(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】エアロゲル、その製造方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
H10N 10/856 20230101AFI20240903BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20240903BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20240903BHJP
【FI】
H10N10/856
H10N10/857
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2021059098
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】前田 諒太
(72)【発明者】
【氏名】篠原 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】金子 守
(72)【発明者】
【氏名】高崎 明人
(72)【発明者】
【氏名】西川 宏之
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-015890(JP,A)
【文献】特開2017-220469(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0381470(US,A1)
【文献】特開2017-054581(JP,A)
【文献】特開2019-086434(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079325(WO,A1)
【文献】特開2014-226367(JP,A)
【文献】MAEDA, Ryota et al.,The conducting fibrillar networks of a PEDOT:PSS hydrogel and an organogel prepared by the gel-film formation process,Nanotechnology,Vol. 32, 135403,2021年01月,p. 1-7,DOI: 10.1088/1361-6528/abd1a9
【文献】LEAF, A. Michael et al.,Electrostatic Effect on the Solution Structure and Dynamics of PEDOT:PSS,Macromolecules,2016年,Vol. 49, Num. 11,p. 4286-4294,DOI: 10.1021/acs.macromol.6b00740
【文献】YANAGISHIMA, Naoya et al.,Thermoelectric properties of PEDOT:PSS aerogel secondary-doped in supercritical CO2 atmosphere with low thermal conductivity,Polymer,2020年,Vol. 206, 122912,p. 1-7,DOI: 10.1016/j.polymer.2020.122912
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
H10N 10/857
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク構造がPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなり、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から算出されるフラクタル次元Dの値が1.80以上
1.89以下である、エアロゲル。
【請求項2】
前記PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの直径が、1nm以上100nm以下の範囲である、請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項3】
密度が、0.01g/cm
3以上0.1g/cm
3以下の範囲である、請求項1または2に記載のエアロゲル。
【請求項4】
比表面積が、450m
2/g以上1000m
2/g以下の範囲である、請求項1~3のいずれかに記載のエアロゲル。
【請求項5】
20.0S/cm以上3000S/cm以下の範囲の電気伝導率を有する、請求項1~4のいずれかに記載のエアロゲル。
【請求項6】
ネットワーク構造がPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなるエアロゲルの製造方法であって、
PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散媒に分散された分散液を、極性溶媒であり、かつ、前記分散媒の比重よりも小さい比重を有する有機溶媒に添加し、静置し、オルガノゲルを得ることと、
前記オルガノゲルを超臨界乾燥させることと
を包含
し、
前記超臨界乾燥させることは、超臨界流体として二酸化炭素を用い、8MPa以上15MPa以下の圧力範囲、33℃以上42℃以下の温度範囲において、6時間以上12時間以下の間、超臨界乾燥させることであり、以下の(1)~(3)のプロセス:
(1)超臨界乾燥装置のチャンバー内に前記オルガノゲルを配置したときの常温、大気圧の状態から、1.5~3分間で前記圧力範囲まで昇圧させ、15~30分間で前記温度範囲に到達させる立ち上げプロセスと、
(2)5.25時間以上11.25時間以下の間、前記圧力範囲および温度範囲を維持する超臨界処理プロセスと、
(3)15分間かけて前記圧力範囲から大気圧条件に戻し、前記チャンバー内の圧力の低下に伴って前記温度範囲から常温に戻す立ち下げプロセスと
を含む、方法。
【請求項7】
前記分散媒は、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される分散媒である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒は、25℃における比重(g/cm
3)が0.90以下を有する有機溶媒である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒である、請求項6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記超臨界乾燥させること
において、
前記(1)の立ち上げプロセスでは、プロセス開始から7~12分間は、二酸化炭素の流量を、前記(2)の超臨界処理プロセスで使用する流量(mL/min)を基準にして2~3倍の流量とし、その後、4~5分間かけて前記基準の流量まで低下させ、
前記(2)の超臨界処理プロセスでは、二酸化炭素の流量を、前記基準の流量に維持し、
前記(3)の立ち下げプロセスでは、減圧開始から5分後に、二酸化炭素の流量を、前記基準の流量から低下させ、2~3分間かけて0mL/minとする、請求項6~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記超臨界乾燥させることは、超臨界乾燥装置のチャンバー内に、前記オルガノゲルと、前記有機溶媒を収容した容器とを配置し、超臨界乾燥させる、請求項6~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記超臨界乾燥させることは、超臨界乾燥装置のチャンバー内に、前記
オルガノゲルの少なくとも一部分を覆う補助部材を配置し、超臨界乾燥させる、請求項6~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記オルガノゲルを得ることは、前記添加された分散液を、-30℃以上100℃以下の温度範囲において、30分以上72時間以下の間、静置し、オルガノゲルを得る、請求項6~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記オルガノゲルを得ることは、前記添加された分散液を、40℃以上70℃以下の温度範囲において、30分以上10時間以下の時間の間、静置し、オルガノゲルを得る、請求項6~12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記オルガノゲルを得ることは、前記添加された分散液を、10℃以上40℃未満の温度範囲において、5時間以上30時間以下の時間の間、静置し、オルガノゲルを得る、請求項6~12のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1~5のいずれかに記載のエアロゲルを具備する、熱電変換材料。
【請求項17】
請求項16に記載の熱電変換材料を含んで構成される、熱電変換素子。
【請求項18】
請求項1~5のいずれかに記載のエアロゲルを具備する、センサー材料。
【請求項19】
請求項18に記載のセンサー材料を備える、センサー。
【請求項20】
湿度センサー又はガスセンサーである、請求項19に記載のセンサー。
【請求項21】
請求項1~5のいずれかに記載のエアロゲルを具備する、電極材料。
【請求項22】
請求項21に記載の電極材料を含んで構成される、電極。
【請求項23】
請求項22に記載の電極を含んで構成される、電池。
【請求項24】
請求項1~5のいずれかに記載のエアロゲルを具備する、生体材料。
【請求項25】
請求項1~5のいずれかに記載のエアロゲルの空隙に任意の溶媒を含んで構成される、エアロゲルの膨潤体。
【請求項26】
請求項25に記載のエアロゲルの膨潤体の製造方法であって、
請求項1~5のいずれかに記載のエアロゲルを、任意の溶媒に浸漬し、静置すること
を包含する、方法。
【請求項27】
前記溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミド以外の有機溶媒である、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEDOTを用いたエアロゲル、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲル(aerogel)は、微細な多孔質骨格を有する構造体であり、IUPAC GOLD BOOKにおいて「Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas.」と定義されている。従来、シリカ(SiO2)、カーボン(C)、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)など様々な物質でエアロゲルが作製され、断熱材、電極材、触媒担体などへの応用研究が行われている。
【0003】
本願発明者らは、これまでに、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOT:PSSと称する。)を含有する膜(PEDOT:PSS膜)を開発し(例えば、非特許文献1)、さらに、このPEDOT:PSS膜を熱電発電素子に適用し得るように改良を行ってきた(例えば、特許文献1)。特許文献1には、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散媒に分散した分散液を、極性溶媒であり、かつ、分散媒の比重よりも小さい比重を有する第1の有機溶媒に添加し、静置することと、第1の有機溶媒を、極性溶媒である第2の有機溶媒に置換し、さらに静置することにより、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有する膜を製造することが開示されている。ここで、特許文献1に記載の膜の製造方法において、分散液を第1の有機溶媒に添加することによって、分散液は、第1の有機溶媒の底部に凝集し、膜の形態となり得る。このようにして生成される膜状体は、一般的に、有機溶媒を含むゲル、すなわち、オルガノゲル(organogel)と呼ばれる。
【0004】
PEDOTを骨格に含むエアロゲルを作製することに関する報告例がある(例えば、非特許文献2および3)。非特許文献2では、EDOTとPSSの水溶液中において、EDOTの酸化重合に用いられるFe(NO3)3・9H2Oを過剰に添加することにより、PEDOT:PSSの水膨潤ゲル(以下、ヒドロゲルと称する。)を得た後、このヒドロゲルを凍結乾燥させることにより、エアロゲルを得ることが報告されている。非特許文献3では、非特許文献2と同様の手法によりヒドロゲルを作製し、さらにこのヒドロゲルをエタノールで置換してオルガノゲルを得た後、超臨界二酸化炭素を用いて乾燥させること(超臨界乾燥)により、エアロゲルを得ることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】R. Maeda, H. Kawakami, Y. Shinohara, I. Kanazawa, and M. Mitsuishi, Mater. Lett., 251, 169-171 (2019).
【文献】T. Dai, Z. Shi, C. Shen, J. Wang, and Y. Lu, Synth. Met. 160, 1101-1106 (2010).
