(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】波巻のコイル構造を有する固定子、これを備える三相交流電動機及び固定子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20240903BHJP
H02K 3/28 20060101ALI20240903BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20240903BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240903BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H02K3/04 E
H02K3/28 N
H02K1/18 D
H02K15/02 D
H02K15/085
(21)【出願番号】P 2022517694
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2021016335
(87)【国際公開番号】W WO2021220940
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020079420
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 高嗣
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118801(JP,A)
【文献】特開2016-152730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/04
H02K 3/28
H02K 1/18
H02K 15/02
H02K 15/085
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向の配置されたスロットのスロット数6N(Nは正の整数)が極数2P(Pは正の整数)の1.5倍より大きく、前記スロット数6Nを前記極数2Pで除算した値が既約分数になる分数スロット型の三相交流電動機の固定子であって、
前記スロット数6Nを前記極数2Pで除算した値の商をX(Xは正の整数)とするとき、
XまたはX+1のいずれかのスロットピッチで前記スロット内に波巻で配置されたコイルからなるコイル群を、6つ備え、
6つの前記コイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される、固定子。
【請求項2】
前記6つのコイル群は、第1から第6のコイル群からなり、
前記第1のコイル群から周方向に60度ずれた位置に前記第2のコイル群が配置され、
前記第2のコイル群から前記周方向と同一の方向に60度ずれた位置に前記第3のコイル群が配置され、
前記第3のコイル群から前記周方向と同一の方向に60度ずれた位置に前記第4のコイル群が配置され、
前記第4のコイル群から前記周方向と同一の方向に60度ずれた位置に前記第5のコイル群が配置され、
前記第5のコイル群から前記周方向と同一の方向に60度ずれた位置に前記第6のコイル群が配置される、請求項1に記載の固定子。
【請求項3】
渡り線によって互いに連結された前記第1のコイル群と前記第4のコイル群とから三相交流巻線のうちの第1相巻線が構成され、
渡り線によって互いに連結された前記第2のコイル群と前記第5のコイル群とから三相交流巻線のうちの第2相巻線が構成され、
渡り線によって互いに連結された前記第3のコイル群と前記第6のコイル群とから三相交流巻線のうちの第3相巻線が構成される、請求項2に記載の固定子。
【請求項4】
前記極数2Pから規定される極対数Pの値は奇数である、請求項3に記載の固定子。
【請求項5】
前記第1から第6のコイル群における各前記第1相巻線は第1の線対称軸に対して線対称に配置され、前記第1から第6のコイル群における各前記第2相巻線は第2の線対称軸に対して線対称に配置され、前記第1から第6のコイル群における各前記第3相巻線は第3の線対称軸に対して線対称に配置される、請求項4に記載の固定子。
【請求項6】
前記極数2Pから規定される極対数Pの値は偶数である、請求項3に記載の固定子。
【請求項7】
前記第1から第6のコイル群における前記第1相巻線は偶数回の回転対称性を有するように配置され、前記第1から第6のコイル群における前記第2相巻線は偶数回の回転対称性を有するように配置され、前記第1から第6のコイル群における前記第3相巻線は偶数回の回転対称性を有するように配置される、請求項6に記載の固定子。
【請求項8】
前記スロット数6N(Nは整数)を前記極数2P(Pは整数)で除算した値の商をX(Xは正の整数)とするとき、2X+1と3Nとが互いに素となる関係を有する、請求項5または7に記載の固定子。
【請求項9】
前記スロット数6N(Nは整数)を前記極数2P(Pは整数)で除算した値の商をX(Xは正の整数)とするとき、2X+1と3Nとが、1より大きい公約数を有する、請求項5または7に記載の固定子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の固定子と、
前記固定子に対して径方向に対向配置された回転子と、
を備える三相交流電動機。
【請求項11】
周方向の配置されたスロットのスロット数6N(Nは正の整数)が極数2P(Pは正の整数)の1.5倍より大きく、前記スロット数6Nを前記極数2Pで除算した値が既約分数になる分数スロット型の三相交流電動機の固定子の製造方法であって、
外周側に開口する前記スロットが形成されたインナーコアにおいて、前記スロット内に第1の絶縁材を配置する第1の絶縁ステップと、
波巻形状に成形されたコイルを、前記スロット数6Nを前記極数2Pで除算した値の商をX(Xは正の整数)とするときにおけるXまたはX+1のいずれかのスロットピッチで、前記第1の絶縁材が配置された前記スロット内に挿入することで波巻のコイル群を形成するコイル群形成ステップと、
前記スロット内の前記コイルの外周側に第2の絶縁材を配置する第2の絶縁ステップと、
前記第1の絶縁材、前記コイル群及び前記第2の絶縁材が配置された前記スロットを有する前記インナーコアの外周側に、アウターコアを配置するアウターコア配置ステップと、
を備える、固定子の製造方法。
【請求項12】
前記コイル群は、前記スロット内に6つ設けられ、
6つの前記コイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される、請求項11に記載の固定子の製造方法。
【請求項13】
前記波巻形状に成形され前記固定子のスロットに挿入される巻線の各々スロットピッチは、前記スロット数6Nを前記極数2Pで除算した値の商をX(Xは正の整数)とするとき、XスロットピッチとX+1スロットピッチとで交互に波巻される、請求項12に記載の固定子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波巻のコイル構造を有する固定子、これを備える三相交流電動機及び固定子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三相交流電動機のコギングトルク及びトルクリップルを低減させることができる極とスロットの組み合わせとして、スロット数を極数で除算して得られた値が既約分数となる分数スロットを有する三相交流電動機が知られている。このような三相交流電動機は、「分数スロット三相交流電動機」とも称される。
【0003】
分数スロットを有する三相交流電動機では、極数とスロット数の最小公倍数を大きくするように、極数とスロット数を選定でき、また、高次の分布巻係数の値を小さくできることから、トルクリップルを減少させることができる。
【0004】
また、スロット数が、極数の1.5倍より大きい分数スロットを有する三相交流電動機においては、トルクリップルが小さくなる傾向があるものの、スロットに挿入する巻線のスロットピッチが1スロット(隣接するスロット間の距離)より大きくなるので、分布巻のコイル構造が必要となる。
【0005】
分布巻の巻線方法には大きく分けて、重ね巻、同心巻、及び波巻の3種類がある。このうち、波巻は、360度に渡る環状のコイルを波形状に曲げて固定子のスロットに巻装する方法である。波巻は、コイル間の渡り線が少ないためコイルエンド(固定子に収容されないコイル端部)も小さくできる利点がある。
【0006】
また、分数スロットを有する三相交流電動機では、偶数から規定される極数、3の倍数から規定されるスロット数を任意の値から選択することが可能である。したがって、選択した極数に対し、比較的小さい値のスロット数を選択することも可能である。スロットピッチが小さくなるように極数とスロット数を選択することで、各コイルのコイルエンドの周長を短くでき、コイルエンドを小さくできる。結果として電動機の小型化が可能で、コイルの銅損を減少させる効果もある。
【0007】
一方で、分数スロットを有する三相交流電動機では、特定のスロットで1つのスロットにつき、2相の巻線が混在する2層巻構造の重ね巻となることが一般的である。重ね巻は、任意の隣接する2つのコイルのコイルエンドが平行に並ぶ。そのため、固定子中心から固定子の外周に向かう任意の径方向で2つ以上の輪の形状のコイルが重なり合い、全周巻きとなる。したがって、コイルを固定子に挿入する際、一部のコイルで入れ替え作業が必要となる。すなわち、電動機の製造時に、インサータ方式の自動巻線機などを用いて、コイルを固定子へ自動挿入することが困難となる。分数スロットを有する三相交流電動機において、容易に自動巻線可能な製造方法の確立が望まれる。
【0008】
また、分数スロットを有する三相交流電動機では、スロット数を極数で除算した値が整数とはならないため、一つの磁極に対応する固定子のスロットの数が磁極の周期と一致しない。そのため、重ね巻ではなく全てのスロットを波巻のみで巻装しようとすると、周期性の不一致から、1相あたりにつき3つ以上の複数の環状コイルが必要となったり、環状コイルだけでは全てのスロットを占有できずに輪の形状の小コイルが複数必要となったり、コイルとコイルとを繋ぐ渡り線が複数必要となったり、あるいは、波巻の環状コイルの一部を捻る成形の工程が必要となる。
【0009】
例えば、複数対の磁極を有する回転子と、前記回転子の回転軸方向に形成され、周方向に配列された複数のスロットを有し、前記回転子と径方向に対向配置された固定子と、前記スロットに挿入されて前記固定子に巻装された複数の巻線と、を備えた3相交流電動機において、前記回転子の極数を2P、前記固定子の巻線を挿入するスロット数をNとし、スロット数Nを極対数Pで除した値が整数でなく、前記固定子のスロット数Nを極数2Pで除した商をXとするとき、前記固定子には、各相の巻線にて、固定子の内径より大きく所定の巻数だけ巻かれた1つのコイルを波巻で、X、あるいは、X+1のいずれかのスロットピッチで巻回され、周方向に360度分をスロットに巻装された第1環状巻装部と、前記第1環状巻装部と同様に1つのコイルを波巻で、X、あるいは、X+1のいずれかのスロットピッチで巻回され、前記第1環状巻装部とは完全には重ならない位置に周方向にずらして360度分をスロットに巻装された第2環状巻装部と、2つのスロットに渡って、巻線で巻回され巻装された複数個の第3巻装部と、を有し、前記第1環状巻装部、前記第2環状巻装部、及び前記複数個の第3巻装部は、各相それぞれ直列接続されている、ことを特徴とする3相交流電動機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
例えば、一極一相当りのスロット数qがq=A+B/C(但しA≧1の整数,Bは正の整数,C=4,5,7,8とし、B/Cは既約分数とする)で表わされる二層重ね巻の分数スロット巻三相電機子巻線において、全相帯を連続する相帯数がC個ずつとなる巻線群に分け、各々の巻線群に属するコイルのうちの1個のコイルを導体数が他のコイルの約1/2となる2個のコイルに分割し、隣接する両相帯に分配し、この分割コイルを並列回路に分配したことを特徴とする三相電機子巻線が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
例えば、複数のスロットが形成された固定子鉄心を有すると共に、前記複数のスロットのそれぞれに収納された複数の導体で固定子巻線が構成された固定子と、回転方向に極性が交互に異なるように配置された複数の磁極を有すると共に、前記固定子に空隙を介して設けられた回転子とを有し、隣接する3つの前記スロットに渡って配置されると共に、前記複数の磁極に対応するように複数の前記スロットを跨いで配置された複数の前記導体が電気的に接続されて1相分の相巻線が構成され、該相巻線がいくつか構成されて1つの多相巻線が構成され、該多相巻線の巻数はそれぞれ同一の巻数を有しており、該多相巻線を互いに電気的に並列接続して構成され、前記相巻線は、前記磁極の1極当たり5本の前記導体で構成されていることを特徴とする車両用交流発電機が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
例えば、固定子コアの軸方向側面、すなわち、固定子のコイルエンド部に設けた巻き線案内手段と、3相モータの場合、U,V,W相の内、U相巻き線を固定子のスロットを通して、コイルエンド部では前記巻き線案内手段に案内されることにより、V,W相のスロットのコイルエンド面の入り口が埋まらない位置に巻回し、V相の巻き線をU相巻き線と同様に、まだ巻回されていないW相のスロットのコイルエンド面の入り口が埋まらない位置に巻回し、W相の巻き線のコイルエンド部はU相とV相の巻き線のコイルエンド部に重ねて、W相のコイルエンド部の電線の長さが極力短くなるように巻回した固定子巻き線を備えることを特徴とするモータ固定子が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0013】
例えば、ステータコアの各スロットに交互に挿通されるコイル辺部と、前記コイル辺部と一体に形成され前記コイル辺部の同一側端部を接続するコイル端部と、を有するコイル導体がヘリカル状につながり波巻き構成となるように巻装されたヘリカル巻シート状コイルがシート厚さ方向に複数枚積層されて電気的に接続された3相回転電機の波巻き巻線であって、前記シート厚さ方向に隣接する前記ヘリカル巻シート状コイルは、可動子磁極の移動方向にずらして配置されており、各前記ヘリカル巻シート状コイル間において同相の相コイルが直列接続されている3相回転電機の波巻き巻線が知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【0014】
例えば、周方向に並ぶ複数のティースを有する電機子鉄心と、前記ティース間のスロット内に分布巻き方式で配されるm相巻線(mは正の整数)より形成された電機子巻線とを備える回転電機において、前記m相巻線は、第1のm相巻線群と第2のm相巻線群との2つのグループに分けられており、前記第1のm相巻線群を構成する各相の導線の巻き始めは、1番目~m番目のスロットにそれぞれ配され、前記第2のm相巻線群を構成する各相の導線の巻き始めは、(m+1)番目~2m番目のスロットにそれぞれ配され、前記m相巻線群毎に、それぞれの巻き始めから、前記電機子鉄心の周方向に波状に巻かれており、前記電機子鉄心の径方向において、前記スロットが径方向に開口する側をスロット先端側、その反対をスロット根元側とし、前記スロット内の巻線位置において、スロット根元側を第1層、スロット先端側を第2層と定義すると、前記第1のm相巻線群と前記第2のm相巻線群とは、第1層から出たm相巻線群が第2層へ入り、第2層から出たm相巻線群が第1層に入るように巻かれ、前記スロット内で、前記第1のm相巻線群と前記第2のm相巻線群とが径方向に交互に配置されていることを特徴とする回転電機が知られている(例えば、特許文献6参照。)。
【0015】
例えば、ステータコアの各スロットに交互に挿通されるコイル辺部と、前記コイル辺部と一体に形成され前記コイル辺部の同一側端部を接続するコイル端部とを有するコイル導体が全節波巻き構成となるように巻装された3相回転電機の渡巻き巻線であって、前記スロットは、毎極毎相スロット数が整数である整数スロットであり、1つのスロット内において3相のうちの単一相のコイル辺部が収容される単相スロットと、1つのスロット内において3相のうちの複数相のコイル辺部が収容される複相スロットとを有し、前記波巻き巻線は、周方向長が前記ステータコアの周方向長の自然数倍であるステータ周倍のコイル辺部数が等しい等価構成の部分コイルが複数個直列接続されており、前記ステータコアの径方向に隣接する前記部分コイルは、一方の前記部分コイルが他方の前記部分コイルに対して可動子磁極の移動方向に所定スロット数分、ずらして配置されており、前記直列接続される前記部分コイルの個数である部分コイル数は、前記毎極毎相スロット数以下の自然数に設定され、隣接する前記部分コイル間の前記所定スロット数分のずらし量は、前記毎極毎相スロット数から1を減じた自然数以下の自然数に設定されている3相回転電機の波巻き巻線が知られている(例えば、特許文献7参照。)。
【0016】
例えば、平角線よりなる各相のコイル導体が円筒状のコアの軸線方向に延びる各スロットに交互に挿通されるように波巻きされ、前記スロット内に積層されたスロット導体部と、前記スロット導体部同士を接続して前記コアの両端面から前記軸線方向に突出してコイルエンドを構成する渡り導体部とを備えている回転電機の多相波巻き巻線において、前記渡り導体部が、前記スロット導体部から前記軸線方向に延びる一対の延出部と、前記一対の延出部の先端をつなぐ連結部とによりコ字状に形成されるとともに、前記軸線方向に対する前記コアの径方向の曲げ角度が互いに異なる状態で前記渡り導体部が順次積層されていることを特徴とする回転電機の多相波巻き巻線が知られている(例えば、特許文献8参照。)。
【0017】
例えば、コイルが巻装された回転電機のステータの製造方法であって、複数の溝を長手方向に有するコイル成形治具の前記溝内に周期的にコイルを巻装すると共に、コイルの巻き付け方向端となる前記溝にて折り返して更に巻装する工程と、外周側に開口するスロットを周方向に複数有する磁性体からなるインナーコアの前記スロット内に、前記コイル成形治具に巻装された前記コイルを巻き付け方向両端が同一の前記スロットとなるよう転写する工程と、前記スロット外周側開口部に磁性体からなるアウターコアを固定する工程と、からなる回転電機のステータの製造方法が知られている(例えば、特許文献9参照。)。
【0018】
例えば、各相に2以上の並列回路を有するように複数のコイルが並列に接続されて波巻方式となるように構成された三相の固定子巻線と、同相の前記並列回路を構成する2以上の前記コイルを各々収容する複数のスロットを備えた固定子鉄心と、を有することを特徴とする回転電機が知られている(例えば、特許文献10参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2016-152730号公報
【文献】特開昭59-222066号公報
【文献】特許第4292877号公報
【文献】特開2002-034191号公報
【文献】特開2014-090614号公報
【文献】特開2012-152006号公報
【文献】特許第6191450号公報
【文献】特開2010-142019号公報
【文献】特許第4734159号公報
