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特許7549123トーションビーム用鋼板およびその製造方法、トーションビームおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】トーションビーム用鋼板およびその製造方法、トーションビームおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240903BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240903BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240903BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/38
C21D9/46 T
C21D8/10 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023504137
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 CN2021109665
(87)【国際公開番号】W WO2022022692
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】202010765528.3
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170184
【弁理士】
【氏名又は名称】北脇 大
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、チュンスー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ユーロン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、フォン
(72)【発明者】
【氏名】ニー、ヤーピン
(72)【発明者】
【氏名】ルー、ルオドン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジンタオ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ユー、トンウェン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109576569(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109797340(CN,A)
【文献】国際公開第2011/145234(WO,A1)
【文献】特開平05-051692(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066249(WO,A1)
【文献】特開2015-203124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/46- 9/48
B60G 1/00-99/00
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の、質量%で示す化学成分:
C:0.04~0.085%、Si:0.02~0.5%、Mn:1.3~1.8%、Cr:0.15~0.5%、Mo:0.12~0.30%、Nb:≦0.058%、V:≦0.15%、Ti:≦0.02%、Al:0.02~0.1%、P:≦0.02%、S:≦0.005%、N:≦0.005%、残部はFeおよび不可避不純物
からなるトーションビーム用鋼板であって、ここで、該鋼板は、NbおよびVの1つまたは2つを含み、NbおよびVの量は、次式0.096%≦2Nb+V≦0.17%を満たし、ここで、該鋼板の微細構造はベイナイトおよびフェライトを含有し、ここで、該ベイナイトおよび該フェライトの総体積分率は90%以上であり、該ベイナイトの体積分率は50%より大きい、トーションビーム用鋼板。
【請求項2】
鋼板の化学成分が0.3%≦0.5Cr+Mo≦0.55%を満たす、請求項1のトーションビーム用鋼板。
【請求項3】
鋼板の化学成分が炭素当量CEIIw≦0.50(式中、CEIIw=%C+%Mn/6+%(Cr+Mo+V)/5+%(Ni+Cu)/15)を満たす、請求項1のトーションビーム用鋼板。
【請求項4】
鋼板の微細構造がパーライトおよび/またはマルテンサイトをさらに含有する、請求項のトーションビーム用鋼板。
【請求項5】
鋼板が、≧620MPaの縦方向の降伏強度、≧760MPaの引張強度、および≧16%のA50伸びを有する、請求項1~のいずれかのトーションビーム用鋼板。
【請求項6】
トーションビーム用鋼板の製造方法であって、ここで、該鋼板は、以下の、質量%で示す化学成分:
C:0.04~0.085%、Si:0.02~0.5%、Mn:1.3~1.8%、Cr:0.15~0.5%、Mo:0.12~0.30%、Nb:≦0.058%、V:≦0.15%、Ti:≦0.02%、Al:0.02~0.1%、P:≦0.02%、S:≦0.005%、N:≦0.005%、残部はFeおよび不可避不純物
からなり、該鋼板は、NbおよびVの1つまたは2つを含み、NbおよびVの量は、次式0.096%≦2Nb+V≦0.17%を満たし、該トーションビーム用鋼板の微細構造はベイナイトおよびフェライトを含有し、該ベイナイトおよび該フェライトの総体積分率は90%以上であり、該ベイナイトの体積分率は50%より大きく
該製造方法は、製錬、連続鋳造、熱間圧延および酸洗いを含み、
ここで、該熱間圧延は、熱間圧延加熱、圧延、および冷間コイリングを含み、ここで、該熱間圧延加熱においては、製錬および連続鋳造後に得られるスラブを、1200~1260℃に加熱し、1~3時間維持し;圧延は、粗圧延および仕上げ圧延を含み、ここで、粗圧延の出口温度は1020~1100℃に制御され、最終圧延の出口温度は840~920℃に制御され、総圧下率は≧80%であるように制御され;並びに冷間コイリングにおいては、圧延鋼板を、30~70℃/秒の速度で500~620℃まで層流冷却に供し、次いでコイリングする、製造方法。
