(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】局所加熱用誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20240903BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20240903BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20240903BHJP
H05B 6/40 20060101ALI20240903BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H05B6/36 E
C21D1/42 B
H05B6/10 381
H05B6/40
H05B6/44
(21)【出願番号】P 2020182894
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】520285880
【氏名又は名称】中部電力ミライズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】中谷 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】竹内 章浩
(72)【発明者】
【氏名】松下 和弘
(72)【発明者】
【氏名】池野 祐平
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-228068(JP,A)
【文献】特開2004-127706(JP,A)
【文献】特開2006-120542(JP,A)
【文献】実開平03-033993(JP,U)
【文献】国際公開第2012/020652(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00-6/10,6/14-6/44
C21D 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電源から高周波電流が給電されることにより被加熱物を誘導加熱する加熱コイルを備えており、
前記加熱コイルは、第1ソレノイドと、第2ソレノイドとを有しており、
前記被加熱物は、前記第1ソレノイド及び前記第2ソレノイドの外部に配置されており、
前記第1ソレノイドの中心軸は、前記第2ソレノイドの中心軸に沿っており、
前記第1ソレノイドの前記被加熱物側の端部と、前記第2ソレノイドの前記被加熱物側の端部とは、
1mm以上10mm未満の間隔で隣接しており、
前記第1ソレノイド及び前記第2ソレノイドは、双方に給電される前記高周波電流により、互いに逆方向の磁場を発生することを特徴とする局所加熱用誘導加熱装置。
【請求項2】
前記第1ソレノイド及び前記第2ソレノイドは、中空導体で形成されていることを特徴とする
請求項1に記載の局所加熱用誘導加熱装置。
【請求項3】
前記第1ソレノイド及び前記第2ソレノイドの少なくとも一方は、複数設けられていることを特徴とする
請求項1または2に記載の局所加熱用誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所加熱用誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等の導電性を有する被加熱物を加熱する方法として、電磁誘導を利用した誘導加熱(IH:Induction Heating)がある。誘導加熱では、高周波電源によって高周波電流を給電することでコイルの周囲に生じる磁場が用いられる。誘導加熱では、その磁場により被加熱物に磁束が供給されることで、被加熱物に誘導電流が生じる。その誘導電流と被加熱物の電気抵抗とにより生じる発熱によって、被加熱物が直接加熱される。そのため、高速で効率の良い昇温が可能であるいった特徴を備えている。このような特徴を活かし、近年、誘導加熱は、種々の分野で広く採用されている。
