(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】車両用マニュアルエアコンの制御システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20240903BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B60H1/00 103Z
B60H1/00 101Q
B60H1/00 101J
B60H1/00 101E
B60H1/32 626D
B60H1/00 101Z
(21)【出願番号】P 2021023576
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 博康
(72)【発明者】
【氏名】村上 国広
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 貴章
(72)【発明者】
【氏名】丸茂 飛鳥
【審査官】塩田 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076020(JP,A)
【文献】特開2006-298262(JP,A)
【文献】特開平05-169961(JP,A)
【文献】特開平07-019675(JP,A)
【文献】特開2009-280063(JP,A)
【文献】特開2013-082330(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0088428(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106715173(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1174964(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
F24F 11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の操作部をユーザが操作することによって吹き出し口からの空調風の吹き出し温度と風量とが手動で調節されるマニュアルエアコンと、
前記ユーザが車両に乗車していない状態で車外からの指示に応じて前記マニュアルエアコンにリモート空調を実行させる制御装置と、を備える、車両用マニュアルエアコンの制御システムであって、
前記制御装置は、前記リモート空調のトリガ指示に応じて、前記空調風の目標吹き出し温度を
、暖房時において前記制御システムで設定される最高温度、または冷房時において前記制御システムで設定される最低温度である最大温度で、かつ、前記空調風の目標風量を最大風量で前記マニュアルエアコンの作動を開始し、時間の経過にしたがって前記目標吹き出し温度を目標中間温度に向かって徐変させつつ、前記目標風量を徐変低下させ、前記ユーザの乗車を検知したときに、前記目標吹き出し温度及び前記目標風量を、それぞれ前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量に変更する、
車両用マニュアルエアコンの制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用マニュアルエアコンの制御システムにおいて、
前記制御装置は、外気温センサと、車室内における日射の強度を検出する日射センサとのうち、少なくとも1つのセンサの検出値に応じて、前記リモート空調における前記目標吹き出し温度及び前記目標風量の徐変度合いを変更する、
車両用マニュアルエアコンの制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用マニュアルエアコンの制御システムに関し、特にリモート空調の実行時におけるエネルギ消費の抑制と、ユーザの乗車時の快適な空調状態の実現とに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ユーザが車外にいる状態でリモコンの電子キーを操作し、それに応じて車両内の制御部が空調装置を制御してリモート空調を実行させるシステムが記載されている。このシステムでは、リモート空調の実行指示があった場合であって車外の気温が車室内部の気温より低い場合に換気運転を実行し、車外の気温が車室内部の気温より高い場合に冷房運転を実行する。
【0003】
