(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】デリバリシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/12 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A61B17/12
(21)【出願番号】P 2021046947
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二本松 昌明
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-078584(JP,A)
【文献】特開平10-201766(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110561(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0112500(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0153025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送体と、
中空状のシャフトと、
前記シャフトからの前記被搬送体の脱離を規制する規制状態から、前記シャフトからの前記被搬送体の脱離を許容する解除状態へと、切り替わる脱離機構と、
を備え、前記被搬送体を生体内の目標位置に搬送して留置するデリバリシステムであって、
前記被搬送体は、コイル体と、前記コイル体の基端側に配設されたコイル体支持部材と、を有し、
前記脱離機構は、
前記シャフトの先端側に位置し、かつ、中空部を有する筒状部であって、前記中空部に前記コイル体支持部材が収容された筒状部と、
前記筒状部の前記中空部に配置された部分を含むワイヤであって、前記規制状態において、前記コイル体支持部材の前記シャフト側に配置された第1の部分と、前記第1の部分に連続し、かつ、前記シャフト側とは反対側に配置された第2の部分とを有するワイヤと、備え、
前記コイル体支持部材が前記筒状部の横断面を面方向に移動可能な最大長さを移動可能最大長さとしたとき、
前記第2の部分の少なくとも一部分は、前記移動可能最大長さと比較して大きな直径を有し、かつ、コイル体支持部材の前記シャフト側とは反対側への移動を規制する位置に配置されており、
前記規制状態において前記ワイヤが基端側へ引かれることによって、前記解除状態に切り替わるように構成されて
おり、
前記筒状部において、前記コイル体支持部材に対して基端側に固定された係止部材であって、前記筒状部の長さ方向に貫通する貫通孔が形成された係止部材と、
前記ワイヤの前記第1の部分に固定された固定部材であって、前記係止部材と前記コイル体支持部材との間に位置している固定部材と、を備え、
前記ワイヤの前記第1の部分は、前記貫通孔を通過して配置されており、
前記規制状態において前記ワイヤが基端側へ引かれた場合に、少なくとも前記ワイヤを牽引する牽引力が所定値以下のとき、前記固定部材が前記係止部材の前記貫通孔を通り抜けない係止構造を有する、
デリバリシステム。
【請求項2】
請求項
1に記載のデリバリシステムにおいて、
前記係止部材の前記貫通孔の直径は、前記固定部材における前記貫通孔の径方向の最大長さと同一であり、
前記係止構造は、前記規制状態において前記ワイヤが基端側に引かれた場合に、前記係止部材における前記貫通孔を画定する内面と、前記固定部材との摩擦力により、前記ワイヤの牽引力が前記所定値以下のとき、前記固定部材が前記係止部材の前記貫通孔を通り抜けない構造である、
デリバリシステム。
【請求項3】
被搬送体と、
中空状のシャフトと、
前記シャフトからの前記被搬送体の脱離を規制する規制状態から、前記シャフトからの前記被搬送体の脱離を許容する解除状態へと、切り替わる脱離機構と、
を備え、前記被搬送体を生体内の目標位置に搬送して留置するデリバリシステムであって、
前記被搬送体は、コイル体と、前記コイル体の基端側に配設されたコイル体支持部材と、を有し、
前記脱離機構は、
前記シャフトの先端側に位置し、かつ、中空部を有する筒状部であって、前記中空部に前記コイル体支持部材が収容された筒状部と、
前記筒状部の前記中空部に配置された部分を含むワイヤであって、前記規制状態において、前記コイル体支持部材の前記シャフト側に配置された第1の部分と、前記第1の部分に連続し、かつ、前記シャフト側とは反対側に配置された第2の部分とを有するワイヤと、備え、
前記コイル体支持部材が前記筒状部の横断面を面方向に移動可能な最大長さを移動可能最大長さとしたとき、
前記第2の部分の少なくとも一部分は、前記移動可能最大長さと比較して大きな直径を有し、かつ、コイル体支持部材の前記シャフト側とは反対側への移動を規制する位置に配置されており、
前記規制状態において前記ワイヤが基端側へ引かれることによって、前記解除状態に切り替わるように構成されており、
前記筒状部は、円筒状であり、かつ、前記筒状部の前記中空部に開口する切欠き部を有し、
前記規制状態において、前記コイル体支持部材の一部は、前記切欠き部により構成される空間部に位置している、
デリバリシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、被搬送体を生体内の目標位置に搬送して留置するデリバリシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤に対する治療法として、例えば白金の合金からなるコイルを脳動脈瘤内に詰め、脳動脈瘤への血液の流入を阻止する塞栓術が行われている。塞栓術には、コイルを脳動脈瘤内に搬送し、脳動脈瘤内にコイルを留置するデリバリシステムが用いられる。このようなデリバリシステムとして、シャフトの中空部に、コイルと、コイルの基端側に接続されたボールと、ボールに巻き付けられた巻線部分を含み、かつ、基端側へと延びるフィラメントとを備えるデリバリシステムが知られている。このデリバリシステムでは、フィラメントの巻線部分がボールに巻き付けられた状態でコイルを目標位置まで搬送し、目標位置においてフィラメントを基端側へと引くことにより、ボールを巻線部分から解放し、シャフトからコイルを脱離させる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他のデリバリシステムとして、シャフトの中空部に、コイルと、コイルの基端側に接続されたボールと、シャフトからのコイルの離脱を規制するワイヤであって、ボールとシャフトの内面との間に配置されたワイヤとを備え、目標位置においてワイヤを基端側へと引くことにより、シャフトからコイルを脱離させるシステムが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2016/228125号明細書