例えば、特許文献1では、薄板状の被加熱物の誘導加熱装置として、略ルート記号形状に形成された2本の加熱コイルにより形成される被加熱物と平行な略四角形状の空間S1において、被加熱物に略垂直な磁束が生じ、その磁束により被加熱物の表面に渦電流が誘導されるようにして被加熱物が加熱されるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の誘導加熱装置は、被加熱物と平行な空間S1を有する加熱コイルにより、被加熱物を広い範囲で加熱することができる反面、そのままでは小さな範囲を狙って被加熱物を局所的に加熱することができない。
特許文献1の誘導加熱装置において、被加熱物を局所的に加熱しようとすると、被加熱物と平行な加熱コイルの空間S1を小さくする必要がある。しかし、空間S1を小さくすると、加熱コイルから被加熱物へ供給される磁束が減少するため、被加熱物に生じる誘導電流が小さくなる。よって、この場合、誘導加熱装置の高出力化は、困難である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、高出力で被加熱物の局所加熱が可能な局所加熱用誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、高周波電源から高周波電流が給電されることにより被加熱物を誘導加熱する加熱コイルを備えており、加熱コイルは、第1ソレノイドと、第2ソレノイドとを有しており、被加熱物は、第1ソレノイド及び第2ソレノイドの外部に配置されており、第1ソレノイドの中心軸は、第2ソレノイドの中心軸に沿っており、第1ソレノイドの被加熱物側の端部と、第2ソレノイドの被加熱物側の端部とは、1mm以上10mm未満の間隔で隣接しており、第1ソレノイド及び第2ソレノイドは、双方に給電される高周波電流により、互いに逆方向の磁場を発生することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、上記構成において、第1ソレノイド及び第2ソレノイドは、中空導体で形成されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、上記構成において、第1ソレノイド及び第2ソレノイドの少なくとも一方は、複数設けられていることを特徴とする。
なお、本願において、ソレノイドとは、導線を螺旋状に1巻以上巻いた筒状のコイルを指す。また、「中心軸に沿って」とは、略平行であることを示し、第1ソレノイドの中心軸が、第2ソレノイドの中心軸に対して平行な状態、またはV字状或いは字状に傾いている状態を指す。
【発明の効果】
【0007】
本発明の主な効果は、高出力で被加熱物の局所加熱が可能な局所加熱用誘導加熱装置が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の加熱コイル及び被加熱物を示す斜視説明図である。
【
図2】加熱コイルに流れる電流と、電磁誘導により生じる磁場と、被加熱物の表面に生じる誘導電流との向きを示す説明図である。
【
図3】加熱シミュレーションにおける実施例1~4の加熱コイルのモデルの寸法を示す説明図である。
【
図5】実施例1の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、(a)は中央断面磁場強度分布図、(b)はワーク表面電流密度分布図、(c)はワーク表面発熱量分布図である。
【
図6】実施例2の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、(a)は中央断面磁場強度分布図、(b)はワーク表面電流密度分布図、(c)はワーク表面発熱量分布図である。
【
図7】実施例3の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、(a)は中央断面磁場強度分布図、(b)はワーク表面電流密度分布図、(c)はワーク表面発熱量分布図である。
【
図8】実施例4の加熱シミュレーションによるワーク表面発熱量分布図である。
【
図9】実施例5の加熱シミュレーションによるワーク表面発熱量分布図である。
【
図10】実施例6の加熱シミュレーションによるワーク表面発熱量分布図である。
【
図11】比較例1の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、(a)は中央断面磁場強度分布図、(b)はワーク表面電流密度分布図、(c)はワーク表面発熱量分布図である。