【文献】X. Zhang, D. Chang, J. Liu, and Y. Luo, J. Mater. Chem. 20, 5080-5085 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2および3に記載のエアロゲル、およびその製造方法に関して、以下のような問題点がある。
第一に、構造に関し、SEM画像によれば、ネットワークが十分に発達しておらず、緻密さに欠ける多孔質体である。また、ネットワーク鎖の直径は、非特許文献2では約1.1μm、非特許文献3では約0.25μmであり、骨格が微細であるとは言い難い。非特許文献2および3では、EDOTの重合とエアロゲルのネットワーク構造の形成をワンポットで行うため、ネットワーク構造の制御は困難であると考えられる。
第二に、熱電特性に関し、非特許文献2では、ヒドロゲルの状態で電気伝導率が5.7×10-3~8.7×10-2S/cmであり、非特許文献3では、エアロゲルの電気伝導率が1×10-1S/cmオーダーであることが報告されているが、有機溶媒を用いた処理工程を経て作製される従来の導電膜の場合、数百から1000S/cm程度の電気伝導率が得られているため、実用に足る熱電特性を有する材料であるとは言い難い。熱電変換材料やセンサーなどに適用するためには、より高い電気伝導率を有することが望ましく、また、アプリケーションに応じて、電気伝導率などの特性値を制御できることが望ましい。
第三に、製造方法に関し、非特許文献2および3では、エアロゲルは、ヒドロゲルを介して作製される。言い換えると、非特許文献2および3では、ヒドロゲルの作製が必須の要件とされており、ヒドロゲルを得る過程で、余分な低分子を取り除くために1週間ほど塩酸水溶液に浸漬させる必要があるため、目的のエアロゲルを得るのに手間と時間を要する。
【0008】
以上から、本発明の課題は、発達したネットワーク構造を有するPEDOTを用いたエアロゲル、その製造方法およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエアロゲルは、ネットワーク構造がPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなり、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から算出されるフラクタル次元Dの値が1.80以上であり、これにより上記課題を達成する。
前記PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの直径は、1nm以上100nm以下の範囲であってもよい。
前記エアロゲルは、密度が、0.01g/cm3以上0.1g/cm3以下の範囲であってもよい。
前記エアロゲルは、比表面積が、450m2/g以上1000m2/g以下の範囲であってもよい。
前記エアロゲルは、20.0S/cm以上3000S/cm以下の範囲の電気伝導率を有してもよい。
【0010】
本発明のネットワーク構造がPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなるエアロゲルの製造方法は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散媒に分散された分散液を、極性溶媒であり、かつ、前記分散媒の比重よりも小さい比重を有する有機溶媒に添加し、静置し、オルガノゲルを得ることと、前記オルガノゲルを超臨界乾燥させることとを包含し、これにより上記課題を達成する。
前記分散媒は、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される分散媒であってもよい。
前記有機溶媒は、25℃における比重(g/cm3)が0.90以下を有する有機溶媒であってもよい。
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒であってもよい。
前記超臨界乾燥させることは、超臨界流体として二酸化炭素を用い、8MPa以上15MPa以下の圧力範囲、33℃以上42℃以下の温度範囲において、6時間以上12時間以下の間、超臨界乾燥させてもよい。
前記超臨界乾燥させることは、超臨界乾燥装置のチャンバー内に、前記オルガノゲルと、前記有機溶媒を収容した容器とを配置し、超臨界乾燥させてもよい。
前記超臨界乾燥させることは、超臨界乾燥装置のチャンバー内に、前記オルガノゲルの少なくとも一部分を覆う補助部材を配置し、超臨界乾燥させてもよい。
前記オルガノゲルを得ることは、前記添加された分散液を、-30℃以上100℃以下の温度範囲において、30分以上72時間以下の間、静置し、オルガノゲルを得てもよい。
前記オルガノゲルを得ることは、前記添加された分散液を、40℃以上70℃以下の温度範囲において、30分以上10時間以下の時間の間、静置し、オルガノゲルを得てもよい。
前記オルガノゲルを得ることは、前記添加された分散液を、10℃以上40℃未満の温度範囲において、5時間以上30時間以下の時間の間、静置し、オルガノゲルを得てもよい。
【0011】
本発明の熱電変換材料は、前記エアロゲルを具備し、これにより上記課題を達成する。
本発明の熱電変換素子は、前記熱電変換材料を含んで構成されてよい。
【0012】
本発明のセンサー材料は、前記エアロゲルを具備し、これにより上記課題を達成する。
本発明のセンサーは、前記センサー材料を備えてよい。
前記センサーは、湿度センサー又はガスセンサーであってよい。
【0013】
本発明の電極材料は、前記エアロゲルを具備し、これにより上記課題を達成する。
本発明の電極は、前記電極材料を含んで構成されてよい。
本発明の電池は、前記電極を含んで構成されてよい。
【0014】
本発明の生体材料は、前記エアロゲルを具備し、これにより上記課題を達成する。
【0015】
本発明のエアロゲルの膨潤体は、前記エアロゲルの空隙に任意の溶媒を含んで構成され、これにより上記課題を達成する。
本発明のエアロゲルの膨潤体の製造方法は、前記エアロゲルを、任意の溶媒に浸漬し、静置することを包含し、これにより上記課題を達成する。
前記溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミド以外の有機溶媒であってよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエアロゲルは、ネットワーク構造がPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなり、発達したネットワーク構造を有し、微細なネットワーク鎖が密集して形成された稠密な多孔質体である。さらに、本発明のエアロゲルは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から算出されるフラクタル次元Dの値が1.80以上であり、後述するパーコレーション・クラスタモデルに基づく自己相似性もしくはそれと同等の自己相似性を有する。そのため、本発明のエアロゲルは、PEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルに比べて高い電気伝導率を有し、熱電性能に優れる。また、本発明のエアロゲルは、空隙率が高く、軽くて柔らかい性質を有すると共に、耐久性にも優れるため、熱電変換材料、センサー材料、電極材料、生体材料など、各種の材料への応用が可能である。さらに、本発明のエアロゲルの空隙を任意の溶媒で満たすことで、エアロゲルが当該溶媒で膨潤した膨潤体とすることもできる。
【0017】
本発明のエアロゲルを製造する方法は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散媒に分散された分散液を、極性溶媒であり、かつ、前記分散媒の比重よりも小さい比重を有する有機溶媒に添加し、静置し、オルガノゲルを得ることと、前記オルガノゲルを超臨界乾燥させることとを包含する。PEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルの製造方法のようにヒドロゲルの作製を要しないので、本発明のエアロゲルは、より短時間で効率よく作製することができる。また、本発明のエアロゲルの製造方法によれば、エアロゲルの大面積化や大量生産も可能であるため、上述したもの以外の用途への応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のエアロゲルの例示的な製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】4つのオルガノゲルを同時に超臨界乾燥させるステップに供する態様の模式図である。
【
図3】例1~例9のエアロゲルを製造するプロシージャを示す図である。
【
図4】(a)~(f)例1、例5、および例7のエアロゲルの外観写真、および超臨界乾燥前のオルガノゲルの外観写真を示す図である。
【
図5】(a)~(h)例1~例8のエアロゲルのSEM像を示す図である。
【
図6】例1~例8のエアロゲルのネットワーク鎖の直径およびフラクタル次元の測定を説明する図である。
【
図7】(a)~(e)例1~例8のエアロゲルのネットワーク鎖の直径およびフラクタル次元の測定を説明する図である。
【
図8】(A)例7のエアロゲルのSEM像(2K倍)、(B)非特許文献2に記載のエアロゲルのSEM像、(C)例7のエアロゲルのSEM像(10K倍)、(D)非特許文献3に記載のエアロゲルのSEM像を示す図である。
【
