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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240903BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240903BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/058
H01M10/052
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022091399
(22)【出願日】2022-06-06
(65)【公開番号】P2023178614
(43)【公開日】2023-12-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津 和也
(72)【発明者】
【氏名】金山 明生
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆明
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/187273(WO,A1)
【文献】特開2020-119664(JP,A)
【文献】特開2021-128884(JP,A)
【文献】特開2013-073855(JP,A)
【文献】特開2002-203603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-0587
H01M 4/04-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質スラリーを準備するステップと、
前記固体電解質スラリーをダイヘッドを用いて下地層上に塗工することで固体電解質層を形成するステップとを含み、
所定のせん断速度における前記ダイヘッド内の前記固体電解質スラリーの圧力Pと前記固体電解質スラリーの粘度ηとは、P/4η<4との関係を満たし、
前記下地層の空隙率は、30%以上50%以下の範囲内である、全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記所定のせん断速度は、19(1/s)以上80(1/s)以下であり、
前記ダイヘッド内の前記固体電解質スラリーの流速は、1.9(mm/s)以上16(mm/s)以下である、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池の製造方法に関し、より特定的には全固体電池の電極体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2001-243944号公報(特許文献1)は、フラットスクリーン印刷法により電極合剤を集電体上に塗工する電極製造装置を開示する。電極合材の塗工にはダイヘッドが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-243944号公報
【文献】特開平11-185733号公報
【発明の概要】
【0004】
全固体電池の電極体の製造工程において、固体電解質スラリーをダイヘッドを用いて下地層上に塗工することで固体電解質層が形成される。この際、後述する様々な原因により固体電解質層中に気泡が発生する場合がある。そうすると、気泡の発生箇所に窪みが生じ得る。その結果、全固体電池の特性および信頼性が低下する可能性がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、全固体電池の特性および信頼性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様に係る全固体電池の製造方法は、固体電解質スラリーを準備するステップと、固体電解質スラリーをダイヘッドを用いて下地層上に塗工することで固体電解質層を形成するステップとを含む。所定のせん断速度におけるダイヘッド内の固体電解質スラリーの圧力Pと固体電解質スラリーの粘度ηとは、P/4η<4との関係を満たす。下地層の空隙率は、30%以上50%以下の範囲内である。
【0007】
上記方法においては、(1)所定のせん断速度におけるダイヘッド内の固体電解質スラリーの圧力Pと前記固体電解質スラリーの粘度ηとの間の関係がP/4η<4を満たし、(2)下地層の空隙率は30%以上50%以下の範囲内である、との条件が採用される。これにより、後述する評価試験の結果に示すように、固体電解質層を形成する際に起こり得る気泡の発生を抑制できる。よって、上記方法によれば、全固体電池の特性および信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、全固体電池の特性および信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態において製造される電極体の構成の一例を示す図である。
図2】本開示の実施形態に係る電極体の製造方法の全体を概略的に示すフローチャートである。
図3】ダイ塗工機の構成の一例を示す図である。
図4】気泡が発生したスラリーの画像を示す図である。
図5】気泡の発生メカニズムを説明するための図である。
図6】気泡の発生に影響を及ぼす条件に関するパラメータを説明するための図である。
図7】評価試験の条件および結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0011】
<用語>
「m%~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち、「m%~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。
