(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】高度反応性オレフィン機能性ポリマーを形成するための改善された方法
(51)【国際特許分類】
C08F 10/10 20060101AFI20240903BHJP
C08F 4/52 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08F10/10
C08F4/52
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020088786
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-05-19
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ エイ ディミトロフ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ジェイ セバート
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジェイ ホビン
(72)【発明者】
【氏名】カイル ネスティ
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10174138(US,B1)
【文献】米国特許第10047174(US,B1)
【文献】米国特許第10167352(US,B1)
【文献】特開2015-074785(JP,A)
【文献】特表2015-504941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/10
C08F 4/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブテン又はイソブテン含有モノマー供給原料から少なくとも50モル%のエキソオレフィン含有量を有するポリブテンを調製するための方法であって、前記イソブテン又はイソブテン含有供給原料を、ルイス塩基
で錯体化されたルイス酸触媒
である触媒錯体と、実質的に又は完全に無極性の重合媒体中で接触させる工程、及び、開始剤を用いて前記イソブテン又はイソブテン含有供給原料の重合を開始させる工程を含み、前記ルイス酸触媒は、式R’AlCl
2のルイス酸(式中、R’はヒドロカルビル基である)であり;前記ルイス塩基は、各ヒドロカルビル基が1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から独立して選択されるジヒドロカルビルエーテルであり、ここで、前記ジヒドロカルビルエーテルの一方の又は両方のヒドロカルビル基は電子吸引基で置換されており、前記開始剤は、式RXの化合物(式中、Xはハロゲン化物であり、Rは、安定的なカルボカチオンを形成することが可能なヒドロカルビル基であり、X基に対する炭素連結基Rは、第三級、ベンジル、又はアリルである)であり;前記触媒錯体は水の添加により事前活性化され、その後、事前活性化された触媒錯体はルイス酸1当量当たり
0.1から
2モル当量までのトリアルキルアルミニウム化合物と反応され、ここで、前記トリアルキルアルミニウム化合物の各アルキル基は少なくとも2つの炭素原子を有する、方法。
【請求項2】
R’が、1~12個の炭素を有するアルキル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ルイス塩基が、各ヒドロカルビル基が1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から独立して選択されるジヒドロカルビルエーテルであり、前記ジヒドロカルビルエーテルの一方又は両方のヒドロカルビル基は塩素原子で置換されている、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ルイス塩基が、各ヒドロカルビル基が1~4個の炭素原子を有するアルキル基から独立して選択されるジヒドロカルビルエーテルであり、前記ジヒドロカルビルエーテルの一方又は両方のヒドロカルビル基は塩素原子で置換されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ルイス酸及びルイス塩基が、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒又は液体芳香族溶媒から選択される溶媒中で錯体化される、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が、混合C
