(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】負極活物質原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240903BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20240903BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240903BHJP
H01G 11/30 20130101ALN20240903BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B33/06
H01G11/86
H01G11/30
(21)【出願番号】P 2020195562
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新村 和寛
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-502575(JP,A)
【文献】特開2020-013650(JP,A)
【文献】Xuchu MA et al.,A versatile low temperature synthetic route to Zintl phase precursors: Na4Si4, Na4Ge4 and K4Ge4 as examples,Dalton Trans.,2009年,PP.10250-10255
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01B 33/00- 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si材料とNa材料とを加熱して、負極活物質の原料となるNa-Si合金を合成する合成工程を具備し、
前記Si材料として、平均粒子径
D50が3~250μmの範囲内
であり、かつ、Si単体またはO、C、Na、Fe、Mn、Cr、Al、Hから選ばれるSi以外の元素とSiとを含む化合物を用い
、
前記Na材料として、金属Na、NaH、NaN
3
から選ばれるSiよりも融点の低いものを用い、
前記Si材料に対して過剰量となる前記Na材料を用いる、負極活物質原料の製造方法。
【請求項2】
前記Si材料として、粒子径D90が8~30μmの範囲内のものを用いる、請求項1に記載の負極活物質原料の製造方法。
【請求項3】
前記合成工程において、前記Si材料と前記Na材料とを配置した反応容器内にアルゴンを流しながら加熱する、請求項1または請求項2に記載の負極活物質原料の製造方法。
【請求項4】
前記Na-Si合金のBET値は1.0m
2
/g以上である、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の負極活物質原料の製造方法。
【請求項5】
前記合成工程における加熱温度は、100℃~750℃の範囲内である、請求項1
~請求項4の何れか1項に記載の負極活物質原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質原料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Siによって形成された多面体の空間の中に他の金属を包接するシリコンクラスレートなる化合物が知られている。シリコンクラスレートのうち、主にシリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIについての研究が報告されている。
【0003】
シリコンクラスレートIとは、1個のNa原子を20個のSi原子で包接した12面体と、1個のNa原子を24個のSi原子で包接した14面体とが、面を共有してなるものであり、Na8Si46との組成式で表わされる。シリコンクラスレートIを構成するすべての多面体のケージには、Naが存在している。
【0004】
シリコンクラスレートIIとは、Siの12面体とSiの16面体とが面を共有してなるものであり、NaxSi136との組成式で表わされる。ここで、xは0≦x≦24を満足する。すなわち、シリコンクラスレートIIを構成する多面体のケージには、Naが存在してもよいし、存在しなくてもよい。
【0005】