図9】(A)例7のエアロゲルのSEM像(100K倍)、(B)非特許文献2に記載のエアロゲルのSEM像、(C)例7のエアロゲルのSEM像(250K倍)、(D)非特許文献3に記載のエアロゲルのSEM像を示す図である。
【
図10】(a)超臨界乾燥前のオルガノゲルに含まれる有機溶媒の炭素数とネットワーク鎖の直径(nm)との関係を示す図、(b)~(d)例10~例12のエアロゲルのSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のエアロゲルについて説明する。
【0021】
本発明のエアロゲルは、ネットワーク構造が、ポリスチレンスルホン酸(PSS)および/またはトルエンスルホン酸(Tos)がドープされたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなる。すなわち、本発明のエアロゲルは、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを骨格とする。なお、以降では簡単のため、PSSがドープされたPEDOTをPEDOT:PSS、TosがドープされたPEDOTをPEDOT:Tos、PSSおよびTosがドープされたPEDOTをPEDOT:PSS,Tosと称する場合がある。
【0022】
PEDOT:PSSとは、次式で表される。
【化1】
【0023】
ここで、PEDOTの繰り返し単位nは、特に制限はないが、例示的には、10~20を満たす。PSSの繰り返し単位mは、特に制限はないが、例示的には、100~10000を満たす。また、PSSは、通常、カウンターカチオン(式中には表示せず)を含有し、Li+、Na+、K+、Mg2+およびCa2+からなる群から少なくとも1つ選択されるカチオンである。これにより電荷の中性を取り得る。
【0024】
PEDOT:Tosとは、次式で表される。
【化2】
【0025】
ここで、PEDOTの繰り返し単位xは、特に制限はないが、例示的には、10~20を満たす。また、Tosは、通常、カウンターカチオン(式中には表示せず)を含有し、Li+、Na+、K+、Mg2+およびCa2+からなる群から少なくとも1つ選択されるカチオンである。これにより電荷の中性を取り得る。
【0026】
PEDOT:PSSおよびPEDOT:Tosのいずれにおいても、特性を損なわない範囲で、PEDOTあるいはPSS/Tosがスルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル基等の官能基を有していてもよく、これら誘導体も本願のPEDOT:PSSおよびPEDOT:Tosに含めるものとする。
【0027】
また、PSSおよびTosを両方用いることも可能であり、当業者であれば、容易に改変し、上述のPSSおよびTosがドープされたPEDOTであるPEDOT:PSS,Tosを得ることができる。
【0028】
本発明のエアロゲルにおいて、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTにおける炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比は、0.002以上0.43未満の範囲を満たすことが好ましい。これにより、エアロゲルは、高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。また、炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比は、0.002以上0.36以下の範囲を満たすことがより好ましく、0.26以上0.36以下の範囲を満たすことがさらにより好ましい。これにより、エアロゲルは、さらに高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。なお、炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比は、エネルギー分散型X線分析(EDX)あるいはX線光電子分光(XPS)によって算出することができる。
【0029】
本発明のエアロゲルにおいて、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTは、ナノメートル(nm)オーダーの直径を有し、例示的には、1nm以上100nm以下の範囲の直径を有する。これにより、エアロゲルは、高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。
【0030】
好ましくは、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの直径は、75nm以下であってもよく、50nm以下であってもよく、25nm以下であってもよく、15nm以下であってもよく、12.5nm以下であってもよく、11nm以下であってもよい。また、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの直径は、2nm以上であってもよく、3nm以上であってもよく、5nm以上であってもよい。PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの直径がより小さく、より狭い範囲を満たすことにより、エアロゲルの骨格のネットワーク構造はより微細であり、均一性に優れる。そのため、エアロゲルは、さらに高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。
【0031】
また、本発明のエアロゲルは、密度が、0.01g/cm3以上0.1g/cm3以下の範囲であることが好ましい。これにより、エアロゲルは、高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。
【0032】
また、本発明のエアロゲルは、比表面積が、450m2/g以上1000m2/g以下の範囲であることが好ましい。これにより、エアロゲルは、高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。
【0033】
本発明のエアロゲルは、外観形状は特に限定されない。例えば、エアロゲルの外観形状は、平板状(平らで湾曲していない板状)であってもよく、湾曲した板状であってもよく、筒状もしくは丸まった形状(断面が略円形状もしくは略渦巻き形状)であってもよく、その他の形状であってもよい。エアロゲルの外観形状は、エアロゲルの用途等に応じて、所望のものを選択することができる。
【0034】
本発明のエアロゲルは、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなるネットワーク構造が発達している。言い換えると、本発明のエアロゲルは、自己相似性を有する構造体、すなわちフラクタル構造体である。
【0035】
フラクタルは、幾何学の概念として知られており、簡単には、あるパターンが与えられたとして、そのパターンを拡大・縮小したときに、もとのパターンと類似のパターンとなることをいう。このようなパターンの性質を一種の対称性とみなして自己相似性といい、自己相似性をもつパターンのことを自己相似フラクタルという。幾何学的に規則的な自己相似フラクタルの例としてはコッホ曲線が挙げられる。
【0036】
フラクタルの概念は、コッホ曲線のような図形だけでなく、自然界に見られるパターンにも当てはめることができる。例えば、海岸線、雪の結晶、樹木の枝分かれ、さらにはヒトの肺や腸の内壁構造など、複雑なパターンにおいても、自己相似性を拡張することができ、フラクタル次元(相似次元)を用いてその複雑さを数値で表現することができる。
【0037】
フラクタル次元の算出方法としては、目的に応じて、あるいは与えられたパターンの性質に応じて、これまでに複数の方法が提案されている。例えば、スケール変換法、カバー法、ボックスカウント法、視野拡大法などが挙げられる。ただし、パターンが自己相似である限り、いずれの方法でも原理的には得られるフラクタル次元の値は同じである。具体例として、上述したコッホ曲線のフラクタル次元をスケール変換法で算出する場合、コッホ曲線は相似比が1/3の4個のセグメントからなっているので、フラクタル次元Dは、3を底とする4の対数、すなわち、D=log34=約1.26である。
【0038】
一方、本発明のエアロゲルのように、3次元の構造体であって、骨格のネットワーク構造(パターン)が細部にわたって詳細である場合には、パソコンなどによるコンピュータ処理でフラクタル次元を求めるのが得策である。ボックスカウント法は、このようなコンピュータ処理に適した算出方法である。例えば、あるパターンを含む空間(平面)をメッシュ(またはピクセルともいう)サイズεのメッシュ(ピクセル)に分け、このパターンの一部をわずかでも含んでいるメッシュ(ピクセル)の数N(ε)を数える。ここで、メッシュサイズεを例えばε=1,1/2,1/4,1/8,1/16,・・・と変えたとき、N(ε)が、N(ε)≒ε-Dと変わる場合、このパターンは自己相似であり、そのフラクタル次元はDである。なお、3次元空間内にあるパターンについては、上述した平面でのメッシュ(ピクセル)の代わりに、一辺εの立方体が並ぶ3次元のメッシュ構造(立方格子)を適用することで、同様にフラクタル次元を求めることができる。このように、ボックスカウント法は、一つの与えられたパターンの自己相似性の確認とフラクタル次元の算出に好適な方法であるので、本発明のエアロゲルについても好ましく適用できる。
【0039】
