(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】歯科切削加工用複合材料
(51)【国際特許分類】
A61K 6/15 20200101AFI20240903BHJP
A61K 6/77 20200101ALI20240903BHJP
A61K 6/836 20200101ALI20240903BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20240903BHJP
A61K 6/884 20200101ALI20240903BHJP
A61C 13/003 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61K6/15
A61K6/77
A61K6/836
A61K6/70
A61K6/884
A61C13/003
(21)【出願番号】P 2024524751
(86)(22)【出願日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2024014840
【審査請求日】2024-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2023066013
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593021459
【氏名又は名称】YAMAKIN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】岩本 孝樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 喬大
(72)【発明者】
【氏名】中越 秀司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄司
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-104914(JP,A)
【文献】特開2017-124981(JP,A)
【文献】東北大学歯学雑誌,1997年,Vol.16,pp.62-69
【文献】日本補綴歯科学会雑誌,1991年,Vol.35,pp.103-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
A61K 5/00- 7/36
A61C 8/00-13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第1部材と、前記(A)第1部材の少なくとも一部に接する(B)第2部材とを含む
、芯材被覆タイプ又は積層タイプの歯科切削加工用複合材料であって、
前記(A)第1部材は、(C)第1硬化性樹脂及び(D)ガラス繊維を含み、
前記(B)第2部材は、(E)第2硬化性樹脂及び(F)無機フィラーを含み、
前記(A)第1部材の3点曲げ強さは、500MPa以上であり、
前記(B)第2部材の3点曲げ強さは、500MPa未満であ
り、
前記切削加工が、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工である、
歯科切削加工用複合材料。
【請求項2】
前記(B)第2部材は、前記(A)第1部材の少なくとも一部に被覆又は積層されている、請求項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
【請求項3】
前記(A)第1部材の断面積に対する前記(B)第2部材の断面積の比率が0.05~100である、請求項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
【請求項4】
前記(A)第1部材の断面積が、3~330mm
2である、請求項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
【請求項5】
前記(B)第2部材の断面積が、270~330mm
2である、請求項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
【請求項6】
前記(A)第1部材は、さらに、着色顔料を含む、請求項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
【請求項7】
前記歯科切削加工用複合材料の3点曲げ弾性率は、14~33GPaである、請求項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の歯科切削加工用複合材料から
、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により作製された歯科補綴物。
【請求項9】
ブリッジである、請求項8に記載の歯科補綴物。
【請求項10】
前記ブリッジは、支台装置部と連結部と架工歯部とを有している、請求項9に記載の歯科補綴物。
【請求項11】
破壊強さが、3000N以上である、請求項10に記載の歯科補綴物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科切削加工用複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯を失った場合、その代わりとなる歯を入れる治療には、現在、ブリッジ、入れ歯、インプラントという主に3つの治療方法が選択できる。そのうち、ブリッジは、支台装置部と、架工歯部と、連結部とが一体となって構成される。支台装置部は、欠損歯の両側又は片側に残存している歯(残存歯)を支台歯(土台)として用い、この支台歯に欠損歯の代わりとなる人工歯を固定するための部分である。架工歯部は、欠損歯の機能及び形態を人工的に回復するための部分である。連結部は、これら支台装置部と架工歯部とを連結させる部分である。このブリッジとしては、例えば、大臼歯を含む3歯連結補綴物(3本ブリッジ)の用途の場合、両隣の歯を支台歯にして、欠損歯の代わりとなる人工歯を支えるため、ある程度の強度が必要である。例えば、3本ブリッジの場合、JIS T 6526(歯科用セラミック材料)に準拠した3点曲げ試験における曲げ強さは、500MPa以上であることが求められている。
【0003】
これまでに、ブリッジに用いるための歯科材料としては、例えば、樹脂(プラスチック)を繊維と複合化させた繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)が提案されている(特許文献1)。
この特許文献1には、(メタ)アクリレート系単量体組成物、重合開始剤及び無機粉末を含有してなる重合性単量体組成物を含浸した繊維からなる歯科用材料が記載されている。このような樹脂から得られた歯科用材料を用いれば、ブリッジ等の歯科補綴物を作製することができるが、歯科補綴物の作製を歯科技工士が手作業で行う必要がある。また、この特許文献1に記載の作製方法は、作業工程が多く煩雑である。よって、特許文献1に記載の作製方法は、歯科補綴物の作製に時間を要し、また、歯科技工士の技量が品質に影響する可能性があった。
【0004】
そこで、近年は、省力化等を目的に、歯科用CAD/CAM(Computer-Aided design/Computer-Aided Manufacturing)システムが普及している。このシステムを用いれば、様々な歯科補綴物が作製できるようになった。例えば、繊維強化プラスチックの硬化物から、歯科補綴物のフレーム部分を切削加工し、フレーム部分の上にレジン材料を手作業で築盛して歯冠部分を作製することができる。
しかしながら、前記システムは、作製工程が煩雑であり、レジン材料の中に気泡が混入した場合には、歯科補綴物の強度が低下するおそれがあった。
また、歯科補綴物の歯冠部分を、歯科用樹脂の硬化物から、CAD/CAMシステムを用いて作製することができる。
しかしながら、CAD/CAMシステムを用いて別々に作製されたフレーム部分と歯冠部分とを、歯科接着用レジンセメントを用いて手作業で一体化する必要があった。そのため、歯科接着用レジンセメントに気泡が混入した場合、歯科補綴物の強度が低下するおそれがある等の作製上の課題があった。
【0005】
また、特許文献2には、透明性が異なる少なくとも2層を含む多層構造で、かつ、それらの層に硬化性樹脂とファイバー材を含む歯科切削加工用ブロック状複合材料であって、CAD/CAMシステムを用いた切削加工によって歯科用補綴装置を作製することができる歯科切削加工用ブロック状複合材料が記載されている。
しかしながら、特許文献2の実施例で評価されているのはコントラスト比だけであって、前記歯科切削加工用ブロック状複合材料の機械的特性については不明であった。
また、この特許文献2に記載された歯科切削加工用ブロック状複合材料は、ファイバー材を含まない歯科用樹脂の層が含まれていない。そのため、この歯科切削加工用ブロック状複合材料を切削加工した後に、ファイバー材を含まない歯科用樹脂を築盛せずに用いた場合、口腔内での咬合による摩耗により、ファイバー材が口腔内で露出し、口腔内を傷つけるおそれがあるといった問題がある。
【0006】
一方で、歯科用ブリッジには、特許文献1に記載するような樹脂を繊維と複合化させた繊維強化プラスチックから得られた歯科用材料だけでなく、歯科用セラミックス材料であるジルコニアも使用されている。ジルコニアは、材料強度が高いため、補強するためのフレーム部分が必要なく、切削加工で歯科補綴物全体を作製することが可能である。
しかしながら、ジルコニアから作製される切削物は半焼結体であるため、切削後に高温で焼成する本焼結工程も必要である。そのため、ジルコニアから作製される歯科用ブリッジも作製工程が煩雑であるといった作製上の課題がある。
そこで、一度の切削加工のみでブリッジ用の歯科補綴物を作製でき、また、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さ、及び、歯質と近似した3点曲げ弾性率を有する歯科補綴物を作製することができる歯科切削加工用複合材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-104822号公報
【文献】特開2017-124981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、CAD/CAMシステムによる一度の切削加工で、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さ、及び、歯質に近い3点曲げ弾性率を有する歯科補綴物を作製することができる歯科切削加工用複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、硬化性樹脂及びガラス繊維を含み、500MPa以上の3点曲げ強さを有する第1部材の少なくとも一部が、硬化性樹脂及び無機フィラーを含み、500MPa未満の3点曲げ強さを有する第2部材に接している歯科切削加工用複合材料が、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
(A)第1部材と、前記(A)第1部材の少なくとも一部に接する(B)第2部材とを含む歯科切削加工用複合材料であって、
前記(A)第1部材は、(C)第1硬化性樹脂及び(D)ガラス繊維を含み、
前記(B)第2部材は、(E)第2硬化性樹脂及び(F)無機フィラーを含み、
前記(A)第1部材の3点曲げ強さは、500MPa以上であり、
前記(B)第2部材の3点曲げ強さは、500MPa未満である、歯科切削加工用複合材料。
項2.
前記(B)第2部材は、前記(A)第1部材の少なくとも一部に被覆又は積層されている、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項3.
前記(A)第1部材の断面積に対する前記(B)第2部材の断面積の比率が0.05~100である、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項4.
前記(A)第1部材の断面積が、3~330mm2である、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項5.
前記(B)第2部材の断面積が、270~330mm2である、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項6.
前記(A)第1部材は、さらに、着色顔料を含む、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項7.
前記歯科切削加工用複合材料の3点曲げ弾性率は、14~33GPaである、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項8.
項1~7のいずれか一項に記載の歯科切削加工用複合材料から切削加工により作製された歯科補綴物。
項9.
ブリッジである、項8に記載の歯科補綴物。
項10.
前記ブリッジは、支台装置部と連結部と架工歯部とを有している、項9に記載の歯科補綴物。
項11.
破壊強さが、3000N以上である、項10に記載の歯科補綴物。
項12.
前記(A)第1部材の体積が、100~20000mm3である、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項13.
前記(B)第2部材の体積が、20~11000mm3である、項1に記載の歯科切削加工用複合材料。
項14.
(A1)芯材と、前記(A1)芯材の少なくとも一部を被覆する(B1)被覆材とを含む歯科切削加工用複合材料であって、
前記(A1)芯材は、(C)第1硬化性樹脂及び(D)ガラス繊維を含み、
前記(B1)被覆材は、(E)第2硬化性樹脂及び(F)無機フィラーを含み、
前記(A1)芯材の3点曲げ強さは、500MPa以上であり、
前記(B1)被覆材の3点曲げ強さは、500MPa未満であり、かつ、
前記(A1)芯材の断面積は、3~14mm2である、歯科切削加工用複合材料。
項15.
前記(A1)芯材の体積が、100~460mm3である、項14に記載の歯科切削加工用複合材料。
項16.
前記(A1)芯材は、さらに、着色顔料を含む、項14に記載の歯科切削加工用複合材料。
項17.
歯科切削加工用複合材料の3点曲げ弾性率は、14~33GPaである、項14に記載の歯科切削加工用複合材料。
項18.
ブリッジに用いる、項14に記載の歯科切削加工用複合材料。
項19.
項14~18のいずれか一項に記載の歯科切削加工用複合材料から切削加工により作製された歯科補綴物。
項20.
ブリッジである、項19に記載の歯科補綴物。
項21.
前記ブリッジは、支台装置部と連結部と架工歯部とを有している、項20に記載の歯科補綴物。
項22.
