(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】触覚センサ、それを用いたロボット、医療機器、および、触覚フィードバック装置
(51)【国際特許分類】
G01L 1/24 20060101AFI20240903BHJP
B25J 19/02 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
G01L1/24 Z
B25J19/02
(21)【出願番号】P 2023569335
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2022045839
(87)【国際公開番号】W WO2023120302
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2021206749
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022017583
(32)【優先日】2022-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 元
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-101096(JP,A)
【文献】特表2003-534542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0011480(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0383678(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0136190(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0158544(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0400886(US,A1)
【文献】特開2003-73497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00,1/24,5/00-5/28
B25J 19/02
C08J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に位置する光源部と、
前記基材上に位置する受光部と、
前記光源部および前記受光部上に位置し、柔軟多孔体からなる触覚部と
を備え、
前記柔軟多孔体は、ネットワーク型相分離構造を有し、
前記柔軟多孔体は、三次元網目状の骨格と、当該骨格により形成された連通する気孔とを備え、
前記気孔の気孔径は、前記骨格の骨格径の1倍以上100倍以下の範囲を満たし、
前記骨格径は、100nm以上50μm以下の範囲を満たし、
前記光源部は、380nm以上3μm以下の範囲を満たす波長の光を発し、
前記柔軟多孔体は、前記光源部からの光を散乱し、
前記受光部は、前記柔軟多孔体で散乱した散乱光を受光し、
前記散乱光の強度は、前記柔軟多孔体が圧縮されるにつれて、漸次的に小さくなる、触覚センサ。
【請求項2】
前記気孔径は、前記骨格径の3倍以上20倍以下の範囲を満たす、請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項3】
前記気孔径は、前記骨格径の5倍以上15倍以下の範囲を満たす、請求項2に記載の触覚センサ。
【請求項4】
前記柔軟多孔体の気孔率は、60%以上99%以下の範囲を有する、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項5】
前記柔軟多孔体の気孔率は、85%以上95%以下の範囲を有する、請求項4に記載の触覚センサ。
【請求項6】
前記柔軟多孔体は、シリコーン、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ゴム、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、および、エポキシ樹脂からなる群から選択される、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項7】
前記光源部は、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、有機EL、および、光ファイバからなる群から選択される、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項8】
前記光源部は、400nm以上1.4μm以下の範囲の波長の光を発する、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項9】
前記光源部は、800nm以上1.1μm以下の範囲の波長の光を発する、請求項8に記載の触覚センサ。
【請求項10】
前記受光部は、フォトレジスタ、フォトトランジスタ、フォトダイオード、光電子倍増管、フォトンカウンタ、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ、NMOSイメージセンサ、および、太陽電池からなる群から選択される、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項11】
前記光源部からの光が出射する面の方向と、前記受光部の前記散乱光を受光する面の方向とは、同一であり、
前記触覚部は、前記光が出射する面および前記受光する面上に位置する、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項12】
前記基材は、フレキシブル基板である、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項13】
前記光源部および前記受光部の動作を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記柔軟多孔体の電位と圧縮率との関係を示すデータを格納したメモリを備える、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項14】
前記気孔径は、100nm以上200μm以下の範囲を満たす、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項15】
前記骨格径は、1μm以上8μm以下の範囲を満たす、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項16】
