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  • 特許-浸漬ノズル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】浸漬ノズル
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20240903BHJP
   B22D 41/50 20060101ALI20240903BHJP
   B22D 41/56 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B22D11/10 330A
B22D11/10 330M
B22D41/50 520
B22D41/56
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022139103
(22)【出願日】2022-09-01
(65)【公開番号】P2024034688
(43)【公開日】2024-03-13
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 裕敬
(72)【発明者】
【氏名】加来 敏雄
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-157316(JP,A)
【文献】特開平2-241667(JP,A)
【文献】特開平11-5146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
B22D 33/00-47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物からなり鉛直方向に内孔を有するノズル本体部と、このノズル本体部の上端部外周を囲繞して水平方向に突出するように前記上端部外周に直接接合又は接着剤を介して接合された平板状の耐火物からなるフランジ部とを有し、前記フランジ部及びその下方のノズル本体部の一部の外周が金属ケースで囲繞され、前記ノズル本体部及び前記フランジ部の上端面が同一の水平面内にある浸漬ノズルであって、前記フランジ部の下面側を支持具で支持し水平方向にスライドさせて、当該浸漬ノズルの上方に位置する上ノズル部材の下端面に、前記ノズル本体部及び前記フランジ部の上端面が共に接合するように設置する浸漬ノズルにおいて、
前記フランジ部を囲繞する金属ケースの内周面と前記ノズル本体部の外周面とを架橋する架橋部材を有し、この架橋部材の一端は前記金属ケースに固定され、他端は前記ノズル本体部の外周面に設けた凹部に係合されており、
前記支持具による上向きの支持力の力点部より上方では、前記ノズル本体部の外周面は前記凹部を除いて、前記内孔の中心軸に対して寸法変化を伴うことなく鉛直方向に延びている、浸漬ノズル。
【請求項2】
前記フランジ部がキャスタブル耐火物からなる、請求項1に記載の浸漬ノズル。
【請求項3】
前記架橋部材は、前記支持具による上向きの支持力の力点部が存在する鉛直方向の領域内には配置されていない、請求項1又は2に記載の浸漬ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造において、タンディッシュ設備からモールドへ溶鋼を注入する際に用いる浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬ノズルにおいては、溶鋼による損耗、溶鋼中の介在物、例えば非金属であるアルミナ粒子の付着と堆積による内孔閉塞に起因する耐用限界、割れや折損などが理由となる交換のために、鋼の連続鋳造作業を中断又は終了しなくてはならない。しかし操業効率向上の要求から長時間注入を実現する方法として、鋼の連続鋳造作業を中断することなく浸漬ノズルを新しい浸漬ノズルに交換する装置が導入されている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
このような浸漬ノズル交換装置に適用される浸漬ノズルの基本的な構造は、溶鋼通過経路である内孔を鉛直方向に有する筒状のノズル本体部と、このノズル本体部を重力に対して支え上方向に押し上げて上方の部材(上ノズル部材)と接触させるために浸漬ノズル交換装置の支持具で下方から支持される、水平方向に断面積を拡大させたフランジ部との2つに大別でき、断面積が拡大する境界部分を首部と呼ぶ。
【0004】
首部は構造上の応力集中部であり、熱的応力と機械的応力が作用することで亀裂を生じ得ることが知られている。首部の亀裂は浸漬ノズルの耐用寿命と鋼の品質にとって問題となる。浸漬ノズルの内孔に溶鋼が流れることで内孔空間の圧力レベルが負圧に傾く結果、首部の亀裂から空気を吸い込み、耐火物を構成する炭素成分を酸化させる結果として漏鋼を引き起こす可能性があり、また鋼を酸素で汚染する可能性がある。
