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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】二次元材料のラジカルアニオン官能化
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240903BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20240903BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20240903BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240903BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20240903BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B32/194
C01B32/21
H01B1/06 A
H01M10/0562
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021550135
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 US2020020383
(87)【国際公開番号】W WO2020180680
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】62/813,276
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521378761
【氏名又は名称】ボロン ナイトライド パワー リミテッド ライアビリティ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BORON NITRIDE POWER LLC
【住所又は居所原語表記】155 N.Harbor Drive,Apt. 3612,Chicago,Illinois 60601, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】ネメス,カロライ
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0133928(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0134585(US,A1)
【文献】特開2013-079176(JP,A)
【文献】NEIL BARTLETT, et al,Novel Salts of Graphite and a Boron Nitride Salt,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY,CHEMICAL COMMUNICATION,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY,1978年,5,200-201,-
【文献】Karoly Nemeth,Radical anion functionalization of two-dimensional materials as a means of engineering simultaneously high electronic and ionic conductivity solids,Nanotechnology,2021年03月24日,doi:10.1088/1361-6528/abd1a8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C01B 32/00 - 32/991
H01B 1/00 - 1/24
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された形態と剥離された形態のうちの1つにおける2D層状材料を提供する工程と、
第1の塩を提供する工程と、
前記第1の塩をルイス酸と反応させて、前記第1の塩のカチオンと、前記第1の塩のアニオンと前記ルイス酸との反応物であるアニオンと、からなる第2の塩を形成する工程と、
前記第2の塩を活性化してラジカルアニオンを生成する工程と、
前記ラジカルアニオンを前記2D層状材料と反応させて、官能化された2D層状材料の第3の塩を得る工程と、
を含む、官能化された二次元(2D)層状材料の合成方法。
【請求項2】