【請求項7】
製造方法が圧延と冷間コイリングとの間に空冷をさらに含み、ここで、空冷時間は1~8秒である、請求項のトーションビーム用鋼板の製造方法。
【請求項8】
鋼板の化学成分が0.3%≦0.5Cr+Mo≦0.55%を満たす、請求項のトーションビーム用鋼板の製造方法。
【請求項9】
鋼板の化学成分が炭素当量CEIIw≦0.50(式中、CEIIw=%C+%Mn/6+%(Cr+Mo+V)/5+%(Ni+Cu)/15)を満たす、請求項のトーションビーム用鋼板の製造方法。
【請求項10】
鋼板の微細構造がパーライトおよび/またはマルテンサイトをさらに含有する、請求項のトーションビーム用鋼板の製造方法。
【請求項11】
鋼板が、≧620MPaの縦方向の降伏強度、≧760MPaの引張強度、および≧16%のA50伸びを有する、請求項10のいずれかのトーションビーム用鋼板の製造方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれかのトーションビーム用鋼板でできている、トーションビーム。
【請求項13】
トーションビームが、≧680MPaの縦方向の降伏強度、≧800MPaの引張強度、および50万~180万回のベンチ疲労を有する、請求項12のトーションビーム。
【請求項14】
以下の工程:
管への溶接:請求項1~5のいずれかのトーションビーム用鋼板を溶接して丸管にすること;
成形:該丸管をハイドロフォーミングまたはプレス成形して成形管にすることであり、該成形管は、U字形またはV字形であり、内部フィレットを有し、ここで、該成形管の厚さTに対する該内部フィレットRの比は、R/T≧1.05を満たす、成形管にすること;並びに
次いで、応力除去焼鈍および/またはショットピーニングを実施してトーションビームを形成すること
を含む、トーションビームの製造方法。
【請求項15】
応力除去焼鈍工程において、成形管を、加熱し、475~610℃で20~90分間維持し、次いで300℃まで冷却後、空冷する、請求項14のトーションビームの製造方法。
【請求項16】
ショットピーニング工程において、成形管の内部フィレットの内または外面をショットピーニングに供する、請求項14のトーションビームの製造方法。
【請求項17】
内部フィレットでのコア硬度が260HV以上であり、内部フィレットの内または外面から0.05mmでの微小硬度が該コア硬度より30~80HV高い、請求項14のトーションビームの製造方法。
【請求項18】
トーションビームが、≧680MPaの縦方向の降伏強度、≧800MPaの引張強度、および50万~180万回のベンチ疲労を有する、請求項14の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の分野に、特にトーションビーム用鋼板、その製造方法、並びにトーションビームおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
トーションビームは、その簡単な構造、小さなスペース占有、低コスト等のため、クラスA車、多目的車(MPV)、および新エネルギー車において広く使用されている。従来のトーションビームは、典型的には、6mm以上の板厚および15kg以上の単体重量を有する、オープンタイプのトーションビームである。車両の剛性を増加させるために、典型的には、スタビライザーバーが、トーションビームの内側に追加され、これは、20kgの重さにのぼるトーションビームアセンブリをもたらす。しかしながら、クローズドトーションビームは、一般的に、単体において10kg以下の重さであり、必ずしもスタビライザーバーを必要とせず、これは、自動車の軽量化のコンセプトに合致する。国産自動車のリアアクスルは、環境保護および強化の傾向の下で、徐々にクローズドトーションビームに移行してきた。
【0003】
現在、クローズドトーションビームを製造することについては、ホットスタンピングおよび冷間成形の2つの主な方法がある。
【0004】
ホットスタンピングは、鋼管を、特殊な形状の断面を有するようにプレス成形し、920~940℃の高温に加熱して保温し、次いで急冷するという特徴を有する。このプロセスにおいては、加熱温度が相転移点より上に達する必要があり、スケールを防止する雰囲気を使用する必要があり、そのため、プロセスコストが高い。同時に、高温熱処理は、容易に管継手を変形させ、寸法のずれすなわち引き続く組立プロセスにおける問題をもたらす。さらに、管状トーションビームのクロスビーム特性の比較研究は、コールドスタンプ材と比較して、溶接後のホットスタンプ材の溶接熱影響部は、大幅に軟化しており、これは、割れを生じがちであることを示してきた。
【0005】
冷間成形プロセスにおいては、クローズドトーションビームのクロスビームは、応力が集中するフィレット領域として呼ばれる、伸びおよび曲がりのための遷移領域を有する。フィレット領域における応力を低下させるために比較的低い強度を有する鋼を選択する場合、製品の強度および剛性は、保証されない。1つのアプローチは、厚さを増加させることにより強度および剛性を増加させることであるが、これは、軽量車両についての要件を満たさない。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は、上述の技術的課題を解決するためのトーションビーム用鋼板およびその製造方法を提供する。
【0007】
本発明は、以下の、質量%で示す化学成分:C:0.04~0.085%、Si:0.02~0.5%、Mn:1.3~1.8%、Cr:0.15~0.5%、Mo:0.12~0.30%、Nb:≦0.058%、V:≦0.15%、Ti:≦0.02%、Al:0.02~0.1%、P:≦0.02%、S:≦0.005%、N:≦0.005%、残部はFeおよび不可避不純物、を有するトーションビーム用鋼板であって、ここで、該鋼板は、NbおよびVの1つまたは2つを含み、NbおよびVの量は、次式0.096%≦2Nb+V≦0.17%を満たす、トーションビーム用鋼板を提供する。各数値範囲は、特に明記しない限り、端点を含む。
