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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】圧力容器
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20240903BHJP
   F16J 13/12 20060101ALI20240903BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F16J13/12 A
F17C1/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021097004
(22)【出願日】2021-06-10
(65)【公開番号】P2022188794
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 高弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 智樹
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/002467(WO,A1)
【文献】特開2020-112189(JP,A)
【文献】特開2020-112190(JP,A)
【文献】特開2010-266029(JP,A)
【文献】国際公開第2020/264585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00
F16J 13/12
F17C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気体が充填されるライナと、
繊維束に樹脂が含浸して成る繊維強化樹脂により前記ライナの外表面に形成され、前記ライナを外側から覆う補強部と、
前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止突起を有し、該係止突起が前記補強部を構成する繊維強化樹脂に係止された状態で前記ライナに取付けられた口金と、を備えた圧力容器において、
前記係止突起は、前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止面を有し、
前記係止面が前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置されるように、前記口金に前記係止突起が複数形成されており、
前記口金における前記複数の係止突起の端部に配置される端部係止突起の少なくとも一部の係止面は、前記係止面の配置方向で見て、少なくとも前記少なくとも一部の端部係止突起に隣合う隣接係止突起の係止面に対して、前記隣接係止突起の内側寄りに設けられていることを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記口金における前記複数の係止突起の端部に配置される端部係止突起の少なくとも一部の係止面は、前記係止面の配置方向で見て、前記少なくとも一部の端部係止突起以外の係止突起の係止面に対して、前記係止突起の内側寄りに設けられていることを特徴とする圧力容器。
【請求項3】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記係止面は、前記口金の表面に対して垂直方向に沿う垂直面、もしくは、当該係止突起を構成する側面において前記口金の表面に対して垂直方向に最も近い傾斜面で構成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項4】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置される一連の係止突起を横並びで複数列形成することによって、前記口金に前記複数の係止突起が形成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項5】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記少なくとも一部の端部係止突起の係止面は、前記係止面の配置方向で見て、少なくとも前記隣接係止突起の係止面に対して、前記隣接係止突起の内側寄りにオフセットして及び/又は傾いて設けられていることを特徴とする圧力容器。
【請求項6】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記少なくとも一部の端部係止突起は、少なくとも前記隣接係止突起に対して小さくされていることを特徴とする圧力容器。
【請求項7】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記複数の係止突起は、前記係止面の配置方向で前記少なくとも一部の端部係止突起から徐々に大きくなる複数の係止突起を含んで構成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の圧力容器において、
前記少なくとも一部の端部係止突起は、少なくとも前記隣接係止突起と相似形状に形成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項9】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記少なくとも一部の端部係止突起は、少なくとも前記隣接係止突起と異なる形状に形成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項10】
請求項9に記載の圧力容器において、
前記少なくとも一部の端部係止突起は、円錐形状に形成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項11】
請求項9に記載の圧力容器において、
前記複数の係止突起は角錐形状に形成されると共に、
前記少なくとも一部の端部係止突起の頂部は、前記係止面の配置方向で前記少なくとも一部の端部係止突起以外の係止突起の頂部を結ぶ延長線上からオフセットしていることを特徴とする圧力容器。
【請求項12】
請求項1に記載の圧力容器において、
前記口金は、環状に形成され、前記補強部側へ向けて突出する前記複数の係止突起を有すると共に周方向に間隔をあけて配置された複数の口金本体部と、周方向に隣合う前記複数の口金本体部を周方向につなぐ変形部と、を有し、前記変形部が変形されて前記複数の口金本体部の前記複数の係止突起が前記補強部に係止された状態で前記ライナに取付けられていることを特徴とする圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然ガスや水素ガスなどの燃料ガスを、常圧より高い圧力、すなわち、高圧で貯蔵する圧力容器(高圧ガスタンクなどとも称する)が広く知られている。この種の圧力容器としては、例えば、特許文献1~3に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載された圧力容器(高圧ガスタンク)は、その内部がガス貯留空間として機能する中空形状のライナと、ライナの端部に配置される口金と、口金が装着されたライナの外側面を覆う補強層と、を備える。口金は、さらに、略筒状の筒部や、当該筒部の外側面から外側に張り出してライナの端面に沿う鍔部、補強層の変位を規制する変位規制部材を有する。変位規制部材は、筒部の外側面から張り出して補強層内に突出する突起部や、補強層の最外層に当接する当接部を含む。
