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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】カーテンウォール固定構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/90 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
E04B2/90
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020211818
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098334
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈良 栄達
(72)【発明者】
【氏名】三宅 玲子
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-042085(JP,A)
【文献】特開平05-051987(JP,A)
【文献】実開平05-014330(JP,U)
【文献】実開昭60-017812(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の躯体に取り付けられたファスナーに対してカーテンウォールの枠材を固定するカーテンウォール固定構造であって、
前記枠材から突出し、固定ボルトが挿通されるボルト孔を備える突出片と、
前記ボルト孔に対して、前記カーテンウォールの正面視で左右方向または上下方向に沿って挿通される固定ボルトと、
前記固定ボルトに螺合する2以上の雌ねじ部と、
を有し、
前記ファスナーは、前記固定ボルトが挿通されるボルト挿通部を備える柱体を有し、
前記ファスナーと前記突出片とは、前記固定ボルトおよび前記雌ねじ部によって固定されており、
2以上の前記雌ねじ部のうち1つは前記突出片と一体的に形成されまたはナットとして該突出片に締め込み固定され、他の1つ以上は前記柱体と一体的に形成されまたはナットとして該柱体に締め込み固定されていることを特徴とするカーテンウォール固定構造。
【請求項2】
前記枠材は、前記カーテンウォールにおける下部の横枠材であり、前記固定ボルトは前記左右方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカーテンウォール固定構造。
【請求項3】
前記雌ねじ部は、
前記ボルト孔に形成された雌ねじ溝と、
前記ボルト挿通部を前記固定ボルトがねじ切りすることにより形成される部分と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーテンウォール固定構造。
【請求項4】
前記ボルト孔は前記固定ボルトが嵌合可能に構成され、
前記雌ねじ部は、前記固定ボルトのヘッドとともに前記突出片を挟持するナットを含むことを特徴とする請求項1に記載のカーテンウォール固定構造。
【請求項5】
前記ボルト挿通部は、前記固定ボルトが嵌合可能に構成され、該固定ボルトが貫通しており、
前記雌ねじ部は、前記柱体を両側から挟持するナットを含むことを特徴とする請求項1に記載のカーテンウォール固定構造。
【請求項6】
前記枠材には、前記固定ボルトの延在方向に沿って設けられ枠外側に開口するスライダ溝が形成され、
前記ファスナーは、枠内側に突出して前記スライダ溝に挿入されて前記固定ボルトの延在方向に案内するスライダ突起を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のカーテンウォール固定構造。
【請求項7】
前記スライダ溝は下方に開口し、前記スライダ突起は上方に突出していることを特徴とする請求項6に記載のカーテンウォール固定構造。
【請求項8】
前記スライダ突起は縦断面視で凸の円弧形状であって、見込み方向の最大幅部が前記スライダ溝における室外側面および室内側面に当接していることを特徴とする請求項6または7に記載のカーテンウォール固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の躯体に対してカーテンウォールを固定するカーテンウォール固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には建物の外壁を構成するカーテンウォールを躯体に対して固定する構造が示されている。特許文献1の固定構造では、カーテンウォールに鉤形状の上側保持部が設けられており、施工現場で該上側保持部を躯体側のフランジに引掛けて、カーテンウォールの一部とフランジとをビスにより螺着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-100189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の固定構造では、ビスがフランジとカーテンウォールの一部とを見込み方向に挿通して螺着している。