4~C
12直鎖状及び/若しくは分岐状炭化水素、トルエン、又はキシレンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記無極性の重合媒体が、飽和C
4炭化水素、不飽和C
4炭化水素、及びそれらの混合物から選択される、請求項1
~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記イソブテン又はイソブテン含有供給原料が、純粋なイソブテン;
20~50%のイソブテン、5%~
50%のブテン-1、
2%~
40%のブテン-2、
2%~
60%のイソブタン、
2%~
20%のn-ブタン、及び
0.5%までのブタジエンを含むC
4製油カット(パーセンテージはいずれもC
4製油カットの総質量に基づく質量パーセントである);並びに純粋なイソブテン及び前記C
4製油カットの混合物から選択される、請求項1
~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒錯体が、ルイス酸1当量当たり
0.02から
10当量までの水を添加することにより事前活性化される、請求項1
~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記
触媒錯体が、供給原料1リットル当たり
0.2mMから
200mMまでのルイス酸-ルイス塩基錯体のミリモル濃度で、前記イソブテン又はイソブテン含有供給原料と接触される、請求項1
~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
重合のプロセスが連続的に実施される、請求項1
~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリブテ
ンが、少なくとも70モル%のエキソオレフィン含有量を有する、請求項1
~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリブテ
ンが、
400ダルトンから
4000ダルトンまでの数平均分子量(Mn)を有する、請求項1
~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記トリアルキルアルミニウム化合物が、トリオクチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1
~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)水で事前活性化されているルイス酸・ルイス塩基触媒錯体、及びカチオン重合を開始することが可能なハロゲン化アルキル開始剤を使用して、実質的に又は完全に無極性の重合媒体中で、イソブテン又はイソブテン及び他のC4オレフィンを含むC4供給材料を重合することにより、少なくとも50モル%のエキソオレフィン含有量を有するポリブテンを調製するための改善された方法に関する。驚くべきことに、上記の重合反応において、事前活性触媒に対して約0.1から約1当量までのトリアルキルアルミニウムを添加すると、末端ビニリデン含有量及び分子量に有害な効果を及ぼさずに、得られるHR-PIB産物の多分散性を向上させることを見出した。
【背景技術】
【0002】
ポリブテンスクシンイミドに基づく分散剤は、世界中で潤滑油によく使われている。こうした分散剤の製造に不可欠なステップは、ポリブテンをポリブテン無水コハク酸へとマレイン化することであり、ポリブテン無水コハク酸は、ポリアミンで更にアミノ化されてスクシンイミドが生産される。マレイン化プロセスは、サーマル(thermal)又は「エン」("ene")において無水マレイン酸と円滑に反応することができる高レベルのビニリデンをポリマー末端に有するポリイソブチレン(PIB)により促進され、促進剤として塩素を必要としない。そのようなポリマーは、高度反応性PIB又はHR-PIBと名付けられており、それらにはプロセス上の、性能上の、及び環境上の利益があるため、工業的に好ましい。
【0003】
