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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】速硬性混和材
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20240903BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B22/10
C04B24/06 A
C04B22/14 A
C04B22/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020058571
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2020164413
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019068993
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】MUマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】木元 大輔
(72)【発明者】
【氏名】猪鼻 仁
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 幸之助
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 恵二
(72)【発明者】
【氏名】福島 祐一
(72)【発明者】
【氏名】神谷 清志
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-164249(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203788(WO,A1)
【文献】特開平04-280845(JP,A)
【文献】特開平06-127991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネートと、無水石膏と、無機炭酸塩と、オキシカルボン酸と、ミョウバンと、を含み、
前記カルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であり、
前記無水石膏の含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して35質量部以上65質量部以下の範囲内にあって、
前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの含有量は、それぞれ前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上であって、前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの合計含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して10質量部以下であることを特徴とし、
さらに、メタケイ酸ナトリウムを前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内の量にて含む、速硬性混和材。
【請求項2】
カルシウムアルミネートと、無水石膏と、無機炭酸塩と、オキシカルボン酸と、ミョウバンと、を含み、
前記カルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であり、
前記無水石膏の含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して35質量部以上65質量部以下の範囲内にあって、
前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの含有量は、それぞれ前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上であって、前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの合計含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して10質量部以下であることを特徴とし、
さらに、ケイ酸ナトリウムを前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内の量にて含む、速硬性混和材。
【請求項3】
さらに、無水硫酸ナトリウムを前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内の量にて含む請求項1または2に記載の速硬性混和材。
【請求項4】
カルシウムアルミネートと、無水石膏と、無機炭酸塩と、オキシカルボン酸と、ミョウバンと、を含み、
前記カルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であり、
前記無水石膏の含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して35質量部以上65質量部以下の範囲内にあって、
前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの含有量は、それぞれ前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上であって、前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの合計含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して10質量部以下であることを特徴とし、
さらに、無水硫酸ナトリウムを前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内の量にて含む、速硬性混和材。
