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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】呼吸用気体供給装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A61M16/00 315
A61M16/00 343
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019199974
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021069862
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-05-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 理人
【合議体】
【審判長】平瀬 知明
【審判官】近藤 利充
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180848(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、前記呼吸用気体供給装置は、
気体供給経路の圧力を測定する圧力センサと、
所定の複数の吸気判定閾値から、1つの吸気判定閾値を選択する制御部とを備え、
前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、選択した吸気判定閾値より小さくなった点を吸気検知点と判断するとともに、前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、
前記圧力データの値は、圧力値あるいは圧力勾配値であり、
前記吸気判定閾値は、圧力閾値あるいは圧力勾配閾値であり、
前記吸気判定閾値としての圧力閾値は、少なくとも第1圧力閾値と、第1圧力閾値よりも大きい第2圧力閾値を含み、
前記第1圧力閾値は、-10.0Pa以上-5.0Pa以下であり、
前記第2圧力閾値は、-3.0Pa以上-1.0Pa以下であり、
前記吸気判定閾値としての圧力勾配閾値は、少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも大きい第2圧力勾配閾値を含み、
第1圧力勾配閾値は、-4.0Pa/20ms以上-1.0Pa/20ms以下であり、
第2圧力勾配閾値は、-0.8Pa/20ms以上-0.1Pa/20ms以下であり、
前記制御部は、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、X%より大きい場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、
前記制御部は、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、Y%未満である場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替え、
前記n1回は、2回以上であり、
前記n2回は、3回以上であり、
n1<n2であり、
前記X%は、600%より大きく1000%より小さい値であり、
前記Y%は、10%より大きく17%より小さい値であることを特徴とする呼吸用気体供給装置。
【請求項2】
前記所定の複数の吸気判定閾値のうち最も大きい吸気判定閾値を選択しているとき、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、X%より大きい場合、前記制御部は、前記呼吸用気体の供給を一定時間の連続供給又は一定周期のパルス供給に切り替えることを特徴とする請求項1に記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項3】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、前記呼吸用気体供給装置は、
気体供給経路の圧力を測定する圧力センサと、
所定の複数の吸気判定閾値から、1つの吸気判定閾値を選択する制御部とを備え、
前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、選択した吸気判定閾値より小さくなった点を吸気検知点と判断するとともに、前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、
前記圧力データの値は、圧力値あるいは圧力勾配値であり、
前記吸気判定閾値は、圧力閾値あるいは圧力勾配閾値であり、
前記吸気判定閾値としての圧力閾値は、少なくとも第1圧力閾値と、第1圧力閾値よりも大きい第2圧力閾値を含み、
前記第1圧力閾値は、-10.0Pa以上-5.0Pa以下であり、
前記第2圧力閾値は、-3.0Pa以上-1.0Pa以下であり、
前記吸気判定閾値としての圧力勾配閾値は、少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも大きい第2圧力勾配閾値を含み、
第1圧力勾配閾値は、-4.0Pa/20ms以上-1.0Pa/20ms以下であり、
第2圧力勾配閾値は、-0.8Pa/20ms以上-0.1Pa/20ms以下であり、
前記制御部は、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第1の時間より長い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、
前記制御部は、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第2の時間より短い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替え、
前記第1の時間は、前記n3×7.5秒よりも長い時間であり、
前記第2の時間は、前記n3×1.2秒未満の時間であり、
前記n3回は、2回以上であることを特徴とする呼吸用気体供給装置。
【請求項4】
前記所定の複数の吸気判定閾値のうち最も大きい吸気判定閾値を選択しているとき、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第1の時間より長い場合、前記制御部は、前記呼吸用気体の供給を一定時間の連続供給又は一定周期のパルス供給に切り替えることを特徴とする請求項3に記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項5】