イソブチレン(IB)のカチオン重合によりHR-PIBを製造するための既存の方法では、様々なアルコール及び/又はエーテルと共にBF3触媒が使用され、純粋なIB供給材料、非常に低い温度、及びフッ素除去ステップが必要とされることが多い(非特許文献1)。そのような方法は、装置及び操業の両方の点で高価であり得る。より最近では、エーテルルイス塩基(LB)と錯体化されたAlCl3又はアルキルAlCl2ルイス酸(LA)に基づく触媒が、ハロゲン化アルキル開始剤の存在下でHR-PIBを生産する能力を示している(非特許文献2による総説を参照)。ルイス酸は、開始剤をイオン化して重合を開始させ、ルイス塩基は、ポリマーカルベニウムを、所望のオレフィンへと脱プロトン化する。LA・LB錯体の結合強度は、LA及びLBの性質並びに環境に依存する。ジクロロメタン(DCM)等の比較的極性の媒体では、EtAlCl2(EADC)及びジイソプロピルエーテルのルイス酸・ルイス塩基錯体は、高ビニリデンレベルを有するHR-PIBを生産することができる。しかしながら、C4重合反応器の無極性の全炭化水素環境では、上記の錯体は強すぎて、ルイス酸は、IBの重合開始に使用される一般的な開始剤であるt-ブチルクロリド(t-BuCl)をイオン化することができない。
【0004】
ビス-(2-クロロエチル)エーテル(CEE)の場合と同様に、ルイス塩基に電子求引基を導入することにより錯体化エネルギーを調整することにより、無極性媒体においてでさえもt-BuClの効率的なイオン化及びIB重合の開始がもたらされ、高ビニリデン含有量が依然として維持される(特許文献1)。生産される反応性ビニリデンオレフィン(エキソオレフィン)の量は、反応性がより低いオレフィンに結び付くより高度なヒンダードイオンへの異性化率に対するポリマーカルベニウムイオンの脱プロトン化率に依存する。従って、ビニリデン含有量を最大化するために、通常は、高濃度のCEE脱プロトン化剤が使用される(例えば、LA濃度の1.5~3倍)。
【0005】
しかしながら、高濃度のCEEは、t-BuCl開始剤のイオン化にはその解離が必要であるLA・CEE錯体の解離を阻害するため、IB重合率を減少させる場合がある。そのため、商業的に合理的なモノマー変換を実現するには、長期滞留時間及び大型反応器が必要とされるだろう。また、高い脱プロトン化率は、鎖成長を妨害するため、ポリマー産物の分子量(MW)を低下させる。従って、合理的な温度にてアルミニウムに基づく触媒を使用して、同時に高末端ビニリデン、高モノマー変換、及び高MWを同時に達成する手段は、当産業にとって非常に価値があるだろう。
【0006】
特許文献2には、BF3触媒を使用したIB重合中に、ジイソプロピルエーテル等の第二級アルキルエーテルと組み合わせてt-ブタノール等の第三級アルコールを添加して、得られるHR-PIBポリマーのビニリデン含有量を増強することが教示されている。しかしながら、ルイス酸-ルイス塩基錯体が強すぎて、重合が妨害されるため、このタイプのエーテルは、アルミニウムに基づく系ではうまく働かない(非特許文献3)。特許文献2には、その方法で使用される第二級アルキルエーテル対第三級アルコールの比は、0.5~1.2の範囲でなければならず、モル比が「上述の範囲よりも低いか又は高いと、末端ビニリデンの含有量が減少し、本発明の有利な効果を達成することができない」ことがさらに教示されている。しかしながら、アルミニウムに基づく系では、そのような大量の第三級アルコールは毒物として作用し、変換を、低レベルで商業的に非実用的なレベルに低減するだろう。
【0007】
特許文献3は、実質的に又は完全に無極性の重合媒体中で、電子吸引基を有するエーテルルイス塩基(LB)と錯体化されたAlCl3又はアルキルAlCl2ルイス酸(LA)を触媒として及びハロゲン化アルキル開始剤を使用して、イソブテン又はイソブテン及び他のC4オレフィンを含むC4供給材料を重合することによりポリブテンを調製するための重合方法では、第三級アルコールの存在は、比較的少量で使用されると、それに伴う分子量の低減を引き起こさずに、得られるポリブテン産物の末端ビニリデンの含有量を増加させることになることを教示する。
【0008】
特許文献4及び特許文献5は、実質的に又は完全に無極性の重合媒体中で(並びにモノマー供給材料の酸素化不純物の存在下及び非存在下の両方において)、電子吸引基を有するエーテルルイス塩基(LB)と錯体化されたAlCl3又はアルキルAlCl2ルイス酸(LA)を触媒として及びハロゲン化アルキル開始剤を使用して、イソブテン又はイソブテン及び他のC4オレフィンを含むC4供給材料を重合することによりポリブテンを調製するための重合方法では、少量の水で触媒を事前活性化することにより、特に連続撹拌槽型反応器(CSTR)を使用して実施される連続反応等の連続反応を使用すると、HR-PIBの定常状態及び高収率が可能になることを教示する。
