(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】尿安定化
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/24 20060101AFI20240903BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240903BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240903BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20240903BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20240903BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20240903BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240903BHJP
G01N 1/38 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C12Q1/24
C12Q1/68 100Z
C12Q1/04 ZNA
C12M1/26
C12M1/28
C12Q1/6806 Z
C12N15/10 100Z
G01N1/38
(21)【出願番号】P 2021528979
(86)(22)【出願日】2020-01-02
(86)【国際出願番号】 EP2020050006
(87)【国際公開番号】W WO2020141187
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-12-14
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507214038
【氏名又は名称】キアゲン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】グレルツ, ダニエル
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/035340(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/201612(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/151437(WO,A1)
【文献】特表2017-511124(JP,A)
【文献】特表2016-520293(JP,A)
【文献】特表2016-518827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q、C12N、C12M、G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿試料を安定化させるための方法であって、前記尿試料を、安定化のために、キレート剤および少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー
を含む安定化組成物と接触させるステップを含み、安定化された尿試料中で、細菌増殖が阻害され
、
前記安定化組成物が7より大きく9.5までの範囲内のpHを有し、
前記安定化は、タンパク質-核酸および/またはタンパク質-タンパク質の架橋を誘導する架橋剤の使用を伴わない、方法。
【請求項2】
前記尿試料
が、
細菌増殖を阻害するための保存剤と接触
し、
必要に応じて、細菌増殖を阻害するための前記保存剤が、以下の特徴:
(a)保存剤が抗微生物剤である;
(b)保存剤が抗微生物剤であり、かつ抗細菌効果および抗真菌効果を有する;
(c)前記保存剤が、1種の化学化合物または2種もしくはそれより多い化学化合物を含むかまたはそれからなる;
(d)前記保存剤がアジ化ナトリウムを含むかまたはそれからなる、
(e)前記保存剤が、少なくとも1種のイソチアゾリノン化合物を含む;
(f)前記保存剤が、メチルクロロイソチアゾリノンおよび/またはメチルイソチアゾリノンを含む;
(g)前記保存剤がクロロヘキシジンを含む;
(h)前記保存剤がホウ酸ナトリウムを含む
のうちの1つまたは複数を有する保存剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キレート剤がEDTAである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記
安定化組成物が、細菌増殖を阻害するための
前記保存剤を含
む、請求項
2または3に記載の方法。
【請求項5】
(i)前記安定化組成物が、7.2から9.5、7.3から9.5、7.4から9.5、または7.5から9.5の範囲内のpHを有する;
(ii)前記安定化組成物が緩衝剤を含む;
(iii)前記安定化組成物が緩衝剤を含み、
かつ7.2から9.5、7.3から9.5、7.4から9.5
、または7.5から9.5の範囲内のpHを有する
;
(iv)前記安定化組成物が、1:3から1:10から選択される体積比で前記尿試料と接触する;および/または
(v)前記安定化された尿試料のpHが、6から9.5の範囲内にある、請求項
1から4のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項6】
以下の特徴:
(i)前記安定化された尿試料において、EDTAの最終濃度が、2mg/mlから40mg/m
lの範囲内にある、
(ii)前記方法が、前記尿試料を、100mMから溶解限度ま
での範囲内にある最終濃度でEDTAを含む安定化組成物と接触させるステップを含む、
のうちの1つまたは複数を有する、請求項3から
5のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項7】
(i)前記少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコールである
;
(ii)前記尿試料が、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)と接触する;および/または
(iii)前記尿試料が、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)と接触し、かつこれらのポリマーが請求項1に記載の前記安定化組成物中に含まれる、請求項1から
6のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項8】
前記尿試料を、少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤とさらに接触さ
せる、請求項1から
7のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項9】
前記安定化組成物が、
- EDTA、
- 少なくとも1種のポリエチレングリコール
、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤、
- 緩衝剤、
- 少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤、ならびに
- 必要に応じて、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミド
を含む、請求項
1から8のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項10】
前記安定化組成物が、
- 100mMから前記溶解限度ま
での濃度のEDTA、
- 少なくとも1種のポリエチレングリコール
、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤、
- 緩衝剤、
- 少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤、ならびに
- 必要に応じて、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミド
を含む液体組成物であり、
前記安定化組成物のpHが、7より大きく9.5までの範囲内にあり、前記安定化組成物を、1:3から1:1
0から選択される体積比で、前記尿試料と接触させる、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記安定化組成物が、以下の特徴:
i)前記安定化組成物が、分解に対して、前記尿試料に含まれる細胞外DNAを安定化させる;
ii)前記安定化組成物が、前記尿試料中の剥離した有核細胞の細胞学的性質、前記有核細胞内のゲノムDNA
、および前記尿試料中の細胞外DNAを安定化させる
;
iii)前記安定化組成物が、細胞外DNAに加えて細胞外RNAを安定化させる;
iv)カスパーゼ阻害剤を含む;
v)150mMから500mMの濃度のEDTAを含む;
vi)少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールを含む;
vii)少なくとも6000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールを含む;
viii)1000またはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコールを含む
のうちの1つまたは複数を有する、請求項
1から10のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項12】
最初に異なるデバイス中に採集された可能性のある前記尿試料を、次に、安定化のために、前記安定化組成物と排他的に接触させ、それにより、安定化条件が前記安定化組成物によって確立される、請求項1から11のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項13】
安定化期間の後に、
(i)細胞外核酸が、安定化された尿試料から単離され、必要に応じて、さらに分析および/または検出される;ならびに/または
(ii)安定化された尿試料に含まれる細胞が除去される
請求項1から12のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項14】
安定化された尿試料に含まれる細胞が除去され、かつ
(i)無細胞DNAが、安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から単離される;
(ii)安定化された尿試料から除去された細胞から核酸が単離される;
(iii)安定化された尿試料から除去された細胞からゲノムDNAが単離される;および/または
(iv)細胞学的方法を用いて、除去された細胞が分析される、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
尿試料を処理するための方法であって、
a)前記尿試料を、請求項1から
11のうちの1つまたは複数において定義される方法に従って安定化させるステップ、および
b)安定化された前記尿試料から細胞を分離し、それによって(i)細胞試料および(ii)細胞枯渇上清を提供するステップ
を含
み、必要に応じて、前記方法が、
- 前記細胞枯渇上清から細胞外DNAを精製するステップ、
- 得られた細胞試料からゲノムDNAを精製するステップ、および/または
- 細胞学的分析のために、前記得られた細胞試料から剥離細胞を調製するステップ
をさらに含む、方法。
【請求項16】
尿試料を安定化させるための安定化組成物であって、
安定化された尿試料において、細菌増殖が阻害され、
- キレート剤
、
- 少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー、および必要に応じて、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤
を含
み、前記安定化組成物が7より大きく9.5までの範囲内のpHを有し、
前記安定化組成物は、タンパク質-DNAおよび/またはタンパク質-タンパク質の架橋を誘導する架橋剤を含まない、安定化組成物。
【請求項17】
(i)前記安定化組成物が、細菌増殖を阻害するための保存剤を含
む;
(ii)前記安定化組成物が、7.2から9.5、7.3から9.5、7.4から9.5、または7.5から9.5の範囲内のpHを有する;
(iii)前記安定化組成物が緩衝剤を含む;
(iv)前記安定化組成物が緩衝剤を含み、かつ7.2から9.5、7.3から9.5、7.4から9.5、または7.5から9.5の範囲内のpHを有する;
(v)前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコールであり、必要に応じて、前記安定化組成物が、少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコール、および必要に応じて、1000またはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコールを含む;
(vi)前記安定化組成物がEDTAを含む;
(vii)前記安定化組成物が、請求項2に記載の特徴のうちの1つまたは複数を有する細菌増殖を阻害するための保存剤を含む;
(viii)前記安定化組成物が、少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤を含む;および/または
(ix)前記安定化組成物が、請求項9、10、11において定義されている特徴を有する、請求項
16に記載の安定化組成物。
【請求項18】
尿試料と混合される、請求項
16または17に記載の安定化組成物。
【請求項19】
尿試料を受容するための受容デバイスであって
、前記受容デバイスが安定化成分を含み、前記安定化成分が、
- キレート剤
、
- 少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー
、および
- 必要に応じて、細菌増殖を阻害するための保存剤
を含
み、前記安定化成分が7より大きく9.5までの範囲内のpHを有し、
前記安定化は、タンパク質-核酸および/またはタンパク質-タンパク質の架橋を誘導する架橋剤の使用を伴わない、受容デバイス。
【請求項20】
請求項
16から18のいずれか一項において定義されている安定化組成物を含む、請求項
19に記載の受容デバイス。
【請求項21】
前記受容デバイスが、以下の特徴:
(i)受容デバイスが減圧採集管である
;
(ii)受容デバイスがEDTAを含む;
(iii)受容デバイスがポリエチレングリコールを含む
のうちの1つまたは複数を有する、請求項
19または20に記載の受容デバイス。
【請求項22】
液体組成物である安定化組成物を含み、前記液体組成物を1:3から1:10
、から選択される体積比で受容された尿試料と接触させる、請求項
19から21のいずれか一項に記載の受容デバイス。
【請求項23】
尿試料を含み、前記受容デバイス中に含まれる安定化された尿試料の最終pHが、6から9.
5の範囲内にある、請求項
19から22のいずれか一項に記載の受容デバイス。
【請求項24】
以下の特徴:
(i)前記安定化された尿試料の前記最終pHが、9以
下である;
(ii)前記安定化された尿試料の前記最終pHが、6.5から
9の範囲内にある;
(iii)前記安定化された尿試料の前記最終pHが、6.7から9または7から
9の範囲内にある;
(iv)前記安定化された尿試料の前記最終pHが、少なくとも7であるかまたは7を超え、必要に応じて、7.5から8.5の範囲内にある、
のうちの少なくとも1つを有する、請求項
23に記載の受容デバイス。
【請求項25】
尿試料を採集するための方法であって、
a)尿を容
器内に採集するステップ、および
b)請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法を使用して、前記尿試料を安定化させるステップ
を含む、方法。
【請求項26】
ステップa)において採集された前記尿を、ステップb)における安定化のために、請求項
19から22のいずれか一項に記載の受容デバイス中に移すことを含む、請求項
25に記載の方法。
【請求項27】
ステップa)において使用される前記容器が、乾燥形態
の1つまたは複数の安定化剤を含む、請求項
25または26に記載の方法。
【請求項28】
ステップa)において使用される前記容器
がキレート剤を含む、請求項
27に記載の方法。
【請求項29】
ステップb)の安定化後に、前記安定化された尿試料から細胞を分離し、それによって(i)細胞試料および(ii)細胞枯渇上清を提供することによって、前記安定化された尿試料をさらに処理し、必要に応じて、(i)細胞外DNAを前記細胞枯渇上清から精製するステップ、(ii)得られた細胞試料からゲノムDNAを精製するステップ、および/または(iii)細胞学的分析のために、前記得られた細胞試料から剥離細胞を調製するステップをさらに含む、請求項
25から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
ステップa)において使用される前記容器が、以下の特徴:
(i)容器が尿カップである;
(ii)容器が噴霧乾燥形態の1つまたは複数の安定化剤を含む;
(iii)容器がEDTAを含む
のうちの1つまたは複数を有する、請求項25から29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
以下の特徴:
(i)前記架橋剤が、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、またはホルムアルデヒド放出剤である;
(ii)前記方法が、尿試料に含まれる細胞外DNAを安定化する
のうちの1つまたは複数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、前記尿試料を、150mMから500mMの範囲内にある最終濃度でEDTAを含む安定化組成物と接触させるステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項33】
前記安定化組成物を、1:5から1:8から選択される体積比で、前記尿試料と接触させる、請求項10に記載の方法。
【請求項34】
以下の特徴:
(i)前記架橋剤が、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、またはホルムアルデヒド放出剤である;
(ii)前記安定化組成物が、尿試料に含まれる細胞外DNAを安定化する
のうちの1つまたは複数を有する、請求項16に記載の安定化組成物。
【請求項35】
前記架橋剤が、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、またはホルムアルデヒド放出剤である、請求項19に記載の受容デバイス。
【請求項36】
以下の特徴:
(i)前記安定化された尿試料の前記最終pHが、8.75以下、または8.5以下である;
(ii)前記安定化された尿試料の前記最終pHが、6.5から8.75、または6.5から8.5の範囲内にある;
(iii)前記安定化された尿試料の前記最終pHが、7.2から9、または7.2から8.75の範囲内にある
のうちの1つまたは複数を有する、請求項24に記載の受容デバイス。
【請求項37】
(i)前記受容デバイスが、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコールであり、必要に応じて、前記尿試料が前記デバイスに採集される場合に、得られる混合物中の前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの最終濃度が0.05%から5%(w/v)の範囲内にあるような濃度で、受容デバイス中に含まれる;
(ii)前記受容デバイスが、1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコールであり、必要に応じて、前記尿試料が前記デバイスに採集される場合に、得られる混合物中の前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの最終濃度が、0.5%から10%から選択される範囲内にあるような濃度で、受容デバイス中に含まれる;または
(iii)前記受容デバイスが、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、および1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが、ポリエチレングリコールであり、必要に応じて、前記尿試料が前記デバイスに採集される場合に、得られる混合物中の前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が0.2%から1.5%(w/v)の範囲内にあり、かつ前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が1.5%から8%から選択される範囲内にあるような濃度で、前記受容デバイスが前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む、
請求項19に記載の受容デバイス。
【請求項38】
前記尿試料が前記受容デバイスに採集される場合に、得られる混合物中のカスパーゼ阻害剤の最終濃度が少なくとも0.5μMとなる濃度で、前記安定化組成物がカスパーゼ阻害剤を含む、請求項20に記載の受容デバイス。
【請求項39】
前記キレート剤が、前記尿試料が前記受容デバイスに採集される場合に、得られる混合物中のキレート剤の最終濃度が2mg/mlから40mg/mlの範囲内にあるような濃度で存在する、請求項19に記載の受容デバイス。
【請求項40】
前記キレート剤がEDTAである、請求項39に記載の受容デバイス。
【請求項41】
前記安定化組成物が、150mMから500mMの濃度のEDTAと、少なくとも6000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールと、必要に応じて、1000またはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコールとを含む液体組成物であり、
前記安定化組成物が、1:3から1:10、または1:5から1:8から選択される体積比で、前記尿試料と接触するように前記受容デバイスが設計される、請求項20に記載の受容デバイス。
【請求項42】
前記安定化組成物が、以下の特徴:
(i)前記安定化組成物が、前記尿試料に含まれる細胞外DNAを安定化するのに適している;
(ii)前記安定化組成物が、分解に対して、前記尿試料に含まれる細胞外DNAを安定化させる;
(iii)前記安定化組成物が、前記尿試料中の剥離した有核細胞の細胞学的性質、前記有核細胞内のゲノムDNA、および前記尿試料中の細胞外DNAを安定化させる;
(iv)前記安定化組成物が、細胞外DNAに加えて細胞外RNAを安定化させる
のうちの1つまたは複数を有する、請求項20から24、または35から41のいずれかに記載の受容デバイス。
【請求項43】
以下の特徴:
(i)前記受容デバイスが、栓で密封された開口端を有する管を含む;
(ii)前記受容デバイスが、栓で密封された開口端を有する管を含み、前記受容デバイスが、固体形態または液体形態の規定量の前記安定化組成物で予め充填され、かつ規定の真空で提供され、前記栓が、標準的なサンプリングアクセサリーと適合するように構築され、並びに、尿と接触した場合に、必要に応じて移送デバイスを介して、前記真空によって予め決定された量の尿が前記受容デバイス内に採集される;
(iii)前記受容デバイスが減圧されており、必要に応じて、
- 前記受容デバイスが、減圧採集管であり、
- 前記減圧が、予め尿採集カップ中に採集されていてもよい特定の体積の尿試料を、受容デバイスの内部に抜き取るのに効果的であり;および/または
- 前記受容デバイスが、大気圧未満の内部圧力に減圧され、前記圧力は、所定の体積の前記尿試料を前記受容デバイス内に引き込むように選択される;
(iv)前記受容デバイスが、5mlから20mlの範囲内にある量の尿を受容するためのものである;
(v)前記安定化組成物が、2mlまたはそれより少ない体積の液体である
のうちの1つまたは複数を有する、請求項20に記載の受容デバイス。
【請求項44】
前記受容デバイスが、開口上部、底、およびチャンバーを規定してそれらの間に伸びる側壁を有し、
必要に応じて、前記受容デバイスが、以下の特徴:
(i)前記安定化組成物が、前記受容デバイスの前記チャンバー内に液体または固体の形態で含まれる;
(ii)前記受容デバイスが管であり、前記底が閉じた底であり、前記受容デバイスが開口した上部に閉止栓をさらに含み、かつ前記チャンバーが減圧されている;
(iii)前記受容デバイスが管であり、前記底が閉じた底であり、前記受容デバイスが開口した上部に閉止栓をさらに含み、前記チャンバーが減圧されており、前記閉止栓が、ニードルまたはカニューレで貫通可能であり、かつ減圧が、特定の体積の液体試料をチャンバー内に引き込むように選択される;
(iv)前記受容デバイスが管であり、前記底が閉じた底であり、前記受容デバイスが開口した上部に閉止栓をさらに含み、前記チャンバーが、特定の体積の前記尿試料を前記チャンバー内に引き込むように選択される減圧下にあり、前記安定化組成物が液体であり、かつ前記安定化組成物対特定の体積の前記尿試料の体積比が10:1から1:20、5:1から1:15、および1:1から1:10から選択されるように、前記チャンバー内に配置される
のうちの1つまたは複数を有する、請求項20に記載の受容デバイス。
【請求項45】
前記安定化組成物が液体組成物であり、前記液体組成物が1:5から1:10から選択される体積比で受容された尿試料と接触するように前記受容デバイスが設計される、請求項19に記載の受容デバイス。
【請求項46】
前記尿試料と混合した前記安定化組成物を含む、請求項19に記載の受容デバイス。
【請求項47】
尿試料を含み、前記受容デバイスに含まれる安定化された尿試料の最終pHが、6.3から9.5の範囲内にある、請求項19に記載の受容デバイス。
【請求項48】
(i)前記受容デバイスが減圧されており、前記減圧が、予め尿採集カップ中に採取された特定の体積の尿試料を内部に抜き取るのに効果的であり;および/または
(ii)前記受容デバイスが、栓で密封された開口端を有する管を含み、前記受容デバイスが、固体形態または液体形態の規定量の前記安定化組成物で予め充填され、かつ規定の真空で提供され、前記栓が、標準的なサンプリングアクセサリーと適合するように構築され、並びに、尿と接触した場合に、必要に応じて移送デバイスを介して、前記真空によって予め決定された量の尿が前記受容デバイス内に採集される
請求項25に記載の方法。
【請求項49】
前記受容デバイスが減圧受容デバイスであり、ステップa)において使用される前記容器が、前記減圧受容デバイスまたは前記容器を開封する必要なく、尿を前記減圧受容デバイスに移送することを可能にする、請求項25に記載の方法。
【請求項50】
安定化期間の後に、
(i)細胞外核酸が、安定化された尿試料から単離され、必要に応じて、さらに分析および/または検出される;ならびに/または
(ii)安定化された尿試料に含まれる細胞が除去される
請求項25に記載の方法。
【請求項51】
前記細胞外核酸が細胞外DNAである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
システムであって、以下のモジュール:
- 尿採集デバイスであって、必要に応じて尿採集カップである、尿採集デバイス;および
- 採集された尿を受容するための、請求項19から24、または35から48のうちの1つまたは複数に記載の受容デバイス
を含む、システム。
【請求項53】
(a)前記尿採集デバイスが、以下の特徴:
(i)前記受容デバイスへの尿の移送を可能にする容器であり、前記受容デバイスが、尿試料を安定化させるための安定化組成物を含む請求項22または42から44のうちの1つまたは複数に記載の減圧受容デバイスであり、前記容器が、前記減圧受容デバイスまたは前記容器を開封する必要なく、尿を前記減圧受容デバイスに移送することを可能にする;
(ii)1つまたは複数の安定化剤を含む;
(iii)安定化剤としてキレート剤を含む;
(iv)安定化剤としてEDTAを含む;
(v)細菌増殖を阻害するための保存剤を含む;
(vi)乾燥形態、必要に応じて、噴霧乾燥形態の1つまたは複数の安定化剤を含む
のうちの1つまたは複数を有し、および/または
(b)前記受容デバイスが、以下の特徴:
