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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】柱梁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20240903BHJP
   E04B 1/04 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
E04B1/30 B
E04B1/04 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185736
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075145
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 太沖
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】林 徹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 喜章
(72)【発明者】
【氏名】會田 祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】八尋 幸光
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065637(JP,A)
【文献】特開2017-155415(JP,A)
【文献】米国特許第01637932(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/04
E04B 1/18
E04B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の内部で前記建築物の梁間方向に延びる第1の梁を含む内架構と、
少なくとも前記梁間方向の両端部で前記建築物の桁行方向に配列されて高さ方向に延びる外柱、
前記梁間方向の両端部で前記桁行方向に延びて前記外柱の間に架設される第2の梁、および
前記桁行方向の両端部で前記梁間方向に延びて前記外柱の間に架設され、前記建築物の室内空間に面する第3の梁
を含み、前記建築物の外周部を構成する外架構と
を備え
前記建築物は複数の階層を有し、前記複数の階層の少なくとも一部は前記桁行方向に配列される専有部分を有し、
前記第1の梁は、前記専有部分の間に形成される戸境壁の一部を構成し、
前記第3の梁は、前記桁行方向の両端部に位置する前記専有部分に面する妻壁の一部を構成する柱梁構造。
【請求項2】
前記外柱は、前記内架構の前記梁間方向の延長領域に少なくとも部分的に重複して配置される、請求項1に記載の柱梁構造。
【請求項3】
前記建築物は複数の階層を有し、
前記内架構は、前記梁間方向に配列されて前記複数の階層のそれぞれに配置された前記第1の梁を互いに連結する壁柱をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の柱梁構造。
【請求項4】
前記内架構の前記梁間方向の両端部に配置された前記壁柱と前記外架構との間には前記第1の梁が架設されない、請求項3に記載の柱梁構造。
【請求項5】
前記建築物は複数の階層を有し、
前記第2の梁および前記第3の梁の少なくともいずれかは、前記複数の階層のそれぞれの下部に配置される、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の柱梁構造。
【請求項6】
前記第1の梁、前記第2の梁および前記第3の梁の少なくともいずれかは鉄骨梁であり、前記外柱は鉄骨鉄筋コンクリート柱である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の柱梁構造。
【請求項7】