【0009】
しかしながら、水で事前活性化された触媒を使用した連続工程に由来するHR-PIBは、約3以上という比較的高い多分散性指数(PDI)を示す傾向があったことが見出された。この値は、BF3触媒を使用したイソブチレン(IB)のカチオン重合により生産される市販HR-PIBのPDIよりもかなり高い値である。PDI値は、反応中に混合を増加させることによっても又は反応温度若しくは圧力を修正することによっても著しくは改善されなかったことが見出された。これは、PDI上昇が特定の触媒系化学と関連していたことを示す。
【0010】
分散剤を形成するために使用されるHR-PIBのPDIの増加は、そのような分散剤を用いて調合される添加剤パッケージ及び潤滑剤の粘度の増加をもたらす場合があり、これは、特に、燃料経済性性能の向上を提供するより低粘度の潤滑油組成物が求められる傾向のある産業では大きな欠点である。エチルアルミニウムジクロリド(EADC)と共に混合エーテルを使用してHR-PIB PDIを制御するための方法は、以前に報告されている(非特許文献4)。しかしながら、その方法により得られる最も低いPDIは2.4だった。この値は、1.8~2.2の業界基準値よりも依然として高いままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第9,156,924号明細書
【文献】米国特許第7,411,104号明細書
【文献】米国特許第10,174,138号明細書
【文献】米国特許第10,047,174号明細書
【文献】米国特許第10,167,352号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】Machら、Lubr.Sci.、1999年、11巻(2号)175~185頁
【文献】Kostjuk、RSC Adv.、2015年、5巻、13125~13144頁
【文献】Macromolecules、2014年、47巻、1959~1965年
【文献】Kostjukら、Polymer、99巻、2015年、633~641頁
【発明の概要】
【0013】
本発明の実施に有用なルイス酸としては、式R’AlCl2のルイス酸が挙げられ、式中、R’は、ヒドロカルビル基、好ましくは1~12個の炭素原子を有するヒドロカルビル基、より好ましくは1~12個の炭素を有するアルキル基である。本明細書で使用される場合、用語「ヒドロカルビル」は、水素原子及び炭素原子を含み、炭素原子を介して化合物の残部に直接的に結合されている化合物の化学基を意味する。上記基は、炭素及び水素以外の1つ又は複数の原子(「ヘテロ原子」)を含んでいてもよく、但しそのようなヘテロ原子は、上記基のヒドロカルビル性質に本質的な影響を及ぼさない。
【0014】
有用なルイス塩基は、各ヒドロカルビル基が、1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から独立して選択されるジヒドロカルビルエーテルである。上記エーテルのヒドロカルビル基は、分岐状、直鎖状、又は環状であってもよい。上記エーテルのヒドロカルビル基が分岐状又は直鎖状である場合、ヒドロカルビル基は、好ましくはアルキル基、より好ましくは1~4個の炭素原子を有するアルキル基である。ジヒドロカルビルエーテルの一方の又は両方のヒドロカルビル基は、電子吸引基、特にハロゲン原子、好ましくは塩素原子で置換されている。
【0015】
ルイス酸及びルイス塩基は、例えば、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、及びキシレン等の液体無極性非ハロゲン化脂肪族及び液体芳香族から選択される溶媒にルイス酸を溶解して溶液を形成し、次いでその溶液を撹拌しつつルイス塩基をその溶液に添加することにより錯体化することができる。錯体は、溶媒と共に重合媒体に添加してもよく、或いは錯体を重合媒体に添加する前に溶媒を除去してもよい。好ましくは、溶媒は、非ハロゲン化脂肪族又は芳香族溶媒であり、より好ましくはキシレン又はトルエン又は混合C4~C12直鎖状及び/若しくは分岐状炭化水素(例えば、ISOPAR(商標)、ExxonMobil Corporation社から入手可能)であり、最も好ましくはトルエン又は混合C4~C12直鎖状及び/若しくは分岐状炭化水素である。ルイス酸及びルイス塩基をキシレン又はトルエン中で錯体化させる場合、ルイス塩基をキシレン又はトルエン溶媒に溶解させて溶液を形成し、次いで溶液を撹拌しながらルイス酸をルイス塩基溶液に添加することが好ましい。