(i)尿試料を安定化させるための安定化組成物を含む請求項20から24または35から44の1つまたは複数に記載の受容デバイスである;
(ii)規定量の尿を管内に引き込むのに適した減圧管である
のうちの1つまたは複数を有する、請求項53に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、尿試料を安定化させるための方法、組成物および採集容器を提供する。本発明の技術により、無細胞DNAとゲノムDNAの同時安定化および尿中の細胞の安定化が可能になる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
体内のDNAのほとんどは細胞内に位置しているが、血液および尿などのヒト体液中を自由に循環している少量の核酸も発見することができる(通常、細胞外DNA、無細胞DNAまたは循環DNAとも称される)。多くの医学的状態、悪性疾患、および感染プロセスにおいてレベルの上昇した細胞外DNAおよび他の細胞外核酸の存在は、とりわけ、疾患進行についてのスクリーニング、診断、予後予測、監視のために、潜在的な治療標的の同定のために、および処置応答のモニタリングのために関心をもたれている。
【0003】
試料タイプに応じて、試料採集後の損傷細胞または崩壊細胞からの遺伝子材料によって細胞外DNAが希釈される可能性と同様に、体液試料中の細胞外DNAの分解も課題である。
【0004】
上記課題をそれぞれ回避、低減するために、例えば、基本的には、採血の直後に全血から血漿を得るおよび/または血漿が得られるまで血液試料を安定化させることが推奨される。その一方で、血液試料からの細胞外DNAの安定化および単離については十分に確立されている。血液試料の安定化のために、いくつかの専用採血管が市販されている(Streck、Roche、PreAnalytiX、Biomatrica、Norgeneなど)。安定化方法は、例えば、WO2013/045457、WO2013/045458、WO2014/146780、WO2014/146782、WO2014/146781、WO2014/049022およびWO2017/085321に記載されている。
【0005】
生検採取と比較して侵襲性ははるかに低いにも関わらず、採血は依然として侵襲的であり、特に年配者、幼児または処置下のがん患者の場合に困難であるかまたは不可能である場合がある。治療モニタリング、耐性不全試験、またはさらなる診断のための代替供給源としての真に非侵襲的な試料は、現在の液体生検技法に対する貴重な補足物となるであろう。ここで、尿から無細胞DNAを精製することにより、簡便かつ完全に非侵襲的な代替物が提供される。
【0006】
液体生検が多くの査読文献において示されてきたように、この尿を使用することができる。従来の細胞組織学的分析、すなわち尿路上皮癌の従来の細胞組織学的分析に加えて、尿中のがん細胞または悪性細胞からのgDNAおよび無細胞DNAは、がん特異的配列の変化、エピジェネティック変化および構造上の変化と関連している。膀胱がん(Birkenkamp-Demtroder K et al. Genomic Alterations in Liquid Biopsies from Patients with Bladder Cancer. Eur Urol. 2016 Jul;70(1):75-82)、前立腺がん(Salvi S et al. Urine Cell-Free DNA Integrity Analysis for Early Detection of Prostate Cancer Patients. Dis Markers. 2015;2015:574120)、肺がん(Chen S, Zhao J, Cui L, Liu Y. Urinary circulating DNA detection for dynamic tracking of EGFR mutations for NSCLC patients treated with EGFR-TKIs. Clin Transl Oncol. 2017 Mar;19(3):332-340)および他の固形腫瘍がん型の患者(Fujii T et al. Mutation-Enrichment Next-Generation Sequencing for Quantitative Detection of KRAS Mutations in Urine Cell-Free DNA from Patients with Advanced Cancers. Clin Cancer Res. 2017 Jul 15;23(14):3657-3666)からの尿が、腫瘍由来の無細胞DNAを含有することが公開されている。さらに、尿試料からの胎児DNAの単離について記載されている。したがって、血液の他に、尿も重要な液体生検試料である。
【0007】
しかし、尿中の有核細胞と無細胞DNAはいずれも不安定であり、尿試料採集の際に急速に溶解または分解する。さらに、尿中の正常な上皮細胞などの剥離した有核細胞またはがん由来細胞は、ゲノムDNAを放出し、無細胞DNAを希釈させる。DNA分解は、尿中で特に急速であり、本質的に、試料採集後直ちに起こる。したがって、保管中に、含まれる無細胞DNAの分解を低減することによって、尿中の無細胞DNAを保存するための効率的安定化方法が必要とされる。この点で、元の尿試料中に含まれる無細胞DNAの効率的保存は、保管後の尿試料中に含まれる無細胞DNAの総量に基づいて決定するのが困難であることに留意されたい。これは、保管中に分解される元々存在する無細胞DNAが、尿試料中に含まれる細胞から放出されるDNAで補充される場合があるからである。故に、無細胞尿画分中のDNAの総量が、尿試料採集の際と保管後で同じである場合であっても、元々存在する無細胞DNAは、それにもかかわらず、分解される可能性があり、保管後に無細胞尿画分中に含まれるDNAが、本質的に、保管中に細胞から放出されたDNAに相当する可能性がある。しかし、特に分析上価値があるのは、無細胞尿画分中に元々存在する無細胞DNAであり、保管中に細胞から無細胞液体尿画分中に放出されるDNAではない。元々存在する無細胞DNAが保管中に分解される場合、その後の分析に利用することができない。したがって、尿安定化の重要な目的は、試料採集の時点で尿中に含まれる無細胞DNAを安定化させることである。さらに、細胞が、さらなる用途、例えば、細胞組織学的検査方法および/または細胞からのゲノムDNAの単離のために、安定化された尿試料から回収され得るように、尿安定化技術によって含まれる細胞の安定化が達成されるのが望ましい。公知の尿安定化方法は、これらの目的に十分に対処するものではない。
【0008】
1つの公知の尿安定化方法(Streckの尿中無細胞DNA保存液)は、ホルムアルデヒド放出剤の使用をベースとする。尿中無細胞DNA保存剤が5mlのバイアル中に提供される。1バイアルからの試薬は25から100mlの尿と混合されなければならない。この手法はいくつかの不利益を有する。この手法は、安定化されていない尿が実験室または診療所に持ち込まれることを必要とする。それによって、尿を安定化させる時点が遅れる。さらに、安定化のために、初期採集カップは開口した状態でなければならず、安定化試薬がバイアルから添加され、尿と混合されなければならない。これらの手動操作は不便で誤りがちである。さらに、ホルムアルデヒドを含有する試薬は、毒性であり、タンパク質や核酸などの生体分子を化学的に改変する不利益を有する。このことにより、回収可能で、故に、分析可能である無細胞DNAの量が減る可能性がある。尿試料中の目的の無細胞DNA数が制限される可能性があるため、これは大きな不利益である。
【0009】
Trovageneは、製造業者に従って尿中の無細胞DNAを安定化させる試薬(NextCollect)を有する。この試薬を尿採集容器のカップ中に統合した。ZymoおよびNorgenは、次の全DNAの用途のために尿を保存する試薬を提供する。しかし、ゲノムDNAと無細胞DNAを別々に分析することは不可能である。
【0010】
さらに、いくつかの他の尿採集デバイスが当技術分野で公知である。例えば、Becton Dickenson(BD)は、尿をバキュテナー中に移すための製品ラインを提供する。BD Vacutainer(登録商標)尿採集カップは、カップを開く必要なく尿をバキュテナー中に移すための針を含むカップを有する採集容器である。BD Vacutainer(登録商標)の尿採集ストローは、尿を任意の容器からバキュテナーに移すためのデバイスである。デバイスの一端は尿中に配置され、他端はバキュテナーに取り付け可能な針を含む。BD Vacutainer(登録商標)のUrinanlysis Preservative Tubesは、尿に関して使用されることが意図される、噴霧乾燥細菌保存剤を含み、8mlの引き込み容積(draw volume)を有するバキュテナーまたは添加剤も8から10mlの引き込み容積も有さない管である。DNAはこれらのバキュテナーのいずれによっても保存されない。
【0011】
したがって、液体生検試料としての尿試料の効率的安定化を可能にする改良された方法が必要とされる。安定化によって、尿試料中に含まれる無細胞DNAおよび細胞のその後の単離が可能になるはずである。
【0012】
よって、尿試料を安定化させるための手段を提供することが本発明の1つの目的である。特に、先行技術の尿安定化方法の欠点の少なくとも1つを克服することが1つの目的である。さらに、無細胞DNAおよび/またはゲノムDNAなどの細胞内DNAの回収を後に可能にし、さらに安定化された細胞の細胞学的分析を可能にする安定化技術を提供することが1つの目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2013/045457号
【文献】国際公開第2013/045458号
【文献】国際公開第2014/146780号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Birkenkamp-Demtroder K et al. Genomic Alterations in Liquid Biopsies from Patients with Bladder Cancer. Eur Urol. 2016 Jul;70(1):75-82
【文献】Salvi S et al. Urine Cell-Free DNA Integrity Analysis for Early Detection of Prostate Cancer Patients. Dis Markers. 2015;2015:574120
【文献】Chen S, Zhao J, Cui L, Liu Y. Urinary circulating DNA detection for dynamic tracking of EGFR mutations for NSCLC patients treated with EGFR-TKIs. Clin Transl Oncol. 2017 Mar;19(3):332-340
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、細胞外DNA(本明細書において無細胞DNAとも称される)ならびに含まれる細胞およびゲノムDNAなどの細胞内核酸を保存する、尿試料のための有効な安定化技術を提供する。提供された安定化技術は、特に、尿試料中の無細胞DNAの分解および細菌増殖の阻害を可能にする。したがって、本発明の安定化技術は、尿中の無細胞DNAならびに尿内に見られるゲノムDNAおよび細胞の細胞学的性質を安定化させる。それによって、本発明は、無細胞DNAとゲノムDNAとの同時安定化および尿中の細胞の安定化のための解決法を提供する。それによって、無細胞DNA検査およびゲノムDNA検査ならびに従来の細胞学的染色を含むマルチモダリティ検査が、本発明による技術を用いて安定化された尿試料に関して可能である。
【0016】
さらに、本発明は、尿に関する試料採集、安定化および調製システムを提供する。本発明の安定化化学は、尿受容容器、好ましくは減圧管内に含まれていてもよく、これは、確立された尿採集容器ならびに確立された核酸精製およびアッセイ技術と組み合わせて使用されてもよい。それによって、本発明は、尿採集から洞察核酸分析および/または細胞分析までの全ワークフローを含む尿試料からの分子分析に関する標準システムも提供する。
【0017】
第一の態様によれば、尿試料を安定化させるための方法であって、尿試料を、安定化のために、キレート剤、好ましくはEDTA、および少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコールと接触させるステップを含み、安定化された尿試料中で、細菌増殖が阻害される、方法が提供される。好ましくは、安定化のために使用される化合物は、第三の態様による安定化組成物などの安定化組成物中に含まれる。
【0018】
第二の態様によれば、尿試料を処理するための方法であって、
a)第一の態様の方法に従って、尿試料を安定化させるステップ、および
b)安定化された尿試料から細胞を分離し、それによって(i)細胞試料および(ii)細胞枯渇上清を提供するステップ
を含む、方法が提供される。
【0019】
第三の態様によれば、尿試料を安定化させるための安定化組成物であって、安定化された尿試料中で、細菌増殖が阻害され、
- キレート剤、好ましくはEDTA、
- 少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、および必要に応じて、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤
を含む、安定化組成物が提供される。
【0020】
各安定化組成物は、試料の質を実質的に損なうことなく、安定化された尿試料を室温で何日もの間、保管および/または取り扱う、例えば輸送することを可能にする。安定化組成物は、取り扱いやすく、安全な、かつ手動操作の必要のない閉じた尿採集システムの部分であってもよい。
【0021】
第四の態様によれば、本発明は、尿試料を安定化させるための第三の態様による安定化組成物の使用に関する。第三の態様による安定化組成物は、例えば、第一の態様による方法において、安定化のために使用されてもよい。
【0022】
第五の態様によれば、尿試料を受容するための受容デバイスであって、
- キレート剤、好ましくはEDTA、
- 少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、および
- 必要に応じて、細菌増殖を阻害するための保存剤
を含む、受容デバイスが提供される。
【0023】
受容デバイスは、尿試料を安定化させるのに好適である。細菌増殖は、安定化された尿試料中で阻害されてもよい。これに準ずる受容デバイスは、好ましくは減圧採集管であり、好ましくは、請求項18から24のいずれか一項において定義された安定化組成物などの第三の態様による安定化組成物を含む。このような各受容デバイスを提供することは、試料が各デバイス中に含有されると尿試料が直ちに安定化されるという利点を有する。受容デバイスは、第一の態様による方法において安定化のために使用され得る。
【0024】
第六の態様によれば、尿試料を採集するステップを含む方法が提供される。一実施形態によれば、尿試料は、本発明の第五の態様によるデバイスのチャンバー中に採集される。さらなる実施形態によれば、尿試料を採集するための方法は、
a)尿を容器、好ましくは尿カップ内に採集するステップ、および
b)第一の態様による方法を使用して尿試料を安定化させるステップ
を含む。
【0025】
ステップa)において採集された尿を、ステップb)における安定化のために、第五の態様による受容デバイス中に移してもよく、ここで、受容デバイスは、好ましくは、請求項18から24のいずれか一項において定義される安定化組成物などの、第三の態様による安定化組成物を含む。
【0026】
第七の態様によれば、本発明の第三の態様による組成物を生成する方法であって、安定化組成物の構成成分が、好ましくは溶液剤などの液体組成物中で組み合わされる、方法が提供される。用語「溶液剤」は、本明細書で使用される場合、特に、液体組成物、好ましくは水性組成物を指す。これは、一相のみの均質な混合物であってもよいが、溶液剤が、例えば沈殿物などの固形構成成分を含むことも本発明の範囲内にある。
【0027】
本出願の他の目的、構成要件、利点および態様は、以下の記載および添付の特許請求の範囲から当業者に明らかとなるであろう。しかし、以下の記載、添付の特許請求の範囲、および具体的実施例は、本出願の好ましい実施形態を示しているが、例示のためだけに与えられることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、尿中の無細胞DNAの安定化を示す。6名のドナーからの、qPCRによる18s rDNA 66bp断片の平均Ct値が、標準偏差と共に示されている。尿を、1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)または本開示による安定化試薬と混合した。直後(t0、左のカラム)またはRTで4日間の保管後(右のカラム)に処理した細胞枯渇尿試料からDNAを単離した。
【0029】
【
図2】
図2は、尿中の大きなDNAの安定化を示す。6名のドナーからの、qPCRによる18s rDNA 500bp断片の平均Ct値が、標準偏差と共に示されている。尿を、1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)または本開示による安定化試薬と混合した。直後(t0、左のカラム)またはRTで4日間の保管後(右のカラム)に細胞枯渇尿試料からDNAを単離した。
【0030】
【
図3】
図3は、BD Vacutainer Urine Collection Cupから直接バキュテナー中に採集した尿中の無細胞DNAを示す。4名のドナー(2名の女性および2名の男性)からqPCRによって決定した、t0に対する保管後の18s rDNA 66bp断片のコピー数の増加を標準偏差と共に示す。尿をBD Vacutainer採集カップ中に採集し、異なるバキュテナー中に移した。R1による安定化のために、尿を噴霧乾燥K2-EDTA管中に移し、その後、1.7mlのR1試薬を添加した。直後またはRTで1日間(左のカラム)、3日間(真中のカラム)および9日間(右のカラム)の保管後に、無細胞DNAを細胞枯渇尿試料から単離した。
【0031】
【
図4】
図4は、BD Vacutainer Urine Collection Cupからバキュテナー中に採集された女性の尿にスパイクインした男性の尿からの無細胞DNAの保存について示す。RTで保管した試料と時点t0で処理した試料の間の平均デルタCt値(DYS14 qPCR、2名の女性のドナー)を示す。無細胞DNAを、直後に、またはRTで1日間(左のカラム)、3日間(真中のカラム)および9日間(右のカラム)の保管後に単離した。デルタ-Ct値が低いほど、尿試料中に含まれる無細胞DNAの保存がより良好であることを示す。
【0032】
【
図5】
図5は、マルチモダリティ検査に使用した尿中の無細胞DNAの安定化について示す。3名のドナーの二連の試料調製および三連のPCRからのqPCRによる18s rDNA 66断片(
図5a)および500bp断片(
図5b)の平均Ct値を標準偏差と共に示す。尿を不安定化させるか、または採集後に1.7mlの試薬R1と混合した。無細胞DNAを、採集直後(t0、左のカラム)またはRTで3日間(真中のカラム)および7日間(右のカラム)の保管後に処理した尿試料から単離した。
【0033】
【
図6】
図6は、マルチモダリティ検査の設定における尿細胞由来のゲノムDNAの安定化を示す。3名の異なるドナーからの細胞ペレットの2/3からの平均収率をTapeStationで測定し(
図6a)、アガロースゲル上で可視化した(
図6b)。尿を不安定化させるか、または採集後に1.7mlの試薬R1と混合した。採集直後(t0、左のカラム)またはRTで3日間(真中のカラム)および7日間(右のカラム)の保管後に遠心分離によって得られた細胞ペレットからgDNAを単離した。
【0034】
【
図7】
図7は、マルチモダリティ検査の設定における尿細胞からの細胞の細胞学的性質の安定化を示す。尿は安定化されていないか、または採集後に1.7mlの試薬R1と混合された。採集直後(t0)またはRTで7日間の保管後に1回の遠心分離によって得られた細胞ペレットからの細胞をスライドガラス上で遠心分離し、空気乾燥させ、パパニコロウで染色した。
【0035】
【
図8】
図8は、女性の尿中にスパイクインした男性由来のDYS14 DNAに基づいて実証されているように、無細胞DNAの保存に関するpHの影響を示す。6名の女性ドナーからのDYS14 qPCRの平均Ct値を標準偏差と共に示す。女性の尿は、純粋(Unstab.)または1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)もしくは本開示による様々な安定化試薬と混合するかのいずれかで使用した。無細胞DNAを、直後(t0、左のカラム)またはRTで4日間(右のカラム)の保管後に単離した。
【0036】
【
図9】
図9は、本発明による安定化試薬を用いる無細胞DNA尿の安定化を示す。6名のドナーからのqPCRによる18S rDNA 66bp断片の平均Ct値を標準偏差と共に示す。尿を、1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)または様々なpH値に設定した本発明による安定化試薬と混合した。無細胞DNAを、尿処理の直後(t0)、または4日間(t4d)もしくは7日間(t7d)の保管後に単離した。
【0037】
【
図10】
図10は、本発明による試薬を用いる尿中の大きな無細胞DNAの安定化を示す。6名のドナーからのqPCRによる18S rDNA 500bp断片の平均Ct値を標準偏差と共に示す。尿を、1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)または様々なpH値の本発明による安定化試薬と混合した。無細胞DNAを、直後(t0)、4日間(t4d)または7日間(t7d)の保管後に処理済の尿から単離した。
【0038】
【
図11】
図11は、尿細胞由来のゲノムDNAの安定化を示す。尿を、様々なpH値の1.7mlの本発明による安定化試薬を用いて安定化させた。gDNAを、採集直後(t0)または室温で7日間(t7d)の保管後の遠心分離によって得られた細胞ペレットから単離した。
【0039】
【
図12】
図12は、女性の尿中の無細胞の男性由来DYS14 DNAの保存に関するpHの影響を示す。4名の女性ドナーからのDYS14 qPCRの平均Ct値を標準偏差と共に示す。女性の尿を、1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)または様々なpH値の本発明による安定化試薬と混合した。無細胞DNAを、直後(t0)またはRTでの4日間(t4d)もしくは7日間(t7d)の保管後に単離した。
【0040】
【
図13】
図13は、尿中の無細胞の男性由来DYS14 DNAの保存に関するpHの影響を示す。4名の女性および2名の男性ドナーからのDYS14 qPCRのCt値を示す。尿を、1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)または様々なpH値に設定した本発明による安定化試薬と混合した。無細胞DNAを、直後(t0)またはRTでの4日間(t4d)もしくは7日間(t7d)の保管後に単離した。男性のドナー(ドナー5および6)は、中性または塩基性pHを有する本発明による試薬を使用する場合に、経時的なcfDNAにおけるDYS14 DNAの増加を示す。
【0041】
【
図14】
図14は、本発明による試薬を用いる無細胞尿における小さなDNAの安定化を示す。6名のドナーからのqPCRによる18S rDNA 66bp断片の平均Ct値を標準偏差と共に示す。尿を、1.7mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)または様々なpH値の本発明による安定化試薬と混合した。無細胞DNAを、直後(t0)、または4日間(t4d)の保管後に単離した。
【0042】
【
図15】
図15は、本発明による試薬を用いる無細胞尿における大きなDNAの安定化を示す。6名のドナーからのqPCRによる18S rDNA 500bp断片の平均Ct値を標準偏差と共に示す。尿を、1.7mlの様々なpH値に設定した本発明による安定化試薬と混合した。無細胞DNAを、直後(t0)、または4日間(t4d)の保管後に単離した。
【0043】
【
図16】
図16は、女性の尿における無細胞の男性由来DYS14 DNAの保存に関するpHの影響を示す。6名の女性ドナーからのDYS14 qPCRの平均Ct値を標準偏差と共に示す。女性の尿を1.7mlの様々なpH値に設定した本発明による安定化試薬と混合した。無細胞DNAを、直後(t0)またはRTで4日間(t4d)の保管後に単離した。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
本開示の様々な態様をここでさらに詳細に記載する。
A.安定化の方法
【0045】
第一の態様によれば、尿試料を安定化させるための方法であって、尿試料を、安定化のために、キレート剤、好ましくはEDTA、および少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコールと接触させるステップを含み、安定化された尿試料中で、細菌増殖が阻害される、方法が提供される。第一の態様による方法の詳細は、請求項1から15においても定義されている。
【0046】
安定化のために使用される化合物の詳細および尿試料を安定化させるために使用することができるさらなる安定化剤が以下に開示される。本明細書に開示されるように、安定化のために使用される化合物は、好ましくは尿試料と接触する安定化組成物中に含まれる。好ましくは、第三の態様による安定化組成物は、尿試料を安定化させるために使用される。
キレート剤
【0047】
本発明による尿安定化は、キレート剤、好ましくはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の使用に関与する。キレート剤は、有機化合物の2つまたはそれより多い原子によって金属と配位結合を形成することが可能である有機化合物である。本発明によるキレート剤としては、以下に限定されないが、エチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)およびN,N-ビス(カルボキシルメチル)グリシン(NTA)、さらに例えばクエン酸塩またはシュウ酸塩が挙げられる。他のキレート剤としては、以下に限定されないが、クエン酸塩またはシュウ酸塩などのカルボン酸の塩およびこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0048】
好ましい実施形態によれば、EDTAがキレート剤として使用される。キレート剤全般に関して本出願において記載されるすべての開示および実施形態は、具体的に適用され、特に、明示的に記載されていなければ、好ましい実施形態であるEDTAを指す。本明細書で使用される場合、用語「EDTA」は、とりわけ、例えばK2EDTA、K3EDTAまたはNa2EDTAなどのEDTA化合物のEDTA部分を示す。
【0049】
EDTAなどのキレート剤を使用することは、DNaseおよびRNaseなどのヌクレアーゼが阻害され、それによって、尿試料に含まれる無細胞DNAのヌクレアーゼによる分解を低減するという有利な効果を有する。したがって、尿試料を安定化させるためのEDTAなどのキレート剤の使用は非常に有利である。
【0050】
一実施形態によれば、安定化された尿試料中、よって尿試料を、キレート剤、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、保存剤および必要に応じて、1種または複数の追加の添加剤と接触させた場合に得られる混合物中におけるキレート剤、好ましくはEDTAの最終濃度は、0.9mg/mlから40mg/ml、例えば2mg/mlから40mg/mlなどの範囲内にある。例示的かつ好ましい範囲は以下に開示されており、本開示の範囲は、キレート剤としてEDTAを使用するのに特に好適である。安定化された尿試料中の最終濃度は、少なくとも4mg/ml、少なくとも5mg/mlまたは少なくとも7mg/mlであってもよい。キレート剤、例えば好ましくはEDTAを、尿を安定化させるためにより高濃度で使用することは、強力な安定化効果を達成するために有利である。したがって、実施形態では、安定化された尿試料中のキレート剤(好ましくはEDTAである)の最終濃度は、少なくとも7mg/ml、好ましくは少なくとも10mg/mlである。実施例では、少なくとも15mg/mlの濃度が使用された。一実施形態によれば、キレート剤、好ましくはEDTAの最終濃度は、10mg/mlから35mg/mlまたは10mg/mlから30mg/mlの範囲内にある。12mg/mlから30mg/mlまたは15mg/mlから25mg/mlの範囲の最終濃度も好適である。実施例では、安定化された尿中で15mg/mlから20mg/mlの範囲内にある最終濃度でEDTAを使用した。