また、車両用マニュアルエアコンでは、車室内の操作部をユーザが操作することによって吹き出し口からの空調風の吹き出し温度と風量とを手動で調節する。このマニュアルエアコンでは、車室内の温度センサを備えず、車室内の温度が自動で調節されないので、リモート空調のトリガ指示によって、ユーザの前回の降車時の操作位置に応じた設定吹き出し温度及び設定風量で空調装置を作動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両用マニュアルエアコンでリモート空調を実行させる場合に、降車時の弱めの冷房または暖房における設定吹き出し温度及び設定風量を利用すると、ユーザの乗車時に車室の冷房不足または暖房不足を感じる場合がある。一方、リモート空調時に吹き出し温度及び風量を強制的に最大に変更しその状態を維持するのではエネルギが無駄に消費される。また、リモート空調時に吹き出し温度及び風量を中間温度及び中間風量に維持するのでは、リモート空調開始からの時間が短い可能性があるユーザの乗車時に快適な車室内温度を実現できない可能性がある。
【0006】
本発明は、車両用マニュアルエアコンの制御システムにおいて、リモート空調の実行時におけるエネルギ消費を抑制しつつ、ユーザの乗車時の快適な空調状態を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用マニュアルエアコンの制御システムは、車室内の操作部をユーザが操作することによって吹き出し口からの空調風の吹き出し温度と風量とが手動で調節されるマニュアルエアコンと、前記ユーザが車両に乗車していない状態で車外からの指示に応じて前記マニュアルエアコンにリモート空調を実行させる制御装置と、を備える、車両用マニュアルエアコンの制御システムであって、前記制御装置は、前記リモート空調のトリガ指示に応じて、前記空調風の目標吹き出し温度を最大温度で、かつ、前記空調風の目標風量を最大風量で前記マニュアルエアコンの作動を開始し、時間の経過にしたがって前記目標吹き出し温度を目標中間温度に向かって徐変させつつ、前記目標風量を徐変低下させ、前記ユーザの乗車を検知したときに、前記目標吹き出し温度及び前記目標風量を、それぞれ前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量に変更する、車両用マニュアルエアコンの制御システムである。
【0008】
上記の構成によれば、リモート空調で弱めの冷房または暖房の設定吹き出し温度及び設定風量を維持し続ける場合と異なり、ユーザが乗車時に車室の冷房不足または暖房不足を感じることを防止できる。さらに、リモート空調時に、目標吹き出し温度を最大温度から目標中間温度に向かって徐変させつつ目標風量を徐変低下させる。目標中間温度は、多数の人にとって最も快適であると考えられる25℃等の所定温度とすることができ、ユーザによって最も快適な温度が違う場合でも、そのユーザの快適温度は、通常、最大温度より目標中間温度に近い。これにより、エネルギ消費を抑えつつ、早期にユーザの乗車時の快適な車室内温度を実現しやすくなる。さらに、ユーザの乗車時の目標吹き出し温度及び目標風量が、それぞれ前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量となるので、時期が近いときの空調の設定を反映してユーザの好みに応じた快適な空調状態を実現しやすくなる。
【0009】
本発明に係る車両用マニュアルエアコンの制御システムにおいて、前記制御装置は、外気温センサと、車室内における日射の強度を検出する日射センサとのうち、少なくとも1つのセンサの検出値に応じて、前記リモート空調における前記目標吹き出し温度及び前記目標風量の徐変度合いを変更する構成としてもよい。
【0010】
上記の構成によれば、外気温及び日射強度の少なくとも1つから車室内の温度が変化しやすい場合に目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いを大きくし、車室内の温度が変化しにくい場合に目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いを小さくすることで、より効率よくユーザの乗車時の快適な車室内温度を実現しやすくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両用マニュアルエアコンの制御システムによれば、リモート空調の実行時におけるエネルギ消費を抑制しつつ、ユーザの乗車時の快適な空調状態を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の車両用マニュアルエアコンの制御システムの構成図である。
【
図2】実施形態において、リモート空調の制御方法を示しているフローチャートである。
【
図3】実施形態において、冷房時におけるリモート空調による効果を、車室内温度と時間との関係で示す図である。
【
