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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】没入促進アイウェア
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/16 20060101AFI20240903BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20240903BHJP
   A61M 21/00 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
G02C7/16
G02C7/10
A61M21/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021205969
(22)【出願日】2021-12-20
(62)【分割の表示】P 2020032339の分割
【原出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2022050437
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520068939
【氏名又は名称】金喜燦
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】金 喜燦
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-131884(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1800173(KR,B1)
【文献】特表2010-503029(JP,A)
【文献】実開昭56-126616(JP,U)
【文献】国際公開第2019/073676(WO,A1)
【文献】特開2011-41698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
A61F 9/02
A61M21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の視界を制限又は部分的に遮断することによって、装着者の見る行為における没入感を高めることのできるアイウェアであって、
前記アイウェアは、前記装着者が身に着けるアイウェア本体と、センサー発信部とを含み、
前記アイウェア本体は、レンズ部、支持部、制御部、センサー受信部およびスイッチを含み、
前記制御部は、前記支持部に内蔵され、前記センサー発信部が発信し、前記センサー受信部が受信した信号を元に、前記レンズ部に視界制限部を作り出すためのものであり、前記視界制限部は、前記レンズ部に対して、前記装着者が視覚情報として見ることができる範囲以外の部分を制限又は遮断するためのものであり、
前記センサー発信部は、任意の注視対象を囲み,視覚情報として見ることのできる範囲を特定するための、少なくとも3つの貼り付け可能なセンサーを有する、
アイウェア。
【請求項2】
請求項1に記載のアイウェアであって、
前記制御部は、前記注視対象の移動に応じて可動とすることによって、常に注視対象を視界とすることのできる機能を備える、アイウェア。
【請求項3】
請求項1に記載のアイウェアであって、
前記レンズ部は、液晶又は荷電微粒子を含んだ材料を含み、
前記視界制限部は、前記スイッチをオンにすることで、前記レンズ部に電流を流すか、電圧を印加することにより、前記装着者が前記視覚情報として見ることができる範囲以外の部分を制限又は遮断する、アイウェア。
【請求項4】
請求項1に記載のアイウェアであって、
前記装着者が前記視覚情報として見ることができる範囲は、透明であり、
前記装着者が前記視覚情報として見ることができる範囲以外の部分は、半透明である、アイウェア。
【請求項5】
請求項1に記載のアイウェアであって、
前記装着者が前記視覚情報として見ることができる範囲は、透明であり、
前記装着者が前記視覚情報として見ることができる範囲以外の部分は、濃色である、アイウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明では、眼鏡やゴーグルといったアイウェアのレンズ部に、視界を制限し、不要な視覚情報を遮断する機能を有する。これにより、視覚情報として、見る対象に限定した視界を提供することによって、対象に没入できる環境を提供する。
【背景技術】
【0002】
現在は、デジタルデバイスやネットワーク技術の高度化によって、作業環境をオフィスの自席にとどめることのない作業環境の多様化や、不特定多数の人が集う場で、読書、勉強、執筆などの作業や映像コンテンツの視聴など、個別の作業に集中している人物が多くみられる。
