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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46B 9/04 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A46B9/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020165347
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057213
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】今井 希絵子
(72)【発明者】
【氏名】草野 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】田淵 佳宏
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-071985(JP,A)
【文献】特開2003-144230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 1/00-17/08
A46D 1/00-99/00
A61C 17/22-17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに複数本のブラシ毛で構成された毛束が固定され、一つ乃至複数の前記毛束の先端部が全体で山形状をなす山切り部と、一つ乃至複数の前記毛束の先端部が前記植毛面に対して略平行となる平坦部と、を有する歯ブラシであって、
前記山切り部における前記毛束の前記植毛面からの突出長は、前記平坦部における前記毛束の前記植毛面からの突出長より長く、
前記山切り部における前記毛束のブラシ毛の先端部には、テーパー形状のラウンドエッジ部が形成されており、
前記ラウンドエッジ部は、前記ブラシ毛の先端からの軸方向の長さが0.15mm以上0.40mm以下であり、
前記平坦部における前記毛束のブラシ毛の先端部には、半球状の先丸部が形成されており、
前記山切り部の前記毛束において前記植毛面からの突出長が最も長い前記ブラシ毛では、前記ラウンドエッジ部における前記ブラシ毛の先端から0.05mmの部分での径方向の幅が、前記ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の20%以上80%以下であり、前記ラウンドエッジ部における前記ブラシ毛の先端から0.1mmの部分での径方向の幅が、前記ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の30%以上100%以下であることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに複数本のブラシ毛で構成された毛束が固定され、一つ乃至複数の前記毛束の先端部が全体で山形状をなす山切り部と、一つ乃至複数の前記毛束の先端部が前記植毛面に対して略平行となる平坦部と、を有する歯ブラシであって、
前記山切り部における前記毛束の前記植毛面からの突出長は、前記平坦部における前記毛束の前記植毛面からの突出長より長く、
前記山切り部における前記毛束のブラシ毛の先端部には、テーパー形状のラウンドエッジ部が形成されており、
前記ラウンドエッジ部は、前記ブラシ毛の先端からの軸方向の長さが0.15mm以上0.40mm以下であり、
前記平坦部における前記毛束のブラシ毛の先端部には、テーパー形状のテーパー部が形成されており、
前記テーパー部は、前記ブラシ毛の先端からの軸方向の長さが1mm以上であり、
前記山切り部の前記毛束において前記植毛面からの突出長が最も長い前記ブラシ毛では、前記ラウンドエッジ部における前記ブラシ毛の先端から0.05mmの部分での径方向の幅が、前記ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の20%以上80%以下であり、前記ラウンドエッジ部における前記ブラシ毛の先端から0.1mmの部分での径方向の幅が、前記ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の30%以上100%以下であることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項3】
