(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 21/18 20060101AFI20240903BHJP
C07C 19/08 20060101ALI20240903BHJP
C07C 21/22 20060101ALI20240903BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C07C21/18
C07C19/08
C07C21/22
C09K5/04 E
C09K5/04 F
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019202673
(22)【出願日】2019-11-07
(62)【分割の表示】P 2018071767の分割
【原出願日】2014-05-22
【審査請求日】2019-12-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-27
(32)【優先日】2013-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュエフイ スン
(72)【発明者】
【氏名】マリオ ジョセフ ナッパ
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】冨永 保
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-116830(JP,A)
【文献】国際公開第2012/030781(WO,A2)
【文献】特開2008-19243(JP,A)
【文献】特表2010-531897(JP,A)
【文献】特表2011-529853(JP,A)
【文献】特表2010-531924(JP,A)
【文献】特開2018-104472(JP,A)
【文献】特開2012-116830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C09K
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)と、CF
3CH
2CHF
2(HFC-245fa)と、HFC-143(C
2H
3F
3)、HFC-245cb(CF
3CF
2CH
3)、およびHFC-152a(CH
3CHF
2)からなる群から選択される少なくとも1種の構成要素とを含み、前記少なくとも1種の構成要素
の総量は、HFO-1234ze
および前記少なくとも1種の構成要素の総量を基準として0.8モル%未満
であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記構成要素がHFC-143を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記構成要素がHFC-152aを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が冷媒であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミナ上に担持されている金属化合物を用いることによる、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3CH=CHF、HFO-1234ze)を製造する触媒プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
過去数十年にわたって多くの産業分野で、オゾン破壊性のクロロフルオロカーボン(CFC)及びヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)に代わる代替物を求める試みが行われている。CFCおよびHCFCは、エアゾール噴射剤、冷媒、洗浄剤、熱可塑性及び熱硬化性フォーム用の膨張剤、熱伝達媒体、ガス状誘電材料、消火剤及び抑制剤、発電サイクル作動流体、重合媒体、微粒子除去液、担体液、バフ研磨剤、並びに置換乾燥剤としての使用を含む、幅広い用途に採用されている。これらの多様な化合物に代わる代替物を探求するにあたって、多くの産業分野で、ヒドロフルオロカーボン(HFC)の使用が注目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
HFCは成層圏オゾンの破壊に寄与しないが、「温室効果」、すなわち地球温暖化に寄与する懸念がもたれている。地球温暖化に寄与することから、HFCも監視対象になっており、更に広範な使用は今後制限される可能性がある。よって、成層圏オゾン破壊に寄与せず、かつ地球温暖化計数(GWP)も低い化学化合物のニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造するプロセスを提供する。このプロセスは、アルミナ上に担持された金属化合物を含む触媒の存在下で、気相の1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素化を行うことにより、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む生成混合物を生産する工程を含み、前記金属化合物は、ナトリウム、カリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、コバルト、銅、及びクロムの塩、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0005】
ヒドロフルオロオレフィン(HFO)は、低ODP及び低GWPを有することが見出されており、多くの用途においてHFCに代わる代替物となる可能性がある物質と見なされている。例えば、CF3CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234ze)、はODPがゼロ、GWPが低く、冷媒及びフォーム膨張剤となる可能性がある物質として特定されている。