前記呼吸用気体は濃縮酸素であり、前記呼吸用気体供給装置は酸素濃縮装置であることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項6】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御部による制御方法であって、前記制御部において、
所定の複数の吸気判定閾値の中から、1つの吸気判定閾値を選択する吸気判定閾値選択ステップと、
前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、前記吸気判定閾値選択ステップで選択した吸気判定閾値より小さくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、
直近n1回分の前記吸気検知点の間の時間間隔に基づいて、前記複数の吸気判定閾値の中のいずれかに前記1つの吸気判定閾値を切り替える吸気判定閾値切り替えステップとを制御し、
前記吸気判定閾値切り替えステップは、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、X%より大きい場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、Y%未満である場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替え、
前記圧力データの値は、圧力値あるいは圧力勾配値であり、
前記吸気判定閾値は、圧力閾値あるいは圧力勾配閾値であり、
前記吸気判定閾値としての圧力閾値は、少なくとも第1圧力閾値と、第1圧力閾値よりも大きい第2圧力閾値を含み、
前記第1圧力閾値は、-10.0Pa以上-5.0Pa以下であり、
前記第2圧力閾値は、-3.0Pa以上-1.0Pa以下であり、
前記吸気判定閾値としての圧力勾配閾値は、少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも大きい第2圧力勾配閾値を含み、
第1圧力勾配閾値は、-4.0Pa/20ms以上-1.0Pa/20ms以下であり、
第2圧力勾配閾値は、-0.8Pa/20ms以上-0.1Pa/20ms以下であり、
前記n1回は、2回以上であり、
前記n2回は、3回以上であり、
n1<n2であり、
前記X%は、600%より大きく1000%より小さい値であり、
前記Y%は、10%より大きく17%より小さい値であることを特徴とする呼吸用気体供給装置の制御方法。
【請求項7】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御部による制御方法であって、前記制御部において、
所定の複数の吸気判定閾値の中から、1つの吸気判定閾値を選択する吸気判定閾値選択ステップと、
前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、前記吸気判定閾値選択ステップで選択した吸気判定閾値より小さくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、
直近n3回分の前記吸気検知点の間の時間間隔に基づいて、前記複数の吸気判定閾値の中のいずれかに前記1つの吸気判定閾値を切り替える吸気判定閾値切り替えステップとを制御し、
前記吸気判定閾値切り替えステップは、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第1の時間より長い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が第2の時間より短い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替え、
前記圧力データの値は、圧力値あるいは圧力勾配値であり、
前記吸気判定閾値は、圧力閾値あるいは圧力勾配閾値であり、
前記吸気判定閾値としての圧力閾値は、少なくとも第1圧力閾値と、第1圧力閾値よりも大きい第2圧力閾値を含み、
前記第1圧力閾値は、-10.0Pa以上-5.0Pa以下であり、
前記第2圧力閾値は、-3.0Pa以上-1.0Pa以下であり、
前記吸気判定閾値としての圧力勾配閾値は、少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも大きい第2圧力勾配閾値を含み、
第1圧力勾配閾値は、-4.0Pa/20ms以上-1.0Pa/20ms以下であり、
第2圧力勾配閾値は、-0.8Pa/20ms以上-0.1Pa/20ms以下であり、
前記第1の時間は、前記n3×7.5秒よりも長い時間であり、
前記第2の時間は、前記n3×1.2秒未満の時間であり、
前記n3回は、2回以上であることを特徴とする、呼吸用気体供給装置の制御方法。
【請求項8】
前記吸気検知点検出ステップにおいて吸気検知点を検出すると、前記呼吸用気体を一定時間パルス供給するステップをさらに有することを特徴とする、請求項6または7に記載の呼吸用気体供給装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は使用者の呼吸サイクルに応じて、濃縮酸素などの呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息、肺気腫、慢性気管支炎などの呼吸器系疾患の治療法として、患者に高濃度の酸素ガスを吸入させ、不足している酸素を補う酸素吸入療法が行われている。在宅酸素吸入療法は、医師の処方に従って、酸素濃縮装置や酸素ボンベなどの呼吸用気体供給装置を、患者である使用者が操作し、自宅で酸素吸入療法を行うものである。最近では、バッテリーで駆動する携帯式の酸素濃縮装置なども開発され、呼吸用気体供給装置の用途が拡大している。
【0003】
携帯型の呼吸用気体供給装置では、装置の小型軽量化と長時間の稼働を可能にするため、デマンドレギュレータ機能を備えた呼吸同調式のものが多い(特許文献1、2)。デマンドレギュレータ機能は、圧力センサなどで使用者の吸気開始を検知し、呼吸サイクルに同調して吸気相でのみ酸素ガスなどの呼吸用気体を供給し、呼気相では供給を停止する。呼吸用気体を連続して供給するのではなく、使用者の呼吸サイクルに応じてパルス的に供給することで、呼吸用気体の節減、消費電力の削減が図れる。
【0004】
デマンドレギュレータ機能で吸気開始を検知する手段は、カニューラに気体を供給する気体供給経路に圧力センサを設け、吸気開始に伴う圧力変化を検出する方法などが考案されており、例えば圧力センサで検出した圧力値が、予め定めた圧力値閾値より低下した場合、又は呼気相から吸気相側に向かう圧力値の時間変化率(圧力勾配)が、予め定めた圧力勾配閾値を超えた場合に、吸気開始と判断する方法等がある。特許文献3には、安静、労作、及び睡眠といった活動状態によって異なる呼吸位相を検知し、各呼吸サイクルに同調して吸入用気体を供給するデマンドレギュレータ機能について記載されている。
