤを特に軽量にできる。
【0059】
扁平率は、50%以上60%以下であることがより好ましい。
【0060】
スチールワイヤー10の材料は特に限定されないが、スチールワイヤーは、例えば
図1中に示したように、鋼線101と、鋼線101の表面にめっき膜102を配置した構成を有することができる。
【0061】
鋼線101としては高炭素鋼線を好適に用いることができる。
【0062】
また、めっき膜102としては、例えば金属成分がCu(銅)と、Zn(亜鉛)とのみからなるめっき膜、すなわちブラスめっき膜とすることもできるが、Cuと、Zn以外の金属成分をさらに含有することもできる。めっき膜は例えば、金属成分としてCo(コバルト)、およびNi(ニッケル)から選択された1種類以上の元素をさらに含むこともできる。
【0063】
すなわち、スチールワイヤーは、例えばCuおよびZnを含むブラスめっき膜を有することができる。また、上記ブラスめっき膜は、さらにCo、およびNiから選択された1種類以上の元素を含有することもできる。なお、ブラスめっき膜は上述のように例えば鋼線の表面に配置することができる。
【0064】
スチールワイヤーが、CuおよびZnを含むブラスめっき膜を有することで、該スチールワイヤーをゴムにより被覆、加硫してベルトや、タイヤとした場合に、スチールワイヤーとゴムとの界面よりもゴム側にCu2Sを含有する接着層を形成できる。なお、ZnはCu2Sの生成を促進する働きを有する。該接着層が形成されることで、スチールワイヤーとゴムとの接着力を高め、特に耐久性に優れたベルト、タイヤとすることができる。
【0065】
また、CoおよびNiは、イオン化傾向がZnより大きい。このため、ブラスめっき膜がCoおよびNiから選択された1種類以上の元素をさらに含有することで、上記CoおよびNiから選択された1種類以上の元素が犠牲防食として機能し、あるいはCuとZnの合成電位を貴にし、ブラスめっき膜の耐食性を高められる。その結果、スチールワイヤーとゴムとの接着力をさらに高め、ベルトやタイヤの耐久性をさらに高めることができる。
(ゴム)
ベルトのゴムは、ゴムの組成物を成形し、必要に応じて加硫することで製造できる。
【0066】
ゴムの具体的な組成は本実施形態のベルトを適用するタイヤの用途や、タイヤに要求される特性等に応じて選択することができ、特に限定されない。ゴムは、例えばゴム成分と、硫黄と、加硫促進剤とを含むことができる。
【0067】
ゴム成分は、ゴム成分中、例えば天然ゴム(NR:natural rubber)、およびイソプレンゴム(IR:isoprene rubber)から選択された1種類以上を60質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことさらに好ましい。
【0068】
これは、ゴム成分中の天然ゴム、およびイソプレンゴムから選択された1種類以上のゴムの割合を、60質量%以上とすることで、ベルトや、タイヤの破断強度を高めることができ、好ましいからである。
【0069】
天然ゴムや、イソプレンゴムと混用して用いるゴム成分としては、例えばスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)から選択された1種類以上を挙げることができる。
【0070】
硫黄としては特に限定されないが、例えばゴム工業において加硫剤として一般的に用いられる硫黄を用いることができる。
【0071】
ゴムの硫黄の含有量は特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して例えば5質量部以上8質量部以下とするのが好ましい。
【0072】
これは、ゴム成分100質量部に対する、硫黄の割合を5質量部以上とすることで、得られるゴムの架橋密度を高め、特にスチールコードとゴムとの接着力を高めることができるからである。また、ゴム成分100質量部に対する、硫黄の割合を8質量部以下とすることで、硫黄をゴム内に特に均一に分散させることができ、またブルーミングが生じることを抑制できるため、好ましいからである。
【0073】
加硫促進剤についても特に限定されないが、例えばN,N′-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系促進剤が好適に用いられる。また、所望により、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系促進剤や、テトラベンジルチラウムジスルフィド、テトラメチルチラウムジスルフィド、テトラエチルチラウムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チラウムジスルフィド、テトラメチルチラウムモノスルフィド等のチラウム系促進剤を用いてもよい。