【0006】
上述の一般説明及び下記の「発明を実施するための形態」の説明は、単なる例示かつ説明であり、添付されている請求項で定義されている本発明を制限するものではない。実施形態のうちの任意の1つ以上のその他の特徴及び利点は、下記の「発明を実施するための形態」及び請求項から明らかとなろう。
【0007】
本明細書で使用される場合、用語「~を含む(comprises)」、「~を含む(comprising)」、「~を含む(includes)」、「~を含む(including)」、「~を有する(has)」、「~を有する(having)」、又はこれらの任意の他の変形は、非排他的包含を対象とすることが意図されている。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、又は装置は、これらの要素に必ずしも限定されるものではなく、そのようなプロセス、方法、物品、又は装置に対して明示的に記載されていない、又はこれらに固有のものではない、他の要素も含む場合がある。更に、明示的に他に記述のない限り、「又は」は包含的離接を意味するものであり、排他的離接を意味するものではない。例えば、条件A又はBは、下記のいずれか1つを満たすものとする:Aが真(又は存在する)かつBが偽(又は存在しない)、Aが偽(又は存在しない)かつBが真(又は存在する)、並びに、AとBの両方が真(又は存在する)。
【0008】
更に、「1つの(a)」又は「1つの(an)」の使用が、本明細書に記述される要素及び構成成分を記述する際に採用される。これは単に便宜上のものであり、本発明の範囲の一般的な内容を提供するためのものである。この記述は、1つ又は少なくとも1つを含むものとして解釈されるべきであり、単数表記は、他に明示的な意図がない限り、複数をも含むものとする。
【0009】
他に定義のない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語はすべて、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。意味が矛盾する場合は、定義を含め、本明細書が優先される。本明細書に記述されるものに類似又は同等の方法及び材料を、本発明の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、好適な方法及び材料が下記に記述される。更に、材料、方法、及び実施例は単に説明であり、限定することを意図したものではない。
【0010】
量、濃度、又はその他の値若しくはパラメーターが、範囲、好ましい範囲、又は、好ましい上方の値及び/若しくは好ましい下方の値のリストとして与えられているとき、これらは、範囲が別個に開示されているかどうかを問わず、任意の範囲上限値又は好ましい上方の値と、任意の範囲下限値又は好ましい下方の値とによって形成されるすべての範囲を、具体的に開示するものとして理解されるものとする。本明細書に数値範囲が記述されている場合、別途記載のない限りこの範囲は、その端点を包含し、かつその範囲内のすべての整数及び分数を包含することが意図される。
【0011】
下記の実施形態の詳細を説明する前に、いくつかの用語を定義又は明確化する。
【0012】
HFO-1234zeは、2つの配置異性体E又はZのうちの1つとして存在する場合がある。本明細書で使用される場合、HFO-1234zeは、異性体E-HFO-1234ze又はZ-HFO-1234ze、並びにかかる異性体の任意の組み合わせ又は混合物を指す。
【0013】
用語「高温」とは、本明細書で使用される場合、室温よりも高い温度を意味する。
【0014】
用語「脱フッ化水素化」、「脱フッ化水素化する」又は「脱フッ化水素化された」とは、本明細書で使用される場合、その間に分子中の炭素に隣接する水素及びフッ素が除去されるプロセスを意味する。
【0015】
用語「1,3,3,3-テトラフルオロプロペンに対する選択性」とは、本明細書で使用される場合、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(CF3CH2CHF2、HFC-245fa)の脱フッ化水素化反応で得られるすべての生成物の合計モル量に比較した、HFO-1234zeのモル百分率を意味する。
【0016】
本開示は、HFO-1234zeを製造するプロセスを提供する。このプロセスは、アルミナ上に担持された金属化合物を含む触媒の存在下で、気相のHFC-245faの脱フッ化水素化を行うことにより、HFO-1234zeを含む生成混合物を生産する工程を含み、前記金属化合物は、ナトリウム、カリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、コバルト、銅、及びクロムの塩、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0017】
HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化は、所望の生成物であるHFO-1234zeと共に、例えばHFC-143(C2H3F3)、トリフルオロプロピン(CF3C≡CH)、HFC-245cb(CF3CF2CH3)、HFO-1234yf(CF3CF=CH2)、及びHFC-152a(CH3CHF2)などの副生成物を生成する可能性がある。実験から、驚くべきことに、アルミナ上に担持された金属化合物を含む触媒は、他の金属触媒よりも高い選択性をもって、HFO-1234zeを生産できることが見出された。本発明のいくつかの実施形態では、触媒は、アルミナ上に担持された金属化合物から本質的になる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、HFO-1234zeに対する選択性は、少なくとも約99.0モル%である。本発明のいくつかの実施形態において、HFO-1234zeに対する選択性は、少なくとも約99.5モル%である。本発明のいくつかの実施形態において、HFO-1234zeに対する選択性は、少なくとも約99.8モル%である。