【
図12】実施例1の加熱コイルを備える実際の局所加熱用誘導加熱装置による誘導加熱に起因するワークの発熱状態を示す写真である。
【
図13】(a)は巻数1の加熱コイルを示す説明図、(b)は巻数1の加熱コイルを備える実際の局所加熱用誘導加熱装置による誘導加熱に起因するワークの発熱状態を示す写真、(c)は巻数2の加熱コイルを示す説明図、(d)は巻数2の加熱コイルを備える実際の局所加熱用誘導加熱装置による誘導加熱に起因するワークの発熱状態を示す写真である。
【
図14】(a)は線状加熱が可能な加熱コイルを示す説明図、(b)は線状加熱が可能な加熱コイルの加熱シミュレーションによるワーク表面発熱量分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の加熱コイル及び被加熱物を示す斜視説明図である。
局所加熱用誘導加熱装置は、
図1に示すように、加熱コイル1と、加熱コイル1の両端部11,12に接続され、加熱コイル1に高周波電流を給電する高周波電源(図示せず)とを備える。
【0010】
加熱コイル1は、内部に冷却流体(例えば、水)を導通可能な中空導体のワイヤを用いて形成される。加熱コイル1は、
図1に示すように、第1ソレノイド2と、第1ソレノイド2に隣接して配置される第2ソレノイド3と、これらを連結する連結部4とを備える。なお、説明の便宜上、加熱コイル1の方向は、被加熱物に近い側を下とし、第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3の並ぶ方向を左右方向とし、第1ソレノイド2を左とする。
【0011】
図2は、加熱コイルに流れる電流と、電磁誘導により生じる磁場と、被加熱物の表面に生じる誘導電流との向きを示す説明図である。
第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3は何れも、螺旋状に巻かれた円筒状のソレノイドである。第1ソレノイド2の中心軸C1及び第2ソレノイド3の中心軸C2は何れも、上下に延びており、互いに平行である。第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3の巻かれる方向は何れも、上方から下方に向かって、上面視反時計回りである。第1ソレノイド2の下端2aと第2ソレノイド3の下端3aとは、互いに隣接しており、連結部4で連結されている。第1ソレノイド2の下端2aは、第1ソレノイド2の円筒部から出る直前の部位である。第2ソレノイド3の下端3aは、第2ソレノイド3の円筒部から出る直前の部位である。連結部4は、第1ソレノイド2の下端2aと第2ソレノイド3の下端3aとを左右方向に交わる向きで連結する部位である。また、第1ソレノイド2の下端2a及び第2ソレノイド3の下端3a、並びに連結部4は何れも、仮想的な同一水平面上に位置している。
また、第1ソレノイド2と第2ソレノイド3とは、これらの間において短絡及び漏電が発生しないように、距離Wだけ離れている。距離Wは、1mm以上10mm未満が好ましい。さらに好ましくは、1mm以上5mm以下であり、特に、1mm程度であることが最も好ましい。この範囲の上限10mm以上に第1ソレノイド2と第2ソレノイド3とが離れると、局所加熱のための効果が比較的弱いものになる。一方、この範囲の下限1mmよりも第1ソレノイド2と第2ソレノイド3とが近づくと、短絡及び漏電が生じる可能性がある。
【0012】
被加熱物の加熱は、次のように行われる。すなわち、加熱コイル1の下側(例えば、加熱コイル1から2mm下方の位置)に被加熱物が配置された状態で、高周波電源を用いて、加熱コイル1に高周波電流が給電される。
加熱コイル1に電流が給電され、ある瞬間において、
図1に示すように、電流D1,D2が流れた場合、第1ソレノイド2では、
図2に示すように、上面視で反時計回りに電流D3が流れ、第2ソレノイド3では、上面視で時計回りに電流D4が流れる。そして、第1ソレノイド2の周囲には、電磁誘導により、第1ソレノイド2の内部において、