【0074】
本実施形態のベルトに用いるゴム組成物は、これら各成分を、常法により混練りし、熱入れおよび押し出しすることにより製造することができる。
【0075】
また、本実施形態のベルトのゴムは、コバルト単体、およびコバルトを含有する化合物から選択された1種類以上を含有することが好ましい。
【0076】
コバルトを含有する化合物としては、有機酸コバルトや、無機酸コバルトを挙げることができる。
【0077】
有機酸コバルトとしては例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。なお、有機酸コバルトは有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩でもよい。
【0078】
無機酸コバルトとしては例えば、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、クロム酸コバルトから選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0079】
特に、本実施形態のベルトのゴムは、有機酸コバルトを含有することがより好ましい。これは、有機酸コバルトを含有することで、スチールワイヤーと、ゴムとの初期接着性能を特に向上させることができるからである。なお、初期接着性能とは、タイヤの製造時等に、加硫を行った直後のスチールワイヤーと、ゴムとの接着性能を意味する。
【0080】
また、本発明の発明者の検討によれば、コバルトをゴムに添加することで、接着層中のCu2Sの割合を高めることができ、スチールワイヤーとゴムとの接着力を高めることができる。そして、添加するコバルトとして、有機酸コバルトを用いた場合、その傾向が顕著なものとなる。このため、本実施形態のベルトのゴムは、コバルト、特に有機酸コバルトを含有することが好ましく、それにより特に耐久性に優れたベルトやタイヤとすることができる。
【0081】
また、ゴムは上記ゴム成分や、硫黄、加硫促進剤、コバルト等以外に任意の成分を含むことができる。ゴムは、例えば補強剤(カーボンブラック、シリカ等)、ワックス、老化防止剤などの周知のゴム用の添加剤を含有することもできる。
【0082】
本実施形態のベルトに用いるゴムの弾性率は特に限定されないが、例えば5.0MPa以上10.0MPa以下であることが好ましく、6.0MPa以上9.0MPa以下であることがより好ましい。
【0083】
ゴムの弾性率を5.0MPa以上とすることで、該ベルトをタイヤに適用した場合に、乗り心地を向上できると考えられる。
【0084】
ゴムの弾性率を10.0MPa以下とすることで、力が加えられた際のベルトの変形を抑制し、ベルトや、該ベルトを用いたタイヤの耐久性を特に高めることができる。
【0085】
ゴムの弾性率は、ゴムの粘弾性を示す指標である。ゴムの弾性率は、複素弾性率や動的粘弾性とも呼ばれる。ゴムの弾性率は、東洋精機社製のスペクトロメータを用いて、幅5mm、厚さ2mm、長さ20mmの試験片につき、初期荷重150g、振動数50Hz、動的歪1%、温度70℃にて測定した数値を言う。ゴムの弾性率は、用いるゴム組成物の種類、配合等により調整できる。
(2)ベルトの構造について
本実施形態のベルト20は、
図2に示すように、複数本のスチールワイヤー10と、スチールワイヤー10を埋設するゴム21とを有することができる。
図2に示すように、スチールワイヤー10は、断面が扁平形状を有している。
図2中、紙面と垂直なX軸方向がスチールワイヤー10の長手方向である。
図2中、ベルトの幅方向に当たるY軸方向に沿って一列に複数本のスチールワイヤー10が配列されている。
図2中、Z軸方向がベルト20の厚さ方向になる。
【0086】
既述の様に、スチールワイヤーとして、断面が扁平形状のスチールワイヤーが従来から用いられている。
【0087】
しかし、既述のように、ベルトや、該ベルトを用いたタイヤについてさらなる性能の向上が求められており、タイヤに適用した場合の軽量化と耐久性の向上が求められていた。
【0088】