前記山切り部における前記毛束のブラシ毛は、スパイラル毛であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の歯垢を除去する歯ブラシとして、ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに、二つ折りにした複数本のブラシ毛からなる毛束を挿入して平線で固定したものが知られている。このような歯ブラシでは、前歯、奥歯等の歯の種類や、歯面、歯間、歯頸等の歯の部位に応じた適切な刷掃を効率良く行って、歯垢を効果的に除去できるように、毛束の配置、形状やブラシ毛の先端の形状等に様々な工夫がなされている。
【0003】
特許文献1には、毛束を構成するブラシ毛として、先端にテーパー形状のテーパー部が形成されたものを採用し、複数の毛束の先端部を山切りカットすることにより、ヘッド部を側面から見たときに山形状の山切りカット部分が形成されるようにした歯ブラシに係る発明が開示されている。ここでは、毛束群を一束一山からなる山切りカット部分と二束一山からなる山切りカット部分とが形成されるようにするとともに、二束一山からなる山切りカット部分と一束一山からなる山切りカット部分との山頂の高さが異なるようにしている。これにより、毛先の歯間への進入性が高く、歯ぐきへの当たり具合と刷掃実感に優れ、しかも口腔内の隅々まで効果的に歯垢を除去することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-129683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、口腔内の歯垢を効果的に除去するためには、歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛が到達しにくい部位へブラシ毛を到達させることが重要である。そのため、ブラシ毛として、先端部から基端部に向かって深いテーパー形状が形成されたテーパー毛を使用した歯ブラシが多く開発されている。特許文献1に記載の歯ブラシでも、毛丈の高いテーパー毛ほど毛先の先鋭度を鋭くして、深いテーパー形状を形成するようにしている。
【0006】
しかし、深いテーパー形状を形成すると、歯間等への到達性は向上するものの、ブラシ毛の剛性が低下することによって毛腰が弱くなってしまう。その結果、歯面に対する清掃効果が低下してしまうだけでなく、歯間や歯頚等に対する清掃効果の点でも満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の歯ブラシは、ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに複数本のブラシ毛で構成された毛束が固定され、一つ乃至複数の前記毛束の先端部が全体で山形状をなす山切り部と、一つ乃至複数の前記毛束の先端部が前記植毛面に対して略平行となる平坦部と、を有する歯ブラシであって、前記山切り部における前記毛束の前記植毛面からの突出長は、前記平坦部における前記毛束の前記植毛面からの突出長より長く、前記山切り部における前記毛束のブラシ毛の先端部には、前記ブラシ毛の先端から0.15mm以上0.40mm以下の範囲に、先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなるラウンドエッジ部が形成されており、前記山切り部の前記毛束において前記植毛面からの突出長が最も長い前記ブラシ毛では、前記ラウンドエッジ部における前記ブラシ毛の先端から0.05mmの部分での径方向の幅が、前記ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の20%以上80%以下であり、前記ラウンドエッジ部における前記ブラシ毛の先端から0.1mmの部分での径方向の幅が、前記ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の30%以上100%以下である。
【0008】
従来から知られている先端にテーパー形状のテーパー部が形成されたブラシ毛では、テーパー部は、ブラシ毛の先端から概ね1mm以上3mm以下の範囲に形成されている。特に深いテーパー形状が形成されたものでは、ブラシ毛の先端から8mm~9mm程度の範囲に形成されているものもある。この点、上記の構成によれば、先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなるラウンドエッジ部が、ブラシ毛の先端から0.15mm以上0.40mm以下の範囲に形成されている。そのため、従来のテーパー部が形成されたブラシ毛に比べて剛性の低下が抑制されて、毛腰が低下することが抑制される。これにより、歯面や歯頚等に対する清掃効果が向上する。また、先端が半球状の先丸形状のブラシ毛や、先端が平坦なフラット形状のブラシ毛に比べて歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛が到達しにくい部位への到達性に優れている。さらに、複数の植毛孔に固定された毛束のうちの一部が全体で山形状をなす山切り部を構成している。そのため、山切り部を構成する毛束が歯列の側面形状に沿い易く、これによっても、歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛が到達し難い部分への到達性が向上する。口腔内全体の歯垢除去を効果的に行って清掃性を向上させることができる。