【請求項5】
前記ミョウバンがカリウムミョウバンであって、前記カリウムミョウバンの含有量が前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.2質量部以上6.0質量部以下の範囲内にある請求項1~4のいずれか1項に記載の速硬性混和材。
【請求項6】
前記ミョウバンが、石英粉末と前記ミョウバンとを質量比で20:80~80:20の範囲内で含む混合物として含まれている請求項1~5のいずれか1項に記載の速硬性混和材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速硬性混和材に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物の硬化速度を速めるために、セメントに速硬性混和材を添加することが行われている。セメント組成物の速硬性混和材として、カルシウムアルミネートと無水石膏(無機硫酸塩)とを組み合わせた混和材が知られている。また、セメント組成物の凝結時間や初期強度などを調整することを目的として、速硬性混和材に凝結調整剤を添加することも行われている。凝結調整剤としては、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムなどが用いられている。
【0003】
特許文献1には、カルシウムアルミネートと無水石膏を含む急硬セメントに、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩およびオキシカルボン酸を含有する超速硬セメント組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、カルシウムアルミネートと無水石膏を含む速硬性混和材において、若材齢(材齢3時間程度)での圧縮強度を低下させずに、可使時間を60分程度と長く確保することができ、また硬化体に斑点が発生するのを防止できると共に、注水後の混練温度が異なっても凝結時間が殆ど変化せず、凝結時間の温度依存性が小さくすることができる、混和材及びこれを用いたセメント組成物として、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる凝結調整剤の構成比を最適化すること、およびそれらの粒度分布を最適化する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、速硬性混和材を混合した超速硬セメント組成物について、3ヶ月程度の期間保存したときの凝結時間が製造直後との変化を抑え、初期強度発現性を長期間良好に維持するための技術として、カルシウムアルミネートからなるクリンカーと、凝結調整剤(無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上)とを混合粉砕して、カルシウムアルミネートの平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲にあり、凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下になるようにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平3-41420号公報
【文献】特許第3912425号公報
【文献】特許第6206614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
速硬性混和材に添加される凝結調整剤の一つであるアルミン酸ナトリウムは、カルシウムアルミネートと無水石膏を含む速硬性混和材に添加して使用した場合において初期強度を高める作用(アルカリ刺激剤としての作用効果)と、その硬化体表面に析出する白斑の防止抑制する作用(初期水和反応におけるカルシウム成分とアルミニウム成分の最適化)とを有する。しかしながら、アルミン酸ナトリウムは著しい潮解性を示し、保存中に吸湿して溶解し、その効果が失われることによって上記の作用を発揮できなくなる場合があった。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用とが高く、かつこれらの作用が長期間保存しても低下しにくい速硬性混和材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の発明者は鋭意検討を行った結果、速硬性混和材に含まれるカルシウムアルミネートとして、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上のものを用い、かつアルミン酸ナトリウムの代わりにミョウバンを加えることによって、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用を長期間保存しても高いレベルで維持することが可能となることを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
従って、本発明の速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと、無水石膏と、無機炭酸塩と、オキシカルボン酸と、ミョウバンとを含み、前記カルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であり、前記無水石膏の含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して35質量部以上65質量部以下の範囲内にあって、前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの含有量は、それぞれ前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上であって、前記無機炭酸塩、前記オキシカルボン酸および前記ミョウバンの合計含有量は、前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して10質量部以下である。
