(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】再生アルミニウム金属塊の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 21/00 20060101AFI20240903BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240903BHJP
C22B 1/248 20060101ALI20240903BHJP
H05B 6/64 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22B21/00
C22B7/00 A
C22B1/248
H05B6/64 Z
(21)【出願番号】P 2023074519
(22)【出願日】2023-04-28
【審査請求日】2024-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521109109
【氏名又は名称】株式会社SUN METALON
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 高嗣
(72)【発明者】
【氏名】古川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 和彦
(72)【発明者】
【氏名】安 敬
(72)【発明者】
【氏名】前田 雄貴
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/240467(WO,A1)
【文献】特開2022-171629(JP,A)
【文献】特開2018-178180(JP,A)
【文献】吉川 昇,金属のマイクロ波加熱の基礎と応用,まてりあ ,第48巻第1号,日本,社団法人日本金属学会,2009年,3-10頁,https://doi.org/10.2320/materia.48.3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 21/00-21/06
C22B 7/00-7/04
C22B 1/248
H05B 6/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生アルミニウム金属塊の製造方法であって、
アルミニウムスクラップを含むアルミニウム金属にマイクロ波を照射する工程
、及び
アルミニウム金属を圧縮する工程を含
み、
再生アルミニウム金属塊の
密度が、2.00g/cm
3
~2.70g/cm
3
である、
方法。
【請求項2】
アルミニウムスクラップが、粉末、切粉、バリ及びブリケットからなる群から選択される1種以上の形態のアルミニウムスクラップである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルミニウム金属を圧縮する工程が、マイクロ波の照射前、照射中、及び/又は照射後に実施される、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
アルミニウム金属を圧縮する工程が、マイクロ波の照射前、照射中、及び/又は照射後に実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
アルミニウム金属を圧縮する工程が、型枠を使用して実施される、請求項
1~4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生アルミニウム金属塊の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品を軽量化することで、燃費を向上させ、消費電力を低減することができる。したがって、従来使用されていた鉄系材料をアルミニウム系材料に置き換える検討がなされている。
【0003】
このようなアルミニウム系材料の原料であるアルミニウム地金(インゴット)は原鉱石のボーキサイトから精錬して製造することもできるが、精錬には膨大なエネルギーが必要である。したがって、近年では、インゴットや製品から発生したアルミニウムスクラップを再利用してアルミニウムインゴット又は製品を製造する試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルミニウムスクラップを溶解炉で溶解し、その溶解物が含有する不純成分を除去する精製を行ってから出湯し、所定の大きさのインゴットに鋳造して再度アルミニウムインゴットに再生するに際して、前記アルミニウムスクラップの溶解工程と精製工程とを分離し、精製工程と鋳造工程とを連結させることとし、前記溶解炉では、前記アルミニウムスクラップの溶解だけを行って取鍋に出湯し、該取鍋を排気手段に連通した耐火物製蓋で覆い、取鍋内の雰囲気を所定圧力に減圧して所定時間保持し、溶湯から易揮発成分を除去した後、大気圧に再度復圧し、該溶湯を鋳型に連続的に注入することを特徴とするアルミニウムスクラップの精製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミニウムスクラップの形態は加工スクラップと老廃スクラップに大別され、加工スクラップには主にプレス工場から発生するアルミニウム新切と機械工場から発生する切粉などが挙げられる。
