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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】圧電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/50 20230101AFI20240903BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20240903BHJP
   H10N 30/88 20230101ALI20240903BHJP
   H10N 30/067 20230101ALI20240903BHJP
   H10N 30/053 20230101ALI20240903BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240903BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240903BHJP
   H10N 30/093 20230101ALI20240903BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H10N30/50
H10N30/853
H10N30/88
H10N30/067
H10N30/053
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/093
C04B35/495
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020057954
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158249
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】波多野 桂一
(72)【発明者】
【氏名】塚越 功一
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-167407(JP,A)
【文献】特開2020-147466(JP,A)
【文献】特開2017-163055(JP,A)
【文献】特開2016-175824(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086449(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/094115(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/50
H10N 30/853
H10N 30/88
H10N 30/067
H10N 30/053
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/093
C04B 35/495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム及びバ
リウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と銀とを含有する圧電セ
ラミックスで構成され、
前記アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の
元素の含有量を100モル%としたときに、0.2モル%以上、2.0モル%未満であ
り、
銀偏析領域を内包する焼結粒子を少なくとも1つ含み、
前記銀偏析領域の長径が10nm以下である
圧電セラミックス層と、
前記圧電セラミックス層間に配置され、
銀の含有量が80質量%以上である金属で形成されている
内部電極と、
を有することを特徴とする積層型圧電素子。
【請求項2】
前記圧電セラミックス層が、前記銀偏析領域を5箇所以上内包する焼結粒子を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の積層型圧電素子。
【請求項3】
前記アルカリニオブ酸塩が、以下の組成式(1)で表される、請求項1又は2に記載の積層型圧電素子。

(AgtM2u(K1-v-wNavLi1-t-u(SbTaNb1-x-
y-zZr)O…(1)

(組成式(1)中、M2は前記アルカリ土類金属元素を示す。また、t,u,v,w,x,y,z,aは、0.005<t≦0.05、0.002≦u<0.02、0.007<t+u<0.07、0≦v≦1、0.02<w≦0.1、0.02<v+w≦1、0≦x≦0.1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.02、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。)
【請求項4】
前記圧電セラミックス層が、前記アルカリニオブ酸塩の構成元素以外にさらにLi及びSiを含み、当該アルカリニオブ酸塩を100モル%とした場合に、Liの含有量が0.1モル%以上3.0モル%以下であり、Siの含有量が0.1モル%以上3.0モル%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項5】
前記圧電セラミックス層中にLiNbOが析出している、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項6】
前記圧電セラミックス層中に、ケイ酸アルカリ化合物及びケイ酸ニオブ酸アルカリ化合物から選択される少なくとも1つの化合物が析出している、請求項4又は5に記載の積層型圧電素子。
【請求項7】
前記圧電セラミックス層が、前記アルカリニオブ酸塩の構成元素以外にさらにMnを含み、該アルカリニオブ酸塩を100モル%とした場合に、Mnの含有量が2.0モル%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項8】
前記圧電セラミックス層中にマンガンを含む酸化物が析出している、請求項7に記載の積層型圧電素子。
【請求項9】
前記圧電セラミックス層中の焼結粒子径が、累積頻度で表示した粒度分布における10%径をD10、50%径をD50、90%径をD90としたとき、100nm≦D50≦800nm及び(D90-D10)/D50≦2.0を満たす、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項10】
前記内部電極及び/又は前記圧電セラミックス層を被覆する保護部をさらに具備する、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項11】
前記内部電極が、表面に設けられた1対の外部電極を介して、1層おきに電気的に接続されてなる、請求項1~10のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項12】
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末と有機結合剤とを含むと共
に、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素を
含有し、該アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト
中の元素の含有量を100モル%としたときに、0.2モル%以上、2.0モル%未満
である生シートを準備すること、
銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を前記生シート上に配置す
ること、
前記内部電極前駆体が配置された前記生シートを積層して積層体を作製すること、並
びに
前記積層体を800℃~1040℃の温度で焼成して、前記アルカリニオブ酸塩を主
成分とし、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属
元素と銀とを含有すると共に、
銀偏析領域を内包する焼結粒子を少なくとも1つ含み、かつ前記銀偏析領域の長径が1
0nm以下である焼結体層の間に、内部電極を備える焼成体を得ること、
を含む、積層型圧電素子の製造方法。
【請求項13】
前記焼結体層の前記アルカリニオブ酸塩が、以下の組成式(1)で表される、請求項12に記載の積層型圧電素子の製造方法。

(AgtM2u(K1-v-wNavLi1-t-u(SbTaNb1-x-
y-zZr)O…(1)

(組成式(1)中、M2は前記アルカリ土類金属元素を示す。また、t,u,v,w,x,y,z,aは、0.005<t≦0.05、0.002≦u<0.02、0.007<t+u<0.07、0≦v≦1、0.02<w≦0.1、0.02<v+w≦1、0≦x≦0.1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.02、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。)
【請求項14】
前記生シートは銀を含まない、請求項12又は13に記載の積層型圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、圧電性を有するセラミックス(圧電セラミックス)を一対の電極で挟み込んだ構造の電子部品である。ここで、圧電性とは、電気エネルギーと機械エネルギーとを相互に変換可能な性質である。
【0003】
圧電素子は、前述した圧電セラミックスの性質を利用して、一対の電極間に印加された電圧を、圧力や振動といった機械エネルギーに変換することで、他の物体を動かしたり、自身を動作させたりすることができる。他方、圧電素子は、振動や圧力といった機械エネルギーを電気エネルギーに変換し、当該電気エネルギーを一対の電極間の電圧として取り出すこともできる。
【0004】
電極間に印加された電圧を機械的な振動に変換する場合、圧電素子は、幅広い周波数の振動を発生することができる。具体的には、一般的な生活環境に存在する、低周波音と呼ばれる1~100Hz程度の周波数帯、人間が音として感知することが可能な20Hz~20kHz程度の周波数帯、超音波と呼ばれる20kHz~数GHzの周波数帯、及び電磁波のような数~数十GHz程度の周波数帯等の振動が挙げられる。このため、圧電素子は、スピーカーや振動部品等に利用されている。他方、圧電素子は、前述のような種々の周波数帯の振動を感受することで、これに対応する幅広い周波数帯の電圧を発生することもできる。
【0005】
圧電素子の構造としては、圧電セラミックスの表面にのみ電極を形成したものの他、積層型圧電素子と呼ばれる、積層された複数の圧電セラミックス層を内部電極で挟み込んだものが知られている。積層型圧電素子は、複数の圧電セラミックス層の積層方向において大きい変位が得られるため、例えばアクチュエータ等に利用可能である。積層型圧電素子は、典型的には、圧電セラミックス層と内部電極とを同時に焼成することにより製造される。
【0006】
