(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】可溶栓
(51)【国際特許分類】
F16J 13/24 20060101AFI20240903BHJP
F16K 17/38 20060101ALI20240903BHJP
F17C 13/12 20060101ALI20240903BHJP
B22F 3/11 20060101ALN20240903BHJP
B22F 3/26 20060101ALN20240903BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20240903BHJP
C22C 33/02 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
F16J13/24
F16K17/38 A
F17C13/12 301A
B22F3/11 Z
B22F3/26 B
C22C12/00
C22C33/02 C
(21)【出願番号】P 2021208881
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2021012573
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】滝口 寛
(72)【発明者】
【氏名】青木 敦也
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 一志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 毅
(72)【発明者】
【氏名】岩本 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄大
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-331016(JP,A)
【文献】特公昭29-005143(JP,B1)
【文献】特開2005-147230(JP,A)
【文献】特開2006-329374(JP,A)
【文献】特開2012-132475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 13/00-13/24
F16K 17/00-17/42
F17C 13/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガス容器に取付けられる可溶栓であって、連通孔を有し、該連通孔の長さ方向の少なくとも一部に装着された多孔質材料を有し、かつ前記多孔質材料の全て又は一部に低融点合金が含浸され複合化してな
り、
前記多孔質材料が、面積率で30%以上50%以下の空孔を有し、かつ該空孔のうち直径5μmを超える空孔を、全空孔に対する面積率で80%以上有し、日本粉末冶金工業会規格 JPMA M09-1992の規定に準拠した抗折力試験による抗折力が50MPa以上である多孔質金属焼結体であることを特徴とする高圧ガス容器用可溶栓。
【請求項2】
前記低融点合金が、融点:110±5.5℃である合金であることを特徴とする請求項1に記載の高圧ガス容器用可溶栓。
【請求項3】
前記多孔質金属焼結体が、多孔質オーステナイト系ステンレス鋼焼結体であることを特徴とする請求項
1または2に記載の高圧ガス容器用可溶栓。
【請求項4】
前記低融点合金が前記多孔質材料に含浸され複合化してなる領域の圧縮降伏強度が、前記低融点合金の圧縮降伏強度の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1ないし
3のいずれかに記載の高圧ガス容器用可溶栓。
【請求項5】
環境温度:85℃で、圧力:87.5MPa以上の耐圧性を有することを特徴とする請求項1ないし