前記柔軟多孔体の嵩密度は、0.01g/cm
3以上0.4g/cm
3以下の範囲を満たす、請求項
1に記載の触覚センサ。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の触覚センサを備えたロボット。
【請求項18】
請求項1~16のいずれかに記載の触覚センサを備えた医療機器。
【請求項19】
請求項1~16のいずれかに記載の触覚センサを備えた触覚フィードバック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚センサ、それを用いたロボット、医療機器、および、触覚フィードバック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボティクス分野において、人間のような動作をロボットにより実現するために、触覚は重要であり、近年触覚センサの開発が盛んである(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1は、基板と、基板上に固定した発光素子及び受光素子と、基板上に、前記発光素子及び前記受光素子を覆うように設けられた光透過性弾性部材からなる触覚部とを備える柔軟触覚センサを開示する。前記発光素子と前記受光素子は、前記光透過性弾性部材の内部に埋め込まれていて、前記光透過性弾性部材の部分を介して離間対向している。前記発光素子から出射された光は、前記発光素子と前記受光素子との間の光透過性弾性部材の部分を透過して前記受光素子で受光される。前記触覚部に外力が加えられた時の前記光透過性弾性部材の部分の密度変化に伴って受光素子で受光される光量が変化する。そして、柔軟触覚センサは、前記受光素子で受光される光量の変化を取得する。
【0004】
発光素子の発した光の散乱/反射光を、受光素子が受光するように構成されたものに対し、発光を遮るように発泡ウレタンで覆った圧力検知器が開発されている(例えば、非特許文献1および特許文献2を参照)。非特許文献1および特許文献2によれば、発光素子の発光した光が光散乱用弾性素材(発泡ウレタン)内で散乱/反射し、光散乱用弾性素材内に発光部を中心とした光の強度分布を構成する。受光素子は、配置された場所における光の強度に相関した光電流を流すので、その光電流を信号として取り出すことができる。光散乱用弾性素材に圧力をかけることにより、光散乱用弾性素材は変形を起こす。光散乱用弾性素材が変形すると、光散乱用弾性素材内において光の強度分布が変化する。このことにより受光素子の配置された場所における光の強度が変化する。そして、光の強度の変化が圧力情報として取り出される。特に、このような圧力検知器は、非特許文献1の
図1に示されるように、光散乱用弾性素材が圧縮されるほど、密度が大きくなり、反射光が増加し、受光素子の光量が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-101096号公報
【文献】特許第4868347号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yoshiyuki Ohmuraら,Proceedings of the 2006 IEEE International Conference on Robotics and Automation,1348-1353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の触覚センサは、触覚部内に光源部および受光部を埋め込む必要があることから、光透過性弾性部材を交換しにくいという問題があった。また、発光素子の厚みと受光素子の厚みとを加味する必要があることや、発光素子と受光素子との間の光路長を確保する必要があることから、触覚部に一定の厚さをもたせる必要があり、センサの小型化、高密度化に限界がある。
【0008】
また、非特許文献1および特許文献2の圧力検知器によれば、発光素子、光散乱用弾性素材からの散乱光/反射光、および、受光素子の光路上にある程度の透過性が求められるため、光散乱用弾性素材の骨格構造を疎にする必要がある。発泡ウレタンに代表される光散乱用弾性素材は、一定以上薄くなると光が漏れるため、検出精度が低下する、さらには検出できない場合がある。そのため、素子の配置の制限、および、光散乱用弾性素材の厚さの制限により、小型化には限界がある。
【0009】
以上の事情を考慮して、本発明の課題は、触覚部の交換が用意であり、小型化および高密度化可能な触覚センサ、それを用いたロボット、医療機器、および、触覚フィードバック装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の触覚センサは、基材と、前記基材上に位置する光源部と、前記基材上に位置する受光部と、前記光源部および前記受光部上に位置し、柔軟多孔体からなる触覚部とを備え、前記柔軟多孔体は、ネットワーク型相分離構造を有し、前記柔軟多孔体は、三次元網目状の骨格と、当該骨格により形成された連通する気孔とを備え、前記気孔の気孔径は、前記骨格の骨格径の1倍以上100倍以下の範囲を満たし、前記骨格径は、100nm以上50μm以下の範囲を満たし、前記光源部は、380nm以上3μm以下の範囲を満たす波長の光を発し、前記柔軟多孔体は、前記光源部からの光を散乱し、前記受光部は、前記柔軟多孔体で散乱した散乱光を受光し、前記散乱光の強度は、前記柔軟多孔体が圧縮されるにつれて、漸次的に小さくなり、これにより上記課題を解決する。
前記気孔径は、前記骨格径の3倍以上20倍以下の範囲を満たしてもよい。
前記気孔径は、前記骨格径の5倍以上15倍以下の範囲を満たしてもよい。
前記柔軟多孔体の気孔率は、60%以上99%以下の範囲を有してもよい。
前記柔軟多孔体の気孔率は、85%以上95%以下の範囲を有してもよい。
前記柔軟多孔体は、シリコーン、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ゴム、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、および、エポキシ樹脂からなる群から選択されてもよい。
前記光源部は、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、有機EL、および、光ファイバからなる群から選択されてもよい。
前記光源部は、400nm以上1.4μm以下の範囲の波長の光を発してもよい。
前記光源部は、800nm以上1.1μm以下の範囲の波長の光を発してもよい。