【0004】
また、特許文献2に記載された圧力容器は、内部に気体が充填されるライナと、繊維強化樹脂を用いてライナの外表面に接した状態で形成され、ライナを外側から覆う補強層と、ライナに取付けられた口金と、を備えている。口金は、補強層を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止爪を有している。口金は、係止爪が補強層を構成する繊維強化樹脂を変形させた状態でライナに取付けられている。
【0005】
また、特許文献3に記載された圧力容器は、内部に気体が充填されるライナと、繊維強化樹脂を用いてライナの外表面に接した状態で形成され、ライナを外側から覆う補強層と、ライナに取付けられた口金と、を備えている。口金は、環状に形成され、補強層側へ向けて突出する係止爪を有すると共に周方向に間隔をあけて配置された複数の口金本体部と、周方向に隣合う複数の口金本体部を周方向につなぐ桟部と、を備えている。口金は、桟部が変形されて複数の口金本体部の係止爪が補強層に係止された状態でライナに取付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-266029号公報
【文献】特開2020-112189号公報
【文献】特開2020-112190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、繊維強化樹脂の一部を変形させる係止突起(爪)が口金の内周部に設けられている構成では、口金を固定する際に、口金の係止突起が繊維束に突き刺さる過程で口金の係止突起端部(例えば特許文献3において、各口金本体部の内周部に設けられた複数の係止突起の周端部に対応する部分)の繊維が広がって荷重(組み付け荷重)が大きくなってしまう虞がある。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑み、補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和し、繊維の張力増加を抑制することができる圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明の圧力容器は、内部に気体が充填されるライナと、繊維束に樹脂が含浸して成る繊維強化樹脂により前記ライナの外表面に形成され、前記ライナを外側から覆う補強部と、前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止突起を有し、該係止突起が前記補強部を構成する繊維強化樹脂に係止された状態で前記ライナに取付けられた口金と、を備えた圧力容器において、前記係止突起は、前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止面を有し、前記係止面が前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置されるように、前記口金に前記係止突起が複数形成されており、前記口金における前記複数の係止突起の端部に配置される端部係止突起の少なくとも一部の係止面は、前記係止面の配置方向で見て、少なくとも前記少なくとも一部の端部係止突起に隣合う隣接係止突起の係止面に対して、前記隣接係止突起の内側寄りに設けられていることを特徴としている。
【0010】
好適な態様では、前記口金における前記複数の係止突起の端部に配置される端部係止突起の少なくとも一部の係止面は、前記係止面の配置方向で見て、前記少なくとも一部の端部係止突起以外の係止突起の係止面に対して、前記係止突起の内側寄りに設けられている。
【0011】
他の好適な態様では、前記係止面は、前記口金の表面に対して垂直方向に沿う垂直面、もしくは、当該係止突起を構成する側面において前記口金の表面に対して垂直方向に最も近い傾斜面で構成されている。
【0012】
他の好適な態様では、前記補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置される一連の係止突起を横並びで複数列形成することによって、前記口金に前記複数の係止突起が形成されている。
【0013】
他の好適な態様では、前記少なくとも一部の端部係止突起の係止面は、前記係止面の配置方向で見て、少なくとも前記隣接係止突起の係止面に対して、前記隣接係止突起の内側寄りにオフセットして及び/又は傾いて設けられている。
【0014】
他の好適な態様では、前記少なくとも一部の端部係止突起は、少なくとも前記隣接係止突起に対して小さくされている。
【0015】
他の好適な態様では、前記複数の係止突起は、前記係止面の配置方向で前記少なくとも一部の端部係止突起から徐々に大きくなる複数の係止突起を含んで構成されている。
【0016】
他の好適な態様では、前記少なくとも一部の端部係止突起は、少なくとも前記隣接係止突起と相似形状に形成されている。
【0017】
他の好適な態様では、前記少なくとも一部の端部係止突起は、少なくとも前記隣接係止突起と異なる形状に形成されている。
【0018】
他の好適な態様では、前記少なくとも一部の端部係止突起は、円錐形状に形成されている。
【0019】
他の好適な態様では、前記複数の係止突起は角錐形状に形成されると共に、前記少なくとも一部の端部係止突起の頂部は、前記係止面の配置方向で前記少なくとも一部の端部係止突起以外の係止突起の頂部を結ぶ延長線上からオフセットしている。
【0020】
他の好適な態様では、前記口金は、環状に形成され、前記補強部側へ向けて突出する前記複数の係止突起を有すると共に周方向に間隔をあけて配置された複数の口金本体部と、周方向に隣合う前記複数の口金本体部を周方向につなぐ変形部と、を有し、前記変形部が変形されて前記複数の口金本体部の前記複数の係止突起が前記補強部に係止された状態で前記ライナに取付けられている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、口金の係止突起端部に配置される端部係止突起の係止面は、少なくとも端部係止突起に隣合う隣接係止突起(又は、係止面の配置方向に設けられた端部係止突起以外の係止突起)の係止面から、隣接係止突起の内側寄り(中央寄り)にずれた位置に設けられるので、補強部を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和でき、繊維の張力増加を抑制することができ、口金の組み付け荷重(刺し込み荷重)増加を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】圧力容器の端部の断面を示す拡大断面図である。