こうした圧電素子を構成する圧電セラミックスとしては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O、PZT)及びその固溶体を主成分とするものが広く用いられている。PZT系の圧電セラミックスは、高いキュリー温度を有することから、高温環境下でも使用可能な圧電素子を得ることができる。また、この圧電セラミックスは、高い電気機械結合係数を有することから、電気的エネルギーと機械的エネルギーとを効率良く変換可能な圧電素子を得ることができるという利点も有する。さらに、この圧電セラミックスは、適切な組成を選択することにより、1000℃を下回る温度で焼成できるため、圧電素子の製造コストを低減できる利点も有する。特に、前述した積層型圧電素子では、圧電セラミックスと同時焼成される内部電極に、白金やパラジウム等の高価な材料の含有量を減らした低融点の材料が使用できるようになることが、大きなコスト低減効果を生む。
【0007】
しかし、PZT系の圧電セラミックスは、有害物質である鉛を含むことが問題視されており、これに代わる、鉛を含まない圧電磁器組成物が求められている。
【0008】
現在まで、鉛を含まない圧電セラミックスとして、アルカリニオブ酸((Li,Na,K)NbO)系、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)TiO、BNT)系、ビスマス層状化合物系及びタングステンブロンズ系等の種々の組成を有するものが報告されている。これらのうち、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスは、キュリー点が高く、電気機械結合係数も比較的大きいことから、PZT系に代わるものとして注目されている(特許文献1)。
【0009】
アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスにおいては、焼結温度の低温化又は特性の向上を目的として、主成分であるアルカリ金属元素及びニオブに加えて、銀が添加されている(特許文献2~4)。
【0010】
例えば、特許文献2には、アルカリニオブ酸系の化合物粉末に対してAgOを添加することにより、焼成時のLiNbOの析出を促進し、焼成温度を1000℃前後に低温化できることが開示されている。
【0011】
また、特許文献3には、アルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析している圧電セラミックスが、高温下での使用に好適なものであることが開示されている。
【0012】
さらに、特許文献4には、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスをアルカリ土類金属と銀とを含有するものとすることで、高い信頼性及び良好な圧電特性を兼ね備えた圧電素子を低コストで製造可能となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2007/094115号
【文献】国際公開第2012/086449号
【文献】特開2016-175824号公報
【文献】特開2017-163055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年の技術の進歩に伴い、圧電素子には更なる小型化と高性能化とが求められている。圧電素子を小型化すると、必然的に、素子中の圧電セラミックスの体積が減少すると共に電極間距離が狭まるため、その圧電特性及び電気抵抗が低下する傾向にある。このため、圧電素子の変位量ないし発生電圧を保持すること、並びに電極間の絶縁性を保持して信頼性を確保することが難しくなる。
【0015】
加えて、積層型圧電素子では、内部電極として、Agの含有割合の高い金属が利用されることが多い。この場合、焼成時に圧電セラミックス中にAgが拡散して圧電セラミックスの電気抵抗が低下することにより、積層型圧電素子の信頼性が損なわれることも懸念される。
【0016】
特許文献2では、LiNbOの析出を利用して圧電セラミックスの焼成温度を低下させていることから、積層型圧電素子とする際に、内部電極からのAgの拡散量が抑えられると解される。しかし、LiNbOは導電性を有するため、その析出態様によっては圧電セラミックスの電気抵抗が低下することが懸念される。
【0017】
また、特許文献3のように、焼結体中の空隙にAgを偏析させることで内部電極中のAgの拡散を抑制する場合、Agの偏析が圧電セラミックス中の粒界に生じてしまう。この粒界におけるAgの偏析は、内部電極間の距離が50μm以下となるような積層型圧電素子において、電極間の導通の原因となりやすく、その大きさが0.1μm程度であっても、不良率が上昇してしまうことがあった。
【0018】
特許文献4では、内部電極からのAgの拡散を利用して、圧電セラミックスの粒子径を微細に制御しており、内部電極中のAgの含有割合が70質量%程度までは優れた特性の積層型圧電素子が得られている。しかしながら、更なるコストダウンを目的として内部電極中の銀の含有量を80質量%以上とした場合には、焼成時に内部電極が液相化してしまい、積層型圧電素子が得られないことがあった。
【0019】
そこで本発明は、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスを用いた積層型圧電素子を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスとして、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つ、並びに銀を含有するものを用いると共に、圧電セラミックス中のAgの偏析を、粒界ではなく粒内に生じさせることで、当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一実施形態は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と銀とを含有する圧電セラミックスで構成され、前記アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量を100モル%としたときに、0.2モル%以上、2.0モル%未満であり、銀偏析領域を内包する焼結粒子を少なくとも1つ含み、かつ前記銀偏析領域の長径が10nm以下である圧電セラミックス層と、前記圧電セラミックス層間に配置され、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成されている内部電極と、を有することを特徴とする積層型圧電素子である。
【0022】
また、本発明の他の実施形態は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末と有機結合剤とを含むと共に、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素を含有し、該アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量を100モル%としたときに、0.2モル%以上、2.0モル%未満である生シートを準備すること、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を前記生シート上に配置すること、前記内部電極前駆体が配置された前記生シートを積層して積層体を作製すること、並びに前記積層体を焼成して、前記アルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と銀とを含有すると共に、銀偏析領域を内包する焼結粒子を少なくとも1つ含み、かつ前記銀偏析領域の長径が10nm以下である焼結体層の間に、内部電極を備える焼成体を得ること、を含む、積層型圧電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスを用いた積層型圧電素子を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子の構造を示す断面図
図2】ペロブスカイト型構造の単位格子モデルを示す斜視図
図3】本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子を構成する圧電セラミックス層の透過型電子顕微鏡(TEM)像に基づくスケッチ
図4】本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子を構成する圧電セラミックス層中の銀偏析領域をエネルギー分散型X線分光器(EDS)にて測定した際のスペクトルの例
図5】本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子を構成する圧電セラミックス層中の銀偏析領域の外側をエネルギー分散型X線分光器(EDS)にて測定した際のスペクトルの例
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す実施形態に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0026】
[積層型圧電素子]
本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子100(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、図1にその断面図を模式的に示すように、圧電セラミックス層40の間に内部電極10が配置された構造を有する。そして、前記内部電極10は、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成されている。なお、図1に示される内部電極10のうち、同じアルファベット(「a」又は「b」)が付されたものは、同一極性の電極を意味する。また、圧電セラミックス層40は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と銀とを含有する圧電セラミックスで構成され、前記アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量を100モル%としたときに、0.2モル%以上、2.0モル%未満であり、銀偏析領域を内包する焼結粒子を少なくとも1つ含み、かつ前記銀偏析領域の長径が10nm以下である。
【0027】
内部電極10は、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成される。銀の含有量を80質量%以上とすることで、白金やパラジウム等の高価な金属の使用量を減らして素子の製造コストを抑えることができる。また、導電性に優れる銀の割合が増加することから、内部電極10の電気抵抗率が減少し、圧電素子として使用する際の電気的損失が低減される。銀の含有量が80質量%以上の金属としては、銀-パラジウム合金及び銀が例示される。内部電極10を構成する金属中の銀の含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
内部電極10を構成する金属中の銀の含有量は、各種測定機器を用いて内部電極10の元素分析を行い、検出された全元素に対する銀の質量割合を算出することで確認できる。使用する測定機器としては、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)又は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に装着したエネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)又は波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry)、電子線マイクロアナライザー(EPMA