破壊強さが、3000N以上である、項21に記載の歯科補綴物。
【0011】
なお、本発明のうち、製造工程で規定された歯科切削加工用複合材料は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又は、その構造がどのようなものであるか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、CAD/CAMシステムによる一度の切削加工で、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さ、及び、歯質に近い3点曲げ弾性率を有する歯科補綴物を作製することができる歯科切削加工用複合材料を提供することができる。
また、前記歯科切削加工用複合材料は、密度が歯質に近いことから、前記歯科切削加工用複合材料から作製された歯科補綴物は、口腔内に設置した際に咬合バランスが崩れにくく、咬合バランスが崩れることによって発生する健康被害(歯の摩耗又は破折、顎関節症、肩こり、ストレス等)を軽減することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の歯科切削加工用複合材料の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の歯科切削加工用複合材料の別の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の歯科切削加工用複合材料の別の一例を示す正面図(
図3a)及び前記正面図のA-A’線断面図(
図3b)である。
【
図4】
図4は、3本ブリッジ破壊試験を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の歯科補綴物(3本ブリッジ)の一例を示す断面模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の歯科補綴物(3本ブリッジ)の別の一例を示す断面模式図である。
【
図7】
図7は、3本ブリッジ破壊試験で使用する実施例20の試験片を示す斜視図である。なお、
図7中の2箇所の破線部分は、3本ブリッジの連結部を意味している。
【
図8】
図8は、
図7に示す3本ブリッジ破壊試験で使用する実施例20の試験片の断面模式図である。
【
図9】
図9は、3本ブリッジ破壊試験で使用する比較例8の試験片の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
歯科切削加工用複合材料
本発明の歯科切削加工用複合材料は、(A)第1部材と、前記(A)第1部材の少なくとも一部に接する(B)第2部材とを含む歯科切削加工用複合材料であって、
前記(A)第1部材は、(C)第1硬化性樹脂及び(D)ガラス繊維を含み、
前記(B)第2部材は、(E)第2硬化性樹脂及び(F)無機フィラーを含み、
前記(A)第1部材の3点曲げ強さは、500MPa以上であり、
前記(B)第2部材の3点曲げ強さは、500MPa未満である。
本発明の歯科切削加工用複合材料は、特に限定はなく、例えば、
図3に示すような芯材被覆タイプ(芯鞘構造タイプ、コアシェルタイプ等と言い換えることができる。)、
図1及び
図2に示すような積層タイプ(積層体と言い換えることができる。)等が挙げられる。
【0015】
(A)第1部材
(A)第1部材は、(C)第1硬化性樹脂及び(D)ガラス繊維を含んでいる。(A)第1部材は、「第1部材」、「第1部材(A)」、「芯材」、「(A1)芯材」又は「芯材(A1)」と言い換えることもできる。
また、本発明の歯科切削加工用複合材料は、
図3で示すような芯材被覆タイプである場合、(A1)芯材と、前記(A1)芯材の少なくとも一部を被覆する(B1)被覆材とを含む。
そして、本発明の歯科切削加工用複合材料が、
図1に示すような積層タイプ(2層タイプ)である場合、(A2)第1層と、(B2)第2層とを含む。また、本発明の歯科切削加工用複合材料が、
図2に示すような積層タイプ(3層タイプ)である場合、(A2-1)第1-1層と、(A2-2)第1-2層と、(B2)第2層とを含む。
【0016】
また、(A1)芯材は、(C)第1硬化性樹脂及び(D)ガラス繊維を含んでいる。
【0017】
(C)第1硬化性樹脂
(C)第1硬化性樹脂は、例えば、
(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び/又は
(C2)低粘性重合性モノマー
を含む重合性モノマー含有組成物(以下、「第1の重合性モノマー含有組成物」ということもある。)が重合硬化されたもの等が挙げられる。
すなわち、(A)第1部材は、例えば、
(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び
(C2)低粘性重合性モノマー
を含む重合性モノマー含有組成物、並びに、
(D)ガラス繊維を含む第1部材用組成物が重合硬化されたもの等が挙げられる。
前記第1部材用組成物には、(D)ガラス繊維が含まれていることから、前記第1部材用組成物の硬化体である第1部材には、(C)第1硬化性樹脂とともに(D)ガラス繊維を含有することになる。
【0018】
(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー
本発明では、(A)第1部材の(C)第1硬化性樹脂の構成単位を構成する重合性モノマーとして、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー(以下、「C1成分」ということもある。)を用いる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味している。(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、歯科切削加工用複合材料に高い強度を付与する目的で使用されるモノマーである。
【0019】
前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーとしては、歯科用として使用可能な多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー(単量体)であって、31℃における粘度が5mPa・sを超えるものを使用することができる。このような多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーには、例えば、ビスフェノールAを含むジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート2モルとジイソシアネート1モルとの反応生成物であるウレタンジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0020】
前記(C1)多官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキサ-3,14-ジオキソ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート(1,6-ビス((メタ)アクリロイルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン)、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)との反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシエチル(メタアクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、ビスフェノールAグリシジルジメタクリレート(Bis-GMA)、及びエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(Bis-EMA)が好ましく、UDMA、及びBis-EMAがより好ましい。
【0022】
これら(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、単独で使用できるが、2種類以上の多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーを混合して使用してもよい。
【0023】
なお、前記(A)第1部材に含まれる(C)第1硬化性樹脂は、前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーに加えて、粘度、重合性、又はその他の物性の調節のため、上記多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー以外の他の重合性モノマー、例えば、下記(C2)低粘性重合性モノマーを混合して重合することも可能である。
【0024】
(C2)低粘性重合性モノマー
(C2)低粘性重合性モノマーは、ガラス繊維に含浸させる重合性モノマー含有組成物の粘度を調整し、その含浸性を上げる目的で使用されるモノマーである。(C2)低粘性重合性モノマーは、前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーに対して希釈剤として作用する、すなわち、粘度を低下させる作用を有し、前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーと混合可能なモノマーである。なお、(C2)低粘性重合性モノマーには、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーは含まれない。
【0025】
(C2)低粘性重合性モノマーには、粘度の低い、例えば、31℃における粘度が5mPa・s以下の重合性モノマーを使用することができる。(C2)低粘性重合性モノマーとして、例えば、メタクリル酸(粘度:0.3mPa・s未満(31℃)、1.34mPa・s未満(25℃))、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)(粘度:3mPa・s(31℃)、5mPa・s未満(25℃))、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)(粘度:5mPa・s(31℃)、9mPa・s未満(25℃))、アクリル酸(粘度:1.3mPa・s(20℃))、アクリル酸メチル(粘度:0.482mPa・s(21℃))、アクリル酸エチル(粘度:0.535mPa・s(25℃))、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(粘度:6mPa・s(25℃))、ネオペンチルグリコールジアクリレート(粘度:6mPa・s(25℃))、メタクリル酸メチル(粘度:0.56mPa・s(20℃))、メタクリル酸エチル(粘度:1mPa・s以下(25℃))、メトキシジエチレングリコールメタクリレート(粘度:2mPa・s(25℃))、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート(粘度:7mPa・s(25℃))、フェノキシエチレングリコールメタクリレート(粘度:7mPa・s(25℃))、エチレングリコールジメタクリレート(粘度:3.2mPa・s(20℃))、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(粘度:6mPa・s(25℃))、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(粘度:5mPa・s(25℃))等が挙げられる。これらは、分子の長さが短いため、硬化時に重合率を高める効果も有している。なお、粘度の下限としては、特に限定はなく、例えば、0.01mPa・s程度が挙げられる。
(C2)低粘性重合性モノマーとしては、メタクリル酸、ジエチレングリコールジメタクリレート、及びトリエチレングリコールジメタクリレートが好ましい。
【0026】
第1の重合性モノマー含有組成物は、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー又は(C2)低粘性重合性モノマーのいずれか1つを含んでいればよく、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー及び(C2)低粘性重合性モノマーを含んでいてもよい。第1の重合性モノマー含有組成物としては、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー及び(C2)低粘性重合性モノマーを含んでいることが好ましい。
前記第1の重合性モノマー含有組成物中に含まれる(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーの含有量は、通常0~100質量%であり、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。
前記第1の重合性モノマー含有組成物中に含まれる(C2)低粘性重合性モノマーの含有量は、通常0~100質量%であり、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。
第1の重合性モノマー含有組成物として、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー及び(C2)低粘性重合性モノマーを含む場合、前記第1の重合性モノマー含有組成物中に含まれる前記(C2)低粘性重合性モノマーの含有量は、前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー100質量部に対して、通常5~150質量部であり、好ましくは10~100質量部であり、より好ましくは20~70質量部であり、さらに好ましくは30~50質量部である。
【0027】
(C1)多官能の(メタ)アクリレート重合性系モノマー及び(C2)低粘性重合性モノマーを含む重合性モノマー混合物の31℃における粘度は、通常8~2300mPa・sであり、好ましくは15~1000mPa・sであり、より好ましくは25~150mPa・sである。重合性モノマー混合物の粘度を上記範囲内にすることにより、重合性モノマー含有組成物が重合硬化時に大きく収縮することによる成形不良を防ぐとともに、ガラス繊維の間に重合性モノマー含有組成物を十分に含浸することで高強度の第1部材(芯材)を得ることができる。
なお、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー、(C2)低粘度重合性モノマー及び重合性モノマー混合物の粘度は、SV型(音叉振動式)粘度計又はB型(回転式)粘度計を用いて31℃で測定して求めることができる。
【0028】
任意の添加剤
本発明の歯科切削加工用複合材料は、さらに必要に応じて、任意の添加剤を配合することができる。
添加剤としては、(G)重合開始剤、重合促進剤、着色顔料、乳濁材、蛍光体、オパール化材、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影材、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤等のその他公知の各種添加剤を配合することができる。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。重合性モノマー含有組成物は、(G)重合開始剤を含むことが製造効率の観点から好ましく、(G)重合開始剤及び着色顔料を含むことが製造効率及び審美性の観点からより好ましい。
【0029】
前記(G)重合開始剤としては、一般的に使用されている重合開始剤であれば特に限定はなく、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましい。一般に、重合開始剤は、重合性モノマーの重合手段によって異なる種類のものが使用される。例えば、重合手段が光照射の場合には光重合開始剤が用いられる。重合手段が加熱処理の場合には熱重合開始剤が用いられる。
【0030】
前記光重合開始剤としては、特に限定はなく、紫外光又は可視光で反応し、ラジカルを発生する光重合開始剤を使用することができる。具体的には、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、カンファーキノン(CQ)、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα-ジケトン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル;2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物等;ベンゾフェノン、p,p'-ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p'-ジメトキシアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物が挙げられる。
【0031】
前記熱重合開始剤としては、特に限定はなく、過酸化物、アゾ化合物等の公知の熱重合開始剤を使用することができる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、4,4'-アゾビス-4-シアノバレリック酸、1,1'-アゾビス-1-シクロヘキサンカーボニトリル、ジメチル-2,2'-アゾビスイソブチラート、2,2'-アゾビス-(2-アミノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
【0032】