4のいずれかに記載の高圧ガス容器用可溶栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶栓に係り、とくに、高圧ガス容器に取付けられ、該高圧ガス容器が異常な高温に晒された際に、高圧ガス容器内部のガスを短時間で放出し、容器の破損を防止することが可能な可溶栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高圧容器や設備の安全装置として、可溶栓が使用されている。可溶栓は、容器や設備が火災や事故等で高温に晒された場合に、内圧の上昇による容器や設備の破損が生じる前に、栓を開放して内容物を外部に放出する、安全弁としての役割を有する。このような可溶栓の一例として、例えば、特許文献1に提案された「可溶栓」がある。特許文献1に記載された可溶栓は、一端に高圧設備と接続するためのネジ部が形成され、内部に連通孔を有し、該連通孔に低融点金属(合金)が充填され、他端に多孔組織材が接続された構成を有し、多孔組織材に低融点合金が滲入してもよいとしている。特許文献1に記載された可溶栓では、高圧容器や設備が異常高温に達すると、連通孔に充填された低融点合金が溶融して連通孔が解放され、高圧容器や設備内の内容物が多孔組織材を通過して外部に排出され、高圧容器等の破損を防止することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような高圧容器の内圧の上昇による爆発、破損等の事態を回避するために、高圧ガス容器にも、内容物(ガス)を急速に排出するための可溶栓を備えた安全装置が必要である。しかし、可溶栓で使用する低融点合金が高価であり、その使用量を低減するために、可溶栓を小型化する傾向が強く、また、安全装置の簡素化という傾向とも相まって、直接、可溶栓に圧力が負荷される構造とすることが要望されている。このようなことから、高圧ガス容器に取付けられ、安全装置として適切に作動する可溶栓については、まだ有効なものが開発されていないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑み、高圧ガス容器用の安全装置として好適な、耐圧性に優れた可溶栓を提供することを目的とする。ここでいう「高圧」とは70MPa以上の圧力をいうものとする。また、「耐圧性に優れた」とは、圧力:87.5MPa以上の耐圧性を有する場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、高圧力下においても、適正に作動できる可溶栓の構造について、鋭意検討した。通常、可溶栓で使用される低融点合金は強度が低く、そのため、高圧力下に晒された場合には、可溶栓に充填された低融点合金が変位し、高圧ガス容器内部の内容物(ガス)が外部に流出する場合があるという問題がある。そこで、可溶栓の連通孔に充填される低融点合金の補強方法として、溶融した低融点合金が含浸可能な多数の空孔を有する多孔質材料を利用することに想到した。
【0007】
本発明者らは、可溶栓の連通孔にまず、多孔質材料を圧入したのち、該多孔質材料の全て又は一部に低融点合金を含浸させて複合化することに思い至った。これにより、可溶栓の連通孔内に充填された低融点合金の強度増加を安定して達成でき、可溶栓が高圧ガス容器に取り付けられた場合でも、常時には、内容物(ガス)が外部に流出することがなく、異常高温等に遭遇した場合には、低融点合金が溶融し容易に開栓して、容器内部の内容物(ガス)を容器外に流出させることができることを知見した。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
[1]高圧ガス容器に取付けられる可溶栓であって、連通孔を有し、該連通孔の長さ方向の少なくとも一部に装着された多孔質材料を有し、かつ前記多孔質材料の全て又は一部に低融点合金が含浸され複合化してなることを特徴とする高圧ガス容器用可溶栓。
[2]前記低融点合金が、融点:110±5.5℃である合金であることを特徴とする[1]に記載の高圧ガス容器用可溶栓。
[3]前記多孔質材料が、面積率で30%以上50%以下の空孔を有し、かつ該空孔のうち直径5μmを超える空孔を、全空孔に対する面積率で80%以上有し、日本粉末冶金工業会規格 JPMA M09-1992の規定に準拠した抗折力試験による抗折力が50MPa以上である多孔質金属焼結体であることを特徴とする[1]または[2]に記載の高圧ガス容器用可溶栓。
[4]前記多孔質金属焼結体が、多孔質オーステナイト系ステンレス鋼焼結体であることを特徴とする[3]に記載の高圧ガス容器用可溶栓。
