(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】短鎖脂肪酸エステルを担持する親水-疎水性共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20240903BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240903BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240903BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240903BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240903BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240903BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240903BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240903BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20240903BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240903BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08F293/00
A61P35/00
A61P3/04
A61P1/04
A61P1/16
A61P3/06
A61P3/10
A61P3/00
A61K31/19
A61K47/60
A61K9/14
(21)【出願番号】P 2021537269
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029239
(87)【国際公開番号】W WO2021024906
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019143619
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長崎 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】シャスニ バビータ
(72)【発明者】
【氏名】ホン ビン ロン
(72)【発明者】
【氏名】岡田 隆策
(72)【発明者】
【氏名】田鹿 裕也
(72)【発明者】
【氏名】リー ヤロスラブ
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-016752(JP,A)
【文献】特開平06-016747(JP,A)
【文献】特開2007-185494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
C08F 8/14
C08F 290/06
C08G 65/334
A61K 47/60
A61K 31/19
A61P 1/04
A61P 1/16
A61P 3/04
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水-疎水性共重合体であって、
式BC:
【化1】
式中、Rは、-(C=O)R
1又は水素原子であり、R
1は、非置換又は置換された炭素原子数1~7個の直鎖又は分岐のアルキル(置換された場合の置換基は非置換若しくは置換されたフェニルであり、置換されたフェニルの置換基は、1以上のハロゲン、ヒドロキシル又はメチルオキシである。)であり、ここで、Rが水素原子である反復単位の数は、nの30%以下であり、
nは5~1000の整数であ
り、
Aは、非置換または置換C
1-C
12アルキルオキシであり、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R
'R
"CH-基又はフェニルアミノ基若しくはフェネチルアミノ基であり、ここで、R
'及びR
"は独立してC
1-C
4アルキルオキシ又はR
'とR
"は一緒になって-OCH
2CH
2O-、-O(CH
2)
3O-もしくは-O(CH
2)
4O-であり、
mは10~500の整数であ
り、
L
1
は直接結合又は二価の連結基を表し、
Zは、水素原子、SH、S(C=S)-Ph、S(C=S)OCH
2
CH
3
、ヒドロキシル基、C
1
-C
6
アルキルオキシ基又はアリール-C
1
-C
2
アルキルオキシ基である、
で表されるブロック共重合体である、
親水-疎水性共重合体。
【請求項2】
水中で会合して自己組織化することによりナノ粒子又はナノサイズの高分子ミセル
を形成する、請求項1に記載の親水-疎水性共重合体。
【請求項3】
請求項1~
2のいずれかに記載の親水-疎水性共重合体の水性媒体中で形成されるナノ粒子。
【請求項4】
請求項1~
2のいずれかに記載の親水-疎性共重合体又は請求項
3に記載のナノ粒子を有効成分として含んでなる、製薬学的製剤
【請求項5】
がんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療(若しくは肝線維症化の抑制)、糖尿病の予防若しくは治療、放射線療法における放射線の増強、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療に使用するための請求項
4の製薬学的製剤。
【請求項6】
がんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療(若しくは肝線維症化の抑制)、糖尿病の予防若しくは治療、放射線療法における放射線の増強、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療に使用するための請求項1~
2のいずれかの親水-疎水性共重合体。
【請求項7】
がんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療(若しくは肝線維症化の抑制)、糖尿病の予防若しくは治療、放射線療法における放射線の増強、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療に使用するための請求項
3のナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短鎖脂肪酸エステルを担持する疎水性部とポリ(エチレングリコール)鎖を親水性部として含有するブロック共重合体又はグラフト共重合体及びそのナノメディシン材料としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸、プロピオン酸、酪酸(又はブタン酸)をはじめとする短鎖脂肪酸は、その鎖長に応じて免疫抑制能、肝線維化抑制、肥満抑制能、抗がん能など、様々な生理機能を有することが報告されている(例えば、非特許文献1、参照。)。前述の生理機能を有する短鎖脂肪酸は、腸内細菌叢により糖類から生産されるものの、必ずしも十分ではなく、十分な供給が期待されている。
【0003】