【0009】
なお、ラウンドエッジ部は、先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなる形状である点で、テーパー形状であるとも言える。しかし、従来から知られている先端がテーパー形状とされたブラシ毛に比べて、テーパー形状の形成範囲が短く、ブラシ毛の先端の僅かな部分に形成されている点で異なっている。先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなる部分が先端から0.15mm以上0.40mm以下の範囲に形成されたブラシ毛において、当該部分をラウンドエッジ部と言う。
【0010】
上記の構成において、前記山切り部における前記毛束のブラシ毛は、スパイラル毛であることが好ましい。
ここでスパイラル毛とは、ブラシ毛を構成するフィラメントを軸方向に捩って形成されたものを言う。ブラシ毛がスパイラル毛であることにより、ブラシ毛の側面に細かな凹凸が形成され、歯面に付着した落とし難い歯垢や、歯間、歯肉辺縁部等に残存した歯垢を効果的に除去することができる。
【0011】
上記の構成において、前記平坦部における前記毛束のブラシ毛の先端部は、先丸形状であることが好ましい。
上記の構成によれば、平坦部における毛束によって剛性を付与することができる。口腔内全体の清掃性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯ブラシによれば、口腔内全体の歯垢除去を効果的に行うことができ、清掃性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の歯ブラシのヘッド部の模式図であり、(a)は、ブラシ毛が植毛された状態のヘッド部の側面図、(b)はブラシ毛が植毛されていない状態のヘッド部の上面図。
図2】(a)は、ブラシ毛の部分拡大図、(b)はブラシ毛のラウンドエッジ部の部分拡大図。
図3】(a)はテーパー形状のブラシ毛の拡大図、(b)は先丸形状のブラシ毛の拡大部。
図4】清掃性の評価試験の結果について示す図。
図5】使用感の評価試験の結果について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の歯ブラシを具体化した一実施形態について説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、歯ブラシ1のヘッド部2の植毛面2aには、複数の植毛孔3が形成されている。植毛孔3の数、形状、配置は任意に設定可能である。本実施形態の歯ブラシ1では、22個の植毛孔3が、歯ブラシ1の長手方向に沿って7列並設されている。なお、以下では、歯ブラシ1の長手方向においてヘッド部2側を先端側、歯ブラシ1の持ち手側を基端側と言う。
【0015】
図1(a)に示すように、各植毛孔3には、合成樹脂製のフィラメントからなる複数本のブラシ毛10で構成された毛束4が固定されている。一つの毛束4を構成するブラシ毛10の本数は特に限定されない。例えば、10~20本程度とすることができる。また、毛束4の固定方法としては、例えば、複数本のブラシ毛10を二つ折りにして金属製の平線とともに植毛孔3内に挿入する方法や、植毛孔3内に熱で融着させる方法等が挙げられる。
【0016】
図1(a)に示すように、ヘッド部2を側面視したとき、ヘッド部2の先端から2、3列目に形成された植毛孔3に固定された毛束4は、毛束4の先端が全体で山形状をなす山切り部5を構成している。山切り部5は、2、3列目の毛束4の先端が全体で山型に毛切りされることにより、ヘッド部2の長手方向において2.3列目の毛束4が対向する位置を頂部とする山形状に形成されている。山切り部5の頂部はヘッド部2の短手方向に沿って延びている。山切り部5以外であって、ヘッド部2の先端から1列目、4~7列目に形成された植毛孔3に固定された毛束4は、毛束4の先端が植毛面2aに対して略平行となる平坦部6を構成している。なお、図1(b)では、山切り部5を構成する毛束4が植毛された植毛孔3を黒丸で示し、平坦部6を構成する毛束4が植毛された植毛孔3を白丸で示している。
【0017】