前記外柱は、前記桁行方向の両端部で前記梁間方向の両端部以外にも配列される、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の柱梁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柱梁構造を有する建築物において、構造設計の自由度を高めるための技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、第1の柱梁架構と、第1の柱梁架構に隣接配置されて構面の延長面が第1の柱梁架構の構面と交差するように配置された第2の柱梁架構とを含み、第1の柱梁架構の構面と第2の柱梁架構の構面の延長面とが交差する位置に柱が配置されない構造物が記載されている。また、特許文献2には、上記と同様の第1および第2の柱梁架構に加えて第1の柱梁架構に鉄骨梁を設けた構造物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-144862号公報
【文献】特開2012-144863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、梁間方向の両側に共有部分としてそれぞれ通路およびバルコニーが配置され、その間に専有部分が配置される建築物では、構造耐力を十分に確保するために専有部分の両側、つまり専有部分と通路またはバルコニーとの間に桁行方向に延びる梁を配置することが一般的である。この場合、通路またはバルコニーから専有部分に出入りするための開口部に上記の梁が支障して開口高さが制約され、居住性が低下したり、設計に制約が生じるという問題点があった。上記の特許文献1および特許文献2に記載された技術は、この問題点に十分に対処したものではない。
【0005】
そこで、本発明は、桁行方向に延びる梁を配置しつつ、居住性の低下や設計上の制約をより小さくすることが可能な柱梁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]建築物の内部で建築物の梁間方向に延びる第1の梁を含む内架構と、少なくとも梁間方向の両端部で建築物の桁行方向に配列されて高さ方向に延びる外柱、梁間方向の両端部で桁行方向に延びて外柱の間に架設される第2の梁、および桁行方向の両端部で梁間方向に延びて外柱の間に架設され、建築物の室内空間に面する第3の梁を含み、建築物の外周部を構成する外架構とを備える柱梁構造。
[2]外柱は、内架構の梁間方向の延長領域に少なくとも部分的に重複して配置される、[1]に記載の柱梁構造。
[3]建築物は複数の階層を有し、内架構は、梁間方向に配列されて複数の階層のそれぞれに配置された第1の梁を互いに連結する壁柱をさらに含む、[1]または[2]に記載の柱梁構造。
[4]内架構の梁間方向の両端部に配置された壁柱と外架構との間には第1の梁が架設されない、[3]に記載の柱梁構造。
[5]建築物は複数の階層を有し、複数の階層の少なくとも一部は桁行方向に配列される専有部分を有し、第1の梁は、専有部分の間に形成される戸境壁の一部を構成し、第3の梁は、桁行方向の端部に位置する専有部分に面する妻壁の一部を構成する、[1]から[4]のいずれか1項に記載の柱梁構造。
[6]建築物は複数の階層を有し、第2の梁および第3の梁の少なくともいずれかは、複数の階層のそれぞれの下部に配置される、[1]から[5]のいずれか1項に記載の柱梁構造。
[7]第1の梁、第2の梁および第3の梁の少なくともいずれかは鉄骨梁であり、外柱は鉄骨鉄筋コンクリート柱である、[1]から[6]のいずれか1項に記載の柱梁構造。
[8]外柱は、桁行方向の両端部で梁間方向の両端部以外にも配列される、[1]から[7]のいずれか1項に記載の柱梁構造。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、桁行方向に延びる梁が建築物の外周部を構成する外架構として配置されるため、例えば専有部分と共有部分との間の開口部に梁が支障せず、建築物における居住性の低下や設計上の制約をより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る柱梁構造を含む建築物の斜視図である。
図2図1に示された建築物の平面図である。
図3図1に示された建築物の平面図の別の例である。
図4図1に示された建築物の平面図のさらに別の例である。
図5図1に示された建築物の内架構の構造の例を示す縦断面図である。
図6図1に示された建築物の内架構の構造の別の例を示す縦断面図である。