[5]前記低融点合金が前記多孔質材料に含浸され複合化してなる領域の圧縮降伏強度が、前記低融点合金の圧縮降伏強度の1.5倍以上であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の高圧ガス容器用可溶栓。
[6]環境温度:85℃で、圧力:87.5MPa以上の耐圧性を有することを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の高圧ガス容器用可溶栓。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高圧ガスの環境下でも、通常は、容器内のガスが外部に流出することがなく、一方、異常な高温に晒された時には、容易に連通孔が開放され、内容物(高圧ガス)を放出でき、高圧ガス容器用の安全装置として有効で、かつ安価な可溶栓を提供でき、産業上格段の効果を奏する。また、多孔質材料として多孔質オーステナイト系ステンレス鋼焼結体を使用した可溶栓とすることで、耐食性が向上し、長期の使用にも耐え得る可溶栓が得られるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の可溶栓の断面構造の一例を示す説明図である。
【
図2】圧縮降伏強度の測定方法の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、高圧ガス容器用として好適な可溶栓である。
本発明可溶栓は、高圧ガス容器に取り付けられ、高圧ガス容器が異常高温に晒された場合等には、高圧ガス容器内のガスを迅速に外部に放出するように作用し、常時は、高圧ガス容器内のガスを外部に放出させないように作用する。
【0012】
可溶栓は、高圧ガス容器と外部とを連通するように、穿設された連通孔を有する。連通孔には、低融点合金が充填され、常時は多孔質材料に含浸した状態で固化し、複合化した低融点合金により連通孔は閉とされる。一方、異常高温となった場合には、低融点合金が溶融し多孔質体から外部へと溶出することで、連通孔は開となり、容器内の内容物(ガス)を迅速に外部に放出することができる。なお、本発明の可溶栓は、真鍮製、ステンレス鋼製等の通常の可溶栓と同様な材料製として、所望の形状、寸法となるように、切削等の通常の方法で製作される。
【0013】
本発明の可溶栓1では、上記した連通孔2の長さ方向の一部を占めるように、多孔質材料3を圧入したのち、低融点合金4を多孔質材料3の全て又は一部に含浸させ、固化し複合化した状態となるようにする。この状態を模式的に
図1に示す。可溶栓1はネジ部等で高圧ガス容器10と接続され、低融点合金には所定の高圧力が負荷される。なお、連通孔は、充填した低融点合金等が高圧力側からの圧力で外部に飛び出ないように、段付き構造の断面としてもよい。
【0014】
すなわち、本発明の可溶栓1では、連通孔2に圧入された多孔質材料3の全て又は一部に、低融点合金4を含浸させ、複合化した状態となるようにする。これにより、高圧ガス容器に取り付けられ、容器内部のガスからの高圧力が、連通孔内の低融点合金に負荷されても、低融点合金が変位することはなく、常時には容器内のガスが外部に漏れることはない。多孔質材料3の全て又は一部に含浸され複合化した低融点合金は、多孔質材料に補強されて、低融点合金のみの強度に比べ全体として、高い強度を保持した状態となる。なお、
図1(a)、(b)に模式的に示されるように、低融点合金4は、多孔質材料3以外の連通孔2内にも充填される場合がある。しかし、
図1(c)~(h)に示すように、本発明では、多孔質材料3以外の連通孔2内に充填される低融点合金4はできるだけ低減することが、経済的観点からも好ましい。なお、低融点合金が所望の強度、シール性を保持できれば、低融点合金の含浸・複合化は多孔質材料の一部としてもよい。
【0015】