【文献】特開2018-157709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
スロット数を極数で除算した値が既約分数となる三相交流電動機においては、分布巻による巻線の配置が複雑になることから、スロットに挿入する巻線のコイル数が多くなり、製造における巻線工程の自動化には不向きである。また、波巻は、重ね巻や同心巻に比べると、巻線工程の自動化に比較的向いているが、例えば複数の環状コイル及び小コイルを用意したうえでスロットに配置する必要があることから、コイルの数が多く、製造方法が複雑化する問題があった。したがって、スロット数を極数で除算した値が既約分数となる三相交流電動機において、容易に自動巻線可能な分布巻のコイル構造の実現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本開示の一態様によれば、周方向の配置されたスロットのスロット数6N(Nは正の整数)が極数2P(Pは正の整数)の1.5倍より大きく、スロット数6Nを極数2Pで除算した値が既約分数になる分数スロット型の三相交流電動機の固定子は、スロット数6Nを極数2Pで除算した値の商をX(Xは正の整数)とするとき、XまたはX+1のいずれかのスロットピッチでスロット内に波巻で配置されたコイルからなるコイル群を、6つ備え、6つのコイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される。
【0022】
また、本開示の一態様によれば、三相交流電動機は、上記固定子と、固定子に対して径方向に対向配置された回転子と、を備える。
【0023】
また、本開示の一態様によれば、周方向の配置されたスロットのスロット数6N(Nは正の整数)が極数2P(Pは正の整数)の1.5倍より大きく、スロット数6Nを極数2Pで除算した値が既約分数になる分数スロット型の三相交流電動機の固定子の製造方法は、外周側に開口するスロットが形成されたインナーコアにおいて、スロット内に第1の絶縁材を配置する第1の絶縁ステップと、波巻形状に成形されたコイルを、スロット数6Nを極数2Pで除算した値の商をX(Xは正の整数)とするときにおけるXまたはX+1のいずれかのスロットピッチで、第1の絶縁材が配置されたスロット内に挿入することで波巻のコイル群を形成するコイル群形成ステップと、スロット内のコイルの外周側に第2の絶縁材を配置する第2の絶縁ステップと、第1の絶縁材、コイル群及び第2の絶縁材が配置されたスロットを有するインナーコアの外周側に、アウターコアを配置するアウターコア配置ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0024】
本開示の一態様によれば、スロット数を極数で除算した値が既約分数となる三相交流電動機において、容易なプロセスで自動巻線可能な分布巻のコイル構造を有する固定子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。
【
図2】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の外観図である。
【
図3A】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子のスロットピッチとコイルエンドとの関係を示す図であって、固定子の外観図である。
【
図3B】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子のスロットピッチとコイルエンドとの関係を示す図であって、固定子の断面図である。
【
図4A】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する展開断面図である。
【
図4B】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する断面図である。
【
図5】
図4A及び
図4Bに示した固定子の第1のコイル群の配置を説明する模式円を示す図である。
【
図6A】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する展開断面図である。
【
図6B】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する断面図である。
【
図7】
図1~
図6Bに示した固定子のコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す図である。
【
図8】
図1~
図6Bに示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図である。
【
図9】
図1~
図8に示した固定子のコイル群による三相巻線の構成を説明する展開断面図(その1)である。
【
図10】
図1~
図8に示した固定子のコイル群による三相巻線の構成を説明する展開断面図(その2)である。
【
図11】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を示す模式円を示す図である。
【
図12】本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を説明する展開断面図である。
【
図13A】
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、-U相巻線を示す。
【
図13B】
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、+V相巻線を示す。
【
図13C】
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、-W相巻線を示す。
【
図13D】
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、+U相巻線を示す。
【
図13E】
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、-V相巻線を示す。
【
図13F】
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、+W相巻線を示す。
【
図14】本開示の実施形態による10極24スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。
【
図15】
図14に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図である。
【
図16】
図14及び
図15に示した固定子のコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す図である。
【
図17】本開示の実施形態による10極24スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を示す模式円を示す図である。
【
図18】本開示の実施形態による10極24スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を説明する展開断面図である。
【
図19】本開示の実施形態による8極30スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。
【
図20A】
図19に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、第1のコイル群の配置を示す。
【
図20B】
図19に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、固定子におけるコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す。
【
図21】本開示の実施形態による8極30スロットの三相交流電動機における巻線配置の回転対称性を説明する断面図である。
【
図22】本開示の実施形態による8極36スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。
【
図23A】
図22に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、第1のコイル群の配置を示す。
【
図23B】
図22に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、固定子におけるコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す。
【
図24】本開示の実施形態による8極36スロットの三相交流電動機における巻線配置の回転対称性を説明する断面図である。
【
図25】本開示の実施形態によるスロット配置が適用可能な三相交流電動機の極数とスロット数との関係を示す図である。
【
図26A】本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられるインナーコアを示す斜視図である。
【
図26B】本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられるインナーコアを示す上面図である。
【
図28A】本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられる平角線を示す斜視図であって、平角線からなる線材を示す。
【
図28B】本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられる平角線を示す斜視図であって、波巻された巻線を示す。
【
図29A】
図27A及び
図27Bに示した第1の絶縁材が配置されたインナーコアに
図28Bに示した波巻の巻線を配置する処理を説明する斜視図であって、巻線を配置処理中のインナーコアを示す。
【
図29B】
図27A及び
図27Bに示した第1の絶縁材が配置されたインナーコアに
図28Bに示した波巻の巻線を配置する処理を説明する斜視図であって、巻線配置後のインナーコアを示す。
【
図31】
図30に示したインナーコアの外周側にアウターコアが配置された状態を示す斜視図である。
【
図32】
図31に示したインナーコアのスロットに一筆書きの要領で配置された巻線を所定の箇所で切断し渡り線により結線すること得られた固定子を示す斜視図である。
【
図33A】三相交流電動機の波巻のコイルを有する固定子における従来の巻線工程の一例を示す図である。
【
図33B】三相交流電動機の波巻のコイルを有する固定子における従来の巻線工程の一例を示す図である。
【
図33C】三相交流電動機の波巻のコイルを有する固定子における従来の巻線工程の一例を示す図である。
【
図34】本開示の実施形態による固定子を備える三相交流電動機の外観を例示する図である。
【
図35】本開示の一実施形態におけるコイルの定義を説明する図である。
【
図36A】本開示の一実施形態におけるコイル群の定義を説明する図であって、コイル配置を説明する際に用いられる模式円を示す。
【
図36B】本開示の一実施形態におけるコイル群の定義を説明する図であって、円柱状のコアの外観例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面を参照して、波巻のコイル構造を有する固定子及びこれを備える三相交流電動機について説明する。各図面において、同様の部材には同様の参照符号が付けられている。また、理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は実施するための一つの例であり、図示された形態に限定されるものではない。
【0027】
以下の説明では、電流が流れる銅線などの線材1本からなる線を「巻線」と称する。また、線材を使用して、閉じた輪の形状をつくり、同一形状で連結して束で重なっているものを「コイル」と称する。コイルは固定子のスロットに収容されている部分と、収容されていない部分とに分けられるが、各々を明確に分ける際は、前者を「巻線」、後者を「コイルエンド」と称する。また、固定子のスロットに収納されたコイルが跨ぐスロットの数を「スロットピッチ」と称する。コイルは固定子のスロットに収容されている部分と、収容されていない部分とに分けられるが、各々を明確に分ける際は、前者を「巻線」、後者を「コイルエンド」と称する。また、固定子の軸方向の両端面に対して、交互にコイルエンドを形成しながらスロットにコイルを巻装する巻線方法を「波巻」と称する。
【0028】
また、本開示の一実施形態による固定子に対向する回転子では、2P個(Pは正の整数)の磁極が配置されており、2Pの値を極数と称する。また、極数を2で割った値であるPを極対数と称する。
【0029】
図35は、本開示の一実施形態におけるコイルの定義を説明する図である。
図35に示すように、コイル4は、スロットに収容されるプラス巻線(+巻線)41P及びマイナス巻線(-巻線)41Nと、スロットに収容されないコイルエンド42からなる。スロットに収納されるコイルの巻線(プラス巻線及びマイナス巻線)の2つには、それぞれ位相が180度異なる電流が流れるため、スロットピッチは1極あたり電気角で180度程度、機械角換算で「180度÷極数」程度のスロットピッチが必要である。本開示の実施形態では、スロットピッチは、「スロット数÷極数により得られる値のうちの商である10進法表記上の整数部分」、または「スロット数÷極数により得られる値のうちの商である10進法表記上の整数部分+1」のいずれかで規定している。
【0030】
図36Aは、本開示の一実施形態におけるコイル群の定義を説明する図であって、コイル配置を説明する際に用いられる模式円を示す。
図36Bは、本開示の一実施形態におけるコイル群の定義を説明する図であって、円柱状のコアの外観例を示す。
【0031】
図36Bに示すように、固定子1において、コア3は、インナーコア3-1と、インナーコア3-1の外周側に配置されるアウターコア3-2とからなる。インナーコア3-1には、外周側に開口するスロット2が設けられる。コア3は円柱形状を有するが、以下に説明する実施形態では、コア3が有する2つの底面のうち、一方の面側を「固定子表面側」と称し、もう一方の面側を「固定子裏面側」と称する。本開示の実施形態では、固定子1において、固定子表面側及び固定子裏面側に、スロット2に収容されないコイルエンドが露出する。
【0032】
以下で説明する実施形態では、説明を簡明なものにするために、インナーコア3-1におけるコイル4の配置を、
図36Aに示すような模式円を用いて表す。模式円において、インナーコア3-1を円状に配列された台形で表す。
図36Aに示されるような模式円においては、隣接する台形の間がスロット2に相当するが、これら台形の間は、
図36Bに示すようなスロット2の「開口方向」自体を示すものではない。各スロットには「スロット識別番号」が付与される。
図36Bに示すようなコア3の固定子裏面側は、
図36Aに示すような模式円では台形の円状の配列の内周側が対応し、
図36Bに示すようなコア3の固定子表面側は、
図36Aに示すような模式円では台形の円状の配列の外周側が対応する。また、模式円において、コイルを太い実線で表し、1つのコイル群におけるコイルの巻き始めを、模式円の外周側から内周側へ向いた矢印で表し、当該コイル群のコイルの巻き終わりを、模式円の内周側から外周側へ向いた矢印で表す。例えば
図36Aでは、スロット識別番号1で示されるスロットにコイルの巻き始めが位置し、コイルエンドが固定子裏面側と固定子表面側とに交互に露出するようコイルが波巻され、スロット識別番号3で示されるスロットにコイルの巻き終わりが位置するような1つのコイル群が示されている。
【0033】
また、本開示の実施形態では、コイル群の巻き始め及び巻き終わり並びにスロット配置が同じコイルのまとまりを「コイル群」と称する。波巻された1繋ぎ(ひとつなぎ)のコイルの巻き始めから巻き終わりまでのまとまりを「組」と称する。したがって、同じコイル群(すなわち、コイル群の巻き始め及び巻き終わり並びにスロット配置が同じコイルのまとまり)であっても、1繋ぎとなっていないコイルのまとまりが複数存在する場合は、これらまとまりのそれぞれは、別々の「組」として扱われる。例えば
図36Bでは、コイル群の巻き始め及び巻き終わり並びにスロット配置が同じコイルのまとまりが2つ示されているが、これらは1つの「コイル群」として扱われるが、これら2つのコイルのまとまりが1繋ぎとなっていない場合は、コイルのまとまりのそれぞれは、別々の「組」として扱われる。つまり、1つのコイル群には、別々のコイルの組が存在し得る。もちろん、1つのコイル群に1つの組のみ存在することもあり得る。
【0034】
以下、
図35、
図36A及び
図36Bで説明した凡例を用いて、本開示の実施形態による固定子及びこれを備える三相交流電動機について説明する。
【0035】
本開示の実施形態による三相交流電動機は、周方向の配置されたスロットのスロット数6N(Nは正の整数)が極数2P(Pは正の整数)の1.5倍より大きく、スロット数6Nを極数2Pで除算した値が既約分数になる分数スロット型の三相交流電動機であって、固定子と、固定子に対して径方向に対向配置された回転子と、を備える。スロット数6Nを極数2Pで除算した値は、コイルのスロットピッチを表す。スロット数6Nを極数2Pで除算した値が1.5より大きい三相交流電動機は、コイルのスロットピッチが2以上となり、分布巻(重ね巻)のコイル構造となる。スロット数6Nを極数2Pで除算した値の10進法表記上の整数部分である商をX(Xは正の整数)とするとき、本開示の実施形態による固定子は、XまたはX+1のいずれかのスロットピッチでスロット内に波巻で配置されたコイルからなるコイル群を、6つ備える。6つのコイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される。
【0036】
例えば10極36スロットの三相交流電動機は、スロット数36を極数10で除算した値が3.6であるので、「スロット数が極数の1.5倍より大きい」の要件を満たす。また、スロット数36を極数10で除算した値である18/5は既約分数であるので、分数スロット型であるといえる。
【0037】
図1は、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。固定子1は本来は円柱状であるが、説明を分かり易くするために、円柱状である固定子1を直線的に展開した展開断面図も用いて説明する。
図1では、図面を簡明なものにするために、36スロット分のコイル配置を2段(すなわちスロット識別番号1~18とスロット識別番号19~36)に分けて示している。また、
図2は、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の外観図である。なお、
図2においては、コア3内のコイル4を透視できるように記載している。
【0038】
