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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ウイルスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20240903BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20240903BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240903BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C12N7/00
C12N7/02
A61K39/00 G
A61K39/12
A61P31/12
A61P37/04
A61K35/76
C12N5/10
C12N15/86 Z
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021547219
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 US2020018347
(87)【国際公開番号】W WO2020168230
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】62/806,277
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518068006
【氏名又は名称】オロジー バイオサーヴィシズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ,エリック
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-178684(JP,A)
【文献】特表2018-506283(JP,A)
【文献】再公表特許第2009/090933(JP,A1)
【文献】特開2005-287453(JP,A)
【文献】米国特許第06168944(US,B1)
【文献】特開平07-055752(JP,A)
【文献】World Journal of Gastroenterology,2004年,Vol.10, No.17,p.2571-2573
【文献】Journal of Virology,2013年,Vol.87, No.5,p.2935-2948
【文献】Cytotechnology,1999年,Vol.31,p.265-270
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
A61K 39/00
C12N 5/10
C12N 15/86
A61K 35/76
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)バイオリアクター中に宿主細胞を提供する工程と、
b)100%の一定の初期溶存酸素(dO レベル、一定のpH及び一定の温度で前記宿主細胞を増殖させる工程と、
c)工程b)の後、dO レベルを前記初期dO レベルの20~90%まで減少させ、前記dO レベルを低下させた状態で宿主細胞に感染させる前に、宿主細胞を2~24時間増殖させ続ける工程と、
d)工程c)の後、少なくとも1つのウイルス又はウイルス粒子で前記宿主細胞を感染させる工程と、
e)工程d)の後、前記ウイルス又はウイルス粒子で感染させた前記宿主細胞をインキュベートして、前記ウイルスを繁殖させる工程と、
f)工程e)の後、前記ウイルスを回収する工程と
を含
工程c)の前記低下したdO レベルは、工程d)、e)、およびf)を通じて一定に維持される、
バイオリアクターにおいてウイルスを製造する方法。
【請求項2】
前記宿主細胞は、接着細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイオリアクターは、固定床バイオリアクターである、請求項1~2のいずれか一つに記載の方法。
【請求項4】
前記固定床の高さは、2cm~10cmである、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記バイオリアクターは、使い捨て固定床バイオリアクターである、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
工程c)における前記dOレベルは、前記初期dO レベルの20~50%まで減少させる、請求項1~5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
