(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ガラスセラミック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20240903BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C04B35/488
A61C13/083
(21)【出願番号】P 2022549195
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2021053839
(87)【国際公開番号】W WO2021165293
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-10-11
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】522322538
【氏名又は名称】インスティテュート ストローマン アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シア,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】フー,レ
(72)【発明者】
【氏名】エングクヴィスト,ハカン
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-535630(JP,A)
【文献】特表2016-508971(JP,A)
【文献】特開平01-005938(JP,A)
【文献】特開平04-209761(JP,A)
【文献】特表2019-522620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0062638(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0205972(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0130346(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0177210(US,A1)
【文献】国際公開第2018/093322(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/223551(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1562879(CN,A)
【文献】FU LE et al.,Highly translucent and strong ZrO2-SiO2 nanocrystalline glass ceramic prepared by sol-gel method and spark plasma sintering with fine 3D microstructure for dental restoration,JOURNAL OF THE EUROPEAN CERAMIC SOCIETY,2017年,vol. 37, no. 13,p.4067 - 4081,DOI: 10.1016/J.JEURCERAMSOC.2017.05.039
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C03C 14/00
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス二酸化ケイ素マトリックス(103)に埋め込まれた二酸化ジルコニウム結晶と、少なくとも1つの硬さ向上添加剤とを含むガラスセラミック材料であって、前記二酸化ジルコニウム結晶は、コア(101)を形成し、前記コア(101)の表面は、リム(102)に少なくとも部分的に囲まれ、前記リム(102)は、粒間相を含み、前記粒間相は、少なくとも二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム及び少なくとも1つの前記硬さ向上添加剤を含み、前記硬さ向上添加剤の重量パーセント濃度は、前記アモルファス二酸化ケイ素マトリックス(103)及び前記コア(101)におけるよりも前記リム(102)における方が高く、
前記ガラスセラミック材料は、2~10重量%の前記硬さ向上添加剤を含み、
前記硬さ向上添加剤は、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、又は酸化アルミニウムと酸化イットリウムとの組み合わせを含み、
前記二酸化ジルコニウム結晶の少なくとも90%は、100nm以下の平均結晶サイズを有する、ガラスセラミック材料。
【請求項2】
前記コア(101)の少なくとも一部は、前記コア間に粒界(104)を形成する少なくとも1つの隣接する他のコア(101)と連結していて、前記硬さ向上添加剤の濃度は、前記リム(102)の前記アモルファス二酸化ケイ素マトリックス(103)と接触する部分におけるよりも前記粒界(104)における方が高い、請求項1に記載のガラスセラミック材料。
【請求項3】
前記粒間相は、アモルファスである、請求項1
または2に記載のガラスセラミック材料。
【請求項4】
前記二酸化ジルコニウム結晶は、楕円形状を有する、請求項1~3のいずれかに記載のガラスセラミック材料。
【請求項5】
前記二酸化ジルコニウム結晶は、正方晶二酸化ジルコニウム、又は正方晶二酸化ジルコニウムと単斜晶二酸化ジルコニウムとの混合物のいずれかを含み、前記二酸化ジルコニウム結晶の少なくとも80%は、リートベルト解析によって判断されるように、正方晶二酸化ジルコニウムである、請求項1~4のいずれかに記載のガラスセラミック材料。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の前記ガラスセラミック材料を製造する方法であって、
(11):二酸化ジルコニウム前駆体材料を含む第1のゾルと、二酸化ケイ素前駆体材料を含む第2のゾルの2つのゾルを混合し、2つのゾルの混合物に触媒を添加するステップであって、該ステップは、前記硬さ向上添加剤のための前駆体材料を添加することを含むステップと、
(12):キセロゲルを乾燥及び形成するステップと、
(13):前記形成されたキセロゲルを焼成するステップと、
(14):前記焼成されたキセロゲルを焼結するステップとを含み、
前記方法は、前記ガラスセラミック材料の粒子サイズを減少させる
細分化ステップを含む、方法。
【請求項7】
ステップ11において、前記第1又は第2のゾルは、前記硬さ向上添加剤のための前記前駆体材料を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記硬さ向上添加剤のための前記前駆体材料は、ステップ11において混合された後に、前記2つのゾルに添加される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
Y
3+、Al