【0005】
また、呼吸状態によらず安定した吸気検知を行うことを意図した技術も考案されている。当該技術は、吸気検知の周期に乱れがなくほぼ一定となっている期間を対象に呼吸数等を判定し、吸気検知数がある閾値回数を下回った場合には呼吸が浅く吸気開始を正しく検知していないことが予想されるため吸気開始の判定条件を緩くし、吸気検知数がある閾値回数を上回った場合には呼吸以外の外乱を過剰に検知していることが予想されるため吸気開始の判定条件を厳しくする(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2656530号公報
【文献】特開2004-105230号公報
【文献】WO2018/180848号
【文献】特表2015-531308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸素吸入療法を受けている呼吸器系疾患患者は、酸素吸入を数秒間断たれることで血中酸素飽和度が低下し息切れや呼吸困難感といった症状が表れやすいこと、吸気と関係のないタイミングで呼吸用気体のパルスを供給され続けることで不快感を生じることが一般的に知られている。そのため、吸気が継続的に検知されないことにより吸気検知の周期が過度に長くなった状態、あるいは外乱を継続的に検知し続けることにより吸気検知の周期が異常に短くなった状態をもとに吸気判定条件を最適化する方法を採用しても、適正な吸気検知の再開までに長い時間を要し、上記の呼吸困難感や不快感を使用者に引き起こす場合がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、吸気検知周期の変化をもとに、吸気の未検知および誤検知の発生を迅速に判定し、使用者の現在の呼吸パターンに応じた吸気検知の判定条件に自動で最適化するデマンドレギュレータ機能を備えた、呼吸用気体供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の(1)~(24)の態様を含む。
(1)本発明の第1の呼吸用気体供給用装置は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、前記呼吸用気体供給装置は、
気体供給経路の圧力を測定する圧力センサと、
所定の複数の吸気判定閾値から、1つの吸気判定閾値を選択する制御部とを備え、
前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、選択した吸気判定閾値より小さくなった点を吸気検知点と判断するとともに、前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、
前記制御部は、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、X%より大きい場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、
前記制御部は、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、Y%未満である場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替えることを特徴とする。
【0010】
(2)(1)の呼吸用気体供給用装置において、前記n1回は、2回以上であることを特徴とする。
【0011】
(3)(1)の呼吸用気体供給用装置において、前記n2回は、3回以上であることを特徴とする。
【0012】
(4)(1)~(3)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記X%は、600%より大きく1000%より小さい値であることを特徴とする。
【0013】
(5)(1)~(4)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記Y%は、10%より大きく17%より小さい値であることを特徴とする。
【0014】
(6)(1)~(5)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記所定の複数の吸気判定閾値のうち最も大きい吸気判定閾値を選択しているとき、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、X%より大きい場合、前記制御部は、前記呼吸用気体の供給を一定時間の連続供給又は一定周期のパルス供給に切り替えることを特徴とする。
【0015】
(7)本発明の第2の呼吸用気体供給用装置は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、前記呼吸用気体供給装置は、
気体供給経路の圧力を測定する圧力センサと、
所定の複数の吸気判定閾値から、1つの吸気判定閾値を選択する制御部とを備え、
前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、選択した吸気判定閾値より小さくなった点を吸気検知点と判断するとともに、前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、
前記制御部は、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第1の時間より長い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、
前記制御部は、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第2の時間より短い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替えることを特徴とする。
【0016】
(8)(7)の呼吸用気体供給装置において、前記n3回は、2回以上であることを特徴とする。
【0017】
(9)(7)または(8)の呼吸用気体供給装置において、前記第1の時間は、前記n3×7.5秒よりも長い時間であることを特徴とする。
【0018】
(10)(7)~(9)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記第2の時間は、前記n3×1.2秒未満の時間であることを特徴とする。
【0019】