前記(G)重合開始剤の含有量は、前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーと前記(C2)低粘性重合性モノマーとの合計100質量部に対して、通常0.002~5質量部であり、好ましくは0.01~3質量部であり、より好ましくは0.05~1質量部であり、さらに好ましくは0.1~0.3質量部である。前記(G)重合開始剤の含有量を上記範囲内にすることにより、(G)重合開始剤が前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーと前記(C2)低粘性重合性モノマーに溶解し、重合性モノマー含有組成物を重合硬化させることができる。なお、(G)重合開始剤の量は、ごく少量(0.01質量部以下)であっても重合性モノマー含有組成物は十分に硬化して、高強度の(A)第1部材を得ることができる。
【0033】
また、前記(A)第1部材に用いる重合性モノマーの重合には、上記の(G)重合開始剤に加え、重合促進剤を組み合わせて使用することができる。
前記重合促進剤は、一般的に光重合開始剤と組み合わせて使用される。前記重合促進剤としては、特に限定はなく、例えば、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(DMABE)、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル等を使用することができる。
【0034】
第1の重合性モノマー含有組成物の製造方法
第1の重合性モノマー含有組成物は、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー、(C2)低粘性重合性モノマー、及び、さらに必要に応じて、(G)重合開始剤を混合して製造することができる。
【0035】
上記第1の重合性モノマー含有組成物中の各成分の混合割合(混合比)は、粘性及び使用目的によって適宜調整することができる。前記(G)重合開始剤を混合する場合、前記(G)重合開始剤の配合量(含有量)としては、例えば、前記(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマーと前記(C2)低粘性重合性モノマーとの合計100質量部に対して、0.002~5質量部となるように配合することができる。
さらに必要に応じて、第1の重合性モノマー含有組成物中に、無機フィラー、重合促進剤、着色顔料、乳濁材、オパール化材、蛍光体、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影材、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤等の添加物を適宜配合することができる。
【0036】
前記第1の重合性モノマー含有組成物の製造方法は、前記の各成分を容器に所定量加えて、十分に混練して均一に分散する工程を備えている。
【0037】
(D)ガラス繊維
前記(A)第1部材は、(D)ガラス繊維を含有する。(D)ガラス繊維は、歯科材料として用いられる公知のガラス繊維を制限なく用いることができる。
(D)ガラス繊維の材質としては、例えば、A-ガラス、C-ガラス、D-ガラス、E-ガラス、ECR-ガラス、AR-ガラス、S-ガラス等が挙げられる。A-ガラスは、全量に対し、72質量%のSiO2、0.6質量%のAl2O3、10質量%のCaO、2.5質量%のMgO及び14.7質量%のNa2Oを含むガラス組成を意味する。C-ガラスは、全量に対し、65質量%のSiO2、14質量%のAl2O3、5質量%のB2O3、7~14質量%のCaO、3質量%のMgO、8~11質量%のNa2O及び1質量%のK2Oを含むガラス組成を意味する。D-ガラスは、全量に対し、74質量%のSiO2、0.5質量%のAl2O3、22質量%のB2O3、0.5質量%のCaO、1質量%のNa2O、1.5質量%のK2O及び0.5質量%のLi2Oを含むガラス組成を意味する。E-ガラスは、全量に対し、52~56質量%のSiO2、12~16質量%のAl2O3、0~0.8質量%のFe2O3、0~13質量%のB2O3、15~25質量%のCaO、0~6質量%のMgO、合計して0~2質量%のNa2O+K2O、0~1.5質量%のTiO2、及び0~1質量%のF2を含むガラス組成を意味する。ECR-ガラスは、全量に対し、58.2質量%のSiO2、11.3質量%のAl2O3、0.3質量%のFe2O3、22質量%のCaO、2.7質量%のMgO、0.1質量%のNa2O、0.5質量%のK2O、2.2質量%のTiO2及び2.7質量%のZnOを含むガラス組成を意味する。AR-ガラスは、全量に対し、62.5質量%のSiO2、0.5質量%のAl2O3、0~0.8質量%のFe2O3、5.7質量%のCaO、14.2質量%のNa2O、0.3質量%のK2O、及び16.8質量%のZrO2を含むガラス組成を意味する。S-ガラスは、全量に対し、65質量%のSiO2、25質量%のAl2O3、及び10質量%のMgOを含むガラス組成を意味する。好ましい(D)ガラス繊維の材質は、E-ガラス、AR-ガラス、及びS-ガラスである。
【0038】
(D)ガラス繊維の平均繊維径は、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、通常1~100μmであり、2~20μmが好ましく、3~15μmがより好ましい。なお、平均繊維径は、電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、ガラス繊維の配向方向に対して垂直な断面の走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製作所製「SU3500H-800NA型」等)画像写真を撮り、そのSEM画像写真の単位視野内に観察されるガラス繊維(100本以上)の繊維径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Mac-View」等)を用いて測定することにより、ガラス繊維の平均繊維径を求めることができる。このとき、ガラス繊維の繊維径は、そのガラス繊維の面積と同一の面積を持つ円の直径である円相当径として求められ、ガラス繊維の数とその繊維径より平均繊維径が算出される。(D)ガラス繊維としては、前記平均繊維径を有する市販品を用いてもよい。また、前記(D)ガラス繊維の平均繊維径は、例えば、平均繊維径の異なる繊維(例えば、市販品)を混合することによって、平均繊維径を調整することもできる。
【0039】
(D)ガラス繊維の形状は、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、ガラス繊維が織り込まれた織り構造(以下、「ガラス繊維織物」ということもある)が好ましく、織り構造ではないストレート状のガラス繊維がより好ましい。織り構造とは、縦糸と横糸の二方向のガラス繊維を交差させて織り込むことで形成される構造のことであり、例えば、平織り、綾織り、サテン織り、バスケット織り、からみ織り、レノ織り、モックレノ織り等が挙げられる。
【0040】
(D)ガラス繊維は、さらに必要に応じて、表面処理剤で処理されたものを用いることができる。複合化する硬化性樹脂との接着性を高め、機械的強度を向上させる観点から、(D)ガラス繊維は、表面処理剤で処理されていることが好ましい。
【0041】
使用される表面処理剤及びその表面処理法としては、公知の物質及び方法が採用され、特に限定されない。表面処理剤の例としては、シラン化合物、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、14-(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシランシリルイソシアネート、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン等のシランカップリング材等の、無機酸化物の表面改質剤として使用される化合物が挙げられる。
【0042】
前記(D)ガラス繊維を表面処理剤により処理する方法としては、特に限定はなく、例えば、ガラス繊維と表面処理剤とをアルコール等の溶剤中で数十分間~10時間程度、好ましくは1時間~5時間の範囲で加熱環流する方法等が挙げられる。また、表面処理剤の加水分解を促進する必要があれば、該溶剤中に水、酢酸等の酸性水を添加して上記範囲内で加熱環流した後、溶媒を除去し常圧若しくは減圧下乾燥する方法が挙げられる。
【0043】
表面処理剤の配合量は、該(D)ガラス繊維100質量部に対して、通常0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部の範囲である。なお、表面処理後のガラス繊維は、処理前のガラス繊維に比べて、繊維径にほとんど変化はない。
【0044】
前記(D)ガラス繊維がガラス繊維織物である場合、ガラス繊維織物の厚みは、通常0.1~0.5mmであり、好ましくは0.1~0.3mmである。また、ガラス繊維織物の目付は、例えば、平織りの場合、通常10~790g/m2であり、好ましくは17~400g/m2である。
ガラス繊維織物は、市販されているものを使用してもよい。
【0045】
前記(A)第1部材における(D)ガラス繊維の充填率は、(A)第1部材の全量において、通常48~80質量%であり、好ましくは60~78質量%であり、より好ましくは70~77質量%である。(D)ガラス繊維の含有率を上記範囲にすることにより、ガラス繊維間の隙間に重合性モノマー含有組成物が含浸され、十分な強度の第1部材が得ることができる。
ここで、(D)ガラス繊維の充填率は、得られた第1部材から所定の寸法の試験片を切削加工にて作製し、その質量(前質量)を測定した後、電気炉を用いて所定の時間加熱処理して第1部材の有機成分を焼却し、残渣の質量(後質量)を測定することにより算出することができる。なお、ガラス繊維が、表面処理剤により処理されている場合には、加熱処理により焼却されない表面処理剤の無機成分は、厳密にはガラス繊維の充填率に含まれるが、表面処理剤に含まれる無機成分は無視できる程度の微量であるため、表面処理剤に含まれる無機成分によってガラス繊維の充填率はほとんど変わらない。
【0046】
前記(A)第1部材は、上記(C1)~(C2)成分及び(D)ガラス繊維以外に、(G)重合開始剤、前記の添加剤(重合促進剤、着色顔料、乳濁材等)等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0047】
着色顔料としては、天然歯の色調又は透明性を模倣するために、一般の歯科治療の用途での公知の材料が使用できる。なお、着色顔料には、乳濁材としての役割を含むものもある。着色顔料としては、特に限定はなく、例えば、無機顔料、有機顔料等の顔料が挙げられる。
顔料の色の種類としては、白色顔料、赤色顔料、黒色顔料、黄色顔料等が挙げられる。具体的には、酸化鉄系着色顔料、酸化ジルコニウム顔料、チタンホワイト、チタンイエロー等が挙げられる。着色顔料としては、1種又は2種以上の着色顔料を配合することができ、3種以上を配合することが好ましい。例えば、酸化第二鉄(赤色顔料)、イソインドリノン(黄色顔料)、四三酸化鉄(黒色顔料)、酸化チタン(白色顔料)、(以上、大日精化工業株式会社製)、及び、乳濁材(SPZ(酸化ジルコニウム)、第一稀元素化学工業株式会社製)をそれぞれ適宜加えることができる。
例えば、下記の割合で配合したものを、着色顔料として使用することができる。
白色顔料の含有量としては、赤色顔料100質量部に対して、通常0~50000質量部、好ましくは1000~45000質量部、より好ましくは2000~40000質量部である。
黒色顔料の含有量としては、赤色顔料100質量部に対して、通常0~1000質量部、好ましくは5~900質量部、より好ましくは10~800質量部である。
黄色顔料の含有量としては、赤色顔料100質量部に対して、通常0~10000質量部、好ましくは5~9000質量部、より好ましくは10~8000質量部である。
なお、着色顔料を配合する場合には、上記(C1)~(C2)成分とともに重合性モノマー含有組成物に配合することが好ましい。
【0048】
前記(A)第1部材に含まれる(D)ガラス繊維は、1種だけでなく、2種以上を組合せることができる。前記(D)ガラス繊維が2種のガラス繊維を含む場合には、例えば、ガラス繊維(D-1)、及び、ガラス繊維(D-2)のガラス繊維織物から構成されていてもよい。また、前記(D)ガラス繊維が3種以上のガラス繊維を含む場合には、例えば、ガラス繊維(D-1)、ガラス繊維(D-2)、ガラス繊維(D-3)のガラス繊維織物等から構成されていてもよい。ガラス繊維(D-1)、ガラス繊維(D-2)、ガラス繊維(D-3)等のガラス繊維織物は、例えば、単繊維径、厚み、目付等が異なっていてもよく、それぞれ1枚ずつ又は複数枚ずつを積層させてもよい。
よって、前記(A)第1部材が2種のガラス繊維を含む場合、前記(A)第1部材は、例えば、ガラス繊維(D-1)のガラス繊維織物を含む第1部材(A-1)、及び、ガラス繊維(D-2)のガラス繊維織物を含む第1部材(A-2)から構成されていてもよい。また、前記(A)第1部材が3種以上のガラス繊維を含む場合、前記(A)第1部材は、例えば、ガラス繊維(D-1)のガラス繊維織物を含む第1部材(A-1)、ガラス繊維(D-2)のガラス繊維織物を含む第1部材(A-2)、ガラス繊維(D-3)のガラス繊維織物を含む第1部材(A-3)等から構成されていてもよい。
【0049】
第1部材の製造方法
(A)第1部材を製造する方法は、特に制限されるものではなく、以下に挙げる方法等が考えられる。
例えば、(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー、(C2)低粘性重合性モノマー、及び、さらに必要に応じて、(G)重合開始剤を混合して重合性モノマー含有組成物を調製した後、該重合性モノマー含有組成物を(D)ガラス繊維に含浸させ、重合硬化することにより製造することができる。
(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー、(C2)低粘性重合性モノマー、及び、さらに必要に応じて、(G)重合開始剤の混合は、撹拌機、分散機、混練機等の一般的な混合機を使用して行うことができる。
【0050】
(D)ガラス繊維に重合性モノマー含有組成物を含浸させる方法としては、例えば、(1)予め所望の形状を有する成形型にガラス繊維を設置し、その上から重合性モノマー含有組成物を流し込み、重合性モノマー含有組成物のガラス繊維間への浸透力(毛細管現象等)を用いて含浸する方法;(2)重合性モノマー含有組成物にガラス繊維を浸漬した後、加圧又は減圧を行うか、又は、重合性モノマー含有組成物をガラス繊維に勢いよく吹き付けることにより、重合性モノマー含有組成物がガラス繊維になじむ時間を早めて短時間で含浸する方法;(3)重合性モノマー含有組成物を加熱して粘度を下げてからガラス繊維に含浸する方法;(4)減圧により重合性モノマー含有組成物を真空吸引し、ガラス繊維に含浸しながら脱泡する方法等、繊維強化プラスチック(FRP)の製造方法として通常採用されている各種方法を挙げることができる。
【0051】
(D)ガラス繊維が織物構造の場合、例えば、ガラス繊維織物を2枚以上積層する場合には、所望の形状の成形型を用意し、まず1枚目のガラス繊維織物を成形型内に設置し、重合性モノマー含有組成物を成形型内に流し込み、ガラス繊維織物に含浸させ、2枚目のガラス繊維織物を成形型内に設置した後、重合性モノマー含有組成物を成形型内に流し込むことで、ガラス繊維織物を1枚ずつ含浸させる方法が挙げられる。なお、ガラス繊維織物を3枚以上重ねる場合は、上記の工程を所望の回数だけ繰り返せばよい。もしくは、複数枚のガラス繊維織物を成形型に設置し、成形型内に重合性モノマー含有組成物を流し込み、一括して含浸させる方法等が挙げられる。
つまり、ガラス繊維織物を2層以上積層し、重合性モノマー含有組成物を含浸させる場合は、ガラス繊維の各層ごとに含浸することもできるし、全ての層を一括して含浸することも可能である。
【0052】
(D)ガラス繊維が織物構造の場合において、上記(1)の方法の場合、重合性モノマー含有組成物を流し込む方向は、ガラス繊維織物の厚み方向(ガラス繊維織物が複数枚の場合には、「積層方向」ともいう。)に対して平行又は垂直のいずれでもよい。
ここで、平行とは、例えば、
図1及び
図2で記載するZ方向を意味する。垂直とは、例えば、
図1及び
図2で記載するX方向又はY方向を意味する。
つまり、前記重合性モノマー含有組成物を流し込む方向が、平行の場合、具体的には、例えば、成形型の空洞部(縦120mm×横110mm×厚み10mm)に1辺100mmのガラス繊維織物を積層して設置し、重合性モノマー含有組成物をガラス繊維織物の積層方向に対して平行方向(つまり、上)から流し込むことができる。その後、真空乾燥機にて1~3時間真空状態にし、重合性モノマー含有組成物のガラス繊維織物への含浸及び真空脱泡を行えばよい。その後、送風式乾燥機にて90~160℃で1~6時間係留することで重合させることが好ましい。
また、前記重合性モノマー含有組成物を流し込む方向が、垂直の場合、具体的には、例えば、成形型の空洞部(縦120mm×横110mm×厚み10mm)に1辺100mmのガラス繊維織物を積層して設置し、成形型をガラス繊維織物の積層面が側面となるように立て、重合性モノマー含有組成物をガラス繊維織物の積層方向に対して垂直方向(断面方向)から流し込むことができる。その後、真空乾燥機にて1~3時間真空状態にし、重合性モノマー含有組成物のガラス繊維織物への含浸及び真空脱泡を行えばよい。その後、送風式乾燥機にて90~160℃で1~6時間係留することで重合させることが好ましい。
重合性モノマー含有組成物の含浸及び脱泡効率等の観点では、前記重合性モノマー含有組成物を、ガラス繊維織物の厚み方向に対して垂直となるように流し込むのが好ましい。すなわち、ガラス繊維織物の積層方向に対して垂直方向から重合性モノマー含有組成物を流し込み、真空脱泡することで、含浸及び真空脱泡の効率が高まり、内部に空気のない均一に複合化された第1部材を得ることができる。
【0053】
該成形型で成形するにあたっては、例えば、成形型と、必要に応じて、蓋が準備される。該成形型は空洞部を備えており、該空洞部の形状は、例えば、角柱状、円柱状、角板状、円板状等の形状に形成される。該成形型は、組み立て式であってもよい。