3+又はそれらの組合せの含有量として計算される、前記硬さ向上添加剤のための前記前駆体材料が、前記二酸化ジルコニウム前駆体材料、前記二酸化ケイ素前駆体材料、及び前記硬さ向上添加剤のための前記前駆体材料の総モル量に基づいて、3~20モル%添加される、請求項
6~
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記方法のステップ(14)における前記焼結は、熱間圧接(HP)、熱間等方圧加圧法(HIP)又はスパークプラズマ焼結(SPS)を使用して行われる、請求項
6~
9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1~
5のいずれかに記載の前記ガラスセラミック材料を含む高密度化材料。
【請求項12】
請求項
11に記載の前記高密度化材料を含む歯科修復材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミック材料に関し、特に、ガラスセラミック材料、その製造方法、及び、例えば、歯科用修復目的のための高密度化材料に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的特性と美観から、セラミックやガラスセラミックは、歯科材料として広く使用されている。今日、セラミック材料は、あらゆるタイプの間接歯科修復物、すなわち、無調整ベニア、薄ベニア、ブリッジ、マルチユニット後固定部分義歯(FPD)等に使用されている。
【0003】
ガラスセラミックの主な利点の1つは半透明性であり、色の順応性が高く、材料を周囲の歯の色と適合させることが容易である。
【0004】
ジルコニア(ZrO2)系セラミックは、その良好な機械的特性のために最もよく研究されている歯科材料の1つで、「セラミック鋼」として知られており、生体適合性である。しかしながら、高強度によって、美観を損なうことが多く、不透明な材料となる。
【0005】
非特許文献1は、50mol%までのZrO2を含むZrO2-SiO2系のガラスを開示している。ZrO2含有量の増加に伴い、密度、屈折率、硬さが増した。
【0006】
特許文献1は、加圧焼結又は無圧力焼結によって非常に高い曲げ強度を有する半透明ZrO2-SiO2ナノ結晶ガラスセラミックを製造するプロセスを開示している。
【0007】
先行技術を考慮すると、改善された硬さ、半透明性や天然歯に似せる能力等、美観特性を有する強化ガラスセラミック組成物、その製造方法、及び組成物を含む歯科修復材料が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】"Glass preparation of the ZrO2-SiO2 system by the sol-gel process from metal alkoxides" by M. Nogami in J. Non-Cryst. Sol. 69 (1985) 415-423
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、高強度かつ良好な半透明性を有する改良されたガラスセラミック材料及びその製造方法を提供することであり、これは、請求項1の材料及び請求項11の方法によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、アモルファス二酸化ケイ素マトリックス中に埋め込まれた二酸化ジルコニウム結晶と、少なくとも1つの硬さ向上添加剤とを含むガラスセラミック材料である。二酸化ジルコニウム結晶は、コアを形成し、コアは、リムによって少なくとも部分的に囲まれ、リムは、粒間相を含み、粒間相は、少なくとも二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム及び少なくとも1つの硬さ向上添加剤を含む。硬さ向上添加剤の重量パーセントでの濃度は、アモルファスシリカマトリックス及びコアにおけるよりもリムにおける方が高い。
【0012】
一実施形態によれば、コアの少なくとも一部は、コア間に粒界を形成する少なくとも1つの隣接する他のコアと連結する。硬さ向上添加酸化物の濃度は、二酸化ケイ素マトリックスに接続するリムの部分におけるよりも粒界における方が高い。
【0013】
本発明の第2の態様は、
11:二酸化ジルコニウム前駆体材料を含む第1のゾルと、二酸化ケイ素前駆体材料を含む第2のゾルの2つのゾルを混合し、前記2つのゾルの混合物に触媒を添加するステップであって、該ステップは硬さ向上添加剤のための前駆体材料を添加することを含むステップと、
12:キセロゲルを乾燥及び形成するステップと、
13:形成されたキセロゲルを焼成するステップと、
14:焼成されたキセロゲルを焼結するステップとを含むガラスセラミック材料を製造する方法であって、
方法は、材料の粒子サイズを減少させる分別ステップを含む。
【0014】
本発明の第3の態様は、ガラスセラミック材料を含む高密度化材料である。
【0015】
本発明の第4の態様は、ガラスセラミック材料を含む高密度化材料を含む歯科修復材料である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の一実施形態によるフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態によるフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態のXRDパターンを示すグラフである。
【
図5a】200nmスケールバーを有する、本発明の一実施形態のSTEM画像である。
【
図5b】50nmスケールバーを有する、本発明の一実施形態のSTEM画像である。
【
図6a】本発明の一実施形態のラインスキャンを示し、20nmスケールバーを有するSTEM画像である。
【
図6b】本発明の一実施形態のラインスキャンの原子比を示すグラフである。
【
図6c】本発明の一実施形態のラインスキャンの原子比を示すグラフである。
【
図7a】本発明の実施形態のXRDパターンである。
【
図7b】本発明の実施形態のXRDパターンである。
【
図7c】本発明の実施形態のXRDパターンである。
【
図8a】100nmスケールバーを有する、本発明の一実施形態のSTEM画像である。
【
図8b】10nmスケールバーを有する、本発明の一実施形態のSTEM画像である。
【
図8c】2nmスケールバーを有する、本発明の一実施形態のSTEM画像である。
【
図8d】2nmスケールバーを有する、本発明の一実施形態のSTEM画像である。
【
図8e】2nmスケールバーを有する、本発明の一実施形態のSTEM画像である。
【
図9a】本発明の一実施形態のラインスキャンを示し、20nmスケールバーを有する、STEM画像である。
【
図9b】本発明の一実施形態のラインスキャンを示し、10nmスケールバーを有する、STEM画像である。
【
図9c】本発明の一実施形態のラインスキャンのat%での濃度を示すグラフである。
【
図9d】本発明の一実施形態のラインスキャンのat%での濃度を示すグラフである。
【
図9e】本発明の一実施形態のラインスキャンのat%での濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、実施例及び添付の請求項により、本発明をより詳細に説明する。