(11)(7)~(10)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記所定の複数の吸気判定閾値のうち最も大きい吸気判定閾値を選択しているとき、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第1の時間より長い場合、前記制御部は、前記呼吸用気体の供給を一定時間の連続供給又は一定周期のパルス供給に切り替えることを特徴とする。
【0020】
(12)(1)~(11)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記圧力データの値は、圧力値あるいは圧力勾配値であることを特徴とする。
【0021】
(13)(1)~(12)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記吸気判定閾値は、圧力閾値あるいは圧力勾配閾値であることを特徴とする。
【0022】
(14)(1)~(13)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記吸気判定閾値として、少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも大きい第2圧力勾配閾値を含み、
前記第1圧力勾配閾値は、-4.0Pa/20ms以上-1.0Pa/20ms以下であり、
前記第2圧力勾配閾値は、-0.8Pa/20ms以上-0.1Pa/20ms以下であることを特徴とする。
【0023】
(15)(1)~(13)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記吸気判定閾値として、少なくとも第1圧力閾値と、第1圧力閾値よりも大きい第2圧力閾値を含み、
前記第1圧力閾値は、-10.0Pa以上-5.0Pa以下であり、
前記第2圧力閾値は、-3.0Pa以上-1.0Pa以下であることを特徴とする。
【0024】
(16)本発明の第3の呼吸用気体供給用装置は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、前記呼吸用気体供給装置は、
気体供給経路の圧力を測定する圧力センサと、
所定の複数の吸気判定閾値から、1つの吸気判定閾値を選択する制御部とを備え、
前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、選択した吸気判定閾値より小さくなった点を吸気検知点と判断するとともに、前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、
直近7.5秒間の圧力値の最小値に基づいて、吸気判定閾値を切り替えることを特徴とする。
【0025】
(17)(16)の呼吸用気体供給装置において、前記制御部は、前記直近7.5秒間の圧力値の最小値が第1圧力判定閾値より大きい場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、
前記制御部は、前記直近7.5秒間の圧力値の最小値が第2圧力判定閾値より小さい場合、吸気判定閾値を前記選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替えることを特徴とする。
【0026】
(18)(16)または(17)の呼吸用気体供給装置において、前記第1圧力判定閾値は、-10Pa以上-5Pa以下であり、前記第2圧力判定閾値は-100Pa以上-50Pa以下であることを特徴とする。
【0027】
(19)(1)~(18)のいずれかの呼吸用気体供給装置において、前記呼吸用気体は濃縮酸素であり、前記呼吸用気体供給装置は酸素濃縮装置であることを特徴とする。
【0028】
(20)本発明の第1の呼吸用気体供給装置の制御方法は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御方法であって、
所定の複数の吸気判定閾値の中から、1つの吸気判定閾値を選択する吸気判定閾値選択ステップと、
前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、前記吸気判定閾値選択ステップで選択した吸気判定閾値より小さくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、
直近n1回分の前記吸気検知点の間の時間間隔に基づいて、前記複数の吸気判定閾値の中のいずれかに前記1つの吸気判定閾値を切り替える吸気判定閾値切り替えステップとを有し、
前記吸気判定閾値切り替えステップは、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、X%より大きい場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、(直近n1回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点の間の時間間隔の平均値)の値が、Y%未満である場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替えることを特徴とする。
【0029】
(21)本発明の第2の呼吸用気体供給装置の制御方法は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御方法であって、
所定の複数の吸気判定閾値の中から、1つの吸気判定閾値を選択する吸気判定閾値選択ステップと、
前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、前記吸気判定閾値選択ステップで選択した吸気判定閾値より小さくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、
直近n3回分の前記吸気検知点の間の時間間隔に基づいて、前記複数の吸気判定閾値の中のいずれかに前記1つの吸気判定閾値を切り替える吸気判定閾値切り替えステップとを有し、
前記吸気判定閾値切り替えステップは、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が、第1の時間より長い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、直近n3回分の吸気検知点の間の時間間隔の合計値が第2の時間より短い場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替えることを特徴とする。
【0030】
(22)本発明の第3の呼吸用気体供給装置の制御方法は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御方法であって、