:Electron Probe Micro Analyzer)及びレーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)等が例示される。
【0029】
圧電セラミックス層40は、アルカリニオブ酸塩を主成分としつつ、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と銀とを含有する。
【0030】
主成分であるアルカリニオブ酸塩は、構成元素として、リチウム、ナトリウム及びカリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ金属元素、並びにニオブを含有する、ペロブスカイト型構造を有する酸化物である。ここで、ペロブスカイト型構造は、図2に示すように、単位格子の頂点に位置するAサイト、単位格子の面心に位置するOサイト、及び前記Oサイトを頂点とする八面体内に位置するBサイトを有する結晶構造である。本実施形態におけるアルカリニオブ酸塩では、アルカリ金属イオンがAサイトに、ニオブイオンがBサイトに、酸化物イオンがOサイトに、それぞれ位置する。この他に、各サイトには、前述した以外の種々のイオンを含んでいてもよい。
【0031】
圧電セラミックス層40には、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素が含まれる。これにより、高い圧電性及び電気的絶縁性が得られ、圧電素子を特性に優れたものとすることができる。これらの作用を高める点からは、含有されるアルカリ土類金属元素の少なくとも一部が、主成分であるアルカリニオブ酸塩における、ペロブスカイト型構造中のAサイトに固溶していることが好ましい。この場合には、アルカリ土類金属元素が固溶したアルカリニオブ酸塩が、圧電セラミックス層40の主成分となる。
【0032】
圧電セラミックス層40中のカルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素の合計含有量は、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量を100モル%としたときに0.2モル%以上、2.0モル%未満とする。前記合計含有量を0.2モル%以上とすることで、圧電セラミックス層40が、焼結粒子径の小さい緻密なものとなり、優れた圧電特性を発現する。該作用効果を高める点からは、前記合計含有量は0.3モル%以上とすることが好ましく、0.5モル%以上とすることがより好ましい。他方、前記合計含有量を2.0モル%未満とすることで、圧電セラミックス層40の電気的絶縁性を向上させて、高電界下での使用を可能にすると共に、素子寿命を長くできる。この点からは、前記合計含有量は、1.0モル%未満とすることが好ましく、0.8モル%以下とすることがより好ましい。
前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量、及び前記アルカリ土類金属元素の含有量は、いずれも後述する組成式の確認方法における元素比率の測定結果から決定される。
【0033】
圧電セラミックス層40は、アルカリ土類金属元素として、カルシウム及びバリウム以外の、ストロンチウム等を含有してもよい。しかし、カルシウム及びバリウム以外のアルカリ土類金属元素は、比較的少量の含有によっても、緻密なセラミックスが得られにくくなるため、実質的に含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、原料中に不純物として含まれる量や、中間生成物を取り扱う際に混入してしまう量等の、製造過程で不可避的に混入する量を超えて含有しないことを意味する。
【0034】
圧電セラミックス層40には、銀が含まれる。これにより、優れた圧電特性を発現する。圧電セラミックス層40中の銀は、主として、前述したペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩のAサイトに固溶しているか、後述する銀偏析領域を形成している。銀がアルカリニオブ酸塩のAサイトに固溶している場合には、該固溶したアルカリニオブ酸塩が、圧電セラミックス層40の主成分となる。
【0035】
圧電セラミックス層40の主成分であるアルカリニオブ酸塩は、優れた圧電特性を発現させる点、及び高電界下で使用した際に長寿命の素子を得る点からは、下記組成式(1)で表されるものが好ましい。

(AgtM2u(K1-vーwNavLi1-t-u(SbTaNb1-x-y-zZr)O…(1)

ただし、式中のM2は前記アルカリ土類金属元素を示す。また、t,u,v,w,x,y,z,aはそれぞれ、0.005<t≦0.05、0.002≦u<0.02、0.007<t+u<0.07、0≦v≦1、0.02<w≦0.1、0.02<v+w≦1、0≦x≦0.1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.02、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。
【0036】
ここで、圧電セラミックス層40が、前述の組成式で表されるアルカリニオブ酸塩を主成分とすることは、積層型圧電素子100の表面に露出させた圧電セラミックス層40、又は積層型圧電素子100を粉砕して得た粉末について、Cu-Kα線を用いたX線回折装置(XRD)で回折線プロファイルを測定し、ペロブスカイト型構造由来のプロファイルにおける最強回折線強度に対する、他の構造由来の回折プロファイルにおける最強回折線強度の割合が10%以下であることを確認した後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)、イオンクロマトグラフィー装置ないしは、蛍光X線分析装置(XRF)によって、前記圧電セラミックス層40に含まれる各元素の比率を測定し、該測定結果が前記組成式における比率となっていること、により確認される。なお、積層型圧電素子100の表面に露出させた圧電セラミックス層40についてXRD測定を行う場合の露出方法は特に限定されず、圧電素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。また、積層型圧電素子100を粉砕した粉末についてXRD測定を行う場合の粉砕手段も特に限定されず、ハンドミル(乳鉢・乳棒)等を利用できる。さらに、積層型圧電素子100を粉砕した粉末についてXRD測定を行う場合には、内部電極10を構成する金属のピークも検出されるため、これを除外した上で前述の確認を行う。
【0037】
前記組成式(1)で表されるアルカリニオブ酸塩において、Zrは、焼結粒子における電気抵抗の低下を抑制する作用を有する。すなわち、該アルカリニオブ酸塩においては、アルカリ土類金属元素M2が、ペロブスカイト型構造のAサイトに位置するアルカリ金属と置換固溶しているため、正電荷が過剰な状態となり、電荷を均衡させるために酸素欠陥(格子間酸素)が生じやすい。この酸素欠陥が、高温条件下での導電因子となり、焼結粒子の電気抵抗を低下させる。しかし、ペロブスカイト構造のBサイトに、正電荷量の少ないZrが固溶することで、酸素欠陥の発生が抑えられ、電気抵抗の低下が抑制されるということである。このようなZrの作用から見て、その含有量は、アルカリ土類金属元素M2と同程度とすることが好ましい。Zrの量がM2に比べて少なすぎると、電荷の補償が不十分となる。反対に、Zrの量がM2に比べて多すぎると、正電荷の不足により酸素欠損が引き起こされ、電気抵抗がかえって低下する。
【0038】
圧電セラミックス層40には、銀偏析領域を内包する焼結粒子が少なくとも1つ含まれ、前記銀偏析領域の長径が10nm以下である。これにより、圧電素子の電気的絶縁性を高めることができる。これは、高電圧下で電流の導通経路となりやすい焼結粒子間に、導電性の高い銀が存在しなくなることに起因するものと解される。銀偏析領域の長径が10nmを超える場合には、焼結粒子内に導電経路が形成されて電気的絶縁性が低下するおそれや、圧電性を示さない部分の割合が増加して圧電特性が低下するおそれがある。圧電特性の低下を抑制する点からは、前記長径は、8nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
【0039】
銀偏析領域の有無の確認、及びその長径の測定には、透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察と、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による特性X線測定とを併用する。以下、具体的な測定手順を説明する。
【0040】
まず、積層型圧電素子100から、イオンビーム等を用いて、圧電セラミックス層40を含む厚さ100nm程度の薄片を得る。次に、得られた薄片をTEMにより観察する。このとき、確認対象となる銀偏析領域の長径が10nm以下であることから、薄片に照射する電子線の径は1nm以下に収束させる。観察の結果、圧電セラミックス層40を形成する焼結粒子の内部に、他の部分に比べて白く(明るく)見える、10nm程度又はそれ以下の領域が確認されたら、該領域内及びその外側の黒く(暗く)見える領域のそれぞれについて、EDS測定を行う。このときの測定条件は、検出されるカリウムのK線(K-K線)の強度が300カウント以上となるように決定する。また、前記外側の領域のEDS測定については、前述の白く見える領域及び焼結粒子の外周からそれぞれ十分に離れた位置で行う。次に、測定結果から、K-K線の強度に対するAg-L線の強度の比(IAg-L/IK-K)を各領域について算出する。そして、前記領域内のIAg-L/IK-Kの値が、その外側の領域におけるものの2倍以上となった場合に、該領域を銀偏析領域と判定し、該領域内に作図可能な線分の最大長さを、銀偏析領域の長径とする。なお、前述のTEM観察により焼結粒子の内部に白く見える箇所が確認され、かつEDS測定の結果、当該箇所のIAg-L/IK-Kの値が外側の領域における値の2倍以上となるものの、当該箇所が小さすぎるためにその内部に作図可能な線分の長さを決定できない場合も、長径10nm以下の銀偏析領域が存在すると判定する。
【0041】
この手順で観察された、圧電セラミックス層40のTEM像に基づくスケッチの例を図3に示す。また、銀偏析領域と判定された箇所のEDS測定結果の例を図4に、銀偏析領域の外側と判定された箇所のEDS測定結果の例を図5に、それぞれ示す。図3には、焼結粒子41中に銀偏析領域42が内包されている様子が示されている。なお、図3では、銀偏析領域42が黒色で描かれているが、実際のTEM像では、前述のとおり、銀偏析領域42は周囲よりも白く(明るく)見える。
【0042】