【0019】
アルミナ(Al2O3)は、例えばα-、γ-、δ-、η-、θ-、及びχ-アルミナなど、いくつかの異なる相で存在する。α-Al2O3(コランダム)では、酸化物イオンは六方最密構造を形成し、アルミニウムイオンは八面体の隙間の中に対称的に分布している(F.A.Cotton and G.Wilkinson,Advanced Inorganic Chemistry,Fifth Edition,John Wiley & Sons,1988,page 211を参照)。γ-Al2O3は「欠損のある」スピネル構造を有する(カチオン欠損のあるスピネル構造)。同上参照。本発明のいくつかの実施形態では、触媒中のアルミナ担体中の少なくとも95%がγ-Al2O3である。本発明のいくつかの実施形態では、触媒中のアルミナ担体中の少なくとも98%がγ-Al2O3である。本発明のいくつかの実施形態では、触媒中のアルミナ担体はγ-Al2O3から本質的になる。
【0020】
アルミナは、当該技術分野において既知の方法によって調製されてもよい。例えば、ボーキサイトからアルミナを生産するには、バイヤー法が業界で広く使用されている。α-Al2O3は、γ-Al2O3又は任意の含水酸化物を1000℃より高い温度に加熱することによって調製することができる。同上参照。γ-Al2O3は、水和酸化物を約450℃で脱水することにより調製することができる。同上参照。
【0021】
本開示で使用されるアルミナは、任意の好適な形状及び寸法とすることができる。例えば、アルミナは、粉末、顆粒、球状、又はタブレットなどの形態とすることができる。典型的には、本開示に使用されるアルミナは、約75m2/g~約300m2/gの表面積を有する。本発明のいくつかの実施形態では、アルミナは、約90m2/g~約250m2/gの表面積を有する。本発明のいくつかの実施形態では、アルミナは、約160m2/g~約240m2/gの表面積を有する。
【0022】
本開示の金属化合物は、ナトリウム、カリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、コバルト、銅、及びクロムの塩、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。本発明のいくつかの実施形態では、この塩は、ハロゲン化物、重炭酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酸化物、及びオキシフッ化物などの無機塩である。本発明のいくつかの実施形態では、この塩は、酢酸塩、及びシュウ酸塩などの有機塩である。本発明のいくつかの実施形態では、金属化合物は、ナトリウム、カリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、コバルト、銅、及びクロムの、ハロゲン化物、重炭酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酸化物、及びオキシフッ化物、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。本発明のいくつかの実施形態では、金属化合物は、カリウム、亜鉛、及びマグネシウムの無機塩、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。本発明のいくつかの実施形態では、金属化合物は、ZnCl2、KHCO3、MgCl2、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、金属化合物の濃度は、金属化合物とアルミナ担体の合計重量に対して、約0.1重量%~約5重量%である。本発明のいくつかの実施形態では、金属化合物の濃度は、約0.2重量%~約3重量%である。
【0024】
これらの金属ドープされた触媒は、当該技術分野において既知の技法を使用して製造することができる。本発明のいくつかの実施形態では、触媒は、乾燥アルミナを、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、又は重炭酸カリウムなどの金属塩の水溶液を用いてスラリー化することによって調製してもよい。典型的には、撹拌器を使用すると、金属塩をアルミナ上に均一に吸着させるのに役立つ。次いで、このスラリーを、典型的には窒素中高温下で、乾燥させる。
【0025】
所望により、この触媒を、フッ素化剤で前処理してから、脱フッ化水素化触媒として使用する。典型的に、このフッ素化剤はHFであるが、四フッ化イオウ、フッ化カルボニル、及びフッ素化炭化水素化合物(例えばトリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、トリフルオロメタン、又は1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン)などの他の材料を使用してもよい。この前処理は、例えば、本発明の脱フッ化水素化プロセスを実施するための反応器とすることができる任意の好適な容器内に、乾燥した触媒を入れ、次にこの乾燥触媒にHFを通すことによって、触媒をHFで部分的に飽和させることにより、達成することができる。これは、都合の良いことに、例えば約200℃~約450℃の温度で、例えば、約0.1~約16時間にわたって、触媒にHFを通すことによって、実施される。
【0026】