【0016】
錯体中のルイス酸対ルイス塩基のモル比は、典型的には、約1:1から約1:8まで、好ましくは約1:1から約1:8まで、より好ましくは、約1:1から約1:3まで(例えば1:1.5)等の約1:1から約1:6までの範囲内に維持されるだろう。
【0017】
事前活性化を提供するために、水をルイス酸・ルイス塩基錯体に添加してもよく、次いで供給原料と接触させる前に、それをある期間にわたって時効させる。水は、ルイス酸1当量当たり約0.02から約10までの水、好ましくは、ルイス酸1当量当たり約0.03から約0.2までの(約0.05から約0.15まで等の)水の量で、ルイス酸/ルイス塩基錯体に添加してもよい。活性化水はトルエン中の飽和溶液でルイス酸・ルイス塩基錯体に導入してもよく、それは、室温で行ってもよい。或いは、水は、ルイス塩基に溶解される場合、直接導入してもよい。この第2の経路により、純無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒(例えば、ヘキサン)中で触媒錯体を調製することが可能になり、芳香族溶媒(例えば、トルエン)を錯体に導入する必要性が排除される。水が錯体を事前活性化することを可能にするため、好ましくは、水を添加した後、ルイス酸・ルイス塩基錯体を使用前にある期間にわたって静置させる。活性化時間は、1分間から1日間まで、好ましくは、約5分間から約60分間まで等の約2分間から約3時間までであってもよい。好ましくは、活性化中、錯体を、約-10℃から約20℃までの温度に維持してもよい。
【0018】
本発明によると、次いで、水で処理され事前活性化された触媒錯体を、ルイス酸1当量当たり、約0.1から約2モル当量までの、好ましくは約0.2から約1.5モル当量までの、より好ましくは約0.3から約1.0モル当量までのトリアルキルアルミニウム(R’’3Al、式中R’’は、2個以上の炭素原子を有するアルキル基である)と反応させる。好適なトリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリオクチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、及びトリエチルアルミニウムが挙げられる。
【0019】
いかなる特定の理論にも束縛されることは望まないが、触媒錯体に水を添加することにより、R’AlCl2ルイス酸の部分が、対応するクロロアルミニウムオキサン(CAO)に変換され、それにより活性の向上がもたらされるが、モノマー供給材料への溶解性が低減され(それは、HR-PIB産物のPDI増加をもたらす場合がある)、事前活性化触媒錯体の溶解性は、トリアルキルアルミニウムとの反応により回復される(PDIの低減がもたらされる)と考えられる。2つの考え得る反応スキームを下記に示す。両方において、ルイス酸はEtAlCl2(EADC)であり、ルイス塩基は塩素化ジヒドロカルビルエーテル(CEE)である。スキーム1では、水は、ルイス酸・ルイス塩基錯体の形成後に、トルエン中の飽和溶液で添加される。スキーム2では、水は、直接導入され、ヘキサン中のルイス塩基に溶解された。
スキーム1
【0020】
【0021】
【0022】
「開始剤」は、付随的な水の存在下又は非存在下で並びにプロトントラップの存在下で重合を開始することができる化合物であると定義される。本発明の開始剤(RX)は、ヒドロカルビルR基、好ましくはアルキル基又はアリール-アルキル基を含み、Xに対する炭素連結基Rは、第三級、ベンジル、又はアリルであり、好ましくは第三級であり、ヒドロカルビル基は、安定的なカルボカチオン(例えば、t-ブチル+)を形成することができ、X基は、ハロゲン化物であり、好ましくは塩素である。
【0023】
重合媒体は、飽和又は不飽和C4炭化水素の混合物等の、実質的に又は完全に無極性の重合媒体でなければならない。
【0024】