【0051】
一実施形態によれば、EDTAなどのキレート剤は、安定化のために尿試料と接触する安定化組成物中に含まれる。好ましくは、第三の態様による安定化組成物はこのために使用される。
【0052】
しかし、EDTAなどのキレート剤は単独では、実施例において実証されているように、本明細書に記載の目的に対して十分な安定化効果を達成しない。したがって、本明細書に記載されているさらなる安定化剤と組み合わせて使用される。
ポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール
【0053】
本発明による尿安定化は、安定化剤としての少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用にさらに関与する。用語ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、特に、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを指す。これは、少なくとも2つのエチレンオキシド単位を含む。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、低分子量および高分子量で公知である。これらの分子量は、通常、そのモノマーの分子量である44の倍数であり、100000までの範囲であり得る。分子量は、本明細書においてDaで示される。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、直鎖状であっても分枝状であってもよく、他の幾何学的形状を有してもよい。直鎖状ポリ(オキシエチレン)ポリマーが好ましい。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、置換されていなくても置換されていてもよく、好ましくはポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、様々な分子量および様々な濃度で細胞に関する安定化効果を有し、したがって、尿試料を安定化させるために使用することができる。しかし、ポリエチレングリコールによって達成されるような安定化効果を達成する他のポリ(オキシエチレン)ポリマーも使用することができる。言及したように、ポリ(オキシエチレン)エステル、ポリ(オキシエチレン)アミン、ポリ(オキシエチレン)チオール化合物、ポリ(オキシエチレン)グリセリドなどだけでなく、アルキルポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばアルキルポリエチレングリコールなどの安定化効果を有する置換されたポリ(オキシエチレン)ポリマーも使用することができる。
【0054】
尿安定化のためのポリ(オキシエチレン)ポリマーとして、ポリエチレングリコールが使用されるのが好ましい。ポリエチレングリコールは、好ましくは分枝状ではなく、置換されていなくても置換されていてもよい。ポリエチレングリコールの公知の置換形態としては、例えば、C1~C5アルキル基で一端または両端が置換されているアルキルポリエチレングリコールが挙げられる。最も好ましくは、式HO-(CH2CH2O)n-Hの置換されていないポリエチレングリコールが使用される。ポリ(オキシエチレン)ポリマー全般について本出願に記載のすべての開示および実施形態は、具体的に適用され、特に、明示的に記載されていなければ、好ましい実施形態であるポリエチレングリコール、具体的には置換されていないポリエチレングリコールを指す。
【0055】
様々な分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用することができる。より低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーよりも、より高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが、より効果的な安定化剤であることが判明した。より低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを用いて効率的安定化を達成するために、比較してより高濃度の使用が一般的に推奨される。しかし、一部の適用では、安定化のために使用される添加剤の量を少なく保つことが好ましい。したがって、実施形態では、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、強力な安定化効果を達成する一方でより低濃度のポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用が可能であるため、安定化のために高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを尿試料と接触させる。
【0056】
よって、一実施形態によれば、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化剤として使用し、尿試料と接触させる。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1500から40000から選択される範囲内にある分子量を有し得る。好適な範囲としては、2000から35000、2500から30000、3000から25000、3500から20000および4000から15000が挙げられる。5000から20000、例えば5000から15000または6000から10000の範囲が好ましい。ポリエチレングリコール、特に置換されていないポリエチレングリコールの使用について、これらの分子量が特に好ましい。置換されていないポリエチレングリコールを実施例においても使用した。特定の分子量を有するポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、当業者に周知であるように製造条件に合わせて特定の範囲内で変化し得る。
【0057】
高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、尿試料の安定化を発揮または支持する濃度で使用される。好適な濃度は、例えば、実施例において記載される検査アッセイにおける特定の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの様々な濃度を検査することによって、当業者によって決定され得る。達成される安定化効果および好ましい濃度は、1種または複数の追加の安定化剤が使用されるか否かに応じて変化し得る。好ましい組合せが本明細書に記載される。一実施形態によれば、尿試料を高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じて、さらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、0.05%から8%(w/v)の範囲内にある最終濃度の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。安定化された尿試料中の最終濃度に関する例示的な好適な範囲としては、0.1%から4%(w/v)、0.2%から3%(w/v)、0.25%から2.5%(w/v)および0.3%から2%(w/v)が挙げられる。一実施形態によれば、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、0.2%から1.5%(w/v)、0.25%から1.25%(w/v)、0.3%から1%(w/v)または0.4%から0.75%(w/v)などのより低い濃度範囲で使用される。1.25%(w/v)もしくはそれより低い割合または1%(w/v)もしくはそれより低い割合の濃度、特に0.75%(w/v)もしくはそれより低い割合の濃度の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用することは、ある特定の実施形態において有利であり得る。下流での処理、特に無細胞上清からの無細胞DNAの精製が改良され得る。最も標準的な核酸単離方法と適合する安定化技術を使用することが有利である。
【0058】
一実施形態によれば、安定化のために使用されるポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくはポリエチレングリコールである)は、1500未満の分子量を有し、1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであってもよい。これは、尿試料安定化効果を支持し得る濃度で使用される。様々な試料のタイプに対して好適な濃度は、例えば、実施例において記載される検査アッセイにおいて様々な濃度を検査することによって当業者によって決定され得る。1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーなどの各ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、尿試料を前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じて、さらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物中に、0.5%から10%の範囲内にある最終濃度で存在し得る。例示的な範囲としては、1.5%から9%、2%から8%、2%から7%、2.5%から7%および好ましくは3%から6%が挙げられる。パーセンテージ値は、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが固体である場合には(w/v)を指し、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体である場合には(v/v)を指す。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100から1000、150から800および150から700から選択される範囲内にある分子量を有してもよい。好ましくは、分子量は、200から600、より好ましくは200から500、例えば、200から400の範囲内にある。
【0059】
本明細書に記載されるように、安定化のために、その分子量が異なる少なくとも2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用することができる。これらは同じ種類であってもよく、好ましくは、両方がポリエチレングリコール、例えば、好ましくは置換されていないポリエチレングリコールである。一実施形態によれば、分子量の差は、少なくとも500、少なくとも750、または少なくとも1000である。一実施形態によれば、分子量の差は、少なくとも2500、少なくとも3500または少なくとも5000である。その分子量が異なる2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用するのが有利である。ポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定化効果は、その分子量に依存して変化するようである。高分子量ポリマーがより良好な安定化効率をもたらすことが判明した。安定化のためにその分子量の異なる少なくとも2種のポリ(オキシエチレン)ポリマーが使用されるこの実施形態は有利であり、これは、達成されるべき安定化効果に関する所望の特徴および例えば、特定の下流での使用、例えば細胞の枯渇した安定化された尿試料からの無細胞DNAの精製に関して必要とされる特徴を有するポリ(オキシエチレン)ポリマーの均衡な組成物を提供することが可能であるためである。
【0060】
一実施形態によれば、少なくとも1500、好ましくは5000から20000、例えば5000から15000の範囲の分子量を有する、上記で定義された高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1000またはそれより小さい、好ましくは200から600の範囲内の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用され、尿試料を両タイプのポリ(オキシエチレン)ポリマーと接触させる。好適な実施形態が本明細書に記載される。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用することは有利であり、これは、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが、尿試料の有効な安定化を達成するために必要とされる高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度を低下させることが可能であるためである。この実施形態は、使用することができる安定化組成物の体積または量に関して、より自由度を与えることができるため有利である。したがって、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの組合せを使用して尿試料中の細胞外核酸集団を安定化させることは、好ましい実施形態である。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、上で記載され、好ましくはポリエチレングリコール、例えば置換されていないポリエチレングリコールである高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと同じ種類のものであってもよい。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーに関する好適かつ好ましい濃度および濃度範囲が上に記載されており、両方のタイプのポリマーが組み合わせて使用される実施形態において使用されてもよい。
【0061】
一実施形態によれば、尿試料を高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーならびに必要に応じて、安定化のために使用されるさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、例えば、4000から20000の範囲内の分子量を有し得る高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.15%から1.5%、例えば0.2%から1%(w/v)、好ましくは0.25%から0.75%(w/v)、例えば0.5%(w/v)の範囲内にある最終濃度で、および好ましくは200から800、好ましくは200から600の範囲内にある分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、1.5%から8%、好ましくは2%から7%、より好ましくは2.5%から6%から選択される範囲内にある最終濃度で含む。ポリエチレングリコール、好ましくは置換されていないポリエチレングリコールが、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとして、および低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとして使用されるのが好ましい。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーに関する好適な実施形態はまた、上に、ならびに異なる態様および実施形態と併せて記載されている。
【0062】
一実施形態によれば、ポリ(オキシエチレン)ポリマー(単数または複数)は、安定化のために、尿試料と接触する安定化組成物中に含まれる。好ましくは、第三の態様による安定化組成物がこのために使用される。
細菌増殖の阻害
【0063】
本方法は、さらに、安定化された尿試料中で細菌増殖が阻害されることを達成する。尿試料中の細菌負荷は、高負荷からほぼ無菌まで変わり得る。細菌は尿中で急速に増殖する。したがって、それらの増殖を効率的に阻害することが有利であり、これは、このことによって、安定化効果および回収された核酸の質が向上するためである。細菌は内在化し、DNAを消化する。細菌は、DNase、またRNaseなどの核酸を分解する酵素の供給源である。したがって、安定化された尿試料中の細菌増殖を阻害することによって、このような機序による核酸分解の防止が支持される。このことにより、細菌のDNAが試料から同時精製され、シーケンシング適用またはPCRなどの下流でのアッセイを妨げるリスクがさらに低下する。
【0064】
EDTAなどのキレート剤は、より高濃度で、静菌作用を達成することができる。安定化された尿試料中において細胞増殖の阻害を達成するために、好ましくはEDTAであるキレート剤は、このように高濃度で使用することができる。好適な高濃度は上に記載した。あるいはまたは好ましくはさらに、安定化のために、尿試料を細菌増殖を阻害するための保存剤と接触させてもよい。このような保存剤がキレート剤(好ましくはEDTAである)に加えて使用される場合、保存剤は、したがって、使用されるキレート剤と異なる。
【0065】
一実施形態によれば、本方法は、このように、安定化のために、尿試料を、細菌増殖を阻害するための保存剤とさらに接触させるステップを含む。保存剤は、抗菌剤であってもよく、好ましくは抗菌作用および必要に応じて、抗真菌作用も有する。保存剤は、化学化合物を含むかまたはそれからなってもよい。保存剤はまた、細胞増殖を阻害する2種またはそれより多い化合物を含むかまたはそれらからなってもよい。保存剤は、細胞増殖が安定化された尿試料中で阻害されるような濃度で使用される。好適な濃度は、個々の保存剤に対して当業者によって決定され得る。安定化された尿中の保存剤の最終濃度は、例えば0.01から0.7%w/v、例えば0.03から0.5%w/vの範囲内にあってもよく、または0.01から0.7%v/v、例えば0.03から0.5%v/vの範囲内にあってもよい。
【0066】
一実施形態によれば、保存剤はアジ化ナトリウムを含むかまたはそれからなってもよい。実施例によって実証されているように、アジ化ナトリウムは特に好適である。アジ化ナトリウムは、安定化された尿試料中で、例えば0.01%から0.5%(w/v)の最終濃度で使用されてもよい。実施形態によれば、安定化された尿試料中のアジ化ナトリウムの最終濃度は、0.02%から0.4%(w/v)、例えば0.03%から0.35%(w/v)または0.04%から0.3%(w/v)の範囲内にある。
【0067】
さらに、保存剤は、少なくとも1種のイソチアゾリノン化合物、好ましくはメチルクロロイソチアゾリノンおよび/またはメチルイソチアゾリノンを含むかまたはそれからなってもよい。これらの化合物を3:1の比で混合してもよい。イソチアゾリノン化合物を含む細菌増殖を阻害するための市販の保存剤は、ProClin300である。実施例によって実証されているように、保存剤は、尿の安定化において使用するのに好適である。保存剤は、安定化された尿試料中で、例えば0.03%から0.1%(v/v)、例えば0.05%(v/v)の最終濃度で使用されてもよい。
【0068】
使用することができる保存剤のさらなる例としては、以下に限定されないが、クロロヘキシジンまたはホウ酸ナトリウムが挙げられる。細菌増殖を阻害するためのさらなる保存剤と有用な濃度は、本出願の開示に従って、当業者によって決定され得る。
【0069】
一実施形態によれば、細菌増殖を阻害するための保存剤は、安定化のために、尿試料と接触する安定化組成物中に含まれる。好ましくは、第三の態様による安定化組成物がこのために使用される。
pH
【0070】
尿安定化のために使用される薬剤は、好ましくは、安定化組成物、例えば第三の態様による安定化組成物中に含まれる。実施例において実証されているように、pHは安定化の結果に影響を及ぼす。安定化された尿試料のpHを調整するために、安定化組成物を使用することができる。それによって、安定化された尿試料のpHが特定のpH範囲内にあることが達成され得る。このために、安定化のために、尿試料と接触する安定化組成物は、好ましくは緩衝剤を含む。
【0071】
一実施形態によれば、尿試料と接触する安定化組成物は、4.5から9.5の範囲内にあるpHを有する。好ましくは、安定化組成物のpHは、7を超え9.5以下の範囲内にある。pHは、7.2から9.5、7.3から9.5または7.4から9.5の範囲内にあってもよい。安定化組成物のpHはまた、9.25以下、9以下または8.75以下、例えば8.5以下、8.3以下または8以下であってもよい。これらのpH値は、上限値として、以前に示したpH範囲と組み合わされてもよく、得られる範囲はまた、本開示の部分を形成する。一実施形態では、安定化組成物のpHは、7.5から9.5以下、例えば7.5から9または7.5から8.5の範囲内にある。一実施形態では、安定化組成物のpHは、7.2から8.5以下、例えば7.3から8.3以下または7.5から8以下の範囲内にある。安定化組成物のpHは、さらに、7.7から9.5または8から9.25の範囲内にあってもよい。実施例においても示されるさらなる実施形態によれば、安定化組成物のpHは、8から9の塩基性範囲内にある。
【0072】
一実施形態によれば、前記安定化組成物は、1:3から1:10、好ましくは1:5から1:10から選択される体積比で尿試料と接触する液体組成物である。多い体積の尿の安定化およびpH調整が本発明による安定化組成物の少ない体積で達成され得ることが特に有利である。好ましくは、安定化組成物対試料の比は、1:5から1:8、例えば約1:6の範囲内にある。例えば、1~2ml、例えば1.3mlから1.7mlの液体安定化組成物をおよそ10mlの尿と接触させてもよい。
【0073】
実施例によって実証されているように、好ましくは7を超えるより高いpH値を有する安定化組成物は、無細胞DNAを保存する際により有効であり、これは、無細胞DNAの分解が、酸性pHを有する安定化組成物と比較してより効率的に防止されるためである。このことは、尿試料中に含まれる無細胞DNAの分析を意図する場合に非常に有利である。実施例から理解することができるように、安定化組成物のより高いpH、例えば特に7を超える塩基性pHは、安定化された尿試料が数日間保管される場合であっても、無細胞DNAの分解を効率的に防止する。
【0074】
安定化組成物は、好ましくは、pH調整のための緩衝剤を含む。緩衝剤は、塩基性範囲にそのpKを有してもよい。好適かつ好ましい緩衝剤は、実施例によって実証されているように、Trisである。他の緩衝剤としては、以下に限定されないが、MOPS、TES、HEPES、TAPSO、Tricine、Bicine、TAPS、ホウ酸塩緩衝液、CHES緩衝液またはリン酸ナトリウムもしくはリン酸カリウムに基づく緩衝液が挙げられる。さらなる緩衝剤は炭酸塩を含む。尿のpHは、ドナーによって酸性から塩基性に、さらにドナーの状態に応じて変化し得る。よって、安定化される採集された尿試料のpHの変動の可能性にもかかわらず、効率的なpH調整および安定化を達成するために十分な濃度の緩衝剤を含むことが有利である。好適な濃度は当業者によって決定され得る。
【0075】
一実施形態によれば、安定化された尿試料の最終pHは、6から9.5、例えば6.3から9.5の範囲内にある。安定化された尿試料の最終pHは、9以下、例えば8.75以下または8.5以下であってもよい。6.5から9、例えば6.5から8.75または6.5から8.5などの範囲内にある安定化された尿試料のpHが特に好適である。実施形態では、安定化された尿試料のpHは、6.7から9または7から9、例えば7.2から9または7.2から8.75の範囲内にあってもよい。一実施形態によれば、安定化された尿試料の最終pHは、少なくとも7または7を超え、例えば7.5から8.5の範囲内にあってもよい。
カスパーゼ阻害剤
【0076】
一実施形態によれば、尿試料を、少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤とさらに接触させる。様々なカスパーゼ阻害剤の組合せを使用することも本発明の範囲内にある。カスパーゼ阻害剤の使用によって、達成される安定化効果が改善され得る。カスパーゼ阻害剤は、安定化のために尿試料と接触する安定化組成物中に含まれてもよい。好ましくは、第三の態様による安定化組成物がこのために使用される。
【0077】
好ましくは、カスパーゼ阻害剤は細胞浸透性である。カスパーゼ遺伝子ファミリーのメンバーは、アポトーシスにおいて重要な役割を果たす。個々のカスパーゼの基質選択性または特異性は、カスパーゼ結合と上手く競合するペプチドの開発のために利用されている。カスパーゼ特異的ペプチドを、例えばアルデヒド化合物、ニトリル化合物またはケトン化合物に連結させることによって、カスパーゼ活性化の可逆的または不可逆的阻害剤を生成することが可能である。例えば、Z-VAD-FMKなどのフルオロメチルケトン(FMK)誘導体化ペプチドは、追加の細胞毒性作用のない有効な不可逆的阻害剤として作用する。N末端およびOメチル側鎖にベンジルオキシカルボニル基(BOC)を有する、合成された阻害剤は、細胞浸透性の増強化を示した。C末端にフェノキシ基を有するさらに好適なカスパーゼ阻害剤が合成される。一例は、カスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMKよりアポトーシスの防止、よって、安定化の支持にさらにより効果的である、細胞浸透性の不可逆的広域カスパーゼ阻害剤であるQ-VD-OPhである。
【0078】
一実施形態によれば、カスパーゼ阻害剤は汎カスパーゼ阻害剤であり、よって、広域カスパーゼ阻害剤である。
【0079】
一実施形態によれば、カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ特異的ペプチドである。好ましくは、前記カスパーゼ特異的ペプチドは改変されている。これは、アルデヒド化合物、ニトリル化合物またはケトン化合物によって改変されていてもよい。一実施形態によれば、カスパーゼ特異的ペプチドは、好ましくはO-フェノキシ(OPh)基またはフルオロメチルケトン(FMK)基でカルボキシル末端が修飾されている。一実施形態によれば、カスパーゼ阻害剤は、Q-VD-OPhおよびZ-VAD(OMe)-FMKからなる群から選択される。好ましい実施形態では、カスパーゼに対する広域阻害剤であるQ-VD-OPhは、安定化のために使用される。Q-VD-OPhは、細胞浸透性であり、アポトーシスによる細胞死を阻害する。Q-VD-OPhは、極めて高濃度でも細胞に対して毒性ではなく、アミノ酸であるバリンおよびアスパラギン酸にコンジュゲートしたカルボキシ末端フェノキシ基を含む。これは、カスパーゼ-9とカスパーゼ-3、カスパーゼ-8とカスパーゼ-10、およびカスパーゼ-12という3つの主要アポトーシス経路によって媒介されるアポトーシスの防止に等しく有効である(Caserta et al, 2003)。カスパーゼ阻害剤の例は、WO2013/045457の表1にも列挙されている。
【0080】
安定化された尿試料、すなわち尿試料をカスパーゼ阻害剤およびさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、少なくとも0.5μMの最終濃度でカスパーゼ阻害剤(またはカスパーゼ阻害剤の組合せ)を含んでもよい。実施形態は、少なくとも1μM、例えば、少なくとも1.5μM、少なくとも2μMまたは少なくとも2.5μMの濃度を含む。尿試料とさらなる添加剤を混合した場合、カスパーゼ阻害剤に関する好適な最終濃度範囲は、以下に限定されないが、1μMから25μMを含む。実施形態は、1.5μMから20μMおよび2μMから15μMを含む。2μMから12.5μM、2.5μMから10μMおよび3μMから7.5μMの最終濃度範囲が好ましい。上述の濃度は、単一のカスパーゼ阻害剤の使用にもカスパーゼ阻害剤の組合せの使用にも当てはまる。前述の濃度は、汎カスパーゼ阻害剤、特にQ-VD-OPhおよび/またはZ-VAD(OMe)-FMKなどの改変カスパーゼ特異的ペプチドを使用する場合に特に好適である。個々のカスパーゼ阻害剤および/または他の尿試料に関する好適な濃度範囲は、例えば、実施例に記載の検査アッセイにおける各カスパーゼ阻害剤の様々な濃度を検査することによって、当業者によって決定され得る。
アミド
【0081】