非特許文献1には、Na及びSiを含有するNa-Si合金から、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造する方法が記載されている。具体的に述べると、10-4Torr未満(すなわち1.3×10-2Pa未満)の減圧条件下、Na-Si合金を400℃以上に加熱して、Naを蒸気として除去することで、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造したことが記載されている。そして、加熱温度の違いに因り、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIの生成割合が変化することや、加熱温度が高くなれば、シリコンクラスレートIからNaが離脱し、シリコンクラスレートIの構造が変化することで、一般的なダイヤモンド構造であるSi結晶が生成することも記載されている。
さらに、シリコンクラスレートIIについては、Na22.56Si136、Na17.12Si136、Na18.72Si136、Na7.20Si136、Na11.04Si136、Na1.52Si136、Na23.36Si136、Na24.00Si136、Na20.48Si136、Na16.00Si136、Na14.80Si136を製造したことが記載されている。
【0006】
特許文献1にも、シリコンクラスレートの製造方法が記載されている。具体的には、シリコンウエハとNaを用いて製造されたNa-Si合金を、10-2Pa以下の減圧条件下、400℃で3時間加熱してNaを除去することで、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造したことが記載されている。
【0007】
また、シリコンクラスレートIIに包接されるNaがLi、K、Rb、Cs又はBaで置換されたシリコンクラスレートIIや、シリコンクラスレートIIのSiがGaやGeで一部置換されたシリコンクラスレートIIも報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】H. Horie, T. Kikudome, K. Teramura, and S.Yamanaka, Journal of Solid State Chemistry, 182, 2009, pp.129-135
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
シリコンクラスレートIIは、内包するNaが離脱しても、その構造を維持する。本発明の発明者は、この点に着目し、内包するNaが離脱したシリコンクラスレートIIをリチウムイオン二次電池の負極活物質として利用することを想起した。
【0011】
ところで、上記したシリコンクラスレートIIは、何れも、Na-Si合金を原料として製造される。つまり、Na-Si合金は負極活物質原料となり得る。当該Na-Si合金は、Na材料に含まれるNaとSi材料に含まれるSiとが反応することにより生成する。
【0012】
ここで、Na-Si合金の平均粒子径は、その原料たるSi材料の平均粒子径と同程度となるが、Na-Si合金の粒子同士が固着すると、当該固着したNa-Si合金を粉砕し、負極活物質原料の粒子径として好適な範囲となるように分級する工程が必要になる。
特に、Na-Si合金が反応容器に固着すると、反応容器からNa-Si合金を剥がし取る工程が必要になり、Na-Si合金の回収率が低下する可能性もある。このように反応容器に固着したNa-Si合金は、ハンドリング性に優れるとはいい難く、このようなNa-Si合金の製造方法は、負極活物質原料、ひいては負極活物質の工業的な生産に好適とはいい難い。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、Na-Si合金を工業的に好適に生産し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者は、負極活物質の工業的な生産に好適な、負極活物質原料としてのNa-Si合金を提供することを志向し、鋭意研究を繰り返した。その過程で、本発明の発明者は、Na材料をSi材料に対して過剰量用いることが、上記したNa-Si合金の固着を生じる大きな要因となり得ることに想到した。
【0015】
つまり、Na-Si合金を効率よく製造するためには、Si材料に対して過剰量となるNa材料を用いるのが有効であるが、その一方で、Na-Si合金を合成する反応系内に存在する金属Naが過剰であれば、当該金属Naの接着効果によってNa-Si合金や未反応のSi材料が反応容器に固着する。
Na-Si合金を合成する反応系内における金属Naの量を低減すれば、上記の金属Naによる接着効果を抑制できると考えられるが、一方で、Na-Si合金を原料としてシリコンクラスレートIIを得る合成反応には金属Naの還元作用が寄与し得るために、シリコンクラスレートIIの合成を考慮すると、Na-Si合金自体に金属Naを残存させるのが好ましい事情もある。