圧電セラミックス層40には、前述の長径が10nm以下である銀偏析領域を、5箇所以上内包する焼結粒子が、少なくとも1つ含まれることが好ましい。これにより、より優れた圧電特性が発揮される。焼結粒子中の長径が10nm以下である銀偏析領域の数は、8箇所以上であることがより好ましく、10箇所以上であることがさらに好ましい。なお、この銀偏析領域の好ましい数は、内部電極10を構成する金属中の銀の含有割合が80質量%以上である第1実施形態についてのみ当てはまる。この割合が80質量%未満である積層型圧電素子においては、焼結粒子中の銀偏析領域数の増加により、かえって圧電特性が低下するおそれがある。
【0043】
圧電セラミックス層40は、上述した主成分100モル%に対して、0.1モル%以上3.0モル%以下のLi、及び0.1モル%以上3.0モル%以下のSiを含有してもよい。Li及びSiの両元素を含有することで、圧電セラミックス層40を緻密化できる。また、ペロブスカイト型構造に固溶しきれずに余剰となったLiとSiとが反応してLiSiOやLiSiO等の電気的絶縁性の高い化合物を生成することで、LiNbOをはじめとする導電性を有する化合物の生成を抑制し、圧電セラミックス層40の電気抵抗率の低下抑制に寄与する。この作用を高める点からは、Liに対するSiのモル比(Si/Li)を1.0以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがより好ましい。
【0044】
Liの含有量は、前述の作用を十分に発揮させる点からは、前記主成分100モルに対して0.3モル%以上とすることがより好ましく、0.5モル%以上とすることがさらに好ましい。他方、前記主成分100モル%に対するLiの含有量を3.0モル%以下とすることで、LiNbOをはじめとする導電性を有する化合物の生成が抑制され、電気的絶縁性及び耐久性に優れた圧電セラミックスとなる。この点からは、Liの含有量は、前記主成分100モル%に対して2.0モル%以下とすることがより好ましく、1.5モル%以下とすることがさらに好ましい。
なお、Liは上述した主成分の構成元素でもあるが、ここで説明されるLiの量には、該主成分中のLiは含まれない。圧電セラミックス層40に含まれる前記主成分を構成しないLiの量は、前述したアルカリニオブ酸塩の組成式の決定方法において、組成分析の結果得られたLiの総量からアルカリニオブ酸塩中に固溶し得るLi量を除いた残部として算出されるか、後述するニオブ酸リチウム、ケイ酸リチウム及びマンガン化合物の存在形態の確認方法において検出された、主成分以外の化合物の組成及び含有量に基づいて算出される。
【0045】
Siの含有量は、前述の作用を十分に発揮させる点からは、前記主成分100モル%に対して0.5モル%以上とすることがより好ましく、1.0モル%以上とすることがさらに好ましい。他方、前記主成分100モル%に対するSiの含有量を3.0モル%以下とすることで、圧電性を有さない異相の生成量が抑えられ、優れた圧電特性を有する圧電セラミックスとなる。この点からは、Siの含有量は、前記主成分100モル%に対して2.5モル%以下とすることがより好ましく、2.0モル%以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
また、圧電セラミックス層40は、上述した主成分100モル%に対して、2.0モル%以下のMnを含有してもよい。これにより、圧電セラミックス層40の電気抵抗が向上する。Mn含有量の下限は特に限定されないが、前述の作用を十分に発揮させる点からは、0.2モル%以上とすることが好ましい。他方、Mn含有量を2.0モル%以下とすることで、高い圧電性能を保持することができる。前記Mnの含有量は、1.5モル以下とすることが好ましく、1.0モル以下とすることがより好ましい。
【0047】
圧電セラミックス層40がMnを含有することで電気抵抗が向上するメカニズムは、以下のように考えられる。まず、Mnは、アルカリニオブ酸塩の焼結粒子間の三重点や内部電極10の近傍に、電気抵抗の高い酸化物を生成しやすい。こうした高抵抗の酸化物の存在により、圧電セラミックス層40の電気抵抗が向上すると推測される。このような高抵抗の酸化物としては、MnO、Mn及びMnO等のマンガン酸化物、LiMnO、LiMnO、LiMn及びKMnO等のアルカリ金属元素とマンガンとの複合化合物、MnSiO、MnSiO及びMnSiO12等のシリコンとマンガンとの複合化合物、並びにこれらの複合酸化物として、LiMnSiO及びNaMnSi等が例示される。加えて、Mnは、上述したペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩のBサイトに固溶したり、格子間に位置したりすることで、Bサイトの価数の揺動を抑制して電荷の中性を保持するように作用すると推考される。すなわち、上述したように、アルカリ土類金属元素M2が、ペロブスカイト型構造のAサイトに位置するアルカリ金属と置換固溶した場合、両者の価数の相違により、Bサイトに位置するNb、Ta及びSb等の価数が揺動し、電気抵抗が低下することがある。この場合に、Mnが2価カチオンとしてBサイトに固溶することで、Ca(Mn1/3Nb2/3)OやBa(Mn1/3Nb2/3)O等を生成し、電荷を均衡させることで、電気抵抗の低下が抑制されるということである。
【0048】
前述したニオブ酸リチウム、ケイ酸リチウム及びマンガン化合物の存在形態については、圧電セラミックス層40中のLi、Mn及びSiの分布を測定することで確認できる。該分布の測定機器としては、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)又は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に装着したエネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)又は波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry)、電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)及びレーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)等が例示される。
【0049】
圧電セラミックス層40は、必要に応じて、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0050】
また、圧電セラミックス層40は、必要に応じて、第二遷移元素であるY、Mo、Ru、Rh及びPdから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0051】
さらに、圧電セラミックス層40は、必要に応じて、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt及びAuから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0052】
勿論、第1実施形態においては、圧電セラミックス層40に、前述の第一遷移元素、第二遷移元素、及び第三遷移元素のうちの複数種類を含有させることもできる。
【0053】
圧電セラミックス層40は、これを構成する焼結粒子が、累積頻度で表示した粒度分布における、10%径(D10)、50%径(D50)及び90%径(D90)が、100nm≦D50≦800nmかつ(D90-D10)/D50≦2.0を満たすことが好ましい。D50を100nm以上とすることで、焼結粒子の界面の総面積が小さくなり、該界面に発生する応力の影響による圧電性の低下を抑制できる。この点からは、D50は150nm以上とすることがより好ましく、200nm以上とすることがさらに好ましい。他方、D50を800nm以下とすることで、高い電気抵抗を発現する。この点からは、D50は700nm以下とすることがより好ましく、600nm以下とすることがさらに好ましい。また、(D90-D10)/D50≦2.0を満たすことで、圧電セラミックス層40の電気抵抗がさらに向上するとともに、その薄層化が容易となる。
【0054】
ここで、圧電セラミックス層40における焼結粒子の粒度分布は、以下の手順で測定する。まず、圧電素子の表面に露出した圧電セラミックス層40に、導電性を付与するために白金を蒸着して測定用試料とする。次いで、測定用試料を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、焼結粒子の写真を撮影する。次いで、撮影した写真中に相互に平行な直線を複数本引き、該各直線を各焼結粒子の周縁で切り取った線分の長さ(各直線が焼結粒子の周縁と交わる2点間の距離)を、焼結粒子の粒径(粒度)とする。この方法で、焼結粒子の粒度を400個以上の粒子について測定し、得られた結果から個数基準の粒度分布を求める。最後に、得られた粒度分布からD10、D50及びD90をそれぞれ算出する。
【0055】
なお、圧電セラミックス層40を表面に露出させる方法は特に限定されず、圧電素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。また、このようにして露出させた圧電セラミックス層40が、圧電セラミックス表面の一部が除去されることにより、粒子の輪郭が見えにくいものとなっている場合には、白金の蒸着に先立って、圧電セラミックス層40を焼成した温度よりも50℃程度低い温度にて、5分程度の熱処理(サーマルエッチング)を行うとよい。
【0056】
第1実施形態では、図1に示すように、Y軸方向両側面と内部電極10との間に、サイドマージン部20が形成されてもよく、Z軸方向上下面に、それぞれカバー部30が形成されていてもよい。サイドマージン部20及びカバー部30は、圧電セラミックス層40及び内部電極10を保護する保護部として機能する。
【0057】
サイドマージン部20及びカバー部30は、積層型圧電素子100の焼成時の収縮率や、積層型圧電素子100内における内部応力の緩和等の観点から、圧電セラミックス層40と同様のアルカリニオブ酸系焼結体で形成されていることが好ましい。しかし、サイドマージン部20及びカバー部30を形成する材料は、高い電気的絶縁性を有する材料であれば、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスに限定されない。
【0058】
サイドマージン部20及びカバー部30が圧電セラミックス層40と同様のアルカリニオブ酸系焼結体で形成されている場合には、圧電セラミックス層40と同様に、内部電極10に含まれるAgが均一に拡散していることが好ましい。これにより、サイドマージン部20及びカバー部30における高い電気抵抗が担保されるとともに、積層型圧電素子100における内部応力を抑制することができる。
【0059】
第1実施形態では、積層型圧電素子100の表面に、第1及び第2の外部電極(図示せず)をさらに具備してもよい。この場合、前記内部電極10が、1層おきに異なる外部電極に接続される。この構成によれば、第1及び第2の外部電極間における電気エネルギーと、内部電極10間に配置された圧電セラミックス層40の積層方向における機械エネルギーとが、相互に効率よく変換可能となる。
【0060】