一実施形態によれば、尿試料を、さらなる安定化剤として1種または複数の第一級、第二級または第三級アミドとさらに接触させる。2種またはそれより多い第一級、第二級または第三級アミドの組合せも使用することができる。アミドは、好ましくはカルボン酸アミドである。
【0082】
様々な第一級、第二級または第三級アミドに関する好適な濃度は、例えば、実施例に記載の検査アッセイにおいて様々な濃度を検査することによって、当業者によって決定され得る。一般的に、尿試料を、1種または複数の第一級、第二級または第三級アミドおよびさらなる添加剤と接触させた際に得られる混合物は、少なくとも0.05%の最終濃度で前記アミド(またはアミドの組合せ)を含んでもよい。例えば、最終濃度は、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%または少なくとも0.75%であってもよい。好適な濃度範囲としては、以下に限定されないが、0.1%から10%、0.25%から7.5%、0.3%から5%、0.4%から3%、0.5%から2%、0.6%から1.8%または0.75%から1.5%が挙げられる。パーセンテージ値で示される濃度または濃度範囲は、本明細書で使用される場合、特に、固体アミドに関しては体積当たりの重量パーセンテージ(w/v)として、および液体アミドに関しては体積当たりの体積パーセンテージ(v/v)として与えられる。
【0083】
一実施形態によれば、前記アミド(単数または複数)は、安定化のために尿試料と接触する安定化組成物中に含まれる。好ましくは、第三の態様による安定化組成物がこのために使用される。
【0084】
一実施形態によれば、第一級、第二級または第三級アミドは、式1に記載の化合物
【化1】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1~C5アルキル残基、C1~C4アルキル残基またはC1~C3アルキル残基、より好ましくはC1~C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であるかまたは異なっており、水素残基および炭化水素残基、好ましくは直鎖状または分枝状に配列した1~20個の原子の炭素鎖の長さを有するアルキル残基から選択され、R4は、酸素、硫黄またはセレニウム残基であり、好ましくはR4は酸素である)
である。
【0085】
式1に記載の1つまたは複数の化合物の組合せも尿安定化のためにさらに使用することができる。
【0086】
R1がアルキル残基である実施形態では、1または2の鎖長がR1に関して好ましい。
【0087】
式1に記載の化合物のR2および/またはR3は同一であるかまたは異なっており、水素残基および炭化水素残基(好ましくは、アルキル残基である)から選択される。一実施形態によれば、R2とR3はいずれも水素である。一実施形態によれば、R2とR3のうちの一方は水素であり、他方は炭化水素残基である。一実施形態によれば、R2およびR3は、同一または異なる炭化水素残基である。炭化水素残基R2および/またはR3は、短鎖アルキルおよび長鎖アルキルを含むアルキル、アルケニル、アルコキシ、長鎖アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ハロアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アルキレン、アルケンジイル、アリーレン、カルボキシレートおよびカルボニルを含む群から互いに独立して選択されてもよい。R2および/またはR3の鎖長nは、特に値1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および20を有してもよい。一実施形態によれば、R2およびR3は、1~10、好ましくは1から5、より好ましくは1から2個の炭素鎖の長さを有する。一実施形態によれば、R2および/またはR3は、アルキル残基、好ましくはC1~C5アルキル残基である。
【0088】
好ましくは、式1に記載の化合物は、R4が酸素であるようなカルボン酸アミドである。これは、第一級、第二級または第三級カルボン酸アミドであってもよい。
【0089】
一実施形態によれば、式1に記載の化合物は、N,N-ジアルキル-カルボン酸アミドである。好ましいR1、R2、R3およびR4基は上に記載されている。式1に記載の各化合物を使用することによって、尿試料中の細胞内核酸の安定化が支持され得る。細胞内核酸のさらなる安定化は、安定化された細胞に含まれる細胞内核酸のその後の分析が可能になるため、有利である。一実施形態によれば、式1に記載の化合物は、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジエチルホルムアミドからなる群から選択される。R4として、酸素の代わりに硫黄を含む各チオ類似体も好適である。N,N-ジメチルアセトアミド(dimethlylacetamide)(DMAA)は、例えば、良好な安定化の結果を達成するが、しかし、毒性剤である。好ましくは、式1に記載の少なくとも1つの化合物は、GHS分類に従う毒性剤ではない、尿試料を安定化させるためのポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用される。
【0090】
一実施形態によれば、尿試料を、安定化のために、N,N-ジアルキルプロパンアミド、例えば、N,N-ジメチルプロパンアミドである式1に記載の化合物とさらに接触させる。実施例において実証されているように、各組合せは、尿中の無細胞DNAを安定化させるのに好適である。
【0091】
一実施形態によれば、尿試料を、第一級または第二級カルボン酸アミドである、式1に記載の少なくとも1つの化合物とさらに接触させる。WO2014/146781から分かるように、第一級および第二級カルボン酸アミドは、広い濃度範囲にわたって、細胞外核酸集団を安定化させることが可能である。一実施形態によれば、第一級カルボン酸アミドは、ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミドおよびブタンアミドからなる群から選択される。一実施形態によれば、第一級カルボン酸はブタンアミドである。細胞外核酸集団に関するブタンアミドの安定化効果は、WO2014/146780およびWO2014/146782にも詳細に記載されている。
【0092】
一実施形態によれば、尿試料を、安定化のために、EDTA、ポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくは、ポリエチレングリコールである)、細菌増殖を阻害するための保存剤ならびにブタンアミドおよび/またはN,N-ジアルキルプロパンアミドと接触させ、前記N,N-ジアルキルプロパンアミドは、好ましくはN,N-ジメチルプロパンアミドである。第一級、第二級および第三級アミド全般に関する、上記の好適かつ好ましい濃度および濃度範囲全般はまた、この実施形態に具体的に当てはまる。実施例によって示されているように、これらの範囲内にある濃度のブタンアミドおよび/またはN,N-ジアルキルプロパンアミドを含む安定化組成物を使用することにより、尿試料に関する有利な安定化効果がもたらされる。
細胞外(無細胞)DNA
【0093】
実施例において実証されるように、本発明による安定化方法によって、診断目的で特に有益である細胞外(無細胞)DNAが効率的に安定化される。したがって、尿試料中に含まれる無細胞DNAの分解を効率的に阻害することが重要である。
【0094】
本発明による安定化技術はこの点で特に有利であり、これは、本発明による安定化技術によって、尿試料中に含まれる細胞外DNAが実質的に保存される、例えば、含まれる細胞外DNAの分解が阻害される(好ましくは、安定化直後の時点0と比較して、安定化期間に対して少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%まで)からである。
【0095】
尿試料を採集した後のさらなる問題は、細胞内核酸、特に尿試料に含有される損傷細胞または瀕死の細胞から生じる断片化ゲノムDNAによる採集した尿試料に含まれる無細胞DNAの夾雑および希釈にある場合がある。一実施形態によれば、安定化方法によって、安定化されていな試料と比較して、安定化期間中尿試料に含有される細胞からのゲノムDNAの放出によって生じるDNAの増加が低減する。DNAの放出は、例えば、実施例の項において本明細書に記載されているように、リボゾーム18S DNAを定量することによって決定され得る。実施例において示されているように、本発明の教示により達成可能な安定化は、安定化期間にわたってDNAのこの放出を低減し得る。しかし、上に示したように、尿試料に関しては、優先度が、分解、したがって、保管中に採集時点に存在した無細胞DNAの損失を防止することにあるため、保管中の無細胞DNAの分解はより重要な問題である。実施例によって示されているように、無細胞DNAの有効な安定化は、少なくとも3日間、さらに最大6日間およびそれより長い期間、本発明の方法により達成可能である。しかし、試料は、所望の場合、さらにより早く処理されてもよい。完全に達成可能な安定化期間を利用する必要はない。
【0096】
さらに、実施例によって、細胞が安定化し、細胞学的分析に対して好適であることが実証される。さらに、ゲノムDNAは、含まれる細胞から単離され得る。
【0097】
さらに、安定化による試料の架橋が生じないため、様々な標準的方法を使用して、それぞれ安定化された試料から核酸が効率的に単離され得る。このことによって、安定化された尿試料から得られた核酸の分析に依拠する分子分析の標準化が大いに簡素化され、改良される。
さらなる添加剤
【0098】
さらなる添加剤を使用して、尿試料の安定化をさらに支持し、細胞外核酸集団の保存をそれぞれ支持することもできる。各添加剤の例としては、以下に限定されないが、ヌクレアーゼ阻害剤、特にRNaseおよびDNase阻害化合物が挙げられる。実施例において示されているように、さらに、ジエチレングリコールメチルエーテルアセテート(DEGMEA)を挙げることができる。
【0099】
安定化を支持するためにそれぞれさらなる添加剤を選択する場合、コア安定化剤の安定化効果を損なわないおよび/または妨げないよう注意が払われるべきである。よって、例えば、カオトロピック剤などの添加剤は、安定化された尿試料に含有される有核細胞の溶解および/もしくは分解をもたらすかもしくは支持する、ならびに/または尿試料中の無細胞画分に含有される無細胞DNAの分解を支持する濃度で使用されるべきである。したがって、好ましくは、本明細書に記載の安定化方法は、(i)有核細胞の溶解を誘導もしくは促進する、(ii)細胞全般の溶解を誘導もしくは促進するおよび/または(iii)尿試料の無細胞画分、例えば、特に無細胞DNAに含有される核酸の分解をもたらす、さらなる添加剤の使用に関与しない。本明細書に記載の安定化方法は、細胞溶解に基づかないが、細胞を保存することも可能であるため、細胞は、安定化期間後に尿試料から分離することができ、それによって、細胞外DNAおよび細胞試料を含む無細胞または細胞枯渇尿画分を得ることが可能になる。細胞外DNA集団は、好ましくは、尿採集および安定化の時点で存在する細胞外DNA集団に実質的に相当するか、または少なくとも非常に類似している。さらに、ゲノムDNAなどの細胞内核酸は、分離された細胞から単離することができ、分析に利用可能である。それ故に、それぞれ安定化された試料は、所望の場合、同じ安定化された試料からの、無細胞DNAおよびゲノムDNAなどの細胞外および細胞内核酸の別々の分析を可能にする。さらに、細胞それ自体は、実施例において実証されたように、細胞学的方法によって分析することができる。
さらなる実施形態
【0100】
第一の態様による方法のさらに有利な実施形態を後に記載する。
【0101】
一実施形態によれば、尿試料を安定化させるための方法であって、尿試料を、安定化のために、
- キレート剤としてのEDTA、
- 少なくとも1種のポリエチレングリコール、好ましくは、少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールおよび/または1000もしくはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコール、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤、
- 緩衝剤、
- 少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤、ならびに
- 必要に応じて、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミド
と接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0102】
尿試料を安定化させるための方法であって、尿試料を、安定化のために、
- キレート剤としてのEDTAであって、安定化された尿試料中で、EDTAの最終濃度が、7mg/mlから40mg/ml、好ましくは10mg/mlから30mg/ml、例えば15mg/mlから30mg/mlの範囲内にある、EDTA、
- 少なくとも1種のポリエチレングリコール、好ましくは、少なくとも6000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールおよび/または1000もしくはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコール、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤、
- 緩衝剤、
- 少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤、ならびに
- 必要に応じて、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミド
と接触させるステップを含む、方法も提供される。
【0103】
尿試料を安定化させるための方法であって、尿試料を、安定化のために、
- 少なくとも100mMから溶解限度までの濃度、好ましくは、150mMから500mMの範囲内にある濃度のEDTAであって、安定化された尿試料中で、EDTAの最終濃度が、7mg/mlから40mg/ml、好ましくは10mg/mlから30mg/ml、例えば15mg/mlから30mg/mlの範囲内にある、EDTA、
- 少なくとも1種のポリエチレングリコール、好ましくは、少なくとも6000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールおよび必要に応じて、1000またはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコール、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤、
- 緩衝剤、ならびに
- 必要に応じて、少なくとも一種のカスパーゼ阻害剤
を含む液体安定化組成物と接触させるステップを含み、
安定化組成物のpHが、7より大きく9.5まで、例えば7.2から9、7.2から8.75または7.3から8.5の範囲内にあり、
安定化組成物を、安定化のために、1:3から1:10、好ましくは1:5から1:8から選択される体積比で尿試料と接触させる、方法も提供する。安定化された尿試料中の最終pHは、6から9.5、例えば6.3から9.5または6.5から9の範囲内にあってもよい。実施例によって示されているように、これに準ずる安定化組成物を使用することにより、とりわけ、6.5から8.75、例えば6.5から8.5の範囲内にある安定化された尿試料の最終pHをもたらすことが可能になる。良好な安定化効果が達成された。安定化された尿試料の最終pHは、実施例によって示されているように、7を超える場合もある。ポリエチレングリコール、保存剤および緩衝剤に関する好適な実施形態および濃度は、上に開示された。安定化組成物は、本明細書に開示されているように、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミドを含んでもよい。
【0104】
キレート剤、ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じて、細菌増殖を阻害するための保存剤(コア安定化剤)ならびに必要に応じて使用され得るさらなる安定化剤および/または添加剤、例えば特に緩衝剤およびカスパーゼ阻害剤は、尿試料を受容するためのデバイス中、好ましくは容器中に存在し得る。コア安定化剤および必要に応じて、安定化のためにさらに使用される1つまたは複数の化合物は、安定化組成物、例えば各デバイス中に存在する第三の態様による安定化組成物中に存在するか、または別々の実体として存在し得る。さらに、これらは、尿試料を受容する前に各受容デバイスに添加されてもよく、または尿試料をその中に受容した後に受容デバイスに添加されてもよい。安定化剤および必要に応じて、安定化のために尿試料に対して別々に使用されるさらなる添加剤を添加することも本発明の範囲内にある。しかし、取り扱いやすさに関しては、コア安定化剤ならびに使用される任意のさらなる安定化剤および/または添加剤は、例えば単一組成物の形態で、各受容デバイス中に提供されるのが好ましい。しかし、これらは、受容デバイス中に別々の構成成分または組成物として存在してもよい。有利な実施形態では、コア安定化剤、少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤および必要に応じて、さらなる添加剤は、尿試料に添加する前に、受容デバイス中に存在する。このことにより、尿試料が、本発明の教示に従って使用される安定化剤と接触した際に、急速に安定化されることが確実になる。安定化剤は、採集される尿試料の量を安定化させるのに有効な量で容器中に存在し、それぞれ前記受容デバイス中に含有される。各受容デバイスに関して好適かつ好ましい実施形態は、第五の実施形態と併せて後にも記載されており、前記開示が参照される。本明細書に記載されているように、尿は、最初に標準的な尿採集デバイス中に採集され、次いで、尿の安定化のために、本発明の受容デバイス中に移されてもよい。
【0105】
好ましくは、尿試料を、尿試料の採集直後に、コア安定化剤および必要に応じて、さらなる添加剤と接触させる。実施形態では、接触は、例えば尿カップなどの採集容器中に安定化剤を提供することによって、ドナーからの尿採集中に起こる。上記のように、好ましくは、安定化のために使用される薬剤は、第三の態様による安定化組成物などの安定化組成物の形態で提供される。好ましくは、前記安定化組成物は液体形態で提供される。これは、例えば、試料受容デバイス中にプレフィルドされてもよく、その結果、尿試料は、デバイスに入ると急速に安定化される。
【0106】
本発明による安定化方法を使用することは、尿試料の組成およびその中に含有される細胞数に実質的に関わりなく、細胞外DNAならびに剥離細胞および前記試料に含有されるゲノムDNAなどの細胞内核酸を、実質的に保存し、それぞれ安定化させることができ、それによって、含有される無細胞DNA、および他の安定化された構成成分のその後の単離および/または分析の標準化が可能になるという利点を有する。実施形態では、安定化方法によって、尿試料に含有される細胞の安定化が達成され、その結果、ゲノムDNAなどの細胞内核酸の単離および/または細胞組織学的分析に細胞を利用することができる。
【0107】
一実施形態によれば、細胞外RNAは、細胞外DNAに加えて安定化される。
【0108】
用語「細胞外核酸(単数または複数)」は、本明細書で使用される場合、特に、細胞内に含有されていない核酸を指す。それぞれの細胞外核酸は、無細胞核酸と称されることも多い。これらの用語は、本明細書において同義語として使用される。それ故に、細胞外核酸は、通常、試料内の1つの細胞の外側または複数の細胞の外側に存在する。用語「細胞外核酸」は、例えば、細胞外DNAおよび細胞外RNAを指す。尿中の無細胞DNAは、特に興味の対象である。尿の無細胞画分(それぞれ、尿の一部)に見られる典型的な細胞外核酸の例としては、以下に限定されないが、例えば、細胞外腫瘍関連または腫瘍由来のDNAおよび/またはRNAなどの哺乳動物細胞外核酸、他の細胞外疾患に関連するDNAおよび/またはRNA、後成的に改変されたDNA、胎児DNAおよび非哺乳動物細胞外核酸、例えば、ウイルス核酸、例えば、原核生物(例えば、細菌)、ウイルス、真核寄生生物または真菌から細胞外核酸集団中に放出された病原体核酸が挙げられる。細胞外核酸集団は、通常、尿試料の採集前または採集中に、損傷細胞または瀕死の細胞から放出された特定量の細胞内核酸を含む。
【0109】
一実施形態によれば、用語細胞外核酸または細胞外DNAは、特に、それぞれ哺乳動物細胞外核酸、哺乳動物細胞外DNAを指す。例としては、以下に限定されないが、例えば、腫瘍関連もしくは腫瘍由来の細胞外核酸などの疾患関連または疾患由来の細胞外核酸、炎症もしくは傷害、特に外傷によって放出された細胞外核酸、他の疾患に関連するおよび/もしくは他の疾患に起因して放出される細胞外核酸、または胎児由来の細胞外核酸が挙げられる。
【0110】
用語「細胞外核酸集団」または「細胞外DNA集団」は、本明細書で使用される場合、特に、尿試料中に含まれるDNAなどの様々な細胞外核酸の集合を指す。細胞外DNA集団が特に興味の対象である。尿試料は、通常、特徴的であり、よって、固有の細胞外核酸集団を含む。よって、尿試料の細胞外核酸集団に含まれる1つまたは複数の細胞外核酸のタイプ、種類、比および/または量は、重要な試料の特徴であり得る。上で議論されたように、したがって、尿試料が採集される状態で、前記細胞外DNA集団を安定化させ、よって、それを実質的に保存することが有利であり、これは、試料の細胞外核酸集団に含まれる1つまたは複数の細胞外核酸の、含まれるタイプ、組成および/または量によって、有益な医学的情報、予後予測情報または診断情報がもたらされ得るためである。したがって、細胞外核酸集団の、例えば無細胞DNAのプロファイルが、意図された安定化期間にわたって効率的に安定化される場合に有利である。本明細書に記載の安定化技術によって、含まれる無細胞DNAの分解が低減される。よって、細胞外DNA集団の実質的な保存が達成される。実施形態では、安定化によって、夾雑、およびそれ故に、尿試料採集および安定化後の、細胞内核酸による、特にゲノムDNAによる細胞外核酸の希釈がさらに低減される。実施形態では、試料に含有される細胞からの尿試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出は、安定化によって低減される。
【0111】
本明細書に記載の安定化方法は、特に、細胞外DNAが採集された尿試料において急速に分解されるリスクを低減する。尿試料中の無細胞DNAの分解は、安定化によって低減される。したがって、採集された尿試料を、既に安定化組成物を含み、それによって、採集の直後に尿試料を安定化させる受容デバイス中に直接移すことが特に有利である。このことにより、ex vivoでの取り扱いのために、細胞外DNA集団の変更が低減される。尿が、安定化される前に、最初に採集され、取り扱われる場合、細胞外DNAが中間期間に急速に分解されるリスクが増加する。
【0112】
上記され、実施例によって実証されているように、本発明の方法を使用することによって、長期間冷蔵または冷凍することなく尿試料を安定化させることが可能になる。よって、試料を室温または上昇した温度、例えば最大30℃またはさらには最大40℃に保つことができる。一実施形態によれば、安定化効果は、少なくとも3日間、好ましくは少なくとも4日間、より好ましくは少なくとも6日間または最大9日間達成される。
【0113】
一般的に、安定化効果は経時的に低下し、これは、供給源、例えば、尿試料がどのドナーに由来するかによっても変化し得るが、一般的に、尿試料を保存するのに依然として十分である。よって、本発明の方法に従って安定化された尿試料は、室温での保管が延長された後であっても、その中に含有される細胞外DNAの単離および分析に対して依然として好適であった。よって、さらにより長時間の保管/輸送を考えることも可能である。しかし、通常は、通常の保管および例えば、核酸の単離および必要に応じてさらなる分析が実施される実験室への輸送時間は、通常3、6または7日を超えないため、より長い期間は必要ではない。実施例において示されているように、実質的な安定化効果は、この期間にわたって達成される。本発明による方法により達成可能である長時間の安定化および安定化効率は、重要な安全性因子をもたらす。
【0114】
本発明による方法、また後に記載される安定化組成物によって、添加された安定化剤が少ない体積/量であっても多い体積の尿試料の安定化が可能となり、これは、コア安定化剤と安定化剤の記載された組合せが、特に組合せにおいて高度に活性であるためである。尿試料の体積によって、試料に含有される無細胞DNAなどの細胞外核酸を単離するために自動化プロセスの使用を意図する場合、その後の核酸単離手順にかなりの制限が課されるため、このことは重要な利点である。さらに、細胞外核酸は、通常、尿試料中に少量しか含まれないことも考慮されなければならない。よって、多い体積の尿試料を処理することは、より多くの細胞外核酸を試料から単離することができ、よって、その後の分析に利用可能であるという利点を有する。
【0115】
一実施形態によれば、第一の態様の方法を使用して安定化された尿体積は、1mlから150ml、2mlから100ml、2.5mlから75mlまたは3mlから50mlから選択される。多くの分析目的では、より少ない体積の尿の安定化で十分であり、管などの減圧受容デバイスの使用は、安定化を有利に実施するための安定化剤を含む。例えば、元々の尿採集容器(例えば、最大200mlのより多い体積を受容することができる)から、安定化剤、好ましくは第三の態様による安定化組成物を含む減圧管などの受容デバイス中に尿を移すことができる。一実施形態によれば、安定化剤を含む受容デバイスは、例えば、2mlから50ml、3mlから30ml、4mlから25ml、または5mlから20ml、例えば最大10mlの尿を受容することができる。
【0116】
本方法は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を有してもよい:
i)安定化は、添加剤が有核細胞の溶解を誘導もしくは促進する濃度での前記添加剤の使用に関与しない;
ii)安定化は、タンパク質-核酸および/もしくはタンパク質-タンパク質架橋を誘導する架橋剤、例えばホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒドもしくはホルムアルデヒド放出剤の使用に関与しない;ならびに/または
iii)安定化された試料は、安定化された試料を処理する前に、少なくとも1日間または少なくとも2日間保持される。
【0117】
本明細書に開示される安定化方法は、架橋試薬、例えばホルムアルデヒド、ホルマリン、ホルムアルデヒド放出剤など(例えば、Streckを参照されたい)の使用に基づく、尿試料中の細胞外核酸集団を安定化させるために使用される最新の安定化方法に対してかなりの利点をもたらす。架橋試薬は、核酸分子間または核酸とタンパク質の間に分子間または分子内共有結合をもたらす。架橋効果は、このような安定化された試料からのその後の核酸の単離を著しく損なう可能性があり、通常は、このような試料からの単離を可能にする、特異的に適合させた核酸単離手順を必要とする。例えば、尿試料中の無細胞DNAまたは標的配列の濃度は、既に比較的低い可能性があるため、このような核酸の収率をさらに低下させるいずれの手段も回避されるべきである。このことは、例えば、悪性腫瘍または発達中の胎児に由来する非常に稀な核酸分子を検出および分析する場合に特に重要である可能性がある。実施例によって示されているように、本発明の尿安定化方法は、安定化のために架橋剤を必要としない。したがって、一実施形態によれば、本発明による安定化方法は、タンパク質-核酸および/またはタンパク質-タンパク質架橋を誘導する架橋剤の使用に関与しない。特に、安定化は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤の使用に関与しない。
【0118】
好ましい実施形態によれば、最初に異なるデバイス中に採集された尿試料を、次に、安定化のために、第三の態様による安定化組成物などの安定化剤を含む安定化組成物と排他的に接触させる。それによって、安定化条件が安定化組成物によって確立される。
【0119】