前記受光部は、フォトレジスタ、フォトトランジスタ、フォトダイオード、光電子倍増管、フォトンカウンタ、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ、NMOSイメージセンサ、および、太陽電池からなる群から選択されてもよい。
前記光源部からの光が出射する面の方向と、前記受光部の前記散乱光を受光する面の方向とは、同一であり、前記触覚部は、前記光が出射する面および前記受光する面上に位置してもよい。
前記基材は、フレキシブル基板であってもよい。
前記光源部および前記受光部の動作を制御する制御部をさらに備え、前記制御部は、前記柔軟多孔体の電位と圧縮率との関係を示すデータを格納したメモリを備えてもよい。
前記気孔径は、100nm以上200μm以下の範囲を満たしてもよい。
前記骨格径は、1μm以上8μm以下の範囲を満たしてもよい。
前記柔軟多孔体の嵩密度は、0.01g/cm3以上0.4g/cm3以下の範囲を満たしてもよい。
本発明によるロボットは、上述の触覚センサを備え、これにより上記課題を解決する。
本発明の医療機器は、上述の触覚センサを備え、これにより上記課題を解決する。
本発明の触覚フィードバック装置は、上述の触覚センサを備え、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による触覚センサは、基材と、当該基材上に位置する光源部および受光部と、当該光源部および当該受光部上に位置し、ネットワーク型相分離構造を有し、三次元網目状の骨格と、当該骨格により形成された連通する気孔とを備え、気孔径が骨格径(骨格径は100nm以上50μm以下の範囲を満たす)の1倍以上100倍以下の範囲を満たす、柔軟多孔体を備える触覚部とを備える。光源部からの光の波長は、380nm以上3μm以下の範囲を満たすように設定されており、上述の気孔径と骨格径とが特定の関係を有する柔軟多孔体は、骨格に基づく散乱光を発生する。そして、当該散乱光を受光した受光部は、散乱光強度の変化により、柔軟多孔体の変形を検出できる。ここで、上述の柔軟多孔体を用いることにより、柔軟多孔体からの散乱光の強度は、柔軟多孔体が圧縮されるにつれて、漸次的に小さくなるように変化するため、このような変化に基づいて、変形を高精度に検出できる。
【0012】
本発明による触覚センサによれば、触覚部は、触覚部内に光源部および受光部を埋め込む必要がないため、触覚部の交換が容易であり、触覚部の厚さも薄くできる。したがって、触覚センサの小型化を可能にする。さらに、光源部と受光部との間隔を短くすることができるため、センサの高密度化を可能とする。
【0013】
本発明の触覚センサをインナーイヤー型イヤホン、パッキンなどの器具に適用すれば、圧力によってこれら器具が正しく装着されているか検出できる。また、本発明による触覚センサを用いれば、人間の皮膚感覚を備えるロボットや触診を可能にする内視鏡等の医療機器、触覚フィードバック装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】本発明の触覚センサのメカニズムを示す別の図
【
図12】例1のマシュマロゲルP2を使用した触覚センサを用いた試験結果を示す図
【
図13】例5のメラミンフォームP5を使用した触覚センサを用いた試験結果を示す図
【
図14】例4のPMMA多孔体P4を使用した触覚センサを用いた試験結果を示す図
【
図15】例16の触覚センサによる50%圧縮時の散乱光強度の波長依存性を示す図
【
図16】グリッパを備えたロボットアームを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明による触覚センサを示す模式図である。
図2は、柔軟多孔体を示す模式図である。
【0017】
本発明の触覚センサ100は、基材110と、基材110上に位置する光源部120と、基材110上に位置する受光部130と、これら光源部120および受光部130上に位置する柔軟多孔体からなる触覚部140とを備える。このような構成により、本発明の触覚センサ100は、柔軟多孔体の変形を検出できる。
【0018】
柔軟多孔体は、ネットワーク型相分離構造を有する。ネットワーク型相分離構造とは、いわゆる骨格相が連続性を保ったまま相分離した構造である。電子顕微鏡により曲面から構成された連続骨格形態が観察されれば、柔軟多孔体がネットワーク型相分離構造を有すると判定できる。ネットワーク型相分離構造には、製造方法の違いによってスピノーダル分解型相分離構造、粘弾性相分離構造等がある。いずれの構造も、球状粒子が融合・熟成したような骨格形態をとることが知られている。このようなネットワーク型分離構造を柔軟多孔体が有することにより、ミー散乱が生じやすくなり、精度よく検出できる。
【0019】
本発明の柔軟多孔体は、連通する気孔210(
図2)と、三次元網目状の骨格220(
図2)とを備え、柔軟性を有する。気孔210は、三次元網目状の骨格220により形成される。骨格220の間の空隙が気孔210であるとも換言できる。
図2に例示される通り、骨格220は、粒子が連続的に結合した形状である。詳細には、本発明で適用する柔軟多孔体における気孔210の気孔径は、骨格220の骨格径の1倍以上100倍以下の範囲を満たす。ここで、骨格径は、100nm以上50μm以下の範囲を満たす。これにより、柔軟多孔体において、外部応力の除荷時も、圧縮歪みに応じて散乱光変化を生じることができる。
【0020】
本願明細書において、柔軟多孔体とは、外部応力の印加によって気孔の体積が縮小し、密度の変化とともに圧縮変形するが、外部応力を除去すると、元に戻るものを意図する。柔軟多孔体としては、10MPa以下のヤング率を有するものが好ましいく、1kPa以上100kPa以下のヤング率を有するものがより好ましい。
【0021】
本願明細書において、骨格径とは、電子顕微鏡像において、骨格220に内接する円を100個配置し、その円の直径d(
図2)の平均値とする。また、気孔径は、電子顕微鏡像上にランダムに20本の線を引き、当該20本の線における気孔210に相当する区間の長さの平均値とする。なお、各線において気孔210に相当する区間は複数存在し得る。骨格径と気孔径との特定は、ImageJ(ver. 1.52n;オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェア)を用いた画像解析により行う。
【0022】