本開示における気相の脱フッ化水素化プロセスは、周知の化学工学手法を使用して実施することができ、これには、連続操作、半連続操作、又はバッチ操作が含まれる。本発明のいくつかの実施形態では、HFC-245faは、所望により希釈剤と共に、反応器内の触媒床に通される。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態では、気相脱フッ化水素化プロセスは、希釈剤なしで実施される。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態では、気相脱フッ化水素化プロセスは、希釈剤の存在下で実施される。本発明のいくつかの実施形態では、希釈剤は、HFC-245fa出発物質と共に反応器に一緒に送り込まれる。本発明のいくつかの実施形態では、反応器に一緒に送り込まれる、希釈剤とHFC-245fa出発物質とのモル比は、約5:1~約0.5:1である。希釈剤は、本開示の脱フッ化水素化条件下で反応しない不活性ガスとすることができる。本発明のいくつかの実施形態では、希釈剤は、He、Ar、又はN2である。本発明のいくつかの実施形態では、希釈剤は、N2である。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、脱フッ化水素化プロセスは、酸素の存在下で実施される。本発明のいくつかの実施形態では、脱フッ化水素化プロセスは、空気の存在下で実施される。本発明のいくつかの実施形態では、空気が、HFC-245faと一緒に反応器内に送り込まれる。プロセス中に酸素又は空気が存在すると、触媒の寿命を延長することができることが、見出されている。
【0030】
本開示の気相脱フッ化水素化プロセスは典型的には、約200℃~約350℃の温度で実施される。本発明のいくつかの実施形態では、脱フッ化水素化プロセスは、約250℃~約325℃の温度で実施される。本発明のいくつかの実施形態では、脱フッ化水素化プロセスは、約250℃~約300℃の温度で実施される。本開示の脱フッ化水素化プロセス中の、HFC-245faと触媒との接触時間は、典型的に約1~約450秒である。本発明のいくつかの実施形態では、接触時間は約10~約120秒である。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、触媒は、アルミナ上に担持された亜鉛の無機塩を含み、脱フッ化水素化プロセスは、約250℃~約350℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.0モル%である。本発明のいくつかの実施形態では、かかる脱フッ化水素化プロセスは約275℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.0モル%である。本発明のいくつかの実施形態では、かかる脱フッ化水素化プロセスは約300℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.8モル%である。所望により、これらのプロセスを、酸素又は空気の存在下で実施することができる。上記のプロセスにおける代表的な亜鉛塩は、ZnCl2である。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、触媒は、アルミナ上に担持されたカリウムの無機塩を含み、脱フッ化水素化プロセスは、約250℃~約350℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.5モル%である。本発明のいくつかの実施形態では、かかる脱フッ化水素化プロセスは約275℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.7モル%である。本発明のいくつかの実施形態では、そのような脱フッ化水素化プロセスは約300℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.7モル%である。所望により、これらのプロセスを、酸素又は空気の存在下で実施することができる。本発明のいくつかの実施形態では、そのような脱フッ化水素化プロセスは、酸素又は空気の存在下で約250℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.8モル%である。本発明のいくつかの実施形態では、かかる脱フッ化水素化プロセスは、酸素又は空気の存在下で約275℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.8モル%である。本発明のいくつかの実施形態では、かかる脱フッ化水素化プロセスは、酸素又は空気の存在下で約300℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.8モル%である。上記のプロセスにおける代表的なカリウム塩は、KHCO3である。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、触媒は、アルミナ上に担持されたマグネシウムの無機塩を含み、脱フッ化水素化プロセスは、約250℃~約350℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.8モル%である。本発明のいくつかの実施形態では、かかる脱フッ化水素化プロセスは約300℃~約325℃の温度で実施され、1234zeに対する選択性は少なくとも約99.8モル%である。
【0034】
反応圧力は、大気圧より低い圧力、大気圧、又は大気圧より高い圧力とすることができる。一般に、大気圧近くの圧力が好ましい。しかしながら、脱フッ化水素化は、減圧下で(すなわち、1気圧未満の圧力で)有利にも実施することができる。
【0035】
気相脱フッ化水素化反応器からの流出物は、典型的には、未反応HFC-245fa、希釈剤(プロセスに使用される場合)、HFO-1234ze、及びいくぶんかの副生成物を含む生成混合物である。HFO-1234zeを、従来の方法によりこの生成混合物から回収してもよい。本発明のいくつかの実施形態では、HFO-1234zeは蒸留により精製又は回収されてもよい。本発明のいくつかの実施形態では、未反応のHFC-245fa、及び所望により希釈剤(プロセスに使用される場合)は、回収して反応器に戻すようにリサイクルされる。
【0036】