図1(a)に示すように、山切り部5における毛束4の植毛面2aからの突出長H1は、平坦部6における毛束4の植毛面2aからの突出長H2より長い。突出長H1は、約8.0mm以上12.0mm以下であることが好ましく、約9.0mm以上11.0mm以下であることがより好ましい。また、突出長H2は、突出長H1より約1.0mm~2.0mm程度短いことが好ましい。山切り部5が形成され、平坦部6との間にこの程度の突出長の差が形成されていることにより、歯間や歯肉辺縁部等へのブラシ毛10の到達性が向上する。
【0018】
山切り部5、平坦部6における毛束4のブラシ毛10を構成するフィラメントの材質は特に限定されず、従来公知の合成樹脂材料のものを使用することができる。合成樹脂材料としては、例えば、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等を挙げることができる。中でも、ブラシ毛10の毛腰を強くする観点から言えば、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミドやポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0019】
山切り部5、平坦部6における毛束4のブラシ毛10を構成するフィラメントの硬さは適宜設定することができる。各植毛孔3でブラシ毛10の硬さを一定にしてもよく、一部の植毛孔3でブラシ毛10の硬さを変えるようにしてもよい。例えば、山切り部5における毛束4を構成するブラシ毛10には硬めのものを使用し、平坦部6における毛束4を構成するブラシ毛10には普通のものを使用することが挙げられる。
【0020】
また、ブラシ毛10を構成するフィラメントとしては、径方向の断面形状が円形のラウンド毛を使用してもよく、軸線方向に捩られることにより径方向の断面形状が四角形のスパイラル毛を使用してもよい。また、一つの歯ブラシ1の毛束4をすべてスパイラル毛で構成してもよく、或いは、一つの歯ブラシ1の毛束4を、ラウンド毛で構成される毛束4とスパイラル毛で構成される毛束4とが混在するようにしてもよい。本実施形態の歯ブラシ1は、山切り部5における毛束4がスパイラル毛で構成され、平坦部6における毛束4がラウンド毛で構成されている。
【0021】
次に、植毛孔3に固定された毛束4を構成するブラシ毛10の先端部形状について、その作用とともに説明する。
図2(a)に示すように、山切り部5における毛束4を構成するブラシ毛10は、その先端部に、先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなるラウンドエッジ部21が形成されている。ラウンドエッジ部21は、植毛孔3に固定された毛束4の先端をグラインダー等で物理的に研磨加工することにより形成されている。ラウンドエッジ部21の軸方向の長さH3は、0.15mm以上0.40mm以下である。つまり、ラウンドエッジ部21は、ブラシ毛10の先端から0.15mm以上0.40mm以下の範囲に形成されていることになる。
【0022】
図2(b)に示すように、ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.05mmの部分での径方向の幅L1は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の20%以上80%以下の範囲であることが好ましく、31%以上60%以下の範囲であることがより好ましい。また、ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.1mmの部分での径方向の幅L2は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の35%以上100%以下の範囲であることが好ましく、49%以上87%以下の範囲であることがより好ましい。さらに、ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.15mmの部分での径方向の幅L3は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の50%以上100%以下の範囲であることが好ましく、64%以上100%以下の範囲であることがより好ましい。なお、径方向の幅とは、「ブラシ毛10の径方向断面においてその中心を通る線分の長さ」を言うものとする。つまり、径方向の断面形状が円形のラウンド毛の場合、径方向の幅は直径に相当し、径方向の断面形状が四角形のスパイラル毛の場合、径方向の幅は対角線に相当することになる。
【0023】