【0003】
音の遮断は、耳栓や好みの音楽などをヘッドフォンやイヤフォン等で聞くことによって対処可能であるが、視覚情報については、集中を保つことによって制限する以外に有効な方法がないと言える。
【0004】
また、注意欠如・多動性障害(ADHD)などの不注意症状や感覚過敏を呈する精神疾患の患者数は年々増加しており、特に児童の患者は増加の一途をたどっている。日本では、通常学級に在籍しながら特別支援教育を受ける、いわゆる通教による指導を受ける児童において、ADHDは平成17年では1,631名であったところが、平成28年においては約10倍の16,836名にまで増加し、以降もその数を伸ばしており、世界的にもADHDの患者は増加している。
【0005】
ADHDの患者に対する治療法として有効とされているのが、幼少期からの環境変容療法による早期治療である。患者の環境を変容させることで、症状を抑える療法である。例えば、勉強に集中するために、部屋の角に向かって机を設置することで、教材やノートと
いった必要な情報以外の情報を遮断するといった方法である。治療開始の年齢が若いほど治療が有効であることが知られている。
【0006】
環境変容療法は、医師から患者へのアドバイスによって行われている。これは、治療に患者の意志及び協力が大きく関与するため、医師からの適切なアドバイスを患者がいかに実行するかによって治療の進捗が大きく変わってきてしまう。そのため、患者自身の努力と協力がなければ、いたずらに治療期間を長引かせてしまうこととなる。
【0007】
必要な情報以外を遮断する道具として、非特許文献1で挙げた商品が販売されている。これは、競走馬用ブリンカーから着想を得た商品で、メガネにフードを装着することによって、余分な視界を遮断し、集中力を高めることができるようになっている。しかしながら、フードによる余分な視覚情報のカットは、レンズ部分の外側においては有効であるが、レンズで見ることのできる視界に含まれる視覚情報のカットまでは至っていない。
【0008】
特許文献1は、集中度を判定するプログラム及び装置である。視線検出技術による注視点推定を行い、所定の領域から一定時間視線が外れた場合に集中力が低下したと判断するプログラム並びにこれを実行する装置である。本発明は、集中力の低下を判定する・検出することを目的としているものではなく、装着することによって、装着者が対象に没入することができる環境を提供することを目的としている。
【0009】
特許文献2は、集中して特定のテーマを思考するために、サーバーから装着者が考えるに適した特定のテーマを投影する装置を装着することで視界を制限し、また聴覚刺激もカットするシステムである。サーバーに蓄積されたテーマから、特定のテーマを抽出して視界に提供することによる。集中思考の支援装置である。
【0010】
特許文献3、特許文献4、特許文献5は、いずれも白内障や緑内障の症状を体験するための装置であり、視野欠損状態等を体験することのできる装置等である。
【0011】
これらの先行技術は、集中力を高めるために、フードによって、眼鏡のレンズとレンズ以外の部分の視覚情報を排除する器具であったり、特定のテーマのみをサーバーから投影するシステムであったり、集中力の低下を判定する装置であったり、疾病状態の疑似体験を可能にする装置である。
【0012】
いずれの技術も、本発明の目的である、対象への没入環境の提供と、装着者自らが決定する任意の対象への没入環境を提供するために、対象とする以外の視覚情報を制限又は遮断することのできる機能を備える、といった点で大きく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2014-191474
【文献】特開2000-338857
【文献】特開2005-234011
【文献】実新登第3105983号
【文献】実新登第3172349号
【非特許文献】
【0014】
【文献】https://www.zoff.co.jp/shop/contents/shuchu.aspx