【0007】
このような形態のアルミニウムスクラップは、再利用するために、乾燥や圧縮成形などの前処理によるブリケット化後、アルミニウム溶湯に溶解して、アルミニウムインゴット又は製品に鋳造する必要がある。
【0008】
しかしながら、例えば切粉の場合、アルミニウム溶湯に溶解する割合、すなわち溶解歩留まりは20%程度であり、ブリケットであっても、アルミニウム溶湯への溶解歩留まりは40%程度に留まる。そのため、溶湯を撹拌することやインゴットの隙間に切粉やブリケットを入れて溶解効率を向上する取組みが行われている。
【0009】
また、アルミニウムスクラップのアルミニウム溶湯への溶解は、精錬時に溶湯温度を高めることやフラックス処理を行うことで二酸化炭素(CO2)の発生を伴い、CO2は、温暖化の原因になり得るため、減少させることが求められる。
【0010】
したがって、本発明は、アルミニウムスクラップから効率よく再生アルミニウム金属塊を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。その結果、アルミニウムスクラップにマイクロ波を照射することにより、再生アルミニウム金属塊を製造することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)アルミニウムスクラップを含むアルミニウム金属にマイクロ波を照射する工程を含む、再生アルミニウム金属塊の製造方法。
(2)アルミニウムスクラップが、粉末、切粉、バリ及びブリケットからなる群から選択される1種以上の形態のアルミニウムスクラップである、(1)に記載の方法。
(3)アルミニウム金属を圧縮する工程をさらに含む、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)アルミニウム金属を圧縮する工程が、マイクロ波の照射前、照射中、及び/又は照射後に実施される、(3)に記載の方法。
(5)アルミニウム金属を圧縮する工程が、型枠を使用して実施される、(3)又は(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、アルミニウムスクラップから効率よく再生アルミニウム金属塊を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】比較例1及び実施例1の外観及び内部の写真である。
【
図2】比較例2及び実施例1の断面組織の写真である。
【
図3】切粉、比較例2及び実施例1の溶解後の様子を示す写真である。
【
図4】切粉、比較例2及び実施例1のアルミニウム溶湯への溶解実験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。なお、本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。また、本発明において、「数値(下限)~数値(上限)」の表現は、下限及び上限を含む範囲を示す。
【0016】
本発明は、アルミニウムスクラップを含むアルミニウム金属にマイクロ波を照射する工程(アルミニウム金属へのマイクロ波の照射工程)を含む、再生アルミニウム金属塊の製造方法に関する。
【0017】
本発明において、アルミニウム金属は、アルミニウム(Al)を主成分として含む金属及び/又は合金である。また、再生アルミニウム金属塊は、アルミニウム(Al)を主成分として含む金属塊及び/又は合金塊である。
【0018】
アルミニウム金属は、アルミニウム源(アルミニウム材料)として、アルミニウムスクラップを含む。
【0019】
アルミニウムスクラップとしては、例えば、自動車アルミニウム部品の製造工程で生ずる方案や切粉を還流する材料、比較的高品位なアルミニウムスクラップの箔や印刷版、5000系スクラップ(Al-Mg合金)、6000系スクラップ(Al-Mg-Si合金)、7000系スクラップ(Al-Zn-Mg合金)(これらは、例えば、自動車や家電のパネル材、ラジエーターなどの展伸アルミニウム材料、航空機用部品材料などを含む)などが挙げられる。アルミニウムスクラップとしては、アルミニウムスクラップの化学組成により、1種だけでなく、2種以上を使用してもよい。アルミニウムスクラップとしては、成分確認していないアルミニウムスクラップを使用してもよい。
【0020】
