(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】新規な複合無機酸化物粉体、複合無機酸化物粉体を含有する粉体塗料組成物、複合無機酸化物粉体を含有する電子写真のトナー組成物、複合無機酸化物粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/12 20060101AFI20240903BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20240903BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20240903BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240903BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240903BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C01B33/12 A
C09D5/03
C09D7/62
C09D201/00
G03G9/08 381
G03G9/097 371
G03G9/097 374
G03G9/097 375
(21)【出願番号】P 2020211790
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390018740
【氏名又は名称】日本アエロジル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】石黒 慶
(72)【発明者】
【氏名】山下 行也
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-083738(JP,A)
【文献】特開2003-192940(JP,A)
【文献】特開2005-037469(JP,A)
【文献】特開2005-250149(JP,A)
【文献】特開2018-095496(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101470366(CN,A)
【文献】特開2009-162957(JP,A)
【文献】特表2006-526275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
C01F 7/00 - 7/788
C09C 1/00 - 3/12
C09D 1/00 - 10/00
C09D 15/00 - 17/00
C09D 101/00 - 201/10
G03G 9/00 - 9/113
G03G 9/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナとシリカを含む気相法複合無機酸化物粒子を有する複合無機酸化物粉体であり、
前記気相法複合無機酸化物粒子のアルミナ含有量が、
87質量%以上99質量%以下であり、前記複合無機酸化物粉体のJIS K 6911に準拠した体積抵抗率が、1.0×10
11Ω・cm以上9.0×10
14Ω・cm以下であ
り、
前記気相法複合無機酸化物粒子が、有機ケイ素化合物で表面処理されている複合無機酸化物粉体。
【請求項2】
前記気相法複合無機酸化物粒子の温度10℃、湿度10%の雰囲気下において1分攪拌後の帯電量値を30分攪拌後の帯電量値で除した値が1.5以上である請求項1に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項3】
前記気相法複合無機酸化物粒子の10分攪拌後の温度32.5℃、湿度80%の雰囲気下における帯電値を10分攪拌後の温度10℃、湿度10%の雰囲気下における帯電値で除した値が0.48以上である請求項1または2に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項4】
疎水化度が50%以上である請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項5】
炭素含有量が、0.5質量%以上11.0質量%以下である請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項6】
前記気相法複合無機酸化物粒子が、前記気相法複合無機酸化物粒子100質量部に対して、3.0質量部以上40質量部以下の前記有機ケイ素化合物にて表面処理されている請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項7】
前記有機ケイ素化合物が、下記一般式(1)
(1)R
1
nSiR
2
(4-n)
(式中、R
1は、炭素数1以上18以下の炭化水素基を表し、R
2は、炭素数1以上18以下の炭化水素基、塩素原子、ヒドロキシ基または炭素数1~3のアルコキシ基、nは1~3の整数を表す。)で示される有機ケイ素化合物、ヘキサメチルジシラザン及び/またはシリコーンオイルである請求項
1または
6に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項8】
平均一次粒子径が3.0nm以上100nm以下である請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項9】
粉体塗料の外添剤用または電子写真のトナーの外添剤用である請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体を含有する粉体塗料組成物。
【請求項11】
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体を含有する電子写真のトナー組成物。
【請求項12】
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の複合無機酸化物粉体と流動性改善剤とを複合外添し、攪拌時間30秒から30分までにおける帯電量値で表される環境変動比の値が0.8以上である請求項
11に記載の電子写真のトナー組成物。
【請求項13】
シリカ原料とアルミナ原料を火炎中に導入して気相分解法にて、アルミナ含有量が
87質量%以上99質量%以下の気相法複合無機酸化物粒子を得る、気相法複合無機酸化物粒子調製工程と、
前記気相法複合無機酸化物粒子の表面に有機ケイ素化合物を施与する、有機ケイ素化合物供給工程と、
前記有機ケイ素化合物が施与された前記気相法複合無機酸化物粒子を、
100℃以上370℃以下の加熱温度、15分以上350分以下の加熱時間にて加熱する加熱工程と、