本発明の重合方法では、供給原料は、純粋なイソブチレンであってもよく、又は例えばナフサの熱分解又は触媒分解操作に起因するC4カット等の、イソブチレンを含む混合C4ヒドロカルビル供給原料であってもよい。従って、好適な供給原料は、典型的には、少なくとも10質量%及び最大100質量%のイソブチレンを含むだろう(例えば、供給材料の総質量に基づいて20~50%)。イソブチレンに加えて、工業的に重要な供給原料としての使用に好適な従来のC4カットは、典型的には、約5%~約50%のブテン-1、約2%~約40%のブテン-2、約2%~約60%のイソブタン、約2%~約20%のn-ブタン、及び約0.5%までのブタジエンを含み、ここでパーセンテージはいずれも総供給材料質量に基づく質量パーセントである。また、イソブチレンを含む供給原料は、少量の、例えば典型的には10%未満の、好ましくは約5%未満の、及び最も好ましくは1%未満の、プロパジエン、プロピレン、及びC5オレフィン等の他の非C4重合性オレフィンモノマーを含んでいてもよい。供給原料は、アセトン、メタノール、アセトニトリル、プロピオン酸等の種々の極性供給材料不純物を含んでいてもよいが、好ましくは、供給原料は、4ppm未満又は3ppm未満又は2ppm未満又は1ppm未満又は0.5ppm未満等の、5ppm未満の極性不純物を含むように精製されるだろう。
【0025】
用語「ポリブテン」は、本明細書で使用される場合、イソブチレンのホモポリマーだけでなく、イソブチレンと、従来のC
4カットの1つ又は複数の他のC
4重合性モノマー並びに5個の炭素原子を含む非C
4エチレン性不飽和オレフィンモノマーとのコポリマーも含むことが意図されている。但し、そのようなコポリマーは、ポリマー数平均分子量
に基づいて、典型的には、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも65質量%、及び最も好ましくは少なくとも80質量%のイソブチレンユニットを含む。
【0026】
本発明の方法で使用されるルイス酸・ルイス塩基錯体の量を、開始剤及びモノマーの濃度、反応時間、並びに温度と共に制御して、ポリブテンポリマー産物の目的
イソブテンの変換、及びポリブテンの収率を達成することができる。上記に照らして、ルイス酸・ルイス塩基錯体は、典型的には、液相反応混合物中でブテンモノマーと接触するのに十分な量で使用され、反応混合物1リットル当たりのルイス酸・ルイス塩基錯体のミリモル濃度は、約1mMから約200mMまで等の約0.2mMから約200mMまで、好ましくは約5mMから約100mMまで、及びより好ましくは10mMから約30mMまで等の約10mMから約50mMまである。
【0027】
開始剤は、典型的には、ルイス酸・ルイス塩基錯体の量とは無関係に、約1mMから約500mMまで、好ましくは約2mMから約300mMまで、及びより好ましくは約10mMから約30mMまで等の約2mMから約200mMまでの、媒体1リットル当たりの開始剤のミリモル濃度で、イソブテンモノマーを含む液相反応混合物中で使用される。
【0028】
重合反応は、バッチ工程又は連続工程として実施することができる。工業規模では、重合反応は、好ましくは連続的に実施される。連続工程は、管型反応器、管束反応器、若しくはループ型反応器、又は反応材料が連続的に循環する管型若しくは管束反応器、又は撹拌槽型反応器(ガラス、炭素鋼、又はモネルが好ましい)、ポンプアラウンドループ(pump around loop)、プラグ流反応器(plugged flow reactor)、又はそれらの組合せで実施することができる。
【0029】
重合反応は、環形成又は分岐形成ではなく、直鎖状又は鎖状重合を誘導するように液相で実施される。従って、周囲温度下でガス状である供給材料を使用する場合、供給材料を液相に維持するために、反応圧力を制御すること及び/又は供給材料を不活性溶媒若しくは液体希釈剤に溶解することが好ましい。供給材料を含む典型的なC4カットは、圧力下で液体であり、溶媒又は希釈剤を必要としない。本方法での使用に好適な典型的な希釈剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、及びイソブタン等のC3~C6アルカンが挙げられる。
【0030】
ルイス酸・ルイス塩基錯体は、典型的には、溶媒に部分的に又は完全に溶解した液体として又は固体として反応器に導入される。重合は、好ましくは、反応温度でC4供給材料を液体状態に維持するのに十分な圧力で、又はより高圧で実施される。開始剤は、ルイス酸-ルイス塩基錯体と共に、液体形態でモノマー供給材料又は反応混合物に導入してもよく、又は好ましくは、ルイス酸-ルイス塩基錯体添加管とは別の管により液体形態でモノマー供給材料又は反応混合物に導入される。