本発明の発明者は、複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直な断面において、扁平形状の複数本のスチールワイヤーを所定の配置としたベルトとすることで、タイヤに適用した場合に軽量化し、かつ耐久性を向上できることを見出した。具体的には、複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直なベルトの断面において以下の2つの条件を満たすことで、タイヤに適用した場合に、軽量化し、かつ耐久性を向上できる。第1の条件としては、ベルトが、上記断面において長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含むことが挙げられる。第2の条件としては、ベルトが、複数本のスチールワイヤーのうち、上記断面において長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を50%以上とすることが挙げられる。
【0089】
ベルトが上記2つの条件を充足することで、ベルトをタイヤに適用した場合に軽量化し、かつ耐久性が向上する理由について、本発明の発明者は以下のように推認している。
【0090】
タイヤは、自動車等に装着して使用され、自動車を走行している最中に路面から力を受けることになる。タイヤ内に配置したベルトや、ベルト内のスチールワイヤーについても同様に路面から力を受けることになる。
【0091】
路面は通常完全な平坦面ではなく、例えば小石等により凹凸が形成されている。また、タイヤの空気の充填状況等により、路面とタイヤの接地面との関係も変化する。このため、タイヤを自動車等に装着して走行している場合、該タイヤや、タイヤ内に配置されたスチールワイヤーは、路面側から、タイヤの接地面と鉛直方向の力だけではなく、例えばタイヤの接地面と鉛直方向から水平方向に傾いた力も受ける。
【0092】
既述のように扁平形状のスチールワイヤーは第1の直線部11、第2の直線部12を有しており、路面側から該直線部と鉛直方向に力を受けることで、該スチールワイヤーに圧縮応力や引張応力が生じた場合の耐久性を高められる。
【0093】
しかし、上述のようにタイヤを自動車等に装着して走行している場合に、スチールワイヤーはタイヤの接地面と鉛直方向の力だけではなく、例えばタイヤの接地面と鉛直方向から水平方向に傾いた力も受けることになる。
【0094】
そして、上述のようにベルトが、断面において長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含む場合、該ベルトは、上記直線部の傾きが異なるスチールワイヤーを含むことになる。このため、タイヤの接地面と鉛直方向から水平方向に傾いた力が、上記直線部の鉛直方向に当たるスチールワイヤーを含むことになる。その結果、該ベルトを含むタイヤの耐久性を高められると考えられる。
【0095】
さらに、本発明の発明者の検討によれば、複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を50%以上とすることで、該ベルトを含むタイヤの耐久性を特に高められる。
【0096】
また、ベルト20の厚さは、該ベルト20内に配置した複数本のスチールワイヤー10の厚さの平均値に、該スチールワイヤー10を埋設できるように定めた所定のゴム厚さを加えた値に設定できる。既述のようにベルト20内に配置した複数本のスチールワイヤー10は長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含む。このため、ベルト20の厚さ方向に沿った各スチールワイヤー10の厚さの平均値が、ベルト20内に配置した複数本のスチールワイヤー10の厚さの平均値になる。
【0097】
スチールワイヤー10のベルト20の厚さ方向に沿った各スチールワイヤーの厚さとは、
図2のスチールワイヤー10Bの場合、スチールワイヤー10Bのベルト20の厚さ方向、すなわち
図2中のZ軸方向の最下端部と、最上端部との間の距離D
10Bに相当する。
【0098】
複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合が50%以上の場合、該割合が50%未満の場合と比較して、ベルト内に配置した複数本のスチールワイヤーの厚さの平均値を抑制できる。その結果、ベルトの厚さも抑制でき、ベルト20に含まれるゴムの量を抑制し、ベルト20を軽量化できるため、該ベルトを含むタイヤも軽量化できる。
【0099】
複数本のスチールワイヤーのうち、上記断面における、長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合は、上述のように50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0100】