を含む複合無機酸化物粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉体の流動性改善、帯電量調整等の目的で、電子写真用トナーや粉体塗料等に外添剤として添加される複合無機酸化物粉体及びその製造方法並びに複合無機酸化物粉末を含有する粉体塗料組成物及び電子写真用トナー組成物に関する。特に、高温高湿または低温低湿環境下における帯電量の安定性、優れた帯電立ち上がり特性を有し、迅速な印刷、良好な画像品質を実現し得る複合無機酸化物粉体及びその製造方法並びに複合無機酸化物粉末を含有する粉体塗料組成物及び電子写真用トナー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター、複写機などに用いられる電子写真方式では、一般的に、感光体に電荷を帯びさせる帯電プロセス、電荷を帯びた感光体にイメージデータに基づいてレーザー光を照射することで静電潜像を形成する露光プロセス、電荷を帯びたトナーを感光体に付着させ感光体上にイメージの鏡像を形成する現像プロセス、感光体上のトナーを紙等のメディアに転写する転写プロセス、メディア上のトナーを加熱と圧力によって定着させる定着プロセス等を経て印刷が行われる。
【0003】
上記電子写真方式においては静電気力によって画像の形成が行われることから、摩擦帯電によってトナーに電荷を帯びさせるプロセスにおいて帯電が所望の強さであること、高温高湿、低温低湿などの条件の違いによる帯電量の差が小さいことが、画像品質に直結する。この為、トナーの電荷量を調整する目的で、従来から、シリカ、チタニア、アルミナなどの金属、無機酸化物粉末を外添剤として添加することが行われている。また、近年の印刷装置の小型化、高速化に伴い、トナーには、迅速な帯電が求められている。電子写真用トナーに対しては、シリカ、チタニア、アルミナなどの無機酸化物の表面処理品や有機微粒子が、流動性改善、帯電量調節の目的で広く用いられている。
【0004】
具体的には、流動性と安定した帯電性を得るために、疎水化処理された小粒径シリカの外添剤が用いられている。その結果、流動性は改善するものの、高温高湿、低温低湿条件などの厳しい環境の変化によっては、帯電量が影響を受けやすいという問題があった。
【0005】
そこで、厳しい環境の変化に伴う帯電量の影響を小さくするべく、疎水性の高いシリコーンオイルで疎水化処理された小粒径シリカを外添剤として使用することが提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1の外添剤では、トナーの流動性、帯電立ち上がりは悪化するという問題があった。
【0006】
一方、厳しい環境の変化に伴う帯電量の影響を小さくするために、チタニアなどの外添剤を用いることも提案されている(特許文献2、3)。しかし、特許文献2、3では、環境の変化に伴う帯電量の影響を小さくすることはできるものの、処方の複雑化、チタニアによる部材汚染、また、近年では、チタニアの発がん性懸念という安全性に関する問題などが生じている。
【0007】
また、近年では、高速印刷、印刷装置の小型化に向けた開発が進んでおり、当該目的においては、より短時間で効率的に、トナーの摩擦帯電値を安定させることが求められている。また、高温高湿下におけるトナーの帯電値と低温低湿下におけるトナーの帯電値の差は画像品質に直結することから、これらの差異をより小さくすることが帯電値の安定とともに引き続き求められている。
【0008】
これらの課題を改善する一つの方法として、シリカアルミナ複合酸化物の提案がなされている(特許文献4)。特許文献4では、アルミナの比率が高いことによる環境安定性の改善がみられるものの、流動性、および帯電立ち上がり特性については改善の必要性があった。
【0009】
さらには、シリカ表面にアルミナを付着させてトナー用の外添剤を製造する方法が提案されている(特許文献5)。しかし、特許文献5で作製されるアルミナを付着したシリカ粉末は、その帯電量が約―100~-120μC/gと、電荷調整剤として用いるには負帯電性が高すぎる問題がある。さらに、特許文献5の製造方法では、2段の製造プロセスが必要となり、製造工程が複雑である等の問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平5-165257号公報
【文献】特開平10-268550号公報
【文献】特開2009-42447号公報
【文献】特許第4099748号公報
【文献】特許第5020224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは上記問題を鋭意検討することにより、所定範囲割合のアルミナを含んだ気相分解法を用いて製造された複合無機酸化物粉体が、所定範囲の体積抵抗値を示したときに、環境安定性と優れた帯電立ち上がり特性を有することを新たに見出し、本発明をするに至った。すなわち、本発明の目的は、電荷調整剤として用いることができる程度の負帯電性を有し、且つ良好な環境安定性、及び優れた帯電立ち上がり特性を有する複合無機酸化物粉体、複合無機酸化物粉体の製造方法、複合無機酸化物粉体を含有する粉体塗料組成物、複合無機酸化物粉体を含有する電子写真のトナー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の構成の要旨は以下の通りである。
[1]アルミナとシリカを含む気相法複合無機酸化物粒子を有する複合無機酸化物粉体であり、
記気相法複合無機酸化物粒子のアルミナ含有量が、80質量%以上99質量%以下であり、前記複合無機酸化物粉体のJIS K 6911に準拠した体積抵抗率が、1.0×1011Ω・cm以上9.0×1014Ω・cm以下である複合無機酸化物粉体。
[2]前記気相法複合無機酸化物粒子の温度10℃、湿度10%の雰囲気条件下において1分攪拌後の帯電量値を30分攪拌後の帯電量値で除した値が1.5以上である[1]に記載の複合無機酸化物粉体。
[3]前記気相法複合無機酸化物粒子の10分攪拌後の温度32.5℃、湿度80%の雰囲気下における帯電値を10分攪拌後の温度10℃、湿度10%の雰囲気下における帯電値で除した値が0.48以上である[1]または[2]に記載の複合無機酸化物粉体。
[4]前記気相法複合無機酸化物粒子が、有機ケイ素化合物で表面処理されている[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体。
[5]疎水化度が50%以上である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体。
[6]炭素含有量が、0.5質量%以上11.0質量%以下である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体。
[7]前記気相法複合無機酸化物粒子が、前記気相法複合無機酸化物粒子100質量部に対して、3.0質量部以上40質量部以下の前記有機ケイ素化合物にて表面処理されている[4]に記載の複合無機酸化物粉体。
[8]前記有機ケイ素化合物が、下記一般式(1)
(1)R1
nSiR2
(4-n)
(式中、R1は、炭素数1以上18以下の炭化水素基を表し、R2は、炭素数1以上18以下の炭化水素基、塩素原子、ヒドロキシ基または炭素数1~3のアルコキシ基、nは1~3の整数を表す。)で示される有機ケイ素化合物、ヘキサメチルジシラザン及び/またはシリコーンオイルである[4]または[7]に記載の複合無機酸化物粉体。
[9]平均一次粒子径が3.0nm以上100nm以下である[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体。