ところが、フランジ周辺部は狭所であり施工現場で作業を行うには制約があることから小さいビスが用いられる。そうすると、カーテンウォールに対して左右方向の外力(振動による外力および静的な外力を含む)が作用するとビスには局所的な剪断応力が加わり、該ビスの寿命が低下する懸念がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、外力を受けても十分な強度が維持されるカーテンウォール固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、建物の躯体に取り付けられたファスナーに対してカーテンウォールの枠材を固定するカーテンウォール固定構造であって、前記枠材から突出し、固定ボルトが挿通されるボルト孔を備える突出片と、前記ボルト孔に対して、前記カーテンウォールの正面視で左右方向または上下方向に沿って挿通される固定ボルトと、前記固定ボルトに螺合する2以上の雌ねじ部と、を有し、前記ファスナーは、前記固定ボルトが挿通されるボルト挿通部を備える柱体を有し、前記ファスナーと前記突出片とは、前記固定ボルトおよび前記雌ねじ部によって固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造では、固定ボルトの延在方向の外力が作用すると固定ボルトには引張り応力および圧縮応力が作用するが剪断応力は作用しない。固定ボルトは引張り応力および圧縮応力に対して耐性があり、十分な強度が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態にかかるカーテンウォール固定構造を備える建物の一部を室内側から見た正面図である。
図2図1におけるII~II線視による縦断面図である。
図3】建物におけるカーテンウォール固定構造およびその周辺部の斜視図である。
図4】カーテンウォール固定構造の正面図である。
図5図4におけるV~V線視による縦断面図である。
図6図4におけるVI~VI線視による縦断面図である。
図7】第1の変形例にかかるカーテンウォール固定構造の正面図である。
図8】第2の変形例にかかるカーテンウォール固定構造の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明にかかるカーテンウォール固定構造の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の実施形態にかかるカーテンウォール固定構造10を備える建物12の一部を室内側から見た正面図である。図2は、図1におけるII~II線視による縦断面図である。カーテンウォール固定構造10は、建物12の躯体であるPC板20bに対してカーテンウォール14を固定するものである。
【0011】
まず、建物12について説明する。
図1および図2に示すように、建物12は同一の構成を有した複数のカーテンウォール14を左右の方立(図示略)の間で横に並設することによって外壁を構成したものである。外壁を構成する個々のカーテンウォール14は、枠体16の内部に面材18を備えている。枠体16は、上下の横枠材(枠材)16a,16b及び左右の縦枠材16c,16cによって構成した矩形状を成すものである。
【0012】
本出願において、見込み方向とは建物12の室内外方向、(図中に矢印Zで示す。図1では紙面の垂直方向)をいう。見込み面とは見込み方向に沿って延在する面をいう。見付け方向とは見込み方向に直交する方向であり、上下方向に長尺な縦枠材16c等の場合はその長手方向に直交する左右方向(図中に矢印Xで示す方向)をいい、左右方向に長尺な上枠16a等の場合はその長手方向に直交する上下方向(図中に矢印Yで示す方向)をいう。見付け面とは見付け方向に沿った面をいう。
【0013】
また、枠状部材の内側(内周)とは、例えば枠体16の枠内部分をいう。枠状部材の外側(外周)とは、例えば枠体16の建物躯体に固定される枠外部分をいう。さらに、枠状部材の外側から内側に向かう方向を枠内側といい、枠状部材の内側から外側に向かう方向を枠外側という。
【0014】
複数のカーテンウォール14は、それぞれ上下のPC板(躯体)20a,20bの間の開口20cを塞ぐように設けられている。PC板20a,20bは、プレキャストコンクリート製の外壁部材である。カーテンウォール14は上部がPC板20aに対して一対の固定構造22で固定され、左側下部がPC板20bに対してカーテンウォール固定構造10によって固定され、右側下部が固定構造11によって固定されている。
【0015】
横枠材16a,16b、縦枠材16c,16cは、それぞれアルミニウム合金等の金属によって成形した押し出し形材である。建物12には床や天井の基礎となるスラブ(躯体)28が設けられている。カーテンウォール14は、固定構造10,11,22によってスラブ28に固定されていてもよい。カーテンウォール固定構造10、固定構造11および固定構造22は異なる構造である。本願では主にカーテンウォール固定構造10について説明する。