光源部120は、380nm以上3μm以下の範囲を満たす波長の光を発する。これにより、上述の気孔径と骨格径とが特定の関係を有する柔軟多孔体は、外部応力の印加時、ならびに、除荷時のいずれにおいても、光源部120からの光を吸収することなく、散乱できる。受光部130は、柔軟多孔体で散乱した散乱光を受光し、その散乱光の強度を電気信号(例えば、電位)に変換する。ここで、柔軟多孔体からの散乱光の光強度は、柔軟多孔体が圧縮されるにつれて、漸次的に小さくなるよう変化する。すなわち、柔軟多孔体が非圧縮の際がもっとも散乱光強度が大きく、柔軟多孔体の圧縮の程度によって、散乱光強度は小さくなる。
【0023】
図3は、本発明の触覚センサのメカニズムを示す図である。
図4は、本発明の触覚センサのメカニズムを示す別の図である。
【0024】
図3の状態A~状態Cに対応する散乱光強度の変化および電位の変化を、それぞれ、
図4(A)および
図4(B)に示す。外部応力がなく、触覚部140(柔軟多孔体)が圧縮されていない場合(
図3の状態A)、光源部120からの光は、触覚部140の骨格によって散乱され、散乱光410が生じる。散乱光410は、受光部130で受光され、当該受光された散乱光410の強度は電気信号(例えば、電位)に変換される。この場合の散乱光の強度I
Aは、高く(大きく)なり、小さな電位V
Aに変換される。
【0025】
外部応力が印加され、触覚部140が圧縮されている場合(
図3の状態B)、光源部120からの光は、同様に散乱される。ただし、触覚部140が圧縮されるため、骨格が密になり、散乱光410の強度I
Bは、強度I
Aよりも低く(小さく)なる。この場合の散乱光の強度I
Bは、電位V
Aより大きな電位V
Bに変換される。
【0026】
外部応力がさらに印加され、触覚部140がさらに圧縮されている場合(
図3の状態C)、光源部120からの光は、同様に散乱されるただし、触覚部140がさらに圧縮されるため、骨格がさらに密になり、散乱光410の強度I
Cは、強度I
Bよりも低く(小さく)なる。この場合の散乱光の強度I
Cは、電位V
Bより大きな電位V
Cに変換される。
【0027】
このように触覚部140の圧縮による密度の違いによって生じる散乱光強度の変化が、電位の変化として検出される。したがって、電位の変化から、圧縮があったか否か、さらには、圧縮の程度を検出することができる。ここでは、簡単のため、状態A~Cの3種類を用いて説明したが、電位の大きさのみで圧縮の程度を検出できるため、これら3種類に限らず、細かい検出を可能にする。
【0028】
さらに、このような散乱光強度の変化は、圧縮による密度変化に追随して生じるため、タイムラグが生じることなく検出できる。さらに、受光部130は、散乱光強度のわずかな変化も検出し、電気信号に変換できるので、触覚部140のわずかな歪みも容易に検出できる。
【0029】
より詳細に本発明のメカニズムを説明する。
本発明では、触覚部140を構成する柔軟多孔体におけるミー散乱(多重散乱)を利用する。光の波長と同程度の大きさをもつ粒子は強いミー散乱を起こすことが一般的に知られている。ミー散乱は球状粒子で起こる現象としてとらえられることが多いが、スピノーダル分解型相分離や粘弾性相分離で作製されたモノリス型多孔体表面や内部においても、球状粒子が融合したような凹凸性のある骨格形態から、ミー散乱を生じやすい。本願発明者は、多孔体に入射した光が内部で多重散乱を起こし、入射光近傍に戻ってきた光(チンダル現象)の強度を検出することにより多孔体の変形を検出できると考えた。
【0030】
モノリス型多孔体を圧縮すると、単位空間における骨格の体積比が増加する。モノリスの巨視的な圧縮では多孔体を構成する骨格径はほとんど変わらないことから、骨格体積比の変化はミー散乱源の密度変化と見做すことができる。散乱源の密度が増加すれば、入射光が受光部に達するまでに起こる散乱回数も増加する。散乱を繰り返すと干渉などにより光が減衰していくため、多孔体を圧縮するほど受光部で検出される光強度は弱くなる。この光強度の変化を観測することで、触覚の評価(すなわち、多孔体の変形の検出)が可能になる。
【0031】
ここで、非特許文献1および特許文献2に記載の圧力検知器と、本発明の触覚センサとの違いについて述べておく。上述したように、非特許文献1および特許文献2に記載の圧力検知器は、発泡ウレタンを用い、圧縮時の発泡ウレタン内の散乱/反射を利用する。詳細には、圧縮によりウレタン骨格が密になると単位空間に占める散乱/反射源が増加し、入射点からその近傍にある検出点に向かう散乱/反射率が増大する。そのため、圧縮するほど検出光強度が高くなる。したがって、圧縮による再帰性の向上を利用する点が、本発明の触覚センサのメカニズムと異なる。また、発泡ウレタンは、そもそも、相分離によって製造されないため、スピノーダル分解型相分離構造や粘弾性相分離構造を有さない。そのため、発泡ウレタンの圧縮時には、散乱光の強度が小さくなることはない。したがって、非特許文献1および特許文献2に記載の圧力検知器は、本発明の触覚センサとはメカニズムが異なるとともに、採用されている光散乱用弾性素材が異なる。
【0032】
上述したように、所定の骨格径に対する気孔径の比を有する柔軟多孔体であれば、外部応力の除荷時、ならびに、外部応力の印加時に関わらず、散乱光を生じる。ただし、広い波長域で安定した散乱光を生じる観点から、柔軟多孔体外観は白色であることが好ましい。
【0033】
柔軟多孔体の気孔210の気孔径は、より好ましくは、骨格220の骨格径の3倍以上20倍以下の範囲を満たし、さらに好ましくは、5倍以上15倍以下の範囲を満たす。これにより、柔軟多孔体において、外部応力の除荷時も、圧縮歪みに応じて散乱光変化を生じることができる。
【0034】
柔軟多孔体の気孔210の気孔径は、好ましくは、100nm以上200μm以下の範囲である。これにより、柔軟多孔体において、外部応力の除荷時も、圧縮歪みに応じて散乱光変化を生じることができる。気孔210の気孔径は、より好ましくは、500nm以上100μm以下の範囲であり、さらに好ましくは、1μm以上50μm以下の範囲である。
【0035】
柔軟多孔体の骨格220の骨格径は、散乱光強度の変化の観点から、より好ましくは、300nm以上20μm以下の範囲であり、さらに好ましくは、300nm以上10μm以下の範囲であり、特に好ましくは1μm以上8μm以下の範囲である。
【0036】
柔軟多孔体の気孔率は、好ましくは、60%以上99%以下の範囲を満たす。これにより、外部応力により変形し、散乱光の強度変化を検出できる。柔軟多孔体の気孔率は、より好ましくは、75%以上99%以下の範囲を満たし、さらに好ましくは85%以上95%以下の範囲を満たす。本願明細書において、気孔率(百分率)は、嵩密度を真密度で除した数を100倍した後、100から引くことによって得られる。なお、真密度は、ヘリウムピクノメトリー法によって測定される。
【0037】