しかし、短鎖脂肪酸は、その溶解性や臭いにより投与方法が限定されることのみならず、低分子であることに起因して代謝が早く、また、会合によってその生理機能が変化するなど扱いが困難である。そのため、一部サプリメント等として提供されているが、短鎖脂肪酸が本質的に有する生理機能を発揮することのできる効果的な投与方法又は製剤は存在しないといっても過言でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】坂田隆、市川宏文、短鎖脂肪酸の生理活性、日本油化学雑誌、第46巻、1205-1212(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、短鎖脂肪酸を生体内へ効果的に投与し、デリバリーできる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来から被デリバリー薬物を、会合性を有し、かつ、水性媒体中で自己組織化し得る高分子化合物に薬物を担持させ、薬物のデリバリー特性を改変する高分子化薬物系を設計し、提案してきた(例えば、WO 2009/133647、WO 2016/052463)。本発明者らは、前述の目的を達成する上でも何らかの高分子化薬物系が成功裏に利用できれば、上記課題の解決に資するものと仮定して検討を重ねてきた。
【0007】
その結果、短鎖脂肪酸エステルを担持する疎水性部とポリ(エチレングリコール)鎖を一つ若しくは複数含有若しくは担持するブロック共重合体又はグラフト共重合体若しくはそれらの水中での会合を介して自己組織化することにより形成されるナノ粒子若しくはナノサイズの高分子ミセルは、前記の短鎖脂肪酸をデリバリーする際の短所又は欠陥を治癒又は矯正できることが確認された。
【0008】
したがって本発明により提供される、主たる態様のものとしては次のものを挙げることができる。
態様1:親水-疎水性共重合体であって、
(1)式I:
【0009】
【0010】
式中、Rは、-(C=O)R1又は水素原子であり、R1は、非置換又は置換された炭素原子数1~7個の直鎖又は分岐のアルキル(置換された場合の置換基は非置換若しくは置換されたフェニルであり、置換されたフェニルの置換基は、1以上のハロゲン、ヒドロキシ、メチルオキシである)であり、ここで、水素原子は存在するとしてもnの30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、最も好ましくは0%であり、nは5~1000、好ましくは10~1000、より好ましくは15~1000,30~1000の整数である、
で表される、
反復単位に由来する疎水性セグメント、と
(2)ポリ(エチレングリコール)鎖を含む親水性セグメントであって、
(i)式IIa:
【0011】
【0012】
式中、Aは、非置換又は置換C1-C12アルキルオキシであり、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R’R”CH-基、フェニルアミノ基又はフェネチルアミノ基、フェニル基、メトキシフェニル基であり、ここで、R’及びR”は独立してC1-C4アルキルオキシ又はR’とR”は一緒になって-OCH2CH2O-、-O(CH2)3O-もしくは-O(CH2)4O-であり、mは2~500、好ましくは10~300、より好ましくは20~200の整数である、
で表される、親水性セグメント、又は
(ii)式IIb:
【0013】
【0014】
式中、Raは水素原子又はカルボキシ基であり、
XはRaがカルボキシ基であるとき、C(=O)O若しくはC(=O)NHであり、又はRaが水素原子であるとき、O若しくはNHであり、
Bは、A-CH2CH2であって、A及びmはそれぞれ、上記定義のとおりであり、
yは1~300、好ましくは2~150、より好ましくは5~100、の整数である、
で表される反復単位に由来する親水性セグメントを含み、
前記(1)の疎水性セグメントと、(2)(i)の親水性セグメントは、それぞれブロックとして存在し、
前記(1)の疎水性セグメントと、(2)(ii)の親水性セグメントを含むそれぞれの反復単位の各構成員は、相互にランダムに存在する、
親水-疎水性共重合体。
態様2:水中で会合して自己組織化することによりナノ粒子又はナノサイズの高分子ミセルを形成する、態様1の親水-疎水性共重合体。
態様3: 態様1又は2の親水-疎水性共重合体であって、
前記(1)の式(I)で表される反復単位に由来する疎水性セグメントと前記(2)(i)の式IIaの親水性セグメントを含む共重合体は、式BC:
【0015】
【0016】
式中、A、R、m、nはそれぞれ、上記定義のとおりであり、L1は直接結合又は二価の連結基を表し、Zは、水素原子、SH、S(C=S)-Ph、S(=S)OCH2CH3、ヒドロキシル基、C1-C6アルキルオキシ基又はアリール-C1-C2アルキルオキシ基である、
で表されるブロック共重合体であり、
前記(1)の式(I)で表される反復単位に由来する疎水性セグメントと前記(2)(ii)の式IIbの親水性セグメントを含む共重合体は、式GC:
【0017】
【0018】
式中、R、Ra、B、X、m、n、yはそれぞれ、上記定義のとおりである、
で表されるグラフト共重合体である、
親水-疎水性共重合体。
態様4;態様1~3のいずれかの親水-疎水性共重合体から水性媒体中で形成された、ナノ粒子。
態様5:態様1~3のいずれかの親水-疎性共重合体又は態様4のナノ粒子を有効成分として含んでなる、製薬学的製剤。
態様6:がんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療(若しくは肝線維化の抑制)、糖尿病の予防若しくは治療、放射線療法における放射線の増強、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療に使用するための態様5の製薬学的製剤。
態様7:がんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療、糖尿病の予防若しくは治療、放射線療法における放射線の増強、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療に使用するための態様1~3のいずれかの親水-疎水性共重合体。
態様8:がんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療(若しくは肝線維化の抑制)、糖尿病の予防若しくは治療、放射線療法における放射線の増強、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療に使用するための態様4のナノ粒子。
態様9:態様1~3のいずれかの親水-疎水性共重合体を、それらを必要とする患者に投与してがんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療(若しくは肝線維化の抑制)、糖尿病の予防若しくは治療、放射線療法における放射線の増強、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療するための方法。
態様10:態様4のいずれかの親水-疎水性共重合体を、それらを必要とする患者に投与してがんの予防若しくは治療、肥満抑制、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝の予防若しくは治療、糖尿病の予防若しくは治療(若しくは肝線維化の抑制)、放射線療法における放射線の増強、肝線維化の抑制、又は、高アンモニア血症の予防若しくは治療するための方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の親水-疎水性共重合体又はそのナノ粒子若しくは高分子ミセルは、ヒトをはじめとする哺乳動物に投与したとき、生体局所にデリバリーされ、その局所において疎水性セグメント中の短鎖脂肪酸エステル結合を酵素的に加水分解して対応する短鎖脂肪酸を徐放することができ、短鎖脂肪酸それ自体の投与に随伴する問題点を解消乃至緩和できる。そのため、短鎖脂肪酸が本質的に有する様々な生理機能を哺乳動物の生体局所又は全身で効率よく発揮することができる共重合体、並びにそのナノ粒子及び製薬学的製剤が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】製造例3で得られたN684の
