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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20240903BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20240903BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M50/463 B
H01M50/46
H01M50/411
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020118609
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015634
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉野 文俊
(72)【発明者】
【氏名】竹中 忍
(72)【発明者】
【氏名】水畑 宏隆
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069764(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/040269(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M12/00-16/00
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属電極と、
前記金属電極と対向する正極と、
電解質と、
前記金属電極、前記正極および前記電解質を内包する外包体とを備える金属空気電池であって、
前記金属電極と前記正極との間には、これらの前記金属電極と前記正極との間隔を保つスペーサが設けられ、
前記スペーサは、
前記外包体の底部側に配置される底辺部、および前記底辺部に対向する上辺部を含む矩形状の外形状を有して外周部を構成する枠状部と、
前記枠状部の内側で前記金属電極および前記正極に交差する厚み方向に貫通する開口部とを有し、
前記開口部内に前記電解質を保持可能とされており、
前記上辺部は、前記外包体に内包された前記電解質を溶解した電解液の液面よりも下に位置し、当該電解質と接しており、
前記枠状部には、当該枠状部の外縁と前記開口部とに連通する連通部が少なくとも前記上辺部に複数設けられて、前記連通部に前記電解質が満たされることにより前記電解質が前記枠状部の内外に流通可能とされ
前記金属空気電池が傾けられた状態において、前記スペーサの前記上辺部に設けられた複数の前記連通部のうち少なくとも一つの前記連通部に前記電解質が満たされることを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
請求項1に記載の金属空気電池において、
前記外包体内には、前記金属電極の少なくとも一部を覆うセパレータが前記金属電極と前記スペーサとの間に設けられていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属空気電池において、
前記スペーサは前記電解質との非反応性を有する樹脂により形成されていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記連通部は、前記枠状部の前記上辺部を含む1つの辺部の長さ方向の両端部寄りにそれぞれ設けられていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記連通部は、前記枠状部の厚みに対して1/3以上の厚み分が除去された凹部、溝状部または孔部であることを特徴とする金属空気電池。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記スペーサは、前記連通部が前記金属電極側に位置するように備えられていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記正極は、空気極と充電極とを含み、
前記スペーサは、前記金属電極と前記空気極との間に配置されていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記開口部の開口面積は、前記開口部に対向する前記金属電極の一方の面の表面積の80%~100%とされたことを特徴とする金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサを有する金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、正極側で還元反応を起こし、負極側で酸化反応を起こすことによって、物質自身がもつエネルギーを直流電力に変換するものである。この種の金属空気電池について、亜鉛空気電池を例に説明すると、アルカリ性の電解液、電解液中に設けられた亜鉛電極(負極)、および、電解液と空気流路との間に設けられた空気極(正極)を備えて構成されている。亜鉛空気電池では、放電反応が進行することによって、亜鉛電極および空気極から電力を出力する。