外部電極を構成する材料は、導電性が高く、分極条件下及び圧電素子の使用環境下で物理的及び化学的に安定なものであれば特に限定されない。使用可能な電極材料の例としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)、並びにこれらの合金等が挙げられる。
【0061】
積層型圧電素子の製造方法]
本発明の他の実施形態に係る積層型圧電素子の製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末と有機結合剤とを含むと共に、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素を含有し、該アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量を100モル%としたときに、0.2モル%以上、2.0モル%未満である生シートを準備すること、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を前記生シート上に配置すること、前記内部電極前駆体が配置された前記生シートを積層して積層体を作製すること、並びに前記積層体を焼成して、前記アルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と銀とを含有すると共に、銀偏析領域を内包する焼結粒子を少なくとも1つ含み、かつ前記銀偏析領域の長径が10nm以下である焼結体層の間に、内部電極を備える焼成体を得ることを含む。
【0062】
ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末は、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ金属元素を含む化合物の粉末、並びにニオブを含む化合物の粉末を、所期の比率で混合し、焼成(仮焼成)することで得られる。最終生成物である圧電セラミックスの特性を所期のものとするために、アルカリ金属及びニオブ以外の元素を含む化合物を配合してもよい。また、市販のアルカリニオブ酸塩粉末が利用できる場合は、これをそのまま用いてもよい。
【0063】
使用する化合物の一例としては、リチウム化合物としての炭酸リチウム(LiCO)、ナトリウム化合物としての炭酸ナトリウム(NaCO)及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、カリウム化合物としての炭酸カリウム(KCO)及び炭酸水素カリウム(KHCO)、並びにニオブ化合物としての五酸化ニオブ(Nb)が挙げられる。また、任意成分ではあるものの、よく使用される化合物としては、タンタル化合物としての五酸化タンタル(Ta)や、アンチモン化合物としての三酸化アンチモン(Sb)等が挙げられる。
【0064】
前述の各化合物の配合比率は、焼成により得られるアルカリニオブ酸塩の焼結体が、以下の組成式(1)で表されるものとなるように調整することが好ましい。

(AgtM2u(K1-vーwNavLi1-t-u(SbTaNb1-x-y-zZr)O…(1)

ただし、式中のM2は前記アルカリ土類金属元素を示す。また、t,u,v,w,x,y,z,aはそれぞれ、0.005<t≦0.05、0.002≦u<0.02、0.007<t+u<0.07、0≦v≦1、0.02<w≦0.1、0.02<v+w≦1、0≦x≦0.1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.02、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。
【0065】
このような配合比率とすることで、銀の含有量が80質量%以上の金属で形成された内部電極と一体焼成した際に、圧電特性に優れ、高電界下での使用でも長寿命の素子を得ることができる。
【0066】
前述の化合物粉末を混合する方法は、不純物の混入を防ぎつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。混合方法としてボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールを用い、エタノール等の有機溶媒を分散媒とするボールミルによって8~60時間程度撹拌した後、有機溶媒を揮発乾燥すればよい。
【0067】
得られた混合粉末の仮焼成条件は、前述の各化合物粉末が反応して所期のアルカリニオブ酸塩が得られるものであれば特に限定されない。一例として、大気中、700~1000℃の温度で、1~10時間焼成することが挙げられる。仮焼成後の粉末は、そのまま圧電セラミックスの製造に供してもよいが、ボールミルやスタンプミル等によって解砕することが、後述するアルカリ土類金属化合物及び有機結合剤との混合性を高める点で好ましい。
【0068】
第2実施形態では、前述のペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末に、カルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属の化合物を添加する。このアルカリ土類金属化合物は、後述するように、焼成時に内部電極から拡散してくる銀との相互作用により、生成する焼結体における焼結粒子径及びそのばらつきを抑えて、緻密なものとすることで、優れた圧電特性の発現に寄与する。また、後述するように、内部電極から拡散してくる銀が、焼結粒子内に微細な銀偏析領域を形成するのに与する。これらの作用を高める点からは、アルカリニオブ酸塩の組成や焼成条件を調整することで、アルカリ土類金属元素の少なくとも一部を、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩のAサイトに固溶させることが好ましい。
【0069】
使用するアルカリ土類金属化合物としては、カルシウム又はバリウムを含有する化合物であれば特に限定されない。これらの両方を含むものであってもよく、所期の圧電セラミックスが得られる範囲で他の元素を含むものであってもよい。アルカリ土類金属化合物の例としては、カルシウムを含むものとして炭酸カルシウム(CaCO)、メタケイ酸カルシウム(CaSiO)及びオルトケイ酸カルシウム(CaSiO)が、バリウムを含むものとして炭酸バリウム(BaCO)が挙げられる。
【0070】
アルカリ土類金属化合物としては、カルシウム及びバリウム以外のストロンチウム等を含有するものを使用してもよい。しかし、ストロンチウム等は、後述するAgとの相互作用が小さい上に、その含有量が多くなると、緻密なセラミックスが得られにくくなるため、実質的に含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、原料中に不純物として含まれる量や、中間生成物を取り扱う際に混入してしまう量等の、製造過程で不可避的に混入する量を超えて含有しないことを意味する。
【0071】
第2実施形態では、前述のペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末及びアルカリ土類金属の化合物に、有機結合剤を添加する。この有機結合剤は、前述した各成分の混合物を所期の形状に成形・保持できるとともに、焼成ないしこれに先立つバインダー除去処理により、炭素等を残存させることなく揮発するものであれば、その種類は限定されない。使用できる有機結合剤の例としては、ポリビニルアルコール系、ポリビニルブチラール系、セルロース系、ウレタン系及び酢酸ビニル系のものが挙げられる。
有機結合剤の使用量も特に限定されないが、後工程で除去されるものであるため、所期の成形性・保形性が得られる範囲内で極力少なくすることが、原料コストを低減する点で好ましい。
【0072】
前述した各成分の混合方法は、不純物の混入を抑えつつ各成分が均一に混合されるものであれば特に限定されない。一例として、ボールミル混合が挙げられる。
【0073】
前述した各成分を混合する際には、その後の生シートへの成形性を向上させる可塑剤や、粉末を均一分散させるための分散剤等の各種添加剤を混合してもよい。
【0074】
また、第1実施形態で説明したLi、Si及びMnを始め、圧電セラミックスの各種特性を改善するための添加元素や、焼結助剤として機能する化合物ないし組成物を混合してもよい。添加元素を混合する場合に使用される化合物の例としては、Liを含有する化合物である炭酸リチウム(LiCO)、Siを含有する化合物である二酸化ケイ素(SiO)、Mnを含有する化合物である炭酸マンガン(MnCO)、一酸化マンガン(MnO)、二酸化マンガン(MnO)、四三酸化マンガン(Mn)及び酢酸マンガン(Mn(OCOCH)、Li及びSiを含有する化合物である、メタケイ酸リチウム(LiSiO)及びオルトケイ酸リチウム(LiSiO)、並びにCa及びSiを含有する化合物であるメタケイ酸カルシウム(CaSiO)及びオルトケイ酸カルシウム(CaSiO)が挙げられる。
【0075】
これらの添加元素のうち、Siについては、焼成時に、アルカリニオブ酸塩に含まれる元素又は別途添加した元素と反応して、LiSiO、LiSiO、KNbSi、KNbSi、KLiSiO若しくはKLiSiO等の結晶相、又はこれらの元素を含む非結晶相を析出することで、アルカリ金属の揮発及び焼結粒子間への析出を抑制することができる点で有用である。
【0076】
また、Siは、Liと併用することで焼結助剤としての機能も発現し、焼成温度を顕著に低下させる作用も有する。この場合のSi及びLiの添加量は、第1実施形態で説明した範囲内とすることが好ましい。
【0077】
このように、第2実施形態では、種々の添加元素を混合することができる。しかし、Agについては、生シート中に含まれると、焼成時の内部電極から焼結体層へのAgの拡散が抑制されてしまうため、Agの拡散を積極的に利用する第2実施形態においては混合しないことが好ましい。
【0078】
前述した各成分の混合物から生シートを成形する方法としては、ドクターブレード法、押出成形法等の慣用されている方法を採用できる。
【0079】
第2実施形態では、前述の手順で得られた生シート上に、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を配置する。内部電極前駆体は、慣用されている方法で配置すればよく、銀の含有量が80質量%以上の金属粉末を含むペーストを、内部電極の形状に印刷又は塗布する方法が、コストの点で好ましい。印刷又は塗布により内部電極前駆体を配置する際には、焼成後の焼結体層への付着強度を向上させるため、ガラスフリットや、生シート中に含まれるアルカリニオブ酸塩粉末と同様の組成を有する粉末をペースト中に含有させてもよい。
【0080】
生シート上に内部電極前駆体を配置する際には、積層型圧電素子とした際にサイドマージン部となるスペースを空けて配置してもよい。
【0081】
第2実施形態では、前述の内部電極前駆体が配置された生シートを積層し、該生シート同士を接着して積層体を作製する。
積層及び接着は慣用されている方法で行えば良く、生シート同士をバインダーの作用で熱圧着する方法がコストの点で好ましい。
【0082】
積層及び圧着に際しては、積層方向の両端部に、積層型圧電素子とした際にカバー部となる生シートを追加してもよい。この場合、追加する生シートは、前述の内部電極前駆体が配置された生シートと同一の組成であっても、これとは異なる組成であってもよい。焼成時の収縮率を揃える観点からは、追加する生シートの組成は、前述の内部電極前駆体が配置された生シートと同一又は類似の組成であることが好ましい。