図3(a)及び(b)に示すように、先端にテーパー形状のテーパー部22が形成されたブラシ毛10や、先端に半球状の先丸部23が形成されたブラシ毛10が従来から知られている。以下では、ラウンドエッジ部21が形成されたブラシ毛10をラウンドエッジ毛11、テーパー部22が形成されたブラシ毛10をテーパー毛12、先丸部23が形成されたブラシ毛10を先丸毛13と言う場合がある。
【0024】
従来から知られているテーパー毛12は、ブラシ毛10として使用するフィラメントを化学的処理等することにより、その先端にテーパー部22が形成されている。このテーパー部22の軸方向の長さH4は、概ね1mm~3mm程度であり、中には、8mm~9mm程度ものもある。そのため、歯間や歯肉辺縁部等への到達性に優れるものの、毛腰が弱く清掃性に問題がある。また、先丸毛13は、剛性に優れることから歯面等の平滑な部分の清掃性に優れ、歯ブラシ1の耐久性を向上させるが、歯間や歯肉辺縁部等への到達性に問題がある。
【0025】
この点、ラウンドエッジ毛11は、その形状から、歯間や歯肉辺縁部等への到達性が良好であるだけでなく、高い清掃効果を得ることができる。これは、ラウンドエッジ部21の軸方向の長さH3が0.15mm以上0.40mm以下であることで、テーパー毛12と比べて剛性に優れていることによる。また、先丸毛13と比べて先端が鋭利なため、歯間や歯肉辺縁部等への到達性も良好である。このように、山切り部5における毛束4を構成するブラシ毛10がラウンドエッジ毛11で構成されていることにより、テーパー毛12や先丸毛13の短所をカバーし、長所をより良好なものにすることができる。
【0026】
一方、平坦部6における毛束4を構成するブラシ毛10は、先端に半球状の先丸部23が形成された先丸毛13で構成されている。これにより、毛腰が強くて剛性に優れ、歯面に対する清掃性が向上する。
【0027】
次に、本実施形態の歯ブラシ1の効果について述べる。
(1)本実施形態の歯ブラシ1は、山切り部5における毛束4のブラシ毛10の先端部に、先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなるラウンドエッジ部21が形成されている。
【0028】
そのため、先端に先丸部23が形成されたブラシ毛10や、先端が平坦なフラット形状のブラシ毛10に比べて歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛10が到達しにくい部位への到達性に優れている。また、従来のテーパー部22が形成されたブラシ毛10に比べて剛性の低下が抑制されて、毛腰が強くなる。これにより、歯面に対する清掃性が向上するとともに、歯間や歯肉辺縁部等に対する清掃性が向上する。口腔内全体の歯垢除去を効果的に行って口腔内全体の清掃性を向上させることができる。
【0029】
(2)本実施形態の歯ブラシ1は、ヘッド部2の先端から2、3列目の植毛孔3に固定された毛束4が山型の山切り部5を構成し、他の列の植毛孔3に固定された毛束4が山切り部5より突出長H2の短い平坦部6を構成している。
【0030】
そのため、山切り部5が歯列の側面形状に沿い易く、ラウンドエッジ部21が形成されたブラシ毛10が歯間や歯肉辺縁部等に到達し易い。歯ブラシ1の清掃性が向上する。
(3)本実施形態の歯ブラシ1では、山切り部5における毛束4に、先端部にラウンドエッジ部21が形成されたスパイラル毛を使用している。
【0031】
そのため、毛腰の向上と到達性の向上により、歯面や歯頚等だけでなく歯間や歯肉辺縁部等に対する清掃効果が向上する。また、スパイラル毛の周面に形成された細かな凹凸により、落とし難い歯垢も効果的に除去することができる。
【0032】
(4)本実施形態の歯ブラシ1では、平坦部6における毛束4に、先端部が先丸形状のブラシ毛10を使用している。
そのため、平坦部6における毛束4によって剛性を付与することができる。口腔内全体の清掃性を向上させることができる。
【0033】
上記実施形態は、以下のように変更することができる。なお、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて適用することができる。
・植毛孔3は、ヘッド部2の長手方向に7列形成されているものでなくてもよい。6列以下であってもよく、8列以上であってもよい。植毛孔3の数、形状、配列等は特に限定されない。
【0034】
・山切り部5の形成位置も特に限定されない。例えば、ヘッド部2の先端から3、4列目に形成されていてもよい。
・山切り部5はヘッド部2の2列の毛束4の列で形成されているものでなくてもよい。例えば、ヘッド部2の長手方向に並設された7列のうちの1列の毛束4で形成されていてもよく、3列以上の毛束4で形成されていてもよい。また、山切り部5が複数箇所に形成されていてもよい。