前記第1の塩は、過酸化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の塩は、炭酸塩及び炭化水素酸塩のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の塩は、シュウ酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の塩は、水酸化物又は酸化物のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ルイス酸は、三ハロゲン化ホウ素、BXであり、X、X及びXは、それぞれ、ハロゲン元素F、Cl、Br、及びIの群から個別に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ルイス酸は、三ハロゲン化アルミニウム、AlXであり、X、X及びXは、それぞれ、ハロゲン元素F、Cl、Br、及びIの群から個別に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ルイス酸は、二酸化硫黄、SOである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ルイス酸は、三酸化硫黄、SOである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記活性化は、加熱によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記活性化は、超音波処理によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記活性化は、電気化学的手段によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記活性化は、前記第2の塩の溶融相で起こる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記活性化は、前記第2の塩の溶液で起こる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記溶液は、液体BF、液体BCl、溶融AlF、及び溶融AlClのうちの1つである溶媒に基づく、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記2D層状材料は、六方晶窒化ホウ素である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記2D層状材料は、グラファイトである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記活性化は、対応するラジカルアニオンを生成する前記第2の塩からのプロトン及び他のカチオンのうちの1つの電気化学的除去に基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項19】
積層された形態と剥離された形態のうちの1つにおける2D層状材料を提供する工程と、
プロトン以外のカチオン及びラジカルアニオンから構成される第1の塩を提供する工程と、
前記第1の塩から前記カチオンを抽出して、前記ラジカルアニオンを形成する工程と、
前記ラジカルアニオンを前記2D層状材料と反応させて、官能化された2D層状材料の第2の塩を得る工程と、
を含む、官能化された二次元(2D)層状材料の合成方法。
【請求項20】
積層された形態と剥離された形態のうちの1つにおける2D層状材料を提供する工程と、
過酸化水素及びヒドラジンのうちの1つのルイス塩基と、三ハロゲン化ホウ素及び三ハロゲン化アルミニウムのうちの1つのルイス酸との、ルイス付加物を提供する工程と、
前記ルイス付加物を前記2D材料と混合する工程と、
前記ルイス付加物を活性化してO-O及びN-N結合を解離し、プロトンを含む酸性ラジカル及びラジカルアニオンを生成する工程と、
前記ラジカルアニオンを前記2D材料と反応させて、ラジカルアニオンで官能化された酸性2D材料を得る工程と、
を含む、官能化された二次元(2D)層状材料の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年3月4日に出願された、Karoly Nemethによる“Synthesis of Oxy-Borohalide and Oxy-Aluminohalide Functionalized Two-Dimensional Materials by Thermal Splitting of Related Salts”と題する米国仮特許出願第62/813276号を、法律で認められる範囲で、最大限に活用する。
【0002】
本発明は、オキシ-ボロハライド(-OBX)及びオキシアルミノハライド(-OAlX)官能基による六方晶窒化ホウ素(h-BN)及びグラフェンの共有結合的官能化に関し、この場合、Xは、ハロゲン元素F、Cl、Br、Iの群から選択される。更に、本発明は又、二次元材料の一般的なラジカルアニオン官能化に関する。
【背景技術】
【0003】