【0083】
第2実施形態では、前述の手順で得られた積層体を焼成する。焼成に先立って、積層体から有機結合剤を除去してもよい。この場合、有機結合剤の除去と焼成とは同じ焼成装置を用いて連続して行ってもよい。有機結合剤の除去及び焼成の条件は、バインダーの揮発温度及び含有量、並びに圧電磁器組成物の焼結性及び内部電極材料の耐久性等を考慮して適宜設定すればよい。有機結合剤を除去する条件の例としては、大気雰囲気中、300~500℃の温度で1~5時間が挙げられる。保持する焼成条件の例としては、大気雰囲気中、800℃~1100℃で1時間~5時間が挙げられる。1つの生成形体から複数の積層型圧電素子用焼成体を得る場合には、焼成に先立って生成形体を幾つかのブロックに分
割してもよい。
【0084】
第2実施形態では、前述の焼成により、前記生シートからアルカリニオブ酸塩の焼結体層を生成させると同時に、前記内部電極前駆体から内部電極を生成させて、アルカリニオブ酸塩を主成分とする焼結体層の間に内部電極を備える焼成体を得る。その際に、内部電極から焼結体層にAgが拡散し、これがカルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と相互作用すると考えられる。この相互作用により、焼結体層が、微細な焼結粒子で形成された緻密なものとなると推測される。加えて、焼結体層に拡散したAgのうち、ペロブスカイト型構造のAサイトに固溶しきれなかったものが、長径が10nm以下の銀偏析領域を焼結粒子中に形成することで、焼結体層の電気的絶縁性の低下が抑制されると推測される。すなわち、内部電極中のAgの含有量が少なく、焼結体層へのAgの拡散量が少ない場合には、Agはペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩のAサイトに固溶するため、焼結体層の電気的絶縁性の低下は問題とならない。しかし、内部電極を構成する金属中のAg含有量が80質量%以上と多くなると、焼結体層に拡散するAg量も増加し、前記Aサイトに固溶しきれないものが生じる。従来は、こうしたAgが焼結粒子間に析出して導電経路を形成するために焼結体層の電気的絶縁性が低下していた。しかし、第2実施形態では、特定のアルカリ土類金属元素とAgの相互作用により、焼結粒子内部に微細な銀偏析領域が形成され、電気的絶縁性の低下を抑制できるということである。
【0085】
第2実施形態では、焼成により得られた焼成体を分極処理して積層型圧電素子とする。分極処理は、典型的には、焼成体の表面に導電材料で一対の電極を形成し、当該電極間に高電圧を印加することで行う。
電極の形成には、電極材料を含むペーストを焼結体表面に塗布ないし印刷して焼き付ける方法や、焼結体表面に電極材料を蒸着する方法等の、慣用されている方法を採用できる。電極材料としては、第1実施形態で外部電極を構成する材料として挙げた、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)、並びにこれらの合金等が使用できる。
分極処理の条件は、焼成体に亀裂等の損傷を生じることなく、各焼結体層中の自発分極の向きを揃えられるものであれば特に限定されない。一例として、100℃~150℃の温度にて4kV/mm~6kV/mmの電界を印加することが挙げられる。
【実施例
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
[積層型圧電素子の製造]
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末として、組成式Li0.064Na0.520.42NbOで表される仮焼粉を準備した。この仮焼粉100モル%に対し、0.5モル%のBaCO、0.65モル%のLiCO、1.3モル%のSiO及び0.5モル%のMnO、並びにポリビニルブチラール系の有機結合剤をそれぞれ添加して、湿式ボールミル混合した。得られた混合スラリーをドクターブレードにて成形し、厚さ80μmの生シートを得た。この生シート上に、Ag-Pd合金ペースト(Ag/Pd質量比=8/2)をスクリーン印刷し、電極パターンを形成した後、該生シートを積層し、加熱しながら50MPa程度の圧力で加圧することで圧着して積層体を得た。この積層体を個片化した後、大気中で脱バインダー処理を行い、これに引き続いて大気中、1000℃で2時間の焼成を行って、焼成体を得た。この焼成体の表面に、Agを含む導電性ペーストを、該表面に1層おきに露出した内部電極に対して接触するように塗布し、600℃まで昇温して焼き付けることで、一対の外部電極を形成した。最後に、100℃の恒温槽中で、前記一対の外部電極間に3.0kV/mmの電界を3分間印加して分極処理を行い、実施例1に係る積層型圧電素子を得た。
【0088】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、上述した方法で行ったところ、焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも5nm以下であった。また、長径長さが5nm以下の銀偏析領域を5箇所以上内包する焼結粒子も確認された。
【0089】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、上述した方法で行ったところ、D50=550nm、(D90―D10)/D50=1.15となった。
【0090】
[電気的信頼性試験]
得られた積層型圧電素子の電気的信頼性を、平均寿命により評価した。積層型圧電素子を100℃の恒温槽内に配置し、外部電極間に8kV/mmの直流電界を印加して、外部電極間に流れる電流値が1mA以上となるまでの時間を測定した。そして、この時間の10個の素子についての平均値を、平均寿命とした。測定の結果得られた平均寿命は、1800分であった。
【0091】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子の圧電特性を、変位量に基づく圧電定数d 33により評価した。積層型圧電素子の変位量は、該素子に、100Hz程度で最大電界8kV/mmとなる単極性のサイン波形を打ち込み、レーザードップラー変位計を用いて測定した。測定結果から算出されたd 33は、220pm/Vであった。
【0092】
(比較例1)
[積層型圧電素子の製造]
生シート上への電極パターンの形成に用いるAg-Pd合金ペーストを、Ag/Pd質量比=7/3のものに変更したこと、及び積層体の焼成温度を950℃としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る積層型圧電素子を製造した。
【0093】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。しかし、観察された銀偏析領域には、長径長さが5nmを超える比較的大きなものが存在した。また、焼結粒子中に確認された長径長さが10nm以下の銀偏析領域の数は、最大で3箇所であった。
【0094】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、D50=450nm、(D90―D10)/D50=0.95となった。
【0095】
[電気的信頼性試験]
得られた積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は3200分であった。
【0096】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、210pm/Vであった。
【0097】
(実施例2)
[積層型圧電素子の製造]
生シート上への電極パターンの形成に用いるAg-Pd合金ペーストを、Ag/Pd質量比=9/1のものに変更したこと、及び積層体の焼成温度を1030℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る積層型圧電素子を製造した。
【0098】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であり、最小のもので1.6nmであり、最大のもので4nmであり、その平均径は2.2nmとなった。
【0099】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、D50=680nm、(D90―D10)/D50=1.20となった。
【0100】
[電気的信頼性試験]
得られた積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は1200分であった。
【0101】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、225pm/Vであった。
【0102】
(実施例3)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するBaCOをCaCOに変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例3に係る積層型圧電素子を製造した。
【0103】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。その領域の長径を確認すると、最小のもので1.5nmであり、最大のもので4.5nmであり、その平均径は2.6nmとなった。
【0104】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、D50=440nm、(D90―D10)/D50=0.98となった。
【0105】
[電気的信頼性試験]
得られた積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は1060分であった。
【0106】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、210pm/Vであった。
【0107】
(比較例2)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するBaCOをSrCOに変更したこと、生シート上への電極パターンの形成に用いるAg-Pd合金ペーストを、Ag/Pd質量比=7/3のものに変更したこと、及び積層体の焼成温度を1100℃としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る積層型圧電素子を製造した。
【0108】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。その領域の長径を確認すると、最小のもので2.9nmであり、最大のもので7.2nmであり、その平均径は5.2nmとなった。
【0109】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、D50=480nm、(D90―D10)/D50=1.02となった。
【0110】
[電気的信頼性試験]