【0003】
例えば、特許文献1には、表面にセパレータが配置され、さらに複数の開口を有する硬質構造で囲まれたアノードを有するアノード構造、および該アノード構造とともに、カソードと、液体電解質とを備える金属空気セルが開示されている。また、このセパレータは柔軟であってポリオレフィン等の材料からなることや、硬質構造とプラスチックコートされた鋼鉄のハニカム構造のメッシュを用いることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-518644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の金属空気電池では、負極と充電極の間、または負極と空気極の間を隙間なく詰めて収容した構成であって、電解液の自由な流通空間が設けられていなかった。そのため、前記電極間に存在する電解液量が少なく、例えばセパレータに含まれる電解液しか反応に利用することができない。そのため、充放電反応の繰り返しに伴って電池内の水分量が変化し、充電時には充電極側で水分量が増加し、放電時には空気極側で水分量が減少する。その結果、電解液中のイオン濃度が著しく変化し、充放電効率が低下したり、サイクル性が低下したりするという問題点があった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、充放電反応に伴うイオン濃度の変化を抑制し得て、充放電効率を高めるとともにサイクル性を高めることのできる金属空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記問題点に対して、本発明者らは、充放電が化学反応に由来し、反応物として電解液とその中のイオンを消費することで、効率的な充放電に必要な電解質が負極および正極間の反応場内に確保できていないことに着目した上で、反応場に十分な電解質を確保しうる次のような構成を具備させることを見出した。
【0008】
すなわち、前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、金属電極と、前記金属電極と対向する正極と、電解質と、前記金属電極、前記正極および前記電解質を内包する外包体とを備える金属空気電池を前提とし、前記金属電極と前記正極との間には、これらの前記金属電極と前記正極との間隔を保つスペーサが設けられ、前記スペーサは、外周部を構成する枠状部と、前記枠状部の内側で前記金属電極および前記正極に交差する厚み方向に貫通する開口部とを有し、前記開口部内に前記電解質を保持可能とされており、前記枠状部には、当該枠状部の外縁と前記開口部とに連通する連通部が設けられて、前記電解質が前記枠状部の内外に流通可能とされていることを特徴としている。
【0009】
また、前記構成を具備する金属空気電池において、より具体的には、前記スペーサは、前記外包体の底部側に配置される底辺部と、この底辺部に対向する上辺部とを含む矩形状の外形状を有し、前記連通部は少なくとも前記底辺部または前記上辺部に設けられることが好ましい。また、前記連通部は、前記枠状部の前記底辺部または前記上辺部を含む1つの辺部の長さ方向の両端部寄りにそれぞれ設けられることが好ましい。
【0010】
また、前記構成を具備する金属空気電池として、前記正極は、空気極と充電極とを含み、前記スペーサは、前記金属電極と前記空気極との間に配置されてもよい。
【0011】
このように、負極と正極との間にスペーサを介在させて電解液を反応場に確保することが可能となるので、反応によるイオン濃度の変化を緩和することができ、反応効率を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る金属空気電池によれば、充放電反応に伴うイオン濃度の変化を抑制し得て、充放電効率を高めるとともにサイクル性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る金属空気電池を模式的に示す断面図である。
図2】前記金属空気電池におけるスペーサを示す斜視図である。
図3図2のB部拡大図である。
図4】前記スペーサに1つの凹部が設けられた例を示す説明図である。
図5】前記スペーサに2つの凹部が設けられた例を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態2に係る金属空気電池におけるスペーサを示す拡大斜視図である。
図7】本発明の実施形態3に係る金属空気電池を模式的に示す断面図である。
図8】本発明の実施例に係る金属空気電池の充放電測定の結果を示すグラフである。
図9】比較例に係る金属空気電池の充放電測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る金属空気電池について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る金属空気電池1を模式的に示す断面図である。なお、説明の便宜上、図1における金属空気電池1の上下方向を矢符Sにて示し、これに直交する矢符Tを厚み方向と仮定して、以下説明する。なお、金属空気電池1の上下方向は当該方向に限定されるものではなく、どのような向きにも対応可能である。