安定化期間後に、本方法は、以下のうちの1つまたは複数を含んでもよい:細胞外核酸、好ましくは無細胞DNAは、安定化された尿試料から単離され、必要に応じて、さらに分析および/または検出される。安定化された尿試料に含まれる細胞は除去されてもよい。一実施形態によれば、安定化された尿試料に含まれる細胞は除去され、無細胞DNAは、安定化された試料の無細胞または細胞枯渇部分から単離される。一実施形態によれば、除去された細胞は廃棄される。しかし、本発明の方法は、安定化された尿試料から細胞を除去するステップ、および核酸、好ましくはゲノムDNAを、安定化された尿試料から除去された細胞から単離するステップを含んでもよい。さらに、本方法は、安定化された尿試料から細胞を除去するステップ、および細胞学的方法を使用して除去された細胞を分析するステップを含んでもよい。
【0120】
一実施形態によれば、(i)安定化された尿試料、(ii)細胞が除去された安定化された尿試料および/または(iii)安定化された尿試料から除去された細胞が保管される。
【0121】
故に、安定化された尿試料を核酸分析方法および/もしくは検出方法において分析することができ、ならびに/またはさらに処理することができ、本発明の方法は、多数の分析上の選択肢によって、安定化された無細胞DNA、細胞および/または細胞内核酸を分析することを可能にする。核酸の単離および分析に関する詳細は、本発明の第二の態様と併せて以下にも記載され、前記開示が参照される。
B.尿試料を処理するための方法
【0122】
第二の態様によれば、尿試料を処理するための方法であって、
a)第一の態様において定義された方法に従って、尿試料を安定化させるステップ、および
b)安定化された尿試料から細胞を分離し、それによって(i)細胞試料および(ii)細胞枯渇上清を提供するステップ
を含む、方法が提供される。
【0123】
この方法の詳細は、請求項16および17においても定義されている。個々のステップについては、以下にさらに詳細に記載される。
ステップa)
【0124】
ステップa)では、上に詳細に記載されている本発明の第一の態様に記載された方法に従って、特に請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を使用して、尿試料が安定化される。上で議論されたように、本発明による安定化は、無細胞DNAが安定化期間にわたり分解から実質的に保存されるという効果を有する。さらに、細胞およびゲノムDNAなどの細胞内核酸は、実施例において実証されているように保存される。
【0125】
本発明による安定化は、架橋剤の使用を必要とせず、好ましくはその使用に関与しない。このことは、ホルムアルデヒド、ホルマリンまたはホルムアルデヒド放出剤などの架橋剤の使用に関与する先行技術の方法に対して重要な利点であり、それは、これらの試薬が、標準的な核酸単離技法を使用する場合に、架橋によって細胞外核酸の回収可能な量を低減することが多いためである。さらに、上記のように、本明細書に記載の安定化は、ステップb)において尿試料に含有される細胞を分離する前の長期間にわたって、試料を保管および/または取り扱い、例えば、運搬(室温であっても)を可能にする。
【0126】
ステップa)において実施される安定化の詳細に関して、ここでも当てはまる上記開示が参照される。好ましくは、尿試料を、安定化のために、第三の態様による安定化組成物と接触させる。
ステップb)
【0127】
ステップb)では、細胞は、安定化された尿試料から分離され、それによって、(i)細胞試料および(ii)細胞枯渇上清が得られる。
【0128】
細胞は分離され、よって、例えば、遠心分離、好ましくは高速遠心分離によって、または例えば、濾過、沈降もしくは表面への結合、例えば、遠心分離ステップが回避されるべきである場合は粒子上(必要に応じて、磁気粒子上)への結合などの遠心分離以外の手段を使用することによって除去されてもよい。各細胞分離方法は先行技術において周知であり、よって、詳細に記載される必要はない。各細胞除去ステップはまた、自動試料調製プロトコール中に容易に含まれ得る。好ましくは、本質的にすべての細胞が除去され、本質的に無細胞または無細胞な上清が提供される。
【0129】
除去された細胞は、所望の場合、以下に記載されるように処理されてもよい。細胞は、例えば、保管、分析されてもよく(例えば、細胞学的方法を使用して)、および/または例えば、核酸もしくはタンパク質などの生体分子が除去された細胞から単離されてもよい。
【0130】
一実施形態によれば、ステップb)は、尿試料を安定化させた後の数分または数時間以内に実施される。一実施形態によれば、ステップb)は、尿試料が採集され、それぞれ、本発明の教示に従って安定化された後、少なくとも1日から3日間までまたは2日から9日間まで実施される。
さらなるステップ
【0131】
さらに、安定化された尿試料、得られた細胞試料および/または細胞枯渇上清を後処理するためのさらなるステップを含むことも本発明の範囲内にある。
【0132】
一実施形態によれば、本方法は、細胞枯渇上清から、細胞外核酸、例えば、好ましくは細胞外DNAを精製するステップをさらに含む。
【0133】
一実施形態によれば、本方法は、得られた細胞試料から、細胞内核酸、好ましくはゲノムDNAを精製するステップをさらに含む。実施例において実証されているように、本方法によって、安定化された尿試料に含まれる細胞外核酸および細胞内核酸、例えば、細胞外DNAおよびゲノムDNAの処理および分析が可能になる。実施例によって示されているように、細胞外DNA画分は、ゲノムDNAとは別に、分析することができる。
【0134】
一実施形態によれば、核酸の単離は、尿試料が、本発明による方法に従って採集および安定化された後、1日から3日までまたは2日から9日まで以内に実施される。
【0135】
核酸を単離するために、任意の好適な核酸単離方法を使用することができ、好適な方法は周知であり、市販されている。各精製方法に関する例としては、以下に限定されないが、抽出、固相抽出、シリカベースの精製方法、磁気粒子ベースの精製、フェノール-クロロホルム抽出、クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー(陰イオン交換表面を使用する)、電気泳動、濾過、沈殿およびこれらの組合せが挙げられる。例えば、配列特異的結合を可能にする固体支持体に連結された適当なプローブを使用することによって、特異的な標的細胞外核酸を特異的に単離することも本発明の範囲内にある。当業者に公知の他の核酸単離技法のいずれも使用することができる。
【0136】
一実施形態によれば、核酸は、カオトロピック剤および/またはアルコールを使用して、細胞枯渇上清から単離される。好ましくは、核酸は、それらを固相、好ましくはシリカを含む固相に結合させ、陰イオン交換官能基を有することによって単離される。各方法は先行技術において周知であり、よって、詳細な説明を何ら必要としない。細胞外核酸を単離するのに好適な方法およびキットも市販されており、例えば、QIAamp(登録商標) Circulating Nucleic Acid Kit(QIAGEN)、Chemagic Circulating NA Kit(Chemagen)、NucleoSpin Plasma XS Kit(Macherey-Nagel)、Plasma/Serum Circulating DNA Purification Kit(Norgen Biotek)、Plasma/Serum Circulating RNA Purification Kit(Norgen Biotek)、High Pure Viral Nucleic Acid Large Volume Kit(Roche)および細胞外核酸を抽出および精製するのに好適な他の市販のキットなどである。
【0137】
一実施形態によれば、核酸は、それらを陰イオン交換基を含む固相に結合させることによって単離される。好適な陰イオン交換基は、例えばアミン基によってもたらされる。結合は、好ましくは7より低いpHで起こる。このような陰イオン交換ベースの核酸単離方法は当業者に公知である。一実施形態によれば、核酸は細胞外核酸である。好適な陰イオン交換ベースの方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2013/045432に記載される。
【0138】
一実施形態によれば、全核酸は細胞枯渇上清から単離される。少なくとも優勢に特異的標的核酸を単離することも本発明の範囲内にある。標的核酸は、例えば、特定のタイプの細胞外核酸、例えば、DNAまたはRNA(miRNA、snRNA、lincRNAを含む)、好ましくはDNAであってもよい。例えば、標的細胞外核酸はDNAであってもよく、非標的細胞外核酸はRNAであってもよい。DNAまたはRNAを単離することを特異的に目的とする標的特異的核酸単離方法はまた先行技術において周知であり、よって、本明細書において詳細な説明を何ら必要としない。一実施形態によれば、非標的核酸は、非標的核酸を特異的に破壊する適当な酵素、例えば、標的核酸がDNAである場合はRNaseまたは標的核酸がRNAである場合はDNaseを添加することによって破壊される。前記酵素は、溶解液または結合混合物に添加することができ、または細胞外核酸を固相に結合させた後に添加することができる。各非標的核酸消化ステップを実施するための好適な実施形態は先行技術において公知であり、本明細書においてさらなる説明を何ら必要としない。DNAおよびRNAが固体支持体に結合した場合に実施可能な一実施形態によれば、標的核酸に対して選択的な溶出条件が優先的に適用されてもよく、よって、固体支持体から標的核酸を選択的に回収する。一実施形態によれば、標的核酸、例えばDNAが、非標的核酸、例えばRNAが結合しない条件下で、固相に選択的に結合する単離方法が使用される。好適な結合条件は先行技術において周知であり、例えばWO95/21849に記載されている。非標的核酸を標的核酸から選択的に除去するための方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるEP0880537およびWO95/21849に記載されている。所望の場合、前記非標的核酸もさらに使用することができ、例えば、固相から溶出されるなど、例えば、さらに処理することができる。しかし、これは廃棄されてもよい。例えば、非標的核酸または標的核酸の単離後にヌクレアーゼを使用してその残りを消化することも本発明の範囲内にある。用語標的核酸は、特定の種類の核酸、例えば特定の疾患マーカーであることが公知の特定の細胞外核酸を指してもよい。上で議論されたように、細胞外核酸の単離は、例えば標的核酸の選択的単離を支持する適当な捕捉プローブを使用することによる、それぞれの標的核酸の特異的単離を含んでもよい。
【0139】
用語標的核酸は、特定の長さを有する核酸を指してもよい。サイズ選択的核酸、特にDNAの単離方法は、当技術分野において公知である。標的サイズのDNAを単離するための古典的方法は、所望のゲルバンドを切り出し、次いでゲル断片から標的サイズのDNAを単離する、ゲル中のDNAの分離に関与する。別の広く使用される技術は、ポリエチレングリコールベースの緩衝液を用いるサイズ選択的沈殿(Lis and Schleif Nucleic Acids Res. 1975 Mar;2(3):383-9)またはカルボキシル官能化ビーズにおける結合/沈殿(DeAngelis et al, Nuc. Acid. Res. 1995, Vol 23(22), 4742-3;US5,898,071およびUS5,705,628、Beckman-Coulter(AmPure XP;SPRIselect)によって市販されるおよびUS6,534,262)である。さらに、陰イオン交換基および変化するpH値を含む固体支持体の使用に基づくサイズ選択的単離方法が公知である。サイズ選択的単離は、単離された細胞外核酸中の細胞内核酸の量を低減するためにさらなる機会を提供する。例えば、目的の標的細胞外核酸がDNAである場合、核酸単離中のゲノムDNAの除去はまた、核酸抽出を開始する前に、別の高G力遠心分離を補うか、またはそれに置き換えてでも、残留細胞を除去することができるであろう。前記残留細胞から放出されるゲノムDNAは、特に、カスパーゼ阻害剤がさらに使用される場合、本発明による安定化に起因して大量に分解されるのを防止され、したがって、前記断片化されていないかまたはあまり断片化されていないゲノムDNAは、サイズ選択的核酸単離プロトコールを使用することによって枯渇し得る。この選択肢は特に有利であり、これは、多くの臨床実験室が、このような高G力遠心分離を実施することが可能な遠心分離器または特に微量の残留細胞を除去するための他の手段を有していないためである。さらに、これに準ずるサイズ選択的核酸単離プロトコールによって、安定化中に、そのより大きなサイズに基づいて放出されたであろうゲノムDNAなどの細胞内DNAを、核酸単離ステップ中に枯渇させることも可能である。これにより、ゲノムDNAの夾雑がより少ない安定化された(より短い)細胞外DNAを後に精製することが可能になる。
【0140】
一実施形態によれば、(i)細胞試料および/または(ii)無細胞上清から単離された核酸を、次いで、例えば好適なアッセイおよび/または分析方法を使用して分析および/またはさらに処理することができる。例えば、これらを同定し、改変し、少なくとも1種の酵素と接触させ、増幅し、逆転写し、クローニングし、シーケンスし、プローブと接触させ、検出し(それらの有無)および/または定量することができる。各方法は先行技術において周知であり、通常、無細胞DNAなどの細胞外核酸を分析するために、医学分野、診断分野および/または予後予測分野に適用される。よって、目的の細胞外核酸を、必要に応じて、全核酸、例えば全DNAおよび/または全RNAの部分として無細胞上清から単離し、これを、例えば、以下に限定されないが、多数の新生物疾患、特に様々な形態の腫瘍またはがんなどの前悪性および悪性腫瘍を含む疾患状態の存在、非存在または重症度を特定するために分析することができる。例えば、単離された細胞外核酸を分析して、以下に限定されないが、それぞれスクリーニングする非侵襲性出生前遺伝子検査、疾患スクリーニング、病原体スクリーニング、腫瘍学、がんスクリーニング、早期がんスクリーニング、がん治療モニタリング、遺伝子検査(遺伝子型判定)、感染症検査、傷害診断、外傷診断、移植医療または多くの他の疾患を含む多くの適用分野において診断および/または予後予測マーカー(例えば、胎児由来または腫瘍由来細胞外核酸)を検出することができ、したがって、単離された細胞外核酸は、診断および/または予後予測に妥当なものである。一実施形態によれば、無細胞DNAなどの単離された細胞外核酸を分析して、疾患を同定するおよび/または特徴付ける。
【0141】
単離された核酸の分析/さらなる処理は、以下に限定されないが、増幅技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、等温増幅、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Q-PCR)、デジタルPCR、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量分析、蛍光検出、紫外線分光分析、ハイブリダイゼーションアッセイ、DNAまたはRNAシーケンシング、次世代シーケンシング、限定解析、逆転写、核酸配列ベース増幅(NASBA)、対立遺伝子特異的ポリメラーゼ連鎖反応、ポリメラーゼサイクリングアセンブリー(polymerase cycling assembly)(PCA)、非対称ポリメラーゼ連鎖反応(asymmetric polymerase chain reaction)、線形後指数関数的ポリメラーゼ連鎖反応(LATE-PCR)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、ホットスタートポリメラーゼ連鎖反応、配列間特異的ポリメラーゼ連鎖反応(ISSR)、逆ポリメラーゼ連鎖反応、ライゲーション媒介ポリメラーゼ連鎖反応、メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(MSP)、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応、固相ポリメラーゼ連鎖反応、またはこれらの任意の組合せを含む、任意の核酸分析/処理方法を使用して実施することができる。それぞれの技術は当業者に周知であり、よって、本明細書においてさらなる記載を必要としない。
【0142】
一実施形態によれば、分離された細胞試料に含まれる細胞が分析される。一実施形態によれば、細胞は、細胞学的方法によって分析される。方法としては、以下に限定されないが、遠心分離またはスライド上への塗抹と、その後の組織化学または細胞化学染色、例えば、H&E、過ヨウ素酸シッフ(PAS)、レゾルシンフクシン(RF;エラスチン染色)、シリウスレッド(SR;コラーゲン染色)、Gomori(GOM;レティキュリン染色)およびパパニコロウ染色手順が挙げられる。さらに、進歩した染色方法、例えば、免疫細胞学的染色またはin situハイブリダイゼーション(ISH)、例えばFISH(蛍光)、SISH(銀)、CISH(色素原)が使用され得る。さらに、細胞を再懸濁させ、蛍光標識細胞分取(FACS)と、その後の分子分析によって選別することができる。一実施形態によれば、本方法は、細胞学的分析のために、得られた細胞試料から剥離細胞を調製するステップを含む。実施例において実証されているように、本発明による安定化によって、安定化された細胞のその後の細胞学的分析が可能になる。
C.安定化組成物
【0143】
第三の態様によれば、尿試料を安定化させるための組成物であって、
- キレート剤、好ましくはEDTA、
- 少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、および必要に応じて、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤
を含む、組成物が提供される。
【0144】
安定化組成物の詳細は、請求項18から24にも定義されている。
【0145】
これらのコア安定化化合物の利点および好適かつ好ましい実施形態、ならびに安定化組成物中に必要に応じて含まれてもよいさらなる安定化剤、例えば、カスパーゼ阻害剤、緩衝剤および/または少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミドについては、第一の態様による安定化方法と併せて上で議論されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。
【0146】
安定化組成物と尿試料とを含む安定化混合物中で、安定化のために使用され得る個々の薬剤の好適かつ好ましい濃度は、上で記載され、ここでも当てはまる。当業者は、安定化組成物中の前記薬剤の適当な濃度を選択し、意図した量の安定化組成物が、本開示の教示に従って安定化される意図した量の尿試料と混合される場合に、尿試料を含む混合物中で前記濃度を達成することができる。安定化組成物に関して、ここでも当てはまる上記開示が参照される。
【0147】
一実施形態によれば、安定化組成物は液体である。安定化組成物の構成成分は、それぞれ、溶媒、例えば水、緩衝液、例えばTRIS、MOPS、PBSなどの生物学的緩衝液中に含まれ、溶解され得る。好適な緩衝剤は上に列挙されている。さらに、構成成分は、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性非プロトン性溶媒中に溶解されてもよく、または安定化組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性非プロトン性溶媒を含んでもよい。例えば、0.5mlから2.5ml、0.5mlから2ml、好ましくは1mlから2ml、例えば1.3mlから1.7mlの液体安定化組成物を使用することができる。特に以下に示す濃度で安定化剤を含むこのような安定化組成物は、例えば10mlの尿を安定化させるために使用することができる。
pH
【0148】
一実施形態によれば、安定化組成物は、4.5から9.5の範囲内にあるpHを有する。好ましくは、安定化組成物のpHは、7を超え9.5以下の範囲内にある。pHは、7.2から9.5、7.3から9.5または7.4から9.5の範囲内にあってもよい。安定化組成物のpHはまた、9.25以下、9以下または8.75以下、例えば8.5以下、8.3以下または8以下であってもよい。これらのpH値は、上限値として、以前に示したpH範囲と組み合わされてもよく、得られる範囲はまた、本開示の一部を形成する。一実施形態では、安定化組成物のpHは、7.5から9.5以下、例えば7.5から9または7.5から8.5の範囲内にある。一実施形態では、安定化組成物のpHは、7.2から8.5以下、例えば7.3から8.3以下または7.5から8以下の範囲内にある。安定化組成物のpHは、さらに、7.7から9.5または8から9.25の範囲内にあってもよい。実施例においても示されるさらなる実施形態によれば、安定化組成物のpHは、8から9の塩基性範囲内にある。
【0149】
安定化組成物は、好ましくは、尿試料が添加される場合に所望の範囲内にpHを維持することを可能にする好適な緩衝剤を含む。安定化された尿試料における緩衝剤およびそのpH範囲に関する好適かつ好ましい実施形態は、これを参照する第一の態様による方法と併せて上に記載されている。議論されたように、選択されたpHは、安定化の結果に重要な影響を及ぼし得る。
キレート剤、好ましくはEDTA
【0150】
好ましくはEDTAであるキレート剤については上で詳細に記載されており、上記開示が参照される。これは、溶解限度までの濃度で安定化組成物中に含まれてもよい。
【0151】
一実施形態によれば、液体組成物は、キレート剤、好ましくはK2EDTAなどのEDTAを、少なくとも15mM、例えば少なくとも25mM、少なくとも50mM、少なくとも75mMまたは少なくとも100mMなどの最終濃度で含む安定化組成物として提供される。安定化組成物中のキレート剤が高濃度であることが有利である。一実施形態によれば、安定化組成物は、キレート剤、好ましくはEDTAを100mMから溶解限度まで、または150mMから溶解限度までの濃度で含む。好適な最終濃度範囲としては、100mMから500mM、125mMから450mMおよび150mMから400mMが挙げられる。また、安定化組成物中175mMから400mM、200mMから400mMまたは250mMから350mMの範囲内にあるより高い濃度が使用されてもよい。これらの濃度は、特にEDTAに関して好適である。
ポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール
【0152】
安定化組成物は、ポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくは、ポリエチレングリコールである)を含む。好適な実施形態は、第一の態様と併せて開示されており、この開示が参照される。
【0153】
一実施形態によれば、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、安定化組成物中に含まれる。詳細は、第一の態様による安定化方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる各開示が参照される。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、置換されていないポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールである。実施形態では、分子量は、1500から40000、例えば2000から35000、2500から30000、3000から25000または3500から20000から選択される範囲内にある。4000から20000、例えば5000から15000の範囲が好ましい。
【0154】
一実施形態によれば、安定化組成物は液体であり、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくはポリエチレングリコールである)を0.4%から35%(w/v)の最終濃度で含む。例示的な範囲としては、以下に限定されないが、0.8%から25%(w/v)、1.5%から20%(w/v)、2.5%から17.5%(w/v)、3%から15%(w/v)、4%から10%(w/v)および3%から5%(w/v)が挙げられる。好適な濃度は本開示に基づいて当業者によって決定されてもよく、とりわけ、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが単独で使用されるか、または低分子ポリ(オキシエチレン)ポリマーなどのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用されるか否か、および特定量の尿試料を安定化させるために使用される安定化組成物の量、例えば体積に応じて変わる場合もある。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを単独で使用する場合に好適な濃度範囲の例としては、以下に限定されないが、2.2%から33.0%(w/v)、例えば4.4%から22.0(w/v)%、6.6%から16.5%(w/v)または8.8%から13.2%(w/v)などが挙げられる。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用する場合に好適な濃度範囲の例としては、以下に限定されないが、0.4%から30.7%(w/v)、例えば0.8%から15.3%(w/v)、1%から10%(w/v)、1.5%から7.7%(w/v)、2.5%から6%(w/v)、3.1%から5.4%(w/v)および3%から4%(w/v)が挙げられる。
【0155】
具体的実施形態では、液体安定化組成物は、5mgから500mg、特に10mgから250mg、25mgから150mgまたは40mgから100mgの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくはポリエチレングリコールである)を含む。特に、液体安定化組成物は、0.5μmolから50μmol、特に1μmolから25μmol、2μmolから20μmol、または3μmolから10μmolの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含んでもよい。このような液体安定化組成物は、例えば受容デバイス中に充填されてもよく、例えば、試料単位尿を安定化させるのに好適である。
【0156】
一実施形態によれば、安定化組成物は、1500またはそれより小さい分子量を有するポリ(オキシエチレン)ポリマー、および実施形態では、1000またはそれより小さい分子量を有する低分子ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100から1000、例えば150から800または150から700から選択される範囲内にある分子量を有してもよい。200から600およびより好ましくは200から500、例えば200から400の範囲内がより好ましい。好ましくは、ポリエチレングリコールが使用される。
【0157】
一実施形態によれば、前記液体安定化組成物は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくはポリエチレングリコールである)を、0.8%から92.0%から選択される最終濃度で含む。例としては、3.8%から76.7%、11.5%から53.7%、19.2%から38.3%および20%から35%、例えば20%から30%が挙げられる。前述の濃度は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体であるか否かに応じて、(w/v)または(v/v)を指す。
【0158】
具体的実施形態では、液体安定化組成物は、40μlから4000μl、特に100μlから2000μl、150μlから1500μl、200μlから1000μlまたは250μlから750μlの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。特に、液体安定化組成物は、0.2mmolから15mmol、特に0.5mmolから10mmol、0.75mmolから5mmol、1mmolから3mmol、または1.2mmolから2mmolの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含んでもよい。このような液体安定化組成物は、例えば、受容デバイス中に充填されてもよく、例えば、試料単位を安定化させるのに好適である。
【0159】