【0031】
液相反応混合物温度を、従来手段により、典型的には約-30℃から約+50℃まで、好ましくは約-10℃から約+30℃まで、より好ましくは約0℃~約+15℃等の約-5℃から約+20℃までに制御して、冷却コスト及び望ましくない副反応を最小限に抑える。
【0032】
反応器内の触媒の均一な分布を保証するために、混合により、又はバッフル板若しくは振動バッフル等の好適なバッフルを用いて、又は好適な流速が確立されるように反応器管断面の寸法を決めることにより、反応器内容物の乱流(レイノルズ数>100、好ましくは>1000)を生成することができる。
【0033】
重合させようとするブテンの定常状態滞留時間は、2~約120分間等の約1から約300分間まで、好ましくは約4から約60分間まで、又は約5から約45分間まで(例えば、約6から約30分間まで)であってもよい。
【0034】
本発明の方法は、典型的には、約20%から約100%まで、好ましくは約50%から約100%まで、及びより好ましくは80%~100%、90%~100%、若しくは95%~100%等の約70%から約100%までの範囲のイソブチレン変換を達成する様式で実施される。温度制御及び触媒給送速度の組合せ使用は、約400ダルトンから約4000ダルトンまでの、好ましくは約700ダルトンから約3000ダルトンまでの、より好ましくは約1000ダルトンから約2500ダルトンまでの
典型的には約1.1から約4.0までの、好ましくは約1.5から約3.0までの分子量分布(MWD);ポリマーの総モル数に基づいて、50モル%よりも多くの、好ましくは60モル%よりも多くの、より好ましくは約80モル%から約95%まで等の70モル%よりも多くのエキソオレフィン含有量;約15モル%未満等の約20モル%未満の、好ましくは約10モル%未満の、より好ましくは約5モル%未満の四置換オレフィン含有量;及び約5モル%未満等の約10モル%未満の、好ましくは約2モル%未満の、より好ましくは約1モル%未満の塩素含有量を有するポリブテンの形成を可能にする。
【0035】
ポリマーの目的分子量が達成されたら、ポリマー産物を反応器から放出し、重合触媒を不活化し、重合を終了させる媒体に通してもよい。好適な不活化媒体としては、水、アミン、アルコール、及び苛性剤(caustic)が挙げられる。次いで、残留C4炭化水素及び低分子量オリゴマーを留去することにより、ポリイソブチレン産物を分離することができる。好ましくは、残留量の触媒を、通常は水又は苛性剤で洗浄することにより除去する。
【0036】
商業的に好ましい実施形態では(性能、環境影響、及びコストの観点から)、ルイス酸は、R’AlCl2(式中R’はC1~C4ヒドロカルビルである)、特にMeAlCl2、EtAlCl2(EADC)、iso-BuAlCl2、又はn-BuAlCl2であり、ルイス塩基は、塩素化ジヒドロカルビルエーテル(CEE)であり、溶媒は、ISOPAR又はトルエンであり、錯体は、ルイス塩基を又はルイス塩基及び水を溶媒に溶解して溶液を形成し、次いでルイス酸を、錯体中のルイス酸対ルイス塩基のモル比が約1:1から約1:1.5までになるような量でルイス塩基溶液に添加することにより形成される。
【0037】
本発明は、以下の例を参照することにより更に理解されるだろう。そのような例は、本発明の範囲内の全ての考え得る実施形態を列挙するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0038】
実施例1(比較)
エチルアルミニウムジクロリド(EADC)・塩素化ジヒドロカルビルエーテル(CEE)錯体を、N2雰囲気グローブボックス中で調製した。ヘキサン中の適正量のEADC(1M)を、1:2モル比でCEEと混合した。EADCに対して0.075当量のH2Oを含むトルエンを錯体に添加して、0.1M錯体溶液を形成した。触媒溶液を、SSシリンジポンプでCSTRに送達した。開始剤を、ヘキサン中のtBuCl溶液として別のSSシリンジポンプで送達した。40%IBを含む合成ラフィネート-1である供給材料を、CSTRに導入する前に3A及びAZ300カラムに通した。ASTM D7423により決定したところ、ラフィネート-1供給材料は、0.5ppm未満の極性(酸素化)不純物を有していた。3回の20分間の滞留時間後に11%のIB最終定常状態濃度に達する前の、試薬の初期濃度は、[H2O]=0.73mM、[EADC]=0.01M、[CEE]=0.02M、[tBuCl]=0.02Mだった。反応器中での混合は、1000rpmで回転するインペラーにより提供された。反応器中の圧力を50psigに維持し、重合温度は4℃だった。反応混合物を、CSTR出口でイソプロパノール/水(80/20、容積/容積)の混合物により4℃で反応停止した。72%のモノマー変換が観察された。得られたHR PIB産物は、Mn(GPC)=1600、PDI=2.72を示した。74%のエキソオレフィン官能性が13C NMRにより決定された。
