(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ソイルセメント地中連続壁施工法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20240903BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
E02D5/20 102
E02D3/12 102
(21)【出願番号】P 2020167581
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597057254
【氏名又は名称】有限会社マグマ
(73)【特許権者】
【識別番号】503099293
【氏名又は名称】株式会社丸山工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】赤木 寛一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 義正
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝敏
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6466101(JP,B2)
【文献】特開2008-057117(JP,A)
【文献】特許第5513182(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単軸又は多軸の柱列式施工機の先端部から、非硬化性注入材を吐出しつつ掘削を行い、掘削土と前記非硬化性注入材の混合土からなる掘削領域を造成する掘削工程と、
前記掘削工程の後に、水平多軸式施工機の先端部から固化材スラリーを吐出し、
前記掘削領域の混合土と混練、固化させて、固化領域を造成する固化工程を有するソイルセメント地中連続壁工法であって、
前記掘削工程により
前記掘削領域を造成した後、該掘削領域に対して前記固化工程を行い固化領域を造成するのと同時に、該固化領域から、前記水平多軸式施工機の掘削幅を基準とした所定の間隔の未施工領域を設けて
、新たに前記掘削工程により掘削領域を造成し、
前記未施工領域と隣接する
該掘削領域に対して前記固化工程を行い固化領域とした後、該固化領域に隣接する前記未施工領域に対して、前記掘削工程及び前記固化工程を行うことを特徴とするソイルセメント地中連続壁施工法。
【請求項2】
前記水平多軸式施工機の掘削幅を基準とした間隔W’が、水平多軸式施工機の掘削幅をW、ラップ長をLoとしたときに、W’=W-Lo(Loは0を含む)で表されることを特徴とする請求項1に記載のソイルセメント地中連続壁施工法。
【請求項3】
前記固化工程
において、固化材スラリーを吐出した後も、芯材を挿入することが可能である固化状態である場合に、前記固化領域に芯材を挿入する芯材挿入工程を有することを特徴とする請求項1又2に記載のソイルセメント地中連続壁施工法。
【請求項4】
前記非硬化性注入材として気泡又は気泡と水を使用することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のソイルセメント地中連続壁施工法。
【請求項5】
前記気泡の添加量を、TF値が150~220mmの範囲となるように調整することを特徴とする請求項4に記載のソイルセメント地中連続壁施工法。
【請求項6】
前記非硬化性注入材として、水を吸収し膨張した膨潤吸水ポリマー又は水を吸収して膨潤した膨潤ポリマーに水を添加した膨潤吸水ポリマー分散液を使用することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のソイルセメント地中連続壁施工法。
【請求項7】
前記固化材スラリーに消泡剤を配合したことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のソイルセメント地中連続壁施工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント地中連続壁施工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、土留壁や汚染物質拡散防止用止水壁の施工法としてソイルセメント地中連続壁施工法が知られている。
【0003】