本発明のエアロゲルは、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなる、発達したネットワーク構造を有する。すなわち、微細な多孔質骨格を有する構造体において、PEDOT同士の架橋反応などによって複雑な網目構造が形成されている。これは、パーコレーション(percolation;浸透)の概念を用いて説明することができる。
【0040】
パーコレーションの概念(パーコレーション問題)は当該分野でよく知られており、自己相似性との関係も周知である。n次元の格子(例えば立方格子)を与え、そのサイト(あるいはボンド)部分をある確率pで占有する手続きを考える。もしp≒1ならばサイトは全て連結され、格子全体のネットワークが形成されるであろう。反対にp≒0の場合には、占有されたサイトは殆どなく、占有されたサイトがあったとしてもその周囲は空のままであろう。このように、空間の点あるいはボンドが確率的に占有される過程をパーコレーション(浸透)と呼び、互いに連結した占有サイトの集まりはクラスタと呼ばれる。これは、ランダムな媒質中を液体が浸透する過程や、森林火災が伝搬する過程を理想化したモデルと考えることができる。
【0041】
パーコレーション問題では、p>pcで初めて無限大の大きさの連結されたボンド(またはサイト)のクラスタ(パーコレーション・クラスタ)が出現するような臨界確率(パーコレーション閾値)pcが存在し、その値は空間次元、ボンドを占有するかサイトを占有するか、格子の種類などに依存して決まる。実際に、コンピュータシミュレーションによると、パーコレーション・クラスタは自己相似性を有し、そのフラクタル次元Dは、2次元ではD=91/48=約1.89であり、3次元ではD=約2.53であることが分かっている。
【0042】
以上のことを踏まえ、本発明のエアロゲルは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から算出されるフラクタル次元Dの値が1.80以上であることを特徴としている。より具体的には、本発明のエアロゲルは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から算出されるフラクタル次元Dの値が、有効数字を3桁とした場合、1.80、1.81、1.82、1.83、1.84、1.85、1.86、1.87、1.88、または1.89である。このことは、本発明のエアロゲルが、上述したパーコレーション・クラスタモデルに基づく自己相似性もしくはそれと同等の自己相似性を有することを意味しており、これにより、エアロゲルは、高い電気伝導率を有し、熱電性能に優れる。
【0043】
本発明のエアロゲルは、非特許文献2および3に記載のエアロゲルのような、PEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルよりも高い電気伝導率を有する。好ましくは、本発明のエアロゲルは、20.0S/cm以上3000S/cm以下の範囲の電気伝導率を有する。このような範囲の電気伝導率を有する本発明のエアロゲルは、熱電変換材料、センサー材料、電極材料、生体材料など、各種の材料として好適に使用され得る。また、本発明のエアロゲルは、後述する製造方法によって歩留まりよく得られ、アプリケーションに応じて、電気伝導率などの特性値を制御することも可能である。
【0044】
ここで、4端子法による電気伝導率の測定において、電気伝導率σは、次式で表される。
σ=1/R×(l/dw)
式中、Rは電気抵抗であり、l(エル)、d、wはそれぞれ、端子間の距離、試料の高さ、試料の幅である。
【0045】
本発明のエアロゲルは柔軟性を有する多孔質体であるので、同一の試料であっても、上記式中のdおよび/またはwの値は変わり得る。例えば、平板状のエアロゲルを膜厚方向に押しつぶすと、試料の高さdが減少する結果、電気伝導率σは増加する。言い換えると、本発明のエアロゲルは、同一の製造条件で得られたものであっても、意図的に変形させる(もしくは意図的に変形を抑制する)ことにより、電気伝導率を変化させることができる。例えば、後述する実施例では、外観形状が平板状のエアロゲルについて、約20.0S/cm~約30.0S/cmの範囲の電気伝導率が得られている(例6~例8)。これらは、超臨界乾燥させるステップの後、エアロゲルの外観形状の変化を抑制するような条件下で静置したものであり、かつ、電気伝導率の測定にあたってエアロゲルを意図的に変形させてはいない。しかし、超臨界乾燥させるステップの後、チャンバーから取り出したエアロゲルをそのまま大気下に静置すること、エアロゲルを意図的に変形させること(例えば、膜厚方向に一定の圧力を加えて圧縮すること)、あるいはこれらを組み合わせることで、理論上は、2倍~100倍程度大きい電気伝導率を得ることは可能であると考えられる。そのため、後述する実施例で適用した条件においても、約20.0S/cm~約3000S/cmの範囲の電気伝導率を有するエアロゲルを製造することは可能であると言える。
【0046】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明のエアロゲルを製造する方法について説明する。
【0047】
図1は、本発明のエアロゲルの例示的な製造方法を示すフローチャートである。
【0048】
ステップS110:PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散された分散液を、極性溶媒であり、かつ、分散液の分散媒の比重よりも小さい比重を有する有機溶媒に添加し、静置し、オルガノゲルを得る。
【0049】
上記分散液を、極性溶媒であり、かつ、分散媒の比重よりも小さい比重を有する有機溶媒に添加することによって、分散液は、有機溶媒の底部に凝集し、膜の形態となり得る。また、膜厚は、有機溶媒を収容する容器と、添加される分散液の量とによって調整され得るが、膜状体を得るためには、添加される分散液に対して有機溶媒が十分に存在する必要がある。少なくとも、添加された分散液が、有機溶媒に浸漬する状態でなければいけない。このような観点から、有機溶媒を収容する容器の大きさにもよるが、有機溶媒は、添加される分散液の量(体積)に対して少なくとも2倍、好ましくは、10倍、より好ましくは20倍以上の容量であればよい。
【0050】
PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTは上述したとおりであるため説明を省略する。これを分散させる分散媒は、好ましくは、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される分散媒である。
【0051】
分散液中のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの濃度は、特に制限はないが、例示的には、0.1wt%以上3wt%以下である。この範囲の濃度であれば、有機溶媒への添加が容易である。
【0052】
有機溶媒は、極性溶媒であり、かつ、分散媒の比重よりも小さい比重を有せば特に制限はないが、25℃における比重(g/cm3)が0.90以下を有する有機溶媒が好ましい。例示的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒である。なお、使用可能な有機溶媒には、分散媒と同じ溶媒が挙げられるが、分散媒の比重よりも小さくなるよう適宜選択すればよい。参考までに、各種溶媒の比重を表1に示す。なお、表1に示す比重は、25℃における値である。
【0053】
【0054】
静置は、分散液を添加後、-30℃以上100℃以下の温度範囲において、30分以上72時間以下の時間、行われる。-30℃より低い温度にすると、分散媒あるいは有機溶媒の固化、あるいは、100℃を超えると分散媒あるいは有機溶媒の気化が生じ得るため、安定して静置できない虞がある。静置時間が短いと、膜状体の形成が十分でない場合があり得、72時間を超えても、膜状体の形成はそれ以上進行しないため非効率である。
【0055】
静置を加熱下で行う場合には、静置は、好ましくは、40℃以上70℃以下の温度範囲で、30分以上10時間以下の時間行う。マイルドな条件での加熱によって、膜状体の形成が促進されるため、静置時間を短縮できる。
【0056】
静置を室温(10℃以上40℃未満)で行う場合には、静置は、好ましくは、5時間以上30時間以下の時間行う。これにより、均質な膜状体が形成されるため高品質なオルガノゲルが得られ得る。
【0057】
なお、後述する実施例では、25℃の温度で2.5時間静置し、オルガノゲルを得た例について説明するが、分散媒および有機溶媒の種類、分散液中のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの濃度、静置温度などの条件次第では、1時間程度でオルガノゲルを得ることも可能である。このように、本発明では、短時間でオルガノゲルを得ることができ、非特許文献3に記載の製造方法と比較すると、オルガノゲルを得るまでの時間を1/100以下の短い時間とすることが可能である。
【0058】
ステップS120:ステップS110で得られたオルガノゲルを超臨界乾燥させる。
【0059】
上述したステップS110の後、オルガノゲルは、有機溶媒中に浸漬された状態(有機溶媒を含む湿潤状態)にある。このような構造体を、従来の乾燥工程(例えば、大気中での乾燥工程)に供した場合、例えば、(1)乾燥の初期段階では溶媒の蒸発の進行により溶媒の減少分が補填されずに構造体が収縮する、(2)乾燥が進行して構造体の表面が露出すると構造体内部に気相と液相の界面が生じ、界面の接線方向に向かって界面張力に起因する毛管力が生じ、構造体を収縮させる方向に応力を与える、などの現象が起こり得る。構造体の収縮は、目的のエアロゲルを起点にすると、溶媒で膨潤した状態から元の(本来の)体積に戻る現象と捉えることができるので、収縮すること自体は大きな問題ではないとも言えるが、構造体の形状や物性に影響を及ぼす可能性があるため、乾燥工程での収縮を抑制することが望ましい。