【0039】
実施例2(本発明)
実施例2は、EADCに対して0.5モル当量のトリオクチルアルミニウムを触媒に添加したことを除いて実施例1と同様に実施した。95%のモノマー変換が観察された。得られたHR PIB産物は、Mn(GPC)=1400、PDI=2.24を示した。61%のエキソオレフィン官能性が13C NMRにより決定された。
【0040】
実施例3(本発明)
実施例3は、実施例1試薬濃度を用いて20分間のミニバッチ運転で実施した。EADC・CEEは1:1.5だった。ヘキサン中8%イソブチレンの供給材料を使用した。[tBuCl]=0.01M。触媒錯体をトルエン中で調製し、0.1当量の水で触媒錯体を事前活性化した後に、EADCに対して1.0当量のトリオクチルアルミニウムを添加した。59%のモノマー変換が観察された。得られたHR PIB産物は、Mn(GPC)=1300、PDI=2.29を示した。65%のエキソオレフィン官能性が13C NMRにより決定された。
【0041】
実施例4(本発明)
実施例4は、0.5当量のトリオクチルアルミニウムが使用されたこと以外は、実施例3の試薬濃度を用いて実施した。53%のモノマー変換が観察された。得られたHR PIB産物は、Mn(GPC)=1600、PDI=2.40を示した。73%のエキソオレフィン官能性が13C NMRにより決定された。
【0042】
実施例5(比較)
実施例5は、実施例3と同じ様式で実施したが、トリオクチルアルミニウムは添加しなかった。100%のIB変換が観察された。得られたHR PIB産物は、Mn(GPC)=937、PDI=3.92を示した。74%のエキソオレフィン官能性が13C NMRにより決定された。
【0043】
実施例6(本発明)
実施例6は、トリオクチルアルミニウムの代わりに、EADCに対して1.0モル当量のトリイソブチルアルミニウムを添加したことを除いて実施例3と同じ様式で実施した。31%のIB変換が観察された。最終HR PIB産物は、Mn=1000、PDI=1.95を示した。85%のエキソオレフィン官能性が13C NMRにより決定された。
【0044】
実施例7(本発明)
実施例7は、触媒錯体の調製中にヘキサンが使用されたこと以外は実施例3と同じ様式で実施した。水(1μL、EADCに対して0.05当量)を、176μLのCEEに添加し、混合した。次いで、8.5mLのヘキサンを添加し、続いて1mLの1M EADCを添加した。次いで、0.25当量(EADCに対して)のトリオクチルアルミニウムを添加した。58%のIB変換が観察された。最終HR PIB産物は、Mn=1560、PDI=2.28を示した。81%のエキソオレフィン官能性が13C NMRにより決定された。
【0045】
本発明を説明するために特定の代表的な実施形態及び詳細が提供されているものの、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱せずに、本明細書で開示されたものからの種々の産物及び工程変化をなすことができることは明白である。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲において定義される。
【0046】
引用された特許、試験手順、優先権書類、及び他の引用文献は全て、そのような資料が、本明細書と矛盾しない程度まで、及び参照によるそのような組込みが許容される全ての管轄権について、参照により完全に組み込まれる。
【0047】
本発明のある特徴は、1セットの数値上限及び1セットの数値下限の点で記載されている。本明細書は、そうした両端値の任意の組合せにより形成される範囲を全て開示する。上限及び下限並びに本明細書で示される範囲及び比の両端値は、独立して組み合わせることができ、そうした両端値の全ての組合せは、別様の指定がない限り本発明の範囲内である。