このソイルセメント地中連続壁施工法は、オーガー撹拌施工機等のソイルセメント施工機を用いて施工する工法であり、その施工方法は、まず、掘削工程としてソイルセメント施工機の移動、設置決めを行い、ソイルセメント施工機の先端部より掘削用注入材としてのセメントミルクを添加しながら、掘削土とセメントミルクの混合土を造成し、この混合土により溝壁の安定性を保たせるとともに、適切な流動性を持たせつつ掘削底まで掘削を行う。
【0004】
次に、固化工程として、掘削底まで掘削を行ったソイルセメント施工機により、掘削工程で造成した混合土に対して、固化材としてのセメントミルクを適量添加しつつ混合・撹拌しながら引き上げて、次工程の芯材の挿入に適した軟らかさのソイルセメントを造成する。そして芯材挿入工程として、クローラークレーン等を用いてそのソイルセメント中にH鋼等の芯材を挿入する。
【0005】
このように、従来のソイルセメント地中連続壁施工法は、掘削工程、固化工程及び芯材挿入工程の3工程を1組とし、この順序で各工程の間隔を置かずに繰り返し施工することにより連続した固化壁体を構築している。
【0006】
一方、上記ソイルセメント地中連続壁の構築を行うために用いる施工機械には、柱列式、水平多軸式、カッターチェイン式等々があり、これらの施工機は、掘削施工性能、混合性能、土質適用性、壁厚対応性、深施工性等、各々特有の性能を有している。そして、施工計画においては、施工するソイルセメント連続壁の要求特性に応じて、使用する施工機の特性を考慮し、選択して単独で用いている。
【0007】
上記の掘削工程、固化工程及び芯材挿入工程の3工程を1組として各工程の間隔を置かずに施工する主な理由は以下の制約による。まず、掘削工程において、掘削注入材としてセメントミルクを使用するため、掘削開始からセメントの水和反応が始まる。そのため、ソイルセメントが硬化するまでに芯材の挿入を終了させる必要があり、セメントの水和反応という時間的な制約がある。
【0008】
また、深いソイルセメント地中連続壁を施工する場合には、掘削工程にかかる時間が長くなるため、芯材の挿入時にはセメントミルクの水和反応が進み、芯材の挿入が困難になることがある。また、掘削時に障害物等が存在した場合には、予定の掘削工程終了時間を超過し、芯材の挿入ができなくなるといった問題がある。
【0009】
さらに、掘削工程と固化工程をソイルセメント施工機により行った後、芯材挿入工程を芯材挿入用クレーンを用いて行うが、ソイルセメント施工機及び芯材挿入用クレーンの2種類の施工機械を1組の編成とし使用することも、上記3工程を1組としなければならない理由として挙げられる。
【0010】
このように、従来のソイルセメント地中連続壁施工法では、上記の施工機械の制約により、掘削工程の作業中に、固化工程、芯材挿入工程の施工ができない状態であり、固化工程中には芯材挿入工程、掘削工程の施工ができず、芯材挿入工程中には掘削工程、固化工程の施工ができない。即ち、3工程中の1工程の施工中には他の2工程の施工はできないため、施工機械の稼働率が悪くなり、その結果、著しく施工効率が悪くなるという問題があった。
【0011】
このような問題に対し、本出願人はこれまでに、2台の施工機械を同時並行で使用することにより、施工効率の向上、施工費の低減を目的とした施工方法を提案している。例えば、特許文献1及び特許文献2の提案では、2台の施工機械を同時並行的に使用し、先行する施工機1は原地盤を掘削しつつ非硬化性の気泡を注入して気泡混合土を造成し、後行の施工機で気泡混合土に固化材スラリーを添加しつつ混合、混練して固化土を造成するようにしている。また、これらの提案では、気泡混合土と固化材スラリーを混合する隣接部において、混合の品質を向上させるために隔壁の使用や芯材を隔壁として使用するようにしている。
【0012】
また、特許文献3の提案では、先行する施工機により掘削時に気泡と少量の固化材スラリーを添加混合し、気泡混合土を軽度に固化させている。そして、後行の施工機械により軽度に固化した気泡混合土を掘削しつつ、固化材スラリーをさらに添加して混合するときに、気泡混合土が自立することを利用して、境界部の品質を良好に保っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第5513182号公報
【文献】特許第6466101号公報
【文献】特開2019-15022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の提案によれば、掘削工程と固化工程を各々の施工に適した施工機を用いて行うことにより、従来の単一の施工機により掘削工程、固化工程を行うソイルセメント地中連続壁施工法に比べて、固化壁の品質を向上させるとともに、工期の短縮が実現できる点で優れた工法である。しかしながら、近年、さらなる高品質なソイルセメント地中連続壁の施工と工期短縮が望まれている。