【文献】特開平10-201766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のデリバリシステムは、簡易な構成で、目標位置に到達する前にコイルがシャフトから脱離することを防止しつつ、目標位置で容易にかつ確実にコイルをシャフトから脱離させる性能に関し、向上の余地がある。
【0006】
なお、このような課題は、コイルを脳動脈瘤内に搬送して留置するデリバリシステムに限らず、被搬送体を生体内の目標位置に搬送して留置するデリバリシステムに共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示されるデリバリシステムは、被搬送体と、中空状のシャフトと、前記シャフトからの前記被搬送体の脱離を規制する規制状態から、前記シャフトからの前記被搬送体の脱離を許容する解除状態へと、切り替わる脱離機構と、を備え、前記被搬送体を生体内の目標位置に搬送して留置するデリバリシステムであって、前記被搬送体は、コイル体と、前記コイル体の基端側に配設されたコイル体支持部材と、を有し、前記脱離機構は、前記シャフトの先端側に位置し、かつ、中空部を有する筒状部であって、前記中空部に前記コイル体支持部材が収容された筒状部と、前記筒状部の前記中空部に配置された部分を含むワイヤであって、前記規制状態において、前記コイル体支持部材の前記シャフト側に配置された第1の部分と、前記第1の部分に連続し、かつ、前記シャフト側とは反対側に配置された第2の部分とを有するワイヤと、備え、前記コイル体支持部材が前記筒状部の横断面を面方向に移動可能な最大長さを移動可能最大長さとしたとき、前記第2の部分は、前記移動可能最大長さと比較して大きな直径を有し、かつ、コイル体支持部材の前記シャフト側とは反対側への移動を規制する位置に配置されており、前記規制状態において前記ワイヤが基端側へ引かれることによって、前記解除状態に切り替わるように構成されている。
【0010】
このように、本デリバリシステムは、シャフトからの被搬送体の脱離を規制する規制状態から、シャフトからの被搬送体の脱離を許容する解除状態へと、切り替わる脱離機構を備える。規制状態において、脱離機構が備える筒状部の中空部内では、ワイヤの第2の部分がコイル体支持部材のシャフト側とは反対側(先端側)への移動を規制する位置に配置されている。また、ワイヤの第2の部分の直径は、コイル支持部材の筒状部内における移動可能最大長さと比較して大きい。このため、コイル体支持部材は、ワイヤの第2の部分を通過し、筒状部内を先端側へ移動することができない。従って、本デリバリシステムでは、簡易な構成で、目標位置に到達する前に被搬送体がシャフトから脱離することを確実に防止することができる。
【0011】
一方、脱離機構は、規制状態においてワイヤが基端側に引かれることによって、解除状態に切り替わるように構成されている。すなわち、解除状態では、ワイヤが引かれることにより、ワイヤの第2の部分もコイル体支持部材より基端側へ移動するため、当該第2の部分によって、先端側へのコイル支持部材の移動が規制されない。この結果、被搬送体は、筒状部ひいてはシャフトから離脱する。従って、本デリバリシステムでは、目標位置に到達した後に、ワイヤを基端側に引いて脱離機構を解除状態に切り替えることにより、容易かつ確実に、被搬送体をシャフトから脱離させることができる。
【0012】
以上のことから、本デリバリシステムによれば、簡易な構成で、目標位置に到達する前に被搬送体がシャフトから脱離することを確実に防止しつつ、目標位置で容易にかつ確実に被搬送体をシャフトから脱離させることができる。
【0013】
(2)上記デリバリシステムにおいて、前記筒状部の前記中空部における、前記コイル体支持部材に対して基端側に固定された係止部材であって、前記筒状部の長さ方向に貫通する貫通孔が形成された係止部材と、前記ワイヤの前記第1の部分に固定された固定部材であって、前記係止部材と前記コイル体支持部材との間に位置している固定部材と、を備え、前記ワイヤの前記第1の部分は、前記貫通孔を通過して配置されており、前記規制状態において前記ワイヤが基端側へ引かれた場合に、少なくとも前記ワイヤを牽引する牽引力が所定値以下のとき、前記固定部材が前記係止部材の前記貫通孔を通り抜けない係止構造を有する構成としてもよい。本デリバリシステムでは、上記係止構造を有しているため、ワイヤが所定値以下の牽引力で牽引された場合には、ワイヤの第2の部分が、コイル体支持部材より基端側へ移動することが抑制される。従って、本デリバリシステムによれば、例えば、ワイヤが意図せず牽引された場合など、所定値以下の牽引力で牽引された場合において、意図しない被搬送体の脱離を抑制し、規制状態を維持することができる。
【0014】
(3)上記デリバリシステムにおいて、前記係止部材の前記貫通孔の直径は、前記固定部材における前記貫通孔の径方向の最大長さと同一であり、前記係止構造は、前記規制状態において前記ワイヤが基端側に引かれた場合に、前記係止部材における前記貫通孔を画定する内面と、前記固定部材との摩擦力により、前記ワイヤの牽引力が前記所定値以下のとき、前記固定部材が前記係止部材の前記貫通孔を通り抜けない構造である構成としてもよい。本デリバリシステムによれば、簡易な構成で、上記係止構造を実現することができる。
【0015】
(4)上記デリバリシステムにおいて、前記筒状部は、円筒状であり、かつ、前記筒状部の前記中空部に開口する切欠き部を有し、前記規制状態において、前記コイル体支持部材の一部は、前記切欠き部により構成される空間部に位置している構成としてもよい。このため、コイル体支持部材は、先端側への移動を規制され、この結果、規制状態をより効果的に実現することができる。また、コイル体支持部材の一部が上記空間部に位置することにより、コイル体支持部材と筒状部の内面との隙間を、筒状部内における上記移動可能最大長さより大きく確保することができ、当該隙間に、当該移動可能最大長さより大きい直径を有するワイヤを通過させることができる。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、デリバリシステム、被搬送体の搬送脱離機構、被搬送体の搬送脱離方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態におけるデリバリシステム100の外観構成を概略的に示す説明図
【
図2】
図1に示すデリバリシステム100の縦断面の構成を概略的に示す説明図
【
図3】
図1に示すデリバリシステム100の縦断面の構成を概略的に示す説明図
