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特許7548637眼優位性を定量化するためのシステムおよび方法
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  • 特許-眼優位性を定量化するためのシステムおよび方法 図1
  • 特許-眼優位性を定量化するためのシステムおよび方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】眼優位性を定量化するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/08 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A61B3/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023518425
(86)(22)【出願日】2021-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 IT2021050276
(87)【国際公開番号】W WO2022059041
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】102020000022120
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】523100102
【氏名又は名称】ヴィジョンバランス テック エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】ウリ アッソン
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ ノターロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレーリア ダンドレア
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-187786(JP,A)
【文献】特開2005-278662(JP,A)
【文献】特開2017-042301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0287069(US,A1)
【文献】KIM, Seung-Ryeol, et al.,Effect of Ocular Dominance on Touch Position,Journal of Display Technology,2016年04月12日,Vol.12, No.9,pp.912-916,<DOI: 10.1109/JDT.2016.2553219>
【文献】間下以大 他3名,指差し動作における利き手および利き目の影響に関する調査,情報処理学会研究報告,2015年05月11日,VOL.2015-CVIM-197,NO.4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともグラフィック要素を取得するための少なくとも一つの取得手段(3)と、
前記少なくともグラフィック要素を取得するための取得手段(3)から第1距離(D1)に位置する少なくとも一つのターゲット要素(5)であって、システムの使用者が、前記取得手段に前記ターゲット要素が重なって見えるように、前記使用者の目と前記取得手段(3)の間に配置された、ターゲット要素(5)と、
前記グラフィック要素を取得するために、前記取得手段(3)と空間を開けて設置されており、前記取得手段と操作可能に協働する少なくとも一つの追跡手段(4)であって、前記ターゲット要素(5)から第2距離(D2)に位置する少なくとも一人の前記追跡手段(4)の使用者が前記取得手段(3)にグラフィック要素を描いて表示させることを可能とするように設けられている前記追跡手段(4)であり、前記追跡手段は、前記使用者がターゲット要素(5)を離れたところから両目で見ているときの前記ターゲット要素(5)の少なくとも一つの第一輪郭(B)、前記使用者が前記ターゲット要素(5)を片目で見ているときの前記ターゲット要素(5)の少なくとも一つの第二輪郭(L)、および前記使用者が前記ターゲット要素(5)もう片方の目のみで見ているときの前記ターゲット要素(5)の少なくとも一つの第三輪郭(R)、の形で取得手段(3)に少なくとも一人の前記使用者が前記グラフィック要素を描いて表示させることが可能なように設けられている追跡手段(4)と、
前記使用者が前記追跡手段(4)を用いて前記取得手段(3)になぞられた前記輪郭を比較して前記輪郭がどの程度重なるかの関数として眼優位性を定量化するプロセス手段であって、前記使用者の眼優位性を定量化するために第一、第二、そして第三輪郭(B,L,R)を比べるために設けられているプロセス手段とを備える眼優位性の定量化のためのシステム(1)。