また、複数本のスチールワイヤーのうち、上記断面における長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を90%以下とすることで、後述する長軸の傾きが-70°以上-30°未満、または+30°より大きく+70°以下の範囲のスチールワイヤーの本数を十分に確保できる。このため、後述するように、ベルトに厚さ方向に沿って力が加えられた際の変形も抑制できる。
【0101】
ベルトにおけるスチールワイヤーの長軸の傾きの測定に当たっては、まず測定を行うベルトを平坦面上に押し付けて配置する。具体的には例えば、
図2に示すように、ベルト20を平坦面P上に押し付け、平坦面Pに沿うように配置する。この際、ベルト20の平坦面Pと接する一方の面20Aと反対側に位置する他方の面20B上に重り(荷重)等を配置し、ベルト20全体を平坦面Pに押し付けることが好ましい。重りの重量は特に限定されないが、例えばベルト20の他方の面20Bの面積100cm
2当たり、2kg以上10kg以下の重りを配置することが好ましい。ベルト20の他方の面20Bの面積100cm
2当たりの重りの重量を2kg以上とすることで、ベルトを平坦面Pに均一に押し付けることができ、10kg以下とすることで、ベルトが重りにより過度に変形することを抑制できる。重りはベルト20の他方の面20B全体を均一に押圧することが好ましい。
【0102】
次いで、ベルト20が有するスチールワイヤー10の配列方向の両端部に位置するスチールワイヤー10Aの中心O10Aと、スチールワイヤー10Hの中心O10Hとの間を結ぶ直線である基準軸L20を引く。
【0103】
スチールワイヤー10A、10Hの中心O
10A、O
10Hは、それぞれのスチールワイヤーの長手方向と垂直な断面における長軸A
1と短軸A
2(
図1を参照)との交点になる。
【0104】
そして、基準軸L20を基準として、各スチールワイヤーの長軸の傾きを求めることができる。例えばスチールワイヤー10Bの場合、基準となる基準軸L20と、スチールワイヤー10Bの長軸A1Bとが形成する角度θBが、長軸A1Bの傾きとなる。同様にして、スチールワイヤー10C、10D、10E、10F、10Hは、それぞれの長軸A1C、A1D、A1E、A1F、A1Hが基準軸L20との間で形成する角度θC、θD、θE,θF、θHが、各長軸の傾きとなる。
【0105】
スチールワイヤー10A、スチールワイヤー10Gにおいては、長軸A
1A、長軸A
1Gが、基準軸L
20と平行であるため、長軸の傾きは0となる。各長軸の傾きは-90°以上+90°以下の範囲となる部分で測定できる。例えば、
図2中の長軸A
1Cのように、基準軸L
20よりも該長軸が反時計回りに、すなわち左回り方向に回転させた位置にある場合には該長軸の傾きはマイナスとなる。また、
図2中の長軸A
1Bのように、基準軸L
20よりも該長軸が時計回りに、すなわち右回り方向に回転させた位置にある場合には該長軸の傾きはプラスとなる。
【0106】
図2に示した場合と異なり、基準軸L
20が長軸の傾きの測定を行うスチールワイヤーの中心を通らない場合、基準軸L
20と平行で、かつ長軸の傾きの測定を行うスチールワイヤーの中心を通る直線を引き、該直線を基準として同様に長軸の傾きを求められる。
【0107】
本実施形態のベルトは、上記断面において、複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが-70°以上-30°未満、または+30°より大きく+70°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合が10%以上50%以下であることが好ましく、25%以上45%以下であることがより好ましい。
【0108】
長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーは、長軸の傾きが0°のスチールワイヤーと比較して、ベルトの厚さ方向に沿って力を加えた際の曲げ剛性が高くなる。このため、本実施形態のベルトが有する複数本のスチールワイヤーのうち、長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を10%以上とすることで、該割合が10%未満の場合と比較してベルトとしての曲げ剛性を高くできる。なお、ここでの曲げ剛性とは、ベルトの厚さ方向に沿って力を加えた場合の曲げ剛性を意味する。このため、本実施形態のベルトが、長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーを本数の割合で10%以上含有する場合、該ベルトに厚さ方向に沿って力が加えられた際の変形を抑制できる。また、該ベルトをタイヤに適用した場合についても、タイヤ内で該ベルトに厚さ方向に沿って力が加えられた際の変形を抑制できる。このため、該ベルトが繰り返し変形し、該ベルトや、該ベルトを含むタイヤが破損等することを抑制できる。