【
図4】
図1に示すデリバリシステム100の横断面の構成を概略的に示す説明図
【
図5】
図2に示すデリバリシステム100中の脱離機構の詳細構成を示す説明図
【
図6】第2実施形態におけるデリバリシステム100Xの縦断面の構成を概略的に示す説明図
【
図7】第3実施形態におけるデリバリシステム100Yの縦断面の構成を概略的に示す説明図
【
図8】第1~第3変形例の筒体30A,30B,30Cの詳細構成を示す説明図
【
図9】第4変形例の筒体30Dの詳細構成を示す説明図
【
図10】第5変形例のデリバリシステム100Eの縦断面の構成を概略的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施形態:
A-1.デリバリシステム100の構成:
図1は、本実施形態におけるデリバリシステム100の外観構成を概略的に示す説明図であり、
図2および
図3は、その縦断面を示す説明図であり、
図4は、その横断面を示す説明図である。
図2には、デリバリシステム100のYZ断面構成が示されており、
図3には、デリバリシステム100のXZ断面構成が示されている。Z軸正方向側が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。また、各図では、デリバリシステム100の一部分の図示を適宜省略している。本明細書では、デリバリシステム100について、先端側の端部を「先端」といい、先端およびその近傍を「先端部」といい、基端側の端部を「基端」といい、基端およびその近傍を「基端部」という。
図1~
図3では、デリバリシステム100が全体としてZ軸方向に略平行な直線状となった状態を示しているが、デリバリシステム100の少なくとも一部の構成は、湾曲させることができる程度の可撓性を有している。これらの点は、以降の図においても同様である。
【0019】
デリバリシステム100は、インプラント20を生体内の目標位置に搬送して留置するシステムである。より詳細には、デリバリシステム100は、血管内において、インプラント20を脳動脈瘤内に搬送し、その位置でインプラント20を脱離させることによってインプラント20を脳動脈瘤内に留置する医療用デバイスである。
【0020】
デリバリシステム100は、シャフト10と、インプラント20と、脱離機構40とを備える。脱離機構40は、筒体30とワイヤ42とを備えている。
【0021】
シャフト10は、可撓性を有する長尺状の部材である。より詳細には、シャフト10は、先端から基端まで延長する空間12を有する筒状(中空状)の部材である。シャフト10の各位置における横断面(XY断面)の形状は、任意の形状を取り得るが、例えば略円環状である。シャフト10の全長は、例えば100mm~2000mm程度であり、シャフト10の外径は、例えば0.2mm~2mm程度である。シャフト10を形成する材料としては、生体内の管腔(血管等)の湾曲に容易に追従できる程度の柔軟性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、ステンレス鋼、ニッケル-チタン合金等の超弾性合金材料、または、ポリ塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、およびフッ素樹脂等の合成樹脂を採用することができる。
【0022】
インプラント20は、デリバリシステム100により目標位置(脳動脈瘤の位置)に搬送される部材である。インプラント20は、コイル22と、先端部24と、ボール26と、を備える。インプラント20は、特許請求の範囲における被搬送体の一例である。
【0023】
コイル22は、例えば、2本の素線を隣り合う素線同士が密着するように螺旋状に巻回されたコイル体であり、先端から基端まで延長する空間23を有する筒状(中空状)の部材である。コイル22の各位置における横断面(XY断面)の形状は、任意の形状を取り得るが、例えば略円環状である。インプラント20において、脳動脈瘤の塞栓機能は、主としてコイル22が担う。コイル22の全長は、例えば10mm~500mm程度であり、コイル22の内径は、例えば0.4mm~2mm程度であり、コイル22を構成する素線の直径は、例えば0.01mm~0.1mm程度である。コイル22は、特許請求の範囲におけるコイル体の一例である。
【0024】
先端部24は、略半球状の部材であり、コイル22の先端の開口を塞ぐように、コイル22の先端に接合されている。先端部24の外径は、コイル22の外径に等しいか、または、コイル22の外径より僅かに小さい。先端部24の外径を、コイル22の外径より大きくすることができる。
【0025】
ボール26は、略球状の部材であり、コイル22の基端側に配設されている。本実施形態では、ボール26は、コイル22の基端側に接合されている。ボール26の直径D26は、コイル22の外径よりも僅かに大きい。ボール26の直径D26を、コイル22の外径に等しくするか、または、コイル22の外径より僅かに小さくすることができる。ボール26は、特許請求の範囲におけるコイル体支持部材の一例である。
【0026】
インプラント20を構成するコイル22、先端部24、ボール26を形成する材料としては、例えば、白金、金、タングステン、又はこれらの金属の合金等の放射線不透過性の金属等を採用することができる。
【0027】
筒体30とワイヤ42とを備える脱離機構40は、シャフト10からのインプラント20の脱離を規制する規制状態から、シャフト10からのインプラント20の脱離を許容する解除状態へと、切り替わる機構である。なお、
図1から
図3には、脱離機構40が規制状態にあるデリバリシステム100の構成が示されている。
【0028】
筒体30は、シャフト10の先端側に位置し、かつ、中空部30Hを有する部材であり、例えば、ステンレス鋼等により形成されている。筒体30は、筒部31と係止部32とを一体的に有する。筒部31は、中空部30Hに開口する貫通孔312を有する円筒状の部分である。すなわち、本実施形態において、中空部30Hの横断面形状は略円形である。中空部30Hには、インプラント20のうちのボール26と、コイル22の一部とが収容されている。筒部31の内径D31は、ボール26の直径D26より大きく、例えば、2mm程度である。本実施形態において、貫通孔312は、筒部31を、デリバリシステム100の軸線AD方向に略直交する方向(具体的には、Y軸方向または筒部31の壁厚方向)に貫通する孔である。貫通孔312の形状は、特に限定されないが、Y軸正方向から視たときに、例えば、X軸方向を長辺とする略長方形である。筒体30は、例えば、溶接、接着により、シャフト10に接続されている。筒部31は、特許請求の範囲における筒状部の一例である。貫通孔312は、特許請求の範囲における切欠き部の一例である。筒部31の内径D31と、ボール26の直径D26と、後述のワイヤ42の直径D42との関係については、後で詳述する。