【0016】
次に、カーテンウォール固定構造10について説明する。
図3は、建物12におけるカーテンウォール固定構造10およびその周辺部の斜視図である。図4は、カーテンウォール固定構造10の正面図である。図5は、図4におけるV~V線視による縦断面図である。図6は、図4におけるVI~VI線視による縦断面図である。図4では、後述する外力Fを概念的に矢印で示している。
【0017】
カーテンウォール固定構造10は、固定アングル30と、固定ボルト32と、ファスナー34と、スライダ壁部60とを有する。固定ボルト32は適度に太いボルトである。固定アングル30はカーテンウォール14における横枠材16bの室内側の見付け面16baに設けられる金属部材(例えば、鋼材)であり、適度な厚みと強度を有している。固定アングル30は見付け面16baに取り付ける取付片30aと、室内側に突出する突出片30bとからなるL字状部材である。取付片30aは2つのアングル取付ボルト40,40によって見付け面16baに固定されている。見付け面16baに対する取付片30aの固定手段は、アングル取付ボルト40以外にも適度に強固なものであればよい。
【0018】
取付片30aが見付け面16baに固定するのは、カーテンウォール14を躯体に取り付ける以前に予め横材に固定しておけば良い。したがって、アングル取付ボルト40,40が取り付けられる箇所には特段のスペース的制約がなく取付が容易であって、しかもアングル取付ボルト40として適度に大径で高強度のものを適用することができる。また、見付け面16baは左右方向に長尺であることから、取付片30aも左右方向の寸法の制約がほとんどなく、2本のアングル取付ボルト40,40を左右方向に並列して設けることができる。強度条件によっては、アングル取付ボルト40は1本または3本以上としてもよい。固定アングル30が取り付けられる見付け面16baの裏側には裏板41(図5参照)を設けてもよい。
【0019】
突出片30bは、取付片30aから90度屈曲して鉛直面を形成するように室内側に突出している。突出片30bの中央部には固定ボルト32が挿通するボルト孔30baが形成されている。ボルト孔30baには固定ボルト32が螺入可能な雌ねじ溝(雌ねじ部)が形成されている。固定ボルト32はボルト孔30baを挿通して左右方向に延在する。取付片30aは固定ボルト32が左右方向に延在するようにボルト孔30baから挿入されるように形成されていれば良く、必ずしも取付片30aから90度屈曲する形態でなくてもよい。
【0020】
ファスナー34は、PC板20bの上面20baに取り付ける台座部42と、台座部42の室外側縁から枠内側(この場合上側)に突出している横柱体(柱体)44と、横柱体44から分岐してさらに枠内側(この場合上側)に突出しているスライダ突起46とを有する。台座部42、横柱体44およびスライダ突起46は左右方向長さが等しい。横柱体44およびスライダ突起46は左右方向に延在しており、見込み方向に並列している。
【0021】
PC板20bの上面20baには埋込板48が埋め込まれて補強されている。台座部42は、高さ調整用ライナー50を介して埋込板48および上面20baに固定される。高さ調整用ライナー50は必要に応じて1以上が台座部42と埋込板48との間に設けられる。高さ調整用ライナー50を介在させることによりファスナー34の高さ方向の調整が可能である。高さ調整用ライナー50は省略してもよい。
【0022】
台座部42は、見込み方向に長い2つの長孔52を備えており、該長孔52を挿通するファスナー固定ボルト54によってPC板20bに固定されている。2つのファスナー固定ボルト54は左右方向に並列している。長孔52およびファスナー固定ボルト54により、ファスナー34は見込み方向の位置調整が可能である。
【0023】
台座部42の上面42aの全面には左右方向に延在するギザが形成されている。上面42aとファスナー固定ボルト54のヘッドとの間にはワッシャ56が設けられている。ワッシャ56の下面には上面42aと同様のギザが形成されている。上面42aとワッシャ56とのギザ同士が噛み合うことによりファスナー34は見込み方向にずれることが防止される。
【0024】
横柱体44は断面C字形状であって枠内側(この場合上側)に開口するボルト挿通部58が形成されている。カーテンウォール固定構造10の組み立て前の状態で、ボルト挿通部58が形成する空間部断面は固定ボルト32の雄ねじ部32aの断面よりやや小さく設定されている。
【0025】
ボルト挿通部58は固定ボルト32が挿通される部分である。なお、本願におけるボルト挿通部58およびボルト挿通部58B(図8参照)に対する「挿通」とは固定ボルト32が入り込む広義であって、嵌合の場合とねじ切りしながら螺合する場合とを含むものとする。固定ボルト32はボルト挿通部58に対して「ねじ切り」しながら螺合する。また、後述のボルト挿通部58Bのケースは「嵌合」に相当するが、孔径は一般的なはめ合い公差に基づいて設定するとよい。
