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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】予測方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20240903BHJP
【FI】
G16H50/20
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020205333
(22)【出願日】2020-12-10
(62)【分割の表示】P 2020113218の分割
【原出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022013583
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 英司
【審査官】梅岡 信幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/208703(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗がん効果を予測するコンピュータ装置が行う予測方法であって、
入力情報取得部が、予測する対象とする対象者におけるがんに関する情報、及び前記対象者に対する効果を推定する対象の抗がん剤の薬剤情報を含む入力情報を取得し、
予測部が、不特定の被験者におけるがんに関する情報、及び前記抗がん剤の薬剤情報と、前記被験者から採取された細胞に前記抗がん剤を投与することにより得られる前記被験者のがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得したか否かを示す情報との対応関係を用いて、前記入力情報に対応する前記対象者におけるがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得する可能性に関する予測を行う、
予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
信号処理の技術を利用して、患者に対する治療のサポートを行う技術が存在する。例えば、特許文献1には、患者から採取した疾患のある細胞におけるオミクス(omics)データと薬剤に対する感度(以下、薬効ともいう)との相関関係に基づいて、患者に薬剤を投与した治療を行う場合の有効性を判定する技術が開示されている。
【0003】
また、ex vivo(生体外)にて、細胞における薬効の評価を行う手法が存在する。例えば、特許文献2には、がん細胞を、免疫細胞及び抗がん剤の存在下で培養することにより、抗がん剤の抗がん効果を評価する方法が開示されている。特許文献2では、生体内でがん細胞と共存する間質、例えば内皮細胞や線維芽細胞などと共存させた立体的細胞構造体に抗がん剤を投与することにより、平面的に生育させた細胞よりも、より生体に近い状態で存在しているがん細胞に対する影響を評価することが可能となる。
【0004】
特許文献1の技術を、特許文献2に記載の細胞構造体に適用すれば、より生体に近い状態における薬効の評価結果を用いて、患者への治療の有効性をより精度よく判定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-528565号公報
【文献】国際公開第2019/039452号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、がん治療に関しては、がんの種類、ステージ、患者の年齢などの病状により、治療の難しさやがんの進行度合いなどに大きな違いがある。このため、特許文献1のように、細胞のオミクスデータのみを考慮した薬剤投与の有用性が、実際のがん患者に投与する薬剤の有効性と乖離してしまう可能性が高いという問題があった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、細胞のオミクス情報のみならず、患者の病状に関する他の情報を考慮して抗がん剤の薬効を予測することができる予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の、予測方法は、抗がん効果を予測するコンピュータ装置が行う予測方法であって、入力情報取得部が、予測する対象とする対象者におけるがんに関する情報、及び前記対象者に対する効果を推定する対象の抗がん剤の薬剤情報を含む入力情報を取得し、予測部が、不特定の被験者におけるがんに関する情報、及び前記抗がん剤の薬剤情報と、前記被験者から採取された細胞に前記抗がん剤を投与することにより得られる前記被験者のがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得したか否かを示す情報との対応関係を用いて、前記入力情報に対応する前記対象者におけるがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得する可能性に関する予測を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞のオミクス情報のみならず、患者の病状に関する他の情報を考慮して抗がん剤の薬効を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態による抗がん剤効果評価システム1の構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による学習装置60の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態による予測装置70の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態による状態情報620の構成例を示す図である。
図5】本発明の実施形態によるオミクス情報621の構成例を示す図である。
図6】本発明の実施形態による薬剤情報622の構成例を示す図である。
図7】本発明の実施形態による薬剤情報622Aの構成例を示す図である。
図8】本発明の実施形態による投与実績情報623の構成例を示す図である。
図9】本発明の実施形態による薬剤有効性情報624の構成例を示す図である。
図10】本発明の実施形態による抗がん剤効果評価システム1が行う処理の流れを示すシーケンスチャートである。
図11】本発明の実施形態の学習装置60が行う処理の流れを示すフロー図である。
図12】本発明の実施形態の予測装置70が行う処理の流れを示すフロー図である。
図13】本発明の実施形態の予測装置70が行う処理の流れを示すフロー図である。
図14】本発明の実施形態の予測装置70が行う処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
抗がん剤効果評価システム1は、AI(人工知能)の技術を用いて、患者のがん細胞に有効な抗がん剤を予測するシステムである。ここでの患者は、がん治療において抗がん剤を投与する対象となる患者であり、「対象者」の一例である。
【0013】
抗がん剤効果評価システム1では、不特定の被験者におけるがん細胞に作用する抗がん剤の抗がん効果を評価した結果を、いわゆるビックデータとして扱う。抗がん剤効果評価システム1では、ビックデータを用いて教師あり学習させた学習済モデル(後述する予測モデル)を用いて、患者のがん細胞に有効な抗がん剤を予測する。
【0014】
本実施形態において、被験者のがん細胞に作用する抗がん剤の抗がん効果は、ex vivo(生体外)にて評価される。具体的には、被験者から採取したがん細胞を含む立体的細胞構造体を、単一の抗がん剤、免疫細胞と抗がん剤、あるいは複数の抗がん剤の組み合わせの存在下で培養することにより、(単一の抗がん剤、免疫細胞と抗がん剤、あるいは複数の抗がん剤の組み合わせによる抗がん効果を評価してもよい。本実施形態及び本明細書において、単に「抗がん剤」という場合には、単一の抗がん剤、複数の抗がん剤の組合せ、および、免疫細胞と抗がん剤の組合せが含まれることがある。ここでの立体的細胞構造体は、立体的な構造を有し、平面的に生育させた細胞と比較して、より生体内のがん細胞の環境に近い状態でがん細胞が存在している細胞である。立体的細胞構造体は、例えば、被験者から採取したがん細胞と、生体内の環境でがん細胞と共存する間質、例えば内皮細胞や線維芽細胞などを共存させた状態で組織化した細胞構造体であってよい。立体的細胞構造体としては、例えば、特許文献2に記載の細胞構造体が好適である。立体的細胞構造体を用いた評価の評価結果を用いることによって、抗がん剤の抗がん効果について、より信頼性の高い評価を得ることが可能となる。
【0015】
本実施形態及び本願明細書において、「立体的細胞構造体」とは、複数の細胞層が積層された3次元構造体であってよい。「細胞層」とは、細胞構造体の厚み方向の断面の切片画像において、細胞核を認識できる倍率、つまり、染色した切片の厚みの全体が視野に入る倍率で観察した際に、厚み方向と直交する方向に存在し、厚み方向に対して細胞核が重ならないで存在する一群の細胞および間質によって構成される層のことである。また、「層状」とは、異なる細胞層が厚み方向に2層以上重ねられているという意味である。本実施形態において用いられる立体的細胞構造体は、間質を構成する細胞と、がん細胞とによって構築されている。なお、間質を構成する細胞には、免疫細胞が含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
【0016】
本実施形態に係る立体的細胞構造体を構成する間質細胞やがん細胞は特に限定されなく、動物から採取された細胞であってもよく、動物から採取された細胞を培養した細胞であってもよく、動物から採取された細胞に各種処理を施した細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。動物から採取された細胞の場合、採取部位は特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液などに由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよく、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。また、本実施形態に係る立体的細胞構造体を構成する細胞が由来する生物種は特に限定されなく、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞を用いることができる。動物から採取された細胞を培養した細胞としては、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよい。また、各種処理を施した細胞としては、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)や、分化誘導後の細胞が挙げられる。がん細胞としては、動物から採取された細胞であることが好ましく、初代培養細胞であることがより好ましい。また、本実施形態に係る立体的細胞構造体は、同種の生物種由来の細胞のみから構成されていてもよく、複数種類の生物種由来の細胞により構成されていてもよい。
