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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】容器詰飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/56 20060101AFI20240903BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20240903BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20240903BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A23L2/56
C12G3/06
C12G3/04
A23L2/00 B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020058527
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021153518
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 睦
(72)【発明者】
【氏名】藤村 和樹
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-168909(JP,A)
【文献】特開2005-124567(JP,A)
【文献】特集 混合・攪拌・乳化機器,食品機械装置,第55巻,2018年,pp.63-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12G
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
可食性の水溶液に疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物が分散している前駆体溶液を、第1の中間体溶液と第2の中間体溶液とを混合して調製する調製工程と、
前記調製工程において調製した前駆体溶液を、容器本体に充填する充填工程と、
前記充填工程後、前記容器本体を密封する密封工程と、
前記充填工程後に、前記容器内において、前記前駆体溶液から前記疎水性液状組成物の少なくとも一部を分離して、前記疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とする分離工程と、
を有
前記第2の中間体溶液は、可食性の水性媒体に前記疎水性液状組成物が乳化しており、かつ、乳化処理後、25℃、5時間静置した時点で、前記疎水性液状組成物の少なくとも一部が分離する溶液であり
前記調製工程の前に、
前記第1の中間体溶液を調製する第1中間体調製工程と、
前記可食性の水性媒体に前記疎水性液状組成物を乳化させて、前記第2の中間体溶液を調製する第2中間体調製工程と、
を有し
前記第2中間体調製工程の後、直ちに前記調製工程を行い、前記調製工程の後、直ちに前記充填工程を行う、容器詰飲料の製造方法。
【請求項2】
前記第2の中間体溶液は加熱殺菌処理後に、前記疎水性液状組成物の少なくとも一部が分離する溶液である、請求項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項3】
前記第2の中間体溶液は、乳化処理後、25℃で10分間以上、乳化状態が維持される溶液である、請求項1又は2に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項4】
前記第2の中間体溶液中の前記疎水性液状組成物の粒子の累積90%径(d90)と累積10%径(d10)の差が、8.0μm以下である、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項5】
前記第2の中間体溶液中の前記疎水性液状組成物の粒子の粒子径分布(体積基準)における標準偏差が、1.0μm以下である、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項6】
前記第2の中間体溶液中の前記疎水性液状組成物の粒子のメジアン径(体積基準)が3.0~15.0μmである、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項7】
前記第2の中間体溶液における前記疎水性液状組成物の濃度が3.0~15.0容量%である、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項8】
前記第2中間体調製工程は、40℃以下で行う、請求項のいずれか一項に記載の
容器詰飲料の製造方法。
【請求項9】
前記可食性の水性媒体が、水である、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項10】
前記第2の中間体溶液は、乳化剤を含有する、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項11】
前記第2中間体調製工程は、
前記可食性の水性媒体と前記疎水性液状組成物とを混合し、
得られた混合液を、ケーシングの内部に回転可能に配置された外周に溝歯を有するロータを備える乳化攪拌機のケーシングとロータとの間に供給し、前記ロータを回転させて攪拌して、前記第2中間体溶液を調製する、請求項10のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項12】
前記分離工程を、前記密封工程後の前記容器を、所定時間経過させることにより行う、請求項1~11のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項13】
前記分離工程を、前記密封工程後の前記容器を、加熱処理することにより行う、請求項1~11のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項14】
前記加熱処理が、加熱殺菌処理である、請求項13に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項15】
前記調製工程において、前記第1の中間体溶液と前記第2の中間体溶液との混合は、前記第1の中間体溶液の流量に対して、前記第2の中間体溶液を比例注入することにより行う、請求項14のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項16】
前記第1の中間体溶液は、エタノールを含有する、請求項15のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項17】
前記第1の中間体溶液のエタノール濃度が1~15容量%である、請求項16に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項18】
前記第1の中間体溶液は、炭酸ガスを含有する、請求項17のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項19】
前記第1中間体調製工程において、前記第1の中間体溶液は、飲料用濃縮溶液を水で希釈して調製する、請求項18のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清涼飲料水やアルコール飲料等を缶、瓶、ペットボトル等の容器に封入した容器詰飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品から感じる香りは、鼻から直接嗅ぐ香り(オルソネーザルアロマ)と、口に入れて飲み込むときに喉から鼻に抜ける香り(レトロネーザルアロマ)の2種類に大別される。食品の「おいしさ」には、特にレトロネーザルアロマが寄与していると考えられている。一方、オルソネーザルアロマは、食品を食べる前に「おいしさ」を想起させる。つまり、オルソネーザルアロマとレトロネーザルアロマは、いずれも食品にとって重要である。