【請求項2】
前記取得手段(3)はコンピューターのモニターであり、前記追跡手段(4)はマウスであり、前記輪郭は、前記モニターに表示されたマウスポインタ(4)によって前記取得手段(3)に図示されることを特徴とする請求項1に記載の眼優位性の定量化のためのシステム(1)。
【請求項3】
前記ターゲット要素(5)が円形の要素であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の眼優位性の定量化のためのシステム(1)。
【請求項4】
前記第1距離(D1)は5cmに等しく、前記第2距離(D2)は60cmに等しく、円形の前記ターゲット要素(5)の直径は5cmに等しいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の眼優位性の定量化のためのシステム(1)。
【請求項5】
前記取得手段(3)は位置を検出する手段であり、前記追跡手段(4)は被験者の指またはポインタであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載された眼優位性の定量化のためのシステム(1)。
【請求項6】
使用者の頭の小さな動きによる変動を減少させるシステムをさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の眼優位性の定量化のためのシステム(1)。
【請求項7】
使用者が前記少なくとも一つの追跡手段(4)を介して双眼条件で前記ターゲット要素(5)の輪郭(B)をなぞるステップと、
使用者が前記少なくとも一つの追跡手段(4)を介して片目のみで観察を行う単眼条件で前記ターゲット要素(5)の輪郭(L)をなぞるステップと、
使用者が前記少なくとも一つの追跡手段(4)を介してもう片方の目のみで観察を行う単眼条件で前記ターゲット要素(5)の輪郭(R)をなぞるステップと、
描かれたそれぞれの輪郭について楕円形(B1,L1,R1)を作成し、それぞれの楕円(B1,L1,R1)の中心点(B0,L0,R0)を算出するステップと、
それぞれの条件で何度か追跡を繰り返し行う任意のステップと、
中心点(B0,L0,R0)の組み合わせ同士の距離の差の平均を計算するステップとを含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のシステム(1)によって眼優位性を定量化する方法。
【請求項8】
DRを右眼の単眼条件のときに描かれた楕円の中心点と双眼条件のときに描かれた楕円の中心点の間の距離、DLを左眼の単眼条件のときに描かれた楕円の中心点と双眼条件のときに描かれた楕円の中心点の間の距離として、計算式:
によって中心点(B0,L0,R0)同士の距離の差分の平均を計算することを特徴とする請求項7に記載の眼優位性を定量化する方法。
【請求項9】
使用者の頭の小さな動きによるエラーを正すためのアルゴリズムを含むことを特徴とする請求項7または請求項8のいずれか1項に記載の眼優位性を定量化する方法。
【請求項10】
将来的に優位眼を矯正するために、計測される優位スコアが0になるまで優位眼の前に中性フィルターレンズの付いた眼鏡を置いて中性フィルターを透過する光の割合を減少させるステップを有することを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の眼優位性を定量化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼優位性を定量化するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの基礎的および応用的な背景の実証的研究では、一式の刺激へのサッケードの遅延時間や注視する位置や継続時間といった、眼の動きの測定の分析を必要とする。前段階として、これらの研究は被験者の優位眼を特定する必要がある。簡略化のため、被験者の注目空間と計測された眼の測定値が完全な左右対称であると仮定して、多くの場合片目のみの活動が記録される。そのような対称性がないとしても、行動学の観点から優位眼の測定値が最も適切であると仮定して、研究者は優位眼を記録したと主張することが非常に多い。さらに、眼の優位性の測定は矯正眼鏡や屈折矯正手術の計画を個人に合わせることを可能とする。
【0003】
しかし、眼の優位性を正しく定量化する方法は不足しており、存在するいくつかの方法の成果はまちまちで、双眼視での視覚の明確なモデルによるものは一つもない。
【0004】
特に、先行技術には主に以下の方法が記載されている。
-ランダムな方向への点の移動の片目での検出しきい値の比較を通して眼優位性を測定する方法。この方法は動きの知覚の処理を伴う。