【0016】
金属空気電池1は、外装ケースである外包体20を備え、この外包体20の内部に負極(金属電極)30および正極40が収容されて構成されている。
【0017】
外包体20は、負極30および正極40を収容する容器とされ、電解液を含めて収容して、溶着封止されている。例えば、外包体20は、電解液50が保持される有底袋状の容器であって、電解液50に対する耐食性を有する材料で構成されるものであることが好ましい。外包体20の形状としては、電解液50を溜めることができる形状であれば特に限定されず、直方体形状、または円筒形状等が挙げられる。また、外包体20の容積も特に限定されない。外包体20には空気取込口21が設けられており、撥水膜81が添設されている。
【0018】
例えば、外包体20は、耐アルカリ性に優れた熱可塑性樹脂材により形成されることが好ましく、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系の樹脂フィルム材(ラミネートフィルム)からなることが好ましい。また、外包体20は、前記樹脂フィルム材からなる単一層により構成された単層構造であるに限られず、複数層が積層された複層構造であってもよい。
【0019】
負極30は、電極活物質となる金属を含む金属電極であって、正極40および外包体20等とともに金属空気電池1を構成し、電気化学的反応によって金属が金属酸化物に変化する過程で得られる電気エネルギーを取り出す。
【0020】
負極30を構成する金属としては、負極活物質として利用可能なものであれば特に限定されず、例えば、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄、銅、コバルト、カドミウム、パラジウム等の金属;これらの金属の2種以上を含む合金;これらの金属または合金の混合物が挙げられる。中でも、金属空気電池1を構成する場合は、亜鉛、リチウム、アルミニウム、または鉄を用いれば、常温作動させることができる。また、亜鉛、鉄、アルミニウム、および銅は、取り扱い性に優れている。以上のような観点から、負極30としては、亜鉛を主成分とする亜鉛電極が特に好適に用いられる。
【0021】
負極30(アノード)の形状としては特に限定されず、例えば、平板状、棒状等が挙げられる。中でも、平板状のものが好適に用いられる。負極30の厚みは特に限定されないが、0.5mm以上、6mm以下とされることが好ましく、より好ましくは、1mm以上、4mm以下とされることである。厚みが0.5mmより小さいと電池の容量が小さくなる問題があり、厚みが6mmより大きいと負極30の層が厚くなり電解液が通りにくくなり、電池特性が低下する問題がある。
【0022】
正極40(カソード)は、負極30と対向して配置されている。これにより、電極間距離を均等かつ短くし、電極間抵抗を抑制することができる。正極40は、酸素還元能を有する酸素還元触媒、および/または、酸素発生能を有する酸素発生触媒を構成材料として含む電極である。酸素還元触媒、および/または、酸素発生触媒の材料としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン等の導電性カーボン、白金、イリジウム、ニッケルなどの金属、酸化マンガンなどの金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
金属空気電池1における、負極30と正極40との好適な組み合わせとしては、負極活物質が亜鉛であり、正極活物質が空気である組み合わせが挙げられる。この組み合わせによれば、自然発火の危険性が低く、かつ、常温作動可能な化学電池を実現することができる。
【0024】
電解液50は、外包体20の内部を満たすように保持されている。図1では図面を見やすくするために、電解液50について、ハッチングを省略して示している。電解液50は、電解質を含み、イオン導電性を有する液体とされている。
【0025】
例えば、電解液50は、溶媒に電解質が溶解したものであり、イオン伝導性を有する液体である。電解液50の種類としては、一般的な化学電池で用いられる電解液であれば特に限定されず、負極30を構成する金属の種類によって選択すればよく、水溶媒を用いた電解液(電解質水溶液)であってもよいし、有機溶媒を用いた電解液(有機電解液)であってもよい。
【0026】
負極30と電解液50との組み合わせとしては、例えば、負極30が、亜鉛、アルミニウム、鉄を主として含む場合、電解液50として、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性電解液を用いることができる。負極30がマグネシウムを主として含む場合は、電解液50として塩化ナトリウム水溶液等の中性電解液を用いることができる。負極30が、リチウム、ナトリウム、カルシウムを主として含む場合は、電解液50として酸性電解液を用いることができる。また、負極30がリチウムを主として含む場合は、電解液50として有機電解液を用いることが好ましい。