工程b)で前記増殖させた宿主細胞の導電率が60mS/cm~80mS/cmのとき、工程c)における前記dOレベル減少させる、請求項1~6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記導電率が90mS/cm~110mS/cmのとき、工程d)における前記宿主細胞がウイルスに感染する、請求項1~7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記宿主細胞の前記ウイルスでの感染は、約0.1~0.05の感染多重度(MOI)でなされる、請求項1~8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記宿主細胞の前記ウイルスでの感染は、0.05のMOIでなされる、請求項1~9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
工程c)における前記dO レベルは、工程d)における前記宿主細胞の感染の前、12~24時間に減少させる、請求項1~10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスは、血管性水疱性口内炎ウイルス(VSV、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ロスリバーウイルス、A型肝炎ウイルス、ワクシニアウイルス及び組換えワクシニアウイルス、単純ヘルペスウイルス、日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、及びこれらのキメラ、並びにライノウイルス及びレオウイルスからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスは、ウイルスベクターである、請求項1~12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスは、VVである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞は、Vero細胞、MBCK細胞、MDBK細胞、MRC-5細胞、BSC-1細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、CHO細胞、COS細胞、ネズミ細胞、ヒト細胞、鳥類細胞、昆虫細胞、HeLa細胞、HEK-293細胞、MDOK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、TCMK細胞、LLC-PK細胞、PK 15細胞、Wl-38細胞、T-FLY細胞、BHK細胞、SP2/0細胞、NS0細胞、及びPerC6細胞からなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
前記宿主細胞は、Vero細胞である、請求項1~15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
プラークアッセイ法によって、ウイルス力価を判断する工程をさらに含む、請求項1~16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
前記ウイルスを純化する、及び/又は特定する工程をさらに含む、請求項1~17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
前記ウイルスによりワクチンを製造する工程をさらに含む、請求項1~18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
前記バイオリアクターは、700~800mLの容量を有する、請求項1~19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
前記バイオリアクターは、50~80mLの容量を有する、請求項1~19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
前記バイオリアクターは、無タンパク質培養培地を保持する、請求項1~21に記載の方法。
【請求項23】
a)バイオリアクター中に宿主細胞を提供する工程と、
b)100%の一定の初期溶存酸素(dO レベル、一定のpH及び一定の温度で宿主細胞をコンフルエントまで増殖させる工程と、
c)工程b)の後に、dO レベル前記初期dOレベルの20~50%まで減少させる工程と、
d)工程c)の後に、少なくとも1つのウイルス又はウイルス粒子で前記宿主細胞を感染させる工程と、
e)工程d)の後に、前記ウイルス又はウイルス粒子で感染させた前記宿主細胞をインキュベートして、前記ウイルスを繁殖させる工程と、
f)前記ウイルスを回収する工程と
を含
工程c)の前記低下したdO レベルは、工程d)、e)、およびf)を通じて一定に維持される、バイオリアクターにおいてウイルスを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2019年2月15日出願の米国仮出願第62/806,277号の優先権を主張するものであり、内容を参照することにより組み込まれる。
【0002】