図1及びこれ以降に示す各図において、U、V、Wは三相交流の各相を表し、各々電気角で±120度の位相差を有している。また、「+」と「-」は電流の向きを示しており、その位相差は電気角で180度である。固定子1のコア3に設けられる各スロット2には、+U、-U、+V、-V、+W、-Wの合計6相帯のいずれかが2つずつ配置される。各配置には、銅線などの電流が流れる線材が、同じ数だけ挿入されている。また、これ以降に示す展開断面図において、固定子表面側に露出するコイルエンド(すなわちスロット2に収容されないコイル)を実線で表し、固定子裏面側に露出するコイルエンドを破線で表す。また、スロット2に収容される巻線(すなわち同一のスロットにおいて固定子表面側から固定子裏面側へまたは固定子裏面側から固定子表面側へ貫くように配置される巻線)を、黒丸「●」で表す。また、これ以降に示す展開断面図において、1つのコイル群におけるコイルの巻き始めを下向きの矢印で表し、当該コイル群のコイルの巻き終わりを、上向きの矢印で表す。
【0039】
図3Aは、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子のスロットピッチとコイルエンドとの関係を示す図であって、固定子の外観図である。
図3Bは、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子のスロットピッチとコイルエンドとの関係を示す図であって、固定子の断面図である。なお、
図3Aにおいては、コア3内のコイル4を透視できるように記載している。
【0040】
10極36スロットの三相交流電動機については、スロット数36を極数10で除算した値の10進法表記上の整数部分である商は3であるので、固定子1には、3または4(=3+1)のいずれかのスロットピッチでスロット2内に波巻で配置されたコイル4からなるコイル群が、6つ設けられる。6つのコイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される。
【0041】
特に10極36スロットの三相交流電動機では、3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロット2に配置された波巻のコイルからなるコイル群を設けることができる。例えば、
図3A及び
図3Bに示すように、固定子表面側には4スロットピッチ分のコイルエンドが露出し、固定子裏面側には3スロットピッチ分のコイルエンドが露出する。また、3スロットピッチ及び4スロットピッチの各スロットピッチ数を合計した値である7は、おおよそ2極(1極対)あたりのスロットピッチとなる。この値7に極対数5(10極を2で除算した値)を乗算して得られる値は35となり、全スロット数の36と一致しないため、固定子のスロットを3スロットピッチと4スロットピッチとで交互に波巻で巻装して固定子の周方向を1周しても、元の位置(巻き始めの位置)に戻らない特徴がある。これは3スロットピッチ及び4スロットピッチの各スロットピッチ数を合計した値である7と、スロット数36とが互いに素となる関係であるためである。
【0042】
図4Aは、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する展開断面図である。
図4Bは、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する断面図である。また、
図5は、
図4A及び
図4Bに示した固定子の第1のコイル群の配置を説明する模式円を示す図である。
【0043】
図1、
図4A、
図4B及び
図5に示すように、第1のコイル群では、コイルは、スロット識別番号1のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号1から3スロットピッチずれたスロット識別番号4のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号4から4スロットピッチずれたスロット識別番号8のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号8から3スロットピッチずれたスロット識別番号11のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号11から4スロットピッチずれたスロット識別番号15のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号15から3スロットピッチずれたスロット識別番号18のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号18から4スロットピッチずれたスロット識別番号22のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号22から3スロットピッチずれたスロット識別番号25のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号25から4スロットピッチずれたスロット識別番号29のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号29から3スロットピッチずれたスロット識別番号32のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号32から4スロットピッチずれたスロット識別番号36のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号36から3スロットピッチずれたスロット識別番号3のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第1のコイル群は、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号3のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線を構成する。
【0044】
第2~第6のコイル群についても、3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロット2に配置された波巻のコイルから構成される。
【0045】
図6Aは、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する展開断面図である。
図6Bは、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子の第1のコイル群の配置を説明する断面図である。
【0046】
図1、
図6A及び
図6Bに示すように、第2のコイル群は、第1のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第2のコイル群は、第1のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号1のスロットから6スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号7のスロットが巻き始めの位置となる。より詳しくは、第2のコイル群では、コイルは、スロット識別番号7のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号7から3スロットピッチずれたスロット識別番号10のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号10から4スロットピッチずれたスロット識別番号14のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号14から3スロットピッチずれたスロット識別番号17のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号17から4スロットピッチずれたスロット識別番号21のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号21から3スロットピッチずれたスロット識別番号24のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号24から4スロットピッチずれたスロット識別番号28のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号28から3スロットピッチずれたスロット識別番号31のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号31から4スロットピッチずれたスロット識別番号35のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号35から3スロットピッチずれたスロット識別番号38のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号2から4スロットピッチずれたスロット識別番号6のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号6から3スロットピッチずれたスロット識別番号9のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第2のコイル群は、スロット識別番号7のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号9のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線を構成する。
【0047】
第3のコイル群は、第2のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置され、第4のコイル群は、第3のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。また、第5のコイル群は、第4のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置され、第6のコイル群は、第5のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。
【0048】
すなわち、
図1に示すように、第3のコイル群は、第2のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第3のコイル群は、第2のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号7のスロットから6スロットピッチずれたスロット識別番号13のスロットが巻き始めの位置となる。より詳しくは、第3のコイル群では、コイルは、スロット識別番号13のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号13から3スロットピッチずれたスロット識別番号16のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号16から4スロットピッチずれたスロット識別番号20のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号20から3スロットピッチずれたスロット識別番号23のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号23から4スロットピッチずれたスロット識別番号27のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号27から3スロットピッチずれたスロット識別番号30のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号30から4スロットピッチずれたスロット識別番号34のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号34から3スロットピッチずれたスロット識別番号1のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号1から4スロットピッチずれたスロット識別番号5のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号5から3スロットピッチずれたスロット識別番号8のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号8から4スロットピッチずれたスロット識別番号12のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号12から3スロットピッチずれたスロット識別番号15のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第3のコイル群は、スロット識別番号13のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号15のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線として用いることができる。
【0049】
図1に示すように、第4のコイル群は、第3のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第4のコイル群は、第3のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号13のスロットから6スロットピッチずれたスロット識別番号19のスロットが巻き始めの位置となる。より詳しくは、第4のコイル群では、コイルは、スロット識別番号19のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号19から3スロットピッチずれたスロット識別番号22のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号22から4スロットピッチずれたスロット識別番号26のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号26から3スロットピッチずれたスロット識別番号29のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号29から4スロットピッチずれたスロット識別番号33のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号33から3スロットピッチずれたスロット識別番号36のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号36から4スロットピッチずれたスロット識別番号4のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号4から3スロットピッチずれたスロット識別番号7のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号7から4スロットピッチずれたスロット識別番号11のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号11から3スロットピッチずれたスロット識別番号14のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号14から4スロットピッチずれたスロット識別番号18のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号18から3スロットピッチずれたスロット識別番号21のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第4のコイル群は、スロット識別番号19のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号21のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0050】
図1に示すように、第5のコイル群は、第4のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第5のコイル群は、第4のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号19のスロットから6スロットピッチずれたスロット識別番号25のスロットが巻き始めの位置となる。より詳しくは、第5のコイル群では、コイルは、スロット識別番号25のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号25から3スロットピッチずれたスロット識別番号28のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号28から4スロットピッチずれたスロット識別番号32のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号32から3スロットピッチずれたスロット識別番号35のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号35から4スロットピッチずれたスロット識別番号3のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号3から3スロットピッチずれたスロット識別番号6のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号6から4スロットピッチずれたスロット識別番号10のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号10から3スロットピッチずれたスロット識別番号13のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号13から4スロットピッチずれたスロット識別番号17のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号17から3スロットピッチずれたスロット識別番号20のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号20から4スロットピッチずれたスロット識別番号24のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号24から3スロットピッチずれたスロット識別番号27のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第5のコイル群は、スロット識別番号25のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号27のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0051】