1H NMRスペクトル。
【
図2】製造例4で得られたN731の
1H NMRスペクトル。
【
図3】製造例5で得られたN721の
1H NMRスペクトル。
【
図4】製造例6で得られたN741の
1H NMRスペクトル。
【
図5】製造例7で得られたN684、N731、N721の各動的光散乱スペクトル。
【
図6】製造例8で得られたN741の動的光散乱スペクトル。
【
図7】試験例1のビニルエステルナノ粒子(N684、N731、N721)の細胞毒性のグラフ表示。
【
図8】試験例2のビニルエステルナノ粒子(N741)の細胞毒性のグラフ表示。
【
図9】試験例3の各試験群マウスの体重変化のグラフ表示。データは左から、5倍希釈、10倍希釈、20倍希釈、40倍希釈サンプルのものに相当する。
【
図10】試験例3の肺がん転移数の確認(肉眼観察)結果のグラフ表示。データは、水(対照)、5倍希釈、10倍希釈、20倍希釈、40倍希釈、80倍希釈、160倍希釈のサンプルのものに相当する。
【
図11】試験例3の肺がん転移数の確認を肉眼で観察できない微小転移巣の数を顕微鏡下で計測した結果のグラフ表示。
【
図12】試験例3の肺組織図のH&E染色図に代わる写真(左)及び図より求めた転移がんの数のグラフ表示(右)。
【
図13】試験例3の肺組織図のH&E染色図に代わる写真(左)及び図より求めた転移がんの面積のグラフ表示(右)。
【
図14】試験例3の血液中のALT、AST、LDH及びALBレベルのグラフ表示。
【
図15】試験例3の十二指腸のH&E染色図に代わる写真(左)及び各試験群の絨毛の長さのグラフ表示(右)。
【
図16】試験例3の空腸のH&E染色図に代わる写真(左)及び各試験群の絨毛の長さのグラフ表示(右)。
【
図17】試験例3の回腸のH&E染色図に代わる写真(左)及び各試験群の絨毛の長さのグラフ表示(右)。
【
図18】試験例3の大腸組織のH&E染色図に代わる写真(左)及び各試験群の絨毛の長さのグラフ表示(右)。
【
図20】試験例5の疾患活動性評価指標(DAI)のグラフ表示。
【
図21】試験例5の各処置群(対照を含む)での各実験動物の白血球数のグラフ表示。
【
図22】試験例6の各処置群(対照を含む)での各実験動物の肝臓及び脾臓重量のグラフ表示。
【
図23】試験例7の試験中のサンプル消費量及び実験動物の体重の変化のグラフ表示
【
図24】試験例8の試験(1)のサンプル消費量及び実験動物の体重の変化のグラフ表示
【
図25】試験例8の試験(2)のグルコース耐性試験の結果のグラフ表示
【
図26】試験例8の試験(3)の試験終了時点での器官の重量のグラフ表示
【
図27】試験例8の試験(4)のH及びE染色腸管の組織学的解析結果を示す図に代わる写真
【
図28】試験例8の試験(5)のH及びE染色膵臓組織の組織学的解析結果を示す図に代わる写真
【
図29】試験例9の試験(1)の放射線照射の体重変化体積変化への影響を示すグラフ表示
【
図30】試験例9の試験(2)の放射線照射のがんの体積変化への影響を示すグラフ表示
【
図31】試験例10の試験(1)のがん増殖プロファイルのデータのグラフ表示
【
図32】試験例10の試験(2)の試験終了時点でのがんの重量のグラフ表示
【
図33】試験例10の試験(3)の被検動物の体重変化を示すグラフ表示
【
図34】試験例11の放射線増強効果に関するスフェロイドがん細胞の成長抑制効果を示す図に代わる写真
【
図35】試験例12の試験(1)の肝臓及び脾臓の重量のグラフ表示
【
図36】試験例12の試験(2)のHE染色された肝臓の組織学的解析結果のグラフ表示
【
図37】試験例12の試験(3)のMT染色された肝臓の組織学的解析結果のグラフ表示
【
図38】製造例9で得られたN821の
1H NMRスペクトル
【
図39】製造例10で得られたナノ粒子(Ph-BNP, N832)のサイズ分布の表示
【
図40】試験例13の試験(1)の血液の生化学検定結果のグラフ表示
【
図41】試験例13の試験(2)の血液のHE染色された肝臓の組織学的解図に代わる写真
【
図42】試験例14の薬物動態試験(1)の結果のグラフ表示
【
図43】試験例14の薬物動態試験(2)の結果のグラフ表示
【発明の詳細な説明】
【0021】
本発明に関して記述された用語等は、特に言及しない限り、当該技術分野で常用されている意味又は内容を有するものとして使用されている。一般的に、本発明について以下の追加の説明をすることができる。
【0022】
短鎖脂肪酸は、前述のとおり、哺乳動物の、腸内細菌叢により糖類から生産されるものであることができ、典型的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸(若しくはブタン酸)を包含するが、場合によって一定の分岐鎖アミノ酸を含むタンパク質が分解されることにより生産されることのあるイソ酪酸やイソ吉草酸のような分岐鎖脂肪酸、さらには、これらの脂肪酸に類似する機能を発揮する場合のある、炭素原子数7までの直鎖又は分岐鎖脂肪酸が包含される。したがって、本明細書で開示される共重合体において、疎水性ドメインを提供するための、式Iで表される疎水性セグメント中のRが-(C=O)R1である場合の、R1としては、限定されるものでないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘプチル、ペンチル、3-メチルブチル等を挙げることができる。これらの基は置換されていてもよく、置換されている場合の置換基は、好ましくは非結合末端の炭素原子に結合することのできる、非置換若しくは置換されたフェニルであり、置換されたフェニルの置換基は、1以上のハロゲン、ヒドロキシ、メチルオキシであることができる。また、Cx-Cxxアルキルオキシ等と記載するアルキル部分は、炭素原子数x個~xx個の直鎖又は分岐のアルキルを意味する。Rは、水素原子であることができ、このとき、nの反復単位の総数の30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、最も好ましくは0%(存在しない)である。このような好ましさの度合いは、共重合体が、水中で会合し、自己組織化するとき、より確実に疎水性ドメイン又は領域を形成するための度合いである。
【0023】
本明細書で開示される共重合体において、親水性セグメントを提供するための、式IIaで表されるセグメントは、親水性ブロックを提供し、一方で、式Iで表される疎水性セグメントを疎水性ブロックとする、親水-疎水性ブロック共重合体の構成員となることができ、あるいはまた、
親水性セグメントを提供する式IIbで表される各反復単位は、式Iで表される各疎水性セグメントと相互にランダムに存在できる親水-疎水性ランダム共重合体の構成員となることができる。相互にランダムと称するのは、適する場合には、例えば、式Iのnと式IIbのyが近似する数値であるときは、交互に存在してもよく、また、例えば、式Iのn対式IIbのyが、30以上:1であるときは、実質的に、疎水性セグメントは複数のセグメントがブロックを形成するような形態にあってもよい。
【0024】