所定の複数の吸気判定閾値の中から、1つの吸気判定閾値を選択する吸気判定閾値選択ステップと、
前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した圧力データの値が、前記吸気判定閾値選択ステップで選択した吸気判定閾値より小さくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと
直近7.5秒間の圧力値の最小値に基づいて、前記複数の吸気判定閾値の中のいずれかに前記1つの吸気判定閾値を切り替える吸気判定閾値切り替えステップとを有することを特徴とする。
【0031】
(23)(22)の呼吸用気体供給装置の制御方法において、前記吸気判定閾値切り替えステップは、前記直近7.5秒間の圧力値の最小値が第1圧力判定閾値より大きい場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より大きい吸気判定閾値に切り替え、前記直近7.5秒間の圧力値の最小値が第2圧力閾値より小さい場合、吸気判定閾値を、選択された吸気判定閾値より小さい吸気判定閾値に切り替えることを特徴とする。
【0032】
(24)(20)~(23)のいずれかの呼吸用気体供給装置の制御方法において、前記吸気検知点検出ステップにおいて吸気検知点を検出すると、前記呼吸用気体を一定時間パルス供給するステップをさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、呼吸位相を正確に検知し、吸気検知周期の変化に基づき、吸気の未検知及び誤検知の発生を迅速に判定し、使用者の現在の呼吸パターンに応じた吸気検知の判定条件に自動で最適化するデマンドレギュレータ機能を備えた、呼吸用気体供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】呼吸用気体供給装置のデマンドレギュレータ機能に関連する主な構成を示す図である。
図2】吸気検知点の間の時間間隔の最新値と、直近複数回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値データに基づいて吸気判定閾値を切り替えるフロー図である。
図3】直近7.5秒間の圧力値の最小値に基づいて吸気判定閾値を切り替えるフロー図である。
図4】マニュアル切り替えを含む吸気判定閾値切り替えのフロー図である。
図5】呼吸用気体の自動連続供給への切り替えを含む吸気判定閾値切り替えのフロー図である。
図6】呼吸用気体の自動パルス供給への切り替えを含む吸気判定閾値切り替えのフロー図である。
図7】覚醒時の呼吸パターンと睡眠時の呼吸パターンを対象に圧力勾配閾値を用いて吸気判定する様子を模式的に示す図である。
図8】覚醒時の呼吸パターンと睡眠時の呼吸パターンを対象に圧力閾値を用いて吸気判定する様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
図7は人における覚醒時の呼吸パターンと、睡眠時の呼吸パターンとを模式的に示したものである。通常、睡眠時の呼吸は浅くなるため、睡眠時の呼吸パターン(図7(b))では、覚醒時の呼吸パターン(図7(a))に比べて圧力振幅が小さく、呼気相から吸気相側に向かう0Paにおける圧力勾配も小さい。本発明において、圧力勾配値は、圧力センサの信号から算出した圧力値を用い、(現在の圧力値)-(20ms前の圧力値)として算出されたものである。なお、本発明において、圧力センサの信号から算出した、圧力値および圧力勾配値を、総じて圧力データと称することがある。また、図7および8から理解される通り、呼吸パターンの呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配値および吸気相の圧力値は常にゼロ以下である。
【0037】
例えば、図7の呼吸パターンについて、圧力勾配閾値(以下、「閾値A」ということもある。)を-2.0Pa/20msと設定し、圧力センサで測定された圧力勾配値が、閾値Aより小さくなる点(傾きとしては大きくなる点)を吸気検知点Gとし、この吸気検知点Gを吸気相の開始と判断する。覚醒時の呼吸パターンである図7(a)では、呼気相から吸気相に移った直後に圧力勾配値は-4.0Pa/20msの最大勾配となり閾値Aより小さくなるので、吸気相の開始を吸気検知点Gとして検知できる。
【0038】
一方、睡眠時の呼吸パターンである図7(b)では、覚醒時に比べ呼吸が浅く緩やかなため、圧力勾配値は最小でも-1.0Pa/20msと閾値Aより小さくなることが少ない。このため、吸気検知点Gが検出されず、吸気相開始の検知エラーとなりやすい。このとき、例えば閾値Aを-0.2Pa/20msに設定しなおせば、感度が上がり最小圧力勾配値が-1.0Pa/20msであっても吸気検知点Gを検出できる。しかし、睡眠時に合わせた閾値Aを覚醒時に設定すると、感度が高すぎて、呼吸用気体供給装置の携帯中に生じる振動や僅かな体動などによって生じる圧力センサのノイズまで呼吸による圧力変化として検知し、吸気検知点Gの誤検知が多発する。
【0039】
実施形態の呼吸同調式の呼吸用気体供給装置は、複数の吸気判定閾値が記憶されており、吸気判定閾値Aとして、前述の圧力勾配閾値の他、圧力閾値が利用できる。圧力閾値とは、例えば、図8の呼吸パターンについて、圧力閾値(以下、「閾値A」ということもある。)を-10Paと設定し、圧力センサで測定された圧力値が、閾値Aより小さくなる点を吸気検知点Gとし、この吸気検知点Gを吸気相の開始と判断する。覚醒時の呼吸パターンである図8(a)では、呼気相から吸気相に移った直後に圧力値は閾値Aより小さくなるので、吸気相の開始を吸気検知点Gとして検知できる。
【0040】
一方、睡眠時の呼吸パターンである図8(b)では、覚醒時に比べ呼吸が浅く緩やかなため圧力値は最小でも-5.0Paと閾値Aより小さくなることが少ない。このため、吸気検知点Gが検出されず、吸気相開始の検知エラーとなりやすい。このとき、例えば閾値Aを-1.0Paに設定しなおせば、感度が上がり最小圧力値が-5.0Paであっても吸気検知点Gを検出できる。しかし、睡眠時に合わせた閾値Aを覚醒時に設定すると、感度が高すぎて、呼吸用気体供給装置の携帯中に生じる振動や僅かな体動などによって生じる圧力センサのノイズまで呼吸による圧力変化として検知し、吸気検知点Gの誤検知が多発する。
【0041】