[10]粉体塗料の外添剤用または電子写真のトナーの外添剤用である[1]乃至[9]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体。
[11][1]乃至[10]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体を含有する粉体塗料組成物。
[12][1]乃至[10]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体を含有する電子写真のトナー組成物。
「13」[1]乃至[10]のいずれか1つに記載の複合無機酸化物粉体と流動性改善剤とを複合外添し、攪拌時間30秒から30分までにおける帯電量値で表される環境変動比の値が0.8以上である[12]に記載の電子写真のトナー組成物。
[14]シリカ原料とアルミナ原料を火炎中に導入して気相分解法にて、アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下の気相法複合無機酸化物粒子を得る、気相法複合無機酸化物粒子調製工程と、前記気相法複合無機酸化物粒子の表面に有機ケイ素化合物を施与する、有機ケイ素化合物供給工程と、前記有機ケイ素化合物が施与された前記気相法複合無機酸化物粒子を、80℃以上370℃以下の加熱温度、15分以上350分以下の加熱時間にて加熱する加熱工程と、を含む複合無機酸化物粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合無機酸化物粉体は、電荷調整剤として用いることができる程度の負帯電性を有し、且つ良好な環境安定性、及び優れた帯電立ち上がり特性を有する。
【0014】
本発明は、アルミナとシリカを含む気相法複合無機酸化物粒子を有する複合無機酸化物粉体であって、アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下である気相法複合無機酸化物粒子を有し、好ましくは、疎水化剤である有機ケイ素化合物にて気相法複合無機酸化物粒子の表面が改質された複合無機酸化物粉体である。また、好ましくは、複合無機酸化物粉体の疎水化度が50%以上である。アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下である気相法複合無機酸化物粒子は、アルミナ由来のシリカより低い体積抵抗率によって帯電のリークによる過剰な帯電の防止効果を得つつ適切な量のシリカが気相法複合無機酸化物粒子表面に含まれることによって、適切な負帯電量及び良好な流動性を得られる。アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下である気相法複合無機酸化物粒子は、例えば、表面処理シリカによる過剰な帯電を抑制し、適切な帯電量へと調整される。
【0015】
また、アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下である気相法複合無機酸化物粒子は、アルミナに対し相対的に少量であるシリカ粒子がアルミナ粒子に隣接するかたちで存在しており、アルミナ粒子とシリカ粒子の間で電荷の移動が生じる。その結果、本発明の複合無機酸化物粉体は、優れた帯電立ち上がり特性を示しつつも相対的に多量であるアルミナ粒子がもつ正帯電性の影響を受け帯電量は低く抑えられると考えらえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
先ず、本発明の複合無機酸化物粉体について、以下、詳細に説明する。本発明の複合無機酸化物粉体は、アルミナとシリカを含む気相法複合無機酸化物粒子を有する複合無機酸化物粉体であり、前記気相法複合無機酸化物粒子のアルミナ含有量が、80質量%以上99質量%以下であり、前記複合無機酸化物粉体のJIS K 6911に準拠した体積抵抗率が、1.0×1011Ω・cm以上9.0×1014Ω・cm以下である。気相法複合無機酸化物粒子は、気相法で製造された複合無機酸化物粉末である。
【0017】
上記アルミナ含有量と体積抵抗率を有する複合無機酸化物粉体は、電荷調整剤として用いることができる程度の負帯電性を有し、且つ良好な環境安定性及び優れた帯電立ち上がり特性を発揮する。具体的には、本発明の複合無機酸化物粉体は、環境安定性として、環境変動比が0.48以上である。複合無機酸化物粉体の環境変動比が0.48未満の場合、高温高湿下と低温低湿下の帯電量の差が大きくなり、複合無機酸化物粉体をトナー成分に添加したときに、画像不良などの品質問題が生じやすい。複合無機酸化物粉体の帯電立ち上がり特性は1.50以上である。複合無機酸化物粉体の帯電立ち上がり特性が1.50未満の場合、複合無機酸化物粉体をトナー成分に添加したときに、印刷可能となるまでに長時間を要するという問題がある。また複合無機酸化物粉体と流動性改善剤とを複合外添し攪拌時間30秒から30分までにおける環境変動比の値は0.8以上である。この値が0.8未満の場合、印刷が短時間である場合と長時間である場合で環境変動比が異なることを意味し、画像特性に悪影響を及ぼす。なお、「環境変動比」、「帯電立ち上がり特性」、「流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)」の測定方法については、後述する。
【0018】
アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下である気相法複合無機酸化物粒子は、シリカと気相法複合無機酸化物粒子100質量%中に80質量%以上99質量%以下のアルミナとを含んでいれば、その成分組成は、特に限定されないが、シリカと80質量%以上99質量%以下のアルミナからなる気相法複合無機酸化物粒子が好ましい。シリカと80質量%以上99質量%以下のアルミナからなる気相法複合無機酸化物粒子は、気相法複合無機酸化物粒子100質量%中に、80質量%以上99質量%以下のアルミナと1質量%以上20質量%以下のシリカを含んでいる。
【0019】
気相法複合無機酸化物粒子のアルミナ含有量は80質量%以上99質量%以下であれば、特に限定されないが、その下限値は、帯電量の環境安定性をさらに向上させる点から、82質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、87質量%が特に好ましい。一方で、アルミナ含有量の上限値は、帯電量の環境安定性と帯電立ち上がり特性をさらに向上させる点から、98質量%が好ましく、96質量%がより好ましく、95質量%が特に好ましい。気相法複合無機酸化物粒子において、アルミナ含有量が80質量%未満では複合無機酸化物としての性質が発揮されずにシリカに似た挙動を示し、99質量%超では複合無機酸化物としての性質は発揮されずアルミナの影響を強く受け、その結果、負帯電性が非常に弱くなる。
【0020】