【0008】
本発明の化学組成設計において:
炭素(C):炭素含有量は、鋼板の引張強度レベルを主に決定する。炭素は、鋼の強度を確保するために、固溶体強化および十分なマイクロアロイ析出物を形成することのために使用する。炭素含有量が低すぎる場合、鋼板の強度が低下し;炭素含有量が高すぎる場合、曲げ特性および伸びが良好でなく、これは、トーションビームのフィレットについての引き続く設計に影響を与える。本発明の鋼板におけるCの含有量は、比較的低く、これは、鋼板の曲げ性能を改善し、溶接疲労性能を改善することの助けとなる。本発明において定義する鋼板組成の場合においては、本発明の炭素含有量は、鋼が比較的高い縦方向の引張強度を達成し得るだけでなく、所望の曲げ性能、成形および溶接性能を獲得し得ることを確実にするように、0.04~0.085%であるように制御する。
【0009】
ケイ素(Si):鋼中のケイ素は、固溶体強化の役割を果たし、鋼板の強度を増加させる。ケイ素の添加はまた、加工硬化率並びに所与の強度下での均一な伸びおよび全伸びを増加し得、これは、鋼板の伸びを改善するのに役立つ。さらに、ケイ素はまた、炭化物の析出を防ぎ得、パーライト相の出現を低下させ得る。しかしながら、鋼中のケイ素は、鋼板の表面上にファヤライト(2FeO-SiO)酸化物スケールなどの表面欠陥を形成させる傾向があり、それによって疲労性能に影響を与える。本発明のケイ素含有量は、0.5%以下、好ましくは0.02~0.5%であるように制御する。
【0010】
マンガン(Mn):マンガンは、本発明における固溶体強化元素であり、マンガンの低い含有量は、乏しい強度を引き起こすが、マンガンの高い含有量は、鋼板の可塑性における減少を引き起こし、および同時に、偏析およびMnS包有物が容易に生成し、これは、疲労特性に有害である。製品の引張強度を確保することを前提として、良好な成形性および均一な構造を有するために、本発明のマンガン含有量は、1.3~1.8%であるように制御する。
【0011】
アルミニウム(Al):アルミニウムは、鋼中の酸化物包有物を低下させて鋼を浄化し、鋼板の伸びおよび曲げ特性を増加させるのに寄与する、鋼の脱酸元素である。しかしながら、高いアルミニウム含有量は、連続鋳造の生産性および鋼板の疲労特性に影響を与える、Al包有物を引き起こし、そのため、本発明のアルミニウム含有量は、0.02~0.1%であるように制御する。
【0012】
クロム(Cr):クロムは、パーライトの形成を抑制し、ベイナイト構造の形成に有利に働き、最終的に強度における増加に有利に働く。0.15%未満のCr含有量は、CCT曲線(冷間オーステナイト連続冷却変態曲線)に大きな影響を与えず、高い含有量は、高いコストにつながり、そのため、クロム含有量は、本発明においては0.15~0.5%であるように制御する。好ましくは、クロム含有量は、0.15~0.43%である。
【0013】
モリブデン(Mo):モリブデンは、パーライトの形成を抑制し、ベイナイト構造の形成に有利に働く。マイクロアロイ元素も添加するとき、それは、マイクロアロイの析出に有利であり、最終的に鋼板の強度の増加に有利である。トーションビームの強度がトーションビームの引き続く応力除去焼鈍中に低下しないことを確実にするために、モリブデンの添加は、材料の焼戻し抵抗を増加させて焼鈍トーションビームの強度を確保するのに有利である。しかしながら、その含有量が高いとき、コストが高く、そのため、モリブデン含有量は、本発明においては0.12~0.3%、好ましくは0.15~0.3%であるように制御する。
【0014】
ニオブ(Nb):ニオブは、析出強化および結晶粒微細化強化について重要な元素の1つであり、コイリング後、または圧延後の冷却中に微細な析出物の形態で存在し、析出強化を利用して強度を改善する。同時に、ニオブの存在は、結晶粒微細化を促進し、強度および靭性を増加させる。ニオブ含有量が0.058%より高いとき強化効果は飽和に近く、コストが比較的高く、そのため、本発明のニオブ含有量は、0.058%以下である。好ましくは、ニオブ含有量は、0.01~0.058%の範囲であり、より好ましくは、ニオブ含有量は、0.012~0.046%の範囲である。
【0015】
バナジウム(V):バナジウムは、析出強化および結晶粒微細化強化についての重要な元素の1つである。ニオブと併せて添加するとき、Vは、オーステナイト粒を微細化することまたは析出強化の役割を果たし、コイリング後、または圧延後の冷却中に微細な析出物の形態で存在し、析出強化を利用して強度を改善する。トーションビームの強度が引き続くトーションビームの応力除去焼鈍中に減少しないことを確実にするために、一定量のバナジウムを添加することは、材料の強度を増加させることの助けとなり、そのため、バナジウム含有量は、本発明においては0.15%以下である。好ましくは、バナジウム含有量は、0.01~0.15%の範囲であり、より好ましくは、バナジウム含有量は、0.025~0.10%の範囲である。
【0016】
ニオブおよびバナジウムの2つの元素自体の範囲に対する上述の制限に加えて、2つの元素は、0.096%≦2Nb+V≦0.17%を満たす必要がある。ニオブまたはバナジウム元素の添加は、マイクロアロイ(Mo,Nb)Cまたは(Mo,V)Cのナノ析出物をもたらし、それによって鋼板の強度をさらに増加させ、より良好な伸びおよび冷間曲げ特性を獲得する。本発明の鋼板は、Nb若しくはVまたはNbおよびVの両方を含有し得、NbおよびVの量は、0.096%≦2Nb+V≦0.17%を満たし、それによって引き続くトーションビームの製造における応力除去焼鈍中の強度を維持しまたは増加さえさせる。
【0017】