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、任意の対象を見る際に、装着者が見る行為に没入できる環境を提供するため、対象とする以外の視覚情報を制限又は遮断することのできる機能を備える。これによって、不特定多数の人がいる環境での個別作業において没入したい場合、私的な空間においてより作業に没入したい場合、また、ADHDの治療や、視覚に関する感覚過敏症状の低減において、装着者の没入感を高め、治療効果の促進や過敏症状の低減をすることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、眼鏡やゴーグルといったアイウェアのレンズ部に、スイッチのオン・オフによって、対象とするものだけを見ることができるよう、視界を制限または部分的に遮断し、対象としない不要な視覚情報を提供しないという機能を有する。これにより、視覚情報として任意の対象に限定した視覚を提供することで、装着者が見る対象に没入することを可能とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、任意の見る対象以外の視覚情報を制限または遮断し、その対象にのみ限定した視界を提供することで、装着者が見る対象に没入することのできる環境を提供する。
【0018】
装着することによって、装着者は非常に限定した視界を得ることから、不特定多数の集まる場で集中して作業をしたい場合、また、私的な場であっても、その行為に没入したい場合に適している。
【0019】
更には、ADHDの不注意症状や感覚過敏の症状に対する環境変容療法の現場で使用することにより、患者である装着者の注意散漫が抑制でき、症状改善が期待できる。
【0020】
特に、環境変容療法において、治療に使用できる新規ツールの提供を可能にする。環境変容療法は、主に、医師から患者へのアドバイスと、アドバイスを基にした患者自身による実行によって行われている。これは、治療に患者の意志及び協力が大きく関与するため、医師からの適切なアドバイスを患者がいかに実行するかによって治療の進捗が大きく変わってきてしまう。そのため、患者の実行が伴わない場合には、いたずらに治療期間を長引かせてしまい、患者にとっても医師にとっても、デメリットとなってしまう。
【0021】
本発明を治療器具として患者に提供することによって、患者は、装着するだけで環境変容療法を実行することができる。また、装着するだけでよく、他に必要な要素がないため、非常に簡便であり、なおかつ即効性もある。環境変容療法は効果的な治療方法であるが、これにおける患者自身の実行負担が減ることで、治療効果が適切に得られ、症状改善がより期待できると考えられる。
【0022】
なお、本発明を使用する対象者は、ADHDの患者にとどまらず、視覚に関する感覚過敏症状に対しても、同様の方法で症状の低減が期待できる。
【0023】
また、健常な人においても、例えば読書や、タブレットでの映像コンテンツの視聴など、より没入したいときに本発明を使用することによって、視野を特定物にのみ限定することができ、作業効率の向上が期待できるため、有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の全体構成及び使用中の状態を示した図である。すなわち、装着者が本発明のアイウェア本体を身に着けており、注視対象21を3つ以上のセンサー発信部2で囲み、当該センサー発信部2から発信される信号をアイウェア本体の支持部12に内蔵されるセンサー受信部14で受信し、アイウェア本体のレンズ部11に図2に示す視界制限部131を生じさせ、装着者が注視対象に没入している様子である。なお、図1(a)は、センサー発信部2を注視対象21にはり付けた場合であり、図1(b)は、センサー発信部2を、注視対象21を支持する道具、例えば机などにはり付けた場合である。
【0025】
図2】本発明を使用する際の様態を示した図である。すなわち、レンズ部11に、視界制限部131を生じさせた状態である。
【0026】
図3図3(a)は、センサー受信部14が、センサー発信部2から発信される信号を受信する様子を示した模式図であり、図3(b)は、図3(a)の状態から、受信した信号が支持部12に内蔵される制御部13で処理され、レンズ部11に視界制限部131を生じさせた状態を示す図である。
【0027】
図4図4(a)は、本発明が作動していない状態の、装着者がアイウェア本体を身に着けたときの視界状態を示す図である。図4(b)は、本発明を作動させた状態の、装着者の視界状態を示す図である。なお、視界制限部131の濃淡はこの図に示す限りではない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、レンズ部11、支持部12、制御部13、センサー受信部14およびスイッチ15などから成る装着者が身に着けるアイウェア本体と、センサー発信部2からなる。
【0029】
アイウェア本体は、眼鏡に類する形状である。すなわち、レンズ部11と、レンズ部分を支え装着する支持部12と、支持部12に内蔵され、レンズ部11に視界制限部131を作り出す制御部13と、センサー受信部14と、からなる。
【0030】
制御部13は、レンズ部11において、センサー発信部2から受信した信号をセンサー受信部14で受信し、この信号を元に制御部13が視覚情報とする以外の部分を制限又は遮断することによって、視界制限部131を生じさせる。