アルミニウムスクラップは、例えば、粉末、切粉、バリ、ブリケットなどからなる群から選択される1種以上の形態のアルミニウムスクラップである。ここで、ブリケットは、切粉やバリなどの細かいアルミニウムスクラップを圧縮成形することにより生成される。アルミニウムスクラップが2種以上の形態の混合物である場合、当該混合物は、均一であっても、不均一であってもよい。一実施形態では、当該混合物は、均一である。
【0021】
アルミニウム金属に含まれるアルミニウムスクラップの割合は、限定されない。当該アルミニウム金属に含まれるアルミニウム源としてのアルミニウムスクラップ以外のアルミニウムは、純粋なアルミニウムインゴット若しくは金属塊及び/又はアルミニウム合金であってよい。アルミニウム金属に含まれるアルミニウムスクラップの割合は、アルミニウム金属の全質量に基づいて、100質量%であってもよい。
【0022】
上記のアルミニウム金属は、主成分としてのAlに加えて、さらに、他の改質合金元素、例えばホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、銀(Ag)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、スカンジウム(Sc)、ストロンチウム(Sr)、インジウム(In)、バナジウム(V)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、タンタル(Ta)、金(Au)、ベリリウム(Be)、クロム(Cr)、ヒ素(As)、セレン(Se)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、レニウム(Re)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、水銀(Hg)、ビスマス(Bi)、及びトリウム(Th)からなる群から選択される一種以上の元素(その他元素)を適宜含んでもよい。
【0023】
上記のその他元素は、上記のアルミニウム金属中に、当該元素の、純金属、化合物、合金などとして添加してもよい。なお、基本的に融点の高い金属は、他の添加元素との母合金で添加することができ、融点の低い金属は、純金属で添加することができる。その他元素の添加は、マイクロ波の照射前、照射中、及び/又は照射後に実施することができる。あるいは、その他元素は、アルミニウム金属中のアルミニウムスクラップ、及び/又はアルミニウム合金において、予め合金成分として含まれていてもよい。
【0024】
なお、「マイクロ波の照射前、照射中、及び/又は照射後」とは、マイクロ波の照射前、照射中、及び照射後のうちの1つ以上の時点を示す。
【0025】
上記のその他元素のそれぞれの含有量は、限定されない。当該その他元素のそれぞれの含有量は、金属として、アルミニウム金属の全質量に基づいて、通常0.0001質量%~20質量%、一実施形態では0.001質量%~12質量%である。当該その他元素全ての含有量は、金属として、アルミニウム金属の全質量に基づいて、通常0.01質量%~30質量%、一実施形態では0.01質量%~16質量%、別の一実施形態では0.01質量%~5質量%である。なお、当該その他元素の含有量は、当該技術分野において公知の方法により測定することができ、合金元素により異なるが、例えばICP発光分光分析法により測定することができる。
【0026】
本発明のアルミニウム金属におけるアルミニウム及びその他元素以外の残部は、不可避的不純物、アルミニウムスクラップ中に含まれ得るアルミニウム製品加工時のクーラント(切削油)や潤滑油などの有機物、水分などである。
【0027】
ここで、不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)が挙げられる。リン(P)、硫黄(S)の含有量は、限定されない。リン(P)、硫黄(S)のそれぞれの含有量は、アルミニウム金属の全質量に基づいて、通常0.01質量%以下である。なお、リン(P)、硫黄(S)の含有量は、当該技術分野において公知の方法により測定することができ、測定する元素により異なるが、例えばICP発光分光分析法により測定することができる。
【0028】
また、アルミニウムスクラップ中に含まれ得る有機物及び水分は、事前に除去してもよい。有機物及び水分の除去は、当該技術分野において公知の方法を使用することができ、例えば通常100℃~600℃での乾燥を挙げることができる。
【0029】
上記のアルミニウム金属の大きさは、限定されない。上記のアルミニウム金属へのマイクロ波の照射において、アルミニウム金属及び/又はマイクロ波照射源は、マイクロ波がアルミニウム金属に万遍なく照射されるように移動させることができる。
【0030】
上記のアルミニウム金属に照射するマイクロ波は、限定されない。
【0031】
マイクロ波は、マイクロ波照射源(マイクロ波発振器(マグネトロン))から発生する。マイクロ波照射源は、シングルモードシステム、マルチモードシステムのどちらでも使用することができる。
【0032】