官能化された六方晶窒化ホウ素(h-BN)は、近年、K.Nemeth:“Functionalized Boron Nitride Materials as Electroactive Species in Electrochemical Energy Storage Devices”、国際公開第2015/006161号パンフレット、米国特許出願公開第2014/045402号明細書での電池のカソードにおける電気活性種として提案されている。このような化合物の1つの可能な合成方法は、K.Nemeth,A.M.Danby and B.Subramaniam:“Synthesis of Oxygen and Boron Trihalogenide Functionalized Two-Dimensional Layered Materials in Pressurized Medium”、国際公開第2017/196738号パンフレット、米国特許出願第17/031579号明細書に記載されているように、酸素官能化h-BNと対応するホウ素(B)又はアルミニウム(Al)三ハロゲン化物の反応に基づいている。これらの材料の計算分析は、K.Nemeth:“Simultaneous Oxygen and Boron Trifluoride Functionalization of Hexagonal Boron Nitride:A Designer Cathode Material for Energy Storage”Theoretical Chemistry Accounts(2018)137-157で提供されている。
【0004】
官能化されたh-BNの合成への別の手法は、過酸化物化合物の熱分裂に基づいている。歴史的に初めてのこのような手法は、h-BNと・OSOFラジカルの供給源としての強力な酸化剤(OSOF)との反応に基づいており、1978年にさかのぼる。これは、“Novel Salts of Graphite and a Boron Nitride Salt,”J.Chem.Soc.Chem.Commun.5,200-201(1978)にてN.Bartlett,R.Biagioni,B.McQuillan,A.Robertson and A.Thompsonによって公開された。後に続く論文では、(BN)OSOFのおおよその組成を持つ対応する官能化h-BNの電気伝導率は、1.5S/cmであることがわかり、これは、電池で使用されるカーボンブラック電気伝導性添加剤と同様であり、挿入に基づくリチウムイオン電池で広く使用されているカソード材料であるLiCoO(0<x<1)よりも約4桁高い。この後者の測定は、C.Shen,S.G.Mayorga,R.Biagioni,C.Piskoti,M.Ishigami,A.Zettl,N.Bartlett(1999),“Intercalation of Hexagonal Boron Nitride by Strong Oxidizers and Evidence for the Metallic Nature of the Products,”J Solid State Chem 147-174(1999)にて公開された。この後者の論文における別の重要な観察は、微量の卑金属の存在が、(BN)OSOFの、h-BNへの、及びNOカチオンとSOアニオンを有する塩への、並びにBへの及びSガスへの分解を触媒することであった。
【0005】
0.1S/cmのオーダーの官能化h-BNの良好なプロトン伝導性は、A.Mofakhami and J-F.Fauvarque(2015)“Material for an Electrochemical Device.”、米国特許第9,105,907号明細書にも記載されており、h-BN含有膜の良好なリチウムイオン伝導性が、B.Kumar,J.Kumar,R.Leese,J.P.Fellner,S.J.Rodrigues,K.Abraham:“A Solid-State,Rechargeable,Long Cycle Life Lithium-Air Battery,”J.Electrochem.Soc.157,A50-54(2010)にて認められている。
【0006】
(OSOF)の分子は、両側からフルオロスルホニル基で官能化されているペルオキソ基(-O-O-)を含むため、FOS-O-O-SOFの構造をもたらす。このペルオキソ結合は、上記の研究で記載されているように、室温でも容易に解離し、・OSOFラジカルを提供する。
【0007】
しかしながら、ペルオキソ結合は、-SOFによってだけでなく、他の多くの官能基によって官能化されることができる。別の例は、tert-ブチル基、-C(CH、及び対応する有機tert-ブチル-ペルオキシド、(OC(CHであり、T.Sainsbury,A.Satti,P.May,Z.Wang,I.McGovern,Y.K.Gunko and J.Coleman:“Oxygen Radical Functionalization of Boron Nitride Nanosheets,”J.Am.Chem.Soc.134,18758(2012)でのh-BNの官能化において使用されている。