また、ガラス繊維が織物構造で成形型の空洞部に複数枚のガラス繊維織物を設置する場合には、ガラス繊維織物の充填率を向上させる観点から、前記ガラス繊維織物の積層方向に対して平行に設置することが好ましい。
【0054】
該重合硬化の手段としては、特に限定はなく、例えば、加熱処理及び/又は光照射(光照射及び加熱処理、加熱処理のみ又は光照射のみ)等の方法により製造することができる。光照射により重合硬化させる場合は、光照射後に加熱処理を行うことが好ましい。
【0055】
加熱処理により重合硬化させる手段としては、例えば、成形型(金属、樹脂等)の空洞部にガラス繊維織物及び重合性モノマー含有組成物を充填した後、必要に応じて、該成形型に蓋を取り付けて、常圧下又は加圧下において加熱処理することにより、重合性モノマー含有組成物が重合硬化されて第1部材が得られる。
【0056】
加熱処理の温度は、第1部材の組成等に応じて適宜調整されるが、例えば、通常60~200℃の範囲であり、80~180℃が好ましく、90~160℃がより好ましい。
【0057】
重合硬化時に第1部材にかけられる圧力も適宜調整されるが、例えば、常圧(大気圧)~300MPaの範囲であり、10~250MPaが好ましく、30~230MPaがより好ましい。加熱処理の温度及び圧力は、必要に応じて、経時的に変動させてもよい。
【0058】
加圧下で加熱により重合硬化させる場合は、加熱重合が促進され、未重合の残留モノマーが少なくなり、気泡の混入が抑制され均一な重合体が得られる。
【0059】
光照射により重合硬化させる手段としては、光重合開始剤の種類によって異なり、紫外線の波長も使用できるが、通常人体に無害である可視光の波長で光照射して重合硬化させる。該光の波長としては、例えば、250~700nmの範囲が好ましく、300~500nmがより好ましい。
【0060】
前記の波長範囲の光源としては、LEDランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、レーザー、蛍光灯、太陽光等の光を使用することができる。
【0061】
また、前記の光を照射し、重合性モノマー含有組成物を重合させる場合の照射時間は、作製する第1部材の厚さ、透明性、色調及び照射光の光量により異なるが、一般に所望の重合時間に合わせ適宜決定すればよい。好ましくは10秒から10分程度、より好ましくは1分から6分の光照射を行う。
【0062】
第1部材を、重合性モノマー含有組成物の光照射による重合硬化で作製する方法としては、例えば、透明なシリコーン樹脂等にガラス繊維織物及び重合性モノマー含有組成物を充填した後、300~500nmの波長の光を数分間両面から照射して光重合させる。さらに、重合度を高めるために、光照射後に90~160℃の範囲で加熱処理を行って成形体を形成することが好ましい。
なお、ガラス繊維織物を2層以上積層する場合、重合性モノマー含有組成物の重合硬化は、各層ごとに行うこともできるし、全ての層を一括して重合硬化することも可能である。
【0063】
(C)第1硬化性樹脂と(D)ガラス繊維とを含有する(A)第1部材の製造方法は、
(1)ガラス繊維を、成形型の空洞部に設置する工程、
(2)前記ガラス繊維が設置された成形型の空洞部に、重合性モノマー含有組成物を流し込み、含浸及び真空脱泡する工程、及び
(3)前記重合性モノマー含有組成物を重合硬化させて、硬化性樹脂とガラス繊維とを含有する第1部材を得る工程を備えることが好ましい。さらに、得られた第1部材は、さらに、切断及び/又は切削工程により、所望の形状又は大きさの第1部材(芯材)にすることができる。
【0064】
前記(A)第1部材の3点曲げ強さは、通常500MPa以上であり、600MPa以上であることが好ましく、700MPa以上であることがより好ましい。3点曲げ強さを上記範囲にすることより、前記(A)第1部材を含む歯科切削加工用複合材料から作製される歯科補綴物が、臨床使用時に咬合圧力により破折するのを防ぐことができる。ブリッジとしての使用を考慮すると、下限値は高いほうが好ましい。3点曲げ強さの上限値については、特に制限はなく、例えば、2500MPa以下、好ましくは2000MPa、より好ましくは1500MPa以下であってもよい。より具体的に、前記(A)第1部材の3点曲げ強さは、通常500MPa以上2500MPa以下であり、600MPa以上2000MPaであることが好ましく、700MPa以上1500MPa以下であることがより好ましい。
なお、前記3点曲げ強さの測定方法は、JIS T 6526:2018「歯科用セラミック材料」に準じて行うことができ、後述の実施例において詳細に記載する。
【0065】
前記(A)第1部材の形状及びその断面の形状としては特に限定はなく、例えば、第1部材の断面は、正方形、略正方形、長方形、略長方形、台形、略台形、円形、略円形等である第1部材(芯材)の形状は、上記断面を有する立体であればよく、例えば、四角柱(立方体及び直方体等)、円柱等である。
【0066】
(B)第2部材
(B)第2部材は、前記(A)第1部材の少なくとも一部に接するものである。(B)第2部材は、例えば、(B1)被覆材と言い換えることができる。(B)第2部材は、「第2部材」、「第2部材(B)」、「被覆材」、「(B1)被覆材」又は「被覆材(B1)」と言い換えることもできる。
(B)第2部材は、(A)第1部材の少なくとも一部に接していればよい。(A)第1部材の少なくとも一部は、(A)第1部材の一部又は全部を含む。
前記(B)第2部材は、前記(A)第1部材の少なくとも一部に被覆又は積層されている。
例えば、(A)第1部材が直方体であって、(B)第2部材が(A)第1部材の上面の全表面に接する場合には、例えば、
図1のような2層の積層体の形状(2層タイプ)の歯科切削加工用複合材料を形成することができる。
また、(A)第1部材が2つの直方体を重ねた2層構造であって、(B)第2部材が、2層構造の(A)第1部材の上側の直方体の上面の全表面に接する場合には、例えば、
図2のような3層の積層体の形状(3層タイプ)の歯科切削加工用複合材料を形成することができる。
さらに、(A)第1部材が直方体であって、(B)第2部材が(A)第1部材の側面の全表面に接する場合には、例えば、
図3のような、(B1)被覆材が(A1)芯材の4つの側面の全表面を被覆するような形状(芯材被覆タイプ)の歯科切削加工用複合材料を形成することができる。なお、歯科補綴物のサイズは個人差があり、大きな歯科補綴物を切削加工するために、
図3の(B)第2部材(被覆材)を厚くすることもできる。
【0067】
(B)第2部材は、(E)第2硬化性樹脂及び(F)無機フィラーを含む。(B)第2部材は、ガラス繊維を含まないことが好ましい。
【0068】
(B)第2部材は、例えば、(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び(F)無機フィラーを含む第2部材用組成物が重合硬化されたものが挙げられる。
(B)第2部材は、後述するように、(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマー及び(F)無機フィラーを含む第2部材用組成物を重合硬化させることで、第2部材用組成物中に含まれる(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマーが硬化性樹脂となる。また、前記第2部材用組成物には(F)無機フィラーが含まれていることから、前記第2部材用組成物の硬化体である第2部材(被覆材)は、(E)第2硬化性樹脂とともに(F)無機フィラーを含有することになる。
【0069】
(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマー
前記第2部材用組成物は、(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマー(以下、「重合性モノマー」、又は「モノマー」ということもある)を配合する必要がある。該(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味している。
【0070】
該重合性モノマーとしては、歯科用として使用可能な(メタ)アクリレート系重合性モノマー(単量体)であれば特に限定はなく、使用することができる。例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、アルキルエステルの場合はアルキル基の炭素数1~12;芳香族基を含むエステルの場合は炭素数6~12である。なお、これらの基にポリエチレングリコール鎖等の置換基を含むものはそれらの炭素数も含める。)等の単官能性の(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレン基の炭素数2~20)、エチレングリコールオリゴマージ(メタ)アクリレート(2~10量体)、ビスフェノールAを含むジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート2モルとジイソシアネート1モルとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能性の(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、特開昭50-042696号公報又は特開昭56-152408号公報に開示されているモノマー等が好適である。
【0071】
該単官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0072】
該多官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキサ-3,14-ジオキソ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート(1,6-ビス((メタ)アクリロイルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン)、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)との反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシエチル(メタアクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0073】
該(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、多官能性の(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ウレタンジメタクリレート(UDMA)及びビスフェノールAグリシジルジメタクリレート(Bis-GMA)がより好ましく、DEGDMA、TEGDMA、UDMA及びBis-GMAが特に好ましい。
【0074】
これら(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、単独で使用できるが、2種類以上の重合性モノマーを混合して使用することが好ましく、2種以上の多官能性の(メタ)アクリレートを混合して使用することがより好ましく、粘度を調整するために2種以上のジ(メタ)アクリレートを混合して使用することが特に好ましい。また、(メタ)アクリレート系重合性モノマーに、上述した(A)第1部材の(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー又は(C2)低粘性重合性モノマーと同じモノマーを使用してもよい。
【0075】
前記第2部材用組成物中に含まれる重合性モノマーの含有量は、18~30質量%が好ましく、20~28質量%がより好ましい。
【0076】
なお、前記第2部材用組成物においては、前記(メタ)アクリレート系重合性モノマーに加えて、重合の容易さ、粘度の調節、あるいはその他の物性の調節のため、上記(メタ)アクリレート系重合性モノマー以外の他の重合性モノマーを混合して重合することも可能である。(メタ)アクリレート系重合性モノマー以外の他の重合性モノマーとして、上述した第1部材の(C2)低粘性重合性モノマーを使用することも可能である。つまり、(B)第2部材(被覆材)は、(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマーを含む第2の重合性モノマー含有組成物、及び(F)無機フィラーを含む第2部材用組成物が重合硬化されたものであってもよい。
【0077】
(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマーとして、上記第1部材で使用する(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー及び(C2)低粘性重合性モノマーと同じものを使用してもかまわない。
【0078】
(F)無機フィラー
(F)無機フィラーとしては、一般的に使用されている無機フィラーであれば特に限定はなく、カオリン、タルク、石英、シリカ(例えばコロイダルシリカ等)アルミナ、アルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、窒化ケイ素、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ガラス粉、ジルコニア、ジルコニウムシリケート等が挙げられる。これら以外に、複合金属酸化物フィラー、フッ化物を含有する無機フィラー、及び、平均粒子径0.1μm以下の超微粒子SiO2フィラー等を使用することもできる。
【0079】
(B)第2部材は、(F)無機フィラーとして、(f1)複合金属酸化物フィラー、(f2)フッ化物を含有する無機フィラー、及び、(f3)平均粒子径0.1μm以下の超微粒子SiO2フィラーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、(f1)複合金属酸化物フィラー、(f2)フッ化物を含有する無機フィラー、及び、(f3)平均粒子径0.1μm以下の超微粒子SiO2フィラーをすべて含むことがより好ましい。
【0080】
(F)無機フィラーの組成、形状、粒度分布、平均粒径等は、特に制限はない。平均粒径は、50μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。なお、前記(F)無機フィラーには、ガラス繊維は含まれない。
(F)無機フィラーは、第2部材用組成物中に50~90質量%、好ましくは60~85質量%、より好ましくは70~80質量%の割合で配合することができる。
【0081】
(f1)複合金属酸化物フィラー
(f1)複合金属酸化物フィラーとしては、SiO2、ZrO2及びAl2O3を含有する複合金属酸化物フィラー(以下、「複合金属酸化物フィラー」ということもある。)であり、該(f1)複合金属酸化物フィラーは、平均粒子径0.1~0.9μmの一次粒子を焼結により部分的に結合させた平均粒子径が2~8μmの二次粒子であるフィラーであることが好ましい。
【0082】
該(f1)複合金属酸化物フィラーの含有量は、第2部材用組成物中、21~61質量%であり、25~55質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
該(f1)複合金属酸化物フィラーは1種のみを使用することができ、又は2種以上の異なる複合金属酸化物フィラーを混合することができる。
【0083】
該(f1)複合金属酸化物フィラーの屈折率(nD)は、第2部材用組成物のマトリックスである樹脂の屈折率(nD)と同等又は近似している点に特徴を有する。該(f1)複合金属酸化物フィラーの屈折率(nD)と樹脂の屈折率(nD)の差が±0.006の範囲内となるようにSiO2、ZrO2及びAl2O3の組成比を調整できる。
【0084】
上記(f1)複合金属酸化物フィラーの屈折率(nD)は、使用する樹脂の屈折率によって変動するが、一般的に歯科で用いられる(メタ)アクリレート系重合性モノマーの場合は1.49~1.52の範囲内で制御することができる。これらのフィラーの特性により、第2部材用組成物は、高い透明性を有することが可能となる。
【0085】
該(f1)複合金属酸化物フィラー、即ち、焼結一次粒子が結合した凝集状の二次粒子は、ゾル-ゲル法で調整された多孔質SiO2-ZrO2-Al2O3非晶質体からなる粒子を、上記粒子径に微粉砕してゲル微粒子を得る工程、該ゲル微粒子を凝集させる工程、及び該凝集物を焼成する工程を経て作製される。
【0086】
該焼成により、一次粒子は十分に焼結するが、焼結一次粒子間の結合が弱い二次粒子を形成し、これにより本発明に用いる複合金属酸化物フィラーが製造される。該(f1)複合金属酸化物フィラーを使用した第2部材(硬化物)は、研削加工性並びに研削及び/又は研磨後の表面滑沢性の両方に優れる。
【0087】
第2部材(被覆材)は、平均粒子径が0.1~0.9μm程度の一次粒子が結合したフィラー(二次粒子、平均粒子径=2~8μm)を含有することにより大きな曲げ強さが付与される。フィラー(二次粒子)の表面は、凹凸が形成されており、この凹凸の中に重合性モノマーが入り込んで硬化することで嵌合効果(アンカー効果ともいう)が生じ、機械的強度が高くなるものと考えられる。
【0088】
本発明に用いるフィラーは、SiO2-ZrO2-Al2O3系のゲル微粉粒子(焼結後には一次粒子)を、乾燥後、高温で焼成するため、一次粒子の表面は十分に焼結している。このため、その比表面積は小さくなっており、このフィラーを使用した第2部材(硬化物)は、吸水率が小さく、口腔内のような湿潤条件での耐久性に優れる。
【0089】
本発明に用いる(f1)複合金属酸化物フィラーは、アルコキシシラン、加水分解可能なジルコニウム化合物及び加水分解可能なアルミニウム化合物の混合物を、ゾル-ゲル法により共沈-乾燥させてゲル体とする工程(A1工程)、該ゲル体を粉砕して微細粒子(一次粒子)とする工程(A2工程)、及び該一次粒子を焼成することで二次粒子を形成する工程(A3工程)を備え、必要に応じて、シランカップリング材によって表面処理する工程(A4工程)を備える方法により製造される。