図7図1に示された建築物の内架構の構造のさらに別の例を示す縦断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る建築物の梁間方向の端部における構造の例を示す拡大縦断面図である。
図9A】本発明の一実施形態に係る建築物の梁間方向の端部における構造の別の例を示す拡大縦断面図である。
図9B】本発明の一実施形態に係る建築物の梁間方向の端部における構造の別の例を示す拡大縦断面図である。
図9C】本発明の一実施形態に係る建築物の梁間方向の端部における構造の別の例を示す拡大縦断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る建築物の桁行方向の端部における構造の例を示す拡大縦断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る建築物の桁行方向の端部における構造の別の例を示す拡大縦断面図である。
図12】本発明の一実施形態に係る建築物の桁行方向の端部における構造のさらに別の例を示す拡大縦断面図である。
図13】本発明の一実施形態に係る柱梁構造における内架構と外架構との関係を示す平面図である。
図14】本発明の一実施形態において構造材に用いられるH形鋼の例を示す断面図である。
図15】本発明の一実施形態における梁間鉄骨梁と床スラブとの接合部分の構成例を示す図である。
図16】本発明の一実施形態における梁間鉄骨梁と床スラブとの接合部分の別の構成例を示す図である。
図17】本発明の一実施形態における外架構の桁行方向に沿う部分の構成例を示す立面図である。
図18】本発明の一実施形態における外架構の梁間方向に沿う部分の構成例を示す立面図である。
図19】本発明の一実施形態に係る建築物の内架構と外架構との間の構造の例を示す縦断面図である。
図20】本発明の一実施形態に係る建築物の内架構と外架構との間の構造の別の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る柱梁構造を含む建築物の斜視図である。図示された例において、建築物1は階層構造を有し、略矩形状の平面形状において桁行方向Xおよび梁間方向Yが定義される。梁間方向Yの寸法よりも桁行方向Xの寸法が大きいこのような建築物1を、板状建築物ともいう。建築物1の構造耐力を確保するための柱梁構造10は、建築物1の内部で梁間方向Yに延びる梁間鉄骨梁を含む内架構11と、建築物1の外周部を構成する外架構とを含む。外架構は、桁行方向Xに延びる桁行鉄骨梁121と、高さ方向Zに延びる外柱122と、後述する外梁間鉄骨梁とを含む。桁行鉄骨梁121および梁間鉄骨梁は、それぞれ外柱122の間に架設される。建築物1は、階層構造の各階層を区切る床スラブ20をさらに含む。このような建築物1は、例えば以下で説明するような集合住宅として利用されるが、この例には限られず、複数の階層の少なくとも一部で桁行方向Xに専有部分が配列される病院や学校、オフィス、宿泊施設、または介護老人保健施設などの各種施設として利用される。
【0011】
図2は、図1に示された建築物の平面図である。集合住宅として利用される建築物1の各階層では、住戸にあたる複数の専有部分Pが桁行方向Xに配列される。複数の専有部分Pの間には戸境壁D1が形成され、桁行方向Xの端部に位置する専有部分Pと外部との間には妻壁D2が形成される。後述する梁間鉄骨梁を含む内架構11は戸境壁D1の一部を構成し、外架構12の外梁間鉄骨梁123は妻壁D2の一部を構成する。戸境壁D1の壁厚は、例えば200mm~400mm程度、より具体的には最小で180mm程度、標準で200mm程度である。妻壁D2の壁厚は、例えば200mm~300mm程度、より具体的には最小で180mm程度、標準で200mm程度である。
【0012】
本実施形態において後述する内架構11の梁間鉄骨梁111を含む各部材は戸境壁D1の内部に配置されるため、専有部分Pに梁型を形成せず、広い室内空間を確保することができる。また、外架構12の外梁間鉄骨梁123は、妻壁D2の内部に配置される。従って、本実施形態において、外梁間鉄骨梁123は例えば仕上材のような非構造材を介して間接的にかつ実質的に専有部分Pの室内空間に面している。