【0016】
上記事情を鑑み、本発明の発明者は、Si材料を最適化することによって、上記した固着の問題を解消することを志向した。
本発明の発明者は、更なる鋭意研究を重ね、Si材料の粒子径を適宜適切にコントロールすることによって上記した固着の問題を低減し得ることを知見した。本発明の発明者は、当該知見に基づいて本発明を完成した。
【0017】
すなわち、上記課題を解決する本発明の負極活物質原料の製造方法は、
Si材料とNa材料とを加熱して、負極活物質原料となるNa-Si合金を合成する合成工程を具備し、
前記Si材料として、平均粒子径3~250μmの範囲内のものを用いる、負極活物質原料の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の負極活物質原料の製造方法においては、Si材料として、平均粒子径3~250μmの範囲内という粒子径の小さなものを用いている。本発明の負極活物質原料の製造方法によると、このようなSi材料を用いることで、固着を抑制しつつNa-Si合金を製造することを可能とした。すなわち、本発明の負極活物質原料の製造方法によると、Na-Si合金を工業的に好適に生産し得る。
【0019】
以下、必要に応じて、本発明の負極活物質原料の製造方法を本発明の製造方法と称する場合があり、当該本発明の製造方法で製造した負極活物質原料を本発明の負極活物質原料と称する場合がある。本発明の製造方法によると、シリコンクラスレートIIの原料となるNa-Si合金を製造し得る。なお、Naが離脱したシリコンクラスレートIIは、リチウムイオン二次電池等の電池の負極活物質として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0021】
本発明の負極活物質原料の製造方法は、
Si材料とNa材料とを加熱して、負極活物質原料となるNa-Si合金を合成する合成工程を具備し、
前記Si材料として、平均粒子径3~250μmの範囲内のものを用いる、負極活物質原料の製造方法である。
【0022】
本発明の製造方法の技術的意義の一つは、負極活物質原料たるNa-Si合金を合成する過程で、当該Na-Si合金の反応容器への固着を抑制することで、Na-Si合金のハンドリング性を向上させ、ひいては、Na-Si合金の工業的な生産を助けることにある。
【0023】
まず、本発明の発明者は、Na-Si合金を合成する工程において、NaとSiが反応してNa-Si合金が生じる反応の反応速度が十分に高くない場合に、上記した固着の問題が生じると考えた。
本発明の負極活物質原料の製造方法で製造する目的物質(すなわちNa-Si合金)は、負極活物質(すなわちNaが離脱したシリコンクラスレートII)の原料であるため、シリコンクラスレートIIを構成するNa元素およびSi元素を主成分とする。
Na材料およびSi材料からナトリウムシリサイドを含むNa-Si合金が生じる反応は、以下のように進行すると考えられる。
Na材料+Si材料→Na-Si合金+副生物+余剰の金属Na
【0024】
上記の反応は、Na材料が熱分解されて金属Naが生じる温度で行うのが好適と考えられるが、当該反応において、NaおよびSiからNa-Si合金が生じる反応速度が遅ければ、未反応の金属Naが過渡的に反応系に多く存在し、反応容器へのNa-Si合金の固着が生じる要因となり得る。
【0025】
本発明の発明者は、NaおよびSiからNa-Si合金が生じる反応の反応速度にSi材料の粒子径が影響するという着想を得た。具体的には、本発明の発明者は、粒子径の小さなSi材料を用いることで、NaおよびSiからNa-Si合金が生じる反応の反応速度を高め得ると考えた。そして、当該反応の反応速度が十分に高ければ、反応系に未反応の金属Naが大量かつ長期間存在することが抑制され、ひいては、反応容器へのNa-Si合金の固着を抑止し得ると推測した。
【0026】
本発明の発明者は、当該推測に基づいて、粒子径の小さなSi材料を用いたNa-Si合金の合成を試みた。その結果、実際に、Si材料として平均粒子径3~250μmの範囲内のものを用いた場合に、反応容器へのNa-Si合金の固着が抑止された。
反応容器へのNa-Si合金の固着が抑止されれば、当該Na-Si合金をより迅速に製造することが可能である。よって、Si材料として平均粒子径3~250μmの範囲内のものを用いる本発明の製造方法は、負極活物質原料を工業的に生産する製造方法として有利な方法といい得る。
【0027】