【0017】
間質細胞としては、例えば、内皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、肥満細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。本実施形態に係る立体的細胞構造体に含まれる間質細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。本実施形態に係る立体的細胞構造体に含まれる間質細胞の細胞種としては、特に限定されなく、含有させるがん細胞の由来や種類、評価に使用される免疫細胞の種類、評価に使用される抗がん剤の種類、目的の抗がん活性が奏される生体内の環境等を考慮して、適宜選択することができる。
【0018】
血管網は、がん細胞の増殖や活性に重要である。このため、本実施形態に係る立体的細胞構造体は、血管網を備えるものが好ましい。すなわち、本実施形態に係る立体的細胞構造体としては、内部に血管網が三次元的に構築され、より生体内に近い組織を構築しているものが好ましい。血管網は、細胞構造体の内部にのみ形成されていてもよく、少なくとも血管網の一部が細胞構造体の表面又は底面に露出されるように形成されていてもよい。なお、本実施形態及び本願明細書において、「血管網」とは、生体組織における血管網のような、複数の分岐を有する網状の構造を指す。
【0019】
血管網は、間質細胞として血管を構成する内皮細胞を含むことにより形成させることができる。本実施形態に係る立体的細胞構造体に含まれる内皮細胞としては、血管内皮細胞であってよい。本実施形態に係る立体的細胞構造体が血管網を備える場合、当該立体的細胞構造体中の内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞が本来の機能及び形状を保持する血管網を形成しやすいことから、生体内において血管の周辺組織を構成する細胞であることが好ましく、生体内のがん微小環境とより近似させられることから、内皮細胞以外の細胞として少なくとも線維芽細胞を含む細胞がより好ましく、血管内皮細胞と線維芽細胞を含む細胞がさらに好ましい。なお、立体的細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞と同種の生物種由来の細胞であってもよく、異種の生物種由来の細胞であってもよい。
【0020】
本実施形態に係る立体的細胞構造体に含めるがん細胞の由来となるがんとしては、例えば、乳がん(例えば、浸潤性乳管がん、非浸潤性乳管がん、炎症性乳がん等)、前立腺がん(例えば、ホルモン依存性前立腺がん、ホルモン非依存性前立腺がん等)、膵がん(例えば、膵管がん等)、胃がん(例えば、乳頭腺がん、粘液性腺がん、腺扁平上皮がん等)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫等)、結腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸がん(例えば、家族性大腸がん、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、消化管間質腫瘍等)、小腸がん(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道がん、十二指腸がん、舌がん、咽頭がん(例えば、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん等)、頭頚部がん、唾液腺がん、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓がん(例えば、原発性肝がん、肝外胆管がん等)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん、腎盂と尿管の移行上皮がん等)、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がん、肝がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、卵巣がん(例、上皮性卵巣がん、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱がん、尿道がん、皮膚がん(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞がん等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄様がん等)、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形がん(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0021】
本実施形態に係る立体的細胞構造体は、がん細胞が構造体内部全体に散在している構造体であってもよく、がん細胞が特定の細胞層にのみ存在している構造体であってもよい。本実施形態に係る立体的細胞構造体において、がん細胞が特定の細胞層にのみ存在している場合、このがん細胞を含む細胞層(がん細胞層)の構造体における位置は特に限定されない。立体的細胞構造体を抗がん剤の存在下で培養する場合には、がん細胞層を構造体の天面ではなく、構造体の内部に備えることにより、抗がん剤が構造体中のがん細胞まで浸潤・到達する能力も含めて抗がん効果を評価することができる。
【0022】
上述の立体的細胞構造体は、特許文献2に記載の製造方法によって作製してもよい。特許文献2に記載の製造方法は、下記(a)~(c)の工程を有する。(a)カチオン性緩衝液中で、細胞と細胞外マトリックス成分とを混合して混合物を得る工程と、(b)前記工程(a)により得られた混合物を、細胞培養容器中に播種する工程と、(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器中に細胞が多層に積層された細胞構造体を得る工程である。
【0023】
前記カチオン性緩衝液としては、例えば、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、又はHEPES等が挙げられる。当該カチオン性緩衝液中のカチオン性物質(例えば、トリス-塩酸緩衝液におけるトリス)の濃度及びpHは、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。
【0024】
前記強電解質高分子としては、例えば、ヘパリンや、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸や、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びポリアクリル酸、又はこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。工程(a)において調製される混合物には、強電解質高分子を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。
【0025】
前記細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、又はこれらの改変体若しくはバリアント等が挙げられる。プロテオグリカンには、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン等が挙げられる。工程(a)において調製される混合物には、細胞外マトリックス成分を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。
【0026】
本実施形態において、がん細胞に作用する抗がん剤は、がん治療に用いられる薬剤であればよく、細胞障害性を有する薬剤のようにがん細胞に直接的に作用する薬剤のみならず、細胞障害性を有さないが、がん細胞の増殖等を抑制する薬剤も含まれる。細胞障害性を有さない抗がん剤としては、がん細胞を直接的に攻撃することはせず、生体内の免疫細胞やその他の薬剤との協働的な作用によって、がん細胞の増殖を抑制したり、がん細胞の活動を鈍らせたり、がん細胞を死滅させたりする機能を発揮する薬剤や、がん細胞以外の細胞や組織を障害することによってがん細胞の増殖を抑制する薬剤が挙げられる。本実施形態において用いられる抗がん剤は、抗がん作用を有することが既知である薬剤であってもよく、新規な抗がん剤(新薬)の候補化合物であってもよい。
【0027】
細胞障害性を有する抗がん剤としては、特に限定されないが、例えば、分子標的薬、アルキル化剤、5-FU系抗がん剤に代表される代謝拮抗剤、植物アルカロイド、抗がん性抗生物質、プラチナ誘導体、ホルモン剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、生物学的応答調節剤に分類される化合物等が挙げられる。
【0028】
細胞障害性を有さない抗がん剤としては、特に限定されないが、例えば、脈管新生阻害剤、抗がん剤のプロドラッグ、抗がん剤若しくはそのプロドラッグの代謝に関連する細胞内代謝酵素活性を調整する薬剤(以下、明細書中では、「細胞内酵素調整剤」という。)、免疫療法剤等が挙げられる。その他にも、抗がん剤の機能を高めたり、生体内の免疫機能を向上させたりすることによって最終的に抗がん作用に関与する薬剤も挙げられる。
【0029】
