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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】鉄道車両用空調排気口構造及び鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61D 27/00 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
B61D27/00 V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020213216
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099446
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒屋 智博
(72)【発明者】
【氏名】森 優智
(72)【発明者】
【氏名】内川 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠
(72)【発明者】
【氏名】松岡 克弥
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156033(JP,A)
【文献】特開2006-256383(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056347(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の空気を排気ダクトに排気する鉄道車両用空調排気口構造において、
前記車室の床に設置された座席の下側に設けられた排気口と、
底面が大きく開口する筒状の枠本体、及び、前記枠本体の前記底面と反対側に位置する端部に設けられた上面を備え、前記上面を前記排気口の開口部と対向させた状態で前記排気口に被せられる保護枠と、を有し、
前記保護枠は、前記上面のみに複数の通気穴が設けられ、前記座席の継ぎ目の真下となる領域外に配置されており、
前記車室の前記空気が、前記複数の通気穴から前記排気口まで前記枠本体を通り抜けて直線的に流れること、
前記排気口の流路空間を車室側に位置する第1空間部と前記車室と反対側に位置する第2空間部とに仕切ると共に、前記第1空間部と前記第2空間部とを連通させる連通部を形成する流量調整板を有し、
前記連通部が1箇所だけに設けられていること、
前記排気口は、前記床の下面と同じ位置あるいは前記下面より下側となるダクト本流に近い位置に、前記流量調整板が固定されていること、
を特徴とする鉄道車両用空調排気口構造。
【請求項2】
請求項に記載する鉄道車両用空調排気口構造において、
前記流路空間は、流路軸線に対して直交する方向に切ったときの断面形状が長方形であり、
前記流量調整板は、長方形の板であり、
前記連通部は、前記流路空間の一方の短辺側内壁と前記流量調整板との間隔に応じて開口面積が調整されていること、
を特徴とする鉄道車両用空調排気口構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する鉄道車両用空調排気口構造を備えることを
特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席の下側に設けられた鉄道車両用空調排気口構造及び鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、空調システムが設けられ、車内環境が維持されている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。空調システムは、給気口と排気口が車室に設けられ、給気口が給気ダクトを介して空調装置に接続され、排気口が排気ダクトを介して空調装置に接続されている。例えば、空調装置が床下に配置される鉄道車両では、排気ダクトが車両前後方向(レール方向)に沿って床の下側に敷設され、排気口が各座席の下側に設けられている(例えば特許文献4参照)。
【0003】
図7図9に従来の鉄道車両用空調排気口構造100(以下「排気口構造100」ともいう)を示す。図7に示すように、排気口構造100は、排気口110と、保護枠120と、水切り板130と、流量調整板140と、シール部材150とを備える。排気口110は、床51を貫通した状態で設置され、床51の下側に敷設された排気ダクト300に接続されている。図8に示すように、保護枠120は、箱形状をなし、排気口110の開口部113(図中上側開口部)を覆うように設置されて、排気口110から排気ダクト300内にゴミ等の異物が吸い込まれることを防いでいる。保護枠120は、上面121と枠本体127の一側面123(図中左側の側板)に多数の通気穴121a,123aが形成されている。