【0060】
超臨界乾燥(supercritical drying)は、超臨界流体を用いた乾燥技術である。超臨界流体は、臨界点を超えた超臨界状態にあるため、高い拡散性または溶解性を持ち、表面張力も働かない。これらの特徴を利用することで、従来の乾燥方法では大きな収縮や構造破壊を伴っていた繊細な物質でも、構造を保ったまま乾燥させることができる。超臨界流体としては特に限定されないが、二酸化炭素を用いることが好ましい。超臨界二酸化炭素は、様々な物質に対して高い溶解性を持ち、目的物を溶解した超臨界二酸化炭素を臨界点以下にすると、二酸化炭素は気化し、後には溶質のみが残るため、乾燥試料のみを取り出すことができる。気化した二酸化炭素は回収して再利用が可能である。また、二酸化炭素の臨界点は、圧力7.4MPa、温度32℃であるので、比較的小型の装置構成とすることができる。
【0061】
超臨界流体が二酸化炭素である態様において、圧力および温度条件(より具体的には、超臨界乾燥装置のチャンバー内の圧力および温度条件)は、臨界点以上、すなわち、圧力7.4MPa以上、温度32℃以上であればよく、使用する装置の構成等に応じて適宜設定することができる。本発明では、臨界点を超える圧力および温度条件とすることが好ましく、例えば、圧力は8MPa、10MPa、12MPaまたは15MPaとし、温度は33℃、35℃、40℃または42℃とする。これにより、安定した超臨界状態を維持することができる。なお、後述する実施例では、超臨界流体として二酸化炭素を用いて、12MPa、40℃の条件で超臨界乾燥する例について説明する。
【0062】
超臨界乾燥する時間(すなわち、ステップS120の全体の時間)は、ステップS110で得られたオルガノゲルの大きさ(平面視におけるサイズ、および厚み)を考慮して設定される。例示的には、超臨界流体が二酸化炭素である態様では、超臨界乾燥する時間は、6時間以上12時間以下の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、目的のエアロゲルを得るまでの時間を過度に長くすることなく、オルガノゲルに含まれる有機溶媒(液相)が、超臨界状態の二酸化炭素(気相)に確実に置換され得る。
【0063】
ここで、超臨界乾燥させるステップは、以下の3つのプロセスに大別される:(1)超臨界乾燥装置のチャンバー内にオルガノゲルを配置したときの常温、大気圧の状態から、超臨界流体が超臨界状態に到達するまでのプロセス、(2)超臨界流体が超臨界状態に到達した状態での超臨界乾燥プロセス、および、(3)超臨界流体が超臨界状態にある状態から常温、大気圧に戻すまでのプロセス。
【0064】
上記(1)のプロセス(以下、立ち上げプロセスとも称する。)では、当初、オルガノゲルは有機溶媒を含む湿潤状態にあるので、擾乱(常温、大気圧条件からの環境の変化)の影響は受けにくいと思われる。そのため、比較的短時間で超臨界流体が超臨界状態となる圧力および温度条件に移行させることが好ましい。例示的には、超臨界流体が二酸化炭素である態様において、超臨界乾燥する時間が6~12時間である場合、立ち上げプロセスでは、15~30分間で臨界温度(例えば40℃)に達するようにすることが好ましい。ここで、臨界圧力への到達時間は、臨界温度への到達時間よりも短くてよく、例えば、1.5~3分間で臨界圧力(例えば12MPa)まで昇圧してよい。また、チャンバー内への超臨界流体(二酸化炭素)の流量は、チャンバー容積などを考慮して適宜設定することができるが、例えば、立ち上げプロセス開始から7~12分間は、上記(2)のプロセスで使用する流量(例えば10mL/min)を基準にして2~3倍の流量(例えば20~30mL/min)とし、その後、5分間程度かけて徐々に流量を低下させて上記基準の流量としてよい。
【0065】
上記(2)のプロセス(以下、超臨界処理プロセスとも称する。)では、オルガノゲルに含まれる有機溶媒(液相)が、超臨界状態の超臨界流体(気相)に置換されるのに十分な時間、保持することが好ましい。ただし、エアロゲルの製造の効率性の観点からは、超臨界処理プロセスの時間は、できるだけ短いことが望ましい。例示的には、超臨界流体が二酸化炭素である態様において、超臨界乾燥する時間が6~12時間である場合、超臨界処理プロセスの時間は、5.25時間以上11.25時間以下の範囲とすることが好ましい。
【0066】
上記(3)のプロセス(以下、立ち下げプロセスとも称する。)では、立ち上げプロセスと比べて、乾燥状態のオルガノゲル(すなわち、エアロゲル)に対して大きな環境負荷が加わることが想定されるため、立ち上げプロセスよりも温和な条件を設定することが好ましい。例示的には、超臨界流体が二酸化炭素である態様において、超臨界乾燥する時間が6~12時間である場合、立ち下げプロセスでは、15分間程度かけて臨界圧力(例えば12MPa)から大気圧条件に戻す(減圧する)ことが好ましい。また、チャンバー内への超臨界流体(二酸化炭素)の流量は、チャンバー容積などを考慮して適宜設定することができるが、例えば、減圧を開始してから約5分後を目安に、超臨界処理プロセスで使用した流量(例えば10mL/min)から徐々に低下させ、2~3分間程度かけて0mL/minとしてよい。なお、チャンバー内の圧力の低下および超臨界流体の流量の低下に伴い、チャンバー内の温度は次第に低下し得るので、温度設定はそのままでもよく、必要に応じて、減圧の開始後、徐々に常温に戻すようにしてもよい。
【0067】
また、超臨界乾燥させるステップでは、超臨界乾燥装置のチャンバー内に、オルガノゲルと、ステップS110で用いた有機溶媒(すなわち、オルガノゲルに含まれる有機溶媒)を収容した容器とを配置し、超臨界乾燥させることが好ましい。これにより、上記(1)のプロセス(立ち上げプロセス)の過程でオルガノゲルの乾燥が始まることを抑制することができる。より具体的には、超臨界乾燥装置のチャンバー内にオルガノゲルのみを配置して超臨界乾燥させるステップに供する場合と比較して、チャンバー内にステップS110で用いた有機溶媒を収容した容器を配置することにより、超臨界流体が超臨界状態に到達するまでの間にオルガノゲルの表面部(チャンバー内に導入される超臨界流体に曝され得る部分)が乾燥するのを抑制することができる。そのため、上記(2)の超臨界処理プロセスによる超臨界乾燥がより良好に進行し、得られるエアロゲルの外観や性能の不良などの欠陥が生じにくくなる。
【0068】
また、超臨界乾燥させるステップでは、超臨界乾燥装置のチャンバー内に、オルガノゲルの少なくとも一部分を覆う補助部材を配置し、超臨界乾燥させることが好ましい。例示的には、補助部材は、超臨界乾燥装置のチャンバー内に配置したオルガノゲルの少なくとも上面の一部分を覆うものであることが好ましい。これにより、エアロゲルの外観形状を所望のものに成形しやすくなる。また、上記(2)の超臨界処理プロセスによる超臨界乾燥がより良好に進行し得、オルガノゲルの意図しない収縮を抑制することができる。また、得られるエアロゲルの外観や性能の不良などの欠陥を生じにくくすることもできる。補助部材としては、例えば、網状部材、平板状部材などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
なお、超臨界乾燥させるステップでは、チャンバーの形状及び材質(より具体的には、チャンバー内の、オルガノゲルが配置される部分の形状及び材質)等に応じて、任意の基材(例えば、ろ紙)を配置し、その上面に、オルガノゲルを配置してもよい。ここで、上述した補助部材として網状部材を用いる態様において、当該網状部材が、オルガノゲルの平面視のサイズよりも大きく、その外周全体に立設された周縁部を有する部材である場合、当該網状部材は、基材としての機能も有し得る。すなわち、この態様では、網状部材の上面に、別のオルガノゲルを配置することができるので、2つのオルガノゲルを同時に超臨界乾燥させるステップに供することができる。さらに、上記別のオルガノゲルに対して上記網状部材と同様の網状部材を適用することで、3つ目のオルガノゲルを配置し、超臨界乾燥させるステップに供することも可能である。すなわち、本発明のエアロゲルの製造方法では、複数のオルガノゲルを同時に超臨界乾燥させるステップに供することができるので、エアロゲルの製造効率に優れる。
【0070】
図2には、例示として、4つのオルガノゲルを同時に超臨界乾燥させるステップに供する態様の模式図を示す。
図2に示す態様では、チャンバー210の底部に基材220が配置され、基材220の上面に第1のオルガノゲル231が配置され、第1のオルガノゲル231の上面を覆うように第1の網状部材(補助部材)241が配置されている。また、第1の網状部材241の上面に第2のオルガノゲル232が配置され、第2のオルガノゲル232の上面を覆うように第2の網状部材242が配置されており、同様にして、第3のオルガノゲル233、第3の網状部材243、第4のオルガノゲル234、および第4の網状部材244が配置されている。このような構成とすることにより、オルガノゲル231~234の上面と側面は、それぞれ、網状部材241~244とその周縁部によって一定の間隔を開けて覆われた状態となり、オルガノゲル231~234は、網状部材241~244の網目を介してチャンバー210内の雰囲気(超臨界流体)に曝露可能となる。これにより、1回のステップで4つのオルガノゲルを同時に超臨界乾燥させることができる。