【0090】
具体的には、A1工程は、アルコキシシラン、加水分解可能なアルミニウム化合物及び加水分解可能なジルコニウム化合物を溶媒中で均一に混合して、SiO2 50~95質量%(好ましくは60~85質量%)、ZrO2 0.1~30質量%(好ましくは10~20質量%)及びAl2O3 0.1~30質量%(好ましくは0.3~10質量%)を含有する溶液を作製し、アルカリ溶液を混合して各成分を同時に加水分解させて、反応生成物のゲル粒子を析出させる。
【0091】
(f1)複合金属酸化物フィラーの組成のうち、SiO2の屈折率(nD)は1.46、ZrO2の屈折率(nD)は2.2で、Al2O3の屈折率(nD)は1.76であり、各成分の含有量によって、(f1)複合金属酸化物フィラーの屈折率(nD)がほぼ加成則に従い変化する。第2部材(被覆材)の透明性を高めるには、樹脂の屈折率(1.48~1.52)に近似させる必要があり、各成分の含有率を適切な値に選択することが重要である。また、歯科材料においてX線造影性を付与するために、ZrO2成分を含有させることができる。
なお、(f1)複合金属酸化物フィラーの屈折率(nD)を増加させるTiO2、CeO2、Y2O3成分等の導入も可能であるが、最終的なフィラー全重量に対して、3質量%以下の少量に留めることが望ましい。
【0092】
ここで、アルコキシシランとしては、特に限定はなく、例えば、一般式:Si(OR)4(Rはアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等を示す。)で表されるテトラアルコキシシラン化合物;テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー等が挙げられる。中でも、アルコキシシランとしては、エトキシシラン、メトキシシラン、メチルシリケートオリゴマー(SiO2含有量=52wt%、(CH3O)10Si4=約4量体、三菱化学(株)製のMS51)が好ましく、メチルシリケートオリゴマーが安価で取り扱いし易い点でより好ましい。
【0093】
加水分解可能なアルミニウム化合物としては、特に限定はなく、例えば、安価で加熱分解し易い硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)、酢酸アルミニウム(Al(OAc)3)、アルミニウムアセチルアセトネート等のアルミニウム塩;Al(OR)3(Rはアルキル基、好ましくはn-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等を示す)で表されるトリアルコキシアルミニウム化合物等が挙げられる。該アルミニウム塩は、通常水溶液として用いることができる。
【0094】
加水分解可能なジルコニウム化合物としては、一般式:Zr(OR')4(R'はアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等を示す。)で表されるテトラジルコニウム化合物;ZrO(NO3)2・nH2O;ZrOCl2・nH2O等が挙げられる。中でも、ZrO(NO3)2・nH2O又はZrOCl2・nH2O及びZrO(NO3)2・nH2Oが好ましい。nは、1~10の整数を示す。
【0095】
複合金属酸化物フィラーの具体的な製造方法としては、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)を水又はアルコールに溶解し、この溶液にジルコニウム化合物(例えば、ZrO(NO3)2水溶液)を加えて十分に混合する。該混合液に、アルコキシシラン、例えば、メチルシリケートオリゴマーを加えて均一透明な原料混合溶液とする。得られた原料混合溶液における無機酸化物含有率は、1~35質量%程度の範囲であり、好ましくは3~10質量%程度の範囲である。水又は有機溶媒の含有率が多いと乾燥に時間を要し不経済となり、溶媒が少ないと次の中和攪拌操作が困難となるからである。
【0096】
以上のように調製した原料混合溶液(ゾル)は、アルカリ性溶液を添加することにより、加水分解及び共沈反応によりゲル化することができる。
アルカリ性溶液としては、特に限定はなく、例えば、上記原料混合溶液を溶解し、水に任意の割合で溶解し、乾燥及び加熱処理によりフィラー中に残留しない点で、アンモニア水が好ましい。アンモニア水の量は、原料混合溶液と混合した時に塩基性を示すことが必要で、一般には、pH7~9程度、好ましくはpH8程度になる量が一つの目安となる。例えば、市販アンモニア水(含有率:35wt%)の2倍希釈程度を採用することができる。
【0097】
上記原料混合溶液とアルカリ性溶液との混合方法は、特に限定はなく、例えば、各原料成分におけるアルカリによるそれぞれの加水分解条件が異なることが原因である共沈物における成分の偏りを防止するために、一括添加することが望ましい。攪拌速度、反応温度及び時間についても特に限定はなく、均一反応を目的に激しく攪拌して急速中和を行い、共沈微粒子の集合体(ゼリー状ゲル体)を得ることで、成分の偏りを防止できる。
【0098】
上記の操作により得られるゾル-ゲル体は、通常のエバポレーター又は乾燥機で溶媒、過剰のアンモニア、水等の蒸発除去及び乾燥を行う。乾燥温度としては特に限定はなく、例えば、40~150℃、好ましくは70~120℃の範囲である。
【0099】
次いで、乾燥したゲル体を水洗して、副生成物である硝酸アンモニウム等を除去する。例えば、送風式乾燥機等で、ゲル体を十分乾燥させた後、該乾燥物に、エタノールを加えて、遊星ミル、ビーズミル等により平均粒子径0.1~0.9μmのゲル微粒子に湿式粉砕し、エタノールを蒸発除去及び乾燥してゲル微粒子粉体とする。この微粒子粉体を、ジェットミル等の気流式粉砕機を利用して平均粒子径が3~20μmの粒子とし、電気炉中で焼成する。上記特許文献4では、微粒子粉体を、焼成前に遊星ミル中でアルミナボールを衝突させて粉砕し、粒子を作製していたが、遊星ミルの場合、アルミナボールによって強く押し固められるため、焼成後の無機フィラーが硬くなる。このため、歯科切削加工用複合材料(硬化体)を最終研磨する際に十分な光沢を得るには、研磨力の高いダイヤモンド粒子含有の研磨材を用いる必要があった。一方、本発明で利用している気流式粉砕機の場合は、アルミナボールのようなメディアを用いず、粉体同士を高速で衝突させて粉砕する方式である。このため、粒子が必要以上に硬くならず、歯科切削加工用複合材料の研磨が容易になり、研磨力の低いアルミナ粒子含有の汎用研磨材でも十分な光沢が得られるという特徴を有する。
【0100】
該粒子の焼成では、一次粒子の焼結と該一次粒子が結合した二次粒子(平均粒子径3~10μm)の形成とが重要となる。SiO2、ZrO2及びAl2O成分の含有率によって、その最適な加熱処理条件(温度、時間等)は適宜選択する。
【0101】
例えば、昇温速度は、最速でも毎分20℃程度、通常毎分3~10℃程度とすることが望ましい。焼成温度は、800~1200℃程度、好ましくは1000~1190℃程度、より好ましくは1050~1150℃である。
【0102】
上記方法により製造された二次粒子は、解砕、ブレンド等の方法により適当な粒度分布を有するように調整される。二次粒子の無機フィラーは、平均粒子径が0.1~0.9μm程度の焼結一次粒子がネック形成によって相互に結合された不定形粒子(粒径=1~50μm)であり、鋭いエッジを持たず、粒度分布がブロードで粒子の大きさが不揃いで、凸凹の表面を有している。この焼成後の二次粒子を、必要に応じて、気流式粉砕機で解砕し、平均粒子径2~8μmに調節できる。
【0103】
なお、平均粒子径及び粒度分布の測定は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD-2200)により行う。該平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布を体積基準で測定しているため、体積平均粒子径を意味する。
【0104】
焼成前のゲル微粒子(一次粒子)及び粒子(二次粒子)の粒度は、蒸留水を溶媒として、屈折率を1.45±0.10にして、粒度分布測定装置に粉体を投入し、5分間超音波分散後に測定した。また、焼成後の粒子(二次粒子)の粒度は、屈折率を1.50±0.10の条件で測定した。
【0105】
(f2)フッ化物を含有する無機フィラー
(f2)フッ化物を含有する無機フィラーは、フッ化物を含有する平均粒子径1μm以下の無機フィラー(以下、「フッ素フィラー」ということもある。)である。
該(f2)フッ素フィラーとしては、水溶液中でフッ素イオンを放出する化合物であれば特に限定はなく、例えば、平均粒子径が0.1~0.9μmである公知のフッ化物を含有する無機フィラーを用いることができる。具体的に、(f2)フッ素フィラーとしては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム等のアルカリ金属フッ化物;フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム等のアルカリ土類金属フッ化物;フルオロ珪酸塩等のフッ化ケイ素化合物;フッ化亜鉛化合物;モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸アンモニウム、モノフルオロリン酸アルミニウム等のフッ化リン酸化合物;これらの複合化合物等が挙げられる。中でも、(f2)フッ素フィラーとして好ましくは、フッ素フィラー(CaO 5~30質量%、SrO 5~30質量%、SiO2 10~70質量%、Al2O3 10~50質量%、ZnO 0~20質量%、Na2O 0~10質量%、P2O5 0~10質量%の合計)に対して、フッ素(F)の含有量は、5~50質量%が好ましい。該(f2)フッ素フィラーの平均粒子径は、特に限定はなく、例えば、2μm以下であればよく、0.1~1μmの範囲が好ましい。
【0106】
該(f2)フッ素フィラーは、1種のみを使用することができ、又は2種以上の異なるフッ素フィラーを混合することができる。
【0107】
第2部材(被覆材)に含まれる(f2)フッ素フィラーの含有量は、7~50質量%が好ましく、10~45質量%がより好ましく、12~40質量%がさらに好ましい。
【0108】
(f3)平均粒子径0.1μm以下の超微粒子SiO2フィラー
平均粒子径が0.1μm以下の超微粒子SiO2フィラー(以下、「超微粒子SiO2フィラー」ということもある。)としては、一次粒子の平均粒子径が0.1μm以下である公知のSiO2フィラーであれば特に限定はなく、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられる。該超微粒子SiO2フィラーの平均粒子径は、0.1μm以下であればよく、0.01~0.1μmの範囲が好ましい。
【0109】
該(f3)超微粒子SiO2フィラーは、1種のみを使用することができ、又は2種以上の異なる超微粒子SiO2フィラーを混合することができる。
【0110】
第2部材(被覆材)に含まれる(f3)超微粒子SiO2フィラーの含有量は、1~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましい。
【0111】
(f3)超微粒子SiO2フィラーは、SiO2フィラーであって、ZrO2及びAl2O3を含有しないフィラーであるのに対して、A成分のSiO2、ZrO2及びAl2O3を含有する無機フィラーは、必ずSiO2、ZrO2及びAl2O3をそれぞれ含有する複合金属酸化物からなる無機フィラーである。
(f2)フッ素フィラーは、必ずフッ化物を含有する無機フィラーであるのに対して、(f1)及び(f3)には、フッ化物が含まれていないため、3種類のフィラーの成分は明確に区別できる。
【0112】
任意の添加剤
前記被覆材用組成物は、さらに必要に応じて、任意の添加剤を配合することができる。
添加剤としては、例えば、重合開始剤、重合促進剤、着色顔料、乳濁材、蛍光材、オパール化材、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影材、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤等のその他公知の各種添加剤を配合できる。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0113】
前記被覆材用組成物は、重合開始剤を含むことが好ましい。
該重合開始剤としては、一般的に使用されている重合開始剤であれば特に限定はなく、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましい。一般に、重合開始剤は、重合性モノマーの重合手段によって異なる種類のものが使用される。重合手段には光重合開始剤、熱重合開始剤等がある。
【0114】
該光重合開始剤としては、特に限定はなく、紫外光又は可視光で反応し、ラジカルを発生する光重合開始剤を使用することができる。具体的には、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、カンファーキノン(CQ)、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα-ジケトン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル;2,4ジエチルチオキサンソン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物等;ベンゾフェノン、p,p'-ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p'-ジメトキシアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物が挙げられる。
【0115】
該熱重合開始剤としては、特に限定はなく、過酸化物、アゾ化合物等の公知の熱重合開始剤を使用することができる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、4,4'-アゾビス-4-シアノバレリック酸、1,1'-アゾビス-1-シクロヘキサンカーボニトリル、ジメチル-2,2'-アゾビスイソブチラート、2,2'-アゾビス-(2-アミノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
【0116】
また、前記第2部材(被覆材)に用いる(メタ)アクリレート系重合性モノマーの重合は、上記の重合開始剤に加え、重合促進剤を組み合わせて使用することができる。
【0117】
該重合促進剤は、一般的に光重合開始剤と組み合わせて使用される。該重合促進剤としては、特に限定はなく、例えば、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(DMABE)、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル等を使用することができる。
【0118】
さらに、(F)無機フィラーは、歯科切削加工用複合材料の機械的強度、耐磨耗性及び耐水性を向上させるために、表面処理を施すことが好ましい。表面処理剤及びその表面処理法としては、公知の方法が採用され特に限定されない。
【0119】
表面処理剤としては、特に限定はなく、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、14-(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシランシリルイソシアネ-ト、ビニルトリクロロシラン等のシランカップリング材等の、無機酸化物の表面改質剤として使用される化合物が挙げられる。好ましくは、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(γ-MPTS)を挙げることができる。
【0120】
前記(F)無機フィラーの表面処理剤による処理方法としては、特に限定はなく、例えば、各フィラーと表面処理剤とをアルコ-ル等の溶剤中で数十分間~10時間程度、好ましくは1時間~5時間の範囲で加熱環流する方法等が挙げられる。また、表面処理剤の加水分解を促進する必要があれば、該溶剤中に水、酢酸等の酸性水を添加して上記範囲内で加熱環流した後、溶媒を除去し、常圧若しくは減圧下乾燥する方法が挙げられる。
【0121】
表面処理剤の量は、該各フィラー100質量部に対して0.1~50質量部、好ましくは1~30質量部の範囲である。なお、表面処理後の該各フィラーは、処理前のフィラーに比べて、粒径又は粒度分布にほとんど変化はない。
【0122】
前記(B)第2部材は、上記(E)~(F)成分以外に前記の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0123】
着色顔料(及び乳濁剤)としては、天然歯を模倣するために、一般の歯科治療の用途での公知の化合物が使用できる。例えば、酸化鉄系着色顔料、有機顔料、酸化ジルコニウム顔料、チタンホワイト、チタンイエロー等が挙げられる。具体的には、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられる。
前記(B)第2部材は、1種だけでなく、2種以上を組合せることができる。前記(B)第2部材が2種の第2部材を含む場合には、例えば、第2部材(B-1)及び第2部材(B-2)から構成されていてもよい。また、前記(B)第2部材が3種以上の第2部材を含む場合には、例えば、第2部材(B-1)、第2部材(B-2)、第2部材(B-3)等から構成されていてもよい。第2部材(B-1)、第2部材(B-2)、第2部材(B-3)等は、例えば、含まれる着色顔料等の種類、含有量等が異なっていてもよい。(B)第2部材は、色調が異なる複数の第2部材を積層させることにより、グラデーション構造を形成してもよい。
【0124】
第2部材用組成物の製造方法
