(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】短繊維集合体及び中綿
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4382 20120101AFI20240903BHJP
D04H 1/4391 20120101ALI20240903BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20240903BHJP
【FI】
D04H1/4382
D04H1/4391
D04H1/435
(21)【出願番号】P 2022161417
(22)【出願日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博
(72)【発明者】
【氏名】合田 裕憲
(72)【発明者】
【氏名】田垣内 良一
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190080(JP,A)
【文献】特開2002-030555(JP,A)
【文献】特開平10-273829(JP,A)
【文献】特公平03-046563(JP,B2)
【文献】特公平02-041355(JP,B2)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0146147(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0121839(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0121838(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0039682(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-1/76
D01F8/00-8/18
B68G1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の繊維と、第2の繊維とを含み、
前記第1の繊維は、固有粘度
が0.03dl/g以上異なる二種以上のポリエステル樹脂からなる複合繊維であり、中空で且つ繊度が
1dtex以上3.0dtex未満であり、
前記第2の繊維は、ポリエステル樹脂からなり、
中実であり、繊度が
前記第1の繊維よりも小さく且つ1.0dtex未満であり、
前記第1の繊維の質量割合が30質量%以上であり、且つ、前記第2の繊維の質量割合が40質量%以上である、短繊維集合体。
【請求項2】
第3の繊維をさらに含み、
前記第3の繊維は、
単一のポリエステル樹脂からなり、中空で且つ繊度が3.0dtex未満である、請求項1に記載の短繊維集合体。
【請求項3】
前記第3の繊維の質量割合が10質量%以上である、請求項2に記載の短繊維集合体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の短繊維集合体で構成された、中綿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短繊維集合体及び中綿に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中綿は、掛け布団などの寝具やダウンジャケットなどの衣類に保温性を付与するために用いられている。中綿の素材としては、羽毛が挙げられる。しかしながら、羽毛で構成された中綿は、保温性や嵩高性に優れるものの、高価になるなどの問題点を有する。よって、羽毛の代替品として、化学繊維で構成された中綿が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、繊度が0.1dtex以上10dtex以下の中実のアクリル繊維と、繊度が1dtex以上10dtex以下の中空のポリエステル繊維とで構成された中綿が提案されている。そして、この中綿は、アクリル繊維によって保温性を発揮し、且つ、ポリエステル繊維によって嵩高性を発揮するとされている。
【0004】
また、特許文献2では、ポリエチレン樹脂とポリエステル樹脂からなり、繊度が2.2~30dtexの複合繊維と、融点の異なる二種以上のポリエステル樹脂からなり、繊度が2.2~30dtexの複合繊維とで構成された中綿が提案されている。そして、この中綿は、2種の複合繊維から構成されることによって、保温性及び嵩高性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/069190号
【文献】特開2015-155586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ポリエステル樹脂からなる繊維を主たる繊維として含む中綿は、ポリエステル樹脂が剛性に優れるため、アクリル繊維やポリオレフィン繊維などの他の繊維と比較して嵩高性に優れるという利点や、洗濯やタンブラーなどでの乾燥の耐熱性に優れるという利点などを有する。
【0007】