【0026】
スライダ突起46は横柱体44よりも室外側に配置されていて枠内側(この場合上側)に突出している。スライダ突起46は後述するスライダ壁部60のスライダ溝62に挿入される部分である。スライダ突起46の先端部46aは縦断面視(図6参照)で凸の円弧形状であり見込み方向にやや膨らんだ形状となっている。
【0027】
ファスナー34において少なくともボルト挿通部58は固定ボルト32よりも軟質材で構成されている。ファスナー34は、例えばアルミニウム合金等の金属によって成形した押し出し形材である。
【0028】
カーテンウォール14における横枠材16bの見付け面16baには、室内側に突出するスライダ壁部60が設けられている。スライダ壁部60には枠外側(この場合下側)に開口するスライダ溝62が形成されている。スライダ壁部60の断面はコ字形状である。スライダ壁部60は横枠材16bと一体的に押し出し成型されており該横枠材16bの全幅にわたって形成されているが、一部には切欠60aが形成されている。切欠60aには固定アングル30が設けられている。
【0029】
上記のスライダ突起46はスライダ溝62に挿入されて横枠材16bを左右方向に案内する。図6に示すように、スライダ突起46における先端部46aの最大幅部46aaはスライダ溝62における室外側面62aおよび室内側面62bに当接しており、横枠材16bを見込み方向に位置決めするとともに、左右方向にがたつきなくスライドさせることができる。先端部46aは凸の円弧形状であることからスライダ突起46をスライダ溝62に嵌め込みやすく、しかも隙間が生じにくい。
【0030】
本実施形態ではスライダ突起46の先端部46aとスライダ溝62の天面62cとは当接しているが、両者の間には隙間が設けられていてもよい。先端部46aと天面62cとの間に隙間が設けられる場合には、カーテンウォール14の高さ方向の位置決めは、例えば上記の固定構造22によってなされる。
【0031】
カーテンウォール14を建物12に取り付ける施工手順について説明する。
カーテンウォール14を建物12に取り付ける施工前の段階では、カーテンウォール14の横枠材16bに固定アングル30が予め固定されている。上記のとおりスライダ壁部60は横枠材16bと一体的に形成されている。
【0032】
カーテンウォール14を建物12に取り付ける施工では、まずファスナー34を躯体であるPC板20bに固定する(図4参照)。ファスナー34は規定高さとなるように高さ調整用ライナー50を用いて調整する。また、ファスナー34は見込み方向に規定位置となるように長孔52とファスナー固定ボルト54とにより調整する。
【0033】
そして、スライダ壁部60のスライダ溝62にファスナー34のスライダ突起46が挿入されるようにしてカーテンウォール14を仮配置する。さらに、所定の手段によってカーテンウォール14を左右方向の規定位置となるように調整する。このとき、スライダ溝62にスライダ突起46が隙間なく挿入されていることから、カーテンウォール14は適正に安定して左右方向のスライドが可能である。左右に位置決めされたカーテンウォール14は所定の手段によって仮固定する。
【0034】
この後、固定ボルト32を突出片30bのボルト孔30baに対して、図4の右から左方向に向かって螺入する。固定ボルト32のヘッド32bと突出片30bとの間にはワッシャ64を入れてもよい。固定ボルト32の雄ねじ部32aはボルト孔30baを抜けてファスナー34の横柱体44に達する。ファスナー34は位置調整されており、固定ボルト32とボルト挿通部58とは同軸になっている。
【0035】
固定ボルト32をさらに螺進させると、雄ねじ部32aはボルト挿通部58をねじ切りして雌ねじ部66を形成する。これにより、雄ねじ部32aが螺合する雌ねじ部としての独立的な部品が不要で部品点数を削減できる。ねじ切りされた雌ねじ部66は、当然に雄ねじ部32aに螺合している。ボルト挿通部58は固定ボルト32よりも軟質材で構成されており、しかも断面C字形状であって開口を有することからねじ切りが容易である。ただし、設計条件によってはボルト挿通部58を開口部のない筒状体としてもよい。
【0036】
ヘッド32bがワッシャ64を介して突出片30bに当接する位置まで達すると、雄ねじ部32aはボルト挿通部58に適度に深く入り込み、これに応じた深い雌ねじ部66が形成される。
【0037】
こうして、横枠材16bの突出片30bとPC板20bに固定されたファスナー34とは、固定ボルト32および2つの雌ねじ部(すなわち雌ねじ溝が形成されたボルト孔30baと雌ねじ部66が形成された横柱体44)を介して固定される。なお、固定ボルト32の雄ねじ部32aにさらに別のナットを設けて、いわゆるダブルナット式に突出片30bまたは横柱体44を一層強固に固定してもよい。このように、突出片30bとファスナー34とは、固定ボルト32および2以上の雌ねじ部によって固定可能である。
【0038】