図2の紙面裏面から表面、すなわち被加熱物から離れる方向に向く磁場Aが生じる。一方、第2ソレノイド3の周囲には、第2ソレノイド3の内部において、
図2の紙面表面から裏面、すなわち被加熱物に向かう方向に向く磁場Bが生じる。
【0013】
そして、加熱コイル1に対する高周波電流の給電により、被加熱物の表面における第1ソレノイド2の直下の部分に、上面視反時計回りの誘導電流E1が生じると共に、被加熱物の表面における第2ソレノイド3の直下の部分に、上面視時計回りの誘導電流E2が生じる。これらの誘導電流E1,E2は、被加熱物における、第1ソレノイド2の下端2aと、第2ソレノイド3の下端3aとの間(連結部4)の直下の部分Fにおいて、同方向を向き、大きな誘導電流となる。従って、加熱コイル1の直下にある被加熱物を、部分Fにおいて局所的に高出力で加熱することができる。
【0014】
上記形態の局所加熱用誘導加熱装置は、高周波電源から高周波電流が給電されることにより被加熱物を誘導加熱する加熱コイル1を備えており、加熱コイル1は、第1ソレノイド2と、第2ソレノイド3とを有しており、被加熱物は、第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3の外部に配置されており、第1ソレノイド2の中心軸C1は、第2ソレノイド3の中心軸C2に沿っており、第1ソレノイド2の被加熱物側の下端2aと、第2ソレノイド3の被加熱物側の下端3aとは、隣接しており、第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3は、双方に給電される高周波電流により、互いに逆方向の磁場A,Bを発生する。
このようにして構成される局所加熱用誘導加熱装置によれば、加熱コイル1に高周波電流が給電されることで、第1ソレノイド2に生じる磁場Aによって被加熱物表面に生じる誘導電流E1と、第2ソレノイド3に生じる磁場Bによって被加熱物表面に生じる誘導電流E2とが、部分Fにおいて同じ方向に流れるため、部分Fにおいてより強い誘導電流となり、高出力で局所的に被加熱物を加熱できる。
【実施例】
【0015】
以下、加熱シミュレーションモデルにより、上記形態に即した実施例1~6及び本発明に属さない比較例1について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
図3は、加熱シミュレーションにおける実施例1~4の加熱コイルのモデルの寸法を示
す説明図である。
図4は、比較例1の加熱コイルを示す説明図である。
加熱シミュレーションは、市販のコンピュータ用シミュレーションソフトを用いて行った。
実施例1は、上記形態における第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3が何れも3つのループを有するものとされ、各ソレノイド外径寸法はφ17.0mmとされている。また、これらの間の距離Wが1mmとされている。
実施例2は、距離Wが5mmとされたことを除き、実施例1と同様である。
また、実施例3及び4は、実施例1の距離Wが10mmとされたことを除き、実施例1と同様である。なお、実施例1と各ソレノイドの巻き方は同じであるが、距離Wが10mm以上であるものは、以下「加熱コイル1’」、「第1ソレノイド2’」、「第2ソレノイド3’」、「下端2a’,3a’」と呼ばれる。
実施例5及び6は、各ソレノイド外径寸法がφ50.0mmとされたことを除き、実施例3及び4と同様である。
【0017】
比較例1の加熱コイル1aは、
図4に示すように、第1ソレノイド21と、第1ソレノイド21に隣接して配置される第2ソレノイド31とを備える。第1ソレノイド21の中心軸C3及び第2ソレノイド31の中心軸C4は何れも、上下に延びており、互いに平行である。第1ソレノイド21の巻かれる方向は、上面視時計回りであり、第2ソレノイド31の巻かれる方向は、上面視反時計回りである。また、第1ソレノイド21の下端と第2ソレノイド31の下端とは、連結部41で連結されている。連結部41は、第1ソレノイド2の下端と第2ソレノイド3の下端とを左右方向で連結する部位である。