図2】口金を示す斜視図である。
図3】口金の口金本体部を内周側から見た拡大平面図である。
図4図3に示されたIV-IV線に沿って切断した口金本体部の係止突起を拡大して示す拡大断面図である。
図5】ライナの端部及び口金等を示す斜視図であり、締結部が螺合される前(かしめ前)の状態を示している。
図6図5に示されたVI-VI線に沿って切断したライナの端部等を示す断面図である。
図7】ライナの端部及び口金等を示す斜視図であり、締結部が螺合された後(かしめ後)の状態を示している。
図8図7に示されたVIII-VIII線に沿って切断したライナの端部等を示す断面図である。
図9】実施例1に係る、口金の口金本体部を内周側から見た拡大斜視図である。
図10図9に示されたA-A線に沿って切断した口金本体部の端部等を示す拡大断面図である。
図11】口金の口金本体部を内周側から見た拡大斜視図であり、従来構成と実施例1の構成において、補強層内の繊維の位置を模式的に示している。
図12図9に示された口金本体部の係止突起の寸法比率(軸方向)と張力減少率の関係を測定した実験結果を示す図である。
図13】実施例2に係る、口金の口金本体部を内周側から見た拡大斜視図である。
図14図13に示されたB-B線に沿って切断した口金本体部の端部等を示す拡大断面図である。
図15】実施例3に係る、口金の口金本体部を内周側から見た拡大斜視図である。
図16図15に示されたC-C線に沿って切断した口金本体部の端部等を示す拡大断面図である。
図17】実施例4に係る、口金の口金本体部を内周側から見た拡大斜視図である。
図18図17に示されたD-D線に沿って切断した口金本体部の端部等を示す拡大断面図である。
図19】圧力容器の製造方法の一例(FW法)を示す工程図である。
図20】圧力容器の製造方法の他例(RTM法)を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0024】
(圧力容器の概略の構成)
図1を用いて、本発明の実施形態に係る圧力容器の概略の構成について説明する。
【0025】
図1には、本実施形態の圧力容器10の端部が示されている。この圧力容器10は、燃料電池自動車に搭載されたタンクモジュールの一部を構成している。なお、タンクモジュールは、後述する締結部18等を介して互いに接続された複数の圧力容器10を含んで構成されている。
【0026】
圧力容器10は、内部に気体の水素が充填されるライナ12と、ライナ12を外側から覆う補強部としての補強層14と、を含んで構成されている。
【0027】
ライナ12は、ナイロン等の樹脂材料を用いて形成されている。このライナ12は、両端が開放された略円筒状に形成されている。ここで、ライナ12の長手方向(矢印Z方向)の中間部において内径及び外径が一定とされた円筒状の部分を胴体部12Aと呼ぶ。また、ライナ12における長手方向(矢印Z方向)の両側部分を構成し、胴体部12Aとは反対側に向かうにつれて次第に窄まる部分を肩部12Bと呼ぶ。さらに、ライナ12における長手方向(矢印Z方向)の両端部を構成し、胴体部12A及び肩部12Bよりも内径及び外径が小径かつ略一定とされた円筒状の部分を小径端部12Cと呼ぶ。
【0028】
補強層14は、繊維束に樹脂が含浸して成る繊維強化樹脂を用いて形成されている。なお、本実施形態では、繊維強化樹脂として炭素繊維強化樹脂(CFRP)が用いられている。そして、炭素繊維強化樹脂が、ライナ12の外表面の全体に巻付けられることで、ライナ12を外側から覆う補強層14が形成されている。ここで、補強層14の厚みは、ライナ12の胴体部12A側から小径端部12C側へ向かうにつれて厚くなっている。また、補強層14においてライナ12の小径端部12Cと対応する部分の外径(後述する口金16がかしめられる前の外径)は、ほぼ一定の外径となっている。
【0029】
ここで、補強層14に覆われたライナ12の小径端部12Cには、口金16及び締結部18が取付けられている。これにより、ライナ12の一方側の小径端部12Cが締結部18によって閉止されると共に、図示しないライナ12の他方側の小径端部が締結部を介して他の圧力容器10に接続されている。なお、図1においては、ライナ12において締結部18によって閉止された側の小径端部12Cを示している。
【0030】
(口金の詳細な構成)
次に、図2図4を用いて、口金16の詳細な構成について説明する。
【0031】
図2に示されるように、口金16は、金属材料を用いて環状(筒状)に形成されている。ここで、口金16の軸方向一方側(ライナ12の長手方向一方側)を矢印Zで示し、口金16の径方向外側を矢印Rで示し、口金16の周方向一方側を矢印Cで示す。
【0032】
口金16は、周方向に間隔をあけて配置された複数の(本実施形態では8つの)口金本体部20と、周方向に隣合う口金本体部20を周方向につなぐ変形部としての桟部22と、を備えている。
【0033】
口金本体部20は、径方向を厚み方向として軸方向に延在すると共に軸方向から見て径方向外側へ湾曲された板状に形成されている。なお、口金本体部20の軸方向他方側の端部は、径方向外側へ屈曲されたフランジ部24とされている。
【0034】
桟部22は、径方向を厚み方向として軸方向に延在すると共に軸方向から見て径方向外側へ略U字状に湾曲された板状に形成されている。この桟部22の厚みは、口金本体部20の厚みよりも薄い寸法に設定されている。また、桟部22の軸方向への長さは、口金本体部20の軸方向への長さと対応する長さに設定されている。
【0035】
口金本体部20の外周部には、後述する締結部18が螺合されるネジ溝26が周方向及び軸方向に沿って(つまり螺旋状に)形成されている。また、口金本体部20の内周部には、後に詳述するように口金16がかしめられた際に補強層14の外周部に食い込む(突き刺さる)係止部としての複数の係止突起28が形成されている。
【0036】
図3及び図4に示されるように、複数の係止突起28は、補強層14側へ向けて突出し、軸方向及び径方向に沿って切断した断面視で突出方向の先端側(径方向内側)が尖った鋸刃状に形成されている。また、本実施形態では、係止突起28におけるライナ12の胴体部12A側の面28Aが、径方向外側へ向かうにつれて胴体部12A側へ傾斜している。さらに、係止突起28におけるライナ12の胴体部12Aとは反対側の面28Bが、径方向に沿う垂直面となっている。また、複数の係止突起28はそれぞれ、口金本体部20を内周側から見て周方向及び軸方向に角部が設けられた四角形状(或いは菱形形状)に形成されている。すなわち、複数の係止突起28はそれぞれ、底部の角部が周方向及び軸方向に設けられると共に、先端28C(頂部)が中心からライナ12の胴体部12Aとは反対側(矢印Z方向)に偏った斜錐体からなる概略四角錘形状に形成されている。なお、各係止突起28の形状は一例であって、図示例に限られない。ここで、本実施形態では、複数の係止突起28が、当該複数の係止突起28の先端28Cがクロスハッチングを描くように配設されている。換言すると、複数の係止突起28が形成された部分がローレット形状となっている。これにより、複数の係止突起28が、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびるようになっている。すなわち、互いに交差する2つの係止突起28のなす角度θが、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維角度と一致している。なお、図4においては繊維30を二点鎖線で示し、図3においては繊維30(図4参照)の方向を符号Pで示している。