チタン(Ti):チタンは、析出強化および結晶粒微細化強化についての重要な元素の1つである。本発明の鋼板については、一方では、微量のチタンの添加は、鋼中の遊離窒素原子が衝撃靭性に有害であるため、遊離窒素を固定し得るが、一方で、チタンは、鋼中の不純物元素窒素と結合して、TiNを形成し;他方では、チタン元素が本発明の鋼板中に含有されるとき、それは、ニオブなどの元素と併せてオーステナイト粒を微細化し得る。さらに、チタンは、トーションビームの製造における応力除去焼鈍中の強度を維持するかまたは増加さえさせるために添加される。しかし、本発明におけるTi含有量は、高すぎるべきではなく、さもなければ粗いTiN析出物が容易に形成され、これは、鋼の疲労特性に有害である。従って、Ti含有量は、本発明においては0.02%以下であるように制御する。好ましくは、チタン含有量は、0.005~0.02%の範囲である。
【0018】
リン(P):鋼中のリンは、一般に、フェライト中に固溶し、鋼の靭性を低下させる。高いリン含有量は、溶接性に有害である。同時に、リンは、結晶粒界で偏析し、これは、帯鋼の穴広げ特性に有害であり、そのため、リン含有量は、最小化すべきであり、本発明におけるP含有量は、0.02%以下である。
【0019】
硫黄(S):硫黄含有量および硫化物の形態は、成形性に影響を与える主な要因であり、硫化物の大きな量および大きなサイズは、穴広げ特性に有害であり、そのため、硫黄含有量は、本発明においては0.005%以下であるように制御する。
【0020】
窒素(N):窒素は、高温でチタンと反応してTiN析出物を形成し、粗いTiN粒子は、疲労性能に有害である。従って、鋼中の窒素含有量は、制御しなければならず、窒素含有量は、本発明においては0.005%以下であるように制御する。
【0021】
任意に、CrおよびMoのそれぞれについての上述の含有量制限に加えて、クロムおよびモリブデンの量は、パーライトの変態を遅らせるために0.3%≦0.5Cr+Mo≦0.55%を満たす必要があり、これは、鋼板の製造中のベイナイト相の形成に役立ち、鋼板の曲げ特性を改善することにも役立ち、すなわちより良好な疲労特性を獲得し;別の目的は、材料が比較的良好な焼戻し抵抗を有し、管の基本的な機械的特性が応力除去焼鈍後も維持されることを確実にすることである。
【0022】
任意に、鋼板の化学成分は、炭素当量CEIIw≦0.50(式中、CEIIw=%C+%Mn/6+%(Cr+Mo+V)/5+%(Ni+Cu)/15)を満たす。本発明におけるCEIIw≦0.50は、良好な溶接性能を確保する。炭素当量についての計算式は、現在認められている実験式であり、式中で置換される数値は、対応する元素の含有率であり、CEIIwは、無次元である。本発明の鋼板は、ニッケル(Ni)または銅(Cu)を含有しないか、または炭素当量の計算において無視できる少量の残留ニッケルおよび銅のみを含有し、すなわち、Ni+Cuは、式においてゼロである。
【0023】
任意に、上述の鋼板の微細構造は、ベイナイトおよびフェライトを含有し、鋼板中のベイナイトおよびフェライトの総量は、90%以上であり、すなわちベイナイト+フェライトの体積分率の合計は、90%≧であり、鋼板中のベイナイトの体積分率は、50%より大きく、特に例えば55~85%の範囲である。そのような微細構造は、トーションビーム用鋼板の強度および曲げ特性に寄与する。好ましくは、ベイナイト+フェライトの体積分率の合計は、>95%であり、可能な限り100%に近いと予想される。
【0024】
任意に、トーションビーム用の鋼板の微細構造は、パーライトおよび/またはマルテンサイトをさらに含有し、すなわち、トーションビーム用の鋼板はまた、パーライト、またはマルテンサイト、またはパーライトおよびマルテンサイトの両方を含有し得、ここで、鋼板中のパーライトおよびマルテンサイトの体積分率は、パーライトおよびマルテンサイトの一方または両方が存在するかどうかにかかわらず、≦10%である。好ましくは、鋼板中のパーライトおよびマルテンサイトの体積分率の合計は、<5%であり、0に近いと予想される。
【0025】
本発明の化学組成を使用することにより、得られるトーションビーム用鋼板は、≧620MPaの縦方向の降伏強度、≧760MPaの引張強度、≧16%のA50伸び、および≧1.05の180°冷間曲げ特性R/Tを達成し得る。同時に、鋼板の均一な伸びは、≧7.0である。好ましくは、縦方向の降伏強度は、620~720MPaの範囲中であり、引張強度は、760~860MPaの範囲であり、A50伸びは、16~24%の範囲であり、均一な伸びは、7.0~11.5の範囲である。本発明の鋼板がトーションビームの優れた性能の基礎を提供するのは、それが、上記パラメータを満足するからである。
【0026】
本発明は、トーションビーム用鋼板の製造方法を提供し、得られる鋼板の特性は、製造方法を改善することにより、さらに改善される。具体的には、本発明の製造方法においては、鋼板は、以下の、質量%で示す化学成分:C:0.04~0.085%、Si:0.02~0.5%、Mn:1.3~1.8%、Cr:0.15~0.5%、Mo:0.12~0.30%、Nb:≦0.058%、V:≦0.15%、Ti:≦0.02%、Al:0.02~0.1%、P:≦0.02%、S:≦0.005%、N:≦0.005%、残部はFeおよび不可避不純物、を有し、ここで、該鋼板は、NbおよびVの1つまたは2つを含み、NbおよびVの量は、0.096%≦2Nb+V≦0.17%を満たす。本発明の製造方法は、製錬、連続鋳造、熱間圧延および酸洗いを含む。ここで、熱間圧延工程は、熱間圧延加熱、圧延、および冷間コイリングを含む。ここで、熱間圧延加熱において、製錬および連続鋳造後に得られるスラブを、1200~1260℃に加熱し、1~3時間維持する。次いで、スラブを、粗圧延および仕上げ圧延を含む圧延に供し、ここで、粗圧延の出口温度は1020~1100℃で制御し、最終圧延の出口温度は840~920℃で制御し、総圧下率は≧80%であるように制御する。冷間コイリングは、圧延鋼板に対して30~70℃/秒の速度で500~620℃まで層流冷却を実施すること、次いでコイリングすることを含む。
【0027】
製錬工程に関しては、製錬は、現在一般的に使用されている方法によって行うことができる。例えば、転炉製錬を使用し、溶鋼を、RH真空脱ガス処理およびLF炉脱硫処理に供する。
【0028】