本発明は、ワクチン及びウイルスベクターの製造のためにウイルス及びウイルスベクターを増殖させる方法に関する。特に、本発明は、固定床バイオリアクターにおける宿主細胞からのウイルス収率を増加させるための具体的な方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ワクチン及び他の治療薬に対する増え続ける需要を満たすために、ウイルス及びウイルスベクターの迅速な製造を可能にする堅牢な技術が不可欠である。また、Vero細胞や他の哺乳動物細胞プラットフォーム、鳥類細胞プラットフォーム、昆虫細胞技術プラットフォーム等の多用途宿主細胞技術プラットフォームの開発には、宿主細胞からのウイルス収量を向上させる技術もワクチンプロセスや製造の開発を加速させる上で重要な役割を果たしている。本発明は、ウイルス製造の方法を改善するニーズを満たすものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ウイルス収量を増加させるプロセスを提供する。一実施形態において、バイオリアクターにおいてウイルスを製造する方法が開示されている。本方法は、1)溶存酸素(dO)、pH、及び温度等のパラメータが制御可能な環境において、バイオリアクター中に宿主細胞を提供する工程、2)一定の初期100%dO、pH7.4、及び37℃の温度で細胞を増殖させる工程、3)pH及び温度を一定に保ちながら、dOレベルを初期dOレベルの20~50%に減少させる工程、4)dOを減少させた後、少なくとも1つのウイルスで細胞を8~24時間感染させ、宿主細胞を20~50%のdOレベル、pH7.4及び37℃の温度でウイルスと共にインキュベートする工程、及び5)ウイルスを回収する工程、を含む。一実施形態において、宿主細胞は固定依存性であり、固定するためにマイクロキャリア及び/又は固定床を必要とする接着細胞である。好ましい実施形態において、Vero細胞は、固定床バイオリアクターにおいて、宿主細胞として用いられる。
【0005】
本発明の好ましい実施形態において、dOは、宿主細胞をウイルスで感染させる前、12時間で少なくとも50%減少する。好ましい実施形態において、宿主細胞は、宿主細胞が最大細胞密度まで増殖された後にウイルスに感染される。本発明のさらに別の実施形態において、dOは、宿主細胞が最大細胞密度に達した後に減少する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1Aは、固定床バイオリアクターにおいて使用されるマイクロキャリアストリップを示しており、ストリップ当たり約11.2cmの3次元領域の13個のマイクロキャリアストリップが、5mLの培地中に示される。
図1B図1Bは、床当たり3,500個までのストリップを保持するために使用することができるバイオリアクターの断面図を示す。
図1C図1Cは、バイオリアクターの異なる部分を断面図で示す。
図2図2は、dO、pH、温度、及びバイオマスパラメータのグラフである。dO、pH、及び温度を一定として設定し、バイオマスプローブ(細胞増殖の増加を測定する)に関連する導電率が55mS/cmに達したときに感染が起こった。
図3図3は、dO、pH、温度、及びバイオマスパラメータのグラフである。pH及び温度を定数として設定したが、dOは、感染の前12時間で45~50%に減少し、感染の間一定のままであった。感染時に、バイオマスプローブに関連する導電率は、80mS/cmに達した。
図4図4は、dO、pH、温度、及びバイオマスパラメータのグラフである。dO、pH及び温度を一定として設定した。感染時に、バイオマスプローブに関連する導電率は、110mS/cmに達した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、バイオリアクターにおけるウイルスの製造を増加させるための方法を提供する。
【0008】
以下は、本出願の詳細な説明に適用される。
【0009】
単数名詞、例えば「1つ」又は「その」というとき、不定冠詞又は定冠詞が使用される場合、他の何かが具体的に述べられていない限り、その名詞の複数形を含む。本発明の文脈において、「約」又は「おおよそ」という用語は、当業者が当該特徴の技術的効果が確実に理解される正確度を示す。この用語は、典型的には、示された数値から±10%、好ましくは、±5%の偏差を示す。
【0010】
本発明は、a)一定の初期dOレベル、pH、及び温度で宿主細胞を増殖させる工程、c)感染前の8~24時間に、dOを初期レベルの20~50%に減少させる工程、d)細胞を少なくとも1つのウイルスで感染させる工程、及びe)ウイルスを回収する工程を含む、バイオリアクターにおいて、ウイルスを製造する方法に関する。この方法によって製造されるウイルスの量は、dOを含む全てのパラメータがプロセス全体を通して一定に保たれる従来の方法で製造される量よりも大幅に多い。
【0011】
本明細書で使用される「大規模」製造という用語は、少なくとも200リットル、好ましくは少なくとも500リットル、最も好ましくは約1000リットルの最小培養容積での製造を意味する。