脈管新生阻害剤は、脈管新生阻害活性を有することが期待される化合物であればよく、既知の脈管新生阻害剤であってもよく、新規な脈管新生阻害剤の候補化合物であってもよい。既知の脈管新生阻害剤としては、Avastin、EYLEA、Suchibaga、CYRAMZA(登録商標)(Eli Lilly社製、別名ラムシルマブ)、BMS-275291(Bristol-Myers社製)、Celecoxib(Pharmacia/Pfizer社製)、EMD121974(Merck社製)、Endostatin(EntreMed社製)、Erbitaux(ImCloneSystems社製)、Interferon-α(Roche社製)、LY317615(Eli Lilly社製)、Neovastat(Aeterna Laboratories社製)、PTK787(Abbott社製)、SU6688(Sugen社製)、Thalidomide(Celgene社製)、VEGF-Trap(Regeneron社製)、Iressa(登録商標)(Astrazeneca社製、別名ゲフィチニブ)、Caplerusa(登録商標)(Astrazeneca社製、別名パンデタニブ)、Recentin(登録商標)(Astrazeneca社製、別名セディラニブ)VGX―100(Circadian Technologies社製)、VD1andcVE199、VGX-300(Circadian Technologies社製)、sVEGFR2、hF4-3C5、Nexavar(登録商標)(Bayer Yakuhin社製、別名ソラフェニブ)、Vortrient(登録商標)(GlaxoSmithKline社製、別名パゾパニブ)、Sutent(登録商標)(Pfizer社製、別名スニチニブ)、Inlyta(登録商標)(Pfizer社製、別名アキシチニブ)、CEP-11981(Teva Pharmaceutical Industries社製)、AMG-386(Takeda Yakuhin社製、別名トレバナニブ)、anti-NRP2B(Genentech社製)、Ofev(登録商標)(boehringer-ingelheim社製、別名ニンタテニブ)、AMG706(Takeda Yakuhin社製、別名モテサニブ)等が挙げられる。
【0030】
抗がん剤のプロドラッグは、肝臓などの臓器やがん細胞の細胞内酵素によって、抗がん作用を有する活性体に変換される薬剤である。サイトカインネットワークが細胞内酵素の酵素活性を上昇させることにより、活性体量が増し、抗腫瘍効果の増強をもたらすことから、抗がん作用に関与する薬剤として挙げられる。
【0031】
細胞内酵素調整剤としては、例えば、単剤では直接的な抗腫瘍効果をもたないが、5-FU系抗がん剤の分解酵素(Dihydropyrimidine dehydrogenase:DPD)を阻害することにより抗がん作用に関与するギメラシルなどが挙げられる。
【0032】
免疫療法剤は、免疫細胞の免疫機能又は運動能の活性化等により、免疫機能を向上させることによって抗がん効果を得る薬剤である。免疫療法剤としては、例えば、生体応答調節剤療法に用いられる薬剤(以下、「BRM製剤」と略記する。)、免疫細胞から分泌され、遊走や浸潤に関与するサイトカインから形成されたサイトカイン系製剤、がん免疫チェックポイント阻害剤、がんワクチン、がんウイルスなどが挙げられる。BRM製剤としては、クレスチン、レンチナン、OK-432などが挙げられる。サイトカイン系製剤としては、例えば、IL-8、IL-2などのインターロイキン;IFN-α、IFN-β、IFN-γなどのインターフェロン;CCL3、CCL4、CCL5、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL16/CXCR6、CX3CL1/CX3CR1などのケモカインが挙げられる。
【0033】
がん免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞や免疫細胞の表面に存在しており、がん細胞に対する免疫機能の低下に関与するタンパク質に対して当該タンパク質の機能を特異的に阻害する物質である。当該タンパク質としては、PD-1、PD-L1、PD-L2、CD4、CD8、CD19、CD28、CD80/86、B7、Galectin-9、HVEM、CTLA-4、TIM-3、BTLA、MHC-II、LAG-3、TCRなどが挙げられる。がん免疫チェックポイント阻害剤としては、これらに対する特異的モノクロナール抗体薬が好ましい。具体的には、がん免疫チェックポイント阻害剤としては、Nivolumab(Opdivo)、Pembrolizumab(Keytruda)、Atezolizumab(Tecentriq)、Ipilimumab(Yervoy)、Tremelimumab、durvalmab、avelumabなどが挙げられる。
【0034】
免疫細胞とは、免疫に関与する細胞である。具体的には、リンパ球、マクロファージ、樹状細胞などが挙げられる。リンパ球には、T細胞、B細胞、NK細胞、形質細胞等がある。
【0035】
本実施形態において用いられる免疫細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。本実施形態において用いられる免疫細胞としては、免疫細胞であれば特に限定されないが、実際にがん微小環境周辺に存在し、免疫反応によりがん細胞を攻撃する機構に携わる細胞が好ましい。具体的には、本実施形態においては、免疫細胞として、白血球及びリンパ球からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、T細胞が含まれていることがより好ましい。
【0036】
免疫細胞としては、PBMC(血漿中末梢血単核球)が使用できる。PBMCには、リンパ球及び単球が包含される。単球にはマクロファージが包含される。リンパ球には、NK細胞、B細胞、T細胞が包含される。PBMC以外にも、これらの成分を単独あるいは複数組み合わせたものを用いることができる。PBMCは、血液から単離精製されたものであってもよいが、血液から調製されたバフィーコートをそのまま用いることもできる。バフィーコート中には、PBMCがその他の成分と共に含まれている。血液からのバフィーコートの調製は、遠心分離法等の常法により調製できる。免疫細胞には、ABO血液型のように、同じ成分でも少し異なった性質を有する複数の型が存在することがある。本実施形態においては、必要に応じて、何れか一つの型の免疫細胞を使用してもよく、複数型の免疫細胞を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
免疫細胞は、生体から採取された免疫細胞であってもよく、培養細胞株であってもよく、生体外で人工的に改変又は修飾された細胞であってもよい。がん患者から採取された免疫細胞を用いる場合には、がん患者の末梢血又は腫瘍部から単離された免疫細胞、特にPBMCを用いることが好ましい。また、人工的に改変又は修飾された免疫細胞としては、免疫機能を人工的に改変し、抗がん活性を高めた免疫細胞が好ましい。このような免疫機能を改変した免疫細胞としては、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細胞療法に使用される改変T細胞等が挙げられる。
【0038】
図1は、本発明の実施形態による抗がん剤効果評価システム1の構成例を示すブロック図である。抗がん剤効果評価システム1は、例えば、撮像装置10と、判定装置20と、患者情報DB30と、薬剤情報DB40と、評価システム50とを備える。撮像装置10は、判定装置20と通信可能に接続する。判定装置20、患者情報DB30、および薬剤情報DB40は、評価システム50と通信可能に接続する。
【0039】
撮像装置10は、抗がん剤の抗がん効果を評価する対象としての立体的細胞構造体を撮像するカメラである。撮像装置10は、免疫細胞と抗がん剤の存在下で培養される立体的細胞構造体における、培養の過程を定期的に撮像する。撮像装置10は、撮像した立体的細胞構造体の画像の情報(画像データ)を判定装置20に送信する。なお、上記では、培養の過程を定期的、つまり一定の時間間隔で撮像する場合を例示して説明したが、これに限定解釈されることはない。撮像装置10は、培養の過程を、特定のタイミングで撮像すればよい。特定のタイミングとは、撮像装置10にあらかじめ設定されたタイミングであってもよいし、撮像装置10による撮像を行う撮像担当者などによって決定された任意のタイミングであってもよい。
【0040】
判定装置20は、クラウド装置、サーバ装置、PC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータ装置である。判定装置20は、例えば、通信部と、記憶部と、制御部とを備える。通信部は、撮像装置10、および評価システム50と通信を行う。記憶部は、判定装置20の機能を実現するために必要な変数、各種データ、プログラム等を記憶する。制御部は、通信部を介して撮像装置10から取得した立体的細胞構造体の画像を用いて、抗がん剤の抗がん効果を評価する。
【0041】
例えば、立体的細胞構造体に含まれるがん細胞が蛍光物質で標識されている場合、制御部は、画像における画素ごとのRGB値等に基づいて、立体的細胞構造体が撮像された領域の画素ごとに蛍光に染まっているか否かを判定する。或いは、顕微鏡などを介して撮像されるなどして、個々の細胞が識別可能な解像度で画像が撮像されている場合、制御部は、蛍光に染まっている細胞の数をカウントするようにしてもよい。
【0042】
制御部は、画像を解析した結果を用いて、抗がん効果があるか否かを判定する。制御部は、例えば、立体的細胞構造体全体の面積に対する、蛍光に染まっている面積の比率が、抗がん剤が投与される前と比較して減少していれば、当該抗がん剤に抗がん効果があると判定する。或いは、制御部は、がん細胞の数(蛍光に染まっている細胞の数)が、抗がん剤が投与される前より減少している場合に、抗がん効果があると判定するようにしてもよい。或いは、制御部は、血管網が縮小するなど、がん細胞が減少したことが示唆される現象が画像から特定された場合に、抗がん効果があると判定するようにしてもよい。
【0043】
また、制御部は、抗がん効果があると判定した場合において、その抗がん効果の度合いを判定するようにしてもよい。例えば、制御部は、がん細胞が所定の割合(例えば、50%)以上減少するのに要した日数に応じて、抗がん効果の度合いを、高い、普通、低いなどの複数のレベルで判定する。制御部は、立体的細胞構造体に投与した抗がん剤、その抗がん効果の有無を判定した判定結果、抗がん効果がある場合におけるその効果の度合いなどを示す情報を、後述する投与実績情報623、又は薬剤有効性情報624として、通信部を介して評価システム50に通知する。
【0044】
なお、上記では、判定装置20が評価システム50に抗がん効果などに関する情報を通知する場合を例示して説明したが、これに限定されない。評価システム50は、少なくとも、抗がん効果などに関する情報を取得できればよい。例えば、抗がん効果などに関する情報が判定装置20以外の外部装置や、経過観察を行う担当者などによって判定されたものであってもよい。抗がん効果などに関する情報が、担当者などの入力操作によって手入力されてもよい。この場合、抗がん剤効果評価システム1において、撮像装置10や判定装置20を省略することが可能である。
【0045】
患者情報DB30は、被験者を含む患者に関する情報を記憶するDB(データベース)であり、例えば、クラウド装置、サーバ装置、PC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータ装置である。患者情報DB30は、例えば、通信部と、記憶部と、入力部と、制御部とを備える。通信部は、評価システム50と通信を行う。記憶部は、患者情報DB30の機能を実現するために必要な変数、各種データ、プログラム等を記憶する。記憶部は、患者に関する情報を記憶する。患者に関する情報は、任意の情報であってよいが、例えば、患者から採取された細胞に関する情報(後述するオミクス情報621)、及び患者におけるがんの状態などを示す情報(後述する状態情報620)などを含んで構成される。入力部は、キーボードなどの入力装置を介して入力された情報を取得する。入力部は、例えば、患者に関する情報を取得し、取得した情報を記憶部に記憶させる。制御部は、記憶部に記憶された患者に関する情報を、通信部を介して評価システム50に通知する。