【0029】
係止部32は、筒体30において基端側に位置する部分であり、中空部30Hに開口する貫通孔322を有する。換言すれば、係止部32は、ボール26に対して基端側に配置された状態で筒体30に固定される部分であり、貫通孔322は、係止部32を、軸線AD方向(筒部31の長さ方向またはZ軸方向)に貫通する孔であり、中空部30Hと、シャフト10の空間12とを連通する。貫通孔322の横断面の形状は、特に限定されないが、例えば、円形状である。貫通孔322の孔径D322は、後述のストッパ50の最大径D50と同等であり、例えば、1mm程度である。係止部32は、特許請求の範囲における係止部材の一例である。ストッパ50は、特許請求の範囲における固定部材の一例である。孔径D322は、特許請求の範囲における「係止部材の貫通孔の直径」の一例であり、最大径D50は、「固定部材における貫通孔の径方向の最大長さ」の一例である。
【0030】
ワイヤ42は、シャフト10の空間12および筒体30の中空部30Hに配置された部分を有している。本実施形態において、ワイヤ42は、略円形の横断面を有し、ワイヤ42の直径D42は、例えば、0.5mm程度である(
図2の拡大図参照)。規制状態において、ワイヤ42は、基端側ワイヤ421と、基端側ワイヤ421に連続する先端側ワイヤ422とを有する。基端側ワイヤ421は、ボール26のシャフト10側(基端側)に配置された部分であり、先端側ワイヤ422は、ボール26の先端側に配置された部分である。規制状態において、基端側ワイヤ421は、係止部32の貫通孔322を通過して配置されている。なお、基端側ワイヤ421および先端側ワイヤ422は、それぞれ、ボール26の中心点POを通る仮想線VLを基準に、ワイヤ42の基端側を基端側ワイヤ421と特定し、先端側を先端側ワイヤ422と特定することができる(
図2の拡大図参照)。基端側ワイヤ421は、特許請求の範囲における第1の部分の一例であり、先端側ワイヤ422は、特許請求の範囲における第2の部分の一例である。
【0031】
基端側ワイヤ421には、ストッパ50が固定されている。本実施形態において、ストッパ50は、中央に貫通孔を有する円盤形状の部材である。ストッパ50の最大径D50は、上述の通り、係止部32の貫通孔322の孔径D322と同等であり、例えば、1mm程度である。ストッパ50の形成材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウム等の金属、樹脂等である。本実施形態において、ストッパ50の貫通孔には、基端側ワイヤ421が通され、ストッパ50は、中空部30Hにおける、インプラント20のボール26と、筒体30の係止部32との間において、基端側ワイヤ421に固定されている。
【0032】
筒体30の係止部32と、ストッパ50とが、上記構成であることにより、ワイヤ42が、所定値以下の牽引力で、ワイヤ42の基端側(すなわち、シャフト10の先端から基端へ向かう方向)へ引かれた場合に、係止部32の貫通孔322を通り抜けることを抑制する係止構造を実現する。
【0033】
A-2.筒部31の内径D31と、ボール26の直径D26と、ワイヤ42の直径D42との関係:
筒部31の内径D31と、ボール26の直径D26と、ワイヤ42の直径D42とは、後述のデリバリシステム100の動作を実現するため、以下の関係を満たしている。以下、
図4を用いて説明する。
図4(A)は、
図2および
図3のIVA-IVAの位置におけるデリバリシステム100の横断面構成を示す説明図であり、
図4(B)は、
図2および
図3のIVB-IVBの位置におけるデリバリシステム100の横断面構成を示す説明図である。なお、
図4(A)には、便宜的に、最大径におけるボール26の形状が点線で示されている。
【0034】
図4(A)に示すように、ボール26の直径D26は、筒部31の内径D31より小さい。このため、ボール26は、筒部31の中空部30H内を面方向に移動可能である。より具体的には、内径D31と直径D26との差は、長さLtである。換言すれば、長さLtは、ボール26が筒部31の横断面を面方向に移動可能な最大長さである。なお、この構成において、先端側ワイヤ422の直径D42は、長さLtより大きい。また、先端側ワイヤ422は、インプラント20(具体的には、ボール26)が先端側へ移動することを規制するよう配置されている。本実施形態において、先端側ワイヤ422は、軸線AD方向と交差するように配置されている。
【0035】
図4(B)に示すように、筒部31の貫通孔312が位置する部分おいて、ボール26の一部(本実施形態において上部)は、貫通孔312により構成される空間部312Hに位置している。このため、ボール26は、先端側への移動を規制され、この結果、規制状態をより効果的に実現することができる。また、ボール26の一部が空間部312Hに位置することにより、ボール26と筒部31の内面S31との隙間を、長さLtより大きく確保することができ、当該隙間に、長さLtより大きい直径D42を有するワイヤ42を通過させることができる。
【0036】
A-3.デリバリシステム100の動作:
次に、
図5を用いて、本実施形態のデリバリシステム100の動作について説明する。
図5(A)および(B)には、規制状態にある脱離機構40(
図2参照)の構成が示されており、
図5(C)および(D)には、解除状態にある脱離機構40の構成が示されている。なお、
図5には、デリバリシステム100における一部の構成部材のみを抜き出して示している。
【0037】
図5(A)および(B)に示すように、脱離機構40がシャフト10からのインプラント20の脱離を規制する規制状態にあるときには、上述のように、ワイヤ42の先端側ワイヤ422は、ボール26の先端側において、軸線AD方向と交差するように配置されている。また、上述のように、先端側ワイヤ422の直径D42は、ボール26が筒部31の横断面を面方向に移動可能な最大長さである長さLtより大きい。このため、ボール26は、先端側ワイヤ422を乗り越えて先端側へと移動することができない。すなわち、ボール26の先端側への移動は規制される。なお、規制状態において、ボール26の一部(本実施形態において上部)は、貫通孔312により構成される空間部312Hに位置している。このように、ボール26の一部が、空間部312Hに位置することにより、ボール26と、筒体30の内面S31との隙間にワイヤ42を通過させることができる(
図4(B)参照)。
【0038】