【0004】
例えば図7に示すように、保護枠120が座席200の継ぎ目201の真下となる領域UAに配置されている場合、座席200に座っている乗客がこぼした飲み物等の流体が、図中矢印Dに示すように、保護枠120の上面121に落下する。落下した飲み物等の流体が通気穴121aを介して排気口110に吸い込まれると、排気ダクト300や空調装置内部で飛散するが、排気ダクト300や空調装置の清掃には手間がかかる。そこで、保護枠120は、排気口110の上方となる位置に、2枚の水切り板130が上下に並んで固定され、通気穴121aから吸い込まれた飲み物等の流体を排気口110の外側に排除できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-188108号公報
【文献】特開2006-315533号公報
【文献】特開2017-106651号公報
【文献】特開2019-156033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には以下の問題があった。すなわち、従来の排気口構造100は、例えば図10の矢印Fyに示すように、通気穴121a,123aを通過した空気が、保護枠120の水切り板130の間を縫うように流れ、排気口110に流入していた。その際、水切り板130が空気抵抗になり、騒音が発生していた。具体的には、例えば図中NSに示すように、保護枠120は、水切り板130,130が配置される部分で流路が狭くなり、その流路狭小部分で空気の流速が加速されていた。そして、図中Pに示す水切り板130の角部を通過した直後に、空気が角部から剥離し、角部付近に渦を発生させていた。流速が加速されたり、渦が発生したりする部分では騒音が発生する。水切り板130や排気口110付近で発生した騒音は、通気穴121a,123aを介して車室55に漏れ、乗客の耳障りになる。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、車室の空気を排気ダクトに排気する鉄道車両用空調排気口構造及び鉄道車両において、排気口から排気ダクト内に異物が吸い込まれることを抑制しつつ、排気口付近で発生する騒音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、次のような構成を有している。(1)車室の空気を排気ダクトに排気する鉄道車両用空調排気口構造において、前記車室の床に設置された座席の下側に設けられた排気口と、底面が大きく開口する筒状の枠本体、及び、前記枠本体の前記底面と反対側に位置する端部に設けられた上面を備え、前記上面を前記排気口の開口部と対向させた状態で前記排気口に被せられる保護枠と、を有し、前記保護枠は、前記上面のみに複数の通気穴が設けられ、前記座席の継ぎ目の真下となる領域外に配置されており、前記車室の前記空気が、前記複数の通気穴から前記排気口まで前記枠本体を通り抜けて直線的に流れること、を特徴とする。
【0009】
上記構成の鉄道車両用空調排気口構造では、排気口に保護枠を被せた場合に排気口の開口部と対向する保護枠の上面のみに複数の通気穴が設けられ、車室の空気が上方から下方に向かって保護枠内に流入する。保護枠は、座席の継ぎ目の真下となる領域外に設けられているので、継ぎ目から落下した流体が通気穴を介して入り込まない。そのため、保護枠には、空気抵抗となる水切り板を設ける必要がない。このような保護枠では、複数の通気穴を通過した空気が、上方から下方への流れを維持したまま、枠本体を通り抜けて排気口の開口部に直線的に流れる。そのため、通気穴から吸い込まれた空気は、排気口に到達するまでの間に、流速が加速されたり、流れ方向を変えたりすることがなく、騒音を発生し難い。よって、上記構成の鉄道車両用空調排気口構造によれば、排気口から排気ダクト内に異物が吸い込まれることを抑制しつつ、排気口付近で発生する騒音を低減できる。
【0010】
(2)(1)に記載する鉄道車両用空調排気口構造において、前記排気口の流路空間を車室側に位置する第1空間部と前記車室と反対側に位置する第2空間部とに仕切ると共に、前記第1空間部と前記第2空間部とを連通させる連通部を形成する流量調整板を有し、 前記連通部が1箇所だけに設けられていること、が好ましい。
【0011】