本発明の複合無機酸化物粉体は、JIS K 6911に準拠した体積抵抗率が、1.0×1011Ω・cm以上9.0×1014Ω・cm以下である。複合無機酸化物粉体の体積抵抗率は、1.0×1011Ω・cm以上9.0×1014Ω・cm以下であれば、特に限定されないが、その下限値は、帯電量を確実に維持する点から、5.0×1011Ω・cmが好ましく、1.0×1012Ω・cmが特に好ましい、一方で、複合無機酸化物粉体の体積抵抗率の上限値は、トナー等の外添剤として適切な負帯電性を得る点から、5.0×1014Ω・cmが好ましく、1.0×1014Ω・cmが特に好ましい。体積抵抗率が1.0×1011Ω・cm未満の場合には、適切な帯電量を維持することが難しくなり、体積抵抗率が9.0×1014Ω・cm超の場合には、負帯電性が強くなりすぎる問題が生じる。
【0021】
なお、気相法シリカ粒子は、体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上になり、負帯電性が強くなりすぎ、トナー等の外添剤として適切な負帯電性を得ることができない。また、気相法アルミナ粒子は、体積抵抗率が1.0×108Ω・cm以下となり、所望の帯電量を得ることができない。
【0022】
アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下である気相法複合無機酸化物粒子のBET比表面積は、特に限定されないが、流動性とトナー粒子に対する埋没の抑制をバランスよく得る点から、好ましくは10~500m2/g、特に好ましくは20~400m2/gである。本発明の複合無機酸化物粉体をトナーに添加したときの帯電量の絶対値は、比表面積が小さいほど、またトナーに対する被覆率が高いほど大きくなる。また、優れた環境安定性、帯電立ち上がり特性といった物性は、比表面積にあまり影響されないが、実際の電子写真プロセスにおいては、高比表面積、すなわち、複合無機酸化物粉体の粒子径が小さいほどトナー粒子に埋没しやすいものの、流動性改善効果は高く、複合無機酸化物粉体の粒子径が大きいほどトナーの流動性は低下するものの、トナー粒子に対する埋没は抑制される傾向にある。従って、複合無機酸化物粉体に求められる物性に応じて、適切な比表面積の気相法複合無機酸化物粒子を選ぶことができる。また、複合無機酸化物粉体の帯電量に関しても、同一重量の複合無機酸化物粉体をトナーに添加した場合は、小粒子径である、すなわち、比表面積の大きい気相法複合無機酸化物粒子の方が強負帯電性を示すため、複合無機酸化物粉体に求められる物性に応じて、適宜、適切な粒子径、添加量を選択することができる。
【0023】
また、本発明の複合無機酸化物粉体の疎水化度は、特に限定されないが、環境安定性を確実に向上させる点から、疎水化度は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が特に好ましい。なお、疎水化度とは、後述するように、複合無機酸化物粉体と純水との混合物について光の透過率を分光光度計にて測定した疎水化度を意味する。
【0024】
本発明の複合無機酸化物粉体では、気相法複合無機酸化物粒子は、有機ケイ素化合物で表面処理されていてもよい。すなわち、気相法複合無機酸化物粒子は、有機ケイ素化合物で表面改質されていてもよい。この場合、有機ケイ素化合物は、気相法複合無機酸化物粒子の表面改質剤として機能する。気相法複合無機酸化物粒子の表面が有機ケイ素化合物で改質されていることで、気相法複合無機酸化物粒子の表面が十分に疎水化、すなわち、複合無機酸化物粉体に十分な疎水性が付与される。気相法複合無機酸化物粒子の表面が十分に疎水化されることで、複合無機酸化物粉体は、高い水分吸着阻害効果を有して、より確実に良好な環境安定性と帯電立ち上がり特性を発揮する。
【0025】
気相法複合無機酸化物粒子の表面改質の態様としては、例えば、気相法複合無機酸化物粒子の表面の一部領域または全体が、有機ケイ素化合物の層で被覆されていてもよい。この場合、気相法複合無機酸化物粒子がコア粒子、有機ケイ素化合物がシェルを形成しており、複合無機酸化物粉体は、コアシェル構造となっている。
【0026】
表面改質剤として機能する有機ケイ素化合物としては、例えば、下記一般式(1)
R1
nSiR2
(4-n) (1)
(式中、R1は、炭素数1以上18以下の炭化水素基を表し、R2は炭素数1以上18以下の炭化水素基、塩素原子、ヒドロキシ基または炭素数1~3のアルコキシ基、好ましくは炭素数1~2のアルコキシ基を表し、nは1~3の整数を表す。)で示される有機ケイ素化合物が挙げられる。一般式(1)におけるR1は、窒素、酸素、リン等のヘテロ原子は含まず、炭素と水素のみのアルキル基である。一般式(1)の有機ケイ素化合物は、その化学構造中に窒素を有すると、帯電量特性に悪影響を与える場合がある。また、一般式(1)の有機ケイ素化合物は、その化学構造中に酸素を有すると、十分な疎水性が得られない可能性がある。R2のアルコキシ基は炭素数1~3であり、炭素数が4以上であると、反応性の低下により表面改質に長時間を要する。さらに、アルコキシ基の炭素数が4以上の有機ケイ素化合物は、一般的に工業的な入手が困難である。
【0027】
また、表面改質剤として機能する有機ケイ素化合物としては、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0028】
また、表面改質剤として機能する有機ケイ素化合物として、例えば、シリコーンオイルが挙げられる。シリコーンオイルの25℃における動粘度は、例えば、0.65mm2/s~10000mm2/sが挙げられる。シリコーンオイルに対して均一な表面改質を行う場合、シリコーンオイルを適当な溶媒に溶解させる必要があり、シリコーンオイルの動粘度が10000mm2/s超の場合、表面改質を行うにあたり大過剰の溶媒量を必要とする。これは工程の複雑化およびコストアップ、さらには溶媒を揮発させる際には、複合無機酸化物粉体の凝集を生じさせやすいといった問題がある。
【0029】
本発明において、気相法複合無機酸化物粒子と表面改質剤を反応せしめる方法は、特に限定されず、一般的な例として、通常の表面改質法を用いることができる。具体的な例としては、表面改質剤を蒸発させて気相法複合無機酸化物粒子と接触させる方法、気相法複合無機酸化物粒子を流動させながら表面改質剤を気相法複合無機酸化物粒子の表面にスプレー等で噴霧する方法(乾式接触法)、表面改質剤を所定の溶媒に溶解させ、気相法複合無機酸化物粒子を、表面改質剤を溶解させた溶媒中に分散させる方法等が挙げられる。このうち、乾式接触法が複合無機酸化物粉体の凝集を防ぎ均一に処理する点で好適である。
【0030】
本発明における表面改質された気相法複合無機酸化物粒子(すなわち、気相法複合無機酸化物粒子の疎水化処理により得られた複合無機酸化物粉体)の炭素含有量は、特に限定されないが、適切な環境安定性と帯電性を確実に得つつ、水分等の吸着を防止する点から、0.5質量%以上11.0質量%以下が好ましい。気相法複合無機酸化物粒子の疎水化処理により得られた複合無機酸化物粉体の炭素含有量が0.5質量%未満である場合、表面改質剤による表面被覆が少ないことを示しており、適切な環境安定性、帯電性を確実に得ることができなくなる傾向がある。一方で、気相法複合無機酸化物粒子の疎水化処理により得られた複合無機酸化物粉体の炭素含有量が11.0重量%超では、過剰の表面改質剤の存在により反応しなかった表面改質剤が気相法複合無機酸化物粒子表面に多量に存在することを示し、反応しなかった表面改質剤に水分が吸着する、あるいは反応しなかった表面改質剤がその他の部材を汚染するなどの可能性がある。