手技者は、脱離機構40が規制状態にあるデリバリシステム100のシャフト10を把持して操作することにより、デリバリシステム100を先端側から血管内に挿入し、血管中を脳動脈瘤に向けて前進させる。このとき、脱離機構40が規制状態にあることから、デリバリシステム100を前進させている際にインプラント20が意図せず脱離することが防止される。なお、前記の特許文献2のデリバリシステムは、ボールをシャフトの内面とワイヤとで挟持する構成であるため、ボール、シャフトおよびワイヤの各々を高精度で作製しなければ、ボールおよびコイルの意図しない脱離が生じやすい。本実施形態では、そのような構成を有していない。具体的には、ボール26の最大径を示す部位と、ワイヤ42の最大径を示す部位(前述の第2の部分(先端側ワイヤ422)の少なくとも一部分)とが、筒体30の径方向に重ねて配置されない。このため、本実施形態のデリバリシステム100では、前記のように高精度でボール26、筒体30およびワイヤ42を作製しなくとも、ボール26およびコイル22の意図しない脱離を防止することができるため、非常に小さなデリバリシステム100の製造が極めて容易になるという優れた効果を発揮する。
【0039】
また、上述したように、脱離機構40は、筒体30の係止部32と、ストッパ50とから構成される係止構造を有している。より具体的には、ワイヤ42を意図せず牽引した場合のように、所定値以下の牽引力fで、基端側へ引かれた場合に、ワイヤ42が、係止部32の貫通孔322を通り抜けることを抑制する構造を有している。本実施形態において、貫通孔322の孔径D322が、ストッパ50の最大径D50と同等であるため、牽引力fで、ワイヤ42が基端側に引かれた場合に、係止部32の貫通孔322を画定する内面S322と、ストッパ50との摩擦力により、ストッパ50が係止部32の貫通孔322を通り抜けることを抑制することができる。これにより、インプラント20が意図せず脱離することがより効果的に防止される。
【0040】
インプラント20が脳動脈瘤の位置まで到達すると、手技者は、シャフト10を把持して操作することにより、インプラント20(コイル22)を脳動脈瘤内に詰める。その後、手技者は、インプラント20を脱離機構40から脱離する。具体的には、手技者は、シャフト10の空間12から基端側に延びるワイヤ42を、牽引力fを超える牽引力Fで、基端側に引く。これにより、規制状態から解除状態に切り替わる。より具体的には、以下の通りである。
【0041】
図5(C)および(D)は、ワイヤ42を基端側に引いたときのデリバリシステム100の状態の変化を時系列的に示す説明図である。ワイヤ42を、牽引力Fで、基端側に引く操作を開始すると、
図5(C)に示すように、ストッパ50が、筒体30の係止部32を通り抜けるとともに、ボール26の先端側に位置していた先端側ワイヤ422がボール26の基端側へと移動した状態となる。この状態では、ボール26の先端側へ移動は規制されないため、先端側ワイヤ422によるインプラント20の移動の規制が完全に無くなった状態となる。これにより、インプラント20は筒体30から脱離し、筒体30の中空部30Hを通って、脳動脈瘤内に留置される。
【0042】
脱離機構40からインプラント20を脱離させた後、デリバリシステム100におけるインプラント20以外の構成であるシャフト10および脱離機構40を基端側に移動させ、最終的に体外に取り出す。以上のようにして、デリバリシステム100を用いたインプラント20の脳動脈瘤への搬送および留置が完了する。
【0043】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のデリバリシステム100は、シャフト10からのインプラント20の脱離を規制する規制状態から、シャフト10からのインプラント20の脱離を許容する解除状態へと、切り替わる脱離機構40を備える。規制状態において、脱離機構が備える筒部31の中空部30H内では、ワイヤ42の先端側ワイヤ422がボール26のシャフト10側とは反対側(先端側)への移動を規制する位置に配置されている。また、ワイヤ42の先端側ワイヤ422の直径D42は、ボール26の筒部31内における移動可能最大長さ(長さLt)と比較して大きい。このため、ボール26は、ワイヤ42の先端側ワイヤ422を通過し、筒部31内を先端側へ移動することができない。従って、本実施形態のデリバリシステム100では、簡易な構成で、目標位置に到達する前にインプラント20がシャフト10から脱離することを確実に防止することができる。
【0044】
一方、脱離機構40は、規制状態においてワイヤ42が基端側に引かれることによって、解除状態に切り替わるように構成されている。すなわち、解除状態では、ワイヤ42が引かれることにより、ワイヤ42の先端側ワイヤ422もボール26より基端側へ移動するため、先端側ワイヤ422によって、先端側へのボール26の移動が規制されない。この結果、インプラント20は、筒部31ひいてはシャフト10から離脱する。従って、本実施形態のデリバリシステム100では、目標位置に到達した後に、ワイヤ42を基端側に引いて脱離機構40を解除状態に切り替えることにより、容易かつ確実に、インプラント20をシャフト10から脱離させることができる。
【0045】
以上のことから、本実施形態のデリバリシステム100によれば、簡易な構成で、目標位置に到達する前にインプラント20がシャフト10から脱離することを確実に防止しつつ、目標位置で容易にかつ確実にインプラント20をシャフト10から脱離させることができる。
【0046】
また、本実施形態のデリバリシステム100では、貫通孔322が形成された係止部32と、ストッパ50とを備える。ワイヤ42の基端側ワイヤ421は、貫通孔322を通過して配置されており、規制状態においてワイヤ42が基端側へ引かれた場合に、牽引力f以下のとき、ストッパ50が係止部32の貫通孔322を通り抜けない係止構造を有する。本実施形態のデリバリシステム100では、上記係止構造を有しているため、ワイヤ42が牽引力f以下で牽引された場合には、ワイヤ42の先端側ワイヤ422が、ボール26より基端側へ移動することが抑制される。従って、本実施形態のデリバリシステム100によれば、例えば、ワイヤ42が意図せず牽引された場合など、牽引力f以下で牽引された場合において、意図しないインプラント20の脱離を抑制し、規制状態を維持することができる。
【0047】
また、本実施形態のデリバリシステム100では、係止部32の貫通孔322の孔径D322は、ストッパ50の最大径D50と同一である。また、係止構造は、規制状態においてワイヤ42が基端側に引かれた場合に、係止部32の内面S322と、ストッパ50との摩擦力により、牽引力f以下のとき、ストッパ50が係止部32の貫通孔322を通り抜けない構造である。本実施形態のデリバリシステム100によれば、簡易な構成で、上記係止構造を実現することができる。