上記構成の鉄道車両用空調排気口構造では、排気口構造内で発生する騒音源を1箇所だけにすることができる。しかも、従来技術と同じ開口面積であれば、連通部1個あたりの開口面積を広く確保でき、空気が連通部を通過する際に発生する騒音が低減される。
【0012】
(3)(2)に記載する鉄道車両用空調排気口構造において、前記流路空間は、流路軸線に対して直交する方向に切ったときの断面形状が長方形であり、前記流量調整板は、長方形の板であり、前記連通部は、前記流路空間の一方の短辺側内壁と前記流量調整板との間隔に応じて開口面積が調整されていること、が好ましい。
【0013】
上記構成の鉄道車両用空調排気口構造は、連通部を1箇所にまとめて確保でき、さらに、連通部の形状を従来よりも正方形に近づけられるため、従来技術と比較して連通部を通過する空気の流速が下がる。よって、上記構成の鉄道車両用空調排気口構造によれば、連通部で発生する騒音が、従来技術において連通部で発生する騒音より、小さくなる。
【0014】
(4)(2)または(3)に記載する鉄道車両用空調排気口構造において、前記排気口は、前記床の下面と同じ位置あるいは前記下面より下側となるダクト本流に近い位置に、前記流量調整板が固定されていること、が好ましい。
【0015】
上記構成の鉄道車両用空調排気口構造では、連通部が車室から離れた位置に設けられ、連通部で発生した騒音が車室に伝わりにくい。
【0016】
(5)本発明の別態様は、(1)から(4)の何れか1つに記載する鉄道車両用空調排気口構造を備えることを特徴とする鉄道車両である。
【発明の効果】
【0017】
従って、本発明によれば、車室の空気を排気ダクトに排気する鉄道車両用空調排気口構造及び鉄道車両において、排気口から排気ダクト内に異物が吸い込まれることを抑制しつつ、排気口付近で発生する騒音を低減できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る鉄道車両用空調排気口構造を示す図である。
図2】鉄道車両用空調排気口構造の分解図である。
図3】排気口を上方から見た平面図である。
図4】鉄道車両用空調排気口構造における空気の流れを説明する図である。
図5】鉄道車両の一例を示す図である。
図6】座席の一例を示す図である。
図7】従来の鉄道車両用空調排気口構造を示す図である。
図8】従来の鉄道車両用空調排気口構造の概略構成図である。
図9】従来の排気口を開口部側から見た平面図である。
図10】従来の鉄道車両用空調排気口構造における空気の流れを説明する図である。
図11】流量調整板の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る鉄道車両用空調排気口構造及び鉄道車両の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0020】
まず、鉄道車両50の概略構成を説明する。図5は、鉄道車両50の一例を示す図である。鉄道車両50は、床51が構体53に取り付けられ、車室55を形成している。床51には、複数の座席200が固定されている。座席200は、レール方向X(図中左右方向)に対して直角に固定された二人掛けの座席であり、レール方向Xに沿って並んで配置されている。尚、座席200は三人掛けの座席でもよい。
【0021】
図6は、座席200の一例を示す図である。座席200は、通路を挟んで車幅方向Y(図6において左右方向)に並んで設置されている。座席200は、個別のシート部材210がフレーム225に並んで取り付けられ、フレーム225に固定された脚部221,223を介して床51に取り付けられている。なお、構体53の側構体には、窓57が設けられている。
【0022】
図5及び図6に示すように、鉄道車両50の車室55には、排気口110と図示しない給気口が設けられている。鉄道車両50は、排気口110と図示しない給気口が排気ダクト300と図示しない給気ダクトを介して空調装置301に接続された空調システムを有する。
【0023】
図5に示すように、空調装置301は、車両下側に取り付けられている。排気ダクト300は、レール方向Xに沿って床51の下側に敷設されている。排気口110は、各座席200の下側に設けられ、車室55の天井側(図5において上側)に開口している。排気口110は、例えば図6に示すように、通路側の脚部223に沿って立ち上がり、一端(図中上端部)が車室55に配置され、他端(図中下端部)が排気ダクト300に接続されている。排気口110の一端には、保護枠20が被せられ、異物(例えば、飲み物等の流体、ゴミ)が排気口110から排気ダクト300内に入り込むことが防止されている。