【0109】
長軸の傾きが上記範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を50%以下とすることで、上記断面における長軸の傾きが-30°以上+30°以下の範囲にあるスチールワイヤーの本数の割合を確保できる。このため、該ベルトを含むタイヤの耐久性を高めることができる。また、ベルトを軽量化し、該ベルトを含むタイヤも軽量化できる。
【0110】
本実施形態のベルトが有するスチールワイヤーの本数は特に限定されず、該ベルトや、該ベルトを用いるタイヤに要求される性能等に応じて選択できる。ここで、本実施形態のベルトのスチールワイヤーの長手方向と垂直な断面における、ベルトの5cmの幅あたりに存在するスチールワイヤーの本数をエンズとする。この場合、エンズは、例えば15本/5cm以上40本/5cm以下であることが好ましく、20本/5cm以上35本/5cm以下であることがより好ましい。
【0111】
本実施形態のベルトのエンズを15本/5cm以上とすることで、該ベルトや、該ベルトを用いたタイヤの耐久性を特に高められる。40本/5cm以下とすることでコード間のゴム量を確保することで、該ベルトを用いたタイヤについて乗り心地を向上できる。
【0112】
〔タイヤ〕
次に、本実施形態におけるタイヤについて
図3に基き説明する。
【0113】
本実施形態のタイヤは、既述のベルトを含むことができる。
【0114】
図3は、本実施形態のタイヤ31の周方向と垂直な面での断面図を示している。
図3ではCL(センターライン)よりも左側部分のみを示しているが、CLを対称軸として、CLの右側にも連続して同様の構造を有している。
【0115】
図3に示すように、タイヤ31は、トレッド部32と、サイドウォール部33と、ビード部34とを備えている。
【0116】
トレッド部32は、路面と接する部位である。ビード部34は、トレッド部32よりタイヤ31の内径側に設けられている。ビード部34は、車両のホイールのリムに接する部位である。サイドウォール部33は、トレッド部32とビード部34とを接続している。トレッド部32が路面から衝撃を受けると、サイドウォール部33が弾性変形し、衝撃を吸収する。
【0117】
タイヤ31は、インナーライナー35と、カーカス36と、ベルト層37と、ビードワイヤー38とを備えている。
【0118】
インナーライナー35は、ゴムで構成されており、タイヤ31とホイールとの間の空間を密閉する。
【0119】
カーカス36は、タイヤ31の骨格を形成している。カーカス36はポリエステル、ナイロン、レーヨンなどの有機繊維あるいはスチールワイヤーと、ゴムと、により構成されている。カーカス36に既述のベルト20を用いることもできる。
【0120】
ビードワイヤー38は、ビード部34に設けられている。ビードワイヤー38は、カーカスに作用する引っ張り力を受け止める。
【0121】
ベルト層37は、カーカス36を締め付けて、トレッド部32の剛性を高めている。
図3に示した例では、タイヤ31は2層のベルト層37を有している。
【0122】
そして、
図3に示したタイヤ31は、2層のベルト層37を有しており、例えばベルト層37に、既述の
図2に示したベルト20を用いることができる。
【0123】
既述のベルト20に用いたスチールワイヤー10は、長手方向と垂直な断面が扁平形状である。また、ベルト20においては、スチールワイヤー10の長軸の傾きが所定の範囲にある。このため、既述の様にベルト20の厚さを薄くでき、ベルト20や、ベルト20を用いたタイヤ31を軽量化できる。
【0124】
また、タイヤ31は既述のベルト20を含むため、耐久性を向上できる。
【0125】
図3には、2層のベルト層37を有するタイヤ31を示したが、係る形態に限定されず、本実施形態のタイヤは、1層または3層以上のベルト層37を有することもできる。
【0126】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0127】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例において作製したスチールワイヤー、ベルトの評価方法について説明する。
(1)スチールワイヤーの断面形状の評価