【0048】
また、本実施形態のデリバリシステム100では、筒部31は円筒状であり、かつ、貫通孔312を有している。規制状態において、ボール26の一部は、貫通孔312により構成される空間部312Hに位置している。このため、ボール26は、先端側への移動を規制され、この結果、規制状態をより効果的に実現することができる。また、ボール26の一部が空間部312Hに位置することにより、ボール26と筒部31の内面S31との隙間を、筒部31内における長さLtより大きく確保することができ、当該隙間に、長さLtより大きい直径D42を有するワイヤ42を通過させることができる。
【0049】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態におけるデリバリシステム100Xの縦断面(YZ断面)の構成を概略的に示す説明図である。以下では、第2実施形態のデリバリシステム100Xの構成のうち、第1実施形態のデリバリシステム100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0050】
第2実施形態のデリバリシステム100Xは、第1実施形態のデリバリシステム100のインプラント20に代えて、インプラント20Xを備えている。インプラント20Xは、インプラント20が備えるボール26および先端部24に加えて、伸張抑制部材28を備え、コイル22に代えてコイル22Xを備える。コイル22Xは、コイル22と同様に、ボール26の先端側に配設され、コイル22Xの先端は、先端部24に接合されている。本実施形態において、コイル22Xの基端は、ボール26に接合されていない。また、コイル22Xとして、その長さ方向において外径(および/または内径)が略一定(望ましくは、一定)のコイルを用いることができる。なお、本実施形態では、コイル22Xの基端側の端部は、筒部31の中空部30Hに収容されている。このため、コイル22Xの基端側の端部の動きを規制することができる。伸張抑制部材28は、コイル22Xの空間23に配置された略円柱状の部材であり、その端部は、先端部24とボール26とにそれぞれ接合される。本実施形態において、伸張抑制部材28は、コイル22Xの軸線ADと同軸上に位置する。伸張抑制部材28は、コイル22Xにおける軸線AD方向の伸張を抑制するとともに、インプラント20Xの脳動脈瘤への進入を妨げない程度の柔軟性を有する部材である。伸張抑制部材28を形成する材料としては、例えば、白金、金、タングステン、又はこれらの金属の合金等の放射線不透過性の金属等を採用することができる。このように、本実施形態のデリバリシステム100Xによれば、伸張抑制部材28を備えることにより、第1実施形態のデリバリシステム100の効果に加えて、コイル22Xの過度の伸張を抑制することができる。なお、コイル22Xは、特許請求の範囲におけるコイル体の一例である。
【0051】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態におけるデリバリシステム100Yの縦断面(XZ断面)の構成を概略的に示す説明図である。以下では、第3実施形態のデリバリシステム100Yの構成のうち、上記実施形態のデリバリシステム100,100Xと同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0052】
第3実施形態のデリバリシステム100Yは、第1実施形態のデリバリシステム100のワイヤ42に代えて、ワイヤ42Yを備え、インプラント20に代えて、インプラント20Xを備えている。ワイヤ42Yは、ワイヤ42と同様に、シャフト10の空間12および筒体30の中空部30Hに配置された部分を有している。本実施形態では、規制状態において、ワイヤ42Yは、基端側ワイヤ421と、基端側ワイヤ421に連続する先端側ワイヤ422Yと、先端側ワイヤ422Yに連続する末端ワイヤ423を有する。先端側ワイヤ422Yは、先端側ワイヤ422と同様に、ボール26の先端側に配置された部分であり、インプラント20X(具体的には、ボール26)が先端側へ移動することを規制するよう配置されている。本実施形態において、先端側ワイヤ422Yは、軸線AD方向と交差するように配置されている。末端ワイヤ423は、ボール26の基端側に配置された部分であり、その端部部分は、ストッパ50に着脱可能に固定されている。本実施形態では、末端ワイヤ423の端部部分は、基端側ワイヤ421とともに、ストッパ50の貫通孔に通されている。換言すれば、Y軸方向から見て、ワイヤ42Yは、ボール26の中心点POを取り囲むよう輪状を形成している。先端側ワイヤ422Yは、特許請求の範囲における第2の部分の一例である。なお、ワイヤ42Yの、横断面形状および直径は、ワイヤ42と同等である。
【0053】
本実施形態の構成では、ワイヤ42Yを基端側に引く操作を開始すると、末端ワイヤ423の端部部分がストッパ50の貫通孔から抜け出し、第1実施形態のワイヤ42と同様に、解除状態へと切り替わる。このように、本実施形態のデリバリシステム100Yによれば、ワイヤ42Yを備えることにより、上述の目標位置に到達する前にインプラント20Xがシャフト10から脱離することを、更に効果的に防止することができる。
【0054】
D.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0055】
D-1.第1変形例:
図8(A)は、第1変形例の筒体30Aの詳細構成を示すYZ断面図である。第1変形例の筒体30Aは、筒部31Aと係止部32Aとを別体で有する点で、第1実施形態の筒体30の構成と異なる。
【0056】
筒部31Aは、円筒状の部材であり、第1実施形態の筒部31と同様に貫通孔312を有している。係止部32Aは、円筒状の部材であり、第1実施形態の係止部32と同様に貫通孔322を有している。本変形例において、筒部31Aの内径D31と、係止部32Aの外径D32とは、略同一である。筒部31Aの内面S31と係止部32Aの外面S32とは、例えば、接着剤により、固定されている。筒部31Aは、特許請求の範囲における筒状部の一例である。本変形例の筒体30Aを備えたデリバリシステムにおいても、第1実施形態のデリバリシステム100と同様の効果を奏する。また、本変形例の筒体30Aによれば、筒部31Aと係止部32Aとが別体であるため、筒体30Aの構成のバリエーションを多様化することができる。
【0057】
D-2.第2変形例:
図8(B)は、第2変形例の筒体30Bの詳細構成を示すYZ断面図である。第2変形例の筒体30Bは、第1変形例の筒体30Aにおいて、筒部31Aに代えて筒部31Bを有する点で、第1変形例の筒体30Aの構成と異なる。すなわち、第2変形例の筒体30Bは、筒部31Bと係止部32Aとを有する。
