(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】リチウム抽出方法、炭酸リチウムの製造方法及び水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 15/02 20060101AFI20240903BHJP
C01D 15/08 20060101ALI20240903BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20240903BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240903BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240903BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C01D15/02
C01D15/08
C22B3/20
C22B3/44 101Z
C22B7/00 C
C22B26/12
(21)【出願番号】P 2023006557
(22)【出願日】2023-01-19
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2022-0043946
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0088189
(32)【優先日】2022-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522015113
【氏名又は名称】チョン ウン
【氏名又は名称原語表記】CHON,Uong
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ウン
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/145488(WO,A1)
【文献】特開2011-168461(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0058611(KR,A)
【文献】特表2015-515440(JP,A)
【文献】特表2013-535573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 15/02
C01D 15/08
C22B 3/20
C22B 3/44
C22B 7/00
C22B 26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム陽イオン(Li
+)およびアルカリ土類金属陽イオン含有第1溶液にリン供給物質を投入し、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびリンを含有するリチウム析出物を析出させる段階を含み、前記第1溶液中、前記アルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,000mg/L以上である、リチウム抽出方法
であって、
第1溶液中、アルカリ土類金属陽イオンはマグネシウム陽イオン(Mg
2+
)、カルシウム陽イオン(Ca
2+
)およびストロンチウム陽イオン(Sr
2+
)を含み、
リン供給物質は、第1溶液中のリチウム陽イオンの1モルを基準として1モル~4モルの範囲で含み、
リチウム析出物は、リチウム析出物のリチウム溶解率が60%以上であり、リチウム溶解率が下記式2
[式2]
リチウム溶解率=A/B×100
(上記式2中、Bは、リチウム析出物中、含有されたリチウム陽イオンの全濃度(単位:mg/L)であり、Aは、リチウム析出物の15倍の重さである90℃の水でリチウム析出物を60時間撹拌し、ろ過して得られたろ液中、リチウム陽イオンの全濃度(単位:mg/L)である)によって計算された、
ことを特徴とするリチウム抽出方法。
【請求項2】
前記第1溶液は、アルカリ金属陽イオンをさらに含む、請求項
1に記載のリチウム抽出方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属陽イオンは、ナトリウム陽イオン(Na
+)、カリウム陽イオン(K
+)のうち1種以上である、請求項
2に記載のリチウム抽出方法。
【請求項4】
前記第1溶液は、鉄、マンガン、コバルト、ホウ素、シリコン、アルミニウム、塩素、硫黄のうち1種以上に由来する陽イオンまたは陰イオンをさらに含む、請求項
1に記載のリチウム抽出方法。
【請求項5】
前記第1溶液は、塩水、地下の熱水、海水、鉱石および廃電池のうちいずれか1つに由来する、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法。
【請求項6】
前記第1溶液中、前記リチウム陽イオンの濃度は、70mg/L以上である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法。
【請求項7】
前記リチウム析出物は、ナトリウム、カリウム、塩素、硫黄のうち1種以上をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム析出方法。
【請求項8】
前記リン供給物質は、リン、リン酸、リン酸塩、ハイドロゲンホスフェート(hydrogen phosphate)およびリン含有液から選ばれた1種以上である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法。
【請求項9】
前記第1溶液中、前記リチウム陽イオン(Li
+)および前記アルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,100mg/L以上である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法。
【請求項10】
前記第1溶液中、前記リチウム陽イオン、前記アルカリ土類金属陽イオンおよびアルカリ金属陽イオンの全濃度は、100,000mg/L超過である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法。
【請求項11】
前記リチウム析出物の5倍
重量~20倍
重量で80℃~100℃の水を前記リチウム析出物に投入し、12時間~60時間撹拌した後、ろ過して、第2溶液を得る段階をさらに含み、前記第2溶液は、前記リチウム陽イオンを含む、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法。
【請求項12】
前記第2溶液中、前記リチウム陽イオンの濃度は、200mg/L以上である、請求項
11に記載のリチウム抽出方法。
【請求項13】
前記リチウム析出物の5倍
重量~20倍
重量で常温の0.1重量%~5重量%の希塩酸を前記リチウム析出物に投入し、1時間~5時間撹拌した後、ろ過して、第3溶液を得る段階をさらに含み、前記第3溶液は、前記リチウム陽イオンを含む、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法。