柔軟多孔体の嵩密度は、好ましくは、0.01g/cm3以上0.4g/cm3以下の範囲であってよい。嵩密度がこの範囲であれば、上述の気孔率を満たし得る。より好ましくは、嵩密度は、0.05g/cm3以上0.3g/cm3以下の範囲であってよい。
【0038】
柔軟多孔体の厚さに制限はないが、好ましくは、100μm以上10cm以下の範囲である。100μmより薄いと、透過光が多くなり、検出精度が低下する場合がある。柔軟多孔体の厚さの上限は特に制限はないが、10cmを超えると触覚センサ100が大型化するため、取り回しがよくない場合がある。柔軟多孔体の厚さは、より好ましくは、500μm以上3cm以下の範囲であってよい。
【0039】
上述の条件を満たすことができる柔軟多孔体の材料としては、例示的には、シリコーン、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ゴム、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、および、エポキシ樹脂からなる群から選択される。
【0040】
シリコーンとしては、例えば、テトラアルコキシシラン(TEAS)、メチルアルコキシシラン(MTAS)、および、ジメチルジアルコキシシラン(DMDAS)とを含む組成物において、これらケイ素アルコキシドの加水分解、加水分解生成物の重縮合により形成されたポリシロキサンであり、水溶液中において所定のケイ素アルコキシドの重縮合反応に伴う粘弾性相分離により骨格形成されるシリコーン組成である。このようなシリコーンについては、例えば、Gen Hayase,Bulletin of the Chemical Society of Japan,94[9],2021,2210-2215、Gen Hayaseら,J.Mater.Chem.A,2014,2,6525-6531、Gen Hayaseら,ACS Appl.Polym.Mater.2019,1,8,2077-2082等を参照できる。
【0041】
ウレタン樹脂としては、例えば、有機溶媒中でアルキル側鎖を有するポリオールとポリイソシアネート化合物との硬化反応を行い、相分離を制御しながら均質にゲル化させ、洗浄・溶媒交換を行なった後、乾燥することにより得られる。
【0042】
アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を溶解させた水・アルコールの混合溶液を冷却し、相分離させ、微量の可塑剤を溶解した溶媒で洗浄後、乾燥することにより得られる。別のアクリル樹脂としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)を溶解したジメチルスルホキシド(DMSO)と水との混合溶液を冷却し、相分離させ、可塑剤を含侵させてもよい。このようなアクリル樹脂については、例えば、Shinya Yonedaら,Polymer,55,2014,3212-3216等を参照できる。
【0043】
ゴムは、天然ゴムであってもよいし、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムであってもよい。
【0044】
ポリスチレン樹脂は、スチレンおよびその誘導体を主体とする重合体であれば特に制限はない。
【0045】
ポリエステル樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等があり得る。
【0046】
ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルを主体とする重合体であり、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。ポリ塩化ビニリデンは、例えば、ビニリデンである。
【0047】
ポリアミド樹脂は、例えば、ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン610、ナイロン612、芳香族ナイロン、アラミド等であってよい。
【0048】
ポリイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮合重合体である。セルロース樹脂は、アセテート、トリアセテート、酸化アセテート等である。
【0049】
ポリオレフィン樹脂は、オレフィン類を主体とする重合体であり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等である。
【0050】
芳香族ポリエーテルケトンは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトンである。
【0051】
エポキシ樹脂は、エポキシ化合物単体、または、これと硬化剤とからなるものであるが、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂である。
【0052】
柔軟多孔体の気孔210は、気体(空気)のみで充たされていることが好ましいが、変形性を大きく損なわない限り、骨格220の屈折率と異なる屈折率を有する液体やエラストマーを含んでいてもよい。これにより、水中などの液中での使用が可能になる。
【0053】
なお、以上のような柔軟多孔体の製造には、公知の製造技術が任意に採用される。例えば、「A. Surendran, J. Joy, J. Parameswaranpillai, S. Anas, S. Thomas, An overview of viscoelastic phase separation in epoxy based blends. Soft Matter. 16, 3363-3377 (2020).」に記載の方法や「Y. Xin, Q. Xiong, Q. Bai, M. Miyamoto, C. Li, Y. Shen, H. Uyama, A hierarchically porous cellulose monolith: A template-free fabricated, morphology-tunable, and easily functionalizable platform. Carbohydr. Polym. 157, 429-437 (2017).」に記載の方法において材料を適宜に変更して、本発明に係る柔軟多孔体を製造することが可能である。
【0054】
光源部120は、より好ましくは、400nm以上1.4μm以下の範囲の波長を発する。この範囲であれば、光源の入手が容易であり、特にシリコーンなどの光透過率の高い柔軟多孔体の場合には、ミー散乱を生じやすい。光源部120は、より好ましくは、800nm以上1.1μm以下の範囲の波長を発する。