連続鋳造工程については、製錬後の溶鋼を、現在主に使用されている方法によって連続鋳造することができる。例えば、連続鋳造スラブの中心偏析および包有物のレベルは、過熱度を制御すること、二次冷却水を制御すること、および連続鋳造プロセス中の適切な軽圧下を使用することによって制御することができる。包有物グレードは、1.5未満に制御することができる。
【0029】
熱間圧延加熱は、鋼板中のVおよび/またはNbの十分な固溶を可能にする。加熱温度は、1230±30℃である。加熱温度が1260℃を超える場合、結晶粒が粗くなる傾向があり、これは、鋼板の靭性に有害であり、除去しにくい厚い酸化スケールにつながる傾向がある。
【0030】
粗圧延の出口温度を熱間圧延工程中1020~1100℃で制御することは、粗圧延を再結晶領域中で実施し、オーステナイト領域におけるマイクロアロイの析出を避けること;最終圧延温度を840~920℃で制御し、結晶粒微細化のために非再結晶領域における圧延を可能にすること;コイリング温度が500~620℃の範囲であり、これが、ベイナイト変態およびマイクロアロイ析出を制御し得、それによって鋼板の強度、並びに伸びおよび冷間曲げ特性を制御することを確実にする。
【0031】
冷却は、仕上げ圧延後に行い、本発明の冷却は、層流冷却であり、例えば、水を仕上げ圧延鋼板の冷却について使用し、層流冷却を仕上げ圧延スラブに対して30~70℃/秒の冷却速度で500~620℃まで実施する。次いで、コイリングを、500~620℃で実施し、得られる微細構造は、主に良好な疲労特性を有するベイナイト+フェライト構造並びにマイクロアロイ(Mo,V)Cおよび(Mo,Nb)Cのナノ析出物であり、その他は、少量のパーライトおよび/またはマルテンサイト構造であり、パーライトおよびマルテンサイトの体積分率の合計は、≦10%である。微細構造およびナノ析出物はさらに、鋼板が、高い強度並びにより良好な伸びおよび冷間曲げ特性を獲得することを可能にする。
【0032】
酸洗い工程に関しては、現在一般的な酸洗い方法を、使用することができる。例えば、酸洗い速度は60~100m/分で制御し、酸洗いプロセスにおける最終酸洗い槽の温度は80~90℃で制御し、Feイオン濃度は30~40g/Lで制御する。
【0033】
任意に、空冷がまた、圧延工程と冷間コイリング工程との間に含まれ、ここで、空冷時間は、1~8秒である。すなわち、本発明においては、遅延冷却制御様式を圧延後に使用して仕上げ圧延スラブを空冷し、次いで層流冷却を実施し、スラブ温度を冷却水によって500~620℃に下げ、次いでコイリングを実施する。圧延後の1~8秒の空冷は、結晶粒の回復を促進する。空冷時間は、仕上げ圧延帯鋼の速度および冷却水用起動弁の位置を制御することにより制御し得る。本発明の圧延スラブは、1~8秒の空冷後ほとんど温度変化を示さず、10~50℃の温度降下を有する。スラブは、主に層流冷却によって冷却する。
【0034】
任意に、鋼板の化学成分は、0.3%≦0.5Cr+Mo≦0.55%を満たす。
【0035】
任意に、本発明のトーションビーム用鋼板の製造方法において、鋼板の化学成分は、炭素当量CEIIw≦0.50(式中、CEIIw=%C+%Mn/6+%(Cr+Mo+) V)/5+%(Ni+Cu)/15)を満たす。
【0036】
任意に、鋼板の微細構造は、ベイナイトおよびフェライトを含有し、鋼板中のベイナイトおよびフェライトの総含有量は90%以上であり、すなわち、ベイナイト+フェライトの体積分率の合計は、≧90%であり、鋼板中のベイナイトの体積分率は、50%より大きく、例えば55~85%の範囲である。そのような微細構造は、トーションビーム用鋼板の強度および曲げ特性に寄与する。好ましくは、ベイナイト+フェライトの体積分率の合計は、>95%である。
【0037】
任意に、鋼板の微細構造はまた、パーライトおよび/またはマルテンサイトを含み、すなわち、鋼板はまた、パーライト、またはマルテンサイト、またはパーライトおよびマルテンサイトの両方を含有し得る。パーライトおよびマルテンサイトの一方または両方を有するかどうかにかかわらず、鋼板中のパーライトおよびマルテンサイトの体積分率の合計は、≦10%である。好ましくは、鋼板中のパーライトおよびマルテンサイトの体積分率の合計は、<5%である。
【0038】
上述の組成設計および鋼板の製造プロセスを使用することにより、鋼板の機械的特性は、以下のレベル:≧620MPaの縦方向の降伏強度、≧760MPaの引張強度、≧16%のA50伸び、および≧1.05の180°冷間曲げ特性R/Tに達し得る。さらに、本発明において得られる鋼板の均一な伸びは、≧7.0である。好ましくは、縦方向の降伏強度は、620~720MPaであり、引張強度は、760~860MPaであり、A50伸びは、16%~24%であり、180°冷間曲げ特性R/Tは、≧1.05であり、均一な伸びは、7.0~11.5である。
【0039】
好ましくは、圧延後2秒以上(2秒を含む)の空冷と併せて、鋼板組成が0.3%≦0.5Cr+Mo≦0.55%を満たし、熱圧延コイリング温度が560~620℃であるとき、≧620MPaの縦方向の降伏強度縦方向および≧760MPaの引張強度を達成することができるのみならず、成形性もまたさらに改善することができ、すなわち、A50伸び≧18%、180°冷間曲げ特性1.25≧R/T≧1.05、および均一な伸び≧8.0である。
【0040】
本発明はまた、上記トーションビーム用鋼板でできているトーションビームを提供する。
【0041】
本発明において得られるトーションビームは、≧680MPaの縦方向の降伏強度、≧800MPaの引張強度、および50万~180万回のベンチ疲労を達成し得る。
【0042】
さらに、本発明においては、上記トーションビーム用鋼板の製造方法を使用して、トーションビームを製造するために使用する鋼板を製造する。
【0043】
本発明はまた、トーションビーム用鋼板の化学組成と併せて、トーションビーム用鋼板の製造方法によって得られる鋼板を、優れた特性を有するトーションビームを製造するための被削材として使用する、トーションビームの製造方法を提供する。現在、クローズドトーションビームについては、ホットスタンピングおよび冷間成形の主に2つの様式があり、本発明のトーションビームの製造方法は、冷間成形を使用してトーションビームを製造する。