単純な過酸化水素、Hでさえ、過酸化物結合を分裂させ、・OHラジカルを提供することによってh-BNを官能化する効果的な薬剤であり、例えば、A.S.Nazarov,V.N.Demin,E.D.Grayfer,A.I.Bulavchenko,A.T.Arymbaeva,H-J.Shin,J-Y.Choi,V.E.Fedorov,“Functionalization and Dispersion of Hexagonal Boron Nitride(h-BN)Nanosheets Treated with Inorganic Reagents,”Chem.Asian.J.7,554-560(2012)、及びV.Fedorov,A.Nazarov,V.Demin:“Method of Producing Soluble Hexagonal Boron Nitride”、露国特許第2478077C2号明細書(2013)を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エネルギー貯蔵、固体電解質、電気活性種、複合材料、及び他の多くの分野でそれらの有益な特性を活用するために、2D材料における最も効果的な官能化反応を見出す必要があることは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、2D層状材料のラジカルアニオン官能化に関し、従い、2D層状材料は、ラジカルアニオンを含む塩と反応し、ラジカルアニオンは、2D層状材料に共有結合的に結合し、共有結合的に官能化された2D材料の塩を形成する。この新規の官能化材料は、電気化学的エネルギー貯蔵装置における固体電解質及び/又は電気活性種として使用することができる。更に、それは、良好なイオン伝導性及び熱安定性を備えたポリマー複合材料などの複合材料の構成要素として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A-1B】図1A及び1Bは、Li[(BN)OBF]の原子構造をそれぞれ斜視図及び側面図で示している。この構造は、六方晶窒化ホウ素(h-BN)の表面におけるLiカチオンを有する-OBF ラジカルアニオンの最大充填密度を表している。構成原子は、以下の番号で示される:フルオレン(1)、官能基のホウ素(2)、酸素(3)、h-BNのホウ素(4)、窒素(5)、及びリチウム(6)。h-BNの1つおきのホウ素原子は、-OBF ラジカルアニオンで共有結合的に官能化されている。Liカチオンは、表面における孤立した球体である。h-BN基材は、中央面にある。-OBF ラジカルアニオンは、これらのアニオンラジカルの酸素原子を介してh-BNのホウ素原子に共有結合的に結合しており、一方、アニオンラジカル自体は、おおよその四面体構造を有する。この原子構造は、[(BN)OBF]正極電気活性種の放電状態を表し、イオン伝導性と電気伝導性の両方を備えている。電気伝導性の低下を犠牲にして、更なる放電容量が可能であることに留意されたい。ナトリウム(Na)又はマグネシウム(Mg2+)カチオンは、K.Nemeth:“Simultaneous Oxygen and Boron Trifluoride Functionalization of Hexagonal Boron Nitride:A Designer Cathode Material for Energy Storage,”Theoretical Chemistry Accounts(2018)137-157に記載されているように、[(BN)OBF]と同様の構造を形成するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記で特定された従来技術の全ては、電荷中性過酸化物から誘導可能なものなどの電荷中性ラジカルを使用して、h-BN及び他の2D材料の基底面の官能化を達成する。しかしながら、イオン性過酸化物、及びラジカルアニオンを含む塩は、一般に、h-BNの官能化を実現し、官能化されたh-BN及び2D材料の還元型を生成する新しい機会を提供する。このような官能化されたh-BNの例には、Li[(BN)OBF]、Na[(BN)OBF]、及びMg[(BN)OBF]が含まれ、K Nemeth:“Simultaneous Oxygen and Boron Trifluoride Functionalization of Hexagonal Boron Nitride:A Designer Cathode Material For Energy Storage,”Theoretical Chemistry Accounts 137-157(2018)による上記の研究で提案されているように、それぞれLi、Na、及びMgアノードと組み合わせると、これらは、電池カソード活物質(BN)OBFの放電されたバージョンに対応する。本発明における新しい洞察は、官能化h-BNのこれらの塩が、h-BNと、イオン性過酸化物Li[(OBF]、Na[(OBF]及びMg[(OBF]との反応生成物として得られることができるが、これらの後者の塩のアニオンが活性化プロセスを通してラジカルアニオンに分裂するときであるということである。結果、これらの後者の塩は、ルイス塩基過酸化物アニオンを含む過酸化物Li、Na、及びMgOとルイス酸BFとの反応生成物として構成されることができる:
2Li+[O-O]2-+2BF→2Li+[FB-O-O-BF2-
【0012】
Na及びMgの過酸化物で同様の反応が起こる。BCl、SO、又はSOなどの他のルイス酸を使用して、ペルオキソ結合を含むアニオンと同様の塩を合成することもできる。BFのHとのエーテル溶液に基づく錯体は、J.D.McClure and P.H.Williams:“Hydrogen Peroxide-Boron Trifluoride Etherate,a New Oxidizing Agent,”The Journal of Organic Chemistry 27,24-26(1962)で初めて記載されているように、有機化学でよく知られている酸化剤であることに留意されたい。