【0055】
光源部120は、上述の範囲を満たす波長の光を発するものであれば、制限はないが、例示的には、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、有機EL、および、光ファイバからなる群から選択される。これらであれば、上述の条件を満たす波長の光を出射できる。LEDやLD等を使った導光板、液晶ディスプレイも光源部120として使用できる。
【0056】
受光部130は、散乱光を受光し、散乱光の強度を電気信号に変更できるものであれば特に制限はない。受光部130は、例示的には、フォトレジスタ、フォトトランジスタ、フォトダイオード、光電子倍増管、フォトンカウンタ、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ、NMOSイメージセンサ、および、太陽電池からなる群から選択される。これらはいずれも光を受光し、電気信号に変換でき、入手が容易である。
【0057】
図1では、光源部120と受光部130とが対となり、基材110上に3対配置されているが、本発明はこのような構成には限られない。例えば、光源部120は1つであり、その周りに多数の受光部130を配置してもよい。光源部120と受光部130とを兼ね備えたフォトリフレクタを用いてもよい。フォトリフレクタを用いれば、フォトリフレクタ上に触覚部140を配置するだけでよいので、触覚センサ100の構築が容易である。
【0058】
本発明の触覚センサ100によれば、好ましくは、光源部120からの光が出射する面の方向と、受光部130の散乱光を受光する面の方向とは同一となり、これら光が出射する面および受光する面上に触覚部140を構成する柔軟多孔体が位置するように配置される。光源部120からの光が出射する面の方向と、受光部130の散乱光を受光する面の方向とが同一とは、光源部120からの光が出射する面と、受光部130の散乱光を受光する面とが平行であるとも換言できる。このような構成により、触覚部140の配置・交換が容易であるばかりか、光源部120から出射された光のうち触覚部140にて散乱された散乱光は、180°戻ってくるので、受光部130において検出しやすい。また、触覚部140内に光源部120および受光部130を埋め込む必要がないため、触覚部140を薄くでき、小型化を可能にする。ただし、本発明は、受光部130が触覚部140からの散乱光を受光可能であれば、光源部120からの光が出射する面の方向と、受光部130の散乱光を受光する面の方向とが異なる構成(例えば光源部120と受光部130とが触覚部140を挟んで位置する構成)も採用され得る。
【0059】
基材110は、光源部120、受光部130および触覚部140を位置させることができる限り特に制限はないが、金属基板、アルミナ等のセラミック基板、シリコン等の半導体基板、ガラス基板、ポリカーボネートなどのプラスチック基板などを適用できる。例えば、基材110としてフレキシブルなプラスチック基板を採用すれば、人間のような皮膚を持つロボットに適用できる。また、基材110は平板に限らず、湾曲していてもよい。なお、光源部120からの光が出射する面の方向と、受光部130の散乱光を受光する面の方向とが同一でない場合には、光源部120を設置する基材と受光部130を設置する基材とを別個に設けてもよい。
【0060】
本発明の触覚センサ100は、好ましくは、光源部120および受光部130の動作を制御する制御部(図示せず)をさらに備えてもよい。制御部は、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の演算処理装置を具備する。例えば、制御部(演算処理装置)は、光源部120については、所定のタイミングにて所定の波長を有する光を発するように制御し、受光部130については、光源部120による光の出射に並行して、受光した散乱光の強度を電気信号(例えば、電位)に変換するように制御してもよい。
【0061】
制御部は、触覚部140を構成し得る種々の柔軟多孔体の電位と圧縮率との関係を示すデータを格納したメモリ(記憶装置)をさらに備えてもよい。これにより、制御部は、受光部130からの電気信号(例えば、電位)に基づいて、柔軟多孔体の圧縮率および外部応力を容易に算出できる。
【0062】
本発明の触覚センサ100によれば、特許文献1と異なり、光源からの光を柔軟多孔体に透過させた透過光を検出する必要がないため、光源部120と受光部130との間に隙間は不要であり、高密度化が可能である。この結果、多点検出の可能な触覚センサを実現できる。
【0063】
図16は、グリッパを備えたロボットアームを示す模式図である。
図17は、内視鏡を示す模式図である。
図18は、ゲーム用コントローラを示す模式図である。
【0064】
本発明の触覚センサ100は、ロボットのグリッパ1610(
図16)、内視鏡等の医療機器(
図17)、または、スマートフォンおよびゲーム用コントローラ(
図18)などの触覚フィードバック装置に適用できる。本発明の触覚センサ100は人間の皮膚のような繊細な感覚を有するため、ロボットの皮膚やグリッパに適用すれば、人間と同様の検出を可能にする。内視鏡の先端に適用すれば、硬い本体が直接患部に触ることなく、患部の状態を軽く触れるだけで検知でき、病変の確認が容易になる。本発明の触覚センサ100をインナーイヤー型イヤホン、パッキンなどの器具に適用すれば、圧力によってこれら器具が正しく装着されているか検出できる。
【0065】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0066】
[柔軟多孔体]
柔軟多孔体として、性状の異なるシリコーンモノリス型多孔体を製造した。表1に示すように、5mM酢酸に界面活性剤(CTAC、セチルトリメチルアンモニウムクロリド)1.0gと、尿素とを加え、室温で溶解させた。次いで、これにメチルトリメトキシシラン(MTMS)3.0mL、および、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)2.0mLを混ぜ、15分間攪拌し、組成物を調製した。
【0067】
組成物をPFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製密閉容器(ゲル型)に移し、80℃で12時間加熱し、反応(ゲル化・エージング)させ、粘弾性相分離構造をもつ湿潤ゲルを作製した。
【0068】