【0024】
このような鉄道車両50では、空調装置301が稼働して、車室55と排気ダクト300との間に圧力差を生じさせる。この圧力差に応じて、車室55の空気は、図5に示すように、各排気口110に保護枠20を介して吸い込まれる。各排気口110に吸い込まれた空気は、排気ダクト300を介して空調装置301に流れる。空調装置301にてコンディションを整えられた空気は、図示しない給気ダクトと図示しない給気口を介して車室55に供給される。このように、コンディションを整えられた空気が車室55を循環することにより、車室55の車内環境が整えられる。
【0025】
続いて、鉄道車両用空調排気口構造1(以下「排気口構造1」ともいう)の構成について、具体的に説明する。図1は、排気口構造1を示す図である。図2は、排気口構造1の分解図である。図3は、排気口110を上方から見た平面図である。なお、図3では、連通部Sxと流量調整板40とを区別するために、流量調整板40にハッチングを記載している。図1に示すように、排気口構造1は、排気口110と、シール部材150と、保護枠20と、流量調整板40と、を備える。
【0026】
図1に示すように、排気口110は、ダクト本流である排気ダクト300に接続されている。排気口110と排気ダクト300は、材質が異なってもよいし、同じでもよい。排気口110は、車両の軽量化を図るために、例えばアルミ系金属やグラスウールで形成されている。排気口110は、座席200の継ぎ目201の真下となる領域UAの領域外(領域UAの図中右側)に配置されている。図2に示すように、排気口110は、両端(図1において上下端部)が開口する筒形状に形成されている。本形態の排気口110は、外観が直方体形状となるように形成されている。
【0027】
図1及び図2に示すように、保護枠20は、排気口110に対応する形状をなし、排気口110の外側に所定間隔をあけて被せられている。すなわち、保護枠20は、図2に示すように、枠本体21と上面23とを備え、底面(図1及び図2において下側に位置する面)を大きく開口させた直方体形状をなし、上面23のみに複数の通気穴23aを備える。枠本体21は、底面が大きく開口する筒状をなし、上面23は、枠本体21の底面と反対側に位置する端部に設けられている。
【0028】
図1に示すように、保護枠20は、短辺の長さL31が、図7に示す従来の保護枠120の短辺の長さL41より短い。これにより、保護枠20は、図1に示すように、座席200の継ぎ目201の真下となる領域UAの領域外に配置され、座席200の継ぎ目201から落下する飲み物などの流体が保護枠20の横を通過して床51に落ちる。そのため、保護枠20の内部空間25には、図7に示す水切り板130が配置されていない。
【0029】
図1に示すように、保護枠20は、ゴミや埃等を巻き込むことなく車室55の空気を一方向のみから吸い込むために、複数の通気穴23aが上面23のみに形成されている。このような保護枠20は、図8に示すように上面121と枠本体127の一側面123に通気穴121a,123aが形成された従来の保護枠120より、開口面積が小さく、排気性能が落ちる惧れがある。しかし、保護枠20は、水切り板130を備えないので、従来の保護枠120より開口面積が小さくても、排気性能としては従来の保護枠120と殆ど変わらない。また、図2に示すように、保護枠20は、金網233を上面23に使用し、金網233によって複数の通気穴23aを形成することにより、図8に示すように従来技術のように通気穴をパンチ穴で形成する場合よりも開口面積を広く確保でき、排気性能の低下を抑制できる。
【0030】
図2に示すように、保護枠20は、上面23が板曲げで枠本体21の上端部に一体に設けられている。金網233は、上面23に使用され、複数の通気穴23aを形成している。金網233と保護枠20(枠本体21と上面23)は、金網233と同じ材料で形成され、スポット溶接等の溶接で結合されている。これにより、金網233と保護枠20との結合する部分の構造がシンプルな構成となり、保護枠20をコンパクトにしつつ、複数の通気穴23a全体の開口面積、つまり、金網233の領域を広く確保できる。
【0031】
なお、板厚を従来と同じとすると、ステンレス系金属で形成された保護枠20は、アルミ系金属で形成される場合より、質量が重くなる。一方、ステンレス系金属は、アルミ系金属より強度が強い。そこで、枠本体21と上面23は、アルミ系金属で形成される場合より、板厚が薄くされている。これにより、本実施形態の保護枠20は、例えば図8に示す従来の保護枠120全体をアルミ系金属で形成した場合と同程度の質量で形成することができる。
