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▶ 株式会社イリスの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】抗菌性コーティング液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20240903BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240903BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240903BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/14
C09D7/62
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021199238
(22)【出願日】2021-12-08
(65)【公開番号】P2023084871
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】513187944
【氏名又は名称】株式会社イリス
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】島田 幸一
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/045861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00ー65/48
A01P 1/00-23/00
C01G 1/00-23/08
C09D 1/00ー201/10
C09K 3/00;3/20-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性を有する酸化金属をアンモニアで過剰に錯体化させて沈殿物が生成された後に過酸化水素水で沈殿物を溶解させて金属錯体溶液を製造し、製造された金属錯体を酸化チタンに担持させて抗菌性を有するコーティング液を製造することを特徴とする抗菌性コーティング液の製造方法。
【請求項2】
前記金属錯体溶液をイオン交換樹脂に透過させてアンモニア濃度を低減させることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性コーティング液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性コーティング液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、抗菌性を有する光触媒として酸化チタンが広く知られている。この酸化チタンは、紫外線の作用によって空気中の水分子や酸素分子と反応してOHラジカルやスーパーオキサイドアニオンなどの活性酸素を生成し、活性酸素の作用で細菌を分解することが知られている。
【0003】
ところが、酸化チタンによる抗菌作用は、酸化チタンに紫外線が照射されることによって生じるものであるため、光が照射されない暗所や照射される光が弱い弱光下では、紫外線の照射量が少なすぎて抗菌作用を発揮することができない。
【0004】
そこで、暗所下や弱光下においても抗菌作用を発揮させるために錯体化させた銅を含有させた抗菌性コーティング剤が開発されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-168864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記抗菌性コーティング剤においては、配位子としてアンモニアを用いて酸化銅(酸化金属)を錯体化させている。
【0007】
そのため、錯体反応の限界によって銅イオン(金属イオン)の含有濃度を増大させることができなかった。上記抗菌性コーティング剤においては、暗所下や弱光下における抗菌作用などを向上させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、請求項1に係る本発明では、抗菌性コーティング液の製造方法において、抗菌性を有する酸化金属をアンモニアで過剰に錯体化させて沈殿物が生成された後に過酸化水素水で沈殿物を溶解させて金属錯体溶液を製造し、製造された金属錯体を酸化チタンに担持させて抗菌性を有するコーティング液を製造することにした。
【0009】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、前記金属錯体溶液をイオン交換樹脂に透過させてアンモニア濃度を低減させることにした。
【発明の効果】
【0011】
そして、本発明では、以下に記載する効果を奏する。
【0012】
すなわち、本発明では、酸化金属(酸化銅や酸化亜鉛など)をアンモニアで過剰に錯体化させて沈殿物が生成された後に過酸化水素水で沈殿物を溶解させて金属錯体溶液を製造しているために、金属イオンの含有濃度を増大させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る抗菌性コーティング液及び紫外線減衰溶液の製造方法の具体的な構成について説明する。
【0014】
抗菌性コーティング液は、酸化チタンと、抗菌性を有する金属の錯体とを含有するものであり、酸化チタンを含有する溶液と、抗菌性を有する金属の錯体(金属錯体)を含有する溶液(金属錯体溶液)を混合し、紫外線を照射することで酸化チタンに金属錯体を担持させて生成することができ、展着剤を添加したものでもよい。
【0015】
酸化チタンを含有する溶液としては、ペルオキソチタン酸溶液、又は、ペルオキソ基を含むアナターゼゾルを使用することができる。
【0016】
たとえば、チタンを含む水溶液に、塩基性物質を滴下し、水酸化チタンを沈殿させた後、過酸化水素水を添加して得られるペルオキソチタン酸溶液、又は、80℃以上において加熱処理或いはオートクレーブ中において加熱処理して得られるペルオキソ基を含むアナターゼゾルを生成することができる。
【0017】
また、チタン含有原料水溶液に過酸化水素水を加えてペルオキソチタン錯体を形成させた後に、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置もしくは加熱することによってペルオキソチタン水和物の重合体の沈殿物を形成した後に、(1)少なくともチタン含有原料水溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に、水分を分離しない状態で70℃以上の温度において加熱して得られるペルオキソ基を含むアナターゼゾル、(2)過酸化水素水を作用させて得られるペルオキソチタン酸溶液も利用することができる。