しかしながら、ポリエステル樹脂からなる繊維を多く含む中綿は、アクリル樹脂やポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂などの他の熱可塑性樹脂からなる繊維を主たる繊維として含む中綿と比較して、樹脂密度および樹脂剛性が大きいことから繊維間の空隙率が大きくなるために、内部を通過し得る空気の量が多くなり、保温性が低下するという問題点を有する。このことから、従来技術の中綿は、ポリエステル樹脂を含む繊維とともに他の繊維を含ませることによって保温性と嵩高性とを両立させようとする反面、ポリエステル樹脂による利点が十分に活かされていないものとなっている。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、ポリエステル樹脂からなる繊維を主たる繊維として含み、優れた保温性及び嵩高性を発揮する短繊維集合体、並びに、かかる短繊維集合体で構成された中綿を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る短繊維集合体は、
第1の繊維と、第2の繊維とを含み、
前記第1の繊維は、固有粘度の異なる二種以上のポリエステル樹脂からなる複合繊維であり、中空で且つ繊度が3.0dtex未満であり、
前記第2の繊維は、ポリエステル樹脂からなり、繊度が1.0dtex未満であり、
前記第1の繊維の質量割合が30質量%以上であり、且つ、前記第2の繊維の質量割合が40質量%以上である。
【0010】
かかる構成によれば、中空で且つ繊度が3.0dtex未満の第1の繊維を30質量%以上含むことによって、優れた保温性を発揮するものとなる。また、繊度が1.0dtex未満の第2の繊維を40質量%以上含み、各繊維がポリエステル樹脂からなることによって、優れた嵩高性を発揮するものとなる。
【0011】
また、本発明に係る短繊維集合体は、好ましくは、第3の繊維をさらに含み、
前記第3の繊維は、中空で且つ繊度が3.0dtex未満である。
【0012】
かかる構成によれば、より優れた保温性及び嵩高性を発揮するものとなる。
【0013】
また、本発明に係る短繊維集合体は、好ましくは、前記第3の繊維がポリエステル樹脂からなり、より好ましくは、前記第3の繊維の質量割合が10質量%以上である。
【0014】
かかる構成によれば、さらに優れた保温性及び嵩高性を発揮するものとなる。
【0015】
本発明に係る中綿は、上記のいずれかの短繊維集合体で構成されている。
【0016】
かかる構成によれば、保温性及び嵩高性に優れるものとなる。また、ポリエステル樹脂からなる繊維を主たる繊維として含むことによって、洗濯などの耐性に優れるものとなる。
【発明の効果】
【0017】
以上のとおり、本発明によれば、ポリエステル樹脂からなる繊維を主たる繊維として含み、比較的優れた保温性及び優れた嵩高性を発揮する短繊維集合体、並びに、かかる短繊維集合体で構成された中綿を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る短繊維集合体、及び、該短繊維集合体で構成された中綿について説明する。
【0019】
本実施形態の短繊維集合体は、第1の繊維として、固有粘度の異なる二種以上のポリエステル樹脂からなる中空の複合繊維と、第2の繊維として、ポリエステル樹脂からなる中実の繊維とを少なくとも含む。さらに、本実施形態の短繊維集合体は、第3の繊維として、ポリエステル樹脂からなる中空の繊維を含む。
【0020】
本実施形態の第1の繊維の好ましい形態の一つは、固有粘度の異なる二種のポリエチレンテレフタレートからなるサイドバイサイド型の複合繊維である。
【0021】
各ポリエチレンテレフタレートの固有粘度の差は、0.03dl/g以上0.30dl/g以下であることが好ましい。より好ましくは、前記固有粘度の差は0.1dl/g以上である。なお、固有粘度は、ポリエステル樹脂1.2gをオルトクロロフェノール100mL中に加熱溶解し、その後冷却した溶液について、35℃の温度条件下で、オストワルド式粘度管を用いて測定することができる(3回の平均値)。
【0022】
固有粘度の異なる二種のポリエチレンテレフタレートは、互いの分子量(質量平均分子量)が異なるよう重合度が調整されることによって製造され得る。
【0023】
本実施形態の第1の繊維は、固有粘度の異なる二種のポリエチレンテレフタレートからなることによってスパイラル状又はΩ(オメガ)状に捲縮している。第1の繊維の捲縮数は、1~30個/25mmであることが好ましく、2~20個/25mmがより好ましく、2~15個/25mmがさらに好ましい。
【0024】
本実施形態の第1の繊維は、長さ方向に直交する断面において円形の中空部を有する。前記断面の総面積に対する前記中空部の面積の割合(中空率)は、1~40%であることが好ましく、10~35%がより好ましく、20~35%がさらに好ましい。なお、中空率は、無作為に抽出した20本の第1の繊維の横断面を顕微鏡により拡大観察し、繊維外径内側の全横断面積に対する中空部における横断面の面積の百分率を求め、これらの測定値を平均することによって求めることができる。
【0025】