本発明の実施形態のプロセスを適用するのに使用される、反応器、蒸留塔及び蒸留塔に付属する供給ライン、流出ライン、並びに関連ユニットは、耐腐食性の材料で構成されてもよい。構成物の典型的な材料としては、テフロン(商標)及びガラスが挙げられる。構成物の典型的な材料としては、ステンレス鋼(特にオーステナイト系)、周知の高ニッケル合金(モネル(商標)ニッケル銅合金、ハステロイ(商標)ニッケル系合金、及びインコネル(商標)ニッケルクロム合金などの)、並びに銅覆鋼も挙げられる。
【0037】
上記に数多くの態様及び実施形態が記述されているが、これらは単に例示であり、制限するものではない。本明細書を読んだ後、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、他の態様及び実施形態が可能であることを理解するであろう。
【実施例】
【0038】
本明細書に記述される概念は、下記の実施例で更に説明されるが、これらは特許請求の範囲に記述される本発明の範囲を制限するものではない。
【0039】
下記の実施例に使用されるAl2O3は、BASFから購入されたもので、表面積は約230m2/gであった。
【0040】
実施例では、下記の略語又は記号が使用される場合がある。
sec=秒
sccm=標準状態立方センチメートル毎分
245fa=CF3CH2CHF2
1234ze=CF3CH=CHF
【0041】
触媒の調製
調製実施例1
アルミナ上に担持された2% Znの調製
Al2O3を破砕し、12~20メッシュにふるい分けし、窒素下で、125℃で4時間、次いで250℃で4時間乾燥させた。0.833グラムのZnCl2を24.2グラムの水に溶かし、この溶液を、20グラムの乾燥Al2O3が入ったビーカーに注いだ。この混合物を、ZnCl2溶液がすべてAl2O3に吸収されるまで撹拌した。結果として得られた触媒を空気乾燥させ、次に窒素下で、125℃で4時間、次いで250℃で4時間乾燥させた。
【0042】
調製実施例2
アルミナ上に担持された0.2%のKの調製
Al2O3を破砕し、12~20メッシュにふるい分けし、窒素下で、250℃で4時間乾燥させた。0.1024グラムのKHCO3を16.2グラムの水に溶かし、この溶液を、20グラムの乾燥Al2O3が入ったビーカーに注いだ。この混合物を、KHCO3溶液がすべてAl2O3によって吸収されるまで撹拌した。結果として得られた触媒を空気乾燥させ、次に窒素下において、125℃で4時間、次いで250℃で4時間乾燥させた。
【0043】
調製実施例3
アルミナ上に担持された0.2%のMgの調製
Al2O3を破砕し、12~20メッシュにふるい分けし、窒素下において、250℃で4時間乾燥させた。0.0783グラムのMgCl2を13.0グラムの水に溶かし、この溶液を、10グラムの乾燥Al2O3が入ったビーカーに注いだ。この混合物を、ZnCl2溶液がすべてAl2O3に吸収されるまで撹拌した。結果として得られた触媒を空気乾燥させ、次に窒素下において、125℃で4時間、次いで250℃で4時間乾燥させた。
【0044】
触媒的脱フッ化水素化反応
実施例4
実施例4は、亜鉛ドープされたAl2O3触媒を通した、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0045】
調製実施例1の記述に従って調製された、5ccの亜鉛ドープされたAl2O3触媒を、1.3センチメートル(1/2インチ)のハステロイC 227反応試験管に入れた。この触媒をまず、HFで、325℃で約13時間処理した。次にHFC-245faを、背圧0.24MPa(35psig)、2.5ml/hrの速度で、この反応試験管に供給した。反応試験管の温度を、一連の試験実施をそれぞれ、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表1に示す。
【0046】
【0047】
実施例5(比較例)
実施例5は、ドープされていないAl2O3触媒を通した、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0048】
5ccのAl2O3を破砕し、12~20メッシュにふるい分けした後、1.3センチメートル(1/2インチ)ハステロイC 227反応試験管に入れ、窒素下で、325℃で2時間乾燥させた。この触媒をまず、HFで、325℃で約13時間処理した。次にHFC-245faを、背圧0.24MPa(35psig)、2.5ml/hrの速度で、この反応試験管内に供給した。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表2に示す。
【0049】
【0050】
実施例6
実施例6は、亜鉛ドープされたAl2O3触媒を通した、空気の存在下での、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0051】
調製実施例1の記述に従って調製された、5ccの亜鉛ドープされたAl2O3触媒を、1.3センチメートル(1/2インチ)のハステロイC 227反応試験管に入れた。この触媒をまず、HFで、325℃で約13時間処理した。次にHFC-245faを、空気と共に、背圧0.24MPa(35psig)で、この反応試験管に供給した。HFC-245faは4ml/hrの速度で、また空気は3sccmの速度で供給された。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表3に示す。
【0052】
【0053】
実施例7(比較例)
実施例7は、ドープされていないAl2O3触媒を通した、空気の存在下での、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0054】
5ccのAl2O3を破砕し、12~20メッシュにふるい分けした後、1.3センチメートル(1/2インチ)ハステロイC 227反応試験管に入れ、窒素下で、325℃で2時間乾燥させた。この触媒をまず、HFで、325℃で約13時間処理した。次にHFC-245faを、空気と共に、背圧0.24MPa(35psig)で、この反応試験管に供給した。HFC-245faは4ml/hrの速度で、また空気は3sccmの速度で供給された。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表4に示す。