【0011】
本発明の速硬性混和材によれば、カルシウムアルミネートとして、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であるものを用いるので、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用が高くなる。また、本発明の速硬性混和材によれば、アルミン酸ナトリウムの代わりにミョウバンを用いるので、上記のセメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用が長期間保存しても低下しにくい。
【0012】
ここで、本発明の速硬性混和材においては、さらに、ケイ酸ナトリウムを前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内の量にて含むことが好ましい。
この場合、速硬性混和材はケイ酸ナトリウムを上記の範囲内で含むので、セメント組成物の初期強度を高める作用がより向上する。
【0013】
また、本発明の速硬性混和材においては、さらに、無水硫酸ナトリウムを前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内の量にて含むことが好ましい。
この場合、速硬性混和材は無水硫酸ナトリウムを上記の範囲内で含むので、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用を維持しつつ、セメント組成物の流動性を向上させる作用を高めることができる。
【0014】
さらに、本発明の速硬性混和材においては、前記ミョウバンがカリウムミョウバンであって、前記カリウムミョウバンの含有量が前記カルシウムアルミネートと前記無水石膏の合計量100質量部に対して0.2質量部以上6.0質量部以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、速硬性混和材はカリウムミョウバンを上記の範囲内で含むので、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用とがより確実に向上する。
【0015】
またさらに、本発明の速硬性混和材においては、前記ミョウバンが、無機粉末と前記ミョウバンとを質量比で20:80~80:20の範囲内で含む混合物として含まれていることが好ましい。
この場合、ミョウバンが無機粉末との混合物として含まれているので、速硬性混和材中のミョウバンが均一に分散されやすくなり、ミョウバンによる作用が得られやすくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用とを有し、その作用が長期間保存しても低下しにくい速硬性混和材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態である速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと、無水石膏と、無機炭酸塩と、オキシカルボン酸と、ミョウバンとを含む。カルシウムアルミネートと無水石膏とは、セメント組成物の硬化速度を速める速硬成分として作用する。無機炭酸塩とオキシカルボン酸とミョウバンとは、セメント組成物の凝結時間や初期強度などを調整する凝結調整成分として作用する。
【0018】
カルシウムアルミネートは、一般に、12CaO・7Al、11CaO・7Al・CaF及びCaO・Alなどの組成を有する化合物である。本実施形態で用いるカルシウムアルミネートは、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内とされている。Alに対するCaOの含有量が上記の範囲を外れると、セメント組成物の初期強度を向上させる作用や白斑の発生を防止する作用が得られにくくなるおそれがある。
【0019】
また、本実施形態で用いるカルシウムアルミネートは、ガラス化率が80%以上とされている。ガラス化率が低くなりすぎると、セメント組成物の初期強度を向上させる作用が得られにくくおそれがある。
ガラス化率は、80%以上99%以下の範囲内にあることが好ましく、特に90%以上99%以下の範囲内にあることが好ましい。
なお、上記カルシウムアルミネートのガラス化率(%)は、試料のカルシウムアルミネートのX線回折法により測定したX回折線パターンから、結晶質部分(ピーク)と非晶質部分ハローのフィッティングを行い、各積分強度を以下の式に当てはめてガラス化率を算出した値である。
ガラス化率(%)=100-(100×Ic/(Ic+Is))
Ic:結晶性散乱積分強度
Is:非結晶性散乱積分強度
【0020】
カルシウムアルミネートは、ブレーン比表面積が3000cm/g以上5500cm/g以下の範囲内にあることが好ましい。カルシウムアルミネートのブレーン比表面積が上記の範囲内にあることによって、セメント組成物の硬化速度を速めることができ、初期強度を向上させる作用が向上する。
【0021】
本実施形態で用いる無水石膏は、ブレーン比表面積が8000cm/g以上12000cm/g以下の範囲内にあることが好ましい。無水石膏のブレーン比表面積が上記の範囲内にあることによって、セメント組成物の硬化速度を速めることができ、初期強度を向上させる作用が向上する。
【0022】
無水石膏の含有量は、カルシウムアルミネートと無水石膏の合計量100質量部に対して35質量部以上65質量部以下の範囲内にある。カルシウムアルミネートと無水石膏を上記の割合で含有することによって、セメント組成物の硬化速度を速めることができ、初期強度を向上させる作用が向上する。
【0023】