【0013】
また、建築物1の各階層では、複数の専有部分Pのそれぞれとの間で出入りが可能なバルコニーBや通路Cが、共有部分Sとして配置される。バルコニーBは非常時などに隣り合った専有部分Pから互いに通過することのできるように桁行方向Xに連続して配置される部分であり、通路Cは通常時に各々の専有部分Pに出入りできるように桁行方向Xに連続して配置される部分である。図2に示された例では、バルコニーBが建築物1の梁間方向Yの一方の側に配置され、通路Cが建築物1の梁間方向Yの他方の側に配置される。他の例では、図3に示すように共有部分Sがバルコニーを含まず、通路Cのみが梁間方向Yの片側に配置されてもよいし、図4に示すように通路Cが梁間方向Yの中央付近に配置され、その両側に専有部分Pが配置されてもよい。
【0014】
既に述べたように、本実施形態では、桁行方向Xに延びる桁行鉄骨梁121が、建築物1の外周部を構成する外架構12の一部として建築物1の梁間方向Yの両端部に配置される。また、桁行鉄骨梁121を支持する外柱122も、梁間方向Yの両端部に配置される。従って、例えば図2に示す例のように共有部分Sが建築物1の梁間方向Yの両側に配置される場合、例えば専有部分Pと共有部分Sと境界部分に桁行方向Xに延びる梁が配置されないため、共有部分SのバルコニーBや通路Cから専有部分Pに出入りするための開口部に梁が支障せず、開口高さを大きくとることができる。図3に示す例についても、通路Cから専有部分Pに出入りするための開口部について同様の効果が得られる。また、図3および図4に示す例のように建築物1の梁間方向Yの一方の端部または両方の端部まで専有部分Pが配置される場合も、専有部分Pの中に桁行方向の梁による天井の張り出しなどの支障が形成されないことによって、居住性を向上させることができる。
【0015】
具体的に開口高さについて説明すると、従来のように桁行方向の梁が専有部分Pと共有部分Sとの間に配置される場合、開口高さを考慮すると各階層の階高は3m以上必要になるが、本発明の実施形態では上記のように桁行鉄骨梁121の影響を受けずに開口高さが確保できるため、2.7m程度の階高でよい。従って、例えば建築物1の全体高さを45mとした場合、従来であれば15階建てになるが、本実施形態では16階建てになり、容積を有効利用できる。
【0016】
また、本実施形態では、建築物1の梁間方向Yに延びる外梁間鉄骨梁123が、建築物1の外周部を構成する外架構の一部として桁行方向Xの両端部に配置される。従って、図2から図4に示す例のように桁行方向Xの端部まで専有部分Pを配置した場合であっても、専有部分Pの中に桁行方向の梁による天井の張り出しなどの支障が形成されないことによって、居住性を向上させることができる。外架構12を構成する外梁間鉄骨梁123を妻壁D2の内部に配置し、また桁行方向Xの両端部で梁間方向Yに配列される外柱122を外部側に寄せることによって、専有部分Pに外梁間鉄骨梁123による梁型や外柱122による張り出しを形成せず、広い室内空間を確保することができる。
【0017】
なお、図示された例では外柱122が建築物1の桁行方向Xの両端部で梁間方向Yの両端部以外にも配列されるが、他の例では桁行方向Xの両端部では梁間方向Yの両端部以外に外柱122を配置せず、外梁間鉄骨梁123を1スパンで架設することによって、建築物1の桁行方向Xの両端部における設計の自由度を向上させてもよい。
【0018】
図5および図6は、図1に示された建築物の内架構の構造の例を示す縦断面図である。図示された例において、内架構11は、梁間鉄骨梁111と、壁柱112とを含む。壁柱112は、建築物1の梁間方向Yに配列されて、下階Fdおよび上階Fuのそれぞれに配置された梁間鉄骨梁111を互いに連結する。図5の例では、梁間方向Yに離間して配列された壁柱112の間に梁間鉄骨梁111が架設される。図6の例では、2本1組の壁柱112が梁間方向Yで専有部分Pの両端にあたる位置に配置され、これらの壁柱112の間に梁間鉄骨梁111が架設される。梁間鉄骨梁111および壁柱112は例えばH形鋼であり、高力ボルト摩擦接合または溶接接合で互いに接合される。内架構11が梁間鉄骨梁111と壁柱112とを含むことによって、建築物1の梁間方向Yに作用する水平荷重に対する内架構11の耐力が大きくなる。従って、例えば後述するように内架構11の梁間方向Yの両端部に配置された壁柱112と外架構12の外柱122などとの間に梁間鉄骨梁を架設しないことも可能になる。