【0037】
(口金の取付工程)
次に、図1図5図8を用いて、口金16等をライナ12の小径端部12Cに取付ける工程について説明する。
【0038】
先ず、図5及び図6に示されるように、ライナ12の小径端部12Cの外周側(かつ補強層14の外周側)に口金16を配置させる(口金配置工程)。これにより、口金16の各々の口金本体部20に形成された複数の係止突起28の先端28Cが補強層14の外周面と近接して配置される。
【0039】
次に、図7及び図8に示されるように、口金16をかしめることにより、当該口金16を縮径させる(口金かしめ工程)。詳述すると、周方向に隣合う口金本体部20を周方向につなぐ各々の桟部22を変形させる(軸方向から見て径方向外側へU字状に湾曲させるように変形させる)ことにより、各々の口金本体部20を径方向内側へ移動させる。これにより、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む。なお、補強層14がRTM(樹脂含浸成形)により含浸硬化する場合は、変形された桟部22にシール効果を持たせることもできる。
【0040】
以上の工程を経て、口金16がライナ12の小径端部12Cに取付けられる。
【0041】
また、口金16がかしめられた状態(口金かしめ工程が完了した状態)では、図1に示されるように、各々の口金本体部20の外周部に形成されたネジ溝26が雄ネジ状の雄ネジ部26Aを形成する。そして、この雄ネジ部26Aに、締結部18に形成された雌ネジ部18Aを螺合させることで、締結部18をライナ12の小径端部12Cに取付ける(締結部取付工程)。この状態では、口金16がライナ12内の水素に触れない位置に配置される。
【0042】
上述したように、本実施形態では、口金16の各々の口金本体部20に形成された複数の係止突起28が、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびるようになっている。これにより、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、当該複数の係止突起28が、補強層14内の繊維を押し退けるようにして補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む。これにより、複数の係止突起28が補強層14に食い込む際に(補強層14を変形させる際に)、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維が損傷することを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、係止突起28におけるライナ12の胴体部12Aとは反対側の面28Bが、径方向に沿う垂直面となっている。複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、この垂直面に沿って補強層14内の繊維が整列されることにより、口金16を補強層14に強固に係止させることができる。
【0044】
(本実施形態の口金の特徴構成)
しかし、上述のように補強層14を構成する繊維強化樹脂の一部を変形させる係止突起28が口金16の口金本体部20の内周部に設けられている構成では、口金16を固定する際に、口金16の口金本体部20の係止突起28が繊維束に突き刺さる過程で口金16の口金本体部20の係止突起端部(各口金本体部20の内周部に設けられた複数の係止突起28の周端部に対応する部分)の繊維が広がって荷重(組み付け荷重)が大きくなってしまう虞がある。
【0045】
すなわち、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、当該複数の係止突起28によって、補強層14内の繊維が押し退けられたり、補強層14内の繊維が整列されたりすることで、繊維が変位せしめられるので、口金16の口金本体部20の係止突起端部の繊維の開き角度が大きくなり(後述する図11を併せて参照)、これによって、繊維の張力が増加し、口金16と繊維の摩擦力が増加し、口金16の組み付け荷重(刺し込み荷重)が過大となる虞がある。
【0046】
また、周方向に間隔をあけて配置された複数の口金本体部20と、周方向に隣合う複数の口金本体部20を周方向につなぐ変形部としての桟部22と、を有し、桟部22が変形されて複数の口金本体部20の複数の係止突起28が補強層14に係止される構成では、口金16の各々の口金本体部20において、複数の係止突起28の補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)への食い込み具合(突き刺さり具合)が変わると共に、周方向に隣合う口金本体部20を周方向につなぐ変形部としての桟部22の変形具合も変わる可能性がある。これにより、口金16の各々の口金本体部20(に形成された複数の係止突起28)の位置関係が変化してしまう場合、口金16の各々の口金本体部20の係止突起端部の繊維の開き角度が大きくなり、これによっても、繊維の張力が増加し、口金16と繊維の摩擦力が増加し、口金16の組み付け荷重(刺し込み荷重)が過大となる虞がある。
【0047】
このような課題に対し、本発明者等は、鋭意研究の結果、口金16の口金本体部20の係止突起端部(すなわち、口金16の各々の口金本体部20に形成された複数の係止突起28の周方向及び軸方向の端部)に配置される係止突起28(以降、端部係止突起28eと記載する)の形状を、他の係止突起28の形状に対して変更することで、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和し、繊維の張力増加を抑制し得るという知見を得た。
【0048】
以降、本実施形態の口金16の特徴構成を実施例毎に分けて詳細に説明する。なお、以降の説明では、主として、口金16の各々の口金本体部20の複数の係止突起28の周方向(矢印C方向)の端部近傍について詳細に説明するが、軸方向(矢印Z方向)の端部近傍についても同様の構成を適用することにより同様の効果が得られることは詳述するまでもない。
【0049】