マイクロ波照射源の数は限定されない。マイクロ波照射源の数は、1つであっても、2つ以上であってもよい。
【0033】
マイクロ波照射源の出力は、限定されない。マイクロ波照射源の出力は、通常1W~10kW、一実施形態では家庭用に使用される500W~工業用に使用される10kWである。
【0034】
マイクロ波照射源から発生するマイクロ波の周波数は、適宜変更することができ、限定されない。マイクロ波の周波数は、通常0.9GHz~10GHz、一実施形態では2GHz~6GHzである。一実施形態では、マイクロ波の周波数として、工業用マイクロ波電源の周波数である2.45GHzを使用する。
【0035】
上記のアルミニウム金属へのマイクロ波の照射時間は、限定されない。マイクロ波の照射時間は、反応の条件(アルミニウム金属の組成、量、マイクロ波の条件、マイクロ波照射時の圧力、雰囲気、温度など)により適宜変更できる。マイクロ波の照射時間は、通常0.1秒~600秒、一実施形態では60秒~300秒である。
【0036】
一実施形態では、マイクロ波は、照射の間、均一である。一実施形態では、前記のマイクロ波の照射条件は、マイクロ波を照射している間、一定である。
【0037】
本発明では、アルミニウムスクラップを含むアルミニウム金属にマイクロ波を照射することで再生アルミニウム金属塊を製造できるため、マイクロ波の高密度エネルギーにより短時間で再生アルミニウム金属塊を製造できる。
【0038】
アルミニウム金属は、圧縮することもできる。
【0039】
したがって、本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法は、上記のアルミニウム金属を圧縮する工程(アルミニウム金属の圧縮工程)をさらに含んでもよい。
【0040】
上記のアルミニウム金属の圧縮工程は、限定されない。上記のアルミニウム金属の圧縮工程は、当該技術分野において公知の技術を使用して実施することができる。アルミニウム金属の圧縮工程としては、例えば一軸成型、冷間静水圧加圧(CIP)成型、熱間等方圧加圧法(HIP)成型、及びローラー加圧などが挙げられる。
【0041】
上記のアルミニウム金属の圧縮工程には、例えば型枠を使用して実施してもよい。型枠としては、アルミニウム又は鉄などの金属製のものが挙げられる。
【0042】
上記のアルミニウム金属の圧縮工程に型枠を使用することにより、特に、細かいアルミニウムスクラップ、例えば粉末や切粉などのアルミニウムスクラップの飛散、特にマイクロ波の照射時、すなわち加熱時の飛散を防止することができる。また、型枠として製品形状の型枠を使用することにより、作製した再生アルミニウム金属塊をそのまま製品とすることができる。なお、型枠として使用され得る金型や加工刃具の混入は、例えば磁選工程を導入することで避けることができる。
【0043】
さらに、上記のアルミニウム金属の圧縮工程の時期は、限定されない。したがって、アルミニウム金属の圧縮工程は、マイクロ波の照射前、照射中、及び/又は照射後に実施することができる。例えば、上記のアルミニウム金属の圧縮工程をマイクロ波の照射前に実施し、適切な大きさのアルミニウム金属を調製することにより、アルミニウム金属のマイクロ波照射などに使用し得る型枠への導入が容易になる。上記のアルミニウム金属の圧縮工程をマイクロ波の照射中及び/又は照射後に実施することにより、得られる再生アルミニウム金属塊の密度をより高くすることができる。
【0044】
上記のアルミニウム金属の圧縮工程における圧力は、限定されない。上記のアルミニウム金属の圧縮工程における圧力は、通常10MPa~500MPaである。
【0045】
上記のアルミニウム金属の圧縮工程における時間は、限定されない。上記のアルミニウム金属の圧縮工程における時間は、アルミニウム金属の圧縮工程によりアルミニウム金属が成形又は成型されるまでである。上記のアルミニウム金属の圧縮工程における時間は、通常0.1秒~60秒、一実施形態では2秒~5秒である。
【0046】
上記のアルミニウム金属の圧縮工程における温度は、限定されない。
【0047】
本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法がアルミニウム金属の圧縮工程を含むことにより、アルミニウムスクラップに含まれ得る有機物や水分を染み出し(抽出)・分離により除去することができ、さらに最終的に得られる再生アルミニウム金属塊中へのガス化などに由来するキライの形成を防止し、当該アルミニウム金属塊の密度を高くすることができる。本発明の製造方法により製造された再生アルミニウム金属塊の密度が高くなることにより、当該アルミニウム金属塊を溶解して使用する場合、溶解歩留まりを向上することができる。
【0048】