図1に示すように、第6のコイル群は、第5のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第6のコイル群は、第5のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号25のスロットから6スロットピッチずれたスロット識別番号31のスロットが巻き始めの位置となる。より詳しくは、第6のコイル群では、コイルは、スロット識別番号31のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号31から3スロットピッチずれたスロット識別番号34のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号34から4スロットピッチずれたスロット識別番号2のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号2から3スロットピッチずれたスロット識別番号5のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号5から4スロットピッチずれたスロット識別番号9のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号9から3スロットピッチずれたスロット識別番号12のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号12から4スロットピッチずれたスロット識別番号16のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号16から3スロットピッチずれたスロット識別番号19のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号19から4スロットピッチずれたスロット識別番号23のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号23から3スロットピッチずれたスロット識別番号26のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号26から4スロットピッチずれたスロット識別番号30のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号30から3スロットピッチずれたスロット識別番号33のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第6のコイル群は、スロット識別番号31のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号33のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0052】
図7は、
図1~
図6Bに示した固定子のコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す図である。
図8は、
図1~
図6Bに示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図である。
【0053】
図1~
図6Bに示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子1において、第1のコイル群は、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号3のスロットを巻き終わりの位置とする。第2のコイル群は、スロット識別番号7のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号9のスロットを巻き終わりの位置とする。第3のコイル群は、スロット識別番号13のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号15のスロットを巻き終わりの位置とする。第4のコイル群は、スロット識別番号19のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号21のスロットを巻き終わりの位置とする。第5のコイル群は、スロット識別番号25のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号27のスロットを巻き終わりの位置とする。第6のコイル群は、スロット識別番号31のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(20度)進んだスロット識別番号33のスロットを巻き終わりの位置とする。
【0054】
例えば、第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第1のコイル群と第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)として構成することができる。また、第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第2のコイル群と第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)として構成することができる。また、第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第3のコイル群と第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)として構成することができる。このように、第1~第6のコイル群をそれぞれスロットに配置し、渡り線にて各コイル群を上述のように結線することで、三相巻線を構成することができる。
【0055】
第1~第6のコイル群をそれぞれ複数構成して三相巻線を構成してもよい。以下にその例を2つ列記する。
【0056】
図9は、
図1~
図8に示した固定子のコイル群による三相巻線の構成を説明する展開断面図(その1)である。
図9では、図面を簡明なものにするために、36スロット分のコイル配置を2段(すなわちスロット識別番号1~18とスロット識別番号19~36)に分けて示している。
図1~
図8に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子1の各コイル群をそれぞれ2周分配置した場合は、第1~第6のコイル群は、それぞれ2つずつ構成される。例えば、2つの第1のコイル群について、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号3のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。2つの第2のコイル群について、スロット識別番号7のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号9のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。2つの第3のコイル群について、スロット識別番号13のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号15のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。2つの第4のコイル群について、スロット識別番号19のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号21のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。2つの第5のコイル群について、スロット識別番号25のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号27のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。2つの第6のコイル群について、スロット識別番号31のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号33のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。上述した2つの第1のコイル群と2つの第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)として構成することができる。上述した2つの第2のコイル群と2つの第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)として構成することができる。上述した2つの第3のコイル群と2つの第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)として構成することができる。
【0057】
図10は、
図1~
図8に示した固定子のコイル群による三相巻線の構成を説明する展開断面図(その2)である。
図10では、図面を簡明なものにするために、36スロット分のコイル配置を2段(すなわちスロット識別番号1~18とスロット識別番号19~36)に分けて示している。
図1~
図8に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子1の各コイル群をそれぞれ3周分配置した場合は、第1~第6のコイル群は、それぞれ3つずつ構成される。例えば、3つの第1のコイル群について、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号3のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。3つの第2のコイル群について、スロット識別番号7のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号9のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。3つの第3のコイル群について、スロット識別番号13のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号15のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。3つの第4のコイル群について、スロット識別番号19のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号21のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。3つの第5のコイル群について、スロット識別番号25のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号27のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。3つの第6のコイル群について、スロット識別番号31のスロットを巻き始めの位置とするコイル同士を渡り線によって連結し、スロット識別番号33のスロットを巻き終わりの位置とするコイル同士を渡り線によって連結する。上述した3つの第1のコイル群と3つの第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)として構成することができる。上述した3つの第2のコイル群と3つの第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)として構成することができる。上述した3つの第3のコイル群と3つの第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)として構成することができる。
【0058】
上述の10極36スロットの三相交流電動機に係る実施形態では、第1~第6のコイル群をそれぞれスロットに配置し、渡り線にて各コイル群を結線することで三相巻線を構成した。この変形例として、1つの巻線をスロットに一筆書きの要領で配置していき、その上で第1~第6のコイル群のそれぞれが区分けされるような位置で巻線を切断することで第1~第6のコイル群を形成し、その後、渡り線にて各コイル群を結線することで三相巻線を構成するようにしてもよい。以下にその一例を説明する。
【0059】
図11は、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を示す模式円を示す図である。また、
図12は、本開示の実施形態による10極36スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を説明する展開断面図である。
【0060】
コイルを、スロット識別番号1のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを時計回りに1周分配置していき、スロット識別番号3のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第1のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号3のスロットの固定子表面側から引き出されたコイル(
図11の点線矢印、
図12の太線の破線)を、さらにスロット識別番号7のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを時計回りに1周分配置していき、スロット識別番号9の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第2のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号9のスロットの固定子表面側から引き出されたコイル(
図11の点線矢印、
図12の太線の破線)を、さらにスロット識別番号13のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを時計回りに1周分配置していき、スロット識別番号15の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第3のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号15のスロットの固定子表面側から引き出されたコイル(
図11の点線矢印、
図12の太線の破線)を、さらにスロット識別番号19のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを時計回りに1周分配置していき、スロット識別番号21の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第4のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号21のスロットの固定子表面側から引き出されたコイル(
図11の点線矢印、
図12の太線の破線)を、さらにスロット識別番号25のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを時計回りに1周分配置していき、スロット識別番号27の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第5のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号27のスロットの固定子表面側から引き出されたコイル(
図11の点線矢印、
図12の太線の破線)を、さらにスロット識別番号31のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを時計回りに1周分配置していき、スロット識別番号33の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。
【0061】
このように、1つの巻線をスロット識別番号1のスロットの固定子表面側から挿入し、上述の手順にて一筆書きの要領で配置していき、最終的にはスロット識別番号33のスロットから固定子表面側から引き出すことにより、連続した1つの巻線を得ることができる。次いで、この要領で配置された巻線について、スロット識別番号3のスロット(第1のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号7のスロット(第2のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号9のスロット(第2のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号13のスロット(第3のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号15のスロット(第3のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号19のスロット(第4のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号21のスロット(第4のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号25のスロット(第5のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号27のスロット(第5のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号31のスロット(第6のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分、をそれぞれ切断する。これにより、第1~第6のコイル群のそれぞれが区分けされて第1~第6のコイル群が形成される。
【0062】
その後、上述のようにして区分けされた第1~第6のコイル群を、それぞれ次のように渡り線を介して連結することで、三相巻線を構成する。すなわち、第1のコイル群と第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)を構成する。第2のコイル群と第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)を構成する。第3のコイル群と第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)を構成する。
【0063】
10極36スロットの三相交流電動機は、以上説明した固定子1と固定子1に対して径方向に対向配置された回転子とを備える。
【0064】
続いて、極数2Pが2の奇数倍(すなわち極対数Pは奇数)の分数スロット型の三相交流電動機における固定子において成り立つコイル群の配置の線対称性について説明する。
【0065】
回転子の極数が2の奇数倍(すなわち極対数が奇数)である場合、6つのコイル群の配置には線対称性が成り立つ。6つのコイル群の配置には線対称性が成り立つ。
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機の場合、極数10は、2の5倍(すなわち2の奇数倍)であるので、線対称性が成り立つ。
【0066】
図13Aは、
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、-U相巻線を示す。
図13Bは、
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、+V相巻線を示す。
図13Cは、
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、-W相巻線を示す。
図13Dは、
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、+U相巻線を示す。
図13Eは、
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、-V相巻線を示す。
図13Fは、
図1~