【0015】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、ソイルセメント連続壁の品質を向上させるとともに、施工性を向上させることにより施工コストを低く抑えることが可能なソイルセメント地中連続壁施工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
第1に、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法は、単軸又は多軸の柱列式施工機の先端部から、非硬化性注入材を吐出しつつ掘削を行い、掘削土と前記非硬化性注入材の混合土からなる掘削領域を造成する掘削工程と、
前記掘削工程の後に、水平多軸式施工機の先端部から固化材スラリーを吐出し、前記混合土領域の混合土と混練、固化させて、固化領域を造成する固化工程を有するソイルセメント地中連続壁工法であって、
前記掘削工程により、前記水平多軸式施工機の掘削幅を基準とした所定の間隔の未施工領域を設けて混合土領域を造成し、
前記未施工領域と隣接する混合土領域に対して前記固化工程を行い固化領域とした後、該固化領域に隣接する前記未施工領域に対して、前記掘削工程及び前記固化工程を行うことを特徴とする。
第2に、前記第1の発明のソイルセメント地中連続壁施工法において、前記水平多軸式施工機の掘削幅を基準とした間隔W’が、水平多軸式施工機の掘削幅をW、ラップ長をLoとしたときに、W’=W-Lo(Loは0を含む)で表されることが好ましい。
第3に、前記第1又は第2の発明のソイルセメント地中連続壁施工法において、前記固化工程の後に、前記固化領域に芯材を挿入する芯材挿入工程を有することが好ましい。
第4に、前記第1から第3の発明のソイルセメント地中連続壁施工法において、前記非硬化性注入材として気泡又は気泡と水を使用することが好ましい。
第5に、前記第4の発明のソイルセメント地中連続壁施工法において、前記気泡の添加量を、TF値が150~220mmの範囲となるように調整することが好ましい。
第6に、前記第1から第5の発明のソイルセメント地中連続壁施工法において、前記非硬化性注入材として、水を吸収し膨張した膨潤吸水ポリマー又は水を吸収して膨潤した膨潤ポリマーに水を添加した膨潤吸水ポリマー分散液を使用することが好ましい。
第7に、前記第1から第6の発明のソイルセメント地中連続壁施工法において、前記固化材スラリーに消泡剤を配合したことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のソイルセメント地中連続壁施工法によれば、特定の順序で、施工能力の異なる柱列式施工機と水平多軸式施工機の2台のソイルセメント施工機を同時並行で使用し、各々の施工能力を最大限に発揮させることにより、ソイルセメント地中連続壁の品質を向上させるとともに、施工単価を安価にすることが可能となる。また、掘削施工時に微小な気泡を掘削土と混合し、非硬化性の気泡混合土壁を造成することにより、2台の施工機の並行作業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の施工工程の概略断面図(1)及び概略平面図(2)であり、(A)は掘削工程、(B)は固化工程、(C)は芯材挿入工程を示している。
【
図2】含水比(W:10~25%)の砂質土における気泡添加率とTF値の関係を示したグラフである。
【
図3】本発明の他の実施形態の施工工程の概略断面図(1)及び概略平面図(2)であり、(A)は掘削工程、(B)は固化工程、(C)は芯材挿入工程を示している。
【
図4】未施工領域と水平多軸式施工機の掘削幅が重なる部分を示す概略説明図である
【
図5】本発明の施工方法の進行の概要を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のソイルセメント地中連続壁施工法は、単軸又は多軸の柱列式施工機の先端部から非硬化性注入材を吐出しつつ掘削を行い、掘削土と非硬化性注入材の混合土による掘削領域を造成する掘削工程と、該掘削工程の後に、水平多軸式施工機の先端部から、固化材スラリーを吐出・混練しつつ掘削と同時に固化させる固化工程を有している。
【0020】