実験例1~実験例5で作製したスチールワイヤーを透明樹脂に埋め込み、スチールワイヤーの長手方向と垂直な面(断面)が露出するように試料を切り出した。
【0128】
そして、投影機を用いて断面における各部の長さ、距離を測定した。
【0129】
各部の長さ、距離の測定は3つの断面で実施し、3つの断面での各部の長さの測定値の平均を、スチールワイヤーの各部の長さとした。測定に供した3つの断面は、隣接する断面間の距離が5cmとなるようにその位置を設定した。
【0130】
具体的には、3つの断面において、第1の直線部11と、第2の直線部12との間の最大距離である高さHを測定し、平均値を各実験例のスチールワイヤー10の高さHとした(
図1を参照)。
【0131】
3つの断面において第1の曲線部13と、第2の曲線部14との間の最大距離、すなわちスチールワイヤー10の幅Wを測定し、平均値を各実験例のスチールワイヤー10の幅Wとした(
図1を参照)。
【0132】
また、高さHの幅Wに対する割合である扁平率(%)を、H/W×100により算出した。
(2)ベルトにおける長軸の傾き
各実験例で作製したベルトを平坦面上に押し付けて配置した。具体的には
図2に示すように、評価を行うベルト20を、一方の面20Aが平坦面と接するように平坦面P上に配置した。この際、
図2に示すように、ベルト20は、ベルト20が有する複数本のスチールワイヤー10の配列方向が平坦面Pに沿うように配置した。また、ベルト20の平坦面Pと接する面とは反対側に位置する他方の面20B上に2kgの重りを配置した。評価を行うベルト20の他方の面20Bは100mm角の正方形であり、ベルト20は、40本のスチールワイヤー10を含んでいる。上記重りは、ベルト20の他方の面20Bと接する面の形状が100mm角の正方形である板状体であり、ベルト20の他方の面20B全体を重りで覆い、ベルト20の他方の面20B全体を均一に押圧した。
【0133】
次いで、
図2に示すように、ベルト20が有するスチールワイヤー10の配列方向の両端部に位置するスチールワイヤー10Aの中心O
10Aと、スチールワイヤー10Hの中心O
10Hとの間を結ぶ直線である基準軸L
20を引いた。スチールワイヤー10A、10Hの中心O
10A、O
10Hは、それぞれのスチールワイヤーの長手方向と垂直な断面における長軸A
1と短軸A
2(
図1を参照)との交点になる。
【0134】
そして、基準軸L20を基準として、各スチールワイヤーの長軸の傾きを求めた。具体的には、基準軸L20と平行で、かつ各スチールワイヤーの中心を通る直線を基準として、各スチールワイヤーの長軸の傾きを求めた。
【0135】
スチールワイヤー10Bの場合、基準軸L20と、スチールワイヤー10Bの長軸A1Bとが形成する角度θBが、長軸A1Bの傾きとなる。同様にして、ベルト20に含まれる他のスチールワイヤー10の長軸の傾きを求め、ベルトに含まれる40本のスチールワイヤーの長軸の傾きの分布を測定した。
【0136】
各長軸の傾きは-90°以上+90°以下の範囲となる部分で測定した。
図2中の長軸A
1Cのように、基準軸L
20よりも該長軸が反時計回りに、すなわち左回り方向に回転させた位置にある場合には該長軸の傾きはマイナスとした。また、
図2中の長軸A
1Bのように、基準軸L
20よりも該長軸が時計回りに、すなわち右回り方向に回転させた位置にある場合には該長軸の傾きはプラスとした。
【0137】
同じベルトについて複数回測定を行い、測定誤差を確認したところ、1°以内であることが確認できた。
【0138】
なお、各スチールワイヤーは、
図1に示した断面形状を有しており、第1の直線部11と、第2の直線部12との間に、両直線からの距離が等しくなるように引いた直線を長軸A
1とした。
(3)曲げ剛性
以下の各実験例で作製したベルトの試験片40を、
図4中のY軸と平行な第1のローラー41と、第3のローラー43の上に配置した。そして、第1のローラー41と第3のローラー43との中間であって、ベルトの試験片40の上面に第2のローラー42を配置した。第2のローラー42も図中のY軸と平行になっている。第1のローラー41と、第3のローラー43との間の中心間距離Lは20mmとなっている。また、ベルトの試験片40中には、スチールワイヤーが、該スチールワイヤーの長手方向が、図中のX軸方向に沿うように配置されている。
【0139】
そして、第2のローラー42により、図中のZ軸と平行なブロック矢印Aに沿って10Nの力で試験片40を押圧して試験片をZ軸方向に1mm変位させ、試験片40の曲げ剛性求めた。
【0140】
各実験例の結果は、実験例1の結果を100として相対値で示している。