【0013】
ルイス酸官能化の電子吸引効果により、上記の塩のペルオキソ結合は、比較的弱く、塩を加熱すると熱的に分裂される可能性がある。分裂されたアニオンは、他のラジカルが以前に公開された研究で行ったのと同様の方法でh-BNを官能化することができる・O-BF ラジカルアニオンの供給源になる。従って、h-BNとこれらの塩の溶融物との反応は、カソード活性官能化h-BN種の放電状態に対応する官能化h-BNの塩をもたらす。
【0014】
過酸化物塩とルイス酸との上記の反応に加えて、過酸化物の代わりに他の塩を使用することもできる。このような塩は、酸化物、炭酸塩及びシュウ酸塩であり得る。これらの後者の塩とBFとの反応は、COとCOを発生させ、h-BNの官能化のための[OBF2-アニオンを提供する。水溶液中のNaHCOとBFとの間の同様の反応は、長い間知られており、“Synthesis of Sodium Hydroxytri-Fluoroborate”と題されたL.O.Gilpatrickによる米国特許第3,809,762号明細書に記載されているように、CO及びNaOH.BF錯体を生成する。実際、NaOH.BF錯体は、ラジカルアニオンの供給源としても使用できる:NaOH.BF錯体は、NaOH.BFの溶融物又は蒸発濃縮溶液から層状2D材料を挿入し、次いでプロトンを電気化学的に抽出して、NaOBFで官能化されたh-BNを残す系からHガスとして除去する。ブロンステッド酸のh-BNへの同様の挿入が、N.I.Kovtyukhova,Y.Wang,R.Lv,M.Terrones,V.H.Crespi,and T.E.Mallouk:“Reversible Intercalation of Hexagonal Boron Nitride With Broensted Acids.”Journal of the American Chemical Society 135,8372-8381(2013)で認められている。
【0015】
上記の概念は、ペルオキソ基含有イオン性化合物以上に更に一般化することができる。ラジカルアニオン、又は活性化プロセスによるラジカルの供給源であるアニオンを有するイオン性化合物は、同様の官能化を実行することができる。活性化プロセスは、熱的、電気化学的紫外線系、ボールミル系などの機械的、又は他のものであり得る。尚更に、h-BNだけでなく、グラフェン、MoS、Xenes、MXenesなどの一般的な2次元材料は、ラジカルアニオンのこのような供給源によって官能化されることができる
【0016】
第1の実施形態では、固体過酸化物Li、Na及びMgOをBFの冷エーテル溶液と反応させて、それぞれ、対応するルイス付加物Li[(OBF]、Na[(OBF]及びMg[(OBF]を形成する。溶媒を除去し、生成物を乾燥させた後、これらの付加物は、それらの融点よりわずかに高く溶融し、h-BNと反応して、Li[(BN)OBF]、Na[(BN)OBF]及びMg[(BN)OBFのおおよその組成を有するh-BNの積層された官能化単分子層を形成する。
【0017】
第2の実施形態では、ルイス付加物は、水に溶解又は分散した固体過酸化物から形成され、ガス状のBFが、全ての過酸化物が対応するルイス付加物に変換されるまでこの媒体にバブリングされる。プロセスの残りの部分は、第1の実施形態と同一である。
【0018】
第3の実施形態では、ルイス付加物は、固体過酸化物と液体BFとの反応によって形成される。
【0019】
第4の実施形態では、BFの代わりに一般的なハロゲン化ホウ素が使用され、そうでない場合は、前述の実施形態と同じプロセスが使用される。
【0020】
第5の実施形態では、BFOHアニオンを有する塩は、BFガスと水酸化物又は炭酸塩又は炭化水素酸塩又はシュウ酸塩の水溶液との反応によって形成される。溶媒を蒸発させた後、これらの塩の溶融物は、h-BNと混合され、次いでBFOHアニオンの式単位ごとに1つのプロトンと1つの電子が、Hガスにそれらを変換することによってカソードにおいて電気化学的に除去され、得られた-OBF アニオンラジカルは、h-BNを共有結合的に官能化する。
【0021】
第6の実施形態では、h-BNは、濃縮された過酸化水素(H)及びBFの混合物と反応される。BFは、エーテル溶液から、又はガスがH溶液にバブリングされた状態で生じることができる。このような混合物は、(H)のBFとのルイス付加物を含み、これらの付加物は、酸性であり、プロトン及び[FB-O-O-BF2-又は[HO-O-BFアニオンを含む。過酸化物結合の自発的分解は、これらの溶液中で室温又は高温で起こり、生じたラジカルは、-OBF ラジカルアニオンでh-BN層を官能化する。プロトンは、電気化学的又は他の方法でLiカチオンに変換され得る。
【0022】