【0044】
本発明のトーションビームの製造方法は、以下の工程:管への溶接:上記のトーションビーム用鋼板を溶接して丸管にすること;成形:該丸管をハイドロフォーミングまたはプレス成形して成形管にすることであり、該成形管は、U字形またはV字形であり、内部フィレットを有し、ここで、該成形管の厚さTに対する該内部フィレットRの比は、R/T≧1.05を満たす、成形管にすること;並びに、次いで、応力除去焼鈍および/またはショットピーニングを実施してトーションビームを形成すること、を含む、冷間成形を使用する。すなわち、本発明のトーションビームは、成形後に直接ショットピーニング工程、直接応力除去焼鈍工程、または応力除去焼鈍工程およびショットピーニング工程の両方により、製造することができる。応力除去焼鈍およびショットピーニング工程を実施するとき、応力除去焼鈍工程を実施し、その後ショットピーニング工程を実施することができる。
【0045】
丸菅に溶接する工程においては、例えば、高強度鋼板を、レーザー溶接または高周波溶接して丸管にし、所定の大きさに切断する。本発明の鋼板は、0.04~0.085%のC含有量を有し、NbおよびVの1つまたは両方を含有するため、結晶粒微細化の効果があり、そのため、丸管に溶接する工程において、溶接シームの硬度遷移は比較的滑らかで、微細構造は、比較的微細である。
【0046】
成形工程においては、例えば、丸管をプレス成形またはハイドロフォーミングして所望の断面を有する成形管とし、ここで、トーションビームの厚さTに対する内部フィレットの比R/Tは、フィレットの内面に折れがなく、外面にしわなどの欠陥がないことを確実にするために、≧1.05である必要がある。
【0047】
次いで、応力除去焼鈍工程若しくはショットピーニング工程を実施するか、または応力除去焼鈍工程およびショットピーニング工程の両方を実施する。
【0048】
応力除去焼鈍工程においては、例えば、成形した成形管を、加熱炉中に入れて該炉で加熱し、475~610℃で20~90分間維持し、次いで該炉で300℃まで冷却し、次いで空冷する。鋼板の溶接管への製造、および管継手の成形管への成形の間、鋼の内部構造は、比較的高い残留応力、特に表面上の引張応力を有し、トーションビームの比較的短い疲労寿命をもたらす。応力除去焼鈍は、焼鈍成形管の機械的特性を低下させず、または増加さえさせずに維持しながら、成形プロセスにおける応力を除去し得、ここで、縦方向の降伏強度は、≧680MPaであり、引張強度は、≧800MPaであり、およびA50伸びは、≧16%である。
【0049】
ショットピーニング工程においては、例えば、管継手の応力集中領域、すなわちフィレット位置を、ショットピーニング装置による表面ショットピーニングに供する。ショットピーニングは、内部フィレットの内面若しくは外面、または内部フィレットの内および外面の両方上で実施し得る。ショットピーニング工程は、トーションビームのクロスビームの表面が圧縮応力下にあることを確実にし、それによってトーションビームの疲労性能を改善する。
【0050】
さらに、本発明のトーションビームの製造方法においては、成形した成形管を、応力除去焼鈍およびショットピーニングにそれぞれ供することができ、すなわち、成形管を、まず応力除去焼鈍に供して成形プロセスにおける応力を除去し、次いで焼き鈍した管継手の表面をショットピーニングに供し、それによって形成するトーションビームの疲労特性をさらに増強する。
【0051】
高い強度並びに優れた疲労特性を有するトーションビームを得るために、本発明のトーションビームの製造方法においては、まず、最終的に形成するトーションビームの疲労性能を、フィレットRの表面状態を伸びおよび曲げ特性を改善する観点から改善することにより、改善し;第2に、トーションビームの疲労性能を、鋼板の強度を改善する、並びに最終的に形成するトーションビームの縦方向の降伏強度および引張強度を増加させる観点から改善する。従って、上記2つの効果を同時に達成するために、鋼板の化学組成、微細構造、および製造方法を、改善する。
【0052】
さらに、得られた鋼板からトーションビームを製造するプロセスにおいては、形成するトーションビームの構造をまた設計して、それによって得られた鋼板の特性に合わせるであろう(例えば、本発明のトーションビーム用鋼板の組成設計および製造方法を使用することにより、≧1.05の180°冷間曲げ特性R/Tが達成された。従って、トーションビームの製造中、トーションビームの厚さTに対する内部フィレットの比R/Tは、製造するトーションビームの構造がトーションビーム用の元の鋼板の特性と一致することを確実にするために、≧1.05である必要があり、それによって、疲労性能を低下させる、折れ、しわ、破損等の発生を大幅に低下させる)。
【0053】
驚くべきことに、トーションビームの製造中、トーションビームの強度は、鋼板の製造中のNbおよび/またはV元素の添加のため、トーションビーム用鋼板の強度と比較して、応力除去焼鈍の間維持することができるかまたは改善さえすることができることが、見出された。さらに、Tiの添加もまた、トーションビームの強度を維持するかまたは増加さえさせるために役立つ。本発明における得られるトーションビーム用鋼板は、≧620MPaの縦方向の降伏強度および≧760MPaの引張強度を有し、トーションビームに製造した後、トーションビームは、≧680MPaの降伏強度および≧800MPaの引張強度を有する。
【0054】
本発明の製造方法によって形成するトーションビームは、260HV以上のコア硬度を有し、トーションビームの内または外面から0.05mmでの微小硬度は、コア硬度より30~80HV高く、それによって高い強度を有する外側および高い靭性を有する内側の効果を達成し、トーションビームの内側折れを避け、疲労強度を改善する。
【0055】