第2部材用組成物は、(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び(F)無機フィラーを含み、該(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマーが10~50質量%、かつ該(F)無機フィラーが50~90質量%の配合割合で混合することで製造できる。
(F)無機フィラーの含有量は、(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマー100質量部に対して、通常100~900質量部であり、好ましくは120~700質量部であり、より好ましくは150~500質量部である。
【0125】
上記の第2部材用組成物中の各成分の混合割合(混合比)は、粘性及び使用目的によって適宜調整することができる。例えば、無機フィラーとして、(f1)~(f3)を含む場合、(メタ)アクリレート系重合性モノマー100質量部に対して、(f1)複合金属酸化物フィラーを42~600質量部(好ましくは50~250質量部)、(f2)フッ素フィラーを14~500質量部(好ましくは20~450質量部)、及び(f3)超微粒子SiO2フィラー2~100質量部(好ましくは4~80質量部)を配合し、さらに必要に応じて、重合開始剤、重合促進剤、着色顔料、乳濁材、オパール化材、蛍光材、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影材、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤等の添加物を適宜配合することができる。なお、該歯科用組成物は、重合開始剤を含む場合、その取り扱いに注意が必要であり、保管環境は大気遮断、暗所及び低温が必須である。
【0126】
該第2部材用組成物の作製方法としては、前記の各成分を容器に所定量とり、十分に混練して分散させた後、ペーストを得る工程及び該ペーストを減圧下で混練、もしくは真空撹拌することで、均一で気泡の除去された粘土状又はペースト状の歯科用組成物が得られる。
該第2部材用組成物は、公知の重合(光及び加熱)方法に従って、重合させることで硬化物(第2部材)が得られる。
【0127】
前記(B)第2部材の3点曲げ強さは、前記(A)第1部材の3点曲げ強さより低く、通常500MPa未満である。前記(B)第2部材を含む歯科切削加工用複合材料から作製される歯科補綴物の曲げ強さを考慮すると、前記(B)第2部材の3点曲げ強さも高いほうが好ましい。前記(B)第2部材の3点曲げ強さの上限値は、通常500MPa未満であり、400MPa以下、300MPa以下、250MPa以下、又は、200MPa以下であってもよい。3点曲げ強さの下限値は、例えば、100MPa以上、好ましくは120MPa以上、より好ましくは180MPa以上である。
より具体的に、前記(B)第2部材の3点曲げ強さは、通常100MPa以上500MPa未満であり、110MPa以上400MPa以下であることが好ましく、120MPa以上250MPa以下であることがより好ましい。
なお、前記3点曲げ強さの測定方法は、JIS T 6526:2018「歯科用セラミック材料」に準じて行うことができ、後述の実施例において詳細に記載する。
【0128】
歯科切削加工用複合材料の作製
例えば、(A)第1部材を棒状又は板状に切り出し、(B)第2部材と接する部分にシランカップリング材含有の表面処理剤を塗布し、乾燥させる。その後、表面処理して乾燥させた(A)第1部材を、成形型の空洞部分(縦16mm×横19mm×長さ100mm)の中心部又は底部分に設置し、第2部材用組成物を成形型の空洞部分に充填し、加熱重合することで、(A)第1部材(芯材)と(B)第2部材(被覆材)とが一体化された歯科切削加工用複合材料を得ることができる。さらに、得られた歯科切削加工用複合材料は、切断及び/又は切削工程により、所望の形状又は大きさの材料にすることができる。
【0129】
前記歯科切削加工用複合材料は、例えば、積層体、芯材被覆タイプ等の形状(タイプ)を有している。
前記歯科切削加工用複合材料の形状には、
例えば、第1部材(芯材)の表面の一部が第2部材(被覆材)に接しているもの、
直方体である第1部材の上面の全表面が第2部材に接しているもの(例えば、
図1のような2層の積層体)、
直方体である第1部材が2層構造であり、第1部材の上側の直方体の上面の全表面が第2部材に接しているもの(例えば、
図2のような3層の積層体)、
直方体である第1部材(芯材)の4つの側面の全表面が第2部材(被覆材)に接しているもの(例えば、
図3のような形状(芯材被覆タイプ))等が含まれる。
前記歯科切削加工用複合材料が芯材被覆タイプの場合、第1部材(芯材)の厚み(高さ)が小さいと断面積を確保するために幅を長くする必要があり、この場合、歯科用ブリッジの連結部の幅に入るように切削加工することが困難であるため、第1部材(芯材)は適度な厚みであることが好ましい。
【0130】
前記歯科切削加工用複合材料における(A)第1部材(芯材)の断面積は、切削加工による歯科補綴物の作製しやすさの観点から、通常3~330mm2であり、好ましくは3.1~310mm2であり、より好ましくは3.2~300mm2である。前記歯科切削加工用複合材料における(A)第1部材(芯材)の高さ及び幅は、上記断面積の範囲になれば特に制限はない。前記(A)第1部材(芯材)の高さは、通常0.5~16.5mmであり、好ましくは0.7~16mmであり、より好ましくは1~15.5mmである。前記(A)第1部材(芯材)の幅は、通常0.5~20mmであり、好ましくは0.7~19.5mmであり、より好ましくは1~19mmである。前記歯科切削加工用複合材料における(A)第1部材(芯材)の断面積を上記範囲にすることにより、前記歯科切削加工用複合材料から作製される歯科補綴物が、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さを有するものとなる。
前記歯科切削加工用複合材料における(B)第2部材の高さ及び幅は、特に制限はない。例えば、(B)第2部材の高さは、通常0.1~30mmであり、好ましくは0.5~25mmであり、より好ましくは1~20mmである。(B)第2部材(被覆材)の幅は、通常0.1~30mmであり、好ましくは0.5~25mmであり、より好ましくは1~20mmである。
【0131】
前記歯科切削加工用複合材料における(A)第1部材の体積は、通常100~20000mm3であり、好ましくは120~18000mm3であり、より好ましくは140~17000mm3である。前記歯科切削加工用複合材料における(A)第1部材の長さは、特に制限はなく、例えば、上記(A)第1部材の断面積の範囲と、(A)第1部材の体積の範囲から計算できる長さ等が挙げられる。
前記歯科切削加工用複合材料における(A)第1部材の断面積を上記範囲にすることにより、前記歯科切削加工用複合材料から作製される歯科補綴物が、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さを有するものとなる。
前記歯科切削加工用複合材料における(B)第2部材の長さは、特に制限はなく、例えば、30~60mmが挙げられる。
【0132】
前記歯科切削加工用複合材料において、(A)第1部材(芯材)と(B)第2部材(被覆材)との断面積比は、特に制限はなく、例えば、(A)第1部材(芯材)の断面積と(B)第2部材(被覆材)の断面積の比(断面積比)は、通常1:0.05~100であり、好ましくは1:0.1~90であり、より好ましくは1:0.2~85である。つまり、(A)第1部材(芯材)の断面積に対する(B)第2部材(被覆材)の断面積の比率は、通常0.05~100であり、好ましくは0.1~90であり、より好ましくは0.2~85である。
【0133】
前記歯科切削加工用複合材料が積層体の場合、(A)第1部材及び(B)第2部材の断面積、高さ、幅、及び体積は、以下のとおりである。
前記歯科切削加工用複合材料における(A)第1部材の断面積は、通常2~330mm2であり、好ましくは2.5~310mm2であり、より好ましくは3.5~300mm2である。
前記(A)第1部材の高さは、通常0.7~16.5mmであり、好ましくは0.8~16mmであり、より好ましくは0.9~15.5mmである。
前記(A)第1部材の幅は、通常3~20mmであり、好ましくは3.5~19.5mmであり、より好ましくは4~19mmである。
また、(A)第1部材の体積は、通常80~20000mm3であり、好ましくは100~18000mm3であり、より好ましくは140~17000mm3である。
なお、前記(A)第1部材が、2層以上等の積層構造である場合には、(A)第1部材全体の断面積、高さ、及び、体積が上記数値範囲となるように、適宜調整すればよい。
【0134】
前記歯科切削加工用複合材料における(B)第2部材の断面積は、通常0.6~330mm2であり、好ましくは0.7~310mm2であり、より好ましくは0.8~300mm2である。
前記(B)第2部材の高さは、通常0.2~16.5mmであり、好ましくは0.5~16mmであり、より好ましくは0.8~15.5mmである。
前記(B)第2部材の幅は、通常3~20mmであり、好ましくは3.5~19.5mmであり、より好ましくは4~19mmである。
また、(B)第2部材の体積は、通常20~11000mm3であり、好ましくは70~10000mm3であり、より好ましくは120~9000mm3である。
【0135】
前記歯科切削加工用複合材料が積層体の場合、(A)第1部材と(B)第2部材との断面積比は、特に制限はなく、例えば、(A)第1部材の断面積と(B)第2部材の断面積の比(断面積比)は、通常1:0.05~4.5であり、好ましくは1:0.055~4であり、より好ましくは1:0.06~3.5である。つまり、(A)第1部材の断面積に対する(B)第2部材の断面積の比率は、通常0.05~4.5であり、好ましくは0.055~4であり、より好ましくは0.06~3.5である。
【0136】
前記歯科切削加工用複合材料が芯材被覆タイプの場合、前記歯科切削加工用複合材料における(A1)芯材の断面積は、切削加工による歯科補綴物の作製しやすさの観点から、通常3~14mm2であり、好ましくは3.1~10mm2であり、より好ましくは3.2~8mm2である。前記歯科切削加工用複合材料における(A1)芯材の高さ及び幅は、上記断面積の範囲になれば特に制限はない。前記(A1)芯材の高さは、通常0.5~6mmであり、好ましくは0.7~5mmであり、より好ましくは1~4.5mmである。前記(A1)芯材の幅は、通常0.5~6mmであり、好ましくは0.7~5mmであり、より好ましくは1~4.5mmである。前記歯科切削加工用複合材料における(A1)芯材の断面積を上記範囲にすることにより、前記歯科切削加工用複合材料から作製される歯科補綴物が、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さを有するものとなる。
前記歯科切削加工用複合材料が芯材被覆タイプの場合、(B1)被覆材の高さ及び幅は、特に制限はない。例えば、(B1)被覆材の高さは、通常0.1~30mmであり、好ましくは0.5~25mmであり、より好ましくは1~20mmである。(B1)被覆の幅は、通常0.1~30mmであり、好ましくは0.5~25mmであり、より好ましくは1~20mmである。
【0137】
前記歯科切削加工用複合材料が芯材被覆タイプの場合、(A1)芯材の体積は、通常100~460mm3であり、好ましくは120~430mm3であり、より好ましくは140~360mm3である。前記歯科切削加工用複合材料における(A1)芯材の長さは、特に制限はなく、例えば、上記(A1)芯材の断面積の範囲と、(A1)芯材の体積の範囲から計算できる長さ等が挙げられる。
前記歯科切削加工用複合材料における(A1)芯材の断面積を上記範囲にすることにより、前記歯科切削加工用複合材料から作製される歯科補綴物が、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さを有するものとなる。
前記歯科切削加工用複合材料における(B1)被覆材の長さは、特に制限はなく、例えば、30~60mmが挙げられる。
【0138】
前記歯科切削加工用複合材料において、(A1)芯材と(B1)被覆材との断面積比は、特に制限はなく、例えば、(A1)芯材の断面積と(B1)被覆材の断面積の比(断面積比)は、通常1:0.05~100であり、好ましくは1:0.5~90であり、より好ましくは1:1~85である。つまり、(A1)芯材の断面積に対する(B1)被覆材の断面積の比率は、通常0.05~100であり、好ましくは0.5~90であり、より好ましくは1~85である。
【0139】
前記歯科切削加工用複合材料の寸法は、切削加工により3本ブリッジを得るためには、例えば、高さ15.5mm、幅19mm、長さ40mmの直方体が挙げられ、また、切削加工により4本ブリッジを得るためには、例えば、高さ15.5mm、幅19mm、長さ55mmの直方体が挙げられるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0140】
前記歯科切削加工用複合材料の3点曲げ強さは、100MPa以上であり、好ましくは200MPa以上であり、より好ましくは300MPa以上であり、特に好ましくは500MPa以上である。3点曲げ強さを上記範囲にすることより、本発明から作製される歯科補綴物が、臨床使用時に咬合圧力により破折するのを防ぐことができる。ブリッジのフレーム部分としての使用を考慮すると、下限値は高いほうが好ましい。3点曲げ強さの上限値については、特に制限はなく、例えば、2000MPa以下、好ましくは1500MPa以下、より好ましくは1000MPa以下であってもよい。より具体的に、本発明の歯科切削加工用複合材料の3点曲げ強さは、100MPa以上2000MPa以下であり、好ましくは200MPa以上1500MPa以下であり、より好ましくは500MPa以上1000MPa以下である。
なお、前記3点曲げ強さの測定方法は、JIS T 6526:2018「歯科用セラミック材料」に準じて行うことができ、後述の実施例において詳細に記載する。
【0141】
前記歯科切削加工用複合材料の3点曲げ弾性率は、通常14~33GPaであり、15~26GPaであることが好ましく、16~21GPaであることがより好ましい。3点曲げ弾性率を、歯科切削加工用複合材料から作製した歯科補綴物を固定する支台歯である人歯象牙質の3点曲げ弾性率(15GPa程度)及び人歯エナメル質の3点曲げ弾性率(84GPa程度)の範囲内にすることで、咬合時に応力集中が起こりにくくなり、歯科補綴物の破損、歯根破折等の発生が抑制できる。
なお、前記3点曲げ弾性率の測定方法は、JIS T 6526:2018「歯科用セラミック材料」に示す方法で3点曲げ強さを測定した際の応力-ひずみ曲線から算出することができ、後述の実施例において詳細に記載する。
【0142】
前記歯科切削加工用複合材料の密度は、通常1~4g/cm3であり、好ましくは1.2~3.5g/cm3であり、より好ましくは1.5~3g/cm3である。
人歯象牙質の密度が約2g/cm3、及び、人歯エナメル質の密度が約3g/cm3であることから、前記歯科切削加工用複合材料の密度を、人の歯質に近い上記範囲にすることで、咬合バランスが崩れにくく、咬合バランスが崩れることによって発生する健康被害(歯の摩耗又は破折、顎関節症、肩こり、ストレス等)を軽減できる可能性がある。
なお、前記密度の測定は、ISO17304:2013に記載の方法で測定でき、後述の実施例において詳細に記載する。
【0143】
歯科補綴物の作製
本発明の歯科切削加工用複合材料は、歯科医師又は歯科技工が歯科補綴物として利用することができる。本発明の歯科切削加工用複合材料は、手作業で切削加工してもよいが、例えば、歯科用CAD/CAMシステム(装置)等により切削加工され、一度の切削加工で、歯冠形状の歯科補綴物を作製することができる。
【0144】
歯科補綴物(歯科用補綴物ということもある。)としては、例えば、義歯、インレー、アンレー、クラウン、連冠、ブリッジ(ブリッジは、「架工義歯」、「冠橋義歯」ともいう。)、ファイバーコア、インプラント治療における上部構造体等が挙げられ、クラウン及びブリッジが好ましく、ブリッジがより好ましい。ブリッジとしては、3本ブリッジ以上、最大14本ブリッジまで可能である。ブリッジとしては、好ましくは3~4本ブリッジであり、より好ましくは3本ブリッジである。前記3本ブリッジは、例えば、
図5及び6に示すように、支台装置部5と連結部6と架工歯部7とを有している。なお、歯が欠損していない場合で、歯周病等で歯がグラグラと動く(動揺する)場合に、本発明の歯科補綴物は、ブリッジだけでなく、隣り合う歯同士を強固に結合させるために、2本以上を連結(連冠)させた補綴物にすることもできる。
【0145】
本発明の歯科切削加工用複合材料から切削加工により得られた3本ブリッジの破壊強さは、通常3000N以上であり、好ましくは4000N以上であり、より好ましくは5000N以上である。破壊強さを上記範囲にすることより、歯科補綴物(3本ブリッジ)が、臨床使用時に咬合圧力により破折するのを防ぐことができる。ブリッジとしての使用を考慮すると、下限値は高いほうが好ましい。破壊強さの上限値については、特に制限はなく、例えば、8000N以下、好ましくは7000N以下、より好ましくは6000N以下であってもよい。より具体的に、本発明の歯科切削加工用複合材料から切削加工により得られた3本ブリッジの破壊強さは、3000N以上8000N以下であり、好ましくは4000N以上7000N以下であり、より好ましくは5000N以上6000N以下である。
よって、本発明の歯科切削加工用複合材料は、ブリッジ、特に3本ブリッジとして好ましく使用することができる。
なお、前記破壊強さの測定方法は、後述の実施例において詳細に記載する。
【0146】