【0035】
・上記実施形態の歯ブラシ1は、山切り部5におけるブラシ毛10がスパイラル毛、平坦部6におけるブラシ毛10がラウンド毛としたが、これに限定されない。例えば、すべての毛束4をスパイラル毛で構成してもよく、すべての毛束4をラウンド毛で構成してもよい。また、山切り部5における毛束4として、スパイラル毛で構成された毛束4とラウンド毛構成された毛束4を混在させるようにしてもよい。
【0036】
・上記実施形態では、ブラシ毛10を構成するフィラメントとして、径方向の断面形状が円形のラウンド毛、径方向の断面形状が四角形のスパイラル毛を使用したが、使用するフィラメントの断面形状はこれに限定されない。円形や四角形以外に、例えば、半円形、半月形、三角形、五角形等の多角形が挙げられる。また、不定形等の異形であってもよい。
【0037】
図2では、ラウンドエッジ部21が、フィラメントの中心軸線に対して対称である形状として示しているが、ラウンドエッジ部21の形状はこれに限定されない。例えば、フィラメントの中心軸線に対して非対称であり、ラウンドエッジ部21の先端がフィラメントの中心軸線からずれた位置にあってもよい。すなわち、フィラメントを上から見下ろすようにしたときに、山の頂点が中心でなくてもよい。より具体的には、ラウンドエッジ部21が、ブラシ毛10の先端から0.15mm以上0.40mm以下の範囲で、先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなる形状に形成されていれば、中心軸線に対して対称のものも非対称のものも含まれる。
【0038】
・平坦部6におけるブラシ毛10が、従来から知られているテーパー形状を有するテーパー毛12で構成されていてもよい。
【実施例
【0039】
本発明の歯ブラシについて、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例欄記載の構成に限定されるものではない。
<ラウンドエッジ部21の形状の特定>
まず、ブラシ毛10の形状、硬さの異なる複数の試作品を作成して、ラウンドエッジ部21の形状、寸法を特定した。
【0040】
(試作品1)
図1(a)及び(b)に示す形状の歯ブラシ1を試作して、ラウンドエッジ部21の寸法を測定した。ヘッド部2の植毛面2aの先端から2、3列目の植毛孔3には、ナイロン610製のスパイラル毛からなる毛束4を二つ折りにして挿入して平線を嵌め込んで固定した。また、それ以外の植毛孔3には、ナイロン610製のブラシ毛10(ラウンド毛)からなる毛束を二つ折りにして挿入して平線を嵌め込んで固定した。スパイラル毛としては、幅0.178mmで硬さが普通のものを使用した。ラウンド毛としては、直径0.200mmで硬さが普通のものを使用した。スパイラル毛の充填本数は16本、ラウンド毛の充填本数は17本とした。すべての植毛孔3にブラシ毛10を植毛した後、ブラシ毛10の先端を毛切りして、図1(a)に示すような山切り部5及び平坦部6を形成した。山切り部5でのブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1は約10.0mm、平坦部6でのブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2は約8.5mmとした。
【0041】
その後、ブラシ毛10の先端にグラインダーを当てて、山切り部5のブラシ毛10の先端にラウンドエッジ部21を形成し、平坦部6のブラシ毛10の先端に先丸部23を形成した。グラインダーは、山切り部5の先端から約1.5~2.5mm程度の深さの部分に当たるように調整した。このようにして作成した歯ブラシ1を試作品1とした。
【0042】
(試作品2)
スパイラル毛として幅0.229mmで硬さが硬めのものを使用し、スパイラル毛の充填本数を10本としたこと、ラウンド毛として直径0.250mmで硬さが硬めのものを使用し、充填本数を11本としたこと以外は試作品1と同様に作成した。
【0043】
(試作品3)
ヘッド部2のすべての植毛孔3には、ナイロン610のラウンド毛からなる毛束を二つ折りにして挿入して平線を嵌め込んで固定した。ラウンド毛としては、直径0.200mmで硬さが普通のものを使用した。ヘッド部2の植毛面2aの先端から2、3列目の植毛孔3には、ラウンド毛の充填本数を17本、それ以外の植毛孔3には、ラウンド毛の充填本数は17本とした。それ以外は試作品1と同様に作成した。
【0044】
(試作品4)
ラウンド毛としてナイロン610製、直径0.250mm、硬さが硬めのものを使用した。ヘッド部2の植毛面2aの先端から2、3列目の植毛孔3には、ラウンド毛の充填本数を11本、それ以外の植毛孔3には、ラウンド毛の充填本数を11本とした。それ以外は試作品1と同様に作成した。