【0058】
筒部31Bは、円筒状の部材であり、第1実施形態の筒部31と同様に貫通孔312を有している。より具体的には、筒部31Bは、素線を巻回することにより、中空円筒状に形成されたコイル体である。本変形例において、コイル体を形成する素線の横断面形状は、略円形である。第1変形例と同様に、筒部31Bの内径D31と、係止部32Aの外径D32とは、略同一である。第1変形例と同様に、筒部31Bの内面S31と係止部32Aの外面S32とは、例えば、接着剤により、固定されている。筒体30Bの貫通孔312が形成される部分において、前記コイル体の隣接する素線同士を、例えば、接着剤を用いて互いに固定することができる。筒部31Bは、特許請求の範囲における筒状部の一例である。本変形例の筒体30Bを備えたデリバリシステムにおいても、第1実施形態および上記変形例のデリバリシステムと同様の効果を奏する。また、本変形例の筒体30Bによれば、筒部31Bがコイル体で形成されているため、筒部31Bひいては筒部31Bを備えるデリバリシステムの柔軟性を確保することができる。
【0059】
D-3.第3変形例:
図8(C)は、第3変形例の筒体30Cの詳細構成を示すYZ断面図である。第3変形例の筒体30Cは、第2変形例の筒体30Bにおいて、筒部31Bに代えて筒部31Cを有する点で、第2変形例の筒体30Bの構成と異なる。すなわち、第3変形例の筒体30Cは、筒部31Cと係止部32Aとを有する。
【0060】
筒部31Cは、円筒状の部材であり、第1実施形態の筒部31と同様に貫通孔312を有している。より具体的には、筒部31Cは、第2変形例の筒部31Bと同様に、素線を巻回することにより、中空円筒状に形成されたコイル体である。本変形例において、コイル体を形成する素線の横断面形状は、略矩形である。第1変形例と同様に、筒部31Cの内面S31と係止部32Aの外面S32とは、例えば、接着剤により、固定されている。筒体30Cの貫通孔312が形成される部分において、前記コイル体の隣接する素線同士を、例えば、接着剤を用いて互いに固定することができる。筒部31Cは、特許請求の範囲における筒状部の一例である。本変形例の筒体30Cを備えたデリバリシステムにおいても、第1実施形態および上記変形例のデリバリシステムと同様の効果を奏する。また、本変形例の筒体30Cによれば、筒部31Cがコイル体で形成されているため、筒部31Cひいては筒部31Cを備えるデリバリシステムの柔軟性を確保することができる。
【0061】
D-4.第4変形例:
図9は、第4変形例の筒体30Dの詳細構成を示すXY断面図である。
図9(A)は、
図4(A)に示す断面と同一の位置における筒体30Dの横断面構成を示す説明図であり、
図9(B)は、
図4(B)に示す断面と同一の位置における筒体30Dの横断面構成を示す説明図である。なお、
図9(A)には、便宜的に、最大径におけるボール26の形状が点線で示されている。第4変形例の筒体30Dは、中空部30Hの横断面形状が略正方形であり、貫通孔312が形成されていない点で、第1実施形態の筒体30の構成と異なる。
【0062】
筒体30Dは、第1実施形態と同様に、筒部31Dと係止部32(図示せず)とを一体的に有する。第1実施形態と同様に、中空部30Hには、インプラント20のうちのボール26と、コイル22の一部とが収容されている。筒部31Dの中空部30Hの一辺の長さL31は、ボール26の直径D26と略同等であり、例えば、2mm程度である。筒部31Dは、特許請求の範囲における筒状部の一例である。
【0063】
本変形例の筒体30Dにおいても、筒部31Dの長さL31と、ボール26の直径D26と、ワイヤ42の直径D42とが、上述のデリバリシステム100と同様の動作を実現するため、次の関係を満たしている。上述の通り、ボール26の直径D26は、筒部31Dの長さL31と同等である。換言すれば、ボール26が筒部31Dの横断面を面方向に移動可能な最大長さは、略ゼロである。また、先端側ワイヤ422は、インプラント20(具体的には、ボール26)が先端側へ移動することを規制するよう配置されている。本変形例において、先端側ワイヤ422は、第1実施形態と同様に、デリバリシステムの軸方向と交差するように配置されている。
【0064】
図9(B)に示すように、筒部31Dの中空部30Hは略正方形であり、インプラント20のボール26は略円形状である。このため、中空部30Hにおける、ボール26と、筒体30Dの内面S31との隙間(
図9(B)において、中空部30Hの4隅部分)に、直径D42を有するワイヤ42を通過させることができる。すなわち、本変形例の筒体30Dでは、第1実施形態の筒体30の貫通孔312を設けることなく、ボール26と、筒体30Dの内面S31との隙間に、ワイヤ42を通過させることができる。
【0065】
本変形例の筒体30Dでは、規制状態であるときには、上述のように、ワイヤ42の先端側ワイヤ422は、ボール26の先端側において、デリバリシステムの軸方向と交差するように配置されている。また、上述のように、先端側ワイヤ422の直径D42は、ボール26が筒部31Dの横断面を面方向に移動可能な最大長さ(略ゼロ)より大きい。このため、第1実施形態と同様に、規制状態では、ボール26は、先端側ワイヤ422を乗り越えて先端側へと移動することができず、ボール26の先端側への移動は規制される。また、ワイヤ42を基端側に引いて、ボール26の先端側に位置していた先端側ワイヤ422がボール26の基端側へと移動させることにより、インプラント20を筒体30Dから脱離させることができる。本変形例の筒体30Dを備えたデリバリシステムにおいても、第1実施形態のデリバリシステム100と同様の効果を奏する。また、本変形例の筒体30Dによれば、筒部31の中空部30Hの横断面形状が略正方形であるため、貫通孔312を設けることなく、ボール26と、筒体30Dの内面S31との隙間に、ワイヤ42を通過させることができる。
【0066】
D-5.第5変形例:
図10は、第5変形例のデリバリシステム100Eの縦断面の構成を概略的に示す説明図である。
図10には、デリバリシステム100EのYZ断面構成が示されている。第5変形例のデリバリシステム100Eは、脱離機構40に代えて脱離機構40Eを有し、ストッパ50を有していない点で、第1実施形態のデリバリシステム100の構成と異なる。
【0067】