一実施形態によれば、安定化組成物は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、さらに、少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400であり、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量未満の分子量を有する、少なくとも1種のさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。実施形態はまた、第一の態様による方法と併せて記載される。一実施形態によれば、分子量の差は、少なくとも2500、少なくとも3500、少なくとも5000または少なくとも7500である。第一の態様による安定化方法と併せて上に記載されているように、分子量の異なるポリ(オキシエチレン)ポリマーの組合せを使用することが有利である。好ましくは、両ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、置換されていないポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールである。安定化組成物は、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含んでもよい。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは置換されていないポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールである。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、100から1000、150から800から選択される範囲内にあってもよく、好ましくは200から600の範囲内にある。安定化組成物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの好適な濃度範囲は、上に記載した。
細菌増殖を阻害するための保存剤
【0160】
安定化組成物は、一実施形態では、細菌増殖を阻害するための保存剤を含む。上に開示されているように、この保存剤は、キレート剤に加えて使用されてもよい。好適かつ好ましい実施形態は、第一の態様による方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。
【0161】
保存剤は、安定化された尿試料中で細菌増殖が阻害されるような安定化組成物の濃度で含まれる。好適な濃度は、個々の保存剤に対して当業者によって決定され得る。安定化組成物中の最終濃度は、例えば、0.1から5.5%w/v、例えば0.2から3.75%w/vの範囲内にあってもよく、または0.1から5.5%v/v、例えば0.2から3.75%v/vの範囲内にあってもよい。
【0162】
一実施形態によれば、保存剤はアジ化ナトリウムを含むかまたはそれからなってもよい。実施例によって実証されているように、アジ化ナトリウムは特に好適である。安定化組成物は、例えば0.15%から3.75%(w/v)または0.2%から3.5%(w/v)の最終濃度でアジ化ナトリウムを含んでもよい。実施形態によれば、安定化組成物中の最終濃度は、0.3%から3%(w/v)または0.3%から2.5%(w/v)である。
【0163】
さらに、保存剤は、少なくとも1種のイソチアゾリノン化合物、好ましくはメチルクロロイソチアゾリノンおよび/またはメチルイソチアゾリノンを含むかまたはそれからなってもよい。これらの化合物を3:1の比で混合してもよい。イソチアゾリノン化合物を含む細菌増殖を阻害するための市販の保存剤は、ProClin300である。実施例によって実証されているように、保存剤は、尿の安定化において使用するのに好適である。これは、安定化組成物中に、例えば0.2%から1%(v/v)または0.3から0.5%(v/v)、例えば0.375%(v/v)などの最終濃度で含まれてもよい。
【0164】
使用することができる保存剤のさらなる例としては、以下に限定されないが、クロロヘキシジンまたはホウ酸ナトリウムが挙げられる。細菌増殖を阻害するためのさらなる保存剤および有用な濃度は、本出願の開示に従って当業者によって決定され得る。
カスパーゼ阻害剤
【0165】
一実施形態によれば、キレート剤およびポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む安定化組成物は、カスパーゼ阻害剤をさらに含む。カスパーゼ阻害剤を使用する利点およびカスパーゼ阻害剤の好適かつ好ましい実施形態は、第一の態様による安定化方法と併せて上に詳細に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。好ましくは、カスパーゼ阻害剤は汎カスパーゼ阻害剤である。好ましくは、カスパーゼ阻害剤は、好ましくはQ-VD-OPhなどのO-フェノキシ基によりC末端で改変された、改変カスパーゼ特異的ペプチドである。有利な実施形態によれば、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをポリ(オキシエチレン)ポリマーとして使用する。好ましくは、ポリエチレングリコールが使用される。好ましくは、置換されていないポリエチレングリコールが使用される。
【0166】
一実施形態によれば、安定化組成物は、1μMから220μM、例えば5μMから200μM、10μMから150μMおよび20.0μMから100μMの濃度でカスパーゼ阻害剤を含む。具体的実施形態では、安定化組成物は、1nmolから1000nmol、特に5nmolから500nmol、10nmolから200nmolまたは25nmolから100nmolのカスパーゼ阻害剤を含む。安定化組成物は、好ましくは、例えば受容デバイス中に充填されてもよく、例えば試料単位尿を安定化させるのに好適である、液体である。
【0167】
安定化組成物は、第一の態様による安定化方法と併せて上に記載されているさらなる添加剤を含んでもよい。一実施形態によれば、組成物は、安定化剤として、モノ-エチレングリコール(1,2-エタンジオール)を含む。モノ-エチレングリコールは、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーに関して上に記載した濃度で使用されてもよい。
アミド
【0168】
一実施形態によれば、安定化組成物は、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミドをさらに含む。好適かつ好ましい実施形態は、第一の態様による安定化方法と併せて上記に詳細に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。一実施形態によれば、安定化組成物中に含まれる少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミドは、式1に記載の化合物
【化2】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1~C5アルキル残基、C1~C4アルキル残基またはC1~C3アルキル残基、より好ましくはC1~C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であるかまたは異なっており、水素残基および炭化水素残基、好ましくは直鎖状または分枝状に配列した1~20個の原子の炭素鎖の長さを有するアルキル残基から選択され、R4は、酸素、硫黄またはセレニウム残基である)
である。好ましくは、アミドは、R4が酸素であるようなカルボン酸アミドである。好ましい実施形態は、安定化方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。好ましくは、式1に記載の化合物が使用され、これは、毒性剤として分類されていない。好ましくは、式1に記載の化合物を含む前記安定化組成物は、カスパーゼ阻害剤をさらに含む。
【0169】
式1に記載の化合物は、第一級カルボン酸アミドおよび第二級カルボン酸アミドから選択されるカルボン酸アミドであってもよい。一実施形態によれば、組成物は、ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミドおよびブタンアミドからなる群から選択される第一級カルボン酸アミドを含む。カルボン酸は、ブタンアミドおよびホルムアミドから選択されてもよい。
【0170】
一実施形態によれば、式1に記載の少なくとも1つの化合物は、N,N-ジアルキル-カルボン酸アミドである。一実施形態によれば、式1に記載の化合物は、N,N-ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N-ジメチルプロパンアミドである。
【0171】
一実施形態によれば、安定化組成物は、ブタンアミドおよび/またはN,N-ジアルキルプロパンアミドを含み、前記N,N-ジアルキルプロパンアミドは好ましくはN,N-ジメチルプロパンアミドである。実施例によって実証されているように、両アミドは、単独または組み合わせて、安定化効果を支持し得る。
【0172】
一実施形態によれば、安定化組成物は液体組成物であり、0.4%から38.3%、例えば0.8%から23.0%、2.3%から11.5%および3.8%から9.2%から選択される濃度で、1種または複数の第一級、第二級または第三級アミドを含む。さらなる範囲としては、5%から15%および7.5%から12.5%が挙げられる。前述の濃度は、第一級、第二級または第三級アミドが液体であるか否かに応じて、(w/v)または(v/v)を指す。
【0173】
具体的実施形態では、液体安定化組成物は、10μlから2000μl、特に50μlから1000μl、100μlから750μl、または125μlから500または150から250μlの第一級、第二級または第三級アミドを含む。特に、液体安定化組成物は、0.2mmolから15mmol、特に0.5mmolから10mmol、0.75mmolから5mmol、1mmolから3mmol、または1.2mmolから2mmolの第一級、第二級または第三級アミドを含んでもよい。このような液体安定化組成物は、例えば受容デバイス中に充填されてもよく、例えば、試料単位尿を安定化させるのに好適である。
さらなる実施形態
【0174】
第一の態様による安定化組成物のさらに有利な実施形態が次に記載される。
【0175】
一実施形態によれば、安定化組成物は:
- キレート剤としてのEDTA、
- 少なくとも1種のポリエチレングリコール、好ましくは、少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールおよび/または1000またはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコール、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤、
- 緩衝剤、
- 必要に応じて、少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤、ならびに
- 必要に応じて、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミド
を含む。
【0176】
一実施形態によれば、安定化組成物は、
- 少なくとも100mMから溶解限度までの濃度、好ましくは150mMから500mMの範囲内にある濃度のEDTA、
- 少なくとも1種のポリエチレングリコール、好ましくは、少なくとも6000の分子量を有する少なくとも1種の高分子量ポリエチレングリコールおよび必要に応じて、1000またはそれより小さい分子量を有する少なくとも1種の低分子量ポリエチレングリコール、
- 細菌増殖を阻害するための保存剤、
- 緩衝剤、ならびに
- 必要に応じて、少なくとも一種のカスパーゼ阻害剤
を含む液体組成物であり、
安定化組成物のpHは、7より大きく9.5まで、7.2から9.5、7.3から9.5または7.5から9.5の範囲内にあり、安定化組成物を1:3から1:10、好ましくは1:5から1:8から選択される体積比で尿試料と接触させる。安定化組成物のpHは、7.2から9、7.2から8.75または7.3から8.5の範囲内にあってもよい。安定化された尿試料中の最終pHは、6から9.5、例えば6.3から9.5または6.5から9の範囲内にあってもよい。実施例によって示されているように、これに準ずる安定化組成物を使用することにより、とりわけ、6.5から8.75、例えば6.5から8.5の範囲内にある安定化された尿試料の最終pHをもたらすことが可能になる。良好な安定化効果が達成された。安定化組成物で安定化された尿試料中のEDTAの最終濃度は、好ましくは7mg/mlから40mg/mlの範囲内、より好ましくは10mg/mlから30mg/mlの範囲内にある。ポリエチレングリコール、保存剤および緩衝剤に関する好適な実施形態および濃度は上に開示された。安定化組成物は、本明細書に開示されているように、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミドを含んでもよい。
組成物の形態
【0177】
安定化組成物は、固体形態、半液体形態で、または液体として提供されてもよい。固体安定化組成物を使用する利点は、固体が化学的により安定である場合が多いことである。液体組成物は、安定化される試料との混合が迅速に達成され、それによって、基本的に、尿試料が液体安定化組成物と接触するようになると直ちに安定化効果をもたらすことができるという利点を有する。液体組成物の使用は、尿試料のpHも調整可能であり好ましい。好ましくは、液体安定化組成物中に存在する安定化剤は、溶液中で安定な状態のままであり、例えば、使用者による、限定溶解度の沈殿物の溶解などの前処理を必要としない。
【0178】
本発明は、尿試料と混合された本発明の第三の態様による安定化組成物を含む混合物も提供する。尿試料と混合された場合の、よって安定化された尿試料中の安定化剤の好適かつ好ましい濃度は、とりわけ、本発明による安定化方法と併せて上に記載されている。ここでも当てはまる上記開示が参照される。
【0179】
一実施形態によれば、本発明の安定化組成物は、試料受容デバイス、例えば減圧管中にプレフィルドされ、この結果、試料は、受容デバイス中に尿試料が含まれた際には直ちに安定化される。このような受容デバイスの詳細は、第五の態様と併せて開示される。一実施形態によれば、液体安定化組成物を、1:3から1:10、例えば1:5から1:10、1:5から1:8、特に約1:6から選択される体積比で尿試料と接触させる。多い体積の試料の安定化を少ない体積の安定化組成物により達成し得ることが、本発明の安定化組成物の特筆すべき利点である。したがって、好ましくは、安定化組成物対試料の比は、1:10から1:5、特に1:7から1:5、例えば約1:6などの範囲内にある。
利点
【0180】
利点については、第一の態様による方法と併せて上で議論されており、ここでも当てはまる各開示が参照される。本発明によって提供される安定化組成物は、尿試料の重要な構成成分を安定化させ、例えば、無細胞DNA、ゲノムDNAおよび/または尿細胞のその後の分析を可能にする。
【0181】
実施形態では、安定化組成物は、添加剤が、有核細胞、好ましくは細胞全般の細胞溶解を誘導または促進するような濃度で、前記添加剤を含まない。実施例によって実証されているように、尿細胞は安定化され、細胞学的分析に利用可能であり、ゲノムDNAなどの細胞内核酸を単離および分析することができる。好ましくは、安定化組成物は、タンパク質-DNAおよび/またはタンパク質-タンパク質の架橋を誘導する架橋剤を含まない。特に、安定化組成物は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒドもしくはホルムアルデヒド放出剤または類似の架橋剤を含まない。好ましくは、本発明の安定化組成物は、冷蔵せずに、好ましくは室温で、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間および/または少なくとも6日間から選択される期間、尿試料を安定化させることが可能である。特に、上記安定化効果の1つまたは複数、好ましくはすべては、定義された安定化期間中に達成される。
【0182】
本発明の安定化組成物は、試料採集デバイス、特に尿採集アセンブリー、例えば尿採集カップ中に組み込まれ、それによって、このようなデバイスの新規かつ有用なバージョンを提供することができる。このことにより、尿採集直後に試料を安定化させることが可能になる。さらなる実施形態では、本発明の安定化組成物は、既に採集された尿が、採集後に移される受容デバイス、好ましくは減圧管中に提供される。詳細についてはまた、第五および第六の態様と併せて開示される。
D.使用
【0183】
第四の態様によれば、本発明は、尿試料を安定化させるための第三の態様による安定化組成物の使用を対象とする。特に、第三の態様による安定化組成物は、本発明の第一の態様による方法において使用することができる。前記方法の詳細は上記されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。
E.受容デバイス
【0184】
第五の態様によれば、本発明は、尿試料を受容するための受容デバイスであって、
- キレート剤、好ましくはEDTA、
- 少なくとも1種のポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、および
- 必要に応じて、細菌増殖を阻害するための保存剤
を含む、受容デバイスを提供する。
【0185】
受容デバイスは、尿試料を安定化させるのに好適である。細菌増殖は、安定化された尿試料中で阻害されてもよい。受容デバイスは、カスパーゼ阻害剤(好ましくはカスパーゼ阻害剤特異的ペプチドである)などの上で議論されたさらなる安定化剤の1つまたは複数を含んでもよい。少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミド(好ましくは式1に記載の1つまたは複数の化合物)が含まれてもよい。詳細は上に記載されており、上記開示が参照される。
【0186】
好ましい実施形態によれば、受容デバイスは、上に詳細に記載され、その開示がここでも当てはまる第三の態様による安定化組成物を含む。一実施形態によれば、受容デバイスは、請求項18から24のいずれか一項において定義されている安定化組成物を含む。
【0187】
各受容デバイスを提供することは、尿試料が前記受容デバイス中に移される場合に、その試料が直ちに安定化されるという利点を有する。尿は、例えば、尿カップまたは小児用バッグなどの容器中に採集された後、安定化のために、受容デバイス中に移されてもよい。あるいは、尿は、受容デバイス中に直接採集される。受容デバイスは、安定化のために、第一の態様による方法において使用されてもよい。受容デバイスは、容器によって提供されてもよく、好ましくは減圧管である。
キレート剤
【0188】
受容デバイスは、キレート剤、好ましくはEDTAを含む。安定化された尿中の好適なキレート剤および濃度は、第一の態様による方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。一実施形態によれば、容器は、尿試料が受容デバイス中に採集される場合に、その後受容デバイス中に含まれる尿と共に得られる混合物中、すなわち安定化された尿中のキレート剤の最終濃度が、少なくとも4mg/ml、少なくとも5mg/mlまたは少なくとも7mg/mlであるような濃度で、キレート剤、好ましくはEDTAを含む。キレート剤、例えば好ましくはEDTAを尿を安定化させるためにより高濃度で使用することは、強力な安定化効果を達成するために有利である。したがって、実施形態では、安定化された尿試料中のキレート剤(好ましくはEDTAである)の最終濃度は、少なくとも7mg/ml、好ましくは少なくとも10mg/mlである。実施例では、少なくとも15mg/mlの濃度が使用された。一実施形態によれば、安定化された尿試料中の最終濃度は、10mg/mlから35mg/mlまたは10mg/mlから30mg/mlの範囲内にある。12mg/mlから30mg/mlまたは15mg/mlから25mg/mlの範囲の最終濃度も好適である。実施例では、尿採集の際に、15mg/mlから20mg/mlの範囲内にあるEDTAの最終濃度が、安定化された尿中で達成されるような濃度で、EDTAを含む受容デバイスが使用された。
ポリ(オキシエチレン)ポリマー
【0189】
受容デバイスは、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコールを含む。好適かつ好ましい実施形態は、第一の態様による方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。
【0190】
一実施形態によれば、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーがそのデバイスに含まれる。一実施形態では、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくはポリエチレングリコールである)は、尿試料が前記デバイス中に採集される場合に、得られる混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの最終濃度が、0.05%から5%(w/v)の範囲内にあるような濃度で、受容デバイス中に含まれる。好適な範囲としては、以下に限定されないが、0.1%から4%(w/v)、0.2%から3%(w/v)、0.25%から2.5%(w/v)、0.3%から2%(w/v)および好ましくは0.35%から1.5%(w/v)が挙げられる。一実施形態によれば、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、尿試料が前記デバイス中に採集される場合に、得られる混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの最終濃度が、0.2%から1.5%(w/v)、0.25%から1.25%(w/v)、0.3%から1%(w/v)および0.4%から0.75%(w/v)の範囲内にあるような濃度で、受容デバイス中に含まれる。
【0191】
一実施形態によれば、受容デバイスは、1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100から1000、150から800および150から700から選択される範囲内にある分子量を有してもよい。好ましくは、分子量は、200から600、より好ましくは200から500、例えば、200から400の範囲内にある。一実施形態によれば、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、尿試料が前記デバイス中に採集される場合に、得られる混合物中の低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの最終濃度が、0.5%から10%、1.5%から9%、2%から8%および2.5%から7%および3%から6%の範囲内にあるような濃度で、受容デバイス中に含まれるのが有利である。パーセンテージ値は、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが固体である場合には(w/v)を指し、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体である場合には(v/v)を指す。好ましくは、ポリ(オキシエチレン)ポリマーはポリエチレングリコールである。
【0192】
一実施形態によれば、受容デバイスは、少なくとも1500の分子量を有する、上で定義されている高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび1000またはそれより小さい分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、尿が受容デバイスに添加される際に、尿試料が両タイプのポリ(オキシエチレン)ポリマーに接触するように、含む。好適かつ好ましい実施形態および高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用されるこの実施形態に関連する利点は、上に詳細に記載されており、ここでも当てはまる各開示が参照される。
【0193】
有利な実施形態では、受容デバイスは、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、尿試料が前記デバイス中に採集される際に、得られる混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、0.2%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)および0.4%から0.75%(w/v)の範囲内にあり、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、1.5%から8%、2%から7%および2.5%から6%から選択される範囲内にあるような濃度で、含む。好ましくは、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、上記のようにポリエチレングリコールである。
【0194】
一実施形態によれば、尿試料を高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーならびに必要に応じて、安定化のために使用されるさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、例えば、4000から20000の範囲の分子量を有し得る高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを0.15%から1.5%、例えば0.2%から1%(w/v)、好ましくは0.25%から0.75%(w/v)、例えば0.5%(w/v)の範囲内にある最終濃度で、および好ましくは200から800、好ましくは200から600の範囲内にある分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを1.5%から8%、好ましくは2%から7%、より好ましくは2.5%から6%から選択される範囲内にある最終濃度で含む。ポリエチレングリコール、好ましくは置換されていないポリエチレングリコールは、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとして、および低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとして使用されるのが好ましい。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーに関する好適な実施形態はまた、上に、ならびに異なる態様および本明細書に開示される実施形態と併せて、記載されている。
細菌増殖を阻害するための保存剤
【0195】
受容デバイスは、細菌増殖を阻害するための保存剤をさらに含んでもよい。保存剤は、キレート剤に加えて使用される。保存剤の好適かつ好ましい実施形態は、第一の態様による方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。
【0196】
保存剤は、安定化された尿試料中で細菌増殖が阻害されるような量で含まれる。好適な濃度は、個々の保存剤に対して当業者によって決定され得る。
【0197】
保存剤は、受容デバイス中に含まれてもよい、第三の態様による安定化組成物に含まれてもよい。安定化組成物中の最終濃度は、例えば、0.1から5.5%w/v、例えば0.2から3.75%w/vの範囲内にあってもよく、または0.1から5.5%v/v、例えば0.2から3.75%v/vの範囲内にあってもよい。
【0198】
一実施形態によれば、保存剤はアジ化ナトリウムを含むかまたはそれからなってもよい。実施例によって実証されているように、アジ化ナトリウムは特に好適である。受容デバイス中に含まれる安定化組成物は、例えば、0.15%から3.75%(w/v)または0.2%から3.5%(w/v)の最終濃度で、アジ化ナトリウムを含んでもよい。実施形態によれば、安定化組成物中の最終濃度は、0.3%から3%(w/v)または0.3%から2.5%(w/v)である。
【0199】
さらに、保存剤は、少なくとも1種のイソチアゾリノン化合物、好ましくはメチルクロロイソチアゾリノンおよび/またはメチルイソチアゾリノンを含むかまたはそれからなってもよい。これらの化合物を3:1の比で混合してもよい。イソチアゾリン化合物を含む細菌増殖を阻害するための市販の保存剤は、ProClin300である。実施例によって実証されているように、保存剤は、尿の安定化において使用するのに好適である。保存剤は、受容デバイスに含有される安定化組成物に、例えば、0.2%から1%(v/v)または0.3%から0.5%(v/v)、例えば0.375%(v/v)などの最終濃度で含まれてもよい。