【0019】
図7は、図1に示された建築物の内架構の構造のさらに別の例を示す縦断面図である。図7の例では壁柱が配置されず、内架構11は梁間方向Yの両端で外柱122に接合される梁間鉄骨梁によって構成される。さらに、図示された例では、内架構11の補強のために、下階Fdおよび上階Fuの梁間鉄骨梁の間で斜め方向に延びるブレース113が配置される。ブレース113は例えばH形鋼であり、高力ボルト摩擦接合または溶接接合で梁間鉄骨梁に接合される。このように内架構11が壁柱を含まない構成も可能であり、その場合は内架構11の梁間鉄骨梁を梁間方向Yの両端で外架構12の外柱122に接合したり、ブレース113を配置したりすることによって、建築物1の梁間方向Yに作用する水平荷重に対する内架構11の耐力を確保することができる。
【0020】
図8および図9A図9Cは、本発明の一実施形態に係る建築物の梁間方向の端部における構造の例を示す拡大縦断面図である。上記で図2および図3に示す例のように建築物1の梁間方向Yの端部に共有部分Sが配置される場合、図8に示されるように複数の階層構造のそれぞれの共有部分Sの下部に手摺壁31を配置し、手摺壁31の内部に桁行鉄骨梁121を配置してもよい。手摺壁31は例えば転落防止や目隠しなどを目的として設けられ、手摺壁31の上方には必要に応じて図示しない窓サッシ、手摺りまたは目隠しガラスなどを配置することができる。
【0021】
一方、上記で図3および図4に示す例のように建築物1の梁間方向Yの端部まで専有部分Pが配置される場合、図9Aに示されるように専有部分Pと外部との間に外壁32を配置し、外壁32の内部に桁行鉄骨梁121を配置してもよい。また、図9Bおよび図9Cに示されるように専有部分Pの下部に腰壁34を配置し、腰壁34の内部に桁行鉄骨梁121を配置してもよい。この場合、腰壁34の上方には窓33が配置され、腰壁34とともに専有部分Pを外部とを隔てる。
【0022】
上記の図8および図9A図9Cの例のように、桁行鉄骨梁121を複数の階層のそれぞれの下部に配置することによって、各階層で建築物1の外周部に面した部分に桁行鉄骨梁121の垂れ壁が形成されず、共有部分Sや専有部分Pからの広い視界を確保することができる。
【0023】
図10図12は、本発明の一実施形態に係る建築物の桁行方向の端部における構造の例を示す拡大縦断面図である。既に述べたように、建築物1の桁行方向Xの端部では、外架構12の一部として、梁間方向Yに延びる外梁間鉄骨梁123が配置される。上記で図9A図9Cに示された例と同様に、桁行方向Xの端部でも専有部分Pと外部との間に外壁32を配置し、外壁32の内部に外梁間鉄骨梁123を配置してもよい。また図11および図12に示されるように専有部分Pの下部に腰壁34を配置し、腰壁34の内部に外梁間鉄骨梁123を配置してもよい。このように、外梁間鉄骨梁123を複数の階層のそれぞれの下部に配置することによって、各階層で建築物1の外周部に面した部分に外梁間鉄骨梁123の垂れ壁が形成されず、専有部分Pからの広い視界を確保することができる。
【0024】
図13は、本発明の一実施形態に係る柱梁構造における内架構と外架構との関係を示す平面図である。柱梁構造10は、建築物1の内部で梁間方向Yに延びる梁間鉄骨梁111を含む内架構11と、建築物1の外周部を構成する外架構12とを含み、外架構12は桁行鉄骨梁121と、外柱122と、外梁間鉄骨梁123とを含む。図13に示された例は上記で図5を参照して説明した例に対応し、内架構11は梁間方向Yに延びる梁間鉄骨梁111と、高さ方向Zに延びる複数の壁柱112とを含む。なお、上記で図6を参照して説明した例のように壁柱112の配置が変更されてもよく、図7を参照して説明した例のように内架構11が壁柱を含まなくてもよい。
【0025】