【0031】
気相法複合無機酸化物粒子の表面処理に用いる表面改質剤である有機ケイ素化合物の使用量は、気相法複合無機酸化物粒子100質量部に対して、適切な環境安定性と帯電性を確実に得つつ、水分等の吸着を防止する点から、3.0質量部以上40質量部以下が好ましく、4.0質量部以上35質量部以下がより好ましく、5.0質量部以上25質量部以下が特に好ましい。
【0032】
また、本発明における複合無機酸化物粉体の平均一次粒子径は、特に限定されないが、その下限値は、トナー粒子に埋没しやすくなって安定的な帯電挙動を示さなくなることを確実に防止する点から、3.0nmが好ましく、5.0nmが特に好ましい。一方で、複合無機酸化物粉体の平均一次粒子径の上限値は、トナー粒子に適度に埋没することができずにトナー粒子から離脱して安定した帯電挙動を示さなくなることを確実に防止する点から、100nmが好ましく、85nmが特に好ましい。
【0033】
次に、本発明の複合無機酸化物粉体の製造方法について説明する。ここでは、気相法複合無機酸化物粒子の疎水化処理により得られる複合無機酸化物粉体の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の上記複合無機酸化物粉体の製造方法は、シリカ原料とアルミナ原料を火炎中に導入して気相分解法にて、アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下の気相法複合無機酸化物粒子を得る、気相法複合無機酸化物粒子調製工程と、気相法複合無機酸化物粒子の表面に表面改質剤である有機ケイ素化合物を施与する、有機ケイ素化合物供給工程と、気相法複合無機酸化物粒子と表面改質剤である有機ケイ素化合物を反応させる反応工程と、有機ケイ素化合物が施与されて該有機ケイ素化合物を反応させた気相法複合無機酸化物粒子を、100℃以上370℃以下の加熱温度、15分以上350分以下の加熱時間にて加熱する加熱工程と、を含む。
【0035】
本発明の上記複合無機酸化物粉体を製造するにあたり、上記加熱工程では、不活性ガス雰囲気下、気相法複合無機酸化物粒子を熱処理温度80℃以上370℃以下、好ましくは100℃以上350℃以下、特に好ましくは150℃以上250℃以下、加熱時間15分以上350分以下、好ましくは15分以上300分以下、特に好ましくは30分以上120分以下で熱処理する必要がある。不活性ガスは、特に限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の酸素を含まないガスを用いる必要がある。不活性ガス雰囲気下とするのは、加熱中に表面改質剤と酸素との反応による燃焼を防止する為である。また、不活性ガス雰囲気下とするのは、酸素が存在することにより表面酸化によって改質後の複合無機酸化物粉体が変色するなどの問題が生じることを防止するためである。
【0036】
上記加熱工程における熱処理温度が80℃未満の場合、反応が十分に進行せず所定の疎水化度が得られないという問題がある。一方、熱処理温度が370℃を超えると表面改質剤の分解が生じ、表面改質により得られる上記複合無機酸化物粉体に変色が生じるという問題がある。上記加熱工程における加熱時間が15分未満の場合、反応が十分に進行せず、また、溶媒や副生成物が、得られた上記複合無機酸化物粉体に残留する可能性がある。一方、上記加熱工程における加熱時間が350分超でも、350分以下の場合と比較して特性に顕著な相違は見られず、製造時間、製造コスト等の観点から350分以下の範囲で行うことが好ましい。
【0037】
次に、本発明の複合無機酸化物粉体に関する諸物性の測定方法について、以下に説明する。
【0038】
〔アルミナ含有量の測定〕
エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いて気相法複合無機酸化物粒子の元素分析を行い、アルミナ含有量の測定を行う。
【0039】
〔疎水化度の測定〕
複合無機酸化物粉体1gを200mLの分液ロートに量り取り、これに純水100mLを加えて栓をし、ターブラーミキサーにて90rpmで10分間振とう後、10分間静置する。静置後、下層の混合液を10mm石英セルに採取し、純水をブランクとして、波長500nmの光の透過率を分光光度計にて測定し、この値を疎水化度とする。
【0040】
〔体積抵抗率の測定(JIS K 6911)〕
複合無機酸化物粉体0.5gを粉体抵抗測定システム(三菱ケミカルアナリテック社:MCP―PD51型)の粉体用プローブユニットに投入し、5kNの圧力下にて三菱ケミカルアナリテック社製抵抗率測定装置(商品名:ハイレスターUX)にて体積抵抗率の測定を行う。
【0041】
〔帯電量の測定〕
複合無機酸化物粉体1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、HH環境下およびLL環境下に40時間以上静置する。ここでHH環境下とは温度32.5℃、湿度80%の雰囲気、LL環境下とは温度10℃、湿度10%の雰囲気を意味する。上記条件にて調製されたサンプルをターブラーミキサーで10分間振とうさせ、トナー組成物と鉄粉キャリアの混合物を0.05g採取し、トレックジャパン株式会社製吸引ブローオフ型Q/mメーター(商品名:MODEL230TO)で10秒間ブローオフした後の値をトナー組成物の帯電量とする。
【0042】
〔環境安定性(環境変動比)の評価〕
上記帯電量のHH環境下とLL環境下の比(HH/LL)を環境変動比とし環境変動比が0.48以上のものを環境差が小さく環境安定性に優れるとした。
【0043】
〔帯電立ち上がり特性の評価〕
上記帯電量のLL環境下における1分間ターブラーミキサーにて振とうを行ったときの値を30分間振とうしたときの値で除した値を帯電立ち上がりの数値とする。帯電立ち上がりの値が大きい値であるほど短い振とう時間で十分に帯電していることを示す。帯電立ち上がりの数値が1.50以上のものを帯電立ち上がり特性に優れるとした。
【0044】
〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕
複合無機酸化物粉体1gと流動性改善剤(日本アエロジル株式会社製、フュームドシリカ粉末、商品名「AEROSIL(商標登録)RX200」)1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、上記〔帯電量の測定〕と同様に、HH環境下およびLL環境下に40時間以上静置する。上記条件にて調製したサンプルをターブラーミキサーで30秒、1分、2分、5分、10分、30分間振とうさせ、各時間におけるトナー組成物と鉄粉キャリアの混合物を0.05g採取し、トレックジャパン株式会社製吸引ブローオフ型Q/mメーター(商品名:MODEL230TO)で10秒間ブローオフした後の値をそれぞれ流動性改善剤と複合外添したときの帯電量とし、同様に、上記帯電量のHH環境下とLL環境下の比(HH/LL)を環境変動比とし、環境変動比がいずれの攪拌時間においても0.8以上のものを環境差が小さく環境安定性に優れるとした。