【0045】
(ラウンドエッジ部21の寸法測定)
試作品1~4について、山切り部5におけるブラシ毛10のラウンドエッジ部21の寸法を測定した。寸法測定には、マイクロスコープ(商品名VHX-6000、株式会社キーエンス製)を使用して、それぞれの試作品で40~60回行った。寸法測定は、ラウンドエッジ部21の先端から0.05mm、0.1mm、0.15mmのそれぞれの位置でのブラシ毛10の径方向の幅を測定した。各試作品での測定値の最大値、最小値、平均値、及び標準偏差(SD)を、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4に対する割合(%)として算出した。その結果を表1に示した。
【0046】
【表1】
表1の結果より、試作品1~4のそれぞれで、山切り部5には同程度の深さのラウンドエッジ部21が形成されていた。表1には記載していないが、試作品1、2について、ラウンドエッジ部21の深さをマイクロスコープで測定したところ、ブラシ毛10の先端から0.15mm以上0.40mm以下の範囲に形成されていた。
【0047】
ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.05mmの部分での径方向の幅L1の測定値は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の20%以上80%以下の範囲であった。ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.1mmの部分での径方向の幅L2の測定値は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の35%以上100%以下の範囲であった。ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.15mmの部分での径方向の幅L3の測定値は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の50%以上100%以下の範囲であった。なお、測定誤差によりブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の100%より大きい値が測定された部分もあるが、それらについては100%以下としている。
【0048】
また、ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の径方向の幅を平均値±SDで見ると、ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.05mmの部分での径方向の幅L1は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の31%以上60%以下の範囲であった。同様に、ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.1mmの部分での径方向の幅L2は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の49%以上87%以下の範囲であり、ラウンドエッジ部21におけるブラシ毛10の先端から0.15mmの部分での径方向の幅L3は、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅L4の64%以上100%以下の範囲であった。
【0049】
<清掃性の評価>
次に、先端にラウンドエッジ部21が形成されたブラシ毛10を有する実施例の歯ブラシ1と、先端が先丸形状、テーパー形状のブラシ毛10のみを有する比較例の歯ブラシ1とによる清掃性の評価を行った。
【0050】
(実施例1)
実施例1の歯ブラシ1として、上記試作品1として作成した歯ブラシ1を使用した。ヘッド部2の植毛面2aの先端から2、3列目の植毛孔3に、ナイロン610製、幅0.178mm、硬さが普通のスパイラル毛からなる毛束4を固定したものである。
【0051】
(実施例2)
実施例2の歯ブラシ1として、上記試作品2として作成した歯ブラシ1を使用した。ヘッド部2の植毛面2aの先端から2、3列目の植毛孔3に、ナイロン610製、幅0.229mm、硬さが硬めのスパイラル毛からなる毛束4を固定したものである。
【0052】
(比較例1)