【0018】
「nGC」又は「nGC」という用語は、本明細書において、ZrO2及びSiO2を含むナノ結晶ガラスセラミックの略である。
【0019】
「c-ZrO2」という用語は、立方晶ZrO2の略である。
【0020】
「m-ZrO2」という用語は、単斜晶ZrO2の略である。
【0021】
「t-ZrO2」という用語は、正方晶ZrO2の略である。
【0022】
「PXRD」という用語は、粉末X線回折の略である。
【0023】
「SPS」という用語は、放電プラズマ焼結の略である。
【0024】
「HIP」という用語は、熱間等方圧加圧法の略である。
【0025】
「mol%」、「モル%」、又はモル分率という用語は、モルで表される組成物中の全ての成分の総量で割ったモルで表される成分の量である。
【0026】
「at%」という用語は、原子で表される組成物中の全ての構成成分の総量で割った、原子で表される構成成分の量である。
【0027】
「wt%」、重量%、又は重量分率という用語は、組成物中のすべての構成成分の総重量で割った構成成分の重量である。
【0028】
「GB」という用語は、粒界の略である。
【0029】
「IGF」という用語は、粒間相の略である。
【0030】
「HP」という用語は、熱間圧接の略である。
【0031】
「STEM」という用語は、走査透過型電子顕微鏡の略である。
【0032】
ジルコニアシリカ(ZrO2-SiO2)のガラスセラミックは、SiO2のアモルファスマトリクス中に埋め込まれたナノサイズのZrO2結晶を含み、このような材料は、ナノ結晶ガラスセラミック(nGC)として記載される。そのような材料は、歯科用途にとって興味深い。しかしながら、このような材料の硬さは改善する必要がある。加えて、歯科材料は、不透明な材料と比較して、本物の歯に近く、容易に色を付与できることから、光学的に半透明なものが好ましい。歯科材料は、硬く、かつ光学的に半透明なのが理想的である。
【0033】
硬さは、材料の機械的特性であり、微小硬さ及びナノ硬さに関して試験することができる。微小硬さは、「微小圧入硬さ試験」及び微小スケールで材料の硬さを試験することによって得られる。ナノ硬さは、「ナノインデンテーション硬さ試験」によって得られ、使用されるインデンテーション対象物に対して、非常に小さい先端サイズを使用して、マイクロメートルスケール又はナノメートルスケールで硬さを試験する。他の機械的特性としては、ヤング率及び破壊靭性が挙げられる。ヤング率は、材料の剛性を測定し、応力と歪みとの間の関係を定義する。破壊靭性は、亀裂が急速に伝播する際の材料に必要な応力の尺度である。材料の硬さ(マイクロ及びナノ)及び他の重要な機械的又は光学的特性を改善する、すなわち、増加させることが重要である。二軸強度は、曲げにおける破断時応力であり、降伏点での材料内における最も高い応力を表す。
【0034】
硬さを改善するために、ZrO2結晶及びアモルファスSiO2を含むガラスセラミックス材料の半透明性を許容可能なレベルで維持しながら、少なくとも1つの硬さ向上添加剤を材料に添加する。ZrO2結晶の大部分は、少なくとも一方向に粒界(GB)を形成する隣接する結晶と結合している。
【0035】
上述の微細構造を、
図1a及びbに概略で示す。コア101は、リム102に囲まれ、リム102のあるコア101は、アモルファスSiO
2マトリックス103内に配置されている。ZrO
2結晶は、コア101を形成する。リム102は、SiO
2、ZrO
2と、少なくとも1つの硬さ向上添加剤酸化物とを含む粒間相(IGF)を含む。コア101の大部分は、少なくとも1つの方向に粒界(GB)104を形成する他のコア101の近くに配置されている。GBは、IGFを含む。微細構造は、例えば、
図5a及びbの走査透過電子顕微鏡(STEM)顕微鏡写真にさらに示されている。
図5aにおいて、暗いコントラストを有する部分は、ZrO
2結晶(コア101)であり、明るいコントラストを有する「バックグラウンド」は、アモルファスSiO
2マトリックス103に対応する。
図5bにおいて、明るいコントラストを有する部分は、ZrO
2結晶(コア101)であり、暗いバックグラウンドは、アモルファスSiO
2マトリックス103である。
【0036】
概して、アモルファスSiO2マトリックス103と、ZrO2結晶と、硬さ向上添加剤とを含む、コア-リム構造を有するナノ結晶ガラスセラミック材料が提供される。ZrO2結晶は、リム102に少なくとも部分的に囲まれたコア101に存在し、リム102は、硬さ向上添加剤を含む。
【0037】
上述のように、少なくとも1つの硬さ向上添加剤は、リム102内、すなわち、少なくとも2つの隣接する結晶(すなわち、コア101)間のGB内のIGF内、及び結晶(すなわち、コア101)の表面上に存在する。言い換えれば、例えば、酸化物の形態の少なくとも1つの硬さ向上添加剤は、ZrO2/ZrO2界面及びZrO2/SiO2界面に存在する。少なくとも1つの硬さ向上添加剤の重量%での濃度は、ZrO2/SiO2界面におけるよりもGBにおける方が高い。
【0038】
少なくとも硬さに関しては、GB中の硬さ向上添加剤酸化物がアモルファスである、及び/又はIGFがアモルファスであると有利である。
図6aは、SiO
2マトリクス(暗い部分)に配置された、連結したZrO
2結晶(明るい部分)の顕微鏡写真を示す。連結したZrO
2の間には、IGFがある。
【0039】
本発明によるガラスセラミックス材料において、ZrO2結晶の少なくとも大部分は単結晶であり、結晶自体がGBを含まないことを意味する。これは、光学特性の点で有利である。
【0040】
本発明によるガラスセラミックス材料は、他の成分と比較して、モル%及びwt%の両方に関して、大部分ZrO2を含む。一実施形態において、nGC材料は、50~80モル%のZrO2又は35~85質量%のZrO2を含む。ZrO2結晶、すなわち、コア101は、アモルファスSiO2マトリックス103内に網目構造を形成し、ZrO2結晶の大部分は、少なくとも一方向にGB104を形成する少なくとも1つの他のZrO2結晶に連結する。理論に拘束されるものではないが、IGFを含むGBによって連結したZrO2結晶の網目構造は、材料の硬さが増大するように、材料に対する構造補強材として作用する。
【0041】
本発明によるガラスセラミック材料を、
図1a及びbに概略で示す。一実施形態において、
図1a及びbに示されるガラスセラミックス材料は、アモルファスSiO
2マトリックス103、ZrO
2結晶及び硬さ向上添加剤を含む。コア101は、硬さ向上添加剤を含むリム102に少なくとも部分的に囲まれた1つ以上のZrO
2結晶を含む。
【0042】
硬さ向上添加剤は、1つの化学元素若しくは組成物、又は異なる組成物若しくは元素の混合物、例えば、Al
2O
3やY
2O
3である。特に、酸化物又は酸化物の混合物であってもよい。硬さ向上添加剤は、ZrO
2結晶に隣接するナノサイズのドメイン、すなわち、コア101として、連続環としてではなく、むしろ、ZrO
2結晶又はコア101を囲む硬さ向上添加剤酸化物又はIGFの連結領域として存在してもよい。これは、例えば、Al
2O
3のナノドメインがZrO
2結晶に隣接して配置されている、