【0012】
本明細書中で使用される「バイオリアクター」という用語は、制御された条件下でのウイルス及びベクターの増殖のような生物学的プロセスが実施される、生物学的に活性な環境を支持するデバイスをいう。バイオリアクターは、研究室で使用されるような小規模培養物、パイロット植物又は商業規模でワクチンウイルス、抗原、及びベクターのような生物学的高分子を製造及び回収するための容器又はバットを含む大規模バイオリアクターのために設計することができる。バイオリアクターは、懸濁細胞及び接着細胞の両方を繁殖させるのに使用される。バイオリアクターは、酸素/dO、窒素、二酸化炭素、及びpHレベルを調節することができる制御された環境である。dO、pH、温度、及びバイオマス等のパラメータを定期的な間隔で測定する。バイオリアクターの「容量」は、5mL~5000mLの範囲である。容量は、約2mL~約10mL、約5mL~約50mL、約25mL~約100mL、約75mL~約500mL、約250mL~約750mL、約600mL~約1000mLである。好ましい実施形態において、容量は50mL又は80mLであってよい。別の好ましい実施形態において、容量は700mL~800mLであってよい。
【0013】
「固定床バイオリアクター」は、細胞接着及び増殖を促進する充填材料の固定床を含むタイプのバイオリアクターを意味する。固定床バイオリアクターは、低い剪断力で高い細胞密度を潅流する能力のために、小規模と大規模の両方でウイルスワクチン製品を製造するのに使用されてきた。固定床バイオリアクターは、市販のiCELLisシステム(Pall Corporation)等の使い捨てバイオリアクターであってもよい。iCELLisシステムプラットフォームは、無菌操作を必要としない、堅牢な単一の閉鎖システムにおいて、医療グレードのポリエチレンテレフタレート(PET)織繊維から構成されるキャリアを含む、新規な固定床技術を提供する。さらに、このシステムは、温度、O、pH、二酸化炭素(CO)、及び窒素(N)の制御による「ウォーターフォール」技術を使用する高速のガス交換を組み込み、さらに、低い細胞剪断応力及び均一に分布した培地循環を生じる磁性インペラの使用を組み込む。ほとんどのウイルスについて、iCELLisシステムからの製造力価は、従来の接着細胞フラットストックフラスコと比較して大幅に増加する。iCELLis技術は、増殖面積が66~500m2のiCELLis500等の製造規模や、増殖面積が0.5m~4m2と製造規模の間であるiCELLisナノ等の小規模で使用される。小規模システムで開発されたプロセスは、製造規模のものまでスケールアップすることができる。
【0014】
固定床バイオリアクターは、pH、温度、溶存酸素、及び接着細胞密度を示すバイオマスを測定及びモニターするセンサーを有する。固定床バイオリアクターはまた、酸素又は窒素の添加を可能にする異なるポート、培地交換ポート、pHを調節するための水酸化ナトリウム(NaOH)及び/又はCOの添加のためのポートを有する。培地のdOは、O又はNの添加によって変更することができる。好ましくは、dOレベルは、バイオリアクターのヘッドスペースにNを注入し、同時に撹拌し、dOをモニターすることによって、制御された方法で減少させることができる。
【0015】
開示された方法の宿主細胞は、固定依存性細胞であってもよく、又は固定依存性細胞株となるように適合されてもよい。開示された方法の宿主細胞は、バイオリアクター中で懸濁されていてもよいマイクロキャリア上、又はマイクロキャリアストリップ上で培養される。好ましくは、宿主細胞は、固定床バイオリアクターの固定床においてマイクロキャリアストリップ上で培養される。各マイクロキャリアストリップは、1ストリップ当たり1.25cm2の2次元領域及び11.2cm2の3次元領域を提供することができる。約13のマイクロキャリアストリップは、1つのT-150フラットストックフラスコによって提供される増殖面積にほぼ等しい145.6cm2の凡その面積を提供する。好ましくは、固定床バイオリアクターは、市販のiCELLISナノ(Pall Corporation)、iCELLis500バイオリアクター(Pall Corporation)、又はUnivercells固定床バイオリアクター(Univercells SA)である。固定床は、iCELLisナノ等の800mL固定床バイオリアクター中で最大40,000cm2、及びiCELLis500等の25L固定床バイオリアクター中で5,000,000cm2までを提供することができる(図1A~C、表1)。固定床の高さは、20mmから10mmの範囲であり、800mL固定床バイオリアクターにおいて5300cm2から40,000cm2、25L固定床バイオリアクターにおいて660000cm2から5,000,000cm2の増殖面積を与える。
【0016】
【表1】
【0017】