これらの、ブロック共重合体及びランダム共重合体は、水中で、複数の共重合体が、会合し、自己組織化することにより、コアに疎水性セグメントが含まれ、シェルに親水性セグメントが含まれる、所謂、コア-シェル型ナノ粒子又は高分子ミセルを形成することができるものであれば、他の構成員を含むことができる。こうして、限定されるものでないが、本明細書で開示される共重合体の典型的なものとしては、上記の、式BC又は式GCで表される共重合体を挙げることができる。例えば、式BCにおける、L1が、二価の連結基を表す場合の、二価の連結基は、一般的には、最大34個、好ましくは18個、より好ましくは最大10個の炭素、並びに任意に酸素及び窒素原子を含有する基を意味する。このような連結基として、具体的には次の基を挙げることができる:
【0025】
【0026】
で表される基から選ばれるか、又は-(CH2)cS-、-CO(CH2)cS-、-(CH2)cNH-、-(CH2)cCO-、-CO-、-OCOO-、-CONH-からなる群より選ばれ、ここで、それぞれ独立してbは2~6の整数であり、cは1~5の整数である、ことができる。
【0027】
本発明に関してナノ粒子又はナノサイズの高分子ミセルにいう、ナノ又はナノサイズとは、水中でナノ粒子又は高分子ミセルの動的光散乱測定(DLS)を行ったとき、平均径がナノメートル台にあり、一般的に、平均径が、約10nm~約2000nm、好ましくは約10nm~約500nm、より好ましくは約25nm~約200nmのサイズにあることを意味する。
【0028】
上記の親水-疎水性共重合体は、定義された化学構造を参照に、それ自体公知の製造方法に準じて製造することができる。都合よくは、次のいずれかの方法に従うことができる。
【0029】
上記(1)と上記(2)(i)とにより定義される、典型的な式BCで表わされる共重合体は、上記のWO 2009/133647、WO 2016/052463を参照して、次の様に製造するのが便宜である。
【0030】
まず、ポリ(エチレングリコール)(PEG)セグメントを、
式A-1:
【0031】
【0032】
又は
式A-2:
【0033】
【0034】
(上式中の、A、L、mは上記に定義したとおりである。)
で表されるPEG誘導体を用意し、次いで、式Iの反復単位に対応するビニルアルコールの短鎖脂肪酸エステルを用意し、可逆的な交換連鎖移動を介するリビング的なラジカル重合反応により、前者の単位に後者を付加する方法を利用することができる。このとき、A-1における、L-S(C=S)Phは、後述する、L-S(C=S)OCH2CH3であると、より効率よく目的の共重合体を得ることができる。なお、Aが置換基としてフェニルアミノ基、フェネチルアミノ基を有する場合には、置換基としてホルミル基を有する式IIaに対応する化合物のホルミル基と対応するアミンとの還元アミノ化反応により当該置換基を導入することができる。
【0035】
典型的な式GCで表されるグラフト共重合体は、式Iの反復単位に対応するビニルアルコールの短鎖脂肪酸エステル及びカルボキシ基若しくはその保護された基又はハロゲン原子(Cl、Br等)を担持する重合性不飽和モノマー、例えば、無水マレイン酸又は塩化ビニルを用意し、これらをラジカル開始剤の存在下でラジカル重合し、得られるランダム共重合体の酸無水物単位又は塩化ビニル単位中に、例えば、片末端のヒドロキシル基をリチオ化等の金属アルコラート化するか、又は当該片末端のヒドロキシル基をアミノ基(NH2)に転化したポリ(エチレングリコール)誘導体を用いて、エステル若しくはアミド結合又はエーテル(-O-)もしくは-NH-を介してポリ(エチレングリコール)鎖をグラフトすることにより、製造することができる。ところで、上記の重合反応の際に、メチル(フェニル)カルバモジチオ酸シアノメチル又はシアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオレートのような連鎖移動剤を併用すると、合成される重合体の分子量を下げることができ、続くグラフト化反応の操作を簡潔にすることができる。無論、このような連鎖移動剤を用いることなく、目的の共重合体を製造することもできる。
【0036】
上記のナノ粒子又は高分子ミセルは、本発明にしたがう共重合体が両親媒性であり、水可溶性有機溶媒、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルスルホキシド(DMSO)含有水溶液を調製した後、一定の分子量カット-オフの透析膜を介して水に対して透析することにより、共重合体それ自体が会合してミセルを形成することにより作製される。こうして形成されたミセル又はナノ粒子は、例えば、凍結乾燥、遠心分離、等をすることにより、分離した固形物として取得できる。
【0037】
こうして提供される、ナノ粒子及びナノサイズの高分子ミセルは、水性媒体(必要により、生理食塩やpH調整剤を含むことのできる水溶液)中で、可溶化または均一に分散した溶液または液剤として提供できるので非経口製剤をはじめ、各種形態にある経口製剤とすることができる。例えば、経口製剤として提供する場合、本発明のナノ粒子は、それ自体の当該技術分野で常用されている賦形剤、希釈剤を利用して錠剤、丸薬、顆粒剤として提供することもできる。賦形剤又は希釈剤は、限定されるものでないが、当該技術分野で常用されている、クロロカルメロースナトリウム、結晶セルロース、ヒプロメロース、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、マクロゴール4000、酸化チタン、等であることができる。
【0038】
このようなナノ粒子を有効成分として含む製薬学的製剤は、前述した、短鎖脂肪酸それ自体が本質的に有する生理機能を、当該ナノ粒子がデリバリーされるヒトをはじめとする哺乳動物の生体局所で発揮することができる。このような製薬学的製剤は、処置を目的とする疾患や投与方法により、最適用量が変動するので用量を一義的に特定することはできないが、用量は、小規模の臨床試験等を通して得られるデータ等に基づいて専門医が決定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、説明が煩雑になることを避けるため、本発明の典型的な例について具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものでない。
【0040】
製造例1: CH3O-(CH2CH2O)m-CH2PhCH2Br(N686)の合成
市販のCH3O-(CH2CH2O)m-H(MW=5,000,100g,20mmol)にテトラヒドロフラン(THF)(200mL)及びブチルリチウム14.4mL(23mmol,1.6M-ヘキサン)を加えたのち、α,α‘-ジブロモキシレン(25g,95mmol)を加え50°C、2日間反応させた。2-プロパノール(IPA)に沈殿させた後沈殿物を減圧乾燥した。得られた淡黄色ポリマーをメタノールに溶解し、遠心分離してα,α‘-ジブロモキシレンを沈殿として除いた。メタノール溶液をIPAに投入し、得られた白色沈殿を減圧乾燥させ、目的物(N686)を得た。(収量104g)
【0041】
製造例2: CH3O-(CH2CH2O)m-CH2PhCH2S(=S)OCH2CH3(N717)の合成
製造例1で合成したN686(20g)を100mLのエタノールに溶解させ、エチルキサントゲン酸カリウム(CH3CH2OC(=S)SK,7g)を加え、室温で10分間反応させた。沈殿を遠心分別した後エタノールを減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶解し、水で洗浄、クロロホルム層を分別し、無水硫酸ナトリウム脱水ろ過後IPAに沈殿させ、遠心分離後減圧乾燥して目的物(N717)を得た(収量15g)。
【0042】
製造例3: CH
3O-(CH
2CH
2O)
m-CH
2PhCH
2〔CH
2CH(OC(=O)CH
3)〕
nS(=S)OCH
2CH
3(N684)の合成