中空部を有する第1の繊維は、複数のスリットを有する紡糸口金を用いて製造することができる。例えば、該紡糸口金は、吐出方向から見たときに円弧状をなし且つ同心円上に配される2つのスリットを有し、第1の固有粘度を有する第1のポリエチレンテレフタレートと、前記第1の固有粘度とは異なる第2の固有粘度を有する第2のポリエチレンテレフタレートとを溶融押出し、各スリット内で複合させた状態で吐出し、スリット外で2つの吐出ポリマーを中空状の断面を形成するように接合させることにより中空部を有する複合繊維を製造することができる。
【0026】
第1の繊維の繊度は、3.0dtex未満であることが重要であり、2.9dtex以下であることが好ましい。また、第1の繊維の繊度は、0.05dtex以上であることが好ましく、0.5dtex以上であることがより好ましく、1dtex以上であることがさらに好ましく、2dtex以上であることがより一層好ましい。
【0027】
第1の繊維は、繊維長が10~100mmの短繊維である。第1の繊維の繊維長は、40mm以下であることが好ましい。また、第1の繊維の繊維長は、15mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、25mm以上であることがさらに好ましい。これによって、第1の繊維が他の繊維と交絡し易くなる。
【0028】
本実施形態の第2の繊維の好ましい形態の一つは、ポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維である。
【0029】
本実施形態の第2の繊維は、捲縮している。第2の繊維の捲縮数は、10~30個/25mmであることが好ましく、10~20個/25mmであることがより好ましい。捲縮の形態は、平面内に包含される平面ジグザグ状、スパイラル状、Ω(オメガ)状などがあるが特に限定されない。
【0030】
本実施形態の第2の繊維は、中実繊維であってもよく中空繊維であってもよいが、より細い繊維とするためには、繊維外径が大きくなる中空繊維よりも中実繊維の方が好ましい。また、繊維の長さ方向に直交する断面の形状は円断面に限定されることはなく、楕円断面、3~8葉断面等の多葉断面、3~8角形等の多角形断面などの異型断面でもよい。
【0031】
第2の繊維の繊度は、1.0dtex未満であることが重要であり、0.9dtex以下であることが好ましく、0.8dtex以下であることがより好ましい。また、第2の繊維の繊度は、0.05dtex以上であることが好ましく、0.1dtex以上であることがより好ましく、0.3dtex以上であることがさらに好ましい。
【0032】
第2の繊維は、繊維長が10~100mmの短繊維である。第2の繊維の繊維長は、40mm以下であることが好ましい。また、第2の繊維の繊維長は、15mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましい。これによって、第2の繊維が他の繊維と交絡し易くなる。
【0033】
本実施形態の短繊維集合体は、繊度及び繊維長の異なる複数の第2の繊維を含む。具体的には、本実施形態の短繊維集合体は、一方の第2の繊維よりも繊度が大きく且つ繊維長が小さい第2の繊維Aと、第2の繊維Aよりも繊度が小さく且つ繊維長が大きい第2の繊維Bとを含む。さらに、第2の繊維Aと第2の繊維Bとは、捲縮数においても異なっている。具体的には、第2の繊維Aの捲縮数は13個/25mm未満であり、第2の繊維Bの捲縮数は13個/25mm以上である。そして、本実施形態の短繊維集合体では、第2の繊維Aの質量割合が第2の繊維Bの質量割合よりも大きくなっている。第2の繊維の総質量に対する第2の繊維Aの質量割合は、80質量%以上であることが好ましい。このように、本実施形態の短繊維集合体は、比較的小さい繊度であり中空の第1の繊維たる複合繊維が呈するスパイラル状の捲縮により、高嵩高性と柔軟な風合いを備えるものとなる。さらに、本実施形態の短繊維集合体は、第1の繊維より繊度の小さい第2の繊維が混合されることで、第1の繊維自体が形成する空隙に第2の繊維が入り込むことによって、空隙が小さくなり、短繊維集合体の内外の空気の出入りが少なく、且つ、空気を多く含ませ得る構造となり、これによって、中綿に用いられた際、従来のものよりも保温性に優れるものとなる。また、従来用いられている比較的大きい繊度(5dtex以上)のポリエステル繊維からなる中綿に比べて、嵩高でありながら風合いも柔軟で肌沿いもよく、空気の出入りも少ないため、ダウンなどの羽毛により近い中綿に適した短繊維集合体となる。
【0034】
本実施形態の第3の繊維の好ましい形態の一つは、ポリエチレンテレフタレートからなり、繊度が第1の繊維の繊度以下であり且つ第2の繊維の繊度以上の繊維である。好ましくは、第3の繊維は、繊度が第1の繊維の繊度未満であり且つ第2の繊維の繊度よりも大きい繊維である。
【0035】
本実施形態の第3の繊維は、捲縮している。第3の繊維の捲縮数は、10個/25mm以下であることが好ましい。捲縮の形態は、平面内に包含される平面ジグザグ状、スパイラル状、Ω(オメガ)状などがあるが特に限定されない。
【0036】
本実施形態の第3の繊維は、単一のポリエステル樹脂からなる中空繊維である。第3の繊維の長さ方向に直交する断面の形状は円断面に限定されることはなく、楕円断面、3~8葉断面等の多葉断面、3~8角形等の多角形断面などの異型断面でもよい。