施工されたカーテンウォール固定構造10では、カーテンウォール14に対して左右方向(横材の長尺方向)の外力Fが作用すると固定ボルト32には引張り応力および圧縮応力が作用するが剪断応力は作用しない。固定ボルト32は引張り応力および圧縮応力に対して耐性があり、十分な強度が維持される。雌ねじ部66は適度に深く形成することが可能であり、外力Fによって雌ねじ部66や横柱体44が破損することはない。また、固定アングル30およびファスナー34の周辺部はスペース的制約が少ないため、必要に応じて固定ボルト32を大径化して一層高強度にすることも可能である。
【0039】
なお外力Fが作用した場合、固定アングル30を横枠材16bに固定しているアングル取付ボルト40には剪断応力が作用する。しかしながら、固定アングル30の周辺部はスペース的制約が少なく、しかも横枠材16bへの取り付けは施工現場でなく製造に好適な環境で行うことが可能で、適度に大径のアングル取付ボルト40を複数設けることができ、該アングル取付ボルト40は十分な強度を維持することができる。
【0040】
図7は、第1の変形例にかかるカーテンウォール固定構造10Aの正面図である。図8は、第2の変形例にかかるカーテンウォール固定構造10Bの正面図である。各変形例では、上記と同様の構成要素について同符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0041】
図7に示すように、カーテンウォール固定構造10Aでは、突出片30bにボルト孔30Abaが形成されている。上記の例におけるボルト孔30baは雌ねじ溝が形成されていたのに対して、ボルト孔30Abaは固定ボルト32の雄ねじ部32aよりわずかに大径であり、該雄ねじ部32aが嵌合可能となっている。また、突出片30bと横柱体44との間で雄ねじ部32aにはナット(雌ねじ部)68が螺入されている。
【0042】
カーテンウォール固定構造10Aを適用する場合には、まず固定ボルト32を占め込みながら固定アングル30を左側に変位させて位置調整を行い、その後ナット68を矢印で示すように右側に締め込み、ワッシャ64を介してヘッド32bとナット68とにより突出片30bを挟持して固定することができる。このようなカーテンウォール固定構造10Aを用いると、横枠材16bとファスナー34とは、ヘッド32b、雄ねじ部32a、ナット68を介して固定される。
【0043】
図8に示すように、カーテンウォール固定構造10Bでは、突出片30bにボルト孔30Bbaが形成されている。ボルト孔30Bbaは上記のボルト孔30Abaと同様の貫通孔である。また、横柱体44にはボルト挿通部58Bが形成されている。上記の例におけるボルト挿通部58は固定ボルト32によってねじ切りされ得る径であったのに対して、ボルト挿通部58Bは固定ボルト32の雄ねじ部32aよりわずかに大径であり、該雄ねじ部32aが貫通可能となっている。この場合の雄ねじ部32aは十分に長く、ボルト挿通部58Bを貫通して図8における左側に突出している。雄ねじ部32aにおけるこの突出部分にはナット(雌ねじ部)70が螺入されている。また、突出片30bと横柱体44との間で雄ねじ部32aでは、ナット68の左側にナット(雌ねじ部)72が螺入されている。
【0044】
カーテンウォール固定構造10Bを適用する場合には、まず左側のナット70を締めこんでいくことにより固定ボルト32が左側に引き寄せられる。これにより固定アングル30および横枠材16bも左側へ変位し、所定の位置に位置決めされる。その後、ナット68を矢印で示すように右側に締めこみ、ワッシャ64を介してナット72とヘッド32bとにより突出片30bを挟持して固定する。さらに、ナット72を矢印で示すように左側に締め込み、ワッシャ64を介してナット70とナット72とにより横柱体44を両側から挟持して固定することができる。このようなカーテンウォール固定構造10Bを用いると、横枠材16bとファスナー34とは、ヘッド32b、雄ねじ部32a、ナット68,70,72を介して位置決めおよび固定される。
【0045】
なお、上記のカーテンウォール固定構造10,10A,10Bはカーテンウォール14の下部に設けられており、カーテンウォール14を設置する際にスライダ溝62にスライダ突起46を挿入させやすく、しかも高所にあるよりも下部に設けられていた方が作業性がよい。また、固定ボルト32にカーテンウォール14の自重がかからない構造とすることができる。ただし、条件によっては、上下逆としてカーテンウォール14の上部に設けてもよい。
【0046】
図示は省略するが、カーテンウォール固定構造10は縦枠材16cに設けられていてもよい。この場合も、図3に示した横枠材16bに設ける例と同様の作用効果がある。カーテンウォール固定構造10はカーテンウォール14の角部に設けられていてもよいし、縦枠材16cにおける任意高さに設けることも可能である。カーテンウォール固定構造10A,10Bについても同様である。
【0047】