図12に示した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の巻線配置の線対称性を説明する断面図であって、+W相巻線を示す。
【0067】
図13Aに示すように、-U相巻線は、スロット識別番号1、7、8、14、15、21、22、29及び36に配置される。-U相巻線は、周平面上における第1の対称軸100Uに対して線対称に配置される。
【0068】
図13Bに示すように、+V相巻線は、スロット識別番号6、7、13、14、20、21、27、28及び35に配置される。+V相巻線は、周平面上における第2の対称軸100Vに対して線対称に配置される。
【0069】
図13Cに示すように、-W相巻線は、スロット識別番号5、12、13、19、20、26、27、33及び34に配置される。-W相巻線は、周平面上における第3の対称軸100Wに対して線対称に配置される。
【0070】
図13Dに示すように、+U相巻線は、スロット識別番号3、4、11、18、19、25、26、32及び33に配置される。+U相巻線は、周平面上における第1の対称軸100Uに対して線対称に配置される。
【0071】
図13Eに示すように、-V相巻線は、スロット識別番号2、3、9、10、17、24、25、31及び32に配置される。-V相巻線は、周平面上における第2の対称軸100Vに対して線対称に配置される。
【0072】
図13Fに示すように、+相巻線は、スロット識別番号1、2、8、9、15、16、23、30及び31に配置される。+W相巻線は、周平面上における第3の対称軸100Wに対して線対称に配置される。
【0073】
図13A~
図13Fに示すように、10極36スロットの三相交流電動機の固定子1において、同一相帯の巻線について、隣の巻線までのスロットピッチが50度である場合が5か所存在し、10度である場合が3か所存在する。つまり、スロット数を極数で割った値が既約分数である分数スロット型の三相交流電動機の固定子においては、巻線配置は均等な角度では分布せず、すなわち回転対称性はない。一方で極対数Pが5以上の奇数の場合には、線対称軸が必ず存在する。これは次の理由に基づく。
【0074】
±U、±V、±Wの6相帯の各々について、固定子のコイルに発生する誘起電圧の波形が正弦波に近づくように巻線の配置を最適化すると、各々の相帯の巻線は、等分布になるように、かつ、360÷極対数Pの値に近いスロットピッチで配置されるため、巻線は正P角形(ただし、Pは極対数)に近づくように配置される。
【0075】
一般的に極対数Pが奇数の場合、正P角形はP回の回転対称性を有するほか、各頂点、及びその頂点の対辺の中心を垂直に通る線を軸にした線対称性も有する。
【0076】
±U、±V、±Wの6相帯のうち、1相分の巻線を分数スロット型固定子のスロットに配置すると、奇数P個の頂点を持つ正P角形に近づくように巻線は配置される。巻線の配置は回転対称性を持つことはできないが、「P-1」は必ず偶数となるため、P個ある頂点のうち、ある1つの頂点を除き、連続する(P-1)/2個の頂点と、その隣に続く(P-1)/2個の頂点は、線対称となるように配置される。また、その線対称線は残りの1つの頂点を通る。
【0077】
例えば、
図13Aを用いて10極36スロットの三相交流電動機を例にとり説明する。-U巻線は、スロット識別番号1、7、8、14、15、21、22、29及び36の合計9個のスロットに配置される。隣接するスロット識別番号1と36、7と8、14と15、21と22をそれぞれ一塊と考えると9個の-U相の巻線配置は正5角形に近い形を成している。
【0078】
-U相の巻線回転子の極対数が5であるため、電気角360度となる1極対の周期は機械角で換算すると360÷5=72度となる。一方で、スロット数は36スロットなので、1つのスロットピッチは360÷36=10度である。ある-U相の巻線から隣の-Uの巻線までのスロットピッチは、電気角1周期分の機械角72度が望ましい。しかしながら、スロット識別番号1と36、スロット識別番号7と8、スロット識別番号14と15、スロット識別番号21と22のスロットピッチは、1スロット分の10度しかとれない。また、スロット識別番号1と7、スロット識別番号8と14、スロット識別番号15と21のスロットピッチは、5スロット分の50度しかとれない。したがって、-Uの巻線配置には回転対称性はない。また、巻線の等分布性から、9個の-U相の巻線のうち、スロット識別番号1と36のスロットに配置された2個の巻線とスロット識別番号21と22のスロットに配置された2個の巻線とは100Uを線対称軸として、線対称に配置される。さらに線対称軸100Uは、スロット識別番号7と8のスロットに配置された2個の巻線とスロット識別番号14と15のスロットに配置された2個の巻線との線対称軸でもあるため、結果として、100Uは9個の-U相の巻線を2分する線対称軸であるといえる。同様の理由で、残りの各5相帯の巻線配置も、回転対称性を持たないが、線対称軸を有する。また、10極36スロットの三相交流電動機の場合、-U相と+U相とについての線対称軸100U、-V相と+V相とについての線対称軸100V、-W相と+W相とについての線対称軸100Wは、コイル群を分割する線と一致する。
【0079】
以上、巻線の線対称性についてまとめると、U相巻線は線対称となる軸を1つ有するように配置され、V相巻線は線対称となる軸を1つ有するように配置され、W相巻線は線対称となる軸を1つ有するように配置される。すなわち、U相巻線は線対称軸100Uに対して線対称に配置され、V相巻線は線対称軸100Vに対して線対称に配置され、W相巻線は線対称軸100Wに対して線対称に配置される。第1の対称軸100Uと、第2の対称軸100Vと、第3の対称軸100Wとは、互いに60度ずれて配置される。これは、極対数Pが奇数で、なおかつスロット数を極数で除算した値が規約分数となる三相交流電動機の特徴である。-U、+U、-V、+V、-W、+Wの6相帯の全てが線対称となるため、これら6相帯は線対称軸上の巻線を除き、各々偶数個の巻線を必ず有する。また、線対称軸上の巻線は各相のプラス巻線(+巻線)とマイナス巻線(-巻線)」とで180度反対側に位置し、対称の位置関係となる。したがって、各相について適切にマイナス巻線(-巻線)とプラス巻線(+巻線)との組み合わせをとることで、各相のマイナス巻線(-巻線)とプラス巻線(+巻線)とは線対称性を持ったまま2つのコイル群に分解することができる。例えば10極36スロットの三相交流電動機では、
図13Aの-U相巻線と
図13Dの+U相巻線とで
図8の第1のコイル群及び第4のコイル群を形成し、
図13Bの-V相巻線と
図13Eの+V相巻線とで
図8の第2のコイル群及び第5のコイル群を形成し、
図13Cの-W相巻線と
図13Fの+W相巻線とで
図8の第3のコイル群及び第6のコイル群を形成することができる。
【0080】
続いて、10極24スロットの三相交流電動機における固定子について説明する。
【0081】
図14は、本開示の実施形態による10極24スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。
図15は、
図14に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図である。
【0082】
10極24スロットの三相交流電動機は、スロット数24を極数10で除算した値が2.4であるので、「スロット数が極数の1.5倍より大きい」の要件を満たす。また、スロット数24を極数10で除算した値である12/5は既約分数であるので、分数スロット型であるといえる。
【0083】
10極24スロットの三相交流電動機については、スロット数24を極数10で除算した値の10進法表記上の整数部分である商は2であるので、固定子1には、2または3(=2+1)のいずれかのスロットピッチでスロット2内に波巻で配置されたコイル4からなるコイル群が、6つ設けられる。6つのコイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される。
【0084】
特に10極24スロットの三相交流電動機では、2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロット2に配置された波巻のコイルからなるコイル群を設けることができる。例えば、固定子表面側には3スロットピッチ分のコイルエンドが露出し、固定子裏面側には2スロットピッチ分のコイルエンドが露出する。また、2スロットピッチと3スロットピッチの各スロットピッチ数を合計した値である5は、おおよそ2極(1極対)あたりのスロットピッチとなる。この値5に極対数5(10極を除算した値)を乗算して得られる値は25となり、全スロット数の24と一致しないため、固定子のスロットを2スロットピッチと3スロットピッチとで交互に波巻で巻装して1周しても、元の位置(巻き始めの位置)に戻らない特徴がある。これは2スロットピッチ及び3スロットピッチの各スロットピッチを合計した値である5と、スロット数24とが互いに素となる関係であるためである。
【0085】
図14及び
図15に示すように、第1のコイル群では、コイルは、スロット識別番号1のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号1から反時計回りに2スロットピッチずれたスロット識別番号23のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号23から反時計回りに3スロットピッチずれたスロット識別番号20のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号20から反時計回りに2スロットピッチずれたスロット識別番号18のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号18から反時計回りに3スロットピッチずれたスロット識別番号15のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号15から反時計回りに2スロットピッチずれたスロット識別番号13のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号13から反時計回りに3スロットピッチずれたスロット識別番号10のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号10から反時計回りに2スロットピッチずれたスロット識別番号8のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第1のコイル群は、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とし、反時計回りに約1周してさらにスロット識別番号8のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線を構成する。
【0086】
第2~第6のコイル群についても、2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロット2に配置された波巻のコイルから構成される。
【0087】
図14及び
図15に示すように、第2のコイル群は、第1のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第2のコイル群は、第1のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号1のスロットから時計回りに4スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号5のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から、反時計回りに2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返して各々のスロット内を巻装していくと、第1のコイル群の巻き終わりである識別番号8から時計回りに4スロットピッチずれた識別番号12のスロットが第2のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線を構成する。
【0088】
図14及び
図15に示すように、第3のコイル群は、第2のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第3のコイル群は、第2のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号12のスロットから時計回りに4スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号16のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から、反時計回りに2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返して各々のスロット内を巻装していくと、第2のコイル群の巻き終わりである識別番号12から時計回りに4スロットピッチずれた識別番号16のスロットが第3のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線を構成する。
【0089】
図14及び
図15に示すように、第4のコイル群は、第3のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第4のコイル群は、第3のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号16のスロットから時計回りに4スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号20のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から、反時計回りに2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返して各々のスロット内を巻装していくと、第3のコイル群の巻き終わりである識別番号16から時計回りに4スロットピッチずれた識別番号20のスロットが第4のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。
【0090】
図14及び
図15に示すように、第5のコイル群は、第4のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第5のコイル群は、第4のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号20のスロットから時計回りに4スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号24のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から、反時計回りに2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返して各々のスロット内を巻装していくと、第4のコイル群の巻き終わりである識別番号20から時計回りに4スロットピッチずれた識別番号24のスロットが第5のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。
【0091】
図14及び
図15に示すように、第6のコイル群は、第5のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第6のコイル群は、第5のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号24のスロットから時計回りに4スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号4のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から、反時計回りに2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返して各々のスロット内を巻装していくと、第5のコイル群の巻き終わりである識別番号24から時計回りに4スロットピッチずれた識別番号4のスロットが第6のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。
【0092】
図16は、
図14及び
図15に示した固定子のコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す図である。
【0093】
図14及び
図15に示した10極24スロットの三相交流電動機における固定子1において、第1のコイル群は、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とし、反時計回りに約1周してスロット識別番号8のスロットを巻き終わりの位置とする。第2のコイル群は、スロット識別番号5のスロットを巻き始めの位置とし、反時計回りに約1周してスロット識別番号12のスロットを巻き終わりの位置とする。第3のコイル群は、スロット識別番号9のスロットを巻き始めの位置とし、反時計回りに約1周してスロット識別番号16のスロットを巻き終わりの位置とする。第4のコイル群は、スロット識別番号13のスロットを巻き始めの位置とし、反時計回りに約1周してスロット識別番号20のスロットを巻き終わりの位置とする。第5のコイル群は、スロット識別番号17のスロットを巻き始めの位置とし、反時計回りに約1周してスロット識別番号24のスロットを巻き終わりの位置とする。第6のコイル群は、スロット識別番号21のスロットを巻き始めの位置とし、反時計回りに約1周してスロット識別番号4のスロットを巻き終わりの位置とする。
【0094】
例えば、第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第1のコイル群と第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)として構成することができる。また、第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第2のコイル群と第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)として構成することができる。また、第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第3のコイル群と第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)として構成することができる。このように、第1~第6のコイル群をそれぞれスロットに配置し、渡り線にて各コイル群を上述のように結線することで、三相巻線を構成することができる。なお、10極24スロットの三相交流電動機においても、10極36スロットの三相交流電動機と同様に、第1~第6のコイル群をそれぞれ複数構成して三相巻線を構成してもよい。
【0095】