そして、掘削工程により、水平多軸式施工機の掘削幅を基準とした所定の間隔の未施工領域を設けて混合土領域を造成し、未施工領域と隣接する混合土領域に対して固化工程を行い固化領域とした後、該固化領域に隣接する未施工領域に対して掘削工程及び前記固化工程を行うことを特徴としている。
【0021】
以下に、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明の施工工程の概略断面図(1)及び概略平面図(2)を示しており、(A)は掘削工程、(B)は固化工程、(C)は芯材挿入工程を示している。
【0022】
<掘削工程>
本実施形態のソイルセメント地中連続壁施工法の手順は、まず、施工対象の原地盤に対して、単軸又は多軸の柱列式施工機1を用いて、その先端部より非硬化性の注入材を添加しつつ掘削を行い、掘削土と混合土からなる掘削領域11を造成する。
【0023】
掘削工程を施工する単軸又は多軸の柱列式施工機1は、次工程の固化工程を施工する水平多軸式施工機2よりも掘削能力に優れた柱列式施工機1を選定して使用することが好ましく、特に3軸又は5軸の柱列式施工機1を用いることが好ましい。具体的には、3軸又は5軸のオーガー削孔混練軸施工機械を好適に用いることができる。なお、
図1(A)に示す実施形態では、3軸の柱列式施工機1を用いた掘削工程を表している。
【0024】
掘削能力に優れた柱列式施工機1を用いることにより、掘削工程の直後に固化工程を施工する場合であっても、固化工程を滞らせることがなくなる。なお、この場合の施工効率とは、単位時間当たりの施工進行速度を意味し、施工効率がよいとは、具体的には、次の固化工程よりも掘削工程の進行時間が短いことを意味している。
【0025】
柱列式施工機1の先端部から吐出する非硬化性注入材としては、気泡又は、気泡と水を使用することが好ましい。掘削土と、気泡又は気泡と水の混合比率は、掘削土の物性値と混合土の流動性の要求値により異なるが、一般的には混合土の流動性をテーブルフロー値(以下、TF値と略称する)(JIS R 5201:2015)で表した場合、次の固化行程を好適に行うこと、また、固化工程後に芯材31の挿入を適切に行い、混合土の流動性と壁体の安定性を両立させることを考慮して、TF値は150~220mmの範囲が好ましく、経験値として170~200mmがより好ましい。
【0026】
図2に含水比(W:10~25%)の砂質土における気泡添加率とTF値の関係のグラフを示す。なお、気泡添加率とは掘削土の乾燥重量に対する起泡剤の質量%を意味する。このグラフによると、気泡添加率を増加させるとTF値が150~220mmに容易に増加することがわかる。
【0027】
また、混合土のTF値を上記条件とする場合、施工性や経済性の観点から、掘削土が粘性土の場合には、掘削土1m3当たり気泡が0.3m3、水が0.3m3程度の条件が好ましく、砂質土の場合には、気泡が0.2m3、水が0.1m3程度の条件が好ましい。
【0028】
一方、気泡添加率を多くすると流動性は向上するが、混合土の比重は小さくなる。そのため、壁体の安定性を考慮した場合、比重を1.05以上にする必要があり、そのための気泡注入量は約0.8m3/m3以下に保つことが必要である。
【0029】
さらに、所望の気泡を発生させるために起泡剤を用いることができる。起泡剤としては、通常公知の界面活性剤を用いることができるが、なかでも気泡そのもの、さらに、掘削土と混合したときにも消泡し難く、酸やアルカリ等の化学的安定性に優れ、かつ起泡能力に優れる起泡剤が望まれ、例えば、アルキルサルフェート系界面活性剤を好適に用いることができる。
【0030】
具体的には、アルキルサルフェート系界面活性剤のWTM起泡剤(フローリック社のWTM起泡剤原液を清浄な水で20倍に希釈したもの)を25倍に起泡し、比重0.04、最頻値が100μm程度に起泡させたものを好適に使用できる。上記の気泡を使用した場合の実績によると、1週間は気泡混合土の流動性等の変化がなく好適に使用できることが確認されている。このことより、次の固化工程は掘削工程の終了後1週間以内に施工することが望ましい。
【0031】
また、本実施形態の非硬化性注入材では、水を吸収して膨潤した膨潤ポリマー又は、水を吸収して膨潤した膨潤ポリマーにさらに水を添加した膨潤ポリマー分散液を用いることもできる。膨潤ポリマー分散液を非硬化性注入材とする場合には、TF値を170mm以上とするために、掘削土1m3当たり粘性土では膨潤ポリマー分散液を0.3m3、砂質土では0.2m3を用いるのが好ましい。
【0032】