【請求項14】
前記第3溶液中、前記リチウム陽イオンの濃度は、200mg/L以上である、請求項
13に記載のリチウム抽出方法。
【請求項15】
前記第2溶液から水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを製造する段階をさらに含む、請求項
11に記載のリチウム抽出方法。
【請求項16】
請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法において前記リチウム析出物を使用する段階を含む、炭酸リチウムの製造方法
であって、
請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を収得する段階(段階1)と、前記リチウム析出物の5倍重量~20倍重量で80℃~100℃の水を前記リチウム析出物に投入し、12時間~60時間撹拌した後、ろ過して、第2溶液を得る段階、この際、第2溶液は、リチウム陽イオン(Li
+
)を含む段階(段階2)と、前記第2溶液を炭酸化して炭酸リチウムを製造する段階(段階3)を含む、
ことを特徴とする炭酸リチウムの製造方法。
【請求項17】
請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法において前記リチウム析出物を使用する段階を含む、水酸化リチウムの製造方法
であって、
請求項1~3のいずれかに記載のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を収得する段階(段階1)と、前記リチウム析出物の5倍重量~20倍重量で80℃~100℃の水を前記リチウム析出物に投入し、12時間~60時間撹拌した後、ろ過して、第2溶液を得る段階、この際、第2溶液は、リチウム陽イオン(Li
+
)を含む段階(段階2)と、第2の溶液にリン酸アニオンを沈殿させる沈殿剤を加えて水酸化リチウムを調製する段階(段階3)を含む、
ことを特徴とする水酸化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、韓国特許庁に2022年4月8日に出願された韓国特許出願第10-2022-0043946号および2022年7月18日に出願された韓国特許出願第10-2022-0088189号の利益を主張するものであり、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、リチウム抽出方法、これを用いた炭酸リチウムの製造方法およびこれを用いた水酸化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム(Li)は、多様な産業に用いられている工業の必須原料である。リチウム二次電池は、携帯電話、ノートパソコンなどのIT機器の電源、電動工具の電源および電気自動車の動力源に多様に活用されている。最近、リチウム二次電池を動力源として用いる自動車が脚光を浴びるようになり、リチウムに対する世界市場の需要も急増している。したがって、リチウム資源からリチウムを効率的に抽出する技術の開発が切実に要求される。
【0004】
自然に存在するリチウム供給の資源は、海水(sea water)、鉱石(mineral)、塩水(brine)である。海水には約0.17mg/Lのリチウムが含有されているが、リチウムの濃度が非常に低くて、海水からリチウムを抽出して工業的に用いることは非経済的であると知られている。数年前にマンガン系化合物吸着剤を用いて海水からリチウムを選択的に吸着した後、酸洗浄方法で脱着する技術が開発されたが、低い効率性と非経済性によって商業化に失敗した。
【0005】
リチウムを含有する鉱石は、スポジュメン(Spodumene)、ペタライト(Petalite)およびレピドライト(Lepidolite)などであり、これらは、リチウムが約1~1.5重量%含有されている。しかしながら、リチウムを抽出するためには、粉砕、浮遊選別による精鉱製造、高温加熱、粉砕、酸浸出、不純物除去、リチウム抽出、精製、リチウム濃縮、沈殿などの様々な工程を経なければならないので、設備投資費が多いだけでなく、多量の酸性スラッジ(sludge)が発生して環境を汚染させる問題がある。
【0006】
このような問題のため、現在塩湖(salt lake)に存在する塩水(brine)(塩湖かん水)からリチウムを抽出することが最も好ましい。一般的に、塩水は、リチウムだけでなく、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)、硫黄(S)など様々な化学成分が含有されている。塩水からリチウムを抽出するために開発された工法は、溶存するリチウムを炭酸リチウム(Li2CO3)の形態で抽出するものであった。塩水に含有されたリチウムの濃度は、0.5~1.5g/Lと低いので、溶存するリチウムを13g/Lの高い溶解度を有する炭酸リチウムとして析出させるために、塩水を自然蒸発させてリチウムの濃度を増加させることが必須である。したがって、現行自然蒸発工程では、リチウムが0.5~1.5g/Lから60g/Lの高濃度で濃縮される。しかしながら、この過程は、約18ヶ月程度の長時間が必要である。しかも、濃縮過程で大部分のリチウムが他の物質と共に析出されて消失されるので、工程の効率性が非常に低い。
【0007】
このような問題点を克服するために、塩水を高濃度で濃縮させることなく、塩水に溶存するリチウムを0.39g/Lの低い溶解度を有する難溶性リン酸リチウム(Li3PO4)の形態で析出させて抽出する技術が開発された(韓国特許登録第10-1353342号)。溶解したリチウムは、Li3PO4の形態で容易に沈殿することができ、Li3PO4は、非常に低い溶解度を有するので、低い濃度でも容易に沈殿することができる。したがって、この方法では、自然蒸発によるリチウムの高濃縮を必要としない。この方法は、他の元素とリチウムの共沈を防いで、結果として、リチウムの深刻な損失を起こす。Li3PO4の形態でリチウムを沈殿させるためには、塩水にリン(P)供給源を投入してリチウムと反応させなければならないが、投入したリンが塩水中に存在するマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどの不純物と初めに反応して、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウムなどを生成するので、リン酸リチウムが生成、析出しない。したがって、塩水からリチウムをリン酸リチウムの形態で抽出するためには、リン(P)供給源を投入する前に、カルシウム、マグネシウムおよびストロンチウムなどの不純物を除去しなければならない(韓国特許登録第10-1126286号、韓国特許登録第10-1405488号)。
【0008】