【0032】
このような保護枠20は、図1に示すように、上面23を排気口110の開口部113と対向させた状態で排気口110にシール部材150を介して被せられる。保護枠20の開口端部内周面と排気口110の外周面との間は、シール部材150によってシールされ、床51に落ちているゴミや埃など異物が保護枠20の底面開口部(図中下端開口部)から内部空間25に入り込まない。
【0033】
流量調整板40は、排気口110の流路空間111に、流路空間111の鉛直方向の軸線に対して直交するように配置され、排気口110(流路空間111の内壁)に固定されている。流量調整板40は、床51の下面51bと同じ位置あるいは下面51bより下側の位置となるダクト本流(排気ダクト300)に近い位置で、排気口110に固定されている。流路空間111は、流量調整板40によって、車室55側に位置する第1空間部111aと、車室55と反対側(排気ダクト300側)に位置する第2空間部111bとに仕切られている。流量調整板40は、流路空間111の内壁との間に、第1空間部111aと第2空間部111bを連通させる連通部Sxを形成している。排気口110は、連通部Sxの開口面積によって、排気流量が調整されている。
【0034】
図3に示すように、排気口110の流路空間111は、上面視の断面形状が長方形である。一方、流量調整板40は、長方形の板である。流量調整板40は、第1空間部111aと第2空間部111bとを連通させる連通部Sxを、排気口110の内部に1箇所だけ設けるように、流路空間111の内壁に固定されている。なお、流量調整板40は、排気口110と一体でもよい。
【0035】
具体的には、図3に示すように、流量調整板40は、長辺の長さL11が流路空間111の長辺の長さL21より短く、短辺の長さL13が流路空間111の短辺の長さL23と同じである。このような流量調整板40は、一対の長辺部41,41と一対の短辺部43,43のうちの一方(図中下側の短辺部43)とが排気口110の内壁に固定され、一対の短辺部43,43の他方(図中上側の短辺部43)が排気口110の内壁に非固定にされることにより、流路空間111の一方の短辺側内壁111c側(図中上側の内壁)の1箇所だけに連通部Sxを形成する。連通部Sxの開口面積は、流路空間111の短辺側内壁111c(図中上側の内壁)と流量調整板40の短辺部43との間隔に応じて、つまり、流量調整板40の長辺の長さL11に応じて、調整される。
【0036】
例えば図5に示すように、鉄道車両50では、空調装置301に近い排気口110ほど、車室55と排気ダクト300との圧力差が大きくなる。車室55全体に空気を均等に循環させるには、各排気口110の排気流量を均一にする必要がある。そこで、各排気口110は、サイズが異なる流量調整板40が固定され、連通部Sxの開口面積が調整されている。すなわち、鉄道車両50に複数設けられた排気口110は、空調装置301から離れた排気口110ほど、長辺の長さL11が短い流量調整板40が固定され、連通部Sxの開口面積が大きくされている。
【0037】
続いて、排気口構造1における空気の流れについて説明する。図4は、排気口構造1における空気の流れを説明する図である。図4の矢印Fxに示すように、車室55の空気は、保護枠20の複数の通気穴23aを介して保護枠20の内部空間25に流入し、排気口110の第1空間部111a、連通部Sx、第2空間部111bを介して、排気ダクト300へ流れる。
【0038】
保護枠20は、例えば図10に示す排気口構造100にて騒音源となっていた水切り板130が、内部空間25に配置されていない。また、図4に示すように、保護枠20は、排気口110の開口部113と対向する上面23のみに、複数の通気穴23aが形成されている。よって、図4の矢印Fxに示すように、車室55の空気は、通気穴23aから排気口110の開口部113まで直線的に流れ、保護枠20の内部空間25を流れる際に騒音を発生しない。
【0039】
このことに関し、排気口110の開口部113に流入した空気は、排気口110に1箇所だけ設けられた連通部Sxを介して、第1空間部111aから第2空間部111bへ流れる。空気は、連通部Sxを通過する際に流量を絞られ、流速が加速される。そのため、空気が連通部Sxを通過する際に、騒音が発生する。
【0040】