図8dのステム顕微鏡写真において見ることができる。
【0043】
理論に拘束されるものではないが、リム102に、すなわち、ZrO2結晶の表面及びGBに配置されたIGFは、ZrO2が結晶の内部に留まり、アモルファスマトリクス103に移動しないように、界面強化として作用する。
【0044】
ZrO2は、単斜晶(m)、正方晶(t)及び立方晶(c)の3つの異なった相で存在する。m-ZrO2相はこれらの中で最も安定である。それは室温で形成され、高温でc-ZrO2相に転移する。転移は、t-ZrO2相を介して生じる。m-ZrO2は、最も安定な相であるが、t-ZrO2は、機械的に最も強い相であり、従って、歯科用材料に適している。本発明によるnGC材料は、t-ZrO2及びm-ZrO2の形態のZrO2を含み、大部分はt-ZrO2である。一実施形態において、nGC材料は、80~95wt%のt-ZrO2及び5~20wt%のm-ZrO2を含む。一実施形態において、二酸化ジルコニウムは、正方晶二酸化ジルコニウム、又は正方晶二酸化ジルコニウムと単斜晶二酸化ジルコニウムとの混合物のいずれかを含み、二酸化ジルコニウム結晶の少なくとも80%は、リートベルト解析によって判断されるように、正方晶二酸化ジルコニウムである。
【0045】
理論に拘束されるものではないが、t-ZrO2結晶は、アモルファスSiO2マトリクスによってその正方相中で安定化される。他のZrO2相と比較して、ガラスセラミックス材料がt-ZrO2を大部分含むことは、歯科用途において有利である。さらなる実施形態において、ZrO2は、例えば、80~100wt%のt-ZrO2と0~20wt%のm-ZrO2を含む。異なる結晶相の量は、例えば、粉末X線回折データのリートベルト解析によって判断することができる。
【0046】
本発明の第1の態様の一実施形態において、ガラスセラミック材料は、1.5~10モル%の硬さ向上添加酸化物を含む。他の実施形態において、ガラスセラミック材料は、2.5~10モル%の添加剤、2.5~7.5モル%の添加剤、2.5~5モル%の添加剤、5~5.5モル%の添加剤、5~7.5モル%の添加剤、1.5~9モル%の添加剤、1.5~7.5モル%の添加剤、1.5~12モル%の添加剤、1.5~5モル%の添加剤、3.5~10モル%の添加剤、3.5~7.5モル%の添加剤、3.5~6モル%の添加剤、3.5~5モル%の添加剤、又は1.5~4.5モル%の添加剤を含む。
【0047】
本発明の第1の態様の一実施形態において、ガラスセラミック材料は、2~10重量%の硬さ向上添加剤を、好ましくは酸化物の形態で含む。他の実施形態において、ガラスセラミック材料は、2.5~10重量%の添加剤、2.5~7.5重量%の添加剤、2.5~6重量%の添加剤、4~7.5重量%の添加剤、又は2.5~5重量%の添加剤、好ましくは、酸化イットリウム、酸化アルミニウムの形態の添加剤、又はこれらの組み合わせを含む。
【0048】
最終材料中の硬さ向上添加剤は、酸化物形態の硬さ向上添加剤のモル%又は重量%に関係する。いくつかの実施形態において、材料中のY2O3又はAl2O3、又はそれらの組合せに関係する。一実施形態において、硬さ向上添加剤は、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、又は酸化アルミニウムと酸化イットリウムとの組み合わせを含む。
【0049】
本発明の第1の態様の一実施形態において、ガラスセラミックス材料は、ZrO2結晶、すなわち、コア101を含み、結晶の少なくとも90%、又は少なくとも95%が100nm以下の平均結晶粒径を有する。ZrO2結晶は、最長径で粒径が約20~100nm又は40~60nmであってよい。ZrO2結晶の粒径、すなわち、結晶のサイズは、光学特性及び機械的特性の両方に影響を与える。例えば、1μmより大きい結晶は、不透明なnGC材料となる。少なくともその理由から、ZrO2結晶は、大きすぎないこと、すなわち、ZrO2結晶の粒径が100nm以下であると有利である。結晶サイズ、すなわち、粒径は、例えば、pXRD、TEM又は任意の他の適切な技術を使用して求めることができる。
【0050】
一実施形態において、コア101の円周の少なくとも50体積%がリム102と接触するように、コア101はリム102に少なくとも部分的に囲まれている。リム102は、約5~20nmの厚さであり、少なくとも1つの種類の硬さ向上添加剤、酸素、ジルコニウム、及びシリコンを含む。硬さ向上添加剤のwt%での濃度は、組成物の他の部分におけるよりもリム102における方が高い。硬さ向上添加剤は、SiO2及びZrO2以外の、好ましくは、酸化物形態の化合物である。それは、化合物の組み合わせであってもよい。
【0051】
ZrO2結晶、すなわち、コア101は、Zrと硬さ向上添加剤との間の固溶体により、5モル%までの硬さ向上添加剤を含むことができる。
【0052】
第1の態様の一実施形態において、ZrO2結晶、すなわち、コア101は、楕円形状を有する。第1の態様の一実施形態において、ZrO2結晶の大部分、すなわち、コア101は、楕円体フォーム、すなわち、楕円体形態を有する。第1の態様の他の実施形態において、ZrO2結晶は、t-ZrO2を含む。
【0053】
楕円体形態は、例えば、球状形態と比較して、パッケージ密度を改善することができる。それはまた、SiO2マトリックス103内のZrO2の3D網目構造を改善することもでき、nCG物質の硬さを増大する。
【0054】
第1の態様の一実施形態において、硬さ向上添加剤は、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、又は酸化アルミニウムと酸化イットリウムとの組合せを含む。
【0055】
第1の態様の一実施形態において、粒間相はアモルファスである。
【0056】
第1の態様の一実施形態において、IGFは、イットリウム(Y)カチオン、アルミニウム(Al)カチオン、それらの各酸化物(Y2O3及びAl2O3)、又はこれらのいずれかの組合せを含む。IGFがアモルファスであることは、少なくともガラスセラミック材料の硬さの点で有利である。Y2O3とAl2O3は両者共、nGC物質の硬さ及びヤング率を増大することから、硬さ向上添加剤として使用するのに有利である。
【0057】
第1の態様の一実施形態において、IGFは、マンガン(Mn)カチオン、マグネシウム(Mg)カチオン、セリウム(Ce)カチオン、それらの各酸化物(MnO、Mn3O4、Mn2O3、MnO2、MnO3、Mn2O7、MgO、Ce2O3、Ce3O4及びCeO2)のいずれか、又はこれらのいずれかの組合せを含む。IGFがアモルファスであることは、少なくともガラスセラミック材料の硬さの点で有利である。これらの硬さ向上添加剤(Mn、Mg、Ce)の量及び好ましい量は、最終生成物の各添加剤について、1モル当たりのカチオンの個数を考慮すると、Y2O3又はAl2O3について与えられたものと同じである。例えば、最終生成物中のY2O3の量が5モル%又は10~12重量%である場合、対応するMnOの量は10モル%又は10~12重量%であり、CeO2については、3.3モル%又は5~7重量%である。
【0058】