図1は、呼吸用気体供給装置のデマンドレギュレータ機能に関連する主な構成を示す図である。図1中、実線は気体の流路を示し、点線は電気的な信号の経路を示す。呼吸用気体供給源1は、例えば酸素濃縮装置、または酸素ボンベなどであり、濃縮酸素である吸入用気体を所定の圧力と濃度で供給する。コントロールバルブ6は電磁バルブなどであり、制御部5からの信号により開閉される。呼吸用気体供給源1から供給された気体は、制御部5に制御されたコントロールバルブ6の開閉により、カニューラ2から使用者に供給される。コントロールバルブ6とカニューラ2をつなぐ気体供給経路3には、圧力センサ4が設けられている。
【0042】
デマンドレギュレータ機能の概略を説明する。まず、圧力センサ4が、使用者の呼吸によって変動する気体供給経路3の圧力を、常時測定し制御部5に送信する。制御部5は、圧力センサ4によって得られたリアルタイムの呼吸パターンから吸気検知点Gを検出し、吸気検知点Gを吸気相の開始と判断してコントロールバルブ6を開き、カニューラ2へ一定流量の呼吸用気体を一定時間だけ供給した後コントロールバルブ6を閉じる。なお、供給酸素量のほぼ全てを確実に肺胞での酸素交換に充てるために、一般的に、吸気の前半60%以降に投与された酸素は死腔に留まり肺胞でのガス交換に関与しないこと、および患者の呼吸数は一般的に8~48bpm程度であることを踏まえ、吸気検知点Gが検知されてから約0.24~1.2秒以内に酸素供給が完了していることが望ましい。
【0043】
また、制御部5はコントロールバルブ6の制御と並行して、複数回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値から、吸気検知点Gの検出に使用している閾値Aの切り替えが必要か判断する。より具体的には、直近複数回分の前記吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値を基準に、覚醒時に適した吸気判定閾値(閾値A1、閾値A2、閾値A3)又は睡眠時に適した吸気判定閾値(閾値A4)のいずれかを選択して閾値Aを切り替える。
【0044】
実施形態の呼吸用気体供給装置は、複数の吸気判定閾値が記憶されており、制御部5が閾値Aの切り替えの要否を判断し、閾値Aを、閾値A1、閾値A2、閾値A3、又は閾値A4に切り替えるフローを図2に示す。
【0045】
装置が起動されデマンドレギュレータ機能が作動すると、制御部5は、閾値Aを覚醒時に適した閾値のうち最も低い感度である吸気判定閾値(閾値A1)に設定する(ステップS1)。吸気判定閾値として圧力勾配閾値を採用する場合は、覚醒時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、第1圧力勾配閾値として、-4.0Pa/20ms~-1.0Pa/20msの範囲とすることが好ましく、閾値A1は-4.0±1.0Pa/20msの範囲内、閾値A2は-2.0±1.0Pa/20msの範囲内、閾値A3は-1.0±0.5Pa/20msの範囲内が更に好ましいとわかった。また、吸気判定閾値として圧力閾値を採用する場合は、覚醒時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、第1圧力閾値として、-10.0Pa~-5.0Paの範囲とすることが好ましく、閾値A1は-10.0±2.0Paの範囲内、閾値A2は-5.0±2.0Paの範囲内、閾値A3は-3.0±1.0Paの範囲内が更に好ましいとわかった。閾値A4について睡眠時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、実際の呼吸回数に対する吸気検知点Gの回数の比率(検知率)を75%以上に保つためには、吸気判定閾値として圧力勾配閾値を採用する場合は、第2圧力勾配閾値として、閾値A4は、-0.8Pa/20ms~-0.1Pa/20msであることが好ましく、-0.2±0.05Pa/20msの範囲内が更に好ましいとわかった。また、吸気判定閾値として圧力閾値を採用する場合は、第2圧力閾値として、閾値A4は、-3.0Pa~-1.0Paであることが好ましく、-1.0±0.5Paの範囲内が更に好ましいとわかった。
【0046】
第1圧力勾配閾値(閾値A1、閾値A2、閾値A3)が-4.0Pa/20msより小さい場合、第1圧力閾値(閾値A1、閾値A2、閾値A3)が-10.0Paより小さい場合、第2圧力勾配閾値(閾値A4)が-0.8Pa/20msより小さい場合、または第2圧力閾値(閾値A4)が-3.0Paより小さい場合、それぞれ覚醒時、睡眠時の患者呼吸パターンに対して感度が不足するため実際の呼吸回数に対する吸気検知点Gの検知率が75%未満となり、使用者の血中酸素飽和度(SpO2)を一般的な適正値とされる90%以上に保つために十分な呼吸用気体が供給できない。
【0047】
また、第1圧力勾配閾値(閾値A1、閾値A2、閾値A3)が-1.0Pa/20msより大きい場合、第1圧力閾値(閾値A1、閾値A2、閾値A3)が-5.0Paより大きい場合、第2圧力勾配閾値(閾値A4)が-0.1Pa/20msより大きい場合、または第2圧力閾値(閾値A4)が-1.0Paより大きい場合は、実際の呼吸回数に対する吸気検知点Gの検知率が130%以上となる。圧力センサ4のノイズを誤って吸気検知点Gと検知する割合が大きくなり、吸気相の開始と同調した呼吸用気体の供給がされないため、使用者は不快を感じ、また呼吸用気体の消費も多くなる。
【0048】
制御部5は、ステップS1で設定された閾値A1と、圧力センサ4の信号から算出された圧力勾配値もしくは圧力値から、吸気検知点Gを検出し吸気相の開始と同調した呼吸用気体のパルス供給を開始する。
【0049】
次に、制御部5は、直近の吸気検知点Gの間の時間間隔の最新値データと、直近複数回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値データを用いて、閾値A1から閾値A2、閾値A2から閾値A3、閾値A3から閾値A4への切り替えの要否を判断する(ステップS2、S5、およびS8)。より具体的には、(測定時から直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がX%より大きい場合、呼吸が正確に検知されていないと判断し、吸気判定閾値をより感度の高い閾値に切り替える。このとき、n1は、最新に検知された吸気検知点Gを含み2回以上の任意の値の吸気検知点Gの検知回数とすることが可能であり、例えば、「直近2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔」の場合、最新2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔を意味する。n2は、最新に検知された吸気検知点Gを含み3回以上の任意の値の吸気検知点Gの検知回数とすることが可能であり、n1<n2とする。また、より早期に感度を最適化するためにn1は2回、n2は5回以上、10回以下の値とすることが望ましい。