【0003】
特に、果汁(果実の搾汁、ジュース)や果実、果皮、果実風味のフレーバー等を添加して果実風味をつけた清涼飲料水やアルコール飲料では、果実の香りは嗜好性を左右する要素である。しかし、果実に由来する大部分の果実の香気成分は、揮発性が高く、飲料に添加しても時間経過と共に失われやすい。このため、果実風味の飲料においては、喫飲時により強い果実の香りが感じられるよう、様々な改良が試みられている。
【0004】
例えば、アルコール飲料に柑橘風味を添加するために用いられる呈味改善剤として、柑橘類の果実、ホールペースト、香料、果汁、濃縮果汁、搾汁残渣、果皮及び/又はこれらの乾燥物のエタノール抽出物から精製した香気成分を含む呈味改善剤が知られている(例えば、特許文献1参照。)。その他、特許文献2には、果汁を含有するアルコール飲料に、酢酸ボルニルを特定の濃度範囲となるように添加することによって、果汁に含まれる果皮成分に起因する果皮感を増強する方法が開示されている。
【0005】
一方で、香気成分や呈味成分の中には、空気、特に酸素によって酸化されて劣化するものがある。このため、容器詰飲料の製造においては、多くの場合、飲料の品質劣化を抑制するために、飲料の本体溶液を充填する前に、容器内の酸素を除くためのガッシング工程が行われる(例えば、特許文献3参照。)。ガッシングには、容器本体内に存在する空気を不活性ガスで置換したり、容器本体内に存在する空気を排気することが行われる。また、容器本体内に飲料液を充填する際に、容器本体内のガスを排気することも行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-41935号公報
【文献】特開2017-131134号公報
【文献】特開2005-313928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、容器の開封時や喫飲時に感じる疎水性香気成分による香りが増強された容器詰飲料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、疎水性香気成分を、飲料の本体となる液体に溶解又は分散させるのではなく、当該液体と分離した状態で存在させることにより、容器の開封時や喫飲時に感じる香りが増強されることを見出した。さらに、飲料の本体となる液体に、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を、容器本体に充填するまでは乳化状態が維持されているが、容器本体に充填された後には乳化状態が解除されるように乳化させておくことにより、疎水性香気成分を含有する疎水性液滴が飲料本体である液体とは分離した状態で存在する容器詰飲料を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る容器詰飲料の製造方法は、下記[1]~[19]である。
[1] 可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
可食性の水溶液に疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物が分散している前駆体溶液を、第1の中間体溶液と第2の中間体溶液とを混合して調製する調製工程と、
前記調製工程において調製した前駆体溶液を、容器本体に充填する充填工程と、
前記充填工程後、前記容器本体を密封する密封工程と、
前記充填工程後に、前記容器内において、前記前駆体溶液から前記疎水性液状組成物の少なくとも一部を分離して、前記疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とする分離工程と、
を有
前記第2の中間体溶液は、可食性の水性媒体に前記疎水性液状組成物が乳化しており、かつ、乳化処理後、25℃、5時間静置した時点で、前記疎水性液状組成物の少なくとも一部が分離する溶液であり
前記調製工程の前に、
前記第1の中間体溶液を調製する第1中間体調製工程と、
前記可食性の水性媒体に前記疎水性液状組成物を乳化させて、前記第2の中間体溶液を調製する第2中間体調製工程と、
を有し
前記第2中間体調製工程の後、直ちに前記調製工程を行い、前記調製工程の後、直ちに前記充填工程を行う、容器詰飲料の製造方法。
] 前記第2の中間体溶液は加熱殺菌処理後に、前記疎水性液状組成物の少なくとも一部が分離する溶液である、前記[]の容器詰飲料の製造方法。
] 前記第2の中間体溶液は、乳化処理後、25℃で10分間以上、乳化状態が維持される溶液である、前記[1]又は[2]の容器詰飲料の製造方法。
] 前記第2の中間体溶液中の前記疎水性液状組成物の粒子の累積90%径(d90)と累積10%径(d10)の差が、8.0μm以下である、前記[]~[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記第2の中間体溶液中の前記疎水性液状組成物の粒子の粒子径分布(体積基準)における標準偏差が、1.0μm以下である、前記[]~[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記第2の中間体溶液中の前記疎水性液状組成物の粒子のモード径(体積基準)が3.0~12.0μmである、前記[]~[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記第2の中間体溶液における前記疎水性液状組成物の濃度が3.0~15.0容量%である、前記[]~[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記第2中間体調製工程は、40℃以下で行う、前記[]~[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記可食性の水性媒体が、水である、前記[]~[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
10] 前記第2の中間体溶液は、乳化剤を含有する、前記[]~[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
11] 前記第2中間体調製工程は、
前記可食性の水性媒体と前記疎水性液状組成物とを混合し、
得られた混合液を、ケーシングの内部に回転可能に配置された外周に溝歯を有するロータを備える乳化攪拌機のケーシングとロータとの間に供給し、前記ロータを回転させて攪拌して、前記第2中間体溶液を調製する、前記[]~[10]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
12] 前記分離工程を、前記密封工程後の前記容器を、所定時間経過させることにより行う、前記[1]~[11]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
13] 前記分離工程を、前記密封工程後の前記容器を、加熱処理することにより行う、前記[1]~[11]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
14] 前記加熱処理が、加熱殺菌処理である、前記[13]の容器詰飲料の製造方法。
15] 前記調製工程において、前記第1の中間体溶液と前記第2の中間体溶液との混合は、前記第1の中間体溶液の流量に対して、前記第2の中間体溶液を比例注入すること
により行う、前記[]~[14]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
16] 前記第1の中間体溶液は、エタノールを含有する、前記[]~[15]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