【0200】
使用することができる保存剤のさらなる例としては、以下に限定されないが、クロロヘキシジンまたはホウ酸ナトリウムが挙げられる。細菌増殖を阻害するためのさらなる保存剤および有用な濃度は、本出願の開示に従って当業者によって決定され得る。
【0201】
保存剤は、尿試料が受容デバイス中に採集される場合に、得られる混合物、すなわち安定化された尿中の保存剤の最終濃度が、0.01から0.7%w/v、例えば0.03から0.5%w/vの範囲内にあるか、または0.01から0.7%v/v、例えば0.03から0.5%v/vの範囲内にあってもよいような濃度で、受容デバイス中に含まれてもよい。安定化された尿試料中の保存剤に関する好適な濃度および実施形態はまた、第一の態様による方法と併せて開示され、ここでも当てはまるこの開示が参照される。
カスパーゼ阻害剤
【0202】
一実施形態では、少なくとも1種のカスパーゼ阻害剤が、受容デバイス中にさらに含まれる。好適かつ好ましい実施形態は、第一の態様による方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。
【0203】
カスパーゼ阻害剤は、尿試料が受容デバイス中に採集される場合に、得られる混合物、すなわち安定化された尿中のカスパーゼ阻害剤の最終濃度が、少なくとも0.5μMまたは少なくとも1μM、例えば少なくとも1.5μM、少なくとも2μMまたは少なくとも2.5μMであるような濃度で含まれてもよい。尿試料およびさらなる添加剤と混合される場合に、カスパーゼ阻害剤に関する好適な最終濃度範囲としては、以下に限定されないが、1μMから25μM、1.5μMから20μMおよび2μMから15μMが挙げられる。2μMから12.5μM、2.5μMから10μMおよび3μMから7.5μMの最終濃度範囲が好ましい。これは、0.1μMから20μM、より好ましくは0.5μMから10μM、より好ましくは1μMから10μM、より好ましくは3μMから7.5μMまたは3μMから5μMの範囲内にあってもよい。一実施形態によれば、上記のように、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミドがさらに使用される。
アミド
【0204】
一実施形態では、少なくとも1種の第一級、第二級または第三級アミドが、受容デバイス中に含まれる。好適かつ好ましい実施形態は、第一の態様による方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。アミドは、尿試料が前記デバイス中に採集される場合に、得られる混合物、すなわち安定化された尿中のアミド(またはアミドの組合せ)の最終濃度が、少なくとも0.05%の範囲内にあるような濃度で使用されてもよい。例えば、最終濃度は、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%または少なくとも0.75%であってもよい。好適な濃度範囲としては、以下に限定されないが、0.1%から10%、0.25%から7.5%、0.3%から5%、0.4%から3%、0.5%から2%、0.6%から1.8%または0.75%から1.5%が挙げられる。パーセンテージ値で示される濃度または濃度範囲は、本明細書で使用される場合、特に、固体アミドに関しては体積当たりの重量パーセンテージ(w/v)として、および液体アミドに関しては体積当たりの体積パーセンテージ(v/v)として与えられる。
【0205】
少なくとも1種のアミドは、好ましくは、式1に記載の化合物
【化3】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1~C5アルキル残基、C1~C4アルキル残基またはC1~C3アルキル残基、より好ましくはC1~C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であるかまたは異なっており、水素残基および炭化水素残基、好ましくは直鎖状または分枝状に配列した1~20個の原子の炭素鎖の長さを有するアルキル残基から選択され、R4は、酸素、硫黄またはセレニウム残基である)
である。好ましくは、アミドは、R4が酸素であるようなカルボン酸アミドである。式1に記載の化合物の好ましい実施形態は、安定化方法と併せて上に記載されており、ここでも当てはまる上記開示が参照される。一実施形態によれば、受容デバイスは、式1に記載の化合物として、ブタンアミドおよび/またはN,N-ジアルキルプロパンアミド(好ましくはN,N-ジメチルプロパンアミドである)を含む。
【0206】
一実施形態によれば、受容デバイスは、安定化剤として、モノ-エチレングリコールを含む。モノ-エチレングリコールは、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーに関して上に記載した濃度で使用されてもよい。ここでも当てはまる各開示が参照される。
pH
【0207】
実施例で実証されているように、pHは安定化の結果に影響を及ぼす。
【0208】
一実施形態によれば、受容デバイス中に含まれる安定化組成物は、4.5から9.5の範囲内にあるpHを有する。好ましくは、安定化組成物のpHは、7を超え9.5以下の範囲内にある。pHは、7.2から9.5、7.3から9.5または7.4から9.5の範囲内にあってもよい。安定化組成物のpHはまた、9.25以下、9以下または8.75以下、例えば8.5以下、8.3以下もしくは8以下であってもよい。これらのpH値は、上限値として、以前に示したpH範囲と組み合わされてもよく、得られる範囲はまた、本開示の部分を形成する。一実施形態では、安定化組成物のpHは、7.5から9.5以下、例えば7.5から9または7.5から8.5の範囲内にある。一実施形態では、安定化組成物のpHは、7.2から8.5以下、例えば7.3から8.3以下または7.5から8以下の範囲内にある。安定化組成物のpHは、さらに、7.7から9.5または8から9.25の範囲内にあってもよい。実施例においても示されるさらなる実施形態によれば、安定化組成物のpHは、8から9の塩基性範囲内にある。
【0209】
安定化組成物は、好ましくは、尿試料が添加される場合に所望の範囲内にpHを維持することを可能にする好適な緩衝剤を含む。安定化された尿試料のpH範囲に関する好適な実施形態は、参照される第一の態様による方法、および安定化の結果に関するpHの重要な影響と併せて上に記載されている。
【0210】
一実施形態によれば、前記安定化組成物は液体組成物であり、受容デバイスは、液体組成物を1:3から1:10、好ましくは1:5から1:10から選択される体積比で、受容された尿試料と接触させるように設計される(例えば減圧される)。本発明の教示の特に有利な点は、多い体積の尿の安定化およびpH調整が、少ない体積の本発明による安定化組成物により達成され得ることである。好ましくは、安定化組成物対試料の比は、1:5から1:8、例えば約1.6の範囲内にある。例えば、1~2mlの液体安定化組成物を、およそ10mlの尿と接触させてもよい。
【0211】
実施例によって実証されているように、pH値が高いほど、無細胞DNAを保存する際の効率がよりよく、これは、無細胞DNAの分解が酸性pHと比較してより効率的に防止されるためである。このことは、尿試料中に含まれる無細胞DNAの分析を意図する場合に非常に有利である。実施例から理解され得るように、特に塩基性pHのようなより高いpHによって、安定化された尿試料が数日間保管された場合であっても、無細胞DNAの分解が効率的に防止される。
【0212】
安定化組成物は、pH調整のための緩衝剤を含む。緩衝剤は、塩基性範囲にそのpKを有してもよい。好適かつ好ましい緩衝剤は、実施例によって実証されているように、Trisである。他の緩衝剤としては、以下に限定されないが、MOPS、TES、HEPES、TAPSO、Tricine、Bicine、TAPS、ホウ酸塩緩衝液、CHES緩衝液またはリン酸ナトリウムもしくはリン酸カリウムに基づく緩衝液が挙げられる。さらなる緩衝剤は炭酸塩を含む。尿のpHは、ドナーによって酸性から塩基性に、さらにドナーの状態に応じて変化し得る。よって、安定化される採集された尿試料のpHの変動の可能性にもかかわらず、効率的なpH調整および安定化を達成するために十分な濃度の緩衝剤を含むことが有利である。好適な濃度は当業者によって決定され得る。
【0213】
一実施形態によれば、受容デバイス中に含まれる安定化された尿試料の最終pHは、6から9.5、例えば6.3から9.5の範囲内にある。安定化された尿試料の最終pHは、9以下、例えば8.75以下または8.5以下であってもよい。6.5から9、例えば6.5から8.75または6.5から8.5の範囲内にある安定化された尿試料中のpHが特に好適である。実施形態では、安定化された尿試料のpHは、6.7から9または7から9、例えば7.2から9または7.2から8.75の範囲内にある。一実施形態によれば、安定化された尿試料の最終pHは、少なくとも7または7を超え、7.5から8.5の範囲内にあってもよい。
さらなる実施形態
【0214】
安定化組成物および/または受容デバイス中に含まれる安定化のために使用される個々の化合物は、液体;半液体または乾燥形態で提供され得る。安定化のために使用される化合物は、受容デバイス中の別々の実体として提供されてもよく、受容デバイス中に異なる形態で提供されてもよい。例えば、1つの構成成分は乾燥形態で提供されてもよく、一方、他の化合物は液体として提供されてもよい。他の組合せも実行可能である。好適な製剤および製造選択肢は当業者に公知である。上で議論されたように、コア安定化化合物およびまた安定化のために使用されるさらなる添加剤は、安定化組成物、好ましくは請求項18から24において定義された安定化組成物などの、第三の態様による安定化組成物の形態で受容デバイス中に提供されてもよい。
【0215】
固体安定化組成物を使用する利点は、固体が液体よりも化学的により安定であることである。一実施形態によれば、受容デバイスの内壁は本発明による安定化組成物または例えばEDTAなどのその個々の構成成分で処理/被覆される。前記組成物または構成成分は、例えば噴霧乾燥法を使用して内壁に塗布することができる。液体除去技法は、実質的に固体状態の保護組成物を得るために、安定化組成物に関して実施され得る。液体除去条件は、これらによって、分配された液体安定化組成物の元々の量の少なくとも約50重量%、少なくとも約75重量%、または少なくとも約85重量%の除去が生じるようなものであり得る。液体除去条件は、これらによって、十分な液体の除去がもたらされ、その結果、得られる組成物が、フィルム、ゲルまたは他の実質的に固体もしくは高粘度層の形態であるようなものであり得る。例えば、その条件によって、実質的に不動なコーティング(好ましくは、尿試料と接触した際に、再度溶解され得るかまたはそうでなければ分散され得るコーティング)がもたらされ得る。凍結乾燥または他の技法を、保護剤の実質的に固体の形態(例えば、1つまたは複数のペレットの形態)を実現するために用いることが可能である。よって、液体除去条件は、これらによって、尿試料と接触した際に、保護剤が試料中に分散され、試料中の構成成分(例えば細胞外核酸)を実質的に保存する材料がもたらされるようなものであり得る。液体除去条件は、これらによって、実質的に結晶化度を有さない、残りの組成物が周囲温度で実質的に不動であるのに十分に高い粘度を有する、またはその両方である残りの組成物をもたらすようなものであり得る。
【0216】
好ましい実施形態によれば、受容デバイスは、液体安定化組成物を含む。液体組成物は、安定化される尿試料との混合を迅速に達成することができ、それによって、基本的に、尿試料を液体安定化組成物と接触させると直ちに安定化効果をもたらすという利点を有する。さらに、液体組成物は、多量の安定化組成物を使用し、それによって、噴霧乾燥することができないかもしくはそれが困難である場合、または組成物が乾燥組成物を提供するのを妨害する場合に有利である。好ましくは、液体安定化組成物中に存在する安定化剤は、溶液中で安定なままであり、使用者による、例えば溶解限度の沈殿物の溶解などの前処理を必要とせず、これは、この種の前処理が安定化効率の変動のリスクをもたらすためである。
【0217】
安定化組成物は、受容デバイスによって受容される量の尿試料の安定化をもたらすのに有効な量で、受容デバイス中に含まれる。一実施形態によれば、液体安定化組成物を、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、1:10から1:5および1:7から1:5、特に約1:6から選択される体積比で、尿試料と接触させる。本発明の安定化組成物およびこのような安定化組成物を含む受容デバイスの特定の利点は、多い体積の試料の安定化が、少ない体積の安定化組成物により達成され得ることである。したがって、好ましくは、液体安定化組成物対尿試料の比は、1:10から1:5、特に1:7から1:5、例えば約1:6の範囲内にある。実施形態は上にも記載されており、ここでも当てはまる本開示が参照される。
【0218】
一実施形態によれば、受容デバイスは減圧される。減圧は、好ましくは、前もって尿採集カップ中に採集された尿試料のうちの特定の体積を内部に抜き取るのに効果的である。それによって、正確な量の尿を受容デバイス中に含まれるプレフィルドされた量の安定化剤と接触させること、したがって、安定化が効率的であることが保証される。一実施形態によれば、受容デバイスは、栓で密封された開口端を有する管を含む。例えば、受容デバイスは、固体または液体形態の規定量の安定化組成物でプレフィルドされ、規定の真空で提供され、栓で密封されている。栓は、標準的なサンプリングアクセサリー(例えばカニューレなど)と適合するように構築される。例えば、移送デバイス(例えば管)によって尿と接触した場合、真空によって予め決定された尿の量を受容デバイス内に採集する。一実施形態によれば、受容デバイスは、5mlから20ml、好ましくは7から15ml、例えば10mlの範囲内にある量の尿を受容するためのものである。
【0219】
本発明による受容デバイスは、ガラス製、プラスチック製または他の好適な材料製であってもよい。プラスチック材料は、酸素不透過性材料であってもよく、または酸素不透過性層を含有してもよい。あるいは、受容デバイスは、空気透過性プラスチック材料製であってもよい。受容デバイスは、透明材料製であってもよい。好適な透明の熱可塑性材料の例としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンテレフタレートが挙げられる。受容デバイスは、受容される尿試料の必要とされる体積に従って選択される好適な寸法を有してもよい。上記のように、好ましくは、受容デバイスは、大気圧未満の内部圧力に減圧される。圧力は、尿試料の所定体積を受容デバイス中に引き込むように選択されるのが好ましい。
【0220】
一実施形態によれば、受容デバイスは、開口上部、底、およびチャンバーを規定してそれらの間に伸びる側壁を有する。キレート剤(好ましくはEDTAである)、ポリ(オキシエチレン)ポリマー(好ましくはポリエチレングリコールである)、細菌増殖を阻害するための保存剤および必要に応じて、上述の1種もしくは複数のさらなる安定化剤または第三の態様による安定化組成物が、チャンバー内に含まれてもよい。安定化組成物は、チャンバー内に液体または固体形態で含まれてもよい。一実施形態によれば、安定化組成物は液体である。一実施形態によれば、受容デバイスは管であり、底は閉じた底であり、受容デバイスは開口した上部に閉止栓をさらに含み、チャンバーは減圧されている。チャンバー内の減圧の利点は上に記載した。好ましくは、閉止栓には、ニードルまたはカニューレを貫通させることが可能であり、減圧は、液体試料の特定の体積をチャンバー内に引き込むよう選択される。一実施形態によれば、チャンバーは、尿試料の特定の体積をチャンバー中に引き込むように選択される減圧下にあり、安定化組成物は液体であり、安定化組成物対尿試料の特定体積の体積比が10:1から1:20、5:1から1:15および1:1から1:10から選択され、好ましくは1:10から1:5、より好ましくは1:7から1:5であるようにチャンバー内に配置される。関連する利点は上に記載した。
【0221】
一実施形態によれば、受容デバイスは、10mlの尿を受容するためのものである。一実施形態によれば、安定化組成物は液体であり、体積は2mlまたはそれより少なく、0.5mlから2ml、0.75mlから1.75mlおよび1mlから1.7mlの範囲内にあってもよい。
F.尿試料を採集するための方法
【0222】
第六の態様によれば、尿試料を採集するステップを含む方法が提供される。
【0223】
一実施形態によれば、尿試料は、本発明の第五の態様に従って、受容デバイスのチャンバー中に採集され、受容デバイスは、好ましくは、第三の態様による安定化組成物を含む。受容デバイスに関する詳細、安定化組成物および安定化された尿試料については上に記載した。各開示が参照される。
【0224】
尿は、安定化の前に、尿カップまたは他の容器に最初に採集されてもよい。故に、一実施形態によれば、本発明は、尿試料を採集するための方法であって、
a)尿を、容器、好ましくは尿カップ内に採集するステップ、および
b)第一の態様による方法を使用して尿試料を安定化させるステップ
を含む、方法を提供する。
【0225】
ステップa)では、尿試料は、ドナーから容器中に採集される。尿を採集するのに好適な容器は当技術分野で公知であり、ドナーからの尿採集に関して広く使用される。容器は、例えば、尿カップまたは小児用バッグであってもよい。一実施形態では、容器は、乾燥形態、好ましくは噴霧乾燥形態の1つまたは複数の安定化剤を含む。これは、最初の尿採集時に初期安定化効果が既に達成されるという利点をもたらす。尿は乾燥安定化剤を溶解する。
【0226】
一実施形態によれば、ステップa)において使用される容器は、キレート剤、好ましくはEDTAなどを含む。キレート剤は、噴霧乾燥形態に組み込まれてもよい。EDTAなどのキレート剤を、尿カップなどの初期尿採集に使用される容器中に組み込むことにより、安定化された(すなわちステップb)を実施した後)尿試料中のキレート剤の最終濃度が増加され得るというさらなる利点をもたらす。
【0227】
ステップb)では、採集された尿試料は、次いで、上に詳細に記載された本発明の第一の態様による方法を使用して、特に、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を使用することによって、安定化される。移された尿試料は、安定化剤(単数または複数)がステップa)の間に組み込まれたとすれば、溶解されたこのような薬剤、例えばEDTAを既に含み得る。
【0228】
ステップa)において採集された尿は、安定化のために、ステップb)において、第五の態様による受容デバイス中に移されてもよく、ここで、受容デバイスは、好ましくは、第三の態様による安定化組成物、例えば、請求項18から24のいずれか一項において定義される安定化組成物を含む。ステップb)において使用される受容デバイスは、好ましくは、規定量の尿試料を受容するための減圧管である。これにより、ステップb)において規定の体積を安定化させることが可能になる。安定化組成物は、好ましくは液体組成物である。詳細については上に記載され、上記開示が参照される。
【0229】
ステップb)における安定化の後に、安定化された尿試料は、例えば第二の態様による方法と併せて開示されているように、さらに処理されてもよい。ここでも当てはまる各開示が参照される。
G.製造方法
【0230】
第七の態様によれば、本発明の第三の態様による安定化組成物を製造する方法であって、安定化組成物の構成成分が組み合わされる、方法が提供される。好ましくは、これらは混合されて、液体溶液剤を提供する。
【0231】
本発明は、本明細書に開示される例示的な方法および材料に限定されず、本明細書に記載のものに類似するかまたはそれに均等ないずれかの方法および材料を本発明の実施形態の実践または検査において使用することができる。数値範囲は、範囲を規定する数を包含する。本明細書で与えられる見出しは、本発明の様々な態様または実施形態の限定ではなく、本明細書を全体として参照して読むことができるものである。
【0232】
文脈が別段に示していなければ、本明細書に示されるパーセンテージ値は、例えば、安定化剤または前記薬剤を含有する安定化組成物を尿試料と接触させて得られる混合物などの、液体混合物または組成物中に含有される固体化合物の場合には(w/v)および液体混合物または組成物中に含有される液体化合物の場合には(v/v)を指す。
【0233】
主題明細書において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が別段に明確に規定していなければ、複数の態様を含む。よって、例えば、「ポリ(オキシエチレン)ポリマー(a poly(oxyethylene) polymer)」への言及は、単数タイプのポリ(オキシエチレン)ポリマー、および2つまたはそれより多いポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。同様に、「薬剤」、「添加剤」、「化合物」などへの言及は、単数の実体およびこのような実体の2つまたはそれより多くの組合せを含む。「本開示」および「本発明」などへの言及は、本明細書で教示される単一または複数の態様などを含む。本明細書で教示される態様は、用語「発明」に包含される。
【0234】
用語「溶液剤」は、本明細書で使用される場合、特に液体組成物、好ましくは水性組成物を指す。溶液剤は、一相のみの均一な混合物であってもよいが、溶液剤が、例えば、特に安定化剤などの含有される化学物質の沈殿物などの固体添加剤を含むことも本発明の範囲内にある。
【0235】
用語「安定化組成物(stabilization composition)」および「安定化組成物(stabilizing composition)」は、本明細書において同義語として使用される。
【0236】
ヌクレオチド(nt)に関連して本明細書において示されるサイズ、サイズ範囲はそれぞれ、鎖長を指し、よって、一本鎖および二本鎖分子の長さを記載するために使用される。二本鎖分子では、前記ヌクレオチドが対合している。
【0237】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」および「からなる(consisting of)」の両方を包含するものとして解釈されるべきであり、両者の意味は、具体的に意図され、したがって、本発明に従って個別に開示された実施形態である。一実施形態によれば、方法の場合の特定のステップを含むものとしての、または組成物、溶液剤および/もしくは緩衝液の場合の特定の成分を含むものとしての、本明細書に記載の主題は、各ステップまたは成分からなる主題を指す。本明細書に記載の好ましい実施形態を選択および組み合わせることが好ましく、好ましい実施形態の各組合せから生じる特定の主題はまた本開示に属する。
【0238】
本出願は、その内容が参照により全体として本明細書に組み込まれる、出願EP 19 150 438.0の優先権を主張する。
【実施例】
【0239】
以下の実施例は、例示のみを目的とし、いかなる様にも本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことが理解されるべきである。
【0240】
使用される略語
cfDNA:無細胞DNA
PEG:ポリエチレングリコール
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
DMPA:ジメチルプロピオンアミド
DEGMEA:ジエチレングリコール-モノエチルエーテル-アセテート(Diethlyeneglycol-monoethylether-acetate)
PBS:リン酸緩衝食塩水
【0241】
I.実験手順
1.尿の安定化
別段に記述されていなければ、200mlのボトルに尿を採集した。10mlの尿を、1.7mlの
(i)安定化組成物、
(ii)PBS、
(iii)EDTA溶液、
と、尿採集後15分以内に混合するか、または
(iv)安定化させないまま保った。
【0242】
管を10回反転させることによって、尿と試薬を混合した。安定化された尿試料と安定化されていない尿試料を、定常位に立てて、室温で保管した。
表1には、使用した安定化組成物(試薬)および安定化された尿試料の特徴に対する概観が与えられる:
【表1-1】
【表1-2】
2.尿の処理
【0243】
別段に記述されていなければ、周囲温度で15分間、1.900×gで遠心分離することによって、尿試料を処理した。無細胞上清を新しい遠心分離管へと移した。細胞ペレットをPBS中に再懸濁させ、gDNAの単離および/または細胞学的染色のためのスライドガラス上での細胞遠心分離のために使用した。
【0244】
1.900×gでさらに10分間、上清を2回遠心分離した。2回目の遠心分離からの上清を新しい管に移し、無細胞DNAの精製に直接使用するか、または使用するまで-20℃で保管した。
3.gDNAの手動の精製
【0245】
尿の1回目の遠心分離に由来する再懸濁させた細胞ペレットからの最大200μlを使用して、QIAamp Miniキット(QIAGEN)を使用してゲノムDNAを精製した。再懸濁させたペレットを溶解緩衝液ALと混合し、プロテイナーゼKと共にインキュベートし、エタノールを添加して結合条件を調整し、シリカ膜にロードし、2回洗浄し、ハンドブックに従って緩衝液AEで溶出させた。
【0246】
Nandrop(Thermo-Fisher)でDNA収率を測定した。アガロースゲル電気泳動によって完全性を分析した。400ngのゲノムDNAを、ラムダHind IIIマーカーを含む1.5%のTAEゲルにロードし、100V(150mA)で2時間分離させ、エチジウムブロマイドで染色した。
4.尿内の細胞の細胞学的分析
【0247】
最大100μlの再懸濁させた尿細胞ペレットをEZ Funnelに充填し、Cytospin 4細胞遠心分離器(Shandon)を用いて顕微鏡スライド上で直接遠心分離した。スライドを数秒間空気乾燥させ、パパニコロウによる染色(パパニコロウヘマトキシリンによる1分間の核染色、パパニコロウLsg OG6(2a)による3分間のケラチン染色およびパパニコロウLsg EA50による3分間の細胞血漿染色)、またはMerckからのキットもしくは染色試薬を使用するH&E染色(30秒間のヘマトキシリンおよび1分間のエオシン)に使用した。
4.無細胞DNAの精製
【0248】
4~4.8mlの安定化された尿または安定化されていない尿由来の無細胞DNAを、QIAsymphony PAXgene Blood ccfDNA Kit(QIAGENのキット)のプロトコールを用いて単離した。QIAsymphonyロボットによって、尿を、プロテイナーゼK、結合緩衝液および磁気ビーズと混合させた。結合したDNAを有するビーズを3回洗浄し、60μlの溶出緩衝液を使用してDNAを溶出させた。
5.定量的リアルタイムPCRアッセイおよび18s rDNAコピーの算出
【0249】
無細胞DNAの量を測定するために、Abi Prism HT7900(Life technologies)によるリアルタイムPCRアッセイを8μlの溶出液を用いて実施した。20μlのアッセイ体積において、QuantiTect Multiplex PCR Kit試薬(QIAGEN GmbH)を使用して、ヒト18S rDNA遺伝子の2つの断片をマルチプレックスPCRにおいて増幅させた。全体の定量を、ヒト18s rDNA遺伝子の10コピーに対して10.000に等しいヒトゲノムDNA試料により作成した標準曲線との比較によって達成した。
【表2-1】
表2:リアルタイムPCRによって検出したDNA標的配列
【0250】
66bpの断片の定量を使用して、尿中の18S rDNAコピーの総量を反映させた。500bpの定量を使用して、アポトーシス性尿細胞または機械的に溶解した尿細胞に由来する18S rDNAコピーの量を決定した。尿中の無細胞DNAは、60~170bpの典型的な長さを有する。したがって、500bpの断片は、アポトーシス性尿細胞、溶解した尿細胞、またはそうでなければ破壊された尿細胞に由来すると考えることができる。
6.Y染色体DSY14遺伝子に関する定量的リアルタイムPCRアッセイ
【0251】
無細胞DNAの分解を測定するために、女性の試料中にスパイクインした男性の無細胞DNAの相対的収率を分析した。RotorGene Q(QIAGEN GmbH)によるリアルタイムPCRアッセイを8μlの溶出液を用いて実施した。QuantiTect Multiplex PCR Kit試薬(QIAGEN GmbH)を使用する20μlのアッセイ体積では、ヒトY染色体DYS14遺伝子の1つの66bp断片をリアルタイムPCRにおいて増幅させた。
【表4】
II.実施した実施例
1.