【0141】
曲げ剛性の数値が高いほどベルトの曲げ剛性が高く、ベルトに厚さ方向に沿って力を加えた際に変形しにくいことを意味している。
(4)3点ロール疲労試験
図5に示すように、以下の実験例で作製したベルトの試験片50を、ローラー径が25mmである第1のローラー51、第2のローラー52、および第3のローラー53にかけた。第2のローラー52には、試験片50が
図5中の紙面と垂直な方向、具体的にはローラーの長手方向に位置が大きくずれることを防止するための溝が、ローラーの周面に沿って設けられている。該溝の幅、すなわち該溝の第2ローラーの長手方向に沿った長さは22mmであり、試験片50は、上記溝内に収容できるように幅を20mmとした。試験片50の幅とは、試験片50の
図5中の紙面と垂直方向の長さに当たる。また、後述する試験片50の長手方向とは、上記試験片50の幅と垂直な方向を意味する。
【0142】
上記3つのローラーに試験片50をかける際、
図5に示すように、第1のローラー51と第2のローラー52との間に位置する試験片50と、第2のローラー52と第3のローラー53の間に位置する試験片50とが平行になるように、各ローラーの位置を調整した。また、第1のローラー51~第3のローラー53にかけられた試験片50には、試験片50の長手方向に沿って29.4Nの荷重を加えている。そして、第1のローラー51~第3のローラー53を回転させて、まず
図5中の矢印Bの方向に試験片50を移動させた。次いで、第1のローラー51~第3のローラー53を逆回転させ、図中の矢印Bとは反対の方向に試験片50を移動させた。試験片50を往復させる動作を1セットとして、該動作を繰り返し実施した。各ローラーは、上記往復移動を1分間に100セットできるように回転速度を設定した。そして、試験片50の表面に割れが生じるまでの試験片の上記往復移動のセットの回数を数えた。
【0143】
ベルトである試験片50は、該試験片50の長手方向や、試験片50が含有するスチールワイヤーの長手方向が、試験の際の上記試験片50の搬送方向と一致するように第1のローラー51~第3のローラー53に設置した。
【0144】
上述のように試験片50の長手方向に沿って荷重を加えながら試験片50を搬送する際、試験片50と各ローラーとの間の摩擦力の大きさのばらつき等により、試験片50には例えば試験片50の長手方向を回転軸としてねじるように力が加わる。このため、3点ロール疲労試験の間、試験片50は軽微ではあるが変形している。その結果、3点ロール疲労試験の間、試験片50は、試験片50の各ローラーと対向する面と鉛直方向の力だけではなく、鉛直方向よりも水平方向に傾いた力も受けることになる。
【0145】
各実験例の結果は、実験例5の結果を100として相対値で示している。
【0146】
3点ロール疲労試験の数値が高いほど耐久性に優れていることを意味している。
(5)重量指数
各実験例で作製したベルトの重量を測定し、実験例5のベルトの重量を100として、各実験例で作製したベルトの重量を指数で表した。なお、各実験例のベルトの重量は、ベルトの幅、および奥行きがそれぞれ100mmとなるように各実験例のベルトの試験片を作製し、測定した。ベルトの幅とは
図2中のY軸方向の長さであり複数本のスチールワイヤーが配列されている方向を意味する。また、ベルトの奥行きとは、
図2中のX軸方向の長さであり、スチールワイヤーの長手方向の長さに当たる。各実験例のベルトの試験片の中には40本のスチールワイヤーが含まれている。
(実験例について)
以下、実験条件について説明する。実験例1~実験例3が実施例、実験例4、実験例5が比較例となる。
[実験例1]
ワイヤー径が0.83mmの、断面の形状が円形状である加工前スチールワイヤーを用意した。加工前スチールワイヤーは、高炭素鋼線の表面に、金属成分がCuとZnとからなるブラスめっき膜が配置された構成を有している。
【0147】
そして、加工前スチールワイヤーを、圧延装置に供給し、
図1に示した扁平な断面形状となるように加工した。得られたスチールワイヤーについて、既述の手順により高さHと、幅Wとを測定、算出したところ、高さHが0.55mm、幅Wが1.04mmであり、扁平率は52.9%であった。
【0148】
作製した、単線スチールワイヤーであり、長手方向と垂直な面が扁平形状であるスチールワイヤーを用いて、
図2に示したベルトを作製した。
【0149】