第7の実施形態では、2BF.N又はBF.Nなどの、ヒドラジン(N)のBFとのルイス付加物が、例えば、W.G.Paterson and M.Onyszchuk:“The Interaction of Boron Trifluoride with Hydrazine”,Canadian Journal of Chemistry 39,986-994(1961)に記載の方法に従って形成される。これらの付加物も酸性であろう。ヒドラジン単位におけるN-N結合を熱分裂することにより、h-BNを官能化する-NH-BF ラジカルアニオンが形成される。この場合も、プロトンは、電気化学的に又は他の手段によってLiに変換されることができる。
【0023】
第8の実施形態では、ラジカルアニオンは、プロトン以外のカチオンの電気化学的抽出によって生成され得る。例えば、LiOBFなどのBF2-アニオンを含む塩は、式単位ごとに1つのLiカチオンと1つの電子を抽出して、-OBF ラジカルアニオンを生成することにより、LiOBFに変換される。
【0024】
第9の実施形態では、ラジカルアニオンの供給源は、過ホウ酸塩である。過ホウ酸塩のよく知られた例は、過ホウ酸ナトリウム、Naであり、これはよく知られた漂白剤であり、工業規模で生産されている。Naの熱分解は、N.Koga,N.Kameno,Y.Tsuboi,T.Fujiwara,M.Nakano,K.Nishikawa,and A.I.Murata,“Multistep Thermal Decomposition of Granular Sodium Perborate Tetrahydrate:A Kinetic Approach to Complex Reactions in Solid-Gas Systems.”Physical Chemistry Chemical Physics 20,12557-12573(2018)で研究されている。過ホウ酸塩のアニオンは、2つのホウ素原子間の2つの過酸化物(-O-O-)ブリッジの6員環を含み、一方、各ホウ素原子には、ヒドロキシル基又はフルオロ基など、他の2つの更なる共有結合的に結合された官能基が結合しており、アニオン全体が、集合的に2つの負電荷を帯びている。(熱、ボールミルなどによって)活性化されると、過酸化物ブリッジが酸素原子間で解離し、アニオンが2つのラジカルアニオンに分裂される。これらのラジカルアニオンと2D材料との反応により、ラジカルアニオンで官能化された2D材料が生成される。
【0025】
官能化アニオンの機械的活性化も可能である。例えば、溶媒におけるボールミル又は超音波処理は、過酸化物結合の分裂を引き起こし、ラジカルアニオンを生成することができる。
【0026】
上記の実施形態は、h-BN 2D材料以外を用いて、例えば、グラファイト/グラフェンを用いて又はMXeneなどを用いて実施することもできる。BFの代わりに、BCl、AlF又はAlClなどの他のルイス酸を使用することもできる。
【0027】
上記のプロセスの更なる一般化は、O-O又はN-N結合を含むルイス付加物の分裂に由来しないが、ラジカルアニオンが塩の形で全く一般的な供給源から提供されるラジカルアニオンを使用することによって可能である。例えば、式単位ごとに1つのLiをLiO.BFから電気化学的に抽出する上記のプロセスは、ラジカルアニオンOBF を含む塩LiOBFを生成する方法である。
【0028】
電気活性種及び電解質に加えて、ラジカルアニオンで官能化されたh-BNの塩を利用する1つの可能な例は、コーティング用途である。例えば、金属リチウム電極は、このようなh-BNの塩でコーティングされて、これらのアノードの腐食を引き起こすことなく、デンドライト形成を回避もし、空気中の金属アノードでの作用を可能にするイオン伝導性及び耐火性コーティングを提供し得る。フッ化グラファイト/グラフェンを使用した同様のコーティングは、X.Shen,Y.Li,T.Qian,J.Liu,J.Zhou,C.Yan,and J.B.Goodenough:“Lithium Anode Stable in Air for Low-Cost Fabrication of a Dendrite-Free Lithium Battery,”Nature Communications 10,1-9(2019)に記載されている。フッ化グラファイトとは対照的な窒化ホウ素コーティングの利点は、より高い熱安定性である。
【0029】
上記の実施形態は、本発明の原理の適用の例示にすぎないことを理解されたい。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者によって多数の変更及び代替の取合わせを考案することができ、添付の特許請求の範囲は、このような変更及び取合わせを網羅することを意図している。本発明の範囲は、本明細書によって限定されるのではなく、以下に記載される特許請求の範囲によって定義されることが意図される。
【0030】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文書は、個々の刊行物又は特許文書がそのように個別に示された場合と同じ程度に、全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれる。
図1A
図1B