得られた積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は1500分であった。
【0111】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、210pm/Vであった。
【0112】
(比較例3)
[積層型圧電素子の製造]
生シート上への電極パターンの形成に用いるAg-Pd合金ペーストを、Ag/Pd質量比=9/1のものに変更したこと、及び積層体の焼成温度を1030℃としたこと以外は比較例2と同様にして、比較例3に係る積層型圧電素子の製造を試みた。しかしながら、得られた焼成体において緻密な焼結体層が得られなかった。
【0113】
(比較例4)
[積層型圧電素子の製造]
積層体の焼成温度を1100℃としたこと以外は比較例3と同様にして、比較例4に係る積層型圧電素子の製造を試みた。しかしながら、得られた焼成体において内部電極が融解しており、積層構造を保持することができなかった。
【0114】
ここまで説明した実施例1~3及び比較例1~4について、内部電極及び焼結体層の組成を表1に、焼成温度及び特性確認結果を表2に、それぞれ示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
実施例1、2と比較例1との対比から、圧電セラミックス層がアルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム又はバリウムと銀とをさらに含むと共に、内部電極が80質量%以上の銀を含む金属で形成された実施例に係る積層型圧電素子は、実用に堪える電気的絶縁性を保持しつつ、優れた圧電特性を示すことが判る。ここで、比較例1における非常に優れた電気的絶縁性(素子の平均寿命)は、銀の含有割合の低い金属で内部電極を形成したこと、及び焼成温度が低かったことに起因して、焼成時に圧電セラミックス層へと拡散する銀の量が少なかったことによるものと解される。すなわち、内部電極を銀の含有割合の低い金属で形成した場合には、該内部電極と圧電セラミックス層との間の銀の濃度差が小さいことにより、圧電セラミックス層への銀の拡散の駆動力が小さくなって、銀の拡散量が減少する上に、このことによって銀の拡散に起因する圧電セラミックス層の焼結性の低下も抑制されるため、焼成温度を低くして圧電セラミックス層への銀の拡散量をさらに低減できる。このことから、実施例1、2に係る積層型圧電素子は、圧電セラミックス層への銀の拡散量が多くなっているにもかかわらず、電気的絶縁性の低下を抑制しつつ圧電特性を向上したものと位置づけられる。
【0118】
また、実施例1~3と比較例2~4との対比から、アルカリニオブ酸塩に、アルカリ土類金属元素としてカルシウム又はバリウムを添加した実施例では、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成された内部電極と一体焼成した場合でも、焼結粒子中に微細な銀偏析領域を内包する緻密な焼結体層を生成し、電気的信頼性及び圧電性に優れた積層型圧電素子が得られるといえる。他方、アルカリニオブ酸塩に、アルカリ土類金属元素としてストロンチウムを添加した比較例では、銀の含有量が70質量%の金属で形成された内部電極と一体焼成した場合には、実施例と同様に、焼結粒子中に微細な銀偏析領域を内包する緻密な焼結体層を生成し、電気的信頼性及び圧電性に優れた積層型圧電素子が得られるものの、銀の含有量の多い内部電極と一体焼成した場合には、該内部電極の融点未満の焼成温度で緻密な焼結体層を得ることが困難であるといえる。
【0119】
(実施例4、5)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するBaCOの量を、該仮焼粉100モル%に対して0.2モル%に変更したこと、及び積層体の焼成温度を930℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例4に係る積層型圧電素子を製造した。また、前記BaCOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して1.0モル%に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例5に係る積層型圧電素子を製造した。
【0120】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、いずれの素子においても焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。
【0121】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、実施例4では、D50=2300nm、(D90―D10)/D50=2.40となり、実施例5では、D50=480nm、(D90―D10)/D50=0.90となった。
【0122】
[電気的信頼性試験]
得られた各積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は、実施例4で500分、実施例5で50分となった。
【0123】
[圧電特性の評価]
得られた各積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、実施例4で195pm/V、実施例5で210pm/Vであった。
【0124】
(比較例5、6)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するBaCOの量を、該仮焼粉100モル%に対して2.0モル%に変更したこと以外は実施例2と同様にして、比較例5に係る積層型圧電素子の製造を試みた。しかしながら、得られた焼成体において緻密な焼結体層が得られなかった。そこで、焼成温度を1100℃に上昇させて、比較例6に係る積層型圧電素子の製造を試みた。しかしながら、得られた焼成体において内部電極が融解しており、積層構造を保持することができなかった。
【0125】
(実施例6、7)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するCaCOの量を、該仮焼粉100モル%に対して0.2モル%に変更したこと、及び積層体の焼成温度を930℃に変更したこと以外は実施例3と同様にして、実施例6に係る積層型圧電素子を製造した。また、前記CaCOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して1.0モル%に変更したこと以外は実施例3と同様にして、実施例7に係る積層型圧電素子を製造した。
【0126】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、いずれの素子においても焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。
【0127】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、実施例6では、D50=1200nm、(D90―D10)/D50=2.60となり、実施例7では、D50=430nm、(D90―D10)/D50=0.81となった。
【0128】
[電気的信頼性試験]
得られた各積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は、実施例6で400分、実施例7で10分となった。
【0129】
[圧電特性の評価]
得られた各積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、実施例で170pm/V、実施例で220pm/Vであった。
【0130】
(比較例7、8)
[積層型圧電素子の製造]
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するCaCOの量を、該仮焼粉100モル%に対して2.0モル%に変更したこと以外は実施例3と同様にして、比較例7に係る積層型圧電素子の製造を試みた。しかしながら、得られた焼成体において緻密な焼結体層が得られなかった。そこで、焼成温度を1100℃に上昇させて、比較例8に係る積層型圧電素子の製造を試みた。しかしながら、得られた焼成体において内部電極が融解しており、積層構造を保持することができなかった。
【0131】
ここまで説明した実施例4~7及び比較例5~8について、内部電極及び焼結体層の組成を表3に、焼成温度及び特性確認結果を表4に、それぞれ示す。表4中には、アルカリ土類金属元素の添加量による特性の変化傾向を把握しやすくするために、上述の実施例2及び3の結果も合わせて示す。
【0132】
【表3】
【0133】
【表4】
【0134】
実施例2、4及び5と比較例5及び6との対比、並びに実施例3、6及び7と比較例7及び8との対比から、アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素100モル%に対して2.0モル%未満のアルカリ土類金属元素を添加して積層型圧電素子を製造した場合には、Ag/Pd質量比=9/1の金属を含む内部電極を使用した場合でも、該内部電極を融解させることなく緻密な焼結体層が得られるのに対し、前記アルカリ土類金属元素の添加量が2モル%以上の場合には、内部電極を融解させることなく緻密な焼結体層を備える積層型圧電素子を得ることが困難になるといえる。また、実施例2、4及び5の対比、並びに実施例3、6及び7の対比から、前記アルカリ土類金属元素の添加量が0.2~0.5モル%の範囲内では、該添加量の増加に伴って積層型圧電素子の電気的信頼性の顕著な向上と圧電特性の向上とが起こること、並びに前記アルカリ土類金属元素の添加量が0.5~1.0モル%の範囲内では、優れた圧電特性が得られることが推測される。なお、実施例5及び7に係る積層型圧電素子は、平均寿命が短いが、圧電特性には優れているため、使用時間が短い用途に対しては十分に適用可能である。
【0135】
(実施例8~11)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するZrOの量を、該仮焼粉100モル%に対して0.2モル%に変更したこと、及び積層体の焼成温度を1010℃に変更したこと以外は実施例5と同様にして、実施例8に係る積層型圧電素子を製造した。また、前記ZrOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して0.5モル%に変更したこと、及び前記焼成温度を980℃に変更したこと以外は実施例5と同様にして、実施例9に係る積層型圧電素子を製造した。また、前記ZrOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して1.0モル%に変更したこと以外は実施例8と同様にして、実施例10に係る積層型圧電素子を製造した。さらに、前記ZrOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して2.0モル%に変更したこと、及び前記焼成温度を1020℃に変更したこと以外は実施例5と同様にして、実施例11に係る積層型圧電素子を製造した。