本実施形態で用いる無機炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩あるいは炭酸水素塩であることが好ましい。無機炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウムが挙げられる。これらの無機炭酸塩は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本実施形態で用いるオキシカルボン酸の例としては酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸が挙げられる。これらのオキシカルボン酸は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。なお、オキシカルボン酸は塩を使用してもよい。塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩などの金属塩であることが好ましい。
【0025】
本実施形態で用いるミョウバンはアルミニウムを含有し、従来の速硬性混和材で用いられているアルミン酸ナトリウムと同様に、アルミニウム補助剤として作用する。このため、本実施形態の速硬性混和材はアルミン酸ナトリウムを実質的に含有しないことが好ましい。
【0026】
ミョウバンとしては、ナトリウムミョウバン(NaAl(SO・12HO)、カリウムミョウバン(AlK(SO・12HO)を用いることが好ましく、特に、カリウムミョウバンを用いることが好ましい。ミョウバンの平均粒子径は、1μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0027】
無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびミョウバンの含有量は、それぞれ速硬成分(カルシウムアルミネートと無水石膏)の合計量100質量部に対して0.1質量部以上であって、それらの合計含有量が、速硬成分の合計量100質量部に対して10質量部以下となる範囲内にあることが好ましい。無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびミョウバンの含有量が少なくなりすぎると、これらの成分を添加する効果が得られにくくなるおそれがある。一方、無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびミョウバンの含有量が多くなりすぎると、相対的に速硬成分の含有量が少なくなり、速硬成分の効果が得られにくくなるおそれがある。無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびミョウバンの添加効果を確実に得るためには、無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびミョウバンの含有量は、それぞれ速硬成分(カルシウムアルミネートと無水石膏)の合計量100質量部に対して0.2質量部以上6.0質量部以下の範囲内にあることが好ましい。
【0028】
本実施形態の速硬性混和材は、さらに、無水硫酸ナトリウム(無水中性芒硝)、ケイ酸ナトリウム、増量材を含んでいてもよい。
【0029】
無水硫酸ナトリウムは、水に対する溶解速度が速く、水を加えた後のセメント組成物の流動性を向上させる作用を有する。無水硫酸ナトリウムの配合量は、カルシウムアルミネートと無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
ケイ酸ナトリウムは、アルカリ度調整剤として作用し、セメント組成物の初期強度を高める作用を有する。ケイ酸ナトリウムとしては、例えば、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)、二ケイ酸ナトリウム(NaSi)、四ケイ酸ナトリウム(NaSi)を用いることができる。また、ケイ酸ナトリウムは無水物であってもよいし、水和物(例えば、NaSiO・9HO)であってもよい。ケイ酸ナトリウムの配合量は、カルシウムアルミネートと無水石膏の合計量100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲内にあることが好ましい。
【0031】
増量材としては、水が存在しない条件ではセメント組成物の硬化反応に寄与しない無機粉末を用いることができる。無機粉末の例としては、石英微粉末、石灰石微粉末、石炭灰微粉末、高炉スラグ微粉末などが挙げられる。
無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびミョウバンなどの凝結調整成分を予め増量材と混合した混合物として、速硬性混和材に含まれていることが好ましい。凝結調整成分を混合物とすることによって、保存中の圧密による固結を防止(ブロッキング防止)することができるため、速硬性混和材中の凝結調整成分が均一に分散されやすく、凝結調整成分による作用が得られやすくなる。混合物は、無機粉末と凝結調整成分とを質量比で20:80~80:20の範囲内で含むことが好ましい。
【0032】
本実施形態の速硬性混和材は、例えば、カルシウムアルミネートと、無水石膏と、無機炭酸塩と、オキシカルボン酸と、ミョウバンとを混合することによって製造することができる。混合装置としては、V型混合機、リボンミキサー、プロ-シェアミキサー等のセメント材料の混合装置として通常用いられている各種の混合装置を用いることができる。
【0033】
混合の順序としては特に制限はないが、まず、カルシウムアルミネートと無水石膏とを混合し、得られた混合物に対して、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、ミョウバン、さらに必要に応じて無水硫酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなどを加えて混合することが好ましい。無機炭酸塩、オキシカルボン酸、ミョウバンは、上記の無機粉末との混合物として加えてもよいし、カルシウムアルミネートや無水石膏と混合してもよい。
【0034】