例えば図8に示すように、従来の排気口構造100では、流路空間111とほぼ同じ大きさの流量調整板140が、流路空間111内で傾斜させた状態で排気口110に対して固定されている。そのため、排気口構造100は、図9に示すように、流路空間111の一対の長辺側内壁111d,111dと流量調整板140との間に、細長い連通部Syが2箇所設けられている。これに対して、本実施形態の排気口構造1では、図3に示すように、流路空間111の一方の短辺側内壁111cと流量調整板40との間に1箇所形成されている。そのため、第1空間部111aと第2空間部111bとを連通させる開口部分の面積が同じであれば、1個の連通部Sxで、従来の排気口構造100に設けられた2個の連通部Sy分の開口面積を、まとめて確保できる。さらに、本実施形態の排気口構造1は、連通部Sxの形状を従来よりも正方形に近づけられるため、連通部Syと比較して空気の流速が下がる。よって、排気口構造1は、連通部Sxで発生する騒音が、従来の排気口構造100の連通部Syで発生する騒音より、小さくなる。
【0041】
さらに、例えば図10に示すように、従来の排気口構造100では、車室55から排気口110が床51の上面51aと同じ位置あるいは上面51aより上側となる位置に、流量調整板140が設けられていた。これに対して、排気口構造1では、図4に示すように、床51の下面51bと同じ位置あるいは下面51bより下側となる位置に、流量調整板40が固定されている。つまり、流量調整板40は、従来の流量調整板140よりダクト本流に近い位置に配置されている。よって、排気口構造1は、連通部Sxの位置が従来の排気口構造100より車室55から離れており、連通部Sxで発生した騒音が車室55に伝わりにくい。
【0042】
このように、排気口構造1は、従来の排気口構造100より、騒音源となる連通部Sxの数が少なく、また、連通部Sxで発生する騒音が小さく、さらに、連通部Sxで発生した騒音が車室55に漏れにくいので、従来の排気口構造100より騒音を低減できる。
【0043】
(騒音試験について)
発明者は、図4に示す排気口構造1を適用した実施例と図10に示す排気口構造100を適用した比較例について、騒音レベルを調べる試験を行った。試験では、床51の上面51aから1.2mの高さに騒音計を設置し、JISに規定される通り、騒音計で騒音レベルを測定した。その結果、比較例の騒音レベルに対して、実施例の騒音レベルは、約7デシベル低下させることができた。騒音エネルギーに換算すると、実施例は、比較例の騒音エネルギーを約80%削減できた。
【0044】
以上説明したように、本形態の排気口構造1では、排気口110に保護枠20を被せた場合に排気口110の開口部113と対向する保護枠20の上面23のみに複数の通気穴23aが設けられ、車室55の空気が上方から下方に向かって保護枠20内に流入する。保護枠20は、座席200の継ぎ目201の真下となる領域UAの領域外に設けられているので、継ぎ目201から落下した飲み物等の流体が通気穴23aを介して入り込まない。そのため、保護枠20には、空気抵抗を生じる水切り板130を設ける必要がない。このような保護枠20では、複数の通気穴23aを通過した空気が、上方から下方への流れ(図4の矢印Fxに示す流れ)を維持したまま、枠本体21を通り抜けて排気口110の開口部113に直線的に流れる。そのため、通気穴23aから吸い込まれた空気は、排気口110に到達するまでの間に、流速が加速されたり、流れ方向を変えたりすることがなく、騒音を発生し難い。よって、本形態の排気口構造1によれば、排気口110から排気ダクト300内に飲み物等の流体が吸い込まれることを抑制しつつ、排気口110付近で発生する騒音を低減できる。
【0045】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。例えば、座席200は、ロングシートであってもよい。この場合、ロングシートの下側に設けられた排気口に、上記実施形態の排気口構造1を適用してもよい。
【0046】
例えば、連通部Sxは2箇所以上に設けてもよい。例えば図11(a)に示すように、流路空間111の短辺側内壁111c,111cの両方に、連通部Sx1,Sx1を設けてもよい。但し、上記実施形態のように、連通部Sxを1箇所だけ設けることにより、排気口構造1内で発生する騒音源(流量調整板40の角部)を1箇所だけにすることができる。しかも、同じ開口面積であれば、連通部1個あたりの開口面積を広く確保でき、空気が連通部Sxを通過する際に発生する騒音が低減される。
【0047】