図4に示すように、電流D5,D6を給電した場合、第1ソレノイド21及び第2ソレノイド31の何れにも、上面視時計回りに電流が流れる。そして、第1ソレノイド21及び第2ソレノイド31の周囲には、電磁誘導により、第1ソレノイド21及び第2ソレノイド31の内部において、被加熱物に向かう方向に向く磁場A’,B’が生じる。
なお、比較例1において、第1ソレノイド21と第2ソレノイド31との間の距離Wを1mmとした。
【0018】
加熱シミュレーションにおける実施例1~2の各加熱コイル1、実施例3~6の各加熱コイル1’及び比較例1としての加熱コイル1aの各加熱シミュレーションモデルについて、以下の条件を共通のものとして設定した。
ソレノイドを形成するワイヤは中実導体(断面寸法φ3.0mm)であり、材質は銅(Cu)とした。ソレノイドの各ループ間の上下方向における間隔は1.0mmとした。
【0019】
実施例1~6及び比較例1の加熱シミュレーションにおいて、被加熱物であるワークは、以下の条件を設定した。
材質は炭素鋼(S45C)とした。寸法は幅100.0×奥行100.0×厚み10.0mmとした。密度は7850.0kg/m3とした。比透磁率は100とした。電気抵抗率は16.7×10-8Ω・mとした。
【0020】
また、実施例1~3,5及び比較例1の加熱シミュレーションを実行する際、以下の条件を設定した。コイル-ワーク間距離は2.0mmとした。初期条件として、ワーク温度は25.0℃とし、空気温度は25℃とした。境界条件として、電流は600Aとし、その周波数は250kHzとした。
実施例4及び6は、電流が1000Aとされたことを除き、実施例1~3,5及び比較例1と同様である。
解析は非定常解析とし、周波数5周期分の解析を行った。
【0021】
図5は、実施例1(ソレノイド外径φ17.0mm,W=1mm,ソレノイド同方向巻き,電流600A)の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、
図5(a)は、各ソレノイドの中心軸を含む平面での断面(中央断面)の磁場強度分布図、
図5(b)は、ワークの加熱コイル側の面(表面)の電流密度分布図、
図5(c)は、ワーク表面の発熱量分布図である。なお、
図5(a)における矢印は磁場の方向を示し、
図5(b)における矢印は電流の方向を示し、以下同様である。
加熱シミュレーションを行った結果、実施例1の加熱コイル1の周囲に生じる磁場強度を確認すると、
図5(a)に示すように、実施例1における第1ソレノイド2の中心軸C1及び第2ソレノイド3の中心軸C2には、それぞれ逆方向を向く磁場A,Bが生じていることが確認できる。
【0022】
次に、ワーク表面における電流密度を確認すると、
図5(b)に示すように、ワーク表面における、第1ソレノイド2と第2ソレノイド3との間(連結部4)の直下(部分F)では、その周囲と比べ、非常に高い密度で誘導電流が生じていることが確認できる。これは、第1ソレノイド2によって、その直下のワーク表面に生じる上面視反時計回りの誘導電流E1と、第2ソレノイド3によって、その直下のワーク表面に生じる上面視時計回りの誘導電流E2とが、第1ソレノイド2の下端2aと、第2ソレノイド3の下端3aとの間の直下(部分F)では、同方向を向くことで、大きな誘導電流となるためだと考えられる。
【0023】
さらに、ワーク表面における発熱量を確認すると、
図5(c)に示すように、実施例1の加熱コイル1の第1ソレノイド2の下端2aと、第2ソレノイド3の下端3aとの間の直下(部分F)では、局所的にワークが加熱されていることが確認できる。また、この時のワーク表面全体の発熱量の総量は、3.33kWであった。
従って、実施例1の加熱コイル1を備える局所加熱用誘導加熱装置を用いることで、被加熱物を部分Fにおいて局所的に加熱可能である。
【0024】
図6は、実施例2(ソレノイド外径φ17.0mm,W=5mm,ソレノイド同方向巻き,電流600A)の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、
図6(a)は、中央断面磁場強度分布図、
図6(b)は、ワーク表面電流密度分布図、
図6(c)は、ワーク表面発熱量分布図である。
実施例2の加熱コイル1の周囲に生じる磁場強度を確認すると、