【0050】
吸気判定閾値の切替要否の判断に関して、ヒトの呼吸数は一般的に8~48bpm程度であり、労作状態(最大で48bpm)から安静状態(最小で8bpm)への推移によってヒトの呼吸周期は最大で600%程度変化することが分かっているため、正しく呼吸検知できているにもかかわらず、より感度の高い閾値への不要な切り替えが行われることを避けるために、Xは600%より大きい値とすることが望ましい。また、より早期に感度を最適化するために、Xは1000%未満とすることが望ましい。(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がX%より大きい場合には、現在の閾値A(閾値A1、閾値A2又は閾値A3)では、吸気検知点Gを正確に検知できていない可能性が高い。そこで、制御部5は、(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がX%よりも大きくなったとき、閾値Aを一段階感度の高い吸気判定閾値に切り替える(ステップS3,S6,S9)。
【0051】
吸気判定閾値Aがより感度の高い吸気判定閾値に切り替えられると、制御部5は圧力センサ4で測定される呼吸パターンから、切換えられた感度の高い圧力勾配値もしくは圧力値が吸気判定閾値より小さくなった点を吸気検知点Gとして検出し、呼吸用気体をパルス供給する。例えば、吸気判定閾値Aがより感度の高い吸気判定閾値A4に切り替えられたことにより、閾値A1~A3では検知不能となりやすかった睡眠時における吸気相の開始点も吸気検知点Gとして検出可能となる。
【0052】
閾値A2、閾値A3、又は閾値A4が選択されているとき、直近の吸気検知点Gの間の時間間隔の最新値データと、直近複数回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値データを用いて、閾値A4から閾値A3、又は閾値A3から閾値A2、又は閾値A2から閾値A1への切り替えの要否を判断する(ステップS4、S7、およびS10)。より具体的には、(測定時から直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がY%より小さい場合、体動等の外乱を誤検知していると判断し、吸気判定閾値をより感度の低い閾値に切り替える。このとき、前述の通り、n1は最新に検知された吸気検知点Gを含み2回以上の任意の値の吸気検知点Gの検知回数とすることが可能であり、n2は、最新に検知された吸気検知点Gを含み3回以上の任意の値の吸気検知点Gの検知回数とすることが可能であり、n1<n2とする。また、より早期に感度を最適化するためにn1は2回、n2は5回以上、10回以下の値とすることが望ましい。上述の通り、ヒトの呼吸数は8~48bpm程度であるため、安静状態(最小で8bpm)から労作状態(最大で48bpm)への推移によってヒトの呼吸周期は最大で17%程度に変化することが分かっているため、正しく呼吸検知できているにもかかわらず、より感度の低い閾値Aへの不要な切り替えが行われることを避けるために、Yは17%より小さい値とすることが望ましい。また、より早期に感度を最適化するためにY%は10%より大きい値とすることが望ましい。(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がY%未満となった場合には、現在の閾値A(閾値A2、閾値A3又は閾値A4)で吸気検知点Gを検出する条件では、感度が高すぎてノイズを吸気検知点Gと誤検知している可能性が高い。そこで、制御部5は、(直近n1分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がY%未満となったとき、閾値Aを一段階感度の低い吸気判定閾値に切り替える(ステップS1、S3、およびS6)。
【0053】
このように、制御部5は、直近の吸気検知点Gの間の時間間隔の最新値データと、直近複数回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値データに基づいて吸気判定閾値を切り替え、使用者の状態に応じたデマンドレギュレータ機能の制御を行うため、吸気相の開始を正確に検知し、呼吸サイクルに同調した呼吸用気体を供給することができる。
【0054】
また、吸気判定閾値は、直近複数回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の合計値データを用いて切り替えることも可能である。より具体的には、直近n3回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の合計値が、第1の時間(tsumup)より長い場合、呼吸が正確に検知されていないと判断し、吸気判定閾値をより感度の高い閾値に切り替える。逆に、直近n3回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の合計値が、第2の時間(tsumdown)より短い場合、体動等の外乱を誤検知していると判断し、吸気判定閾値をより感度の低い閾値に切り替える。このとき、n3は、最新に検知された吸気検知点Gを含み2回以上の任意の値の吸気検知点Gの検知回数とすることが可能である。また、より早期に感度を最適化するためにn3は、5回以上、10回以下の値とすることが望ましい。また、ヒトの呼吸数は一般的に8~48bpm程度であることを考慮すると、正しく呼吸検知できているにもかかわらず不要な吸気判定閾値の切り替えが行われることを避けるために、tsumupはn3×7.5秒よりも長い時間、tsumdownはn3×1.2秒よりも短い時間とすることが望ましい。なお、7.5秒は、8bpmの際の呼吸間隔に相当し、1.2秒は48bpmの際の呼吸間隔に相当する。
【0055】
また、吸気判定閾値は、直近7.5秒間の圧力値の最小値を基準に切り替えることも可能である(図3;ステップS12、S15、およびS18)。より具体的には、直近7.5秒間の圧力値の最小値が第1圧力判定閾値P1よりも大きい場合、呼吸圧が極端に弱く正確な吸気検知をしづらくなっていると判断し、吸気判定閾値をより感度の高い閾値に切り替える(ステップS13、S16、およびS19)。逆に、直近7.5秒間の圧力値の最小値が第2圧力判定閾値P2よりも小さい場合、呼吸圧が過剰なため労作状態など体動等による誤検知が発生しやすい状況であると判断し、吸気判定閾値をより感度の低い閾値に切り替える(ステップS11、S13、およびS16)。このとき、覚醒時・睡眠時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、第1圧力判定閾値P1は-10Pa以上-5Pa以下であり、第2圧力判定閾値P2は-100Pa以上-50Pa以下であることが望ましい。