図4】実施形態において、暖房時におけるリモート空調による効果を、車室内温度と時間との関係で示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下で説明する形状、数値、配置関係、制御処理などは説明のための例示であって、車両用マニュアルエアコンの制御システムの仕様により変更が可能である。以下では同様の構成には同一の符号を付して説明する。また、実施形態の車両用マニュアルエアコンの制御システムは、エンジンのみを駆動源として駆動するエンジン車両、電動モータのみを駆動源として駆動する電動車両、エンジン及び電動モータを駆動源として駆動するハイブリッド車両のいずれにも適用可能である。
【0014】
図1を用いて車両用マニュアルエアコンの制御システム10を説明する。制御システム10は、マニュアルエアコン11と、空調制御装置(空調ECU)30と、操作パネル40と、外気温センサ50と、日射センサ51と、乗車センサ52と、スマートフォン60とを含んで構成される。空調制御装置30は、ユーザ90(
図3)が車両100(
図3)の車室102内に設けられた操作パネル40の操作部を操作することに基づいてマニュアルエアコン11を制御する。これにより、マニュアルエアコン11では、車室102内に設けられた吹き出し口から、吹き出し温度及び風量が手動で調節された空調風が吹き出される。
【0015】
マニュアルエアコン11は、詳しい図示は省略するが、車両100の内部に設けられ、ダクト内に配置されたブロワで車外の空気及び車室内の空気の一方または両方をダクト内に取り込んで下流側に流す。ブロワの下流側には冷却部と暖房部とが配置され、空気混合ドアの操作によって冷却部を通過する空気と暖房部を通過する空気との混合割合を調節することで温度が調節される。温度が調節された空調風は車室内の吹き出し口から吹き出される。
【0016】
空調制御装置30は、例えばPCUで構成される演算処理部と、RAM、ROM等の記憶部31とを含んで構成される。空調制御装置30は、ユーザ90が車両に乗車した状態でユーザ90の操作パネル40の操作部の手動操作に基づいてマニュアルエアコン11を作動させる。さらに、空調制御装置30は、ユーザ90が車両に乗車していない状態で、スマートフォン60を用いた車外からの指示に応じてマニュアルエアコン11にリモート空調を実行させる。
【0017】
さらに、空調制御装置30の記憶部31には、後述するように、前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量が記憶される。例えば車両のイグニッションスイッチまたは始動ボタン等の始動スイッチをOFFとしたときに、ユーザにより操作パネル40の操作部の操作で設定されていた設定吹き出し温度及び設定風量が記憶部31に記憶される。その設定吹き出し温度及び設定風量は、リモート空調でユーザ90の乗車が検知されたときに、空調風の目標吹き出し温度及び目標風量をその温度及びその風量にそれぞれ復帰させるために用いられる。
【0018】
さらに、空調制御装置30は、吹き出し温度風量制御部32及び徐変度合い選択部33を有する。吹き出し温度風量制御部32は、マニュアルエアコン11のブロワ及び空気混合ドア用のアクチュエータを制御することにより、設定された吹き出し温度及び設定された風量を目標値とした空調風を、吹き出し口から吹き出させる。徐変度合い選択部33は、後述の外気温センサ50及び日射センサ51の検出値に基づいて、リモート空調時に用いる目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いを選択する。これにより、より効率よくユーザ90の乗車時の快適な車室内温度を実現しやすくなる。
【0019】
操作パネル40は、車室102内の前部のインストルメントパネル付近に配置される。操作パネル40には、マニュアルエアコン11のブロワの目標風量を設定する風量調節スイッチ41、吹き出し口から吹き出される空調風の目標吹き出し温度を設定する温度調節スイッチ42、及びマニュアルエアコン11の圧縮機のオンオフを切り換えるA/Cオンオフスイッチ43が設けられる。操作パネル40の各スイッチ41,42,43は、操作部に相当する。操作パネル40の1つまたは複数のスイッチを操作し吹き出し口からの空調風の吹き出し状態を設定すると、空調制御装置30がその設定状態に基づき、マニュアルエアコン11のブロワ、空気混合ドア駆動用のアクチュエータ等の各駆動部を制御する。これにより、吹き出し口から、所望の温度に調節された所望の風量の空調風が吹き出される。例えば、温度調節スイッチ42の操作により最高温度が設定された場合には、空気混合ドアの移動により、ダクト内でブロワの下流側を流れる空気の全部を、暖房部に通過させた後、吹き出し口から吹き出させる。このとき、冷却部は作動を停止させる。一方、温度調節スイッチ42の操作により最低温度が設定された場合には、空気混合ドアの移動により、ダクト内でブロワの下流側を流れる空気の全部を冷却部に通過させるが、暖房部には通過させないようにし、冷却部を作動させる。