製造例2で合成したN717(1g)、アゾビスイソブチロニトリル(15mg)、酢酸ビニル(6.6g)をフラスコに加え、5分間窒素バブルしたのち60°C、1日反応させた。得られた目的物をTHFに溶解させ、IPAに沈殿、減圧乾燥し目的物(N684)を得た(2.6g)。N684の
1H NMRスペクトルを
図1に示す。
【0043】
製造例4:CH
3O-(CH
2CH
2O)
m-CH
2PhCH
2〔CH
2CH(OC(=O)CH
2CH
3)〕
nS(=S)OCH
2CH
3(N731)の合成
製造例2で合成したN717(5g)、アゾビスイソブチロニトリル(75mg)、プロピオン酸ビニル(7g)をフラスコに加え、5分間窒素バブルしたのち60°C、2日反応させた。得られた目的物をTHFに溶解させ、IPAに沈殿、減圧乾燥し目的物を得た(9.3g)。N731の
1H NMRスペクトルを
図2に示す。
【0044】
製造例5: CH
3O-(CH
2CH
2O)
m-CH
2PhCH
2〔CH
2CH(OC(=O)CH
2CH
2CH
3)〕
nS(=S)OCH
2CH
3(N721)の合成
実施例2で合成したN717(5g)、アゾビスイソブチロニトリル(75mg)、酪酸ビニル(10g)をフラスコに加え、5分間窒素バブルしたのち60°C、2日反応させた。得られた目的物をTHFに溶解させ、IPAに沈殿、減圧乾燥し目的物(N721)を得た(12.3g)。N721の
1H NMRスペクトルを
図3に示す。
【0045】
製造例6: グラフト共重合体(N741)の合成
【0046】
【0047】
アゾビスイソブチロニトリル(75mg)、酪酸ビニル(5.7g)、無水マレイン酸(100mg)、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオレート(PhN(CH
3)C(=S)SCH
2CN、200mg)をフラスコに加え、5分間窒素バブルしたのち60°C、2日反応させた。得られた目的物をTHFに溶解し、少量サンプリング後、下記のとおり、別に調製したCH
3O-(CH
2CH
2O)
mOLi*のTHF溶液を加えて30分攪拌する。反応溶液をIPAに注ぎ、沈殿を乾燥することで目的物(N741)を得た(6g)。N741の1H NMRスペクトルを
図4に示す。
*THF(20mL)にCH
3O-(CH
2CH
2O)
mOH(MW=5,000,5g)及びブチルリチウム(0.6mL)を加えCH
3O-(CH
2CH
2O)
mOLiのTHF溶液を作製した。
【0048】
製造例7: 自己組織化粒子の調製1
上記で合成したポリマー(N684,N731,N721)をそれぞれ50mg採取し、1mLのDMFに溶解させ水を1mL加えて透析膜(MWCO=3.5KDa)に入れて2Lの水に対して透析した。半日ごとに3度透析水を交換した後、動的光散乱測定を行い、平均30-100nmの粒子が形成していることを確認した(
図5参照)。
【0049】
製造例8: 自己組織化粒子の調製2
製造例6で合成したグラフトポリマー(N741)を用いたこと以外、製造例7の操作を繰り返し、153nmの平均粒径を有する粒子が形成していることを確認した(
図6参照)。
【0050】
試験例1: 細胞毒性1
各1x10
4のHepG2細胞を播種した96穴プレートに、製造例7で作製した自己組織化粒子の各サンプルを添加し、24時間インキュベートした後、WST溶液を添加し、2時間後に450nmのUV吸収を測定しコントロールと比較したところ、いずれも測定の濃度下ではほとんど毒性が出ないことを確認した(
図7:N684,N731,N721の各ナノ粒子の細胞毒性を示す。)。
【0051】
試験例2: 細胞毒性2
製造例8で作製した自己組織化粒子を使用したこと以外、試験例1の操作を繰り返し、N741の細胞毒性を評価した。試験結果を
図8に示す。
図8から、N741のナノ粒子は本試験系で細胞毒性を示さないことが判る。
【0052】
試験例3: がん転移抑制効果
1群5-7匹の5週齢BALB/cマウス(オス)に、下記のGP1乃至GP6の投与群に記載の各サンプルを自由摂取させた。2日後、1x10
4のB16F10/B16F10メラノーマ細胞(理研細胞バンクから入手)を尾静注し、サンプル水の摂水を継続した。11日目に解剖し、肺に正着しているがんの個数を肉眼観察により確認した結果を
図10に示し、また、試験中の実験動物の体重変化を
図9に示す。
【0053】
図10から、短鎖脂肪酸では、ほぼ全くがん転移数抑制効果が見られないのに対し、プロピオン酸ナノ粒子のGP5群が極めて高いがん転移抑制を示した。
図11には肉眼で観察できない微小転移巣の数を顕微鏡下で計測した結果を示す。
図10と同様、プロピオン酸ナノ粒子(図中ではPEG-b‐PVProと略記)が極めてがん転移を抑えていることが確認された。
【0054】
図12には肺組織図のH&E染色図(左)及び図より求めた転移がんの数(右)を示す。コントロールに比べて、プロピオン酸ナノ粒子及び酪酸ナノ粒子で有意にがんの数の低下が認められた。
図13には肺組織図のH&E染色図(左)及び図より求めた転移がんの面積(右)を示す。コントロール及び低分子脂肪酸に比べて、プロピオン酸ナノ粒子及び酪酸ナノ粒子で有意にがんの面積の低下が認められた。
図14には血液中のALT、AST、LDH及びALBレベルを示す。いずれの場合にも肝臓や臓器に対して障害は殆ど見られないことを確認した。
【0055】
図15~18には小腸及び大腸組織のH&E染色図を示す。場所により低分子脂肪酸群で、絨毛の短縮化が見られ、ダメージがあることが確認された。
サンプル投与群
GP1 :健康群(n=5)
GP2 :メラノーマ投与群(n=7)
GP3 :メラノーマ投与群/30mMプロピオン酸自由摂取群(n=7)
GP4 :メラノーマ投与群/30mM酪酸自由摂取群(n=7)
GP5 :メラノーマ投与群/30mM N731自由摂取群(n=7)
GP6 :メラノーマ投与群/30mM N721自由摂取群(n=7)
【0056】
試験例4: ダイエット効果
1群5匹の4週齢C57BL/6Jマウス(オス)にEPS益新株式会社より購入した固形飼料D12492(60% Fat、超高脂肪飼料)を与え、下記のGP1乃至GP3の各投与群に記載の各サンプルを与え、体重測定を行った。結果を
図19に示す。
【0057】
図19から、水道水群及びプロピオン酸粒子(N731)に対し、酪酸粒子群(N721)が有意に体重増加を抑制することが確認された。
サンプル投与群
GP1:水道水自由摂取
GP2:N731自由摂取(5mg/mL)
GP3:N721自由摂取(5mg/mL)
【0058】
試験例5:潰瘍性大腸炎に対する効果
1群7匹の7週齢ICRマウス(オス)に4%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を自由摂取させ、下記サンプルをゾンデで一日一度経口投与した。10日後疾患活動性評価指標(disease activity index(DAI))を測定し、血液を評価した。
図20に示すように、酪酸ナノ粒子(図中ではBNPと表記)が潰瘍性大腸炎モデルに対して有意に低下しており、治療効果を認めた。また、
図21に示すように潰瘍性大腸炎モデルでは白血球数の著しい上昇が見られるのに対し、BNPでは有意に抑制した。
サンプル投与群
GP1:水道水自由摂取+水道水(0.65mL)
GP2:4%DSS摂取+水道水(0.65mL)
GP3:4%DSS摂取+酪酸(2.32mg/mL,0.65mL)
GP4:4%DSS摂取+CNP(PEG-b‐ポリスチレン)(10mg/mL,0.65mL)
GP5:4%DSS摂取+BNP(PEG-b‐Poly(vinyl butyrate)(10mg/mL,0.65mL)
【0059】