【0005】
そこで本発明者らは特許文献3において、ノズル本体部に首部と呼び得る断面積の変化のない形状を有する浸漬ノズルを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2793039号公報
【文献】特公平4-50100号公報
【文献】特許第6122393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが、特許文献3の図1に示されている浸漬ノズルを実操業に供する試験を行ったところ、首部の亀裂発生の問題は解消されたが、新たな問題としてノズル本体部の沈み込みの問題があることが判明した。ノズル本体部の沈み込みが発生すると、上方の部材(上ノズル部材)との接合部に隙間ができるため、エアー巻き込みによる鋼品質の低下や耐火物の溶損要因となる。また、漏鋼による操業に影響がある大きなトラブルを起こす要因にもなる。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、浸漬ノズル交換装置に適用される浸漬ノズルにおいて、首部の亀裂発生抑制と浸漬ノズルの沈み込み発生抑制とを両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、次の浸漬ノズルが提供される。
耐火物からなり鉛直方向に内孔を有するノズル本体部と、このノズル本体部の上端部外周を囲繞して水平方向に突出するように前記上端部外周に直接接合又は接着剤を介して接合された平板状の耐火物からなるフランジ部とを有し、前記フランジ部及びその下方のノズル本体部の一部の外周が金属ケースで囲繞され、前記ノズル本体部及び前記フランジ部の上端面が同一の水平面内にある浸漬ノズルであって、前記フランジ部の下面側を支持具で支持し水平方向にスライドさせて、当該浸漬ノズルの上方に位置する上ノズル部材の下端面に、前記ノズル本体部及び前記フランジ部の上端面が共に接合するように設置する浸漬ノズルにおいて、
前記フランジ部を囲繞する金属ケースの内周面と前記ノズル本体部の外周面とを架橋する架橋部材を有し、この架橋部材の一端は前記金属ケースに固定され、他端は前記ノズル本体部の外周面に設けた凹部に係合されており、
前記支持具による上向きの支持力の力点部より上方では、前記ノズル本体部の外周面は前記凹部を除いて、前記内孔の中心軸に対して寸法変化を伴うことなく鉛直方向に延びている、浸漬ノズル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、浸漬ノズル交換装置に適用される浸漬ノズルにおいて、首部の亀裂発生抑制と浸漬ノズルの沈み込み発生抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態である浸漬ノズルの縦断面図。
図2図1の浸漬ノズルの使用状態を示す要部の縦断面図(図1のA-A方向断面)。
図3図1の浸漬ノズルの平面図。
図4】従来の浸漬ノズルの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の一実施形態である浸漬ノズルの縦断面図、図2図1の浸漬ノズルの使用状態を示す要部の縦断面図、図3図1の浸漬ノズルの平面図である。
浸漬ノズル10は、ノズル本体部11とフランジ部12とを有する。ノズル本体部11は、耐火物(定形耐火物)からなり、鉛直方向に溶鋼通過経路である内孔11aを有すると共に、下端部には溶鋼をモールドへ吐出するために対称に位置する吐出孔11bを有する。フランジ部12は、ノズル本体部11とは異なる耐火物(本実施形態ではキャスタブル耐火物)からなる。フランジ部12は平板状であり、具体的にはノズル本体部11の上端部外周を囲繞して水平方向に突出するように、ノズル本体部11の上端部外周に直接接合又は接着剤を介して接合されている。ノズル本体部11及びフランジ部12の上端面は同一の水平面内にある。そして、フランジ部12及びその下方のノズル本体部11の一部の外周が金属ケース13で囲繞されている。なお、金属ケース13とノズル本体部11との間には目地材14(例えばモルタル等の不定形耐火物、ファイバーシート等)が介在している。
【0013】
浸漬ノズル10は、そのフランジ部12の下面側を浸漬ノズル交換装置の支持具20で支持し水平方向にスライドさせることで、図2に示すように、当該浸漬ノズル10の上方に位置する上ノズル部材30の下端面に、ノズル本体部11及びフランジ部12の上端面が共に接合するように設置されて使用される。なお、上述した浸漬ノズル(ノズル本体部)の沈み込みとは、支持具20による上向きの支持力の反力によりノズル本体部11が下方にずれ落ちる現象のことである。