【0056】
実施形態の呼吸用気体供給装置では、使用者はユーザーインターフェース7から、感度切り替え信号を制御部5に送信し、閾値の切り替えを手動で行うこともできる。図4は使用者のマニュアル操作によって感度切り替え可能なフローの一例である。
【0057】
装置が起動されデマンドレギュレータ機能が作動すると、制御部5は閾値Aを閾値A1に設定する(ステップS21)。使用者がユーザーインターフェース7の感度上昇ボタンを押すと(ステップS22)、ステップ24に進み閾値A1が閾値A2に切り替えられる。閾値AがA2、A3に設定されている場合(ステップS24、S29)も同様に、感度上昇ボタンを押すと(ステップS25、S30)、ステップS29、ステップS34に進み、閾値Aは、それぞれ、A3、A4に切替えられる。また、呼吸用気体供給装置が閾値A2で制御されているとき、使用者が感度低下ボタンを押すと(ステップS26)、ステップS21に進み閾値A1に切り替えられる。閾値AがA3、A4に設定されている場合(ステップS29、S34)も同様に、感度低下ボタンを押すと(ステップS31、S35)、ステップS24、ステップS29に進み、閾値Aは、それぞれ、A2、A3に切替えられる。図4の例では、使用者による感度切り替えボタンの操作が、制御部5による(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がX%よりも大きくなったかを基準とする判断に優先して、圧力勾配閾値が切り替えられる。
【0058】
図5は呼吸位相に同調した呼吸用気体のパルス供給に加え、呼吸位相とは関係なく約90秒間だけ呼吸用気体を連続供給する安全機能を備えた例である。ステップS50までの流れは、図2のステップS1~10と同じである。ステップS50で、(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がY%より大きい場合、ステップS51で、(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)がX%よりも大きくなったか否かをチェックし、最低限の呼吸回数が検知できているか確認する。
【0059】
上述の通り、ヒトの呼吸数は一般的に8~48bpm程度であるため、例えば、(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)が600%よりも大きくなった場合(8bpm相当)には、感度の高い閾値A4で制御しているにもかかわらず、吸気検知点Gの間隔が長く呼吸用気体が十分に供給されていない可能性が高い。そこで、制御部5は呼吸用気体の供給方法を連続供給(オート連続流)するように切り替える(ステップS52)。図1によると、呼吸用気体の連続供給中はコントロールバルブ6が開放状態を継続し、圧力センサ4は呼吸用気体の圧力を検知圧として出力するため、この間は呼吸に伴う圧力変動を検知することができない。したがって、定期的に呼吸用気体の連続供給を止めて、使用者の呼吸が十分に検知可能な強さに戻ったかを確認する必要があるため、オート連続流の供給開始から一定時間が経過すると制御部5は閾値AをA4に戻して吸気検知点Gの検出を再開する(ステップS55)。発明者らの検討によれば、オート連続流の供給時間は、睡眠時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、10秒~120秒とすることで呼吸時間全体の75%以上の時間で呼吸用気体を吸える可能性が高く、90秒程度がさらに好ましい。
【0060】
図6は呼吸位相に同調した呼吸用気体のパルス供給に加え、呼吸位相とは関係なく一定周期で呼吸用気体をパルス供給する安全機能を備えた例である。ステップS61~S71までの流れは、図5のステップS41~51と同じである。
【0061】
制御部5は、オート連続流を供給する(図5のステップS52)ことに代えて、呼吸用気体の供給方法を一定周期(例えば50bpm)でパルス供給(オートパルス)するように切り替える(ステップS72)。このオートパルス動作の期間も閾値A4による吸気検知点Gの検出は継続されており、吸気検知点Gが再検出されると制御部5はオートパルス供給を解除する(ステップS75)。
【0062】
また、ステップS51又はステップS71において(直近n1回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)÷(直近n2回分の吸気検知点Gの間の時間間隔の平均値)を1000%以上とすると吸気検知点Gがほとんど検出できておらずオート連続流もしくはオートパルスの供給が遅れ、睡眠中の使用者に十分な呼吸用気体が供給できず、呼吸用気体供給装置による治療の効果が低下するため、Xは、600%よりも大きく1000%未満の値とすることが望ましい。そして、オート連続流もしくはオートパルスへの切り替え条件(ステップS51又はステップS71)を30分間で5回満たしたとき(ステップS53又はステップS73)は、使用者又は呼吸用気体供給装置に、何らかの異常が起きている可能性が高いと判断して警報を鳴らす(ステップS54又はステップS74)。
【0063】
図5図6のフローでは、吸気検知点Gがほとんど検出できず、デマンドレギュレータ機能では呼吸用気体を十分に供給できない状態になっても、呼吸用気体がオート連続流もしくはオートパルスの供給により自動供給されるので、使用者が息苦しさを感じるリスクが低下する。
【0064】
また、上記では実施形態の一例として、切り替え可能な吸気判定閾値の段階数を4段階としたが、吸気判定閾値は上記の切り替え方法の範囲内において、任意の段階数に設定することも可能である。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、吸気相の開始を検知する吸気判定閾値を、呼吸用気体供給装置の制御部が使用者の状態に応じて切り替えるので、呼吸位相を正確に検知し、吸気検知周期の変化に基づき、吸気の未検知及び誤検知の発生を迅速に判定し、使用者の現在の呼吸パターンに応じた吸気検知の判定条件に自動で最適化するデマンドレギュレータ機能を備えた、呼吸用気体供給装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 呼吸用気体供給源
2 カニューラ
3 気体供給経路
4 圧力センサ
5 制御部
6 コントロールバルブ
7 ユーザーインターフェース
8 ブザー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8