膨潤ポリマーの種類は、デンプン系、セルロース系及びポリマー系統があるが合成ポリマー系の膨潤ポリマー(三洋化成社のGEOSAP)では、清浄な水1m3当たりGEOSAPを0.5~1.5kg、好ましくは水1m3当たり1kgを添加し、十分吸水した分散液を非硬化性注入材として使用することが好ましい。
【0033】
柱列式施工機1により上記の非硬化性注入材を添加しつつ施工深度まで掘削を行い、引き上げることにより、掘削土と非硬化性注入材の混合土による掘削領域11を造成することができる。この混合土による掘削領域11は、所定の期間、安定を保ち施工に必要な流動性を保つことができるため、時間を置いても次工程の固化工程を適切に行うことができる。
【0034】
<固化工程>
次に、上記掘削工程により造成した掘削領域11に対して固化工程を行う。
図1(B)は、本実施形態における固化工程を示している。固化工程で使用する水平多軸式施工機2は、撹拌能力に優れた施工機が用いられる。具体的にはBC掘削機(バウアーマシーネン社)、SMX掘削機(東亜利根ボーリング社)等を例示することができる。水平多軸式施工機2は、掘削工程において柱列式施工機1で造成した掘削領域11に対し、先端部から固化材スラリーを注入しつつ、これらと混合土とを混合、攪拌させながら沈下させ、底部に到着後、さらに固化材スラリーを注入しながら混合、攪拌して引き上げる。これにより、ソイルセメント地中壁の固化領域22を造成することができる。
【0035】
通常、施工対象の原地盤に対して、水平多軸式施工機2による掘削を行う場合、水平多軸式施工機2は比較的施工進行速度が遅いため掘削に時間がかかっていた。これに対して、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法では、まず、柱列式施工機1による掘削領域11を造成しておき、固化工程ではその掘削領域11をなぞるように掘削するとともに、掘削領域11の混合土と固化剤スラリーを撹拌、混合して固化するため、掘削及び撹拌ストレスが少なく、非常に短い施工時間で固化工程を行うことができる。
【0036】
また、柱列式施工機1による掘削領域11は、オーガー掘削機等により造成された掘削領域11であるため、通常、
図1(A)に示すように円柱が繋がった形状の掘削溝が形成される。一方、次の固化工程において、掘削領域11に対して水平多軸式施工機2を用いて固化工程を行うことにより、
図1(B)に示すような、掘削溝が上面視で矩形形状の整った固化領域22とすることができる。かかる観点から、固化工程に用いる水平多軸式施工機2の掘削幅は、柱列式施工機1の掘削幅以上の寸法とするのが好ましい。
【0037】
また、使用する水平多軸式施工機2は、上記の固化工程の条件において、掘削工程で用いる柱列式施工機1と、単位時間当たりの施工進行速度が同等程度となる施工機を選択することが望ましい。これにより、掘削工程の直後に連続して固化工程を行うことが可能となり、施工期間を大幅に短縮することが可能となる。
【0038】
また、固化工程において、水平多軸式施工機2の先端部から吐出された固化剤スラリーは、例えば、
図1、
図3に示すようなBC掘削機を用いた場合、回転するカッターホイールにより混合土に一様に混合され、良質な固化領域22が造成される。なお、本発明で用いる固化剤スラリーとしてはセメントミルク等を好適に用いることができる。
【0039】
さらに、固化材スラリーに対して消泡剤を添加することができる。固化工程において、消泡剤を添加し、掘削工程で造成した混合土中の気泡を消泡させることにより、固化領域22の強度を増加させることができる。消泡剤としては、起泡剤に応じて適宜選択することができる。また、固化工程において、水平多軸式施工機2を引き上げた直後の掘削領域11の流動性は、後述する芯材挿入行程を考慮した場合、TF値で170mm以上とすることが望ましい。
【0040】
また、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法では、
図3に示すように、固化工程において、掘削工程による掘削深度よりも深く掘削することもできる。具体的には、掘削工程における合理的な施工深度をD、計画深度をD’とした場合、まず、
図3(A)に示すように、柱列式施工機1により掘進機の先端部から非硬化性注入材を吐出しながら、掘削土と非硬化性注入材の気泡混合土を造成しつつ深度Dまで掘削する。なお、この場合の気泡混合土のTF値は150~200mmが好ましい。
【0041】
そして、