【0014】
以上の基本構成において本発明の浸漬ノズル10は、図1及び図3に表れているように、フランジ部12を囲繞する金属ケース13Aの内周面とノズル本体部11の外周面とを架橋するように水平方向に伸びた架橋部材15を有する。そして、この架橋部材15の一端は金属ケース13Aに固定され、他端はノズル本体部11の外周面に設けた凹部11cに係合されている。このような形態で架橋部材15を設けることにより、ノズル本体部11の沈み込みが抑制される。
【0015】
また、本発明では首部の亀裂発生を抑制するために、支持具20による上向きの支持力の力点部Pより上方(図2中の水平破線より上方)では、ノズル本体部11の外周面は凹部11cを除いて、内孔11aの中心軸Cに対して寸法変化を伴うことなく鉛直方向に延びている。
【0016】
本実施形態において架橋部材15は、図3に表れているように支持具20による上向きの支持力の力点部Pが存在する鉛直方向の領域内には配置されていない。このように架橋部材15を力点部Pが存在する鉛直方向の領域内には配置しないことで、架橋部材15やノズル本体部11の外周面の凹部11cに、上向きの支持力が直接的に作用することを避けることができる。これにより、首部の亀裂発生を更に抑制することができる。
また、本実施形態において架橋部材15は、内孔11aの中心軸Cを回転軸として2回回転対称となるように2箇所に配置されている。このように複数の架橋部材15を、内孔11aの中心軸Cを回転軸として回転対称性をもって配置することにより、ノズル本体部11の沈み込みを効果的に抑制することができる。
【0017】
本実施形態において架橋部材15は円柱状のピンであり、これに対応してノズル本体部11の外周面に設けた凹部11cは円形である。このように架橋部材15を円柱状、凹部11cを円形状とすることにより、架橋部材15と凹部11cに応力が集中しにくくなり、首部の亀裂発生を更に抑制することができる。
ただし、架橋部材15と凹部11cの形状は円柱状、円形状には限定されず、例えばノズル本体部11の周方向に伸びるような形状としてもよい。一方で、ノズル本体部11の外周面に設けた凹部11cはノズル本体部11における応力集中部となり得ることから、ノズル本体部11の周長に占める、凹部11cの周長(複数の場合は合計の周長)の割合は、20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましい。
【0018】
なお、本実施形態においてフランジ部12の平面視形状は、図3に表れているように八角形としたが、矩形、多角形、楕円形又は円形とすることもできる。また、ノズル本体部11の平面視形状も円形には限定されず、例えば矩形又は楕円形とすることもできる。
【0019】
本発明の浸漬ノズル10は、例えば以下の方法によって製造可能である。
まず、製造の準備として、金属ケース13に架橋部材15の一端を固定する。具体的には金属ケース13に架橋部材15の一端を装着するための貫通孔を設け、この貫通孔に架橋部材15の一端を装着し溶接等により固定する。また、ノズル本体部11の外周面に、架橋部材15の他端を係合するための凹部11cを設ける。
製造の準備が完了したら、ノズル本体部11の外周面に設けた凹部11cに架橋部材15の他端を係合させるようにして、ノズル本体部11の周囲に金属ケース13をセットする。その後、ノズル本体部11と金属ケース13との間にキャスタブル耐火物を充填しフランジ部12を形成する。このとき、上ノズル部材30の下端面との接合面となるノズル本体部11及びフランジ部12の上端面は、金属ケース13の上端より上方に突き出した位置とし、ノズル本体部11及びフランジ部12の上端面が同一の水平面をなすように機械加工する。
【0020】
このようにフランジ部12をキャスタブル耐火物によって形成することで、架橋部材15をフランジ部12内に隙間なく設置することができる。また、製造時にキャスタブル耐火物が架橋部材15の他端を係合する凹部11cにも充填されるので、架橋部材15の他端を凹部11cに隙間なく係合させることができる。これにより、首部の亀裂発生と浸漬ノズルの沈み込み発生とを効果的に抑制することができる。
【0021】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態ではフランジ部12をキャスタブル耐火物で形成したが、定形耐火物で形成することもできる。