本発明のトーションビームの製造方法を使用することにより、形成するトーションビームは、≧680MPaの縦方向の降伏強度、≧800MPaの引張強度、および50万~180万回のベンチ疲労の優れた性能を達成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1は、本発明の実施例2における鋼板の金属組織微細構造図を示す。
図2図2は、本発明の一例におけるトーションビームの内部フィレットの断面プロファイルの概略図を示す。
図3図3は、実施例1、実施例11におけるトーションビーム、および本発明による応力除去焼鈍に供していないトーションビームの、微小硬度における変化の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
詳細な説明
本発明の実施態様を、特定の実施態様を参照して以下に説明し、当業者は、説明において開示する内容から本発明の他の利点および効果を容易に理解することができる。本発明を、好ましい実施態様に関連して説明するが、本発明の特徴がこの実施態様に限定されることは意図していない。それどころか、実施態様に関連する本発明の説明は、本発明の特許請求の範囲に基づいて拡張し得る他の代替または変形をカバーすることを意図している。以下の説明は、本発明の完全な理解を提供するための、多数の特定の詳細を含有する。本発明はまた、これらの詳細なしに実行し得る。さらに、いくつかの特定の詳細は、本発明の焦点を混乱させるまたは曖昧にすることを避けるために、説明から省略する。本発明の実施態様および実施態様の特徴は、衝突なしに互いに組み合わせ得ることに注意すべきである。
【0058】
本明細書において、同様の参照符号および文字は、以下の図面において同様の項目を表し、従って、いったんある項目が1つの図面において定義されると、それは、その後の図面においてさらに定義し説明する必要がないことに注意すべきである。
【0059】
本発明の目的、技術的解決策および利点をより明確にするために、本発明の実施態様を、添付の図面を参照して、以下でさらに、詳細に説明する。
【0060】
表1は、本発明の実施例1~10および比較例1~7における各化学元素の質量%を示す。表2は、実施例1~10および比較例1~7における対応する鋼板の製造方法、および製造した鋼板の特性を示す。
【0061】
本発明のトーションビーム用鋼板の製造方法は、製錬、連続鋳造、熱間圧延、および酸洗いの工程を含む。以下の実施例および比較例においては、第1の転炉製錬を実施し、溶鋼を、RH真空脱ガス処理およびLF炉脱硫処理に供し、具体的な方法は、既存の製錬法を参照し得る。連続鋳造を、次いで実施する。連続鋳造スラブの中心偏析および包有物のレベルは、例えば、過熱度を制御すること、二次冷却水を制御すること、および連続鋳造プロセス中の適切な軽圧下を使用することによって制御することができ、包有物グレードは、1.5未満に制御することができる。この説明における包有物グレードは、GB/T 10561-2005を指す。
【0062】
得られたスラブは、連続鋳造後、熱間圧延する。熱間圧延工程は、熱間圧延加熱、圧延、および冷間コイリングを含む。以下の実施例および比較例における熱間圧延加熱の加熱温度および保持時間を、表2に示す。圧延プロセスは、粗圧延および仕上げ圧延を含み、表2はまた、実施例における粗圧延の出口温度および最終圧延温度も記載する。鋼板を、圧延後に成形し、該鋼板を、次いで冷間コイリングに供し、冷却は、層流冷却を採用し、表2中のコイリング温度は、鋼板をコイリングする温度を表す。空冷時間は、スラブを圧延後に空冷する時間を表し、空冷時間が0であるとき、それは、この例においては、層流冷却を、空冷なしに直接行うことを意味する。
【0063】
以下の実施例1~10および比較例1~7において成形した鋼板を、特性試験に供する。この説明においては、機械的特性試験は、標準GB/T228.1-2010に従って行い、180°冷間曲げ特性R/Tは、標準GB/T232-2010に従って行い、縦方向の降伏強度、引張強度、均一な伸び、A50伸び、および180°冷間曲げ特性の結果を、その結果得る。表2においては、180°冷間曲げ特性の欄において、冷間曲げ面上にしわがないものを「OK」として表し、冷間曲げ面上にしわを有するものを「NG」として表した。
【0064】
図1は、実施例2における鋼板の金属組織微細構造図である。得られた鋼板の微細構造は、ベイナイトおよびフェライト、並びに少量のパーライトを含むことが、図から見て取ることができる。この例におけるベイナイト+フェライトの体積分率の合計は、90%より大きい。
【0065】
表3は、上記の例における鋼板でできているトーションビームの計算パラメータおよび特性を示す。本発明のトーションビームの製造方法は、冷間成形を使用してトーションビームを製造し、溶接して丸管にする、成形する、並びに応力除去焼鈍および/またはショットピーニングしてトーションビームを形成する工程を含む。
【0066】
上記例における鋼板を、溶接して丸管を成形し、次いで該丸管をハイドロフォーミングまたはプレス成形に供して、U字形またはV字形であり内部フィレットを有する成形管を成形し、成形したーションビームの構造を、図2に示す。トーションビームの内部フィレットの半径Rおよびトーションビームの厚さTを、図2に示す。本発明においては、1.05以上のR/Tを有する内部フィレットが、トーションビームの製造中に製造され、例えば、内部フィレットは、4.61の半径Rを有し、厚さTは、3であり、図2においてR/T=1.537をもたらす。例えば、丸管を、下型中に置き、上型を閉じることによるプレス成形に供する、または管を、型を閉じた後に液体によって圧力膨張成形するハイドロフォーミング法を採用する。実施例11~21および比較例8~14においては、鋼板を、それぞれ異なる方法でトーションビームに成形する。表3は、異なる実施例および比較例において成形した内部フィレットでのR/T値、成形後のプロセス、すなわち、応力除去焼鈍の温度および時間、ショットピーニングの位置並びに他の特定のパラメータを記載する。
【0067】