図3(B)に示すように、固化工程において、さらに計画深度D’までの掘削を行い、水平多軸式施工機2の先端部から固化材スラリーを吐出して、混合土と混練しつつ引上げ、固化領域22のソイルセメント地中壁を造成する。そしてその後、
図3(C)に示すように、ソイルセメント地中壁が硬化する前に芯材31を挿入する。
【0042】
<芯材挿入工程>
また、本実施形態のソイルセメント地中連続壁施工法においては、必要に応じて固化工程の後に芯材31を挿入することができる。
図1(C)は本実施形態の芯材挿入工程を示している。本実施形態の芯材挿入工程では、クローラークレーン等の芯材挿入用クレーンを用いて芯材31の挿入を行っている。挿入する芯材31としては、一般に造成される固化領域22の補強に用いる芯材を用いることができ、具体的には、例えば、H形鋼等の鋼材、プレキャスト製のコンクリート壁体あるいは鋼製の壁体等を用いることができる。固化領域22に芯材31を挿入することにより、曲げ強度特性に優れたソイルセメント連続壁を造成することができる。
【0043】
なお、芯材挿入工程を行う場合には、固化工程での混合土と固化剤スラリーの混練により固化反応が開始するため、できる限り固化剤スラリーの固化反応が進行していない段階、即ち、固化工程の直後に芯材31の挿入を行うことが好ましい。
【0044】
<施工手順>
本発明のソイルセメント地中連続壁施工法の手順は、上記掘削工程により、所定の間隔の未施工領域12を設けて混合土領域を造成し、該混合土領域に対して固化工程を行い固化領域22とした後、未施工領域12に対して、掘削工程及び固化工程を行うことを特徴としている。
【0045】
ここで、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法における、所定の間隔の未施工領域12は、固化工程で使用する水平多軸式施工機2の掘削幅を基準として決定する間隔であり、当該間隔をW’、水平多軸式施工機2の掘削幅をW、ラップ長をLoとしたときに、W’=W-Loで決定することができる。掘削幅Wは、柱列式施工機1と水平多軸式施工機2の掘削幅を比較し、掘削幅の大きいほうに合わせるのが好ましいが、一般に、柱列式施工機1の幅は1450~2000mm程度であり、水平多軸式施工機2の幅は2350mmであるので、通常、水平多軸式施工機2の掘削幅を基準とした掘削幅Wで設定する。なお、ラップ長Loとは、未施工領域12と水平多軸式施工機2の掘削幅の差、即ち、固化領域22と水平多軸式施工機2の掘削幅の重なり部分の寸法を意味している。
【0046】
また、
図4に示すように、未施工領域12と水平多軸式施工機2の掘削幅が隣り合う両側の固化領域22に跨るラップ長Lo1、Lo2が生じるような場合には、LoはLo1とLo2の合計寸法として設定する。上記の条件でLoを設けることにより、未施工領域12が残存することがなく、確実なソイルセメント地中連続壁を構築することが可能となる。なお、高い寸法精度で掘削工程及び固化工程の実施が可能な場合には、重なり部のLoを0にしたり、限りなく0に近づけることもできる。
【0047】
さらに、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法にける未施工領域12の間隔W’は、通常、水平多軸式施工機2一機分の幅を基準として設定されるが、施工現場の状況等に応じてW’を水平多軸式施工機2一機分の幅の整数倍の寸法に設定することもできる。なお、この場合の整数倍は、通常2~3倍が考慮される。また、この場合の未施工領域12の施工手順としては、未施工領域12W’に対して一度に掘削工程、固化工程を行ってもよいし、複数回に分割して掘削工程、固化工程を行ってもよい。
【0048】
以下に、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法の手順について、さらに詳細に説明する。
図5は、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法の進行をステップ1~9の平面図で示したものである。
図5において、ステップ1は掘削工程、ステップ2は掘削工程、固化工程、ステップ3、4は掘削工程、固化工程、芯材挿入工程を施工中の平面位置を示している。ステップ5以降においては、本発明の特徴である未施工領域12に対して、掘削工程、固化工程及び芯材挿入工程を並行に施工する工程を示している。
【0049】