以降の説明では、口金本体部20の内周部に形成された複数の係止突起28において、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる側面を、係止面29とする(後述する図9などを併せて参照)。本実施形態では、係止突起28(の側面)におけるライナ12の胴体部12Aとは反対側の面28Bが、径方向(矢印R方向)に沿う垂直面となっており、当該面28B(ライナ12の胴体部12Aとは反対側の隣合う二面を含む垂直面)が、口金16を補強層14に強固に係止させる係止面29を構成している。
【0050】
なお、本実施形態では、径方向(矢印R方向であって、口金16の口金本体部20の内周面に対して垂直方向)に沿う垂直面によって係止面29を構成しているが、例えば径方向に沿う垂直面に代えて、係止突起28を構成する側面において径方向に最も近い傾斜面によって係止面29を構成してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、口金本体部20の内周部において、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って、基本的に同形状の複数の係止突起28からなる一連(一列)の係止突起(27)を配置すると共に、この一連(一列)の係止突起(27)を周方向(矢印C方向)ないし軸方向(矢印Z方向)に横並びで複数列形成することによって、前記複数の係止突起28が形成されている(後述する図9などを併せて参照)。これにより、口金本体部20の内周部に形成された複数の係止突起28において、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って、各々の係止突起28の係止面29(ここでは、ライナ12の胴体部12Aとは反対側の隣合う二面を含む垂直面)が配置されている。
【0052】
口金16は、上述した口金本体部20の内周部に形成された複数の係止突起28が補強層14を構成する繊維強化樹脂を変形させた(補強層14を構成する繊維強化樹脂に係止された)状態でライナ12の小径端部12Cに取付けられている。
【0053】
<実施例1の構成>
図9図12を用いて、口金16の特徴構成の実施例1について説明する。なお、図9図11においては補強層14を構成する繊維強化樹脂内に編み込まれた(交差する)繊維30を太線で示している(後述する図13図15図17も同様)。
【0054】
実施例1では、図9及び図10に示されるように、口金16の口金本体部20の係止突起端部に配置される端部係止突起28eは、少なくとも当該端部係止突起28eに隣合う係止突起28(以降、隣接係止突起28fと記載する)に対して小さく形成されている。より詳細には、端部係止突起28eは、当該端部係止突起28e以外の係止突起28に対して小さく形成されている。
【0055】
本実施例1では、端部係止突起28eは、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)と相似形状で(すなわち、周方向、軸方向、及び径方向(頂部の高さに相当)の寸法が同比率で)小さくなるように形成されている。また、本実施例1では、端部係止突起28eは、当該端部係止突起28eと共に補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置される一連の係止突起(27)の中央線を結ぶ延長線上に配設されている。言い換えれば、本実施例1における端部係止突起28eは、従来構成における端部係止突起を同じ位置で相似形状で小さくして形成したものである。
【0056】
これにより、端部係止突起28eにおける係止面29は、当該端部係止突起28eを含む一連の係止突起(27)の配置方向で見て、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)の係止面29に対して、係止突起28の内側寄り(中央寄り)にオフセットして設けられることになる(特に、図10参照)。
【0057】
なお、端部係止突起28eを含む一連の係止突起(27)の配置方向は、複数の係止突起28の係止面29の配置方向、あるいは、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の方向に相当する。
【0058】
図11は、従来構成と実施例1の構成において、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際の、補強層14内の繊維の位置を模式的に示している。
【0059】
図11に点線で示すように、端部係止突起28eを、当該端部係止突起28e以外の係止突起28と同形状(同じ大きさ)で形成した従来構成では、端部係止突起28eにおける係止面29は、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)の係止面29と略同じ位置に配置されることになる。これにより、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、当該複数の係止突起28によって、補強層14内の繊維が押し退けられたり、補強層14内の繊維が整列されたりすることで、繊維が変位せしめられるとき、口金本体部20の係止突起端部において、補強層14内の繊維の開き角度(図11においてβで示される角度)が大きくなり、これによって、繊維の張力が増加する。
【0060】
一方、図11に実線で示すように、端部係止突起28eを、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)に対して異なる形状に形成した実施例1の構成では、端部係止突起28eにおける係止面29は、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)の係止面29に対して、係止突起28の内側寄り(中央寄り)にずれた位置に配置されることになる。これにより、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、当該複数の係止突起28によって、補強層14内の繊維が押し退けられたり、補強層14内の繊維が整列されたりすることで、繊維が変位せしめられるとき、口金本体部20の係止突起端部において、(端部係止突起28eによって)補強層14内の繊維の開き角度(図11においてαで示される角度)が緩和され(なだらかになり)、これによって、繊維の張力増加を抑制できる。
【0061】
なお、本実施例1では、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、端部係止突起28eの補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)への食い込み量(突き刺さり量)も減少するので、これによっても、補強層14内の繊維の開き角度が緩和され、繊維の張力増加を抑制できる。
【0062】