塩水からマグネシウム(Mg)を除去するために、主に水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カルシウム(Ca(OH)2)などのアルカリを投入する。マグネシウムの存在量が多いほどアルカリを多く投入しなければならない。これは、塩水でMg含有量が増加するほどMg除去の費用が増加することを意味する。また、マグネシウムの存在量が多いほど多量の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)スラッジ(sludge)が発生する。これにより、スラッジからリチウムを分離することが非常に困難になる。したがって、多量のMgを含有する塩水は、無駄に廃棄されている。
【0009】
一方、カルシウムは、炭酸ナトリウム(Na2CO3)または硫酸ナトリウム(Na2SO4)などの塩(Salt)を投入して除去する。また、カルシウム存在量が多いほど、炭酸塩または硫酸塩の投入量が増加する。これは、塩水でCa含有量が増加するほどCa除去の費用が増加することを意味する。しかも、Caの存在量が多いほど多量の炭酸カルシウム(CaCO3)または硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)スラッジが発生し、マグネシウムの場合と同様に、スラッジから塩水を分離することができない。したがって、多量のCaを含有する塩水も、Mgリッチな塩水と同様に、無駄に廃棄されている。
【0010】
このような理由から、不純物含有量が少ない極少数の塩水だけでリチウムが生産されている。したがって、急増しているリチウムの需要を満たすために、不純物が多く含有された塩水からリチウムを経済的かつ効率的に抽出できる技術の開発が切実に要求される。
【0011】
一方、水で0.39g/Lの低い溶解度を有する難溶性化合物であるリン酸リチウムの形態で塩水からリチウムを抽出する一連の努力があった。しかしながら、Li3PO4は、リチウム二次電池用正極材製造用原料として使用されない。したがって、リン酸リチウムは、正極材原料として使用される水酸化リチウム(LiOH・H2O)または炭酸リチウム(Li2CO3)の形態に転換されなければならない。リン酸リチウムを水酸化リチウムまたは炭酸リチウムに転換するためには、リン酸リチウムを溶解させる過程が必須であり、一般的に強酸が使用される。強酸を用いてリン酸リチウムを溶解させるとき、リン酸リチウムに存在するリンがリン酸リチウム溶解液としてそのまま溶出される。したがって、リン陰イオン除去剤を用いてリンを除去する工程が必須である。これは、Li3PO4をLiOH・H2OおよびLi2CO3に転換する工程を複雑にし、リチウム損失を誘発して、工程の効率性を低下させる問題点がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、リチウム含有溶液から経済的かつ効率的および簡単な方法でリチウムを抽出する方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、リチウム含有溶液から経済的かつ効率的および簡単な方法で炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを製造する方法を提供することにある。
【0014】
本発明の一態様は、リチウム抽出方法である。
【0015】
1.リチウム抽出方法は、リチウム陽イオン(Li+)およびアルカリ土類金属陽イオン含有第1溶液にリン供給物質を投入し、マグネシウム、カルシウムおよびリンを含有するリチウム析出物を析出させる段階を含み、前記第1溶液中、前記アルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,000mg/L以上である。
【0016】
2.1において、前記リチウム析出物は、下記式2によって計算されたリチウム溶解率が25%以上であってもよい。
[式2]
リチウム溶解率=A/B×100
(上記式2中、
Bは、リチウム析出物中、含有されたリチウム陽イオンの全濃度(単位:mg/L)
Aは、リチウム析出物の15倍重量である90℃の水でリチウム析出物を60時間撹拌し、ろ過して得られたろ液中、リチウム陽イオンの全濃度(単位:mg/L))
【0017】
3.2において、前記リチウム析出物は、前記式2によって計算されたリチウム溶解率が60%以上であってもよい。
【0018】
4.1-3において、前記アルカリ土類金属陽イオンは、マグネシウム陽イオン(Mg2+)、カルシウム陽イオン(Ca2+)およびストロンチウム陽イオン(Sr2+)であってもよい。
【0019】
5.4において、前記第1溶液は、アルカリ金属陽イオンをさらに含んでもよい。
【0020】
6.5において、前記アルカリ金属陽イオンは、ナトリウム陽イオン(Na+)、カリウム陽イオン(K+)のうち1種以上であってもよい。
【0021】
7.5において、前記第1溶液は、鉄、マンガン、コバルト、シリコン、アルミニウム、ホウ素、塩素、硫黄のうち1種以上に由来する陽イオンまたは陰イオンをさらに含んでもよい。
【0022】
8.1-3において、前記第1溶液は、塩水、地下の熱水、海水、鉱石および廃電池のうちいずれか1つに由来するものであってもよい。
【0023】
9.1-3において、前記第1溶液中、前記リチウム陽イオンの濃度は、70mg/L以上であってもよい。
【0024】
10.1-3において、前記リチウム析出物は、ナトリウム、カリウム、塩素、硫黄のうち1種以上をさらに含んでもよい。
【0025】
11.1-3において、前記リン供給物質は、リン、リン酸、リン酸塩、ハイドロゲンホスフェート(hydrogen phosphate)およびリン含有液から選ばれた1種以上であってもよい。
【0026】
12.1-3において、前記第1溶液中、前記リチウム陽イオン(Li+)および前記アルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,100mg/L以上であってもよい。
【0027】
13.1-3において、前記第1溶液中、前記リチウム陽イオン、前記アルカリ土類金属陽イオンおよびアルカリ金属の陽イオンの全濃度は、100,000mg/L超過であってもよい。
【0028】
14.1-3において、前記リチウム析出物の5倍~20倍で80℃~100℃の水を前記リチウム析出物に投入し、リチウム析出物のスラリーを12時間~60時間撹拌した後、ろ過して、第2溶液を得る段階をさらに含み、前記第2溶液は、前記リチウム陽イオンを含んでもよい。
【0029】
15.14において、前記第2溶液中、前記リチウム陽イオンの濃度は、200mg/L以上であってもよい。
【0030】
16.1-3において、前記リチウム析出物の5倍~20倍で常温で0.1重量%~5重量%の希塩酸を前記リチウム析出物に投入し、リチウム析出物のスラリーを1時間~5時間撹拌した後、ろ過して、第3溶液を得る段階をさらに含み、前記第3溶液は、前記リチウム陽イオンを含んでもよい。
【0031】
17.16において、前記第3溶液中、前記リチウム陽イオンの濃度は、200mg/L以上であってもよい。
【0032】
18.14において、前記第2溶液から水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを製造する段階をさらに含んでもよい。