試験例6:非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する効果
49匹の5週齢C57BL/6Jマウス(オス)にEPS益新株式会社より購入した固形飼料A06071302(コリン欠乏高脂肪飼料、メチオニン減量、0.1%メチオニン添加)を自由摂取にて与え、4週間後に無作為に1群7匹に分け、下記のGP1乃至GP7の各投与群に記載の各サンプルを自由摂取にて投与した。8週間後にデータ解析を行った。
図22に肝臓及び脾臓重量を示す。NASH群が炎症により肥大化しているのに対し、プロピオン酸粒子投与群で有意に肥大化が抑制されていることを確認した。
サンプル投与群
GP1:通常固形飼料(オリエンタル酵母MF)
GP2:固形飼料A06071302
GP3:固形飼料A06071302+酪酸(65mM)
GP4:固形飼料A06071302+プロピオン酸(50mM)
GP5:固形飼料A06071302+酪酸ナノ粒子(10mg/mL,ポリマー濃度1mM 酪酸換算65mM)
GP6:固形飼料A06071302+プロピオン酸ナノ粒子(10mg/mL,ポリマー濃度1mM プロピオン酸換算50mM)
GP7:固形飼料A06071302+ポリスチレンナノ粒子(10mg/mL)
【0060】
試験例7: がん転移抑制効果その2
1群5-7匹の7-8週齢C57BL/6Jマウス(オス)をチャールズ リバー ジャパン社、横浜より入手した。これらのマウスを、無病原性条件下、12時間の暗/明サイクルで、制御された温度(23±1℃)及び湿度(50±5%)において標準固形飼料を自由摂餌させながら飼育した。マウスは下記のGP1乃至GP6の投与群に無作為に分け、記載の各サンプルを自由摂取させた。1日後、200μL(生理食塩水)当たり2.5x105のB16F10/B16F10メラノーマ細胞(理研細胞バンクから入手)を尾静注した。この尾注射の1日前から試験の終点である11日迄、各サンプルを自由飲水形式として継続してマウスに与えた。11日目に血漿及び他の臓器を採取し、下記のさらなる各分析に備えて適切に貯蔵した。
【0061】
試験中のサンプルの消費量の変化及びの実験動物の体重変化を
図23に示す。その他の試験については、試験例3で観察され、又は確認された試験結果と実質的に等価の試験結果が得られた。
サンプル投与群
GP1:健康群(n=5)
GP2:メラノーマ投与群(n=7)
GP3:メラノーマ投与群/30mMプロピオン酸自由摂取群(n=7)
GP4:メラノーマ投与群/30mM酪酸自由摂取群(n=7)
GP5:メラノーマ投与群/30mM PNP(N731由来の粒子:製造例7参照)自由摂取群(n=7)
GP6:メラノーマ投与群/30mM BNP(N721由来の粒子:製造例7参照)自由摂取群(n=7)
【0062】
試験例8:抗糖尿病試験に対する効果
本試験及び本明細書に開示するすべての実験動物を用いる試験における動物の管理及び使用については当該管理等に関する筑波大学のガイドラインに厳密に従って行った。
1群7匹の7-8週齢C57BL/6Jマウス(オス)をチャールズ リバー ジャパン社(横浜)より入手した。これらのマウスを、無病原性条件下、12時間の暗/明サイクルで、制御された温度(23±1℃)及び湿度(50±5%)において標準固形飼料を自由摂餌させながら飼育した。マウスは下記のGP1乃至GP6の投与群に無作為に分け、記載の各サンプルを36日迄自由に飲めるようにして摂取させた。1日後、グルコース耐性試験を行った。試験では、1日おきに各マウスの体重及びサンプルの消費についてモニターした。その後、試験の終了時点(40日目)まで、サンプルを飲料水で置き換えた。
サンプル投与群
GP1:エキセナチド(伝統的な抗糖尿病薬)、1μg(1-4日目)、2μg(5-36日目)の各毎日皮下注射群
GP2:60mM BNP(N721由来の粒子:製造例7参照)自由摂取群
GP3:60mM PNP(N721由来の粒子:製造例7参照)自由摂取群
GP4:30mM 酪酸自由摂取群
GP5:30mM プロピオン酸自由摂取群。
GP6:対照群(水自由摂取)
【0063】
(1)当該試験におけるサンプルの消費量をマウス当たり量(mL)として、マウスの体重を平均±SD値として
図24にそれぞれ示す。
【0064】
(2)グルコース耐性試験は、投与されたグルコースの代謝を制御する際の短鎖脂肪酸の治療効果を評価するために行った。1夜拘束の16時間後、グルコース(2g/kg)をマウスに経口投与した。グルコース投与の1時間前後で、血液10μLを尾静脈から採取し、ヘパリン含有(50ユニット/mL)生理食塩水と、容量(v:v)比1:1で混合した。希釈血液中のグルコース濃度をFUJI DRY-CHEM 7000V(富士フイルム)で測定した。最終血中グルコース濃度を次の式によって計算した。
最終グルコース濃度(mg/mL)= [グルコース]60分 -[グルコース]0分
【0065】
平均±SEM(n=7)値としてのデータを
図25に示す。
スチューデントのt-検定、テール(2)及びタイプ(2)を行い平均値間の統計誤差を決定した(P<0.05は統計的に有意であると考えられた)。
【0066】
糖尿病モデルマウスに対し、プロピオン酸投与群、酪酸投与群及びプロピオン酸ナノ粒子(PNP)投与群は有意差が見られなかったのに対し、糖尿病薬エキセナチド及びBNP投与群では有意にグルコース濃度を低下させることができ、膵臓機能が向上していることが分かる。
【0067】
(3)試験の終了時点での器官の重量
マウスの解剖後,速やかに取り出した脾臓、腎臓、及び肝臓の重量を測定した結果を
図26に示す、これらの臓器をさらなる組織学的分析用として10%中性緩衝液中に保存した。スチューデントのt-検定は上記と同じ。
【0068】
この結果ではプロピオン酸投与群で脾臓重量の上昇が見られ、酪酸投与群及びエキセナチド投与群で肝臓重量上昇が確認された。これは臓器炎症を示す。一方でBNP投与群では脾臓、腎臓、肝臓いずれもコントロールと同等で毒性を示していない。
【0069】
(4)H及びE染色腸管の組織学的解析
解剖後取り出したマウスの器官を、速やかに10%中性ホルマリン液に入れて1日間浸漬することによって固定した。その後、パラフィン包埋するために70%エタノール溶液に置換した。パラフィン包埋後のすべての器官を厚さ5μmの組織切片に加工し、常法により、ヘマトキシリン・エオシン(H・E)染色した。組織切片を高濃度アルコールで脱水し、キシレンで洗浄した後、顕微鏡検査を行った(biorevo, BZ-9000,Keyence)。絨毛の長さをイメージ ジェイ ソフトウエア(Image J software)(NIH)により測定した。結果を
図29に示す。定量データは、最小と最大範囲の値、上限と下限の四分価(quartile)、中央値:十二指腸(n=130-132)、空腸(n=96-185)、回腸(n=109-138)、結腸(n=37-47),をボックス中のプロットとして表示した。t-検定は上記に同じ。
【0070】
十二指腸、空腸、回腸、大腸において、エキセナチド投与群は絨毛が有意に短くなっており、強い副作用を示していることが示される。プロピオン酸及び酪酸投与群も同様の傾向にある。一方でBNP投与群、PNP投与群では絨毛の短縮は見られず、消化管に対するダメージがないことが分かる。
【0071】
(5)H及びE染色膵臓組織の組織学的解析
解剖後取り出したマウスの器官を、速やかに10%中性ホルマリン液に入れて1日間浸漬することによって固定した。その後、パラフィン包埋するために70%エタノール溶液に置換した。常法に従い、パラフィン包埋後のすべての臓器を厚さ5μmの組織切片に加工し、常法により、ヘマトキシリン・エオシン(H・E)染色した。組織切片を高濃度アルコールで脱水し、キシレンで洗浄した後、固定して顕微鏡検査に供した(biorevo, BZ-9000,Keyence)。イメージ ジェイ ソフトウエア(Image J software)(NIH)によりランゲルハンス島の領域を決定した。結果を