図12は、端部係止突起28eと、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(例えば隣接係止突起28f)の寸法比率(軸方向)と張力減少率の関係を測定した実験結果を示している。ここでは、端部係止突起28e以外の係止突起28(例えば隣接係止突起28f)の軸方向(矢印Z方向)の寸法をS、端部係止突起28eの軸方向(矢印Z方向)の寸法をS’としている。
【0063】
図12に示されるように、端部係止突起28eを当該端部係止突起28e以外の係止突起28(例えば隣接係止突起28f)に対して(相似形状で)小さく形成した実施例1では、端部係止突起28eを当該端部係止突起28e以外の係止突起28と同じ大きさで形成した従来構成のものと比べて、補強層14内の繊維の張力減少率が大きくなることが確認されている。なお、図12を参酌すると、端部係止突起28eを当該端部係止突起28e以外の係止突起28(例えば隣接係止突起28f)に対して、60%から80%程度の大きさで設定することが好ましいと考えられる。
【0064】
<実施例1の効果>
以上のように、実施例1の口金16では、端部係止突起28eを、少なくとも当該端部係止突起28eに隣合う隣接係止突起28f、より詳細には、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)に対して小さく形成することで、端部係止突起28eの係止面29は、少なくとも当該端部係止突起28eに隣合う隣接係止突起28f(又は、係止面29の配置方向に設けられた当該端部係止突起28e以外の係止突起28)の係止面29から、隣接係止突起28fの内側寄り(中央寄り)にずれた位置に設けられるので、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和でき、繊維の張力増加を抑制することができる。また、張力増加を抑制することで、口金16と繊維の摩擦力を低減し、口金16の組み付け荷重(刺し込み荷重)増加を抑止することができる。
【0065】
<実施例2の構成>
図13及び図14を用いて、口金16の特徴構成の実施例2について説明する。
【0066】
実施例2では、図13及び図14に示されるように、口金本体部20の内周部に形成された複数の係止突起28は、一連の係止突起(27)の配置方向で、端部係止突起28eから徐々に(段階的に)大きくなる複数の係止突起28を含んで構成されている。本実施例2では、端部係止突起28e、端部係止突起28eに隣合う隣接係止突起28f、端部係止突起28e側とは反対側で隣接係止突起28fに隣合う係止突起28gの順で相似形状で徐々に大きくなるように形成されている。すなわち、口金本体部20の内周部に形成された複数の係止突起28は、口金16の口金本体部20の係止突起端部に配置される端部係止突起28eから周方向ないし軸方向に徐々に大きくなる部分を含んでいる。
【0067】
換言すると、前記複数の係止突起28は、一連の係止突起(27)の配置方向で、端部係止突起28eに向けて相似形状で徐々に(段階的に)小さくなる複数の係止突起28を含んで構成されている。言い換えれば、本実施例2における端部係止突起28e及び隣接係止突起28fは、従来構成における端部係止突起及び隣接係止突起を同じ位置で相似形状で徐々に小さくして形成したものである。
【0068】
これにより、端部係止突起28e等における係止面29は、当該端部係止突起28e等を含む一連の係止突起(27)の配置方向で見て、当該端部係止突起28e等以外の係止突起28の係止面29に対して、係止突起28の内側寄り(中央寄り)にオフセットして設けられることになる(特に、図14参照)。
【0069】
<実施例2の効果>
以上のように、実施例2の口金16では、端部係止突起28eから徐々に大きくなる複数の係止突起28を含んで構成することで、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和でき、繊維張力の増加を抑制することができるという、上述した実施例1と同様の効果が得られる。
【0070】
<実施例3の構成>
図15及び図16を用いて、口金16の特徴構成の実施例3について説明する。
【0071】
実施例3では、図15及び図16に示されるように、口金16の口金本体部20の係止突起端部に配置される端部係止突起28eは、少なくとも当該端部係止突起28eに隣合う隣接係止突起28fに対して異なる形状に形成されている。より詳細には、端部係止突起28eは、当該端部係止突起28e以外の係止突起28に対して異なる形状に形成されている。
【0072】
本実施例3では、端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)は、概略四角錘形状に形成されている一方で、端部係止突起28eは、円錐形状に形成されている。なお、端部係止突起28eの大きさは図示例に限られない。例えば端部係止突起28eの周方向、軸方向、径方向の大きさは、端部係止突起28e以外の係止突起28と比べて、同程度でもよいし、小さくてもよい。また、端部係止突起28eは、頂点が中央に位置する直錐体で形成してもよいし、頂点が中央からずれた位置にある斜錐体で形成してもよい。また、本実施例3でも、端部係止突起28e(円錐形状)は、当該端部係止突起28eと共に補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置される一連の係止突起(27)の中央線を結ぶ延長線上に配設されている。言い換えれば、本実施例3における端部係止突起28eは、従来構成における端部係止突起を同じ位置で円錐形状で形成したものである。
【0073】
本実施例3では、端部係止突起28e(円錐形状)の側面の一部(斜錐体の場合、径方向に沿う面部分、あるいは、径方向に最も近い面部分)が係止面29とされている。
【0074】
これにより、端部係止突起28eにおける係止面29は、当該端部係止突起28eを含む一連の係止突起(27)の配置方向で見て、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)の係止面29に対して、係止突起28の内側寄り(中央寄り)に傾いて(又は、オフセットして且つ傾いて)設けられることになる(特に、図16参照)。
【0075】
したがって、図示は省略するが、実施例1において図11に基づき説明した効果と同様の効果が得られる。
【0076】
また、本実施例3では、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、実施例1、2と比べて、端部係止突起28eの周りで、補強層14内の繊維が回り込みやすくなり(開き角度が小さくなりやすくなり)、繊維方向に対する依存性を無くすと共に、圧力分布(荷重分布)を略均一にできるという効果も得られる。
【0077】
<実施例3の効果>