【0037】
第3の繊維の繊度は、1dtex以上であることが好ましく、2dtex以上であることがより好ましく、2.5dtex以上であることがさらに好ましい。また、第3の繊維の繊度は、10dtex以下であることが好ましく、5dtex以下であることがより好ましく、3dtex以下であることがさらに好ましい。
【0038】
第3の繊維は、繊維長が10~100mmの短繊維である。第3の繊維の繊維長は、40mm以下であることが好ましい。また、第3の繊維の繊維長は、15mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましい。これによって、第3の繊維が他の繊維と交絡し易くなる。
【0039】
各繊維の繊度、繊維長、及び捲縮数は、JIS L 1015:2010(化学繊維ステープル試験方法)に規定の測定方法によって測定することができる。なお、繊度はB法、繊維長はA法で、捲縮数(けんしゅく数)は、つかみ間隔20mmでそれぞれ測定されるものとする。
【0040】
本実施形態の短繊維集合体は、30質量%以上の第1の繊維たる中空複合繊維と、40質量%以上の第2の繊維と、10質量%以上の第3の繊維たる中空単繊維とを含む。すなわち、本実施形態の短繊維集合体は、80質量%以上のポリエステル樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート)からなる繊維を含む。好ましくは、短繊維集合体は、第1の繊維を35質量%以上含み、第2の繊維を40質量%以上含み、第3の繊維を15質量%以上含む。すなわち、短繊維集合体は、90質量%以上のポリエステル樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート)からなる繊維を含むことが好ましく、95質量%以上のポリエステル樹脂からなる繊維を含むことがより好ましい。これによって、短繊維集合体で構成された中綿が、ポリエステル樹脂からなる繊維の利点を発揮し易くなり、例えば、家庭用洗濯機による洗濯やタンブラーによる洗濯に対して優れた耐性を発揮する。また、中綿が乾燥し易いという利点もある。さらに、圧縮された中綿が嵩高の状態に戻りやすい、すなわち、中綿が優れた嵩高回復性を発揮する。また、嵩性と嵩高回復性に優れた比較的細繊度の中空複合繊維(第1の繊維)に、さらに細繊度の第2の繊維が相当量含まれていることにより、保温性と柔らかい風合いが両立する中綿を構成できる。さらに、第1の繊維の一部を、短繊維集合体のコストダウンや成型加工性、機能性付与(吸汗性、親水性、抗菌性、消臭性、耐洗濯性、等)などの目的に応じて、中空単繊維(第3の繊維)に置き換えてもよいが、この場合には、中空複合繊維(第1の繊維)と中空単繊維(第3の繊維)との合計の質量割合が50~60質量%以上であることが好ましい。また、実質的には100質量%のポリエステル樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート)からなる繊維を含むことが好ましい。これによって、ケミカルリサイクルが可能となる。
【0041】
好ましくは、短繊維集合体は、30~60質量%の中空複合繊維(第1の繊維)と、40~60質量%の第2の繊維とを含む。また、短繊維集合体は、第2の繊維を第1の繊維よりも多く含むことが保温性の面で好ましい。さらに、短繊維集合体は、10~30質量%の中空単繊維(第3の繊維)を含むことが保温性と嵩高性、及び成型工程通過性の両面で好ましい。なお、これらの性能は、各性能のバランスに応じて選択することができる。これによって、中綿に優れた保温性及び嵩高性を発揮させることができる。
【0042】
ここで、ポリエステル樹脂からなる繊維は、中綿に抗菌性などの各種性能を付与するための加工が比較的容易な繊維である。かかる性能を付与するための添加剤としては、例えば、抗菌剤、防虫剤、防臭剤などが挙げられ、これらの複数種の組み合わせが好ましい。前記添加剤は、第1の繊維、第2の繊維、及び第3の繊維の少なくとも1つの繊維に含まれていてもよく、全ての繊維に含まれていてもよい。前記添加剤の添加量は、繊維の総質量に対して、性能と製造工程安定性のバランスにより0.01~10質量%の範囲である。なお、前記添加剤は、繊維表面へ付与されてもよく、繊維を構成する樹脂中に練りこまれていてもよい。
【0043】
次に、中綿の一実施形態について説明する。
【0044】
本実施形態の中綿は、前記短繊維集合体が粒状に加工されたものである。すなわち、本実施形態の中綿は、前記短繊維集合体の各繊維が交絡することによって粒状になったものである。
【0045】
粒状の中綿は、前記短繊維集合体を空気が旋回している空間を有する粒綿製造機で得ることができる。本実施形態の中綿は、前記短繊維集合体が0℃以上40℃以下(具体的には室温)の温度条件下で前記粒綿製造機を用いて製造されたものであり、60℃以上の温度では熱処理されていないものである。これによって、本実施形態の中綿は、前記短繊維集合体の繊度などの物性値が維持されたものとなっている。なお、粒状の中綿は、粒綿や繊維球状体、ファイバーボールと呼ばれる球状の中綿を製造するための公知の機械やプロセスを用いればよい。