可溶栓の連通孔に充填する低融点合金は、所望の融点に適合した合金を選定すればよく、とくに限定する必要はない。低融点合金は、Bi、Sn、In、Ag、Znなどから選ばれた2種以上の金属からなる合金で、低融点が得やすいという観点から、ビスマスBi/インジウムIn系、ビスマスBi/インジウムIn/スズSn系、ビスマスBi/インジウムIn/銀Ag系などの合金とすることが好ましい。本発明では、高圧ガス容器に取り付けるため、安全上、機能特性の安定性という観点から、使用する低融点合金としては、融点が110±5.5℃である合金とすることが好ましい。このような低融点合金としては、67質量%Bi-33質量%In合金が例示される。
【0016】
本発明で可溶栓の連通孔に圧入する多孔質材料としては、所望の強度を確保しやすいという観点から、多孔質金属焼結体とすることが好ましい。多孔質金属焼結体としては、空孔を面積率で30%以上、好ましくは50%以下で、空孔のうち直径5μmを超える空孔を全空孔に対し面積率で80%以上有する多孔質金属焼結体が例示できる。
【0017】
多孔質金属焼結体の空孔が面積率で30%未満では、低融点合金を含浸させるとき、低融点合金の溶湯が多孔質焼結体の空孔に含浸せず、低融点合金を補強することができない。また、異常高温に晒されたときに、低融点合金が溶融し外部に放出され、連通孔「開」となっても、容器内のガスを外部に迅速に放出することができない。一方、空孔が面積率で50%を超えると、空孔が多すぎて強度が低下し、高圧下で変形して、所望の低融点合金の強度補強が不十分となる恐れがある。このため、多孔質金属焼結体の空孔率は30%以上50%以下とすることが好ましい。また、空孔のうち直径5μmを超える空孔を全空孔に対し面積率で80%未満では、微細な空孔量が増加し、低融点合金の溶湯が焼結体の空孔に含浸しにくく、所望の強度を確保することができにくくなる。このようなことから、多孔質金属焼結体は、上記したように面積率で30%以上で、好ましくは50%以下の空孔率で、空孔のうち直径5μmを超える空孔を全空孔面積に対して80%以上有する多孔質金属焼結体とすることが好ましい。
【0018】
このような多孔質金属焼結体としては、多孔質オーステナイト系ステンレス鋼焼結体とすることが好ましい。本発明の可溶栓は、屋内外の高圧ガス環境下での使用となるため、多孔質金属焼結体は、耐食性に優れた多孔質オーステナイト系ステンレス鋼焼結体とすることが好ましい。多孔質オーステナイト系ステンレス鋼焼結体は、耐水素脆性にも優れているため、高圧水素ガス環境下における使用にも適している。なお、オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS 201、SUS 202、SUS 301、SUS 302、SUS 303、SUS 303Se、SUS 304、SUS 304L、SUS 304N1、SUS 304N2、SUS 304LN、SUS 305、SUS 309S、SUS 310S、SUS 316、SUS 316L、SUS 316N、SUS 316LN、SUS 316J1、SUS 316J1L、SUS 317、SUS 317L、SUS 317J1、SUS 321、SUS 347、SUH 660等が例示できる。
【0019】
なお、この多孔質金属焼結体は、日本粉末冶金工業会規格 JPMA M09-1992(対応ISO規格ISO3325)の規定に準拠した抗折力試験を行い、抗折力を求め、抗折力が50MPa以上である多孔質金属焼結体とすることが好ましい。多孔質金属焼結体の抗折力が50MPa未満では、低融点合金を多孔質材料に含浸した状態で複合化しても、高圧ガス容器用可溶栓として十分な強度を確保できなくなる。このため、多孔質金属焼結体の抗折力は50MPa以上とすることが好ましい。なお、より好ましくは100MPa以上である。
【0020】
また、本発明の可溶栓では、連通孔内で、低融点合金が上記した多孔質金属焼結体に含浸された状態で複合化してなる領域の圧縮降伏強度が、低融点合金のみの圧縮降伏強度の1.5倍以上であることが好ましい。本発明の可溶栓では、多孔質金属焼結体を連通孔の長さ方向の少なくとも一部に装着しているが、低融点合金が多孔質金属焼結体に含浸された状態で複合化してなる領域の圧縮降伏強度が、低融点合金のみの圧縮降伏強度の1.5倍未満では、所望の低融点合金の強度補強を行うことができなくなり、高圧ガス容器用として、所望の耐圧性を有する可溶栓を得ることができなくなる。なお、より好ましくは2.0倍以上である。
【0021】