【0033】
19.1-3において、前記リチウム析出物を使用する段階を含む、炭酸リチウムの製造方法である。
【0034】
20.1-3において、前記リチウム析出物を使用する段階を含む、水酸化リチウムの製造方法である。
【0035】
本発明の他の態様は、炭酸リチウムの製造方法である。
【0036】
炭酸リチウムの製造方法は、本発明のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を使用する段階を含む。
【0037】
本発明のさらに他の態様は、水酸化リチウムの製造方法である。
【0038】
水酸化リチウムの製造方法は、本発明のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を使用する段階を含む。
【0039】
本発明は、リチウム含有溶液から経済的かつ効率的および簡単な方法でリチウムを抽出する方法を提供する。
【0040】
本発明は、リチウム含有溶液から経済的かつ効率的および簡単な方法で水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを製造する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、不純物およびリチウム陽イオン含有第1溶液にリン供給物質を投入した後、反応時間による前記第1溶液中に残っているリチウム陽イオン濃度およびリチウム抽出率を示す。
【
図2a】
図2aは、不純物およびリチウム陽イオン含有第1溶液の外観を示す。
【
図2b】
図2bは、前記第1溶液にリン供給物質を投入し、反応させた後に得られたスラリーの外観を示す。
【
図2c】
図2cは、前記第1溶液にリン供給物質を投入し、反応させた後のスラリーから分離したマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびリンを含有するリチウム析出物の外観を示す。
【
図3】
図3は、リン酸リチウム(Li
3PO
4)X線回折分析結果を示す。
【
図4】
図4は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびリンを含有するリチウム析出物とリン酸リチウムをそれぞれ90℃の水に投入し、反応させた後、12時間~60時間撹拌したとき、撹拌時間によるリチウム溶解率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の具現例を詳細に説明する。ただし、これは、例示として提示されるものであり、これによって本発明が限定されるものではなく、本発明は、後述する請求範囲の範疇によって定義されるだけである。
【0043】
本明細書において言及された各種陽イオン、陰イオンの濃度は、原子発光分光分析装置、例えば、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP-AES,inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy)などで測定することができる。
【0044】
本明細書において「不純物」は、第1溶液中、リチウム陽イオン(Li+)を除いた残りの陽イオン、陰イオンのうち1種以上を意味する。
【0045】
本明細書において「第1溶液」は、リチウムを抽出するのに使用されるリチウム供給溶液であり、塩水、地下の熱水、海水、鉱石から直接または間接的に由来する溶液、廃電池から直接または間接的に由来する溶液のうち1種以上を意味する。
【0046】
本明細書において「常温」は、特に限定されないが、当該作業を実施する周辺の温度であり、例えば、0℃~50℃の範囲の間の温度を意味する。
【0047】
本発明では、様々な不純物が含有された第1溶液にリン供給物質を投入し、不純物を除去することなく、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムおよびリンを含有するリチウム析出物を析出させる段階が含まれる。本発明では、不純物を除去することなく、リチウムを直接的に抽出することは、リチウム含有溶液からリチウムの経済的かつ効率的な抽出を可能にする。
【0048】
後述するが、前記リチウム析出物は、水での溶解度が0.39g/Lの難溶性リン酸リチウム(Li3PO4)と比較して、全く異なる物質である。前記リチウム析出物は、リン酸リチウムと比較して、全く異なる化学組成を有する。リン酸リチウム(Li3PO4)は、17.98重量%のLiおよび26.75重量%のPを有する。Li3PO4においてLi対Pの割合(Li/P)は、17.98/26.75であって、0.67である。これとは反対に、前記リチウム析出物は、3.7重量%のLiおよび10.4重量%のPを有する。前記リチウム析出物においてLi対Pの割合(Li/P)は、3.7/10.4であって、0.36である。前記リチウム析出物の化学組成は、以下でより詳細に説明される。
【0049】
また、前記リチウム析出物は、水での溶解度が0.39g/Lの難溶性リン酸リチウム(Li3PO4)と比較して、全く異なる物質である。リチウム析出物は、難溶性リン酸リチウム(Li3PO4)と比較して、同じ含有量で90℃の水に投入し、反応させた後、12時間~60時間撹拌したとき、撹拌時間によるリチウム溶解率が全く異なっている。すなわち、前記リチウム析出物は、難溶性リン酸リチウムと比較して、前記リチウム溶解率が顕著に高い。したがって、本発明は、前記第1溶液からリチウムを経済的かつ効率的に抽出することができる。リチウム溶解率は、以下でより詳細に説明される。
【0050】
また、本発明は、前記リチウム溶解率が高く、リンの溶出が最小化されるリチウム析出物を製造するので、難溶性リン酸リチウムから水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを製造する工程と比較して、経済的かつ効率的および簡単な方法で炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを製造することができる。
【0051】
リチウムは、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムの形態で使用される。したがって、リン酸リチウムを水酸化リチウムまたは炭酸リチウムなどに転換させる工程が必要である。このような工程では、リン酸リチウムを強酸に溶解させてリン酸リチウム溶液を得る工程および溶出したリンをリン酸陰イオン沈殿剤を用いて除去する工程が必須的に要求される。しかしながら、本発明は、リチウム析出物からリンを溶出させないか、または最小化することができるので、前述したリン酸陰イオン沈殿剤を用いることなく、経済的かつ効率的および簡単な方法で炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを製造することができる。
【0052】
本発明は、水酸化リチウムの製造方法であって、前記方法は、本発明のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を使用する段階を含む。