宿主細胞は、2000~20,000細胞/cm2の範囲の播種密度を用いて培養することができる。播種密度は、宿主細胞のタイプ、バイオリアクターの体積、固定床バイオリアクターにおける固定床の高さ等に基づいて調節される。プロセスに最適な播種密度を選択することは、当業者の知識の範囲内である。細胞の増殖は、バイオリアクターの固定床内のバイオマスセンサーを使用して、バイオマスを測定することによって測定することができる。導電率により接着細胞の質量を示すバイオマスを利用して、宿主細胞の全体的な増殖及び感染後のウイルスの繁殖による細胞質量の低下をモニターする。バイオマスセンサーによってモニターされる、より高い導電率によって示される、より高いバイオマスは、細胞のより速い増殖速度を示す。バイオマスは、培養開始時の低バイオマスでの5mS/cmの低導電率から、細胞が最大増殖に達した場合の最大バイオマスでの約110±50mS/cmまでの範囲となる。
【0018】
本明細書中で使用される「培養培地」又は「培地」は、バイオリアクター中で宿主細胞を培養するために使用される液体をいう。本開示の手順において使用される培地は、宿主細胞の増殖を支持する様々な成分、これらに限られるものではないが、アミノ酸、ビタミン、有機及び無機塩、炭水化物を含む。培地は、無血清培地であってもよく、これは動物血清を含まないように調製された培地である。使用される場合、無血清培地は、これらに限られるものではないが、DMEM、DMEM/F12、Medium199、MEM、RPMI、OptiPRO SFM、VP-SFM、VP-SFM AGT、HyQ PF-Vero、MP-Veroから選択される。培養培地はまた、動物質を含まない培地であってもよく、すなわち、動物起源の生成物を全く有さない。培養培地はまた、タンパク質を含まない培地であってもよく、すなわち、培地は、タンパク質を含まないように調製される。無血清培地又は無タンパク質培地は、血清又はタンパク質なしで調製されてもよいが、宿主細胞に由来する細胞タンパク質、及び任意で無血清培地又は無タンパク質培地に特異的に添加されるタンパク質を含んでいてもよい。
【0019】
培養のためのpHは、宿主細胞のpH安定性に依存して、例えば、6.5~7.5の間である。好ましくは、細胞は、pH7.4で培養される。宿主細胞は、哺乳動物細胞については20~40℃、特に30~40℃、好ましくは37℃の温度で培養することができる。
【0020】
本開示の方法において、ウイルスの培養に使用される宿主細胞又は宿主細胞株又は細胞は、ウイルス抗原、ウイルスベクター、又はウイルス製造の製造に適した任意の真核細胞である。好ましくは、宿主細胞は、「接着細胞」又は「固定依存性細胞」である。接着細胞は、培養条件下で表面に接着する細胞であり、増殖のために固定が必要であり、それらは固定依存性細胞とも呼ばれる。開示の手順に適した接着細胞としては、これらに限られるものではないが、Vero細胞、MBCK細胞、MDBK細胞、MRC-5細胞、BSC-1細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、CHO細胞、COS細胞、ネズミ細胞、ヒト細胞、鳥類細胞、昆虫細胞、HeLa細胞、HEK-293細胞、MDOK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、TCMK細胞、LLC-PK細胞、PK15細胞、Wl-38細胞、T-FLY細胞、BHK細胞、SP2/0細胞、NS0細胞、NTCT細胞、及びPerC6細胞、3T3細胞、又はこれらの組み合わせ、又は改変が挙げられるが。好ましい接着細胞は、PETストリップ等のキャリア上で増殖させることができる固定依存性細胞であるが、接着細胞として増殖するように適合させることができる懸濁細胞も使用することができる。より好ましくは、本開示の固定依存性細胞は、Vero細胞である。本開示のプロセスにおける使用に適切な接着性宿主細胞を選択することは、当業者の知識の範囲内である。
【0021】
本開示のウイルスは、ウイルス、ウイルス抗原、又はウイルスベクター、又はそれらの組み合わせもしくは改変である。ウイルスは、これらに限られるものではないが、血管性水疱性口内炎ウイルス(VSV)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、チクングニアウイルス、ロスリバーウイルス、A型肝炎ウイルス、ワクシニアウイルス及び組換えワクシニアウイルス、日本脳炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、狂犬病ウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、及びこれらのキメラ、同様に、ライノウイルス及びレオウイルスの群から選択される、全ウイルス、又はウイルス抗原である。
【0022】