第1の態様の一実施形態において、IGFは、イットリウム(Y)カチオン、アルミニウム(Al)カチオン、若しくはそれらの各酸化物(Y2O3及びAl2O3)、又はそれらのいずれかの組合せを、マンガン(Mn)カチオン、マグネシウム(Mg)カチオン、セリウム(Ce)カチオン、又はそれらの各酸化物(MnO、Mn3O4、Mn2O3、MnO2、MnO3、Mn2O7、MgO、Ce2O3、Ce3O4及びCeO2)のうちの1つ以上と組合せて含む。
【0059】
第1の態様の一実施形態において、IGFは、酸化イットリウムを含む。
【0060】
第1の態様の一実施形態において、nGCは、硬さ向上添加剤としてアモルファスY2O3を含み、Y2O3-ZrO2-SiO2材料を形成する。
【0061】
Y2O3-ZrO2-SiO2材料において、ZrO2は、アモルファスSiO2マトリックス103に埋め込まれた結晶粒子101の形態であってもよい。Y2O3-ZrO2-SiO2材料中のイットリウム成分(例えば、カチオン又は酸化物)は、リム102中に存在する。これはまた、上述のように、ZrO2結晶格子の内部に存在してもよい。
【0062】
第一の態様の一実施形態において、nGC材料は、1.5~5mol%のY2O3、20~42mol%のSiO2及び55~77mol%のZrO2、又は4-8wt%のY2O3、35~85wt%のSiO2、及び10~60wt%のZrO2を含む。
【0063】
第1の態様の一実施形態において、硬さ向上添加剤は、酸化アルミニウムを含む。
【0064】
第1の態様の一実施形態において、nGCは、硬さ向上添加剤としてAl2O3を含み、Al2O3-ZrO2-SiO2材料を形成する。
【0065】
Al2O3-ZrO2-SiO2材料において、ZrO2は、アモルファスSiO2マトリックス103に埋め込まれた結晶、すなわち、コア101の形態であってもよい。リム102には、Al2O3-ZrO2-SiO2材料のAl2O3が存在する。それは、さらに、SiO2マトリックス103内にある程度存在してもよい。
【0066】
第1の態様の一実施形態において、nGC材料は、1.5~7.5mol%のAl2O3又は2.5~5mol%のAl2O3、20~40mol%のSiO2及び55~75mol%のZrO2、又は2.5~5wt%のAl2O3、15~35wt%のSiO2、及び60~80wt%のZrO2を含む。
【0067】
硬さ向上添加剤としてAl2O3を含むnCG材料の1つの利点は、Al2O3がnCG材料の破壊靭性を高めることである。破壊靭性は、亀裂伝播に対する材料の耐性を表すものである。
【0068】
第1の態様の全ての変形例及び実施例は特に明記しない限り、第2及び第3の態様と組み合わせることができる。
【0069】
本発明の第2の態様は、ガラスセラミックを形成する方法であって、以下のステップを含む。
11:二酸化ジルコニウム前駆体材料を含む第1のゾルと、二酸化ケイ素前駆体材料を含む第2のゾルの2つのゾルを混合し、2つのゾルの混合物に触媒を添加し、ゲルを形成するステップであって、該ステップは、硬さ向上添加剤のための前駆体材料を添加することを含むステップと、
12:キセロゲルを乾燥及び形成するステップと、
13:形成されたキセロゲルを焼成するステップと、
14:焼成されたキセロゲルを焼結するステップとを含み、
本方法は、上記材料の粒子サイズを減少させる分別ステップを含む。
【0070】
本方法の分別ステップは、材料の粒子サイズを減少させることに関する。これは、粒子サイズを減少させるステップ12における乾燥方法を使用することによって、又はステップ12又は13の後に形成されたキセロゲルをミリングすることによって行われる。そのような場合、キセロゲルは、粉末に形成される。
【0071】
本発明によるnGC材料は、ゾル-ゲル法で調製される。このようなゾル-ゲル法では、粉末が形成され、その後焼結されて最終構造が形成される。
【0072】
ゾル-ゲル法(process)又は方法は、小分子から固体材料を形成する無機化学において周知の技術である。この方法は、一般に、一体化された網目構造、すなわち、ゲルの前駆体として作用するコロイド溶液、すなわち、ゾルへのモノマーの変換を含む。ゲルは、小粒子又はポリマーの網目構造から構成されてもよい。
【0073】
ゾル-ゲル法の後、無機の固体粉末が形成される。形成された粉末は、焼結されて固体を形成することができる。焼結は、溶融を含むことなく、熱及び/又は圧力によって粉末から固体を圧縮及び形成するプロセス又は方法である。ゾル-ゲル法で形成された粉末は、焼結する前に、熱しながら又は熱することなく圧縮することができる。焼結中に圧縮してもよい。
【0074】
本発明によるnGC材料は、以下の連続ステップを含むゾル-ゲル法を用いて合成することができる(
図2参照)。
11:ZrO
2前駆体材料を含むものと、SiO
2前駆体材料を含むものの2つのゾルを混合し(
図2中A及びB)、触媒を2つのゾルの混合物に添加する。前駆体硬さ向上添加剤(
図2中C)を、2つのゾルのいずれかに、又は2つのゾルが混合された後に混合物に添加することができるが、ZrO
2前駆体材料の析出を少なくとも部分的に回避するために、ZrO
2前駆体材料を含むゾルに添加するのが好ましい。2つのゾルが混合された後、それらはゲルを形成する(
図2中X)。
12:形成されたゲルは乾燥され、キセロゲル(
図2中Y)を形成するが、乾燥方法によっては、粉末が形成される。
12':形成されたキセロゲルは、所定の粒度分布、例えば、1~25μm、25~500μm、25~250μm、又は50~100μmを有する粉末にミリングするか、又はステップ13'として焼成ステップ後にミリングすることができる、
13:形成されたキセロゲル又は粉末は、有機残留物を除去するために焼成される。
13':ステップ13の後、まだキセロゲル(
図2中Y)である場合、キセロゲルは粉末にミリングされる。
14:焼成粉末を焼結し、固体生成物を形成する(
図2中Z)。
【0075】
一実施形態において、ステップ12'又は13'は、プロセスの一部である。他の実施形態において、例えば、異なる乾燥プロセスがステップ12で使用され、粒径の減少(分画)が乾燥プロセスでなされる場合、ステップ12'又は13'は任意である。異なる乾燥プロセスの例は、ゾルの蒸発又は噴霧乾燥である。
【0076】
ステップ11におけるSiO2前駆体材料としては、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、エチルシリケート及びケイ素アルコキシドが挙げられる。ステップ11におけるZrO2前駆体材料としては、ジルコニウムプロポキシド、Zr(OPr)4、硝酸ジルコニル、ZrOCl2溶液、及びジルコニウム(IV)塩化物が挙げられる。
【0077】
触媒は酸性であってもよい。適切な触媒としては、塩酸、硝酸、クエン酸、酢酸、エチレンジアミン四酢酸、酒石酸、グリコール酸、シュウ酸、リンゴ酸、及びギ酸が挙げられる。
【0078】
添加剤のための前駆体材料としては、アルミニウムについては、Al(O-i-Pr)3及びイットリウムについてはYCl3が挙げられる。他に、アルミニウム-secブトキシド又はAl(OBu)3、AlCl3、Al(NO3)3・9H2O及びY(NO3)3、酢酸イットリウム、イットリウムオキソ-イソプロポキシド又はY5O(OPri)13、Y2(SO4)3、イットリウムイソプロポキシド又はC9H21O13Yが挙げられる。