-両眼視野闘争を引き起こす刺激を使用して、それぞれの眼を通して入力された知覚のみが視覚に反映される継続時間を測定して眼優位性を測定する方法。この方法は時間とともに形成される慣れの効果に基づくものであるため、測定された効果が視覚空間の抽出による優位性(知覚)によるものか、長時間空間の一部に注目することによる優位性(注目)によるものかが明確ではない。さらに、この測定は刺激の特性に大きく依存する可能性がある。
-目標に向けての眼の瞬間的な動きの最大速度を通して視覚領域を特徴づける方法。この方法は被験者がターゲットの視覚的特徴を統合し、ターゲットへの眼の動きを計画して実行することを必要とし、さらに眼の追跡をすることが可能であることを必要とする。
-直線の二等分された部分を利用し眼優位性に関連する空間への注意における空間の歪みを測定する方法。
-眼位異常を臨床的に評価するためのヘス-ランキャスター法。
-被験者が手で持っているターゲットを片目の条件で見るために移動させた距離の計測に基づく方法。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、前記先行技術の問題を解決する、迅速で安価な、信頼できる眼優位性を定量化するためのシステムおよび方法であって、他の高次の注意の寄与ではなく、知覚情報の影響のみによって(視覚的注意のような、高次の非知覚的な要素に触れることなく)測定値が決まる、低次視覚領域への貢献を直接定量化するシステムおよび方法を提供することにある。
【0006】
一般に、眼優位性の定量化の既知の方法は感度が低いか、定量的基準というよりは発見的手法に基づいているか、主観的な知覚に基づいているか、または優位性に影響を与える(視覚的注意のような非感覚的な)高次の要素の効果を測定している。
【0007】
本発明の以下の説明に表れる前述の目的や他の利点は、それぞれの独立請求項に記載されているシステムおよび方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態や重要な変形が従属請求項の主題を形成する。
【0008】
添付する全ての請求項が本明細書の不可欠な要素である。
【0009】
添付する請求項に記載されている発明の範囲から逸脱することなく、記載されているものに対して多数の(例えば形や大きさ、配置、そして同様の機能を持った部品に関連する)変形や変更を加えることが可能なことは直ちに明白である。
【0010】
本発明は、添付の図面を参照に、限定的でない方法で例として提供した好適な実施形態によってより詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るシステムの好ましい実施形態の略図である。
図2】本発明に係る方法を使用して検出されたデータの例の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般に、以下でより詳しく示すように、本発明のシステムおよび方法は、双眼視の単純な機械的モデルをもとにした測定を利用して使用者の優位眼を特定するために提供される。このモデルでは、それぞれの眼はピンホールカメラで得られるのと同様の情報を視覚器官に提供する。両眼融合の過程で、一つの世界の映像を得るために二つの眼からの情報が比較される。より大きな影響を与える眼は、優位眼とみなされる。
【0013】
特に、本発明のシステムおよび方法の主なアイデアは、円盤のような単純な物体をそれぞれの眼単体で知覚する単眼での視界を(モニター画面のような)取得手段に投影することである。これらの映像は、その後、双眼視の条件で得られた映像と定量的に比較される。これにより、人の片方または両方の眼での世界の知覚を直接的に反映する、信頼性の高い測定値が得られる
【0014】
そこで、特に図1を参照し、本発明に従った眼優位性の定量化のシステム1は、少なくともグラフィック要素3を取得し任意に映す少なくとも一つの手段と、前記取得手段3から第1距離D1離れた場所に設置された少なくとも一つのターゲット要素5と、前記グラフィック要素を取得するための取得手段と操作可能に協働する少なくとも一つの追跡手段4であって、前記ターゲット要素5から第2距離D2に位置する少なくとも一人の前記システムの使用者が、前記ターゲット要素5を使用者が両目を開いて見る(双眼視条件)ときの前記ターゲット要素5を少なくとも第一輪郭B、前記ターゲット要素5を使用者の左の眼のみで見る(第一単眼条件)前記ターゲット要素5の少なくとも第二輪郭L、前記ターゲット要素5を使用者の右の眼のみで見る(第二単眼条件)前記ターゲット要素5の少なくとも第三輪郭R、の形で前記取得手段3に描写することができるように設けられている前記追跡手段4と、を含むということが可能であり、前記システムはさらに前記追跡手段4を用いて前記取得手段3に使用者が描いた前記輪郭を比較して前記輪郭同士がどの程度重なるかの関数により使用者の眼優位性を定量化するプロセス手段を含むことを示す。