また、ノズル本体部11に関しては、便宜上簡略化して同一かつ一体的な構造として図示したが、本発明はこのような同一かつ一体的な構造に限定する必要はない。例えばモールドのパウダー部に相当する外周部分付近、内孔面の一部若しくは全部、又は吐出孔付近の一部若しくは全部等に、それら以外のノズル本体部11に適用する耐火物とは異なる耐火物を適用することや、内孔にガスを吹き込むためにノズル本体部11の一部にガスプールやガス導入経路を備えた構造等も採用することができる。
【実施例
【0022】
本発明の実施例として図1に示した浸漬ノズル10について沈み込み発生の抑制効果を確認するための試験を行った。また、比較例として図4に示した浸漬ノズル10’についても同様の試験を行った。なお、浸漬ノズル10’は上記特許文献1の図1に開示されている浸漬ノズルであり、その基本構成は本発明の浸漬ノズル10と同じである。そのため、図4に示した浸漬ノズル10’において図1に示した浸漬ノズル10と同じ構成要素には同じ符号を付している。なお、浸漬ノズル10及び浸漬ノズル10’において、ノズル本体部11の外径は150mm、フランジ部12の外径は215mmである。
また、図1に示した浸漬ノズル10において架橋部材15は外径12mmの円柱状のピンであり、その配置は図3に示した通りである。また、図4に示した浸漬ノズル10’において支持部13aは外径12mmの円柱状のピンであり、この支持部13aをノズル本体部11の周方向に等間隔で3箇所に設けている。
【0023】
試験は以下の要領で行った。
ガスバーナーにて内孔11aを、ノズル本体部11の温度が1000℃となるように加熱し、その後、ノズル本体部11のみを上方より所定の圧力で60分間加圧した。そして加圧試験終了後、ノズル本体部11の上端面とフランジ部12の上端面との高さレベルの差異を確認した。沈み込み発生有無の評価では、その差異が0.05mm以上の場合を沈み込み発生有、0.05mm未満の場合を沈み込み発生無と判定した。
【0024】
表1に評価結果を示している。同表に示すように、比較例(浸漬ノズル10’)では圧力(全圧)が20kgで沈み込みが発生した。これに対して実施例(浸漬ノズル10)では圧力(全圧)が700kgでも沈み込みは発生しなかった。このように実施例(浸漬ノズル10)によれば、ノズル本体部11の沈み込みを効果的に抑制することができることがわかる。
このことは本発明者らによる実操業試験の結果とも符合する。すなわち、実操業試験の結果、比較例(浸漬ノズル10’)ではノズル本体部11の沈み込みが発生したが、実施例(浸漬ノズル10)ではノズル本体部11の沈み込みが発生しなかった。
【0025】
【表1】
【0026】
このように、比較例(浸漬ノズル10’)と実施例(浸漬ノズル10)とで、ノズル本体部11の沈み込み発生の抑制効果に違いが出たのは、以下の理由によるものと考えられる。
比較例(浸漬ノズル10’)では支持部13aにより沈み込み発生を抑制しようとしている。しかし、支持部13aはフランジ部12より下方に配置されていることから、熱源であるモールドとの距離が短く、しかもモールドからの熱を直接的に受けることになる。そうすると、金属ケース13が膨張するなどして支持部13a周辺に隙間が生じ、その隙間分ノズル本体部11が沈み込みやすくなる。
これに対して、実施例(浸漬ノズル10)では架橋部材15はフランジ部12内に配置されることから、熱源であるモールドとの距離が長くなる。またフランジ部12は、図2に示したように下面側を浸漬ノズル交換装置の支持具20で支持されることから、操業時には浸漬ノズル交換装置の内部に位置する。そのため、モールドからの熱を直接的に受けにくくなる。これらより、実施例(浸漬ノズル10)では架橋部材15周辺に隙間が生じにくくなり、その結果、ノズル本体部11の沈み込みが発生にくくなる。更に実施例(浸漬ノズル10)ではフランジ部12がキャスタブル耐火物で形成されていることから、上述の通り、架橋部材15をフランジ部12内に隙間なく設置することができると共に、架橋部材15の他端を凹部11cに隙間なく係合させることができる。これにより、ノズル本体部11の沈み込みが更に発生にくくなる。
【0027】
一方、首部の亀裂発生の抑制効果に関しては、実施例(浸漬ノズル10)では凹部11cが応力集中部になり得ることから、比較例(浸漬ノズル10’)に比べると若干低下する可能性がある。しかし、本発明者らは実操業試験により、実施例(浸漬ノズル10)によっても首部の亀裂発生の問題は解消されることを確認している。
【符号の説明】
【0028】
10、10’ 浸漬ノズル
11 ノズル本体部
11a 内孔
11b 吐出孔
11c 凹部
12 フランジ部
13 金属ケース
13A フランジ部を囲繞する金属ケース
13a 支持部(ピン)
14 目地材
15 架橋部材(ピン)
20 支持具
30 上ノズル部材
図1
図2
図3
図4