【0020】
外気温センサ50は、車両100の外気温を検出する。日射センサ51は、車室102内のフロントウインドウ付近等に配置され、車室102内における日射の強度を検出する。乗車センサ52は、車両100にユーザ90が乗車したことを検出する。例えば乗車センサ52は、ドアロックセンサにより構成され、運転席のドアのアンロック後、ドアがロックされたときにユーザ90が乗車したと判定する。乗車センサ52は、ドア開閉センサにより構成され、運転席のドアが閉状態から開状態となったときにユーザ90が乗車したと判定してもよい。乗車センサ52は、運転席にユーザ90が着座したことを検出する着座センサにより構成され、着座が検出されたときにユーザ90が乗車したと判定してもよい。外気温センサ50、日射センサ51及び乗車センサ52の検出信号は空調制御装置30に出力される。
【0021】
スマートフォン60は、ユーザ90が乗車前に遠隔操作でリモート空調を指示する遠隔操作装置である。例えばスマートフォン60には、予めリモート空調指示用のアプリケーションプログラムがインストールされる。ユーザ90がそのアプリケーションプログラムを起動することで、プログラムが実行される。このとき、スマートフォン60の表示画面には例えば
図1に示すようなスタートボタン61の画像が表示される。ユーザ90がスタートボタン61をタッチすることで、リモート空調のトリガ指示を表すトリガ信号が車両100の空調制御装置30に送信される。例えば、トリガ信号は、WiFi規格等の無線信号でスマートフォン60から車両100に送信され、そのトリガ信号に基づいて、空調制御装置30はマニュアルエアコン11を作動させる。なお、遠隔操作装置は、スマートフォン60以外のタブレット端末等の携帯情報端末や、電子キー、リモート空調の指示専用のリモコン等としてもよい。
【0022】
さらに、空調制御装置30の吹き出し温度風量制御部32は、スマートフォン60等によるリモート空調のトリガ指示に応じて、徐変後復帰制御を実行する。徐変後復帰制御は、まず、吹き出し温度風量制御部32が、吹き出し口から吹き出される空調風の目標吹き出し温度を最大温度で、かつ、空調風の目標風量を最大風量で、マニュアルエアコン11の作動を開始する。この「最大温度」は、暖房時の最高温度または冷房時の最低温度のいずれかを意味し、
図1に示す温度調節スイッチ42を「C」の位置または「H」の位置に操作した場合に設定される目標温度である。吹き出し温度風量制御部32は、外気温の検出値に応じて最大温度を最高温度とするか、または最低温度とするかを決定する。より具体的には、外気温の検出値が例えば25℃等の所定温度より高くなる、暑い場合には、吹き出し温度風量制御部32は、ユーザ90により冷房が要求されていると判断し、空調風の目標吹き出し温度を最低温度に設定する。一方、外気温が所定温度以下である、涼しい、または寒い場合には、吹き出し温度風量制御部32は、ユーザ90により暖房が要求されていると判断し、空調風の目標吹き出し温度を最高温度に設定する。
【0023】
そして、吹き出し温度風量制御部32は、時間の経過にしたがって目標吹き出し温度を目標中間温度に向かって徐変させつつ、目標風量をリモート時最小風量に向かって徐変低下させる。「目標中間温度」は、多数の人にとって最も快適であると考えられる温度、例えば25℃等の所定温度とすることができ、予め空調制御装置30の記憶部31に記憶されている。このようにリモート空調の開始時に目標吹き出し温度を最大温度とし、目標風量を最大風量とした状態から、目標吹き出し温度を目標中間温度に向かって徐変させつつ、目標風量を徐変低下させるので、エネルギ消費を抑制しつつ、車室102内の温度を早期に快適な温度に近づけることができる。リモート時最小風量は、例えば所定中間風量である。空調風の目標風量がリモート時最小風量に達すると、その目標風量は、乗客の乗車が検出されるまでその状態で維持される。また、空調風の目標吹き出し温度が目標中間温度に達すると、その目標吹き出し温度は、乗客の乗車が検出されるまでその状態で維持される。
【0024】
そして、吹き出し温度風量制御部32は、ユーザ90の乗車を検知したときに、目標吹き出し温度及び目標風量を、それぞれ前回の降車時のユーザ90の操作により設定されていた設定吹き出し温度及び設定風量に変更する。これにより、ユーザ90の好みに応じた快適な空調状態を実現しやすくなる。
【0025】