切削加工は、歯科用CAD/CAMシステム(装置)を用いて行うことが好ましい。歯科用CAD/CAMシステム(装置)としては、公知の装置を用いることができる。歯科補綴物がCAD/CAMシステム(装置)を用いて作製される場合は、一度の切削加工のみで歯科補綴物を作製することができるので、従来の手作業と比べて効率よく、短時間で高精度な歯科補綴物を作製することができる。歯科補綴物が、例えば、ブリッジの場合には、(A)第1部材が連結部を構成するように切削加工することが好ましい。
【0147】
かくして得られる本発明の歯科切削加工用複合材料から得られる歯科補綴物は、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さ、及び、歯質に近い3点曲げ弾性率を有している。本発明の歯科切削加工用複合材料から、1度の切削加工で、歯科用ブリッジのようなフレーム部及び歯冠部の両方を含む歯科補綴物を作製することができる。
【実施例】
【0148】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0149】
本発明における各種物性の測定方法は、以下のとおりである。
(1)3点曲げ強さ
各参考例で得られた第1部材(芯材)又は第2部材(被覆材)、及び、各実施例等で得られた歯科切削加工用複合材料から、精密切断機でダイヤモンド切断ホイールを用いて試験片を切り出した。試験片の寸法は、JIS T 6526を参考に、高さ(厚み)0.75~3.2mmとした。作製した試験片を用いて、JIS T 6526に準拠した測定方法で3点曲げ試験を実施し、3点曲げ強さを測定した。
具体的には、前記試験片の表面を耐水研磨紙(P2500)で研磨した後、37℃の蒸留水に24時間浸漬し、小型万能試験機(EZ-Graph、株式会社島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/分、支点間距離32mmの条件で3点曲げ試験を実施し、3点曲げ強さを測定した。
【0150】
(2)3点曲げ弾性率
3点曲げ弾性率は、前記3点曲げ試験において、3点曲げ強さ測定時の応力変位曲線における最大点試験力(N)の25%~50%の傾きから3点曲げ弾性率を求めた。
各参考例等において、試験片は4個作製して3点曲げ試験を行い、4回の測定値の平均値を3点曲げ強さ及び3点曲げ弾性率とした。
【0151】
(3)密度
密度は、ISO17304:2013に準拠して測定した。まず、試料(直径15mm、厚み0.8mm)の質量(m1)を、電子天秤(AUX120、株式会社島津製作所製)を用いて計量した。次に、前記試料をラウリル硫酸ナトリウム水溶液に沈め、静置したときの前記試料の質量(m2)を、前記電子天秤を用いて計量した。そして下記の(式1)より、試料の密度(ρ)を算出した。なお、ρ0は、ラウリル硫酸ナトリウム水溶液の密度である。
ρ=(m1×ρ0)/(m1-m2) ・・・(式1)
【0152】
(4)破壊強さ
[3本ブリッジ破壊試験]
3本ブリッジ破壊試験を説明する模式図を
図4に示す。3本ブリッジ4を37℃の蒸留水中で24時間静置した後、
図4に示すように架工歯部(中央の歯)の咬合面に直径8.0mmのステンレス球11をのせ、小型万能試験機(EZ-Graph、株式会社島津製作所製)を用いて加圧用の治具12によりクロスヘッドスピード0.5mm/分で荷重を加え、静的破壊試験を行った。試験片は3個作製し、3回の測定値の平均値を破壊強さとした。
【0153】
1.(A)第1部材(芯材)の製造例及び物性評価
(A)第1部材(芯材)に用いる各種成分は、以下のとおりである。
(C1)多官能の(メタ)アクリレート系重合性モノマー
・UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(NF-501 ウレタンジメタクリレート、三菱ケミカル株式会社製)
・Bis-EMA:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(BPE-80N、新中村化学工業株式会社製)
【0154】
(C2)低粘性重合性モノマー
・MAA:メタクリル酸(MAA、三菱ケミカル株式会社製、粘度:0.3mPa・s未満(31℃))
・DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート(2G、新中村化学工業株式会社製、粘度:3mPa・s(31℃))
・TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート(3G、新中村化学工業株式会社製、粘度:5mPa・s(31℃))
なお、上記粘度は、SV粘度計を用いて測定した。
【0155】
(D)ガラス繊維
・ガラス繊維織物(1)(ATG26100処理テープ、サカイ産業株式会社製)
単繊維径:9μm
厚み:0.26mm
質量:23.9g/m以上
目付:237g/m2
織り方:平織り
・ガラス繊維織物(2)(#2116(シラン処理)、アルテクロス株式会社製)
単繊維径:7μm
厚み:0.1mm
目付:104g/m2
織り方:平織り
【0156】
その他の添加剤
(G)重合開始剤
・BPO:過酸化ベンゾイル(過酸化ベンゾイル、キシダ化学株式会社製)
・着色顔料:酸化第二鉄(赤色顔料)、イソインドリノン(黄色顔料)、及び、二酸化チタン(白色顔料)(以上、大日精化工業株式会社製)
【0157】
参考例1(第1部材(芯材)1)
(C1)成分(UDMA)70質量部、(C2)成分(MAA)30質量部、及び(G)成分(BPO)0.1質量部を混合し、自転・公転式ミキサー(あわとり練太郎、株式会社シンキー製)にて撹拌し、重合性モノマー含有組成物を得た。1辺100mmの(D)ガラス繊維織物(1)を90枚積層させ、それを成形型の空洞部に設置し、前記重合性モノマー含有組成物を前記成形型に流し込み、真空乾燥機(VOS-451SD、東京理化器械株式会社製)にて真空脱泡及び前記重合性モノマー含有組成物の含浸を行った。その後、送風式乾燥機(DRM620TD、アドバンテック社製)にて150℃で4時間係留することで重合させて複合材1を得た。前記複合材1を、精密切断機でダイヤモンド切断ホイールを用いて高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例1を得た。
【0158】
参考例2(第1部材(芯材)2)
(D)ガラス繊維をガラス繊維織物(1)からガラス繊維織物(2)に変更し、ガラス繊維織物(2)の積層枚数を220枚にした以外は、参考例1と同様にして、複合材2を得た。前記複合材2を高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例2を得た。
【0159】
参考例3(第1部材(芯材)3)
重合性モノマー含有組成物に、赤色顔料を0.0016質量部、黄色顔料を0.0024質量部、及び、白色顔料を0.325質量部添加した以外は、参考例1と同様にして、複合材3を得た。前記複合材3を高さ0.75mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例3を得た。
【0160】
参考例4~8(第1部材(芯材)4~8)
参考例3と同様にして作製した複合材3を、表1に記載の寸法に切断して参考例4~8を得た。
【0161】
参考例9(第1部材(芯材)9)
重合性モノマー含有組成物に、参考例3と同様に着色顔料を添加し、及び、(D)ガラス繊維をガラス繊維織物(1)からガラス繊維織物(2)に変更し、ガラス繊維織物の積層枚数を220枚にした以外は、参考例1と同様にして、複合材4を得た。前記複合材4を高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例9を得た。
【0162】
参考例10(第1部材(芯材)10)
1辺100mm、厚み0.26mmのガラス繊維織物(1)を35枚積層し、その上に1辺100mm、厚み0.1mmのガラス繊維織物(2)を110枚積層して成形型の空洞部に設置した以外は、参考例3と同様にして、複合材5を得た。前記複合材5をガラス繊維織物(1)とガラス繊維織物(2)の境界部が高さ方向の中央に位置するように高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例10を得た。
【0163】
比較参考例1(第1部材(芯材)11)
参考例3と同様にして作製した複合材3を、高さ0.5mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して比較参考例1を得た。
【0164】
比較参考例2(第1部材(芯材)12)
第1部材(芯材)として、硬化性樹脂とガラス繊維織物とを含有する歯科切削加工用複合材料であるトリニア(バイコン社製、ブロック型、40mm×19mm×15mm、アイボリー(以下、市販品Aという。))を使用し、高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、比較参考例2を得た。
【0165】
得られた参考例1~10及び比較参考例1~2について、上記の方法に従って3点曲げ強さを測定した。各参考例又は比較参考例の組成及び寸法、並びに結果を下記表1に示す。
【0166】
【0167】
表1より、参考例1~10の第1部材(芯材)は、断面積が3~14mm2であって、3点曲げ強さが500MPa以上であった。
【0168】
2.(B)第2部材の製造例及び物性評価
(B)第2部材に用いる各種成分は、以下のとおりである。
(E1)(メタ)アクリレート系重合性モノマー
・UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(NF-501 ウレタンジメタクリレート、三菱ケミカル株式会社製)
・DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート(2G、新中村化学工業株式会社製、粘度:3mPa・s(31℃))
なお、上記粘度は、SV粘度計を用いて測定した。
【0169】
(F)無機フィラー
以下の方法により調製した(f1)、(f2)及び(f3)を使用した。
(f1)複合金属酸化物フィラーの調製
硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)10質量部及びAP-1(変性エタノール、日本アルコール販売株式会社製AP-1、エタノール87wt%、イソプロピルアルコール13wt%)15質量部を混合し、溶解させた。次いで、得られた溶液にジルコゾールZN(硝酸ジルコニウム水溶液、第一稀元素化学工業株式会社製、ZrO2含有率=25wt%)を118質量部添加し、さらに、MS51(メチルシリケートオリゴマー、三菱ケミカル株式会社製、SiO2含有率=52wt%)280質量部及び蒸留水430質量部を添加した。その後、得られた混合物を60分間攪拌機で混合し、透明かつ均一な原料混合液を調製した。次に、アンモニア水溶液(例えば、ナカライテスク株式会社製、NH3=28%)の2倍希釈液127質量部を、先に調製した原料混合液に攪拌しながら添加すると、共沈ゲル化してゼリー状となった。このゲル化体を取り出し、100℃で乾燥して過剰のアンモニア、水及び溶媒を除去し、乾燥ゲルを得た。この乾燥ゲルを水洗及び濾過し、副成した硝酸アンモニウムを除去し、再度乾燥した。なお、硝酸アンモニウムが多量に残留すると焼成時にガスが発生し、爆発するリスクがあるため、十分に水洗する必要がある。
【0170】
この乾燥ゲル100質量部を250質量部のAP-1中に分散させ、直径0.65mmのジルコニアボールを規定量充填したビーズミル(株式会社シンマルエンタープラゼス製、MULUTI-LABO)を用いて4時間粉砕して、スラリーとした。このスラリーの粒径及び粒度分布を測定したところ、平均粒子径は0.6μmで、粒径が0.2μm未満にまで粉砕されることはなかった。
【0171】
スラリーを回収し、乾燥して溶媒を除去した。この段階の粒子は、完成フィラーの一次粒子に対応する。次にこの粉砕乾燥ゲルをジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製、100AFG/50ATP)で処理し、約20μmのゲル粉体の平均粒子径を得た。このゲルをアルミナ製の皿に入れ電気炉中、毎時270℃の昇温速度で1100℃まで昇温して、同温度で3.5時間保持した後、炉外に取り出し放冷し、白色の粉末を得た。
この焼成ゲルを、上記ジェットミルで粉砕してSiO2、ZrO2及びAl2O3を含有する複合金属酸化物フィラーとした。当該複合金属酸化物の平均粒子径は5.5μm(10%D:0.4μm、50%D:10.1μm、90%D:26.9μm)で、約0.5~約50μmの範囲に幅広く分布した多分散系であることが認められた。
この複合金属酸化物フィラー100質量部をアルコール溶媒(AP-1)200質量部中に懸濁し、γ-MPTS(TSL-8370、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)9質量部を添加し1時間超音波分散した。その後、溶媒をエバポレ-タ-で除去した後、減圧下80℃で2時間乾燥し、減圧下110℃で1時間乾燥することによりシランカップリング材で表面処理された複合金属酸化物フィラーを得た。
【0172】
(f2)フッ化物を含有する無機フィラーの調製
アルコール溶媒(AP-1)200質量部中に、平均粒子径0.7μmのフッ化イオンを放出する歯科用ガラスフィラー(G018-090(UF0.7)、ショット日本株式会社製)100質量部及びγ-MPTSを2質量部加えて、1時間超音波分散した。その後、アルコール溶媒をエバポレーターで除去した後、減圧下80℃で2時間乾燥し、減圧下110℃で1時間乾燥することによりシランカップリング材で表面処理されたフッ素フィラーを得た。
【0173】
(f3)超微粒子SiO2フィラーの調製
超微粒子SiO2フィラーである、平均粒子径15nmのコロイダルシリカフィラー溶液(MEK-ST 100、日産化学株式会社製、メチルエチルケトン中にSiO2が30質量%含有)100質量部中に、γ-MPTSを10質量部加えて、1時間超音波分散した。その後、重合性モノマー(UDMA)を60質量部加えた後、溶媒をエバポレ-タ-で除去し、シランカップリング材で表面処理された超微粒子SiO2フィラーを30質量%含有するUDMAを得た。歯科切削加工用複合材料は、この超微粒子SiO2フィラーを含有するUDMAを適量混合して作製した。
【0174】
<その他の添加剤>
・重合開始剤:BPO(過酸化ベンゾイル)
・着色顔料:乳濁材(酸化ジルコニウム(ZrО2))、黒色顔料(四三酸化鉄(Fe3О4)、赤色顔料(酸化第二鉄(Fe2О3))、及び、黄色顔料(イソインドリノン)
【0175】
参考例11(第2部材(被覆材)1)
重合性モノマーに対して重合開始剤(BPO)が1質量%になるように添加したUDMA及びDEGDMAの混合重合性モノマー(E)に、(f1)複合金属酸化物フィラー、(f2)フッ素フィラー及び(f3)超微粒子SiO2フィラーを含有するUDMAを混合し、(E)重合性モノマー(UDMA/DEGDMA=80/20質量比)が29質量%、(f1)複合金属酸化物フィラーが48質量%、(f2)フッ素フィラーが21質量%及び(f3)超微粒子SiO2フィラーが3質量%含有するペーストを作製した。次いで、減圧下において、均一に混練及び脱泡することで、被覆材用組成物を得た。得られた被覆材用組成物を成形型に充填して重合硬化し、高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例11を得た。
【0176】
参考例12(第2部材(被覆材)2)
前記被覆材用組成物の代わりに歯冠用硬質レジンであるツイニー(YAMAKIN株式会社製、DA3 Flow(以下、市販品Bという))を成形型に充填し、光重合装置(デンケン・ハイデンタル株式会社製、LEDキュアマスター)で90秒間光照射することで重合硬化させた。その後、加熱重合器で110℃、10分間熱処理を行い、高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例12を得た。
【0177】
参考例13(第2部材(被覆材)3)
前記被覆材用組成物の代わりに歯冠用硬質レジンであるルナウィング(YAMAKIN株式会社製、DA3 Flow(以下、市販品Cという))を成形型に充填し、光重合装置(デンケン・ハイデンタル株式会社製、LEDキュアマスター)で90秒間光照射することで重合硬化させ、高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断して、参考例13を得た。
【0178】
得られた参考例11~13について、上記の方法に従って3点曲げ強さを測定した。各参考例の材料及び寸法、並びに結果を下記表2に示す。
【0179】
【0180】
表2より、参考例11~13の第2部材(被覆材)は、3点曲げ強さが500MPa未満であった。
【0181】
3.歯科切削加工用複合材料の製造例及び物性評価
実施例1
(C1)成分(UDMA)70質量部、(C2)成分(MAA)30質量部、及び(G)成分(BPO)0.1質量部を混合し、自転・公転式ミキサー(あわとり練太郎、株式会社シンキー製)にて撹拌し、重合性モノマー含有組成物を得た。1辺100mmのガラス繊維織物(1)を90枚積層させ、それを成形型の空洞部に設置し、前記重合性モノマー含有組成物を前記成形型に流し込み、真空乾燥機(VOS-451SD、東京理化器械株式会社製)にて真空脱泡及び前記重合性モノマー含有組成物の含浸を行った。その後、送風式乾燥機(DRM620TD、アドバンテック株式会社製)にて150℃で4時間係留することで重合させ、第1部材を得た。第1部材は高さ0.75mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断した。
重合性モノマーに対して重合開始剤(BPO)が1質量%になるように添加したUDMA及びDEGDMAの混合重合性モノマー(E)に、(f1)複合金属酸化物フィラー、(f2)フッ素フィラー及び(f3)超微粒子SiO
2フィラーを含有するUDMAを混合し、(E)重合性モノマー(UDMA/DEGDMA=80/20質量比)が29質量%、(f1)複合金属酸化物フィラーが48質量%、(f2)フッ素フィラーが21質量%及び(f3)超微粒子SiO