【0027】
電解液50は、ゲル化剤を含み、ゲル化されていてもよい。ゲル化剤としては、化学電池の分野で電解液をゲル化するために一般的に用いられるゲル化剤であれば特に限定されず、例えば、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩等が挙げられる。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係る金属空気電池1において、負極30と正極40との間には、これらの負極30と正極40との間隔を保つスペーサ60が設けられている。スペーサ60は、電解液50との非反応性を有する樹脂により形成されている。また、スペーサ60は、その外周部を構成する枠状部61と、枠状部61の内側で負極30および正極40に交差する厚み方向Tに貫通する開口部62とを有している。
【0029】
図2はスペーサ60を示す斜視図であり、図3図2のスペーサ60のB部拡大図である。図示するように、実施形態1において、金属空気電池1のスペーサ60は、矩形状の外形を有する枠状部61と、その内側で厚み方向Tに貫通して開口された開口部62とを有している。
【0030】
枠状部61は、例えば、負極30および正極40と同等の外形にて形成されている。枠状部61の片方の面は、負極30の少なくとも一部の領域を被覆し、かつ、枠状部61の前記片方の面と反対側の面は、正極40の少なくとも一部の領域を被覆する。これにより、少なくとも枠状部61の厚みtの分だけ、負極30と正極40とは離間される。枠状部61には、枠状部61の外縁と開口部62とに連通する連通部としての凹部63が設けられて、電解液50が枠状部61の内外に流通可能とされている。
【0031】
金属空気電池1を側面方向(厚み方向T)から見た場合における、開口部62の形状としては特に限定されず、図2に示すような矩形状とされることが好ましい。また、開口部62は、矩形状である他には、例えば、楕円形状、正方形状、長方形状、正六角形状等であってもよい。
【0032】
開口部62が円形状または楕円形状である場合、開口部62に気体(気泡)が滞留しにくい構成を実現することができる。このような気泡は、例えば、充電時に外部(充電極等)から侵入した空気(主に酸素)に起因するもの、負極30を外包体20に挿入する際に侵入した空気に起因するもの、負極30と電解液50とが接触することによって発生する気体(主に水素)に起因するもの等である。開口部62が正方形状、長方形状等の多角形状である場合には、スペーサ60における開口率をより大きくすることができる。
【0033】
図1に示すように、スペーサ60が負極30と正極40との間に配置されることで、負極30と正極40との間の厚み方向Tに電解液50が流通可能となり、開口部62内に電解液50が保持される。また、枠状部61の内側の開口部62内だけではなく、枠状部61の外側にも、外包体20との間の領域に、電解液50が保持される。スペーサ60は凹部63を備えるため、枠状部61の内側の開口部62と、枠状部61の外側とで、電解液50を相互に流通可能とすることができる。これにより、電解液50を保持した開口部62内を負極30と正極40との間の反応場とすることができる。
【0034】
図3に拡大して示すように、枠状部61の外縁と開口部62とに連通する連通部としての凹部63は、枠状部61の厚みtに対して1/3以上の厚み分が除去された溝状部とされている。この場合、枠状部61の厚みtはスペーサ60の厚みに相当し、1~10mmで形成される。厚みtが1mm未満であると、負極30と正極40との間の反応場に電解液50を十分量確保することができず、放電出力が低下するため好ましくない。厚みtが10mmを超えると、負極30と正極40との間に過剰量の電解液50が保持されることとなり、電池重量が増加するとともに、エネルギー密度の損失が大きくなることから好ましくない。エネルギー密度の損失とは、電池が行うことのできる仕事量を電池の重量で除した値をいう。
【0035】
例えば、凹部63は、枠状部61の厚みtが9mmであるとき、3mm分の厚みが除去されて溝状に形成されている。図2に示す例では、凹部63は矩形断面の凹溝状に形成されている。厚みtに対して1/3に満たない厚みの凹部63であると、外包体20内に配置されたとき、凹部63の溝形状が潰れてしまうおそれがあり、物質のやり取りが困難になることから好ましくない。
【0036】
スペーサ60において、凹部63は、上下方向Sに対して直交する水平方向に延びる枠状部61の一辺部に設けられている。例えば、図2に示すように、矩形状の枠状部61に対して、凹部63は各辺部の両端部寄りにそれぞれ設けられている。凹部63は、対向する少なくとも一組の辺部にそれぞれ設けられる。スペーサ60は、凹部63を備える辺部を、外包体20の底部側と上部側とに配置されることで、図1に示すように、少なくとも底辺部611と上辺部612とに凹部63が設けられるものとなる。