また、上記の各カーテンウォール固定構造10,10A,10Bは、正面視で固定ボルト32が左右方向に沿うような向きに設けられているが、向きを90°回転させて上下方向に沿うように設けてもよい。この場合、カーテンウォール14に対して上下方向の外力が作用すると固定ボルト32には引張り応力および圧縮応力が作用するが剪断応力は作用せず、十分な強度が維持される。カーテンウォール固定構造10,10A,10Bを縦向きに設ける場合、固定対象は横枠材16a,16bおよび縦枠材16cのいずれでもよい。
【0048】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、建物の躯体に取り付けられたファスナーに対してカーテンウォールの枠材を固定するカーテンウォール固定構造であって、前記枠材から突出し、固定ボルトが挿通されるボルト孔を備える突出片と、前記ボルト孔に対して、前記カーテンウォールの正面視で左右方向または上下方向に沿って挿通される固定ボルトと、前記固定ボルトに螺合する2以上の雌ねじ部と、を有し、前記ファスナーは、前記固定ボルトが挿通されるボルト挿通部を備える柱体を有し、前記ファスナーと前記突出片とは、前記固定ボルトおよび前記雌ねじ部によって固定されていることを特徴とする。
このような構造では、固定ボルトの延在方向の外力が作用すると固定ボルトには引張り応力および圧縮応力が作用するが剪断応力は作用しない。固定ボルトは引張り応力および圧縮応力に対して耐性があり、十分な強度が維持される。
【0049】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、前記枠材は、前記カーテンウォールにおける下部の横枠材であり、前記固定ボルトは前記左右方向に沿って設けられていることを特徴とする。
これにより、特に横方向の外力に対して十分な強度が維持される。
【0050】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、前記雌ねじ部は、前記ボルト孔に形成された雌ねじ溝と、前記ボルト挿通部を前記固定ボルトがねじ切りすることにより形成される部分と、を含むことを特徴とする。
これにより、雌ねじ部としての独立的な部品が不要で部品点数を削減できる。
【0051】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、前記ボルト孔は前記固定ボルトが嵌合可能に構成され、前記雌ねじ部は、前記固定ボルトのヘッドとともに前記突出片を挟持するナットを含むことを特徴とする。
これにより突出片が容易に固定される。
【0052】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、前記ボルト挿通部は、前記固定ボルトが嵌合可能に構成され、該固定ボルトが貫通しており、前記雌ねじ部は、前記横柱体を両側から挟持するナットを含むことを特徴とする。
これにより横柱体が容易に固定される。
【0053】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、前記枠材には、前記固定ボルトの延在方向に沿って設けられ枠外側に開口するスライダ溝が形成され、前記ファスナーは、枠内側に突出して前記スライダ溝に挿入されて前記固定ボルトの延在方向に案内するスライダ突起を備えることを特徴とする。
この構造により、カーテンウォールが所定方向に適正に案内される。
【0054】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、前記スライダ溝は下方に開口し、前記スライダ突起は上方に突出していることを特徴とする。
これにより、カーテンウォールを設置する際にスライダ溝にスライダ突起を挿入させやすい。また、カーテンウォール固定構造をカーテンウォールの下部に設置でき作業性がよくなる。
【0055】
本発明にかかるカーテンウォール固定構造は、前記スライダ突起は縦断面視で凸の円弧形状であって、見込み方向の最大幅部が前記スライダ溝における室外側面および室内側面に当接していることを特徴とする。
スライダ突起が凸の円弧形状であると、スライダ溝に嵌め込みやすく、しかも隙間が生じにくい。
【0056】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
10,10A,10B カーテンウォール固定構造、14 カーテンウォール、20a,20b PC板(躯体)、16a,16b 横枠材(枠材)、16ba 見付け面、16c 縦枠材(枠材)、28 スラブ(躯体)、30 固定アングル、30a 取付片、30b 突出片、30Aba,30ba,30Bba ボルト孔、32 固定ボルト、32a 雄ねじ部、32b ヘッド、34 ファスナー、42 台座部、44 横柱体(柱体)、46 スライダ突起、46a 先端部、46aa 最大幅部、58,58B ボルト挿通部、60 スライダ壁部、62 スライダ溝、66 雌ねじ部、68,70,72 ナット(雌ねじ部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8