2フィラーが3質量%含有するペーストを作製する。次いで、減圧下において、均一に混練・脱泡することで、第2部材用組成物を得た。
第1部材は、第2部材との界面に平筆を用いてマルチプライマーリキッド(YAMAKIN株式会社製)を塗布し、2分間乾燥した後、成形型(縦36mm×横40mm×厚み22mm)に入れ、第2部材用組成物を充填し、160℃で2時間係留して重合硬化し、第1部材を含めた値として、高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断することで、
図1に示すような、第1部材と第2部材とを含む2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0182】
実施例2~6
第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例1と同様にして2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0183】
実施例7
重合性モノマー含有組成物に赤色顔料を0.0016質量部、黄色顔料を0.0024質量部、及び、白色顔料を0.325質量部添加し、及び、第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例1と同様にして2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0184】
実施例8~11
第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例7と同様にして2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0185】
実施例12
重合性モノマー含有組成物に赤色顔料を0.0016質量部、黄色顔料を0.0024質量部、及び、白色顔料を0.325質量部添加し、(D)ガラス繊維をガラス繊維織物(1)からガラス繊維織物(2)に変更してその積層枚数を220枚に変更し、及び、第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例1と同様にして2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0186】
実施例13
重合性モノマー含有組成物に赤色顔料を0.0016質量部、黄色顔料を0.0024質量部、及び、白色顔料を0.325質量部添加した以外は、実施例1と同様にして第1部材を作製し、成形型に入れた。被覆材の材料として市販品B(YAMAKIN株式会社製、ツイニー フロー)を用いた。市販品Bを成形型に充填し、光重合装置(デンケン・ハイデンタル株式会社製、LEDキュアマスター)で90秒間光照射することで重合硬化させた。その後、加熱重合器にて110℃で10分間熱処理を行い、2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0187】
実施例14
第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例13と同様にして2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0188】
実施例15
(C1)成分(UDMA)70質量部、(C2)成分(MAA)30質量部、及び(G)成分(BPO)0.1質量部に、赤色顔料を0.0016質量部、黄色顔料を0.0024質量部、及び、白色顔料を0.325質量部添加し、自転・公転式ミキサー(あわとり練太郎、株式会社シンキー製)にて撹拌し、重合性モノマー含有組成物を得た。1辺100mm及び厚み0.26mmのガラス繊維織物(1)を35枚積層し、その上に1辺100mm及び厚み0.1mmのガラス繊維織物(2)を110枚積層して成形型の空洞部に設置し、前記重合性モノマー含有組成物を前記成形型に流し込み、真空乾燥機(VOS-451SD、東京理化器械株式会社製)にて真空脱泡及び前記重合性モノマー含有組成物の含浸を行った。その後、送風式乾燥機(DRM620TD、アドバンテック株式会社製)にて150℃で4時間係留することで重合させ、第1部材を得た。第1部材は、ガラス繊維織物(1)とガラス繊維織物(2)の境界部が高さ方向の中央に位置するように、表3に記載の寸法に切断した。
その後、2層構造の第1部材の上側の層((D)ガラス繊維織物(2)を含む層)の表面に、平筆を用いてマルチプライマーリキッド(YAMAKIN株式会社製)を塗布し、2分間乾燥した後、成形型(縦36mm×横40mm×厚み22mm)に入れ、第2部材用組成物を充填し、160℃で2時間係留して重合硬化し、第2部材用組成物を積層し、第1部材を含めた値として、高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mmに切断することで、
図2に示すような、第1部材(2層)と第2部材とを含む3層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0189】
実施例16
重合性モノマー含有組成物に赤色顔料を0.0016質量部、黄色顔料を0.0024質量部、及び、白色顔料を0.325質量部添加し、及び、第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例1と同様にして第1部材を作製し、成形型に入れた。第2部材の材料として市販品C(YAMAKIN株式会社製、ルナウィング フロー)を用いた。市販品Cを成形型に充填し、光重合装置(デンケン・ハイデンタル株式会社製、LEDキュアマスター)で90秒間光照射することで重合硬化させ、2層タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0190】
実施例17
実施例1と同様に第1部材(芯材)を作製し、高さ3mm、幅3.5mm、長さ34mmに切断し、マルチプライマーリキッド(YAMAKIN株式会社製)を塗布し、2分間乾燥した。その後、成形型の空洞部分(高さ3.2mm、幅4.2mm、長さ34mm)の中央に第1部材(芯材)を設置し、成形型の空洞部分に第2部材(被覆材)の材料として市販品Bを充填し、160℃で2時間係留することで重合させることで、
図3に示すような構造を有する、芯材と被覆材とを含む、芯材被覆タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。ここで、この芯材被覆タイプの歯科切削加工用複合材料を説明する正面図を
図3aに示し、前記正面図のA-A’線断面図を
図3bに示す。なお、被覆材は、芯材の高さ方向の上下の面にそれぞれ0.2mmの厚みで、芯材の幅方向の左右の面にそれぞれ0.7mmの厚みで被覆されている。
【0191】
実施例18
(D)ガラス繊維をガラス繊維織物(1)からガラス繊維織物(2)に変更して、その積層枚数を220枚に変更した以外は、実施例17と同様にして
図3に示すような芯材被覆タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0192】
比較例1
第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例1と同様に2層タイプの歯科切削加工用複合材料を作製した。
【0193】
比較例2
第1部材を表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例7と同様に2層タイプの歯科切削加工用複合材料を作製した。
【0194】
比較例3及び4
第1部材として、市販品Aを表3に記載の寸法に切断して用いたこと以外は、実施例1と同様にして2層タイプの歯科切削加工用複合材料を作製した。
【0195】
得られた実施例1~18及び比較例1~4について、上記の方法に従って3点曲げ強さ及び3点曲げ弾性率を測定した。なお、実施例1~16は、試験片の第2部材が上側(荷重プランジャ側)となるように設置し、測定した。各実施例等の材料及び寸法、並びに結果を下記表3に示す。
【0196】
【0197】
表3より、実施例1~18では、第1部材(芯材)の断面積が3~14mm2であるため、3点曲げ強さが500MPa以上で、3点曲げ弾性率が15~32GPaであった。実施例1~18の本発明の歯科切削加工用複合材料は、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さ、並びに、歯質に近い3点曲げ弾性率となった。
これに対して、比較例1及び2では、断面積3mm2未満であるため、500MPa以上の3点曲げ強さが得られなかった。
比較例3及び4は、断面積3~14mm2であるが3点曲げ強さが500MPa以下であった。これは表1の比較参考例2に示すとおり、第1部材(芯材)の強度が低いためと考えられる。
【0198】
実施例19
実施例1と同様に第1部材(芯材)を作製し、高さ2mm、幅3mm、長さ40mmに切断し、マルチプライマーリキッド(YAMAKIN株式会社製)を塗布し、2分間乾燥した。その後、成形型の空洞部分(高さ16mm、幅19mm、長さ40mm)の中央に第1部材(芯材)を設置し、成形型の空洞部分に被覆材用組成物を充填し、160℃で2時間係留することで重合させることで、
図3に示すような、芯材と被覆材とを含む芯材被覆タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。その後、歯科切削加工用複合材料を高さ16mm、幅19mm、長さ0.8mmの板状に切断した。
【0199】
比較例5~7
従来から、3本ブリッジ等の歯科補綴物の作製に用いられている、金属材料の市販品D(YAMAKIN株式会社製、KZR-CAD チタン)、セラミックス材料の市販品E(YAMAKIN株式会社製、KZR-CAD ジルコニアSHT)、及び、貴金属材料の市販品F(YAMAKIN株式会社製、パラゼット12-n)をそれぞれ高さ16mm、幅19mm及び長さ0.8mmの板状に加工したものを比較例5~7とした。
【0200】
得られた実施例19及び比較例5~7について、上記の方法に従って密度を測定した。結果を下記表4に示す。
【0201】
【0202】
表4より、実施例19(本発明の歯科切削加工用複合材料)は、密度が1~4g/cm3の範囲内であった。よって、本発明の歯科切削加工用複合材料は、人の歯質の密度に近い範囲であるため、咬合バランスが崩れにくく、咬合バランスが崩れることによって起こる健康被害(歯の摩耗又は破折、顎関節症、肩こり、ストレス等)の発生を軽減できる可能性がある。
一方、比較例5~7は、密度が4g/cm3より大きかった。よって、比較例5~7の複合材料は、咬合バランスが崩れることによって健康被害が発生する可能性がある。
【0203】
4.補綴物(ブリッジ)の製造例及び物性評価
実施例20
実施例1と同様に第1部材(芯材)を作製し、高さ2mm、幅2mm、長さ40mmの棒状に切断した以外は実施例18と同様にして、中央に芯材(高さ2mm、幅2mm、長さ40mm)を含み、その周りに被覆材を含む、芯材被覆タイプの歯科切削加工用複合材料(高さ16mm、幅19mm、長さ40mm)を作製した。
その後、歯科切削加工用複合材料をCAD/CAMシステムを用いて
図6に示すような3本ブリッジ形状の試験片4を作製した。第1部材(芯材)2と第2部材(被覆材)3とを含む3本ブリッジ4は、咬合面の厚み2.0mm以上、軸面の厚み1.5mm以上、マージン部の厚み0.8mm以上、連結部6は高さ3.6mm以上、幅5.2mm以上とした。3本ブリッジ4の接着面をアルミナサンドブラスト(粒子径50μm、圧力0.2MPa)で表面処理し、エタノール中で超音波洗浄し、乾燥した。その後、歯科用接着性レジンセメント(サンメディカル株式会社製、スーパーボンド(登録商標))の使用方法に従い、チタン製の支台と接着した。実施例20の試験片を支台8と接着した状態を説明する斜視図を
図7に、
図7の断面模式図を
図8に示す。
【0204】
実施例21~22
(D)ガラス繊維をガラス繊維織物(1)からガラス繊維織物(2)に変更し、ガラス繊維織物(2)の積層枚数を220枚に変更した以外は実施例19と同様に作製した芯材を、表3に記載の寸法に切断した以外は、実施例20と同様にして、芯材被覆タイプの歯科切削加工用複合材料を得た。
【0205】
比較例8(切削加工フレーム+切削加工レジン歯)
上記参考例9と同様の方法で複合材9を作製し、高さ16mm、幅19mm、長さ40mmのブロック状に切断した。得られたブロックから、CAD/CAMシステムを用いて、切削加工フレームを作製した。切削加工フレームは、咬合面の厚みが1.0mm以上、軸面の厚みが0.8mm以上、連結部の高さ及び幅が表3に記載の寸法以上となるように切削加工した。ここで、切削加工フレームの断面の形状は、
図9に9として示している。
上記参考例11と同様の方法で第2部材(被覆材)1を作製し、高さ16mm、幅19mm、長さ40mmのブロック状に切断した。得られたブロックから、CAD/CAMシステムを用いて、切削加工レジン歯を作製した。ここで、切削加工レジン歯の断面の形状は、
図9に10として示している。
得られた切削加工レジン歯の接着面をアルミナサンドブラスト(粒子径50μm、圧力0.2MPa)で表面処理し、エタノール中で超音波洗浄し、乾燥した後、歯科用接着性レジンセメント(サンメディカル株式会社製、スーパーボンド(登録商標))の使用方法に従い、切削加工フレームと接着して3本ブリッジを作製した。
得られた3本ブリッジは、咬合面の厚み2.0mm以上、軸面の厚み1.5mm以上、マージン部の厚み0.8mm以上、連結部は高さ3.6mm以上、幅5.2mm以上であった。3本ブリッジと支台との接着は、実施例20と同様に行った。比較例8の試験片を支台と接着した状態を説明する断面模式図を
図9に示す。
【0206】
比較例9(切削加工フレーム+市販レジン)
比較例8と同様に、上記参考例9と同様の方法で複合材9を作製し、高さ16mm、幅19mm、長さ40mmのブロック状に切断した。得られたブロックから、CAD/CAMシステムを用いて、切削加工フレームを作製した。
前記切削加工フレームの上に、市販品Bを築盛し、光重合装置(デンケン・ハイデンタル株式会社製、LEDキュアマスター)で90秒間光照射することで重合硬化させた。その後、加熱重合器にて110℃で10分間熱処理を行い、3本ブリッジを作製した。3本ブリッジと支台との接着は、実施例20と同様に行った。
【0207】
比較例10(市販品を用いた切削加工フレーム+市販レジン)
切削加工フレームとして、市販品AをCAD/CAMシステムを用いて切削加工したものを使用した。
前記切削加工フレームの上に、比較例9と同様に、市販品Bを築盛して3本ブリッジを作製した。3本ブリッジと支台との接着は、実施例20と同様に行った。
【0208】
得られた実施例20~22及び比較例8~10について、上記の方法に従って破壊強さを測定した。各実施例等の材料及び寸法、並びに結果を下記表5に示す。なお、表5における第2部材(被覆材)の断面積は、3本ブリッジの連結部断面積から第1部材(芯材)の断面積を引いた値である。
【0209】
【0210】
実施例20~22は、本発明の歯科切削加工用複合材料で作製された3本ブリッジであり、破壊強さは3000N以上であった。本発明の歯科切削加工用複合材料を用いることにより、1度の切削加工のみで、3000N以上の破壊強さを有する3本ブリッジを作製することができた。
比較例8の3本ブリッジの破壊強さは3000N未満であった。比較例8の3本ブリッジを作製するために2度の切削加工が必要であった。
比較例10及び11の3本ブリッジの破壊強さは3000N未満であった。比較例9及び10の3本ブリッジは、フレームを切削加工で作製した後に第2部材(被覆材)を築盛する工程が必要であった。
実施例20~22のように、ブロック成形時に予め第1部材(芯材)と第2部材(被覆材)とを一体化しておくことで、手作業で第1部材(芯材)と第2部材(被覆材)とを一体化する工程及び第2部材を築盛する工程をすることなく、切削加工のみで3本ブリッジを作製することができるため、破壊の起点となる気泡の混入を防ぐことができた。そのため、実施例20~22では、高い破壊強さが得られたと考えられる。
これらより、本発明の歯科切削加工用複合材料(実施例20~22)を用いることにより、1度の切削加工のみで、第2部材を築盛する工程を行わず、3000N以上の破壊強さを有する3本ブリッジを作製できることがわかった。比較例8~10では、1度の切削加工のみで3本ブリッジを作製することができず、破壊強さも3000N以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明の歯科切削加工用複合材料を用いれば、CAD/CAMシステムによる1度の切削加工で、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さ、及び、歯質に近い3点曲げ弾性率を有し、十分な破壊強さを有する歯科補綴物、好ましくは3本ブリッジを作製することができる。
【符号の説明】
【0212】
1、1’:歯科切削加工用複合材料
2:第1部材(芯材)
3:第2部材(被覆材)
4、4’:歯科補綴物(3本ブリッジ)
5:支台装置部
6:連結部
7:架工歯部
8:支台
9:切削加工フレーム
10:切削加工レジン歯
11:ステンレス球
12:加圧用の治具
【要約】
本発明の課題は、CAD/CAMシステムによる一度の切削加工で、歯科用ブリッジに求められる3点曲げ強さ、及び、歯質に近い3点曲げ弾性率を有する歯科補綴物を作製することができる歯科切削加工用複合材料を提供することである。
本発明は、(A)第1部材と、前記(A)第1部材の少なくとも一部に接する(B)第2部材とを含む歯科切削加工用複合材料であって、
前記(A)第1部材は、(C)第1硬化性樹脂及び(D)ガラス繊維を含み、
前記(B)第2部材は、(E)第2硬化性樹脂及び(F)無機フィラーを含み、
前記(A)第1部材の3点曲げ強さは、500MPa以上であり、
前記(B)第2部材の3点曲げ強さは、500MPa未満である、歯科切削加工用複合材料に関する。