【0015】
好ましくは、前記取得手段3はコンピュータモニターであってもよく、前記追跡手段4はマウスであってもよく、前記輪郭は前記モニターに表示された前記マウスポインタ4を用いて前記取得手段3に図的に描くことができる。
【0016】
好ましくは、前記ターゲット要素5は円形の要素であり、場合によっては、適当な支え2が設けられる。
【0017】
前記第1距離D1は実質的に5cmと等しく、前記第2距離D2は実質的に60cmと等しく、好ましくは使用者の眼と前記取得手段3との距離に対応し、前記ターゲット5がもし円形ならば、実質的に5cmに等しい直径を持つ。
【0018】
異なる追跡および取得手段を使うことで、我々のシステムは被験者とターゲットとの間の異なる距離D2での眼優位性を測定することができる。例えば、前記第2距離D2は約3~4メートルであり、前記ターゲットの直径は約30cmであり、位置を検出する手段(ビデオカメラやキネクトのような;取得手段)は、異なる条件(双眼および単眼)でターゲットの輪郭をなぞる被験者の指やポインタの位置を記録することができる(追跡手段)。他の形態として、前記手段はバーチャルリアリティー環境で実行され、いかなる距離D2でも眼優位性を測定可能とされてもよい。
【0019】
任意的に、本発明のシステム1は、それぞれの試験を行う前に被験者の頭がターゲットと平行で一直線上に並んでいるかを確認するためのシステム、例えば映像によるもの、を含んでもよく、また使用者の頭の小さな動きによる変動を正すための修正アルゴリズムを含んでもよい。
【0020】
また、本発明は上述のようなシステム1を用いた眼優位性を定量化する方法にも関する。特に、本発明の方法は下記のステップを含む。
-使用者が少なくとも一つの前記追跡手段4を用いて双眼条件(自然に開かれた両目で視認する条件)で見た前記ターゲット要素5の輪郭B(図2の複数の丸が描かれた線)をなぞるステップ。
-使用者が少なくとも一つの前記追跡手段4を用いて片目のみで視認する単眼条件(この例では左目)で見た前記ターゲット要素5の輪郭L(図2の複数の正方形が描かれた線)をなぞるステップ。
-使用者が少なくとも一つの前記追跡手段4を用いて他方の片目のみで視認する単眼条件(この例では右目)で見た前記ターゲット要素5の輪郭R(図2の複数の三角形が描かれた線)をなぞるステップ。
-なぞられた輪郭ごとに、楕円形B1,L1,R1を推定し(図2に続く)、そしてそれぞれの楕円形B1,L1,R1の中心点B0,L0,R0を算出するステップ。
-それぞれの条件での追跡を何度か繰り返し行う任意のステップ。
-中心点の組(DR右目対双眼;DL左目対双眼)の距離の差の平均を、数式:
を利用して計算し、ODscore眼優位性を定量化するステップ。
【0021】
我々のモデルを背景とする、単眼が双眼の視覚に与える影響は他の数学的定量化(すなわち楕円形の面積同士の比等)でも表現することができることに注意しなければならない。
【0022】
好ましくは、本発明の眼優位性を定量化するための方法は、さらに、ターゲットと被験者の頭が一直線上にあるかどうかを確認し被験者の頭の小さな動きによって生じるエラーを修正するアルゴリズムを含む。
【0023】
利点として、このシステムおよび方法は、将来的な優位眼への矯正を可能とする。このためには優位眼の前に中性フィルターレンズを持つ眼鏡を置いて、中性フィルターを透過する光の量を、例えば上記の数式で示される、測定された優位性スコア(ODscore)が0になるまで減少させる必要がある。
【0024】
利点として、本発明のシステムおよび方法は、応用的研究において、眼優位性測定の感度と信頼性を向上させる。これは、例えば特定の立場(例えば戦闘機の操縦士)への人員の選定や、特定分野のためのヘッドアップディスプレイ(UHD)の設計などで重要である。本発明のシステムは(ニューラルネットワークを使用して)人間の視聴者が知覚しているもののモデルを構築することを設計目標にしているコンピュータービジョンの分野にも適用することもできる。これは、例えば半自動運転を助けるAIベースのシステムの主要な目的の一つである。これらのシステムにどちらの視覚情報が優位なのかをより理解させることはそれらの有用性そして最終的にはそれらの安全性を向上させる。
【0025】
さらに、本発明に従ったシステムと方法は、基礎的研究に関連して、どのような視覚の研究においても先立って行われる基準的評価となる可能性を持っている。実際に、視覚領域は視覚測定と電気生理学の関連共変量かもしれない。この理由から、本発明に従ったシステムは例えばアイトラッカーのメーカーに補完的なツールとして売ることができる。
【0026】
最後に、臨床の場において、本発明のシステムおよび方法は、弱視、初期段階の緑内障、または、斜視の臨床診断に使用することができる。
図1
図2