【0053】
本発明は、炭酸リチウムの製造方法であって、前記方法は、本発明のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を使用する段階を含む。
【0054】
以下、本発明の一実施形態をより詳細に説明する。
【0055】
(1)本発明のリチウム抽出方法は、リチウム陽イオン(Li+)およびアルカリ土類金属陽イオン含有第1溶液にリン供給物質を投入し、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびリンを含有するリチウム析出物を析出させる段階を含み、前記第1溶液中、前記アルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,000mg/L以上である。
【0056】
第1溶液中、リチウム陽イオン(Li+)の濃度は、70mg/L以上、好ましくは、100mg/L以上、さらに好ましくは、150mg/L以上であってもよい。一具体例において、第1溶液中、リチウム陽イオン(Li+)の濃度は、1,000mg/L以下、700mg/L以下、500mg/L以下、例えば、70mg/L、80mg/L、90mg/L、100mg/L、110mg/L、120mg/L、130mg/L、140mg/L、150mg/L、160mg/L、170mg/L、180mg/L、190mg/L、200mg/L、250mg/L、300mg/L、350mg/L、400mg/L、450mg/L、500mg/L、550mg/L、600mg/L、650mg/L、700mg/L、900mg/L、1,000mg/L、1,500mg/L、2,000mg/L、2,500mg/L、3,000mg/Lであってもよい。
【0057】
第1溶液中、アルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,000mg/L以上である。しかしながら、前記第1溶液においてアルカリ土類金属陽イオンの全濃度が80,000mg/L以上であるにもかかわらず、本発明のリチウム抽出方法、本発明の炭酸リチウムの製造方法、または本発明の水酸化リチウムの製造方法は、前記第1溶液の類型または各種条件によって適用されることもできる。前記範囲で、リン酸リチウムに比べて顕著に高いリチウム溶解率を有するリチウム析出物を提供するのに容易になりうる。リチウム析出物の化学組成分析結果から、第1溶液に含有されたアルカリ土類金属陽イオンなどの不純物がリチウム抽出のための媒介体として活用されて、第1溶液中に溶存しているリチウム陽イオンをリチウム析出物の形態で抽出させると考えられる。
【0058】
好ましくは、第1溶液中、アルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,000mg/L~180,000mg/L、最も好ましくは、120,000mg/L~180,000mg/L、例えば、100,000mg/L、110,000mg/L、120,000mg/L、130,000mg/L、140,000mg/L、150,000mg/L、160,000mg/L、170,000mg/L、180,000mg/Lであってもよい。前記範囲で、リン酸リチウムに比べて顕著に高いリチウム溶解率を有するリチウム析出物を提供するのにさらに容易になりうる。一具体例において、第1溶液中、マグネシウム陽イオン(Mg2+)、カルシウム陽イオン(Ca2+)およびストロンチウム陽イオン(Sr2+)の全濃度は、100,000mg/L~180,000mg/L、好ましくは、120,000mg/L~180,000mg/L、例えば、100,000mg/L、110,000mg/L、120,000mg/L、130,000mg/L、140,000mg/L、150,000mg/L、160,000mg/L、170,000mg/L、180,000mg/Lであってもよい。
【0059】
一具体例において、第1溶液中、リチウム陽イオン(Li+)およびアルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,100mg/L以上300,000mg/L以下であってもよい。前記範囲で、リン酸リチウムに比べて顕著に高いリチウム溶解率を有するリチウム析出物を提供するのにさらに容易になりうる。好ましくは、第1溶液中、リチウム陽イオン(Li+)およびアルカリ土類金属陽イオンの全濃度は、100,100mg/L~250,000mg/L、最も好ましくは、100,100mg/L~200,000mg/L、例えば、100,100mg/L、110,000mg/L、120,000mg/L、130,000mg/L、140,000mg/L、150,000mg/L、160,000mg/L、170,000mg/L、180,000mg/L、190,000mg/L、200,000mg/L、210,000mg/L、220,000mg/L、230,000mg/L、240,000mg/L、250,000mg/L、260,000mg/L、270,000mg/L、280,000mg/L、290,000mg/L、300,000mg/Lであってもよい。
【0060】
一具体例において、第1溶液中、リチウム陽イオン(Li+)、マグネシウム陽イオン(Mg2+)、カルシウム陽イオン(Ca2+)およびストロンチウム陽イオン(Sr2+)の全濃度は、100,100mg/L以上300,000mg/L以下、さらに好ましくは、100,100mg/L~250,000mg/L、最も好ましくは、100,100mg/L~200,000mg/L、例えば、100,100mg/L、110,000mg/L、120,000mg/L、130,000mg/L、140,000mg/L、150,000mg/L、160,000mg/L、170,000mg/L、180,000mg/L、190,000mg/L、200,000mg/L、210,000mg/L、220,000mg/L、230,000mg/L、240,000mg/L、250,000mg/L、260,000mg/L、270,000mg/L、280,000mg/L、290,000mg/L、300,000mg/Lであってもよい。前記範囲で、リン酸リチウムに比べて顕著に高いリチウム溶解率を有するリチウム析出物を提供するのにさらに容易になりうる。
【0061】
第1溶液中、アルカリ土類金属陽イオンは、ベリリウム陽イオン(Be2+)、マグネシウム陽イオン(Mg2+)、カルシウム陽イオン(Ca2+)、ストロンチウム陽イオン(Sr2+)、バリウム陽イオン(Ba2+)、ラジウム(Ra2+)のうち1種以上であってもよい。一具体例において、第1溶液中、アルカリ土類金属陽イオンは、マグネシウム陽イオン(Mg2+)、カルシウム陽イオン(Ca2+)およびストロンチウム陽イオン(Sr2+)であってもよい。本発明のリチウム抽出方法は、アルカリ土類金属陽イオンとしてマグネシウム陽イオン(Mg2+)、カルシウム陽イオン(Ca2+)およびストロンチウム陽イオン(Sr2+)を全部含むときに良好に適用されることができる。