内架構11と外架構12との関係として、図13に示されるように、桁行方向Xに配列される外架構12の外柱122は、内架構11の梁間方向Yの延長領域Mに少なくとも部分的に重複して配置される。延長領域Mは、内架構11の幅、すなわち桁行方向Xでの寸法と同じ幅で、梁間方向Yに延長された領域である。外柱122は、例えば図13に示されるように桁行方向Xについて延長領域Mと中心を揃えて配置されてもよいし、桁行方向Xの一方の端面が延長領域Mの同じ側の端面に揃うように配置されてもよい。このような外柱122の配置によって、内架構11と同じ位置にある戸境壁D1の延長線上に配置されるバルコニーBの仕切りと外柱122とによって外部から遮蔽された空間を形成することができる。
【0026】
なお、上記のような内架構11および外架構12において、梁間鉄骨梁111、桁行鉄骨梁121および外梁間鉄骨梁123はH形鋼を用いた鉄骨梁として構成されるが、他の例では鉄筋コンクリート梁または鉄骨鉄筋コンクリート梁が用いられてもよい。また、壁柱112は例えばH形鋼を用いた鉄骨柱として構成され、外柱122はH形鋼を鉄骨材として用いた鉄骨鉄筋コンクリート柱として構成されるが、壁柱112が鉄骨鉄筋コンクリート柱または鉄筋コンクリート柱として構成されてもよく、外柱122が鉄筋コンクリート柱または鉄骨柱として構成されてもよい。
【0027】
図14は、本発明の一実施形態において構造材に用いられるH形鋼の例を示す断面図である。H形鋼2は、上フランジ2A、下フランジ2Bおよびウェブ2Cを含む。梁間鉄骨梁111として用いられるH形鋼2では、梁せいhを900mm程度、フランジ幅Wを250mm程度、ウェブ板厚twを14mm程度、フランジ板厚tfを19mm程度としてもよい。桁行鉄骨梁121として用いられるH形鋼2では、梁せいhを500mm~700mm程度、フランジ幅Wを200mm程度、ウェブ板厚twを9mm程度、フランジ板厚tfを12mm~22mm程度としてもよい。外梁間鉄骨梁123として用いられるH形鋼2では、梁せいhを500mm程度、フランジ幅Wを200mm程度、ウェブ板厚twを9mm程度、フランジ板厚tfを16mm~19mm程度としてもよい。また、壁柱112として用いられるH形鋼2では、部材せいhを500mm~900mm程度、フランジ幅Wを200mm~300mm程度、ウェブ板厚twを9mm~19mm程度、フランジ板厚tfを25mm~40mm程度としてもよい。外柱122の鉄骨材として用いられるH形鋼2では、部材せいhを500mm~900mm程度、フランジ幅Wを200mm~300mm程度、ウェブ板厚twを9mm~19mm程度、フランジ板厚tfを25mm~40mm程度としてもよい。
【0028】
図15および図16は、本発明の一実施形態における梁間鉄骨梁と床スラブとの接合部分の構成例を示す図である。図15に示す例では、各階層で戸境壁D1の上部に配置される梁間鉄骨梁111の上フランジ2Aの上面に床スラブ20が載置される。図16に示す例では、各階層で戸境壁D1の下部に配置される梁間鉄骨梁111が床スラブ20をまたいで配置され、床スラブ20はウェブ2Cの側方、かつ下フランジ2Bの上面に載置される。床スラブ20は、例えばRCスラブであり、デッキプレートとコンクリートとを併せた合成スラブ、またはプレキャストコンクリートと現場打ちコンクリートとを併せたハーフPCaスラブであってもよい。
【0029】
図17は、本発明の一実施形態における外架構の桁行方向に沿う部分の構成例を示す立面図である。図示された例において、建築物1の梁間方向Yの端部で桁行方向Xに沿う部分の外架構12は、下階Fdから上階Fuまで高さ方向Zに連続した外柱122と、下階Fdおよび上階Fuのそれぞれの下部で外柱122の間に架設される桁行鉄骨梁121とを含む。既に述べたように、通路C(共有部分S)では手摺壁31が設けられ、桁行鉄骨梁121は手摺壁31の内部に配置される。
【0030】
図18は、本発明の一実施形態における外架構の梁間方向に沿う部分の構成例を示す立面図である。図示された例において、建築物1の桁行方向Xの端部で梁間方向Yに沿う部分の外架構12は、下階Fdから上階Fuまで高さ方向Zに連続した外柱122と、下階Fdおよび上階Fuのそれぞれの下部で外柱122の間に架設される外梁間鉄骨梁123とを含む。既に述べたように、専有部分Pでは外壁32が設けられ、外梁間鉄骨梁123は外壁32(妻壁D2)の内部に配置される。
【0031】