図6(a)に示すように、実施例2における第1ソレノイド2の中心軸C1及び第2ソレノイド3の中心軸C2には、それぞれ逆方向を向く磁場A,Bが生じていることが確認できる。
【0025】
次に、ワーク表面における電流密度を確認すると、
図6(b)に示すように、ワーク表面における、第1ソレノイド2の下端2aと、第2ソレノイド3の下端3aとの間の直下(部分F)では、その周囲と比べ、高い密度で誘導電流が生じていることが確認できる。
【0026】
さらに、ワーク表面における発熱量を確認すると、
図6(c)に示すように、第1ソレノイド2の下端2aと、第2ソレノイド3の下端3aとの間の直下(部分F)では、局所的にワーク表面が加熱されていることが確認できる。また、この時のワーク表面全体の発熱量の総量は、3.38kWであった。
従って、実施例2の加熱コイル1を備える局所加熱用誘導加熱装置を用いることで、被加熱物を部分Fにおいて局所的に加熱可能である。
【0027】
図7は、実施例3(ソレノイド外径φ17.0mm,W=10mm,ソレノイド同方向巻き,電流600A)の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、
図7(a)は、中央断面磁場強度分布図、
図7(b)は、ワーク表面電流密度分布図、
図7(c)は、ワーク表面発熱量分布図である。
実施例3の加熱コイル1’の周囲に生じる磁場強度を確認すると、
図7(a)に示すように、実施例3における第1ソレノイド2’の中心軸C1及び第2ソレノイド3’の中心軸C2には、それぞれ逆方向を向く磁場A,Bが生じていることが確認できる。
【0028】
次に、ワーク表面における電流密度を確認すると、
図7(b)に示すように、ワーク表面における、加熱コイル1’の第1ソレノイド2’及び第2ソレノイド3’の各直下では、その周囲と比べ高い密度で誘導電流が生じていることが確認できる。
【0029】
さらに、ワーク表面における発熱量を確認すると、
図7(c)に示すように、ワーク表面における、加熱コイル1’の第1ソレノイド2’及び第2ソレノイド3’の直下では、ワーク表面が2つのリング状に加熱されていることが確認できる。しかし、第1ソレノイド2’の下端2a’と、第2ソレノイド3’の下端3a’との間の直下(部分F)では、実施例1~2よりも弱いが、局所的にワーク表面が加熱されていることが確認できる。また、この時のワーク表面全体の発熱量の総量は、3.34kWであった。
従って、実施例3の加熱コイル1’を備える局所加熱用誘導加熱装置を用いることで、被加熱物を部分Fにおいて局所的に加熱可能である。
しかし、各ソレノイド間の距離Wを10mm以上に大きくした場合、局所加熱は可能ではあるが、その効果は比較的弱いものになると考察される。
【0030】
上記考察に基づき、実施例4では、実施例3の加熱コイル1’に給電する電流を増大させることで、効果的に局所加熱が可能となるか否かを確認した。また、実施例5では、実施例3の加熱コイル1’よりも各ソレノイド外径が大きい加熱コイル1’を備えることで効果的に局所加熱が可能となるか否かを確認した。さらに、実施例6では、実施例5の加熱コイル1’に給電する電流を増大することで、より効果的に局所加熱が可能となるか否かを確認した。
【0031】
図8は、実施例4(ソレノイド外径φ17.0mm,W=10mm,ソレノイド同方向巻き,電流1000A)の加熱シミュレーションによるワーク表面発熱量分布図である。
ワーク表面における発熱量を確認すると、
図8に示すように、ワーク表面における、第1ソレノイド2’の下端2a’と、第2ソレノイド3’の下端3a’との間の直下(部分F)では、実施例3と同様に、実施例1~2よりも弱いが、局所的にワーク表面が加熱されていることが確認できる。
従って、実施例4の加熱コイル1’を備える局所加熱用誘導加熱装置を用いることで、被加熱物を部分Fにおいて局所的に加熱可能である。
しかし、加熱コイル1’に給電する電流を大きくしても、各ソレノイド間の距離Wが10mm以上に大きいため、局所加熱の効果は比較的弱いものになると考察される。
【0032】
図9は、実施例5(ソレノイド外径φ50.0mm,W=10mm,ソレノイド同方向巻き,電流600A)の加熱シミュレーションによるワーク表面発熱量分布図である。ただし、