【0046】
薬剤情報DB40は、抗がん剤(薬剤)に関する情報を記憶するDBであり、クラウド装置、サーバ装置、PC等のコンピュータ装置である。薬剤情報DB40は、例えば、通信部と、記憶部と、入力部と、制御部とを備える。通信部は、評価システム50と通信を行う。記憶部は、薬剤情報DB40の機能を実現するために必要な変数、各種データ、プログラム等を記憶する。記憶部は、抗がん剤に関する情報を記憶する。抗がん剤に関する情報は、任意の情報であってよいが、例えば、薬剤の構造式、薬理、物性などを示す情報(後述する薬剤情報622)などを含んで構成される。入力部は、キーボードなどの入力装置を介して入力された情報を取得する。入力部は、例えば、抗がん剤に関する情報を取得し、取得した情報を記憶部に記憶させる。制御部は、記憶部に記憶された抗がん剤に関する情報を、通信部を介して評価システム50に通知する。
【0047】
評価システム50は、例えば、学習装置60と、予測装置70とを備える。学習装置60、および予測装置70は、共に、クラウド装置、サーバ装置、PC等のコンピュータ装置である。
【0048】
学習装置60は、学習モデルに教師あり学習を行うことにより、予測モデルを生成する。ここでの予測モデルは、患者におけるがんの状態などの情報から、患者に抗がん剤を投与した場合における抗がん効果を予測するモデルである。予測装置70は、学習装置60により生成された予測モデルを用いて、患者に抗がん剤を投与した場合における抗がん効果を予測する。
【0049】
図2は、本発明の実施形態による学習装置60の構成例を示すブロック図である。学習装置60は、例えば、通信部61と、記憶部62と、制御部63とを備える。通信部61は、外部装置と通信を行う。ここでの外部装置は、判定装置20、患者情報DB30、薬剤情報DB40、および予測装置70である。
【0050】
記憶部62は、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、RAM(Random Access read/write Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはこれらの記憶媒体の任意の組み合わせによって構成される。記憶部62は、例えば、状態情報620と、オミクス情報621と、薬剤情報622と、投与実績情報623と、薬剤有効性情報624と、予測モデル情報625とを記憶する。
【0051】
状態情報620は、被験者におけるがんの状態を示す情報である。状態情報620は、患者情報DB30から評価システム50に送信された患者に関する情報の全部又は一部により構成される。オミクス情報621は。被験者から採取されたがん細胞に関する情報である。オミクス情報621は、患者情報DB30から評価システム50に送信された患者に関する情報の全部又は一部により構成される。薬剤情報622は、抗がん剤に関する情報である。薬剤情報622は、薬剤情報DB40から評価システム50に送信された抗がん剤に関する情報により構成される。投与実績情報623は、被験者から採取されたがん細胞に投与された抗がん剤の投与実績を示す情報である。投与実績情報623は、判定装置20から評価システム50に送信された立体的細胞構造体に投与した抗がん剤に関する情報により構成される。
【0052】
薬剤有効性情報624は、被験者から採取されたがん細胞に投与された抗がん剤の抗がん効果を示す情報である。抗がん効果を示す情報には、抗がん剤ががん細胞に有効であるか否かを示す情報や有効の程度を示す情報に加えて、がん細胞が抗がん剤に耐性を獲得したか否かを示す情報が含まれていてもよい。薬剤有効性情報624は、例えば、判定装置20から評価システム50に送信された抗がん効果の有無を判定した判定結果などにより構成される。しかしながら、これに限定されることはなく、薬剤有効性情報624は、判定装置20による判定結果のみならず、薬剤投与の結果から人間が評価を行った結果によって構成されてもよい。予測モデル情報625は、学習装置60により生成された予測モデルを示す情報である。
【0053】
制御部63は、例えば、学習装置60がハードウェアとして備えるCPU(Central Processing Unit)に、記憶部62に記憶されたプログラムを実行させることによって実現される。制御部63は、例えば、学習情報取得部630と、前処理部631と、学習部632と、装置制御部633とを備える。
【0054】
学習情報取得部630は、学習情報を取得する。学習情報は、教師あり学習を行う場合において学習に用いられる情報である。学習情報は、例えば、状態情報620、オミクス情報621、投与実績情報623、および薬剤有効性情報624である。学習情報取得部630は、記憶部62を参照することにより、これらの学習情報を取得し、取得した学習情報を前処理部631に出力する。
【0055】
前処理部631は、教師あり学習を行うための事前の処理(前処理)を行う。具体的に、前処理部631は、学習用のデータセットを生成する。学習用のデータセットは、学習データと教師データの組合せである。前処理部631は、被験者における状態情報620、オミクス情報621、投与実績情報623、被験者のがん細胞に投与された抗がん剤の薬剤情報622を学習データとする。前処理部631は、学習データに対応する被験者の薬剤有効性情報624を教師データとする。前処理部631は、学習データと教師データとを組み合わせることにより学習用のデータセットを生成する。
【0056】
学習部632は、学習用のデータセットを用いて学習モデルに教師あり学習を行うことにより、予測モデルを生成する。ここでの学習モデルは、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)等による深層学習(ディープラーニング)のモデルである。以下では、学習モデルがCNNである場合を例に説明するが、これに限定されることはない。学習モデルは、DCNN(Deep CNN)、決定木、階層ベイズ、SVM(Support Vector Machine)など、既存の機械学習に適用されるモデルが用いられてよい。
【0057】
学習部632は、学習用のデータセットにおける学習データを、学習モデルに入力させる。学習部632は、学習データを入力することにより得られる学習モデルの出力(効果の予測値)が、学習データに対応する教師データ(効果の実績値)に近づくように、誤差逆伝搬法などの手法を用いて、学習モデルのパラメータを調整する。学習部632は、用意した学習用のデータセットのそれぞれについて、学習データを入力することにより得られる学習モデルの出力が、教師データに近づくように、学習モデルのパラメータを調整することによって、学習モデルに教師あり学習を行う。学習部632は、所定の終了条件を満たしたと判定される場合に、学習モデルの学習を終了させる。所定の終了条件は、例えば、学習回数が所定回数に達した、或いは予測値の誤差が所定の閾値以下となった等の条件である。学習部632は、学習を終了させた際の学習モデルを、予測モデルとする。学習部632は、学習を終了させた際の学習モデル(予測モデル)に設定されていたパラメータを、予測モデル情報625に記憶させる。ここでのパラメータは、予測モデルを生成するための変数であって、例えば、CNNの入力層、中間層、出力層の各層のユニット数、隠れ層の層数、活性化関数などを示す情報や、各階層のノードを結合する結合係数や重みを示す情報である。
【0058】
装置制御部633は、学習装置60を統括的に制御する。装置制御部633は、例えば、通信部61を介して取得した状態情報620などの情報を記憶部62に記憶させる。また、装置制御部633は、学習部632により生成された予測モデルに関する情報を、通信部61を介して予測装置70に送信する。
【0059】
図3は、本発明の実施形態による予測装置70の構成例を示すブロック図である。予測装置70は、例えば、通信部71と、記憶部72と、制御部73とを備える。通信部71は、外部装置と通信を行う。ここでの外部装置は、学習装置60である。
【0060】
記憶部72は、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、RAM、ROM、またはこれらの記憶媒体の任意の組み合わせによって構成される。記憶部72は、例えば、対象者情報720と、対象薬剤情報721と、予測モデル情報722とを記憶する。
【0061】
対象者情報720は、予測モデルを用いて予測する予測の対象となる対象者の情報である。対象者情報720は、例えば、対象者における状態情報620及びオミクス情報621に対応する情報である。対象者情報720は、患者情報DB30から評価システム50に送信された患者に関する情報により構成される。或いは、対象者情報720は、予測装置70の入力部(不図示)からキーボードなどの入力装置を介して入力された対象者に関する情報により構成されてもよい。
【0062】
対象薬剤情報721は、予測モデルを用いて予測する予測の対象となる抗がん剤(対象薬剤)の情報である。対象薬剤情報721は、例えば、対象者に投与可能な抗がん剤における薬剤情報622に対応する情報である。対象薬剤情報721は、薬剤情報DB40から評価システム50に送信された患者に関する情報により構成される。或いは、対象薬剤情報721は、予測装置70の入力部からキーボードなどの入力装置を介して入力された対象薬剤に関する情報により構成されてもよい。
【0063】
予測モデル情報722は、学習装置60により生成された予測モデルを示す情報であり、予測モデル情報625と同様の情報である。
【0064】
制御部73は、例えば、予測装置70がハードウェアとして備えるCPUに、記憶部72に記憶されたプログラムを実行させることによって実現される。制御部73は、例えば、入力情報取得部730と、予測対象取得部731と、前処理部732と、予測部733と、後処理部734と、装置制御部735とを備える。
【0065】
上述したとおり、予測装置70は、予測モデルを用いて、抗がん剤を用いた治療に関する予測を行う。具体的に、制御部73は、以下の予測対象(1)~(7)を予測する対象とする予測を行う。
【0066】
(1)対象者のがん細胞に抗がん剤を投与した場合における抗がん効果の程度
(2)対象者のがん細胞が、投与した抗がん剤に耐性を獲得する可能性
(3)(2)の耐性を獲得したがん細胞に、別の抗がん剤を投与した場合における当該別の抗がん剤による抗がん効果の程度