【0012】
[実施の形態]
<電極体の構成>
図1は、本実施形態において製造される電極体の構成の一例を示す図である。電極体100は、基材1と、下地層2と、固体電解質層3と、活物質層4と、集電体5とを含む。
【0013】
基材1は、たとえばシート状である。基材1は集電体として機能してもよい。基材1は金属箔を含んでいてもよい。基材1は導電性を有していてもよい。基材1は、たとえば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)および鉄(Fe)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0014】
下地層2は、基材1上に配置されている。下地層2は、基材1上への第1スラリー91(図2参照)の塗工により形成される。基材1の表面に塗工された第1スラリー91が乾燥することにより、下地層2が形成され得る。
【0015】
固体電解質層3は、下地層2上に配置されている。固体電解質層3は、下地層2上への第2スラリー92(図2参照)の塗工により形成される。下地層2の表面に塗工された第2スラリー92が乾燥することにより、固体電解質層3が形成され得る。固体電解質層3は、全固体電池においてセパレータとして機能し得る。なお、第2スラリー92は、本開示に係る「固体電解質スラリー」に相当する。
【0016】
活物質層4は、固体電解質層3上に配置されている。活物質層4は、固体電解質層3上への第3スラリー93(図2参照)の塗工により形成される。活物質層4は、下地層2と異なる極性を有していてもよい。たとえば、下地層2が負極活物質層であり、活物質層4が正極活物質層であってもよい。逆に、下地層2が正極活物質層であり、活物質層4が負極活物質層であってもよい。
【0017】
集電体5は、活物質層4上に配置されている。集電体5は、基材1と同様に金属箔を含んでいてもよい。集電体5は、たとえば、接着剤により最外層に貼り付けられていてもよい。さらに、基材1および集電体5に外部端子(図示せず)が接続されていてもよい。
【0018】
なお、電極体100の層数は任意である。図示しないが、基材1と集電体5との間に上記の3層に加えて他の層(第4層、第5層・・・)がさらに積層されていてもよい。
【0019】
以下、第1スラリー91と第2スラリー92と第3スラリー93とを互いに区別しない場合、スラリー9と記載する。スラリー9は、たとえば、活物質、導電材、固体電解質、バインダおよび分散媒が混合されることにより準備されてもよい。
【0020】
負極活物質は、たとえば、黒鉛、Si、SiO(0<x<2)、およびLiTi12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。正極活物質は、たとえば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O、Li(NiCoAl)O、およびLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Li(NiCoMn)Oは、たとえばLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.8Co0.1Mn0.1等を含んでいてもよい。Li(NiCoAl)Oは、たとえばLiNi0.8Co0.15Al0.05等を含んでいてもよい。
【0021】
導電材は電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量の活物質に対して、たとえば0.1~10質量部であってもよい。導電材は、たとえば、カーボンブラック(CB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0022】
固体電解質はイオン伝導パスを形成し得る。固体電解質は粒子状である。固体電解質は、たとえば0.5~5μmの粒子系(D50)を有していてもよい。固体電解質の配合量は、100体積部の活物質に対して、たとえば1~200体積部であってもよい。固体電解質は、たとえば、硫化物、酸化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。固体電解質は、たとえば、LiI-LiBr-LiPS、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiO-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-PおよびLiPSからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0023】
バインダは固体材料同士を結合し得る。バインダの配合量は、100質量部の活物質に対して、たとえば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0024】
分散媒は液体である。分散媒は、たとえば、水、有機溶媒等の溶剤を含んでいてもよい。分散媒は、たとえば、水、N-メチル-2-ピロリドン、酪酸ブチル等を含んでいてもよい。
【0025】
<電極の製造方法>
図2は、本開示の実施形態に係る電極体100の製造方法の全体を概略的に示すフローチャートである。電極体100の製造方法は、ダイ塗工工程S1と、ロールプレス工程S2と、切断工程S3とを含む。
【0026】
ダイ塗工工程S1は、第1スラリー91と第2スラリー92と第3スラリー93を準備するステップS11と、基材1の表面に第1スラリー91を塗工することで下地層2を形成するステップS12と、下地層2の表面に第2スラリー92を塗工することで固体電解質層3を形成するステップS13と、固体電解質層3の表面に第3スラリー93を塗工することで活物質層4を形成するステップS14とを含む。スラリー9を塗工する各ステップ(S12~S14)はダイ塗工機を用いて実施される。