【0031】
視界制限部131については、例えば、液晶や荷電微粒子を含んだ材料を用いて作製することにより、スイッチ15をオンにすることで、電流を流すこと、または電圧をかけることで荷電微粒子の向きを制御する装置を利用し、スイッチ15を入れることによって電流が流れ、レンズ部11において特定の面積に視界を制限又は遮断する部分を生じさせる。
【0032】
レンズ部11の通常の状態、すなわちスイッチ15がオフになっている状態で、レンズ部11が濃色であるのか透明であるのかによって、視界を制限又は遮断する部分を生じさせるのか、視界を確保し、対象を見ることができる部分を生じさせるのか、が変わってくる。しかし、これらは相反関係にあるため、いずれの方法であっても機能としては同等である。
【0033】
また、視界制限部131は、視界を完全に遮断することができる不透明な状態から、ある程度の視界を確保するが明瞭ではない、いわゆる半透明の状態まで対応することが可能である。
【0034】
センサー発信部2は、任意の注視対象21を、少なくとも3つ以上のセンサーで囲み、アイウェア本体に、センサー発信部2からの信号を受信するセンサー受信部14を搭載する。
【0035】
更に、視界制限部131について、装着時に決定した範囲を維持することは当然ながら、装着者の姿勢の変化、または本やタブレットなどを手で保持している場合に腕を動かす等、といった行為の結果による注視対象の移動による視界制限部131と注視対象の位置ずれに対応するため、リアルタイムで注視対象を囲んだセンサーのセンシングによる注視対象の追跡を行うことも可能である。これによって、装着者の意図しない要因によって注意が対象から外れる場合、または装着者の意識的、無意識的を問わない姿勢変化が生じる場合であっても、視覚情報としてみることのできる範囲をセンサー発信部2によって特定することができるため、特に治療器具として使用する場合に効果を発揮する。
【0036】
なお、同様の状態を提供できるのであれば、形態及び搭載技術は上記に限定されない。
【0037】
例えば、視界制限部131を生じさせる方法として、一定の角度から光を照射することによって、視界を制限する部分または対象を見ることができる部分を生じさせる技術によるものでもよい。
【0038】
また、任意の波長の光を照射することによって、視界を制限する部分または対象を見ることができる部分を生じさせる技術によるものでもよい。
【実施例
【0039】
本発明を模したアイウェアとして、眼鏡のレンズ部に、これを覆う形状に黒色の画用紙を切り抜き、これに約30cm離れた机の上の用紙のみが見えることのできる穴をあけたものを装着し、視界制限部を有するアイウェアを作製した。
【0040】
実験は、10名の健常な被験者に対し、それぞれ単独で実施した。2桁の数字10から99の中から21個を無作為に選び、これをA4サイズ相当の用紙に無作為に配置し、この用紙以外の視覚情報が混入するような状況に設置した。前記アイウェアを装着して1分間この用紙を眺め、記載されている数字を記憶する。その後、別の用紙に記憶した2桁の数字を可能な限り記入してもらい、その中から正答数を数えた。正答数が多いほど深く没入できているとみなすという方法で、没入状態を調査する実験を行った。
【0041】
比較実験として、前記アイウェアまたは非特許文献1の商品のいずれも未装着の場合と、非特許文献1の商品を装着した場合を挙げる。それぞれの試験において、2桁の数字を配置した用紙を数種類用意し、その中から無作為に試験に用いた。
【0042】
実験の結果は、表1のとおりである。10名の被験者の正当数の平均は、前記アイウェアまたは非特許文献1の商品のいずれも未装着の場合に8.9問、非特許文献1の商品を装着した場合に9.6問、前記アイウェアを装着した場合に10.7問という結果を得た。
【0043】
【表1】
【0044】
このことから、視界を制限することによって、不要な視覚情報を制限または遮断することが装着者の没入状態を高めているということが示され、かつ、視界制限部が注視対象に限定されるほど、より深く没入することができるという結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0045】
一般的な利用として、不特定多数の集まる場で集中して作業をしたい場合、私的な場であってもその行為に没入したい場合に適している。更に、医療分野においては、ADHDの不注意症状や感覚過敏の症状に対する環境変容療法における治療器具として使用することが可能である
【符号の説明】
【0046】
11:レンズ部
12:支持部
13:制御部
14:センサー受信部
15:スイッチ
131:視界制限部
2:センサー発信部
21:注視対象(任意)
図1
図2
図3
図4