脱離機構40Eは、筒体30Eとワイヤ42とを備える。筒体30Eは、第1実施形態の筒部31と同様の構成を有する。すなわち、筒体30Eは、中空部30Hと、中空部30Hに開口する貫通孔312とを有する円筒状の部材である。本変形例においても、中空部30Hには、インプラント20のうちのボール26と、コイル22の一部とが収容されている。筒体30Eの内径と、ボール26の直径との大きさや、筒体30Eの内径と、ボール26の直径と、ワイヤ42の直径との関係については、第1実施形態と同様である。筒体30Eは、特許請求の範囲における筒状部の一例である。本変形例のデリバリシステム100Eによれば、係止構造を有することによる効果を除き、第1実施形態のデリバリシステム100と同様の効果を奏する。
【0068】
D-6.他の変形例:
上記実施形態におけるデリバリシステム100,100X,100Yの構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、インプラント20が先端部24を備えているが、インプラント20が先端部24を備えていなくてもよい。
【0069】
上記第2および第3変形例では、筒体30B,30Cを構成するコイル体は素線が密巻きされた構成であるが、当該コイル体は素線が粗巻きされた構成であってもよい。また、上記第2および第3変形例では、上記コイル体は、1本の素線を螺旋状に巻回することにより円筒状(中空状)に形成された構成であるが、上記コイル体は、複数の素線を螺旋状に巻回することにより筒状に形成した構成であってもよいし、複数の素線を撚って形成した1本の撚線を螺旋状に巻回することにより筒状に形成した構成であってもよいし、複数の素線を撚って形成した撚線を複数本、螺旋状に巻回することにより筒状に形成した構成であってもよい。
【0070】
上記実施形態における筒体30の筒部31の中空部30Hの形状は、特に限定されず、多角形、楕円等であってもよい。
【0071】
上記実施形態における筒部31の貫通孔312の形状は、当該孔によって画定される空間部312Hに、ボール26の一部を収容することができれば、特に限定されない。例えば、貫通孔の形状は、Y軸正方向から視たときに、三角形、五角形等の多角形、略円形等であってもよい。また、貫通孔312に代えて、中空部30Hに開口する有底孔であってもよい。
【0072】
上記実施形態における係止部32の貫通孔322の横断面の形状は、当該孔の内面S322と、ストッパ50との摩擦力により、ストッパ50が係止部32の貫通孔322を通り抜けることを抑制することができれば、特に限定されない。例えば、貫通孔の横断面の形状は、多角形、楕円等であってもよい。
【0073】
上記実施形態における係止構造は、係止部32の貫通孔322の内面S322と、ストッパ50との摩擦力によるものに限定されない。例えば、ストッパが弾性体により形成され、かつ、ストッパの最大径が貫通孔322の孔径D322より大きい構成とし、ワイヤ42が、牽引力fで、基端側へ引かれた場合には、ストッパが係止部32の貫通孔322を通り抜けることを抑制し、ワイヤ42が、牽引力Fで、基端側へ引かれた場合には、ストッパが弾性変形することにより、貫通孔322を通り抜ける構造であってもよい。
【0074】
上記実施形態におけるワイヤ42の横断面の形状は、特に限定されず、多角形、楕円等であってもよい。また、ワイヤ42の直径D42は、ボール26と筒部31の内面S31との隙間に配置可能であり、ボール26の先端側への移動を規制することができれば、特に限定されない。また、ワイヤ42の先端側ワイヤ422の少なくとも一部において、ボール26の先端側への移動を規制することができる直径を有していればよい。なお、ワイヤの横断面の形状が円形でない構成において、「ワイヤの直径」は、例えば、ワイヤの横断面における最短辺または最小径を意味する。
【0075】
第2実施形態では、コイル22Xの基端側の端部が、筒部31の中空部30Hに収容されている構成としたが、コイル22Xの基端側の端部が筒部31の中空部30Hに収容されていない構成であってもよい。
【0076】
第3実施形態では、末端ワイヤ423の端部部分が、ストッパ50に着脱可能に固定されている構成としたが、これに限定されない。例えば、末端ワイヤ423の端部部分は、ストッパ50に着脱不能な状態で固定されていてもよい。このような構成では、ワイヤ42Yを基端側に引く操作を開始すると、ワイヤ42Yの先端側ワイヤ422Yによってボール26が持ち上がり、ボール26の一部(上部)が、筒部31の貫通孔312により構成される空間部312Hに位置することにより、ワイヤ42Yが、輪状を形成したまま、ボール26と筒体30の内面S31との隙間を通過し、解除状態へと切り替わることができる。また、第3実施形態において、末端ワイヤ423の端部部分は、基端側ワイヤ421とともに、ストッパ50の貫通孔に通されていなくてもよい。例えば、末端ワイヤ423の端部部分は、ストッパ50に形成された他の貫通孔に通されていてもよい。このような構成では、Y軸方向から見て、例えば、ワイヤ42Yとストッパ50とにより、ボール26の中心点POを取り囲むように輪状を形成することができる。
【0077】
上記実施形態において、シャフト10と筒体30とは、一体的に形成されていてもよい。また、例えば、第1変形例において、シャフト10と筒部31Aとは、一体的に形成されていてもよい。
【0078】
第4変形例の筒体30Dにおいて、中空部30Hの横断面の形状は、特に限定されず、三角形、五角形等の多角形であってもよい。
【0079】
上記実施形態における各部材の寸法や材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0080】
上記実施形態では、インプラント20を脳動脈瘤内に搬送して留置するデリバリシステム100を例に挙げて説明したが、本明細書に開示された技術は、被搬送体を生体内の目標位置に搬送して留置する他のデリバリシステムにも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
10:シャフト 12:空間 20:インプラント 20X:インプラント 22:コイル 22X:コイル 23:空間 24:先端部 26:ボール 28:伸張抑制部材 30:筒体 30A:筒体 30B:筒体 30C:筒体 30D:筒体 30E:筒体 30H:中空部 31:筒部 31A:筒部 31B:筒部 31C:筒部 31D:筒部 32:係止部 32A:係止部 40:脱離機構 40E: 脱離機構 42:ワイヤ 42Y:ワイヤ 50:ストッパ 100:デリバリシステム 100E:デリバリシステム 100X:デリバリシステム 100Y:デリバリシステム 312:貫通孔 312H:空間部 322:貫通孔 421:基端側ワイヤ 422:先端側ワイヤ 422Y:先端側ワイヤ 423: 末端ワイヤ AD:軸線 D26:直径 D31:内径 D322:孔径 D32:外径 D42:直径 D50:最大径 L31:長さ Lt:長さ S31:内面 S322:内面 S32:外面