【0079】
硬さ向上添加剤のための前駆体材料は、Y3+、Al3+又はそれらの組合せの含有量として計算され、前駆体材料ZrO2、SiO2及び硬さ向上添加剤の総量の3~20モル%を構成する。本発明の第2の態様の一実施形態において、ガラスセラミック材料は、2~20モル%の硬さ向上添加剤を含む。他の実施形態において、ガラスセラミック材料は、5~20モル%硬さ向上添加剤、5~15モル%硬さ向上添加剤、5~10モル%硬さ向上添加剤、3~18モル%硬さ向上添加剤、3~15モル%硬さ向上添加剤、3~12モル%硬さ向上添加剤、3~10モル%硬さ向上添加剤、7~20モル%硬さ向上添加剤、7~15モル%硬さ向上添加剤、7~12モル%硬さ向上添加剤、7~10モル%硬さ向上添加剤、3~9モル%硬さ向上添加剤、4~9モル%硬さ向上添加剤、5~8モル%硬さ向上添加剤、9~20モル%硬さ向上添加剤を含む。
【0080】
硬さ向上添加剤(Mn、Mg、Ce)の他の前駆体の量及び好ましい量は、硬さ向上添加剤のための前駆体材料のそれぞれについて、1モル当たりのカチオンの数を考慮すると、Y2O3又はAl2O3について与えられたものと同じである。例えば、硬さ向上添加剤のための前駆体材料中のY3+の量が5モル%である場合、Mn3+の対応する量は5モル%である。
【0081】
ゾル-ゲル法10では、例えば、エタノール、メタノール、無水1-プロパノール及びイソプロパノール等の様々な溶媒を使用することができる。ゲル化プロセスを少なくとも部分的に制御し、沈殿物を溶解するために、ゾル-ゲル法の異なるステップにおいて、pHを制御することが重要である。これは、例えば、ゾルへのHClの滴下添加によって、また反応の異なるステップの間に行うことができる。滴下の速度は変化させることができる。
【0082】
第2の態様の一実施形態において、ステップ11は、追加のステップ11'、11''、及び11'''を含むことがでる。
図3を参照のこと。
図3は、
図2と同じマークを使用しており、2つのゾルはA及びB、添加剤はC、ゲルはX、キセロゲルはY、固体生成物はZである。
【0083】
ステップ11'には加熱が含まれ、2つのゾルが混合され、加熱された後に、擬似ゲル(
図3中R)が形成される。しばらくした後に透明なゾルを自動的に形成することができるが、任意のステップ11"において、疑似ゲルは、高温、例えば、50~70℃で、10~15時間保持され、その後、透明なゾルが形成される(
図3中Q)。任意のステップ11'''において、酸が透明なゾルに添加され、その後、ゲルが形成され、ステップ12において乾燥されてキセロゲルになる。第2の態様の一実施形態において、方法のステップ14における焼結は、熱間等方圧加圧法(HIP)又はスパークプラズマ焼結(SPS)を使用して実行される。SPSは、他の焼結技術と比較して高い加熱速度を有し、比較的低い焼結温度での結晶粒成長を制限又は回避するために使用することができる。HIP及びHPは、セラミック材料の密度を高めるために使用することができる他の製造技術である。これは、熱と圧力の両方を加えることによって達成される。焼結ステップの前に、粉末を圧縮して、焼結後の材料の密度を増加させることができる。任意で、圧縮及び/又は焼結の前に造粒のステップを追加することによって、充填密度をさらに高めることができる。粉末造粒の方法としては、噴霧乾燥、押出及び球状化、逆湿式造粒、蒸気造粒、水分活性化乾式造粒、熱接着造粒、凍結造粒、発泡造粒が挙げられる。造粒方法は、50μm~1mmの顆粒サイズを有する顆粒を形成するものである。
【0084】
特に明記しない限り、第2の態様のすべての変形例及び実施例は、第1及び第3の態様と組み合わせることができる。
【0085】
本発明の第3の態様は、ガラスセラミック材料を含む高密度化材料である。
【0086】
一般的に、歯科技術では、高密度化材料とは、理論密度の90%以上の密度を有する材料を意味する。
【0087】
第3の態様は、アモルファスSiO2マトリックス103内に配置され、コア101を形成するZrO2結晶を含む緻密化ガラスセラミック材料であり、ZrO2結晶は、少なくとも1つの硬さ向上添加剤を含むIGFを含むリム102によって囲まれている。このような材料は、ステップ11~14を含む方法で調製することができる。
【0088】
緻密化は、材料中の気孔率を減少させる、すなわち、より緻密にするプロセスである。焼成プロセスは、緻密化を制御する。材料の緻密化は、通常、高温、例えば、1100~1550℃、又は1150~1200℃で生じる。
【0089】
第3の態様の一実施形態において、高密度化材料を含む歯科修復材料がある。緻密化された材料は、ヒトの歯の形状に成形され、歯科修復材料として使用される。そのような歯科修復材料は、アモルファスSiO2マトリックス103と、コア101の形態のZrO2結晶と、少なくとも1つの硬さ向上添加剤を含むIGFを含むリム102とを含む。コア101内のZrO2結晶は、リム102によって少なくとも部分的に囲まれている。
【0090】
特に明記しない限り、第3の態様の全ての変形例及び実施例は、第1及び第2の態様と組み合わせることができる。
【0091】
実施例
硬さ向上添加剤としてイットリウムを含むもの、硬さ向上添加剤としてアルミニウムを含むもの、そして添加剤を含まないものという、3つの異なる組のガラスセラミック材料を調製した。全ての材料は
図3に示すステップ11~14を含む方法を用いて調製された。全ての形成された材料について、機械的及び光学的特性を評価した。
【0092】
硬さ向上添加剤の混合物からなる4つ目の材料を調製した。4つ目については、機械的特性を評価した。
【0093】
実施例1:Y2O3-ZrO2-SiO2材料
合成:4つのY2O3-ZrO2-SiO2試料(Y-1~Y-4と命名)を、ゾル-ゲル法により作製し、テトラエチルオルトシリケート(Sigma-Aldrich、StLouis、MO、USA)及びジルコニウムn-プロポキシドZr(OPr)4(Sigma-Aldrichの1-プロパノール中70wt%)を、SiO2及びZrO2の出発アルコキシド前駆体材料としてそれぞれ用いた。HClを触媒として添加した。YCl3粉末を、混合ゾルに添加した後、最終的な加水分解及び重合を行った。ゾルに溶解したYCl3は、混合ゾルの加水分解及び重合プロセスに大きく影響しなかった。得られたゾル-ゲル粉末を、マッフル炉にて600℃で1時間焼成し、前駆体から有機物を除去した。ディスク試料を、保持温度1280℃、保持時間1時間、印加圧力36MPaで、熱間圧接(Y1)又はSPS(Y2~Y4)により得た。試料は、モル%及び重量%で以下の組成を有していた。
【0094】
【0095】
前駆体材料のモル%での含有量は、以下の通りであった。
【表2】
試料Y-1を、相分析及び微細構造に関して分析した。試料Y-2、Y-3及びY-4を、機械的特性に関して分析した。
【0096】
材料特性評価