図5~8とは、縮尺が異なっており、
図9は縮尺が小さい。
ワーク表面における発熱量を確認すると、
図9に示すように、ワーク表面における、第1ソレノイド2’の下端2a’と、第2ソレノイド3’の下端3a’との間の直下(部分F)では、実施例3と同様に、実施例1~2よりも弱いが、局所的にワーク表面が加熱されていることが確認できる。
従って、実施例5の加熱コイル1’を備える局所加熱用誘導加熱装置を用いることで、被加熱物を部分Fにおいて局所的に加熱可能である。
しかし、加熱コイル1’の各ソレノイド外径を大きくしても、各ソレノイド間の距離Wが10mm以上であるため、局所加熱の効果は比較的弱いものになると考察される。
【0033】
図10は、実施例6(ソレノイド外径φ50.0mm,W=10mm,ソレノイド同方向巻き,電流1000A)の加熱シミュレーションによるワーク表面発熱量分布図である。ただし、
図5~8とは、縮尺が異なっており、
図10は縮尺が小さく、
図9と同縮尺である。
ワーク表面における発熱量を確認すると、
図10に示すように、ワーク表面における、第1ソレノイド2’の下端2a’と、第2ソレノイド3’の下端3a’との間の直下(部分F)では、実施例3と同様に、実施例1~2よりも弱いが、局所的にワーク表面が加熱されていることが確認できる。
従って、比較例4の加熱コイル1を備える局所加熱用誘導加熱装置を用いることで、被加熱物を部分Fにおいて局所的に加熱可能である。
しかし、加熱コイル1’の各ソレノイド外径を大きくした上で、加熱コイル1’に給電する電流を大きくしても、各ソレノイド間の距離Wが10mm以上に大きいため、局所加熱の効果は比較的弱いものになると考察される。
なお、距離W=9.9mmとしたこと以外、実施例3~6と同様である検討例1~4をシミュレーションしたところ、ワーク表面が部分Fにおいて実施例3~6よりも効果的に局所加熱されたことを確認している(実施例7~10)。
【0034】
図11は、比較例1(ソレノイド外径φ17.0mm,W=1mm,ソレノイド逆方向巻き,電流600A)の加熱シミュレーション結果を示す説明図であって、
図11(a)は、中央断面磁場強度分布図、
図11(b)は、ワーク表面電流密度分布図、
図11(c)は、ワーク表面発熱量分布図である。
加熱コイル1aの周囲に生じる磁場強度を確認すると、
図11(a)に示すように、加熱コイル1aにおける第1ソレノイド21の中心軸C3及び第2ソレノイド31の中心軸C4には、同方向を向く磁場A’,B’が生じていることが確認できる。
【0035】
次に、ワーク表面における電流密度を確認すると、
図11(b)に示すように、加熱コイル1aの第1ソレノイド21及び第2ソレノイド31の各直下では、その周囲と比べ高い密度で誘導電流が生じていることが確認できる。しかし、第1ソレノイド21の下端と、第2ソレノイド31の下端との間の直下(部分F)では、第1ソレノイド21によってその直下のワーク表面に生じる上面視時計回りの誘導電流E1’(
図4)と、第2ソレノイド31によってその直下のワーク表面に生じる上面視時計回りの誘導電流E2’(
図4)とが逆方向を向くため、その周囲と比べ、電流密度が疎となっていることが分かる。
【0036】
さらに、ワーク表面における発熱量を確認すると、
図11(c)に示すように、加熱コイル1aの第1ソレノイド21及び第2ソレノイド31の直下では、ワーク表面が2つのリング状に加熱されていることが確認できる。しかし、ワーク表面における、第1ソレノイド2の下端と、第2ソレノイド3の下端との間の直下(部分F)では、実施例1~2とは異なり、周辺よりも発熱量が低いことが確認できる。また、この時のワーク表面全体の発熱量の総量は、3.04kWであった。
従って、比較例1の加熱コイル1aを備える局所加熱用誘導加熱装置を用いたとしても、被加熱物を局所的に加熱することはできない。
【0037】