【0136】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、いずれの素子においても焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。
【0137】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、実施例8では、D50=550nm、(D90―D10)/D50=1.20となり、実施例9では、D50=800nm、(D90―D10)/D50=1.34となり、実施例10では、D50=1400nm、(D90―D10)/D50=2.1となり、実施例11では、D50=580nm、(D90―D10)/D50=1.12となった。
【0138】
[電気的信頼性試験]
得られた各積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は、実施例8で890分、実施例9で1540分、実施例10で200分、実施例11で100分となった。
【0139】
[圧電特性の評価]
得られた各積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、実施例8で220pm/V、実施例9で240pm/V、実施例10で235pm/V、実施例11で210pm/Vであった。
【0140】
ここまで説明した実施例8~11について、内部電極及び焼結体層の組成を表5に、焼成温度及び特性確認結果を表6に、それぞれ示す。表6中には、Zrの添加量による特性の変化傾向を把握しやすくするために、上述の実施例5の結果も合わせて示す。
【0141】
【表5】
【0142】
【表6】
【0143】
実施例8~11と実施例5との対比から、本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子は、製造時にZrOを添加して圧電セラミックス層にZrを含有させることで、電気的信頼性が向上するといえる。また、仮焼粉に対して1.0モル%程度まで、すなわちカルシウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素と同程度の量までのZrOの添加によって、圧電特性も向上するといえる。これらの現象は、アルカリ土類金属元素の添加量が多い場合に発生する酸素欠陥が、4価の陽イオンであるZr がBサイトに導入されたことによって抑制されたことに起因するものと推測される。
【0144】
(実施例12~15)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するLiCO及びSiOの量を、該仮焼粉100モル%に対して0.4モル%及び0.8モル%にそれぞれ変更したこと、及び積層体の焼成温度を940℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例12に係る積層型圧電素子を製造した。また、前記LiCO及びSiOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して1.5モル%及び3.0モル%にそれぞれ変更したこと、及び前記焼成温度を930℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例13に係る積層型圧電素子を製造した。また、前記LiCO及びSiOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して0.4モル%及び2.0モル%にそれぞれ変更したこと以外は実施例13と同様にして、実施例14に係る積層型圧電素子を製造した。さらに、前記LiCO及びSiOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して1.5モル%及び0.4モル%にそれぞれ変更したこと、及び前記焼成温度を950℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例15に係る積層型圧電素子を製造した。
【0145】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、いずれの素子においても焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。
【0146】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、実施例12では、D50=520nm、(D90―D10)/D50=0.85となり、実施例13では、D50=480nm、(D90―D10)/D50=0.92となり、実施例14では、D50=490nm、(D90―D10)/D50=1.20となり、実施例15では、D50=720nm、(D90―D10)/D50=1.60となった。
【0147】
[電気的信頼性試験]
得られた各積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は、実施例12で2200分、実施例13で2150分、実施例14で2600分、実施例15で280分となった。
【0148】
[圧電特性の評価]
得られた各積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、実施例12で195pm/V、実施例13で200pm/V、実施例14で180pm/V、実施例15で210pm/Vであった。
【0149】
ここまで説明した実施例12~15について、内部電極及び焼結体層の組成を表7に、焼成温度及び特性確認結果を表8に、それぞれ示す。表8中には、Li及びSiの合計添加量及びこれらの比率による特性の変化傾向を把握しやすくするために、上述の実施例2の結果も合わせて示す。
【0150】
【表7】
【0151】
【表8】
【0152】
得られた結果から、本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子は、製造時に適量のLiCO及びSiOを添加することで、焼成温度の低温化が可能になるといえる。また、Li及びSiを含む電気的絶縁性の高い化合物の生成と、焼成温度の低温下による焼結粒子の微細化とが相俟って、圧電セラミックス層の電気的絶縁性が向上し、電気的信頼性の高い積層型圧電素子が得られたものと推測される。特に、Li対するSiのモル比Si/Liが他の実施例よりも大きい実施例14では、Siに富む電気的絶縁性の高い化合物の生成により、電気的信頼性に特に優れた積層型圧電素子が得られたものと推測される。
なお、実施例2については、緻密な焼結体層を確実に得るために、内部電極の融点に近い温度で焼成したものであり、該組成の生シートで構成された積層体が、これよりも低温での焼成によっては緻密な焼結体層を生成しないわけではない。
【0153】
(実施例16~18)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するMnOの量を、該仮焼粉100モル%に対して0.2モル%に変更したこと、及び積層体の焼成温度を1040℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例16に係る積層型圧電素子を製造した。また、前記MnOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して1.0モル%に変更したこと、及び前記焼成温度を1010℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例17に係る積層型圧電素子を製造した。さらに、前記MnOの量を、前記仮焼粉100モル%に対して2.0モル%に変更したこと、及び前記焼成温度を990℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例18に係る積層型圧電素子を製造した。
【0154】
[圧電セラミックス層における銀偏析領域の確認]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子中の銀偏析領域の有無の確認及びその長径長さの測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、いずれの素子においても焼結粒子中に銀偏析領域が確認され、その長径長さはいずれも10nm以下であった。
【0155】
[圧電セラミックス層における焼結粒子の粒度分布測定]
得られた各積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、焼結粒子の粒度分布測定を、実施例1と同様の方法で行ったところ、実施例16では、D50=820nm、(D90―D10)/D50=1.40となり、実施例17では、D50=510nm、(D90―D10)/D50=1.00となり、実施例18では、D50=450nm、(D90―D10)/D50=0.85となった。
【0156】
[電気的信頼性試験]
得られた各積層型圧電素子の電気的信頼性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、平均寿命は、実施例16で950分、実施例17で1560分、実施例18で1610分となった。
【0157】
[圧電特性の評価]
得られた各積層型圧電素子の圧電特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、d 33は、実施例16で220pm/V、実施例17で185pm/V、実施例18で170pm/Vであった。
【0158】
ここまで説明した実施例16~18について、内部電極及び焼結体層の組成を表9に、焼成温度及び特性確認結果を表10に、それぞれ示す。表10中には、Mnの添加量による特性の変化傾向を把握しやすくするために、上述の実施例2の結果も合わせて示す。
【0159】
【表9】
【0160】
【表10】
【0161】
得られた結果から、本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子は、製造時に適量のMnOを添加することで、電気的信頼性を高めることができるといえる。これは、Mnが焼結体層中で電気抵抗の高い酸化物を生成することで、圧電セラミックス層の電気抵抗を向上させたことによると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明によれば、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスを用いた積層型圧電素子を低コストで提供することができる。このような積層型圧電素子は、構成成分に鉛を含まないために、そのライフサイクルにおいて環境への負荷を低減できる点で有用である。また、前記積層型圧電素子は、内部電極中の銀の含有割合が高いため、その電気抵抗率が低くなり、使用時の電気的損失を低減できる点でも有用である。さらに、本発明の好ましい態様によれば、圧電セラミックス層に種々の添加元素を含有させることで、所期の特性を有する積層型圧電素子が得られる点でも有用である。
【符号の説明】
【0163】
100 積層型圧電素子
10 内部電極
20 サイドマージン部
30 カバー部
40 圧電セラミックス層
41 焼結粒子
42 銀偏析領域
図1
図2
図3
図4
図5