【0045】
〔炭素含有量の測定〕
表面改質剤で表面処理して得られた複合無機酸化物粉体の炭素含有量は、炭素分析装置(株式会社住化分析センター製、商品名:SUMIGRAPH NC-22)を用いて、次の条件により測定することができる。
検出器の条件:「INJ/DET」=100℃、「COL」=70℃
ガス流速:O2=350ml/min、He=80ml/min
【0046】
〔平均一次粒子径の測定〕
透過型電子顕微鏡にて撮影した画像を解析して求めた。具体的には視野を変えて50の画像を撮影し、2500個の複合無機酸化物粉体についてその平均一次粒子径を画像解析し、個数平均にて算出する。
【0047】
本発明の複合無機酸化物粉体は、粉体塗料の外添剤用または電子写真のトナーの外添剤用として使用することができる。
【0048】
本発明の複合無機酸化物粉体が粉体塗料の外添剤として用いられることで、本発明の複合無機酸化物粉体を含有する粉体塗料組成物が得られる。また、本発明の複合無機酸化物粉体が電子写真のトナーの外添剤として用いられることで、本発明の複合無機酸化物粉体を含有する電子写真のトナー組成物が得られる。
【0049】
以下に、本発明の複合無機酸化物粉体を含有する電子写真用トナー組成物の製造方法について説明する。
【0050】
本発明の電子写真用トナー組成物の製造にあたり、本発明の複合無機酸化物粉体の添加量は、所望の特性向上効果が得られるような添加量であれば良く、特に制限されないが、電子写真用トナー組成物中に、本発明の複合無機酸化物粉体が0.1質量%~6.0質量%含有されていることが好ましい。電子写真用トナー組成物中の本発明の複合無機酸化物粉体の含有量が0.1質量%未満では、この複合無機酸化物粉体を添加したことによる帯電に関する諸効果が十分に得られない。また複合無機酸化物粉体の含有量が6.0質量%を超えるとトナー表面から脱離して複合無機酸化物粉体が単体で存在するようになり、画像特性やクリーニング特性に問題が生じてくる。
【0051】
電子写真用トナー組成物中の本発明の複合無機酸化物粉体の含有量S(質量%)は、原料粉末の平均一次粒子径R(nm)に対して、R/40≦S≦R/7の範囲であることが好ましく、R/25≦S≦R/15の範囲であることがより好ましく、特にS=R/20であることが好ましい。
【0052】
電子写真用トナー組成物には、一般に、熱可塑性樹脂の他、少量の顔料及び電荷制御剤、その他の外添剤が含まれている。本発明では、上記複合無機酸化物粉体が配合されていれば、他の成分は従来と同様で良く、磁性、非磁性の1成分系トナー、2成分系トナーのいずれでも良い。また、負帯電性トナー、正帯電性トナーのいずれでも良く、モノクロ、カラーのいずれでも良い。
【0053】
なお、本発明の電子写真用トナー組成物の製造にあたり、外添剤としての本発明の複合無機酸化物粉体は単独で使用されるに限られず、目的に応じて他の金属酸化物粒子等と併用しても良い。例えば、上記複合無機酸化物粉体と、他の表面改質された乾式シリカ微粒子や表面改質された乾式酸化チタン微粒子や改質された湿式酸化チタン微粒子等を併用することができる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、実施例の態様に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
複合無機酸化物の製造を以下のようにして行った。気相法複合無機酸化物粒子の製造装置として、炎管と、炎管の上部に鉛直に伸延した、水素、空気、ガス状のSiCl4及びガス状のAlCl3を炎管に供給する二重壁の原料供給管と、炎管の上部に斜め方向に伸延した、付加的に空気を供給する空気供給管と、を備えた装置(欧州特許第0585544号明細書の実施例1に記載されている公知の製造装置)を用いた。上記製造装置を用いて、核水素または反応水素1.4Nm3/h、空気5.5Nm3/hおよびあらかじめ蒸発させたガス状のAlCl3 3.20kg/hと一緒に混合した。この約200℃の熱混合物中に、更にあらかじめ蒸発させたガス状のSiCl4 0.48kg/hを付加的に供給した。得られた混合物を炎管中で燃焼させ、その際にこれらの炎管中に付加的に空気12Nm3/hを供給した。炎管通過後に生じた粉末をフィルターまたはサイクロン中で、塩酸含有ガスから分離した。付着した塩酸残留物を高温で処理することによって得られた気相法複合無機酸化物粒子をフィルターまたはサイクロンから分離した。気相法複合無機酸化物粒子は次の分析データを有していた。
【0056】
BET比表面積60m2/g、4質量%分散液のpH値4.6、かさ密度50g/l、気相法複合無機酸化物粒子の組成Al2O3 95質量%、SiO2 5質量%。
【0057】
このようにして得られた気相法複合無機酸化物粒子を原料粉末として用い、イソブチルトリメトキシシラン(エボニック インダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)IBTMO」)を表面改質剤として用いた。気相法複合無機酸化物粒子100質量部を反応容器に入れ、窒素雰囲気下、攪拌により気相法複合無機酸化物粒子を流動状態とし、表面改質剤9質量部を噴霧した。攪拌を継続した状態で室温から150℃まで昇温させ、150℃で60分間保持した。その後、冷却することにより、表面改質された気相法複合無機酸化物粒子である複合無機酸化物粉体を得た。このようにして得られた複合無機酸化物粉体について、上記した測定方法により、平均一次粒子径、炭素含有量、体積抵抗率、疎水化度(疎水率)の測定を行った。
【0058】
また、このようにして得られた複合無機酸化物粉体1質量部を、ポリエステルを含有するトナー100質量部に添加してトナー組成物を得た。得られたトナー組成物について、所定条件における帯電量である環境安定性(環境変動比)と帯電立ち上がり特性を、上記した測定方法により評価した。
【0059】
<実施例2>
気相法複合無機酸化物粒子のBET比表面積が90m2/gであり、表面改質剤量を14質量部とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0060】
<実施例3>
気相法複合無機酸化物粒子のBET比表面積が90m2/gであり、表面改質剤の添加量を12質量部とした以外は実施例1と同様の処理を行って複合無機酸化物粉体を得た。
【0061】
<実施例4>
気相法複合無機酸化物粒子のBET比表面積が90m2/gであり、表面改質剤の添加量を9質量部とした以外は実施例1と同様の処理を行って複合無機酸化物粉体を得た。
【0062】
<実施例5>
気相法複合無機酸化物粒子中のアルミナ成分が99質量%であり、BET比表面積が190m2/gであり、表面改質剤量を20質量部とし、処理温度を200℃、処理時間を30分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0063】
<実施例6>