まず、ステップ1では、掘削工程により掘削領域11(1)を造成する。次にステップ2では、掘削領域11(1)に対して固化工程を行い、固化領域22(1)を造成する。また、これと同時に、固化領域22(1)に隣接する未施工領域12(2)の間隔を残して、新たに掘削工程により掘削領域11(3)を造成する。
【0050】
そして、ステップ3では、固化領域22(1)に対して芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁(1)を構築する。また、これと同時に掘削領域11(3)に対して固化工程を行い、固化領域22(3)を造成するとともに、未施工領域12(4)の間隔を残して新たに掘削工程により掘削領域11(5)を造成する。
【0051】
ステップ4では、固化領域22(3)に対して芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁(3)を構築する。また、これと同時に掘削領域11(5)に対して固化工程を行い、固化領域22(5)を造成するとともに、未施工領域12(6)の間隔を残して新たに掘削工程により掘削領域11(7)を造成する。
【0052】
次に、ステップ5では、固化領域22(5)に対して芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁(5)を構築する。また、これと同時に掘削領域11(7)に対して固化工程を行い、固化領域22(7)を造成するとともに、未施工領域12(2)に対して新たに掘削工程により掘削領域11(2)を造成する。
【0053】
ステップ6では、固化領域22(7)に対して芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁(7)を構築する。また、これと同時に掘削領域11(2)に対して固化工程を行い、固化領域22(2)を造成するとともに、未施工領域12(4)に対して新たに掘削工程により掘削領域11(4)を造成する。
【0054】
ステップ7では、固化領域22(2)に対して芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁(2)を構築する。また、これと同時に掘削領域11(4)に対して固化工程を行い、固化領域22(4)を造成するとともに、未施工領域12(6)に対して掘削領域11(6)を造成する。
【0055】
ステップ8では、固化領域22(4)に対して芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁(4)を構築する。また、これと同時に掘削領域11(6)に対して固化工程を行い、固化領域22(6)を造成する。
【0056】
最後にステップ9では、残った固化領域22(6)に対して芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁(6)を構築する。上記ステップ1~9の順序の工程により、安定した高品質のソイルセメント地中連続壁を施工することができる。
【0057】
以上、実施形態に基づき本発明のソイルセメント地中連続壁施工法を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、直線状のソイルセメント地中連続壁の構築について説明したが、設計に応じて未施工領域12を設けつつ角度を変えたり、場所に応じて掘削幅を調整して施工することもできる。
【0059】
また、上記実施形態では、芯材挿入工程により、固化領域22に芯材31を挿入してソイルセメント地中連続壁を構築しているが、設計に応じて芯材31を挿入せずソイルセメント地中連続壁を構築することもできる。
【0060】
以上の説明のとおり、本発明のソイルセメント地中連続壁施工法では、まず、未施工領域12を残しつつ、施工能力の異なる柱列式施工機1と水平多軸式施工機2を並行に使用して掘削領域11及び固化領域22を造成し、芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中壁を構築し、間隔を空けたソイルセメント地中壁を構築した段階で、先に残した未施工領域12に対して掘削領域11及び固化領域22を造成し、芯材挿入工程を行い、ソイルセメント地中連続壁を構築する。これにより、施工計画に柔軟性高い品質のソイルセメント地中連続壁を安価で構築することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1 柱列式施工機
11 掘削領域
12 未施工領域
2 水平多軸式施工機
22 固化領域(ソイルセメント地中壁)
3 芯材挿入用クレーン
31 芯材