本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法における雰囲気は限定されない。本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法は、大気、不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)及び/若しくはヘリウム(He)、又は中性ガス、例えば窒素(N2)、乾燥水素(dryH2)及び/若しくはアンモニア(NH3)の雰囲気下で実施してもよい。
【0049】
本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法、特にアルミニウム金属へのマイクロ波の照射工程は、還元雰囲気下、例えば水素(H2)、一酸化炭素(CO)、及び/又は炭化水素ガス(例えばCH4、C3H8、C4H10)を含む雰囲気下で実施してもよい。あるいは、本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法、特にアルミニウム金属へのマイクロ波の照射工程は、アルミニウム金属の近くに還元剤、例えば炭素を配置することにより、例えば、アルミニウム金属と還元剤とを混合することにより実施してもよい。
【0050】
本発明を還元雰囲気下又は還元剤の存在下で実施することにより、アルミニウム金属、特にアルミニウムスクラップのさらなる酸化を防ぎ、あるいは、酸化されたアルミニウム金属を金属アルミニウムへと還元することができ、得られる再生アルミニウム金属塊の酸化物の割合を減少させることができる。したがって、このようにして得られた再生アルミニウム金属塊では、当該アルミニウム金属塊を溶解して使用する場合、溶解時におけるノロやスラグの発生量が低減し、溶解歩留まりを向上することができる。
【0051】
本発明の再生アルミニウム金属塊の製造方法では、再生アルミニウム金属塊の製造時に通常実施されるアルミニウム溶湯の調製を必ずしも必要としないため、ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点で、発生するCO2量を低減することができる。
【0052】
本発明により製造された再生アルミニウム金属塊では、その密度を、必要に応じて調整することができる。例えば、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊は高密度にすることができ、その密度は、通常2.00g/cm3~アルミニウム金属の真密度(例えば、金属アルミニウムの場合、2.70g/cm3)である。あるいは、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊の密度は、当該再生アルミニウム金属塊が完全に金属又は合金になった時を100%として、通常99%以上にすることができる。
【0053】
したがって、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊は、溶解して使用する場合、溶解歩留まりを向上することができる。さらに、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊は、そのままで部品などの製品として使用することができ、あるいは切削などの加工を実施することで部品などの製品に成形することができる。また、本発明により製造された高密度の再生アルミニウム金属塊は、通常のアルミニウムインゴットと同様に使用することができる。
【0054】
本発明により製造された再生アルミニウム金属塊は、その他元素としてSiを含む場合、内部の組織は粒状のSi相とアルミニウムの共晶とからなる。これは、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊は短時間に形成され、内部の組織中にデンドライトが形成(存在)しないためである。さらに、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊では、内部の組織中、境界が存在する。なお、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊では、内部の組織中、空隙もまた存在する。ただし、本発明により製造された再生アルミニウム金属塊は、高密度にすることもでき、その密度は前記範囲にすることができるため、したがって、当該空隙の体積は小さくすることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0056】
I.サンプル調製
実施例1
アルミニウムスクラップとしてのアルミニウム切粉(Cu:1.5質量%~3.5質量%、Si:9.6質量%~12質量%、Mg:0.3質量%以下、Zn:1.0質量%以下、Fe:1.3質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Ni:0.5質量%以下、Sn:0.2質量%以下、Pb:0.2質量%以下、Ti:0.3質量%以下、Al:残部)に、アルゴンの雰囲気下、窒化ケイ素製の型枠を使用して、5MPaの圧力を印加しながら、マイクロ波を1kWで照射して、実施例1の再生アルミニウム金属塊を製造した。