気相法複合無機酸化物粒子中のアルミナ成分が82質量%であり、BET比表面積が15m2/gであり、表面改質剤量を5質量部、処理温度を250℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0064】
<実施例7>
気相法複合無機酸化物粒子のBET比表面積が40m2/gであり、オクチルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)OCTMO」)8質量部を表面改質剤として用い、処理温度を100℃、処理時間を300分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0065】
<実施例8>
ヘキサメチルジシラザン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録) HMDS 」)10質量部を表面改質剤として用い、処理温度を200℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0066】
<実施例9>
気相法複合無機酸化物粒子のBET比表面積が90m2/gであり、ヘキサデシルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)9116」)14質量部を表面改質剤として用い、処理温度を200℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0067】
<実施例10>
気相法複合無機酸化物粒子中のアルミナ成分が80質量%であり、BET比表面積が25m2/gであり、シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン;信越化学工業株式会社製 商品名「KF96-50cs」)7質量部を表面改質剤として用い、処理温度を350℃、処理時間を20分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0068】
<実施例11>
実施例1で作製した複合無機酸化物粉体1gと流動性改善剤(日本アエロジル株式会社製、フュームドシリカ粉末、商品名「AEROSIL(商標登録)RX200」)1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、上記〔帯電量の測定〕と同様の条件にて調製した。得られたトナー組成物について〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕を、上記した測定方法により評価した。
【0069】
<実施例12>
実施例2で作製した複合無機酸化物粉体1gと流動性改善剤(日本アエロジル株式会社製、フュームドシリカ粉末、商品名「AEROSIL(商標登録)RX200」)1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、上記〔帯電量の測定〕と同様の条件にて調製した。得られたトナー組成物について〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕を、上記した測定方法により評価した。
【0070】
<比較例1>
原料粉末に、気相法複合無機酸化物粒子に代えてフュームドシリカ粉末(日本アエロジル株式会社製 商品名「AEROSIL(商標登録)50」)を用い、イソブチルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)IBTMO」)15質量部を表面改質剤として用い、処理温度を200℃、処理時間を150分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0071】
<比較例2>
原料粉末に、気相法複合無機酸化物粒子に代えてフュームドシリカ粉末(日本アエロジル株式会社製 商品名「AEROSIL(商標登録)200」)を用い、ヘキサメチルジシラザン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)HMDS」)20質量部を表面改質剤として用い、処理時間を120分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0072】
<比較例3>
原料粉末に、気相法複合無機酸化物粒子に代えてフュームドアルミナ粉末(エボニック インダストリーズAG製 商品名「AEROXIDE(商標登録)AluC」)を用い、ヘキサデシルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)9116」)20質量部を表面改質剤として用い、処理温度を200℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0073】
<比較例4>
原料粉末に、気相法複合無機酸化物粒子に代えてフュームドチタニア粉末(日本アエロジル社製 商品名「AEROXIDE(商標登録)TiO2P90」)を用い、イソブチルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)IBTMO」)15質量部を表面改質剤として用い、処理時間を80分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0074】
<比較例5>
原料粉末に、気相法複合無機酸化物粒子に代えてフュームドシリカ粉末(日本アエロジル社製 商品名「AEROSIL(商標登録)90」)にフュームドアルミナ粉末(エボニックインダストリーズAG製 商品名「AEROXIDE(商標登録)AluC」)を1質量%となるように混合した混合無機酸化物粒子を用い、イソブチルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)IBTMO」)15質量部を表面改質剤として用い、処理時間を400分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0075】
<比較例6>
気相法複合無機酸化物粒子中のアルミナ成分が1質量%であり、BET比表面積が170m2/gであり、表面改質剤量を20質量部とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0076】
<比較例7>
気相法複合無機酸化物粒子中のアルミナ成分が1質量%であり、BET比表面積が80m2/gであり、表面改質剤量を10質量部とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0077】
<比較例8>
気相法複合無機酸化物粒子中のアルミナ成分が50質量%であり、BET比表面積が45m2/gであり、オクチルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)OCTMO」)13質量部を表面改質剤として用い、処理温度を200℃、処理時間を120分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0078】
<比較例9>