17] 前記第1の中間体溶液のエタノール濃度が1~15容量%である、前記[16]の容器詰飲料の製造方法。
18] 前記第1の中間体溶液は、炭酸ガスを含有する、前記[]~[17]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
19] 前記第1中間体調製工程において、前記第1の中間体溶液は、飲料用濃縮溶液を水で希釈して調製する、前記[]~[18]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る容器詰飲料の製造方法により、容器の開封時や喫飲時に感じられる香りが強く、嗜好性に優れた容器詰飲料が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<可食性の水溶液と疎水性液滴とが分離している容器詰飲料>
一般に、清涼飲料水やアルコール飲料等の飲料に含まれる香気成分は、飲料中に溶解又は分散されている。飲料中で香気成分が偏在すると、均質に製品を製造することが困難となる。このため、例えば、香りの強化や補香、風味矯正等を目的として飲料に使用される香料は、香気成分が水に溶解又は分散しやすいように処理されているものが多い。また、飲料に油脂等の疎水性物質が含まれる場合、疎水性物質が分離することは品質上好ましくないこととされ、乳化剤等を用いて乳化させたり、果実パルプに吸着させたりすることが一般的である。また、飲料の製造工程において疎水性物質が分離していると、均質に容器詰めすることが困難となる。
【0012】
これに対して、本発明に係る容器詰飲料の製造方法により製造される容器詰飲料(以下、「本発明に係る容器詰飲料」ということがある。)は、飲料の本体たる可食性の水溶液(以下、「ベース液体」ということがある。)と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有しており、当該水溶液と当該疎水性液滴とが分離している。ベース液体とは分離した状態で存在している疎水性香気成分は、ベース液体に溶解や分散されている疎水性香気成分よりも香りとして感じられやすい。例えば、当該疎水性液滴がベース液体の液面に存在している場合には、当該疎水性液滴から揮発した疎水性香気成分により、飲料のオルソネーザルアロマ、特に容器の開封時のオルソネーザルアロマが増強される。また、当該疎水性液滴がベース液体の内部に存在している場合、喫飲時のレトロネーザルアロマの持続時間を長くすることができる。これは、当該疎水性液滴に含まれていた疎水性香気成分の一部が、飲用後も口腔内に保持されているためと推察される。すなわち、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴をベース液体とは分離した状態で含有している本発明に係る容器詰飲料は、容器の開封時や喫飲時に感じられる香りが強く、嗜好性に優れている。
【0013】
本発明に係る容器詰飲料中の疎水性液滴は、1個であってもよく、複数個であってもよい。疎水性液滴は、飲料を顕微鏡で観察することで確認できる。また、疎水性液滴の密度がベース液体よりも小さい場合には、疎水性液滴は、飲料の液面に浮いているため、目視で確認できる場合もある。また、本発明に係る容器詰飲料としては、疎水性液滴が飲料中の限定された領域に存在していることが好ましい。疎水性液滴が集積していることにより、容器の開栓時や喫飲時にこれらが内包する疎水性香気成分がより強く感じられ、より優れた香り増強効果が得られる。
【0014】
<疎水性香気成分>
本発明において用いられる疎水性香気成分は、ヒトに「におい」を感じさせる物質のうち、疎水性のものであれば、特に限定されるものではない。なお、疎水性の物質とは、25℃の水に滴下した場合に、少なくとも一部は相溶せずに界面を形成する物質である。すなわち、疎水性の物質は、水に完全に不溶であることまでは必要とせず、一部が水に溶解する物質も含まれる。本発明においては、一般的に飲食品に含まれる疎水性香気成分の中から、目的の香味特質を考慮して適宜選択して用いることができる。
【0015】
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、より香りとしてヒトが感じ取りやすいことから、常温常圧で揮発しやすい揮発性物質が好ましい。常温常圧で揮発しやすい疎水性香気成分としては、例えば、沸点が260℃以下の疎水性香気成分が挙げられる。
【0016】
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、目的とする飲料の風味に応じて適宜選択することができるが、飲料に広く使用されていることから、特定の植物の特徴的な香りを構成する成分(特徴香成分)であることが好ましく、果実やハーブ(香草)の特徴香成分であることがより好ましい。なお、「特定の植物の特徴香成分」は、当該植物の特徴的な香りとヒトが認識し得る香りを構成する成分であれば、当該植物に含有されている香気成分に限定されるものではなく、当該植物に含有されていない香気成分も含まれる。
【0017】
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、レモン、ライム、ユズ、シークヮーサー、スダチ、カボス、グレープフルーツ、オレンジ、伊予柑、温州みかん、夏みかん、八朔、日向夏等の柑橘類;イチゴ、モモ、メロン、ブドウ、リンゴ、洋ナシ、ナシ、サクランボ等のソフトフルーツ;バナナ、パイナップル、マンゴー、パッションフルーツ等のトロピカルフルーツ;ペパーミント、セージ、タイム、レモングラス、シナモン、ローズマリー、カモミール、ラベンダー、ローズヒップ、ペッパー、バニラ等のハーブ;などの特徴香成分が好ましい。
【0018】
柑橘類のうち、レモンの特徴香成分は、シトラール、ネロール、ゲラニオール、酢酸ネリル、酢酸ゲラニル等が挙げられ、シトラールはレモン由来の精油に含まれる含酸素化合物の半分以上を占める。グレープフルーツの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、ヌートカトン等が挙げられ、ユズの特徴香成分としては、リナロール、チモール、ユズノン(登録商標)、N-メチルアントラニル酸メチル等が挙げられる。オレンジの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、リナロール、酢酸ゲラニル、シネンサール等が挙げられる。
【0019】
柑橘類以外の果実やハーブとしては、例えば、モモの特徴香成分としては、γ-ウンデカラクトン等が挙げられる。ブドウの特徴香成分としては、メチルアンスラニレート等が挙げられる。ミントの特徴香成分としては、メントール等が挙げられる。バニラの特徴香成分としては、バニリン等が挙げられる。
【0020】
なお、各飲料の各種の香気成分の濃度は、例えば、GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量することができる。
【0021】
<疎水性液状組成物>
本発明に係る容器詰飲料に形成されている疎水性液滴は、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物からなる。当該疎水性液状組成物に含まれている疎水性香気成分は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。また、化学合成品であってもよく、動植物等の天然物から抽出・精製されたものであってもよい。
【0022】
本発明において、疎水性液滴を形成する疎水性液状組成物は、疎水性香気成分のみからなる組成物であってもよく、疎水性香気成分以外の疎水性物質を含有していてもよい。当該疎水性物質としては、例えば、油脂や、天然物からの有機溶媒抽出物に疎水性香気成分と共に抽出された疎水性物質等が挙げられる。より十分な香り増強効果が得られることから、当該液状組成物全体に対する疎水性香気成分の含有量は、15質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がよりさらに好ましい。