【0037】
このように凹部63が設けられることで、図1に示すように、底部側に位置する枠状部61と、上部側に位置する枠状部61にそれぞれ凹部63が配置され、上下方向Sの電解液50の流通を可能にする。したがって、外包体20内において、電解液50は下方の凹部63から枠状部61の内側に流通したり、上方の凹部63から枠状部61の内側の電解液50が流通したりして、スペーサ60の内外で、上下方向Sに電解液50を相互に流通させることが可能となる。下方の凹部63はスペーサ60の内外の電解液50の円滑な流通のために作用し、上方の凹部63は、電解液50を注液する際に、スペーサ60の内側の気体を排出するとともに開口部62に電解液50を満たすために効果的に作用する。
【0038】
凹部63は、枠状部61の1つの辺部の長さ方向の両端部寄りにそれぞれ設けられ、1つの辺部に2箇所に配置されることが好ましい。図4は、スペーサ60に1つの凹部63が設けられた例を示し、図5は、図4との比較で、スペーサ60に2つの凹部63が設けられた例を示す説明図である。これらのスペーサ60では、凹部63がスペーサ60の上辺部612に1つまたは2つ設けられた例を示している。
【0039】
図4に示すように、スペーサ60は、1つの辺部(上辺部612)に1つの凹部63が設けられた構成であると、外包体20内を電解液50で満たす際に、傾き加減によっては、枠状部61の内側に気泡(気体)Aが滞留するおそれがある。1つの凹部63が電解液50で満たされてしまうと、その凹部63から気泡Aがスペーサ60の外側へ排出されなくなるからである。
【0040】
これに対して、図5に示すように、スペーサ60の1つの辺部の両端部寄りにそれぞれ凹部63が設けられていると、傾きによっていずれか一方の凹部63が電解液50で満たされても、他方の凹部63から気泡Aを排出することが可能となる。これにより、スペーサ60の開口部62内を電解液50で満たすことが可能となり、気泡(気体)Aが滞留することを防ぐことができる。
【0041】
図1に示すように、スペーサ60は、凹部63が負極30側に位置するように備えられている。これにより、凹部63の溝形状を負極30側に開放させて設けることができる。そのため、イオン濃度が変化する負極30周辺の電解液50を、枠状部61の外部に存在する電解液50と近い場所で対流させることが可能となり、反応場となる枠状部61の内側に存在する電解液50と、枠状部61の外側に存在する電解液50との物質交換を行いやすくする作用を期待できる。
【0042】
したがって、最も好ましい形態としては、図2に示すように、スペーサ60の枠状部61には、1つの辺部にそれぞれ2つの凹部63が設けられることが好ましい。これにより、外包体20内にスペーサ60をどのような向きにでも配置することができ、凹部63によってもたらされる前記複数の作用を金属空気電池1内で確実に得ることが可能となる。
【0043】
なお、スペーサ60において、開口部62の開口面積の割合は、開口部62に対向する負極30の一方の面の表面積の80%~100%とされることが好ましい。80%未満である場合、負極30がスペーサ60に覆われる領域が大きくなり、電池反応のために有効な負極30の面積が小さくなって、電池出力が低下するおそれがある。100%を超える場合、外包体20の大きさが大きくなり、電解液50の全体量も増加し、電池重量が増大してしまうことから好ましくない。
【0044】
図1に示すように、金属空気電池1は、負極30とスペーサ60との間に、さらにセパレータ70が設けられている。例示の形態では、セパレータ70は、負極30の一方の面(正極40に対向する面)を覆っている。セパレータ70は、負極30の少なくとも一部を覆うものであればよい。セパレータ70はイオン透過性を有する。
【0045】
セパレータ70としては、例えば水酸化物イオン、金属イオン等が透過可能なものを用いることができ、また、多孔性樹脂、アニオン交換膜、不織布等で構成されるものを用いることができる。多孔性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール系材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
【0046】
セパレータ70として、金属イオンが透過しにくいものを用いれば、負極30から脱離した金属イオンが電解液50中へ拡散するのを防止することができるため、放電効率をより良好にすることができる。また、セパレータ70によって、充放電効率をより良好にすることができる。電解液50の流通を良好にする観点から、セパレータ70は親水化処理されていることが好ましい。また、セパレータ70は、耐電解液性(特に、耐アルカリ性)を有するものであることが好ましい。
【0047】