本開示の一実施形態において、ウイルスは、ウイルスベクターである。ウイルスベクターは、目的の細胞にパッセンジャー核酸配列を移入するために使用されるウイルスである。ウイルスベクターは、組換えタンパク質を誘導するために使用されるウイルス発現ベクターであってもよい。好ましくは、ウイルスベクターは、改変されたワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、VSV、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスであってもよい。より好ましくは、本発明のウイルスベクターは、VSVベクターである。ウイルスベクターによって発現される組換えタンパク質は、ウイルスタンパク質、細菌タンパク質、治療用組換えタンパク質、又はそれらの組み合わせである。より好ましくは、ウイルスベクターによって製造される組換えタンパク質はウイルスタンパク質である。
【0023】
好ましくは、本発明のウイルスは、VSVベクターである。ラブドウイルス系列の一員であるVSVは、マイナス鎖RNAゲノムをもつエンベロープウイルスであり、生きている家畜に自己制限疾患を引き起こす。弱毒化されたVSVは、ヒトにおいて非病原性であり、動物においてほとんど非毒性であり、目的の連続的な哺乳動物細胞株において強い増殖を示し、複製の間にDNA中間体を欠き、強い細胞性及び体液性免疫応答を誘発し、複数部位における導入遺伝子の挿入を可能にするゲノム構造を示すので、望ましいウイルスベクターである(Humphreys及びSebastian、Immunology、2018、153:1-9、Clarkeら、Vaccine.2016、34:6597-6609)。
【0024】
本明細書中で使用される「感染」又は「ウイルス感染」とは、宿主細胞内へのウイルスの侵入及びその後の細胞内でのウイルスの複製を意味する。本開示の方法における宿主細胞の感染は、細胞が特定のバイオマスに到達したときに行うことができる。好ましくは、細胞が高いバイオマスによって示される高い増殖速度、及びバイオマスセンサーによって測定される高い導電率に到達したときに感染される。細胞は、導電率が50mS/cm~約120±20mS/cmの範囲である場合、目的のウイルスに感染される。細胞は、細胞が110±10mS/cmの導電率によって示される高い増殖に達したときに感染するのが好ましい。宿主細胞は、少なくとも1つのウイルス粒子に感染する。本明細書中で使用される場合、感染多重度(MOI)は、各細胞に感染するウイルス粒子の平均数である。ウイルスによる宿主細胞の感染は、約0.0001~10、好ましくは0.001~0.5、最も好ましくは0.05のMOIで行うことができる。十分な感染に必要なウイルス粒子の数は、当業者の知識の範囲内である。
【0025】
本開示の方法の宿主細胞は、100%の初期dOで培養される。dOは、感染前に90%のレベルまで、20%のレベルまで減少させてもよい。dOは、約80%~約60%、約70%~約40%、約50%~約15%減少させることができる。好ましくは、dOは、感染前に約50%から約20%まで減少される。より好ましくは、レベルは、感染前に約20%まで減少する。
【0026】
dOは、感染の2~24時間前の範囲で一度に減少し始め、感染プロセス全体を通して、かつウイルスの回収を通して、このレベルに保たれる。dOは、感染前、約2時間~約10時間、約5時間~約15時間、約10時間~約20時間、及び18時間~約24時間に減少し始める。好ましくは、dOは、感染前、8時間~約12時間の範囲の時間で減少し始める。
【0027】
本開示のdOの減少は、バイオマスセンサによって測定される導電率が、約50mS/cm~約90mS/cmの範囲である場合に始まる。本開示のdOの減少は、導電率が、約40mS/cm~約60mS/cm、約50mS/cm~約80mS/cm、約70mS/cm~約90mS/cm、約80mS/cm~約100mS/cmの範囲である場合に始まる。好ましくは、本開示のdOの減少は、導電率が約70mS/cm~約90mS/cmの範囲である場合に始まる。
【0028】
本明細書で使用される「回収」又は「ウイルス回収」は、バイオリアクター中の宿主細胞から未浄化培養培地を集めることによるウイルスの収集を指す。ウイルスの回収は、感染後2~5日、又はdOの減少後3~6日に行うことができる。好ましくは、ウイルスの回収は、感染の2日後に行われる。ウイルスによっては、回収前に宿主細胞溶解の追加工程が必要となる。
【0029】
本開示のウイルスは、これらに限られるものではないが、プラークアッセイ、終点希釈アッセイ、赤血球凝集アッセイ、ビシンコニン酸アッセイ、又は電子顕微鏡を含む方法によって定量される。好ましくは、ウイルスは、プラークアッセイ法によって定量される。本明細書中で使用される場合、プラークアッセイ法は、プラーク形成単位(pfu)の測定に基づいて、感染性ウイルス粒子の数を測定する方法である。プラークアッセイでは、細胞単層をウイルスストック溶液の連続希釈液で感染させ、アガロースオーバーレイを用いてウイルスの流れを制限する。感染した細胞は、子孫ウイルスを放出し、それが次に隣接する細胞に感染する。細胞を溶解して、プラークと呼ばれる非感染細胞によって囲まれた透明な領域を生成し、これを色素を用いて可視化する。サンプルのウイルス力価が高くなると、プラークの数が多くなる。