【0046】
本実施形態の中綿は、掛け布団、肌掛け布団、敷布団、敷パット、毛布、枕、寝袋などの寝具、ダウンジャケットなどの衣類、クッション、家具、ぬいぐるみ等の詰綿に好適に用いられる。具体的には、本実施形態の中綿は、所定量の各繊維を含むことで保温性及び嵩高性に優れる他、繊度が1.0dtex未満の(比較的繊度が小さい)第2の繊維を40質量%以上含むことによって、風合いにも優れている。
【0047】
本実施形態の中綿は、JIS L 1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)の8.27.1のA法(恒温法)に規定の保温率が94%以上を示す。また、本実施形態の中綿は、clo値が12以上を示し、さらには、13以上を示し得、14以上を示し得る。
【0048】
また、本実施形態の中綿は、嵩高性が12,000cm3/50g以上を示し、13,000cm3/50g以上を示し得る。なお、嵩高性は、ASTM D-4522 IDFB法 フィルパワーの評価方法にて、荷重板94.3g、前処理スチーム法にて、試験環境を20℃、65%RH(相対湿度)としたときの50g当りの体積にて表示したものである。
【0049】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る短繊維集合体及び中綿は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る短繊維集合体及び中綿は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る短繊維集合体及び中綿は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、本発明の第1の繊維は、サイドバイサイド型に限らず、偏芯芯鞘型などであってもよい。
【0051】
また、本発明に使用されるポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレートやポリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートが好ましい。また、第3の成分が共重合したポリエチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂やポリメチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルであってもよい。
【0052】
また、本発明の短繊維集合体及び中綿は、吸放湿性や吸湿発熱性などの機能付与や風合いの改善などを目的として、第4の繊維として、レーヨンなどの再生繊維やその他の樹脂からなる繊維を含んでいてもよい。この場合、第4の繊維の質量割合は、15質量%以下であることが好ましい。特に、レーヨン等のセルロース系繊維を混合することで、ポリエステル系樹脂が他の熱可塑性樹脂対比で劣後にある吸湿性を補完する点で特に好ましい。
【実施例】
【0053】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0054】
[製造例]
表1に示す各繊維をカード前で開繊、混合した後、ローラーカード機に2回通過させてウェブを得た後、ダクトで結ばれたブロアーと貯綿ボックスを有する装置に、ウェブをブロアーに通過させて貯綿ボックス内に吹き込み、貯綿ボックス内で繊維を絡ませて球状にすることによって、ファイバーボール状の中綿を作製した。
【表1】
【0055】
作製した各中綿について、保温性及び嵩高性について評価した。保温性の指標である保温率は、JIS L 1096:2010 A法(恒温法)規定の試験方法で試験室温湿度が20℃、65%RHの環境下で測定した。保温性の別の指標であるclo値(気温21℃、相対湿度50%、気流0.1m/sの室内に、椅座安静の人間が平均皮膚温を約33℃に維持できる着衣の保温力)は、ASTM D1518-85規定の試験方法で測定した。結果は、表1に示したとおりである。
【0056】
嵩高性は、ASTM D-4522 IDFB法 フィルパワーの評価方法にて、荷重板94.3g、前処理スチーム法にて、試験環境を20℃、65%RH(相対湿度)としたときの50g当りの体積にて表示した。結果は、表1に示したとおりである。
【0057】
表1に示すように、実施例1及び実施例2の中綿は、羽毛よりも保温性に優れることが認められた。さらに、実施例1及び実施例2の中綿は、十分な嵩高性も備えていることが認められた。すなわち、実施例1及び実施例2の中綿は、保温性及び嵩高性の両立が達成されており、これに加えて、ポリエステル樹脂からなる繊維を90質量%以上含むことによって、当該繊維の機能をも発揮するものであると考えられる。
【0058】
よって、次に、実施例1及び実施例2の中綿について、耐洗濯性について評価した。耐洗濯性は、JIS L 1930:2014(繊維製品の家庭洗濯試験方法、C3G、吊干し、ネット)に規定の試験方法で評価した。
【0059】
その結果、実施例1及び実施例2の中綿は、10回の洗濯後の外観変化が「良」と評価され、十分な耐洗濯性を備えるものと認められた。