(4)対象薬剤が、がん細胞に有効に作用する可能性
(5)対象薬剤が有効に作用する可能性がある患者
(6)対象薬剤が有効に作用する可能性があるがん種
(7)対象薬剤を組合せることによる抗がん効果の程度
【0067】
なお、予測対象(1)~(6)において、対象者に投与する薬剤、あるいは対象薬剤を1の薬剤ではなく、複数の薬剤の組合せとしてもよい。(7)についてはある薬剤(複数の薬剤の組み合わせを含む)を用いた場合の効果と、ある薬剤と別の薬剤(複数の薬剤の組み合わせを含む)を組合せた場合の効果を比較する場合に用いられる。また、上述した、「薬剤の組合せ」には、「抗がん剤と抗がん剤の組合せ」と「免疫細胞と抗がん剤の組合せ」が含まれる。
【0068】
予測対象(1)~(7)の何れを予測対象とするかは、例えば、ユーザの選択等により決定される。具体的に、制御部73の予測対象取得部731が、予測装置70の入力部からキーボードなどの入力装置を介して入力される予測対象を示す情報を取得する。制御部73は、予測対象取得部731によって取得された予測対象を示す情報に基づいて、入力情報取得部730、前処理部732、予測部733、および後処理部734を制御することにより、予測モデルを用いた予測を行う。以下では、予測対象(1)~(7)のそれぞれを予測する方法について、順に説明する。
【0069】
まず、予測対象(1)を予測する方法について説明する。
入力情報取得部730は、予測対象取得部731によって取得された予測対象に応じた入力情報を取得する。入力情報は、予測モデルに入力される情報である。入力情報取得部730は、予測対象(1)が予測する対象である場合、入力情報として、対象者情報720を取得する。入力情報取得部730は、取得した対象者情報720を前処理部732に出力する。
【0070】
前処理部732は、予測モデルを用いた予測を行うための事前の処理(前処理)を行う。具体的に、前処理部732は、予測対象(1)が予測する対象である場合、対象者情報720に、対象者に投与可能な抗がん剤に関する情報を対応づけた入力データを生成する。入力データは、予測を行う場合に予測モデルに入力させるデータである。
【0071】
ここでの抗がん剤に関する情報には、例えば、対象者に投薬可能な抗がん剤の情報、及び投与量などを示す情報が含まれる。これらの抗がん剤に関する情報は、任意に設定されてよいが、予測モデルが学習した内容(学習データに存在する抗がん剤やその投薬量)と、同様であるか、或いは類似する範囲に設定されることが好ましい。これにより、予測モデルが学習した内容を踏まえて、抗がん効果の程度を精度よく予測することが可能となる。前処理部732は、生成した入力データを、予測部733に出力する。
【0072】
予測部733は、予測モデルを用いて、予測対象(1)を予測する。予測部733は、記憶部72を参照して予測モデル情報722を取得し、取得した情報に基づいて予測モデルを構築する。予測部733は、構築した予測モデルに、前処理部732により生成された入力データを入力させる。予測部733は、予測モデルに入力データを入力させることにより、予測モデルから得られる出力を取得する。ここで予測モデルから出力される情報は、入力データに示される入力条件において、対象者のがん細胞に、入力データに示される抗がん剤を投与した場合における抗がん効果の程度を示す情報である。ここでの入力条件は、例えば、対象者情報720により特定される対象者におけるがんの状態、対象者のがん細胞のオミクス情報、及び前処理部732により設定された投薬を検討している抗がん剤の薬剤情報、及び投薬量により特定される条件である。予測部733は、予測モデルから出力された情報を、後処理部734に出力する。
【0073】
後処理部734は、予測部733から取得した予測モデルから出力された情報に基づいて、予測対象(1)の予測結果を生成する。例えば、後処理部734は、予測モデルから出力された抗がん効果の程度を示す情報が、所定の閾値以上である場合、対象者のがん細胞に入力データに示される抗がん剤を投与すると効果がある、とする旨の予測結果を生成する。後処理部734は、生成した予測結果を、装置制御部735に出力する。
【0074】
装置制御部735は、予測装置70を統括的に制御する。装置制御部735は、例えば、通信部71を介して取得した予測モデル情報625などの情報を記憶部72に記憶させる。また、装置制御部735は、後処理部734によって生成された予測結果を、例えば、予測装置70の表示部(不図示)などに表示させるようにしてもよい。
【0075】
次に、予測対象(2)を予測する方法について説明する。
入力情報取得部730、前処理部732、予測部733、および後処理部734が行う処理の流れは、予測対象(1)を予測する場合と同様であるため、その説明を省略する。以下では、予測対象(2)を予測する場合において、予測対象(1)を予測する場合と異なる構成のみを説明する。
【0076】
予測対象(2)を予測する場合、予測部733は、予測対象(2)を予測することができるとように学習させた予測モデルを使用する。具体的には、被験者のがん細胞が、入力データに示される抗がん剤に耐性を獲得する可能性を予測する予測モデルを使用する。この場合、例えば、学習装置60は、予測モデルを生成する際に、教師データとしての薬剤有効性情報624に、被験者のがん細胞が、投与された抗がん剤に耐性を獲得したか否かの実績を示す情報が含まれるものを用いる。学習装置60は、学習モデルに学習データを入力して得られる出力が、学習データに対応づけられた教師データ、つまり耐性を獲得したか否かの実績、に近づくようにモデルのパラメータを調整する。これにより、被験者のがん細胞が、入力データに示される抗がん剤に耐性を獲得する可能性を予測する予測モデルを生成することができる。
【0077】
なお、立体的細胞構造体が抗がん剤に耐性を獲得したか否かは、立体的細胞構造体に抗がん剤が投与され、その後の立体的細胞構造体の経過に基づいて判定される。立体的細胞構造体がその抗がん剤に耐性を獲得したか否かの判定基準は、判定装置20による判定基準と一致していてもよいし、判定装置20とは異なる判定基準であってもよい。例えば、判定装置20を用いた判定を行う場合、判定装置20によって撮像装置10の撮像結果に基づいて立体的細胞構造体が抗がん剤に耐性を獲得したか否かが判定される。一方、判定装置20を用いずに判定を行う場合には、抗がん剤が投与された立体的細胞構造体のその後の経過を人間が目視検査する等によって、立体的細胞構造体がその抗がん剤に耐性を獲得したか否かの判定が行われる。
【0078】
なお、予測対象(2)を予測する予測モデルは、予測対象(1)を予測する予測モデルと共通であってもよいし、別個のものであってもよい。予測対象(1)を予測する予測モデルと共通である場合、予測モデルは、入力データに示される抗がん剤が、対象者のがん細胞に有効である可能性と共に対象者のがん細胞が入力データに示される抗がん剤に耐性を獲得する可能性を予測するモデルとなる。
【0079】
予測部733は、予測モデルを用いて、予測対象(2)を予測する。予測モデルに入力データを入力させることにより、予測モデルから得られる出力は、入力データに示される入力条件において、対象者のがん細胞が、入力データに示される抗がん剤に対して耐性を獲得する可能性を示す情報である。
【0080】
後処理部734は、予測部733から取得した予測モデルから出力された情報に基づいて、予測対象(2)の予測結果を生成する。例えば、後処理部734は、予測モデルから出力された耐性を獲得する可能性を示す情報が、所定の閾値以上である場合、対象者のがん細胞が、入力データに示される抗がん剤に対して耐性を獲得する可能性が高い、とする旨の予測結果を生成する。
【0081】
次に、予測対象(3)を予測する方法について説明する。
入力情報取得部730、前処理部732、予測部733、および後処理部734が行う処理の流れは、予測対象(1)を予測する場合と同様であるため、その説明を省略する。以下では、予測対象(3)を予測する場合において、予測対象(1)を予測する場合と異なる構成のみを説明する。
【0082】
予測対象(3)を予測する場合、予測部733は、予測対象(3)を予測することができるとように学習させた予測モデルを使用する。具体的には、ある抗がん剤に対して耐性を獲得したがん細胞に、別の抗がん剤を投与した場合における当該別の抗がん剤による抗がん効果の程度を予測する予測モデルを使用する。この場合、例えば、学習装置60は、予測モデルを生成する際に、学習データとしての投与実績情報623に、ある抗がん剤に対して耐性を獲得した後の投与であるか否かを示す情報が含まれるものを用いる。学習装置60は、学習モデルに学習データを入力して得られる出力が、学習データに対応づけられた教師データ、つまり耐性を獲得した後の投与が有効であったか否かの実績、に近づくようにモデルのパラメータを調整する。これにより、耐性を獲得後のがん細胞に、作用する抗がん効果の程度を予測する予測モデルを生成することができる。
【0083】
予測部733は、予測モデルを用いて、予測対象(3)を予測する。予測モデルに入力データを入力させることにより、予測モデルから得られる出力は、入力データに示される入力条件において、対象者のがん細胞が耐性を獲得した後に、入力データに示される抗がん剤を投与した場合に有効となる程度を示す情報である。
【0084】
後処理部734は、予測部733から取得した予測モデルから出力された情報に基づいて、予測対象(3)の予測結果を生成する。例えば、後処理部734は、予測モデルから出力された、耐性獲得後の投与による抗がん効果の程度を示す情報が、所定の閾値以上である場合、対象者のがん細胞が耐性を獲得した後に、入力データに示される抗がん剤を投与した場合に有効となる可能性が高い、とする旨の予測結果を生成する。
【0085】
次に、予測対象(4)を予測する方法について説明する。以下では、予測対象(4)を予測する場合において、予測対象(1)を予測する場合と異なる構成のみを説明する。
【0086】
入力情報取得部730は、予測対象(4)が予測する対象である場合、入力情報として、対象薬剤情報721を取得する。入力情報取得部730は、取得した対象薬剤情報721を前処理部732に出力する。
【0087】
前処理部732は、予測対象(4)が予測する対象である場合、対象薬剤情報721に相当する抗がん剤を投与可能な患者に関する情報を対応づけた入力データを生成する。ここでの患者に関する情報は、例えば、患者におけるがんの状態などを示す状態情報や、患者のがん細胞の遺伝子情報などのオミクス情報に対応する情報である。
【0088】
予測部733は、予測モデルを用いて、予測対象(4)を予測する。予測部733は、予測モデルに入力データを入力させることにより、予測モデルから得られる出力を取得する。ここで予測モデルから出力される情報は、入力データに示される入力条件において、対象とする抗がん剤が、入力データに示される入力条件に合致する患者に投与された場合における抗がん効果の程度を示す情報である。