図1(b)に示すような植毛孔3が形成されたヘッド部2を使用し、各植毛孔3に実施例1と同様のブラシ毛10を挿入して平線を嵌め込んで固定した。スパイラル毛の幅、硬さ、充填本数、及びラウンド毛の幅、硬さ、充填本数は実施例1と同様である。すべての植毛孔3にブラシ毛10を植毛した後、ブラシ毛10の先端を毛切りして全体に平坦部6を形成した。平坦部6でのブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2は約8.5mmとした。
【0053】
その後、ブラシ毛10の先端にグラインダーを当てて、平坦部6のブラシ毛10の先端にテーパー部22を形成した。グラインダーは、平坦部6の先端から約2.5~3.5mm程度の深さの部分に当たるように調整した。このようにして作成した歯ブラシ1を比較例1とした。
【0054】
(比較例2)
グラインダーの当てる位置を、平坦部6の先端から約0.5~1.5mm程度の深さの部分に調整して、平坦部6のブラシ毛10の先端に先丸部23を形成した以外は、比較例1と同様である。このようにして作成した歯ブラシ1を比較例2とした。
【0055】
(比較例3)
図1(b)に示すように植毛孔3が形成されたヘッド部2を使用し、各植毛孔3に実施例2と同様のブラシ毛10を挿入して平線を嵌め込んで固定した。スパイラル毛の幅、硬さ、充填本数、及びラウンド毛の幅、硬さ、充填本数は実施例2と同様である。すべての植毛孔3にブラシ毛10が植毛された後、ブラシ毛10の先端を毛切りして全体に平坦部6を形成した。平坦部6でのブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2は約8.5mmとした。
【0056】
平坦部6のブラシ毛10のブラインダー加工は比較例1と同様に行って、ブラシ毛10の先端にテーパー部22を形成した。このようにして作成した歯ブラシ1を比較例3とした。
【0057】
(比較例4)
グラインダーの当てる位置を、平坦部6の先端から約0.5~1.5mm程度の深さの部分に調整して、平坦部6のブラシ毛10の先端に先丸部23を形成した以外は、比較例3と同様である。このようにして作成した歯ブラシ1を比較例4とした。
【0058】
(清掃性の評価試験)
各実施例、各比較例の歯ブラシについて、清掃性の評価試験を行った。清掃性の評価試験は、顎模型に人工プラークを塗布したものを用意し、ロボットに各実施例、各比較例の歯ブラシ1を持たせた状態で、顎模型(上顎)♯26~♯23の頬側を一歯あたり2秒間、ブラッシング圧平均150g、ストローク20mm、スピード150rpm相当でブラッシングさせることで行った。ブラッシング後、歯面全体、歯間、歯頚のそれぞれにおける人工プラークの除去割合(%)を算出した。その結果を表2、図4に示した。
【0059】
【表2】
表2及び図4より、山切り部5のブラシ毛10の先端にラウンドエッジ部21が形成された実施例1は、全体が平坦部6で構成され、ブラシ毛10の先端がテーパー形状とされた比較例1や、全体が平坦部6で構成され、ブラシ毛10の先端が先丸形状とされた比較例2に比べて、歯間の清掃性が高く、口腔内全体の清掃性も高くなる傾向が見られた。特に、実施例1の歯間の清掃性は、先端が先丸形状の比較例2に比べて顕著に高かった。
【0060】
ブラシ毛10として硬めのものを使用した実施例2、比較例3、4の比較でも、実施例1、比較例1、2と同様の傾向が見られた。清掃性の評価試験の全体の傾向を見ると、ブラシ毛10の硬さが普通である実施例1のほうが、硬めの実施例2より清掃性の評価が概ね高かった。これは、ブラシ毛10の硬さが普通の方がブラシ毛10のしなりが良好であり、その分歯間への挿入性が向上して全体的に清掃性が良好になるものと考えられる。
【0061】
(使用感の評価試験)
先端にラウンドエッジ部21が形成された実施例1、先端が先丸形状の比較例2の歯ブラシ1について、使用感の評価試験を行った。使用感の評価試験は、「歯面の清掃性」、「歯間の清掃性」、「山切り部の挿入感」、「山切り部の硬さ」、「清掃実感」の5項目について、1~7のスコアのどれに当てはまるかについて官能評価で行った。スコアは「7」に近づくほど優れている評価となる。その結果を、表3、図5に示した。
【0062】
【表3】
表3及び図5より、山切り部5のブラシ毛10の先端にラウンドエッジ部21が形成された実施例1は、全体が平坦部6で構成され、ブラシ毛10の先端が先丸形状とされた比較例2と比較した場合、すべての評価において同等であった。ラウンドエッジ部21が形成されることにより、先丸形状に比べてブラシ毛10の先端部が鋭利になっているが、それに起因する使用感の低下はほとんどないと考えられる。
【符号の説明】
【0063】
H1、H2…突出長
L1、L2、L3、L4…幅
1…歯ブラシ
2…ヘッド部
2a…植毛面
3…植毛孔
4…毛束
5…山切り部
6…平坦部
10…ブラシ毛
21…ラウンドエッジ部
図1
図2
図3
図4
図5