【0062】
第1溶液は、アルカリ金属陽イオンをさらに含んでもよい。アルカリ金属陽イオンは、リチウムを除いたアルカリ金属陽イオンとして、例えば、ナトリウム陽イオン(Na+)、カリウム陽イオン(K+)、ルビジウム陽イオン(Rb+)、セシウム陽イオン(Cs+)、フランシウム陽イオン(Fr+)のうち1種以上であってもよい。一具体例において、アルカリ金属陽イオンは、ナトリウム陽イオン(Na+)、カリウム陽イオン(K+)のうち1種以上であってもよい。本発明のリチウム抽出方法は、ナトリウム陽イオン(Na+)およびカリウム陽イオン(K+)を全部含むときに良好に適用されることができる。
【0063】
一具体例において、第1溶液中、アルカリ金属陽イオンの全濃度は、20,000mg/L以上、例えば、20,000mg/L~50,000mg/L、例えば、20,000mg/L~40,000mg/L、例えば、20,000mg/L、21,000mg/L、22,000mg/L、23,000mg/L、24,000mg/L、25,000mg/L、26,000mg/L、27,000mg/L、28,000mg/L、29,000mg/L、30,000mg/L、31,000mg/L、32,000mg/L、33,000mg/L、34,000mg/L、35,000mg/L、36,000mg/L、37,000mg/L、38,000mg/L、39,000mg/L、40,000mg/L、41,000mg/L、42,000mg/L、43,000mg/L、44,000mg/L、45,000mg/L、46,000mg/L、47,000mg/L、48,000mg/L、49,000mg/L、50,000mg/Lであってもよい。
【0064】
第1溶液は、鉄、マンガン、コバルト、ホウ素、シリコン、アルミニウム、塩素、硫黄のうち1種以上に由来する陽イオンまたは陰イオンをさらに含んでもよい。一具体例において、第1溶液は、硫黄に由来する陰イオンを含んでもよい。本発明のリチウム抽出方法は、硫黄に由来する陰イオンを含むときに良好に適用されることができる。
【0065】
第1溶液中、リチウム陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、およびアルカリ金属陽イオンの全濃度は、100,000mg/L超過(100,000mg/Lより高い濃度)であってもよい。前記範囲で、リン酸リチウムに比べて顕著に高いリチウム溶解率を有するリチウム析出物を提供するのにさらに容易になりうる。好ましくは、第1溶液中、リチウム陽イオン(Li+)、アルカリ土類金属陽イオン、およびアルカリ金属陽イオンの全濃度は、150,000mg/L~300,000mg/L、さらに好ましくは、150,000mg/L~250,000mg/L、最も好ましくは、150,000mg/L~200,000mg/L、例えば、110,000mg/L、120,000mg/L、130,000mg/L、140,000mg/L、150,000mg/L、160,000mg/L、170,000mg/L、180,000mg/L、190,000mg/L、200,000mg/L、210,000mg/L、220,000mg/L、230,000mg/L、240,000mg/L、250,000mg/L、260,000mg/L、270,000mg/L、280,000mg/L、290,000mg/L、300,000mg/Lであってもよい。一具体例において、リチウム陽イオン(Li+)、マグネシウム陽イオン(Mg2+)、カルシウム陽イオン(Ca2+)、ストロンチウム陽イオン(Sr2+)、ナトリウム陽イオン(Na+)およびカリウム陽イオン(K+)の全濃度は、150,000mg/L以上、好ましくは、150,000mg/L~300,000mg/L、さらに好ましくは、150,000mg/L~250,000mg/L、最も好ましくは、150,000mg/L~200,000mg/L、例えば、150,000mg/L、160,000mg/L、170,000mg/L、180,000mg/L、190,000mg/L、200,000mg/L、210,000mg/L、220,000mg/L、230,000mg/L、240,000mg/L、250,000mg/L、260,000mg/L、270,000mg/L、280,000mg/L、290,000mg/L、300,000mg/Lであってもよい。
【0066】
リン供給物質は、リン、リン酸、リン酸塩、ハイドロゲンホスフェート(hydrogen phosphate)またはリン含有溶液から選ばれた1種以上であってもよい。リン酸塩の具体例としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウム(具体例として、前記アンモニウムは、(NR4)3PO4であってもよく、前記Rは、独立して、水素、重水素、置換または非置換のC1~C10アルキル基であってもよい)などであってもよい。より具体的には、リン酸塩は、一リン酸カリウム、二リン酸カリウム、三リン酸カリウム、一リン酸水素、二リン酸水素、三リン酸水素、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、ポリリン酸アンモニウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、一リン酸カルシウム、二リン酸カルシウム、三リン酸カルシウムなどであってもよい。
【0067】
リン供給物質は、第1溶液中、リチウム陽イオンの1モルを基準として1モル~4モルの範囲で含んでもよい。前記範囲で、本発明の効果具現が容易になりうる。
【0068】
リチウム析出物を析出させる段階は、第1溶液にリン供給物質を投入した後、常温で1時間~24時間撹拌することによって行われ得る。これによって、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびリンを含有するリチウム析出物を容易に析出することができ、リチウム抽出率が高くなる。ここで、「常温」は、一定の温度を意味するものではなく、外部エネルギーの付加がない状態の温度を意味する。したがって、場所、時間によって常温は変化することができる。例えば、常温は、20℃~30℃であってもよい。好ましくは、撹拌時間は、1時間~12時間であってもよい。前記範囲でリチウム抽出率が顕著に高くなり得る。
【0069】
一具体例において、前記段階は、下記式1のリチウム抽出率が70%以上、例えば、70%~100%であってもよい。
【0070】
[式1]
リチウム抽出率=A/B×100
【0071】
(上記式1中、
Aは、第1溶液中のリチウム陽イオンの濃度-前記リチウム析出物を析出させる段階から得られたろ液中のリチウム陽イオンの濃度(単位:mg/L)
Bは、第1溶液中のリチウム陽イオンの濃度(単位:mg/L))
【0072】
図2a~
図2cを参照すると、第1溶液は、透明な状態の溶液である。一方、第1溶液にリン供給物質を投入し、反応させた後の第1溶液は、白色の不透明な溶液になる。その後、上方の不透明な溶液をろ過すると、白色の固形のリチウム析出物が析出されうる。