【0023】
当該疎水性液状組成物は、沸点が比較的高くて不揮発性の成分を含んでいてもよい。含有されている疎水性香気成分が速やかに揮発して香りとして認識されやすくなり、より十分な香り増強効果が得られることから、当該疎水性液状組成物は、構成成分のうち80質量%以上が、沸点が260℃以下の成分であることが好ましい。
【0024】
例えば、植物に含有されている疎水性香気成分は、植物から抽出された精油に多く含まれている。このため、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物には、精油やその加工物を含有させてもよい。精油の加工物としては、精油の濃縮物や、精油から一部成分を除去したものが挙げられる。精油は、植物の花、蕾、果実(果皮、果肉)、枝葉、根茎、木皮、樹幹、樹脂等から、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法(直接蒸留法)等の常法によって植物から留出することができる。精油の加工処理は、蒸留法、晶析法、化学処理法等の常法により行うことができる。
【0025】
精油は、一般に水より軽く、テルペン類を主成分とする疎水性の液状組成物である。テルペン類は、テルペン炭化水素とテルペノイドとからなる。テルペノイドは、テルペン炭化水素から誘導されるアルコール、アルデヒド、ケトン、エステル等の含酸素誘導体である。
【0026】
例えば、柑橘類の果実から抽出された精油を含む疎水性液状組成物で疎水性液滴を構成することにより、柑橘類の香りが良好な容器詰飲料を製造できる。柑橘類の特徴香成分は、果実の中でも特に果皮に多く含まれているため、特に果皮から抽出された精油を用いることが好ましい。
【0027】
柑橘類から得られる精油成分の90%以上は、テルペン炭化水素であり、その主な成分はD-リモネンであるが、香りに対する貢献度は低い。柑橘類の香りを特徴づける成分として重要なのは、精油中に数%存在するアルデヒド類、アルコール類、エステル類などの含酸素化合物(テルペノイド)である。そこで、飲食品に添加される香料としては、D-リモネンなどのテルペン炭化水素を除去し、シトラールなどの含酸素化合物(テルペノイド)の含有比を増大させたテルペンレスオイルやフォールディッドオイルなどが広く使用されている。本発明に係る容器詰飲料においても、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物に、テルペンレスオイルやフォールディッドオイル等を含有させることができる。
【0028】
柑橘類の精油からテルペン炭化水素を除去し、テルペノイドの含有比を増大させると、香りは強くなるものの、香りの自然さは減弱されるおそれがある。より自然な柑橘類の香りの強い容器詰飲料を製造できるため、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するテルペノイドの含有比は、10~40質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましく、20~30質量%であることがよりさらに好ましい。疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するテルペン炭化水素の含有比は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。また、疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するD-リモネンの含有量は、40~60質量%とすることが好ましく、50~60質量%とすることがより好ましい。また、疎水性液状組成物中のテルペン炭化水素に対するD-リモネンの含有量は、50~80質量%とすることが好ましく、60~75質量%とすることがより好ましい。
【0029】
疎水性液状組成物は、本発明の効果を損なわない限度において、疎水性香気成分以外のその他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、油溶性溶剤、疎水性香気成分の劣化を抑制する物質等が挙げられる。例えば、疎水性液状組成物は、疎水性香気成分を液状油等の液状の疎水性溶媒に溶解させた油溶性香料を含有させることもできる。また、精油又はその加工物と油溶性香料を両方とも疎水性液状組成物に含有させてもよい。
【0030】
容器詰飲料に含有させる疎水性香気成分の量は、求める香味の強度やバランスに適した量となるように、適宜決定することができる。例えば、飲料の全量(ベース液体と疎水性液状組成物の総量)に対する疎水性液状組成物の含有量を、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.2g/L以上にすることによって、充分な香増強効果が期待できる。一方で、疎水性液状組成物の量が多すぎると、油っぽくなり、飲料としてあまり好ましくはない。飲料の全量に対する疎水性液状組成物の含有量を、好ましくは1.0g/L以下、より好ましくは0.8g/L以下にすることができる。
【0031】
<ベース液体>
本発明に係る容器詰飲料のベース液体は、飲料の本体となる可食性の水溶液である。当該ベース液体としては、水を含む各種の飲料をそのまま使用することができる。当該ベース液体としては、ノンアルコール飲料であってもよく、アルコール飲料であってもよい。また、炭酸ガスを含有していない非発泡性飲料であってもよく、炭酸ガスを含有する発泡性飲料であってもよい。また、発酵工程を経て製造される飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される飲料であってもよい。
【0032】
本発明に係る容器詰飲料のベース液体は、全体として流動性のある状態であれば、果実パルプ、ゼリー等の固体を含んでいてもよい。また、成分として水を含有していればよく、水、酒類、果汁そのものであってもよい。
【0033】
ベース液体は、例えば、原料水に、その他の成分を混合し、必要に応じて炭酸ガスを圧入することにより製造できる。当該その他の成分としては、例えば、酒類、炭酸水、果実、野菜類、ハーブ、糖類、香味料、その他の食品素材、食品添加物などが挙げられ、これらを適宜選択して使用する。ベース液体全体として水を含有していればよく、原料水を原料とせず、炭酸水、酒類、果汁等の水を含有する液体を用い、当該液体にその他の成分を混合してもよい。
【0034】
ベース液体に含有させる酒類としては、原料用アルコール;ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ラム酒、スピリッツ、及びジン等の蒸留酒;ワイン、シードル、ビール、日本酒等の醸造酒;リキュール、ベルモットなどの混成酒等が挙げられる。ベース液体に含有させる酒類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。なお、本発明に係る容器詰飲料が酒類と食品素材を混合した液体をベース液体とする場合には、当該飲料は、日本国の酒税法(平成三十年四月一日施行)上、リキュール(エキス分が二度以上)又はスピリッツ(エキス分が二度未満)に分類される。
【0035】
ベース液体のアルコール度数(エタノールの体積濃度)は特に制限されず、目的とする製品品質に応じて適宜決定される。例えば、ベース液体のアルコール度数を、好ましくは1容量%以上、より好ましくは2容量%以上、さらに好ましくは3容量%以上になるように、ベース液体の酒類含有量を調整することができる。
【0036】