金属空気電池1は以上のような構成のスペーサ60を負極30と正極40との間に備えることで、反応場に十分量の電解液50を確保することが可能となる。反応場に存在する電解液50の絶対量を増大させることで、反応によるイオン濃度の変化を緩和することができ、反応効率を向上させることができる。これにより、従来の構成に比べて、金属空気電池1の放電出力を改善することが可能となる。また、凹部63によって、反応場となる開口部62に存在する電解液50と、反応場とはならずイオン濃度の変化が小さい枠状部61の外側の電解液50とを、スペーサ60の枠状部61の内外で流通させることができるので、イオン濃度の変化を緩和することが可能となる。
【0048】
なお、スペーサ60に設けられる連通部としての凹部63は、前記した矩形断面の溝状部であるには限られず、枠状部61の厚みtに対して1/3以上の厚み分が除去されて窪みを有する凹部または溝状部であれば、どのような形状を有していてもよい。また、枠状部61の外縁と開口部62とに連通する連通部としては、前記構成の凹部63であるに限られず、例えば、開口部62と枠状部61の外側の辺縁部とに連通して形成され、厚み方向Tに交差する方向に枠状部61を貫通して設けられた中空状の孔部(貫通穴)とされてもよい。
【0049】
(実施形態2)
以下に説明する実施形態2および3は基本構成において前記実施形態1と共通していることから、各形態に特有の構成について詳細に説明し、その他の構成については前記実施形態1と共通の符号を用いてその説明を省略する。
【0050】
前記実施形態1では、金属空気電池1のスペーサ60に凹溝状の凹部63が設けられた例を示した。凹部63は、枠状部61の厚みtに対して1/3以上の厚み分が除去された溝状部であるに限られず、枠状部61の一部が除去された孔部であってもよい。
【0051】
図6は、実施形態2に係る金属空気電池1として、スペーサ60の他の構成例を示す拡大斜視図であり、図2のスペーサ60のB部拡大図に相当する。図示するように、凹部631は、枠状部61の一部が断絶されて形成されている。すなわち、凹部631は、枠状部61の厚みtの全部が除去されて形成されている。凹部631は厚み方向Tに深さがtである凹溝とされている。
【0052】
この場合、スペーサ60には、このような凹部631と、凹溝状の凹部63との両方を備えて構成される。凹部631が枠状部61のいずれか1つの辺部に設けられることで、より効果的に電解液50を流通させることが可能となる。なお、この金属空気電池1のスペーサ60以外の他の構成は、実施形態1に共通する。
【0053】
(実施形態3)
前記実施形態1では、金属空気電池1として負極30と正極40とを備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。本発明に係る金属空気電池としては、正極40として空気極41と充電極42とを有する金属空気電池11であってもよい。図7は、実施形態3に係る金属空気電池11を模式的に示す断面図である。
【0054】
スペーサ60は、負極30と空気極41との間に配置されている。スペーサ60そのものは、前記実施形態1または前記実施形態2に示したものと同様とすることができる。なお、図7において、スペーサ60は、負極30と空気極41との間に配置されているが、スペーサ60は、負極30と充電極42との間に配置されていてもよい。
【0055】
負極30は、樹脂製の負極ケース(ケース)31に収容され、アニオン膜83を備えている。負極ケース31は、充電極42側とスペーサ60側とにそれぞれ開口32を備えている。負極ケース31は、例えば、1枚または複数枚のシート状絶縁フィルム材等を折り合わせて接合することで形成されている。
【0056】
アニオン膜83は、正極(空気極41および充電極42)と負極30の絶縁性を確保しつつ、これらの部材間でアニオンの移動を可能とし、電極間で電子伝導経路が形成されることによる短絡を防ぐ。アニオン膜83は、電池反応に関与する水酸化物イオン等のアニオンを透過する膜であり、有機物と無機物を含む。
【0057】
負極30の放電反応で生じるジンケートイオンは、電池中を充電極に拡散することで、電池の短絡不良の原因となる。アニオン膜83は、水酸化物イオンの伝導性を有しており、水酸化物イオンの透過を許容する。一方で、アニオン膜83は、ジンケートイオンの透過を抑制し、ジンケートイオンが拡散するのを阻害するものであることが好ましい。
【0058】
空気極41は、電子、水、および、酸素から水酸化物イオンを生成する電極である。空気極41は、触媒を有し、かつ金属空気電池11の放電時に正極となる。空気極41では、電解液50としてアルカリ性水溶液を使用する場合、触媒上において電解液などから供給される水と大気から供給される酸素ガスと電子とが反応して、水酸化物イオンを生成する放電反応が起こる。空気極41においては、酸素(気相)、水(液相)、電子伝導体(固相)が共存する三相界面で放電反応が進行する。
【0059】
また、空気極41は、大気に含まれる酸素ガスが拡散できるように設けられ、その表面の一部が大気に曝されるように設けられている。図7に示す形態では、外包体20の空気取込口21を介して、大気に含まれる酸素ガスが空気極41に拡散される。
【0060】