本発明の製造方法における合成工程は、Si材料とNa材料とを加熱して、Na-Si合金が合成されれば良く、その反応系における温度や雰囲気は特に限定されない。
【0028】
合成工程の好ましい温度としては、Na材料の熱分解温度以上、Si材料の融点以下、Siの融点以下、Na2Siの融点以下の何れかが挙げられる。合成工程は、これらの2以上を満たす温度で行うのがより好ましく、これらの全てを満たす温度で行うのがさらに好ましい。
具体的には、合成工程の好ましい温度範囲として、100℃~750℃の範囲内、200℃~700℃の範囲内、300℃~750℃の範囲内、および、450℃~700℃の範囲内を例示できる。
【0029】
合成工程の雰囲気もまた特に限定されないが、N2ガスやArガス等の不活性ガス雰囲気下、または減圧雰囲気下であるのが好ましく、製造設備等に要するコストを考慮すると、不活性ガス雰囲気下であるのが望ましい。
【0030】
合成工程に用いるSi材料としては、Si単体が好適に用いられるが、Si材料はSi以外の元素を含んでも良い。当該Si以外の元素として、具体的には、O、C、Na、Fe、Mn、Cr、Al、H等が例示される。その他、Ca、Ti、Ni等を含んでも良い。
【0031】
Na材料としては、金属Naのほか、熱分解してNaとなる化合物を好ましく使用できる。Na材料の融点は、Si材料の融点、Siの融点およびNa-Si合金の融点よりも低温であるのが好ましい。こうすることで、原料たるSi材料およびSiならびに生成物たるNa-Si合金を固体状に維持しつつ、NaとSiとの反応を進行させることができ、反応容器へのNa-Si合金の固着を信頼性高く抑制できる。また、Si材料の粒子径に近い大きさの取り扱い性に優れるNa-Si合金を得ることができる。
【0032】
金属Na以外のNa材料としては、例えば、NaH、NaN3等が好適に用いられる。これらの化合物は、その融点がSiよりも低く、かつ、Siと容易に合金化する元素を含まないため、特に好適である。
【0033】
本発明の製造方法では、Si材料として、平均粒子径3~250μmの範囲内のものを用いる。なお、本明細書において、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合における、D50を意味する。
Si材料の平均粒子径の好ましい範囲として、3~200μmの範囲内、5~100μmの範囲内、7~80μmの範囲内、9~50μmの範囲内、および、10~30μmの範囲内を例示できる。
【0034】
なお、上記した各範囲はSi材料の平均粒子径D50によるものであるが、粒子径D10、D90等の他の指標により範囲を設定することも可能である。
例えば、Si材料の粒子径D10の好ましい範囲として、0.5~100μmの範囲内、0.6~80μmの範囲内、0.7~50μmの範囲内、1~30μmの範囲内、3~15μmの範囲内、および、4~10μmの範囲内を例示できる。
Si材料の粒子径D90の好ましい範囲として、5~200μmの範囲内、7~150μmの範囲内、8~100μmの範囲内、9~90μmの範囲内、10~50μmの範囲内、および、15~30μmの範囲内を例示できる。
なお、当該D10およびD90もまた、既述したD50と同様に、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合における、D10、D90を意味する。
【0035】
本発明の製造方法は、必要に応じて、合成工程後にNa-Si合金を解砕および/または分級することで、当該Na-Si合金の平均粒子径を所定の範囲内とする工程を具備しても良い。必要な場合には、合成工程後のNa-Si合金を粉砕しても良い。Na-Si合金の平均粒子径の範囲として、平均粒子径3~250μmの範囲内を例示できる。
Na-Si合金の粉砕は、例えば、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、ローラーミル、ボールミル等の既知の粉砕装置を用いて行い得る。Na-Si合金の解砕には、乳鉢やカッターミル等を用いれば良い。また、Na-Si合金の分級には篩を用いれば良い。
なお、固着のない場合、本発明の製造方法で得られたNa-Si合金の平均粒子径は、Si材料の平均粒子径と略同じとなる。このため、理想的には、本発明の製造方法は粉砕の工程を必要としない。
【0036】
ところで、本発明の製造方法により得られるNa-Si合金は大気安定性に優れるとはいい難く、Na-Si合金を大気中で保管すると、吸湿したり、場合によっては発熱したりする虞がある。一般的には、このようなNa-Si合金を工業的に生産するためには、Na-Si合金が大気に曝されることを抑制するための、特殊な保管設備が必要となる。つまり、Na-Si合金の大気安定性は、Na-Si合金の工業的生産性に関与する場合がある。