ベース液体に含有させる果実、野菜類、ハーブは、特に限定されるものではなく、飲料に一般的に使用される果実等を適宜選択して使用することができる。例えば、果実やハーブとしては、疎水性香気成分に由来する果実やハーブとして挙げられたものを用いることができる。また、野菜類としては、トマト、ニンジン、ホウレン草、キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、セロリ、レタス、パセリ、クレソン、ケール、大豆、ビート、赤ピーマン、カボチャ、小松菜等を用いることができる。ベース液体に含有させる果実、野菜類、ハーブは、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0037】
ベース液体には、果実等の細断物をそのままベース液体に含有させてもよく、果汁や野菜汁のような搾汁を原料として添加してもよい。なお、果汁は、日本国においては果実飲料の日本農林規格、国際的には果汁及びネクターに関するコーデックス規格(CODEX STAN 247‐2005)に定義されている。ベース液体の調製に使用する原料としては、濃縮果汁や還元果汁等を使用してもよく、不溶性固形分の一部が除去されて清澄化された果汁を用いてもよい。
【0038】
ベース液体には、果実エキス、野菜エキスを原料として添加してもよい。特に、疎水性液滴に含まれる疎水性香気成分が、果実やハーブの特徴香成分である場合には、ベース液体には、当該疎水性香気成分と同種の果実等の果汁やエキスを含有することが好ましい。
【0039】
果実エキス、野菜エキスは、果実や野菜の細断物から水やアルコールを用いて果実や野菜に含まれる成分を抽出したものである。これらのエキスは、例えば、熱水抽出による方法や、液化ガスを用いて果実成分を溶出させた後、液化ガスを気化させ、果実成分を分離、回収する方法などによって製造される。
【0040】
糖類は、単糖類・二糖類の総称であり、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、異性化糖などがある。これらの糖類をベース液体に含有させることで、飲料に甘味やボディ感等を付与することができる。ベース液体に含有させる糖類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0041】
さらに、ベース液体には、香味料やその他の食品素材を含有させることができる。その他の食品素材としては、例えば、食物繊維、酵母エキス、タンパク質若しくはその分解物等が挙げられる。中でも、水溶性食物繊維は、飲料にボディ感やその他の機能性を付与するために広く使用されている。水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
ベース液体に含有させてもよい食品添加物は、国の法令に基づいて使用可能な物品を用いることができ、その範囲において特に制限されない。例えば、食品の品質を保つための保存料や酸化防止剤等、食品の嗜好性の向上を目的とした着色料、香料、甘味料、酸味料、乳化剤等、食品の製造または加工のために必要なpH調整剤、消泡剤、起泡剤等や、栄養成分の補充、強化に使われる栄養強化剤を、必要に応じて含有させることができる。
【0043】
以下では、一部の食品添加物について簡単に説明する。
【0044】
着色料は、食品の色調を改善する食品添加物であり、化学合成系着色料と天然系着色料に大別され、日本国の食品衛生法では、指定添加物、既存添加物、一般飲食物添加物に分類される。着色料としては、食品を褐色に着色するカラメル色素が多く使用されている。なお、カラメル色素の副次効果として、飲料にロースト感やコク等を付与することができる。
【0045】
香料は、食品に香気を与える、又は増強するために用いられる。食品用香料には、天然物から抽出した天然香料と化学的に合成された合成香料がある。天然香料は、日本国の食品衛生法では、「動植物より得られる物又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物」と定義され、使用できる動植物名が例示として「天然香料基原物質リスト」に記載されている。また、合成香料のほとんどは食品に存在するものと同一成分を化学合成した化合物であり、「食品衛生法施行規則別表第1」のなかで指定されている。
【0046】
食品用香料は、単品で使用されることは少なく、通常、多数の香料化合物を組み合わせた調合製品が用いられる。香料製品の形態としては、水溶性香料、油溶性香料、乳化香料、粉末香料などがある。水溶性香料は、香料ベースを水溶性溶剤である含水アルコール、プロピレングリコールなどで抽出・溶解したものである。油溶性香料は、香料ベースを植物油などで溶解したものである。乳化香料は、乳化剤や安定剤を使用し、香料ベースを水に乳化させ微粒子状態にしたものである。飲料ににごりを与えることもありクラウディーとも呼ばれる。粉末香料は、香料ベースをデキストリンや天然ガム質、糖、でんぷんなどの賦形剤とともに乳化させた後、噴霧乾燥させて粉末化したり乳糖などに香料ベースを付着させたりしたものである。飲料には、通常、水溶性香料と乳化香料が用いられる。
【0047】
特に、疎水性液滴に含まれる疎水性香気成分が、果実やハーブの特徴香成分である場合には、ベース液体には、当該疎水性香気成分と同種の果実等の香料を含有することが好ましい。
【0048】
甘味料は、食品に甘味をつける目的で使用されるものであるが、前述した糖類や一部の低甘味度物質(水あめ、エリスリトール、マルチトール、ラクチトールなど)は、食品に区分され、食品添加物には区分されない。食品添加物に区分される低甘味度物質としては、L‐アラビノース、D‐キシロース、トレハロース、D‐ソルビトール、キシリトール、マンニトールなどがあり、高甘味度物質としてはアスパルテーム、ネオテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン類、スクラロース、グリチルリチン酸二ナトリウム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物、タウマチンなどがある。なお、日本国の食品衛生法では、甘味料は、指定添加物、既存添加物、一般飲食物添加物に分類される。
【0049】
飲料には、従来から飲料に用いられる糖類(砂糖、ブドウ糖、果糖)と甘味特性の近いアスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースなどがよく用いられる。本発明におけるベース液体においても、これらの飲料に汎用されている甘味料の1種以上を使用することが好ましい。
【0050】
酸味料は、食品に酸味を与えたり、酸味を増強したりするために用いられる。酸味料には、クエン酸や乳酸のような有機酸及びそれらの塩類と、リン酸、二酸化炭素のような無機酸がある。有機酸とその塩を併用すると、緩衝作用によって特定のpHを保持しやすくすることができる。
【0051】
なお、日本国において酸味料として一括名表示ができる物質は、指定添加物では、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸、既存添加物では、イタコン酸、フィチン酸、α-ケトグルタル酸が挙げられる。
【0052】
飲料に用いる酸味料は、飲料の風味(フレーバー)に応じて選択される。例えば、柑橘類風味の飲料では柑橘類に多く含まれるクエン酸及びクエン酸塩、ブドウ風味の飲料ではブドウに多く含まれる酒石酸及び酒石酸塩、リンゴ風味の飲料ではリンゴに多く含まれるリンゴ酸及びリンゴ酸塩が選択される場合が多い。
【0053】
また、飲料のpHは、微生物制御、香気成分の劣化抑制などの目的に応じて調整されてもよい。一般に、飲料のpHが低いほど微生物が発育し難くなる。一方で、pHが低すぎると、酸味が強くなりすぎる。また、香気成分の中には、pHが低くなると劣化しやすいものもある。飲料として適した酸味の強さや香気成分の劣化抑制の点から、ベース液体のpHは、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3.0以上である。また、微生物の生育抑制、殺菌条件の強度等を考慮し、ベース液体のpHは、アルコールを含有していない場合は、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは4.0未満であり、アルコールを含有している場合は、好ましくは6.5以下、より好ましくは5.0以下である。