【0057】
比較例1
アルミニウムスクラップとしてのアルミニウム切粉(Cu:1.5質量%~3.5質量%、Si:9.6質量%~12質量%、Mg:0.3質量%以下、Zn:1.0質量%以下、Fe:1.3質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Ni:0.5質量%以下、Sn:0.2質量%以下、Pb:0.2質量%以下、Ti:0.3質量%以下、Al:残部)をアルゴン雰囲気下、5MPaの圧力で圧縮して、比較例1のブリケットを製造した。
【0058】
比較例2
比較例2としてアルミニウムインゴット(ADC12、切出し品、Cu:1.5質量%~3.5質量%、Si:9.6質量%~12質量%、Mg:0.3質量%以下、Zn:1.0質量%以下、Fe:1.3質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Ni:0.5質量%以下、Sn:0.2質量%以下、Pb:0.2質量%以下、Ti:0.3質量%以下、Al:残部)を準備した。
【0059】
II.評価
(外観及び内部観察)
比較例1のブリケットと実施例1の再生アルミニウム金属塊について、外観及び光学顕微鏡による内部観察を実施した。
図1に結果を示す。
【0060】
図1より、比較例1のブリケットの外観は、内部には空隙があり、低密度であった。一方で、実施例1の再生アルミニウム金属塊の外観は、金属アルミニウムのような金属光沢を有しており、また、内部観察より、高密度であることが確認できた。
【0061】
(断面組織観察)
比較例2のアルミニウムインゴットと実施例1の再生アルミニウム金属塊について、光学顕微鏡による断面組織観察を実施した。
図2に結果を示す。
【0062】
図2より、以下のことがわかった。
比較例2のアルミニウムインゴットでは、内部の組織は針状のSi相とアルミニウムの共晶とからなっており、内部の組織中、デンドライトが生成していた。
【0063】
一方で、実施例1の再生アルミニウム金属塊は、内部の組織は粒状のSi相とアルミニウムの共晶とからなっており、内部の組織中、デンドライトは生成していなかった。さらに、実施例1の再生アルミニウム金属塊では、内部の組織中、比較例2のアルミニウムインゴットと比較して、はっきりとした境界が存在しており、また空隙も存在していた。ただし、実施例1の再生アルミニウム金属塊は、高密度であり、その密度は、当該アルミニウム金属塊が完全に金属(合金)になった時を100%として、99%以上であり、したがって、当該空隙の体積は小さかった。
【0064】
つまり、比較例2のアルミニウムインゴットでは溶解した金属を型に入れて成形する際にゆっくり凝固することでデンドライトが生成する一方で、実施例1の再生アルミニウム金属塊ではマイクロ波照射により短時間に成形するためデンドライトが生成しない。
【0065】
さらに、実施例1では、製造過程に溶解が不要であり、現場のその場で金属塊製造が可能であり、さらに、付着したクーラントの酸化を防止できる。したがって、実施例1は、LCA視点でのCO2低減を可能にする。
【0066】
なお、アルミニウムスクラップとしてアルミニウム合金を使用した場合、アルミニウム合金のうち、不純物が多い合金組成のアルミニウム合金に比べて、不純物が少ないA6061のような展伸材として使用される合金組成のアルミニウム合金の方が、境界が薄くなる傾向があった。
【0067】
(炉内溶解試験)
切粉、比較例2のアルミニウムインゴット及び実施例1の再生アルミニウム金属塊それぞれ約28gを、温度800℃の炉に入れて、約30分かけて溶解し、炉内でのガス・酸化状況などを確認した。
図3に結果を示す。
【0068】
図3より、切粉は溶解中でも酸化物が多く、溶解歩留まりが非常に悪かった一方で、実施例1の再生アルミニウム金属塊は、比較例2のアルミニウムインゴットと比較して若干酸化物が多かったが、ガスの発生はないことがわかった。
【0069】
(アルミニウム溶湯での溶解試験)
切粉、比較例2のアルミニウムインゴット及び実施例1の再生アルミニウム金属塊それぞれ約28gを、アルミニウム溶湯に溶解した。
図4に結果を示す。
【0070】
図4より、切粉は、溶湯上に浮遊してしまい、溶解歩留まりは、40%未満であったものの、実施例1の再生アルミニウム金属塊の溶解歩留まりは、60%以上にまで改善されることがわかった。
【要約】
【課題】アルミニウムスクラップから効率よく再生アルミニウム金属塊を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アルミニウムスクラップを含むアルミニウム金属にマイクロ波を照射する工程を含む、再生アルミニウム金属塊の製造方法に関する。
【選択図】
図1