【0018】
あるいは、金属チタン、または酸素、水素のうちの少なくともいずれかを含有する固体状チタン化合物に、チタンの量に対して過剰の水酸基を有する塩基性物質を加え、さらに過酸化水素水を加えて生成した溶液中のチタンイオン、チタン含有イオンおよび水素イオン以外の陽イオンの除去と過剰の過酸化水素水の分解工程を、溶液のpHを3~10に保持した状態で複数回行うことにより溶液中のチタンイオン、チタン含有イオンおよび水素イオン以外の陽イオン濃度がチタンの濃度の1/2以下としたペルオキソチタン酸溶液も適宜利用できる。
【0019】
抗菌性を有する金属(抗菌性金属)としては、銀、亜鉛、銅などが知られている。本発明では、抗菌性金属をそのまま酸化チタン溶液に添加するのではなく、抗菌性金属を錯体化させた溶液を酸化チタン溶液に混合している。この抗菌性金属を錯体化させた溶液(金属錯体溶液)としては、たとえば、アンモニア性無機化合物の錯体化された銅錯体溶液を使用することができる。この銅錯体溶液は、塩基性炭酸銅を、アンモニア性無機化合物で錯体化する方法が挙げられる。また、塩化銅、硝酸銅、硫酸銅などの水溶性銅塩を水に溶解させ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などの水溶液を加えて、銅塩溶液を加水分解し、水酸化銅沈殿物を生成させ、この沈殿物を純水で上澄み液中の導電率が10μS/m以下になるまでデカンテーションを繰り返し、水酸化銅のゲルスラリーを作成し、アンモニア水で錯体化させたテトラアンミン銅錯体溶液を製造する方法も挙げられる。
【0020】
また、銅の錯イオンを形成するために用いられる錯化剤としては、アンモニア性無機化合物やアミン類等が挙げられる。アミン類としては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン等のアルキルジアミンなどの、各種のアミン類が挙げられるが、アミン類は有機塩基であり、これらを含めたコーティング剤を作成した場合、光触媒効果によりアミン類の有機塩基が分解され、膜劣化が起こる可能性が高いので好ましくない。
【0021】
更に、アンモニア性化合物としては、アンモニア水、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫化硫酸アンモニウム溶液、亜硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硝酸アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄類、アミド硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、クロム酸アンモニウム、重クロム酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、フッ化アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン(IV)酸アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過ヨウ素酸アンモニウム、セレン酸アンモニウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、テトラフルオロホウ酸アンモニウム、チオシアン酸アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム等、挙げられるが、銅を溶解する際は錯化剤としての、チタン酸化物コーティング液と混合後は、極端なゲル化を起こさず、中性域から弱塩基性にシフトすることで、酸化チタンのゼータ電位を高め、揮発、分解によって除去することが容易なアンモニア水が好ましい。
【0022】
展着剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやリグニンスルホン酸カルシウムなどの界面活性剤を主成分とするものが用いられる。
【0023】
そして、本発明では、抗菌性を有する酸化金属をアンモニアで錯体化させる際に、沈殿物が生成されるまで酸化金属をアンモニア(アミン類やアンモニア性化合物を含む。)で過剰に錯体化させた後に、沈殿物が溶解するまで過酸化水素水を滴下して、金属錯体溶液を製造することにしている。
【0024】
さらに、本発明では、製造された金属錯体溶液をイオン交換樹脂に透過させて、アンモニアイオンを除去して、金属錯体溶液に含有されるアンモニア濃度を低減させている。
【0025】
このように、本発明では、抗菌性を有する酸化金属をアンモニアで過剰に錯体化させて沈殿物が生成された後に過酸化水素水で沈殿物を溶解させて金属錯体溶液を製造しているために、沈殿物に含有される金属イオンを溶出させることができ、金属錯体溶液中の金属イオンの含有濃度を増大させることができる。
【0026】
これにより、抗菌性コーティング剤においては、暗所下や弱光下における抗菌作用などを向上させることができる。
【0027】
また、製造された金属錯体溶液をイオン交換樹脂に透過させてアンモニア濃度を低減させているために、金属錯体溶液のゲル化などのアンモニアとの反応を抑制することができるとともに、金属錯体溶液中の金属イオンの相対的な含有濃度を増大させることができる。
【0028】
上記抗菌性コーティング液の製造方法と同様に、酸化金属として粉末状の酸化亜鉛を用いて紫外線を減衰させる溶液(紫外線減衰溶液)を製造することもできる。
【0029】
紫外線減衰溶液は、沈殿物が生成されるまで酸化亜鉛をアンモニア(アミン類やアンモニア性化合物を含む。)で過剰に錯体化させた後に、沈殿物が溶解するまで過酸化水素水を混合して、亜鉛錯体溶液を製造することにしている。
【0030】
なお、製造された亜鉛錯体溶液をイオン交換樹脂に透過させて、アンモニアイオンを除去して、亜鉛錯体溶液に含有されるアンモニア濃度を低減させている。
【0031】
この亜鉛錯体溶液は、紫外線を減衰させる亜鉛を含有しており、紫外線減衰溶液として利用することができる。紫外線減衰溶液においては、紫外線を減衰させる作用などを向上させることができる。
【0032】
しかも、上記方法で製造した亜鉛錯体溶液は、無色透明であるために、紫外性減衰能力を有するコーティング剤として利用することができる。