【0030】
実施例
iCELLisナノサイズ固定床バイオリアクターシステムを実施例1~4で使用した。iCELLisナノバイオリアクターは、約800mLを保持することができ、これは、20mm~10mmの固定床高さを有する約5,300~40,000の総表面増殖面積に相当する。増殖面積は、35~267 T-150フラスコに相当し、積層増殖に使用することができた(図1A、1B、及び表1参照)。iCELLisを用いて、異なるパラメータを用いた実験を行った。
【0031】
実施例1 パラメータをウイルス製造のベースラインとした実験によるVSV製造
Vero細胞を、iCELLisバイオリアクター中、約100%dO、37℃、7.4pHで増殖させた。Vero細胞の培養期間にわたって、バイオリアクターのバイオマスセンサーを使用して細胞増殖をモニターし、Vero細胞を55mS/cm導電率(細胞増殖の尺度)でVSVに感染させた。このシステムは、感染後、約12~24時間で約75mS/cmの最大導電率(最大細胞増殖)に達した(図2)。感染は、0.05MOIでなされた。感染後2日目にウイルスを回収した。ウイルス製造は、フラットストック中で増殖する同じ細胞からの力価と比較した場合、1mLあたり1logを超えて増加した(図2、表2)。
【0032】
実施例2 感染前約12時間でdOが減少し、感染中維持され回収される実験によるVSV製造
Vero細胞を、dO約100%、温度37℃温度、pH7.4で培養した。Vero細胞の培養期間にわたって、バイオマスセンサーを使用して細胞増殖をモニターし、細胞を80mS/cmの導電率(ほぼ最大の導電率)で感染させた。すなわち、Vero細胞を、最大細胞増殖に到達したときに感染させた。感染前、約12時間、dOレベルは45~50%に減少し、感染期間中及び回収を通して、この減少したレベルで一定に保たれた。温度を37℃に維持し、pHを7.4に維持した。感染後、約2日目にウイルスを回収した。感染前、12時間dOを減少し、Vero細胞が最大細胞増殖を達成した後、Vero細胞にVSVを感染させると、フラットストックからのVSV力価と比較してVSV力価が2logを超えて上昇し(表2)、実施例1と比較してウイルス力価が5.9倍上昇した(dOの減少なし)(図3)。
【0033】
実施例3 dO、pH、及び温度が一定であることに加えて、最大導電率での実験によるVSV製造
Vero細胞を、バイオリアクター中、dO約100%、温度37℃、pH7.4で培養した。Vero細胞の培養期間にわたって、バイオマスセンサーを用いて細胞増殖をモニターし、細胞を110mS/cmの導電率(ほぼ最大の導電率、すなわち、最大細胞増殖に到達したとき)で感染させた。感染は0.05MOIでなされた。dOレベルに調整は行わなかった。温度を37℃に維持し、培養及び感染期間を通してpHを7.4に維持した。感染後約2日目にウイルスを回収した。この実験からのVSV力価は、実施例1のものと同様であり、実施例2で観察されたより高い収率はdOの変形例によるものであり、最大の細胞増殖でVero細胞を感染させることによるものではなく、これは、おそらく、より多くの細胞が感染するために、全体の力価を増加させることができるものと考えられる(図4、表2)。
【0034】
【表2】
【0035】
表2は、異なる実験での繁殖データを比較する。繁殖データを比較した。
1.フラットストックフラスコ中でVero細胞から増殖させたVSV、
2.感染中のdO%が90%である、iCELLisシステム中でVero細胞から増殖させたVSV(実験1)、
3.感染中のdO%が40%である、iCELLisシステム中でVero細胞から増殖させたVSV(実験2)、及び
4.感染中のdO%が20%である、iCELLisシステム中でVero細胞から増殖させたVSV(実験3)。
表2のデータは、CS10フラスコストック、実験1、実験2、及び実験3それぞれのVSV力価の大幅な増加、及び総ウイルス製造の漸増を示す。これは、平床バイオリアクターiCELLisを用いてVSVを増殖させると、フラットストックから製造されたウイルスと比較した場合、1mL当たりのウイルス製造が1~2log増加したことを示している。より重要なのは、感染中のdOの漸減は、VSV力価及び総ウイルス製造の有意な漸増となったことである。
【0036】
実施例4 感染時の異なるdOレベルでのVSV製造
VSVを、dO約100%、温度37℃、pH7.4でVero細胞中で増殖させた。感染前、約12時間で、dOレベルは90%、40%、20%に減少し、感染期間を通じてこの減少レベルが一定に保たれた。温度を37℃に維持し、pHを7.4に維持した。感染後、約2日目にウイルスを回収した。表2に示すように、これらの結果は、感染時のdO減少のレベルに伴い、ウイルス収量の漸増を示している。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4