以上のように、実施例3の口金16では、端部係止突起28eを円錐形状に形成することで、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和でき、繊維の張力増加を抑制することができるという、上述した実施例1、2と同様の効果が得られる。また、繊維方向に対する依存性を無くし、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度をより緩和でき、繊維の張力増加をより抑制することができる。
【0078】
<実施例4の構成>
図17及び図18を用いて、口金16の特徴構成の実施例4について説明する。
【0079】
実施例4では、実施例3と同様、図17及び図18に示されるように、口金16の口金本体部20の係止突起端部に配置される端部係止突起28eは、少なくとも当該端部係止突起28eに隣合う隣接係止突起28fに対して異なる形状に形成されている。より詳細には、端部係止突起28eは、当該端部係止突起28e以外の係止突起28に対して異なる形状に形成されている。
【0080】
本実施例4では、端部係止突起28e以外の係止突起28は、先端28C(頂部)が中心からライナ12の胴体部12Aとは反対側(矢印Z方向)に偏った斜錐体からなる概略四角錘形状に形成されている一方で、端部係止突起28eは、先端28C(頂部)が中心に位置する直錐体からなる四角錘形状に形成されている。なお、端部係止突起28eの大きさは図示例に限られない。例えば端部係止突起28eの周方向、軸方向、径方向の大きさは、端部係止突起28e以外の係止突起28と比べて、同程度でもよいし、小さくてもよい。また、本実施例4でも、端部係止突起28e(四角錘形状)は、当該端部係止突起28eと共に補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置される一連の係止突起(27)の中央線を結ぶ延長線上に配設されている。言い換えれば、本実施例4における端部係止突起28eは、従来構成における端部係止突起を同じ位置で四角錘形状(直錐体)で形成したものである。
【0081】
本実施例4では、端部係止突起28e(四角錘形状)の側面の一部が係止面29とされている。
【0082】
この構成により、端部係止突起28eの先端28C(頂部)は、当該端部係止突起28eを含む一連の係止突起(27)の配置方向で当該端部係止突起28e以外の係止突起28の先端28C(頂部)を結ぶ延長線上からオフセット(図17及び図18にLで示される距離だけオフセット)している。
【0083】
これにより、端部係止突起28eにおける係止面29は、当該端部係止突起28eを含む一連の係止突起(27)の配置方向で見て、当該端部係止突起28e以外の係止突起28(隣接係止突起28fを含む)の係止面29に対して、係止突起28の内側寄り(中央寄り)に傾いて(又は、オフセットして且つ傾いて)設けられることになる(特に、図18参照)。
【0084】
したがって、図示は省略するが、実施例1において図11に基づき説明した効果と同様の効果が得られる。
【0085】
また、本実施例4では、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む際に、実施例1、2と比べて、端部係止突起28eの周りで、補強層14内の繊維が回り込みやすくなり(開き角度が小さくなりやすくなり)、繊維方向に対する依存性を少なくすると共に、圧力分布(荷重分布)を少なくできるといった効果も得られる。
【0086】
<実施例4の効果>
以上のように、実施例4の口金16では、端部係止突起28eを他の係止突起28と異なる四角錘形状に形成し、端部係止突起28eの先端28C(頂部)を当該端部係止突起28e以外の係止突起28の先端28C(頂部)を結ぶ延長線上からオフセットすることで、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和でき、繊維の張力増加を抑制することができるという、上述した実施例1~3と同様の効果が得られる。また、繊維方向に対する依存性を少なくし、補強層14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度をより緩和でき、繊維の張力増加をより抑制することができる。
【0087】
なお、上述した実施例1~4では、口金16の口金本体部20の係止突起端部に配置される端部係止突起28eの全部について、本実施形態を適用する構成を例示したが、端部係止突起28eの一部のみについて、本実施形態を適用する構成としてもよいことは勿論である。
【0088】
また、上述した本実施形態は、シート状の繊維強化樹脂(以降、樹脂シートと記載する)をライナに貼り付けるフィラメントワインディング法(Filament Winding Process、以降、FW法と記載する)によって、圧力容器10を製造したものである。
【0089】
上述のFW法の製造工程は、図19にその一例が示されるように、ライナ形成工程(S11)、樹脂シート形成工程(S12)、樹脂シート巻付工程(S13)、口金配置工程(S14)、口金かしめ工程(S15)、締結部取付工程(S16)、熱硬化工程(S17)、CFRP化工程(S18)を含んでいる。
【0090】
まず、略円筒状のライナ12を形成する(ライナ形成工程:S11)。
【0091】
次に、繊維束に樹脂が含浸して成るシート状の繊維強化樹脂を形成する(樹脂シート形成工程:S12)。例えば、繊維強化樹脂として炭素繊維強化樹脂(CFRP)が用いられている。そして、ライナ12の外表面にシート状の繊維強化樹脂(炭素繊維強化樹脂)を巻付ける(樹脂シート巻付工程:S13)。繊維強化樹脂がライナ12に巻付けられることで、ライナ12の外表面に補強層14が形成される。なお、このとき、胴体部12A及び肩部12Bよりも小径端部12Cにおける補強層14の厚みが厚くなるように繊維強化樹脂が巻付けられる。
【0092】
樹脂シート巻付工程でライナ12に繊維強化樹脂が巻付けられた後、ライナ12の小径端部12Cの外周側(かつ補強層14の外周側)に口金16を配置させる(口金配置工程:S14)。これにより、口金16の各々の口金本体部20に形成された複数の係止突起28の先端28Cが補強層14の外周面と近接して配置される(図5及び図6を併せて参照)。
【0093】
次に、口金16をかしめることにより、当該口金16を縮径させる(口金かしめ工程:S15)。これにより、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込む(図7及び図8を併せて参照)。
【0094】
以上の工程を経て、口金16がライナ12の小径端部12Cに取付けられる。
【0095】
そして、口金16の(各々の口金本体部20の外周部に形成されたネジ溝26が形成する)雄ネジ部26Aに、締結部18に形成された雌ネジ部18Aを螺合させることで、締結部18をライナ12の小径端部12Cに取付ける(締結部取付工程:S16)。
【0096】
口金16及び締結部18が組み付けられたライナ12を硬化炉にセットし、硬化炉内で補強層14を構成する繊維強化樹脂を硬化させる(熱硬化工程:S17)。これにより、ライナ12を外側から覆う補強層14を構成する繊維強化樹脂が熱硬化されると共に、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂層)に係止される。