【0054】
乳化剤は、食品に乳化、分散、浸透、洗浄、起泡、消泡、離型などの目的で使用されるが、飲料では液中に油を分散(乳化)させる目的で使用される場合が多い。例えば、疎水性成分を水中に均一に分散させたり、原材料由来の油脂成分の分離を抑制したりするために用いられる。
【0055】
上述した食品素材や食品添加物は一例であり、本発明に係る容器詰飲料に含有させるものはこれらに限定されるものではない。使用する食品素材や食品添加物の種類や含有量は、目的に応じて適宜選択、調整すればよい。
【0056】
<容器詰飲料の製造方法>
可食性の水溶液と疎水性液滴とが分離している容器詰飲料は、容器本体に、可食性の水溶液と疎水性液滴となる疎水性液状組成物をそれぞれ別個に添加することにより調製できる。しかし、工場設備で大量生産する場合に、疎水性液状組成物を容器本体に充填した後にガッシングやガスの排気を伴う可食性の水溶液の充填を行った場合、疎水性液状組成物が容器外に飛散したり、排気ラインに吸引されてしまい、容器詰飲料における疎水性液状組成物の含有量にばらつきが生じる。また、疎水性液状組成物によっては、排気ラインに付着しシーリング材等に影響を与える懸念もある。また、容器本体に可食性の水溶液を充填した後に、疎水性液状組成物を充填すると、可食性の水溶液及び/又は疎水性液状組成物が飛散してしまう懸念がある。
【0057】
そこで、本発明においては、疎水性液滴となる疎水性液状組成物の乳化状態を調整することによって、容器本体に充填するまでは、疎水性液状組成物をベース液体に乳化(均一に分散)させておき、容器本体に充填した後に、この乳化状態を解除してベース液体から疎水性液状組成物を分離して疎水性液滴を形成させる。当該方法により、疎水性液状組成物をベース液体とは別個に容器本体に充填することにより引き起こされる疎水性液状組成物の含有量のばらつきや排気ラインへの影響を防止できる。
【0058】
具体的には、本発明に係る容器詰飲料の製造方法は、ベース液体となる可食性の水溶液に、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物が分散している前駆体溶液を調製する調製工程と、前記調製工程において調製した前駆体溶液を、容器本体に充填する充填工程と、前記充填工程後、前記容器本体を密封する密封工程と、前記充填工程後に、前記容器内において、前記前駆体溶液から前記疎水性液状組成物の少なくとも一部を分離して、前記疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とする分離工程と、を有する。充填工程と密封工程とは、一般的な容器詰飲料の製造と同様にして行うことができる。
【0059】
調製工程において製造される前駆体溶液は、ベース液体に疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物が、安定性の低い乳化状態で分散している溶液である。ここで、「安定性の低い乳化状態」とは、乳化処理後、一定の期間は乳化状態を維持できるが、当該期間経過後、又は何等かの処理によって乳化状態が維持できなくなる乳化状態を意味する。本発明においては、当該前駆体溶液の乳化状態の安定性は低く、具体的には、容器本体に充填されるまでは乳化状態が維持されるが、製造された容器詰飲料が、消費者に喫飲される時点までに、当該容器内で疎水性液状組成物の少なくとも一部が分離して疎水性液滴となるような乳化状態である。
【0060】
前駆体溶液は、少なくとも容器本体に充填されるまで乳化状態が維持されればよい。本発明においては、調製から容器本体への充填までに要する時間と、製造された容器詰飲料が消費者に消費されるまでの時間を考慮して、適切な乳化安定性となるように前駆体溶液の乳化状態を調整する。例えば、調製工程、充填工程、密封工程を連続して行う連続フロー方式の製造設備で製造する場合、調製された前駆体溶液が容器本体に充填されるまでに要する時間は短く、このため、前駆体溶液の乳化状態が維持される時間は、1~数分間でよい。一方で、調製工程、充填工程、密封工程を不連続で行うバッチ方式の製造設備で製造する場合、調製された前駆体溶液が容器本体に充填されるまでに要する時間は比較的長い。本発明において調製される前駆体溶液としては、乳化状態が維持される時間が、5分間以上であるものが好ましく、10分間以上であるものがより好ましく、20分間以上であるものがさらに好ましい。また、本発明において調製される前駆体溶液としては、調製後から好ましくは24時間後、より好ましくは12時間後、さらに好ましくは6時間後には、乳化状態が破壊され始めているものが好ましく、調製後から好ましくは2週間後、より好ましくは1週間後、さらに好ましくは24時間後には、乳化状態が破壊されているものが好ましい。
【0061】
前駆体溶液の乳化状態の安定性の調整は、主に、乳化剤の使用の有無、使用する乳化剤の種類や使用量、乳化分散機の種類や使用条件等を適宜調整することによって行うことができる。乳化剤や乳化分散機としては、飲食品に一般的に使用されている乳化剤や乳化分散機の中から、適宜選択して使用することができる。
【0062】
ベース液体が、疎水性の成分や不溶性固形分を含有していない場合には、例えば、まず、ベース液体の全ての原料を均一に混合して溶解させることにより、ベース液体を調製する。その後、このベース液体に疎水性液状組成物を混合し、所望の乳化安定性となるように乳化処理や攪拌処理を行うことによって、前駆体溶液を調製することができる。
【0063】
ベース液体に対して、疎水性液状組成物を混合させる量が少なすぎる場合には、両者を混合した後、所望の乳化安定性になるように乳化状態を調整することは困難な場合がある。また、ベース液体が、疎水性の成分や不溶性固形分を含有している場合、これらの成分は、容器詰飲料が喫飲される時点まで安定な乳化状態で乳化させる必要があるが、乳化安定性の異なる複数の成分を含有する場合、分散状態や乳化状態の制御は困難な場合が多い。特に、エタノール等の分散を阻害する成分を含有する場合には、分散状態を維持することが困難となる。
【0064】
そこで、本発明では、疎水性液状組成物を予め、所望の乳化状態となるように可食性の水性媒体に乳化させた乳化液とし、これをその他の成分を含有する溶液と混合することによって、前記体溶液を調製することができる。具体的には、可食性の水性媒体に疎水性液状組成物が乳化している溶液を第2の中間体溶液とし、残りの成分を含む溶液を第1の中間体溶液とする。調製工程の前に、第1の中間体溶液を調製する第1中間体調製工程と、可食性の水性媒体に疎水性液状組成物を乳化させて、第2の中間体溶液を調製する第2中間体調製工程と、を行い、その後、調製工程において、第1の中間体溶液と第2の中間体溶液とを混合して前駆体溶液を調製する。
【0065】
第2の中間体溶液は、可食性の水性媒体と疎水性液状組成物を混合した後、得られた混合液を、所望の乳化安定性の乳化状態となるように乳化させることにより調製できる。可食性の水性媒体としては、特に限定されるものではなく、水、又は水に可溶性成分が溶解した水溶液が挙げられる。当該可溶性成分としては、乳化剤や、ベース液体の原料のうちの可溶性成分の一部が挙げられる。乳化安定性の制御が比較的容易となることから、第2の中間体溶液としては、構成がシンプルなものが好ましく、水と疎水性液状組成物のみからなる溶液、又は水と疎水性液状組成物と乳化剤のみからなる溶液がより好ましい。乳化剤は味へ影響する場合があるため、水と疎水性液状組成物のみからなる溶液が特に好ましい。
【0066】