さらに、このように大気安定性に劣るNa-Si合金を原料として、シリコンクラスレートII、ひいてはNaが脱離したシリコンクラスレートIIを工業的に生産するためにもまた、特殊な保管設備が必要となる場合がある。したがって、Na-Si合金の大気安定性は、負極活物質の工業的生産性にも関与する場合がある。
【0037】
本発明の発明者は、Na-Si合金の平均粒子径が、Na-Si合金の大気安定性に関与することを見いだした。より具体的には、本発明の発明者は、平均粒子径の比較的大きなNa-Si合金が大気安定性に優れることを見いだした。
本発明の発明者は、更なる鋭意研究を重ね、Na-Si合金の原料たるSi材料の平均粒子径を適宜適切にコントロールすることにより、Na-Si合金の平均粒子径をコントロールでき、既述した固着の問題を抑制しつつ、大気安定性に優れるNa-Si合金を製造し得ることを知見した。
【0038】
すなわち、本発明の製造方法の技術的意義の他の一つは、Na-Si合金の大気安定性を向上させることでNa-Si合金のハンドリング性を向上させ、ひいては、Na-Si合金の工業的な生産を助けることにある。平均粒子径3~250μmのSi材料を用いる本発明の製造方法によると、Na-Si合金の反応容器への固着を抑制できるだけでなく、Na-Si合金に優れた大気安定性を付与することも可能である。
【0039】
このように、大気安定性に優れ、ハンドリング性の向上したNa-Si合金を製造できる本発明の製造方法は、負極活物質原料を工業的に生産する製造方法として非常に有利である。
【0040】
本発明の製造方法で得られるNa-Si合金は、既述したように、ナトリウムシリサイドを主成分とし、金属Naや、Si単体、各種の副生物等を含有し得る。当該Na-Si合金としては、SiよりもNaが過剰に存在するもの、すなわち、Na及びSiの組成がNazSi(1<z)で表されるものが好ましい。
【0041】
本発明のNa-Si合金には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、Na及びSi以外の他の元素が存在してもよい。当該元素としては、既述したSi材料に含まれ得る元素およびNa材料に含まれる元素に加えて、シリコンクラスレートIIにおいてNaと置換可能なLi、K、Rb、Cs及びBa、並びに、Siと置換可能なGa及びGeを例示できる。
【0042】
本発明の製造方法で得られた本発明のNa-Si合金は、シリコンクラスレートIIを合成するための原料として用い得る。シリコンクラスレートIIは定法により合成すればよく、その合成時または合成後にNaを離脱させるのが好ましい。
【0043】
本発明の負極活物質原料を用いて合成された負極活物質は、リチウムイオン二次電池などの二次電池や、電気二重層コンデンサ及びリチウムイオンキャパシタなどの蓄電装置の負極活物質として使用することができる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液及びセパレータ、又は、正極、負極及び固体電解質を具備する。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
・合成工程
Si材料として粒子状のSi単体を用い、Na材料としてNaHを用いた。当該Si材料3.1gおよびNa材料2.9gを秤量し、反応容器に配置した。なお、当該Si材料とNa材料とは、SiとNaとのモル比が1:1.09となるよう秤量された。
実施例1においては、Na材料として粉末状のものを用い、Si材料として平均粒子径D50が50.6μmのものを用いた。なお、当該Si材料のD10は15.1μmであり、D90は90μmであった。
上記のSi材料およびNa材料を、反応容器内にアルゴンを0.3L/分の速度で流通させつつ、加熱炉で600℃、10時間保持することで、Na-Si合金を得た。
なお、当該Na-Si合金は互いに凝集した粒子状をなしているように視認された。
【0047】
・解砕工程
上記の合成工程後のNa-Si合金を、スパチュラを用いて反応容器から掻き取り、乳鉢で軽く解砕した。解砕後のNa-Si合金を実施例1のNa-Si合金、すなわち実施例1の負極活物質原料とした。
【0048】
(実施例2)
合成工程において、Si材料として平均粒子径D50が10.7μmのものを用いたこと以外は、実施例1と同様に、実施例2のNa-Si合金を製造した。なお、当該Si材料のD10は5.5μmであり、D90は20.1μmであった。