【0071】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態1で説明した本発明のエアロゲルの用途について説明する。
【0072】
本発明のエアロゲルは、熱電変換材料として好適に用いることができる。本発明のエアロゲルは、PEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルに比べて高い電気伝導率を有し、熱電性能に優れる。また、本発明のエアロゲルは、発達したネットワーク構造を有し、微細なネットワーク鎖が密集して形成された稠密な多孔質体であり、高い空隙率を有しているため、本発明のエアロゲルを具備する熱電変換材料は、熱伝導率が低下する。そのため、本態様に係る熱電変換材料を含んで構成される熱電変換素子の性能を向上させることができる。
【0073】
また、本発明のエアロゲルは、比表面積が大きいため、湿度センサーや各種のガスセンサー用のセンサー材料としても好適に用いることができる。これにより、本態様に係るセンサー材料を備えるセンサーでは、検知対象物質に対する感度が向上する。
【0074】
また、本発明のエアロゲルは、上述したような特性を生かして、電極材料(例えば、電池用正極材、電気二重層コンデンサの電極材料)としても好適に用いることができる。これにより、本態様に係る電極材料を含んで構成される電極、および、当該電極を含んで構成される電池の性能を向上させることができる。
【0075】
また、本発明のエアロゲルは、ネットワーク構造がPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなり、生体適合性を有するため、生体材料(例えば、生体電極などの生体適合性材料)としても好適に用いることができる。
【0076】
さらに、本発明のエアロゲルは、その空隙を任意の溶媒で満たすことで、エアロゲルが当該溶媒で膨潤した膨潤体とすることもできる。当該態様において、溶媒は、特に制限はないが、例えば、水、任意の溶質を溶解させた水溶液(食塩水など)、有機溶媒などが挙げられる。ここで、有機溶媒は、実施の形態2で説明した本発明のエアロゲルを製造する方法において用いられる有機溶媒に限定されない。言い換えると、本態様に係るエアロゲルの膨潤体が含有し得る有機溶媒は、本発明のエアロゲルを製造する方法で使用される有機溶媒の条件を満たすものであってもよく、当該条件を満たさないものであってもよい。より具体的には、本態様に係るエアロゲルの膨潤体が含有し得る有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒であってもよく、これら以外の有機溶媒であってもよい。後者の例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、トルエンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
上記態様に係るエアロゲルの膨潤体を製造する方法は、本発明のエアロゲルを、上述した任意の溶媒に浸漬し、静置することを包含する。これにより、本発明のエアロゲルの空隙に当該溶媒を含んで構成される膨潤体が得られる。
【0078】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0079】
[例1~例9:エアロゲルの製造および測定]
例1~例9では、PEDOTを用いたエアロゲルを製造し、それらの物性等を測定した。
【0080】
図3は、例1~例9のエアロゲルを製造するプロシージャを示す図である。
【0081】
ビーカー310に表2のS110に示す有機溶媒320を50mL入れ、PSSがドープされたPEDOT水分散液330(Heraeus Clevios PH1000、水の比重0.997g/cm
3、カウンターカチオンはNa
+である)を2mL、ビーカー内に注入し、表2に示す温度および時間条件で静置させた(
図1のステップS110)。このようにしてオルガノゲル340を得た。次いで、有機溶媒320を除去し、得られたオルガノゲル340を取り出し、表2に示す圧力、温度および時間条件で、超臨界二酸化炭素を用いて乾燥(超臨界乾燥)させた(
図1のステップS120)。このようにしてエアロゲル350を得た。
【0082】
ここで、表2に示す時間条件は、超臨界乾燥させるステップ全体の時間である。実施の形態2で説明した3つのプロセスで言うと、例えば、8時間(例4、および例6~例8)の場合、以下に示すように温度、圧力および二酸化炭素の流量を制御した。
(1)立ち上げプロセス:
・プロセス開始から5分間で温度を32℃に到達させ、開始20分間で40℃に到達させる。
・プロセス開始から2分間で圧力を12MPaまで昇圧させる。
・プロセス開始から10分間は二酸化炭素の流量を30mL/minとし、その後、4分間かけて10mL/minまで低下させる。
(2)超臨界処理プロセス:
・温度40℃、圧力12MPa、二酸化炭素の流量10mL/minの状態を維持する。
(3)立ち下げプロセス:
・プロセス終了の15分前から減圧を開始し(15分間かけて減圧し)、大気圧条件に戻す。
・減圧開始から5分後に二酸化炭素の流量を低下させ、2分間かけて0mL/minとする(プロセス終了の8分前までに0mL/minとする)。
・温度は、40℃に設定したままとする(チャンバー内の圧力の低下および二酸化炭素の流量の低下に伴って徐々に温度を低下させる)。
【0083】
なお、超臨界乾燥装置としては、Rezzam社製の卓上型SCRD4(4インチウエハ用)を用いた。
【0084】
また、例1~例5では、補助部材は使用せず、超臨界乾燥装置のチャンバー内にオルガノゲルと、表2に示す各有機溶媒(150mL)を収容した容器とを配置した。ここで、オルガノゲルは、基材(平板状の網状部材)の上に配置した。例6~例8では、超臨界乾燥装置のチャンバー内に、オルガノゲルと、補助部材と、表2に示す各有機溶媒(150mL)を収容した容器とを配置した。ここで、オルガノゲルは、基材(ろ紙)の上に配置した。
【0085】
ここで、補助部材について、例7では、オルガノゲルよりも径が大きい円形の網状部材であって、その外周全体に立設された周縁部を有する部材を用いた。このような部材をオルガノゲルに被せるようにして配置することにより、オルガノゲルの上面と側面を、それぞれ、網状部材とその周縁部によって一定の間隔を開けて覆われた状態とし、オルガノゲルを、網状部材の網目を介してチャンバー内の雰囲気(超臨界流体)に曝露可能とした。なお、このときのオルガノゲルの上面と網状部材との間隔は約3mmであった。例6および例8では、例7と同様の補助部材を用いたが、補助部材を配置したとき、オルガノゲルの上面と網状部材とがわずかに触れた状態であった。
【0086】
なお、例9については、膜状体が形成されず、オルガノゲルが得られなかったため、それ以降の処理を行わなかった。このことからオルガノゲルを得るために用いる有機溶媒の比重は、分散媒の比重よりも小さくなければいけないことが示された。
【0087】
【0088】
例1~例8で得られたエアロゲルの目視観察による外観形状を表3に示す。いずれも、黒色もしくは濃紺色を有しており、柔軟性を有する構造体であった。なお、代表的なものとして、例1、例5、および例7のエアロゲルの外観写真、およびこれらの超臨界乾燥前のオルガノゲル(有機溶媒で膨潤した状態のエアロゲル)の外観写真を
図4(a)~(f)に示す。
【0089】
また、例1~例8で得られたエアロゲルのネットワーク構造を電界放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製 SU8000)で観察した結果を表3および
図5(a)~(h)に示す。
【0090】
例6~例8で得られたエアロゲルの密度(g/cm3)、比表面積(m2/g)および電気伝導率(S/cm)を測定した。密度は、エアロゲルの質量を電子天秤(METTLER TOLEDO社製 AG245)で測定し、グローブボックス内でエアロゲルとルーラーを写真撮影(Apple社製 iPhone(登録商標) SE)し、試料の寸法を算出した結果から、質量/体積を計算し、かさ密度を算出した。比表面積は、比表面積・細孔径分析装置(Quantachrome.Co製 QUADRASORB evo)を用いて、N2ガス吸着法による比表面積測定を行った。電気伝導率は、4端子法により測定した。結果を表3に示す。
【0091】
また、例1~例8のエアロゲルのSEM像を用いて、ネットワーク鎖の直径(nm)およびフラクタル次元を測定した。測定には、ImageJ(ver. 1.51n;オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェア)を用いた。なお、ImageJはプラグインやマクロによる拡張性が高いことが知られており、実際の測定では、予め各種のプラグインを備えたFiji(ver. 2017 May 30)を用い、さらにDiameterJ(ver. 1.018 for Fiji)をインストールしたコンピュータを使用した。結果を表3に示す。
【0092】
ここで、ネットワーク鎖の直径およびフラクタル次元の測定手順の概要は以下の通りである:
1.DiameterJを使って、元となるSEM画像を二値化し、モノクロ画像を生成する。
2.上記1の実行結果として、どの程度の明るさで白黒に割り振るかなどの閾値条件が異なる、15種類の画像が生成される。一例として、例3のエアロゲルのSEM画像を用いて生成されたモノクロ画像を
図6に示す。
3.生成された15種類の画像から、元のSEM画像で見られる構造になるべく近いものを選択する。