相分析を、D8 Advanced回折計(Bruker Corporation、Billerica、MA)でX線回折(XRD)によって行った。2θの間隔で20~80°、走査ステップ5s/ステップ、サイズ0.0102°のNiフィルタCuKα照射(40kV、40mA)でデータを取得した。定量的な相組成分析は、Profexソフトウェアを用いてリートベルト解析から得た。透過型電子顕微鏡(TEM)分析のために、Y-1及びY-3試料の電子透明ラメラを、デュアルビーム集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM、FEI Strata DB325)を用いて調製し、Cuリフトアウト格子に取り付けた。分析は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)のためのSuperXシステムを備えたプロープ補正FEI Titan Themisで行った。EDS元素マップを取得し、Brukerによって開発されたEspritソフトウェアを用いて定量化した。
【0097】
試料の機械的性質を、ヤング率、ナノ硬さ、微小硬さ及び破壊靭性に関して評価した。ヤング率及び硬さの測定は、ナノインデンテーション試験機(Ultra nanoindenter、CSM instruments)で、8000μNの荷重で、8000μN/分の速度で行った。互いに適切な距離を有する10回の圧入を各試料について実施した。ヤング率は、オリバー・パー法(式1)に従って計算した。
【0098】
【数1】
式中、γはポアソン比であり、βはオリバー・パー定数であり、S
uは除荷曲線の開始の傾きであり、Aは圧子面積関数であり、γ
i及びE
iはそれぞれ圧子材料のポアソン比及びヤング率である。
【0099】
マイクロ硬さ試験機(Buehler Micromet 2104、Lake Bluff、IL、USA)を使用して、19.6Nの圧入荷重をかけてマイクロスケールでビッカース硬さを測定した。各試料に10回の圧入を行った。亀裂の長さ及び圧痕対角線は、機器に装備されたソフトウェアを用いて測定した。破壊靭性はPalmquvist法で計算した。
【0100】
結果:
図4のY-1試料のX線回折は、Y-3試料がt-ZrO
2を主成分とするが、m-ZrO
2相に属する小さな回折ピーク(27.8°と31.1°)も見いだされ、ある程度のt-ZrO
2が焼成ステップ中m-ZrO
2に変形することを示した。SiO
2は、X線アモルファスであり、結晶形態に属する明白なピークは見られなかったからである。リートベルト解析による定量結果によれば、Y-1試料が90.6wt%のt-ZrO
2と9.4wt%のm-ZrO
2を含むことが示された。
【0101】
Y-1試料の微細構造を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)法で特性評価した。STEM-明視野(BF)画像(
図5a)は、微細構造の概要を示す。暗いコントラストを有する部分はZrO
2結晶であり、一方、明るいコントラストを有する「バックグラウンド」はアモルファスSiO
2マトリクスに対応していた。従って、Y-1試料の基本的な構造的特徴は、アモルファスSiO
2マトリクスに埋め込まれたZrO
2結晶である。ZrO
2結晶の大部分は、楕円形の形態、すなわち、形とサイズは、概して、径が40nm~60nmの範囲であった。
図5(b)では、明るいコントラストをもつ粒子は、ZrO
2結晶である。というのは、STEM-高角環状暗視(HAADF)イメージングモードでは、コントラストは原子番号(Z)に比例し、重い原子ほど明るく見えるからである。ZrO
2結晶の大部分は、少なくとも一方向の粒界によって隣接する結晶と結合していた。結晶及びマトリクスは、STEM-EDSマップ(図示せず)によってそれぞれZrO
2及びSiO
2として確認された。ZrO
2結晶とSiO
2マトリックスの両方に、酸素元素がほぼ均一に分布し、ZrO
2結晶にわずかに集中して分布していた。Y元素は、ZrO
2結晶の周囲及び内部の両方に分布していた。ZrO
2/SiO
2界面と、ZrO
2結晶間の粒界でわずかに強いYシグナルが検出され、これら2つの領域に集中したY分布があることが示された。SiO
2マトリクス中に明らかなYシグナルは検出されなかった。
【0102】
STEM-EDSラインスキャンにより、粒間相層の粒界現象の元素分布を調べた。結果を
図6a、b及びcに示す。Yは、粒間相(IGF、
図6b及びc中、I)、すなわち、隣接するZrO
2結晶の間の領域において、偏析していることが観察される。
図6bにおいて、■はO、☆はSi、◆はZr、▼はYである。
図6cにおいて、■はSi、●はYである。
図6aは、連結したZrO
2結晶と、ZrO
2結晶間のIGFの薄層とを示すSTEM-HAADF画像である。白抜き矢印線に沿ってSTEM-EDSラインスキャンを行った。白抜き矢印線に沿ったO、Si、Y、及びZr元素の分布を
図6bに示す。Y及びSi元素は、ポイント30とポイント40の間で高い原子比率を示し、この領域がY及びSiに富んでいることを示したことが観察できる。一方、この領域のZrの原子比率は、他の領域よりも低かった。O元素は、スキャンラインに沿って均一な分布を示し、明らかな濃厚又は欠乏領域はなかった。スキャンラインに沿ったY及びSiの分布をさらに分析するために、これらの2つの元素のデータを、
図6cに示されるように別々にプロットした。
図6cは、IGFがYに富んでいたことを示している(
図6c中、I)。
【0103】
試料Y-2、Y-3及びY-4を、機械的特性に関して評価した。結果を、組成のwt%と共に表1にまとめてある。
【0104】
【表3】
1全てのZrO
2は、PXRDによって判断される通り、t-ZrO
2の形態であった。
【0105】
実施例2:Al2O3-ZrO2-SiO2材料
合成:ゾル-ゲル法を用いて3種類の異なるAl2O3-ZrO2-SiO2試料を調製した。テトラエチルオルトシリケート(TEOS)(Sigma-Aldrich、St Louis、MO、USA)とジルコニウムn-プロポキシドZr(OPr)4(Sigma-Aldrichからの1-プロパノール中70wt%)を、SiO2とZrO2の出発アルコキシド前駆体材料としてそれぞれ用いた。HClを触媒として添加した。最終加水分解と重合前に、混合ゾル中にAl(O-i-Pr)3粉末を添加した。Al(O-i-Pr)3は、ゾル中に溶解し、混合ゾルの加水分解と重合プロセスに大きな影響は示さなかった。得られたゾル-ゲル粉末を、マッフル炉にて600℃で1時間焼成し、前駆体から有機物を除去した。ディスク試料は、保持温度1150℃、保持時間5分、印加圧力60MPaのSPSによって得た。試料は、モル%及びwt%で以下の組成を有していた。
【0106】
【0107】
前駆体材料のモル%での含有量は以下の通りであった。
【表5】
【0108】