また、空調制御装置30の徐変度合い選択部33は、目標吹き出し温度を目標中間温度に向かって徐変させつつ、目標風量を徐変低下させる際の所定時間毎の徐変度合いを、外気温センサ50と、日射センサ51との検出値に応じて変更する。これにより、外気温及び日射強度から車室102内の温度が変化しやすい場合に目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いを小さくする。また、外気温及び日射強度から車室102内の温度が変化しにくい場合に目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いを大きくする。これにより、外気温及び日射強度の両方を用いて徐変度合いを変更することと相まって、より効率よくユーザ90の乗車時の快適な車室内温度を実現しやすくなる。なお、空調制御装置30は、徐変度合いを、外気温センサ50と、日射センサ51とのうち、一方のセンサの検出値に応じて変更する構成としてもよい。また、空調制御装置30が徐変度合い選択部を有さず、目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いは、外気温及び日射強度に関係なく、予め設定された所定値としてもよい。
【0026】
図2のフローチャートを用いて、空調制御装置30によるリモート空調の制御方法を説明する。まず、
図2のステップS1において、スマートフォン60の操作によるリモート空調のトリガ指示があったか否かが判定される。ステップS1の判定結果が肯定(YES)、すなわちトリガ指示があったと判定された場合にはステップS2に移行する。ステップS1の判定結果が否定(NO)、すなわちトリガ指示がないと判定された場合には、ステップS1の前に戻る。
【0027】
ステップS2では、リモート空調において最大温度から目標吹き出し温度を徐変し、最大風量から目標風量を徐変低下させるときの徐変度合いが設定される。具体的には、外気温センサ50及び日射センサ51の検出値から目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いが選択される。例えば、冷房時において、外気温及び日射強度の少なくとも一方が、それぞれに対応する所定値より高い、暑い場合には、マニュアルエアコン11の作動で車室102内の温度が変化しにくいので、目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いを小さくする。一方、冷房時において、外気温及び日射強度の両方がそれぞれに対応する所定値以下の場合には、マニュアルエアコン11の作動で車室102内の温度が変化しやすいので、目標吹き出し温度及び目標風量の徐変度合いを大きくする。
【0028】
続いて、ステップS3からS6で、ブロワを作動させて吹き出し口から空調風を吹き出させる。このとき、マニュアルエアコン11の冷却装置及び暖房装置の一方または両方を作動させる。まず、ステップS3では、目標吹き出し温度及び目標風量をそれぞれ最大として、マニュアルエアコン11の作動によるリモート空調を開始する。このとき、エンジン車両では、エンジンをアイドル回転数で作動させ、発電機を駆動して、マニュアルエアコン11の作動で消費されるバッテリの充電電力を補充する。エンジンの作動によって、空調風の温度調節のためのヒータコアの温度を上昇させる。なお、ヒータコアは、走行モータの駆動によって温度上昇させたり、電熱ヒータとしてその電熱ヒータに電力を供給することで温度上昇させてもよい。そして、ステップS4において、目標吹き出し温度が目標中間温度に向けて徐変し、目標風量がリモート時最小風量に向けて徐変低下するようにマニュアルエアコン11を作動する。例えば、冷房時では、目標吹き出し温度が目標中間温度に向けて最低温度から、ステップS2で選択された徐変度合いに応じて徐々に弱まる、すなわち徐々に上昇する。一方、暖房時には、目標吹き出し温度が目標中間温度に向けて最高温度から、選択された徐変度合いに応じて徐々に弱まる、すなわち徐々に低下する。これにより、リモート空調で弱めの冷房または暖房の設定吹き出し温度及び設定風量を維持し続ける場合と異なり、ユーザ90が乗車時に車室の冷房不足または暖房不足を感じることを防止できる。さらに、目標中間温度は、上記のように多数の人にとって最も快適であると考えられる25℃等の所定温度とすることができ、ユーザによって最も快適な温度が違う場合でも、そのユーザの快適温度は、通常、最大温度より目標中間温度に近い。これにより、エネルギ消費を抑えつつ、早期にユーザ90の乗車時の快適な車室内温度を実現しやすくなる。
【0029】