【0089】
後処理部734は、予測部733から取得した予測モデルから出力された情報に基づいて、予測対象(4)の予測結果を生成する。例えば、後処理部734は、予測モデルから出力された抗がん効果の程度を示す情報が、所定の閾値以上である場合、対象とする抗がん剤ががん細胞に効果がある、とする旨の予測結果を生成する。
【0090】
次に、予測対象(5)を予測する方法について説明する。入力情報取得部730、前処理部732、予測部733、および後処理部734が行う処理の流れは、予測対象(4)を予測する場合と同様であるため、その説明を省略する。以下では、予測対象(5)を予測する場合において、予測対象(4)を予測する場合と異なる構成のみを説明する。
【0091】
後処理部734は、予測部733から取得した予測モデルから出力された情報に基づいて、予測対象(5)の予測結果を生成する。例えば、後処理部734は、予測モデルから出力された抗がん効果の程度を示す情報を、患者におけるがんの状態ごとに集計する。後処理部734は、例えば、がんの状態が同等とみなすことができる患者群における抗がん効果の程度が所定の閾値以上である場合、そのがんの状態にある患者に抗がん剤が有効である、とする予測結果を生成する。つまり、抗がん剤が効く可能性のある患者を予測する。
【0092】
次に、予測対象(6)を予測する方法について説明する。入力情報取得部730、前処理部732、予測部733、および後処理部734が行う処理の流れは、予測対象(4)を予測する場合と同様であるため、その説明を省略する。以下では、予測対象(6)を予測する場合において、予測対象(4)を予測する場合と異なる構成のみを説明する。
【0093】
後処理部734は、予測部733から取得した予測モデルから出力された情報に基づいて、予測対象(6)の予測結果を生成する。例えば、後処理部734は、予測モデルから出力された抗がん効果の程度を示す情報を、がんの種別ごとに集計する。後処理部734は、例えば、同じがんの種別における抗がん効果の程度が所定の閾値以上である場合、がんの種別ごとに、そのがんの種別に抗がん剤が有効である、とする予測結果を生成する。
【0094】
次に、予測対象(7)を予測する方法について説明する。入力情報取得部730、前処理部732、予測部733、および後処理部734が行う処理の流れは、予測対象(4)を予測する場合と同様であるため、その説明を省略する。以下では、予測対象(7)を予測する場合において、予測対象(4)を予測する場合と異なる構成のみを説明する。
【0095】
予測対象(7)を予測する場合、予測部733は、予測対象(7)を予測することができるとように学習させた予測モデルを使用する。具体的には、対象薬剤を組合せることによる抗がん効果の程度を予測する予測モデルを使用する。この場合、例えば、学習装置60は、予測モデルを生成する際に、学習データとしての投与実績情報623に、投与した抗がん剤の組合せを示す情報が含まれるものを用いる。学習装置60は、学習モデルに学習データを入力して得られる出力が、学習データに対応づけられた教師データ、つまり抗がん剤を組合せた投与が有効であったか否かの実績、に近づくようにモデルのパラメータを調整する。これにより、対象薬剤を組合せることによる抗がん効果の程度を予測する予測モデルを生成することができる。
【0096】
予測部733は、予測モデルを用いて、予測対象(7)を予測する。予測モデルに入力データを入力させることにより、予測モデルから得られる出力は、入力データに示される入力条件において、対象薬剤を組合せて投与することによる抗がん効果の程度を示す情報である。
【0097】
後処理部734は、予測部733から取得した予測モデルから出力された情報に基づいて、予測対象(7)の予測結果を生成する。例えば、後処理部734は、予測モデルから出力された、抗がん効果の程度を示す情報が、所定の閾値以上である場合、対象薬剤を組み合わせて投与した場合に、抗がん効果が高い、とする旨の予測結果を生成する。
【0098】
図4は、本発明の実施形態による状態情報620の構成例を示す図である。状態情報620は、被験者ごとに生成される。状態情報620は、例えば、被験者IDと、状態情報などの項目を備える。被験者IDは、被験者を一意に識別する情報である。状態情報は、例えば、ステージ、年齢、がん種、治療歴、病理的知見、病理学的知見などの項目を備える。ステージは被験者IDで特定される被験者のがんのステージである。年齢は被験者の年齢である。がん種は被験者のがんの種類である。治療歴は被験者のがん治療の履歴を示す。病理的知見は被験者の検査結果、診断結果などの病理的な知見を示す。病理的知見としては例えば、血液検査結果、尿検査結果、問診結果等が挙げられる。病理学的知見は、被験者から採取された臓器や組織から標本を作製し、検査、診断を行った結果などの知見を示す。病理学的知見としては例えば、標本中の細胞の異型性や多形性、管腔構造の有無や形態、間質組織への細胞の浸潤の有無等が挙げられる。
【0099】
図5は、本発明の実施形態によるオミクス情報621の構成例を示す図である。オミクス情報621は、被験者ごとに生成される。オミクス情報621は、例えば、被験者から採取した血液などの細胞を遺伝子解析することによって取得される。オミクス情報621は、例えば、被験者IDとオミクス情報などの項目を備える。被験者IDは被験者を一意に識別する情報である。オミクス情報は、例えば、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、メタボロミクス、プロテオミクス、メチル化の有無などの項目を備える。ゲノミクスは被験者の遺伝子情報である。トランスクリプトミクスは、被験者の組織毎、細胞毎の遺伝子情報である。メタボロミクスは、被験者の代謝物情報である。プロテオミクスは被験者のタンパク質に関する情報である。フェノミクスは被験者における表現型を示す情報である。メチル化の有無は、被験者のがん細胞におけるDNAメチル化の有無を示す情報である。
【0100】
図6は、本発明の実施形態による薬剤情報622の構成例を示す図である。薬剤情報622は、抗がん剤ごとに生成される。薬剤情報622は、例えば、薬剤IDと、薬剤情報とを備える。薬剤IDは抗がん剤を一意に識別する情報である。薬剤情報は、例えば、構造式情報と、薬理情報と、物性情報などの項目を備える。構造式情報は、薬剤IDで特定される抗がん剤の構造式を示す情報である。薬理情報は抗がん剤によって起こる生理的な変化を示す情報である。物性情報は抗がん剤の物性を示す情報である。
【0101】
図7は、本発明の実施形態による薬剤情報622Aの構成例を示す図である。薬剤情報622Aは、薬剤情報622の変形例であり、例えば、複数の抗がん剤を組み合わせて投与される場合に、その組み合わせ毎に生成される。薬剤情報622Aは、例えば、薬剤組合せIDと、薬剤組合せ情報とを備える。薬剤組合せ情報は、薬剤組合せIDで特定される抗がん剤の組合せを示す情報であり、例えば、一つ目の抗がん剤である組み合わせ1の薬剤ID、二つ目の抗がん剤である組み合わせ2の薬剤IDなどの項目を備える。
【0102】
図8は、本発明の実施形態による投与実績情報623の構成例を示す図である。投与実績情報623は、被験者ごとに生成される。投与実績情報623は、例えば、被験者IDと、投与実績情報1、投与実績情報2、…などの項目を備える。被験者IDは被験者を一意に識別する情報である。投与実績情報1、投与実績情報2、…は、被験者IDで特定される被験者に投与した抗がん剤の投与履歴を示す情報である。それぞれの投与実績情報は、例えば、薬剤ID、投与量、耐性などの項目を備える。薬剤IDは被験者のがん細胞に投与した抗がん剤を一意に識別する情報である。投与量は被験者のがん細胞に投与した抗がん剤の量である、耐性は、抗がん剤を投与した時点における、被験者のがん細胞の耐性に関する情報である。耐性は、例えば、有無、抗がん剤名称、投与タイミングなどの項目を備える。有無は耐性の有無を示す情報である。抗がん剤名称は耐性を有する抗がん剤の名称である。投与タイミングは、耐性を獲得した後の投与か、耐性を獲得する前の投与かを示す情報である。
【0103】
図9は、本発明の実施形態による薬剤有効性情報624の構成例を示す図である。薬剤有効性情報624は、被験者ごとに生成される。また、薬剤有効性情報624は、例えば、投与実績情報623に示される投与の実績に対応して生成される。薬剤有効性情報624は、例えば、被験者IDと、薬剤有効性情報1、2、…などの項目を備える。被験者IDは被験者を一意に識別する情報である。薬剤有効性情報1、2、…は、被験者IDで特定される被験者に投与した抗がん剤の効果の履歴を示す情報である。それぞれの薬剤有効性情報は、例えば、投与実績情報、効果レベル、耐性獲得の有無などの項目を備える。投与実績情報は、被験者に投与した抗がん剤を示す情報であり、例えば投与実績情報623の投与実績情報1、投与実績情報2、…などで特定される情報である。有効レベルは、抗がん剤が有効である場合における有効の度合いを示す情報である。有効レベルは、抗がん剤が有効であるか否かを示す二値の情報であってもよいし、複数の段階で抗がん剤における有効の度合いを示す情報であってもよい。耐性獲得の有無は、被験者のがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得したか否かを示す情報である。
【0104】
図10は、本発明の実施形態による抗がん剤効果評価システム1が行う処理の流れを示すシーケンスチャートである。図10には、学習段階において、学習モデル学習させる学習情報を取得する処理の流れが示されている。
【0105】
被験者から採取した細胞から立体的細胞構造体が構築される(ステップS10)。具体的には、間質を構成する細胞と、被験者から採取されたがん細胞とを含む立体的細胞構造体が構築される。立体的細胞構造体に抗がん剤が投与される(ステップS11)。具体的には、立体的細胞構造体が、抗がん剤の存在下で培養される。立体的細胞構造体に投与した抗がん剤に関する情報が、キーボードなどの入力装置を介して判定装置20に入力される。
【0106】
判定装置20は、立体的細胞構造体に投与した抗がん剤に関する情報を記憶し(ステップS12)、立体的細胞構造体に投与した抗がん剤に関する情報を評価システム50に通知する(ステップS13)。この立体的細胞構造体に投与した抗がん剤に関する情報は、投与実績情報623として、学習装置60の記憶部62に記憶される。
【0107】
撮像装置10は、立体的細胞構造体を撮像する(ステップS14)。撮像装置10は、例えば、立体的細胞構造体に抗がん剤を投与する前、およびがん剤を投与した後の所定の時間間隔(例えば1日ごと)に立体的細胞構造体を撮像する。撮像装置10は、撮像した立体的細胞構造体の画像を判定装置20に出力する(ステップS15)。