実施例2のNa-Si合金もまた、互いに凝集した粒子状をなしているように視認された。
【0049】
(比較例)
合成工程において、Si材料として平均粒子径D50が578.2μmのものを用いたこと以外は、実施例1と同様に、比較例のNa-Si合金を製造した。なお、当該Si材料のD10は380.3μmであり、D90は849.1μmであった。
比較例のNa-Si合金は互いに固着した塊状をなしているように視認された。
【0050】
(実施例3)
合成工程において、Si材料として平均粒子径D50が3.4μmのものを用いたこと以外は、実施例1と同様に、実施例3のNa-Si合金を製造した。なお、当該Si材料のD10は0.7μmであり、D90は8.1μmであった。
実施例3のNa-Si合金もまた、互いに凝集した粒子状をなしているように視認された。
【0051】
(評価例1 大気安定性)
実施例1~実施例3のNa-Si合金につき、露点を-20℃に調整した大気中に40時間放置して、その質量の推移を測定した。試験開始時の質量を100%とし、40時間後の質量増加率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示すように、40時間後の質量増加率につき、実施例1~実施例3のNa-Si合金は何れも小さい値を示した。これは、実施例1~実施例3のNa-Si合金の吸湿量が十分に小さいことを意味し、実施例1~実施例3のNa-Si合金が大気安定性に優れることを意味する。
この結果は各Na-Si合金の原料であるSi材料の平均粒子径の違いに因るものと考えられ、この結果から平均粒子径3~250μmの範囲内であるSi材料を原料に用いる本発明の製造方法の優位性が裏付けられる。
【0054】
また、実施例1のNa-Si合金が実施例2のNa-Si合金に比べて大気安定性に優れることから、本発明の製造方法においては、Si材料として平均粒子径が10μm以上であるものを用いることで、Na-Si合金の大気安定性をより向上させ得るといい得る。
【0055】
(評価例2)
実施例1~実施例3および比較例のNa-Si合金につき、反応容器から回収した全量の質量を測定し、Na材料およびSi材料の質量を100%としたときのNa-Si合金の回収率を算出した。また、実施例1~実施例3および比較例のNa-Si合金につき、そのBET値を測定した。なお、BET値の測定条件は以下の通りである。測定原理:流動法、測定モード:BET1点法、吸着ガス:N2、前処理:180℃10分間、測定相対圧:0.3。
結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
表2に示すように、比較例の製造方法では、実施例1、実施例2及び実施例3の製造方法に比べて、Na-Si合金の回収率が低い。これは、比較例の製造方法ではNa-Si合金の粒子が互いに固着するとともに、当該粒子が反応容器に固着したためと考えられる。一方、実施例1、実施例2及び実施例3の製造方法においては、Na-Si合金の粒子は反応容器に固着せず、容易に回収されたものと考えられる。
この結果から、Na-Si合金の粒子の反応容器への固着を抑制して、Na-Si合金のハンドリング性および収率を高めるためには、Si材料として平均粒子径が250μm以下であるもの、より好ましくは、平均粒子径が30μm以下であるものを用いるのが好ましいことがわかる。
【0058】
さらに、表2に示すように、実施例1~実施例3の製造方法ではNa-Si合金の回収率が高く、これらの製造方法で得られたNa-Si合金のBET値は比較的大きい。一方、比較例の製造方法ではNa-Si合金の回収率が低く、当該製造方法で得られたNa-Si合金のBET値は比較的小さい。この結果から、本発明の製造方法においてNa-Si合金の回収率を向上させるためには、当該製造方法で得られるNa-Si合金の平均粒子径は小さい方が好ましく、当該Na-Si合金の平均粒子径に大きく関与するSi原料の平均粒子径もまた小さい方が好ましいといい得る。
具体的には、Na-Si合金の好ましいBET値として、0.2m2/g以上、0.3m2/g以上、0.4m2/g以上、0.45m2/g以上、0.5m2/g以上および1.0m2/g以上の各範囲を例示できる。Na-Si合金の好ましいBET値に特に上限はないが、取り扱い性を考慮すると過大でないのが好ましい。BET値が過大なNa-Si合金は、その平均粒子径が過小でありからである。Na-Si合金の好ましいBET値は10m2/g以下であるのが良いと考えられる。Si原料のBET値の好ましい範囲としては、上記したNa-Si合金のBET値の好ましい範囲と同じ範囲を挙げることができる。