本実施形態である速硬性混和材は、種々のセメントと組み合わせて使用することができる。セメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等が挙げられる。速硬性混和材の量は、セメントと速硬性混和材の合計量を100質量部とした場合の速硬性混和材の量として、5質量部以上50質量部以下の範囲にあることが好ましい。5質量部未満では早期材齢(若材齢)の強度発現性が低下し、50質量部を越えると製造コストが増大すると共にセメントが少なくなって長期強度の発現性が低下するおそれがある。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態の速硬性混和材によれば、カルシウムアルミネートとして、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.50以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であるものを用いるので、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用が高くなる。また、本実施形態の速硬性混和材によれば、アルミン酸ナトリウムの代わりにミョウバンを用いるので、上記のセメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用が長期間保存しても低下しにくい。
【0036】
本実施形態の速硬性混和材は、さらに無水硫酸ナトリウムを上記の範囲内で加えることによって、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用を維持しつつ、セメント組成物の流動性を向上させる作用を高めることができる。
また、本実施形態の速硬性混和材は、さらに、ケイ酸ナトリウムを上記の範囲内で加えることによって、セメント組成物の初期強度を高める作用がより向上する。
【0037】
さらに、本実施形態の速硬性混和材は、カリウムミョウバンを上記の範囲内で加えることによって、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用とがより確実に向上する。
またさらに、本実施形態の速硬性混和材は、ミョウバンを無機粉末との混合物として加えることによって、速硬性混和材中のミョウバンが均一に分散されやすくなり、ミョウバンによる作用が得られやすくなる。
さらにまた、本実施形態の速硬性混和材は、劇物であるアルミン酸ナトリウムを実質的に含まないので取り扱いや管理が容易である。
【0038】
以上、本発明の実施形態である速硬性混和材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本発明の速硬性混和材は、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、防水剤、起泡剤、消泡剤、発泡剤、鉄筋コンクリート用防錆剤、水中不分離性混和剤、保水剤、乾燥収縮低減剤、分離低減剤(増粘剤)、防凍・耐寒剤などを含んでいてもよい。また、本発明の速硬性混和材は、細骨材、粗骨材などの骨材、繊維、再乳化粉末ポリマー、シリカフュームなどの混和材料と併用することも可能である。
【実施例
【0039】
本発明の作用効果を、実施例により詳しく説明する。
本実施例において使用した使用材料の種類、組成及び略号を、下記の表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
[カルシウムアルミネート粉砕物の作製]
下記の表2に示すカルシウムアルミネートクリンカーNo.1~No.6を用意した。カルシウムアルミネートクリンカー100質量部に対して、炭酸ナトリウム(N)1.0質量部と酒石酸(Ta)0.5質量部を加えて、混合粉砕機を用いて、ブレーン比表面積が4500cm2/gとなるまで粉砕して、カルシウムアルミネート粉砕物を得た。得られたカルシウムアルミネート粉砕物CA1~CA6の作製に用いたカルシウムアルミネートクリンカーの種類、組成、ブレーン比表面積の実測値を、下記の表3に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
[本発明例A1~A3、比較例A1~A3]
(1)速硬性混和材の作製
下記の表4に示すカルシウムアルミネート粉砕物(CA1~CA6)をカルシウムアルミネート量として45質量部、無水石膏(CS)を55質量部となる割合でV型混合機に投入して10分間混合することによってカルシウムアルミネートと石膏の混合物を得た。得られた混合物100質量部に対して、カリウムミョウバン混合物(BK)を6.00質量部、メタケイ酸ナトリウム(MS1)を0.60質量部の割合で加えて、さらに10分間混合して、速硬性混和材を作製した。速硬性混和材の作製で使用したカルシウムアルミネート粉砕物の種類と、得られた速硬性混和材の組成を、下記の表4に示す。なお、表4中の炭酸ナトリウム(Na)と酒石酸(Ta)の含有量は、カルシウムアルミネート粉砕物(CA1~CA6)に含まれている量である。さらに、表4に、速硬性混和材の速硬成分(カルシウムアルミネート粉砕物と無水石膏)の合計量を100質量部としたときの、凝結調整成分(炭酸ナトリウム、酒石酸、カリウムミョウバン)の含有量を示す。
【0045】
【表4】
【0046】
(2)評価
速硬性混和材100質量部に対して、凝結調整剤(SET)6質量部、普通ポルトランドセメント(N)400質量部、細骨材(S)100質量部、再乳化粉末樹脂(P)30質量部の割合で混合してセメント組成物を作製した。得られたセメント組成物を環境温度5℃、20℃、35℃の条件下で、水粉体比45%で練り混ぜ、セメントミルクを作製し、流動性評価としてPロート流下時間を、凝結性評価として凝結時間を、強度発現性評価として材齢3時間、3日、7日で圧縮強度を測定した。また、硬化体表面の白斑発生状況を確認した。その結果を、セメント組成物の組成と共に下記の表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