4.選択した画像について、DiameterJの機能を使って、ネットワーク鎖の直径(網目構造の太さ)の測定を行う。フラクタル次元の測定は、ImageJに標準搭載されたFractal Box Count機能を使って行う。
【0093】
上記手順1~3、および手順4のネットワーク鎖の直径の測定について、
図7(a)~(e)を参照してより具体的に説明する。
図7(a)~(e)は、それぞれ、一例として、例7のエアロゲルのSEM画像(a)を用いて生成されたモノクロ画像から選択された画像(b)から、ネットワーク鎖の直径の測定を行うプロセス(c)~(e)を示す図である。
【0094】
この例では、元となるSEM画像(
図7(a))を二値化して生成された15種類の画像から、元のSEM画像で見られる構造になるべく近いものとして
図7(b)の画像が選択されている(手順1~3)。この画像について、白い部分が細線化され、ネットワーク構造の骨格が抽出される(
図7(c))。そして、抽出された骨格(中心線)の長さから、ネットワーク構造の全長を算出することができる(
図7(d))。また、
図7(c)で抽出された骨格(中心線)と
図7(b)の画像(二値化画像)を基に、骨格に肉付けをすることによって、ネットワーク鎖の直径を算出することができる(
図7(e))。なお、DiameterJの機能等のより詳細な情報については、以下のURL(https://imagej.net/DiameterJ)を参照されたい。
【0095】
なお、表3中、記号「-」は、それぞれ、密度、比表面積、電気伝導率、およびネットワーク鎖の直径の測定を行っていないことを示す。
【0096】
【0097】
以上の実験結果をまとめて説明する。
【0098】
図4(a)~(f)は、それぞれ、例1、例5、および例7のエアロゲルの外観写真、および超臨界乾燥前のオルガノゲルの外観写真を示す図である。
図4(a)は、例1のエアロゲル、
図4(b)は、例1の超臨界乾燥前のオルガノゲル、
図4(c)は、例5のエアロゲル、
図4(d)は、例5の超臨界乾燥前のオルガノゲル、
図4(e)は、例7のエアロゲル、
図4(f)は、例7の超臨界乾燥前のオルガノゲルである。
【0099】
表2に示すように、例1、例5、および例7では、オルガノゲルの作製条件は同じであるので、超臨界乾燥前のオルガノゲルの外観は、例1、例5、および例7の間で実質的な違いは見られない(
図4(b)、(d)、(f))。なお、
図4(b)および(d)では、基材(平板状の網状部材)の上にオルガノゲルを配置した様子を示し、
図4(f)では、基材(ろ紙)の上に配置したオルガノゲルに、補助部材としての網状部材を配置した様子を示している。
【0100】
超臨界乾燥後、得られた例1および例5のエアロゲルは、丸まった形状の外観を有し(
図4(a)、(c)、表3)、例7のエアロゲルは、平板状の外観を有した(
図4(e)、表3)。このことから、超臨界乾燥させるステップにおいて、補助部材の有無によってエアロゲルの外観形状を変化させることができることが分かった。なお、上述したように、例7と例6および例8とでは、補助部材を配置した際のオルガノゲルの上面と網状部材との間隔が異なるが、本実施例で適用した条件では、得られたエアロゲルの外観に目立った違いは見られず、いずれも平板状の外観を有し、超臨界乾燥前のオルガノゲルに含まれる液相(有機溶媒)の置換に伴うサイズ(径)の減少が確認された。
【0101】
図5(a)~(h)は、それぞれ、例1~例8のエアロゲルのSEM像を示す図である。各図中のスケールバーは、
図5(a)~(e)は1μm(1.00μm)であり、
図5(f)~(h)は200nmである。
【0102】
図5(a)に示すように、例1のエアロゲルでは、ネットワーク構造は確認されなかった。また、
図5(b)に示すように、例2のエアロゲルでは、表面においてわずかにネットワーク構造が確認されるのみであった。そのため、例1および例2のエアロゲルでは、ネットワーク鎖の直径およびフラクタル次元の算出はできなかった(表3)。
【0103】
一方、例3~例5のエアロゲルでは、外観形状は例1および例2のエアロゲルと同様に丸まった形状もしくは湾曲した形状であるものの、
図5(c)~(e)に示すように、ネットワーク構造を確認することができ、フラクタル次元の算出が可能であった(表3)。また、例4、例5のエアロゲルについては、ネットワーク鎖の直径も算出された(表3)。このことから、本実施例で適用した条件では、超臨界乾燥させるステップの時間は、6時間以上であることが望ましいこと、また、12時間以下の時間で、オルガノゲルに含まれる液相(有機溶媒)を確実に置換させることができることが分かった。
【0104】
また、例6~例8のエアロゲルでは、例3~例5のエアロゲルと同様に、ネットワーク鎖の直径およびフラクタル次元の算出が可能であったが、いずれのSEM像においても、例3~例5のエアロゲルよりもネットワーク構造を明瞭に確認することができた(
図5(f)~(h)、表3)。SEM像におけるネットワーク構造の明瞭性は、主にエアロゲルの外観形状と関連していると推測されるが、留意すべきは、例3~例8のエアロゲルはいずれも、フラクタル次元の値が1.80以上であることである。すなわち、例3~例8では、超臨界乾燥前のオルガノゲルに含まれる有機溶媒の種類、超臨界乾燥させるステップの時間、および補助部材の有無に関して条件が異なるが、いずれの場合でも、上述したパーコレーション・クラスタモデルに基づく自己相似性もしくはそれと同等の自己相似性を有するエアロゲルが得られている。そして、それらの中でも、特に例4、および例6~8に着目すると、フラクタル次元の値が1.83~1.86であり、例3および例5での値(1.81)よりも高いため、本実施例で適用した条件では、超臨界乾燥させるステップの時間は、8時間程度がより望ましいことが示唆される。実際に、例6~例8のエアロゲルの密度および比表面積の測定結果は、これらのエアロゲルが稠密なネットワーク構造を有し、かつ、非特許文献2および3に記載されるようなPEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルよりも高い電気伝導率を有し、熱電性能に優れることを示している(表3)。
【0105】
ここで、後述する例10~例12との対比説明にあるように、例6~例8のエアロゲルは、超臨界乾燥させるステップの後、チャンバーから取り出したエアロゲルの平面視における形状の変化を抑制するような条件下で静置することで、ネットワーク構造の収縮は抑制されていると推測されるが、エアロゲル内の気相が大気(空気)に置き換わっていく過程におけるエアロゲル自体のサイズ(体積)の減少(具体的には、平面視における面直方向の収縮とそれに伴う面内方向の収縮)は不可避的に生じ得る。具体的には、例6~例8では、エアロゲルをチャンバーから取り出した後、密度を測定するまでの間に、平板状のエアロゲルの各辺のサイズが目測で30%程度減少した。ネットワーク鎖の直径が同一であるとすると、超臨界乾燥させるステップの後のエアロゲルの体積は、密度測定時のエアロゲルの体積の約2.9倍((10/7)3倍)であるので、理論上は、表3に示す密度(実測値)の1/3倍程度の密度、すなわち、約0.01g/cm3の密度のエアロゲルを製造することができると言える。
【0106】
加えて、例6~例8で得られた比表面積の値は、実用上好ましい高空隙率のシリカエアロゲルの比表面積に匹敵するものであると言える(参考:朴善宇ら、日本金属学会誌、第73巻 第8号(2009)608-612)。また、理論上は、エアロゲルのネットワーク鎖の直径がより小さい値を有することで、より大きい比表面積(例えば、1000m2/g程度)を有するエアロゲルが得られると考えられるところ、そのような高比表面積のエアロゲルを製造するためには、例えば例6で用いたメタノールよりも極性の大きい有機溶媒を用いてオルガノゲルを得ることが考えられる。
【0107】
なお、例6、例7、および例8のエアロゲルのゼーベック係数は、それぞれ、16.6μV/K、16.7μV/K、および16.0μV/Kであった。
【0108】
[本発明のエアロゲルとPEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルとの構造的比較]
ここで、例7のエアロゲルのSEM像と、非特許文献2および3に開示されているエアロゲルのSEM像を用いて、本発明のエアロゲルと、PEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルのネットワーク構造を比較した結果について説明する。
【0109】
図8(A)~(D)は、非特許文献2および3に開示されているエアロゲルのSEM像と同等のスケールで、例7のエアロゲルのSEM像を比較した結果である。
図8(A)は、例7のエアロゲルのSEM像(2K倍、スケールバー:10μm)であり、
図8(B)は、非特許文献2に記載のエアロゲルのSEM像(スケールバー:10μm)であり、
図8(C)は、例7のエアロゲルのSEM像(10K倍、スケールバー:2μm)であり、
図8(D)は、非特許文献3に記載のエアロゲルのSEM像(スケールバー:2μm)を示す図である。
【0110】
図8(A)と
図8(B)、および、
図8(C)と
図8(D)の比較から、本発明のエアロゲルでは、非特許文献2および3に記載の、PEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルよりも極めて微細かつ緻密な網目構造が形成されていることが分かる。
【0111】