例えば図11(b)に示すように、排気口110に固定する流量調整板40は、長辺の長さL11が流路空間111の長辺の長さL21と同じで、短辺の長さL13が流路空間111の短辺の長さL23より短い長方形状であってもよい。この場合、流量調整板40は、一対の短辺部43,43と一対の長辺部41,41の一方(図中右側の長辺部41)とを流路空間111の内壁に固定し、一対の長辺部41,41の他方(図中左側の長辺部41)を流路空間111の内壁に非固定にすることにより、流路空間の一方の長辺側内壁111d(図中湯左側の内壁)と流量調整板40との間に連通部Sx2を細長く形成してもよい。つまり、流量調整板40の短辺の長さL13を調整することにより、連通部Sx2の開口面積を調整してもよい。但し、上記実施形態のように、流路空間111の一方の短辺側内壁111cと流量調整板40との間に連通部Sxを1箇所だけ設け、流量調整板40の長辺の長さL11に応じて連通部Sxの開口面積を調整することにより(図3参照)、連通部Sxの形状を正方形に近づけることができるので、連通部を通過する空気の流速が下がり、空気が連通部Sxで発生する騒音が小さくなる。
【0048】
例えば、流量調整板40は、ダクト本流から離れた位置、例えば、床51の上面51aと同じ位置あるいは上面51aより上側となる位置にて、排気口110に固定されてもよい。但し、上記形態のように、床51の下面51bと同じ位置あるいは下面51bより下側となるダクト本流に近い位置にて流量調整板40を排気口110に固定することにより(図4参照)、連通部Sxが車室55から離れた位置に設けられ、連通部Sxで発生した騒音が車室55に伝わりにくい。
【0049】
例えば、複数の通気穴23aは、パンチ穴により設けてもよい。但し、上記形態のように、複数の通気穴23aを金網233により形成することにより、パンチ穴により通気穴を形成する場合より、開口率を大きくとって、通気穴23a全体の開口面積が大きくなるので、排気性能を低下させずに、保護枠20をコンパクトにできる。
【0050】
例えば、アルミ系金属製の枠本体21と、ステンレス系金属製の上面23とを、接着剤や溶接で接合したり、カシメ固定により接合したりしてもよい。金網233を上面23に接着剤で取り付けてもよい。但し、上記形態のように、上面23と金網233とをステンレス製金属で形成して溶接することにより、例えば上面23と金網233とを接着剤で接合する場合より、保護枠20の構成をシンプルにして、保護枠20をコンパクトにできる。
【0051】
例えば、空調装置301を鉄道車両50の屋根に取り付け、排気ダクト300や図示しない給気ダクトを車室55の天井裏に敷設してもよい。上記実施形態では、空調装置301が排気装置を内蔵するが、排気装置を空調装置301と別体にしてもよい。
【0052】
例えば、排気口110は、構体53の側構体内や車室55の天井裏に敷設された排気ダクトに分岐ダクトを介して接続されてもよい。但し、上記形態のように、床51の下側に設けられた排気ダクト300に排気口110を直接接続することにより、車室55の空気を車室外に排気するための排気流路の構成を単純にし、排気流路内で発生する騒音を低減できる。
【0053】
排気口110と保護枠20の形状は、直方体形状に限らず、円形や楕円形状等であってもよい。
【0054】
排気口110は、窓57側の脚部221に沿って立ち上がっていてもよい。さらに、排気口110は、脚部221,223と別の場所で床51から立ち上がっていてもよい。
【0055】
例えば図11(c)に示すように、流路空間111の短辺側内壁111c,111cの両方に、一対の流量調整板40,40を固定し、一対の流量調整板40,40の間に連通部Sx3を1箇所だけ設けてもよい。
【0056】
例えば、図11(d)に示すように、排気口110の上面視の断面と同じ形状で流量調整板40を設け、流量調整板40の四辺を流路空間111の内壁に全て固定し、流量調整板40に形成した穴部Hにより連通部Sx4を設けてもよい。穴部Hは、四角に限らず、円形でもよい。但し、上記実施形態のように、流量調整板40を長方形状とし、流量調整板40の長辺の長さL11に応じて連通部Sxの開口面積を調整する構成によれば、作業現場にて所定長の板を切断して流量調整板40を形成し、連通部Sxの開口面積を適宜調整できる。これによれば、流量調整板40のストック数を減らすことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 鉄道車両用空調排気口構造
20 保護枠
21 枠本体
23 上面
23a 通気穴
50 鉄道車両
51 床
55 車室
110 排気口
113 開口部
200 座席
201 継ぎ目
300 排気ダクト
UA 領域
図1
図2
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図11