なお、ここでいう「所望の耐圧性を有する」とは、可溶栓が高圧ガス容器に接続された状態で、可溶栓に負荷された所定の高圧力に抗して、内容物の漏れが認められない状態をいうものとする。上記した構成の本発明可溶栓であれば、圧力:87.5MPa以上の耐圧性を有する。
【0022】
つぎに、上記した多孔質金属焼結体の好ましい製造方法について説明する。
原料とする合金粉末と、黒鉛粉末と、潤滑剤粉末とを混合して混合粉としたのち、これら混合粉を金型に装入して加圧成形し圧粉体とし、該圧粉体を焼結して、多孔質金属焼結体とする。
【0023】
原料粉として、使用する合金粉末は、30メッシュの篩を通過し(以下、30メッシュアンダー、あるいは-30メッシュともいう)、350メッシュの篩を通過しない(以下、350メッシュオーバー、あるいは+350メッシュともいう)粒度分布に調整した合金粉末とすることが好ましい。-350メッシュの粒子が存在すると、直径5μm未満の微細空孔の存在量が増加し、低融点合金の溶湯が焼結体の空孔に溶浸しにくく、所望の強度を確保することができにくくなる。
【0024】
また、使用する合金粉末については、可溶栓に圧入するときの耐酸化性及び耐食性の観点から、上記した粒度分布を有するオーステナイト系ステンレス鋼粉とすることが好ましい。なお、好ましいオーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS 201、SUS 202、SUS 301、SUS 302、SUS 303、SUS 303Se、SUS 304、SUS 304L、SUS 304N1、SUS 304N2、SUS 304LN、SUS 305、SUS 309S、SUS 310S、SUS 316、SUS 316L、SUS 316N、SUS 316LN、SUS 316J1、SUS 316J1L、SUS 317、SUS 317L、SUS 317J1、SUS 321、SUS 347、SUH 660等が例示される。また、使用する潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛等が例示できる。
【0025】
また、圧粉体の成形方法は、とくに限定されないが、成形プレス等を用いることが好ましい。所定形状に成形された圧粉体は、焼結され、所定形状の多孔質焼結体とされる。なお、焼結条件は、上記した空孔率となるように、またJPMA M09-1992の規定に準拠した抗折力試験により求められる抗折力で50MPa以上となるように、調整することが好ましい。
【0026】
このようにして得られた多孔質材料(多孔質金属焼結体)を、可溶栓の連通孔に圧入する。なお、多孔質材料の圧入は、上記した連通孔の長さ方向の一部で断面全体を占めるように、圧入することが好ましい。多孔質材料の圧入長さは、晒される環境に応じて決定すればよく、とくに限定する必要はない。晒らされる高圧力に応じて、低融点合金が変位しない程度に、低融点合金を補強できる長さであればよい。例えば、高圧:87.5MPaの環境下で、抗折力:50MPa以上の多孔質材料(多孔質金属焼結体)であれば、連通孔の長手方向で3mm~15mm程度、圧入することが好ましい。
【0027】
ついで、可溶栓の連通孔の長手方向の一部に多孔質材料(多孔質金属焼結体)を圧入したのち、さらに連通孔に低融点合金を溶融状態で充填し、該多孔質材料(多孔質金属焼結体)の全て又は一部に低融点合金を含浸させ、固化し複合化した状態とする。
【0028】
これにより、連通孔に充填された低融点合金は、多孔質材料(多孔質金属焼結体)に補強されて、低融点合金のみの圧縮降伏強度に比べ全体として、1.5倍以上の高い強度を保持した状態となる。
【0029】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0030】
内部に穿設された連通孔2を有する真鍮製可溶栓1を作製した。連通孔2は、
図1に示すような段差を有する構造とした。そして、連通孔2の高圧ガス容器10側(直径:9mmφ側)から多孔質金属焼結体3を圧入した。圧入した多孔質金属焼結体の長さは9mmとした。
【0031】