Alに対するCaOの含有量およびガラス化率が本発明の範囲内にあるカルシウムアルミネートを使用した本発明例A1~3で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、環境温度5~35℃において、流動性、凝結性、強度発現性のいずれも良好で、かつ硬化体表面の白斑は認められなかった。
これに対して、Alに対するCaOの含有量が本発明の範囲を外れる比較例A1、A2で作製した速硬性混和材を使用したセメント組成物は、凝結時間の環境温度による影響が大きくなり、温度条件によって著しく短くなる場合が認められた。また、始発時間が長くなる場合に材齢3時間の圧縮強度が低くなった。また、速硬性混和材にカリウムミョウバン混合物、メタケイ酸ナトリウムを添加しても硬化体表面の白斑が認められた。白斑は、硬化体の欠陥部にもなるため、白斑が認められたものは外観が損なわれると共に、養生時間の経過による圧縮強度の上昇度が低くなった。
ガラス化率が本発明の範囲よりも低いカルシウムアルミネートを使用した比較例A3で作製したセメント組成物は、凝結時間の環境温度による影響は、比較例A1、A2と比較して小さくなったが、セメント組成物の初期強度(材齢3時間の圧縮強度)が著しく低下した。
【0049】
以上の結果から、セメント組成物の初期強度を高め、かつ白斑の発生を防止するためには、カルシウムアルミネートのAlに対するCaOの含有量とガラス化率を調整することが有効であることが確認された。
【0050】
[本発明例B1~B3、比較例B1~B3]
(1)速硬性混和材の作製
カルシウムアルミネート粉砕物(CA1)を45質量部、無水石膏(CS)を55質量部となる割合でV型混合機に投入して10分間混合することによってカルシウムアルミネート粉砕物と石膏の混合物を得た。得られた混合物100質量部に対して、カリウムミョウバン混合物(BK)、カリウムミョウバン(KM)、メタケイ酸ナトリウム(MS1、MS2)、アルミン酸ナトリウム(AL)、無水硫酸ナトリウム(NS)をそれぞれ下記の表6に示す割合で加えて、さらに10分間混合して、速硬性混和材を作製した。なお、表6中の炭酸ナトリウム(Na)と酒石酸(Ta)の含有量は、カルシウムアルミネート粉砕物(CA1)に含まれている量である。また、下記の表6に、速硬性混和材の速硬成分(カルシウムアルミネート粉砕物と無水石膏)の合計量を100質量部としたときの、凝結調整成分(炭酸ナトリウム、酒石酸、カリウムミョウバン)の含有量を示す。
【0051】
【表6】
【0052】
(2)評価
速硬性混和材100質量部に対して、凝結調整剤(SET)6質量部、普通ポルトランドセメント(N)400質量部、細骨材(S)100質量部、再乳化粉末樹脂(P)30質量部の割合で混合してセメント組成物を作製した。得られたセメント組成物を環境温度20℃の条件で、水粉体比45%で練り混ぜ、セメントミルクを作製し、流動性評価としてPロート流下時間を、凝結性評価として凝結時間を、強度発現性評価として材齢3時間、3日、7日で圧縮強度を測定した。また、硬化体表面の白斑発生状況を確認した。その結果を、セメント組成物の組成と共に下記の表7に示す。
【0053】
また、本発明例B1、B3、B11および比較例B1で作製した速硬性混和材については、袋詰めして3カ月間保存し、保存後の速硬性混和材を用いて、上記と同様にセメントミルクを作製して、Pロート流下時間、凝結時間、硬化体表面の白斑発生状況を確認した。その結果を、保存前の測定結果と共に、下記の表8に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
【表8】
【0056】
表7に示すように、カリウムミョウバンの含有量が本発明の範囲内にある本発明例B1~13で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、流動性、凝結性、強度発現性のいずれも良好で、かつ硬化体表面の白斑は認められなかった。また、メタケイ酸ナトリウムを含む本発明例B1~B10で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、初期強度(材齢3時間)が特に高くなった。また、無水硫酸ナトリウム(無水中性芒硝)を含む本発明例B13で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、特にPロート流下時間が短く、流動性が高くなった。
また、表8に示すように、本発明例B1、B3、B11で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、3ヵ月保存の流動性、凝結性のいずれも保存前と同様に良好で、かつ硬化体表面の白斑は認められなかった。
【0057】
これに対して、カリウムミョウバンの代わりにアルミン酸ナトリウムを用いた比較例B1で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、表8に示すように、保存前と比較して3ヵ月保存後の流動性は低下し、凝結時間は長くなった。さらに硬化体表面に白斑が発生した。これらは、保存中にアルミン酸ナトリウムが吸湿して溶解し、その効果が失われたためであると考えられる。
【0058】
また、カリウムミョウバンの含有量が本発明の範囲より少ない比較例B2及びカリウムミョウバンを含まない比較例B4で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、硬化体表面に白斑が発生し、外観が損なわれると共に、養生時間の経過による圧縮強度の上昇度が低くなった。
また、カリウムミョウバンの含有量が本発明の範囲より多い比較例B3で作製した速硬性混和材を用いたセメント組成物は、セメントミルクのpHが11.8と低く、始発時間が遅延し、初期強度(材齢3時間の圧縮強度)が低くなった。
【0059】
以上の結果から、セメント組成物の初期強度を高める作用と、白斑の発生を防止する作用を長期間保存しても高いレベルで維持するためには、ミョウバンを本発明の範囲で添加することが有効であることが確認された。