図30に示す。定量データは、最小と最大範囲の値、上限と下限の四分価(quartile)、中央値(n=10-20)をボックス中のプロットとして表示している。t-検定は上記に同じ。
【0072】
糖尿病モデルマウス及び、プロピオン酸投与群、酪酸投与群、PNP投与群でランゲルハンス島サイズが縮小しているが、BNP投与群及びエキセナチド投与群でランゲルハンス島の萎縮が見られず、ランゲルハンス島の機能を維持していることが示される。
【0073】
試験例9:放射線増強剤としての効果その1
上記試験と同様に入手した、一群5匹の5-7週令のC57BL/6Jマウスを、同様の条件下で飼育した。100μL(血清不含DMEM)当たり0.076×106のメラノーマB16F10細胞をマウスの右腿外側部に皮下注射した(照射前7日目)。がん増殖1週間後、マウスを下記投与群に無作為に分けた。BNP500mg/kgを照射前1日及び照射直後にマウスの腹腔内(i.p.)に投与し、放射線増強効果を確認した(それぞれ、GP3及びGP4)。照射条件は、10Gy、150kV、20mA、Alフィルトレーション、330mm間隔に設定した。
サンプル投与群
GP1:がん対称群
GP2:がん+照射(IR:10Gy)群
GP3:BNP 500mg/kg (照射前1日)群
GP4:BNP 500mg/kg (照射後0日)群
【0074】
(1)照射後、試験終了時点(8日)までがん増殖及び体重について追跡した。結果を
図31に示す。0日は照射前のデータであり、8日は照射後(試験の終了時点)のデータである。
BNP投与群でも非投与群と同様に体重変化がなく、毒性が見られない。
【0075】
(2)試験の終了時点で血漿及び他の器官を採取し、さらなる分析用として適切に保存した。がんの大きさをキャリパーで測定し、ガンの体積を下記の等式を用いて算出した。
がんの体積=0.52×長さ×幅
2
結果を
図30に示す。t-検定は、試験8(2)に同じ。
10Gy照射群で腫瘍成長抑制効果があり、X線照射前及び後にBNPを投与しても8日後の腫瘍サイズはBNP非投与群に比較して有意に小さく、放射線増強効果が確認される。
【0076】
試験例10:放射線増強剤としての効果その2
上記試験と同様に入試した、一群5又は7匹の5-7週令のC57BL/6Jマウスを、同様の条件下で飼育した。100μL(血清不含DMEM)当たり0.076×106のメラノーマB16F10細胞をマウスの右腿外側部に皮下注射した(照射前9日目)。がんの体積が350-560mm3になったとき、マウスを下記投与群に無作為に分けた。照射条件は、10Gy、150kV、20mA、Al+Cu(0.5mm+0.1mm)フィルトレ―ション、330mm間隔に設定した。
がん体積は上記と同様に算出した。
サンプル投与群
GP1:健康(生理食塩水)群(n=5)
GP2:がん対照群(n=7)
GP3:がん+照射(IR(5Gy))群(n=7)
GP4:酪酸(i.p.;250mg/kg)(照射前6時間)+IR群(n=7)
GP5:酪酸(i.p.;500mg/kg)(照射前24時間)+IR群(n=7)
GP6:BNP(i.p.:500mg/kg)(照射前6時間)+IR群(n=7)
GP7:BNP(i.p.:500mg/kg)(照射前12時間)+IR群(n=7)
【0077】
(1)メラノーマ異種移植モデルでの酪酸及びNP投与後の5Gy照射によるがん増殖プロファイルのデータを
図33に示す。
放射線照射前に酪酸及びBNPを投与した。腫瘍増殖抑制効果は 照射群<6時間前酪酸投与群<6時間前BNP投与群=24時間前酪酸投与群<24時間前BNP投与群の順に増加した。
【0078】
(2)試験終了時点(照射後6日目)のがんの重量のデータを平均±SEM値(n=2-7)として
図32に示す。t-検定は、試験8(5)に同じ。
【0079】
腫瘍重量の結果は24時間前BNP投与群及び6時間前酪酸投与群が有意に腫瘍サイズを減少させた。(3)マウスの体重変化を平均±SD値(n=7)としてのデータを
図35に示す。t-検定は、上記に同じ。
【0080】
酪酸投与群で体重減少が見られ、毒性が出ている。一方で、BNP投与群は体重減少が見られず、毒性が出ていない。
【0081】
試験例11:スフェロド検定により評価するBNPの放射線増強効果のイン・ビトロ評価 メラノーマB16F10細胞を50mMの酪酸で7時間処理した後、2Gy(Al+Cu(0.5mm+0.1mm)フィルター)を照射した。37℃で1時間停止し、培地を除去し、数度洗浄してサンプルを除去し、次いで新鮮な培地を補充した。処理細胞を24時間インキュベートした後、0.6%のメチルセルロース及びDMEM(1:1)中で3日間培養してスフェロイドを形成した。直接鏡検法により画像を撮り、イメージ ジェイ ソフトウエア(NIH)によりスフェロイドを測定した。グループ分けし、次いで、細胞を、2Gy照射後7時間サンプルを用いて処理した。データを平均±SEM値(n=32-37)として表示する。これらの結果を
図38に示す。t-検定は上記に同じ。
【0082】
細胞培養:
マウスメラノーマB16F10細胞は、Cell Bank(理研、日本)から購入した。これらの細胞株を、10%ウシ胎児血清及び100ng/mLのペニシリン-ストレプトマイシン-ネオマイシンの抗生物質混合物を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;L-グルタミン、1g/L グルコース、重炭酸ナトリウム、Sigma-Aldrich,St Louis, MO, USA)中に5%CO
2の加湿雰囲気下に37℃で保持した。結果を
図34に示す。
BNP投与群で明らかにスフェロイドがん細胞の成長抑制効果が確認される。
【0083】
試験例12:非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する効果その2
42匹の5週齢C57BL/6Jマウス(オス)にEPS益新(株)より購入した固形飼料A06071302(コリン欠乏高脂肪飼料、メチオニン減量、0.1%メチオニン添加)を自由摂取にて与え、4週間後に無作為に1群7匹に分け、下記の健康群(Healthy)(固形飼料A06071302無投与)、NASH、酪酸投与(BA)、プロピオン酸投与(PA)、PNP投与、BNP投与6群に記載の各サンプルを(PA及びPNP群はPAが65mM、BAおよびBNP群はBAが50mMの濃度に調製)自由摂取にて投与した。8週間後にデータ解析を行った。
【0084】
(1)肝臓及び脾臓重量を
図35に示す。NASH群が炎症により肥大化しているのに対し、プロピオン酸粒子投与群で有意に肥大化が抑制されていることを確認した。
ここでは、肝臓に蓄積した脂肪量の違いと肝臓での炎症に呼応した脾臓の腫大の程度を比較するために、マウスの解剖後に取り出した肝臓および脾臓の重量を測定し、各群の平均重量を求めた。(各群n=7)。各群の平均肝臓重量値および平均脾臓重量値のエラーバーは、標準偏差値(各群n=7)を用いた。t-検定は、平均値間の統計的有意差の有無を調べるために行われ、P<0.05で統計的に有意差がある。
【0085】
肝臓重量(左図)は健康群に対してNASH群の肝臓重量が有意に重く、炎症を惹起している。一方PNP投与群はNASH群に比較して肝臓重量が有意に軽く、炎症を抑制している。
【0086】
脾臓重量(左図)も同様に健康群に対してNASH群が有意に上昇し、PNP投与群で有意に低下している。
【0087】
(2)HE染色された肝臓の組織学的解析