【0108】
判定装置20は、撮像装置10から取得した立体的細胞構造体の画像に基づいて、抗がん効果を判定する(ステップS16)。この場合において、判定装置20は、被験者のがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得したか否かを判定するようにしてもよい。判定装置20は、例えば、被験者の投与実績情報623を参照し、今回の判定対象とする薬剤と同一の薬剤が、過去に被験者に投与された実績があるか否かを判定する。判定装置20は、過去に被験者に薬剤が投与された実績があり、その薬剤について抗がん効果があると判定されていた場合において、今回の抗がん効果の判定結果が「効果なし」を示すものである場合に、被験者のがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得したと判定する。一方、判定装置20は、過去に被験者に投与された薬剤について抗がん効果があると判定されており、今回の抗がん効果の判定結果も「効果あり」を示すものである場合、被験者のがん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得していないと判定する。判定装置20は、判定結果を評価システム50に通知する(ステップS17)。この判定結果は、薬剤有効性情報624として、学習装置60の記憶部62に記憶される。
【0109】
一方、被験者から採取された細胞(血液)から被験者の遺伝子などが調査される(ステップS18)。被験者の遺伝子等に関する調査結果が、キーボードなどの入力装置を介して患者情報DB30に入力される。
【0110】
患者情報DB30は、被験者の遺伝子等に関する調査結果を記憶し(ステップS19)、調査結果を示す情報を評価システム50に通知する(ステップS20、S21)。この被験者の遺伝子等に関する調査結果を示す情報のうち、被験者のステージや年齢など、がんの状態を示す情報が、状態情報620として、学習装置60の記憶部62に記憶される。また、被験者のがん細胞の遺伝子等の調査結果を示す情報が、オミクス情報621として、学習装置60の記憶部62に記憶される。
【0111】
一方、抗がん剤に関する情報が、キーボードなどの入力装置を介して薬剤情報DB40に入力され、薬剤情報DB40に記憶される(ステップS22)。薬剤情報DB40は、抗がん剤に関する情報を評価システム50に通知する(ステップS23)。この抗がん剤に関する情報は、薬剤情報622として、学習装置60の記憶部62に記憶される。
【0112】
図11は、本発明の実施形態の学習装置60が行う処理の流れを示すフロー図である。図11には、学習装置60が予測モデルを作成する処理の流れが示されている。学習装置60は、学習データと、教師データとを取得する(ステップS31)。具体的には、学習装置60は、被験者における状態情報620、オミクス情報621、投与実績情報623、および薬剤情報622を、学習データとして取得する。学習装置60は、被験者における薬剤有効性情報624を教師データとして取得する。
【0113】
評価システム50は、学習データと教師データとを組み合わせることにより、学習用のデータセットを生成する(ステップS32)。学習装置60は、学習モデルに、学習用のデータセットのうちの学習データを入力する(ステップS33)。学習装置60は、学習モデルから得られた出力と、データセットのうちの教師データとの差分が小さくなるように、学習モデルのパラメータを調整する(ステップS34)。学習装置60は、予め定められた学習の終了条件を満たしているか否かを判定する(ステップS35)。学習装置60は、学習の終了条件を満たす場合、その時点における学習モデルを予測モデルとして確定させ、モデルに設定されたパラメータ値などを予測モデル情報625として、記憶させる。一方、学習装置60は、ステップS35において、学習の終了条件を満足していない場合には、ステップS33に戻り、学習を繰り返す。
【0114】
図12から図14は、本発明の実施形態の予測装置70が行う処理の流れを示すフロー図である。図12には、予測装置70が予測対象(1)~(3)のいずれかを予測する処理の流れが示されている。なお、図12のフロー図では、予測対象(1)~(3)のいずれかを予測することが可能な予測モデルが学習装置60により作成済みであり、その予測モデルを示す情報(予測モデル情報722)が予測装置70に記憶されていることを前提とする。
【0115】
予測装置70は、入力情報として、対象者における対象者情報720を取得する(ステップS41)。予測装置70は、抗がん効果を予測させる抗がん剤に関する情報を、入力情報に対応づけて設定する(ステップS42)。ここでの抗がん剤に関する情報は、例えば、抗がん剤の薬剤情報、投与量、投与タイミングなどを示す情報である。投与タイミングは、耐性を獲得する前の投与か、耐性を獲得した後の投与かを示す情報である。
【0116】
予測装置70は、ステップS41で取得した対象者情報720、およびステップS42で設定した抗がん剤に関する情報を、予測モデルに入力させ、得られた出力から、設定した抗がん剤における抗がん効果を予測する(ステップS43)。
【0117】
予測装置70は、抗がん効果を予測させたい全ての抗がん剤について、その抗がん効果を予測したか否かを判定する(ステップS44)。まだ抗がん効果を予測していない抗がん剤がある場合、予測装置70は、ステップS42に戻り、予測を行う。
【0118】
予測装置70は、ステップS44において、全ての抗がん剤について抗がん効果を予測済みである場合、予測する対象が予測対象(1)~(3)の何れであるか判定し(ステップS45)、予測対象に応じた予測結果を生成し、生成した結果を出力する。
【0119】
予測装置70は、予測する対象が予測対象(1)である場合、抗がん効果が所定の閾値以上である抗がん剤を、対象者のがん細胞に効果がある抗がん剤、とする旨の予測結果を出力する(ステップS46)。
【0120】
予測装置70は、予測する対象が予測対象(2)である場合、耐性を獲得する可能性が所定の閾値以上である抗がん剤を、対象者のがん細胞が耐性を獲得する可能性が高い抗がん剤、とする旨の予測結果を出力する(ステップS47)。
【0121】
予測装置70は、予測する対象が予測対象(3)である場合、耐性を獲得した後の投与で抗がん効果が所定の閾値以上である抗がん剤を、対象者のがん細胞が耐性を獲得した後に投与すると効果がある抗がん剤、とする旨の予測結果を出力する(ステップS48)。
【0122】
図13には、予測装置70が予測対象(4)~(6)のいずれかを予測する処理の流れが示されている。ここでは、予測対象(4)~(6)のいずれかを予測することが可能な予測モデルが学習装置60により作成済みであり、その予測モデルを示す情報(予測モデル情報722)が予測装置70に記憶されていることを前提とする。
【0123】
予測装置70は、入力情報として、対象薬剤情報721を取得する(ステップS51)。予測装置70は、抗がん剤を投与する患者に関する情報を、入力情報に対応づけて設定する(ステップS52)。ここでの患者に関する情報は、例えば、患者の状態情報や、オミクス情報などを示す情報である。
【0124】
予測装置70は、ステップS51で取得した対象薬剤情報721、およびステップS52で設定した患者に関する情報を、予測モデルに入力させ、得られた出力から、対象薬剤情報721に対応する抗がん剤における抗がん効果を予測する(ステップS53)。
【0125】
予測装置70は、抗がん効果を予測させたい全ての抗がん剤について、その抗がん効果を予測したか否かを判定する(ステップS54)。まだ抗がん効果を予測していない抗がん剤がある場合、予測装置70は、ステップS52に戻り、予測を行う。
【0126】
予測装置70は、予測する対象が予測対象(4)である場合、抗がん効果が所定の閾値以上である抗がん剤を、がん細胞に効果がある抗がん剤、とする旨の予測結果を出力する(ステップS55)。
【0127】
予測装置70は、予測する対象が予測対象(5)である場合、抗がん効果を患者の状態ごとに集計し、がんの状態が同程度である患者群に投与した場合に抗がん効果が所定の閾値以上である抗がん剤を、投与すると効果がある抗がん剤を、患者の状態ごとに示す予測結果を出力する(ステップS56)。
【0128】
予測装置70は、予測する対象が予測対象(6)である場合、抗がん効果をがんの種類ごとに集計し、がんの種別が同じ群に投与した場合に抗がん効果が所定の閾値以上である抗がん剤を、投与すると効果がある抗がん剤を、がん種ごとに示す予測結果を出力する(ステップS57)。
【0129】
図14には、予測装置70が予測対象(7)を予測する処理の流れが示されている。ここでは、予測対象(7)のいずれかを予測することが可能な予測モデルが学習装置60により作成済みであり、その予測モデルを示す情報(予測モデル情報722)が予測装置70に記憶されていることを前提とする。
【0130】
予測装置70は、入力情報として、対象者における対象者情報720を取得する(ステップS61)。予測装置70は、抗がん効果を予測させる抗がん剤の組合せに関する情報を、入力情報に対応づけて設定する(ステップS62)。
【0131】
予測装置70は、ステップS61で取得した対象者情報720、およびステップS62で設定した抗がん剤の組合せに関する情報を、予測モデルに入力させ、得られた出力から、設定した抗がん剤の組合せにおける抗がん効果を予測する(ステップS63)。
【0132】
予測装置70は、抗がん効果を予測させたい全ての抗がん剤の組合せについて、その抗がん効果を予測したか否かを判定する(ステップS64)。まだ抗がん効果を予測していない抗がん剤の組合せがある場合、予測装置70は、ステップS62に戻り、予測を行う。
【0133】
予測装置70は、ステップS64において、抗がん効果を予測させたい全ての抗がん剤の組合せについて、その抗がん効果を予測済みである場合、抗がん効果が所定の閾値以上である抗がん剤の組合せを、組合せて投与すると対象者のがん細胞に効果がある、とする旨の予測結果を出力する(ステップS65)。
【0134】
以上説明したように、実施形態の評価システム50は、抗がん効果を評価する評価システムであって、学習情報取得部630と、学習部632と、記憶部72と、入力情報取得部730と、予測部733とを備える。学習情報取得部630は、学習データと、教師データとを取得する。学習データは、不特定の被験者におけるがんに関する情報であって、少なくとも状態情報620を含む。教師データは、被験者から採取された細胞に抗がん剤を投与することにより得られる抗がん剤の効果に関する情報である。学習部632は、予測モデルを生成する。予測モデルは、抗がん剤を用いた治療に関する予測を行うモデルである。学習部632は、学習情報取得部630により取得された学習データ及び教師データの対応関係を、学習モデルに教師あり学習させることにより予測モデルを生成する。記憶部72は、学習部632により生成された予測モデルを記憶する。入力情報取得部730は、入力情報を取得する。入力情報は、予測する対象とする対象者におけるがんに関する情報である。予測部733は、入力情報と予測モデルを用いて、抗がん剤を用いた治療に関する予測を行う。学習情報取得部630は、立体的細胞構造体に抗がん剤を投与することにより得られる、抗がん効果に関する情報を、教師データとして取得する。立体的細胞構造体は、不特定の被験者から採取されたがん細胞と、間質を構成する細胞とを含む構造体である。