気相法複合無機酸化物粒子中のアルミナ成分が25質量%であり、BET比表面積が80m2/gであり、オクチルトリメトキシシラン(エボニックインダストリーズAG製 商品名「Dynasylan(商標登録)OCTMO」)15質量部を表面改質剤として用い、処理温度を200℃、処理時間を30分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0079】
<比較例10>
表面改質剤の処理部数を12質量部、処理温度を80℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0080】
<比較例11>
表面改質剤を12質量部、処理温度を400℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0081】
<比較例12>
表面改質剤を12質量部、処理時間を10分とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0082】
<比較例13>
比較例4で作製したフュームドチタニア粉末1gと流動性改善剤(日本アエロジル株式会社製、フュームドシリカ粉末、商品名「AEROSIL(商標登録)RX200」)1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、上記〔帯電量の測定〕と同様の条件にて調製した。得られたトナー組成物について〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕を、上記した測定方法により評価した。
【0083】
<比較例14>
比較例3で作製したフュームドアルミナ粉末1gと流動性改善剤(日本アエロジル株式会社製、フュームドシリカ粉末、商品名「AEROSIL(商標登録)RX200」)1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、上記〔帯電量の測定〕と同様の条件にて調製した。得られたトナー組成物について〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕を、上記した測定方法により評価した。
【0084】
<比較例15>
比較例1で作製したフュームドシリカ粉末1gと流動性改善剤(日本アエロジル株式会社製、フュームドシリカ粉末、商品名「AEROSIL(商標登録)RX200」)1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、上記〔帯電量の測定〕と同様の条件にて調製した。得られたトナー組成物について〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕を、上記した測定方法により評価した。
【0085】
<比較例16>
比較例7で作製した気相法複合無機酸化物粒子1gと流動性改善剤(日本アエロジル株式会社製、フュームドシリカ粉末、商品名「AEROSIL(商標登録)RX200」)1gと負帯電性トナー100gとをミキサーにて攪拌混合してトナー組成物を得、このトナー組成物2gと鉄粉キャリア48gとをガラス容器(75ml容量)に入れ、上記〔帯電量の測定〕と同様の条件にて調製した。得られたトナー組成物について〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕を、上記した測定方法により評価した。
【0086】
上記実施例1-10及び比較例1-12に記載の処理条件を下記表1に、表面改質剤の対応表を表2に、物性データおよび応用特性を下記表3に、実施例11-12及び比較例13-16に記載の〔流動性改善剤と複合外添したときの環境安定性(環境変動比)の評価〕を表4にまとめて記載する。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
上記表1、3から、実施例と比較例10、11、12とを比較することにより、気相法複合無機酸化物粒子が適切な加熱条件で処理された実施例の複合無機酸化物粉体は、良好な環境変動比(すなわち、環境安定性)と良好な帯電立ち上がり特性を示した。また、実施例では、体積抵抗率が1.0×1011Ω・cm以上9.0×1014Ω・cm以下であり、適切な帯電量とすることができることが判明した。一方で、比較例10、11、12では、体積抵抗率が1.0×1010Ω・cm以下と1.0×1011Ω・cm未満の体積抵抗率であった。また、比較例10、11、12では、環境変動比が0.31以下、帯電立ち上がり特性が0.51以下と、良好な環境変動比(すなわち、環境安定性)も良好な帯電立ち上がり特性も得られなかった。
【0092】
実施例と比較例1、2、3の比較から、気相法複合無機酸化物粒子に代えてフュームドシリカおよびフュームドアルミナを用いると、体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上または体積抵抗率が1.0×1011Ω・cm未満となり、適切な帯電量とすることができないことが判明した。また、比較例1、2、3では、良好な環境変動比は得られたものの、帯電立ち上がり特性が0.49以下と、良好な帯電立ち上がり特性は得られなかった。
【0093】
また、比較例4から、気相法複合無機酸化物粒子に代えてフュームチタニアを用いると、環境変動比および帯電立ち上がり特性について良好な結果を示したが、体積抵抗率が1.0×1011Ω・cm未満であり、適切な帯電量とすることができないことが判明した。
【0094】
また、実施例と比較例5~9の比較から、アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下のアルミナとシリカを含む気相法複合無機酸化物粒子に代えて、アルミナ含有量が50質量%以下の、アルミナとシリカを含む気相法複合無機酸化物粒子またはフュームドシリカ粉末にフュームドアルミナ粉末を混合した混合無機酸化物粒子を用いると、良好な帯電立ち上がり特性は得られなかった。
【0095】
また、上記表4の実施例11、12から、アルミナ含有量が80質量%以上99質量%以下であり体積抵抗率が1.0×1011Ω・cm以上9.0×1014Ω・cm以下である実施例1、2のアルミナとシリカを含む気相法複合無機酸化物粒子と流動性改善剤とを複合外添して得たトナー組成物は、良好な環境安定性(環境変動比)を得ることができた。一方で、実施例1、2の気相法複合無機酸化物粒子に代えて、比較例1のフュームドシリカ粉末、比較例3のフュームドアルミナ粉末、比較例4のフュームドチタニア粉末、比較例7の気相法複合無機酸化物粒子を用いて、流動性改善剤と複合外添して得たトナー組成物である比較例13~16では、良好な環境安定性(環境変動比)を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の複合無機酸化物粉体は、適切な帯電量を維持でき、良好な環境安定性と良好な帯電立ち上がり特性を有するので、例えば、粉体塗料の外添剤用または電子写真のトナーの外添剤用の分野で利用可能であり、特に、高速印刷、小型化された印刷装置の分野で利用価値が高い。