図9(A)~(D)は、非特許文献2および3に開示されているエアロゲルのSEM像と類似の構造が観察される倍率で、例7のエアロゲルのSEM像を比較した結果である。
図9(A)は、例7のエアロゲルのSEM像(100K倍、スケールバー:500nm)であり、
図9(B)は、非特許文献2に記載のエアロゲルのSEM像(スケールバー:10μm)であり、
図9(C)は、例7のエアロゲルのSEM像(250K倍、スケールバー:200nm)であり、
図9(D)は、非特許文献3に記載のエアロゲルのSEM像(スケールバー:2μm)を示す図である。
【0112】
図9(B)は
図8(B)と同じSEM像であり、
図9(D)は
図8(D)と同じSEM像である。そして、
図9(A)のSEM像の倍率は、
図8(A)の倍率の50倍であり、
図9(C)のSEM像の倍率は、
図8(C)の倍率の25倍である。このことからも、本発明のエアロゲルでは、非特許文献2および3に記載の、PEDOTを骨格に含む従来のエアロゲルよりも極めて微細かつ緻密な網目構造が形成されていることが分かる。
【0113】
ここで、非特許文献2および3に開示されているエアロゲルのSEM画像を用いて、上述したのと同様の手法により、フラクタル次元の算出を試みた。その結果、非特許文献2および3に記載のエアロゲルのフラクタル次元は、それぞれ、1.72および1.65と計算された。これらの値は、1.80よりも有意に低く、非特許文献2および3に記載のエアロゲルが、上述したパーコレーション・クラスタモデルに基づく自己相似性もしくはそれと同等の自己相似性を有しないことを示唆している。このことは、DLAモデルの理論を導入することで首尾よく説明することができる。
【0114】
DLA(diffusion-limited aggregation;拡散に支配された凝集)モデルは、元々、コロイド粒子などのブラウン運動する粒子(ブラウン粒子)が凝集・付着して大きなクラスタを形成するモデルとして提案されたものであり、近年では、コンピュータシミュレーションや実験的な研究の進展に伴って、単にコロイド粒子の凝集だけでなく、メッキなど電気化学分野で知られる電析、稲妻などの誘電破壊、2流体界面の不安定性に関係する粘性突起、樹枝状結晶成長、バクテリア・コロニー形成など、多種多様な現象にDLAが深く関係していることが分かってきている。
【0115】
DLAモデルは既に当該技術分野でよく知られているため、本明細書では詳細な説明は省略するが、簡単には、ブラウン粒子の凝集・付着によるクラスタの形成および成長を例に挙げて説明することができる。DLAモデルで形成されるクラスタ(すなわち、DLAクラスタ)は、様々な枝分かれ構造からなり、自己相似的であることが知られており、コンピュータシミュレーションによると、そのフラクタル次元Dは、2次元ではD=約1.71であり、3次元ではD=約2.50であるとされている。つまり、上述したパーコレーション・クラスタにおけるフラクタル次元Dの値と比較すると、2次元での値が、パーコレーション・クラスタではD=約1.89であり、DLAクラスタではD=約1.71である点で異なる。
【0116】
これを上記の測定結果に当てはめると、非特許文献2および3に開示されているエアロゲルのSEM画像を用いて得られたフラクタル次元の値は、それぞれ、1.72および1.65であるので、非特許文献2および3に記載のエアロゲルは、本発明のエアロゲルのようなパーコレーション・クラスタではなく、DLAクラスタであると推定することができる。非特許文献2および3に記載のエアロゲルがDLAモデルによるクラスタを形成するメカニズムは必ずしも明らかではないが、本願発明者らは、非特許文献2および3に開示されている製法では、多価のカチオンとPEDOT:PSSが互いに混ざり合った状態でネットワーク形成が進行し、これにより、DLA型の凝集が生じると推測している。
【0117】
[例10~例12:有機溶媒の炭素数とネットワーク鎖の直径の関係の分析]
ここで、表3に示すように、例6~例8のエアロゲルは、超臨界乾燥前のオルガノゲルに含まれる有機溶媒の種類(より具体的には、有機溶媒の炭素数)が異なること以外は同じプロシージャおよび条件で製造されているところ、ネットワーク鎖の直径(nm)は、例6、例7、例8の順に大きくなる傾向が見られた。そこで、例10~例12では、例6~例8と同じプロシージャおよび条件で3種類のエアロゲルを作製し、各エアロゲルのSEM像を用いて、上述したのと同様の手法により、ネットワーク鎖の直径(nm)を測定し、超臨界乾燥前のオルガノゲルに含まれる有機溶媒の炭素数との関係を調べた。結果を
図10に示す。
【0118】
図10(a)は、超臨界乾燥前のオルガノゲルに含まれる有機溶媒の炭素数とネットワーク鎖の直径(nm)との関係を示す図であり、
図10(b)~(d)は、それぞれ、メタノール、エタノール、1-プロパノールを含むオルガノゲルを超臨界乾燥させて得られた例10~例12のエアロゲルのSEM像(スケールバー:1.00μm)を示す図である。
図10(a)において、丸印(Methanol)は、例10のエアロゲルのプロットであり、上向き三角印(Ethanol)は、例11のエアロゲルのプロットであり、下向き三角印(1-propanol)は、例12のエアロゲルのプロットである。
【0119】
図10(a)に示すように、炭素数の異なる3種類の有機溶媒を用いて得られた例10~例12のエアロゲルは、当該有機溶媒の炭素数とネットワーク鎖の直径が、線形の近似直線(回帰直線)が得られる関係にあることが分かった。
【0120】
ここで、例10~例12では、超臨界乾燥させるステップの後、チャンバーから取り出したエアロゲルをそのまま大気下に静置したのに対して、例6~例8のエアロゲルは、得られたエアロゲルの平板状の外観形状(平面視における形状)を保持することを意図して、チャンバーから取り出したエアロゲルを、両面テープで基材に固定した状態で大気下に静置した点で異なっている。このことに起因して、例10~例12のエアロゲルでは、例6~例8のエアロゲルと比較して、ネットワーク鎖の直径の値が大きくなったと推測される(
図10(a)、表3)。このような結果は、本実施例で適用した条件では、超臨界乾燥させるステップの後、チャンバー内の雰囲気から大気下に環境が変化することで、エアロゲルのネットワーク構造にも変化が生じ得ることを示唆している。
【0121】
このようなネットワーク構造の変化のメカニズムは必ずしも明らかではないが、例10~例12では、大気下で静置する間にエアロゲル内の気相が大気(空気)に置き換わっていく過程で、ネットワーク構造が収縮し、これに伴ってネットワーク構造の体積が保存されるようにネットワーク鎖の直径が増加した可能性が考えられる。一方、例6~例8のように平面視における形状の変化を抑制するような条件下で静置した場合には、ネットワーク構造の収縮も抑制される結果、超臨界乾燥させるステップで形成されたネットワーク構造が保持され、より小さいネットワーク鎖の直径が得られたと考えられる。ただし、上述したようなネットワーク鎖の直径の値には違いが見られるものの、例6~例8でも、例10~例12でも、得られたエアロゲルのSEM像から、いずれも極めて微細かつ緻密な網目構造を有することが確認されたことに留意されたい(
図5(f)~(h)、
図10(b)~(d))。
【0122】
[参考例:大気中で乾燥させた膜]
本参考例では、超臨界乾燥させるステップの代わりに大気中で乾燥させたこと以外は例10~例12と同じプロシージャおよび条件で3種類の膜を作製し、それらの熱電特性を測定した。
【0123】
その結果、乾燥前のオルガノゲルに含まれる有機溶媒がメタノール、エタノール、および1-プロパノールである3つの膜の電気伝導率は、それぞれ、123S/cm、236S/cm、および553S/cmであり、有機溶媒の炭素数の増加に伴い、電気伝導率が増加する傾向が得られた。また、これらの膜のゼーベック係数は、それぞれ、20.1μV/K、20.2μV/K、18.1μV/Kであった。これらの結果から、本発明のエアロゲルの製造過程で作製されるオルガノゲルを乾燥させて得られる膜では、構造体のネットワーク鎖の直径と電気伝導率との間に相関関係があることが示唆され、膜の用途等に応じて、オルガノゲルの作製に用いる有機溶媒の種類を変更することが有効であり得ると考えられる。
【0124】
一方、表3に示すように、例6~例8のエアロゲルでは、超臨界乾燥前のオルガノゲルに含まれる有機溶媒の炭素数と電気伝導率の関係は、上記の膜とは逆の傾向であった。このような傾向が得られた要因は明らかではないが、上述したように本発明のエアロゲルは柔軟性を有する多孔質体であり、変形等によって電気伝導率が変化し得ることから、その熱電特性には、オルガノゲルに施す乾燥工程の違いによってもたらされる構造体のネットワーク鎖の性状とは異なる因子も影響している可能性が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のエアロゲルは、発達したネットワーク構造を有し、微細なネットワーク鎖が密集して形成された稠密な多孔質体である。そのため、熱電変換材料、センサー材料、電極材料、生体材料など、各種の材料への応用が期待される。また、本発明のエアロゲルの製造方法によれば、エアロゲルの大面積化や大量生産も可能であるため、IoT活用の広がりに伴って、本発明が広範に利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0126】
210 チャンバー
220 基材
231、232、233、234 オルガノゲル
241、242、243、244 網状部材(補助部材)
310 ビーカー
320 有機溶媒
330 分散液
340 オルガノゲル
350 エアロゲル