【0027】
<ダイ塗工機の構成>
図3は、ダイ塗工機の構成の一例を示す図である。ダイ塗工機200は、タンク61と、配管62と、ポンプ63と、ダイヘッド7と、バックロール8とを備える。なお、図3には、基材1の表面に第1スラリー91を塗工するステップS12の様子が示されている。
【0028】
タンク61は、スラリー9(この例では第1スラリー91)を貯留する。スラリー9は、配管62は、タンク61とダイヘッド7とを接続する。ポンプ63は、タンク61内のスラリー9を配管62を介してダイヘッド7に供給する。ダイヘッド7に供給されたスラリー9は、ダイヘッド7内のマニホールド71に充填され、吐出口72から吐出される。
【0029】
バックロール8は、その回転により基材1を搬送する。ダイヘッド7の吐出口72から吐出されたスラリー9は、基材1の表面に付着する。これにより、下地層2が連続的に形成される。詳細な説明は繰り返さないが、固体電解質層3および活物質層4も同様に形成される。
【0030】
<気泡の発生>
下地層2上に第2スラリー92を塗工することで固体電解質層3を形成するステップS13において、第2スラリー92中に気泡が発生し得る。
【0031】
図4は、気泡が発生した第2スラリー92の画像を示す図である。図5は、気泡の発生メカニズムを説明するための図である。第2スラリー92(より詳細には分散媒中の溶剤)が下地層2の空隙に深く浸み込み得る。そうすると、下地層2の内部の気体が第2スラリー92により置換される。第2スラリー92により押し出された気体が下地層2の表面に出てくることで気泡が発生する。図5において気泡を参照符号Bで示す。
【0032】
図6は、気泡の発生に影響を及ぼす条件に関するパラメータを説明するための図である。気泡の発生数は、第2スラリー92の粘度、ダイヘッド7内の第2スラリー92の圧力、第2スラリー92のせん断速度、下地層2の空隙率Vpなどに依存すると考えられる。以下、第2スラリー92の粘度を「スラリー粘度η」と記載する。ダイヘッド7内の第2スラリー92の圧力を「ヘッド内圧P」と記載する。第2スラリー92のせん断速度を単に「せん断速度v」と記載する。後述する各せん断速度vに対するスラリー粘度ηは、たとえばコーンプレート型粘度計により測定され得る。ヘッド内圧Pは、高粘度流体測定用の圧力計を用いて測定され得る。
【0033】
なお、下地層2への溶剤の浸み込み深さhと、下地層2に形成された細孔径との間には、下記式(1)に示す関係が存在する。
【0034】
【数1】
【0035】
また、空隙率Vpは、下記式(2)に従って体積割合として算出される。式(2)において、合材密度Dpは、たとえば乾式自動密度計を用いて活物質粉体の粒子密度を測定することにより求められる。真密度D0は、同じ粉体の結晶格子定数から理論的に算出される。
【0036】
Vp=(1-Dp/D0)×100[%] ・・・(2)
固体電解質層3中の気泡の発生箇所に窪みが生じた場合、全固体電池の特性および信頼性が低下する可能性がある。そこで、本実施の形態においては、所定のせん断速度vにおけるスラリー粘度ηとヘッド内圧Pとが特定の関係式を満たすようにするとともに、下地層2の空隙率Vpを特定の範囲に限定する構成を採用する。具体的には、スラリー粘度ηとヘッド内圧PとがP/4η<4との関係式を満たし、かつ、下地層2の空隙率Vpを30%~50%の範囲に限定する。以下に説明するように、本発明者らが実施した評価試験によれば上記の限定により気泡の発生を抑制できるためである。
【0037】
<評価試験>
図7は、評価試験の条件および結果をまとめた図である。評価試験の条件は、塗工条件として、ヘッド内圧Pと、スラリー粘度ηと、せん断速度vと、スラリー9の流速とを含む。評価試験の条件は、下地層2の特性を表すパラメータとして、空隙率Vpと、合材密度Dpと、真密度D0とをさらに含む。
【0038】
本発明者らは、図7の実施例1~7および比較例1~6に示すように、塗工条件と下地層2の特定パラメータとの様々な組合せに関して評価試験を実施した。実施例1~7は、いずれも、「ヘッド内圧Pとスラリー粘度ηとがP/4η<4との関係を満たし、かつ、空隙率Vpが30%以上50%以下の範囲内にある」との条件下が行われたものである。これに対し、比較例1~4は、ヘッド内圧Pとスラリー粘度ηとがP/4η<4との関係を満たさない。また、比較例5,6では空隙率Vpが50%を超える。
【0039】
図7に示すように、比較例1~6では気泡が確認されたのに対し、実施例1~7では気泡が発生しなかった。したがって、上記の条件を採用することで気泡の発生を抑制できることが分かる。
【0040】
以上のように、本実施の形態においては、図7に示した評価試験の結果に基づき、「ヘッド内圧Pとスラリー粘度ηとがP/4η<4との関係を満たし、かつ、空隙率Vpが30%以上50%以下の範囲内にある」との条件が採用される。これにより、下地層2上に第2スラリー92を塗工する際に起こり得る気泡の発生を抑制できる。よって、本実施の形態によれば、全固体電池の特性および信頼性を向上させることができる。
【0041】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
1 基材、2 下地層、3 固体電解質層、4 活物質層、5 集電体、61 タンク、62 配管、63 ポンプ、7 ダイヘッド、71 マニホールド、72 吐出口、8 バックロール、9 スラリー、91 第1スラリー、92 第2スラリー、93 第3スラリー、100 電極体、200 ダイ塗工機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7