得られた湿潤ゲルを型から外し、5倍量以上の純水で1回、工業アルコールで2回、それぞれ6時間以上の浸漬洗浄を行なった後、50℃で蒸発乾燥させ、乾燥状態のシリコーン多孔体(マシュマロゲルと呼ぶ場合がある)を得た。得られたシリコーン多孔体を、表1に示す酢酸量および尿素量に基づいて、マシュマロゲルP1~P3と称する。
【0069】
【0070】
柔軟多孔体として、アクリル樹脂であるPMMA多孔体を粘弾性相分離によって製造した。詳細には、エタノール80%および水20%(体積比)の混合溶媒10mLを80℃に保ち、よく攪拌しながらPMMA(平均分子量350,000、シグマアルドリッチ(メルク)製)0.40gを加えて溶解させた。PMMAが完全に溶解したのを確認した後、ゾルが入ったバイアルを20℃で静置・空冷してゲル化を行なった。得られた湿潤ゲルを十分量の水に8時間×2回浸漬して洗浄した後、5%のグリセリンを含む水溶液に浸漬して溶媒交換を行なった。室温で真空乾燥を行い、PMMA多孔体P4を得た。
【0071】
このようにして得られたマシュマロゲルP1~P3、PMMA多孔体P4、メラミンフォームP5(レック株式会社製、S-691)および化粧用コットンP6について性状を調べた。P1~P6を、走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテク製、Miniscope TM3000およびFE-SEM、株式会社日立ハイテク製、S-4800)により観察した。観察結果を
図5~
図10に示す。
【0072】
図5は、マシュマロゲルP1のSEM像を示す図である。
図6は、マシュマロゲルP2のSEM像を示す図である。
図7は、マシュマロゲルP3のSEM像を示す図である。
図8は、PMMA多孔体P4のSEM像を示す図である。
図9は、メラミンフォームP5のSEM像を示す図である。
図10は、化粧用コットンP6のSEM像を示す図である。
【0073】
図5~
図10には、各多孔体について種々の倍率のSEM像を示す。
図5~
図7によれば、マシュマロゲルP1~P3は、粘弾性相分離構造を有し、シリコーンを主成分とする粒子が連なった三次元網目状骨格と、その骨格によって形成された貫通孔(気孔)とを備える多孔体であることが分かった。同様に、
図8によれば、PMMA多孔体P4は、粘弾性相分離構造を有し、アクリル樹脂の粒子が連なった三次元網目状骨格と、その骨格によって形成された貫通孔とを備える多孔体であった。一方、
図9によれば、メラミンフォームP5も、三次元網目状骨格を有するが粒子状の連続構造は見られなかった。
図10によれば、化粧用コットンP6は、繊維状であり、粒子状の骨格を有する柔軟多孔体ではなかった。
【0074】
マシュマロゲルP1~P3、PMMA多孔体P4およびメラミンフォームP5の気孔径、骨格径、気孔率およびヤング率を測定した。気孔径および骨格径は、走査型電子顕微鏡により観察した電子画像を上述の方法にしたがってImage Jによる画像解析により算出した。ヤング率は、圧縮率1~2%で圧縮したときの圧縮応力をその圧縮率で除した値とした。これらの結果を表2に示す。気孔率(百分率)は、体積・重量を計測して求めた嵩密度を真密度で除した数を100倍した後、100から引くことによって得た。
【0075】
【0076】
なお、化粧用コットンP6は、繊維質であり、気孔径、骨格径、気孔率およびヤング率を測定することは困難であった。
【0077】
[例1~例15]
上述のマシュマロゲルP1~P3、PMMA多孔体P4、メラミンフォームP5および化粧用コットンP6を用いて、触覚センサを製造した。光源部(LED)および受光部(Geフォトトランジスタ)を備えるフォトリフレクタ(オン・セミコンダクター社製、QRE1113GR)を基材に実装した反射センサ(Pololu社製、QTR-1A)等の上に、表3に示す厚さに調整したMS1~MS5を配置し、例1~例15の触覚センサとした。LEDは、波長940nmの光と波長525nmの光とを発するものを使用した。
【0078】
【0079】
【0080】
例1~例15の触覚センサ100を直流安定化電源(アズワン製、PS30V5A01)に接続し、電圧および応力・歪みの変化を力学試験装置(株式会社島津製作所製、EZ-SX)で測定した。結果を
図12~
図14に示す。
【0081】
図12は、例1のマシュマロゲルP2を使用した触覚センサを用いた試験結果を示す図である。
図13は、例5のメラミンフォームP5を使用した触覚センサを用いた試験結果を示す図である。
図14は、例4のPMMA多孔体P4を使用した触覚センサを用いた試験結果を示す図である。
【0082】
図12(A)および
図13(A)は、それぞれ、各触覚センサに10秒かけて外部応力(50%圧縮)を印加した後、10秒かけて外部応力を除荷し、10秒レストさせるサイクル(全10サイクル)を示す。
図12(B)および
図13(B)は、このサイクルに応答した、応力と電位との関係を示す図である。
図12(C)および
図13(C)は、このサイクルに応答した、圧縮歪みと電位との関係を示す図である。
【0083】
図12(B)によれば、マシュマロゲルを用いた例1の触覚センサは、外部応力の印加に応じて、電位が連続的に増大し、外部応力の除荷に応じて、電位が連続的に減少した。同様に、
図12(C)によれば、例1の触覚センサは、圧縮歪みの増大に応じて、電位が連続的に増大し、圧縮歪みの減少に応じて、電位が連続的に減少した。図示しないが、例2~例3、例7~例15の触覚センサも、電位の大きさに多少の違いはあるものの、同様のプロファイルを示した。なお、
図12(B)において、ヒステリシスが見られるのは、外部応力印加時のマシュマロゲルの変形の速さと、外部応力を除荷時のマシュマロゲルの変形の速さとが異なるためである。
【0084】
一方、
図13(B)および
図13(C)によれば、メラミンフォームP5を用いた例5の触覚センサは、外部応力の印加・除荷をしても、すなわち、圧縮歪みを変化させても、電位変化はわずかであり、触覚センサとして用いるには不十分であった。図示しないが、化粧用コットンP6を用いた例6の触覚センサも、電位の変化を生じなかった。
【0085】
PMMA多孔体P4は、マシュマロゲルやメラミンフォームと比べてヤング率が大きい一方、形状回復が遅い。そのため、
図14(A)に示すように、触覚センサに30秒かけて外部応力(10%圧縮)を印加した後、30秒かけて外部応力を除荷した1サイクルについて試験した。
図14(A)の除荷後、外部応力が0%に戻っていないのは、力学試験装置の治具がPMMA多孔体P4の上面から離れたためである。この時点で試験を打ち切った。
【0086】
図14(B)は、このサイクルに応答した、応力と電位との関係を示す図であり、
図14(C)は、このサイクルに応答した、圧縮歪みと電位との関係を示す図である。