材料の特性評価:試料の相分析を、D8 Advanced回折計(Bruker Corporation、Billerica、MA)でX線回折(XRD)によって行った。2θの間隔で20~80°、走査ステップ5s/ステップ、サイズ0.0102°のNiフィルタCuKα照射(40kV、40mA)でデータを取得した。透過型電子顕微鏡(TEM)分析のために、Al-3試料の電子透明ラメラを、デュアルビーム集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM、FEI Strata DB325)を用いて作製し、Cuリフトアウトグリッドに取り付けた。分析は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)のためのSuperXシステムを備えたプロープ補正FEI Titan Themisで行った。EDS元素マップを取得し、Brukerによって開発されたEspritソフトウェアを用いて定量化した。
【0109】
試料の機械的性質を、ヤング率、ナノ硬さ、微小硬さ及び破壊靭性に関して評価した。ヤング率及び硬さの測定は、ナノインデンテーション試験機(Ultra nanoindenter、CSM instruments)で、8000μNの荷重で、8000μN/分の速度で行った。互いに適切な距離を有する10回の圧入を各試料について実施した。ヤング率は、オリバー・パー法(式1)に従って計算した。
【0110】
【数2】
式中、γはポアソン比であり、βはオリバー・パー定数であり、S
uは除荷曲線の開始の傾きであり、Aは圧子面積関数であり、γ
i及びE
iはそれぞれ圧子材料のポアソン比及びヤング率である。
【0111】
マイクロ硬さ試験機(Buehler Micromet 2104、Lake Bluff、IL、USA)を使用して、19.6Nの圧入荷重をかけてマイクロスケールでビッカース硬さを測定した。各試料に10回の圧入を行った。亀裂の長さ及び圧痕対角線は、機器に装備されたソフトウェアを用いて測定した。破壊靭性はPalmquvist法で計算した。
【0112】
結果:熱間圧接後のバルク試料についての
図7a~cのXRDパターンは、全試料が、主にt-ZrO
2で構成されていたことを示している。
図7aは試料Al-1、
図7bは試料Al-2、
図7cは試料Al-3を示す。一方、試料Al-1(
図7a参照)及び試料Al-2(
図7b参照)においては、m-ZrO
2相に属する小さな回折ピーク(27.8°と31.1°)も見いだされ、ある程度のt-ZrO
2が焼成プロセス中m-ZrO
2に変形することを示した。3つの試料全てにおいて、SiO
2はX線アモルファスであった。結晶形に属する明白なピークはXRDパターンには見られなかったからである。
【0113】
Al-3試料の微細構造を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)法で特性評価した。STEM-明視野(BF)画像(
図8a)は、微細構造の概要を示す。暗いコントラストを有する部分はZrO
2結晶であり、一方、明るいコントラストを有する「バックグラウンド」はアモルファスSiO
2マトリクスに対応していた(
図8a参照)。従って、Al-3試料の基本的な構造的特徴は、アモルファスSiO
2マトリクスに埋め込まれたZrO
2結晶である。ZrO
2結晶の大部分は、楕円形の形態であり、概して、径は40nm~60nmの範囲であった。
図8bでは、明るいコントラストをもつ粒子は、ZrO
2結晶である。というのは、STEM-高角環状暗視(HAADF)イメージングモードでは、コントラストは原子番号(Z)に比例し、重い原子ほど明るく見えるからである。ZrO
2結晶の大部分は、少なくとも一方向において粒界によって隣接する結晶と結合していた。結晶及びマトリクスは、STEM-EDSマップ(図示せず)によってそれぞれZrO
2及びSiO
2と確認された。ZrO
2結晶とSiO
2マトリックスの両方に、酸素元素がほぼ均一に分布し、ZrO
2結晶にわずかに集中して分布していた。Al元素は、ZrO
2結晶の周囲に分布していた。ZrO
2/SiO
2界面と、ZrO
2結晶間の粒界でわずかに強いAlシグナルが検出され、これら2つの領域に集中したAl分布があることが示された。SiO
2マトリクス中又はZrO
2結晶中に明らかなAlシグナルは検出されなかった。
【0114】
STEM-EDSラインスキャンにより、粒界と粒間相の元素分布を調べた。結果を
図9a~eに示す。
図9a及びbにおいて、Alが粒間相(IGF)中に偏析していることが観察される。
図9aは、連結したZrO
2結晶と、ZrO
2結晶間のIGFの薄層を示すSTEM-HAADF画像である。STEM-EDSラインスキャンは、「ラインスキャン1」、「ラインスキャン2」及び「ラインスキャン3」と示される黒線矢印に沿って行った。
図9cは、ラインスキャン1からの結果を示しており、約15~25nmの距離の領域が、Alの高濃度(ライン・・、すなわち、点線)と、Siの低濃度(ライン、-・-、すなわち、破線/点線)と、Zr(ライン、― ― ―、すなわち、破線)とを有していたことを示している。
図9dは、ラインスキャン2からの結果を示しており、5~10nmの距離の領域が、5nm未満及び10nmを超える領域よりもAl濃度が高かったことを示している。
図9dのラインは、
図9cと同じマークを有している。
図9eは、ラインスキャン3、すなわち、IGF領域からの結果を示しており、4nmと6nmの間の距離の領域が、高濃度のAlを有していたことを示している。
図9eのラインは、実線がOを表す以外は、
図9c及びdのラインと同じマークを有している。
【0115】
3つの試料全てを機械的特性に関して評価し、結果を、組成のwt%と共に表2にまとめてある。
【0116】
【表6】
1少なくとも90wt%を超えるZrO
2は、PXRDによって判断された通り、t-ZrO
2の形態であった。
【0117】
実施例3(比較例):ZrO2-SiO2材料
合成:硬さ向上添加剤を含まない3種類の異なるZrO2-SiO2試料を比較試験のために調製した。試料は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)(Sigma-Aldrich、St Louis、MO、USA)及びジルコニウムn-プロポキシドZr(OPr)4(Sigma-Aldrichからの1-プロパノール中70wt%)をそれぞれSiO2及びZrO2の出発アルコキシド前駆体材料として使用するゾル-ゲル法を用いて調製した。得られたゾル-ゲル粉末をマッフル炉にて600℃で1時間焼成し、前駆体から有機物を除去した。ディスク試料は、保持温度1150℃、保持時間5分、印加圧力60MPaのSPSによって得た。試料はモル%で以下の組成を有していた。
【0118】
【0119】
3つのSiZr試料を、実施例1及び2に記載された通りにして、相組成及び機械的特性について分析した。相解析の結果、材料は主にt-ZrO2で構成されていた。機械的特性を、組成のwt%と共に以下の表3に示す。
【0120】
【0121】
実施例4:MnOx-Al2O3-ZrO2-SiO2材料
硬さ向上添加剤としてMnOx及びAl2O3を含む一組の追加のZrO2-SiO2試料を調製した。0~0.33wt%(0~0.5モル%)の範囲のMnOx含有量で4つの試料を調製した。3試料/群で、保持温度1170℃、ランピングレート3℃/分、保持時間5~10時間、無圧力にて試料を焼結した。
【0122】
試料の二軸強度を試験した。結果を以下の表4に示す。
【0123】