また、上述のように、実施例1~2の加熱コイル1,実施例3の加熱コイル1’及び比較例1の加熱コイル1aによって誘導加熱されたワーク表面全体の発熱量の総量は、順に、3.33kW,3.38kW,3.34kW,3.04kWであり、大きな差異はない。一方で、実施例1~3では、ワーク表面の部分Fが局所的に加熱される様子が確認できる。これは、出力が局所に集中していると見ることができる。すなわち、実施例1~2の加熱コイル1、又は実施例3の加熱コイル1’を備える局所加熱用誘導加熱装置は、高出力で被加熱物の局所加熱が可能であるといえる。特に実施例1~2において、局所加熱の効果が顕著に表れることから、加熱コイル1の第1ソレノイド2の被加熱物側の端部2aと第2ソレノイド3の被加熱物側の端部3aとが、1mm以上5mm以下の間隔で隣接する場合、確実に高出力で被加熱物の局所加熱が可能であるといえる。また、実施例3~10を加味すれば、同方向に巻かれた第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3により被加熱物の局所加熱が可能であり、特に、加熱コイル1の第1ソレノイド2の被加熱物側の端部2aと第2ソレノイド3の被加熱物側の端部3aとが、1mm以上10mm未満の間隔で隣接する場合、高出力でより効果的な被加熱物の局所加熱が可能であるといえる。
【0038】
図12は、実施例1の加熱コイル1を備える実際の局所加熱用誘導加熱装置による誘導加熱に起因するワークの発熱状態を示す写真である。
加熱シミュレーションの結果を以て、実際に、実施例1の加熱コイル1を備える局所加熱用誘導加熱装置を作成し、CFRP材のワークの誘導加熱を行い、ワークの発熱を観察した。
加熱コイル1に282kHz,350Aの高周波電流を給電したところ、
図12に示すように、加熱コイル1の連結部4の直下(部分F)において、局所的に200℃以上の発熱が観測された。
すなわち、加熱コイル1を備える局所加熱用誘導加熱装置は、高出力で被加熱物の局所加熱が可能である。
【0039】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。例えば、加熱コイルの材質は銅に限定されず、任意の材質から選択可能である。加えて、加熱コイルを形成するワイヤの内径及び外径、さらに断面形状も任意に選択可能である。
また、第1ソレノイド2及び第2ソレノイド3の各巻数は3に限定されず、
図13(a)に示すように、各巻数が1でも良いし、
図13(c)に示すように、各巻数が2でも良い。実際に各巻数が1又は2の加熱コイルを備える局所加熱用誘導加熱装置を作成し、CFRPのワークを誘導加熱した様子を確認すると、
図13(b),(d)に示すように、各巻数が1及び2の何れの場合もワーク表面の局所的発熱が確認できる。一方、各巻数は3よりも多くても良く、任意に設定可能である。また、第1ソレノイド2の巻数と第2ソレノイド3の巻数とが異なっていても良い。さらに、隣接するソレノイドで磁場の方向が逆になるのであれば、ソレノイドの巻き方向は、上面視で、時計回りでも、反時計回りでも良い。
また、第1ソレノイド及び第2ソレノイドは、上面視円形状以外にも、上面視四角形状等であっても良い。さらに、ソレノイドの内径及び外径も任意に設定可能である。
また、加熱コイルは、隣接するソレノイド同士が逆向きの磁場を生じる配置であれば、3以上のソレノイドを備えていても良い。すなわち、第1ソレノイド及び第2ソレノイドの少なくとも一方は、複数設けられていても良い。例えば、
図14(a)に示す加熱コイル101のように、逆向きの磁場を生じるソレノイド102及びソレノイド103と、逆向きの磁場を生じるソレノイド104及びソレノイド105とを隣接させて配置することができる。これにより、
図14(b)に示すように、被加熱物の部分F1,F2を局所的に加熱できるため、部分F1,F2を通る線状の範囲を高出力で加熱することが可能となる。
また、第1ソレノイド及び第2ソレノイドには、コア(芯材)が入っていても良い。
また、加熱コイル1に給電する高周波電流の大きさ及び周波数は、必要に応じて変化させて良い。
また、第1ソレノイドと第2ソレノイドとで高周波電流の周期が全く一致するのであれば、第1ソレノイドと第2ソレノイドとに、それぞれ異なる高周波電源を接続しても良い。
【符号の説明】
【0040】
1,1’・・加熱コイル、2,2’・・第1ソレノイド、2a,2a’・・下端(端部)、3,3’・・第2ソレノイド、3a,3a’・・下端(被加熱物側の端部)、A,B・・磁場、C1,C2・・中心軸、W・・間隔。