上記のような外架構12において、桁行鉄骨梁121および外梁間鉄骨梁123の両端部は、例えば外柱122の内部に配置された鉄骨材のH形鋼2に高力ボルト摩擦接合または溶接接合される。内架構11における梁間鉄骨梁111と壁柱112との間の接合、および外架構12における桁行鉄骨梁121または外梁間鉄骨梁123と外柱122の鉄骨材のH形鋼との間の接合は、剛接合、ピン接合または半剛接合である。なお、半剛接合は、柱に対する梁の回転移動が完全ではないがある程度拘束される接合形式であり、柱と梁との間で伝達される曲げ応力は剛接合と比較すると小さい。また、ピン接合は、柱に対する梁の回転移動を実質的に拘束しない接合形式であり、柱と梁との間で伝達できる曲げ応力は0であるか、または他の接合形式に比べて有意に小さい。このような剛接合、ピン接合および半剛接合の定義は、欧州設計基準(Eurocode3 Part1-8)に記載されている。
【0032】
図19および図20は、本発明の一実施形態に係る建築物の内架構と外架構との間の構造の例を示す縦断面図である。図19に示す例では、内架構11の梁間方向Yの両端部に配置された壁柱112と外架構12との間に梁間鉄骨梁が架設されず、代わりに例えばCT形鋼、山形鋼または溝形鋼のような形鋼材で構成される連結部材21が壁柱112と外柱122または桁行鉄骨梁121との間に架設される。連結部材21は、例えば添接板22を用いた高力ボルト摩擦接合などによって壁柱112および外柱122または桁行鉄骨梁121に接合される。内架構11の水平荷重に対する耐力は梁間鉄骨梁111および壁柱112の構造体によって確保されているため、連結部材21は共有部分S1に配置される床スラブ20の荷重を負担できればよい。従って、連結部材21の部材せいhは、梁間鉄骨梁111の梁せいhよりも小さい。一方、床スラブ20が自重および載荷重を支持可能であれば、図20に示す例のように連結部材21を省略し、床スラブ20を直接的に桁行鉄骨梁121または外柱122に接合してもよい。
【0033】
例えば上記で図5および図6を参照して説明した例のように、内架構11の水平荷重に対する耐力は梁間鉄骨梁111および壁柱112の構造体によって確保されている場合、図19および図20に示される例のように内架構11の梁間方向Yの両端部に配置された壁柱112と外架構12との間には梁間鉄骨梁を架設しなくてもよい。これによって、共有部分Sに梁間鉄骨梁111による下がり天井や段差などを形成することなく、広い空間を確保することが可能になる。
【0034】
以上で説明したような本発明の一実施形態によれば、桁行方向Xに延びる梁、具体的には桁行鉄骨梁121が建築物1の外周部を構成する外架構12として配置されるため、専有部分Pと共有部分Sとの間の開口部に梁が支障せず、建築物1における居住性の低下や設計上の制約をより小さくすることができる。
【0035】
また、本実施形態では、建築物1の桁行方向Xの両端部で外架構12として配置される外梁間鉄骨梁123が建築物1の室内空間、具体的には専有部分Pに面するため、例えばそれぞれの専有部分Pの桁行方向Xの寸法(間口)を同じにした場合に、桁行方向Xの全長にわたって外柱122を等間隔で配置することができる。これによって、外柱122の間に架設される桁行鉄骨梁121のスパン長が均等になるため、設計が容易になり、例えば大きな開口部を設けやすくなる。また、桁行鉄骨梁121や外柱122の寸法が均一化されることによって、建築物1の外観を整えやすくなる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0037】
1…建築物、10…柱梁構造、11…内架構、12…外架構、20…床スラブ、21…連結部材、22…添接板、31…手摺壁、32…外壁、33…窓、34…腰壁、111…梁間鉄骨梁、112…壁柱、113…ブレース、121…桁行鉄骨梁、122…外柱、123…外梁間鉄骨梁。
図1
図2
図3
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図5
図6
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図9A
図9B
図9C
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図20