【0097】
補強層14が形成されたライナ12を硬化炉から取り出す(脱型する)ことで、圧力容器10を製造することができる(CFRP化工程:S18)。
【0098】
上述のFW法の製造方法においては、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に食い込むことにより、上述した効果を発揮し得る。
【0099】
ただし、圧力容器10の製造方法は、上述した実施形態に限定されない。例えば、シート状の繊維(束)をライナに貼り付けた後で樹脂を含浸させるRTM法(Resin Transfer Molding Process)等によって製造することもできる。
【0100】
上述のRTM法の製造工程は、図20にその一例が示されるように、ライナ形成工程(S21)、繊維束巻付工程(S22)、口金配置工程(S23)、口金かしめ工程(S24)、締結部取付工程(S25)、樹脂含浸成形工程(S26)、CFRP化工程(S27)を含んでいる。
【0101】
まず、略円筒状のライナ12を形成する(ライナ形成工程:S21)。
【0102】
次に、ライナ12の外表面にシート状の繊維(束)を巻付ける(繊維束巻付工程:S22)。例えば、繊維として炭素繊維(CF)が用いられている。繊維(束)がライナ12に巻付けられることで、ライナ12の外表面に繊維層が形成される。なお、このとき、胴体部12A及び肩部12Bよりも小径端部12Cにおける繊維層の厚みが厚くなるように繊維束が巻付けられる。
【0103】
繊維束巻付工程でライナ12に繊維束が巻付けられた後、ライナ12の小径端部12Cの外周側(かつ繊維層の外周側)に口金16を配置させる(口金配置工程:S23)。これにより、口金16の各々の口金本体部20に形成された複数の係止突起28の先端28Cが繊維層の外周面と近接して配置される(図5及び図6を併せて参照、図5及び図6の補強層14が繊維層に代わる)。
【0104】
次に、口金16をかしめることにより、当該口金16を縮径させる(口金かしめ工程:S24)。これにより、複数の係止突起28が繊維層に食い込む(図7及び図8を併せて参照、図7及び図8の補強層14が繊維層に代わる)。
【0105】
以上の工程を経て、口金16がライナ12の小径端部12Cに取付けられる。
【0106】
そして、口金16の(各々の口金本体部20の外周部に形成されたネジ溝26が形成する)雄ネジ部26Aに、締結部18に形成された雌ネジ部18Aを螺合させることで、締結部18をライナ12の小径端部12Cに取付ける(締結部取付工程:S25)。
【0107】
口金16及び締結部18が組み付けられたライナ12を金型にセットし、金型内に樹脂を注入することで繊維束に樹脂を含浸させて補強層14(繊維強化樹脂層)を成形する(樹脂含浸成形工程:S26)。これにより、ライナ12を外側から覆う繊維束(繊維層)に樹脂が含浸硬化され、補強層14(繊維強化樹脂層)が成形されると共に、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂層)に係止される。
【0108】
補強層14が成形されたライナ12を金型から取り出す(脱型する)ことで、圧力容器10を製造することができる(CFRP化工程:S27)。
【0109】
上述のRTM法の製造方法においては、複数の係止突起28が補強層14(繊維強化樹脂の樹脂部分)に代えて繊維層に食い込むことになるが、繊維層を構成する繊維の開き角度を緩和でき、繊維の張力増加を抑制することができ、また、張力増加を抑制することで、口金16と繊維の摩擦力を低減し、口金16の組み付け荷重(刺し込み荷重)増加を抑止することができるという、上述したFW法の製造方法と同様の効果が得られることは当然である。
【0110】
(本実施形態の作用並びに効果)
以上で説明した本実施形態の圧力容器10では、内部に気体が充填されるライナ12と、繊維束に樹脂が含浸して成る繊維強化樹脂により前記ライナ12の外表面に形成され、前記ライナ12を外側から覆う補強層(補強部)14と、前記補強層(補強部)14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止突起28を有し、該係止突起28が前記補強層(補強部)14を構成する繊維強化樹脂に係止された状態で前記ライナ12に取付けられた口金16と、を備え、前記係止突起28は、前記補強層(補強部)14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止面29を有し、前記係止面29が前記補強層(補強部)14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿って配置されるように、前記口金16(の内周側)に前記係止突起28が複数形成されており、前記口金16(の内周側)における前記複数の係止突起28の(周方向及び軸方向の)端部に配置される端部係止突起28eの少なくとも一部の係止面29は、前記係止面29の配置方向で見て、少なくとも前記少なくとも一部の端部係止突起28eに隣合う隣接係止突起28fの係止面29に対して、前記隣接係止突起28fの内側寄りに(オフセットして及び/又は傾いて)設けられている。
【0111】
また、前記口金16(の内周側)における前記複数の係止突起28の(周方向及び軸方向の)端部に配置される端部係止突起28eの少なくとも一部の係止面29は、前記係止面29の配置方向で見て、前記少なくとも一部の端部係止突起28e以外の係止突起28の係止面29に対して、前記係止突起28の内側寄りに(オフセットして及び/又は傾いて)設けられている。
【0112】
本実施形態によれば、口金16の係止突起端部に配置される端部係止突起28eの係止面29は、少なくとも端部係止突起28eに隣合う隣接係止突起28f(又は、係止面29の配置方向に設けられた端部係止突起28e以外の係止突起28)の係止面29から、隣接係止突起28fの内側寄り(中央寄り)にずれた位置に設けられるので、補強層(補強部)14を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維の開き角度を緩和でき、繊維の張力増加を抑制することができ、口金16の組み付け荷重(刺し込み荷重)増加を抑止することができる。
【0113】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0114】
10 圧力容器
12 ライナ
14 補強層(補強部)
16 口金
20 口金本体部
22 桟部
24 フランジ部
26 ネジ溝
27 一連の係止突起
28 係止突起
28e 端部係止突起
28f 隣接係止突起
29 係止面
30 繊維
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