【0073】
リチウム析出物は、第1溶液からろ過などの通常の方法によってろ液から分離することができる。
【0074】
リチウム析出物は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびリンを含有する。一具体例において、リチウム析出物は、ナトリウム、カリウム、塩素、硫黄のうち1種以上をさらに含んでもよい。
【0075】
(2)本発明のリチウム抽出方法は、前記リチウム析出物の5倍~20倍で80℃~100℃の水を前記リチウム析出物に投入し、12時間~60時間撹拌した後、ろ過して、第2溶液を得る段階をさらに含み、第2溶液は、リチウム陽イオン(Li+)を含んでもよい。前記水の含有量、水の温度、撹拌時間の範囲で、リチウム析出物からリチウム陽イオンの溶解を容易にすることができる。好ましくは、前記段階は、リチウム析出物の7倍~18倍で85℃~95℃の水を前記リチウム析出物に投入し、12時間~60時間撹拌し、ろ過することで行われ得る。
【0076】
第2溶液中、前記リチウム陽イオンの濃度は、200mg/L以上、例えば、500mg/L以上、例えば、1000mg/L以上、例えば、10000mg/L以下、例えば、5000mg/L以下、例えば、3000mg/L以下、例えば、500mg/L、600mg/L、700mg/L、800mg/L、900mg/L、1000mg/L、2000mg/L、3000mg/L、4000mg/L、5000mg/L、6000mg/L、7000mg/L、8000mg/L、9000mg/L、10000mg/Lであってもよい。
【0077】
前記段階は、リチウム析出物からリチウム陽イオンを選択的に溶解させることによって、その後に炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを容易に製造することができる。これは、リチウム析出物からのリチウム陽イオンの溶解率が高いためである。
【0078】
一具体例において、リチウム析出物は、リチウム析出物の15倍の90℃の水で12時間~60時間撹拌したときのリチウム溶解率が25%以上、例えば、50%以上、例えば、60%以上、例えば、60%~100%であってもよい。前記範囲で、リチウム析出物から水酸化リチウムまたは炭酸リチウムの製造が容易になりうる。リチウム溶解率は、下記式2によって計算することができる:
【0079】
[式2]
リチウム溶解率=A/B×100
【0080】
(上記式2中、
Bは、リチウム析出物中、含有されたリチウム陽イオンの全濃度(単位:mg/L)
Aは、リチウム析出物の15倍の重さである90℃の水でリチウム析出物を60時間撹拌し、ろ過して得られたろ液中、リチウム陽イオンの全濃度(単位:mg/L))。
【0081】
一具体例において、リチウム析出物は、リチウム析出物の15倍の90℃の水で12時間~60時間撹拌したときのリン溶解率は、0.2%未満であってもよい。前記範囲で、リチウム析出物溶解液を用いて炭酸リチウムを製造するとき、リン陰イオンを除去するために、リン陰イオン沈降剤を使用する必要がないことがある。リン溶解率は、下記式3によって計算することができる:
【0082】
[式3]
リン溶解率=A/B×100
【0083】
(上記式3中、
Bは、リチウム析出物中、含有されたリン陰イオンの全濃度(単位:mg/L)
Aは、リチウム析出物の15倍の重さである90℃の水でリチウム析出物を60時間撹拌し、ろ過して得られたろ液中、リン陰イオンの全濃度(単位:mg/L))。
【0084】
式2中、Bは、特に限定されないが、リチウム析出物をリチウム析出物の15倍の重さである常温の塩酸水溶液(塩酸水溶液中の塩酸濃度は9%~15%, 例えば9重量%~15重量%)でリチウム析出物を完全に溶解させた後に得られた溶液中のリチウム陽イオンの全濃度から求めることができる。
【0085】
式3中、Bは、特に限定されないが、リチウム析出物をリチウム析出物の15倍の重さである常温の塩酸水溶液(塩酸水溶液中の塩酸濃度は9%~15%, 例えば9重量%~15重量%)で析出物を完全に溶解させた後に得られた溶液中のリン陰イオンの全濃度から求めることができる。
【0086】
一具体例において、リチウム析出物は、リチウム析出物の15倍の90℃の水で36時間~60時間撹拌したときのリチウム溶解率が90%以上、例えば、98%~100%であってもよい。前記範囲で、リチウム析出物から水酸化リチウムまたは炭酸リチウムの製造が容易になりうる。
【0087】
(3)本発明のリチウム抽出方法は、リチウム析出物の5倍~20倍で常温の0.1重量%~5重量%の希塩酸を前記リチウム析出物に投入し、1時間~5時間撹拌した後、ろ過して、第3溶液を得る段階をさらに含み、前記第3溶液は、前記リチウム陽イオンを含んでもよい。前記第3溶液中の前記リチウム陽イオンの濃度は、200mg/L以上であってもよい。前記第3溶液から水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを製造することができる。
【0088】
(4)本発明の炭酸リチウムの製造方法は、本発明のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を使用する段階を含む。
【0089】
本発明の炭酸リチウムの製造方法は、本発明のリチウム抽出方法においてリチウム析出物を収得する段階(段階1)と、前記リチウム析出物の5倍~20倍で80℃~100℃の水を前記リチウム析出物に投入し、12時間~60時間撹拌した後、ろ過して、第2溶液を得る段階、この際、第2溶液は、リチウム陽イオン(Li+)を含む段階(段階2)と、前記第2溶液を炭酸化して炭酸リチウムを製造する段階(段階3)と、を含んでもよい。
【0090】
前記段階1および段階2は、上記で説明したところと実質的に同一である。これによって、以下では、段階3のみについて説明する。
【0091】
段階3は、第2溶液を炭酸化して炭酸リチウムを製造する段階である。炭酸化は、第2溶液に炭酸塩を投入したりまたは炭酸化ガスを用いて行われ得る。前記炭酸塩は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)であってもよい。炭酸塩または炭酸化ガスを用いて炭酸リチウムを製造することは、当業者に知られた通常の方法で行われ得る。
【0092】
一具体例において、本発明の炭酸リチウムの製造方法は、酸または酸水溶液を使用する段階を含まなくてもよい。
(5)本発明による水酸化リチウムの製造方法は、本発明によるリチウム抽出方法のリチウム沈殿物を使用することを含む。
本発明による水酸化リチウムの製造方法は、本発明によるリチウム抽出方法のリチウム沈殿物を得るステップ(ステップ1)を含むことができる。リチウム沈殿物にリチウム沈殿物の重量の5~20倍の量の80~100℃の水を加え、スラッジを12~60時間攪拌し、その後、スラッジを濾過して、リチウムカチオンを含む第2の溶液を得る、(Li+)(ステップ 2);第2の溶液にリン酸アニオンを沈殿させる沈殿剤を加えて水酸化リチウムを調製する(ステップ3)。