充電極42は、充電用の正極として働く多孔性の電極であり、電解液50としてアルカリ性水溶液を使用する場合、水酸化物イオンから酸素と水と電子とが生成される反応(充電反応)が起こる。つまり、充電極42においては、酸素(気相)、水(液相)、電子伝導体(固相)が共存する三相界面で充電反応が進行する。
【0061】
充電極42は、充電反応の進行により生成する酸素ガスなどのガスが拡散できるように設けられている。例えば、充電極42は外気と連通するように設けられており、充電反応により生成される酸素ガスなどのガスが排出される。
【0062】
充電極42においても、空気極41と同様に、撥水膜81が備えられてもよい。撥水膜81が配設されることにより、充電極42を介した電解液50の漏洩を抑制することができ、充電反応により生成される酸素ガスなどのガスを電解液50と分離して、外包体20の外部へ排出することが可能となる。
【0063】
このように構成される金属空気電池11においても、反応場に十分量の電解液50を確保することが可能となる。反応場に存在する電解液50の絶対量を増大させることで、反応によるイオン濃度の変化を緩和することができ、反応効率を向上させることができる。これにより、従来の構成に比べて、金属空気電池11の放電出力を改善することが可能となる。また、凹部63によって、反応場となる開口部62に存在する電解液50と、反応場とはならずイオン濃度の変化が小さい枠状部61の外側の電解液50とを、スペーサ60の枠状部61の内外で流通させることができるので、イオン濃度の変化を緩和することが可能となる。
【0064】
なお、スペーサ60を負極30と充電極42との間に配置することも可能であり、その場合には、開口部62や、凹部63を充電反応で発生した酸素ガスの排出経路とすることができる。これにより、充電反応の過電圧上昇を抑制することができる。
【0065】
以上、本実施形態に係る金属空気電池1、11によれば、負極30と正極40(41、42)との間の反応場に十分量の電解液50を確保し得て、反応によるイオン濃度の変化を緩和することができ、反応効率を向上させることができる。これにより、従来の構成に比べて、金属空気電池1、11の放電出力を改善することが可能となる。また、スペーサ60が備える凹部63、631によって、反応場の内外で電解液50を流通させることができるので、イオン濃度の変化を緩和することが可能となる。これにより、充放電反応に伴うイオン濃度の変化を抑制し得て、充放電効率を高めるとともにサイクル性を高めることが可能となる。
【0066】
(実施例)
本発明に係る金属空気電池の実施例として、図7に示した金属空気電池11の構成を備えた亜鉛空気電池を作製した。亜鉛空気電池の負極は、ZnOで1.3Ah分を金属集電体に担持させた。電解液にはアルカリ性水溶液を使用した。
【0067】
撥水膜の面積は6×6cm、充電極の反応面は5×5cm、アニオン膜は7×5.25cm、負極の反応面は5×5cm、負極ケースの開口は4.5×4.5cm、空気極の反応面は5×5cmとし、外包体を熱溶着封止して金属空気電池を作製した。
【0068】
図8および図9は、本実施例とその比較例との充放電測定の結果を示すグラフである。樹脂製のスペーサを備える本実施例(図8)に対して、当該スペーサを備えない比較例(図9)を用意し、充放電測定を行ったものである。
【0069】
充放電測定の測定条件は、電流密度が10mA/cmで深度60%とし、3回の充放電を1セットとして複数回の充放電サイクルを実施した。放電の電流密度は30mA/cmとした。図8に示すように、金属空気電池にスペーサを備えさせ、放電側の反応場に電解液を確保した場合には、30mA/cmでの電圧が1.20Vであったのに対し、図9のスペーサなしの比較例では、30mA/cmでの電圧が1.12Vであった。金属空気電池にスペーサを設けることで、30mA/cmでの電圧に0.08Vの改善が確認された。
【0070】
また、比較例では、充放電サイクルを3回(3サイクル)しか実施できなかったのに対して、本実施例では、30回(30サイクル)以上、実施することができた。特に比較例では、測定当初からクーロン効率が低く、放電を十分に行えなかったのに対し、本実施例では36サイクルまで高いクーロン効率を保つことができた。これは、本実施例がスペーサによって電解液量を十分に確保できたことで、イオン濃度の変化を抑制できたことに起因する。実施例に係る金属空気電池は、充放電反応に伴うイオン濃度の変化を抑制し得て、充放電効率を高めるとともにサイクル性を高めることが確認された。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1、11 金属空気電池
20 外包体
30 負極
31 負極ケース
40 正極
41 空気極
42 充電極
50 電解液(電解質)
60 スペーサ
61 枠状部
611 底辺部
612 上辺部
62 開口部
63、631 凹部(連通部)
70 セパレータ
81 撥水膜
83 アニオン膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9