【0135】
これにより、実施形態の評価システム50は、被験者の状態情報620を学習データとすることができ、被験者のがんの状態を考慮して、抗がん効果を予測する予測モデルを生成することできる。したがって、細胞のオミクス情報のみならず、患者に関する種々の情報である、がんの状態情報を考慮して抗がん剤の薬効を評価することが可能となる。
【0136】
また、本実施形態の評価システム50では、立体的細胞構造体に抗がん剤を投与することにより得られる、抗がん効果に関する情報を、教師データとして取得するため、より生体に近い環境で抗がん効果の評価を行った評価結果を学習した予測モデルを生成することできる。したがって、患者への治療の有効性をより精度よく判定することが可能となる。また、通常の抗がん治療においては、ある時点で患者に投与することができる抗がん剤は1種類のみである。しかし、本実施形態の評価システム50によれば、立体的細胞構造体を用いるので、同一の患者から採取したがん細胞に対して、並行して異なる種類の抗がん剤を投与することができ、同時進行的に抗がん効果に関する情報を取得することができる。さらに、本実施形態の評価システム50によれば、立体的細胞組織を用いるので、抗がん効果に関する情報を取得するがん細胞と、オミクス情報等を取得するがん細胞とを同一にすることができる。すなわち、立体的細胞組織を構成するがん細胞と同じオミクス情報を有するがん細胞からオミクス情報を取得することができる。これにより、オミクス情報と抗がん効果に関する情報とを正確に関連付けることができる。このため、患者への治療の有効性をより精度よく判定することが可能である。このようにオミクス情報と抗がん効果に関する情報とを関連付けることは、耐性を獲得する可能性を予測する場合等においては特に重要である。その理由は、がん細胞が耐性を獲得した際にはオミクス情報が抗がん剤を投与する前と比べて変化する可能性があることが一般的に知られているからである。
【0137】
また、実施形態の評価システム50では、立体的細胞構造体における間質を構成する細胞は、線維芽細胞を含んでいてもよい。また、実施形態の評価システム50では、立体的細胞構造体における間質を構成する細胞は、血管内皮細胞を更に含んでよく、血管網を有していてもよいを更に含んでいてもよい。これにより、実施形態の評価システム50は、より生体に近い環境で抗がん効果の評価を行った評価結果を学習した予測モデルを生成することでき、上述した効果と同様の効果を奏する。また、血管網を有する立体的細胞構造体を用いることにより、免疫細胞と抗がん剤による抗がん効果をより生体に近い環境で評価を行うことができる。
【0138】
また、実施形態の評価システム50では、学習情報取得部630は、被験者における状態情報620と、オミクス情報621と、投与実績情報623、および薬剤情報622を学習データとして取得する。学習情報取得部630は、薬剤有効性情報624を教師データとして取得する。学習部632は、対象者のがんの状態、対象者から採取された細胞のオミクス情報に基づいて、対象者のがん細胞に作用する抗がん剤の効果を予測する予測モデルを生成する。これにより、患者に関する種々の情報を考慮して抗がん剤の薬効を評価することができ、上述した効果と同様の効果を奏する。
【0139】
また、実施形態の評価システム50では、入力情報取得部730は、予測する対象とする対象者における状態情報および対象者から採取された細胞のオミクス情報を含む対象者情報720を、入力情報として取得する。予測部733は、対象者のがん細胞に作用する抗がん剤の効果を予測する。これにより、実施形態の評価システム50では、まだ抗がん剤を投与していない段階において、対象者のがんの状態やオミクス情報から、投与すると効果が見込める抗がん剤を予測することが可能となる。
【0140】
また、実施形態の評価システム50では、入力情報取得部730は、対象薬剤情報721を入力情報として取得する。予測部733は、対象薬剤情報721により特定される抗がん剤が、がん細胞に作用する効果を予測する。これにより、実施形態の評価システム50では、より生体に近い環境にて抗がん効果を評価した結果を用いて、効果が見込める抗がん剤を抽出する、いわゆる新薬のスクリーニングを行うことが可能となる。
【0141】
また、実施形態の評価システム50では、入力情報取得部730は、対象薬剤情報721を入力情報として取得する。予測部733は、対象薬剤情報721により特定される抗がん剤が、がん細胞に作用する効果を、患者におけるがんの状態ごとに予測する。これにより、実施形態の評価システム50では、患者のがんの状態に応じた、個別の効果が見込める抗がん剤を抽出することが可能となる。
【0142】
また、実施形態の評価システム50では、状態情報620には、被験者におけるがんの種類を示す情報が含まれる。入力情報取得部730は、対象薬剤情報721を入力情報として取得する。予測部733は、対象薬剤情報721により特定される抗がん剤が、がん細胞に作用する効果を、がんの種類ごとに予測する。これにより、実施形態の評価システム50では、がんの種類を考慮して抗がん効果を予測する予測モデルを生成することができ、がんの種類に応じた、個別の効果が見込める抗がん剤を抽出することが可能となる。
【0143】
また、実施形態の評価システム50では、投与実績情報623には、立体的細胞構造体に投与した複数の抗がん剤の組合せに関する情報が含まれる。薬剤有効性情報624には、立体的細胞構造体に投与した複数の抗がん剤の組合せの抗がん効果を判定した結果が含まれる。入力情報取得部730は、予測する対象とする複数の抗がん剤を組み合わせに対応する対象薬剤情報721を、入力情報として取得する。予測部733は、対象薬剤情報721により特定される抗がん剤の組合せが、対象者のがん細胞に作用する効果を予測する。
【0144】
一般に、薬剤投与によるがん治療では、単一の抗がん剤のみを投与する単剤治療と、複数の抗がん剤を同時または順番に投与してその複合効果によって治療を行う併用治療とが存在する。併用治療を行うのに適した組み合わせを患者ごとに探すのは、抗がん剤の組み合わせが膨大になることから現実的ではなかった。しかも、がんの状態が類似した症例の患者が滅多にいない場合もあり、そのような場合は、併用治療を行うのに適した組み合わせを探しだすことに、さらに困難を極める場合がある。
【0145】
これに対し、実施形態の評価システム50では、立体的細胞構造体を用いるため、抗がん剤を組み合わせた場合における抗がん効果を、対象者のがんの状態を考慮して予測することができる。このため、抗がん剤を投与する前の段階において、対象者が併用治療を行うと効果が見込める抗がん剤の組み合わせを、対象者に提示することが可能となる。
【0146】
また、実施形態の評価システム50では、薬剤有効性情報624には、被験者のがん細胞が所定の抗がん剤に対して耐性を獲得したか否かを判定した結果が含まれる。入力情報取得部730は、対象者における対象者情報720を入力情報として取得する。予測部733は、対象者のがん細胞が所定の抗がん剤に対して耐性を獲得する度合いを予測する。
【0147】
一般に、患者に対して薬剤投与を行った場合において、患部が完全になくなるとは限らず、患部の細胞が変異を起こして薬剤に対する耐性を獲得し、薬剤が効かなくなることがある。特に、がん細胞に抗がん剤を投与する治療を行う場合には、がん細胞が変異を起こしやすく、がんにおける薬剤投与治療を困難とする一因となっている。医療現場では、耐性を獲得するかどうかを予測することのニーズが高まってはいるものの、予測するための方法については実現されていないのが実情である。これに対し、実施形態の評価システム50では、対象者のがん細胞が耐性を獲得するかどうかを、抗がん剤を投与する前に予測することが可能である。
【0148】
また、実施形態の評価システム50では、薬剤有効性情報624には、被験者のがん細胞が所定の抗がん剤(第1抗がん剤)に対して耐性を獲得したか否かを判定した結果が含まれる。投与実績情報623には、被験者のがん細胞に投与した特定の抗がん剤とは異なる抗がん剤(第2抗がん剤)が、被験者のがん細胞が特定の抗がん剤に対して耐性を得た後に投与されたものか否かを示す情報が含まれる。入力情報取得部730は、対象者における対象者情報720を入力情報として取得する。予測部733は、対象者のがん細胞が所定の抗がん剤に対して耐性を獲得した後において、別の抗がん剤が対象者のがん細胞に作用する効果を予測する。これにより、実施形態の評価システム50では、対象者のがん細胞が変異して所定の抗がん剤が効かなくなった後に、投与すると効果が見込める抗がん剤を予測することができ、対象者のがん細胞が所定の抗がん剤に対して耐性を獲得してしまう場合にも、効果が見込める抗がん剤を提示することが可能となる。
【0149】
また、実施形態の学習装置60は、学習情報取得部630と、学習部632とを備える。これにより、実施形態の学習装置60は、上述した効果と同様の効果を奏する。
【0150】
また、実施形態の70は、入力情報取得部730と、予測部733とを備える。これにより、実施形態の予測装置70は、上述した効果と同様の効果を奏する。
【0151】
上述した実施形態における評価システム50、学習装置60、および予測装置70の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0152】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0153】
1…抗がん剤効果評価システム
10…撮像装置
20…判定装置
30…患者情報DB
40…薬剤情報DB
50…評価システム
60…学習装置
61…通信部
62…記憶部
620…状態情報
621…オミクス情報
622…薬剤情報
623…投与実績情報
624…薬剤有効性情報
625…予測モデル情報
63…制御部
630…学習情報取得部
631…前処理部
632…学習部
633…装置制御部
70…予測装置
71…通信部
72…記憶部
720…対象者情報
721…対象薬剤情報
722…予測モデル情報
73…制御部
730…入力情報取得部
731…予測対象取得部
732…前処理部
733…予測部
734…後処理部
735…装置制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14