ステップ1および2は、上述のものと実質的に同じである。したがって、以下では、ステップ3についてのみ説明する。
ステップ3では、リン酸アニオンを沈殿させる沈殿剤を2番目の溶液に添加して、水酸化リチウムを調製する。 沈殿剤は、水酸化カルシウムなどのCa、Sr、Ba、Ra、Be、またはMgを含むアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物であり得る。
【実施例】
【0093】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示するために記載したものに過ぎず、本発明は、これに限定されない。
【0094】
[実施例1]
下記表1に示されたように、不純物を含有する塩水由来リチウム含有溶液である第1溶液を準備した。
【0095】
【0096】
前記第1溶液にNa3PO4を第1溶液中リチウム陽イオン1molに対して2molを投入し、常温で1時間~24時間撹拌して、反応させた。前記反応が完了した後の溶液をろ過して、固状のケーキ(cake)のリチウム析出物を分離させ、ろ液を採取した。ろ液に対して原子発光分光分析装置(ICP-AES)を用いてリチウム、マグネシウム、カルシウムおよびストロンチウムの濃度を測定し、その結果を表2に示した。
【0097】
【0098】
表2で、リチウム抽出率は、(第1溶液中のリチウム陽イオンの濃度-ろ液中のリチウム陽イオンの濃度)/(第1溶液中のリチウム陽イオンの濃度)×100で計算することができる。
【0099】
前記表2に示されたように、反応24時間後、第1溶液に溶存するリチウム陽イオン346mg/Lのうち約81%に該当する279mg/Lがリチウム析出物として析出されて、反応ろ液には67mg/Lのみが残存することが分かる。これより、多量の不純物を含有する第1溶液からリチウム陽イオンが成功裏に抽出されたことが分かる。
【0100】
前記表2に示された反応時間による前記第1溶液に溶存するリチウムの濃度およびリチウム抽出率変化グラフが
図1に示された。
図1を参照すると、第1溶液中、反応時間(X軸)によってろ液中のリチウム陽イオン濃度(左側のY軸)が次第に低くなることを確認することができ、それによって、リチウム抽出率が次第に増加することを確認することができる。
【0101】
リチウム析出物を105℃で24時間乾燥し、乾燥が完了した前記リチウム析出物の化学成分含有量をICP-AESを用いて測定し、リチウム析出物中の各成分の含有量の割合を表3に示した。
【0102】
【0103】
前記表3に示されたように、第1溶液から不純物を媒介体としてリチウムを含むリチウム析出物を析出させることによって、リチウムを成功裏に抽出することができることが明確に分かる。
【0104】
[実施例2]
表3に示されたリチウム析出物を15倍重量の90℃の水と混合し、12時間~60時間撹拌した後、ろ過して、ろ液である第2溶液を得た。第2溶液の化学組成がICP-AESによって分析され、分析結果は、表4に示された。
【0105】
一方、表3に示されたリチウム析出物が完全に溶解したことを仮定して、表3に示されたリチウム析出物の15倍重量の9%塩酸水溶液と混合して、リチウム析出物を完全に溶解させた。ICP-AESを用いてリチウム析出物が完全に溶解した水溶液のリチウム濃度を測定した結果、リチウム濃度が1,879mg/Lであり、リン濃度が5,897mg/Lであることが観察された。これより、リチウム析出物が15倍重量の90℃の水に完全に溶解すると、リチウム濃度は1,879mg/Lであり、リン濃度は5,897mg/Lであることを確認した。したがって、この数値とリチウム析出物から得られた第2溶液中の溶存リチウム濃度を比較して、式2によってリチウム溶解率とリン溶解率が算出された。
【0106】
表4に示されたように、リチウム析出物をリチウム析出物の15倍重量の90℃の水と混合した後、60時間撹拌したとき、リチウム析出物に含有されたリチウムの98.2%、すなわちほぼすべてのリチウムが溶解したことを確認することができた。また、リチウム析出物を塩酸に混合、撹拌したときとは異なって、リチウム析出物をリチウム析出物の15倍重量の90℃の水と混合した後、60時間撹拌したとき、リチウム析出物に含有されたリンは、ほとんど溶解しないことを確認することができた。これより、リチウム析出物溶解液を用いて炭酸リチウムを製造するとき、リン陰イオンを除去するために、リン陰イオン沈降剤を使用する必要がないことが分かる。また、多量の水を用いて希釈して酸度が弱い酸を用いてリチウム析出物を溶解すると、常温でもリンの溶出なしでリチウムを溶解させることができることが容易に分かる。
【0107】
【0108】
[比較例]
図3のX線回折分析結果に示されたように、単相のリン酸リチウム(Li
3PO
4)を準備した。リン酸リチウムは、溶解度0.39g/Lを有する難溶性化合物である。リン酸リチウムを22倍重量の水と混合してリン酸リチウム混合水溶液を製造し、これを90℃で12時間~60時間撹拌した後、ろ過した。得られたろ液の化学成分含有量がICP-AESによって分析され、分析結果は表5に示された。
【0109】
一方、前記リン酸リチウムが完全に溶解したとき、リン酸リチウム混合水溶液のリチウム濃度を確認するために、前記リン酸リチウムを15倍重量の9%塩酸水溶液と混合してリン酸リチウムを完全に溶解させた。ICP-AESを用いてリン酸リチウムが完全に溶解した水溶液のリチウムとリン濃度を測定した結果、リチウム濃度は9,793mg/Lであることが観察された。これより、リン酸リチウムが15倍重量の水に完全に溶解すると、リチウム濃度は9,793mg/Lであることを確認した。したがって、この数値とリン酸リチウム水溶液の溶存リチウム濃度を比較して式2によってリチウム溶解率が算出された。その結果を表5および
図4に示した。
【0110】
【0111】
前述したように、リン酸リチウムは、水で0.39g/Lの溶解度を有する典型的な難溶性物質であり、表5に示されたように、60時間を溶解しても、0.2%の非常に低いリチウム溶解率を有する。これは、リチウム析出物が類似の溶解条件で98.2%の高い溶解率を有することとは大きく異なっている。このような実験結果は、本発明のリチウム析出物は、難溶性リン酸リチウムと全く異なる物理化学的特性を有する物質であることを明確に示す。したがって、実施例2と比較例から、本発明によってリチウム含有溶液から抽出されるリチウム析出物は、一般的に知られた溶解度0.39g/Lの難溶性リン酸リチウムでないことが分かる。前記表5と
図4に示された撹拌時間によるリチウム析出物とリン酸リチウム水溶液それぞれのリチウム溶解率の変化が顕著に異なっていることがわかる。
【0112】
本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、互いに異なる形態で製造することができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施することができることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。