解剖後取り出されたマウスの肝臓は、速やかに10%中性緩衝ホルマリン液に入れて1日間浸漬することによって固定した。その後、パラフィン包埋するために70%エタノール溶液に置換した。パラフィン包埋後すべての肝臓は、厚さ5μmの組織切片に加工され、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色された。染色後のすべての組織切片は、顕微鏡(オールインワン蛍光顕微鏡、BZ-X710,Keyence)によって画像データ化された後、ImageJ(NIH)によって肝臓組織面積に対する油滴組織面積の割合が求められた(各群n=7)。結果を
図36に示す。グラフは各群の油滴組織面積の平均値及び標準偏差によるエラーバーを示したものである。t-検定は、平均値間の統計的有意差の有無を調べるために行われ、P<0.05で統計的に有意差がある。
肝臓の油滴量は健康群に対してNASH群が大幅に増加している(脂肪肝状態)。一方PNP投与群はNASH群に比較して油滴量が有意に少ない。
【0088】
(3)MT染色された肝臓の組織学的解析
解剖後取り出されたマウスの肝臓は、速やかに10%中性緩衝ホルマリン液に入れて1日間浸漬することによって固定した。その後、パラフィン包埋するために70%エタノール溶液に置換した。パラフィン包埋後すべての肝臓は、厚さ5μmの組織切片に加工され、マッソントリクローム(MT)染色された。染色後のすべての組織切片は、顕微鏡(オールインワン蛍光顕微鏡、BZ-X710,Keyence)によって画像データ化された後、Image J(NIH)によって肝臓組織面積に対する線維化組織面積の割合が求められた(各群n=7)。結果を
図42に示す。グラフは各群の線維化組織面積の平均値及び標準偏差によるエラーバーを示したものである。T-検定は、平均値間の統計的有意差の有無を調べるために行われ、p<0.05で統計的に有意差がある。
肝線維化量は健康群に対してNASH群が有意に多い。一方PNP投与群はNASH群に比較して肝線維化量が有意に少ない。
【0089】
製造例9:CH
3O-(CH
2CH
2O)
m-CH
2PhCH
2〔CH
2CH
2(OC(C=O)CH
2CH
2CH
2Ph)
n〕S(=S)OCH
2CH
3(N821)の合成
製造例2(本願)で合成したN717と同様にして合成したN817(1.5g)、アゾビスイソブチロニトリル(45mg)、4-フェニル酪酸ビニル(2g)をフラスコに加え、5分間窒素バブルしたのち60°C、1日反応させた。得られた目的物をTHFに溶解させ、イソプロピルアルコール(IPA)に沈殿、減圧乾燥し目的物(N821)を得た(2.8g)。N821の
1H NMRスペクトルを
図38に示す。
【0090】
製造例10: 自己組織化粒子(Ph-BNP)の調製
製造例9で合成したポリマー(NN821)をそれぞれ50mg採取し、1mLのDMFに溶解させ水を1mL加えて透析膜(MWCO=3.5KDa)に入れて2Lの水に対して透析した。半日ごとに3度透析水を交換した後、動的光散乱測定を行い、平均67nmの粒子が形成していることが確認できた。動的散乱測定の結果である、PEG-b-ポリ(ビニル4-フェニル酪酸)ナノ粒子(Ph-BNP,N832)のサイズ分布を
図44に示す。
【0091】
試験例13:抗アンモニア血症効果
24匹の6週齢C57BL/6Nマウス(オス)をランダムに4群にわけ、4日間に渡ってゾンデによりサンプルを経口投与(1日1回、1.22mmol-4PBA/kg)した。投与群2GP-4GPにおいては、4日目にアセトアミノフェン(アセチル-p-アミノフェノール;APAP;300mg/kg)を腹腔投与することで急性肝障害及び高アンモニア血症を引き起こし、5日目に解剖し評価した。
サンプル投与群:
1GP: 生理食塩
2GP: APAP+水
3GP: APAP+4-フェニル酪酸(200mg/kg,1.22mmol-4PBA/kg)
4GP: APAP+Ph-BNP(200mg/kg,1.22mmol-4PBA/kg)
【0092】
(1)血液の生化学検定
試験開始5日目の心採血直後に血中アンモニア濃度、肝機能指標として血漿アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、血漿アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルをそれぞれ、比色法スライドを用いて動物用生化学自動分析装置で測定した。結果(APAP急性肝障害モデルに対するPh-BNPの経口投与効果)を、
図40に示す。
図より、4-Ph-BNPが有意に血中アンモニア濃度を下げ、また、AST、ALTレベルも有意に低下し、肝機能が回復に寄与していることが分かる。
【0093】
(2)HE染色された肝臓の組織学的解析
解剖後取り出されたマウスの肝臓を、前述した器官又は臓器のHE染色法に従い、染色した。その結果を
図41に示す。図より、APAP投与で肝臓に強く障害が現れているものの、Ph-BNPでダメージが抑制されていることが分かる。図中、Healthyは健康群マウス、APAP投与群マウス、APAP+PBAは、APAPと4-フェニル酪酸の投与群、APAP+Ph-BNPは、APAPとPh-BNP(本発明に従うナノ粒子)の投与群に相当する。
【0094】
試験例15:薬物動態試験
上述の製造例1~8の方法に準じ、該当する改変を常法に従い行い、ベンゼン環をPEGのα末端に有するPEG-b-ポリ(ビニル酪酸)(下式左参照。)及びPEG-b-ポリ(ビニル4-フェニル酪酸)(下式右参照。)のフェニル基にクロラミン法で
125Iを導入し、PD-10カラムにて2回精製、未反応ヨウ素を分別した。
【0095】
(1)
N932を給水瓶から自由摂取させたマウスを24時間後、血液、肝臓および消化管を採取し、そのガンマ線強度をシンチレーション検出器により測定した。結果を、
図42(左)に示す。図より、N932は消化管にほぼ完全に局在化することが確認された。
【0096】
一方、N930をゾンデにより強制経口投与し、24時間後に主要臓器のガンマ線強度を測定した。結果を
図42(右)に示す。この図より、消化管に加えて血液、肝臓、腎臓等広く分布し、4-フェニル酪酸が消化管中で加水分解し、循環系に取り込まれていることが確認できる。
【0097】
(2)
45匹の7週齢ICRマウス(オス)をランダムに以下の3群にわけ、投与群:2GPと3GPの投与量について、含まれるフェニル酪酸が200mg/kg(1.22mmol-4PBA/kg)となるように決定した。各サンプルをほぼ同時に全マウスに投与後、各エンドポイント(30min,1h,2h,4h,12h,16h,24hの7つのエンドポイント)に従い、心臓穿刺によって血液1mL取り、血漿を分離させる。また、マウスからターゲット臓器の肝臓を取り出し、高速液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)によりフェニル酪酸モノマーの含有量を定量化した。測定結果を
図43に示す。これらの図より、PBAは4時間以内に完全に体内から代謝されたのに対して、4-Ph-BNPは血中及び肝臓において持続的にフェニル酪酸モノマーを放出させ、24時間経過時点でもその放出は終わっていなかった。また、濃度時間曲線化面積(AUC)を計算しても、血液においては、4-Ph-BNPはPBAの約3倍、肝臓においては約15倍の増加を見せた。
サンプル投与群:
1GP: 生理食塩 (コントロール、3匹)
2GP: 4-フェニル酪酸 (30min,1h,2h,4h,12h,16h,24hの7つのエンドポイント×3匹)
3GP: Ph-BNP (30min,1h,2h,4h,12h,16h,24hの7つのエンドポイント×3匹)