第2の中間体溶液は、少なくとも、第1の中間体溶液と混合して前駆体溶液を調製し、調製された前駆体溶液が容器本体に充填されるまで乳化状態が維持されるが、容器本体に充填された後には、適当な時間経過後には乳化状態が破壊されるように調製する。このような安定性の低い乳化状態に調製するためには、例えば、ケーシングの内部に回転可能に配置された外周に溝歯を有するロータを備える乳化攪拌機を用いることが好ましい。可食性の水性媒体と疎水性液状組成物の混合液を、当該乳化攪拌機のケーシングとロータとの間に供給し、前記ロータを回転させて攪拌する。これにより、安定性の低い乳化状態の第2の中間体溶液が調製できる。当該乳化攪拌機としては、例えば、特開1999-196816号公報、特開2009-124985号公報等に記載されている乳化攪拌機や、乳化攪拌機「エマルダーEB-1020」(株式会社イズミフードマシナリ製)が挙げられる。また、特開2016-155054号公報、特開2018-47393号公報等に記載されている乳化攪拌機や、乳化攪拌機「Free Micro Mixer」(大川原化工機株式会社製)を用いることもできる。
【0067】
本発明において用いられる第2の中間体溶液としては、乳化攪拌機「エマルダーEB-1020」(株式会社イズミフードマシナリ製)を用いて、12000rpmで10分間攪拌することにより乳化されるが、攪拌処理後、25℃で5時間静置した時点では乳化状態は破壊され始めており、疎水性液状組成物の少なくとも一部が分離して疎水性液滴が形成されているような乳化安定性のものが好ましい。第2の中間体溶液としては、25℃において乳化状態が維持される時間が、5分間以上であるものが好ましく、10分間以上であるものがより好ましく、20分間以上であるものがさらに好ましい。本発明において用いられる第2の中間体溶液が、所定時間経過させることにより乳化状態が破壊されるものであれば、第2の中間体溶液が加熱処理によって乳化状態が破壊される溶液である場合、第1の中間体溶液と混合し、得られた前駆体溶液を容器本体に充填して密封した後、所定時間経過させることにより、当該容器内で、疎水性液状組成物の少なくとも一部の乳化状態が破壊され、疎水性香気成分を含有する疎水性液滴が形成される。密封後の容器詰飲料は、静置しておいてもよく、輸送等されてもよい。
【0068】
後述するように、市場に流通する容器詰飲料の多くは、容器に充填して密封した後、加熱殺菌処理が行われる。そこで、本発明において用いられる第2の中間体溶液としては、加熱処理によって乳化状態が破壊されるものであってもよく、飲料において一般的に行われている加熱殺菌処理によって乳化状態が破壊されるものがより好ましい。第2の中間体溶液が加熱処理によって乳化状態が破壊される溶液である場合、第1の中間体溶液と混合し、得られた前駆体溶液を容器本体に充填して密封した後、加熱殺菌処理を行うことにより、当該容器内で、疎水性液状組成物の少なくとも一部の乳化状態が破壊され、疎水性香気成分を含有する疎水性液滴が形成される。
【0069】
第1の中間体溶液と混合した際に、乳化状態が破壊されにくくするため、第2の中間体溶液中の疎水性液状組成物の粒子のメジアン径(体積基準)は、3.0~15.0μmが好ましく、3.0~12.0μmがより好ましく、3.5~8.5μmがさらに好ましい。また、第2の中間体溶液中の疎水性液状組成物の粒子のモード径(体積基準)は、3.0~12.0μmが好ましく、3.0~10.0μmがより好ましく、3.0~8.0μmがさらに好ましい。
【0070】
一定の品質の容器詰飲料を製造するために、第2の中間体溶液中の疎水性液状組成物の粒子の大きさは、均一であることが好ましい。第2の中間体溶液中の疎水性液状組成物の粒子の体積基準の粒子径分布における標準偏差は、1.0μm以下が好ましく、0.1~0.8μmがより好ましく、0.2~0.6μmがさらに好ましい。また、第2の中間体溶液中の疎水性液状組成物の粒子の体積基準の粒子径分布における累積90%径(d90)と累積10%径(d10)の差(d90-d10)は、8.0μm以下が好ましく、1.0~8.0μmがより好ましく、2.0~6.0μmがさらに好ましい。
【0071】
なお、疎水性液状組成物の粒子の粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0072】
第2の中間体溶液における疎水性液状組成物の濃度は、特に限定されない。疎水性液状組成物の濃度は高くなるほど、乳化状態を維持することが困難となる。一方で、疎水性液状組成物の濃度が低すぎると、必要な第2の中間体溶液の量が多くなり、製造効率が低下する。このため、本発明において第2の中間体溶液における疎水性液状組成物の濃度は、例えば、3.0~15.0容量%が好ましく、4.0~12.0容量%がより好ましい。
【0073】
疎水性香気成分は、高温環境下では、劣化が揮発による損失が生じやすい。疎水性液状組成物中の疎水性香気成分の劣化等を抑制するため、第2中間体調製工程は、40℃以下で行うことが好ましく、0~30℃で行うことが好ましい。なお、当該温度範囲内であれば、温度制御がされていない環境下であってもよい。
【0074】
第1の中間体溶液は、全成分が均一に分散している飲料(ベース液体)と同様に、常法により製造できる。例えば、第1の中間体溶液は、全ての原料を均一に混合して調製する。原料に疎水性の成分が含まれている場合には、適切な乳化剤等を使用して乳化処理して均一にする。また、第1の中間体溶液に果実パルプ等の不溶性固形分が含まれている場合も、均一になるように充分に攪拌処理する。乳化処理や攪拌処理は、飲料の製造で汎用されているホモジナイザーや乳化攪拌機を使用して行うことができる。例えば、第1の中間体溶液が疎水性香気成分を含有する場合には、当該疎水性香気成分が第1の中間体溶液中に均一に分散するように、乳化剤を併用して混合することが好ましく、適切な乳化処理を行うことがより好ましい。また、疎水性香気成分を高濃度アルコールに溶解させた香料や、予め水へ均一に分散するように調製された乳化香料を用いることもできる。
【0075】
本発明において製造される容器詰飲料がエタノールを含有するアルコール飲料の場合、エタノールは、疎水性液状組成物の溶解性や分散性に影響を与えるため、第1の中間体溶液に含有させることが好ましい。第1の中間体溶液がエタノールを含有する場合、第1の中間体溶液のエタノール濃度は、1~15容量%が好ましく、1~12容量%がより好ましく、3~12容量%がさらに好ましい。
【0076】
さらに、本発明において製造される容器詰飲料が発泡性飲料の場合、第1の中間体溶液に炭酸ガスを圧入してもよい。このときのガスボリュームは、製造される容器詰飲料の製品品質を考慮して適宜決定すればよいが、容器の耐圧や製造条件によって制限される場合がある。例えば、製造工程において加熱殺菌を行う場合は、加熱中の容器内の圧力を、容器の耐圧以下にする必要があるため、加熱殺菌を行わない場合に比べて、ガスボリュームは制限される。
【0077】
なお、炭酸ガスが静菌作用を有することから、製造される容器詰飲料の容器内の炭酸ガス圧力が20℃で98kPa以上であり、飲料に果汁や果実、乳等の植物又は動物の組織成分を含まない場合、加熱殺菌が不要であり、ガスボリュームを高くすることができる。
【0078】
調製された第1の中間体溶液に、不溶物が生じた場合には、当該第1の中間体溶液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0079】
本発明においては、第2の中間体溶液が、水と疎水性液状組成物のみからなる溶液、又は水と疎水性液状組成物と乳化剤のみからなる溶液であり、第1の中間体溶液が、ベース液体を第2の中間体溶液との混合により希釈される分だけ濃縮した液であることが好ましい。例えば、第1の中間体溶液は、水と炭酸ガス以外の原料を全て高濃度に含有しており、水や炭酸水で希釈することによってベース液体が調製される飲料用濃縮溶液を予め調製しておき、この飲料用濃縮溶液を水で希釈して調製することができる。
【0080】