上記した多孔質金属焼結体が圧入された連通孔に、ついで、低融点合金(67質量%Bi-33質量%In合金:融点110℃)を溶融状態で充填し、圧入した多孔質金属焼結体に含浸させ、固化し複合化した状態の可溶栓とした。また、多孔質金属焼結体を圧入することなく、連通孔全体を充満するように低融点合金を充填した可溶栓を従来例とした。
【0032】
得られた可溶栓1の一方に、
図1に示すように、高圧ガス容器10を、ネジ部を介して接続し、環境温度:85℃で、連通孔内の低融点合金に高圧力(87.5MPa)を付与し、可溶栓としての耐圧性を評価した。
【0033】
なお、圧入された多孔質金属焼結体は、つぎのような方法で製造した。
表1に示す成分系の合金粉末(鋼粉)に、潤滑剤粉末を配合し、混合、混練して混合粉とした。なお、配合した合金粉(鋼粉)は、予め分級し、表1に示す粒度分布を調整したSUS 316鋼粉とした。ついで、得られた混合粉を金型に装入し成形プレスにより加圧成形して、所定寸法(大きさ:略9mmφ)の圧粉体とした。
【0034】
【0035】
ついで、これら圧粉体を、焼結温度:1100~1350℃で焼結し、多孔質金属焼結体(多孔質オーステナイト系ステンレス鋼焼結体)とした。得られた多孔質金属焼結体の全空孔率は、密度測定により求めた。密度測定はアルキメデス法によった。また、全空孔に対する微細空孔の比率は、焼結体のプレス方向断面について、光学顕微鏡により組織を撮像し、画像解析により直径5μm以下の微細空孔の全面積と全空孔の面積を求め、(直径5μm以下の微細空孔の全面積)/(全空孔の面積)により求めた。なお、測定箇所は円周上3箇所とした。
【0036】
なお、上記した多孔質金属焼結体と同じ製造方法で作製した焼結体から、JPMA M09-1992の規定に準拠した抗折力試験片(幅:10mm、厚さ:6mm、長さ:40mm)を採取して、抗折力試験を実施し、抗折力を算出し、表2に示す。試験に用いたローラは直径5mmのものを用い、支持用ローラの中心間距離(支点間距離)は20mmとした。なお、抗折力は次式を用いて算出した。
抗折力=(3×F×L)/(2×b×h2)
ここで、F:試験片が破断したときの荷重(N)
L:支点間の距離(mm)
b:試験片の幅(mm)
h:試験片の厚さ(mm)
【0037】
なお、上記した本発明例と同じように、多孔質金属焼結体が圧入され、さらに低融点合金が充填された連通孔内から、低融点合金が多孔質金属焼結体に含浸され、固化し複合化してなる領域と、多孔質金属焼結体に含浸されず低融点合金のみからなる領域とから、それぞれ圧縮試験片(試験片サイズ:φ9mm×8mm)を採取し、圧縮試験を実施し、圧縮降伏強度をそれぞれ求めた。圧縮試験は、
図2に示すように、固定台座の上に圧縮試験片を静置し、圧縮稼働治具を介し、1mm/secの変位速度で負荷して試験片を圧縮し、降伏したときの圧縮応力を求め、「圧縮降伏強度」とした。得られた結果から圧縮降伏強度の比(複合化してなる領域の圧縮降伏強度)/(低融点合金のみの領域の圧縮降伏強度)、を算出した。得られた結果を表2に併記して示す。
【0038】
【0039】
このように、連通孔に圧入した多孔質金属焼結体のうち本発明の範囲に適合するものは抗折力:50MPa以上の抗折力を有し、しかも低融点合金を含浸させ複合化することにより、低融点合金のみの場合に比べて1.5倍以上の高い圧縮降伏強度を有する多孔質材料である。
【0040】
可溶栓としての耐圧性の評価結果を表3に示す。
本発明例(可溶栓)はいずれも85℃の環境温度に晒されても、低融点合金の変位はなく、また破損もなく、したがって、内容物の放出は認められなかった。可溶栓を120℃程度に加熱すると、低融点金属が溶融し、内容物の放出が認められた。このように、本発明の可溶栓は、環境温度:85℃までの環境下において、圧力:87.5MPa以上の耐圧性を有する可溶栓であるといえる。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、破損またはガス漏れが発生した。
【0041】
なお、連通孔に多孔質金属焼結体を圧入しない従来例では、環境温度が85℃の場合はもちろん室温の場合にも、低融点合金の変位が認められた。
【0042】
【符号の説明】
【0043】
1 可溶栓
2 連通孔
3 多孔質材料(多孔質金属焼結体)
4 低融点合金
10 高圧ガス容器