次に、ステップS5において、乗車センサ52の検出信号に基づいてユーザ90の乗車が検知されたか否かが判定される。ステップS5の判定結果が否定(NO)、すなわち乗車が検知されない場合には、ステップS4の前に戻る。一方、ステップS5の判定結果が肯定(YES)、すなわち乗車が検知された場合には、目標吹き出し温度及び目標風量が、前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量に復帰するように変更され(ステップS6)、その状態が維持される。その状態は、ユーザ90が風量調節スイッチ41、または温度調節スイッチ42を操作するまで維持され、いずれかのスイッチの操作によってリモート空調の制御が終了する。このように、ユーザ90の乗車時の目標吹き出し温度及び目標風量が、それぞれ前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量となるので、時期が近いときの空調の設定を反映してユーザの好みに応じた快適な空調状態を実現しやすくなる。
【0030】
上記のマニュアルエアコンの制御システム10によれば、ユーザ90が乗車時に車室102の冷房不足または暖房不足を感じることを防止できる。さらに、エネルギ消費を抑えつつ、早期にユーザ90の乗車時の快適な車室内温度を実現しやすくなる。さらに、ユーザ90の好みに応じた快適な空調状態を実現しやすくなる。これにより、リモート空調の実行時におけるエネルギ消費を抑制しつつ、ユーザ90の乗車時の快適な空調状態を実現することができる。
【0031】
図3は、実施形態において、冷房時におけるリモート空調による効果を、車室内温度と時間との関係で示している。ユーザ90がスマートフォン60を操作することでリモート空調のトリガ指示が空調制御装置30に送信され、リモート空調が開始される。これにより、
図3に実線aで示すように、車室内温度が、目標中間温度の付近に向かって収束するように、最初の高い温度から徐々に低下する。そして、車室内温度が目標中間温度付近に達する前にユーザ90が乗車した場合には、目標吹き出し温度及び目標風量が、前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量にそれぞれ復帰する。このため、
図3に実線bで示すように、車室内温度が、前回の降車時の設定吹き出し温度の付近に向かって収束するように変化するので、車室内温度を表す実線aと実線bとは、乗車時の点P1を変曲点とする曲線を形成する。
図3では、前回の降車時に、ユーザ90が、温度調節スイッチ42の操作により設定吹き出し温度を中央温度より高くする、すなわち弱めの冷房に設定している場合を示している。
【0032】
一方、
図3では破線cにより、ユーザ90が乗車前にリモート空調を行わなかった場合を示している。この場合、ユーザ90の乗車時には、実線aのリモート空調開始時と同様に車室内温度が高くなっている。また、この場合には、ユーザ90は乗車後、始動スイッチの操作により走行可能状態とする等により、マニュアルエアコン11に、リモート空調ではない通常作動を開始させる。
図3のリモート空調の有無での車室内温度の比較により、リモート空調を行った場合には、乗車時においてリモート空調なしの場合と比べて白抜き矢印dで示す温度差の分、車室内温度を低くでき、ユーザ90の乗車時の不快感を低下できることが分かる。
【0033】
図4は、実施形態において、暖房時におけるリモート空調による効果を、車室内温度と時間との関係で示している。
図4の例では、ユーザ90のスマートフォン60の操作によりリモート空調が開始されると、
図4に実線eで示すように、車室内温度が、目標中間温度の付近に向かって収束するように、最初の低い温度から徐々に上昇する。そして、車室内温度が目標中間温度付近に達する前にユーザ90が乗車した場合には、目標吹き出し温度及び目標風量が、前回の降車時の設定吹き出し温度及び設定風量にそれぞれ復帰する。このため、
図5に実線fで示すように、車室内温度が、前回の降車時の設定吹き出し温度の付近に向かって収束するように変化するので、車室内温度を表す実線eと実線fとは、乗車時の点P2を変曲点とする曲線を形成する。
図5では、前回の降車時に、ユーザ90が、温度調節スイッチ42の操作により設定吹き出し温度を中央温度より低くする、すなわち弱めの暖房に設定している場合を示している。
【0034】
一方、
図5では破線gにより、ユーザ90が乗車前にリモート空調を行わなかった場合を示している。この場合、ユーザ90の乗車時には、実線eのリモート空調開始時と同様に車室内温度は低くなっている。これにより、リモート空調を行った場合には、乗車時においてリモート空調なしの場合と比べて白抜き矢印hで示す温度差の分、車室内温度を高くでき、ユーザ90の乗車時の不快感を低下できることが分かる。
【符号の説明】
【0035】
10 マニュアルエアコンの制御システム、11 マニュアルエアコン、30 空調制御装置(空調ECU)、31 記憶部、32 吹き出し温度風量制御部、33 徐変度合い選択部、40 操作パネル、41 風量調節スイッチ、42 温度調節スイッチ、43 A/Cオンオフスイッチ、50 外気温センサ、51 日射センサ、52 乗車センサ、60 スマートフォン、61 スタートボタン、90 ユーザ、100 車両、102 車室。