本発明においては、調製工程、充填工程、密封工程を不連続で行うバッチ方式で行ってもよく、調製工程、充填工程、密封工程を連続して行う連続フロー方式で行ってもよい。第2の中間体溶液の乳化状態に対する影響を抑えやすいことから、本発明においては、少なくとも、第2中間体調製工程の後、直ちに前記調製工程を行い、調製工程の後、直ちに前記充填工程を行うことが好ましく、連続フロー方式の製造設備を用いて行うことがより好ましい。連続フロー方式で行う場合、例えば、調製工程において、第1の中間体溶液と第2の中間体溶液との混合は、第1の中間体溶液の流量に対して第2の中間体溶液を比例注入することにより行うことができる。
【0081】
疎水性香気成分の劣化を抑制するために、充填工程後、密封工程の前に、容器詰飲料の空寸部に存在する酸素を減少させることが好ましい。容器詰飲料の空寸部には、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスを充填することが好ましい。
【0082】
また、日本国においては、食品衛生法により、飲料に植物又は動物の組織成分を含有する場合、殺菌又は除菌を要することが定められている。容器詰飲料においては、通常、飲料を容器に密封した後、加熱殺菌が行われる。本発明においても、容器詰飲料の製造工程において、必要に応じて加熱殺菌処理を行う。加熱殺菌処理は、容器に充填前に行ってもよく、容器充填後に行ってもよい。殺菌方法としては、UHT(超高温)殺菌処理、パストライザー殺菌処理、レトルト殺菌処理等の常法により行うことができる。
【実施例
【0083】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
様々な乳化条件でレモンオイルの乳化液を調製し、得られた乳化液をベース液体の濃縮液と混合して、レモンオイルの液滴がベース液体と分離している飲料が得られるか、調べた。
【0085】
使用したレモンオイルは、レモンの果皮から抽出された疎水性組成物(シングルオイル)と、このシングルオイルのテルペン炭化水素の一部を除去してテルペノイドの含有比を増大させた疎水性組成物(フォールディッドオイル)とを混合した疎水性液状組成物であった。レモンオイルIに含まれるテルペン類のうち、テルペン炭化水素の含有量は84.0質量%であり、さらに、テルペン炭化水素のうち、D-リモネンの含有量は68.2質量%であった。
【0086】
原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%、ショ糖を2.1質量%、無水クエン酸を0.3質量%、クエン酸ナトリウムを0.2質量%、レモンエキス(エタノール濃度:38.0容量%)を0.2g/L、及び水を混合した溶液をベース液体とし、このベース液体の4倍濃縮液を、ベース液体濃縮液として調製した。
【0087】
100mLのベース液体濃縮液を300mLの水と混合して希釈した液を第1の中間体溶液とし、446mL容のボトル缶に充填した。
【0088】
一方で、レモンオイルを、水又は乳化剤水溶液(水と乳化剤の混合物)と混合して乳化液を調製した。乳化剤はレシチンを用いた。乳化液の調製には、乳化攪拌機「エマルダーEB-1020」(株式会社イズミフードマシナリ製)(以下、「エマルダー」と略称する。)を、20~60Hzで用いた。エマルダーの2つの送液ポンプのうちの一方から水又は乳化剤水溶液を送液して、エマルダー内を水相で満たした後、エマルダーを起動して、他方の送液ポンプからレモンオイルを送液し、乳化液を得た。この乳化液を第2の中間体溶液とした。
【0089】
得られた各乳化液は、エマルダーにより調製されてすぐに、ベース液体濃縮液の希釈液を充填したボトル缶に、レモンオイル濃度が4.5%の場合は2.7mL、10%の場合は1.2mLずつ充填し、密封した。密封後の容器を転倒混合した後、58℃の水槽に20分間浸漬させることで加熱殺菌処理を行い、その後冷却して、容器詰飲料を得た。
【0090】
得られた各乳化液のレモンオイル濃度(質量%)及び温度(℃)を、製造時のエマルダーの周波数(Hz)及び回転数(rpm)と共に表1に示す。また、エマルダーにより調製されてすぐの各乳化液中のレモンオイル粒子の粒子径分布(体積基準)を、レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD-2000J」(株式会社島津製作所製)で測定し、メジアン径(μm)を表1及び2に示す。また、乳化状態を目視で観察した結果も表1及び2に示す。さらに、製造された容器詰飲料のレシチン濃度(ppm)も表1及び2に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
この結果、周波数が大きくなるほど、また、レモンオイル濃度が高くなるほど、乳化状態が破壊されてレモンオイルの分離が観察されるまでの時間が長くなる傾向が観察された。
【0094】
得られた容器詰飲料を開封して、「開封時のレモンの香りの強さ(オルソネーザルアロマ)」を評価した。官能評価は、訓練されたパネリスト3名で行い、全パネリストの評価点の平均値を、評価対象の評価点とした。400mLのベース液体を充填したボトル缶に、飲料当たりのレモンオイル濃度が試験区1と同じになるように、レモンオイルを直接滴下し、密閉して同様に加熱殺菌処理と冷却処理を行った容器詰飲料を対照区とし、この対照区の「開封時のレモンの香りの強さ」を基準(評点3)として、5段階(評点1:弱い、評点2:やや弱い、評点3:同等、評点4:やや強い、評点5:強い)で評価した。
【0095】
評価結果を表1及び2に示す。この結果、試験区1~5、7~9は、レモンオイルを直接添加した対照区よりは弱いものの、いずれも開封時にレモンの香りがし、好ましいものであった。試験区6は、対照区と同様に強いレモンの香りがした。これらは開封後、飲料の液面に微細な油滴が確認されており、この油滴によってレモンの香りがしたと推察された。
【0096】
[実施例2]
実施例1と同様にして、レモンオイルを、乳化攪拌機「T.K.ホモミクサーMARK II 2.5型」(プライミクス株式会社製)(以下、「ホモミクサー」と略称する。)を用いて、水又は乳化剤(レシチン)水溶液と混合して、乳化液を調製した。得られた乳化液を25℃で静置し、乳化状態を25℃で経時的に目視観察した。また、対照として、レモンオイルに代えて、2種類の市販の飲料に使用実績のあるレモン乳化香料(A、B)を、添加して攪拌して調製し、同様にして観察した。
【0097】
観察結果を、乳化液のレモンオイル濃度(質量%)、乳化剤濃度(容量%)、ホモミクサー処理の回転数(rpm)、及び処理時間(min)と共に表3及び4に示す。乳化状態が維持されている状態を「〇」、少なくとも一部の乳化状態が破壊されてレモンオイルの液滴が確認された状態を「×」とした。また、連続フロー方式での製造の場合、乳化状態が1分程度でも十分に品質が均一な容器詰飲料が製造可能であることから、ホモミクサーによる処理後に乳化状態が維持された乳化液は、均一製造が可能であり(表中、「均一製造可能性」が「可」)、処理後でも乳化できなかったものや、乳化状態が破壊されず、疎水性液滴が分離した飲料を製造できないものは、均一製造が不可能である(表中、「不可」)と評価した。
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
この結果、試験区1、5、8、及び9では、12000rpm、10分間のホモミクサー処理によっては乳化させることができなかったが、レシチン濃度を高くすることにより、乳化液が得られた。ただし、レモンオイルを用いた試験区2~4、6、7、10では、いずれも300分間経過時点では乳化状態は破壊されており、安定性の低い乳化状態であった。よって、これらの試験区の乳化液は、ベース液体の濃縮液と混合して容器本体に充填し、密封することにより、飲用時にはレモンオイルが飲料液面に液滴として存在し、開封時に強いレモンの香りがする嗜好性の高い容器詰飲料が製造できることがわかった。これに対して、乳化香料を用いた試験区11~16では、いずれも4週間経過時点でも乳化状態は維持されており、これらを用いて製造された容器詰飲料は、飲用時でも安定な乳化状態であり、開封時のレモンの香りは弱いことがわかった。