以下に説明する実施例11~20および比較例8~14において形成したトーションビームを、性能試験に供した。この説明における機械的性能試験は、標準GB/T 228.1-2010に従って行う。内部フィレットでの縦方向の降伏強度および引張強度は測定することができないが、内部フィレットでのコア硬度および表面とコアとの間の微小硬度の差は、測定可能である。微小硬度試験は、GB/T 4342-1991に従って行う。
【0068】
トーションビームベンチについての試験条件は、±50mmの変位制御および1.5Hzの周波数を含む。
【0069】
詳細な説明を、表1、2および3における実施例および比較例と併せて以下に与える:
【0070】
表1および2中の実施例1~10並びに表3中の実施例11~21においては、本発明の設計方法を採用することにより、高い強度および高い成形性を有する鋼板並びに高い強度および高い疲労性能を有するトーションビームが、得られた。
【0071】
実施例1および3~10は、鋼板製造プロセスにおいて空冷様式を採用する。実施例においては、コイリング温度が500~620℃であり、炭素当量が0.50未満であるとき、比較的良好な成形性および伸びを達成することができる。
【0072】
比較例1における高い炭素含有量は、乏しい曲げ特性をもたらし、さらに、表3中の比較例8におけるハイドロフォーミングプロセス中のフィレットRの表面上の微小な割れ、および溶接シームでの割れをもたらし、最終的に50万回に達しないベンチ疲労をもたらす。実施例4および比較例1における鋼板は、同様のプロセスパラメータ(例えば、コイリング温度および空冷時間は、同じである)によって製造し、一方で、比較例1においては、炭素当量がより高く、実施例4においては、炭素当量がより低く、そのため、実施例4における鋼板は、より良好な溶接性を有する。
【0073】
比較例2における比較的低いCrおよびMo含有量は、比較的低い焼戻し抵抗(すなわち、より低い強度)をもたらす。比較例2および3においては、0.096%≦2Nb+V≦0.17%の要件を満たさず、鋼板の比較的低い降伏強度およびより低い引張強度をもたらす。従って、比較例2および3における鋼板を使用して、トーションビームを製造する、すなわち、比較例9および10において得られるトーションビームの強度もまた低く、結局、材料の比較的弱い耐疲労性をもたらし、重量低下の効果を達成することができない。
【0074】
比較例4においては、炭素含有量が比較的低く、一方で、熱間圧延のコイリング温度が高すぎ、これは、比較的低い鋼板強度をもたらし、≧760MPaの鋼板の引張強度の要件に達さず、最終的には、表3中の比較例11におけるトーションビームの引張強度が800MPaに達し得ず、重量低下の効果を達成することができない条件をもたらす。
【0075】
比較例5におけるマイクロアロイ含有量は、比較的高く、これは、0.096%≦2Nb+V≦0.17%の条件を満たさず、鋼板の高い強度、およびR/T≧1.05を満たさない曲げ特性をもたらし、表3中の比較例12におけるハイドロフォーミング中のフィレットの表面上の微小な割れをさらにもたらし、結局、50万回に達し得ないベンチ疲労をもたらす。
【0076】
比較例6における比較的低いCr含有量は、板のより低い強度、および最終的に、比較例13における比較的乏しいトーションビームのベンチ疲労能力をもたらす。トーションビームの製造中の低いCr含有量および高い焼鈍温度のため、強度が低下し、高い強度および重量低下の効果を達成することができない。
【0077】
板の強度および最終的なトーションビーム(比較例14)の強度は、比較例7における高Ti含有量でのマイクロアロイ強化により、800MPa以上に達し得るが、比較例14におけるトーションビームは、主に粗いTiN析出物のため、疲労性能に有益なNbおよびV析出物なく、29万回のみの最終的なベンチ疲労性能を有する。さらに、比較例7におけるコイリング温度は、480℃でしかなく、材料の乏しい成形性をもたらす。
【0078】
実施例11~21においては、トーションビームの耐疲労性は、トーションビームを形成する間に応力除去焼鈍またはショットピーニング工程を使用することによって改善され、一方で、トーションビームの縦方向の降伏強度は、応力除去焼鈍プロセスおよび/またはショットピーニングプロセスを使用することによって、維持されるかまたは改善さえされる。
【0079】
応力除去焼鈍後のトーションビームの降伏強度における増加は、実施例21と比較して実施例11においてより顕著である。
【0080】
図3は、実施例1における鋼板の厚さ方向に沿った微小硬度における変化、すなわち、図中の鋼板の微小硬度における変化を示す。本発明によれば、実施例1における鋼板を、溶接して丸管にすること、および成形して成形管を成形することに供し、応力除去焼鈍工程なしのフィレットの厚さ方向に沿った微小硬度における変化、すなわち、図3における焼鈍なしのフィレットでの微小硬度における変化が、検出される。実施例1における鋼板はまた、本発明における、溶接して丸管にすること、成形すること、および応力除去焼鈍に供して、トーションビームを形成する、すなわち、本発明の実施例11、およびそのフィレットでの微小硬度における変化、すなわち、図3における焼鈍に供したフィレットでの微小硬度における変化が、検出される。応力除去焼鈍後、実施例11における表面の微小硬度は比較的高く、フィレットでのコア硬度は比較的低く、高い強度を有する外側および高い靭性を有する内側の効果を達成する。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
本発明を、本発明のいくつかの好ましい実施態様を参照することによって例示し説明してきたが、当業者は、上記の内容が特定の実施態様と組み合わせた本発明のさらに詳細な説明であることを理解すべきであり、本発明の特定の実施態様がこれらの記載に限定されると判断することはできない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、いくつかの単純な推論または置換を含む、形態および詳細におけるさまざまな変更をなすことができる。
図1
図2
図3