(実施例1)
尿中のDNAの安定化
【0252】
4名の女性および2名の男性のドナーから、それぞれ200mlの尿を採集した。10mlの尿のアリコートを、サンプリング後15分以内に、1.7mlのPBSまたは安定化剤と混合した。尿の処理後、試薬との混合直後(t0)または室温で4日間のインキュベーション後のいずれかに、QIAsymphonyで無細胞試料からDNAを単離した。すべての試料は二連で処理した。18s rDNAのコピー数を、三連のリアルタイムPCRによって、二連の試料から決定した。66bpの断片に関する結果を
図1に示し、500bpの断片に関する結果を
図2に示す。
議論
【0253】
この結果は、無細胞DNAが、安定化されていない尿、すなわちPBSで緩衝された尿中で急速に分解することを実証する。アポトーシス細胞または溶解細胞からのDNAの放出は、とりわけ、時点0であっても急速に分解したため、安定化されていない尿(PBS)中でモニターすることができない。両プロセス、無細胞DNAの分解および細胞からのDNAの放出は、同時に起こるようである。したがって、無細胞DNAの分解は、
図2において既に示されているよりもPBSではさらにより重度であり得る。小分子である無細胞DNAの総量は、大分子と同様に、本開示による試薬で安定化される尿中で保存される。
2.
(実施例2)
BD Vacutainer Urine Collection Cupへの尿のサンプリングおよび異なる安定化試薬を含む異なるバキュテナーへの移転
【0254】
1名の男性ドナーからの尿を2回遠心分離して、女性の尿中にスパイクインするために尿からすべての細胞を除去した。2名の女性と2名の男性のドナーから、尿をより大きなボトルに採集した。2名の女性ドナーの場合には、25mlを遠心分離し、したがって、無細胞の男性の尿を200mlの女性の尿に添加した。各ドナーからのおよそ120mlの尿をBD Vacutainer Urine Collection Cup中に充填した。尿をカップからドナーごとに2つの噴霧乾燥EDTA管、すなわち1つのPAXgene Blood ccfDNA管および1つのStreck無細胞DNA BCT管中に移した。ドナー当たりEDTA管のうちの1つを開け、1.7mlの安定化試薬R1を添加した。すべての管を注意深く5回反転させて、尿を構成成分と混合した。
【0255】
次に、採集直後(t0)または室温での1、3および9日間のインキュベーション後のいずれかに、無細胞DNAをQIAsymphonyで精製した。18s rDNAのコピー数を、三連のリアルタイムPCRによって、二連の試料から決定した。Y染色体DYS14 DNAの相対的収率を、リアルタイムPCR(PCR複製物なし)によって、二連の試料から決定した。結果を
図3および4に示す。
議論
【0256】
この実施例は、BD Vacutainer Urine Collection Cupが尿ワークフローに組み込まれ得ることを示す。さらに、データは、EDTA単独では、保管期間にわたり、無細胞DNAの分解を充分に防止せず(
図4)、細胞からのDNA放出による尿中に含まれる総DNAの増加も防止しない(
図3)ことを示す。対照的に、血液試料と共に使用することを意図したPAXgene Blood ccfDNA Tubeは、尿中の総DNAおよび無細胞DNAを最大3日間安定化させる。9日後には、総DNAの増加およびスパイクインした無細胞DNAの減少が見られる。
【0257】
Streck cfDNA BCTは尿中の総DNAを合理的に安定化させるが、これは、K2-EDTAと同様に、スパイクインした無細胞DNAの低減ももたらし、それによって、元々の無細胞DNAが分解され、DNAが安定化期間中に細胞から放出されることを実証する(
図3および4の組合せを参照されたい)。
【0258】
K2-EDTA管に採集された尿に添加された本発明による安定化試薬(R1)はDNA収率を効率的に安定化させ、女性の尿にスパイクインした男性のDYS14のコピーを保存し、それによって、細胞からのゲノムDNAの放出と同様に、無細胞DNAの分解が効率的に防止/低減されることを実証する。これらの有益な結果は、長期にわたる安定化期間にわたっても維持された。
3.
(実施例3)
1つの尿試料で実施された多成分検査
【0259】
3名のドナーからそれぞれ200mlの尿を採集した。10mlの尿のアリコートを、サンプリング後15分以内に、1.7mlの試薬R1と混合するか、または安定化させないまま保った。試料を直ちに処理するか、または室温で3日間および7日間保管した。処理するために、試料を1900×gで15分間遠心分離した。上清を再度遠心分離し(1900×gで10分)、2回目の遠心分離からの上清をQIAsymphonyシステムでの無細胞DNAの二連の精製に使用した。1回目の遠心分離後に得られた細胞ペレットを300μlのPBS中に溶解させた。再懸濁した細胞ペレット200μlをQIAamp Blood Miniキットを使用してゲノムDNAの抽出に使用した。残りの100μlをスライドガラス上で遠心分離し、パパニコロウで染色した(
図7を参照されたい)。ccfDNAにおける18s rDNAのコピー数を、三連のリアルタイムPCRによって、二連の試料から決定した。ゲノムDNA収率をNanodrop機器で測定した。結果を
図5から7に示す。
議論
【0260】
従来の細胞学的染色と同様に、無細胞DNAおよびゲノムDNAの検査を含むマルチモダリティ検査が、本発明による技術により安定化された尿試料に関して可能である。
【0261】
無細胞DNAは安定化されていない尿中では急速に分解するが、本発明により安定化された尿中では保存される。安定化されていない尿中では、ゲノムDNA収率は保管後に劇的に低減し得る。このことは、本発明の方法によって回避される。さらに、安定化されていない尿細胞中では、細胞学的性質は保管後に破壊され得る。しかし、本発明による技術を使用する場合、細胞学的性質は保存される。
4.
(実施例4)
尿中の無細胞(cf)DNAの保存に関するpHの影響
【0262】
1名の男性ドナーからの尿を2回遠心分離し、女性の尿中へのスパイクインのために尿からすべての細胞を除去した。6名の女性ドナーからそれぞれ200mlの尿を大きなボトルに採集し、採集直後に25mlの無細胞の男性の尿と混合した。10mlの尿(女性プラス男性)のアリコートを1.7mlの試薬と混合した。試薬との混合直後(t0)または室温で4日間のインキュベーション後のいずれかに、無細胞DNAをQIAsymphonyシステムで単離した。すべての試料は二連で処理した。y染色体DYS14 DNAに関するリアルタイムPCRを二連の試料から実施した。結果を
図8に示す。
議論
【0263】
図8に示されている結果は、安定化されていない尿またはPBSで緩衝された尿では、無細胞DNAが急速に分解することを示す。対照的に、本発明による試薬を用いて安定化された尿中では、無細胞DNAがより良好に保存される。女性の尿にスパイクインした男性の尿由来の無細胞DNAによって実証されたように、塩基性pHによって無細胞DNAの安定性はさらに改善された。
5.
(実施例5)
尿中の無細胞DNAの保存に関するpHの影響
【0264】
6名のドナーから尿を採集した。10mlの尿のアリコートを、サンプリング後15分以内に、1.7mlの安定化試薬R1、R8(pH7)、R9(pH8)、R10(pH9)、R11、R12(pH8)、R16、R17(pH7)、R18(pH4)およびR19(pH3)と混合した。尿-試薬混合物のpHは、試薬との混合直後(t0)または室温で4日間(t4d)もしくは7日間(t7d)のインキュベーション後のいずれかに決定した(表2)。
表2: 1.7mlの試薬を添加した後の10mLの尿試料のpHを、各試薬の添加直後(t0)または添加の4日後(t4d)と、実施形態では7日後(t7d)に、6名のドナーに関して決定した。平均pH値と標準偏差(SD)を示す。
【表2-2】
【0265】
10mlの尿のアリコートを、サンプリング後15分以内に、1.7mlのPBSまたは安定化試薬R1、R8(pH7)、R9(pH8)およびR10(pH9)と混合した。試薬との混合直後(t0)または室温で4日間(t4d)もしくは7日間(t7d)のインキュベーション後のいずれかに、無細胞DNAをQIAsymphonyで単離した。すべての試料は二連で処理した。18S rDNAのコピー数を、三連のリアルタイムPCRによって、二連の試料から決定した。66bpの断片に関する結果を
図9に示し、500bpの断片に関する結果を
図10に示す。
【0266】
安定化されていない、PBSで緩衝した尿中では無細胞DNAが急速に分解するが、小分子である無細胞DNAの総量は、大分子と同様に、本発明による試薬を用いて安定化された尿中で保存される。
【0267】
10mlの尿のアリコートを、サンプリング後15分以内に、1.7mlの試薬R1、R8(pH7)、R9(pH8)およびR10(pH9)と混合した。試料は直ちに処理されるか、または後で、室温で7日間保管された。処理するために、試料を1900×gで15分遠心分離した。上清を再度遠心分離した(1900×gで10分)。1回目の遠心分離から達成した細胞ペレットを200μlのPBSに溶解させ、QIAamp Blood Miniキットを使用してゲノムDNAの抽出に使用した。gDNAの完全性をアガロースゲル電気泳動によって分析した(
図11)。酸性pHに設定した試薬(R1)で安定化された尿試料から得たgDNAの完全性は、中性(R8(pH7))または塩基性のpH(R9(pH8)、R10(pH9))に設定した安定化試薬で安定化された尿試料からの収率と比較して、7日後に低下した。
【0268】
無細胞DNAの保存に関するpHの影響を分析するために、1名の男性ドナーからの尿を2回遠心分離し、女性の尿中へのスパイクインのために、すべての細胞を尿から除去した。4名の女性ドナーからそれぞれ200mlの尿を大きなボトルに採集し、採集の直後に25mlの無細胞の男性の尿と混合した。10mlの尿(女性プラス男性)のアリコートを、1.7mlのPBSまたは試薬R1、R8(pH7)、R9(pH8)およびR10(pH9)と混合した。無細胞DNAを、試薬との混合直後(t0)または室温で4日間(t4d)または7日間(t7d)のインキュベーション後のいずれかに、QIAsymphonyシステムで単離した。すべての試料を二連で処理した。y染色体のDYS14 DNAに関するリアルタイムPCRを二連の試料から実施した(
図12)。
【0269】
尿試料中の剥離細胞および無細胞DNAの安定化に関するpHの影響をさらに分析するために、さらにより酸性のpHを有する試薬(R18(pH4)およびR19(pH3))を尿試料に適用した。この目標を達成するために、10mlの尿のアリコートを、サンプリング後15分以内に、1.7mlの試薬R16、R12(pH8)、R17(pH7)、R18(pH4)およびR19(pH3)と混合した。試料を直ちに処理するか、または室温で4日間保管した。処理のために、試料を1900×gで15分遠心分離した。上清を再度遠心分離し(1900×gで10分)、2回目の遠心分離からの上清をQIAsymphonyでの無細胞DNAの二連の精製に使用した。18s rDNAのコピー数を、三連のリアルタイムPCRによって、二連の試料から決定した。66bpの断片に関する結果を
図14に示し、500bpの断片に関する結果を
図15に示す。
【0270】
EDTAは、500bpの断片において有意な減少を示すが(およそ32分の1)、66bpの断片では少量の増加を示す(
図14および15を参照されたい)。このことは、より大きな断片が分解によってより影響を受けることを示す。
【0271】
酸性pHに設定した試薬(R16、R18(pH4)およびR19(pH3))によって、保管後に、中性または塩基性pHに設定した安定化試薬と比較して、細胞ペレットからのより少ないゲノムDNAの回収しか可能にしなかった(
図11を参照されたい)。さらに、他の箇所で示されているように、無細胞DNAは採集時に尿中に既に存在し、スパイクイン実験によって示されているように非酸性pH値で、安定化が有意により良好に保存される。
【0272】
無細胞DNAの保存に関するpHの影響をさらに分析するために、1名の男性のドナーからの尿を2回遠心分離し、女性の尿中にスパイクインするために尿からすべての細胞を除去した。6名の女性ドナーからそれぞれ200mlの尿を大きなボトルに採集し、採集直後に25mlの無細胞の男性の尿と混合した。10mlの尿(女性プラス男性)のアリコートを、1.7mlの試薬R16、R12(pH8)、R17(pH7)、R18(pH4)およびR19(pH3)と混合した。無細胞DNAを、試薬との混合直後(t0)または室温で4日間(t4d)のインキュベーション後のいずれかに、QIAsymphonyシステムで単離した。すべての試料を二連で処理した。y染色体のDYS14 DNAに関するリアルタイムPCRを二連の試料から実施した(
図16)。
【0273】
無細胞DNAの保存は、中性から塩基性のpHの安定化試薬において、酸性pHと比較して有意に改善された。
議論
【0274】
結果は、無細胞DNAが、酸性pH値に設定した試薬で安定化された尿試料中でより急速に分解することを示す。採集/安定化の際に尿に含まれる無細胞DNAは、本発明による中性または塩基性の安定化組成物/試薬で安定化された尿中でより良好に保存される。中性または塩基性のpHによって、尿試料内に含有される細胞の安定化がさらに改善され、安定化された細胞から得ることができるゲノムDNAの収率が改善される(
図11も参照されたい)。
【0275】
さらに、
図14から16の結果は、細胞から得られるDNAの増加が、EDTAで安定化させただけの尿試料と比較して、本発明による安定化を使用した場合には、およそ15~20分の1に、有利に低下することを示す。EDTAで安定化された試料では、DNAの全体的な増加を、観察された分解(Dys 14-
図16を参照されたい)および増加(18s-
図14および15を参照されたい)から推測することができる。これは、以下の表3において反映されている。
【表3】
6.尿処理のワークフロー
【0276】
上記実験は、本発明の安定化技術によって、尿中の無細胞DNAが効果的に安定化されることを実証する。これはまた、驚くべきことに、剥離した有核細胞の細胞学的性質も保存する。よって、これらの細胞は、安定化された尿の遠心分離後に、細胞ペレットから回収することができ、細胞組織学検査方法に使用することができる。尿細胞は、この安定化によって、本質的に影響を受けず、十分に保存されるようであり、このことはむしろ予期せぬ観察であった。無細胞DNAおよび尿細胞に加えて、高品質のゲノムDNAもこのような安定化された尿試料から単離することができる。運搬および短期間の保管のための尿の安定化では、第三の態様による、好ましくは溶液剤の形態の安定化組成物を含む減圧採集容器、好ましくは管を使用するのが有利である。好ましくは、減圧受容容器は、一般的な尿採集デバイス、例えばBD Vacutainer Urine Collection溶液剤(背景を参照されたい)と適合する。この利点によって、本発明の安定化技術によって、1つの尿試料を使用するマルチモダリティ検査が可能になるワークフローが可能になる。
【0277】
例示的な尿処理ワークフローは、採集デバイスにおけるヒトの尿の採集と共に開始する(例えば、BD Vacutainer Urine Collection Cup、120mL)。次いで、採集された尿を、好ましくは本発明による安定化組成物を含む減圧受容デバイス(例えば、尿安定化管)中に移す。好ましくは、この移転は、取り扱いのエラーおよび夾雑のリスクを低減するように、採集カップを開ける必要および尿と試薬を特定の比で混合する必要がなく、BD Vacutainer Urine Collection Cupから直接的に起こる。これに準ずる直接的移転は、本発明による方法により、例えば、安定化剤を含む減圧受容デバイスを使用する場合に可能であり、先行技術の尿安定化デバイス(Streckなど)に対して有利である。また、任意の他の容器またはバッグ中に尿を採集し、次いで、好適なデバイスを使用して(例えば、BD Vacutainer Urine Transfer Strawを用いて)、運搬および保管のために尿試料を効果的に安定化させる、本発明による安定化組成物を含む減圧受容デバイス中に尿を移すことができる。
【0278】
減圧採集管に含まれる安定化組成物は、尿内の有核細胞を安定化させ、細菌が増殖するのを防止、無細胞DNAの分解を阻害する。DNAの精製のために、尿試料内の細胞を分離、例えば、遠心分離によりペレット化させる。分離された細胞試料からのgDNAまたは細胞枯渇上清からの無細胞DNAの精製は、確立された精製方法、例えば、QIAamp Kit、例えばQIAamp Miniキット、QIAamp circulating Nucleic Acid Kit またはQIAamp MinElute ccfDNA Kitを用いて手動で、および例えば、QS PAXgene Blood ccfDNAまたはQS DSP DNA Miniキットなどの自動化された方法を使用して実施することができる。また、他の方法は当技術分野で周知である。
【0279】
さらに、細胞ペレットまたは細胞ペレットの部分を再懸濁させ、スライド上で遠心分離、すなわち例えば、パパニコロウによる従来の細胞学的染色のために細胞遠心分離することができる。
【0280】
上で議論したように、安定化されていない尿中では、無細胞DNAが急速に分解するため、尿試料を急速に安定化させることが非常に重要である。本発明による安定化組成物は、この結果を達成する。上で議論したように、高いEDTA濃度を含み、好ましくは少なくとも7のpH、例えば少なくとも7.2、少なくとも7.3または少なくとも7.5のpHを有する、特許請求されている安定化組成物は、尿を安定化させるのに非常に有効であり、特に、無細胞DNAを分解から保護する。本明細書において実証されたように、少なくとも8のpHを有する安定化組成物により、良好な結果も達成された。さらに、本発明による安定化により達成される細菌増殖の阻害は、とりわけ、尿試料に含まれる無細胞DNAの分解を低減するため、非常に有利である。このことを、例えば、高濃度のEDTAを使用することによって、および/または細菌増殖を阻害するための保存剤、例えばアジ化ナトリウムもしくはProClinを含むことによって、達成することができる。
【0281】
一実施形態によれば、本発明による処理は、完全な分析前の尿ワークフローを網羅する以下のモジュールを含む:
- 尿採集デバイス。好適な例は、例えば、最大120mLの尿を受容することができるBD Vacutainer Urine Collection Cupである。好ましくは、この容器によって、本発明による安定化組成物を含む受容デバイス、例えば、減圧管中への尿の移転が可能になる(減圧管または容器を開ける必要なく)。尿採集デバイスは、例えば、キレート剤(好ましくはEDTA)などの1つもしくは複数の安定化剤および/または細菌増殖を阻害するための保存剤も含むこともできる。このような安定化剤は、尿カップなどの一次尿採集デバイスにおいて、乾燥形態、例えば噴霧乾燥形態で含まれるのが好ましい。
- 必要に応じて、標本への曝露なしに、標本カップまたは小児用バッグから、安定化組成物を含む1つまたは複数の受容デバイス、例えば減圧管への尿の移転を可能にする移転デバイス。好適な例は、BD Vacutainer Urine Collection Strawである。
- 本発明に従って使用される安定化剤を含む、好ましくは第三の態様による安定化組成物の形態の、採集された尿を受容するための受容デバイス。尿試料は、好ましくは、規定量の尿を管中に引き込むのに好適な減圧管である、この受容デバイスにおいて安定化される。受容管は、好ましくは、室温での尿試料の安全な輸送、保管および遠心分離を保証する粉砕耐性プラスチック製である。これは、好ましくは、栓を開ける場合に、管の内側が周りに広がるのを防ぐ安全キャップも含む。一実施形態によれば、減圧受容管、例えば減圧プラスチックBDバキュテナー管により、10mlの尿を引き込むことが可能である。有利には、市販の受容/採集および移転デバイスを使用することができる。含まれる安定化組成物は、室温での運搬および好ましくは短期間の保管のために、尿試料中の尿中の剥離した有核細胞の細胞学的性質、有核細胞内のゲノムDNA、ならびに無細胞DNAを安定させる。上で議論したように、本発明による安定化組成物は、架橋剤(例えばホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤)を含まなくてもよく、特に、細菌の増殖およびDNA(すなわちcfDNA)の分解を防止する。さらに、本発明による安定化組成物は、含まれる細胞のその後の細胞学的分析を可能にする。好ましくは、安定化組成物は、溶液剤などの液体安定化組成物である。
【0282】
尿試料の安定化後に、安定化された尿試料はさらに処理されてもよい。一実施形態によれば、安定化された尿試料から細胞が分離され、(i)細胞試料および(ii)細胞枯渇上清をもたらす。得られた細胞試料および/または上清はさらに処理されてもよい。ワークフローには、以下のうちの1つまたは複数を含み得る:
【0283】
(aa)細胞枯渇上清または無細胞上清からの無細胞DNAの精製。ここで、一般的な方法が使用されてもよく、市販のキットも利用可能である(例えば、尿からのcfDNAの手動精製のためのQIAamp Circulating Nucleic Acid Kit;遠心分離を使用する尿からのcfDNAの手動精製のためのQIAamp MinElute ccfDNA Kit、ならびにQIAcubeおよびEZ1の自動化;尿からのcfDNA精製のためのQIAsymphony PAXgene Blood ccfDNAキット)。
【0284】
(bb)分離した細胞からのゲノムDNAの精製。再度、ゲノムDNA精製のために一般的方法が使用されてもよく、このようは方法もまた市販されている(例えば、尿からのgDNA精製のためのQIAamp Mini Kit;尿からのgDNA精製のためのQIAsymphony DPS Miniキット)。
【0285】
(cc)分離された細胞の細胞学的分析。例えば、細胞学的分析のための尿中剥離細胞の調製は、得られた細胞ペレットから調製されてもよい。
【0286】
単離されたDNA(無細胞DNAおよび/またはgDNA)は、リアルタイムPCRなどの分析方法、シーケンシング(例えば、次世代シーケンシング)または他の分析技法によって分析することができる。尿採集、安定化および処理のためのこのワークフローは、1つの試料に関するマルチモダリティ検査を有利に可能にする。
【配列表】