【0087】
図14(B)によれば、PMMA多孔体P4を用いた例4の触覚センサは、外部応力の印加に応じて、電位が連続的に増大し、外部応力の除荷に応じて、電位が連続的に減少した。
図12(B)と同様に、ヒステリシスが見られたが、これは、PMMA多孔体P4の変形が遅いため、応力0になった後も歪みが残ったためである。なお、時間をかけることにより歪みは解消するため、ヒステリシスは閉じ、元の電位に戻る。
図14(C)によれば、例4の触覚センサは、圧縮歪みの増大に応じて、電位が連続的に増大し、圧縮歪みの減少に応じて、電位が連続的に減少した。
【0088】
[例16]
例16は、上述のマシュマロゲルP2を用いて別の触覚センサを製造した。光源部としてハロゲン光源(株式会社ケンコー・トキナー製、KTX-100E)ならびに、受光部としてミニ分光器(株式会社浜松ホトニクス製、C13555MA)をそれぞれ接続した光ファイバ先端を基材上に5mm離間して配置し、その上にマシュマロゲルP2(直径24mm高さ20mmの円柱)を配置し、例16の触覚センサとした。ハロゲン光源は、
図15で示された350nm~830nmよりも広範囲であった。上述の力学試験装置を用い、マシュマロゲルP2が非圧縮の際に受光部で検出する散乱光強度に対する、50%圧縮した際の散乱光強度の比を調べた。結果を
図15に示す。
【0089】
図15は、例16の触覚センサによる50%圧縮時の散乱光強度の波長依存性を示す図である。
【0090】
図15において縦軸は、非圧縮時の散乱光強度に対する50%圧縮時の散乱光強度比の百分率である。
図15によれば、触覚部としてシリコーンである柔軟多孔体を用いた場合には、柔軟多孔体は、380nm未満の波長の入射光を骨格吸収するため、圧縮変化を散乱光強度の変化で検出できなかった。このことから、380nm以上の波長を有する光を発する光源部を用いる必要があることが示された。
【0091】
図15によれば、入射光の波長400nm~850nmの範囲において、散乱光強度比は約30%を維持することが分かった。
図15では、波長850nmまでしか示さないが、3μmの波長まで散乱光強度比約30%を維持することを確認した。このことから、本発明の触覚センサは、380nm以上3μm以下の範囲の波長を有する光を発する光源部を使用できることが示された。
【0092】
柔軟多孔体として、シリコーンモノリス型多孔体であるマシュマロゲルP7,P8も製造した。
【0093】
マシュマロゲルP7は、以下の通りに製造した。イオン交換水10mL、塩化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)1.0g、および、1M酢酸水溶液0.67mLの混合溶液に、メチルトリエトキシシラン(MTES)3.0mLと、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)2.0mLとを加えて10分間撹拌後に、さらに1Mアンモニア水1.33mLを加えて1分間、強撹拌することで、組成物を調整した。
【0094】
そして、組成物を密閉容器にすぐ移して15分室温で静置してゲル化させた後、80℃で1日間かけてエージングさせて、湿潤ゲルを作製した。
【0095】
得られた湿潤ゲルを容器から取り出し、80℃のエタノールを数時間おきに交換しながら計24時間以上にわたり浸漬洗浄した。最後に、浸漬洗浄後の湿潤ゲルを蒸発乾燥することで、マシュマロゲルP7を得た。
【0096】
マシュマロゲルP8は、以下の通りに製造した。5mM酢酸水溶液25mL、塩化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)1.0g、および、尿素8.0gの混合溶液に、メチルトリメトキシシラン(MTMS)2.6mLと、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)2.4mLとを加えて30分撹拌することで、組成物を調整した。そして、組成物を密閉容器に移した。
【0097】
密閉容器を80℃で1日かけて反応(ゲル化・エージング)させて、湿潤ゲルを作製した。得られた湿潤ゲルを容器から取り出し、80℃のエタノールを数時間おきに交換しながら計24時間以上にわたり浸漬洗浄した。最後に、浸漬洗浄後の湿潤ゲルを蒸発乾燥することで、マシュマロゲルP8を得た。
【0098】
図19は、マシュマロゲルP7のSEM像を示す図であり、
図20は、マシュマロゲルP8のSEM像を示す図である。
図19および
図20によれば、マシュマロゲルP7,P8は、粘弾性相分離構造を有し、シリコーンを主成分とする粒子が連なった三次元網目状骨格と、その骨格によって形成された貫通孔(気孔)とを備える多孔体であることが分かった。
【0099】
マシュマロゲルP7,P8の気孔径、骨格径、気孔率、ヤング率および嵩密度を、P1~P5と同様の方法で、測定した。これらの結果を表4に示す。
【0100】
【0101】
マシュマロゲルP7,P8を用いた触覚センサは、例1の触覚センサと同様に、380nm以上3μm以下の範囲の波長の光を発する光源部を用いた場合に、外部応力の印加に応じて、電位が連続的に増大し、外部応力の除荷に応じて、電位が連続的に減少した。また、マシュマロゲルP7,P8を用いた触覚センサは、例1の触覚センサと同様に、圧縮歪みの増大に応じて、電位が連続的に増大し、圧縮歪みの減少に応じて、電位が連続的に減少するという傾向も確認された。
【0102】
以上から、基材上に光源部と受光部とを備え、光源部および受光部の上に、三次元網目状の骨格と当該骨格により形成された連通する気孔と、を備え、気孔径が骨格径の1倍以上100倍以下、好ましくは3倍以上20倍以下の範囲を満たす柔軟多孔体からなる触覚部を備えた触覚センサにおいて、380nm以上3μm以下の範囲の波長の光を発する場合に、柔軟多孔体は、光源部からの光を散乱し、受光部は、柔軟多孔体で散乱した散乱光を受光することによって、触覚部の外部応力の印加による変化を電気信号によって検出できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の触覚センサは、柔軟多孔体で生じる散乱光を利用するため、微妙な圧力変化に対しても高精度に検出できる。このような触覚センサをロボットの表面に適用すれば、人間のような動作・感覚を有するロボットを提供できる。このような触覚センサを内視鏡の先端に適用した医療機器、触覚フィードバック装置を提供できる。
【符号の説明】
【0104】
100 触覚センサ
110 基材
120 光源部
130 受光部
140 触覚部
210 気孔
220 骨格
410 散乱光
1610 グリッパ