上述の10極24スロットの三相交流電動機に係る実施形態では第1~第6のコイル群をそれぞれスロットに配置し、渡り線にて各コイル群を結線することで三相巻線を構成した。この変形例として、1つの巻線をスロットに一筆書きの要領で配置していき、その上で第1~第6のコイル群のそれぞれが区分けされるような位置で巻線を切断することで第1~第6のコイル群を形成し、その後、渡り線にて各コイル群を結線することで三相巻線を構成するようにしてもよい。以下にその一例を説明する。
【0096】
図17は、本開示の実施形態による10極24スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を示す模式円を示す図である。また、
図18は、本開示の実施形態による10極24スロットの三相交流電動機における固定子において、一筆書きの要領で配置された巻線により構成されるコイル群を説明する展開断面図である。
【0097】
図14~
図16を参照して説明した10極24スロットの三相交流電動機における固定子では、時計回りにスロット内に巻線を配置していったが、
図17及び
図18を参照して説明する10極24スロットの三相交流電動機における固定子では、反時計回りに一筆書きの要領でスロット巻線を配置していく。ここでは、10極24スロットの三相交流電動機における固定子1の各コイル群をそれぞれ2周分一筆書きの要領で配置していく例について説明する。第1~第6のコイル群は、それぞれ2つずつ構成される。
【0098】
まず、1つめの第1~第6のコイル群に相当する部分が一筆書きの要領で形成される。
【0099】
コイルを、スロット識別番号1のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返しにスロットにコイルを反時計回りに配置していき、スロット識別番号8のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第1のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号8のスロットの固定子表面側から引き出されたコイルを、さらにスロット識別番号5のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを反時計回りに配置していき、スロット識別番号12の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第2のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号12のスロットの固定子表面側から引き出されたコイルを、さらにスロット識別番号9のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを反時計回りに配置していき、スロット識別番号16の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第3のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号16のスロットの固定子表面側から引き出されたコイルを、さらにスロット識別番号13のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを反時計回りに配置していき、スロット識別番号20の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第4のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号20のスロットの固定子表面側から引き出されたコイルを、さらにスロット識別番号17のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを時計回りに配置していき、スロット識別番号24の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。これにより、第5のコイル群に相当する部分が形成される。スロット識別番号24のスロットの固定子表面側から引き出されたコイルを、さらにスロット識別番号21のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入し、上述したように2スロットピッチと3スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットにコイルを反時計回りに配置していき、スロット識別番号4の固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入する。
【0100】
このように、1つの巻線をスロット識別番号1のスロットの固定子表面側から挿入し、上述の手順にて一筆書きの要領で反時計回りに配置していき、最終的にはスロット識別番号21のスロットから固定子表面側から引き出すことにより、連続した1つの巻線を得ることができる。次いで、この要領で配置された巻線について、スロット識別番号8のスロット(第1のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号5のスロット(第2のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号12のスロット(第2のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号9のスロット(第3のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号16のスロット(第3のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号13のスロット(第4のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号20のスロット(第4のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号17のスロット(第5のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分と、スロット識別番号24のスロット(第5のコイル群の巻き終わりに相当する位置)の固定子表面側から引き出されてスロット識別番号21のスロット(第6のコイル群の巻き始めに相当する位置)の固定子表面側から挿入されるコイル部分、をそれぞれ切断する。これにより、第1~第6のコイル群のそれぞれが区分けされて第1~第6のコイル群が形成される。
【0101】
その後、上述のようにして区分けされた第1~第6のコイル群を、それぞれ次のように渡り線を介して連結することで、三相巻線を構成する。すなわち、第1のコイル群と第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)を構成する。第2のコイル群と第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)を構成する。第3のコイル群と第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)を構成する。
【0102】
10極24スロットの三相交流電動機は、以上説明した固定子1と固定子1に対して径方向に対向配置された回転子とを備える。
【0103】
続いて、8極30スロットの三相交流電動機における固定子について説明する。
【0104】
図19は、本開示の実施形態による8極30スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。
図19では、図面を簡明なものにするために、30スロット分のコイル配置を2段(すなわちスロット識別番号1~15とスロット識別番号16~30)に分けて示している。また、
図20Aは、
図19に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、第1のコイル群の配置を示す。また、
図20Bは、
図19に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、固定子におけるコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す。
【0105】
8極30スロットの三相交流電動機は、スロット数30を極数8で除算した値が3.75であるので、「スロット数が極数の1.5倍より大きい」の要件を満たす。また、スロット数30を極数8で除算した値である15/4は既約分数であるので、分数スロット型であるといえる。
【0106】
8極30スロットの三相交流電動機については、スロット数30を極数8で除算した値の10進法表記上の整数部分である商は3であるので、固定子1には、3または4(=3+1)のいずれかのスロットピッチでスロット2内に波巻で配置されたコイル4からなるコイル群が、6つ設けられる。6つのコイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される。
【0107】
8極30スロットの三相交流電動機では、3スロットピッチまたは4スロットピッチのいずれかでスロット2に配置された波巻のコイルからなるコイル群を設けることができる。例えば、固定子表面側には3スロットピッチ分または4スロットピッチ分のコイルエンドが露出し、固定子裏面側には3スロットピッチ分または4スロットピッチ分のコイルエンドが露出する。
【0108】
図19、
図20A及び
図20Bに示すように、第1のコイル群では、コイルは、スロット識別番号1のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号2から3スロットピッチずれたスロット識別番号4のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号4から3スロットピッチずれたスロット識別番号7のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号7から4スロットピッチずれたスロット識別番号11のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号11から4スロットピッチずれたスロット識別番号15のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号15から4スロットピッチずれたスロット識別番号19のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号19から4スロットピッチずれたスロット識別番号23のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号23から4スロットピッチずれたスロット識別番号27のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号27から3スロットピッチずれたスロット識別番号30のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号30から3スロットピッチずれたスロット識別番号3のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第1のコイル群は、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに2スロット分(24度)進んだスロット識別番号3のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線として用いることができる。
【0109】
上述のように、第1のコイル群については、「3、3、4、4、4、4、4、3、3」のスロットピッチにて波巻のコイルが配置される。第2~第6のコイル群についても、同様のスロットピッチを有する波巻のコイルから構成される。
【0110】
図19、
図20A及び
図20Bに示すように、第2のコイル群は、第1のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第2のコイル群は、第1のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号1のスロットから5スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号6のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「3、3、4、4、4、4、4、3、3」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第1のコイル群の巻き終わりである識別番号3から5スロットピッチずれた識別番号8のスロットが第2のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線として用いることができる。
【0111】
図19、
図20A及び
図20Bに示すように、第3のコイル群は、第2のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第3のコイル群は、第2のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号6のスロットから5スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号11のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「3、3、4、4、4、4、4、3、3」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第2のコイル群の巻き終わりである識別番号8から5スロットピッチずれた識別番号13のスロットが第3のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線として用いることができる。
【0112】
図19、
図20A及び
図20Bに示すように、第4のコイル群は、第3のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第4のコイル群は、第3のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号11のスロットから5スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号16のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「3、3、4、4、4、4、4、3、3」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第3のコイル群の巻き終わりである識別番号13から5スロットピッチずれた識別番号18のスロットが第4のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0113】
図19、
図20A及び
図20Bに示すように、第5のコイル群は、第4のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第5のコイル群は、第4のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号16のスロットから5スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号21のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「3、3、4、4、4、4、4、3、3」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第4のコイル群の巻き終わりである識別番号18から5スロットピッチずれた識別番号23のスロットが第5のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0114】
図19、
図20A及び
図20Bに示すように、第6のコイル群は、第5のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第6のコイル群は、第5のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号21のスロットから5スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号26のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「3、3、4、4、4、4、4、3、3」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第5のコイル群の巻き終わりである識別番号23から5スロットピッチずれた識別番号28のスロットが第6のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0115】
例えば、第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第1のコイル群と第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)として構成することができる。また、第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第2のコイル群と第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)として構成することができる。また、第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第3のコイル群と第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)として構成することができる。このように、第1~第6のコイル群をそれぞれスロットに配置し、渡り線にて各コイル群を上述のように結線することで、三相巻線を構成することができる。
【0116】
8極30スロットの三相交流電動機は、以上説明した固定子1と固定子1に対して径方向に対向配置された回転子とを備える。
【0117】
続いて、極数2Pが2の偶数倍(すなわち極対数Pは偶数)の分数スロット型の三相交流電動機における固定子において成り立つコイル群の配置の回転対称性について説明する。
【0118】
回転子の極数が2の偶数倍(すなわち極対数が偶数)である場合、6つのコイル群の配置には回転対称性が成り立つ。
図19~
図24に示した8極30スロットの三相交流電動機の場合、極数8は、2の4倍(すなわち2の偶数倍)であるので、回転対称性が成り立つ。
【0119】
図21は、本開示の実施形態による8極30スロットの三相交流電動機における巻線配置の回転対称性を説明する断面図である。ここでは、-U相巻線及び+U相巻線の配置の回転対称性について説明するが、-V相巻線及び+V相巻線、並びに-W相巻線及び+W巻線についても同様の説明が成り立つ。
図21において、白丸「○」は-U相巻線を示し、黒丸「●」は+U相巻線を示す。
【0120】