ベルトを作製するに当って、ゴム成分と、添加剤とを含むゴム組成物を用意した。ゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴムを100質量部含む。そして、ゴム組成物は添加剤として、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを60質量部、硫黄を6質量部、加硫促進剤を1質量部、酸化亜鉛10質量部、有機酸コバルトとしてステアリン酸コバルトを1質量部の割合で含有する。
【0150】
そして、上記スチールワイヤー、およびゴム組成物を用いて、
図2を用いた構造を有するベルト20を作製した。ベルトを作製する際には、スチールワイヤーを高さ方向に押圧する力と、スチールワイヤーをその長手方向に沿って牽引する力とを調整することで、ベルトに含まれるスチールワイヤーの長軸の傾きを調整した。その結果、含有する複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直な、実験例1のベルトの断面において、複数本のスチールワイヤーは、長軸の傾きの分布が表1に示した結果になることが確認できた。
【0151】
また、ベルトのスチールワイヤーの長手方向と垂直な断面における、ベルトの5cmの幅あたりに存在するスチールワイヤーの本数をエンズとした場合に、エンズが20本/5cmとなるように、スチールワイヤーを配置した。ベルトの厚さは、ベルト内に配置した複数本のスチールワイヤーの厚さの平均値に、スチールワイヤーを埋設できるように予め設定しておいたゴム厚さを加えた値とした。ベルト内に配置した複数本のスチールワイヤーの厚さの平均値については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0152】
なお、用いたゴム組成物を用いてゴムの弾性率測定用の試験片を作製し、ゴムの弾性率を測定したところ、7.5MPaであることが確認できた。
【0153】
ゴムの弾性率は、東洋精機社製のスペクトロメータを用いて、幅5mm、厚さ2mm、長さ20mmの試験片につき、初期荷重150g、振動数50Hz、動的歪1%、温度70℃にて測定した。
【0154】
評価結果を表1に示す。
[実験例2~実験例5]
ベルトを作製する際に、スチールワイヤーを高さ方向に押圧する力と、スチールワイヤーをその長手方向に沿って牽引する力とを調整することで、ベルトに含まれるスチールワイヤーの長軸の傾きを変更した点以外は、実験例1と同様にしてベルトを作製した。
【0155】
含有する複数本のスチールワイヤーの長手方向と垂直な、各実験例のベルトの断面における、スチールワイヤーの長軸の傾きの分布は表1に示した通りとなった。
【0156】
【表1】
表1によれば、長軸の傾きが異なるスチールワイヤーを含み、長軸の傾きが-30°以上+30°以下のスチールワイヤーの本数の割合が50%以上である実験例1~実験例3のベルトは、3点ロール疲労試験の結果が117以上であることを確認できた。これに対して、長軸の傾きが-30°以上+30°以下のスチールワイヤーの本数の割合が50%未満である実験例4、5のベルトは、3点ロール疲労試験の結果が103、100であり、実験例1~実験例3のベルトと比較して、耐久性に劣ることを確認できた。
【0157】
また、上記実験例1~実験例3のベルトは、重量指数が93~96であり、重量指数が98、100である実験例4、実験例5のベルトよりも軽量であることを確認できた。このため、実験例1~実験例3のベルトを用いたタイヤについても、実験例4、実験例5のベルトを用いたタイヤよりも軽量になることを確認できた。
【0158】
以上の結果から、実験例1~実験例3のベルトや、該ベルトを用いたタイヤは、軽量化することができ、かつ耐久性に優れることを確認できた。
【符号の説明】
【0159】
10 スチールワイヤー
11 第1の直線部
12 第2の直線部
13 第1の曲線部
14 第2の曲線部
101 鋼線
102 めっき膜
A1 長軸
A2 短軸
O 中心
W 幅
H 高さ
20 ベルト
20A 一方の面
20B 他方の面
P 平坦面
O10A、O10H 中心
10A~10H スチールワイヤー
21 ゴム
L20 基準軸
A1A、A1B、A1C、A1D、A1E、A1F、A1G、A1H 長軸
θB、θC、θD、θE、θF、θH 角度
D10B 距離
31 タイヤ
32 トレッド部
33 サイドウォール部
34 ビード部
35 インナーライナー
36 カーカス(ベルト)
37 ベルト層(ベルト)
38 ビードワイヤー
CL センターライン
40 試験片
41 第1のローラー
42 第2のローラー
43 第3のローラー
A ブロック矢印
L 中心間距離
50 試験片
51 第1のローラー
52 第2のローラー
53 第3のローラー
B 矢印