【0055】
【0056】
実施例8
実施例8は、カリウムドープされたAl2O3触媒を通した、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0057】
調製実施例2の記述に従って調製された、5ccのカリウムドープされたAl2O3触媒を、1.3センチメートル(1/2インチ)のハステロイC 227反応試験管に入れた。この触媒をまず、HFで、325℃で約13時間処理した。次にHFC-245faを、背圧0.24MPa(35psig)、2.5ml/hrの速度で、この反応試験管に供給した。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表5に示す。
【0058】
【0059】
実施例9
実施例9は、カリウムドープされたAl2O3触媒を通した、空気の存在下における、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0060】
調製実施例2の記述に従って調製された、5ccのカリウムドープされたAl2O3触媒を、1.3センチメートル(1/2インチ)のハステロイC 227反応試験管に入れた。この触媒をまず、HFで、325℃で約13時間処理した。次にHFC-245faを、空気と共に、背圧0.24MPa(35psig)で、この反応試験管に供給した。HFC-245faは4ml/hrの速度で、また空気は3sccmの速度で供給された。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表6に示す。
【0061】
【0062】
実施例10(比較例)
実施例10は、Cr2O3触媒を通した、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0063】
5ccのCr2O3(BASFから購入、表面積約215m2/g)を破砕し、12~20メッシュにふるい分けした後、1.3センチメートル(1/2インチ)Hastelloy C 227反応試験管に入れ、窒素下で、400℃で75分間乾燥させた。この触媒を最初に、高温でHFにより活性化させた。次にHFC-245faを、背圧0.24MPa(35psig)、2.5ml/hrの速度で、この反応試験管に供給した。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、225℃、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表7に示す。
【0064】
【0065】
実施例11(比較例)
実施例11は、Cr2O3触媒を通した、空気の存在下における、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0066】
5ccのCr2O3(BASFから購入、表面積約215m2/g)を破砕し、12~20メッシュでふるい分けした後、1.3センチメートル(1/2インチ)ハステロイC 227反応試験管に入れ、窒素下で、400℃で75分間乾燥させた。この触媒を最初に、高温でHFにより活性化させた。次にHFC-245faを、空気と共に、背圧0.24MPa(35psig)で、この反応試験管に供給した。HFC-245faは4ml/hrの速度で、また空気は3sccmの速度で供給された。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表8に示す。
【0067】
【0068】
実施例12
実施例12は、マグネシウムドープされたAl2O3触媒を通した、HFC-245faの触媒的脱フッ化水素化を示す。
【0069】
調製実施例3の記述に従って調製された、5ccのマグネシウムドープされたAl3O3触媒を、1.3センチメートル(1/2インチ)のハステロイC 227反応試験管に入れた。この触媒をまず、HFで、325℃で約13時間処理した。次にHFC-245faを、背圧0.24MPa(35psig)、2.5ml/hrの速度で、この反応試験管に供給した。反応試験管の温度を、一連の試験実施それぞれについて、250℃、275℃、300℃、及び325℃に維持し、この反応試験管からの流出物をGC及びGC-MSで分析した。様々な温度での反応の結果を、表9に示す。
【0070】
【0071】
一般記述又は実施例において上述された作業のすべてが必要なわけではなく、特定の作業の一部は必要でない場合があり、また、1つ以上の更なる作業を上述の作業に加えて実施してもよいことに注意されたい。また更に、作業が記載されている順序は、必ずしも実施される順序ではない。
【0072】
上述の明細書において、具体的な実施例を参照して本発明の概念が記述されている。しかしながら、下記の特許請求の範囲に示されている本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更をなすことが可能であることが、当業者の一人は理解されよう。したがって、本明細書は、制限的な意味ではなく例示として見なされるものであり、そのような修正がすべて、本発明の範囲内に含まれることが意図される。
【0073】
利益、その他の利点、及び問題の解決策が、具体的な実施形態に関連して上記に記述されている。しかしながら、これらの利益、利点、問題の解決策、及び任意の利益、利点又は解決策を生じる場合がある又はより明らかにする場合があるようないかなる特徴も、特許請求の範囲の一部又はすべてにおいて必須、必要、又は不可欠な特徴として解釈されるものではない。
【0074】
明確にするために、別個の実施形態の文脈において本明細書に記述されている特定の特徴は、単一の実施形態中で組み合わせて提供されてもよいことが理解されるべきである。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈において記述されている様々な特徴も、別個に提供されてよく、また任意の下位組み合わせで提供されてもよい。