例えば8極30スロットの三相交流電動機において、-U相の巻線は、1極、1相当たり、1.25(=30÷8÷3)スロットずつ配置される。1極、1相当たり1.25スロットなので、1層分のスロットが巻線で埋まるところが6か所あり、2層分のスロットが巻線で埋まるところが2か所ある。つまり、-U相の巻線は8極対で15スロット分埋まる。+U相の巻線についても、同様であり、1極、1相当たり1.25スロットなので、1層分のスロットが巻線で埋まるところが6か所あり、2層分のスロットが巻線で埋まるところが2か所ある。
図21に示すように軸200Uを境に、-U相及び+U相のコイルの組を2つに等配分で分けることができる。これは8極30スロットの三相交流電動機が4極15スロットの2周期分(スロット識別番号1~15のスロットとスロット識別番号16~30のスロットとは同じ巻線配置)であるためでもある。このように、8極30スロットの三相交流電動機においては、2回の回転対称性を有する。-U、+U、-V、+V、-W、+Wの6相帯の全てが2回の回転対称性を持つため、これら6相帯は各々偶数個の巻線を必ず有する。したがって、各相について適切にマイナス巻線(-巻線)とプラス巻線(+巻線)との組み合わせをとることで、各相のマイナス巻線(-巻線)とプラス巻線(+巻線)とは回転対称性を持ったまま2つのコイル群に分解することができる。例えば8極30スロットの三相交流電動機では、
図21Bの-U相巻線と+U相巻線とで
図20A及び
図20Bの第1のコイル群及び第4のコイル群を形成する。同様に-V相巻線と+V相巻線とで第2のコイル群及び第5のコイル群を形成し、-W相巻線と+W相巻線とで第3のコイル群及び第6のコイル群を形成することができる。
【0121】
続いて、8極36スロットの三相交流電動機における固定子について説明する。
【0122】
図22は、本開示の実施形態による8極36スロットの三相交流電動機における固定子のコイル配置を示す展開断面図である。
図22では、図面を簡明なものにするために、36スロット分のコイル配置を2段(すなわちスロット識別番号1~18とスロット識別番号19~36)に分けて示している。また、
図23Aは、
図22に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、第1のコイル群の配置を示す。また、
図23Bは、
図22に示した固定子のコイル群のコイル配置を示す模式円を示す図であって、固定子におけるコイル群の巻き始め及び巻き始めの位置を示す模式円を示す。
【0123】
8極36スロットの三相交流電動機は、スロット数36を極数8で除算した値が4.5であるので、「スロット数が極数の1.5倍より大きい」の要件を満たす。また、スロット数36を極数8で除算した値である9/2は既約分数であるので、分数スロット型であるといえる。
【0124】
8極36スロットの三相交流電動機については、スロット数36を極数8で除算した値の10進法表記上の整数部分である商は4であるので、固定子1には、4または5(=4+1)のいずれかのスロットピッチでスロット2内に波巻で配置されたコイル4からなるコイル群が、6つ設けられる。6つのコイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される。
【0125】
8極36スロットの三相交流電動機では、4スロットピッチまたは5スロットピッチのいずれかでスロット2に配置された波巻のコイルからなるコイル群を設けることができる。例えば、固定子表面側には4スロットピッチ分または5スロットピッチ分のコイルエンドが露出し、固定子裏面側には4スロットピッチ分または5スロットピッチ分のコイルエンドが露出する。
【0126】
図22、
図23A及び
図23Bに示すように、第1のコイル群では、コイルは、スロット識別番号1のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号2から5スロットピッチずれたスロット識別番号6のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号6から4スロットピッチずれたスロット識別番号10のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号10から5スロットピッチずれたスロット識別番号15のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号15から4スロットピッチずれたスロット識別番号19のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号19から4スロットピッチずれたスロット識別番号23のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号23から4スロットピッチずれたスロット識別番号27のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号27から5スロットピッチずれたスロット識別番号32のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号32から4スロットピッチずれたスロット識別番号36のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号36から5スロットピッチずれたスロット識別番号5のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。さらに、コイルは、スロット識別番号5から5スロットピッチずれたスロット識別番号10のスロットの固定子表面側から固定子裏面側へ向けて挿入され、スロット識別番号10から4スロットピッチずれたスロット識別番号14のスロットの固定子裏面側から固定子表面側へ向けて挿入される。このように、第1のコイル群は、スロット識別番号1のスロットを巻き始めの位置とし、時計回りに1周してさらに13スロット分(130度)進んだスロット識別番号14のスロットを巻き終わりの位置とする。このように配置された第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線として用いることができる。
【0127】
上述のように、第1のコイル群については、「5、4、5、4、4、4、5、4、5、5、4」のスロットピッチにて波巻のコイルが配置される。第2~第6のコイル群についても、同様のスロットピッチを有する波巻のコイルから構成される。
【0128】
図22、
図23A及び
図23Bに示すように、第2のコイル群は、第1のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第2のコイル群は、第1のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号1のスロットから6スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号7のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「5、4、5、4、4、4、5、4、5、5、4」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第1のコイル群の巻き終わりである識別番号14から6スロットピッチずれた識別番号20のスロットが第2のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線として用いることができる。
【0129】
図22、
図23A及び
図23Bに示すように、第3のコイル群は、第2のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第3のコイル群は、第2のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号7のスロットから6スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号13のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「5、4、5、4、4、4、5、4、5、5、4」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第2のコイル群の巻き終わりである識別番号20から6スロットピッチずれた識別番号26のスロットが第3のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線として用いることができる。
【0130】
図22、
図23A及び
図23Bに示すように、第4のコイル群は、第3のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第4のコイル群は、第3のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号13のスロットから6スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号19のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「5、4、5、4、4、4、5、4、5、5、4」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第3のコイル群の巻き終わりである識別番号26から6スロットピッチずれた識別番号32のスロットが第4のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0131】
図22、
図23A及び
図23Bに示すように、第5のコイル群は、第4のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第5のコイル群は、第4のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号19のスロットから6スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号25のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「5、4、5、4、4、4、5、4、5、5、4」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第4のコイル群の巻き終わりである識別番号32から6スロットピッチずれた識別番号2のスロットが第5のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0132】
図22、
図23A及び
図23Bに示すように、第6のコイル群は、第5のコイル群から周方向(図示の例では時計回り)に60度ずれた位置に配置される。すなわち、第6のコイル群は、第5のコイル群の巻き始めであるスロット識別番号25のスロットから6スロットピッチ(60度)ずれたスロット識別番号31のスロットが巻き始めの位置となる。この巻き始めの位置から「5、4、5、4、4、4、5、4、5、5、4」のスロットピッチにてスロット内を巻装していくと、第5のコイル群の巻き終わりである識別番号2から6スロットピッチずれた識別番号8のスロットが第6のコイル群の巻き終わりの位置となる。このように配置された第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線として用いることができる。
【0133】
例えば、第1のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第4のコイル群は、第1相巻線(例えばU相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第1のコイル群と第4のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第1相巻線(例えばU相巻線)として構成することができる。また、第2のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第5のコイル群は、第2相巻線(例えばV相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第2のコイル群と第5のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第2相巻線(例えばV相巻線)として構成することができる。また、第3のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの半分の巻線を構成し、第6のコイル群は、第3相巻線(例えばW相巻線)のうちの残りの半分の巻線を構成する。第3のコイル群と第6のコイル群とを渡り線によって連結することで、固定子1における第3相巻線(例えばW相巻線)として構成することができる。このように、第1~第6のコイル群をそれぞれスロットに配置し、渡り線にて各コイル群を上述のように結線することで、三相巻線を構成することができる。
【0134】
なお、8極36スロットの三相交流電動機においても、第1~第6のコイル群をそれぞれ複数構成して三相巻線を構成してもよい。また、1つの巻線をスロットに一筆書きの要領で配置していき、その上で第1~第6のコイル群のそれぞれが区分けされるような位置で巻線を切断することで第1~第6のコイル群を形成し、その後、渡り線にて各コイル群を結線することで三相巻線を構成するようにしてもよい。
【0135】
8極36スロットの三相交流電動機は、以上説明した固定子1と固定子1に対して径方向に対向配置された回転子とを備える。
【0136】
8極36スロットの三相交流電動機の場合、極数8は、2の4倍(すなわち2の偶数倍)であるので、回転対称性が成り立つ。
【0137】
図24は、本開示の実施形態による8極36スロットの三相交流電動機における巻線配置の回転対称性を説明する断面図である。ここでは、-U相巻線及び+U相巻線の配置の回転対称性について説明するが、-V相巻線及び+V相巻線、並びに-W相巻線及び+W巻線についても同様の説明が成り立つ。
図24において、白丸「○」は-U相巻線を示し、黒丸「●」は+U相巻線を示す。
【0138】
例えば8極36スロットの三相交流電動機において、-U相の巻線は、1極、1相当たり、1.5(=36÷8÷3)スロットずつ配置される。1極、1相当たり1.5スロットなので、1層分のスロットが巻線で埋まるところが4か所あり、2層分のスロットが巻線で埋まるところが4か所ある。+U相の巻線についても、同様であり、1極、1相当たり1.5スロットなので、1層分のスロットが巻線で埋まるところが4か所あり、2層分のスロットが巻線で埋まるところが4か所ある。
図24に示すように2つの軸200U-1及び200U-2を境に、-U相及び+U相のコイルの組を4つに等配分で分けることができる。これは8極36スロットの三相交流電動機が2極9スロットの2周期分(スロット識別番号1~9のスロットとスロット識別番号10~18のスロットとスロット識別番号19~27のスロットとスロット識別番号27~36のスロットとは同じ巻線配置)であるためでもある。このように、8極36スロットの三相交流電動機においては、4回の回転対称性を有する。-U、+U、-V、+V、-W、+Wの6相帯の全てが4回の回転対称性を持つため、これら6相帯は各々偶数個の巻線を必ず有する。したがって、各相について適切にマイナス巻線(-巻線)とプラス巻線(+巻線)との組み合わせをとることで、各相のマイナス巻線(-巻線)とプラス巻線(+巻線)とは回転対称性を持ったまま2つのコイル群に分解することができる。例えば8極36スロットの三相交流電動機では、
図24の-U相巻線と+U相巻線とで
図23Bの第1のコイル群及び第4のコイル群を形成する。同様に-V相巻線と+V相巻線とで第2のコイル群及び第5のコイル群を形成し、-W相巻線と+W相巻線とで第3のコイル群及び第6コイル群を形成することができる。
【0139】
続いて、一筆書きの要領でXスロットピッチとX+1スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットに波巻のコイルが配置される実施形態について、より詳細に説明する。スロット数6Nを極数2Pで除算した値の10進法表記上の整数部分である商をX(Xは正の整数)としている。
【0140】
上述したように、例えば10極36スロットの三相交流電動機及び10極24スロットの三相交流電動機などにおいては、一筆書きの要領でXスロットピッチとX+1スロットピッチとを交互に繰り返すようにスロットに波巻のコイルを配置することができる。一筆書きの要領でXスロットピッチとX+1スロットピッチとを交互に繰り返すことを整数回行ってスロットに波巻のコイルを配置することで6つのコイル群が形成され、3相の全ての巻線の配置が完了できる場合、2X+1(=X+X+1)のスロットピッチの周期で同じ形状の波巻が連続して続くので、固定子の製造が容易になる。
【0141】
本発明の特徴である「コイル群を6つ備え、6つのコイル群の各々は、周方向に互いに60度ずれた位置に配置される」という条件の下で、一筆書きの要領でXとX+1とが交互のスロットピッチで波巻のコイルが配置できるための極数とスロット数との関係は、次の通りである。
【0142】
スロット数を6N(Nは正の整数)、極数を2P(Pは正の整数)とし、スロット数6Nを極数2Pで除算した値が整数にならないとき、当該「スロット数6Nを極数2Pで除算した値」の10進法表記上の整数部分である商をX(Xは正の整数)とする。一筆書きの要領でXスロットピッチとX+1スロットピッチとを交互に繰り返すことを整数回行ってスロットに波巻のコイルを配置することで6つのコイル群が形成されるための必要十分条件は、下記(I)である。
【0143】
条件(I) 2X+1と3Nとが互いに素である。すなわち、2X+1と3Nとが、1以外に公約数を持たない。
【0144】
2X+1は奇数であるので、条件(I)が成り立つとき、2X+1と6Nとは互いに素となる。したがって、2X+1と6Nとの最小公倍数は「(2X+1)×6N」となるので、2X+1のスロットピッチにてコイルを配置したときに巻線が元の位置に戻るのは、2X+1が6N回繰り返された後となる。この6N回の周期により、2X+1スロットピッチの周期は6つに分割することが可能である。また、スロット数6Nが(2X+1)×6Nとなるためには、6Nを(2X+1)倍する必要があるので、波巻は全スロットを2X+1周だけ回る。また、2X+1のスロットピッチがZ回(Zは正の整数)スロットを回ったとき、その位置は「(2X+1)×Z」を6Nで除算した余りに等しくなる。「(2X+1)×Z」の値を6Nで除算したときの余りは、0から6N-1までのいずれかの値であり、Zが0から6N-1の各々の値をとるとき、その余りは0から6N-1のいずれかの値を各々1回ずつ取る。そのため、2X+1スロットピッチのコイルは6N回スロットを回ったとき、各スロットに1回ずつ配置される。
【0145】
条件(I)を満たすか否かは、極数2P及びスロット数6Nに基づいて判別することができる。
【0146】
第1の例として、8極18スロットの三相交流電動機について説明する。P=4、N=3、6N÷(2P)=18÷8=2.25であるので、X=2である。よって、2X+1=2×2+1=5であり、3N=9である。5と9とは互いに素となるため、条件(I)を満たす。また、2スロットピッチと3スロットピッチとで交互に巻回するとき、波巻は5スロットピッチの周期で各スロットに配置されることになる。
【0147】
ここで第1項が1であり公差が5(=2X+1)である等差数列において、18(=6N)を超えるごとに18(=6N)を差し引いた数列を考える。各項を順に並べると、「1、6、11、16、3、8、13、18、5、10、15、2、7、12、17、4、9、14、1、…」となり、数列の第19項で第1項の1の値に戻るので、これ以降、同じ数列を繰り返す。このとき、数列の第1項のから第18項まで、1から18までの異なる数字を必ず1回巡回する。この第1項から第18項までの数列を、数列1とする。また、数列1の各項に2(=X)を加算し、18(=6N)を超えるごとに18(=6N)を差し引いた数列は「3、8、13、18、5、10、15、2、7、12、17、4、9、14、1、6、11、16、3」となる。この数列を数列2とする。数列2も項数が18項あるが、数列1と同様に1から18の異なる値を1個ずつ含んでいる。さらに上述の数列1の各奇数項と各偶数項との間に、上述の数列2の各項を1つずつ挟んで並べると、「1、3、6、8、11、13、16、18、3、5、8、10、13、15、18、2、5、7、10、12、15、17、2、4、7、9、12、14、17、1、4、6、9、11、14、16」となる。これを数列3とする。数列3は各奇数項とその次項との差が2(=X)となり、各偶数項とその次項との差が3(=X+1)となる。また、数列3は項数が36項(=6N×2)あるが、1から18の値を必ず2個ずつ含んでいる。さらに、数列3を3項ずつに分割すると、「1、3、6」、「8、11、13」、「16、18、3」、「5、8、10」、「13、15、18」、「2、5、7」、「10、12、15」、「17、2、4」、「7、9、12」、「14、17、1」、「4、6、9」、「11、14、16」となる。つまり、数列3は、6つの数列に分解することが可能である。
【0148】
数列3の各値を8極18スロットの三相交流電動機の固定子のスロット識別番号に見立てたうえで、これらを波巻が配置されるスロットとみなすと、数列3を6つに分解した数列は、波巻による6つのコイル群の波巻が巻回するスロットの識別番号とみなすことができる。
【0149】
第2の例として、
図19、
図20A及び
図20Bに示した8極30スロットの三相交流電動機について説明する。この場合、P=4、N=5、X=3であるので、2X+1=2×3+1=7であり、3N=15である。7と15とは互いに素となるので、条件(I)を満たす。また、3スロットピッチと4スロットピッチとで交互で交互に巻回するとき、波巻は7スロットピッチの周期で各スロットに配置されることになる。
【0150】
ここで第1項が1であり公差が7(=2X+1)である等差数列において、30(=6N)を超えるごとに30(=6N)を差し引いた数列を考える。各項を順に並べると、「1、8、15、22、29、6、13、20、27、4、11、18、25、2、9、16、23、30、7、14、21、28、5、12、19、26、3、10、17、24、1、…」となる。数列の第31項で第1項の1の値に戻るので、これ以降、同じ数列を繰り返す。このとき、数列の第1項から第30項までで、1から30まで異なる数字を必ず1回巡回する。この第1項から第30項までの数列を、数列4とする。また、数列4の各項に3(=X)を加算し、30(=6N)を超えるごとに30(=6N)を差し引いた数列は「4、11、18、25、2、9、16、23、30、7、14、21、28、5、12、19、26、3、10、17、24、1、8、15、22、29、6、13、20、27」となる。この数列を数列5とする。数列5も項数が30項あるが、数列4と同様に1から30の異なる値を1個ずつ含んでいる。さらに上述の数列4の各奇数項と各偶数項との間に、上述の数列5の各項を1つずつ挟んで並べると、「1、4、8、11、15、18、22、25、29、2、6、9、13、16、20、23、27、30、4、7、11、14、18、21、25、28、2、5、9、12、16、19、23、26、30、3、7、10、14、17、21、24、28、1、5、8、12、15、19、22、26、29、3、6、10、13、17、20、24、27」となる。これを数列6とする。数列6は各奇数項とその次の偶数項との差が3(=X)となり、各偶数項とその次の奇数項の差が4(=X+1)となる。また、数列6は項数が60項(=6N×2)あるが、1から30の値を必ず2個ずつ含んでいる。また、数列6の各項を12項ずつ分割すると、「1、4、8、11、15、18、22、25、29、2、6、9」、「13、16、20、23、27、30、4、7、11、14、18、21」、「25、28、2、5、9、12、16、19、23、26、30、3」、「7、10、14、17、21、24、28、1、5、8、12、15」、「19、22、26、29、3、6、10、13、17、20、24、27」となる。つまり、数列6は6つの数列に分解することが可能である。
【0151】
数列6の各値を8極30スロットの三相交流電動機の固定子のスロット識別番号に見立てたうえで、これらを波巻が配置されるスロットとみなすと、数列6を6つに分解した数列は、波巻による6つのコイル群の波巻が通るスロットとみなすことができる。
【0152】
以上説明したスロット配置は、8極30スロットの三相交流電動機が条件(I)を満たすことにより、実現可能である。このようなスロット配置とは別に、8極30スロットの三相交流電動機については、
図19、
図20A及び
図20Bに既に示したように、コイル群の巻き始めの位置から「3、3、4、4、4、4、4、3、3」のスロットピッチにてスロット内を波巻で巻装する事例についても説明した。
図19、
図20A及び
図20Bに示したスロット配置は、8極30スロットの三相交流電動機が、巻線配置に関して回転対称性を有することから可能である。例えば8極30スロットの三相交流電動機の固定子について、上述の第2の例によるスロット配置とするか、あるいは、
図19、
図20A及び
図20Bに示したスロット配置とするかは、三相交流電動機の設計内容に応じて適宜決定すればよい。
【0153】
第3の例として、条件(I)を満たさない三相交流電動機の固定子のスロット配置について説明する。例えば
図22、
図23A及び
図23Bに示した8極36スロットの三相交流電動機は、条件(I)を満たさない。より詳しくは、P=4、N=6、6N÷(2P)=36÷8=4.5であるので、X=4である。2X+1=2×4+1=9であり、3N=18である。9と18とは9の最大公約数を持つため、条件(I)を満たさない。また、4スロットピッチと5スロットピッチとで交互に波巻するとき、9スロットピッチの周期で各スロットを巡回する。
【0154】
ここで第1項が1であり公差が9(=2X+1)である等差数列において、36(=6N)を超えるごとに36(=6N)を差し引いた数列を考える。各項を順に並べると、「1、10、19、28、1、10、19、28、1、10、19、28、1、10、19、28、1、10、19、28、1、10、19、28、1、…」となる。この数列の第1から第36項までを数列7とする。数列7は、第5項、第9項、第13項、第17項、第21項、第25項、第29項、第33項の各項で1となるので、「1、10、19、28」の値を9回繰り返す数列であるといえる。また、数列7の各項に4(=X)を加算し、36(=6N)を超えるごとに36(=6N)を差し引いた数列は「5、14、23、32、5、14、23、32、5、14、23、32、5、14、23、32、5、14、23、32、5、14、23、32、5、14、23、32、5、14、23、32、5、14、23、32」となる。この数列を数列8とする。数列8は、第5項、第9項、第13項、第17項、第21項、第25項、第29項、第33項の各項で5となるので、「5、14、23、32」を9回繰り返す数列であるといえる。さらに上述の数列7の各奇数項と各偶数項との間に、上述の数列8の各項を1つずつ挟んで並べると、「1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32、1、5、10、14、19、23、28、32」となる。これを数列9とする。数列9は、各奇数項とその次の偶数項との差が4となり、各偶数項とその次の奇数項の差が5となるが、「1、5、10、14、19、23、28、32」を9回繰り返し、1から36の整数のうち、1、5、10、14、19、23、28、32の8個の整数しか巡回しない。
【0155】
数列9の各値を8極36スロットの三相交流電動機の固定子のスロット識別番号に見立てたうえで、これらを波巻が配置されるスロットとみなすと、4スロットピッチと5スロットピッチとで交互に配置される波巻のコイルは、全てのスロットを配置されるわけではなく、特定のスロットのみを巡回することになる。このように、極数及びスロット数について、条件(I)を満たさない場合、XスロットピッチとX+1スロットピッチとで交互に波巻しようとすると、波巻が特定のスロットを繰り返し巡回してしまうことになり、一繋ぎの波巻を実行しても、全てのスロットを巻回することができない。このような場合は、
図22、
図23A及び
図23Bを参照して説明したように、XスロットピッチまたはX+1スロットピッチのいずれかを1回以上、連続するスロットピッチとなるように、コイル群を形成すれば、全てのスロットを巻回可能な6つのコイル群に分解することができる。このような6つのコイル群に分解できる性質は、偶数回の回転対称性を有する性質に起因するものである。
【0156】
上述の第3の例として説明したように、条件(I)を満たさない場合は、XスロットピッチとX+1スロットピッチのいずれかにて、必ずしもこれらが交互にならないようにコイル群を構成することで、6つのコイル群に分けることが可能となる。これは上述した6相帯の巻線配置が、線対称となる性質または偶数回の回転対称性の性質を有することに起因するものである。
【0157】
図25は、本開示の実施形態によるスロット配置が適用可能な三相交流電動機の極数とスロット数との関係を示す図である。
図25に示す表の第1列は、三相交流電動機の極数を表し、第1行は、三相交流電動機の固定子のスロット数(6の倍数)を表す。
【0158】
図25に示す表の各セルにおいて、「-」は、対応するスロット数を極数で割った値が整数となるものを示す。「― ―」は、対応するスロット数を極数で除算した値が1.5よりも小さいものを示す。
【0159】
図25に示す表の各セルにおいて、「C」はXスロットピッチ及びX+1スロットピッチを有する波巻の6つのコイル群を構成可能ではあるものの条件(I)を満たさないものを示す。すなわち、「C」は、各コイル群の波巻において、XスロットピッチとX+1スロットピッチとが必ずしも交互にならないものを示す。例えば上述した第3の例による8極36スロットの三相交流電動機の固定子がこれに該当する。
【0160】
図25に示す表の各セルにおいて、「A」は条件(I)を満たすものを示す。すなわち、「A」は、XスロットピッチまたはX+1スロットピッチのいずれかを持つ波巻の6つのコイル群の構成が可能である一方、XスロットピッチとX+1スロットピッチとで交互に波巻のコイルが配置される構成も可能であるものを示す。例えば上述した第1の例による8極18スロットの三相交流電動機の固定子及び第2の例による8極30スロットの三相交流電動機の固定子がこれに該当する。
【0161】
続いて、本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子の製造方法について、
図26A~
図32を参照して説明する。以下の説明は、上述した各極数及び各スロット数を有する三相交流電動機について同様に成り立つ。
【0162】
図26Aは、本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられるインナーコアを示す斜視図である。また、
図26Bは、本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられるインナーコアを示す上面図である。まず、円十形状の磁性材料の外周側に溝を掘ることで、外周側に開口するスロット2が設けられるインナーコア3-1を作成する。
【0163】
図27Aは、
図26A及び
図26Bに示したインナーコアに第1の絶縁材が配置された状態を示す斜視図である。また、
図27Bは、
図26A及び
図26Bに示したインナーコアに第1の絶縁材が配置された状態を示す上面図である。インナーコア3-1のスロット2内に固定子と巻線とを絶縁するための第1の絶縁材11-1を配置する。第1の絶縁材11-1は、例えば、スロット2内に絶縁紙を配置することで実現してもよく、スロット2の内側表面を絶縁樹脂により封止することによって実現してもよく、スロット2の内側表面に絶縁塗料を塗布することによっても実現してもよい。
図27A及び
図27Bでは一例として樹脂封止により第1の絶縁材11-1を配置する例を示している。
【0164】
図28Aは、本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられる平角線を示す斜視図であって、平角線からなる線材を示す。
図28Bは、本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子に用いられる平角線を示す斜視図であって、波巻された巻線を示す。巻線の原材料として、
図28Aに示すような平角線からなる線材4-1を、所定のスロットピッチでスロット2内に配置することができるように、
図28Bに示すような波巻のコイル4に成形する。ここで、スロット数6Nを極数2Pで除算した値の10進法表記上の整数部分である商をX(Xは正の整数)とするとき、XまたはX+1のいずれかのスロットピッチでスロット2内配置できるように成形される。例えば、上述した10極36スロットの三相交流電動機における固定子の場合、スロット2に配置される間隔が3スロットピッチと4スロットピッチとを交互に繰り返すように、コイル4を成形する。
【0165】
図29Aは、
図27A及び
図27Bに示した第1の絶縁材が配置されたインナーコアに
図28Bに示した波巻の巻線を配置する処理を説明する斜視図であって、巻線を配置処理中のインナーコアを示す。
図29Bは、
図27A及び
図27Bに示した第1の絶縁材が配置されたインナーコアに
図28Bに示した波巻の巻線を配置する処理を説明する斜視図であって、巻線配置後のインナーコアを示す。
図29Aに示すように、第1の絶縁材11-1が配置されたインナーコア3-1を回転させながら(図示の例では反時計周り)スロット2内に一筆書きの要領で波巻のコイル4を配置していくことで、
図29Bに示すような巻線配置後のインナーコア3-1が得られる。
【0166】
図30は、
図29A及び
図29Bに示したインナーコアに第2の絶縁材が配置された状態を示す斜視図である。
図30に示すように、
図29A及び
図29Bに示したコイル4が配置されたインナーコア3-1のスロット2さらに外周側に第2の絶縁材11-2を配置する。第2の絶縁材11-2は、例えば、スロット2内に絶縁紙を配置することで実現してもよく、スロット2の内側表面を絶縁樹脂により封止することによって実現してもよく、スロット2の内側表面に絶縁塗料を塗布することによっても実現してもよい。
【0167】
図31は、
図30に示したインナーコアの外周側にアウターコアが配置された状態を示す斜視図である。
図30に示したインナーコア3-1の外周側に、アウターコア3-2を配置する。
【0168】
図32は、
図31に示したインナーコアのスロットに一筆書きの要領で配置された巻線を所定の箇所で切断し渡り線により結線すること得られた固定子を示す斜視図である。
図11及び
図12を参照して説明したように、インナーコアのスロットに一筆書きの要領で配置されたコイル4は、第1~第6のコイル群のそれぞれが区分けされるような位置で巻線を切断することで第1~第6のコイル群を形成することができる。その後、渡り線にて各コイル群を結線することで三相巻線を構成することで、固定子1が完成する。
【0169】
図33A~
図33Cは、三相交流電動機の波巻のコイルを有する固定子における従来の巻線工程の一例を示す図である。従来の巻線工程においては、
図33Aに示すように、平角線からなるヘアピンコイルを複数用意し、各ヘアピンコイルをコの字形状に成形し(参照符号114で示す)、スロット112に挿入する。参照符号113はコアを示す。次いで、
図33Bに示すように、コイル114の両先端を折り曲げて、これらコイル114同士を溶接にて連結する。このように、従来の巻線工程は、複数のコイルを用意し、それぞれを溶接する必要があるので、機械による自動化処理が比較的煩雑になる欠点がある。また、このような巻線工程を経て得られた従来の固定子501における波巻のコイルは、
図33Cに示すように、スロット112内にて層が径方向に順々にずれて配置されていく。このため、ヘアピンコイルのような3次元的に成形されたコイルを事前に用意する必要がある。
【0170】
一方、本開示の実施形態による三相交流電動機の固定子の製造方法のうち、
図28A及び
図28Bを参照して説明した平角線のコイルの成形並びに
図29A及び
図29Bを参照して説明したコイル配置からなる巻線工程は、機械による自動化が容易である。特に一筆書きの要領でスロットにコイルを配置することもできるので、製造がより容易である。また、スロット2内における波巻コイルの配置は、径方向へのずれは1層のみで済むため、従来のようにヘアピンコイルのような3次元的に成形されたコイルを用意する必要がなく、製造プロセスが容易である。
【0171】
以上、10極36スロット、10極24スロット、8極30スロット、8極36スロット、及び8極18スロットの三相交流電動機を例にとって説明した。これらの例に限られず、スロット数6N(Nは正の整数)が極数2P(Pは正の整数)の1.5倍より大きく、スロット数6Nを極数2Pで除算した値が既約分数になるような他のスロット数6N及び極数2Pを有する三相交流電動機に対しても本発明を適用可能である。
図25の「A」及び「C」で示した極数とスロット数との組み合わせがこれに該当する。また、各図においてスロット識別番号の付与順はあくまでも一例である。
【0172】
図34は、本開示の実施形態による固定子を備える三相交流電動機の外観を例示する図である。
【0173】
本開示の実施形態による三相交流電動機1000は、上述した固定子1と、固定子1に対して径方向に対向配置された回転子10とを備える。
図34において、参照符号3は固定子のコアを示し、参照符号4はコイルを示す。コイル4は、スロットに収容されるプラス巻線(+巻線)41P及びマイナス巻線(-巻線)41Nと、スロットに収容されないコイルエンド42からなる。参照符号5は、回転子10に設けられる磁石を示し、参照符号6は回転子10の回転軸を示す。
【符号の説明】
【0174】
1 固定子
2 スロット
3 固定子のコア
4 コイル
5 磁石
6 回転軸
10 回転子
11-1 第1の絶縁材
11-2 第2の絶縁材
21 磁極
41P +(プラス)巻線
41N -(マイナス)巻線
42 コイルエンド
100U 固定子の全スロットを2つに分割する線であり、U相巻線の線対称軸
100V 固定子の全スロットを2つに分割する線であり、V相巻線の線対称軸
100W 固定子の全スロットを2つに分割する線であり、W相巻線の線対称軸
1000 三相交流電動機